本発明は、多孔性炭素を含む正極と、一般式LixTi5O12(4.1≦x≦6.9)で表されるチタン酸リチウムを含む負極と、非水電解液とを備えた電気化学キャパシタにおいて、端子電圧が0Vの時のxの値をa、端子電圧が2.75Vの時のxの値をbとした時、4.1≦a、b≦6.9、a<bであることを特徴とする。
また、本発明は、上記電気化学キャパシタにおいて、a<4.15および6.65<bであることを特徴とする。
さらに、本発明は、上記電気化学キャパシタの製造方法において、電気化学キャパシタを組み立てる前に負極をプリチャージし、前記xの値を4.1以上、6.9以下に調整することを特徴とする。
まず、本発明の電気化学キャパシタに用いる正極および負極を、定電流で充放電した場合の、反応と電位挙動について説明する。
図3は負極活物質に用いるチタン酸リチウムの電位挙動を示したもので、横軸はチタン酸リチウム(LixTi5O12)の組成x、縦軸はチタン酸リチウム負極の単極電位(vs.Li/Li+)を表す。なお、以下では、正極および負極の単極電位はすべてリチウム電極基準(vs.Li/Li+)で表す。
負極活物質にチタン酸リチウム(LixTi5O12)を用いた場合の負極の単極電位は、非特許文献1のFig.9で報告されている。電解液中に浸漬した時の自然電位は、図3のAに示したように約2.50Vである。そして、充電でリチウムイオンが挿入されると電位は急激に低下し、図3のBに示したように、x=4.1(Li4.1Ti5O12)では約1.55Vとなる。その後はリチウムが挿入されてxの値が増加し、図3のCに示したように、x=6.9(Li6.9Ti5O12)となるまで、電位はほぼ約1.55Vで一定となる。さらにリチウムが挿入されると、電位は再度急激に低下し、図3のDに示したように、x=7(Li7Ti5O12)では1.55V以下の値になると考えられている。放電では、電位はD→C→B→Aと変化する。
図3のAからDの向きに進むチタン酸リチウムの反応はリチウムイオンの挿入(充電)であり、逆に、DからAの向きに進む反応はリチウムイオンの脱離(放電)である。
図4は正極活物質に用いる多孔性炭素(例えば比表面積1500m2/g)の電位挙動を示したもので、横軸は時間(または容量)、縦軸は多孔性炭素正極の単極電位を表す。電解液中に浸漬した時の正極の自然電位は、図4のXに示したように、約3.15Vである。そして、充電でアニオンが吸着されると、電位は図4のF(約4.30V)まで直線的に上昇する。つぎに放電した場合、アニオンが脱着して、電位は図4のFからX(約3.15V)まで直線的に低下し、さらに放電を続けると、リチウムイオンが吸着されて、電位は図4のXからE(0V)まで直線的に低下する。つぎに充電した場合、リチウムイオンが脱離して、電位は図4のX(約3.15V)まで直線的に上昇し、さらに、アニオンが吸着して、図4のXからF(約4.30V)まで直線的に上昇する。
このように、正極の反応は、E→X間がリチウムイオンの脱離(充電)、X→F間がアニオンの吸着(充電)、F→X間がアニオンの脱着(放電)、X→Eがリチウムイオンの吸着(放電)である。
なお、正極の電位が約4.3V以上になると、電解液の分解が次第に大きくなるため、正極に多孔性炭素を用いた場合、使用可能な電位の上限は約4.5Vとなる。
従来の電気化学キャパシタの単極電位の関係を図5に、端子電圧の関係を図6に示す。この電気化学キャパシタでは、あらかじめ、正極の電位が1.55〜4.30V間の容量と、負極のチタン酸リチウムの組成がx=4.1〜6.9間の容量とを、等しくしておくものとする。
図5は正極および負極の単極電位を示し、Pは正極の単極電位、Nは負極の単極電位を示す。また、図6のTは電気化学キャパシタの端子電圧を示す。
まず、充放電時の正極および負極の電位変化について、図5に基づいて説明する。電気化学キャパシタを組み立て、電解液を注液した時には、正極の電位はEのように、多孔性炭素の自然電位(約3.15V)を示し、負極活物質であるチタン酸リチウムの組成はLi4.0Ti5O12であるので、負極の単極電位はAのように約2.50Vを示す。
最初に充電を行うと、正極では多孔性炭素にアニオンが吸着されて、正極の単極電位はE(約3.15V)からF(約4.30V)へと直線的に上昇し、負極ではチタン酸リチウムにリチウムイオンが挿入されて、負極の単極電位は、充電開始直後にA(約2.50V)からB(約1.55V)へと急激に低下するが、その後はBからB1の間は約1.55Vで一定である。チタン酸リチウムの組成は、Bではx=4.1(Li4.1Ti5O12)となり、B1ではx=5.3(Li5.3Ti5O12)となる。
つぎに放電を行うと、多孔性炭素からアニオンが脱着して、正極の単極電位はF(約4.30V)からG(約3.15V)へと直線的に低下し、チタン酸リチウムからリチウムイオンが脱離するが、負極の単極電位はB1からB2の間は約1.55Vで一定である。B2ではチタン酸リチウムの組成はx=4.1(Li4.1Ti5O12)となる。
さらに、次の充電を行うと、正極の単極電位はGからHへ直線的に上昇し、負極の単極電位はB2からB3の間は一定である。B3ではチタン酸リチウムの組成はx=5.3(Li5.3Ti5O12)となる。
図5に示した正極および負極の単極電位に変化に対応して、電気化学キャパシタの端子電圧は図6のように変化する。すなわち、正極電位のEからFへの上昇および負極電位のA→B→B1への変化に対応して、端子電圧は図6のI(約0.65V)からJ(約1.60V)へ急激に上昇し、その後はJからK(約2.75V)へと直線的に上昇する。
また、正極電位のFからGへの低下および負極のB1からB2への変化(電位は約1.55Vで一定)に対応して、端子電圧は図6のK(約2.75V)からL(約1.60V)へと直線的に低下する。さらに、正極電位のGからHへの上昇および負極電位のB2からB3への変化(約1.55Vで一定)に対応して、端子電圧は図6のL(約1.60V)からM(約2.75V)へと直線的に上昇する。
ところが、電気化学キャパシタとしては、端子電圧が直線の部分、いいかえると負極電位が一定の部分を用いる必要があるので、従来の電気化学キャパシタは端子電圧1.60〜2.75V間(電圧幅1.15V)で充放電が可能で、負極のチタン酸リチウムの組成はx=4.1(Li4.1Ti5O12)とx=5.3(Li5.3Ti5O12)の間で変化する。このように、従来の電気化学キャパシタでは、負極電位が一定の部分はチタン酸リチウムの組成がx=4.1〜6.9の間であるのに、x=4.1〜5.3の間を使用しており、容量は小さいという問題があった。
本発明は、従来の電気化学キャパシタの容量が小さいという問題を解決するため、電気化学キャパシタを組み立てる前に負極をプリチャージし、チタン酸リチウム(LixTi5O12)の組成のxの値を4.1以上、6.9以下に調整するものであるが、xの値は4.1〜6.9の任意の値にすればよいというものではない。
その理由を、図5および図6の場合と同様に、あらかじめ、電位が1.55〜4.30Vにおける正極の容量と、チタン酸リチウムの組成がx=4.1〜6.9間における負極の容量とを、等しくしておいた電気化学キャパシタについて説明する。
不適切な例として、あらかじめ負極をプリチャージすることにより、電池組立時の負極活物質であるチタン酸リチウムの組成をx=4.7(Li4.7Ti5O12)にしておいた電気化学キャパシタの、正極および負極の単極電位を図7に示し、端子電圧を図8に示す。なお、図7において、Pは正極の単極電位、Nは負極の単極電位を示す。また、図8において、Tは端子電圧を示す。
まず、正極および負極の電位変化について、図7に基づいて説明する。この電気化学キャパシタを組み立て、電解液を注液した時には、正極の電位はXのように、多孔性炭素の自然電位(約3.15V)を示し、これに対応する負極活物質であるチタン酸リチウムの組成はx=4.7(Li4.7Ti5O12)であるので、負極の単極電位はB1のように約1.55Vを示す。
最初に充電を行うと、正極の単極電位はX(約3.15V)からF(約4.30V)へと直線的に上昇し、負極の単極電位はB1からB2の間は約1.55Vで一定である。B2ではチタン酸リチウムの組成はx=5.8(Li5.8Ti5O12)となる。
つぎに放電を行うと、正極の単極電位はF(約4.30V)からX(約3.15V)を経てE(約2.50V)へと直線的に低下し、負極の単極電位はB2→B1→B→Aと変化するが、B2からB1を経てBに至るの間は約1.55Vで一定であるが、BからAの間で急激に上昇し、Aでは約2.50Vとなる。なお、チタン酸リチウムの組成は、Bではx=4.1(Li4.1Ti5O12)、Aではx=4.0(Li4.0Ti5O12)となる。
図7に示した正極および負極の単極電位に変化に対応して、電気化学キャパシタの端子電圧は図8のように変化する。すなわち、最初の充電の、正極電位のXからFへの上昇および負極電位のB1からB2への変化に対応して、端子電圧は図8の直線Tのように、Y(約1.60V)からK(約2.75V)へと直線的に上昇する。
つぎの放電では、正極電位のF→X→Eへの直線的な低下および負極電位のB2→B1→B→Aへの変化に対応して、端子電圧は図8の直線Tのように、K(約2.75V)からY(約1.60V)を経てJ(約0.95V)へと直線的に低下し、さらに、JからI(0V)へと急激に低下する。
この電気化学キャパシタでは端子電圧が急激に変化する部分が含まれているが、端子電圧が直線の部分(図8のJからKの間)、いいかえると負極電位が一定の部分(図7のBからB1の間)を用いる必要があるので、この電気化学キャパシタは端子電圧0.95〜2.75V間(電圧幅1.8V)で使用が可能で、負極のチタン酸リチウムの組成はx=4.1〜5.8の間で変化する。
もう一つの不適切な例として、あらかじめ負極をプリチャージすることにより、電池組立時の負極活物質であるチタン酸リチウムの組成をx=6.6(Li6.6Ti5O12)にしておいた電気化学キャパシタの、正極および負極の単極電位を図9に示し、端子電圧を図10に示す。なお、図9において、Pは正極の単極電位、Nは負極の単極電位を示す。また、図10において、Tは端子電圧を示す。
まず、正極および負極の電位変化について、図9に基づいて説明する。この電気化学キャパシタを組み立て、電解液を注液した時には、正極の電位はXのように、多孔性炭素の自然電位(約3.15V)を示し、これに対応する負極活物質であるチタン酸リチウムの組成はx=6.6(Li6.6Ti5O12)であるので、負極の単極電位はB1のように約1.55Vを示す。
最初に充電を行うと、正極の単極電位はX(約3.15V)からF(約3.50V)へと直線的に上昇し、負極の単極電位はB1からCの間は約1.55Vで一定であるが、CからDの間で急激に低下し、Dでは約1.0Vとなる。なお、チタン酸リチウムの組成は、Cではx=6.9(Li6.9Ti5O12)、Dではx=7.0(Li7.0Ti5O12)となる。
つぎに放電を行うと、正極の単極電位はF(約3.50V)からX(約3.15V)を経てE(約1.55V)へと直線的に低下し、負極の単極電位はD→C→B1→B2と変化するが、DからCの間で急激に上昇し、CからB2の間は約1.55Vで一定である。なお、チタン酸リチウムの組成は、B2ではx=5.0となる。
図9に示した正極および負極の単極電位に変化に対応して、電気化学キャパシタの端子電圧は図10のように変化する。すなわち、最初の充電の、正極電位のXからFへの上昇および負極電位のB1→C→Dへの変化に対応して、端子電圧は図10の直線Tのように、Y(約1.60V)からK(1.90V)へと直線的に上昇し、その後はKからL(約2.50V)へ急激に上昇する。
つぎの放電では、正極電位のF→X→Eへの直線的な低下および負極電位のD→C→B1→B2への変化に対応して、端子電圧は図10の直線Tのように、L(約2.50V)からK(約1.90V)、Y(約1.60V)を経て、J(0V)へと直線的に低下する。
この電気化学キャパシタでも端子電圧が急激に変化する部分が含まれているが、端子電圧が直線の部分(図10のJからKの間)を用いる必要があるので、この電気化学キャパシタは端子電圧0〜1.90V間(電圧幅1.90V)で使用が可能で、負極のチタン酸リチウムの組成はx=5.0〜6.9の間で変化する。
図8や図10で示した電気化学キャパシタでは、負極活物質であるチタン酸リチウムの組成x=4.1〜6.9のすべての範囲を用いていないので、依然として容量は小さい。
本発明の電気化学キャパシタでは、従来の電気化学キャパシタと同様に、負極活物質であるチタン酸リチウムの単極電位が約1.55Vで一定である領域(プラトー領域、図1のB〜Cの間)、すなわちチタン酸リチウムの組成がLi4.1Ti5O12からLi6.9Ti5O12の間(x=4.1〜6.9の間)を用いるところに特徴がある。
一方、正極活物質である多孔性炭素は、図2で示したように、自然電位約3.15V(図2のX)から充電した場合、単極電位が約4.3V(図2のF)になるまで使用可能である。逆に、自然電位約3.15Vから放電すると、0Vまで放電可能であるが、チタン酸リチウム負極と組み合わせた場合、端子電圧が0Vになる約1.55V(図2のE)まで使用可能である。すなわち、本発明の電気化学キャパシタでは、正極活物質である多孔性炭素は、正極電位が約1.55Vから約4.3Vの間を用いるところに特徴がある。
そして、本発明の電気化学キャパシタでは、端子電圧が0Vの時のxの値をa、端子電圧が2.75Vの時のxの値をbとした時、4.1≦a、b≦6.9、a<bとするものである。
つぎに、本発明の電気化学キャパシタにおける正極および負極の単極電位と、端子電圧の関係を、図1および図2に基づいて説明する。図1は本発明の電気化学キャパシタの、正極と負極の単極電位を示す図であり、図1において、Pは正極の単極電位、Nは負極の単極電位を示す。また、図2は本発明の電気化学キャパシタの端子電圧を示す図であり、図2においてTは端子電圧を示す。
ここでは、負極のチタン酸リチウムの組成を、あらかじめプリチャージによりx=c(LicTi5O1)に調整しておくものとする。そして、端子電圧が0Vの時のxの値をa、端子電圧が2.75Vの時のxの値をbとする。ただし、4.1≦a、b≦6.9、a<c<bの関係を満たすものとする。
図1に示すように、最初に充電を行うと、正極の単極電位はX(約3.15V)からF(約4.30V)へと直線的に上昇し、負極の単極電位はB1からGの間は約1.55Vで一定である。なお、チタン酸リチウムの組成は、B1ではx=c(LicTi5O12)、Gではx=b(LibTi5O12)となっている。
つぎに放電を行うと、正極の単極電位はF(約4.3V)からX(約3.15V)を経てE(約1.55V)へと直線的に低下し、負極の単極電位はG→B1→Eの間は約1.55Vで一定である。なお、チタン酸リチウムの組成は、Eではx=a(LiaTi5O12となる。
図1に示した正極および負極の単極電位に変化に対応して、本発明の電気化学キャパシタの端子電圧は図2のように変化する。すなわち、最初の充電の、正極電位のXからFへの上昇および負極のB1からGへの変化(電位は約1.55Vで一定)に対応して、端子電圧は図2の直線Tのように、Y(約1.60V)からK(約2.75V)へと直線的に上昇する。
つぎの放電では、正極電位のF→X→Eへの直線的な低下および負極のG→B1→Eへの変化(電位は約1.55Vで一定に対応して、端子電圧は図2の直線Tのように、K(約2.75V)からY(約3.15V)を経て、H(0V)へと直線的に低下する。
さらに次に放電では、正極電位はE→X→Fと直線的に上昇し、負極はE→B1→Gと変化する(電位は約1.55Vで一定)。この正極電位および負極電位の変化に対応して、端子電圧は図2の直線Tのように、H(0V)からY(約1.60V)を経てK(約2.75V)へと直線的に上昇する。
本発明の電気化学キャパシタでは、負極のチタン酸リチウムのxの値が4.1〜6.9間の容量が、正極の多孔性炭素の単極電位が1.55〜4.30V間の容量よりも大きくなっている、すなわち正極制限となっているため、図2に示したように、端子電圧は直線的に変化するのみで、急激な電圧の上昇や低下は起こらない。
図2で示した本発明の電気化学キャパシタでは、使用できる電圧範囲は約2.75Vであり、容量はチタン酸リチウムの組成変化x=a〜bで決まる。一方、チタン酸リチウムの電圧が約1.55Vで一定である範囲はx=4.1〜6.9の範囲である。したがって、電気化学キャパシの容量をできるだけ大きくするためには、aの値をできるだけ4.1に近づけ、bの値をできるだけ6.9に近づける必要がある。そこで、本発明の電気化学キャパシタでは、4.1≦a<4.15および6.85<b≦6.9とすることにより、大きな容量が得られるものである。
そして、正極活物質である多孔性炭素の単極電位が約1.55〜約4.3Vの範囲の容量と、負極活物質である一般式LixTi5O12で表されるチタン酸リチウムのxの範囲が約4.1〜約6.9の容量とが等しくなるように、正極活物質と負極活物質の重量比を選ぶことにより、要領は最大となる。
なお、正極活物質に多孔性炭素、負極活物質にチタン酸リチウムを用いた電気化学キャパシタにおいて、正極の単極電位が1.55〜4.30V間の容量が、負極のチタン酸リチウムのxの値が4.1〜6.9間の容量よりも大きい場合、すなわち負極制限の場合は、次に示すように問題が生じる。
そこで、電気化学キャパシタが負極制限の場合の、正極および負極の単極電位と、端子電圧の関係を、図11および図12に基づいて説明する。図12は負極制限の場合の電気化学キャパシタの単極電位を示し、図13は負極制限の場合の電気化学キャパシタの端子電圧を示す。図11において、Pは正極の単極電位、Nは負極の単極電位を示し、また、図12においてTは端子電圧を示す。
図11および図12に示した電気化学キャパシタにおいては、正極の電位が1.55〜4.30V間の容量の方が、負極のチタン酸リチウムの組成がx=4.1〜6.9間の容量よりも大きいものである。そして、あらかじめ負極をプリチャージすることにより、電池組立時の負極活物質であるチタン酸リチウムの組成をx=c(LicTi5O12)にしておく。この例ではc=約5.7としておく。
まず、充放電時の正極および負極の電位変化について、図11に基づいて説明する。この電気化学キャパシタを組み立て、電解液を注液した時には、正極の電位はXのように、多孔性炭素の自然電位(約3.15V)を示し、これに対応する負極活物質であるチタン酸リチウムの組成はLicTi5O12であるので、負極の単極電位はB1のように約1.55Vを示す。
最初に充電を行うと、正極の単極電位はX(約3.15V)からF(約4.30V)まで直線的に上昇するが、負極活物質であるチタン酸リチウムの組成はLi7。0Ti5O12が限界であるため、実際に使用できるのはF1(約4.05V)までの範囲に限られる。
正極の単極電位がXからF1まで変化する間に、負極の単極電位はB1からCの間は約1.55Vで一定であるが、CからDの間で急激に低下し、Dでは約1.0Vとなる。なお、チタン酸リチウムの組成は、Cではx=6.9(Li6.9Ti5O12)、Dではx=7.0(Li7.0Ti5O12)となる。
つぎに放電を行うと、正極の単極電位はF1(約4.05V)からX(約3.15V)を経てE(約1.55V)へと直線的に低下するが、負極活物質であるチタン酸リチウムの組成はLi4。0Ti5O12が限界であるため、実際に使用できるのはE1(約1.95V)までの範囲に限られる。この間に負極の単極電位はD→C→B1→B→Aと変化する。すなわち、負極の単極電位は、DからCの間で急激に上昇し、CからB1を経てBまでの間は約1.55Vで一定であり、BからAの間で急激に上昇し、Aでは約2.50Vとなる。なお、チタン酸リチウムの組成は、Bではx=4.1(Li4.1Ti5O12)、Aではx=4.0(Li4.0Ti5O12)となる。
つぎに充電を行うと、正極の単極電位はE1(約1.95V)からX(約3.15V)を経てF1(約4.05V)へと直線的に上昇し、負極の単極電位はA→B→B1→C→Dと変化するが、AからBの間で急激に低下し、BからB1を経てCの間は約1.55Vで一定であり、CからDの間で急激に低下し、Dでは約1.0Vとなる。
図11に示した正極および負極の単極電位に変化に対応して、電気化学キャパシタの端子電圧は図12のように変化する。すなわち、電解液注液直後の電位はY(約1.60V)であり、最初の充電の、正極電位のXからF1への上昇および負極電位のB1からCを経てDへの変化に対応して、端子電圧は図12のT(充電)のように、Y(約1.60V)からK(約2.45V)へと直線的に上昇し、さらにKからL(約3.05V)へ急激に上昇する。
つぎの放電では、正極電位のF1→X→E1への直線的な低下および負極電位のD→C→B1→B→Aへの変化に対応して、端子電圧は図12のT(放電)のように、L(約3.05V)からK(約2.45V)へ急激に低下し、KからY(約1.60V)を経てJ(約0.45V)まで直線的に低下し、さらに、JからI(0V)へと急激に低下する。
さらにつぎに充電では、正極電位のE1→X→F1への直線的な上昇および負極電位のA→B→B1→C→Dへの変化に対応して、端子電圧は図12の直線T(充電)のように、I→J→Y→K→Lと変化する。
この電気化学キャパシタでは端子電圧が急激に変化する部分が含まれているが、端子電圧が直線の部分(図12のJからKの間)を用いる必要があるので、この電気化学キャパシタでは端子電圧0.45〜2.45V間(電圧幅2.0V)で充放電が可能で、負極のチタン酸リチウムの組成はx=4.1〜6.9の間で変化する。この電気化学キャパシタでは、充放電に使用可能な電圧幅が、図2に示した本発明の電気化学キャパシタに比べて、かなり小さくなっている。
なお、上記説明では、本発明の電気化学キャパシタをプリチャージする場合、負極活物質であるチタン酸リチウムの組成を調整したが、それ以外にも、正極活物質である多孔性炭素の電位を調整する方法を用いることも可能である。ただし、チタン酸リチウムの組成がx=4.0〜4.1の間およびx=6.9〜7.0の間は、単極電位の変化が激しいので用いることができないので、負極は必ずプリチャージして、チタン酸リチウムの組成をx=4.1〜6.9に調整しておく必要がある。
なお、正極の電位と負極の電位をプリチャージで調整する場合、図1において、放電終期を基準にして、正極および負極をE(約1.55V、組成x=a)にしてもよいし、充電終期を基準にして、正極をF(約4.3V)、負極をG(約1.55V、組成x=b)にしてもよい。
さらに、正極と負極の電位の調整は、放電終期や充電終期に限られるものではなく、例えば図1において、負極をUにし、正極の電位をSに調整してもよい。ただし、正極のプリチャージは、電気化学キャパシタ内に第三電極を設けておき、正極と第三電極との間で通電することによっておこなう必要がある。
本発明の電気化学キャパシタに用いる負極活物質は、一般式LixTi5O12(4.1≦x)で表されるチタン酸リチウムである。これを負極活物質に用いて負極を作製し、組み立て前に対極にリチウム電極をもちいてプリチャージするか、または、電気化学キャパシタを組み立てた後に、そのキャパシタ内にあらかじめ挿入したLi箔からなる第三の極と負極との間を所定の時間通電することによって、負極のみを充電(この充電も、一般的に「プリチャージ」とも呼ばれる)する方法によっても、本発明の電気化学キャパシタは製作可能である。
本発明で正極活物質として用いる「多孔質炭素」とは、大きな比表面積と吸着能をもつ、一般的には活性炭と呼ばれる多孔質の炭素であり、木炭、ヤシがら、石炭チャーなどの原料を十分炭化した後、水蒸気による高温処理などで賦活して製造されるものであり、比表面積は約800m2/g以上、細孔径約1〜10nmである。
本発明で用いる多孔性炭素としては、電気二重層キャパシタで一般的に使用されている活性炭であれば特に限定されることはない。ただし、多孔性炭素の静電容量がその比表面積に依存することから、比表面積に関しては大きい方がよく、活性炭であれば少なくとも約800m2/g以上、好ましくは1500m2/g以上であることが望ましく、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートなどに代表される非水溶媒中での静電容量が80F/g以上であることが望ましい。
正極活物質である多孔性炭素の特定の電位範囲の容量は、比表面積などによって変化するため、リチウムとチタンと酸素の原子比によって変化する。したがって、正極活物質と負極活物質の最適重量比は、用いる多孔性炭素の種類によって異なる。
例えば、正極活物質に比表面積1500cm2/gの多孔性炭素、負極活物質にLi4Ti5O12を用いた電気化学キャパシタでは、単位重量当りの容量は次のようになる。
多孔性炭素(約1.55〜4.3V) 実測値:80mAh/g
Li4Ti5O12(x=約4.1〜約6.9) 理論値:163mAh/g
本発明の正極および負極に用いられる結着剤としては、特に制限はなく、種々の材料を適宜使用できる。たとえば、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシ変成ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはこれらの誘導体などからなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。
結着剤を混合する際に用いる溶媒としては非水溶媒または水溶液を用いることができる。非水溶媒には、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N−N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。また、これらに分散剤、増粘剤などを加えてもよい。
正極および負極に用いる導電剤としては、特に制限はなく、種々の材料を適宜使用できる。例えば、Ni、Ti、Al、Feまたはこれらの二種以上の合金もしくは炭素材料が挙げられる。なかでも、炭素材料を用いることが好ましい。炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、気相成長炭素繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ニードルコークスなどの無定形炭素が挙げられる。
本発明に用いる電極の集電体基板としては、鉄、銅、ニッケル、SUSを用いることができる。中でも、鉄フルオロ錯体を含む水溶液中での安定性がよいことから、SUSおよびニッケルが好ましい。また、その形状としては、シート、発泡体、焼結多孔体、エキスパンド格子などが挙げられる。さらに、その集電体に任意の形状で穴を開けたものを用いることができる。
本発明の電気化学キャパシタに用いる電解液の有機溶媒としては、特に制限はなく、種々の材料を適宜使用できる。例えば、エーテル類、ケトン類、ラクトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、硫黄化合物、ハロゲン化炭化水素類、エステル類、カーボネート類、ニトロ化合物、リン酸エステル系化合物、スルホラン系炭化水素類などを用いることができるが、これらのうちでもエーテル類、ケトン類、エステル類、ラクトン類、ハロゲン化炭化水素類、カーボネート類、スルホラン系炭化水素類が好ましい。さらに、これらの例としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、アニソール、モノグライム、4−メチル−2−ペンタノン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、1,2−ジクロロエタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メチルフォルメイト、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルチオホルムアミド、スルホラン、3−メチル−スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、およびホスファゼン誘導体およびこれらの混合溶媒などを挙げることができる。なかでも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、およびジエチルカーボネートを単独でまたは2種以上を混合して使用することが好ましい。
また、本発明の電気化学蓄電デバイスに用いる溶質としては、特に制限はなく、種々の溶質を適宜使用できる。例えば、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiPF(CF3)5、LiPF2(CF3)4、LiPF3(CF3)3、LiPF4(CF3)2、LiPF5(CF3)、LiPF3(C2F5)3、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(C2F5CO)2、LiI、LiAlCl4、LiBC4O8などを単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。なかでもイオン伝導性が良好なことから、LiPF6を使用することが好ましい。さらに、これらのリチウム塩濃度は0.5〜2.0mol/dm3とするのが好ましい。
また、電解質中にビニレンカーボネートやブチレンカーボネートなどのカーボネート類、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼンなどのベンゼン類、プロパンスルトンなどの硫黄類、エチレンサルファイド、フッ化水素、トリアゾール系環状化合物、フッ素含有エステル類、テトラエチルアンモニウムフルオライドのフッ化水素錯体またはこれらの誘導体、ホスファゼンおよびその誘導体、アミド基含有化合物、イミノ基含有化合物、または窒素含有化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含有しても使用できる。また、CO2、NO2、CO、SO2などから選択される少なくとも1種を含有しても使用できる。
本発明の電気化学蓄電デバイスに用いるセパレータとしては、特に制限はなく、種々の材料を適宜使用できる。例えば、織布、不織布、合成樹脂微多孔膜などが挙げられ、なかでも、合成樹脂微多孔膜が好ましい。合成樹脂微多孔膜の材質としては、ナイロン、セルロースアセテート、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、およびポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィンが用いられ、なかでもポリエチレンおよびポリプロピレン製微多孔膜、またはこれらを複合した微多孔膜などのポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗などの面で好ましい。また、材料、重量平均分子量や空孔率の異なる複数の微多孔膜が積層してなるものや、これらの微多孔膜に各種の可塑剤、酸化防止剤、難燃剤などの添加剤を適量含有しているものを使用することができる。
また、上記電解質には固体またはゲル状のイオン伝導性電解質を単独または組み合わせて使用することができる。組み合わせる場合、電気化学キャパシタの構成としては、正極、負極およびセパレータと有機または無機の固体電解質と上記非水電解液との組み合わせ、または正極、負極およびセパレータとしての有機または無機の固体電解質膜と上記非水電解液との組み合わせが挙げられる。
また、電気化学キャパシタの形状は特に限定されるものではなく、本発明は、角形、楕円形、円筒形、コイン形、ボタン形、シート形のキャパシタまたは電池などの様々な形状として適用可能である。
つぎに、本発明の好適な実施例について説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1〜3および比較例1]
[実施例1]
実施例1の電気化学キャパシタは、チタン酸リチウムの組成を、端子電圧が0Vの時にはx=4.1に、端子電圧が2.75Vの時には=6.9となるように、あらかじめ負極をプリチャージしたものである。
まず、酸化チタン(TiO2、ルチル化率90%)とLi2CO3とをLi/Tiのモル比が0.8になるように秤量し、乳鉢で30分混合した。この混合物をアルミナ製の乳鉢に入れ、電気炉にて700℃で4時間、酸素流通下(0.1l/min)で仮焼成を行った。つぎに、この仮焼成体を、電気炉にて800℃で5時間、酸素流通下(0.1l/min)において焼成した。こうして製造した粉末を自動乳鉢で粉砕することによってLi4Ti5O12の粉末を得た。
つぎに、このLi4Ti5O12とアセチレンブラック(導電剤)およびポリフッ化ビニリデン(PVdF、結着剤)を質量比87:5:8の割合で混合し、N―メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えて十分混練して、負極ペーストを作製した。この負極ペーストを厚さ15μmの銅箔上に塗布し、150℃で真空乾燥してNMPを蒸発させた。その後、ロールプレスで圧縮成型し、30mm×40mmの大きさに裁断して、負極活物質としてのLi4Ti5O12を含む負極板(a)を製作した。この負極板(a)における活物質塗布重量は2.06mg/cm2であり、負極板1枚に含まれるLi4Ti5O12は24.72mgとなる。
つづいて、この負極板と大きさ31mm×41mmのリチウム箔電極とを、厚さ30μm、多孔度40%の連通多孔体であるポリエチレンセパレータを間に挟んで重ね、高さ70mm、幅50mmの容器中に挿入することによって、プリチャージ用ラミネートセルを組み立てた。そして、このセルの内部に非水電解液を注入した。
そして、このセルの負極板とリチウム箔電極とを通電させて、負極板を99mAh/g(負極板1枚当り2.45mAh)だけ充電し、負極活物質であるチタン酸リチウムの組成をLi4Ti5O12からLi5.7Ti5O12へと変化させた。その後、このセルから負極をとりだし、これを負極板(a1)とした。
つぎに、正極活物質に比表面積1500m2/gの多孔性炭素を用いた正極を作製した。多孔性炭素、アセチレンブラック(導電剤)およびPVdF(結着剤)を質量比90:5:5の割合で混合し、NMPを加えて十分混練して、正極ペーストを得た。この正極ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔に塗布し、150℃で真空乾燥してNMPを蒸発させた。その後、ロールプレスで圧縮成型し、30mm×40mmの大きさに裁断して、ようにして、正極合剤層を備える正極板(p1)を製作した。この正極板(p1)における活物質塗布重量は3.91mg/cm2であり、正極板1枚に含まれる多孔性炭素は46.92mgとなる。
正極板(p1)および負極板(a1)各1枚を、厚さ30μm、多孔度40%の連通多孔体であるポリエチレンセパレータを間に挟んで重ね、高さ70mm、幅50mmの容器中に挿入して、ラミネートセルを組み立てた。最後に、このセルの内部に非水電解液を注入して、実施例1の電気化学キャパシタ(A1)を作製した。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比1:1の混合溶媒に1.2mol/dm3のLiPF6を溶解したものを用いた。
なお、電気化学キャパシタ(A1)において、負極板に含まれるチタン酸リチウムの質量に対する正極板に含まれる多孔性炭素の質量の比は、1.9であった。
[実施例2]
実施例2の電気化学キャパシタは、チタン酸リチウムの組成を、端子電圧が0Vの時にはx=4.1に、端子電圧が2.75Vの時には=6.5となるように、あらかじめ負極をプリチャージしたものである。
負極板は実施例1で用いたのと同じ負極板(a)を用いた。そして、この負極(a)を、実施例1と同様の方法でプリチャージをおこない、負極を88mAh/g(負極1枚当り2.16mAh)だけ充電し、負極活物質であるチタン酸リチウムの組成をLi4Ti5O12からLi5.5Ti5O12へと変化させた。その後、このセルから負極板をとりだし、これを負極板(a2)とした。
つぎに、活物質塗布重量を3.30mg/cm2としたこと以外は実施例1と同様にして正極板(p2)を作製した。この正極板(p2)1枚に含まれる多孔性炭素は39.55mgとなる。
そして、正極板(p2)および負極板(a2)各1枚を用いて、実施例1と同様にして、実施例2の電気化学キャパシタ(A2)を作製した。この電気化学キャパシタ(A2)において、負極板に含まれるチタン酸リチウムの質量に対する正極板に含まれる多孔性炭素の質量の比は、1.6であった。
[比較例1]
この電気化学キャパシタは負極制限である。負極板は実施例1で用いたのと同じ負極板(a)を用いた。そして、この負極(a)を、実施例1と同様の方法でプリチャージをおこない、負極を117mAh/g(負極1枚当り2.88mAh)だけ充電し、負極活物質であるチタン酸リチウムの組成をLi4Ti5O12からLi6.0Ti5O12へと変化させた。その後、このセルから負極板をとりだし、これを負極板(a3)とした。
つぎに、活物質塗布重量を4.53mg/cm2としたこと以外は実施例1と同様にして正極板(p3)を作製した。この正極板(p3)1枚に含まれる多孔性炭素は54.38mgとなる。
そして、正極板(p3)および負極板(a3)各1枚を用いて、実施例1と同様にして、比較例1の電気化学キャパシタ(B1)を作製した。この電気化学キャパシタ(B1)において、負極板に含まれるチタン酸リチウムの質量に対する正極板に含まれる多孔性炭素の質量の比は、2.2であった。
[比較例2]
この電気化学キャパシタは、従来のプリチャージなしのものである。実施例1で用いたのと同じ負極板(a)と正極板(p1)とを用い、負極板はプリチャージなしで、実施例1と同様にして、比較例2の電気化学キャパシタ(B2)を作製した。この電気化学キャパシタ(B2)では、セル組立時のチタン酸リチウムの組成はLi4Ti5O12である。また、電気化学キャパシタ(B2)において、負極板に含まれるチタン酸リチウムの質量に対する正極板に含まれる多孔性炭素の質量の比は、実施例1の電気化学キャパシタ(A1)と同じく1.9であった。
[特性測定]
実施例1、2の電気化学キャパシタ(A1)、(A2)および比較例1、2の電気化学キャパシタ(B1)、(B2)の充放電試験を実施した。試験条件としては、25℃、電流1mAの定電流で充電をおこない、その後同じ電流密度で放電、充電を繰り返した。
実施例1、2の電気化学キャパシタ(A1)、(A2)および比較例1、2の電気化学キャパシタ(B1)、(B2)の、正極および負極の単極電位を図13に、端子電圧を図14に示す。なお、図13および図14において、横軸はチタン酸リチウムの組成をLixTi5O12で表した場合のxの値、縦軸は、図13では単極電位(V、vsLi/Li+)、図14では端子電圧(V)を示す。
なお、図13において、記号P1は電気化学キャパシタ(A1)の正極の単極電位、P2は電気化学キャパシタ(A2)の正極の単極電位、P3電気化学キャパシタ(B1)の正極の単極電位、P4電気化学キャパシタ(B2)の正極の単極電位を示し、記号Nは負極の単極電位を示す。また、図14において、記号T1は電気化学キャパシタ(A1)のの端子電圧、T2は電気化学キャパシタ(A2)のの端子電圧、T3は電気化学キャパシタ(B1)のの端子電圧、T4は電気化学キャパシタ(B2)の端子電圧を示す。
まず、実施例1の電気化学キャパシタ(A1)の特性について説明する。実施例1の電気化学キャパシタ(A1)では、セル組立時には、正極の電位は多孔性炭素の自然電位3.15Vを示し、負極の単極電位は1.55Vを示す。なお、負極活物質であるチタン酸リチウムの組成はプリチャージによりx=5.7(Li5.7Ti5O12)に調整されている。
最初に充電を行うと、正極の単極電位は3.15Vから4.30Vへと直線的に上昇し、負極のチタン酸リチウムの組成はx=5.7からx=6.9へと変化するが、この間の負極の単極電位は1.55Vで一定である。この時、端子電圧は1.60Vから2.75Vへと直線的に上昇する。
つぎに、放電を行うと、正極の単極電位は4.30Vから1.55Vへと直線的に低下し、負極のチタン酸リチウムの組成はx=6.9からx=4.1へと変化するが、この間の負極の単極電位は1.55Vで一定である。この時、端子電圧は2.75Vから0Vへと直線的に低下する。さらに充電を行うと、正極の単極電位は1.55Vから4.3Vへ直線的に上昇し、負極のチタン酸リチウムの組成はx=4.1からx=6.9へと変化するが、負極の単極電位は1.55Vで一定であり、端子電圧は0Vから2.75Vへ直線的に上昇する。
このように、実施例1の電気化学キャパシタ(A1)は0〜2.75V間で充放電が可能で、その容量はチタン酸リチウムの組成がx=4.1からx=6.9の間で変化するのに相当する約2.35mAhであった。なお、電気化学キャパシタ(A1)において、チタン酸リチウムの組成がx=4.1からx=6.9の間を変化する場合の理論容量は4.04mAhであるので、チタン酸リチウムの利用率は約58%となる。
電気化学キャパシタ(A1)における活物質基準のエネルギー密度は、正極活物質46.92mg、負極活物質24.72mg、チタン酸リチウムの密度3.4g/cm3および多孔性炭素の密度2.0g/cm3を用いて求めることができる。
重量当りエネルギー密度
2.35×2.75×0.5/71.64=45.1wh/kg
体積当りエネルギー密度
2.35×2.75×0.5/30.73=105.1wh/l
つぎに、実施例2の電気化学キャパシタ(A2)の特性について説明する。実施例2の電気化学キャパシタ(A2)では、セル組立時には、正極の電位は多孔性炭素の自然電位3.15Vを示し、負極の単極電位は1.55Vを示す。なお、負極活物質であるチタン酸リチウムの組成はプリチャージによりx=5.5(Li5.5Ti5O12)に調整されている。
最初に充電を行うと、正極の単極電位は3.15Vから4.30Vへと直線的に上昇し、負極のチタン酸リチウムの組成はx=5.5からx=6.5へと変化するが、この間の負極の単極電位は1.55Vで一定である。この時、端子電圧は1.60Vから2.75Vへと直線的に上昇する。
つぎに、放電を行うと、正極の単極電位は4.30Vから1.55Vへと直線的に低下し、負極のチタン酸リチウムの組成はx=6.5からx=4.1へと変化するが、この間の負極の単極電位は1.55Vで一定である。この時、端子電圧は2.75Vから0Vへと直線的に低下する。さらに充電を行うと、正極の単極電位は1.55Vから4.3Vへ直線的に上昇し、負極のチタン酸リチウムの組成はx=4.1からx=6.5へと変化するが、負極の単極電位は1.55Vで一定であり、端子電圧は0Vから2.75Vへ直線的に上昇する。
このように、実施例2の電気化学キャパシタ(A2)は0〜2.75V間で充放電が可能で、その容量はチタン酸リチウムの組成がx=4.1からx=6.5の間で変化するのに相当する約2.00mAhであった。したがって、重量当りエネルギー密度は42.8wh/kg、体積当りエネルギー密度は101.6wh/lとなる。
さらに、比較例1の電気化学キャパシタ(B1)の特性について説明する。比較例1の電気化学キャパシタ(B1)では、組立時には、正極の電位は多孔性炭素の自然電位3.15Vを示し、負極の単極電位は1.55Vを示す。なお、負極活物質であるチタン酸リチウムの組成はプリチャージによりx=6.0(Li6.0Ti5O12)に調整されている。
最初に充電を行うと、正極の単極電位は3.15Vから4.3Vまで直線的に上昇するはずであるが、負極のチタン酸リチウムは組成がx=7.0までしか使用できないため、正極の単極電位は4.0Vまでしか使用できない。この正極に対応して、負極のチタン酸リチウムの組成はx=6.0からx=7.0へ変化するが、x=6.0からx=6.9の間の電位は1.55Vで一定であり、x=6.9からx=7.0の間で急低下して、x=7.0では1.0Vとなる。この時、端子電圧は1.60Vから2.40Vへと直線的に上昇し、2.40Vから3.0Vまで急激に上昇する。そして、充電終了時のチタン酸リチウムの組成はx=7.0(Li7.0Ti5O12)となる。
つぎに、放電を行うと、正極の単極電位は4.0Vから1.55Vへと直線的に低下し、負極の単極電位は、チタン酸リチウムの組成がx=7.0からx=6.9へと変化する間に1.0Vから1.55Vへ急激に上昇するが、チタン酸リチウムの組成がx=6.9からx=4.1へと変化する間は1.55Vで一定である。この時、セルの端子電圧は3.0Vから2.4Vまで急激に低下し、2.4Vから0Vへと直線的に低下する。そして、放電終了時のチタン酸リチウムの組成はLi4.1Ti5O12となる。さらに充電を行うと、正極の単極電位は0Vから2.4Vまで直線的に上昇し、負極の単極電位は、チタン酸リチウムの組成がx=4.1からx=6.9へと変化する間は1.55Vで一定である。
電気化学キャパシタとしては、端子電圧が直線の部分を用いる必要があるので、比較例1の電気化学キャパシタ(B1)において、端子電圧が直線的に変化する範囲を使用する場合は0〜2.4V間(電圧幅2.40V)で充放電が可能で、その容量は約2.35mAhであった。したがって、重量当りエネルギー密度は35.7wh/kg、体積当りエネルギー密度は81.9wh/lとなる。
つぎに、比較例2の電気化学キャパシタ(B2)の特性について説明する。比較例2の電気化学キャパシタ(B2)では、組立時には、正極の電位は多孔性炭素の自然電位3.15Vを示し、負極活物質であるチタン酸リチウムの組成はx=4.0(Li4.0Ti5O12)であるので、負極の単極電位は2.50Vを示す。
最初に充電を行うと、正極の単極電位は3.15V4.30Vへと直線的に上昇し、負極の単極電位は、充電開始直後に2.50Vから1.55Vへと急激に低下し、1.55Vになった時のチタン酸リチウムの組成はx=4.1となる。その後、チタン酸リチウムの組成がx=4.1からx=5.3まで変化する間は、負極の単極電位は1.55Vで一定である。
この時、セルの端子電圧は0.65Vから1.60Vへ急激に上昇し、その後は1.60V2.75Vへと直線的に上昇する。そして、充電終了時のチタン酸リチウムの組成はx=5.3(Li5.3Ti5O12)となる。
電気化学キャパシタとしては、端子電圧が直線の部分を用いる必要があるので、つぎに放電を行うと、正極の単極電位は4.30Vから3.15Vへと直線的に変化し、負極の単極電位は、チタン酸リチウムの組成がx=5.3からx=4.1へと変化する間1.55Vで一定である。この時、端子電圧は2.75Vから1.60Vへと直線的に低下する。
次に充電を行うと、正極の単極電位は3.15Vから4.3V直線的に上昇し、負極の単極電位は、チタン酸リチウムの組成がx=4.1からx=5.3へと変化する間は1.55Vで一定であり、セルの端子電圧は1.60Vから2.75Vへ直線的に上昇する。
このように、電気化学キャパシタ(B2)は1.60〜2.75V間(電圧幅1.15V)で充放電が可能で、その容量は約1.00mAhであった。したがって、重量当りエネルギー密度は8.0wh/kg、体積当りエネルギー密度は18.7wh/lとなる。
表2に、実施例1、2および比較例1、2の電気化学キャパシタの内容をまとめ、表2にエネルギー密度をまとめた。
表1および表2から、実施例1および実施例2の電気化学キャパシタのエネルギー密度は、従来の比較例1の電気化学キャパシタよりはるかに大きくなっており、また、負極制限の比較例1の電気化学キャパシタよりも大きくなっていることがわかった。
このように、電気化学キャパシタを組み立てる前に、活物質としてチタン酸リチウムを含む負極をプリチャージし、チタン酸リチウムの組成をLi4Ti5O12からLixTi5O12(ただし、4.1≦x≦6.9)へと変化させ、端子電圧が0Vの時のxの値をa、端子電圧が2.75Vの時のxの値をbとした時、4.1≦a、b≦6.9、a<bとすることにより、エネルギー密度の大きい電気化学キャパシタが得られることがわかった。
また、a=4.1、b=6.9の時にエネルギー密度は最大になることから、aの値をできるだけ4.1に近い値とし、bの値をできるだけ6.9に近い値とすることにより、エネルギー密度のより大きい電気化学キャパシタが得られることがわかった。