JP6828591B2 - 軸受用鋼及び軸受部品 - Google Patents

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Description

本発明は、軸受用鋼、及び、その軸受用鋼を用いて製造される軸受部品に関する。
軸受部品は、素材である軸受用鋼に熱間加工や冷間加工を施して部品形状とし、焼入れ、焼戻し等、熱処理を施して製造される。たとえば、転がり軸受部品は、長寿命化を達成するために次のとおり製造される。JIS規格に規定された高クロム軸受鋼SUJ2又は合金鋼SCM420に対して、焼入れ処理や浸炭処理を実施して、表層を高炭素のマルテンサイト組織とした中間品を製造する。中間品に対して焼戻し処理を実施して、転がり軸受部品を製造する。
高炭素の鋼に焼入れ処理を施す際に、マルテンサイト変態が完了せず、一部に未変態の残留オーステナイトが残存することがある。近年、この残留オーステナイトが軸受部品の転動疲労寿命の向上に寄与するとの知見が得られている。
残留オーステナイトを活用して転動疲労寿命を改善する技術が、特開平7−278752号公報(特許文献1)、特開2007−231332号公報(特許文献2)、特開2007−100126号公報(特許文献3)、及び、特開2015−030899号公報(特許文献4)に開示されている。
特許文献1に開示される軸受部材は、重量%で、C:0.5〜1.5%、V:0.05〜1.0%、O:0.0020%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する。軸受部材の鋼組織は、鋼中の残留オーステナイト量が体積比にして10〜35%である。この軸受部材は、繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れる、と特許文献1には記載されている。
特許文献2に開示される鋼部材は、質量%で、C:0.7〜1.1%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.4〜2.5%、Cr:1.6〜5.0%、Mo:0.1〜0.5%未満、及びAl:0.010〜0.050%を含有し、不純物としてのSbの混入を0.0015%未満に抑え、残部がFe及び不可避不純物の成分組成を有する。鋼部材はさらに、焼入れ焼戻しが施されている。鋼部材の鋼組織は、表面から深さ5mmまでの部分において、残留セメンタイトの粒子径が0.05〜1.5μm、旧オーステナイト粒径が30μm以下、及び、残留オーステナイト量が体積比で25%未満である。この鋼部材は転動疲労性に優れる、と特許文献2には記載されている。
特許文献3に開示される転動部材は、質量%で、C:0.6〜1.2%、Si:0.15〜1%、Mn:0.3〜1.5%、Cr:0.1〜2%、V:0.1〜2%を含有する。転動部材はさらに、鋼中に、粒径50〜300nmのバナジウム炭化物が分散しており、旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が12μm以下である。転動部材の表層部は、窒素富化層が形成されている。転動部材の表層部の残留オーステナイト量は、20〜40体積%である。転動部材の転走面は、59HRC以上の硬度を有している。この転動部材は転動疲労寿命に優れる、と特許文献3には記載されている。
特許文献4に開示される軸受用鋼は、質量%で、C:0.4〜1.0%、Si:0.75〜3.0%、Mn:0.55〜3.0%、Al:0.005〜0.50%を含有し、P:0.015%以下、S:0.015%以下に制限され、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有する。軸受用鋼はさらに、マルテンサイト変態開始温度Ms(=539−423[C%]−30[Mn%]−11[Si%])が100〜220℃である。この軸受用鋼は、軸受の素材として用いられ、軸受の長寿命化が可能になる、と特許文献4には記載されている。
特開平7−278752号公報 特開2007−231332号公報 特開2007−100126号公報 特開2015−030899号公報
しかしながら、特許文献1に開示された軸受部材は、V、Mo、Ni元素を大量に含有する。そのため、原料費が高価である。特許文献2に開示された鋼部材は、熱処理工程が複雑かつ長時間である。特許文献3に開示された転動部材は、浸炭窒化処理を実施した後、二次焼入れを実施する。このように、特許文献2及び特許文献3に開示された技術は、熱処理工程が複雑であり、生産性が低い。特許文献4の軸受用鋼では、転動疲労寿命が不足する場合があり得る。
本発明の目的は、強度及び転動疲労寿命に優れる軸受部品が得られる、軸受用鋼を提供することである。
本発明による軸受用鋼は、質量%で、C:0.40〜1.00%、Si:0.75〜3.00%、Mn:0.30〜2.00%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、Cr:0.10〜1.60%、V:0.10%超〜1.00%、Al:0.010〜0.500%、N:0.015%以下、Mo:0〜1.00%、Cu:0〜1.00%、Ni:0〜3.00%、Ti:0〜0.100%、及び、Nb:0〜0.100%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、式(1)で定義されるMsが100〜220であり、式(2)で定義されるNfが0.5以下である化学組成を有する。
Ms=539−423C−30Mn−11Si−12Cr−7Mo−18Ni−18Cu (1)
Nf=(N/14)/(Al/27+Ti/46+Nb/93) (2)
ここで、式(1)及び式(2)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本発明による軸受部品は、上記化学組成を有する。軸受部品の表面のビッカース硬さは、670Hv以上である。軸受部品の組織は、体積分率で5〜40%の残留オーステナイトを含有し、残部の相のうち、最大の体積分率を有する相が焼戻しマルテンサイトである。軸受部品の鋼中において、0.2〜2.0μmの円相当径を有する残留オーステナイト粒の数密度は10個/100μm以上である。軸受部品の鋼中においてさらに、150〜300nmの長径を有する炭化物の数密度は50個/100μm以上である。
本発明による軸受用鋼は、強度及び転動疲労寿命に優れる軸受部品が得られる。
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
本発明者らは、軸受部品の転動疲労寿命を高めるための残留オーステナイト量と、軸受部品の強度とについて調査及び検討を行い、次の知見を得た。
(A)残留オーステナイトについて
上述のとおり、軸受部品の転動疲労寿命を高めるには、軸受部品の残留オーステナイト量を高めることが有効である。しかしながら、残留オーステナイト量が高すぎれば、鋼の強度が低下する。残留オーステナイト量が高すぎればさらに、残留オーステナイト粒が粗大になる。軸受として使用する環境下において、粗大な残留オーステナイトは応力によりマルテンサイトに変態しやすい。この場合、軸受部品の転動疲労寿命が低下する。
そこで本発明者らは、残留オーステナイトの量と粒径とについて検討を行った。その結果、次の知見を得た。
(a)軸受用鋼の化学組成を調整し、式(1)で定義されるMsを調整すれば、焼入れ後の残留オーステナイト量を制御できる。
Ms=539−423C−30Mn−11Si−12Cr−7Mo−18Ni−18Cu (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。また、対応する元素が含有されていない場合、その元素記号には「0」が代入される。
Msはマルテンサイト変態開始温度(℃)を示す。Msが100℃未満であれば、焼入れ時のマルテンサイト変態の開始が遅すぎる。そのため、焼入れ後の残留オーステナイト量が多すぎる。一方、Msが220℃を超えれば、焼入れ時のマルテンサイト変態の開始が早すぎる。そのため、焼入れ後の残留オーステナイト量が少なすぎる。Msが100〜220℃であれば、焼入れ後において、適切な量の残留オーステナイトが得られる。
(b)焼戻し後の残留オーステナイトの結晶粒(以下、「残留オーステナイト粒」ともいう)の粒径は、高温で焼戻しを実施することにより、微細化できる。しかしながら、200℃以上で焼戻しを実施すると、残留オーステナイトは焼戻しマルテンサイトへと変態する。この場合、転動疲労特性が低下してしまう。
そこで、本発明者らは、焼戻し温度と焼戻し後の残留オーステナイト量とについて検討を行った。その結果、シリコン(Si)含有量を高めることで、焼戻し温度を高めて250〜400℃としても残留オーステナイトの減少を抑制でき、さらに、微細な残留オーステナイト粒を鋼中に分散させられることを、本発明者らは知見した。Si含有量を高めることによって微細な残留オーステナイトが生成する機構について、本発明者らは、マルテンサイト中の過飽和の炭素(C)が残留オーステナイトに拡散し、局所的にマルテンサイトへの変態開始温度が低下するためと考えている。
以上の知見に基づいてさらに検討した結果、軸受用鋼のSi含有量を、質量%で0.75%以上とすれば、適量の残留オーステナイト量及び適量の微細残留オーステナイト粒が得られる。
(B)軸受部品の強度について
上述のとおり、Si含有量を高め、焼戻しを250〜400℃の高温で実施することにより、残留オーステナイトが鋼中に微細に分散する。しかしながら、残留オーステナイトは、焼戻しマルテンサイトと比較して強度が低い。そのため、軸受部品の強度が低下し、軸受部品の転動疲労強度が低下する。
そこで、本発明者らは、高温焼戻し時の軸受部品の高強度化についてさらに検討を行った。通常、高温焼戻しは、鋼の強度を低下する。その結果、転動疲労強度も低下する。しかしながら、一定の条件下で高温焼戻しを実施することで、鋼の強度が高まる場合があることを、本発明者らは知見した。具体的には、一定の条件下では、高温焼戻しによってバナジウム(V)及びクロム(Cr)の複合炭化物(以下、単に「複合炭化物」ともいう)が析出し、軸受部品の強度が高まる。なお、本発明の軸受用鋼において、L断面において、150〜300nmの長径を有する炭化物は、複合炭化物に相当する。
高温焼戻しによって複合炭化物を析出させるためには、V及びCrの含有量を高くすることが有効である。V炭化物の析出温度は400℃を超える。すなわち、250〜400℃における焼戻しでは、V炭化物は析出しにくい。一方、VとともにCrが含有される場合、鋼中に複合炭化物が析出する。この複合炭化物の析出温度は、250〜400℃程度である。そのため、焼戻し温度が250〜400℃であっても、高強度化に寄与する複合炭化物が析出する。したがって、複合炭化物を析出させるため、軸受用鋼のV含有量は、質量%で0.10%超〜1.60%とし、さらに軸受用鋼のCr含有量は、質量%で0.10%以上とする。
軸受部品の複合炭化物の析出量を高めるためには、焼戻しを実施するまでに、鋼中の固溶V量を高めることが有効である。そこで、本発明者らは焼入れ工程の加熱処理に着目し、固溶V量を高める手法について検討した。その結果、本発明者らは、次の知見を得た。
(a)固溶V量を高めるためには、焼入れ温度を高めることが有効である。焼入れ温度が低ければ、Vが鋼中に十分固溶しにくい。その結果、軸受部品の複合炭化物の析出量が低下する。
(b)固溶V量を高めるためには、軸受用鋼の固溶窒素(N)量を低減させることが有効である。Vは、CよりもNとの親和力が高い。したがって、Vは、炭化物と比較して窒化物や炭窒化物を形成しやすい。V窒化物及びV炭窒化物は熱的に安定であり、焼入れ及び焼戻しによって固溶せず、残存する。すなわち、焼入れ時において鋼の固溶N量が多い場合、固溶V量が低下する。そのため、複合炭化物の析出量が低下する。
そこで、本発明者らは、軸受用鋼の固溶N量を低減する手法について検討した。その結果、Vと比較して窒化物を形成しやすいアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、及びニオブ(Nb)の含有量を調整すれば、軸受用鋼の固溶N量を低減できることを見出した。具体的には、軸受用鋼の化学組成を調整し、次の式(2)で定義されるNfを調整すれば、固溶N量を低減できる。
Nf=(N/14)/(Al/27+Ti/46+Nb/93) (2)
ここで、式(2)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。また、対応する元素が含有されていない場合、その元素記号には「0」が代入される。
Nfは窒化物を形成しやすいAl、Ti、及びNbに対するNの物質量比である。Nfが0.5以下であれば、Al、Ti、又はNbによって、鋼中のNの一部は窒化物として固定されるため、軸受用鋼の固溶N量が低減する。その結果、軸受部品の複合炭化物の析出量が高まり、軸受部品の強度が高まる。一方、Nfが0.5を超えれば、軸受用鋼の固溶N量が十分低減されない。そのため、V窒化物及びV炭窒化物が生成する。その結果、軸受部品の複合炭化物の析出量が低下し、軸受部品の強度が低下する。したがって、Nfは0.5以下である。
以上の知見に基づいて完成した本発明による軸受用鋼は、質量%で、C:0.40〜1.00%、Si:0.75〜3.00%、Mn:0.30〜2.00%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、Cr:0.10〜1.60%、V:0.10%超〜1.00%、Al:0.010〜0.500%、N:0.015%以下、Mo:0〜1.00%、Cu:0〜1.00%、Ni:0〜3.00%、Ti:0〜0.100%、及び、Nb:0〜0.100%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、式(1)で定義されるMsが100〜220であり、式(2)で定義されるNfが0.5以下である化学組成を有する。
Ms=539−423C−30Mn−11Si−12Cr−7Mo−18Ni−18Cu (1)
Nf=(N/14)/(Al/27+Ti/46+Nb/93) (2)
ここで、式(1)及び式(2)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
上記化学組成は、Mo:0.10〜1.00%、Cu:0.10〜1.00%、及び、Ni:0.10〜3.00%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
上記化学組成は、Ti:0.010〜0.100%、及び、Nb:0.010〜0.100%からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
本発明による軸受部品は、上記化学組成を有する。軸受部品の表面のビッカース硬さは、670Hv以上である。軸受部品の組織は、体積分率で5〜40%の残留オーステナイトを含有し、残部の相のうち、最大の体積分率を有する相が焼戻しマルテンサイトである。軸受部品の鋼中において、0.2〜2.0μmの円相当径を有する残留オーステナイト粒の数密度は10個/100μm以上である。軸受部品の鋼中においてさらに、150〜300nmの長径を有する炭化物の数密度は50個/100μm以上である。
以下、本発明の軸受用鋼及び軸受部品について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[軸受用鋼]
[化学組成]
本発明による軸受用鋼の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.40〜1.00%
炭素(C)は、鋼の強度を高める。Cはさらに、焼入れ後の残留オーステナイト量を高める。その結果、軸受部品の転動疲労寿命が高まる。C含有量が低すぎれば、これらの効果は得られない。一方、C含有量が高すぎれば、残留オーステナイト量が高くなりすぎ、鋼の強度が低下する。その結果、軸受部品の転動疲労寿命が低下する。したがって、C含有量は0.40〜1.00%である。C含有量の好ましい下限は0.50%であり、より好ましくは0.60%である。C含有量の好ましい上限は0.95%であり、より好ましくは0.90%である。
Si:0.75〜3.00%
シリコン(Si)は、鋼の強度を高める。Siはさらに、高温焼戻し時の残留オーステナイト量の減少を抑制し、残留オーステナイト粒を微細化する。その結果、軸受部品の転動疲労寿命が高まる。Siはさらに、鋼のセメンタイトの生成量を抑制し、複合炭化物の生成量を高める。その結果、鋼の強度が高まる。Si含有量が低すぎれば、これらの効果は得られない。一方、Si含有量が高すぎれば、鋼が脆化する。したがって、Si含有量は0.75〜3.00%である。Si含有量の好ましい下限は1.00%であり、より好ましくは1.20%である。Si含有量の好ましい上限は2.50%であり、より好ましくは2.30%である。
Mn:0.30〜2.00%
マンガン(Mn)は、鋼の焼入れ性を高める。Mnはさらに、焼入れ後の残留オーステナイト量を高める。その結果、軸受部品の転動疲労寿命が高まる。Mn含有量が低すぎれば、これらの効果は得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、焼入れ後の残留オーステナイト量が高くなりすぎ、鋼の強度が低下する。その結果、軸受部品の転動疲労寿命が低下する。したがって、Mn含有量は0.30〜2.00%である。Mn含有量の好ましい下限は0.45%であり、より好ましくは0.65%である。Mn含有量の好ましい上限は1.50%であり、より好ましくは1.20%である。
P:0.015%以下
燐(P)は不純物である。Pは鋼を脆化する。したがって、P含有量は0.015%以下である。P含有量の好ましい上限は0.012%であり、より好ましくは0.008%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。
S:0.015%以下
硫黄(S)は不純物である。Sは鋼を脆化する。したがって、S含有量は0.015%以下である。S含有量の好ましい上限は0.012%であり、より好ましくは0.008%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。
Cr:0.10〜1.60%
クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性を高める。Crはさらに、焼入れ後の残留オーステナイト量を高める。その結果、軸受部品の転動疲労寿命が高まる。Crはさらに、Vと複合炭化物を形成し、鋼の強度を高める。Cr含有量が低すぎれば、これらの効果は得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、焼入れ時に固溶しない粗大な析出物が生成する。そのため、軸受部品の転動疲労寿命が低下する。したがって、Cr含有量は0.10〜1.60%である。Cr含有量の好ましい下限は0.40%であり、より好ましくは0.60%である。Cr含有量の好ましい上限は1.40%であり、より好ましくは1.20%である。
V:0.10%超〜1.00%
バナジウム(V)は鋼の焼入れ性を高める。Vはさらに、焼入れ後の残留オーステナイト量を高める。その結果、軸受部品の転動疲労寿命が高まる。Vはさらに、Crと複合炭化物を形成し、鋼の強度を高める。V含有量が低すぎれば、これらの効果は得られない。一方、V含有量が高すぎれば、焼入れ時に固溶しない粗大な析出物が生成する。そのため、軸受部品の転動疲労寿命が低下する。したがって、V含有量は0.10%超〜1.00%である。V含有量の好ましい下限は0.14%であり、より好ましくは0.20%である。V含有量の好ましい上限は0.60%であり、より好ましくは0.40%である。
Al:0.010〜0.500%
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Alはさらに、鋼中の窒素(N)と結合してAlNを形成する。そのため、鋼中の固溶N量が低下し、複合炭化物が形成されやすくなる。その結果、鋼の強度が高まり、軸受部品の転動疲労強度が高まる。Al含有量が低すぎれば、これらの効果は得られない。一方、Al含有量が高すぎれば、粗大な酸化物系介在物が形成され、鋼が脆化する。したがって、Al含有量は0.010〜0.500%である。Al含有量の好ましい下限は0.015%であり、より好ましくは0.018%である。Al含有量の好ましい上限は0.10%であり、より好ましくは0.05%である。本明細書にいう「Al」含有量は「酸可溶Al」、つまり、「sol.Al」の含有量を意味する。
N:0.015%以下
窒素(N)は不可避に含有される。NはAlやVと結合して鋼中で窒化物や炭窒化物を形成する。V窒化物及びV炭窒化物は熱的に安定であり、焼入れ時にオーステナイト中に固溶しにくい。そのため、V窒化物及びV炭窒化物は複合炭化物の形成を阻害する。その結果、鋼の強度が低下し、軸受部品の転動疲労寿命が低下する。したがって、N含有量は、0.015%以下である。N含有量の好ましい上限は0.0080%であり、より好ましくは0.0060%である。N含有量はなるべく低いほうが好ましい。
本発明による軸受用鋼の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、軸受用鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本発明の軸受用鋼に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素について]
上述の軸受用鋼の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Mo、Cu、及び、Niからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素である。これらの元素はいずれも、鋼の焼入れ性を高め、焼入れ後の残留オーステナイト量を高める。
Mo:0〜1.00%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Moは鋼の焼入れ性を高める。Moはさらに、焼入れ後の残留オーステナイト量を高める。その結果、軸受部品の転動疲労寿命が高まる。Moが少しでも含有されれば、これらの効果はある程度得られる。一方、Mo含有量が高すぎれば、焼入れ後の残留オーステナイト量が高くなりすぎ、鋼の強度が低下する。その結果、軸受部品の転動疲労強度が低下する。したがって、Mo含有量は0〜1.00%である。Mo含有量の好ましい下限は0.10%であり、より好ましくは0.20%である。Mo含有量の好ましい上限は0.80%であり、より好ましくは0.60%である。
Cu:0〜1.00%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Cuは鋼の焼入れ性を高める。Cuはさらに、焼入れ後の残留オーステナイト量を高める。その結果、軸受部品の転動疲労寿命が高まる。Cuが少しでも含有されれば、これらの効果はある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、焼入れ後の残留オーステナイト量が高くなりすぎ、鋼の強度が低下する。その結果、軸受部品の転動疲労強度が低下する。したがって、Cu含有量は0〜1.00%である。Cu含有量の好ましい下限は0.10%であり、より好ましくは0.20%である。Cu含有量の好ましい上限は0.80%であり、より好ましくは0.60%である。
Ni:0〜3.00%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Niは鋼の焼入れ性を高める。Niはさらに、焼入れ後の残留オーステナイト量を高める。その結果、軸受部品の転動疲労寿命が高まる。Niが少しでも含有されれば、これらの効果はある程度得られる。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、焼入れ後の残留オーステナイト量が高くなりすぎ、鋼の強度が低下する。その結果、軸受部品の転動疲労強度が低下する。したがって、Ni含有量は0〜3.00%である。Ni含有量の好ましい下限は0.10%であり、より好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.40%である。Ni含有量の好ましい上限は2.40%であり、より好ましくは1.60%である。
上述の軸受用鋼の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ti、及び、Nbからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、オーステナイト結晶粒を微細化し、鋼の強度を高める。
Ti:0〜0.100%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Tiはピンニング効果によってオーステナイト結晶粒を微細化し、鋼の強度を高める。その結果、軸受部品の転動疲労寿命を高める。Tiはさらに、鋼中のNと結合し、TiNを形成する。そのため、複合炭化物の生成量が高まる。その結果、鋼の強度が高まり、軸受部品の転動疲労寿命が高まる。Tiが少しでも含有されれば、これらの効果はある程度得られる。しかしながら、Ti含有量が高すぎれば、鋼が脆化する。したがって、Ti含有量は0〜0.100%である。Ti含有量の好ましい下限は0.010%であり、より好ましくは0.030%である。Ti含有量の好ましい上限は0.070%であり、より好ましくは0.050%である。
Nb:0〜0.100%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Nbはピンニング効果によってオーステナイト結晶粒を微細化し、鋼の強度を高める。その結果、軸受部品の転動疲労寿命が高まる。Nbはさらに、鋼中のNと結合し、NbNを形成する。そのため、複合炭化物の生成量が高まる。その結果、鋼の強度が高まり、軸受部品の転動疲労寿命が高まる。Nbが少しでも含有されれば、これらの効果はある程度得られる。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、鋼が脆化する。したがって、Nb含有量は0〜0.100%である。Nb含有量の好ましい下限は0.010%であり、より好ましくは0.030%である。Nb含有量の好ましい上限は0.070%であり、より好ましくは0.050%である。
[Msについて]
本発明の軸受用鋼の化学組成はさらに、式(1)で定義されるMsが100〜220である。
Ms=539−423C−30Mn−11Si−12Cr−7Mo−18Ni−18Cu (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。また、対応する元素が含有されていない場合、その元素記号には「0」が代入される。
Msは、マルテンサイト変態開始温度(℃)を示す。Msが低すぎれば、焼入れ時のマルテンサイト変態の開始が遅すぎる。そのため、焼入れ後の鋼中において、残留オーステナイト量が多すぎ、鋼の強度が低下する。その結果、軸受部品の転動疲労強度が低下する。残留オーステナイト量が多すぎればさらに、残留オーステナイトが粗大になる。粗大な残留オーステナイトは、軸受部品の使用環境下では、応力によってマルテンサイトに変態しやすい。そのため、軸受部品の転動疲労寿命が低下する。
一方、Msが高すぎれば、焼入れ時のマルテンサイト変態の開始が早すぎる。そのため、焼入れ後の残留オーステナイト量が少なすぎる。その結果、軸受部品の転動疲労寿命が低下する。したがって、Msは100〜220である。Msの好ましい下限は120であり、より好ましくは140である。Msの好ましい上限は200であり、より好ましくは180である。
[Nfについて]
本発明の軸受用鋼の化学組成はさらに、式(2)で定義されるNfが0.5以下である。
Nf=(N/14)/(Al/27+Ti/46+Nb/93) (2)
ここで、式(2)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。また、対応する元素が含有されていない場合、その元素記号には「0」が代入される。
Nfは窒化物を形成しやすいAl、Ti、及びNbに対するNの物質量比である。Nfが0.5以下であれば、Al、Ti、又はNbによって、鋼中のNは窒化物として固定される。そのため、V窒化物及びV炭窒化物はほとんど形成されず、軸受部品の複合炭化物の生成量が高まる。その結果、鋼の強度が高まり、軸受部品の転動疲労寿命が高まる。一方、Nfが0.5を超えれば、鋼中のNは窒化物として固定されておらず、V窒化物及びV炭窒化物が生成し、軸受部品の複合炭化物の生成量が低下する。その結果、鋼の強度が低下し、軸受部品の転動疲労寿命が低下する。したがって、Nfは0.5以下である。Nfの好ましい上限は0.4である。Nfはなるべく低いほうが好ましい。
[製造方法]
上述の軸受用鋼、及び、軸受部品の製造方法の一例を説明する。
[軸受用鋼の製造方法]
本発明による軸受用鋼の製造方法は、鋳造工程と、熱間加工工程とを備える。
[鋳造工程]
鋳造工程では、上述の化学組成を有し、かつ、Msが100〜220、及びNfが0.5以下となる溶鋼を周知の方法で製造する。製造された溶鋼を用いて、連続鋳造法により鋳片(スラブ又はブルーム)にする。製造された溶鋼を用いて、造塊法により鋼塊(インゴット)にしてもよい。
[熱間加工工程]
熱間加工工程では、上記鋳造工程で製造された鋳片又は鋼塊に対して、1又は複数回の熱間加工を実施して棒鋼、線材、又は所望の形状の軸受用鋼材を製造する。熱間加工はたとえば熱間圧延である。複数回の熱間加工を実施する場合、たとえば、粗圧延と仕上げ圧延とを実施する。粗圧延ではたとえば、分塊圧延により鋳片又は鋼塊を鋼片(ビレット)にする。仕上げ圧延ではたとえば、複数の圧延スタンドが一列に並んだ連続圧延機を用いる。各圧延スタンドには、複数の圧延ロールが配置される。各圧延ロールには孔型が形成されている。連続圧延機を用いてビレットを熱間圧延し、棒鋼又は線材等の軸受用鋼材に製造する。上述の説明では熱間加工の一例として熱間圧延を説明した。しかしながら、熱間加工として、熱間鍛伸により棒鋼又は線材の軸受用鋼材を製造してもよい。
製造された軸受用鋼材に対して、必要に応じて、焼準処理(ノルマ処理)や球状化焼鈍処理を実施してもよい。以上の工程により、軸受用鋼が製造される。
[軸受部品]
本発明による軸受部品は、上記の軸受用鋼を用いて製造される。以下、本発明の軸受部品について説明する。
[軸受部品の製造方法]
本発明の軸受部品の製造方法は、中間品成形工程と、焼入れ工程と、焼戻し工程とを備える。
[中間品成形工程]
初めに、軸受用鋼材を用いて中間品を成形する。たとえば、軸受用鋼材に対して熱間鍛造を実施して、粗形状の中間品を製造する。さらに、中間品に対して機械加工を実施して、中間品を所定の形状にする。機械加工はたとえば、切削や穿孔である。
[焼入れ工程]
成形された中間品に対し、焼入れ処理を実施する。焼入れ処理の加熱温度は、900℃以上である。焼入れ処理の加熱温度が900℃以上であれば、V及びCrの固溶量が高まる。その結果、複合炭化物の析出量が高まり、鋼の強度が高まる。好ましい焼入れ処理の加熱温度は930℃以上である。続いて急冷し、焼入れ処理を実施する。焼入れ処理は、たとえば油冷である。焼入れ処理は、水冷であってもよい。
[焼戻し工程]
焼入れ後の中間品に対し、焼戻し処理を行う。焼戻し処理の加熱温度は、250〜400℃である。通常よりも高い温度で焼戻すことにより、複合炭化物の析出量が高まり、軸受部品の強度が高まる。高温で焼戻すことによりさらに、残留オーステナイト粒を微細化することができる。焼戻し処理の加熱温度が250℃未満であれば、これらの効果は得られない。一方、焼戻し処理の加熱温度が400℃を超えれば、残留オーステナイトが焼戻しマルテンサイトへと変態する。この場合、軸受部品の転動疲労強度が低下する。したがって、焼戻し処理の加熱温度は250〜400℃である。好ましい焼戻し処理の加熱温度の下限は280℃である。好ましい焼戻し処理の加熱温度の上限は360℃である。
以上の工程により、軸受部品が製造される。本発明の軸受用鋼を用いて製造された軸受部品は、転動疲労寿命に優れる。
[軸受部品の硬さについて]
本発明の軸受部品の表面のビッカース硬さは、670Hv以上である。軸受部品には高い荷重が負荷される。そのため、軸受部品には高い強度が要求される。したがって、本発明の軸受部品のビッカース硬さは、670Hv以上である。軸受部品のビッカース硬さは、焼戻し温度によって調整できる。好ましいビッカース硬さの下限は700Hvである。好ましいビッカース硬さの上限は800Hvであり、より好ましくは750Hvである。
ビッカース硬さは、次の方法で測定できる。軸受部品の表面の任意の箇所から試験片を採取する。採取された試験片に対して、JIS Z 2244(2009)に準拠したビッカース硬さ試験を5回実施する。試験力は98.07Nとする。得られたビッカース硬さの平均を、軸受部品のビッカース硬さ(Hv)と定義する。
[軸受部品のミクロ組織について]
本発明の軸受部品のミクロ組織は、体積分率で5.0〜40%の残留オーステナイトを含む。残部の相のうち最も体積分率の多い相は焼戻しマルテンサイトである。さらに、ミクロ組織において、0.2〜2.0μmの円相当径を有する残留オーステナイト粒の数密度は10個/100μm以上である。円相当径とは、各残留オーステナイト粒の面積を、同じ面積を有する円に換算した場合の円の直径を意味する。
[残留オーステナイト体積分率について]
上述のとおり、残留オーステナイトは、軸受の転動疲労寿命を高める。残留オーステナイトは、焼入れ直後の鋼に最も多く含まれる。焼入れ直後の残留オーステナイト量はMsによって決定される。その後、焼戻しによって一部が焼戻しマルテンサイトへと変態する。
本発明ではSi含有量を高め、焼戻し時の残留オーステナイト量の低下を抑制する。軸受部品中の残留オーステナイトの体積分率が5%未満であれば、軸受部品の転動疲労寿命を高める効果は得られない。一方、軸受部品中の残留オーステナイトの体積分率が40%を超えれば、軸受部品の強度が低下し、軸受部品の転動疲労寿命が低下する。したがって、軸受部品中の残留オーステナイトの体積分率は、5〜40%である。残留オーステナイトの体積分率の好ましい下限は8.0%である。残留オーステナイトの体積分率の好ましい上限は30%である。
残留オーステナイトの体積分率は、以下の方法で測定される。軸受部品のL断面(圧延方向及び圧下方向に平行な断面)に対して鏡面研磨を実施する。鏡面研磨された表面にX線を照射し、BCC相とFCC相の回折ピークの強度差から残留オーステナイト量を算出する。具体的には、2ピーク法により、CrKα線を用いたθ/2θ法によるXRD(X線回折)測定を実施する。そして、BCCの(211)ピークと、FCCの(220)ピークの測定強度比と理論強度比とに基づいて残留オーステナイト体積分率(%)を算出する。
本発明の軸受部品のミクロ組織の残部の相のうち、最大の体積分率を有する相は、焼戻しマルテンサイトである。より具体的には、ミクロ組織の残部のうち、体積分率で70%以上は焼戻しマルテンサイトからなる。焼戻しマルテンサイトは、焼入れマルテンサイトと比較して、靭性が高い。そのため、軸受として使用時に、割れや欠けを防ぐことができる。そのため、本発明のミクロ組織の残部は、焼戻しマルテンサイトを主体とする。
焼戻しマルテンサイトの体積分率は、以下の方法で測定される。軸受部品のL断面(圧延方向及び圧下方向に平行な断面)に対して鏡面研磨を実施する。鏡面研磨された表面を、3%ナイタール(3%硝酸−エタノール溶液)で腐食し、ミクロ組織を現出させる。500倍の光学顕微鏡で5視野観察(撮影)し、各視野のミクロ組織画像を生成する。生成されたミクロ組織画像から、コントラスト差に基づき、残留オーステナイト、焼戻しマルテンサイト、その他の相を特定する。特定後、焼戻しマルテンサイトの面積を求め、各視野の面積から、焼戻しマルテンサイトの面積率を求める。各視野の焼戻しマルテンサイトの面積率の平均を、焼戻しマルテンサイトの体積分率(%)と定義する。
[微細残留オーステナイト粒の数密度について]
上述のとおり、微細に分散した残留オーステナイト粒は、応力によってマルテンサイトに変態しにくい。しかしながら、円相当径が2.0μmを超える残留オーステナイト粒は、応力誘起変態により容易にマルテンサイトに変態する。そのため、軸受部品として使用中、徐々に残留オーステナイトが減少し、転動疲労寿命が低下する。したがって、円相当径2.0μm以下の残留オーステナイトであれば、軸受部品の転動疲労寿命を高めることができる。なお、円相当径2.0μm以下の残留オーステナイト粒は、円相当径0.2μm以上であれば、客観的に計数できる。そこで、円相当径0.2〜2.0μmの残留オーステナイトを、本願発明の対象とする。
さらに、0.2〜2.0μmの円相当径を有する微細残留オーステナイト粒が鋼中に多数分散していれば、軸受部品の転動疲労寿命を高めることができる。0.2〜2.0μmの円相当径を有する残留オーステナイト粒の数密度が10個/100μm未満であれば、この効果は得られない。したがって、0.2〜2.0μmの円相当径を有する残留オーステナイト粒の数密度は10個/100μm以上である。転動疲労寿命をさらに高めるための、0.2〜2.0μmの円相当径を有する残留オーステナイト粒の数密度の好ましい下限は25個/100μmである。なお、残留オーステナイトの体積分率が40%を超えなければ、残留オーステナイト粒の数密度は高い方が望ましい。
0.2〜2.0μmの円相当径を有する残留オーステナイト粒の数密度は、以下の方法で測定される。上述の方法でミクロ組織を現出させた軸受部品について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する。具体的には、試験片の表面から任意の100μmの視野を10視野観察(撮影)し、各視野のSEM画像を生成する。生成されたSEM画像を画像処理(二値化処理)して、0.2〜2.0μmの円相当径を有する残留オーステナイト組織を特定する。各視野で求めた数密度の平均を求め、0.2〜2.0μmの円相当径を有する残留オーステナイト粒の数密度(個/100μm)と定義する。
[複合炭化物について]
本発明の軸受部品は、鋼中において、150〜300nmの長径を有する炭化物の数密度が50個/100μm以上である。本発明の軸受部品の鋼中には、炭化物として、V及びCrの複合炭化物と、セメンタイトと、その他炭化物とが含まれる。複合炭化物の長径は300nm以下である。一方、セメンタイトの長径は300nmを超える。さらに、その他炭化物の長径は150nm未満である。ところで、後述のSEM観察では、長径が150nm以上の炭化物を確実に確認できる。したがって、SEM観察で確認可能な150〜300nmの長径を有する炭化物は、複合炭化物を意味する。そこで、本発明では、150〜300nmの長径を有する炭化物の数密度を鋼の強度の指標とする。具体的には、鋼中に長径150〜300nmの炭化物の数密度が50個/100μm以上であれば、鋼中に複合炭化物が十分に析出しているため、鋼の強度を高めることができる。
長径150〜300nmの炭化物が50個/100μm未満であれば、軸受部品の強度が不十分である。したがって、本発明の軸受部品は、鋼中において、長径150〜300nmの炭化物の数密度が50個/100μm以上である。好ましい炭化物の数密度は70個/100μmである。
炭化物の数密度は、次の方法で測定される。上述のSEM画像(L断面のSEM画像)において、炭化物は焼戻しマルテンサイト母相とコントラストが異なるため、区別可能である。長径が150〜300nmの炭化物について、各視野で求めた数密度の平均を求め、長径150〜300nmの炭化物の数密度(個/100μm)と定義する。なお、長径は、炭化物の母相との界面の任意の2点を結ぶ直線のうち、最大の直線で定義される。
表1に示す化学組成を有する160kgの溶鋼を真空溶解で溶製し、インゴットを製造した。
表1を参照して、試験番号1〜18の化学組成は適切であり、Msは100〜220を満たし、Nfは0.50以下を満たした。一方、試験番号19〜27は、化学組成が不適切であるか、Msが100〜220を満たさないか、又は、Nfが0.50を超えた。
各試験番号のインゴットに対して熱間鍛造を実施して、直径70mmの丸棒(軸受用鋼材)を製造した。
製造した丸棒を1250℃で2時間保持する均熱処理を実施した。均熱処理後の鋼材を1000℃で30分保持し、その後徐冷するノルマ処理を実施した。
[擬似軸受部品(森式スラスト転動疲労試験片)の製造]
ノルマ処理後の丸棒を機械加工して、直径58mmのリング状の森式スラスト転動疲労試験片の粗形状の中間品を作製した。
作製された中間品に対して焼入れ及び焼戻しを実施した。具体的には、中間品を950℃で30分加熱し、その後60℃の油で焼入れを実施した。さらに、焼入れ後の中間品を250〜400℃で30分加熱し、表面のビッカース硬さが700±30Hvになるように、焼戻し処理を実施した。焼戻し処理後の中間品に対して研削加工及び研磨加工を実施して、軸受部品を模擬した、直径58mmのリング状の森式スラスト転動疲労試験片を作製した。
[評価試験]
森式スラスト転動疲労試験片に対して、次のミクロ組織観察、及び転動疲労試験を実施した。
[ミクロ組織観察]
ミクロ組織観察は、次の方法で実施した。各試験番号の転動疲労試験片に対し、上述のXRD2ピーク法を用いて残留オーステナイトの体積分率(%)を測定した。続いて上述の方法で、SEM観察を用いて各残留オーステナイト粒の円相当径(μm)を測定した。さらに、円相当径0.2〜2.0μmの残留オーステナイト粒を特定し、数密度(個/100μm)を測定した。これらの結果を表2に示す。
[炭化物の数密度測定]
上述の方法で、SEM観察を用いて炭化物の長径(nm)を測定した。さらに、長径150〜300nmの炭化物を特定し、数密度(個/100μm)を測定した。この結果を表2に示す。
[転動疲労試験]
転動疲労試験は、次の方法で実施した。各試験番号の転動疲労試験片と、上レースとしての呼び番号#51305のスラスト軸受レースと、鋼球3球とを組み合わせて、転動疲労試験を実施した。具体的には、試験荷重を400kgf、最大面圧を5.23GPa、回転数を1200rpm、潤滑油をクリセフH8に浸漬した状態で、耐久回数を200×10とした試験を10回繰返した。ワイブルプロットから転動疲労寿命L10(×10cycles)を求めた。この結果を表2に示す。
[評価結果]
表1、2を参照して、試験番号1〜18の化学組成は適切であり、Msは100〜220を満たし、Nfは0.50以下を満たした。そのため、残留オーステナイトの体積分率(%)、残留オーステナイトの数密度(個/100μm)、及び、炭化物の数密度(個/100μm)は本願発明の範囲内であった。その結果、転動疲労寿命L10(×10cycles)は50以上となり、優れた転動疲労寿命を示した。
一方、試験番号19のSi含有量は低すぎた。そのため、残留オーステナイトの体積分率が低すぎた。残留オーステナイトの数密度が低すぎた。さらに、炭化物の数密度が低すぎた。その結果、転動疲労寿命が低かった。
試験番号20のMsは高すぎた。そのため、残留オーステナイトの体積分率が低すぎた。さらに、残留オーステナイトの数密度が低すぎた。その結果、転動疲労寿命が低かった。
試験番号21のMsは低すぎた。そのため、残留オーステナイトの体積分率が高すぎた。その結果、転動疲労寿命が低かった。
試験番号22のCr含有量は低すぎた。そのため、炭化物の数密度が低すぎた。その結果、転動疲労寿命が低かった。
試験番号23のCr含有量は高すぎた。その結果、転動疲労寿命が低かった。
試験番号24のV含有量は低すぎた。そのため、炭化物の数密度が低すぎた。その結果、転動疲労寿命が低かった。
試験番号25のV含有量は高すぎた。その結果、転動疲労寿命が低かった。
試験番号26のAl含有量は低すぎた。さらに、Nfは高すぎた。そのため、炭化物の数密度が低すぎた。その結果、転動疲労寿命が低かった。
試験番号27のNfは高すぎた。そのため、炭化物の数密度が低すぎた。その結果、転動疲労寿命が低かった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で、上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
本発明による軸受用鋼は、軸受部材用の鋼として広く適用可能であり、特に、転がり軸受部材用の鋼として適式である。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.40〜1.00%、
    Si:0.75〜3.00%、
    Mn:0.30〜2.00%、
    P:0.015%以下、
    S:0.015%以下、
    Cr:0.10〜1.20%、
    V:0.10%超〜1.00%、
    Al:0.010〜0.500%、
    N:0.015%以下、
    Mo:0〜1.00%、
    Cu:0〜1.00%、
    Ni:0〜3.00%、
    Ti:0〜0.100%、及び、
    Nb:0〜0.100%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
    式(1)で定義されるMsが100〜220であり、
    式(2)で定義されるNfが0.5以下である化学組成を有する、軸受用鋼。
    Ms=539−423C−30Mn−11Si−12Cr−7Mo−18Ni−18Cu (1)
    Nf=(N/14)/(Al/27+Ti/46+Nb/93) (2)
    ここで、式(1)及び式(2)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. 請求項1に記載の軸受用鋼であって、
    前記化学組成は、
    Mo:0.10〜1.00%、
    Cu:0.10〜1.00%、及び、
    Ni:0.10〜3.00%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、軸受用鋼。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の軸受用鋼であって、
    前記化学組成は、
    Ti:0.010〜0.100%、及び、
    Nb:0.010〜0.100%からなる群から選択される1種以上を含有する、軸受用鋼。
  4. 軸受部品であって、
    請求項1〜3のいずれか1項に記載の化学組成を有し、
    前記軸受部品の表面のビッカース硬さが670Hv以上であり、
    前記軸受部品の組織は、体積分率で5〜40%の残留オーステナイトを含有し、残部の相のうち最大の体積分率を有する相は焼戻しマルテンサイトであり、
    0.2〜2.0μmの円相当径を有する前記残留オーステナイト粒の数密度が10個/100μm以上であり、
    150〜300nmの長径を有する炭化物の数密度が50個/100μm以上である、軸受部品。
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