JP5406600B2 - 伸びフランジ性に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents

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本発明は、伸びフランジ性に優れた高Mg含有Al−Mg系アルミニウム合金板およびその製造方法に関するものである。ここで、本発明高Mg含有Al−Mg系アルミニウム合金板とは、伸びフランジ性が要求される冷間圧延性やプレス成形性に優れたものとして、冷間圧延前のアルミニウム合金板あるいは冷間圧延後のアルミニウム合金板を意味する。
周知の通り、従来から、自動車、船舶、航空機あるいは車両などの輸送機、機械、電気製品、建築、構造物、光学機器、器物の部材や部品用として、各種アルミニウム合金板(以下、アルミニウムをAlとも言う)が、合金毎の各特性に応じて汎用されている。
これらのアルミニウム合金板は、多くの場合、プレス成形などで成形されて、上記各用途の部材や部品とされる。この点、高成形性の点からは、前記アルミニウム合金のなかでも、強度延性バランスに優れたAl−Mg系アルミニウム合金が有利である。
但し、従来から汎用されている、Mg含有量が6%未満の、例えば、代表的なJIS A 5052、5182等の、5000系のAl−Mg系アルミニウム合金板は、冷延鋼板と比較すると延性に劣り、成形性に劣っている。
これに対し、Mg含有量を増加させ、6%できれば8%を超えて高Mg化させると、Al−Mg系アルミニウム合金でも強度延性バランスが大きく向上する。しかし、このような高Mg含有量のAl−Mg系アルミニウム合金は、DC鋳造などで鋳造した鋳塊を均熱処理後に熱間圧延を施す通常の製造方法では、不可能ではないが製造することが難しい。これは、鋳造の際に鋳塊にMgが偏析すると、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金の延性が著しく低下するため、通常の熱間圧延では割れが発生し易くなるからである。
このため、従来から、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板を双ロール式やベルトキャスターなどの薄板連続鋳造法で製造することが種々提案されている。双ロール式連続鋳造法は、回転する一対の水冷銅鋳型(双ロール)間に、耐火物製の給湯ノズルからアルミニウム合金溶湯を注湯して凝固させ、かつ、この双ロール間において上記凝固直後に急冷、また必要により圧下して、アルミニウム合金薄板とする方法である。この双ロール式連続鋳造法はハンター法や3C法などが知られている。
この双ロール式などの薄板連続鋳造法の冷却速度は、従来のDC鋳造法やベルト式連続鋳造法に較べて1〜3桁大きい。このため、得られるアルミニウム合金板は非常に微細な組織となり、プレス成形性などの加工性に優れる。また、鋳造によって、アルミニウム合金板の板厚も比較的薄い(1〜13mm)のものが得られる。このため、従来の厚いDC鋳塊(厚さ200〜600mm)で必要な、熱間粗圧延、熱間仕上げ圧延等の熱延工程が省略できる利点がある。
このような薄板連続鋳造法を用いて製造する前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板は、製法の改良や特性向上の観点などから、従来より数多く提案がされている。この中でも特に、成形性向上を意図して、Al−Mg系金属間化合物である晶析出物(β相、Al−Mg系化合物とも言う)などの組織を規定した例も多数提案されている。
例えば、前記β相の平均サイズを10μm以下とした、機械的性質に優れた自動車用アルミニウム合金板が提案されている (特許文献1参照) 。また、10μm以上の前記β相の個数を300個/mm2 以下とし、平均結晶粒径を10〜70μmとした自動車ボディーシート用アルミニウム合金板なども提案されている (特許文献2参照) 。
これら特許文献1 、2 の通り、鋳造の際に晶出する前記β相は、プレス成形の際に破壊の起点となりやすい。したがって、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板のプレス成形性を向上させるためには、特許文献1 、2 の通り、これらβ相を、微細化させる(粗大なものを少なくする)ことが有効である。
ただ、これら特許文献1 、2 では、共通して、鋳造工程における冷却速度(鋳造速度)を速くして、鋳造の際に晶出するAl−Mg系金属間化合物(β相)を抑制している。しかし、高Mg含有量となるほど、鋳造工程における冷却速度制御だけで、Al−Mg系合金板のβ相を、プレス成形性に悪影響しない程度に低減することは難しい。
即ち、双ロール式連続鋳造法における冷却速度(鋳造速度)を速くして、鋳造の際に晶出するAl−Mg系金属間化合物を抑制し得たとしても、更にその後の工程では、連続鋳造後の室温までの冷却の他にも、冷間圧延前の均質化熱処理、冷間圧延途中の中間焼鈍、冷間圧延後の溶体化処理など、板状鋳塊または薄板を400℃以上の温度に加熱する、あるいは加熱された板状鋳塊または薄板を冷却する工程が、工程設計上、選択的に入ってくる。そして、これらの熱履歴工程でβ相と称せられるAl−Mg系金属間化合物が発生する可能性は十分にある。
したがって、単に、Al−Mg系金属間化合物の発生を抑制することは難しく、新たに、例えAl−Mg系金属間化合物が存在しても、このAl−Mg系金属間化合物の存在形態などを制御して、高MgのAl−Mg系合金板のプレス成形性を向上させる技術が必要になっている。
このような課題を解決するために、特許文献3として、結晶粒内のAl−Mg系析出物をナノレベルに微細に析出させることで、成形性を向上させることが提案されている。このβ相のナノレベルの微細析出とは、具体的に、5万倍の透過型電子顕微鏡により観察され、かつ電子線プローブマイクロアナライザにより識別される、平均粒径で100nm以下、平均密度で0.1〜103 個/μm2 の範囲で存在させるものである。
この特許文献3では、特許文献1、2などの時代には、これまで観察が難しかった、β相のナノレベルの微細析出状態の観察を、前記EPMAによる識別と、FE−TEMによる結晶粒内の観察によって可能にしたものである。そして、これらβ相のナノレベルの微細析出状態のミクロ組織の状態が、板のマクロ的な特性である成形性に大きく影響することも知見したものである。
また、特許文献4では、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の構造部材用途などとしての信頼性に関わる、耐応力腐食割れ性を向上させることが提案されている。同文献では、Mn、Cr、Zr、Vなどの遷移元素を添加し、結晶粒内の側にも、遷移元素系析出物であるβ相を析出させて、この析出物によって結晶粒内の電位を下げ、結晶粒内と結晶粒界との電位差(組織における電位の不均一さ)を極力小さくして耐応力腐食割れ性を向上させる。
特開平7−252571号公報 特開平8−165538号公報 特開2007−77486号公報 特開2008−25006号公報
このように、組織中にβ相が必然的に存在し、このβ相が結晶粒界に優先的に析出していたとしても、その特性が開発、改良されてきた、高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板ではあるが、未だ開発課題が残されている。
そのひとつは、高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の成形性の中でも、穴広げ(曲げ)によるフランジの形成をともなう穴あけ加工性、即ち、伸びフランジ性である。この伸びフランジ性が低いと、高MgのAl−Mg系アルミニウム合金薄板を、前記フランジの形成をともなう穴あけ加工が同時になされる、自動車パネルなどのプレス成形時に、フランジ部に割れが生じて、成形できないような事態も起こりえる。
また、この伸びフランジ性が低いと、前記薄板のプレス成形性だけではなく、この薄板の製造工程においても問題が生じる可能性が高い。具体的には、前記双ロール式連続鋳造法によって鋳造した板状鋳塊または薄板を冷間圧延する際に、圧延中の板状鋳塊または薄板端部に、割れ(端部割れ)が生じて、冷間圧延することが困難となる。このような端部割れは、冷間圧延される板の伸びフランジ性が低いと生じることが、アルミニウム合金板の分野では通説となっている。
このため、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板が、冷間圧延前の板状鋳塊または薄板であれば、冷間圧延性向上のために、伸びフランジ性に優れていることが必要である。また、高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板が、冷間圧延後のアルミニウム合金板であれば、前記フランジの形成をともなう穴あけ加工が同時になされるプレス成形性向上のために、伸びフランジ性に優れていることが必要である。しかし、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の分野において、β相がより多く存在する場合に、特に伸びフランジ性に着目して、これを向上させた技術は未だ無い。
これに対して、前記特許文献3でも、結晶粒内のAl−Mg系析出物をナノレベルに微細に析出させることで、プレス成形性の一貫としての伸びフランジ性を向上させている。この点で、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の分野において、結晶粒内のβ相をナノレベルに微細化させて、伸びフランジ性を向上させることは公知である。
しかし、前記特許文献3は、付加焼鈍を行って、β相を積極的に析出させているといっても、元々β相の析出を極力抑制した製法をとっている。したがって、そのβ相の絶対量は極めて少ない。即ち、前記した通り、β相の平均密度は0.1〜103 個/μm2 程度のレベルである。これは、この板のMg含有量に対する析出Mg量の比率でいうと、β相の平均密度が最大の103 個/μm2 程度でも5%に満たない数値である。これは前記特許文献4でも同様である。
したがって、特許文献3、4高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板は、どちらかといえば、Mgが完全に固溶した高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の方に近く、元々伸びフランジ性が高い。因みに、この特許文献3で示されている伸びフランジ性の数値は、バーリング試験によるバーリング率(λ)で高いものではλが73%もの高レベルを有する。そして、比較例の最も低いλでも、40%のレベルを有する。そして、このような高レベルの伸びフランジ性は、Mgが完全に固溶した高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の方に近い。これは前記特許文献4でも同じである。
ただ、これら特許文献3、4のように、β相の析出を極力抑制した前記製法を採らない、あるいは採れないような場合には、当然ながら、これら特許文献3、4の上限量を超えて、組織中の結晶粒内にも結晶粒界にもβ相がより多く析出する。したがって、前記特許文献3、4の、β相の析出を極力抑制した上でのβ相の微細化による伸びフランジ性向上技術は、当然ながら、このようにβ相がより多く析出する場合には全く適用できない。
本発明者らの知見によれば、高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の析出Mg量の比率が5%以上と、β相の析出量が多い場合は、伸びフランジ性は、前記λの値でいうと、わずか10%未満の低いレベルに低下する。この伸びフランジ性の低さが、β相の析出量が多い場合の、前記薄板のプレス成形性を低下させたり、前記板状鋳塊または薄板を冷間圧延する際の端部割れ)が生じさせる原因である。
このように、β相がより多く存在し、伸びフランジ性が著しく低下した、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の伸びフランジ性を向上させた技術は、前記した通り、未だに無い。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、Mgを6%以上含有する高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の、β相がより多く存在する場合に著しく低下した伸びフランジ性を向上させることである。
この目的を達成するために、伸びフランジ性に優れた本発明高Mg含有Al−Mg系アルミニウム合金板の要旨は、質量%で、Mg:6.0〜15.0%を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金板であって、この板のMg含有量に対する析出Mg量の比率が5〜10%の範囲であり、かつ、この板の板厚中心部における2万倍の透過型電子顕微鏡により観察される結晶粒組織として、観察試料を傾斜させて粒界面が観察方向に平行になるようにした場合に観察される粒界析出物の平均厚みが5nm以上、50nm以下であるとともに、観察試料を傾斜させ電子回折像より判断して観察面が(002)面になるようにした場合に観察される粒内析出物の短軸方向の平均径が5nm以上、30nm以下であることとする。
前記アルミニウム合金板の、前記Mg以外の元素を、質量%で、Fe:1.0%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、Cu:1.0%以下、Zn:1.0%以下、に各々抑制することが好ましい。また、前記アルミニウム合金板が冷間圧延前の板であることが好ましい。また、前記アルミニウム合金板が冷間圧延後の板であることが好ましい。
更に、前記目的を達成するために、本発明高Mg含有Al−Mg系アルミニウム合金板の製造方法の要旨は、質量%で、Mg:6.0〜15.0%を含むとともに、Fe:1.0%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、Cu:1.0%以下、Zn:1.0%以下、に各々抑制し、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金鋳塊を、400℃以上液相線温度以下で均質化熱処理を行い、この均質化熱処理温度から室温までの平均冷却速度が0.01〜0.1℃/sの範囲となるような徐冷を行って、その後冷間圧延を行って薄板とすることを含み、前記均質化熱処理後で前記冷間圧延前かあるいは前記冷間圧延後の板の、Mg含有量に対する析出Mg量の比率を5〜10%の範囲とし、かつ、板厚中心部における2万倍の透過型電子顕微鏡により観察される結晶粒組織として、観察試料を傾斜させて粒界面が観察方向に平行になるようにした場合に観察される粒界析出物の平均厚みを5nm以上、50nm以下とするとともに、観察試料を傾斜させ電子回折像より判断して観察面が(002)面になるようにした場合に観察される粒内析出物の短軸方向の平均径が5nm以上、30nm以下としたことである。
ここで、前記アルミニウム合金鋳塊が薄板連続鋳造法で鋳造されたものであり、このアルミニウム合金鋳塊を熱間圧延せずに前記均質化熱処理を行い、その後冷間圧延を行って薄板とすることが好ましい。一方、前記アルミニウム合金鋳塊がDC鋳造法で鋳造されたものであり、前記アルミニウム合金鋳塊を熱間圧延した後に前記均質化熱処理を行い、その後冷間圧延を行って薄板とすることも可能である。
本発明の高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板は、前記要旨の通り、強度延性バランスを大きく向上させるために、前提として、著しく高Mg化させている。
言い換えると、本発明の高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板は、過飽和にMgを固溶させているために、その製造履歴から、β相(Al−Mg系析出物、Al−Mg系金属間化合物) が、必然的に結晶粒組織の粒界(結晶粒の粒界)や粒内(結晶粒の粒内)により多く析出するようになる。具体的には、前記要旨の通り、前記析出Mg量の比率が5%以上と、多量に析出(存在)する。
このように、多量に粒界などに析出したβ相は、成形加工時に破壊の起点となって、高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の成形性、中でも、前記伸びフランジ性を、前記した通り、λ値でわずか10%未満の低いレベルに低下させる。このため、前記プレス成形において同時になされる穴あけ加工(穴広げ加工)時にフランジ割れが生じやすくなるだけではなく、この薄板の製造工程における冷間圧延でも、圧延中の板状鋳塊または薄板端部に、割れ(端部割れ)が生じて、冷間圧延することが困難となる。
これに対して、本発明では前記した要旨の通り、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板組織の、全体の析出物量を前記析出Mg量の比率で制御するとともに、粒界析出物および粒内析出物の両方のβ相を微細化させる。
但し、本発明における、これらβ相の微細化は、通常規定され、前記特許文献3、4でも規定している粒界析出物の最大径や最大長さではなく、その平均厚みによって規定し、また、粒内析出物も、長軸方向ではなく、その短軸方向の平均径によって行う。この点が本発明の特徴でもあり、本発明における、これらβ相の微細化は、通常の微細化とは違い、β相の形態(形状)の制御と言っても良いものである。
これによって、本発明では、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板組織の、前記析出Mg量の比率が5%以上と多量に析出する場合でも、粒界析出物および粒内析出物の両方を実際に微細化させ、冷間圧延が可能なレベルまで前記伸びフランジ性を向上させることができる。
粒界析出物:
本発明者らは、前記析出Mg量の比率が5%以上と多量に析出する場合、まず粒界析出物は、前記伸びフランジ性が優れる微細な状態であろうと、前記伸びフランジ性が劣る粗大な状態であろうと、後述する模式図である図1の通り、粒界の長さ全域に亙って存在することを知見した。即ち、目視的には殆ど粒界上の互いの切れ目がない(切れ目が判別できない)状態で、平面的には細長い針状あるいは棒状の形状、立体的には板状の形状にて存在する。
このため、本発明が対象とする高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板では、粒界析出物は、通常の常識であるような、粒界上に散在する形では(個々の粒界析出物が各々分離し、間隔をもって判別できる形では)粒界上に存在しない。そして、この状態は、前記伸びフランジ性が優れる微細な状態であろうと、前記伸びフランジ性が劣る粗大な状態であろうと違いがない。
したがって、通常規定するような粒界析出物の最大径や長さでは、前記した通り、個々の粒界析出物が各々分離し、間隔をもって判別できないために、測定が不可能である。即ち、単に粒界の長さを測定、比較するだけとなり、前記伸びフランジ性が優れる微細な粒界析出物の状態であるか、前記伸びフランジ性が劣る粗大な粒界析出物の状態であるかの判別の基準とはならない。
その一方で、前記析出Mg量の比率が5%以上と多量に析出する場合には、粗大化によって粒界析出物の最大径や長さ自体はあまり変化しないものの、前記平面的な細長い針状あるいは棒状の形状、あるいは立体的には板状の形状において、その平均厚みあるいは平均幅が大きくなる(厚くなる)ことが分かった。
そして、このような粒界析出物の状態は、この板の板厚中心部における2万倍の透過型電子顕微鏡により観察される結晶粒組織として、観察試料を傾斜させて粒界面が観察方向に平行になるようにした場合に、始めて観察される。したがって、本発明で規定する粒界析出物の平均厚み(nm)も、このように観察試料を傾斜させた状態で始めて測定できる。これが粒界析出物の平均厚みを微細化の基準とする本発明の意義である。
粒内析出物:
このような事情は、前記析出Mg量の比率が5%以上と多量に析出する場合の、粒内析出物も同様であって、粒内析出物は、前記伸びフランジ性が優れる微細な状態であろうと、前記伸びフランジ性が劣る粗大な状態であろうと、後述する模式図2の通り、殆ど同じ長さの、平面的には細長い針状あるいは棒状の形状あるいは立体的には板状の形状にて粒内に存在する。
したがって、通常規定する粒内析出物の最大径や長さでは、前記微細化しているものと、前記粗大化しているものとが同じようなレベルとなって、判別の基準とはならない。このため、本発明で粒内析出物を微細化させるに際しては、最大径や長さではなく、前記図2に示す通り粒内析出物の短軸方向の平均径d(謂わば平均厚みや幅)によって行う。
そして、このような粒界析出物の状態は、この板の板厚中心部における2万倍の透過型電子顕微鏡により観察される結晶粒組織として、観察試料を傾斜させ電子回折像より判断して観察面が(002)面になるようにした場合に、始めて観察される。したがって、本発明で規定する粒内析出物の平均厚み(nm)も、このように観察試料を傾斜させた状態で始めて測定できる。これが粒内析出物の平均厚みを微細化の基準とする本発明の意義である。
これによって、本発明では、前記した要旨の通り、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板組織の、前記析出Mg量の比率が5%以上と多量に析出する場合でも、粒界析出物および粒内析出物の両方を実際に微細化させ、前記伸びフランジ性を向上させることができる。
特許文献3との比較:
前記特許文献3で規定する粒内析出物の平均粒径は、前記した針状の形状における針の長軸の長さ(径)である。この点、前記針状の形状における粒内析出物の長軸の長さ(径)を平均粒径で100nm以下に微細化させるためには、粒内析出物の数(平均密度)自体を少なくして、完全な固溶状態に近づける必要がある。したがって、この特許文献3は、粒内析出物の析出(存在)は必然であるとしながらも、その量は平均密度で0.1〜103 個/μm2 程度の、ごく少ない析出量の範囲でしか存在させていない。
そして、このために、この特許文献3では、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の製法として、均質化熱処理などの熱処理を行なう際に、粒内析出物(Al−Mg系金属間化合物)の発生を抑制するために、熱処理温度への加熱と冷却速度とを、著しく速く(大きく)している。
この点は、本発明の均質化熱処理条件との大きな違いであるが、例えば、均質化熱処理時の鋳塊の平均昇温速度を5 ℃/s以上とし、均質化熱処理温度からの平均冷却速度を5 ℃/s以上としている。これに対して、本発明では、この均質化熱処理温度から室温までの平均冷却速度が0.01〜0.1℃/sの範囲となるような徐冷を行って、積極的に、前記微細な針状の粒内析出物を、この特許文献3よりも桁違いに多く、析出(存在)させている。具体的には、前記要旨の通り、粒界析出物との合算ではあるが、Mg含有量に対する析出Mg量の比率が5〜10%の範囲で、多量に析出(存在)させている。
また、特許文献3では、冷間圧延後の最終焼鈍時では、10℃/s以上のできるだけ速い平均冷却速度で冷却する必要があるとしている。これも、最終焼鈍後の平均冷却速度が遅くなって、冷却過程でβ相を多量に析出させることがないためである。これに対して、本発明では、前記最終焼鈍後の冷却は急冷しなくても放冷で良い。したがって、特許文献3、4のようにβ相の析出を極力抑制した製法を採らず、特許文献3、4の上限量よりも多く、組織中の結晶粒内にも結晶粒界にもβ相が析出する高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板には、前記特許文献3、4の、β相の析出を極力抑制した上でのβ相の微細化による伸びフランジ性向上技術は、当然ながら適用できない。
本発明の板組織(粒界上の析出物)を模式的に示す説明図である。 本発明の板組織(粒内の析出物)を模式的に示す説明図である。
本発明組織の規定:
後述する実施例の発明例5の板厚中心部の結晶粒組織における、粒界に析出した析出物を図1に示し、粒内に析出した析出物を図2に各々示す。この図1、2は各々本発明の板組織を模式的に示す説明図である。具体的には、後述する実施例表2の発明例2を、前記したように観察試料を傾斜させた特定の条件下に観察した(観察できた)組織の写真(2万倍のFE−TEM写真) を模式的に図面化したものである。即ち、この組織写真自体はそのままでは煩雑で、目視によって析出物が判別しにくいために、粒界と粒内に析出した析出物の特徴的なものを選択して模式的に図面化したものである。
この図1に記載したように、粒界析出物は、図1の上下方向に延在する粒界の長さ全域に亙って、殆ど粒界上の互いの切れ目がない(切れ目が判別できない)状態で、平面的には細長い針状あるいは棒状の形状、立体的には板状の形状にて存在する。
また、この図2のように、粒内析出物は、図2の上方向あるいは下方向に延在する、平面的には細長い針状あるいは棒状の形状あるいは立体的には板状の形状にて粒内に存在する。これらの粒内析出物は、前記粒界析出物とは違って、互いの切れ目が分かる各々の長さをもっている。
析出Mg量:
本発明では、以上のような粒内析出物と粒界析出物とを有する前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板において、先ず、この板のMg含有量に対する析出Mg量の比率を規定する。この析出Mg量の比率は、この板の比抵抗と、この板のMgが完全に固溶した状態の比抵抗との比から換算することによって、比較的簡便に求められる。この析出Mg量を板のTEMやSEMによる組織観察によって直接求めることも可能ではあるが、ミクロな分析となるため、マクロな板の特性との相関性や再現性を持たせるためには、多数の分析量が必要となり、煩雑な割に、却って前記相関性や再現性が劣る。したがって、本発明では、析出Mg量の比率は、前記比抵抗値からの換算によって求める。
本発明は、前記した通り、従来よりも析出Mg量を多くしていることが前提であるが、析出Mg量があまり多すぎると、やはり、粒界析出物および粒内析出物が粗大化して、これらの両方を前記要旨のように微細化させ、冷間圧延が可能なレベルまで前記伸びフランジ性を向上させることができなくなる。
したがって、この板のMg含有量に対する析出Mg量の比率を5〜10%の範囲として、析出Mg量の上限を規制する。また、析出Mg量の比率の下限は5%以上として、析出Mg量の比率が少ない前記従来技術と区別する。一方で、析出Mg量の比率が小さくなれば、高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板における強度延性バランスが低下する可能性もある。
板の前記比抵抗(μΩ・cm)の測定は、後述する実施例の通り、JIS−H0505に規定されている非鉄金属材料導電率測定法に準拠し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定する。この際、Mgが完全に固溶した状態の板とは、比抵抗の測定対象である板(試料)を500℃×10時間加熱してMgを固溶させ、次いで、水焼入れして急冷し、Mgが析出しないようにした板である。
粒界析出物の平均厚み規定:
本発明では、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の板厚中心部における2万倍の透過型電子顕微鏡により観察される結晶粒組織として、観察試料を傾斜させて粒界面が観察方向に平行になるようにした場合に観察される粒界析出物の平均厚みが5nm以上、50nm以下とする。前記した図1の通り、粒界析出物は立体的には板状の形状をしており、粒界析出物の平均厚みとはこの板における平均的な厚みtである。
これによって、粒内析出物の微細化と併せて、粒界に析出するβ相を微細化させ(形状を制御し)、成形加工時に破壊の起点となることを防止して、高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の成形性、中でも、前記伸びフランジ性をバーリング試験によるバーリング率:λ値で10%未満の低いレベルから40%以上の冷間圧延が可能なレベルにまで引き上げる。
このλ値が40%以上のレベルとは、前記特許文献3の最も高いλ値73%の高レベルからすると、かなり低いかもしれない。しかし、これによって、前記析出Mg量の比率が5%以上と多量に析出する場合には、全くできなかった、薄板のプレス成形時の穴あけ加工(穴広げ加工)や、薄板の製造工程における冷間圧延が可能となる利点は非常に大きい。
これに対して、この粒界析出物の平均厚みが50nmを超えると、前記析出Mg量の比率が5%以上と多量に析出する場合には、粒界などに析出したβ相は、成形加工時に破壊の起点となって、前記プレス成形において同時になされる穴あけ加工(穴広げ加工)時にフランジ割れが生じやすくなるだけではなく、この薄板の製造工程における冷間圧延でも、圧延中の板状鋳塊または薄板端部に、割れ(端部割れ)が生じて、前記プレス成形や冷間圧延自体が困難となる。
なお、粒界析出物の平均厚みを5nm未満にすることは、前記析出Mg量の比率を5%以上と多量に析出させる場合には、現実的な製法上は製造が困難である。即ち、粒界析出物の平均厚みを5nm未満にするためには、前記した特許文献3、4のように粒界析出物自体、ひいては析出Mg量自体を少なくする必要が生じ、本発明の対象から外れるという矛盾が生じる。
粒内析出物の短軸方向の平均径:
本発明では、また、前記高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の板厚中心部における2万倍の透過型電子顕微鏡により観察される結晶粒組織として、観察試料を傾斜させ電子回折像より判断して観察面が(002)面になるようにした場合に観察される粒内析出物の短軸方向の平均径が5nm以上、30nm以下であることとする。前記した図2の通り、粒内析出物は立体的には板状の形状をしており、粒内析出物の短軸方向の平均径とは、この板幅方向における平均的な板幅dである。
これによって、前記粒界析出物の形状制御と併せて、粒内に析出するβ相を微細化させ(形状を制御し)、成形加工時に破壊の起点となることを防止して、高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板の成形性、中でも、前記伸びフランジ性をバーリング試験によるバーリング率:λ値で10%未満の低いレベルから40%以上の冷間圧延が可能なレベルにまで引き上げる。
これに対して、この粒内析出物の短軸方向の平均径が30nmを超えると、前記析出Mg量の比率が5%以上と多量に析出する場合には、粒内に析出したβ相が成形加工時に破壊の起点となって、前記プレス成形において同時になされる穴あけ加工(穴広げ加工)時にフランジ割れが生じやすくなるだけではなく、この薄板の製造工程における冷間圧延でも、圧延中の板状鋳塊または薄板端部に、割れ(端部割れ)が生じて、前記プレス成形や冷間圧延自体が困難となる。
なお、粒内析出物の平均厚みを5nm未満にすることも、前記粒界析出物同様に、前記析出Mg量の比率を5%以上と多量に析出させる場合には、現実的な製法上は製造が困難である。即ち、粒内析出物の平均厚みを5nm未満にするためには、前記した特許文献3、4のように粒界析出物自体、ひいては析出Mg量自体を少なくする必要が生じ、本発明の対象から外れるという矛盾が生じる。
(結晶粒内、粒界析出物の測定方法)
粒界析出物、粒内析出物とも、高MgのAl−Mg系合金板の板厚中心部から試料を採取し、試料表面を0.05〜0.1mm機械研磨した後、電解エッチングしてTEM用薄膜試料を作成する。この試料表面 (板厚方向でも板の長手方向でもどちらでも良い) を、2万倍のFE−TEM (透過型電子顕微鏡) により観察する。
ここで、前記粒界析出物は、観察試料を傾斜させて粒界面が観察方向に平行になるようにした場合に観察される粒界析出物の平均厚みを測定する。また、粒内析出物は、観察試料を傾斜させ電子回折像より判断して観察面が(002)面になるようにした場合に観察される粒内析出物の短軸方向の平均径を測定する。これ以外の測定方法では、前記した各測定が困難であるか、測定結果に再現性が無い。したがって、このような析出物の形状を含めた正確な測定方法が確立して始めて、前記析出Mg量の比率が5%以上と多量に析出する場合の高MgのAl−Mg系合金板の、粒界析出物、粒内析出物を規定する本発明がなされたとも言える。
板厚中心部における、前記FE−TEMによる析出物組織観察は、板厚中心部1箇所につき、観察視野の合計面積が4μm2 以上となるように行い、これを板の長手方向に適当に距離を置いた10箇所観察した結果を平均化することが好ましい。
なお、本発明で言う析出物は、Al−Mg系である以外に特に組成を問わず、Al−Mg系であれば他の含有元素を含んでも良い。また、前記条件で観察される析出物も、必然的に殆どAl−Mg系であるので、観察される析出物を組成分析により確認する必要はない。ただ、必要であれば、このFE−TEMにより観察された視野をX線分光装置(EDX)により分析することにより、観察される析出物を組成分析できる。
(化学成分組成)
本発明アルミニウム合金板における化学成分組成の、各合金元素の意義及びその限定理由について以下に説明する。本発明アルミニウム合金板組成は、強度−伸びバランスなどを向上させるために、質量%で、Mg:6.0〜15.0%を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金板とする。なお、各元素量の表示%は全て質量%である。
ここで、前記アルミニウム合金板の耐応力腐食割れ性などの耐食性を向上させるためには、前記Mg以外の元素を不純物として規制することが好ましい。ただMg以外の元素の中には、鋳造時にスクラップ溶解原料などから必然的にある程度含有される場合もあり、含有量を下げるために、純アルミなどの溶解原料を使うと、溶解コストが高くなる場合もある。また、中には少ない量の含有で好ましい効果を発揮する元素もある。したがって、これらに該当するFe、Si、Mn、Cr、Zr、V、Ti、Cu、Znについては、各々、Fe:1.0%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、Cu:1.0%以下、Zn:1.0%以下に抑制した上で、各々含むことを許容する。
Mg:6.0〜15.0%
Mgはアルミニウム合金板の強度、延性を高める重要合金元素である。Mg含有量が少な過ぎると、伸びフランジ性の劣化の問題はないが、強度、延性バランスが劣化して、高MgのAl−Mg系アルミニウム合金の特徴が出ず、成形性が不足する。一方、Mg含有量が多過ぎると、製造方法や条件の制御を行なっても、粒界や粒内の析出物量が多すぎることになる。この結果、やはり成形性が著しく低下する。また、加工硬化量が大きくなり、冷間圧延性も低下させる。したがって、強度、延性のバランスを向上させるためにも、Mgは6.0〜15.0%の範囲、好ましくは8%を超え14%以下の範囲とする。
Fe、Si:
Fe、Siは、Al−Mg−(Fe、Si)などから成る析出物となって生成する。これらの析出物量が過大となると破壊靱性や成形性を大きく阻害する。この結果成形性が著しく低下する。したがって、Fe、Siは溶解時に必然的に混入しやすいものの、少ない方が好ましい。このため、Fe:1.0%以下、好ましくは0.5%以下、Si:0.5%以下、好ましくは0.3%以下に各々に抑制した上で、各々含むことを許容する。
Mn、Cr、Zr、V:
Mn、Cr、Zr、Vなどの遷移元素は、β相の核生成サイト(駆動力)となって、粒界や粒内へのβ相析出を促進する効果がある。結晶粒内のこれら遷移元素系の析出物が、結晶粒内の電位を下げて、結晶粒内と結晶粒界の電位差(組織における電位の不均一さ)を極力小さくし、腐食環境下で耐応力腐食割れ性を向上させる効果もある。しかし、含有量が多くなると、破壊靱性や成形性を大きく阻害するので、少ない方が好ましい。このため、Mn:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、に抑制した上で、各々含むことを許容する。
Cu:
Cuは耐応力腐食割れ性を低下させる。通常のMg含有量が6%未満の規格Al−Mg系アルミニウム合金板では、耐応力腐食割れ性を向上させるために、Cuを添加する場合がある。しかし、本発明のように高Mg化させたAl−Mg系アルミニウム合金板では、応力腐食割れ性の挙動が異なり、Cuを積極的に含有させた場合には、逆に、応力腐食割れ感受性がより鋭敏となって、耐応力腐食割れ性が低下する。このため、Cu:1.0%以下、好ましくは0.5%以下に抑制した上で、含むことを許容する。
Ti:
Tiには鋳造板 (鋳塊) 組織の微細化効果などの効果もあるが、化合物を形成して破壊靱性や成形性を阻害するので含有量は少ない方が良い。このため、Ti:0.1%以下、好ましくは0.05%以下に抑制した上で、含むことを許容する。
Zn:
Znは強度を向上させる効果もあるが、耐応力腐食割れ性や成形性などを阻害するので、含有量は少ない方が良い。このため、Zn:1.0%以下、好ましくは0.5%以下に抑制した上で、含むことを許容する。
(製造方法)
以下に、本発明におけるAl−Mg系アルミニウム合金板の製造方法につき説明する。
本発明の高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板は、通常のDC鋳造法などで鋳造した鋳塊を熱間圧延、冷間圧延を施す製造方法で製造されても良い。このような通常のDC鋳造法を用いた場合には、得られたアルミニウム合金鋳塊を、均質化熱処理し、熱間圧延した後に、再度均質化熱処理を行い、前記した本発明に規定する粒内、粒界の析出物組織として、冷間圧延性を改善した上で、冷間圧延を行って薄板とすることが好ましい。
ただ、DC鋳造法では、前記した通り、高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板を効率良く鋳造することが難しい。したがって、より高い生産効率を求める場合には、双ロール式などの薄板連続鋳造法でアルミニウム合金鋳塊を鋳造し、熱間圧延を省略した上で、鋳塊に前記均質化熱処理を行って、前記した本発明に規定する粒内、粒界の析出物組織として、冷間圧延性を改善した上で、冷間圧延を行って薄板とすることが好ましい。
なお、これら、いずれの製法と採るにしても、伸びフランジ性に優れたものとするためには、冷間圧延後の加工硬化した0.5〜3mm程度の製品板厚とされた薄板に、焼鈍を施すことが好ましい。
(鋳造方法)
注湯温度:
DC鋳造法や双ロール式などの薄板連続鋳造法において、アルミニウム合金溶湯を注湯する際の注湯温度(鋳造前溶湯温度)は、粗大なAl−Mg系の初晶化合物の生成を抑制するために、液相線温度以上である630℃以上、Mg含有量が多くなるにつれて、好ましくは680℃以上とする。この鋳造前溶湯温度が低過ぎる場合、粗大なAl−Mg系の初晶化合物が生成して、結晶粒内や粒界に析出する析出物が不足し、強度伸びバランスを低下させる。
ただ、鋳造前の溶湯温度が高すぎると、溶湯中のMgの酸化が激しくなり実用的ではないので、鋳造前溶湯温度を720℃を越えて高くする必要は無い。更に、鋳造前溶湯温度が高過ぎると、鋳造冷却速度が小さくなり、Al−Mg系の金属間化合物全般が粗大化する可能性もあり、強度伸びバランスを低下させる。
鋳造時の冷却速度:
DC鋳造法や双ロール式などの薄板連続鋳造法において、粗大な初晶化合物が生成を抑制して、結晶粒内や粒界に析出する析出物量を確保するためには、鋳造時の平均冷却速度は50℃/s以上、望ましくは100℃/s以上とし、凝固後の室温までの平均冷却速度が0.01〜0.1℃/sの範囲となるような徐冷を行う。
前記特許文献3、4のように、鋳造時の平均冷却速度を100℃/s以上の大きな(速い) 冷却速度 (凝固速度) とした場合には、凝固後の室温までの平均冷却速度も同様に大きくなり、その場合は析出物の温度と時間軸における等価な析出量を示し、前記比抵抗から換算される析出Mg量の比率が5%となるような析出C曲線(所謂Cノーズ)さえも横切らないこととなる。
このため、粒内析出物や粒界析出物が不足して、前記析出Mg量の比率が5%未満となる。したがって、均質化熱処理で、冷間圧延前の板の組織を、前記本発明組織とすることができない。
一方、凝固後の室温までの平均冷却速度の上限値0.1℃/s以下であれば、前記析出C曲線を横切り、前記本発明組織とすることができるので、この平均冷却速度を0.01℃/s未満までに下げて、生産効率を犠牲にして冷却する必要はない。
薄板連続鋳造法:
薄板連続鋳造方法としては、双ロール式の他に、ベルトキャスター式、プロペルチ式、ブロックキャスター式などがある。しかし、高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板鋳造の際の冷却速度を速くするためには、双ロール式連続鋳造が好ましい。
(双ロール周速)
双ロール式の場合、回転する一対の双ロールの周速は0.2m/min以上とすることが好ましい。双ロールの周速が0.2m/min未満では、溶湯と鋳型 (双ロール) との接触時間が長くなり、凝固がロールキス点よりもより手前で完了するため、大きなロール荷重が必要となり、ロールが破損またはロールがストップし鋳造ができなくなる。双ロールの周速は、2m/min以下、好ましくは1m/min以下、0.5m/min以下がさらに好ましい。双ロールの周速が2m/min以下であれば、湯漏れやチギレといった現象がおこらず安定した鋳造が可能であり、1m/min以下であれば、より一層割れやリップルがない表面品質に優れた鋳造が可能である。さらに、双ロールの周速を0.5m/min以下にすることにより、板状鋳塊の内部偏析も抑制できるため、一層好ましい。
(双ロールによる圧下)
前記双ロールに注湯後に、必要に応じて、双ロール間で凝固しつつある板状鋳塊に対して、双ロールによって、板状鋳塊の長さ1m当たりにつき300トン以上、即ち、300トン/m以上の圧下荷重を負荷しつつ鋳造しても良い。この圧下荷重の負荷によって、注湯時や凝固中に発生したガスが、板状鋳片内から外部に放出されやすくなる。このため、凝固温度範囲が約100℃と広い高MgのAl−Mg系アルミニウム合金であっても、ガスの鋳片組織内での滞留がなくなり、これに起因する空隙が抑制される。そして、その後の冷間圧延との相乗効果で、空隙などの鋳造欠陥を、製造された板の伸びなどの成形特性に影響の無い範囲まで抑制することが可能である。
(双ロール鋳造板厚)
双ロールにより連続鋳造する場合の鋳造薄板の板厚は1〜13mm、好ましくは1〜5mmの範囲とすることが好ましい。板厚1mm未満の連続鋳造は、双ロール間への注湯や、双ロール間のロールギャップ制御などの鋳造限界から困難である。他方、鋳造薄板の板厚が厚過ぎた場合、鋳造の冷却速度が著しく遅くなり、Al−Mg系のなどの金属間化合物全般が粗大化したり、多量に晶出する傾向がある。この結果プレス成形性が著しく低下する可能性が高くなる。
(均質化熱処理)
以下に、本発明に規定する粒内、粒界の析出物組織として冷間圧延性を改善するための、DC鋳造法や双ロール式などの薄板連続鋳造法に共通する、均質化熱処理(均熱処理とも言う)の条件の説明をする。
DC鋳造などで鋳造した鋳塊では、Mgの偏析抑制のために熱間圧延前に均質化熱処理が施されても良い。但し、そのような熱間圧延板であっても、冷間圧延前に均質化熱処理を必須に施し、前記した本発明に規定する粒内、粒界の析出物組織として、冷間圧延性を改善した上で、冷間圧延を行って薄板とする必要がある。これに対して、比較的Mgの偏析が少ない双ロール式連続鋳造方法による板状鋳塊でも、冷間圧延前には必須に施し、前記した本発明に規定する粒内、粒界の析出物組織として、冷間圧延性を改善した上で、冷間圧延を行って薄板とする必要がある。
均質化熱処理は、400℃以上液相線温度以下で、必要時間行なう。この時間は、双ロール式連続鋳造方法による薄板状鋳塊を、連続熱処理炉を使用して均質化熱処理する場合には数秒〜数十秒程度が目安である。また、DC鋳造などで鋳造した鋳塊をバッチ式熱処理炉を使用して均質化熱処理する場合には1時間以上が目安である。この均質化熱処理によって、Mgの偏析度合いが小さくなる。
但し、均質化熱処理するに際しては、この均質化熱処理温度から室温までの鋳塊の冷却過程で冷却速度を比較的小さくして徐冷する。即ち、均質化熱処理温度から室温までの平均冷却速度が0.01〜0.1℃/sの範囲となるような徐冷を行う。
このような徐冷によって、均質化熱処理後で、冷間圧延前の板の冷間圧延性を向上させることができる。即ち、析出物の温度と時間軸における等価な析出量を示す前記Cノーズ曲線を横切らせ、冷間圧延前の板の組織を、前記比抵抗から換算される析出Mg量の比率を5〜10%の範囲とできる。また、それとともに、前記粒界析出物の平均厚みを5nm以上、50nm以下とするとともに、前記粒内析出物の短軸方向の平均径が5nm以上、30nm以下とした、本発明組織とすることができる。
これに対して、均質化熱処理温度からの冷却に際して、前記特許文献3、4のように平均冷却速度を5℃/s以上として、あるいは前記本発明の平均冷却速度の上限値0.1℃/sを超えて、急冷した場合には、前記した通り、前記析出Mg量の比率が5%となるような前記析出C曲線(Cノーズ)さえも横切らずに、粒界および粒内析出物が不足して、前記本発明組織とすることができない。この結果、冷間圧延前の板の冷間圧延性を向上させることができない。
一方、本発明の平均冷却速度の上限値0.1℃/s以下であれば、前記析出C曲線を横切り、前記本発明組織とすることができるので、この平均冷却速度を0.01℃/s未満にまで下げて、生産効率を犠牲にする必要はない。
(熱間圧延)
DC鋳造などで鋳造した鋳塊は、均質化熱処理後に、熱間圧延温度まで冷却されるか、そのまま熱間圧延される。この熱間圧延条件は常法で良い。一方、双ロール式連続鋳造方法による板状鋳塊は、オンラインでもオフラインでも熱間圧延せずに、冷間圧延される。
(冷間圧延)
冷間圧延では、双ロール式連続鋳造方法による板状鋳塊が、また、DC鋳造などで鋳造した鋳塊では、上記熱間圧延された熱延板が、製品板の板厚0.5〜3mmに冷間圧延されて、鋳造組織が加工組織化される。
冷間圧延される板の板厚が厚い場合には、冷延途中に中間焼鈍を入れて、冷間圧延することが好ましい。なお、冷間圧延における加工組織化の程度は冷間圧延の冷延率にもより、鋳造組織が残留する場合もあるが、成形性や機械的な特性を阻害しない範囲で許容される。冷間圧延後の板は、最終焼鈍されて、製品板とされる。
(最終焼鈍)
冷延後の前記製品板厚とされたアルミニウム合金薄板について、伸びフランジ性向上が、冷間圧延性のためだけで良く、製品板のプレス成形などにおいて、特に伸びフランジ性向上が要求されない場合には、400℃〜液相線温度で最終焼鈍する。焼鈍温度が400℃未満では溶体化効果が得られない可能性が高い。但し、この比較的高温の焼鈍によって、溶体化効果による成形性は向上するものの、冷間圧延前に確保されていた前記本発明組織は一旦消去される。
また、この高温の最終焼鈍後には、500〜300℃の温度範囲を10℃/s以上の、できるだけ速い平均冷却速度で冷却することが好ましい。この焼鈍後の平均冷却速度が遅いと、冷却過程で粒界にβ相が多量に析出し、高MgのAl−Mg系合金板の伸びが低下し、強度−延性バランスが低下して、プレス成形性が低下する可能性が高い。
一方、製品板のプレス成形などにおいて、特に伸びフランジ性向上が要求される場合には、焼鈍温度を400℃未満のできるだけ低温として、冷間圧延前に確保されていた前記本発明組織を確保する。この場合、最終焼鈍後の平均冷却速度は速くても遅くても良く、平均冷却速度が遅くても冷却過程で粒界にβ相が多量に析出することはない。
以下に本発明の実施例を説明する。表1に示す種々の化学成分組成のAl−Mg系アルミニウム合金溶湯(発明例A〜O、比較例P〜S)を、前記した双ロール連続鋳造法およびDC鋳造法により、表2に示す製造条件で冷間圧延前の板に製造した。そして、各々組織、機械的な特性や、伸びフランジ性、冷間圧延性を測定評価した。この結果も表2に示す。なお、表2には鋳造法につき、双ロール連続鋳造法は双ロール、DC鋳造法はDCと各々略記する。
鋳造時の鋳造前の溶湯温度は双ロール、DC鋳造の各例とも共通して700℃とした。双ロール連続鋳造法の場合には、板厚4.0mmまで鋳造した各アルミニウム合金薄板鋳塊を、表2に示す条件で鋳造後に冷却し、さらに一部の鋳塊はその後に均熱処理した。双ロールの周速は70m/min.とし、双ロール表面の潤滑や双ロールによる鋳造時の圧下は行なわなかった。
DC鋳造の場合は、各アルミニウム合金鋳塊を共通して、500℃×10時間均熱処理した後、400℃の開始温度、300℃の終了温度で、板厚4.0mmまで圧延する熱間圧延を行い、その後、表2に示す条件で再度均熱処理した。
このような均熱処理後の高MgのAl−Mg系アルミニウム合金板(双ロールの場合は鋳造薄板、DC鋳造の場合は熱延板)の、長手方向( 圧延方向) に亙って、互いの間隔を100mm以上開けた任意の測定箇所、10箇所における板厚中心部から試料を採取して、各々組織、機械的な特性や、伸びフランジ性、冷間圧延性の測定用試料とした。したがって、機械的な特性や、伸びフランジ性、冷間圧延性は、これらの測定用試料10個の平均とした。
(組織)
析出Mg量:
前記測定用試料の比抵抗(平均)と、この試料を500℃×10時間加熱した後に、水焼入れして急冷し、Mgが完全に固溶した状態の比抵抗(平均)とを各々測定した。
これらの比抵抗値から、測定用試料の固溶Mg量(質量%)及び完全に固溶した状態のMg量(質量%)は、便宜的に以下の式を用いて求めた。
完全に固溶した状態のMg量:
[完全に固溶した状態のMg量(質量%)]=([Mgが完全に固溶した状態の比抵抗(μΩ・cm)]−2.826)/0.54
ここで、上記式のうち、2.826はJIS1050規格の純アルミニウムの導電率:61%IACSから求めた比抵抗値(μΩ・cm)である。
また、0.54は、単位Mg量(単位Mg濃度)当りの比抵抗(μΩ・cm/mass%)で、Alマトリックス中にMgが固溶状態で存在した際の比抵抗増加量(単位濃度あたり)である(出典:Edited by Kent R. Van Horn,American Society for Metals, ALUMINUM, Vol.I(1967),p.174)。
この完全に固溶した状態のMg量は、Mgの添加によって基本的には比抵抗が増大するので、その添加したMgが全て固溶していたと仮定した場合に、比抵抗の増大量(μΩ・cm)を、単位Mg濃度あたりの比抵抗増大量(0.54μΩ・cm/mass%)で割ることで、Mg固溶量(mass%)になる。
測定用試料の固溶Mg量:
[測定用試料の固溶Mg量(質量%)]=[完全に固溶した状態のMg量(質量%)]−{([Mgが完全に固溶した状態の比抵抗(μΩ・cm)]−[測定用試料の比抵抗(μΩ・cm)])/(0.54−0.22)}
ここで、上記式のうち、0.54は、前記した通り、単位Mg量(単位Mg濃度)当りの比抵抗(μΩ・cm/mass%)で、Alマトリックス中にMgが固溶状態で存在した際の比抵抗増加量(単位濃度あたり)である。
また、0.22は、Mgが析出状態で存在した場合の比抵抗増加量(単位濃度当り:μΩ・cm/mass%)である(出典:Edited by Kent R. Van Horn,American Society for Metals, ALUMINUM, Vol.I(1967),p.174)。実際の試料においては、Mgの存在状態として、固溶したMgと析出したMgが混在しているが、Mgが固溶している場合でも、析出している場合でも、純アルミに対しては比抵抗を増大させる方向に働く。但し、Mgが析出状態で存在した場合の単位Mg濃度あたりの比抵抗増大量は上記のように既知(0.22μΩ・cm/mass%)であり、Mgが固溶状態で存在した場合の単位Mg濃度あたりの比抵抗増大量(0.54μΩ・cm/mass%)よりも増大量としては小さい。従って、Mgが完全固溶している状態と比較すれば、Mgが析出することによって、比抵抗としては低下する。その比抵抗の低下分が、Mgが固溶状態で存在した場合の単位Mg濃度あたりの比抵抗増大量(0.54μΩ・cm/mass%)と、Mgが析出状態で存在した場合の単位Mg濃度あたりの比抵抗増大量(0.22μΩ・cm/mass%)の差に相当するため、Mgが完全固溶状態で存在する場合のMg濃度からの減少分を求めることができる。
さらに、これらの比(%:([Mgが完全に固溶した状態の固溶Mg量]−[測定用試料の固溶Mg量])/[Mgが完全に固溶した状態の固溶Mg量])を求め、この比(%)を、前記比抵抗から換算される、この板のMg含有量に対する析出Mg量の比率とした。
比抵抗(μΩ・cm)の測定は、ミーリングにより、前記測定用試料より、幅10mm×長さ300mmの短冊状の試験片を加工し、JIS−H0505に規定されている非鉄金属材料導電率測定法に準拠し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断面積法により比抵抗を算出した。
粒界析出物の平均厚み(nm):
2万倍の透過型電子顕微鏡により観察される結晶粒組織として、前記測定用試料より、前記要領にて作成した観察試料を傾斜させて粒界面が観察方向に平行になるようにし、粒界析出物の平均厚みを観察、測定した。
粒内析出物の短軸方向の平均径(nm):
2万倍の透過型電子顕微鏡により観察される結晶粒組織として、前記測定用試料より、前記要領にて作成した観察試料を観察試料を傾斜させて、電子回折像(ディフラクションパターン)より判断して、観察面が(002)面になるようにし、粒内析出物の短軸方向の平均径を観察、測定した。なお、これら析出物の観察には、日立製作所製電界放射型透過電子顕微鏡:HF−2000の、FE−TEMを用いた。
なお、これら発明例、比較例とも、前記測定用試料の平均結晶粒径は30〜60μmの範囲であった。この結晶粒径はラインインターセプト測定方法により、400倍の光学顕微鏡を用いて組織写真を画像解析し、視野内に観察される結晶粒の粒径を面積が等価な円の直径に換算した大きさとして測定した。
機械的性質:
引張試験はJIS Z 2201にしたがって行うとともに、試験片形状はJIS5号試験片で行い、試験片長手方向が圧延方向と一致するように作製した。また、クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
伸びフランジ性:
伸びフランジ性の評価としてバーリング試験を行った。バーリング試験は、1辺が100mmの正方形の前記測定用試料に直径10mmの孔を打ち抜く。そして、直径25mmの60°円錐ポンチを用いて、バリを上面(ダイス面)側とし潤滑油として防錆油を用いて、しわ押さえ力4.0トン、ポンチ速度10m/min.でバーリング試験を行い、前記打ち抜き孔の縁に破断が発生した段階でポンチを止め、破断後の孔内径(ds )と成形試験前の初期孔径(d0 )から下記式によってバーリング率(λ%)を求めた。
λ:(ds −d0 )/d0 ×100(%)
冷間圧延性:
前記採取した測定用試料(双ロールの場合は前記均熱処理後の鋳造薄板、DC鋳造の場合は前記均熱処理後の熱延板)を各例とも10枚、板厚1.0mmまで各々冷間圧延した。なお、これらの冷間圧延中の中間焼鈍は行なわなかった。そして端部割れの発生状態を目視観察し、大きな端部割れ発生によって板厚1.0mmまで冷間圧延できなかった例が出た場合を×、端部割れが発生したが小さく、10枚とも板厚1.0mmまで冷間圧延できた例を△、端部割れを発生せずに10枚とも板厚1.0mmまで冷間圧延できた例を○、と3段階で評価した。
表1、2の通り、発明例1〜18は、本発明範囲内の組成を有し、好ましい製造条件範囲内で製造されている。このため、これら発明例は板の組織が、前記図1、2のように立体的に板状の粒界析出物および粒内析出物のみを有して、粗大な粒状の粒界析出物および粒内析出物を有さず、各その大きさも本発明規定範囲を満足している。この結果、これら発明例は、粒内、粒界の析出物量が多くても、伸びフランジ性が冷間圧延可能なレベルに向上している。
これらの冷間圧延前の板の組織および強度伸びバランスや伸びフランジ性の特性は、冷間圧延後の板であって、前記した400℃以下の低温で最終焼鈍した冷延板にも、殆ど同じレベルで持ち越される。したがって、このように製造した冷延板も、これらの冷間圧延前の板同様に、強度延性バランスが優れ、伸びフランジ性が必要なプレス成形も可能である。
これに対して、比較例22〜24は、本発明範囲内の組成を有するが、共通して、鋳造時の平均冷却速度や均熱処理時の平均冷却速度が速すぎる(大きすぎる)か、遅すぎる(小さすぎる)。このため、これら比較例は板の組織が本発明範囲から外れ、この結果、これら比較例は、粒内、粒界の析出物量が多い中で、伸びフランジ性が著しく低下して、冷間圧延ができないものもある。
比較例22、23は、特性を満たしているが、冷却速度が過度に速く、Mgがほとんど固溶している場合の例であり、本発明の範疇で考えている、実際の製造工程で析出しうるMg量よりもはるかに少ない例であり、ここまでの過剰な品質は必要ない。比較例24は均熱処理時の冷却速度が遅いために粒内に粗大な粒状析出物が形成される。
また、比較例19〜21は、本発明範囲から外れた組成を有し、好ましい製造条件範囲内で製造されているものの、これら比較例は、板の組織が本発明範囲であっても、機械的な性質が低く、強度伸びバランスが低い。また、これら比較例は、粒内、粒界の析出物量が多い中で、伸びフランジ性が著しく低下して、冷間圧延ができないものもある。
比較例19の合金である表1のPはMg含有量が多過ぎる。
比較例20の合金である表1のQはFe含有量が多過ぎる。
比較例21の合金である表1のRはSi含有量が多過ぎる。
前記した通り、これらの冷間圧延前の板の組織および強度伸びバランスや伸びフランジ性の特性は、冷間圧延後の板であって、前記した400℃以下の低温で最終焼鈍した冷延板にも、殆ど同じレベルで持ち越される。したがって、このような最終焼鈍した比較例冷延板も、強度延性バランスが劣り、伸びフランジ性が必要なプレス成形性も劣る。
したがって、これらの実施例の結果から、本発明が対象とする高MgのAl−Mg系合金板における、組成、組織の、あるいは、この組織を得るための好ましい製造条件の、強度延性バランスや伸びフランジ性に対する意義が裏付けられる。
Figure 0005406600
Figure 0005406600
以上説明したように、本発明によれば、伸びフランジ性が優れた高MgのAl−Mg系合金板を得ることができる。この結果、自動車、船舶、航空機あるいは車両などの輸送機、機械、電気製品、建築、構造物、光学機器、器物の部材や部品などの、伸びフランジ性や強度延性バランスが要求されるアルミニウム合金板用途への適用を拡大できる。

Claims (7)

  1. 質量%で、Mg:6.0〜15.0%を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金板であって、この板のMg含有量に対する析出Mg量の比率が5〜10%の範囲であり、かつ、この板の板厚中心部における2万倍の透過型電子顕微鏡により観察される結晶粒組織として、観察試料を傾斜させて粒界面が観察方向に平行になるようにした場合に観察される粒界析出物の平均厚みが5nm以上、50nm以下であるとともに、観察試料を傾斜させ電子回折像より判断して観察面が(002)面になるようにした場合に観察される粒内析出物の短軸方向の平均径が5nm以上、30nm以下であることを特徴とする伸びフランジ性に優れた高Mg含有Al−Mg系アルミニウム合金板。
  2. 前記アルミニウム合金板の、前記Mg以外の元素を、質量%で、Fe:1.0%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、Cu:1.0%以下、Zn:1.0%以下、に各々抑制した請求項1に記載の伸びフランジ性に優れた高Mg含有Al−Mg系アルミニウム合金板。
  3. 前記アルミニウム合金板が冷間圧延前の板である請求項1または2に記載の伸びフランジ性に優れた高Mg含有Al−Mg系アルミニウム合金板。
  4. 前記アルミニウム合金板が冷間圧延後の板である請求項1または2に記載の伸びフランジ性に優れた高Mg含有Al−Mg系アルミニウム合金板。
  5. 質量%で、Mg:6.0〜15.0%を含むとともに、Fe:1.0%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、Cu:1.0%以下、Zn:1.0%以下、に各々抑制し、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金鋳塊を、400℃以上液相線温度以下で均質化熱処理を行い、この均質化熱処理温度から室温までの平均冷却速度が0.01〜0.1℃/sの範囲となるような徐冷を行って、その後冷間圧延を行って薄板とすることを含み、前記均質化熱処理後で前記冷間圧延前かあるいは前記冷間圧延後の板の、Mg含有量に対する析出Mg量の比率を5〜10%の範囲とし、かつ、板厚中心部における2万倍の透過型電子顕微鏡により観察される結晶粒組織として、観察試料を傾斜させて粒界面が観察方向に平行になるようにした場合に観察される粒界析出物の平均厚みを5nm以上、50nm以下とするとともに、観察試料を傾斜させ電子回折像より判断して観察面が(002)面になるようにした場合に観察される粒内析出物の短軸方向の平均径が5nm以上、30nm以下としたことを特徴とする伸びフランジ性に優れた高Mg含有Al−Mg系アルミニウム合金板の製造方法。
  6. 前記アルミニウム合金鋳塊が薄板連続鋳造法で鋳造されたものであり、このアルミニウム合金鋳塊を熱間圧延せずに前記均質化熱処理を行い、その後冷間圧延を行って薄板とする請求項5に記載の伸びフランジ性に優れた高Mg含有Al−Mg系アルミニウム合金板の製造方法。
  7. 前記アルミニウム合金鋳塊がDC鋳造法で鋳造されたものであり、前記アルミニウム合金鋳塊を熱間圧延した後に前記均質化熱処理を行い、その後冷間圧延を行って薄板とする請求項5に記載の伸びフランジ性に優れた高Mg含有Al−Mg系アルミニウム合金板の製造方法。
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