JP2008025006A - 耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金板 - Google Patents

耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金板 Download PDF

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Abstract

【課題】強度延性バランス、成形性が優れた高MgのAl-Mg 系合金の耐応力腐食割れ性を向上させることを目的とする。
【解決手段】Mgを6.0 〜15.0% を含み、強度延性バランスが高くプレス成形性に優れた高MgのAl-Mg 系合金に対して、Mn、Cr、Zr、V の一種または二種以上の遷移元素を含ませるとともに、Cuを規制し、この板の板厚中心部の組織における結晶粒内に、Mn、Cr、Zr、V の一種または二種以上を含む遷移元素系析出物を析出させ、結晶粒内の電位を下げ、結晶粒内と結晶粒界との電位差を小さくして、耐応力腐食割れ性を向上させる。
【選択図】図1

Description

本発明は、高い成形性を有する高Mg含有Al-Mg 系アルミニウム合金板であって、特に、耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金板に関するものである。本発明は、板として製造されたアルミニウム合金板であって、後述する部材や部品として使用される前のアルミニウム合金板に関するものである。
周知の通り、従来から、自動車、船舶、航空機あるいは車両などの輸送機、機械、電気製品、建築、構造物、光学機器、器物の部材や部品用として、各種アルミニウム合金板(以下、アルミニウムをAlとも言う)が、合金毎の各特性に応じて汎用されている。
これらのアルミニウム合金板は、多くの場合、プレス成形などで成形されて、上記各用途の部材や部品とされる。この点、高成形性の点からは、前記Al合金のなかでも、強度・延性バランスに優れたAl-Mg 系Al合金が有利である。
このため、従来から、Al-Mg 系Al合金板に関して、成分系の検討や製造条件の最適化検討が行われている。このAl-Mg 系Al合金としては、例えばJIS A 5052、5182等が代表的な合金成分系である。しかし、このAl-Mg 系Al合金でも冷延鋼板と比較すると延性に劣り、成形性に劣っている。
このため、従来から、Al-Mg 系Al合金板に関して、成分系の検討や製造条件の最適化検討が行われている。このAl-Mg 系Al合金としては、例えばJIS A 5052、5182等が代表的な合金成分系である。しかし、このAl-Mg 系Al合金でも冷延鋼板と比較すると延性に劣り、成形性に劣っている。
これに対し、Al-Mg 系Al合金は、Mg含有量を増加させて、6%、できれば8%を超える高Mg化させると、強度延性バランスが向上する。しかし、このような高MgのAl-Mg 系合金は、DC鋳造などで鋳造した鋳塊を均熱処理後に熱間圧延を施す、通常の製造方法では、工業的に製造することは困難である。この理由は、鋳造の際に鋳塊にMgが偏析したり、通常の熱間圧延では、Al-Mg 系合金の延性が著しく低下するために、割れが発生し易くなるからである。
一方、高MgのAl-Mg 系合金を、上記割れの発生する温度域を避けて、低温での熱間圧延を行うことも困難である。このような低温圧延では、高MgのAl-Mg 系合金の材料の変形抵抗が著しく高くなり、現状の圧延機の能力では製造できる製品サイズが極端に限定されるためである。
また、高MgのAl-Mg 系合金のMg含有許容量を増加させるために、FeやSi等の第三元素を添加する方法等も提案されている。しかし、これら第三元素の含有量が増えると、粗大な金属間化合物を形成しやすく、アルミニウム合金板の延性を低下させる。このため、Mg含有許容量の増加には限界があり、Mgが8%を超える量を含有させることは困難であった。
このため、従来から、高MgのAl-Mg 系合金板を、双ロール式などの連続鋳造法で製造することが種々提案されている。双ロール式連続鋳造法は、回転する一対の水冷銅鋳型 (双ロール) 間に、耐火物製の給湯ノズルからアルミニウム合金溶湯を注湯して凝固させ、かつ、この双ロール間において、上記凝固直後に圧下し、かつ急冷して、アルミニウム合金薄板とする方法である。この双ロール式連続鋳造法はハンター法や3C法などが知られている。
双ロール式連続鋳造法の冷却速度は、従来のDC鋳造法やベルト式連続鋳造法に較べて1〜3桁大きい。このため、得られるアルミニウム合金板は非常に微細な組織となり、プレス成形性などの加工性に優れる。また、鋳造によって、アルミニウム合金板の板厚も比較的薄い1〜13mmのものが得られる。このため、従来のDC鋳塊(厚さ200 〜 600mm)のように、熱間粗圧延、熱間仕上げ圧延等の工程が省略できる。さらに鋳塊の均質化処理も省略出来る場合がある。
このような双ロール式連続鋳造法を用いて製造した高MgのAl-Mg 系合金板の、成形性向上を意図して組織を規定した例は、従来においても提案されている。例えば、6 〜10% の高MgであるAl-Mg 系合金板の、Al-Mg 系の金属間化合物の平均サイズを10μm 以下とした、機械的性質に優れた自動車用アルミニウム合金板が提案されている (特許文献1参照) 。また、10μm 以上のAl-Mg 系金属間化合物の個数を300 個/mm2以下とし、平均結晶粒径が10〜70μm とした自動車ボディーシート用アルミニウム合金板なども提案されている (特許文献2参照) 。
特開平7 −252571号公報 (全文) 特開平8 −165538号公報 (全文)
これら6%以上に高Mg化させたAl-Mg 系Al合金板を、前記した用途の構造部材として使用する場合には、構造部材としての信頼性を得るために、耐応力腐食割れ性に優れる必要がある。
しかし、Al-Mg 系Al合金板を高Mg化させるほど、腐食環境下において結晶粒界に析出するAl-Mg 系金属間化合物(β相)は多くなり、必然的に耐応力腐食割れ性が低下する。また、前記した用途の構造部材が塩水腐食環境下で使用されるほど、必然的に耐応力腐食割れ性が低下する。
これは、高MgのAl-Mg 系Al合金板特有の問題である。高MgのAl-Mg 系Al合金板では、過飽和にMgを固溶させているために、室温下での使用でも、前記β相の結晶粒界への析出が生じる。そして、このβ相の結晶粒界への析出は、高MgのAl-Mg 系Al合金板の、前記した部材や部品へ成形、加工する際の歪み付与や、使用温度の上昇などで加速される。
通常のMg含有量が6%未満の範囲で、Mg含有量が比較的高い、A5056 、5082、5182、5083、5086などの規格Al-Mg 系Al合金板では、耐応力腐食割れ性を向上させるために、Mn、Cr、Zr、V などの遷移元素やCuを添加することが、良く知られている。
しかし、6%以上に高Mg化させたAl-Mg 系Al合金板では、上記通常のMg含有量範囲(Mg 含有量が少ない範囲) での規格Al-Mg 系Al合金板とは、前記した通り、応力腐食割れ性の挙動が異なり、より鋭敏となる。このため、本発明者らの知見によれば、6%以上に高Mg化させたAl-Mg 系Al合金板では、Cuを添加すると却って耐応力腐食割れ性が低下する。このため、前記した低Mg含有量のAl-Mg 系Al合金板における耐応力腐食割れ性向上対策は、高MgのAl-Mg 系Al合金板にはそのまま適用することができない。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は強度延性バランス、成形性が優れた高MgのAl-Mg 系合金の耐応力腐食割れ性を向上させることである。
この目的を達成するために、耐応力腐食割れ性が優れた本発明アルミニウム合金板の要旨は、質量% で、Mg:6.0〜15.0% を含み、Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.3% 以下、V:0.3%以下の一種または二種以上を含み、かつCu:0.2% 以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl-Mg 系アルミニウム合金板であって、この板の板厚中心部の組織における結晶粒内の、Mn、Cr、Zr、V の一種または二種以上を含む遷移元素系析出物周囲の平均長さが、各析出物の円相当径で換算して、1 μm/μm2以上であることとする。
上記目的を達成するために、本発明アルミニウム合金板が、更に、質量% で、Fe:1.0% 以下、Si:0.5% 以下、Ti:0.1% 以下、Zn:1.0% 以下に各々抑制することが好ましい。
本発明は、板として製造された高MgのAl-Mg 系合金板であって、前記した部材や部品として使用される前のアルミニウム合金板である。高MgのAl-Mg 系合金板では、前記した通り、過飽和にMgを固溶させているために、部材や部品として使用される環境で、室温下での使用でも、β相(Al-Mg系析出物、Al-Mg 系金属間化合物) が、組織内の結晶粒界に多量にかつ優先的に析出するようになる。
このβ相の電位は低く、優先的に腐食が生じやすい。このため、β相が結晶粒界に多量にかつ優先的に存在するようになると、結晶粒界の側の電位が、結晶粒内の側の電位に比して著しく低くなる。この結果、結晶粒界の側が著しく(優先的に)腐食しやすくなり、特に、耐応力腐食割れ性が低下しやすい。高MgのAl-Mg 系合金板の耐応力腐食割れ性が低下するのは、この理由による。
これに対して、本発明では、Mn、Cr、Zr、V などの遷移元素を添加して高MgのAl-Mg 系合金板を製造することにより、前記した部材や部品として使用される前に、製造された板の状態で、板の結晶粒内に、これら遷移元素を含む析出物としての遷移元素系析出物(遷移元素系分散粒子)を結晶粒内に、均一微細に分散して予め析出させておく。これによって、前記した部材や部品として使用されて、β相が析出しやすい環境となっても、前記遷移元素系析出物を核生成サイトとして、結晶粒内にβ相を析出させる。
合金元素として添加された、Mn、Cr、Zr、V などの遷移元素は、製造された本発明高MgのAl-Mg 系合金板の状態では、分散粒子を形成して結晶粒内に均一微細に分散して予め析出している。そして、前記した部材や部品として使用される、β相が析出しやすい環境下で始めて、β相の核生成サイトとなって機能し、本発明高MgのAl-Mg 系合金板からなる部材や部品の結晶粒内にβ相を結晶粒内に均一微細に析出させる。
これによって、β相が析出しやすい環境となって、β相が板の結晶粒界に析出したとしても、β相を析出させた結晶粒内の電位を下げて、結晶粒内の電位と結晶粒界の電位との差(電位差)、言い換えると、組織における電位の不均一さを極力小さくする。これによって、応力腐食環境下での高MgのAl-Mg 系合金板からなる部材や部品の耐応力腐食割れ性を向上させる。
本発明が対象とする高MgのAl-Mg 系合金板では、応力腐食割れが起こりやすい環境下で、β相が結晶粒界の側に優先的に析出すること自体は避け難い。即ち、高MgのAl-Mg 系合金板では、結晶粒界に析出する析出物を抑制する(少なくする)ことは困難である。したがって、このような特有の問題を有する高MgのAl-Mg 系合金板では、結晶粒内の側にも遷移元素系析出物であるβ相を析出させて、この析出物によって結晶粒内の電位を下げ、結晶粒内と結晶粒界との電位差(組織における電位の不均一さ)を極力小さくする、本発明手段は特に有効となる。
β相が析出しやすい使用環境となった際に、本発明では、このように結晶粒内と結晶粒界との電位差を極力小さくし、耐応力腐食割れ性を実質的に向上させることができる量だけ、結晶粒内にβ相を析出させる。このβ相析出量を保証する分だけ、遷移元素系析出物 (遷移元素系分散粒子) を予め板組織の結晶粒内に析出させる基準として、本発明では、板組織における結晶粒内の遷移元素系析出物周囲の平均長さを上記のように規定する。
以上のように、本発明では、板の結晶粒内の遷移元素系析出物 (遷移元素系分散粒子) のサイズ、形態を制御し、使用環境によって、結晶粒界に例えβ相が析出しても、これらの遷移元素系析出物が核生成サイトとなって、β相などの析出物を結晶粒内に均一微細に析出させる。これによって、粒界と粒内の電位差の不均一さを低減させ、応力腐食環境下での高MgのAl-Mg 系合金板からなる部材や部品の耐応力腐食割れ性を向上させる。本発明の板の耐応力腐食割れ性が優れた意味とは、この板からなる部材や部品の耐応力腐食割れ性が優れているという意味である。
なお、本発明者らは、先に、6%以上に高Mg化させたAl-Mg 系Al合金板の成形性を向上させるために、同じく、50000 倍の透過型電子顕微鏡により観察される結晶粒内のAl-Mg 系析出物を規定した特許を出願した。即ち、結晶粒内のAl-Mg 系析出物の平均粒径(100nm以下) 、平均密度(0.1個/ μm2以上、103 個/ μm2以下) を規定した特許を特願2005-270692 号として出願した。
しかし、この先願発明は、伸びフランジ性を向上させるために結晶粒内のAl-Mg 系析出物を規定するものであり、耐応力腐食割れ性を向上させるものではない。また、この先願発明は結晶粒内のAl-Mg 系析出物を規定するものであり、本発明のような結晶粒内の遷移元素系析出物 (遷移元素系分散粒子) を規定するものではない。更に、この先願発明は、上記結晶粒内のAl-Mg 系析出物規定とするために、最終焼鈍後に更に低温での付加焼鈍を行うものであり、製造方法が異なる。
(結晶粒内組織)
図1の組織写真 (20000 倍のFE-TEM写真) に、後述する実施例の発明例5の板厚中心部の組織における結晶粒内の遷移元素系化合物を示す。図1において、分散して存在する黒い点々が、結晶粒内の、Mn、Cr、Zr、V の一種または二種以上を含む析出物、即ち遷移元素系化合物である分散粒子を示す。
この図1において、個々の析出物周囲の平均長さは、後述する表3 の発明例1 の通り、各析出物の円相当径で換算して、1 μm/μm2以上である。
この析出物周囲の平均長さの単位であるμm/μm2の規定の意味は、析出物の単位断面積 (μm2) 当たりの、析出物の断面円相当の周囲長さ( μm)を表す。
(遷移元素系析出物)
本発明では、結晶粒内の観察されるMn、Cr、Zr、V の一種または二種以上を含む析出物 (遷移元素系析出物) の平均長さを、これら各析出物の円相当径に換算して、1 μm/μm2以上とする。これによって、これら遷移元素系析出物が、サイズ、形態的に、β相析出に有効な核生成サイトとして機能できる。この結果、β相が析出しやすい使用環境で、結晶粒内と結晶粒界との電位差を極力小さくし、耐応力腐食割れ性を実質的に向上させられるだけ、結晶粒内にもβ相を析出させることができる。よって、後述する実施例で裏付ける通り、高MgのAl-Mg 系合金板の耐応力腐食割れ性を向上できる。
一方、結晶粒内の観察される遷移元素系析出物周囲の上記平均長さが1 μm/μm2未満では、遷移元素系析出物が、サイズ、形態的に、β相が析出しやすい使用環境で、β相析出に有効な核生成サイトとして機能できない。この結果、結晶粒内の側の電位を有効に下げることができなくなり、結晶粒内と結晶粒界との電位差を小さくできず、組織における電位の不均一さも解消できない。このため、従来と同じく、結晶粒界の側の電位が、結晶粒内の側の電位に比して著しく低くなり、結晶粒界の側が著しく(優先的に)腐食しやすくなり、後述する実施例で裏付ける通り、耐応力腐食割れ性が低下しやすくなる。
(結晶粒内遷移元素系析出物の周囲長さの測定方法)
高MgのAl-Mg 系合金板の板厚中心部から試料を採取し、試料表面を0.05〜0.1mm 機械研磨した後、電解エッチングした表面 (板厚方向でも板の長手方向でもどちらでも良い) を、20000 倍のFE-TEM (透過型電子顕微鏡) により観察する。板厚中心部におけるFE-TEMによる組織観察は板厚中心部1 箇所につき、観察視野の合計面積が 4μm2以上となるように行い、これを板の長手方向に適当に距離を置いた10箇所観察した結果を平均化する。
本発明で言う遷移元素系析出物は、このFE-TEMにより観察された視野をX 線分光装置(EDX) により分析することにより、Mn、Cr、Zr、V の一種または二種以上を含むことが確認され、これら遷移元素を含まない他の析出物と識別される。Mn、Cr、Zr、V の一種または二種以上を含む量は、EDX により検出できる量 (微量) あれば良い。即ち、視野内の析出物からMn、Cr、Zr、V の一種または二種以上がEDX により量を問わず検出できれば、本発明で言う遷移元素系析出物( 分散粒子) とする。
結晶粒内の遷移元素系析出物の周囲長さは、 1個当たりの遷移元素系析出物の円相当直径であり、FE-TEM視野内の各遷移元素系析出物全てについてこの円相当直径を測定し、平均化したものを、観察1 箇所当たりの遷移元素系析出物周囲の平均長さとする。また、この1 箇所当たりの遷移元素系析出物周囲の平均長さを更に前記測定10箇所で平均化したものが、本発明で言う平均周囲長さとなる。
(化学成分組成)
本発明Al合金板における化学成分組成の、各合金元素の意義及びその限定理由について以下に説明する。本発明Al合金板は、強度−伸びバランスなどの成形性を向上させるとともに、耐応力腐食割れ性を向上させるために、質量%(以下、同じ) で、Mg:6.0〜15.0% を含み、Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.3% 以下、V:0.3%以下の一種または二種以上を含み、かつCu:0.2% 以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなる化学成分組成とする。
ここで、それ以外の元素である、Fe、Si、Ti、Znは、質量% で、Fe:1.0% 以下、Si:0.5% 以下、Ti:0.1% 以下、Zn:1.0% 以下の含有量に、各々抑制することが好ましい。
(Mg:6.0 〜15.0%)
MgはAl合金板の強度、延性を高める重要合金元素である。Mg含有量が少な過ぎると、強度、延性が不足して、高MgのAl-Mg 系Al合金の特徴が出ず、成形性が不足する。一方、Mg含有量が多過ぎると、製造方法や条件の制御を行なっても、Al-Mg 系化合物の晶析出が多くなる。この結果、成形性が著しく低下する。また、加工硬化量が大きくなり、冷間圧延性も低下させる。したがって、Mgは6.0 〜15.0% の範囲、好ましくは8%を超え14% 以下の範囲とする。
(Mn、Cr、Zr、V )
Mn、Cr、Zr、V などの遷移元素は、結晶粒内にもβ相を析出させるための必須の元素である。即ち、β相析出環境下では、これら結晶粒内の遷移元素の遷移元素系析出物が、結晶粒内のβ相の核生成サイト(駆動力)となって、結晶粒内にもβ相を析出させる。これによって、結晶粒内の電位を下げて、結晶粒内と結晶粒界の電位差(組織における電位の不均一さ)を極力小さくし、腐食環境下で耐応力腐食割れ性を向上させるための必須の元素である。このため、Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.3% 以下、V:0.3%以下の一種または二種以上を必須に含有させる。
これらの遷移元素の効果は含有量が微量でも発揮される、言い換えると、微量でも結晶粒内に遷移元素系析出物を形成し、これらの遷移元素系析出物は微量でもβ相の核生成サイトとなり、腐食環境下で耐応力腐食割れ性を向上させるので、敢えて、これら遷移元素の含有量の下限値は規定しない。ただ、通常の板の製造条件で、これらの効果を効率的に発揮させるためには、各々含有量が0.05% 以上であることが好ましい。したがって、好ましくは、これら遷移元素の含有量の下限値は各々0.05% 以上とする。
(Cu:0.2%以下)
Cuは耐応力腐食割れ性を低下させるため、その含有量は0.2%以下に規制する。前記した通り、通常のMg含有量が6%未満の規格Al-Mg 系Al合金板では、耐応力腐食割れ性を向上させるためにCuを添加する場合がある。しかし、本発明が対象とする6%以上に高Mg化させたAl-Mg 系Al合金板では、応力腐食割れ性の挙動が異なり、Cuを含有させた場合には、逆に、応力腐食割れ感受性がより鋭敏となって、耐応力腐食割れ性が低下する。
(その他の元素)
この他の元素は基本的に不純物元素であり、化合物を形成して破壊靱性や成形性を阻害するので含有量は少ない方が良い。しかし、例えば、Tiには鋳造板 (鋳塊) 組織の微細化効果などの効果もある。また、Znには、強度を向上させる効果もある。このため、これら効果を狙って、敢えて含有を許容する場合もあり、本発明の目的である耐応力腐食割れ性や成形性などを阻害しない範囲で、これら元素を含有させることは許容される。これらの許容量は、各々、Fe:1.0% 以下、Si:0.5% 以下、Ti:0.1% 以下、Zn:1.0% 以下である。
(製造方法)
以下に、本発明におけるAl-Mg 系Al合金板の製造方法につき説明する。
本発明の高MgのAl-Mg 系Al合金板は、DC鋳造などで鋳造した鋳塊を均熱処理後に熱間圧延を施す、通常の製造方法でも良い。ただ、通常の製造方法では、前記した通り、高MgのAl-Mg 系Al合金板を効率良く鋳造することが難しいので、高い効率を求める場合には、双ロール式などの連続鋳造と、熱間圧延を省略した、冷間圧延、焼鈍とを組み合わせて製造された、板厚0.5 〜3mm の板とすることが好ましい。
ただ、DC鋳造にするにしても、双ロール式にするにしても、本発明の高MgのAl-Mg 系Al合金板の組織とするために、共通する工程である、特に、鋳造前の溶湯の注湯温度、最終焼鈍温度、最終焼鈍後の平均冷却速度などの条件には注意を要する。これらの条件次第で、本発明の高MgのAl-Mg 系Al合金板の組織として、結晶粒内の観察される遷移元素系析出物周囲の平均長さが、これら各析出物の円相当径に換算して、1 μm/μm2以上とできなくなる可能性もある。この結果、耐応力腐食割れ性を実質的に向上させられるだけ、結晶粒内にもβ相を析出させることができなくなる可能性もある。
(注湯温度)
DC鋳造や双ロール式連続鋳造において、Al合金溶湯を注湯する際の注湯温度(鋳造前溶湯温度)は、粗大な初晶化合物の生成を抑制するために、液相線温度以上である630 ℃以上、Mg含有量が多くなるにつれて、好ましくは680 ℃以上、より好ましくは720 ℃以上とする。この鋳造前溶湯温度が680 ℃未満など低過ぎる場合、粗大な初晶化合物が生成して、結晶粒内に析出する遷移元素系析出物が少なくなり、結晶粒内の観察される遷移元素系析出物周囲の平均長さが、これら各析出物の円相当径に換算して、1 μm/μm2以上とできなくなる可能性が高い。
ただ、鋳造前溶湯温度が720 ℃を越えると溶湯中のMgの酸化が激しくなり、実用的ではないので、鋳造前溶湯温度が720 ℃を越えて高くする必要は無い。更に、鋳造前溶湯温度が高過ぎると、鋳造冷却速度が小さくなり、Al-Mg 系などの金属間化合物全般が粗大化したり、多量に晶出する可能性もあり、強度伸びバランスを低下させる。
(最終焼鈍)
DC鋳造や双ロール式連続鋳造で得られた、冷延後などの最終Al合金板は、400 ℃〜液相線温度で最終焼鈍することが好ましい。焼鈍温度が400 ℃未満では、溶体化効果が得られない可能性が高い。このため、結晶粒内に析出する遷移元素系析出物が少なくなり、結晶粒内の観察される遷移元素系析出物周囲の平均長さが、これら各析出物の円相当径に換算して、1 μm/μm2以上とできなくなる可能性が高い。また、高MgのAl-Mg 系合金板の伸びが低下し、強度−延性バランスが低下して、プレス成形性が低下する可能性が高い。なお、最終焼鈍温度は450℃以上が好ましい。
また、この最終焼鈍後には、500 〜300 ℃の温度範囲を10℃/s以上の、できるだけ速い平均冷却速度で冷却する必要がある。最終焼鈍後の平均冷却速度が遅く、10℃/s未満であれば、冷却過程で、粒界にβ相が多量に析出する。この結果、結晶粒内の観察される遷移元素系析出物周囲の平均長さが、これら各析出物の円相当径に換算して、1 μm/μm2以上とできなくなる可能性が高い。また、高MgのAl-Mg 系合金板の伸びが低下し、強度−延性バランスが低下して、プレス成形性が低下する可能性が高い。このため、上記平均冷却速度は、好ましくは15℃/s以上が良い。
(双ロール式連続鋳造)
以下に、双ロール式連続鋳造の条件の説明をする。なお、連続鋳造方法としては、双ロール式の他に、ベルトキャスター式、プロペルチ式、ブロックキャスター式などがある。しかし、高MgのAl-Mg 系Al合金板鋳造の際の冷却速度を後述する通り速くするためには、双ロール式連続鋳造が好ましい。
この双ロール式連続鋳造は、前記した通り、回転する一対の水冷銅鋳型などの双ロール間に、耐火物製の給湯ノズルから、上記成分組成のAl合金溶湯を注湯して凝固させ、かつ、この双ロール間において、上記凝固直後に圧下し、かつ急冷して、Al合金薄板とする。
(双ロール冷却速度)
例えば、鋳造する板厚が1 〜13mmの比較的薄板の範囲であっても、高MgのAl-Mg 系合金板の平均結晶粒径を微細化するためには、この双ロールによる鋳造の冷却速度は100 ℃/s以上のできるだけ大きい冷却速度 (凝固速度) が必要である。この点、双ロール表面に潤滑剤を用いた場合、理論計算上は冷却速度が速くても、実質的な、あるいは実際における冷却速度が実質的に100 ℃/s未満となりやすい。このため、高MgのAl-Mg 系合金板の平均結晶粒径を微細化できず、プレス成形性が著しく低下する。
なお、この冷却速度は、直接の計測は難しいので、鋳造された板 (鋳塊) のデンドライトアームスペーシング (デンドライト二次枝間隔、:DAS) から公知の方法(例えば、軽金属学会、昭和63年8.20発行、「アルミニウムデンドライトアームスペーシングと冷却速度の測定方法」などに記載)により求める。即ち、鋳造された板の鋳造組織における、互いに隣接するデンドライト二次アーム (二次枝) の平均間隔d を交線法を用いて計測し (視野数3 以上、交点数は10以上) 、このd を用いて次式、d = 62×C -0.337 (但し、d:デンドライト二次アーム間隔mm、C : 冷却速度℃/s) から求める。
(双ロール潤滑)
この際、双ロールとしては、潤滑剤によって表面が潤滑されていないロールを用いることが望ましい。従来では、溶湯がロール表面に接触および急冷されて、双ロール表面に造形される凝固殻の割れを防止するために、酸化物粉末 (アルミナ粉、酸化亜鉛粉等) 、SiC 粉末、グラファイト粉末、油、溶融ガラスなどの潤滑剤 (離型剤) を、双ロール表面に塗布あるいは流下させて用いることが一般的であった。しかし、これら潤滑剤を用いた場合、冷却速度が遅くなって、必要な冷却速度が得られない。このため、結晶粒が粗大となって、高MgのAl-Mg 系合金板の成形性が低下する。また、これら潤滑剤を用いた場合、双ロール表面において、潤滑剤の濃度や厚みの不均一によって、冷却のムラが生じやすく、板の部位によっては凝固速度が不十分となりやすい。このため、Mg含有量が高くなるほど、マクロ偏析やミクロ偏析が大きくなり、Al-Mg 系合金板の成形性を均一にすることが困難となる可能性が高くなる。
(双ロール鋳造板厚)
双ロール連続鋳造により製造する薄板の板厚は好ましくは1 〜13mmの範囲とする。そして、好ましくは、1mm 以上、5mm 未満の薄い板厚とする。板厚1mm 未満の連続鋳造は、双ロール間への注湯や、双ロール間のロールギャップ制御などの鋳造限界から、困難である。他方、板厚が13mm、より厳しくは板厚が5mm を超えて厚くなった場合、鋳造の冷却速度が著しく遅くなり、Al-Mg 系などの金属間化合物全般が粗大化したり、多量に晶出する傾向がある。この結果プレス成形性が著しく低下する可能性が高くなる。
(双ロール周速)
回転する一対の双ロールの周速は、双ロールが縦型で、鋳型溶湯の接触距離が60mm以上であれば、1m /min 以上とすることが好ましい。また、双ロールが横型で、鋳型溶湯の接触距離が30mm以下であれば、周速は0.5m /min 以上とすることが好ましい。この双ロールの周速は、鋳造板の表面品質に影響を与える、溶湯と鋳型 (双ロール) との接触時間に大きく関係する。双ロールの周速が小さ過ぎると、溶湯と鋳型 (双ロール) との接触時間が長くなり、鋳造薄板の表面品質が低下する可能性がある。この点で、双ロールの周速は速いほど、溶湯と鋳型 (双ロール) との接触時間が短くなるために良く、上記いずれの場合も、好ましい周速は30m/min 以上である。
以下に、DC鋳造の工程条件、あるいは双ロール式連続鋳造にも共通する工程条件の説明をする。
(均質化熱処理)
均質化熱処理(均熱処理とも言う)は、DC鋳造などで鋳造した鋳塊では、Mgの偏析抑制のために、熱間圧延前に必須に施される。また、比較的Mgの偏析が少ない双ロール式連続鋳造方法による板状鋳塊では選択的に施されるが、Mgの偏析抑制のためには、冷間圧延前に施されることが好ましい。
均質化熱処理は、400 ℃以上液相線温度以下で、必要時間行なう。この時間は双ロール式連続鋳造方法による薄板状鋳塊を、連続熱処理炉を使用して均質化熱処理する場合には 1秒(1s)以下が目安である。また、DC鋳造などで鋳造した鋳塊をバッチ式熱処理炉を使用して均質化熱処理する場合には1 〜10時間(1〜10hr) が目安である。この均質化熱処理によって、Mgの偏析度合いが小さくなり、Mgの偏析度合いを、上記本発明範囲内に抑制することができる。
均質化熱処理するに際しては、鋳塊の昇温時と冷却時の両方の途中過程で、昇温速度と冷却速度が小さいと、Al-Mg 系金属間化合物が発生する可能性が十分にある。特に、Al-Mg 系金属間化合物が発生する可能性が高い温度域は、昇温時は鋳塊中心部の温度が200 ℃から400 ℃までの範囲、冷却時は均質化熱処理温度から100 ℃までの範囲である。
このため、このような均質化熱処理を選択的に行なう際には、Al-Mg 系金属間化合物発生を抑制するために、均質化熱処理温度への加熱の際に、鋳塊中心部の温度が200 ℃から400 ℃までの範囲の平均昇温速度を5 ℃/s以上とすることが好ましい。また、均質化熱処理温度からの冷却に際して、均質化熱処理温度から100 ℃までの範囲の平均冷却速度を5 ℃/s以上とすることが好ましい。
(熱間圧延)
DC鋳造などで鋳造した鋳塊は、均質化熱処理後に、熱間圧延温度まで冷却されるか、そのまま熱間圧延される。この熱間圧延条件は常法で良い。一方、双ロール式連続鋳造方法による板状鋳塊は、オンラインでもオフラインでも熱間圧延せずに、冷間圧延される。
(冷間圧延)
冷間圧延では、双ロール式連続鋳造方法による板状鋳塊が、また、DC鋳造などで鋳造した鋳塊では、上記熱間圧延された熱延板が、製品板の板厚0.5 〜3mm に冷間圧延されて、鋳造組織が加工組織化される。
この点、冷間圧延される板の板厚が厚い場合には、冷延途中に中間焼鈍を入れて、最終の冷間圧延における冷延率を60% 以下とすることが好ましい。なお、冷間圧延における加工組織化の程度は冷間圧延の冷延率にもより、上記集合組織制御のために、鋳造組織が残留する場合もあるが、成形性や機械的な特性を阻害しない範囲で許容される。冷間圧延後の板は、前記した条件で最終焼鈍され、製品板とされる。
以下に本発明の実施例を説明する。表1 に示す種々の化学成分組成のAl-Mg 系Al合金溶湯(発明例A〜I、比較例J〜P)を、前記した双ロール連続鋳造法およびDC鋳造法により、表2 に示す条件で各鋳塊板厚に鋳造した。
そして、双ロール連続鋳造法の場合には、各Al合金薄板鋳塊を、表2 に示す条件で均熱処理した後、熱間圧延することなしに、板厚1.0mm まで冷間圧延した。また、DC鋳造法の場合には、Al合金溶湯の注湯温度 (鋳造前の溶湯温度) を表2 に示す各温度とし、表2 に示す条件で、各Al合金鋳塊を均熱処理した後、480 ℃の開始温度、350 ℃の終了温度で、表2 に示す各板厚まで圧延する熱間圧延を行い、その後、共通して、板厚1.0mm まで冷間圧延した。なお、これらの冷間圧延中の中間焼鈍は行なわなかった。
また、これら各冷延板を、表2 に示す温度と冷却条件で、連続焼鈍炉で最終焼鈍を行った。
双ロール連続鋳造の際の、双ロールの周速は70m /min、Al合金溶湯を双ロールに注湯する際の注湯温度 (鋳造前の溶湯温度) は、表2 に示す各温度とし、双ロール表面の潤滑は行なわなかった。
このように得られた、最終焼鈍後の高Mgの Al-Mg系Al合金板の、長手方向( 圧延方向) に亙って、互いの間隔を100mm 以上開けた任意の測定箇所、10箇所における板厚中心部から試料を採取し、前記した測定方法により、結晶粒内の遷移元素系析出物周囲の平均長さ( μm / μm2) を測定した。表3 に測定結果を示す。なお、FE-TEMは日立製作所製電界放射型透過電子顕微鏡:HF-2000を用いた。
なお、これら発明例、比較例とも、得られたAl合金板表面の平均結晶粒径は30〜60μm の範囲であった。
更に、前記板厚中心部から試験片を採取し、各試験片の機械的性質と、強度延性バランス [引張強度(TS:MPa)×全伸び(EL:%)](MPa%) の平均値を求め、また、成形性などの特性も計測、評価した。これらの結果も表3 に示す。
引張試験はJIS Z 2201にしたがって行うとともに、試験片形状はJIS 5 号試験片で行い、試験片長手方向が圧延方向と一致するように作製した。また、クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
成形性の材料試験評価としては、張出性の評価として、平面ひずみ状態の張出試験、伸びフランジ性の評価としてバーリング試験を行った。
張出試験は、直径101.6mmの球頭張出ポンチを用い、長さ180mm 、幅110mmの試験片に潤滑剤としてR-303Pを塗布し、成形速度4mm/s 、しわ押さえ荷重200kNで張出成形試験を行い、試験片が割れる際の高さ(mm)を測定した。
耐応力腐食割れ性試験は、最終焼鈍後の板厚1.0mm の板を、更に、応力腐食割れに対する鋭敏化処理として、圧下率30% で更に冷間圧延を行った後で、120 ℃×7 日間の熱処理を行なった上で、耐応力腐食割れ性試験を行なった。この鋭敏化処理は、応力腐食割れの促進処理であり、実際の構造材として塩水環境下での数年単位の使用期間に相当する。本発明が対象とする高MgのAl-Mg 系Al合金板では、前記した通り、室温でもβ相の結晶粒界への析出が生じるため、この冷間圧延での歪み導入や、その後の熱処理によって、β相の結晶粒界への析出が加速される。
上記鋭敏化処理後の板から、20mm×80mmサイズの試験片を、圧延方向に直角の方向を長手方向として切り出し、曲げR10mm で180 °曲げをした上で、20mmの幅の治具で両端部を互いに拘束した。この試験片を3.5%NaCl溶液に浸漬しながら、6.2mA/cm2 の定電流を負荷し、30分までは5 分毎、30分を越えてからは10分毎に、試験片の割れ発生および割れ進行状況のチェックを目視で行い、割れが進行して試験片が破断した所要時間 (分) をSCC 寿命 (応力腐食割れ寿命) とした。これらの結果も表3 に示す。
表1 、2 の通り、発明例1 〜16は、表1 のA〜Iの本発明範囲内の組成を有する高MgのAl-Mg 系Al合金板例であって、好ましい製造条件範囲内で製造されている。このため、表3 の通り、発明例1 〜16は、板の板厚中心部における組織の、結晶粒内のAl-Mg 系析出物周囲の平均長さが1 μm/μm2以上であり、本発明範囲内である。この結果、発明例1 〜16は、強度延性バランス、限界張出高さなどのプレス成形性に優れ、SCC 寿命も長時間であり、耐応力腐食割れ性に優れている。
これに対して、表1 、2 の通り、比較例24〜26、30〜32は、表1 のA 〜C の本発明範囲内の組成を有する高MgのAl-Mg 系Al合金例ではあるが、共通して、鋳造前の溶湯温度が630 ℃未満と低過ぎ、好ましい製造条件の範囲外で製造されている。また、比較例25は、最終焼鈍後の冷却速度が小さ過ぎる。
このため、いずれも、表3 の通り、板の板厚中心部における組織の、結晶粒内のAl-Mg 系析出物周囲の平均長さが1 μm/μm2未満であり、本発明範囲外である。この結果、比較例24〜26、30〜32は、発明例とプレス成形性にあまり差は無いものの、SCC 寿命が著しく短時間であり、発明例に比して、耐応力腐食割れ性が著しく劣っている。
一方、比較例17〜23、27〜29は、表1 のJ〜Pの本発明範囲から外れた組成を有する高MgのAl-Mg 系Al合金例である。また、比較例17は鋳造前の溶湯温度が630 ℃未満と低過ぎる、比較例22は最終焼鈍温度が低過ぎる、比較例23、28は最終焼鈍後の冷却速度が小さ過ぎるなど、好ましい製造条件の範囲外で製造されているものもある。
比較例17の合金である表1 のJはMg含有量が少な過ぎる。
比較例18の合金である表1 のKはCu含有量が多過ぎる。
比較例19の合金である表1 のLはZn含有量が多過ぎる。
比較例20の合金である表1 のMはMn含有量が多過ぎる。
比較例21の合金である表1 のNはCr含有量が多過ぎる。
比較例22の合金である表1 のOはZr含有量が多過ぎる。
比較例23の合金である表1 のPはV 含有量が多過ぎる。
このため、比較例17〜23、27〜29は、いずれも、表3 の通り、板の板厚中心部における組織の、結晶粒内のAl-Mg 系析出物周囲の平均長さが1 μm/μm2未満であり、本発明範囲外である。この結果、強度延性バランスが低く、プレス成形性にも劣っている。そして、例え発明例とプレス成形性にあまり差が無くても、いずれもSCC 寿命が著しく短時間であり、発明例に比して、耐応力腐食割れ性が著しく劣っている。
(結晶粒内、粒界に存在するβ相の観察)
前記耐応力腐食割れ性評価試験後の試験片の板厚中心部の、結晶粒内、粒界に存在するβ相を50000 倍のFE-TEM (透過型電子顕微鏡) により、各々10視野観察した。β相であることは、X 線分光装置(EDX) により、上記FE-TEMにより観察される析出物のAl、Mg量を分析して、実質的にこれらAl、Mgからなる (最大量の) ものをβ相と判断した。
この結果、発明例1 〜16は、上記試験片の10視野とも、前記発明例5 の図1 と同様に、結晶粒内に多数のβ相の存在が確認された。これらの結晶粒内のβ相は、元の板の結晶粒内に析出した遷移元素系化合物を核生成サイトとして生成したものと推定される。また、発明例1 〜16は、勿論、粒界にも多数のβ相の存在が確認された。
一方、比較例24〜26、30〜32は、結晶粒界には多数のβ相の存在が確認されたものの、上記試験片の10視野とも、結晶粒内にはβ相の存在が確認されなかった。これは、これら比較例の元の板の結晶粒内に析出した遷移元素系化合物周囲の平均長さが1 μm/μm2未満であり、β相の核生成サイトとして機能しなかったためと推定される。
したがって、これらの実施例の結果から、本発明が対象とする高MgのAl-Mg 系合金板において、周囲の平均長さが1 μm/μm2となるように、結晶粒内に遷移元素系析出物を析出させれば、結晶粒内にβ相を析出させて、結晶粒内の電位を下げ、結晶粒内と結晶粒界との電位差(電位の不均一さ)が小さくなり、耐応力腐食割れ性が向上することが裏付けられる。
また、同時に、本発明の結晶粒内のAl-Mg 系析出物規定や、これを規定内とする好ましい製造条件の、強度延性バランスや成形性、そして耐応力腐食割れ性に対する臨界的な意義が分かる。
Figure 2008025006
Figure 2008025006
Figure 2008025006
以上説明したように、本発明によれば、強度延性バランス、成形性が優れた高MgのAl-Mg 系合金の耐応力腐食割れ性を向上させたことができる。この結果、自動車、船舶、航空機あるいは車両などの輸送機、機械、電気製品、建築、構造物、光学機器、器物の部材や部品などの、成形性とともに耐応力腐食割れ性が要求されるアルミニウム合金板用途への適用を拡大できる。
実施例における発明例の組織を示す図面代用写真である。

Claims (2)

  1. 質量% で、Mg:6.0〜15.0% を含み、Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.3% 以下、V:0.3%以下の一種または二種以上を含み、かつCu:0.2% 以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl-Mg 系アルミニウム合金板であって、この板の板厚中心部の組織における結晶粒内の、Mn、Cr、Zr、V の一種または二種以上を含む遷移元素系析出物周囲の平均長さが、各析出物の円相当径で換算して、1 μm/μm2以上であることを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金板。
  2. 前記アルミニウム合金板が、更に、質量% で、Fe:1.0% 以下、Si:0.5% 以下、Ti:0.1% 以下、Zn:1.0% 以下に各々抑制した請求項1に記載の耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金板。
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