JP2008104413A - 殺菌加工液全卵及びこれを用いた卵製品 - Google Patents

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Abstract

【課題】殺菌処理されているにも拘らず、調理時の作業性や得られる卵製品の形状等の点から未殺菌の液全卵と同様の調理適性を有する殺菌加工液全卵及びこれを用いた卵製品を提供する。
【解決手段】植物ステロール類及び増粘材を含む殺菌加工液全卵及びこれを用いた卵製品。
【選択図】 なし

Description

本発明は、殺菌処理されているにも拘らず、調理時の作業性や得られる卵製品の形状等の点から未殺菌の液全卵と同様の調理適性を有する殺菌加工液全卵及びこれを用いた卵製品に関する。
割卵して卵殻から分離された液全卵は、保存性を高めること等を目的に殺菌処理が施され、殺菌液全卵として流通される。しかしながら、液全卵を殺菌処理すると粘度が低下して未殺菌の液全卵と異なる物性となる。これは、卵の粘度が卵白中の「蛋白質のからまり」に由来するもので、殺菌処理工程中のろ過や攪拌等によりそのからまりが切られたり、加熱による蛋白質の熱変性でそのからまりの強度が弱まってしまうためであるといわれている。そのため、殺菌液全卵を用いて種々の卵製品を製造する場合には、未殺菌液全卵との物性の違いに起因して、調理時の作業性や得られる卵製品の形状等の点から様々な悪影響が出る問題があった。例えば、殺菌液全卵を用いて「オムレツ」を製造する場合、液卵をフライパンに流し込んで、はしなどで撹拌しながら焼成して成形する際に卵液のまとまり感がなく成形し難いという問題があった。同様に、殺菌液全卵を用いて「丼」を製造した場合、加熱調味液に液卵を流し入れて凝固させる際に液卵が調味液中に散ってしまい、ふんわりとした卵のかたまりが得られ難いという問題があった。
そこで、従来、殺菌処理された液卵を用いて卵製品を製造する場合には、例えば、特開平8−116925号公報(特許文献1)に記載されているように、キサンタンガム等の増粘材を添加して粘度を高めることにより殺菌液卵の物性を改質することが行われている。しかしながら、殺菌液卵に増粘材を単に添加して増粘させても、上述した卵白中の「蛋白質のからまり」に由来する未殺菌液卵の粘性とは物性が異なるためか、調理時の作業性や得られる卵製品の形状等の点から未殺菌の液卵と同様の調理適性を得ることはできなかった。
一方、血中の総コレステロール濃度及び低密度リポ蛋白質−コレステロール濃度を低下させる機能を有する物質として植物ステロール類が知られている。この植物ステロール類は植物由来の食材には、極僅かしか含有していないことから、食品原料としての利用が期待されている。本発明者等は、前記植物ステロールを用いて殺菌液全卵の物性を改質し、未殺菌の液全卵と同様の調理適性を付与できるならば、生理機能を併せ持つこととなり商品価値として有用なものとなると考え、植物ステロールを殺菌液全卵に添加することを試みた。しかしながら、単に植物ステロールを添加しただけでは、充分な改質効果は得られなかった。
特開平8−116925号公報 WO2005/041692
そこで、本発明の目的は、殺菌処理されているにも拘らず、調理時の作業性や得られる卵製品の形状等の点から未殺菌の液全卵と同様の調理適性を有する殺菌加工液全卵及びこれを用いた卵製品を提供するものである。
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、植物ステロール類と増粘材とを含む殺菌加工液全卵は、意外にも、調理時の作業性や得られる卵製品の形状等の点から未殺菌の液全卵と同様の調理適性を有することを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
つまり、本発明は、
(1) 植物ステロール類及び増粘材を含む殺菌加工液全卵、
(2) 前記増粘材が、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナン、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ペクチン及び澱粉から選ばれる1種又は2種以上である(1)記載の殺菌加工液全卵、
(3) 前記植物ステロール類の含有量が製品に対して0.01〜5%であり、前記増粘材の含有量が製品に対して0.01〜5%である(1)又は(2)に記載の殺菌加工液全卵、
(4) (1)乃至(3)のいずれかに記載の殺菌加工液全卵を配合してなる卵製品、
である。
なお、本出願人は、植物ステロール類に関し、既に、植物ステロール類は卵黄の主成分である卵黄リポ蛋白質と複合体を形成し、得られた複合体は水系媒体に対して良好な分散性を示すことを見出し、前記複合体及びこれを含有する食品を出願している(WO2005/041692:特許文献2)。しかしながら、当該出願には、前記複合体を殺菌液全卵に添加することについてはいっさい検討されていない。
本発明によれば、殺菌処理されているにも拘らず、調理時の作業性や得られる卵製品の形状等の点から未殺菌の液全卵と同様の調理適性を有する殺菌加工液全卵及びこれを用いた卵製品を提供できる。したがって、殺菌処理されて食品衛生の点から安全性の高い殺菌加工液全卵及びこれを用いた卵製品の更なる利用拡大が期待される。
以下、本発明の殺菌加工液全卵及びこれを用いた卵製品を詳述する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
本発明の殺菌加工液全卵は、殺菌処理によりサルモネラ属菌がサンプル25g当たり陰性及び大腸菌群数が10個/g未満としてあり、液全卵に加えて植物ステロール類及び増粘材を含むことを特徴とする。一般的な殺菌液全卵は、殺菌処理工程中のろ過、攪拌及び加熱による蛋白質の熱変性等により、未殺菌液全卵に比べて粘性が低い等の物性の違いがある。そのため、殺菌液全卵を用いて種々の卵製品を製造する場合に、調理時の作業性や得られる卵製品の形状等の点から様々な悪影響が出る問題があったが、本発明の殺菌加工液全卵は、植物ステロール類及び増粘材含むことから、調理時の作業性や得られる卵製品の形状等の点から未殺菌の液全卵と同様の調理適性を有するものとなる。
上述のように、本発明において、未殺菌の液全卵と同様の調理適性を有する殺菌加工液全卵が得られる理由は定かではないが、植物ステロール類は融点が140℃前後であることから、殺菌処理や加熱調理時の加熱によっても溶解せず、後述する卵黄の主成分である卵黄リポ蛋白質と複合体を形成した状態で殺菌加工液全卵中に微粒子状に均一に分散していると推察される。本発明においては、この殺菌加工液全卵中に微粒子状に均一に分散している植物ステロール類と増粘材とが何らかの形で相乗的に作用して、殺菌処理工程中のろ過、攪拌及び加熱による蛋白質の熱変性等により損なわれた卵が本来有していた特有の組織構造を補い、調理適性を高める働きをしているのではないかと推察される。
本発明の殺菌加工液全卵は、殺菌処理によりサルモネラ属菌がサンプル25g当たり陰性及び大腸菌群数が10個/g未満としてあるが、このような殺菌処理は、常法によればよく、例えば、バッチ式殺菌タンク、プレート式熱交換機、ジュール加熱装置などの殺菌処理設備を用い、連続式により加熱殺菌する場合は60℃×3.5分相当の加熱を、バッチ式により加熱殺菌する場合は58℃×10分相当の加熱をする等して、サルモネラ属菌がサンプル25g当たり陰性及び大腸菌群数が10個/g未満とすればよい。本発明における殺菌処理はこれらに限定されるものではなく、これらと同様の殺菌効果を有すれば、別の方法であってもよい。
前記本発明で用いる液全卵とは、常法により鶏卵を割卵して、卵殻を取り除いて得られた卵黄と卵白の混合液をいう。卵黄と卵白の混合比率としては、鶏卵の卵黄と卵白の比率に近い限り、若干異なってもよく、具体的には、卵黄と卵白の混合比率は、生換算で卵黄100部に対して卵白が好ましくは150〜300部である。このような本発明の液全卵としては、鶏卵を割卵して溶きほぐして調製した液全卵、鶏卵を割卵して卵黄と卵白を分離してこれらをそれぞれ溶きほぐして調製した液卵黄及び液卵白の混合液等が挙げられる。これら液全卵としては、冷凍卵とした後に解凍したもの、乾燥卵とした後に乾燥前の液卵の水分含量となるように水戻ししたもの、さらには、加熱凝固等の卵の一般的性質を備えている限り、例えば、コレステロール、リゾーチーム、グルコース等の成分の一部を除去したもの等であってもよい。
本発明の殺菌加工液全卵は、加熱凝固等の卵の一般的性質を備えていることが好ましいことから、前記液全卵の含有量としては、殺菌加工液全卵全体、つまり、製品に対して、生換算で好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
また、前記本発明で用いる植物ステロール類とは、コレステロール又は当該飽和型であるコレスタノールに類似した構造をもつ植物の脂溶性画分より得られる植物ステロール又は植物スタノール、あるいはこれらの構成成分のことであり、これら植物ステロール類は、植物の脂溶性画分に合計で数%存在する。また、市販の植物ステロール又は植物スタノールは、融点が約140℃前後で、常温で固体であり、これらの主な構成成分としては、例えば、β−シトステロール、β−シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、ブラシカスタノール等が挙げられる。また、植物スタノールについては、天然物の他、植物ステロールを水素添加により飽和させたものも使用することができる。なお、本発明において植物ステロール類は、いわゆる遊離体を主成分とするが、若干量のエステル体を含有していてもよい。
本発明に用いる植物ステロール類は、市販されている粉体あるいはフレーク状のものを用いることができるが、平均粒子径が50μm以下、特に10μm以下の粉体を使用すると、殺菌加工液全卵中により均一に分散して、未殺菌の液全卵と同様の調理適性が得られる本発明の効果が得られ易く好ましい。
前記植物ステロール類を殺菌加工液全卵に含有させるには、上述した好ましくは10μm以下の粉体状の植物ステロール類を液全卵に添加し、好ましくはホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモゲナイザー、T.K.マイコロイダー(プライミクス社製)等の均質機を用いて全体が均一になるまで充分に攪拌混合して含有させると、植物ステロール類を殺菌加工液全卵中に均一に分散させることが好ましい。これは、植物ステロール類が卵黄の主成分である卵黄リポ蛋白質と複合体を形成し、良好な水分散性が付与されるためである。植物ステロール類は水不溶性物質であり、水への分散処理を施してもその後水面に浮いてしまう性質を有するが、このように複合体を形成した状態で含有させることにより、植物ステロール類を殺菌加工液全卵に均一に分散させることができ、未殺菌の液全卵と同様の調理適性が得られる本発明の効果が得られ易く好ましい。ここで、卵黄リポ蛋白質とは、卵黄の主成分であって、卵黄固形分中の約80%を占めるものであり、卵黄蛋白質と、親水部分及び疎水部分を有するリン脂質、及びトリアシルグリセロール、コレステロール等の中性脂質とからなる複合体である。当該複合体は、蛋白質やリン脂質の親水部分を外側にし、疎水部分を内側にして、中性脂質を包んだ構造をしている。前記本発明の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、水に分散する性質を有することから、両親媒性を有する卵黄リポ蛋白質が当該疎水部分を疎水物である植物ステロール類の表面側に、親水部分を外側に向けて植物ステロール類の表面に付着した状態であり親水性の性質を有すると推定される。
ところで、上述のように植物ステロール類を殺菌加工液全卵に含有させる際に、植物ステロール類を製品で用いる液全卵全量に直接添加して当該植物ステロールに充分な水分散性が付与されるように均質機等で攪拌混合すると、均質機等による攪拌混合により卵の粘度が低下し調理適性が悪くなる場合がある。したがって、本発明においては、予め植物ステロール類と配合原料中の卵黄の一部とを好ましくは均質機等により攪拌混合して前記複合体を形成させて当該植物ステロールに良好な水分散性を付与した後、この複合体を添加することにより植物ステロール類を殺菌加工液全卵に含有させることが特に好ましい。
このように植物ステロール類と配合原料中の卵黄の一部とを予め攪拌混合する際の植物ステロール類と卵黄との混合比率は、後述で示すように、植物ステロール類100部に対して少なくとも卵黄が固形分換算で0.54部以上であれば植物ステロール類に良好な水分散性を付与することができ好ましい。一方、攪拌混合に用いる卵黄を含む卵原料の量が多すぎても、均質機等の攪拌混合により卵の粘度が低下して得られる殺菌加工液全卵の調理適性に悪影響を受ける場合があることから、前記攪拌混合に用いる卵の割合は、製品に配合する卵原料全体に対して生換算で好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下である。また、前記攪拌混合は、具体的には、工業的規模での攪拌混合し易さを考慮し、卵黄を水系媒体で適宜希釈した卵黄希釈液を使用し、当該卵黄希釈液と植物ステロール類とを上述した均質機を用いて全体が均一になるまで攪拌混合して製造することが好ましい。前記水系媒体としては、水分が90%以上のものが好ましく、例えば、清水の他に液卵白、糖液、食塩水等が挙げられ、前記卵黄希釈液の濃度としては、その後、添加する植物ステロール類の配合量にもよるが、卵黄固形分として0.01〜50%の濃度が好ましい。また、上述の方法で得られたものは、複合体が水系媒体に分散したものであるが、噴霧乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を施して乾燥品とし、これを殺菌加工液全卵に含有させてもよい。
本願発明の殺菌加工液全卵における、前記植物ステロール類の含有量は、後述する増粘材の含有量や卵製品の種類等を考慮する必要があるが、製品に対して好ましくは0.01〜5%、より好ましくは0.1〜3%である。前記範囲とすることにより、未殺菌の液全卵と同様の調理適性が得られる本発明の効果が得られ易く好ましい。これに対して、植物ステロール類の含有量が前記範囲より少ないと、未殺菌の液全卵と同様の調理適性が得られる本発明の効果が充分に得られ難く、前記範囲より多いと、製造する卵製品の種類等によっては食感が損なわれる場合があり好ましくない。
本発明で用いる増粘材としては、粘性を付与でき、食用として一般的に用いているものであれば特に制限はなく、例えば、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナン、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、タラガム、サイリュームシードガム、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、コンニャクマンナン、ヤマノイモ由来の増粘物質、ゼラチン、更には、コーンスターチ、タピオカ澱粉等の生澱粉やこれらにα化処理等を行った加工澱粉等の澱粉等が挙げられる。これらの増粘材の中でも、本発明においては、未殺菌の液卵白と同様の調理適性が得られる本発明の効果が得られ易いことから、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナン、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ペクチン及び澱粉から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。
前記増粘材の含有量は、上述した植物ステロール類の含有量や卵製品の種類等を考慮する必要があるが、製品に対して好ましくは0.01〜5%、より好ましくは0.05〜3%である。前記範囲とすることにより、未殺菌の液全卵と同様の調理適性が得られる本発明の効果が得られ易く好ましい。これに対して、増粘材の含有量が前記範囲より少ないと、未殺菌の液全卵と同様の調理適性が得られる本発明の効果が充分に得られ難く、前記範囲より多いと、製造する卵製品の種類等によっては食感が損なわれる場合があり好ましくない。
本発明の殺菌加工液全卵には、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した原料の他に、グルコース、ソルビトール、シュクロース、トレハロース、デキストリン、還元デキストリン等の糖類、食塩、pH調整材、着色料、保存料等の原料を、適宜選択して用いることができる。
上述した本発明の殺菌加工液全卵は、調理時の作業性や得られる卵製品の形状等の点から未殺菌の液全卵と同様の調理適性を有することから、種々の卵製品に利用することにより、卵製品の形状や物性等の点から優れた品質の卵製品が得られる。このような本発明の殺菌加工液全卵を用いる卵製品としては、卵を主原料として用いる卵製品であれば特に制限はないが、卵の加熱凝固性を利用して加熱調理して製する加熱調理卵製品は、調理時の作業性や得られる卵製品の形状等の点から未殺菌の液全卵と同様の調理適性を有することが特に必要とされることから、本発明はこのような加熱調理卵製品において特に好適に実施できる。前記加熱調理卵製品としては、具体的には、例えば、オムレツ、卵焼き、スクランブルエッグ、丼等が挙げられる。
本発明の殺菌加工液全卵は、液全卵に植物ステロール類、増粘材及び必要に応じてその他の原料を含有させる他は、従来の一般的な殺菌液全卵の製造方法に準じて製造することができる。具体的には、例えば、鶏卵を割卵して、卵殻を取り除いて得られた卵黄と卵白をミキサーで攪拌混合した後、ろ過して液全卵を得る。次に、得られた液全卵に、植物ステロール類、増粘材、更に、その他の原料を添加するが、本発明においては、上述したように植物ステロール類を配合原料中の卵原料の一部と予め攪拌混合して複合体を形成させた後に添加することが好ましい。具体的には、予め植物ステロール類と、製品に配合する卵原料全体に対して生換算で好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下の卵原料とを上述の均質機等を用いて攪拌混合した後、当該混合物を添加する。ここで、前記攪拌混合に用いる卵原料に含まれる卵黄の量は、植物ステロール類に良好な水分散性を付与する点から植物ステロール類100部に対して固形分換算で好ましくは0.54部以上とする。
続いて、このようにして植物ステロール類及び増粘材等を液全卵に添加して攪拌混合した後、殺菌処理する。殺菌処理は、バッチ式殺菌タンク、プレート式熱交換機、ジュール加熱装置などの殺菌処理設備を用い、連続式により加熱殺菌する場合は60℃×3.5分相当の加熱を、バッチ式により加熱殺菌する場合は58℃×10分相当の加熱をして、サルモネラ属菌がサンプル25g当たり陰性及び大腸菌群数が10個/g未満とすればよい。以上のようにして得られた本発明の殺菌加工液卵は、必要に応じてパウチ等に容器詰めして0〜15℃で保存するチルド品として、あるいは、パウチ等に容器詰めした後凍結処理して冷凍品として流通させることができる。
以下、本発明の殺菌加工液全卵及びこれを用いた卵製品について、実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
[調製例1]:植物ステロール類と卵黄固形分との割合
鶏卵を工業的に割卵して得られた液卵黄(卵黄固形分45%)と清水と植物ステロールの量を表1の通りに変更して混合液を調製し、この混合液における植物ステロール類の分散性から、植物ステロール類に良好な分散性を付与するための卵黄固形分の量を検討した。
すなわち、鶏卵を割卵して取り出した液卵黄(卵黄固形分45%)に清水を加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌した後、45℃に加温し、次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(遊離体97.8%、エステル体2.2%、平均粒子径約3μm)を除々に添加し、添加し終えたところで、さらに10000rpmで攪拌して混合液を得た。
また、植物ステロール類の分散性に関しては、得られた混合液0.5gを試験管(内径1.6cm、高さ17.5cm)にとり、0.9%食塩水10mLで希釈し、試験管ミキサー(IWAKI GLASS MODEL−TM−151)で10秒間撹拌することにより振盪し、その後1時間室温で静置し、さらに真空乾燥機(東京理化器械社製、VOS−450D)に入れ、真空度を1.3kPa以下にして室温(20℃)で脱気を行い、脱気後に浮上物が見られない場合を○、浮上物が見られた場合を×と判定した。これらの結果を表1に示す。
なお、植物ステロールを加熱溶解し、冷却し、比重の異なるエタノール液に浸けて浮き沈みによりその比重を求めたところ、0.98であったことから、上述の分散性の試験での浮上物は植物ステロールであると考えられる。
Figure 2008104413
表1より、植物ステロール100部に対して、卵黄固形分が0.54部以上であれば、植物ステロール類に良好な分散性を付与できることがわかる。
[調製例2]
清水17.5kgに殺菌液卵黄(卵黄固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度46.7kPaで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄を含む混合液を得た。なお、得られた混合液の卵黄含有量は、植物ステロール類100部に対して固形分換算で11部である。
[調製例3]
調製例2で得られた植物ステロールと卵黄を含む分散液を噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、植物ステロールと卵黄を含む乾燥組成物を得た。なお、得られた植物ステロールと卵黄を含む乾燥組成物の卵黄含有量は、植物ステロール類100部に対して固形分換算で11部である。
[実施例1]
まず、鶏卵を割卵して混合タンクで攪拌混合した後、30メッシュのストレーナーでろ過して液全卵を製した。次に、得られた液全卵100部に対して、調製例3で得られた植物ステロールと卵黄を含む乾燥組成物(卵黄固形分10%、植物ステロール90%)2.5部及びキサンタンガム0.1部を添加して混合タンクで攪拌混合した後、プレート式熱交換機(岩井機械工業(株)製「CHX型」)により60℃で3.5分間加熱殺菌して本発明の殺菌加工液全卵を製した。なお、植物ステロール類の含有量は製品に対して2%であり、キサンタンガムの含有量は製品に対して0.1%である。また、前記植物ステロールと卵黄を含む乾燥組成物に含まれる卵の割合は、製品に配合する卵原料全体に対して生換算で0.6%である。更に、得られた本発明の殺菌加工液全卵の細菌数は、サルモネラ属菌がサンプル25g当たり陰性であり、大腸菌群数は10個/g未満であった。
[比較例1]
実施例1の殺菌加工液全卵において、キサンタンガムを添加しなかった以外は同様の方法で殺菌加工液全卵を製した。
[比較例2]
実施例1の殺菌加工液全卵において、植物ステロールを添加しなかった以外は同様の方法で殺菌加工液全卵を製した。
[試験例1]
実施例1、並びに比較例1及び2で得られた殺菌加工液全卵を用いて以下のようにしてオムレツを製し、未殺菌の液全卵(鶏卵を割卵して混合タンクで攪拌混合したもの)を対照とした調理適性を調理時の作業性の点から評価した。結果を表2に示す。
<オムレツの製造方法>
殺菌加工液卵白100gに、食塩0.5g及びコショウ0.01gを加えて調味し、これを油をひいたフライパンに流し込んで、常法により、はしで撹拌しながら焼成して成形し、オムレツを製造した。
Figure 2008104413
<表2における調理適性の評価の記号>
◎:対照と同様に成形し易い。
○:対照に比べてやや成形し難いが問題のない程度である。
△:対照に比べてやや成形し難い。
×:対照に比べて成形し難い。
表2より、植物ステロール類のみを含む比較例1の比較品及び増粘材のみを含む比較例2の比較品は、いずれも調理時の作業性の点から対照に比べて調理適性が悪いのに対し、これらを併せて含む本発明品、すなわち、植物ステロール類及び増粘材を含む本発明の実施例1の殺菌加工液全卵は、調理時の作業性が対照と同様であり優れた調理適性を有していることが理解できる。なお、ここでは示していないが、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。
[試験例2]
実施例1、並びに比較例1及び2で得られた殺菌加工液全卵を用いて以下のようにして丼を製し、未殺菌の液全卵(鶏卵を割卵して混合タンクで攪拌混合したもの)を対照とした調理適性を卵製品の形状の点から評価した。結果を表3に示す。
<丼の製造方法>
親子丼用の鍋に、玉ねぎ30g、鶏肉50g、かつおだし100gを入れて加熱し、鶏肉が煮えたら、殺菌加工液全卵80gを流し入れて凝固させて親子丼を製造した。
Figure 2008104413
<表3における調理適性の評価の記号>
◎:対照と同様に、ふんわりとした大きなかたまりに凝固する。
○:対照に比べて卵液が調味液中にやや散り易く、凝固したかたまりがやや小さいが問題のない程度である。
△:対照に比べて卵液が調味液中にやや散り易く、凝固したかたまりがやや小さい。
×:対照に比べて卵液が調味液中に散ってしまい、凝固したかたまりが小さい。
表3より、植物ステロール類のみを含む比較例1の比較品及び増粘材のみを含む比較例2の比較品は、いずれも卵製品の形状の点から対照に比べて調理適性が悪いのに対し、これらを併せて含む本発明品、すなわち、植物ステロール類及び増粘材を含む本発明の実施例1の殺菌加工液全卵は、卵製品の形状が対照と同様であり優れた調理適性を有していることが理解できる。なお、ここでは示していないが、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。
[実施例2]
実施例1の殺菌加工液全卵において、キサンタンガム0.1部に換えてグアーガム0.1部を添加した以外は同様の方法で本発明の殺菌加工液全卵を製した。なお、植物ステロール類の含有量は製品に対して2%であり、グアーガムの含有量は製品に対して0.1%である。また、得られた本発明の殺菌加工液全卵の細菌数は、サルモネラ属菌がサンプル25g当たり陰性であり、大腸菌群数は10個/g未満であった。
[実施例3]
実施例1の殺菌加工液全卵において、キサンタンガム0.1部に換えてカラギーナン0.1部を添加した以外は同様の方法で本発明の殺菌加工液全卵を製した。なお、植物ステロール類の含有量は製品に対して2%であり、カラギーナンの含有量は製品に対して0.1%である。また、得られた本発明の殺菌加工液全卵の細菌数は、サルモネラ属菌がサンプル25g当たり陰性であり、大腸菌群数は10個/g未満であった。
[実施例4]
実施例1の殺菌加工液全卵において、キサンタンガム0.1部に換えてタマリンドシードガム0.1部を添加した以外は同様の方法で本発明の殺菌加工液全卵を製した。なお、植物ステロール類の含有量は製品に対して2%であり、タマリンドシードガムの含有量は製品に対して0.1%である。また、得られた本発明の殺菌加工液全卵の細菌数は、サルモネラ属菌がサンプル25g当たり陰性であり、大腸菌群数は10個/g未満であった。
[実施例5]
実施例1の殺菌加工液全卵において、キサンタンガム0.1部に換えてローカストビーンガム0.1部を添加した以外は同様の方法で本発明の殺菌加工液全卵を製した。なお、植物ステロール類の含有量は製品に対して2%であり、ローカストビーンガムの含有量は製品に対して0.1%である。また、得られた本発明の殺菌加工液全卵の細菌数は、サルモネラ属菌がサンプル25g当たり陰性であり、大腸菌群数は10個/g未満であった。
[実施例6]
実施例1の殺菌加工液全卵において、キサンタンガム0.1部に換えてペクチン0.1部を添加した以外は同様の方法で本発明の殺菌加工液全卵を製した。なお、植物ステロール類の含有量は製品に対して2%であり、ペクチンの含有量は製品に対して0.1%である。また、得られた本発明の殺菌加工液全卵の細菌数は、サルモネラ属菌がサンプル25g当たり陰性であり、大腸菌群数は10個/g未満であった。
[実施例7]
実施例1の殺菌加工液全卵において、キサンタンガム0.1部に換えてα化澱粉(Tate & Lye Food & Industrial Ingredientes,America Inc.社製、ミラスパース626)1部を添加した以外は同様の方法で本発明の殺菌加工液全卵を製した。なお、植物ステロール類の含有量は製品に対して2%であり、α化澱粉の含有量は製品に対して1%である。また、得られた本発明の殺菌加工液全卵の細菌数は、サルモネラ属菌がサンプル25g当たり陰性であり、大腸菌群数は10個/g未満であった。
[実施例8]
まず、鶏卵を割卵して混合タンクで攪拌混合した後、30メッシュのストレーナーでろ過して液全卵を製した。次に、得られた液全卵100部に対して、植物ステロール(調製例1で用いたものと同じ)2.5部及びキサンタンガム0.1部を添加して均質機(プライミクス(株)製、T.K.ホモミキサー)で攪拌混合した後、プレート式熱交換機(実施例1で用いたものと同じ)により60℃で10分間加熱殺菌して本発明の殺菌加工液全卵を製した。なお、植物ステロール類の含有量は製品に対して2.4%であり、キサンタンガムの含有量は製品に対して0.1%である。また、得られた本発明の殺菌加工液全卵の細菌数は、サルモネラ属菌がサンプル25g当たり陰性であり、大腸菌群数は10個/g未満であった。
[試験例3]
実施例2乃至8で製した殺菌加工液全卵を用い、それぞれ試験例1と同様にオムレツを製し、未殺菌の液全卵(鶏卵を割卵して混合タンクで攪拌混合したもの)を対照とした調理適性を調理時の作業性の点から評価したところ、いずれも対照と同様に成形し易く好ましいものであった。

Claims (4)

  1. 植物ステロール類及び増粘材を含むことを特徴とする殺菌加工液全卵。
  2. 前記増粘材が、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナン、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ペクチン及び澱粉から選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の殺菌加工液全卵。
  3. 前記植物ステロール類の含有量が製品に対して0.01〜5%であり、前記増粘材の含有量が製品に対して0.01〜5%である請求項1又は2に記載の殺菌加工液全卵。
  4. 請求項1乃至3のいずれかに記載の殺菌加工液全卵を配合してなることを特徴とする卵製品。
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