JP2008095190A - 靭性および高温強度に優れた熱間工具鋼およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 靭性および高温強度を向上させた熱間工具鋼およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 質量%で、C:0.34〜0.40%、Si:0.3〜0.5%、Mn:0.45〜0.75%、Ni:0〜0.5%未満、Cr:4.9〜5.5%、MoおよびWは単独または複合で(Mo+1/2W):2.5〜2.9%、V:0.5〜0.7%、残部Feおよび不可避的不純物からなる熱間工具鋼であって、その焼入れ時の断面組織は、塊状組織および針状組織を含み、
塊状組織(A%):45面積%以下、
針状組織(B%):40面積%以下、
残留オーステナイト(C%):5〜20体積%
である。
そして、上記の熱間工具鋼を、下記数式で示される焼戻し硬さ(HRC)と組織割合との関係値Xが40以上であるように焼戻す、熱間工具鋼の製造方法である。
X=[−0.36×(HRC)−1.47×(A%)−1.67×(B%)+6.55×(C%)+72.91]
【選択図】図1

Description

本発明は、プレス金型や鍛造金型、ダイカスト金型、押出工具といった多種の熱間工具に供して最適な、靭性および高温強度を向上させた熱間工具鋼と、その製造方法に関するものである。
熱間工具は、高温の被加工材や硬質な被加工材と接触しながら使用されるため、熱疲労や衝撃に耐えうる強度と靭性を兼ね備えている必要がある。そのため、従来熱間工具の分野には、例えばJIS鋼種であるSKD61系の合金工具鋼が用いられていた。さらに最近では、熱間工具を使用して製造される製品の製造時間の短縮や複雑形状の成形のために被加工材が高温化してきていることや、製品の複数同時加工に伴って金型等の熱間工具も大型化してきていることなどから、熱間工具材料にはさらに高い高温強度と大型サイズでも内部まで高い靭性を確保できることが求められている。
合金工具鋼の靭性と高温強度を改善することを目的として、化学組成の範囲を定めることにより靭性を維持しつつ高温強度を改善する手法や(特許文献1参照)、残留炭化物の量を規定することにより靭性および高温強度を改善する手法が提案されている(特許文献2参照)。
特開平2−179848号公報 特開2000−328196号公報
しかし、上述の特許文献1は、靭性の具体的な測定値が無いことから靭性のレベルを評価することはできないが、本発明者が行った検討結果から判断するに、靭性および高温強度を十分に高いレベルで兼備するためには化学組成の範囲の限定が不十分である。また、上述の特許文献2の方法においても、靭性および高温強度は焼入れ後のマルテンサイト組織やベイナイト組織などの組織の影響を大きく受けるため、靭性および高温強度を高いレベルで制御するためには残留炭化物量を規定するだけでは不十分である。
本発明の目的は、より確実に優れた靭性および高温強度を有する熱間工具鋼と、その製造方法を提供することである。
本発明者が鋭意研究を行った結果、靭性および高温強度には焼入れ後の組織が大きく影響することを突き止め、優れた靭性および高温強度を兼ね備えるために好適な焼入れ後の組織を明らかにした。そして、好適な焼入れ後の組織を得るためには、各元素の含有量を最適な範囲に制御することによってこそ得られる、その極めて狭い好組成域が存在することを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、質量%で、C:0.34〜0.40%、Si:0.3〜0.5%、Mn:0.45〜0.75%、Ni:0〜0.5%未満、Cr:4.9〜5.5%、MoおよびWは単独または複合で(Mo+1/2W):2.5〜2.9%、V:0.5〜0.7%、残部Feおよび不可避的不純物からなる熱間工具鋼であって、その焼入れ時の断面組織は、塊状組織および針状組織を含み、
塊状組織(A%):45面積%以下、
針状組織(B%):40面積%以下、
残留オーステナイト(C%):5〜20体積%
であることを特徴とする靭性および高温強度に優れた熱間工具鋼である。
そして、上記の熱間工具鋼を、下記数式で示される焼戻し硬さ(HRC)と組織割合との関係値Xが40以上であるように焼戻すことを特徴とする靭性および高温強度に優れた熱間工具鋼の製造方法である。好ましい焼戻し硬さは43〜49HRCである。
X=[−0.36×(HRC)−1.47×(A%)−1.67×(B%)+6.55×(C%)+72.91]
本発明によれば熱間工具鋼の靭性および高温強度を非常に高いレベルで兼備することができる。そして、この効果は、40HRC以上の硬さ域においては勿論のこと、例えば43HRC以上の高硬さ域に調質した時において、最大限に発揮される。よって、多種熱間の用途・環境に適用が可能な熱間工具鋼の実用化にとって有効な技術となる。
上述したように、本発明の重要な特徴の1つは、各元素の含有量を最適な範囲に制御したことにある。すなわち、各元素の含有量を限定的な範囲に制御し、後述の焼入組織を認識するだけで、製造方法は従来のままで、例えば広い範囲の焼入冷却速度の他、任意の焼入方法でも靭性および高温強度を高いレベルで兼備できる組織を得ることができる狭組成域が存在するのであって、それを特定できたところに特徴を有する。すなわち、基本元素においては、C−Cr量の関係は従来のバランスを踏襲しながらも、これに相互関係する他の炭化物形成元素のMo,W,Vの最適調整と、そして、これら基本元素の調整による結果特性には多大な影響を及ぼすSiやNiの調整こそが重要なのである。以下、本発明鋼の狭組成域で構成される成分限定の理由について述べる。
Cは、一部が基地中に固溶して強度を付与し、一部は炭化物を形成することで耐摩耗性や耐焼付き性を高める、熱間工具鋼には重要な必須元素である。また、固溶した侵入型原子であるCは、CrなどのCと親和性の大きい置換型原子と共添加した場合、I(侵入型原子)−S(置換型原子)効果;溶質原子の引きずり抵抗として作用し高強度化する効果も期待される。ただし、含有量が0.34質量%未満では工具部材として十分な硬さ、耐摩耗性を確保できなくなる。他方、過度の添加は靭性や熱間強度の低下を招くため上限を0.40質量%とする。好ましくは0.35〜0.39%、更に好ましくは0.36〜0.38%である。
Siは、製鋼時の脱酸剤であるとともに被削性を高める元素である。これらの効果を得るためには0.3質量%以上の添加が必要であるが、多過ぎると後述の針状組織を発達させて靭性を低下させる。また、焼入冷却時のベイナイト組織中のセメンタイト系の炭化物の析出を抑制することにより、間接的に焼戻し時の合金炭化物の析出・凝集・粗大化を促進して高温強度を低下させたりするので0.5質量%以下とする。好ましくは0.35〜0.45%である。
Mnは、焼入性を高め、フェライトの生成を抑制し、適度の焼入れ焼戻し硬さを得る効果がある。また、非金属介在物MnSとして組織中に存在すれば、被削性の向上に大きな効果がある。これらの効果を得るためには0.45質量%以上の添加が必要であるが、多過ぎると基地の粘さを上げて被削性を低下させるので0.75質量%以下とする。好ましくは0.5〜0.7%である。
Niは、フェライトの生成を抑制する元素である。また、C、Cr、Mn、Mo、Wなどとともに本発明鋼に優れた焼入性を付与し、緩やかな焼入冷却速度の場合にも、後述の針状組織の生成を抑制する効果があり、マルテンサイト主体の組織を形成させ、靭性の低下を防ぐために重要な添加元素である。さらに、基地の本質的な靭性改善効果を与えることから、例えば0.01%以上といった添加の好ましい元素である。そして、本発明にとって何よりも重要なことは、このNiを添加した場合であっても、上限を厳重に規制管理することである。つまり、多過ぎると基地の粘さを上げて被削性を低下させたり、高温強度を低下させたり、また、後述の塊状組織を発達させて靭性を低下させたりするので、0.5質量%未満とする必要がある。好ましくは、0.3質量%以下に規制することである。
Crは焼入性を高めて、また、炭化物を形成して基地の強化や耐摩耗性を向上させる効果を有する元素であり、焼戻し軟化抵抗および高温強度の向上にも寄与する、本発明の熱間工具鋼には必須の元素である。これらの効果を得るため4.9質量%以上添加する必要がある。ただし、過度の添加は焼入性や高温強度の低下を招くため、上限を5.5質量%とする。好ましくは5.0〜5.4%、更に好ましくは5.1〜5.3%である。
MoおよびWは、焼入性を高めるとともに、焼戻しにより微細炭化物を析出させて強度を付与し、軟化抵抗を向上させるために単独または複合で添加できる。WはMoの約2倍の原子量であることからMo+1/2Wで規定することができる(当然、いずれか一方のみの添加としても良いし、双方を共添加することもできる)。そして、前記した効果を得るためには(Mo+1/2W)で2.5質量%以上の添加が必要である。多過ぎると被削性の低下や後述の針状組織の発達による靭性の低下を招くので、(Mo+1/2W)で2.9質量%以下とする。好ましくは(Mo+1/2W)で2.6〜2.8%である。
Vは、炭化物を形成し、基地の強化や耐摩耗性向上の効果を有する。また、焼戻し軟化抵抗を高めるとともに結晶粒の粗大化を抑制し、靭性向上に寄与する。この効果を得るためには0.5質量%以上を添加する必要があるが、多過ぎると被削性や靭性の低下を招くので0.7質量%以下とする。好ましくは0.55〜0.65%である。
なお、不可避的不純物として、残留する可能性のある主な元素は、P、S、Co、Cu、Al、Ca、Mg、O、N等である。本発明の作用効果を最大限に達成するためには、これらはできるだけ低い方が望ましいが、一方では、介在物の形態制御や、その他の機械的特性、あるいは製造効率の向上などの、付加的な作用効果を得る目的のもとでは、多少の含有および/または添加することもできる。この場合、質量%で、P≦0.03%、S≦0.01%、Co≦0.05%、Cu≦0.25%、Al≦0.025%、Ca≦0.01%、Mg≦0.01%、O≦0.01%、N≦0.03%であれば、本発明の熱間工具鋼の基本特性に特に大きな影響を及ぼさないと考えられるので、この範囲であれば許容でき、好ましい規制上限である。
そして、上述の成分組成の重要性に加えては、本発明は、その組織からの解決アプローチを試みたところにも、大きな特徴を有する。つまり、合金工具鋼の機械的特性に影響を及ぼす「組織的要因」をも研究することで、本発明の極狭域でなる最適な成分範囲に併せては、最適な組織をも特定したものである。すなわち、上記の成分組成を満たす本発明の熱間工具鋼は、その焼入れ時の断面組織において、塊状組織および針状組織を含み、
塊状組織(A%):45面積%以下、
針状組織(B%):40面積%以下、
残留オーステナイト(C%):5〜20体積%
である。
最初に、焼入組織とは、通常用いられている通りの、オーステナイト温度域からの冷却により得られた、マルテンサイトおよび/またはベイナイトを主体に構成された組織である。そして、本発明の焼入組織は、実質、上記のマルテンサイトおよび/またはベイナイトと、あとは適少量の残留オーステナイトで構成されているところ、上記の塊状組織および針状組織は、このマルテンサイトおよび/またはベイナイトの一部で構成されているものである。ここで、本発明の焼入組織中にて定義される塊状組織および針状組織とは、通常のベイナイト分別に用いられる羽毛状ベイナイト(上部ベイナイト)や針状ベイナイト(下部ベイナイト)の定義に則するものとは異なる。
つまり、本発明の塊状組織とは、その組織内部に数種類の方向性を持った微細な炭化物が多数成長した組織である。そして、鋼の断面組織において、本発明の塊状組織は、その表記の通り、押し並べて「塊状」を呈している。この塊状組織は、10mm角程度の小さな試料を空冷するくらいの速い冷却速度でも生成するため、実用鋼塊の焼入れ時においては、なおさら塊状組織を低減することは難しいが、全組織の多くを占めると、靱性の低下をもたらす。よって、本発明においては、焼入組織中に占める塊状組織を45面積%以下とする。好ましくは40面積%以下、更に好ましくは30面積%以下である。
次に、本発明の針状組織とは、その組織内部に、1つの方向性を持った上記の塊状組織中の炭化物と比較して長い炭化物が、多数成長した組織である。そして、断面組織において、本発明の針状組織は「針状」を呈している。この針状組織は、塊状組織が生成し始める冷却速度よりも遅い冷却速度で生成するが、やはり実用鋼塊の焼入れ時においては、この針状組織も低減することは難しい。しかし、全組織の多くを占めると、靱性が大きく劣化する。よって、本発明においては、焼入組織中に占める針状組織を40面積%以下とする。好ましくは、25面積%以下である。
ここで、本発明の塊状組織および針状組織は、その形状の差異を利用することで、断面観察による視覚的な分別・定量をすることができる。すなわち、任意の組織断面においては、例えば定電位電解エッチング法(SPEED法)による腐食を行うことで、炭化物が無析出のマルテンサイト基地に比しては耐食性の劣る両組織は優先的に腐食される。そして、その腐食面を走査型電子顕微鏡(×5000倍)にて観察した組織写真が図1であるが、補足の模式図として図2、図3にも示す通り、本発明の塊状組織および針状組織の分別定量が可能である。なお、この場合、本発明では、最大長さで0.5μm程度以上の両組織を観察対象として、任意3視野の観察を行えば、その作用効果を特定するのに十分である。図1は、塊状組織が27面積%、針状組織が30面積%の、後述の実施例1の本発明鋼1に相当するもののうちの1視野である。そして、図4は、塊状組織が44面積%、針状組織が16面積%の、後述の実施例1の従来鋼21に相当するもののうちの1視野である。
また、本発明の焼入組織構成においては、もう1つ重要となるのが、残留オーステナイトである。この組織は、強度特性の劣化要因として、低減の好ましい組織であるところ、本発明においては、適当な残留量が靭性の向上に寄与する。よって、本発明では、焼入組織中に占める残留オーステナイトを5〜20体積%とする。好ましくは、10体積%以上である。なお、残留オースナイトの定量は、常法に従って、例えば電解研磨した試料を用いてX線回折法による回折強度を利用した体積率測定を行えばいよい。
そして、本発明の熱間工具鋼の製造方法においては、上記の成分組成および焼入組織構成を満たした上では、次工程の焼戻しにて目標とする調質硬さを定めた上で、以下の関係式のXが40以上となる焼戻しを行うことで、靱性に優れた熱間工具鋼が成立する。
X=[−0.36×(HRC)−1.47×(A%)−1.67×(B%)+6.55×(C%)+72.91]
A%:塊状組織面積%,B%:針状組織面積%,C%:残留オーステナイト体積%
つまり、上式は、焼戻し後の靱性に及ぼす、焼入れ時の組織と、焼戻し硬さの影響度を研究したことで、その具体的な影響パラメータを明確にしたものである。焼戻し後の靱性を確保するには、塊状組織および針状組織の低減が有効であり、両者のうちでも、数式において負側に大きな係数を有した針状組織の低減が特に有効である。一方では、数式において正側に大きな係数を有していることから、適量の残留オーステナイトが靱性の確保に有利に働くことがわかる。そして、狙い硬さとしては、例えば熱間工具鋼として成立する40HRC以上を設定しても良いが、本発明の成分組成と焼入組織構成を満たした熱間工具鋼であればこそ、さらに高い硬さ、例えば43HRC以上の硬さを狙っても、十分な靱性を確保できるのである。しかしながら、顕著な靱性向上効果を保持しておく上では、49HRC以下の焼戻し硬さにとどめておくのが好ましい。
表1に本発明鋼、比較鋼および従来鋼の化学成分を示す。比較鋼は本発明の限られた狭成分範囲から外れている化学組成の鋼、従来鋼は現在一般的に使用されている、当然のことながら本発明の成分範囲外の熱間工具鋼である。
これらの本発明鋼、比較鋼および従来鋼は、真空誘導溶解炉にて10kgずつ溶製した鋼塊に、1250℃で5時間の均質化熱処理を施した後、1150℃で熱間鍛造することによって30mm厚さ×60mm幅の鋼材を作製した。その後、860℃で焼なまし処理したのち、1030℃で焼入処理した。焼入れは加圧ガス冷却にて行い、焼入温度(1030℃)から焼入温度と室温(20℃)との中間の温度(525℃)まで冷却するのに要する時間を半冷時間と定義した場合(例えば、1030℃から525℃まで冷却するのに10分かかる場合「半冷10分」と表す)、大型サイズの鋼材の中心部のように冷却速度が遅くなる部分に対応するものとして半冷40分程度で冷却した。
上記のようにして作製した表1の本発明鋼、比較鋼および従来鋼から、10mm角の組織観察用試料を採取し、SPEED法にて腐食した試料を用いて走査型電子顕微鏡による5000倍の観察を行った。一例として本発明鋼1および従来鋼21から得られた画像を図1および図4に示す。このような画像を用いて、塊状組織および針状組織を画像解析によって面積率測定した。やはり一例として本発明鋼1および従来鋼21の塊状組織を測定した模式図を図2および図5、同じく本発明鋼1および従来鋼21の針状組織を測定した模式図を図3(×印は除かれる)および図6に示す。このような測定を各試料の各組織について3視野ずつ行うことで、その平均を面積率とした。また、上記試料を再研磨後、電解研磨で仕上げた試料についてX線回折法による残留オーステナイト量の測定を行った。以上の結果をまとめたものを表2に示す。
次に、上記の焼入処理した素材を種々の温度で焼戻し処理して、46HRCの狙い硬さに調質した。そして、調質した表1の本発明鋼、比較鋼および従来鋼から、鍛造後の鋼材の幅方向に試験片の長手方向、鋼材の長手方向に試験片のノッチ方向がくるように(すなわちT方向から採取)して作製した2mmUノッチシャルピー衝撃試験片を用いて、室温でシャルピー衝撃試験した結果を、試験片の硬さとともに表3に示す。このT方向から採取し、比較的高硬度である46HRCに調質した試験片でシャルピー衝撃試験を行った場合、鍛造組織の影響を受けて衝撃値が低くなりやすいため、40(J/cm)を越える衝撃値が得られればその靭性は極めて優れている。また、表3には、本発明の硬さと組織割合の関係式から導き出される値Xも併記する。
これらの結果より、半冷40分程度の遅い冷却速度で焼入れした場合、比較鋼11および従来鋼21は、もとよりMo量が低いことに加えて、Niも無添加であるため、従来鋼21においては低めのC量もあって、それぞれ焼入性がかなり劣り、衝撃値も低い。衝撃値の低い比較鋼11および従来鋼21の焼入組織を評価すれば、比較的、塊状組織が多くかつ、残留オーステナイトも低い状態では、靱性への悪影響度が高い針状組織が発達して、しかも、X値もかなり低い。Mo量が多く、衝撃値が低い従来鋼22も、その焼入組織は比較鋼11および従来鋼21に近いが、各構成組織のバランス改善(つまり、X値の上昇)により、靱性が向上傾向にある。なお、従来鋼22は、Siが非常に低いことにより、被削性が不十分である。
Mo量が低い比較鋼12および比較鋼14は、Ni量が多すぎることから、塊状組織が発達するため、衝撃値が低い。なお、両試料においては、比較鋼14は、加えてSi量も多いことから、針状組織の生成傾向も見られる。
これらに対して、化学組成を最適に調整した本発明鋼1は、遅い冷却速度での焼入れであっても、優れた靭性を維持している。本発明鋼1の焼入組織を評価すれば、針状組織が発達するも、塊状組織が少なく、また、何よりも靱性の向上に有効な残留オーステナイトが多く残存している。そして、上記構成組織のバランス(つまり、X値)にも優れている。なお、比較鋼13は、本発明による最適組成と比べて靭性を高める元素であるNiのみが高く外れた組成のため、冷却速度が遅くなっても靭性は良好である。焼入組織も、塊状組織が多いながらも、X値が40以上を満たしている。
次に、表1の本発明鋼1および、比較鋼の中で衝撃値が良好だった比較鋼13を用いて高温強度を比較した。引張試験片は、鍛造後の鋼材の長手方向に試験片の長手方向がくるように採取し(すなわち、L方向から採取し)、650℃で高温引張試験した際の引張強さで評価した。引張試験は、試験片が650℃に達した後10分保持してから開始した。結果を表4に示す。
本発明の最適組成の狭範囲から外れている比較鋼13は、Ni含有量が多すぎることにより、靭性には優れていたが高温強度が劣ることが分かる。一方、本発明鋼1は高い高温強度を有していることが分かる。
本発明を適用して熱間工具鋼の靭性および高温強度を向上させることによって、プレス金型や鍛造金型、ダイカスト金型、押出工具といった多種の熱間工具への適用はもちろんのこと、さらに使用負荷が大きい金型等の熱間工具部材にも適用できる。
本発明の熱間工具鋼の、焼入組織の一例を示す断面ミクロ写真である。 図1の焼入組織において、塊状組織を選択した模式図である。 図1の焼入組織において、針状組織を選択した模式図である。 比較例の熱間工具鋼の、焼入組織の一例を示す断面ミクロ写真である。 図4の焼入組織において、塊状組織を選択した模式図である。 図4の焼入組織において、針状組織を選択した模式図である。

Claims (3)

  1. 質量%で、C:0.34〜0.40%、Si:0.3〜0.5%、Mn:0.45〜0.75%、Ni:0〜0.5%未満、Cr:4.9〜5.5%、MoおよびWは単独または複合で(Mo+1/2W):2.5〜2.9%、V:0.5〜0.7%、残部Feおよび不可避的不純物からなる熱間工具鋼であって、その焼入れ時の断面組織は、塊状組織および針状組織を含み、
    塊状組織(A%):45面積%以下、
    針状組織(B%):40面積%以下、
    残留オーステナイト(C%):5〜20体積%
    であることを特徴とする靭性および高温強度に優れた熱間工具鋼。
  2. 請求項1に記載の熱間工具鋼を、下記数式で示される焼戻し硬さ(HRC)と組織割合との関係値Xが40以上であるように焼戻すことを特徴とする靭性および高温強度に優れた熱間工具鋼の製造方法。
    X=[−0.36×(HRC)−1.47×(A%)−1.67×(B%)+6.55×(C%)+72.91]
  3. 43〜49HRCに焼戻すことを特徴とする請求項2に記載の靭性および高温強度に優れた熱間工具鋼の製造方法。
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