JP2008079614A - だし汁の製造方法 - Google Patents

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Yasuko Noda
泰子 野田
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Abstract

【課題】魚節類から呈味成分を抽出することによるだし汁の製造方法の提供。
【解決手段】鰹節などの魚節類から、硬度が10〜90mg/Lで、温度が室温〜100℃の軟水、好ましくはその沸騰水を用いて抽出する工程を含み、それによって遊離型のL−グルタミン酸ナトリウムの濃度/5’−イノシン酸ナトリウムの濃度値が0.02以上のだし汁を得る。
【効果】得られるだし汁は、うま味の相乗効果により、より強いうま味の呈味を示す。
【選択図】なし

Description

本発明は、より強い呈味を示すだし汁の抽出方法に関する。
鰹節を熱湯で抽出処理して、風味に富んだだし汁類を得る方法が知られている。また、だし原料として鰹節を用いただし汁の加熱抽出には、一般に、硬度の低い軟水を使うとうま味成分が抽出されやすく、澄んだ良いだしが出るとされている。食文化の面からも、京都における日本料理が特に「京料理」と呼ばれる伝統文化として特徴付けられているが、それは京都という土地が古来より良質の軟水に豊富に恵まれた土地であり、そのため日本料理の味わいの基本となるだし汁の抽出に適していたからと言われている。
だし汁の製造方法に関する特許または特許出願には、「だし成分の抽出方法および抽出装置」(特許文献1)および「ダシ汁の製造方法」(特許文献2)等がある。また、L−グルタミン酸と5’イノシン酸を含む飲食品に関する出願がある(特許文献3)。
特許3758810 特開2003−183 特許公告昭40−6389
本発明は、魚節類から呈味成分を抽出することによるだし汁の製造方法であって、より強いうま味の呈味を示すだし汁を提供することを目的とする。
本発明者は、硬度の低い軟水を使うとうま味成分が抽出されやすく、澄んだ良いだしが出ると考えられていることに着目し、より強いうま味の呈味を示すだし汁の製造方法を鋭意検討した。その結果、魚節類から呈味成分を抽出することによるだし汁の製造方法において、硬度が10〜90mg/Lの水を用いることにより、遊離型のL−グルタミン酸ナトリウムの濃度/5’−イノシン酸ナトリウムの濃度値が高いだし汁が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、魚節類から呈味成分を抽出することによるだし汁の製造方法において、硬度が10〜90mg/Lの水を用いて抽出する工程を含む、遊離型のL−グルタミン酸ナトリウムの濃度/5’−イノシン酸ナトリウムの濃度値が0.02以上のだし汁の製造方法である。
本発明の一態様は、鰹節から呈味成分を抽出することによるだし汁の製造方法において、硬度が10〜90mg/L、好ましくは20〜60mg/L、さらに好ましくは25〜45mg/L、さらに好ましくは25〜35mg/Lの水を用いて抽出する工程を含む、遊離型のL−グルタミン酸ナトリウムの濃度/5’−イノシン酸ナトリウムの濃度値が0.02以上のだし汁の製造方法である。
本発明で用いられる抽出原料は、だし汁の製造に用いられるものであればその種類は問わないが、魚節類を用いるのが好ましい。特に、鰹節を好適に用いることができる。
鰹節は、通常のだし汁の製造に用いられるもので、鰹を煮て乾燥させ、カビ付けをしたものである。カビをつけることにより脂肪分を減少させ、香味をよくし、節の肌の色沢をよくする。優良カビを生えさせることによって有害菌の進入を防ぎ、肉質の分解を行わせないなどの働きがある。鰹節には四つ割りにした本節と二つ割りの亀節がある。堅くて重みの感じられるもの、肌に光沢があり、赤味をおびた黒褐色をしているものが良品である。二つを拍子木のように叩いてみると澄んだ堅い音がする。削り器で薄く削って用いる。
本発明方法の抽出に用いる水は、いわゆる軟水であり、水中のカルシウムイオン量(以下カルシウム)とマグネシウムイオン量(以下マグネシウム)を表す指標である硬度の値が小さい、通常の軟水である。硬度には、ドイツ硬度やフランス硬度などがあり、地域により換算方法が異なる。日本で一般的に用いられるのはアメリカ硬度と呼ばれ、水に含まれているカルシウムとマグネシウムの総量を、これに対応する炭酸カルシウム量に換算したもので、単位はmg/Lとなる。本明細書における硬度も、このアメリカ硬度に基づいている。アメリカ硬度の計算式を次に示す。すなわち、硬度[mg/L]=カルシウム[mg/L]×2.5+マグネシウム[mg/L]×4.1である。この硬度による硬水および軟水の分類は、「理化学辞典」や「世界保健機関(WHO)による基準」等のそれぞれにおいて規定されている。前者では、硬度178未満を軟水、178以上357未満を中間の水、357以上を硬水と分類している。また後者では、硬度0〜60未満を軟水、60〜120未満を中程度の軟水、120〜180未満を硬水、180以上を非常な硬水と分類している。
本発明の方法において、抽出に用いる溶媒としては、硬度の高くない水が好ましい。中でも、軟水、特に好ましくは、硬度100以下の水が好ましい。より好ましくは、10〜90mg/L、20〜60mg/L、25〜45mg/L、25〜35mg/Lが特に好ましい。そのような範囲の水であれば、水の種類は特に限定されず、水道水、蒸留水、温泉水、市販のミネラルウォーターなどを用いることができる。中でも、上述の硬度の範囲の市販のミネラルウォーターを好適に用いることができ、例えば、「サントリー天然水(南アルプス)」(商品名)、「サントリー天然水(阿蘇)」(商品名)、「サントリー日本の天然水」(商品名)などを用いることができる。
抽出における処理温度は、魚節を抽出することのできる範囲の温度、例えば、室温〜100℃の範囲であれば特に限定されないが、例えば、沸騰している水(100℃)が好ましい。
抽出における処理時間は魚節を抽出することのできる処理時間であれば特に限定されないが、例えば、沸騰している水であれば1分程度が好ましい。
本発明方法における抽出工程の抽出条件は、熱水でだし汁を抽出する通常の条件でよく、沸騰した水に鰹節を入れ、約1分間加熱後火をとめ、鰹節が沈んだら上澄みをとるという工程によりだし汁を得ることができる。
本発明の方法により得られるだし汁は、うま味の相乗効果により、より強いうま味の呈味を示す。うま味の相乗効果とは、L−グルタミン酸ナトリウムと核酸系のうま味物質を同時に味わったとき、うま味が顕著に強くなるという、通常のうま味の相乗効果の作用のことである。食品の味は、塩味、酸味、苦味、甘味、うま味の5つの基本味に分類されている。うま味についてその主な呈味物質とその所在を以下に記す。アミノ酸系では、L−グルタミン酸ナトリウム(MSG)が昆布やチーズなどに含まれる。また核酸系では5’−イノシン酸ナトリウム(IMP)が鰹節やにぼしなどに存在する。同じく核酸系の5’−グアニル酸ナトリウム(GMP)は乾シイタケやマツタケなどに含まれる。この2つの系統のうま味物質を同時に味わうとき、うま味の強さは飛躍的に強められる。例えば、MSGの閾値は、IMPが共存するとき、100倍も引き下げられる。そして最も相乗効果が高くなるのは、MSG/IMP=1の重量混合比で混ぜたときで、単位重量あたりのうま味の強さは、MSG単独の30倍である(Agr.Biol.Chem.Vol.25,No.9,693−701,1951:表1参照)。
Figure 2008079614
またMSG/IMP<1の場合、値が1に近いほど呈味力は強くなる。料理においては昔から、日本料理における鰹節と昆布のだし、西洋料理における牛すね肉と野菜のブイヨンというように、いくつかの素材を組み合わせただしが用いられてきたが、これは材料の中に含まれているMSG、IMPやGMPの間に相乗効果を働かせるためである。
本発明の方法により得られるだし汁は、L−グルタミン酸ナトリウム(MSG)の濃度/5’−イノシン酸ナトリウム(IMP)の濃度値が0.02以上である。この0.02以上という極めて高い値のだし汁は、本発明の方法を用いることにより製造することが可能となった。
本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明は各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
<実施例>
試験方法
試料の鰹節40gを正確に計量し、器具は全て使用する水で共洗いする。水1Lを沸騰させ、試料を加えて1分加熱する。その後火を止め、30秒放置してからさらしを用いて濾過し、10分放置する。その後氷水で室温まで冷却してから、使用した水で1Lに定容し、0.45μmフィルターで濾過したものを分析に用いる。
次に、ここで得ただし汁について、以下の分析および評価を行う。核酸関連物質の分析については、島津LC−10AD高速液体クロマトグラフィーを用いる。1検体につき2回分析し、平均値を結果とする。分析条件は次の通りである。すなわち、流速;1mL/min,検出波長;254nm,カラム;MCI−GEL CDR10(250mm×4.6mm i.d.),カラム温度;40℃,移動相;1M酢酸:1M酢酸Na=90:10の分析条件で実施する。
遊離アミノ酸については、日立L−8500A型自動アミノ酸分析計を用いてアミノ酸組成を分析する。分析試料1.0mLに0.02N HCl0.5mLを加えたものを分析する。アミノ酸量は全てmg%で示す。分析条件は以下の通りである。すなわち、カラム;日立カスタムイオン交換樹脂,移動相;リチウムバッファー,発色;ニンヒドリン試薬,検出波長;570nmおよび440nmの分析条件で実施する。
実施例1
上記試験方法にて、だし汁を抽出した。 上記試験方法にて、だし汁を抽出した。試料は鰹節40gを用いた。抽出溶媒としては、「MILLI Q水(超純水)」、「サントリー天然水(南アルプス)」(サントリー(株))、「Vittel(ネスレ ウォーターズの登録商標)」(輸入者:サントリー(株))、または「サントリー100%深層水」(サントリー(株))をそれぞれ1Lを用いた。それぞれの水の硬度を表2に示した。
Figure 2008079614
得られただし汁の核酸関連物質につき、上記試験方法に示した測定法により測定した結果を表3に示した。
Figure 2008079614
一般的に硬度の低い水が鰹節の抽出には適しているとされているが、鰹節のうま味の主な呈味物質である5’−イノシン酸ナトリウム(IMP)の抽出効果については、これと異なる結果が得られた。
抽出しただし汁の遊離アミノ酸につき、上記実験方法に示した測定法により測定した結果を表4に示した。
Figure 2008079614
うま味の呈味物質であるL−グルタミン酸ナトリウム(MSG)は、いずれの水によるだし汁でも0.7mg/100mgと、全て同じ値であった。
IMPとMSGとの間には、上述のように相乗効果が認められており、最も相乗効果が高くなるのはMSG/IMP=1の重量混合比で混ぜたときで、単位重量あたりの旨味の強さはMSG単独の30倍であり、MSG/IMP<1の場合、値が1に近いほど呈味力は強くなる。
得られたそれぞれのだし汁のMSG/IMP比を計算した値を表5に示した。
Figure 2008079614
この値より、硬度がある一定の範囲の軟水で抽出した場合にのみ、相乗効果による呈味力が高いだし汁が得られることが判明した。特に、硬度30mg/L程度の軟水を用いることにより、MSG/IMP値として0.02以上の極めて高い呈味力を有するだし汁が得られることが明らかとなった。
また、得られただし汁の官能評価を行った。パネラーは100人とした。それぞれの抽出液および0.2%の食塩を添加したものを検液とし、評定尺度法を採用した。色・香り・酸味・燻し感・味・総評について主観的・客観的評価を行い、点数化したものの平均値、標準偏差を算出し、評価した。結果を表6に示した。硬度30mg/Lの天然水(南アルプス)で抽出しただし汁が、それよりも高い硬度または低い硬度の水で抽出して得ただし汁よりも高い評価であった。
Figure 2008079614

Claims (6)

  1. 魚節類から呈味成分を抽出することによるだし汁の製造方法において、硬度が10〜90mg/Lの水を用いて抽出する工程を含む、遊離型のL−グルタミン酸ナトリウムの濃度/5’−イノシン酸ナトリウムの濃度値が0.02以上のだし汁の製造方法。
  2. 魚節類が鰹節である、請求項1記載の方法。
  3. 硬度が20〜60mg/Lの水である、請求項1または2記載の方法。
  4. 硬度が25〜45mg/Lの水である、請求項3記載の方法。
  5. 硬度が25〜35mg/Lの水である、請求項4記載の方法。
  6. 抽出を沸騰した水にて行う、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。


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