JP6683075B2 - 浸炭用鋼、浸炭鋼部品及び浸炭鋼部品の製造方法 - Google Patents
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Description
λ∝(D×σ×ΔT)0.25 …(A)
ここで、λ:デンドライトの1次アーム間隔(μm)、D:拡散係数(m2/s)、σ
:固液界面エネルギー(J/m2)、ΔT:凝固温度範囲(℃)である。
C:0.07%〜0.13%、
Si:0.0001%〜0.500%、
Mn:0.0001%〜0.80%、
S:0.0050%〜0.1000%、
Cr:1.30%超〜5.00%、
B:0.0005%〜0.0100%、
Al:0.070%〜0.200%、
N:0.0030%〜0.0100%及び
Bi:0.0001%超〜0.0050%を含有し、
Sb:0.0001%〜0.0050%、Sn:0.0001%〜0.0050%及びTe:0.0001%〜0.0050%のうちの1種または2種以上を含有し、
更に、Ti、P及びOがそれぞれ、
Ti:0.020%以下、
P:0.050%以下、
O:0.0030%以下であり、
残部がFe及び不純物からなり、
前記化学成分中の各元素の質量%で示した含有量が、焼入れ性指標として式(1)を満たすとともに、AlN析出指標として式(2)を満たし、
鋼材の圧延方向と平行な断面において、円相当径が2μm未満である硫化物の存在密度が300個/mm2以上であり、前記硫化物間の平均距離が30.0μm未満であることを特徴とする浸炭用鋼。
7.5<(0.7×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.16×Cr+1)<44.0 ・・・(1)
0.0003<Al×(N−Ti×(14/48))<0.0011 ・・・(2)
[2] 更に質量%で、
Nb:0.0020%〜0.1000%、
V:0.002%〜0.20%、
Mo:0.005%〜0.500%、
Ni:0.005%〜1.000%、
Cu:0.005%〜0.500%、
Ca:0.0002%〜0.0030%、
Mg:0.0002%〜0.0030%、
Zr:0.0002%〜0.0050%、
Rare Earth Metal:0.0002%〜0.0050%、
のうちの少なくとも1種または2種以上の元素を含有し、
前記化学成分中の各元素の質量%で示した含有量が、焼入れ性指標として前記式(1)に代わって式(3)を満たすことを特徴とする[1]記載の浸炭用鋼。
7.5<(0.7×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.16×Cr+1)×(3×Mo+1)×(0.3633×Ni+1)<44.0・・・(3)
[3] 鋼部と、鋼部の外面に生成した厚さ0.4mm超2mm未満の浸炭層とを備える浸炭鋼部品であって、
部品表面から深さ50μmの位置での前記浸炭層のビッカース硬さがHV650以上HV1000以下であり、
前記表面から深さ2mmの位置での前記鋼部のビッカース硬さがHV250以上HV500以下であり、
前記鋼部は、質量%で、
C:0.07%〜0.13%、
Si:0.0001%〜0.500%、
Mn:0.0001%〜0.80%、
S:0.0050%〜0.1000%、
Cr:1.30%超〜5.00%、
B:0.0005%〜0.0100%、
Al:0.070%〜0.200%、
N:0.0030%〜0.0100%及び
Bi:0.0001%超〜0.0050%を含有し、
Sb:0.0001%〜0.0050%、Sn:0.0001%〜0.0050%及びTe:0.0001%〜0.0050%のうちの1種または2種以上を含有し、
更に、Ti、P及びOがそれぞれ、
Ti:0.020%以下、
P:0.050%以下、
O:0.0030%以下であり、
残部がFeおよび不純物からなり、
前記化学成分中の各元素の質量%で示した含有量が、焼入れ性指標として式(4)を満たすとともに、AlN析出指標として式(5)を満たし、
鋼材の圧延方向と平行な断面において、円相当径が2μm未満である硫化物の存在密度が300個/mm2以上であり、前記硫化物間の平均距離が30.0μm未満であることを特徴とする浸炭鋼部品。
7.5<(0.7×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.16×Cr+1)<44.0 ・・・(4)
0.0003<Al×(N−Ti×(14/48))<0.0011 ・・・(5)
[4] 前記鋼部が、更に質量%で、
Nb:0.0020%〜0.1000%、
V:0.002%〜0.20%、
Mo:0.005%〜0.500%、
Ni:0.005%〜1.000%、
Cu:0.005%〜0.500%、
Ca:0.0002%〜0.0030%、
Mg:0.0002%〜0.0030%、
Zr:0.0002%〜0.0050%、
Rare Earth Metal:0.0002%〜0.0050%、
のうちの少なくとも1種または2種以上の元素を含有し、
前記化学成分中の各元素の質量%で示した含有量が、焼入れ性指標として前記式(4)に代わって式(6)を満たすことを特徴とする[3]に記載の浸炭鋼部品。
7.5<(0.7×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.16×Cr+1)×(3×Mo+1)×(0.3633×Ni+1)<44.0・・・(6)
[5] [1]または[2]に記載の前記浸炭用鋼に、冷間塑性加工を施して形状を付与する冷間加工工程と、
前記冷間加工工程後の前記浸炭用鋼に、浸炭処理または浸炭窒化処理を施す浸炭工程とを有することを特徴とする[3]または[4]に記載の浸炭鋼部品の製造方法。
[6] 前記浸炭工程後に、焼入れ処理または焼入れ・焼戻し処理を施す仕上熱処理工程を有することを特徴とする[5]に記載の浸炭鋼部品の製造方法。
[7] 前記冷間加工工程後で前記浸炭工程前に、更に、切削加工を施して形状を付与する切削工程を有することを特徴とする[5]または[6]に記載の浸炭鋼部品の製造方法。
炭素(C)は、浸炭層と鋼部とを備える浸炭鋼部品における鋼部の硬さを確保するために添加する。従来の浸炭用鋼のC含有量は、0.2%程度であるが、本実施形態に係る浸炭用鋼、及び、浸炭鋼部品における鋼部では、C含有量を、この量よりも少ない0.13%に制限している。この理由は、C含有量が0.13%超では、鍛造前の浸炭用鋼の硬さが顕著に増加するとともに限界加工率も低下するためである。しかしながら、C含有量が0.07%未満では、焼入れ性を高める後述の合金元素を多量に添加して、できる限り硬さの増加を図ったとしても、浸炭鋼部品の鋼部の硬さを従来の浸炭用鋼のレベルにすることが不可能である。従って、C含有量を0.07%〜0.13%の範囲に制御する必要がある。好適範囲は0.08%〜0.12%である。更に望ましい範囲は、0.08%〜0.11%である。
シリコン(Si)は、浸炭鋼部品のような低温焼戻しマルテンサイト鋼の焼戻し軟化抵抗を顕著に増加させることで、歯面疲労強度を向上させる元素である。この効果を得るためには、Si含有量が0.0001%以上である必要がある。しかし、Si含有量が0.500%を超えると、鍛造前の浸炭用鋼の硬さが上昇し、変形抵抗が上昇し、そして、限界加工率が低下する。従って、Si含有量を0.0001%〜0.500%の範囲に制御する必要がある。この範囲内で、浸炭鋼部品の歯面疲労強度を重視する場合にはSiを積極的に添加し、浸炭用鋼の変形抵抗の低減や限界加工性の向上を重視する場合にはSiを積極的に低減する。前者の場合の好適範囲は0.100%〜0.500%であり、後者の場合の好適範囲は0.0001%〜0.200%である。
マンガン(Mn)は、鋼の焼入性を高める元素である。この効果によって浸炭熱処理後のマルテンサイト分率を高めるためには、Mn含有量が0.0001%以上である必要がある。しかし、Mn含有量が0.80%を超えると、鍛造前の浸炭用鋼の硬さが上昇し、変形抵抗が上昇し、そして、限界加工率が低下する。従って、Mn含有量を0.0001%〜0.80%の範囲に制御する必要がある。好適範囲は0.25%〜0.60%である。
硫黄(S)は、鋼中のMnと結合してMnSを形成し、被削性を向上させる元素である。S含有量が0.1000%を超えると、鍛造時にMnSが起点となって割れが生じ、限界加工率が低下することがある。従って、S含有量を0.0050%〜0.1000%の範囲に制御する必要がある。好適範囲は0.0080%〜0.0200%である。
クロム(Cr)は、鋼の焼入性を高める元素である。この効果によって浸炭熱処理後のマルテンサイト分率を高めるためには、Cr含有量が1.30%超である必要がある。しかし、Cr含有量が5.00%を超えると、鍛造前の浸炭用鋼の硬さが上昇し、変形抵抗が上昇し、そして、限界加工率が低下する。従って、Cr含有量を1.30%超〜5.00%の範囲に制御する必要がある。また、Crは、同様の効果を有するMn、Mo、Ni等の他の元素と比べて、浸炭用鋼の硬さを上昇させる程度が少なく、かつ焼入れ性を向上させる効果が比較的大きい。よって、本実施形態に係る浸炭用鋼、及び、浸炭鋼部品における鋼部では、従来の浸炭用鋼よりも、Crを多量に添加する。好適範囲は1.35%〜2.50%である。更に望ましい範囲は、1.50%超〜2.20%である。
ホウ素(B)は、オーステナイト中に固溶する場合、微量でも鋼の焼入性を大きく高める元素である。この効果によって浸炭熱処理後のマルテンサイト分率を高めることができる。また、Bは上記効果を得るために多量に添加する必要がないので、フェライトの硬さをほとんど上昇させない。つまり、鍛造前の浸炭用鋼の硬さをほとんど上昇させないという特徴があるため、本実施形態に係る浸炭用鋼、及び、浸炭鋼部品における鋼部ではBを積極的に利用する。B含有量が0.0005%未満では、上記の焼入れ性向上効果が得られない。一方、B含有量が0.0100%を超えると、上記効果が飽和する。従って、B含有量を0.0005%〜0.0100%の範囲に制御する必要がある。好適範囲は0.0010%〜0.0025%である。なお、鋼中に一定量以上のNが存在している場合、BがNと結合してBNを形成し、固溶B量が減少する。その結果、焼入性を高める効果が得られない場合がある。よって、Bを添加する場合には、Nを固定するTiを同時に適量添加することが必要である。
アルミニウム(Al)は脱酸作用を有すると同時に、Nと結合してAlNを形成しやすく、浸炭加熱時のオーステナイト粒粗大化防止に有効な元素である。Alを添加することで、BNの形成が抑制され、焼入れ性に寄与する固溶Bが確保される。しかし、Alの含有量が0.070%未満では、B添加による焼入れ性向上効果が得られない。一方、Alの含有量が0.200%を超えると、AlNの析出量が多くなりすぎ、浸炭用鋼や浸炭鋼部品の塑性加工性を低下させる。さらに、AlN析出物が微細分散せずに、個々のサイズが大きくなる。そのため、浸炭中の結晶粒粗大化を防止する効果が得られなくなる。したがって、Alの含有量を0.070〜0.200%とした。Al含有量の好ましい下限は0.075%以上であり、好ましい上限は0.150%以下である。
窒素(N)は不可避的に含有される不純物であり、BNを形成して、固溶B量を低減させる元素である。N含有量が0.0030%未満では、AlNの析出量が減少し、浸炭時の結晶粒粗大化を防止する効果が得られない。一方、N含有量が0.0100%を超えると、Alを添加したとしても、鋼中のNをAlNとして固定することができなくなり、焼入れ性に寄与する固溶Bを確保することができなくなる。また、粗大なTiNが形成されて、塑性加工時に破壊の起点となる。従って、N含有量を0.0030%〜0.0100%の範囲に制御する必要がある。好適範囲は0.0040%〜0.0090%である。
ビスマス(Bi)は、本発明において重要な元素である。微量のBiを含有することによって、鋼の凝固組織が微細化し、硫化物が微細分散する。硫化物微細化効果を得るには、Biの含有量を0.0001%超とする必要がある。しかし、Biの含有量が0.0050%を超えると、鋼の熱間加工性が劣化し、連続鋳造が困難となる。これらのことから、本発明では、Bi含有量を0.0001%超〜0.0050%とする。さらに、被削性向上および硫化物微細分散化効果を得るには、Bi含有量の下限を0.001%以上とすることが好ましい。
Sn:0.0001%〜0.0050%
Te:0.0001%〜0.0050%
本発明は上記の成分に加えて、アンチモン(Sb)、錫(Sn)、テルル(Te)のうちの1種または2種以上をそれぞれ0.0001%〜0.0050%の範囲内で添加することが特徴である。これらの元素は結晶粒界、もしくは母相と介在物との界面に偏析し、界面の結合力を低下させることにより、微量の添加でも切削時の変形抵抗を低下させる効果がある。本発明ではBiの添加により、被削性を向上させることができるが、Sb、SnまたはTeのうちの1種または2種以上の添加により、さらに被削性向上効果を発揮させることが可能となる。下限をそれぞれ0.0001%以上としたが、効果を十分に発揮させるための好ましい下限としてはそれぞれ0.0015%以上とする。また、上限については、それぞれ0.0050%を超えると、鋼の熱間加工性が劣化し、連続鋳造が困難となるので、上限をそれぞれ0.0050%以下とする。より好ましい上限は、それぞれ0.0030%以下とする。熱間加工性を向上させるために、更に好ましくは、Bi、Sb、SnおよびTeの含有量の合計が0.0015%〜0.0050%であればよい。
チタン(Ti)は、鋼中のNをTiNとして固定する効果を有する元素である。Tiが含有される場合、鋼中のNは、ほぼ全てがTiNとして固定される。しかし、Tiは高価な元素であるため、Tiを添加する場合、製造コストが高くなる。但し、電炉で製造される鋼のように、鋼中のN含有量を制御することが難しい場合、あえて適量のTiを添加することで、固溶N量を制御するために利用することができる。この場合も過剰にTiを添加すると、製造コストが高くなる。従って、上述の観点から、Ti含有量を0.020%以下に制限する必要がある。好適範囲は0.020%未満であり、更なる好適範囲は0.015%以下である。
燐(P)は不純物である。Pは鋼の疲労強度や熱間加工性を低下させる。したがって、P含有量は少ない方が好ましい。P含有量の上限は0.050%以下である。好ましいP含有量の上限は0.035%以下であり、さらに好ましくは、0.020%以下である。P含有量は少ないほど望ましいが、P含有量を0%にするのは、技術的に容易でなく、また、安定的に0.003%未満とするにも、製造コストが高くなる。よって、P含有量の下限は、0.003%以上が好ましい。
酸素(O)は、不可避的に含有される不純物であり、酸化物系介在物を形成する元素である。O含有量が0.0030%超では、疲労破壊の起点となる大きな介在物が増加し、疲労特性の低下の原因となる。従って、O含有量を0.0030%以下に制限する必要がある。好ましくは、0.0015%以下である。O含有量は少ないほど好ましいが、O含有量を過度に低減させると、製造コストの極端な上昇を招き経済的に不利であることから、O含有量の下限を0.0007%以上とすることが好ましい。よって、O含有量の制限範囲は、0.0007%〜0.0030%であることが好ましい。さらに好ましくは、O含有量の制限範囲を0.0007%〜0.0015%とする。なお、通常の操業条件では、不可避的に、Oが0.0020%程度含有される。
ニオブ(Nb)は、鋼中でC、Nと結合して、Nb(C、N)を形成する元素である。このNb(C、N)は、オーステナイト結晶粒界をピン止めすることによって、粒成長を抑制し、そして、組織の粗大化を防止する。Nb含有量が0.0020%未満では、上記の効果が得られない。Nb含有量が0.1000%を超えると、上記の効果が飽和する。従って、Nb含有量を0.0020%〜0.1000%とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.0100%〜0.0500%である。
バナジウム(V)は、鋼中でC、Nと結合して、V(C、N)を形成する元素である。このV(C、N)は、オーステナイト結晶粒界をピン止めすることによって、粒成長を抑制し、そして、組織の粗大化を防止する。V含有量が0.002%未満では、上記の効果が得られない。V含有量が0.20%を超えると、上記の効果が飽和する。従って、V含有量を0.002%〜0.20%とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.05%〜0.10%である。
モリブデン(Mo)は、鋼の焼入性を高める元素である。この効果によって浸炭熱処理後のマルテンサイト分率を高めるためには、Mo含有量が0.005%以上であることが好ましい。また、Moは、ガス浸炭のガス雰囲気で、酸化物を形成せず、窒化物を形成しにくい元素である。Moを添加することで、浸炭層表面の酸化物層や窒化物層、あるいは、それらに起因する浸炭異常層が形成されにくくなる。しかしながら、Moの添加コストが高価であるのに加え、Mo含有量が0.500%を超えると、鍛造前の浸炭用鋼の硬さが上昇し、変形抵抗が上昇し、そして、限界加工率が低下する。従って、Mo含有量を0.005%〜0.500%とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.050%〜0.200%である。
ニッケル(Ni)は、鋼の焼入性を高める元素である。この効果によって浸炭熱処理後のマルテンサイト分率を高めるためには、Ni含有量が0.005%以上であることが好ましい。また、Niは、ガス浸炭のガス雰囲気で、酸化物や窒化物を形成しない元素である。Niを添加することで、浸炭層表面の酸化物層や窒化物層、あるいは、それらに起因する浸炭異常層が形成されにくくなる。しかしながら、Niの添加コストが高価であるのに加え、Ni含有量が1.000%を超えると、鍛造前の浸炭用鋼の硬さが上昇し、変形抵抗が上昇し、そして、限界加工率が低下する。従って、Ni含有量を0.005%〜1.000%とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.050%〜0.500%である。
銅(Cu)は、鋼の焼入性を高める元素である。この効果によって浸炭熱処理後のマルテンサイト分率を高めるためには、Cu含有量が0.005%以上であることが好ましい。また、Cuは、ガス浸炭のガス雰囲気で、酸化物や窒化物を形成しない元素である。Cuを添加することで、浸炭層表面の酸化物層や窒化物層、あるいは、それらに起因する浸炭異常層が形成されにくくなる。しかしながら、Cu含有量が0.500%を超えると、1000℃以上の高温域における延性が低下し、連続鋳造、圧延時の歩留まり低下の原因になる。また、Cu含有量が0.500%を超えると、鍛造前の浸炭用鋼の硬さが上昇し、変形抵抗が上昇し、そして、限界加工率が低下する。従って、Cu含有量を0.005%〜0.500%とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.050%〜0.300%である。なお、Cuを添加する場合、上記した高温域の延性を改善するために、Ni含有量を、質量%で、Cu含有量の1/2以上とすることが望ましい。
カルシウム(Ca)は、被削性改善のために添加するSに起因して生成するMnSの形状を、伸長させずに球状にするという形態制御の効果を有する元素である。Ca添加により、硫化物形状の異方性が改善され、機械的性質が損なわれなくなる。また、Caは、切削時の切削工具表面に保護被膜を形成して、被削性を向上させる元素である。これらの効果を得るためには、Ca含有量が0.0002%以上であることが好ましい。Ca含有量が0.0030%を超えると、粗大な酸化物や硫化物が形成されて、浸炭鋼部品の疲労強度に悪影響を与える場合がある。従って、Ca含有量を0.0002%〜0.0030%とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.0008%〜0.0020%である。
マグネシウム(Mg)は、上記した硫化物の形態を制御し、切削時に切削工具表面へ保護被膜を形成して被削性を向上させる元素である。これらの効果を得るためには、Mg含有量が0.0002%以上であることが好ましい。Mg含有量が0.0030%を超えると、粗大な酸化物が形成されて、浸炭鋼部品の疲労強度に悪影響を与える場合がある。従って、Mg含有量を0.0002%〜0.0030%とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.0008%〜0.0020%である。
ジルコニウム(Zr)は、硫化物の形態を制御する元素である。この効果を得るためには、Zr含有量が0.0002%以上であることが好ましい。Zr含有量が0.0050%を超えると、粗大な酸化物が形成されて、浸炭鋼部品の疲労強度に悪影響を与える場合がある。従って、Zr含有量を0.0002%〜0.0050%とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.0008%〜0.0030%である。
REM(Rare Earth Metal)は、硫化物の形態を制御する元素である。この効果を得るためには、REM含有量が0.0002%以上であることが好ましい。REM含有量が0.0050%を超えると、粗大な酸化物が形成されて、浸炭鋼部品の疲労強度に悪影響を与える場合がある。従って、REM含有量を0.0002%〜0.0050%とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.0008%〜0.0030%である。なお、REMとは原子番号が57のランタンから71のルテシウムまでの15元素に、原子番号が21のスカンジウムと原子番号が39のイットリウムとを加えた合計17元素の総称である。通常は、これらの元素の混合物であるミッシュメタルの形で供給され、鋼中に添加される。
本実施形態の浸炭用鋼の製造に用いる連続鋳造鋳片の凝固組織は、通常はデンドライト形態を呈している。浸炭用鋼中の硫化物は、凝固前(溶鋼中)、または凝固時に晶出することが多く、デンドライト1次アーム間隔に大きく影響を受ける。すなわち、デンドライト1次アーム間隔が小さければ、樹間に晶出する硫化物は小さくなる。本実施形態の浸炭用鋼は、鋳片の段階におけるデンドライト1次アーム間隔が600μm未満であることが望ましい。なお、本明細書において、硫化物は例えばMnS等である。
浸炭用鋼に含まれる硫化物(MnS)は、被削性の向上に有用であるため、その存在密度を確保することが必要である。S含有量を多くすると被削性は向上するが、粗大な硫化物が増加する。熱間圧延等によって延伸した粗大な硫化物は、冷間鍛造性を損なうため、サイズ及び形状を制御することが必要である。さらに、被削時の切りくず処理性を向上するには、硫化物を微細に分散することが必要である。すなわち、硫化物同士の間隔を小さくすることが重要である。鋼材の圧延方向と平行な断面において円相当径で2μm未満のMnSが300個/mm2以上の存在密度で鋼中に存在すると、工具の摩耗が抑制される。なお、介在物が硫化物であることは、走査型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線解析装置によって確認すればよい。また、硫化物の円相当径は硫化物の面積と等しい面積を有する円の直径であり、画像解析によって求めることができる。同様に、硫化物の存在密度は、画像解析によって求められる。
上記化学成分中の各元素の質量%で示した含有量が、焼入れ性指標である下記式(B)を満足する必要がある。なお、選択成分であるMo、Niが含まれる場合には、この式(B)に代わって、焼入れ性指標が、下記式(C)に再定義される。
7.5<(0.7×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.16×Cr+1)×(3×Mo+1)×(0.3633×Ni+1)<44.0・・・(C)
Al、N、及び、Tiの質量%で示した含有量が、AlN析出指標である下記式(D)を満足する必要がある。
本実施形態の浸炭鋼部品は、上述の浸炭用鋼に対して、冷間加工工程、浸炭工程が施されることで製造される。浸炭工程後に、必要に応じて仕上熱処理工程を行ってもよい。浸炭工程によって、表面に0.4mm超〜2mm未満の厚さの浸炭層が形成される。本実施形態における浸炭層は、ビッカース硬さがHV550以上を示す領域である。
次に、本実施形態の浸炭用鋼の製造方法と、浸炭鋼部品の製造方法とを説明する。浸炭鋼部品の製造方法においては、一例として浸炭用鋼からなる冷間鍛造品を製造する工程を説明する。冷間鍛造品はたとえば、自動車及び建設機械等に利用される機械部品であり、たとえば、歯車、シャフト、プーリーなどの鋼製部品である。
上記化学組成を満たす鋼の鋳片を連続鋳造法により製造する。造塊法によりインゴット(鋼塊)にしてもよい。鋳造条件は例えば、220×220mm角の鋳型を用いて、タンディッシュ内の溶鋼のスーパーヒートを10〜50℃とし、鋳込み速度を1.0〜1.5m/minとする条件を例示できる。
以上のように、本発明の浸炭用鋼は、焼鈍後の冷間鍛造による粗成形品を直接に、または、必要に応じて焼きならしを行ってから、切削加工を施す際の被削性に優れている。このため、自動車、産業機械用の歯車、シャフト、プーリーなどの鋼製部品の製造費用に占める切削加工コストの割合を低減でき、また部品の品質を向上することができる。
また、本実施形態では、浸炭用鋼を製造する際、所定の化学成分を有する鋳片を鋳造することで、硫化物の晶出核となるデンドライト組織を微細化させて、鋼中の硫化物を微細分散させることができる。これにより、歯車、シャフト、プーリーなどの鋼製部品の素材となる、冷間鍛造後の被削性、つまり、浸炭前の被削性を高めることができる。
このようにして、表1に示す化学成分を有し、かつ表層から15mmの範囲内におけるデンドライト1次アーム間隔が600μm未満である鋳片を連続鋳造した。ただし、一部の鋳片については、デンドライト1次アーム間隔が600μm以上になった。
凝固組織は、上記の鋳片の断面をピクリン酸にてエッチングし、鋳片表面から深さ方向に15mm位置を鋳込み方向に5mmピッチでデンドライト1次アーム間隔および2次アーム間隔を100点測定し、平均値を求めた。
各鋼番号の丸棒のミクロ組織を観察した。丸棒の軸方向長さをLとした時のL/4位置を軸方向に対して垂直に切断し、ミクロ組織観察用の試験片を採取した。試験片の切断面を研磨し、光学顕微鏡によって鋼の金属組織を観察し、組織中のコントラストから析出物を判別した。なお、走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光分析装置(EDS)とを用いて析出物を同定した。後述の試験片の長手方向を含む断面から、縦10mm×横10mmの研磨試験片を10個作製し、これらの研磨試験片の所定位置を光学顕微鏡にて100倍で写真撮影して、0.9mm2の検査基準面積(領域)の画像を10視野分準備した。その観察視野(画像)中の各MnSの円相当径を算出した。これらの寸法(直径)は、析出物の面積と同一の面積を有する円の直径を示す円相当径に換算した。検出した硫化物の粒径分布から、円相当径が2μm未満である硫化物の存在密度及び、硫化物間の平均距離を算出した。表2に、その結果を示す。円相当径が2μm未満である硫化物の存在密度が300個/mm2以上の場合を、かつ、硫化物間の平均距離が30.0μm未満の場合を、本発明の条件を満たすため、合格とした。
硬さの測定は、ビッカース硬度計を用いて、合計10回の測定を行い、平均値を算出した。表2に、その結果を示す。徐冷工程後の浸炭用鋼の硬さがHV125以下の場合、または、球状化焼鈍後の浸炭用鋼の硬さがHV110以下の場合を、軟質化が十分であり合格と判定した。
直径30mmの丸棒の、周面から上記切断面の1/2深さの位置から、丸棒試験片を作製した。丸棒試験片は、直径30mmの丸棒の1/2深さの位置を中心とした直径10mm、長さ15mmの試験片であり、丸棒試験片の長手方向は、直径30mmの丸棒の鍛伸軸と平行であった。
各鋼について、直径30mmの棒鋼の残りを用いて、冷間鍛造の代わりに冷間での引抜きにより歪を与え、その引抜き後の被削性で冷間鍛造後の被削性を評価した。
母材材質:超硬P20種グレード
コーティング:なし
<旋削加工条件>
周速:150m/min
送り:0.2mm/rev.
切り込み:0.4mm
潤滑:水溶性切削油を使用
上記方法で製造した浸炭用鋼の、周面から上記切断面の1/4深さの位置から、長手方向が圧縮方向となるように、浸炭用の試験片(20mmφ×30mm)を採取した。浸炭工程として、変成炉ガス方式によるガス浸炭を行った。このガス浸炭は、カーボンポテンシャルを0.8%として、950℃で5時間の保持を行い、続いて、850℃で0.5時間の保持を行った。浸炭工程後に、仕上熱処理工程として、130℃への油焼入れを行い、そして、150℃で90分の焼戻しを行って、浸炭鋼部品を得た。
Claims (7)
- 質量%で、
C:0.07%〜0.13%、
Si:0.0001%〜0.500%、
Mn:0.0001%〜0.80%、
S:0.0050%〜0.1000%、
Cr:1.30%超〜5.00%、
B:0.0005%〜0.0100%、
Al:0.070%〜0.200%、
N:0.0030%〜0.0100%及び
Bi:0.0001%超〜0.0050%を含有し、
Sb:0.0001%〜0.0050%、Sn:0.0001%〜0.0050%及びTe:0.0001%〜0.0050%のうちの1種または2種以上を含有し、
更に、Ti、P及びOがそれぞれ、
Ti:0.020%以下、
P:0.050%以下、
O:0.0030%以下であり、
残部がFe及び不純物からなり、
前記化学成分中の各元素の質量%で示した含有量が、焼入れ性指標として式(1)を満たすとともに、AlN析出指標として式(2)を満たし、
鋼材の圧延方向と平行な断面において、円相当径が2μm未満である硫化物の存在密度が300個/mm2以上であり、前記硫化物間の平均距離が30.0μm未満であることを特徴とする浸炭用鋼。
7.5<(0.7×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.16×Cr+1)<44.0 ・・・(1)
0.0003<Al×(N−Ti×(14/48))<0.0011 ・・・(2) - 更に質量%で、
Nb:0.0020%〜0.1000%、
V:0.002%〜0.20%、
Mo:0.005%〜0.500%、
Ni:0.005%〜1.000%、
Cu:0.005%〜0.500%、
Ca:0.0002%〜0.0030%、
Mg:0.0002%〜0.0030%、
Zr:0.0002%〜0.0050%、
Rare Earth Metal:0.0002%〜0.0050%、
のうちの少なくとも1種または2種以上の元素を含有し、
前記化学成分中の各元素の質量%で示した含有量が、焼入れ性指標として前記式(1)に代わって式(3)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の浸炭用鋼。
7.5<(0.7×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.16×Cr+1)×(3×Mo+1)×(0.3633×Ni+1)<44.0・・・(3) - 鋼部と、鋼部の外面に生成した厚さ0.4mm超2mm未満の浸炭層とを備える浸炭鋼部品であって、
部品表面から深さ50μmの位置での前記浸炭層のビッカース硬さがHV650以上HV1000以下であり、
前記表面から深さ2mmの位置での前記鋼部のビッカース硬さがHV250以上HV500以下であり、
前記鋼部は、質量%で、
C:0.07%〜0.13%、
Si:0.0001%〜0.500%、
Mn:0.0001%〜0.80%、
S:0.0050%〜0.1000%、
Cr:1.30%超〜5.00%、
B:0.0005%〜0.0100%、
Al:0.070%〜0.200%、
N:0.0030%〜0.0100%及び
Bi:0.0001%超〜0.0050%を含有し、
Sb:0.0001%〜0.0050%、Sn:0.0001%〜0.0050%及びTe:0.0001%〜0.0050%のうちの1種または2種以上を含有し、
更に、Ti、P及びOがそれぞれ、
Ti:0.020%以下、
P:0.050%以下、
O:0.0030%以下であり、
残部がFeおよび不純物からなり、
前記化学成分中の各元素の質量%で示した含有量が、焼入れ性指標として式(4)を満たすとともに、AlN析出指標として式(5)を満たし、
鋼材の圧延方向と平行な断面において、円相当径が2μm未満である硫化物の存在密度が300個/mm2以上であり、前記硫化物間の平均距離が30.0μm未満であることを特徴とする浸炭鋼部品。
7.5<(0.7×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.16×Cr+1)<44.0 ・・・(4)
0.0003<Al×(N−Ti×(14/48))<0.0011 ・・・(5) - 前記鋼部が、更に質量%で、
Nb:0.0020%〜0.1000%、
V:0.002%〜0.20%、
Mo:0.005%〜0.500%、
Ni:0.005%〜1.000%、
Cu:0.005%〜0.500%、
Ca:0.0002%〜0.0030%、
Mg:0.0002%〜0.0030%、
Zr:0.0002%〜0.0050%、
Rare Earth Metal:0.0002%〜0.0050%、
のうちの少なくとも1種または2種以上の元素を含有し、
前記化学成分中の各元素の質量%で示した含有量が、焼入れ性指標として前記式(4)に代わって式(6)を満たすことを特徴とする請求項3に記載の浸炭鋼部品。
7.5<(0.7×Si+1)×(5.1×Mn+1)×(2.16×Cr+1)×(3×Mo+1)×(0.3633×Ni+1)<44.0・・・(6) - 請求項1または請求項2に記載の前記浸炭用鋼に、冷間塑性加工を施して形状を付与する冷間加工工程と、
前記冷間加工工程後の前記浸炭用鋼に、浸炭処理または浸炭窒化処理を施す浸炭工程とを有することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の浸炭鋼部品の製造方法。 - 前記浸炭工程後に、焼入れ処理または焼入れ・焼戻し処理を施す仕上熱処理工程を有することを特徴とする請求項5に記載の浸炭鋼部品の製造方法。
- 前記冷間加工工程後で前記浸炭工程前に、更に、切削加工を施して形状を付与する切削工程を有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の浸炭鋼部品の製造方法。
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