JP2008034247A - アルカリ一次電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】負極が有機系の界面活性剤を含んでも、放電反応を阻害することなく、亜鉛負極のガス発生を効果的に抑制することができる、優れた放電特性および耐漏液性を有するアルカリ一次電池を提供する。
【解決手段】正極と、負極活物質として少なくとも亜鉛を含む負極と、を有するアルカリ一次電池において、負極に、さらに式(1)Cn2n+1−SO3X、(nは整数、XはH、NaまたはK)で表される化合物を添加する。
【選択図】図1

Description

本発明は、負極活物質として亜鉛、電解液としてアルカリ水溶液、正極活物質として二酸化マンガンやオキシ水酸化ニッケル等を用いるアルカリ一次電池に関する。
アルカリマンガン乾電池に代表されるアルカリ一次電池は、汎用性が高く安価であるため、各種機器の電源として広く普及している。さらに近年は、機器のデジタル化に対応して、正極にオキシ水酸化ニッケルを添加して出力特性を高めたアルカリ一次電池(ニッケル系乾電池)の普及も急速に広がってきている。
アルカリ一次電池において、負極活物質には、ガスアトマイズ法等で得られる不定形の亜鉛粉を使用する。亜鉛粉はアルカリ電解液中で容易に腐食して水素ガスを発生し、電池内圧の上昇および漏液を引き起こす原因となる。従って、アルカリ一次電池の信頼性は、アルカリ電解液中での亜鉛の腐食を抑制することによって向上する。
古くは、負極中に水銀を添加して亜鉛粉表面をアマルガム化することによって、水素発生過電圧を高めるという防食法が行われていた。しかしながら、環境への配慮から、1980〜1990年頃にかけて、アルカリマンガン乾電池を中心に無水銀化が進んだ。この水銀の添加に代わる防食手段として、亜鉛粉の代わりに、アルミニウム、ビスマス、インジウム等を少量含む亜鉛合金粉を用いることで、耐食性を向上させる技術(特許文献1)や、界面活性剤などの有機系防食剤を、ゲル状負極に含まれる電解液中に添加する技術が提案されている。
ゲル状負極に含まれる電解液に添加される、界面活性剤の防食作用のメカニズムは、以下のように考えられている。すなわち、界面活性剤に含まれる分子の親水基が亜鉛粒子表面に吸着し、一方でこの分子の疎水基が電解液側に配向することで保護被膜層を形成する。この保護被膜層が形成されることによる撥水作用によって、水分子および水酸化物イオンの亜鉛粒子表面への接近が阻止される。その結果、以下の式(2)および式(3)の反応が抑制されて、防食効果が得られると考えられている。なお、亜鉛粒子表面に吸着した界面活性剤分子は、負極の放電時には、亜鉛粒子表面から離散し、電解液中に拡散する。
Zn+4OH-→Zn(OH)4 2-+2e- (2)
2H2O+2e-→2OH-+H2 (3)
このような作用を有する有機系防食剤として、アニオン性界面活性剤ではアルキルベンゼンスルホン酸塩(特許文献2)、アルコールスルホン酸エステル塩(特許文献3)、アルコールホスホン酸エステル塩(特許文献4)、飽和モノカルボン酸塩(特許文献5)等が提案されており、カチオン性界面活性剤では水酸化テトラブチルアンモニウム(特許文献6)等が提案されており、さらに非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン付加型の界面活性剤)ではポリオキシエチレンアルキルエーテル(特許文献7)等が提案されている。
上記のように提案されている界面活性剤のなかでも、カチオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン付加型の界面活性剤)は、総じて亜鉛粒表面に対する吸着度合いが強い。これは、アルカリ電解液中では、亜鉛粒子表面にOH-イオンまたは水分子が補足されているためである。このため、OH-イオンとカチオン性界面活性剤との間の静電的な引力、または、水分子と非イオン性界面活性剤との間の水素結合により、界面活性剤分子は亜鉛粒子表面に強固に吸着する。つまり、カチオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤を含む亜鉛アルカリ電池では、防食効果を比較的容易に得ることができる。
また、アニオン性の界面活性剤は、亜鉛粒子表面と極性(マイナス)が同じなので界面活性剤の吸着度合いは弱く、防食効果は発現しにくい。一方、電解液中にかなり多量の界面活性剤を含む場合でも、放電特性の低下を起こしにくい。従って、適度な撥水性(疎水基サイズ)を有するアニオン性界面活性剤を、比較的多量に添加することで、亜鉛の防食効果と放電特性とを両立させることが可能となると考えられてきた。
特公平3−71737号公報 特開昭63−239770号公報 特開昭63−248063号公報 特開昭63−248064号公報 特開昭63−248068号公報 特開平6−223828号公報 特開平5−266882号公報
しかしながら、特許文献6および特許文献7で提案されている、カチオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤は、上記のように亜鉛粒子表面に強固に吸着することから、放電時に亜鉛粒子表面から離れにくい。その結果、特に瞬間的な大電流の放電の際、前式(2)に示す電極反応が阻害され、電池の閉路電圧(CCV)が低下しやすい。つまり、アルカリ一次電池がカチオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン付加型の界面活性剤)を含む場合、亜鉛の防食効果と放電特性とを両立させることは非常に困難であるという問題があった。
また、特許文献2〜5で提案されているアニオン性の界面活性剤には、以下のような問題があり、近年のニッケル系乾電池の普及の広がりおよび環境規制に対応するのは困難となってきている。
(a)アルコールスルホン酸エステル塩(Cn2n+1−O−SO3X)
この界面活性剤は、高温アルカリ中で保存された際、僅かではあるが加水分解される傾向がある。
n2n+1−O−SO3X + KOH ⇔ Cn2n+1−OH + KXSO4(4)
さらに、正極にオキシ水酸化ニッケルを含む系では、正極電位が高いために、生成物Cn2n+1−OHの酸化分解が速い。その結果、上記式(4)の平衡が右に移動する。つまり、Cn2n+1−O−SO3Xの加水分解がより一層加速されて、十分な防食効果を維持することができない。
(b)アルコールホスホン酸エステル(Cn2n+1−O−PO32
この界面活性剤は、有機リン酸系であることから、水質富栄養化の原因となりうるという環境面での問題がある。
(c)飽和モノカルボン酸塩(Cn2n+1−COOX)
飽和モノカルボン酸塩は、石鹸に類縁のものである。石鹸の耐硬水性として広く知られているように、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Al3+等と共存した場合には不溶性の塩を作りやすい。アルカリ一次電池の電解液には、負極由来のZn2+、Al3+が多く存在する。さらに正極にオキシ水酸化ニッケルを含む系においては、オキシ水酸化ニッケルに含まれる不純物に由来するCa2+、Mg2+も増加する傾向にある。そのため、十分な防食効果を得るのは困難である。
(d)アルキルベンゼンスルホン酸塩(Cn2n+1−C64−SO3X)
上記(c)の飽和モノカルボン酸塩ほどではないが、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Al3+等と共存した場合に不溶性の塩を作る傾向がある。そのため、上記(c)と同様に十分な防食効果を得るのは困難である。
そこで本発明は、上記の問題を解決するために、負極が有機系の界面活性剤を含んでも、放電反応を阻害することなく、亜鉛負極のガス発生を効果的に抑制することができる、優れた放電特性および耐漏液性を有するアルカリ一次電池を提供することを目的とする。
以上のような従来の問題に鑑み、本発明は、正極と、負極活物質として少なくとも亜鉛を含む負極と、を有し、前記負極が、式(1)Cn2n+1−SO3X、(nは整数、XはH、NaまたはK)で表される化合物を含むこと、を特徴とするアルカリ一次電池を提供する。
式(1)で表される化合物は、アニオン性界面活性剤の1つである、アルカンスルホン酸、またはその塩である。この式(1)の化合物は、アルカリ中で加水分解反応を起こしたり、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Al3+等と共存した際に不溶性塩を形成したりすることがない。そのため、電解液中に安定して存在することができる。また、この化合物は生分解性も良好であるため、環境の点からの懸念も少ない。
また、上記アルカリ一次電池においては、式(1)におけるn(すなわち前記化合物の疎水基炭素数)が5〜18であることが好ましい。
本発明においては、負極が適度な撥水性(疎水基サイズ)を有する式(1)の化合物を含むことで、上記(a)〜(d)に記した問題を解決し、さらに亜鉛の防食効果と放電特性とを両立させた電池を得ることができる。
前記負極が、前記負極活物質に含まれる亜鉛または亜鉛合金の含有量に対して0.01〜0.5重量%の前記化合物を含むことが好ましい。
また、前記正極が、オキシ水酸化ニッケルを含んでいても、本発明を好適に実施することができる。
本発明によると、負極が有機系の界面活性剤を含んでも、放電反応を阻害することなく、亜鉛負極のガス発生を効果的に抑制することができる。つまり、優れた放電特性および耐漏液性を有するアルカリ一次電池を得ることができる。
本発明は、正極と、負極活物質として少なくとも亜鉛を含む負極と、を有し、前記負極が、式(1)Cn2n+1−SO3X、(nは整数、XはH、NaまたはK)で表される化合物を含むこと、を特徴とするアルカリ一次電池を提供するものである。
本発明において、上記化合物は、単独または複数種で使用することができる。また、化合物の疎水基炭素数nは5〜18であることが好ましい。疎水基炭素数nが5以上であることで、亜鉛粒子表面に形成される保護被膜層の撥水性が高まる。よって、より良好な防食効果を得ることができる。疎水基炭素数nが18以下であることで、電解液中における界面活性剤の移動がスムーズになり、放電時の亜鉛粒子表面からの界面活性剤分子の離散がより円滑になる。
さらに、上記の疎水基炭素数nは8〜11であることが好ましい。疎水基炭素数nが8以上になると、疎水基間相互作用によって界面活性剤分子の配向が高まる。その結果、界面での撥水性がより向上する。一方、疎水基炭素数nが12〜14の領域においては気泡性が高くなり、疎水基炭素数nが15以上になるとアルカリ電解液(水溶液)への溶解性が乏しくなって、電池を作製しにくくなる。なお、上記「気泡性」とは、ゲル作製時の攪拌の際に、ゲル中に巻き込まれた「空気」と「電解液」との界面における、界面活性剤の集合膜(泡膜)の形成し易さのことをいう。
本発明における負極活物質としては、亜鉛単体または、アルミニウム、ビスマスもしくはインジウム等を含む亜鉛合金を使用することができる。この負極活物質は、例えば、ガスアトマイズ法等により得られる、亜鉛粉末または亜鉛合金粉末を使用することができる。この負極活物質に、上記化合物、電解液およびゲル化剤を混合し、従来と同様にゲル化を行って、ゲル状負極を得ることができる。
また、上記のゲル状負極において、上記化合物の含有量は、負極活物質に含まれる亜鉛または亜鉛合金の含有量に対して0.01〜0.5重量%であることが好ましい。含有量が0.01重量%以上であれば、より良好な防食効果を得ることができる。また、含有量が0.5重量%以下であれば、より良好な放電性能を得られることから好ましい。
正極には、例えば、正極活物質(二酸化マンガンおよびオキシ水酸化ニッケルのうちの少なくとも一方)と、導電剤である黒鉛とを混合し、さらに電解液を混合した後、ミキサーで均一に攪拌、混合して一定粒度に整粒し、得られる粒状物を中空円筒型に加圧成形して得られる、正極合剤ペレットを用いることができる。
ここで、正極がオキシ水酸化ニッケルを含む電池は、従来のアルカリマンガン系電池と比較して、正極が有する不純物の含有量が多く、また、負極が有する放電性能の差が電池の性能に与える影響が大きいという特徴を有している。
アルカリマンガン系の電池の正極に用いられる二酸化マンガンが電析によって得られるのに対して、オキシ水酸化ニッケルは、まず晶析によって水酸化ニッケルを得る。この水酸化ニッケルを化学酸化するというプロセスを経て製造されることから、各種不純物の含有量が二酸化マンガンに比べて多い。このため電池内に、より多くの不純物を含むこととなり、負極活物質に含まれる亜鉛の腐食およびガス発生が加速されやすい。
その一方で、正極がオキシ水酸化ニッケルを含むと、高い正極電位を保ち、大電流放電時の正極利用率が高まる。その結果、電池全体の大電流放電特性は負極によって制御される傾向が強まり、負極が有するわずかな放電性能の差が、電池が有する放電特性の差として顕在化される。
正極がオキシ水酸化ニッケルを含む電池は、上記のような特徴を有するため、負極活物質に防食効果を付与することが極めて有効である。本発明の化合物を、正極がオキシ水酸化ニッケルを含む電池に用いれば、負極の十分な防食効果を維持しつつ、高い負極放電性能を得ることができるため、オキシ水酸化ニッケルを含む電池における信頼性および大電流放電特性を、向上させることができる。
正極に用いるオキシ水酸化ニッケルは、例えば、以下のようにして得ることができる。すなわち、まず硫酸ニッケル水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケルとする。この水酸化ニッケルを次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の酸化剤を用いて化学酸化することで、オキシ水酸化ニッケルが得られる。このオキシ水酸化ニッケルは、正極活物質において、例えば、10〜80重量%含まれていればよい。さらには、20〜60重量%含まれているのが好ましい。
また、本発明の電池に含まれる電解液としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、少量の酸化亜鉛を含む水酸化カリウム水溶液等を用いることができる。
ゲル化剤としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム等を用いることができる。
さらに、セパレータにも、従来公知のものを用いることができ、例えば、ビニロンとセルロースからなる複合繊維、ポリプロピレンとセルロースからなる複合繊維等を用いることができる。
ここで、本発明の一実施の形態である、アルカリ乾電池について図を参照しながら説明する。図1に示すように、このアルカリ乾電池は、セパレータ4を介して接している、正極合剤ペレット3と、上記式(1)で表される化合物を含む、ゲル状負極6とを有する。正極ケース1は、ニッケルメッキされた鋼板からなり、内部には黒鉛塗装膜2が形成されている。
図1に示すアルカリ乾電池は以下のようにして作製することができる。すなわち、まず正極ケース1の内部に、二酸化マンガンおよびオキシ水酸化ニッケルのうちの少なくとも一方を含む、中空円筒型の正極合剤ペレット3を複数個挿入する。これを再加圧することによって、正極ケース1の内面に密着させる。そして、この正極合剤ペレット3の内側にセパレータ4および絶縁のための底紙5を挿入し、セパレータ4と正極合剤ペレット3を湿潤させる目的で電解液を注液する。注液後、セパレータ4の内側にゲル状負極6を充填する。次に、樹脂製封口板7と、負極端子を兼ねる底板8と、絶縁ワッシャ9とが一体化した負極集電体10を、ゲル状負極に差し込む。そして正極ケース1の開口端部を樹脂製封口板7の端部を介して底板8の周辺部にかしめつけて正極ケース1の開口部を密着させる。最後に、正極ケース1の外表面に外装ラベル11を被覆することで、本発明におけるアルカリ乾電池を得ることができる。
上記の実施の形態では、単3サイズのアルカリ乾電池について示したが、本発明の効果そのものは、単3サイズ以外のアルカリマンガン乾電池や、アルカリボタン型、角型等の別構造の電池にも得ることができると考えられる。また、正極活物質として二酸化マンガンやオキシ水酸化ニッケル以外に、酸化銀や空気等を用いたアルカリ一次電池でも、同様の効果を期待することができる。
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。本発明の内容は、これらの実施例に限定されるものではない。
《実験例1》
Al:0.003重量%と、Bi:0.01重量%と、In:0.025重量%とを含む亜鉛合金粉をガスアトマイズ法によって得た。この亜鉛合金粉末を、篩を用いて分級し、粒度範囲が35〜300メッシュであって、粒径が200メッシュ(75μm)以下の亜鉛合金粉末の比率が亜鉛合金粉末全体に対して20%となるように調整した。得られた粉末を本実験例の電池の負極活物質として用いた。
次に、36重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnO:2重量%含む)の100重量部に2.3重量部のポリアクリル酸ナトリウムを加えて混合し、ゲル化させて、ゲル状電解液を得た。得られたゲル状電解液は、その後、24時間静置して十分に熟成させた。
上記で得たゲル状電解液の所定量に対して、重量比で1.8倍の上記亜鉛合金粉末と、表1中に示した(1)〜(7)の界面活性剤とを加えて十分に混合し、それぞれの界面活性剤に対応するゲル状負極(1)〜(7)を作製した。ここで界面活性剤の含有量は、亜鉛合金粉末に対して0.1重量%となるように調整した。
また、ゲル状負極に上記のような界面活性剤を添加しないこと以外はすべて上記と同様にして、比較用ゲル状負極(8)を作製した。
用いた界面活性剤の一覧を表1に示す。これらは関東化学(株)製の化学試薬、ならびに花王(株)およびライオン(株)製の化成品等を入手して、検討に使用した。なお、表1には示していないが、用いた界面活性剤は、疎水基(Cn2n+1部位)の構造が直鎖状のものを選定した。
Figure 2008034247
また、電解二酸化マンガン(東ソー(株)製 HHTF)および黒鉛(日本黒鉛工業(株)製 SP−20)を重量比94:6の割合で配合し、混合粉100重量部に対して電解液1重量部を混合した後、ミキサーで均一に攪拌、混合して一定粒度に整粒した。得られた粒状物を中空円筒型に加圧成形し、正極合剤ペレットとした。
セパレータには、ニッポン高度紙工業(株)製のアルカリ乾電池用セパレータを用いた。
本実験例では、単3型の図1に示す構造を有するアルカリマンガン乾電池を作製した。正極ケース1の内部に、上記のように作製した正極合剤ペレット3を複数個挿入し、正極ケース1内で再加圧することによって正極ケース1の内面に密着させた。そして、この正極合剤ペレット3の内側にセパレ−タ4および底紙5を挿入した後、上記の電解液(36重量%の水酸化カリウム水溶液)を注液した。注液後、セパレータ4の内側にゲル状負極6を充填した。樹脂製封口板7、負極端子を兼ねる底板8、および絶縁ワッシャ9と一体化された負極集電体10を、ゲル状負極6に差し込み、正極ケース1の開口端部を封口板7の端部を介して底板8の周縁部にかしめつけて正極ケース1の開口部を密着させた。正極ケース1の外表面に外装ラベル11を被覆し、アルカリ乾電池を作製した。
ゲル状負極(1)を用いたものをアルカリマンガン乾電池(A1)とした。また、ゲル状負極(2)〜(8)を用いた以外はすべて上記と同様にして、それぞれのゲル状負極に対応するアルカリマンガン乾電池(A2)〜(A8)を作製した。
また、オキシ水酸化ニッケルと電解二酸化マンガンと黒鉛を重量比47:47:6の割合で配合し、混合粉100重量部に対して電解液1重量部を混合した後、ミキサーで均一に撹拌・混合して一定粒度に整粒した。得られた粒状物を中空円筒型に加圧成型して正極合剤ペレットとした。用いたオキシ水酸化ニッケルは、硫酸ニッケル水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケルとし、これを次亜塩素酸ナトリウム水溶液で化学酸化することによって得た。得られた正極合剤ペレットを用いた以外はすべて上記と同様にして、それぞれのゲル状負極に対応する単3サイズのニッケルマンガン乾電池(N1)〜(N8)を作製した。
[評価試験]
上記で作製した(A1)〜(A8)、(N1)〜(N8)のアルカリ乾電池に対して、以下の(I)〜(III)の評価を行った。
(I)1Ω接続時のCCV測定
上記で作製した電池1セルを、20℃雰囲気下で、1Ωの抵抗に対して100ミリ秒だけ接続し、この間の閉路電圧(CCV)をオシロスコープで測定した。それぞれの電池が1Ω接続(100ミリ秒)の間に到達した最低の電圧(試験数n=3で行った平均値)を読み取った。
(II)DSCパルス特性
上記で作製した電池1セルについて、20℃雰囲気下、650mWの定電力で28秒間放電させた後、1500mWの定電力で2秒間パルス放電させる操作を1サイクルとし、1500mWパルス放電の下限電圧が1.05Vに到達するまでこのサイクルを繰り返し、そのサイクル数を測定した。この評価を試験数n=3として行った平均値(サイクル数)を得た。なお、この放電パターンは、デジタルスチルカメラ(DSC)の用途を想定したもので、650mW放電がカメラの電源を入れて液晶モニター等を駆動させた状態、1500mW放電がカメラのフラッシュ撮影を行った状態を模擬している。
(III)耐漏液試験
上記で作製した電池の各50セルについて、3.9Ωの定抵抗に対して5時間の部分放電をさせた後に、80℃の環境下に1ヶ月間保存して、漏液した電池数により漏液の発生指数(%)を求めた。
以上3種類の評価試験の結果を表2に示す。
Figure 2008034247
CCV測定の結果の一部として、電池(A1)、(A6)、(A8)の測定結果を図2に示す。界面活性剤を添加していない電池(A8)と比較して、電池(A1)はほぼ同じCCV挙動を示しているが、電池(A6)では、初期に急激なCCV低下が認められる。このような差は、界面活性剤分子が放電時に亜鉛表面から円滑に離散・拡散できるか否かによって決まると推察される。
アルカリマンガン乾電池(A1)〜(A8)について、まず、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン付加型の界面活性剤)を添加した電池(A6)やカチオン性界面活性剤を添加した電池(A7)では、界面活性剤を添加していない電池(A8)に比較して、漏液(負極のガス発生)が抑制されている。一方、CCVやDSCパルス特性低下が顕著である。これは、これらの界面活性剤分子が亜鉛粒子表面に強固に吸着することで、良好な防食効果を得られるものの、放電時に亜鉛表面から離れにくいため、電極反応が阻害されていると考えられる。
アニオン性の界面活性剤を加えた電池(A1)〜(A5)では、CCVやDSCパルス特性の低下は殆どみられない。これは、界面活性剤の有する極性(マイナス)が亜鉛粒子表面の極性と同じであることから、上記の界面活性剤に比べて吸着度合いが弱くなるためと考えられる。
また、飽和モノカルボン酸塩のラウリン酸ナトリウムを添加した電池(A4)や、アルキルベンゼンスルホン酸塩のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した電池(A5)では、耐漏液性が低下している。これは、(A4)および(A5)の界面活性剤と、電解液中に溶存しているZn2+イオンやAl3+イオンとが不溶性の塩を形成し、その結果、防食効果を十分に得られなくなったためと推察される。
一方、溶存イオンと上記のような不溶性塩を形成しないアルカンスルホン酸塩のドデシルスルホン酸ナトリウムを添加した電池(A1)、アルコールスルホン酸エステル塩のラウリル硫酸ナトリウムを添加した電池(A2)、アルコールホスホン酸塩のラウリルリン酸ナトリウムを添加した電池(A3)では良好な防食効果が得られた。特に電池(A1)において、優れた放電特性および耐漏液性が得られた。
ニッケルマンガン乾電池(N1)〜(N8)においても、電池(N6)と(N7)ではCCVやDSCパルス特性の低下がみられ、電池(N4)と(N5)では耐漏液性の低下がみられる。これらの結果は、上述したアルカリマンガン乾電池の場合と同様の理由によるものと考えられる。
ニッケルマンガン乾電池においては、アルコールスルホン酸エステル塩のラウリル硫酸ナトリウムを添加した電池(N2)についても耐漏液性が低下している。これには、以下のような理由が考えられる。すなわち、アルコールスルホン酸エステル塩が高温アルカリ中で保存された際、僅かに加水分解される傾向がある。正極にオキシ水酸化ニッケルを含んだ系は、正極電位が高いために、生成物Cn2n+1−OHの酸化分解が速く、先述した式(4)の平衡が右に移動する。つまり、Cn2n+1−O−SO3Xの加水分解がより一層加速されて、十分な防食効果を維持することができないためと考えられる。
これに対して、高温アルカリ中での安定性に優れるアルカンスルホン酸塩のドデシルスルホン酸ナトリウムを添加した電池(N1)、アルコールホスホン酸塩のラウリルリン酸ナトリウムを添加した電池(N3)では良好な防食効果が得られた。特に電池(N1)において、優れた放電特性および耐漏液性が得られた。
正極がオキシ水酸化ニッケルを含むと、正極電位は高く保たれる。このため、電池全体としての高負荷放電特性は負極に依存する傾向が強まる。DSCパルス特性に関して、アルカンスルホン酸塩を添加した電池(N1)が、界面活性剤を含まない電池(N8)よりもサイクル数が増している点は、アルカリマンガン電池(A1)と(A8)では見られない傾向である。これは、負極亜鉛の腐食度合いおよび僅かな放電性能の差が、特性差として顕在化したためと考えられる。
ここで、アルコールホスホン酸塩は、電池特性上は良好だが、有リン系の材料であり、生分解性や環境への影響という観点で問題がある。一方で、アルカンスルホン酸塩は生分解性にも優れている。よって、この環境への影響という観点からも、負極がアルカンスルホン酸塩を含むことが好ましいと考えられる。
以上のように、負極がアルカンスルホン酸塩を含むことで、優れた放電特性および防食効果を有し、環境への影響も小さいアルカリ乾電池を得ることができる。
《実験例2》
負極が含むアルカンスルホン酸ナトリウムの疎水基炭素数および含有量に関する検討を行った。
負極が含む界面活性剤の種類および含有量を、表3中に示すものとした以外は、実験例1と同様にして、ゲル状負極(b1)〜(b5)、(c1)〜(c5)、(d1)〜(d5)、(e1)〜(e5)、(f1)〜(f5)、(g1)〜(g5)を作製した。実験例1と同様に、使用する界面活性剤については疎水基(Cn2n+1部位)の構造が直鎖状のものを選定した。
Figure 2008034247
得られたゲル状負極を用いて実験例1と同様にして(b1)〜(b5)、(c1)〜(c5)、(d1)〜(d5)、(e1)〜(e5)、(f1)〜(f5)、(g1)〜(g5))のゲル状負極に対応するニッケルマンガン乾電池(B1)〜(B5)、(C1)〜(C5)、(D1)〜(D5)、(E1)〜(E5)、(F1)〜(F5)、(G1)〜(G5)を作製した。作製した電池について、実験例1と同様に、(I)1Ω接続時のCCV(到達最低電圧)測定、(II)DSCパルス特性、(III)耐漏液試験の評価を行った。評価結果を表4に示す。
Figure 2008034247
アルカンスルホン酸塩の疎水基炭素数nが5〜18であり、含有量が亜鉛合金に対して0.01〜0.5重量%である電池(C2)〜(C4)、(D2)〜(D4)、(E2)〜(E4)、(F2)〜(F4)に関して、良好なCCVとDSCパルス特性(目安として、(a)1.57V以上、(b)170サイクル前後)とを得られ、耐漏液性も良好である((c)0%)ことがわかる。
疎水基炭素数nが4である電池(B1)〜(B5)では、界面活性剤によって亜鉛粒子表面に形成される、保護被膜層の撥水性が低下するため、耐漏液性が低下している。また、疎水基炭素数nが19である電池(G1)〜(G5)では、界面活性剤の移動度が乏しいために放電時の亜鉛粒子表面からの界面活性剤分子の離散が困難となり、CCVやDSCパルス特性が低下している。一方、アルカンスルホン酸塩の疎水基炭素数nは5〜18の範囲であると、より確実に優れた放電特性および耐漏液性を得ることができる。
界面活性剤の含有量を亜鉛合金全体に対して0.005重量%とした電池(B1)、(C1)、(D1)、(E1)、(F1)、ならびに0.6重量%とした電池(B5)、(C5)、(D5)、(E5)、(F5)の結果から、界面活性剤の含有量が、亜鉛合金全体に対して0.01〜0.5重量%の範囲であれば、より確実に優れた防食効果、耐漏液性ならびにCCVやDSCパルス特性を得ることができるのがわかる。
ここで、上記の実験例1および実験例2では、界面活性剤としてアルカンスルホン酸ナトリウムを使用したが、アルカンスルホン酸(Cn2n+1−SO3H)またはそのカリウム塩(Cn2n+1−SO3K)を用いても、同様の効果が得られる。また、実験例1および実験例2では、アルカンスルホン酸ナトリウムの疎水基(Cn2n+1部位)の構造が直鎖状のものを選定したが、一部側鎖を含む構造のものを用いても、同様の結果を得ることができると考えられる。
本発明に係るアルカリ一次電池は、優れた放電特性および耐漏液性を有するため、各種電子機器から玩具・ライト等の汎用機器に到るまでの幅広い用途に対して好適に用いられる。
本発明の一実施の形態であるアルカリ乾電池の一部を断面にした正面図である。 電池(A1)、(A6)、(A8)に関して、1Ωの抵抗に接続した際の電圧測定結果を示した図である。
符号の説明
1 正極ケース
2 黒鉛塗装膜
3 正極合剤ペレット
4 セパレータ
5 底紙
6 ゲル状負極
7 樹脂製封口板
8 底板
9 絶縁ワッシャ
10 負極集電体
11 外装ラベル

Claims (4)

  1. 正極と、負極活物質として少なくとも亜鉛を含む負極と、を有し、
    前記負極が、さらに式(1)Cn2n+1−SO3X、(nは整数、XはH、NaまたはK)で表される化合物を含むこと、を特徴とするアルカリ一次電池。
  2. 前記式(1)におけるnが5〜18であること、を特徴とする請求項1記載のアルカリ一次電池。
  3. 前記負極が、前記負極活物質に含まれる亜鉛または亜鉛合金の含有量に対して0.01〜0.5重量%の前記化合物を含むこと、を特徴とする請求項1または2記載のアルカリ一次電池。
  4. 前記正極が、オキシ水酸化ニッケルを含むこと、を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ一次電池。


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