JP4542004B2 - 成形用アルミニウム合金板 - Google Patents

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Description

本発明は、高Mg含有Al-Mg 系合金板であって、高い成形性を有するアルミニウム合金板に関するものである。
周知の通り、従来から、自動車、船舶、航空機あるいは車両などの輸送機、機械、電気製品、建築、構造物、光学機器、器物の部材や部品用として、各種アルミニウム合金板(以下、アルミニウムをAlとも言う)が、合金毎の各特性に応じて汎用されている。
これらのアルミニウム合金板は、多くの場合、プレス成形などで成形されて、上記各用途の部材や部品とされる。この点、高成形性の点からは、前記Al合金のなかでも、強度・延性バランスに優れたAl-Mg 系Al合金が有利である。
このため、従来から、Al-Mg 系Al合金板に関して、成分系の検討や製造条件の最適化検討が行われている。このAl-Mg 系Al合金としては、例えばJIS A 5052、5182等が代表的な合金成分系である。しかし、このAl-Mg 系Al合金でも冷延鋼板と比較すると延性に劣り、成形性に劣っている。
このため、従来から、Al-Mg 系Al合金板に関して、成分系の検討や製造条件の最適化検討が行われている。このAl-Mg 系Al合金としては、例えばJIS A 5052、5182等が代表的な合金成分系である。しかし、このAl-Mg 系Al合金でも冷延鋼板と比較すると延性に劣り、成形性に劣っている。
これに対し、Al-Mg 系Al合金は、Mg含有量を増加させて、6%、できれば8%を超える高Mg化させると、強度延性バランスが向上する。しかし、このような高MgのAl-Mg 系合金は、DC鋳造などで鋳造した鋳塊を均熱処理後に熱間圧延を施す、通常の製造方法では、工業的に製造することは困難である。この理由は、鋳造の際に鋳塊にMgが偏析したり、通常の熱間圧延では、Al-Mg 系合金の延性が著しく低下するために、割れが発生し易くなるからである。
一方、高MgのAl-Mg 系合金を、上記割れの発生する温度域を避けて、低温での熱間圧延を行うことも困難である。このような低温圧延では、高MgのAl-Mg 系合金の材料の変形抵抗が著しく高くなり、現状の圧延機の能力では製造できる製品サイズが極端に限定されるためである。
また、高MgのAl-Mg 系合金のMg含有許容量を増加させるために、FeやSi等の第三元素を添加する方法等も提案されている。しかし、これら第三元素の含有量が増えると、粗大な金属間化合物を形成しやすく、アルミニウム合金板の延性を低下させる。このため、Mg含有許容量の増加には限界があり、Mgが8%を超える量を含有させることは困難であった。
このため、従来から、高MgのAl-Mg 系合金板を、双ロール式などの連続鋳造法で製造することが種々提案されている。双ロール式連続鋳造法は、回転する一対の水冷銅鋳型 (双ロール) 間に、耐火物製の給湯ノズルからアルミニウム合金溶湯を注湯して凝固させ、かつ、この双ロール間において、上記凝固直後に圧下し、かつ急冷して、アルミニウム合金薄板とする方法である。この双ロール式連続鋳造法はハンター法や3C法などが知られている。
双ロール式連続鋳造法の冷却速度は、従来のDC鋳造法やベルト式連続鋳造法に較べて1〜3桁大きい。このため、得られるアルミニウム合金板は非常に微細な組織となり、プレス成形性などの加工性に優れる。また、鋳造によって、アルミニウム合金板の板厚も比較的薄い1〜13mmのものが得られる。このため、従来のDC鋳塊(厚さ200 〜 600mm)のように、熱間粗圧延、熱間仕上げ圧延等の工程が省略できる。さらに鋳塊の均質化処理も省略出来る場合がある。
このような双ロール式連続鋳造法を用いて製造した高MgのAl-Mg 系合金板の、成形性向上を意図して組織を規定した例は、従来においても提案されている。例えば、6 〜10% の高MgであるAl-Mg 系合金板の、Al-Mg 系の金属間化合物の平均サイズを10μm 以下とした、機械的性質に優れた自動車用アルミニウム合金板が提案されている (特許文献1参照) 。また、10μm 以上のAl-Mg 系金属間化合物の個数を300 個/mm2以下とし、平均結晶粒径が10〜70μm とした自動車ボディーシート用アルミニウム合金板なども提案されている (特許文献2参照) 。
特開平7 −252571号公報 (全文) 特開平8 −165538号公報 (全文)
これら特許文献1 、2 の通り、鋳造の際に晶出するAl-Mg 系金属間化合物は、プレス成形の際に破壊の起点となりやすい。したがって、高MgのAl-Mg 系合金板のプレス成形性を向上させるためには、これらAl-Mg 系金属間化合物(β相、Al-Mg 系化合物とも言う)を、特許文献1 、2 の通り、微細化させる、あるいは粗大なものを少なくすることが有効である。
しかし、特許文献1 、2 では、共通して、鋳造工程における冷却速度(鋳造速度)を速くして、鋳造の際に晶出するAl-Mg 系金属間化合物(β相)を抑制している。ただ、高Mg含有量となるほど、鋳造工程における冷却速度制御だけで、Al-Mg 系合金板のβ相を、プレス成形性に悪影響しない程度に低減することは難しい。
したがって、鋳造工程における冷却速度以外に、あるいは、これに加えて、更に、Al-Mg 系合金板のβ相をプレス成形性に悪影響しない程度に低減できる技術が必要になっていると言える。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、Al-Mg 系合金板のβ相を低減して、プレス成形性を向上させた高MgのAl-Mg 系合金板を提供することである。
この目的を達成するために、本発明成形用アルミニウム合金板の要旨は、質量% で、Mg:6.0〜15.0% を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなり、双ロール連続鋳造された板厚が1 〜13mmの薄板を熱間圧延することなしに冷間圧延して製造されたAl-Mg 系アルミニウム合金板であって、この板の板厚方向に亙って測定された各Mg濃度と、これらを平均化した平均Mg濃度との関係において、この平均Mg濃度からの前記各Mg濃度のずれ幅の最大値が絶対値で4%以下であるとともに、この平均Mg濃度からの前記各Mg濃度のずれ幅の平均値が絶対値で0.8%以下であることとする。
本発明では、上記要旨において、Mg含有量とMg濃度との表現を使い分けている。即ち、Al-Mg 系合金板における合金元素としてのMg含有量を言う際にはMg含有量と言い、このMg含有量の板厚方向などの板の部位による偏析度を言う場合には、Mg濃度と言う。
本発明では、高MgのAl-Mg 系合金板における、板厚方向に亙ってのMgの偏析度合い(Mg濃度分布あるいはMg含有量分布) を抑制して、Mgの偏析(濃度むら)に起因するβ相と称せられるAl-Mg 系金属間化合物の析出を抑制し、また、Mgの偏析(濃度むら)に起因する、成形時の板の不均一変形乃至歪み集中を抑制する。それによって、高MgのAl-Mg 系合金板における成形性を向上させる。
高MgのAl-Mg 系合金板における板厚方向に亙ってのMgの偏析(濃度むら)が大きいと、β相が析出しやすくなる。例えば、双ロール式連続鋳造法における冷却速度(鋳造速度)を速くして、鋳造の際に晶出するβ相を抑制し得たとしても、更にその後の工程で板状鋳塊または薄板を400 ℃以上の温度に加熱する、あるいは加熱された板状鋳塊または薄板を冷却する熱履歴工程が、工程設計上、選択的に入ってくる。
これらの熱履歴工程は、例えば、冷間圧延前の均質化熱処理、冷間圧延途中の中間焼鈍、冷間圧延後の溶体化処理などである。これらの熱履歴工程では、高MgのAl-Mg 系合金板における板厚方向に亙ってのMgの偏析(濃度むら)が大きいと、β相が析出しやすくなる。
前記した通り、Al-Mg 系合金板が高Mg含有量となるほど、鋳造工程における冷却速度制御だけで、β相をプレス成形性に悪影響しない程度に低減するのが難しいのは、この理由による。
(Mg 偏析度)
本発明では、Mgの偏析に起因するβ相の析出を抑制して、高MgのAl-Mg 系合金板における成形性を向上させる。このために、高MgのAl-Mg 系Al合金板の、板厚方向に亙って測定された各Mg濃度と、これらを平均化した平均Mg濃度との関係において、この平均Mg濃度からの前記各Mg濃度のずれ幅の最大値が絶対値で4%以下であるとともに、この平均Mg濃度からの前記各Mg濃度のずれ幅の平均値が絶対値で0.8%以下であることとする。
図1 〜4 に、10%Mg のAl-Mg 系合金板 (板厚:1.0mm) の、EPMAで測定した、板厚方向に亙っての各Mg濃度(Mg の偏析度) を示す。図1 〜4 において、縦軸がMg濃度、横軸が板厚方向に亙っての測定位置を示す。横軸において、0.1mm と1.0mm の位置が各板の表面である。
この内、図1 、2 は、平均Mg濃度からの各Mg濃度のずれ幅の最大値が絶対値で4%以下であるとともに、この平均Mg濃度からの前記各Mg濃度のずれ幅の平均値が絶対値で0.8%以下である後述する発明例1 、2 である。また、図3 、4 は、平均Mg濃度からのMg濃度のずれ幅の最大値が絶対値で4%を越え、平均Mg濃度からのMg濃度のずれ幅の平均値が絶対値で0.8%を越えた後述する比較例11、12である。
特に、図3 の0.6 〜0.8mm の位置近傍の、10%Mg 量に対してMg濃度がプラス側に大きくなったピーク (偏析) 群のように、各Mg濃度のずれ幅の最大値や各Mg濃度のずれ幅の平均値がプラス側に大きくなった場合、Mgの偏析に起因するβ相が析出しやすくなる。このため、破壊の起点となるβ相が増加して、強度、伸びが低下し、成形性が低下する。
一方、これも図3 の0.5 〜0.9mm の位置近傍の、10%Mg 量に対してMg濃度がマイナス側に大きくなったピーク (偏析) 群のように、各Mg濃度のずれ幅の最大値や各Mg濃度のずれ幅の平均値がマイナス側に大きくなった場合、高MgのAl-Mg 系Al合金板において、Mg濃度が大幅に低くなる部分が局部的乃至部分的に多く存在することとなる。このようなMg濃度が大幅に低くなる部分では強度が低くなる。このため、成形における引張変形時には、このMg濃度が低くなる部分のみが優先的に変形する不均一変形が生じる。このため、成形の際の歪みが部分的に集中することとなり、特に伸びが低下して、成形性が低下する。
したがって、前記各Mg濃度のずれ幅の最大値が絶対値で4%を越えるか、または前記各Mg濃度のずれ幅の平均値が絶対値で0.8%を越えた場合、即ち、これらいずれかの要件を満たさない場合、あるいは両方の要件を満たさない場合、高MgのAl-Mg 系合金板における成形性が低下する。
なお、高MgのAl-Mg 系Al合金板において、板厚方向に対して、板幅方向のMg偏析は殆ど無く、板幅方向の中心部でも、板幅方向の両端部などでも、同じMg濃度測定結果が得られる。
( Mg濃度測定)
上記規定において、板厚方向に亙る各Mg濃度の測定は、全板厚の範囲とする。この各Mg濃度の測定には、線分析が可能なEPMA( 電子線プローブマイクロアナライザ) を用い、高MgのAl-Mg 系Al合金板の板幅方向の断面を板厚方向に走査して全板厚の範囲における、各厚み位置部分でのMg濃度を測定する。
この際、板全体としての再現性を得るために、板厚方向に亙る各Mg濃度の測定箇所を板の複数箇所とする。この複数箇所とは、板幅方向の中心部と板幅方向の両端部の3 箇所とし、高MgのAl-Mg 系Al合金板の長手方向に亙って適当に距離を置いた3 箇所において、各々測定し、これら合計9 箇所における前記平均Mg濃度からの前記各Mg濃度のずれ幅の最大値と、前記平均Mg濃度からの前記各Mg濃度のずれ幅の平均値とを各々求めて、これを各々平均化する。
(化学成分組成)
本発明Al合金板における化学成分組成の、各合金元素の意義及びその限定理由について以下に説明する。本発明Al合金板は、質量% で、Mg:6.0〜15.0% を含み、残部がAlおよび不可避的な不純物からなる化学成分組成とする。
(Mg:6.0 〜15.0%)
MgはAl合金板の強度、延性を高める重要合金元素である。Mg含有量が少な過ぎると、強度、延性が不足して、高MgのAl-Mg 系Al合金の特徴が出ず、プレス成形性が不足する。一方、Mg含有量が多過ぎると、製造方法や条件の制御を行なっても、板厚幅方向に亙ってのMgの偏析度合いを、上記本発明範囲内に抑制することが難しい。この結果、β相の析出が多くなる。この結果プレス成形性が著しく低下する。また、加工硬化量が大きくなり、冷間圧延性も低下させる。したがって、Mgは6.0 〜15.0% の範囲、好ましくは8%を超え14% 以下の範囲とする。
(Fe:1.0%以下、Si:0.5% 以下)
FeとSiは、できるだけ少ない量に規制すべき不純物である。FeとSiは、Al-Mg-(Fe 、Si) などから成るAl-Mg 系化合物量や、Al-Fe 、Al-Si 系などのAl-Mg 系以外の化合物量となって多く生成する。Feの含有量が1.0%、Siの含有量が0.5%、を各々超えた場合には、これらの化合物量が過大となって、破壊靱性や成形性を大きく阻害する。この結果プレス成形性が著しく低下する。したがって、Feは1.0%以下、好ましくは0.5%以下、Siは0.5%以下、好ましくは0.3%以下に各々規制する。
この他、Mn、Cu、Cr、Zr、Zn、V 、Ti、B なども不純物元素であり、含有量は少ない方が良い。しかし、例えば、Mn、Cr、Zr、V には圧延板組織の微細化効果、Ti、B には鋳造板 (鋳塊) 組織の微細化効果などの効果もある。また、Cu、Znには、強度を向上させる効果もある。このため、これら効果を狙って、敢えて含有させる場合もあり、本発明板の特性である成形性を阻害しない範囲で、これら元素を一種または二種以上含有させることは許容される。これらの許容量は、各々、質量% で、Mn:0.3% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.3% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.1% 以下、B:0.05% 以下、Cu:1.0% 以下、Zn:1.0% 以下、である。
(平均結晶粒径)
Al合金板表面の平均結晶粒径は100 μm 以下に微細化させることが成形性を向上させる前提条件として好ましい。結晶粒径をこの範囲に細かく乃至小さくすることによって、プレス成形性が確保乃至向上される。結晶粒径が100 μm を越えて粗大化した場合、プレス成形性が著しく低下し、成形時の割れや肌荒れなどの不良が生じ易くなる。一方、平均結晶粒径があまり細か過ぎても、5000系Al合金板に特有の、SS (ストレッチャーストレイン) マークがプレス成形時に発生するので、この観点からは、平均結晶粒径は20μm 以上とすることが好ましい。
本発明で言う結晶粒径とは板の長手(L) 方向の結晶粒の最大径である。この結晶粒径は、Al合金板を0.05〜0.1mm 機械研磨した後電解エッチングした表面を、100 倍の光学顕微鏡を用いて観察し、前記L 方向にラインインターセプト法で測定する。1 測定ライン長さは0.95mmとし、1 視野当たり各3 本で合計5 視野を観察することにより、全測定ライン長さを0.95×15mmとする。
(製造方法)
以下に、本発明におけるAl-Mg 系Al合金板の製造方法につき説明する。
本発明の高MgのAl-Mg 系Al合金板は、DC鋳造などで鋳造した鋳塊を均熱処理後に熱間圧延、冷間圧延を施す、通常の製造方法では、前記した通り、高Mg量となるほど、Al-Mg 系Al合金板を効率良く鋳造し工業的に製造することが難しい。また、鋳塊の厚みが大きいために、Mgの偏析度合いが大きくなり、Mgの偏析度合いを上記本発明範囲内に抑制することが難しくなる。
ただ、このようなMgの偏析度合いが大きな鋳塊であっても、十分な均質化熱処理を施すことによって、Mgの偏析を上記本発明範囲内に抑制できる。
したがって、本発明の高MgのAl-Mg 系Al合金板を工業的に製造する場合は、現状では、双ロール式などの連続鋳造と、熱間圧延を省略した、冷間圧延、焼鈍とを組み合わせて製造された、板厚0.5 〜3mm の板とすることが好ましい。双ロール式連続鋳造であれば、冷却速度が格段に大きく、鋳塊の厚みが薄いために、Mgの偏析度合いが小さくなり、Mgの偏析度合いを、上記本発明範囲内に抑制することができ、これに起因するβ相の析出や成形性の低下を抑制できる。
この点、前記双ロール式連続鋳造の際に、高Mg含有のアルミニウム合金溶湯を、回転する一対の双ロールに注湯して、この双ロールの冷却速度を100 ℃/s以上として、板厚1 〜13mmの範囲に、連続的に鋳造して製造されたものであることが好ましい。更に、より高いプレス成形性を確実に達成するためには、上記連続鋳造に際して、上記双ロール表面が潤滑されていないことが好ましい。
(双ロール式連続鋳造)
連続鋳造方法としては、双ロール式の他に、ベルトキャスター式、プロペルチ式、ブロックキャスター式などがある。しかし、高MgのAl-Mg 系Al合金板鋳造の際の冷却速度を後述する通り速くするためには、双ロール式連続鋳造が好ましい。
この双ロール式連続鋳造は、前記した通り、回転する一対の水冷銅鋳型などの双ロール間に、耐火物製の給湯ノズルから、上記成分組成のAl合金溶湯を注湯して凝固させ、かつ、この双ロール間において、上記凝固直後に圧下し、かつ急冷して、Al合金薄板とする。
(ロール潤滑)
この際、双ロールとしては、潤滑剤によって表面が潤滑されていないロールを用いることが望ましい。従来では、溶湯がロール表面に接触および急冷されて、双ロール表面に造形される凝固殻の割れを防止するために、酸化物粉末 (アルミナ粉、酸化亜鉛粉等) 、SiC 粉末、グラファイト粉末、油、溶融ガラスなどの潤滑剤 (離型剤) を、双ロール表面に塗布あるいは流下させて用いることが一般的であった。しかし、これら潤滑剤を用いた場合、冷却速度が遅くなって、必要な冷却速度が得られない。このため、結晶粒が粗大となって、8%を超える高MgのAl-Mg 系合金板の成形性が低下する。
また、これら潤滑剤を用いた場合、双ロール表面において、潤滑剤の濃度や厚みの不均一によって、冷却のムラが生じやすく、板の部位によっては凝固速度が不十分となりやすい。このため、Mg含有量が高くなるほど、マクロ偏析やミクロ偏析が大きくなり、Al-Mg 系合金板の成形性を均一にすることが困難となる可能性が高くなる。
(冷却速度)
例えば、鋳造する板厚が1 〜13mmの比較的薄板の範囲であっても、高MgのAl-Mg 系合金板の平均結晶粒径を微細化するためには、この双ロールによる鋳造の冷却速度は100 ℃/s以上のできるだけ速い速度 (凝固速度) が必要である。上記潤滑剤を用いた場合、理論計算上は冷却速度が速くても、実質的な、あるいは実際における冷却速度が実質的に100 ℃/s未満となりやすい。このため、Mgの偏析度合いが大きくなり、Mgの偏析度合いを上記本発明範囲内に抑制することが難しくなり、これに起因するβ相の析出や成形性の低下を抑制できない。更に、高MgのAl-Mg 系合金板の平均結晶粒径を微細化できず、プレス成形性が著しく低下する。
なお、この冷却速度は、直接の計測は難しいので、鋳造された板 (鋳塊) のデンドライトアームスペーシング (デンドライト二次枝間隔、:DAS) から公知の方法(例えば、軽金属学会、昭和63年8.20発行、「アルミニウムデンドライトアームスペーシングと冷却速度の測定方法」などに記載)により求める。即ち、鋳造された板の鋳造組織における、互いに隣接するデンドライト二次アーム (二次枝) の平均間隔d を交線法を用いて計測し (視野数3 以上、交点数は10以上) 、このd を用いて次式、d = 62×C -0.337 (但し、d:デンドライト二次アーム間隔mm、C : 冷却速度℃/s) から求める。したがって、この冷却速度は、凝固速度であるとも言える。
(鋳造板厚)
双ロールにより連続鋳造する薄板の板厚は1 〜13mmの範囲とする。そして、好ましくは、1mm 以上、5mm 未満の薄い板厚とする。板厚1mm 未満の連続鋳造は、双ロール間への注湯や、双ロール間のロールギャップ制御などの鋳造限界から、困難である。他方、板厚が13mm、より厳しくは板厚が5mm を超えて厚くなった場合、鋳造の冷却速度が著しく遅くなり、Mgの偏析度合いが大きくなり、Mgの偏析度合いを上記本発明範囲内に抑制することが難しくなり、これに起因するβ相の析出を抑制できない可能性がある。また、β相全般が粗大化したり、多量に析出する傾向がある。この結果プレス成形性が著しく低下する可能性が高くなる。
(注湯温度)
Al合金溶湯を双ロールに注湯する際の注湯温度は、液相線温度+30℃以下とすることが好ましい。注湯温度が液相線温度+30℃を超えた場合、後述する鋳造冷却速度が小さくなり、Mgの偏析度合いが大きくなり、Mgの偏析度合いを上記本発明範囲内に抑制することが難しくなり、これに起因するβ相の析出や成形性の低下を抑制できない可能性がある。また、β相全般が粗大化したり、多量に晶出する可能性がある。この結果、強度伸びバランスが低下し、プレス成形性が著しく低下する可能性がある。また、双ロールに圧下効果が小さくなり、中心欠陥が多くなって、Al合金板としての基本的の機械的性質が低下する可能性がある。
(双ロール周速)
回転する一対の双ロールの周速は1m /min 以上とすることが好ましい。双ロールの周速が1m /min 未満では、溶湯と鋳型 (双ロール) との接触時間が長くなり、鋳造薄板の表面品質が低下する可能性がある。この点、双ロールの周速は速いほど良く、好ましい周速は30m/min 以上である。
(双ロールによる圧下)
本発明では、選択的に、あるいは必要に応じて、前記双ロールに注湯後に、双ロール間で凝固しつつある板状鋳塊に対して、双ロールによって、板状鋳塊の長さ1m当たりにつき300 トン以上、即ち、300 トン/m以上の圧下荷重を負荷しつつ鋳造しても良い。
この圧下荷重の負荷によって、注湯時や凝固中に発生したガスが、板状鋳片内から外部に放出されやすくなる。このため、凝固温度範囲が約100 ℃と広い高MgのAl-Mg 系合金であっても、ガスの鋳片組織内での滞留がなくなり、これに起因する空隙が抑制される。そして、その後の冷間圧延との相乗効果で、空隙などの鋳造欠陥を、製造された板の伸びなどの成形特性に影響の無い範囲まで抑制することが可能である。
圧下荷重の負荷による、この作用効果は、勿論、鋳造する板厚や鋳造条件によっても左右されるが、鋳造する板厚が1 〜13mmの比較的薄板の範囲では、300 トン/m以上の圧下荷重によって発揮される。なお、300 トン/m以上とは、板状鋳塊の長手方向の長さ1m当たりの圧下荷重量 (トン) である。
(均質化熱処理)
均質化熱処理(均熱処理とも言う)は、DC鋳造などで鋳造した鋳塊では、Mgの偏析抑制のために、熱間圧延前に必須に施される。また、比較的Mgの偏析が少ない双ロール式連続鋳造方法による板状鋳塊でも、Mgの偏析抑制のためには、冷間圧延前に施されることが好ましい。
均質化熱処理は、400 ℃以上液相線温度以下で、必要時間行なう。この時間は双ロール式連続鋳造方法による薄板状鋳塊を、連続熱処理炉を使用して均質化熱処理する場合には 1秒(1s)以下が目安である。また、DC鋳造などで鋳造した鋳塊をバッチ式熱処理炉を使用して均質化熱処理する場合には1 〜10時間(1〜10hr) が目安である。この均質化熱処理によって、Mgの偏析度合いが小さくなり、Mgの偏析度合いを、上記本発明範囲内に抑制することができる。
均質化熱処理するに際しては、鋳塊の昇温時と冷却時の両方の途中過程で、昇温速度と冷却速度が小さいと、Al-Mg 系金属間化合物が発生する可能性が十分にある。特に、Al-Mg 系金属間化合物が発生する可能性が高い温度域は、昇温時は鋳塊中心部の温度が200 ℃から400 ℃までの範囲、冷却時は均質化熱処理温度から100 ℃までの範囲である。
このため、このような均質化熱処理を選択的に行なう際には、Al-Mg 系金属間化合物発生を抑制するために、均質化熱処理温度への加熱の際に、鋳塊中心部の温度が200 ℃から400 ℃までの範囲の平均昇温速度を5 ℃/s以上とすることが好ましい。また、均質化熱処理温度からの冷却に際して、均質化熱処理温度から100 ℃までの範囲の平均冷却速度を5 ℃/s以上とすることが好ましい。
(熱間圧延)
DC鋳造などで鋳造した鋳塊は、均質化熱処理後に、熱間圧延温度まで冷却されか、そのまま熱間圧延される。この熱間圧延条件は常法で良い。一方、双ロール式連続鋳造方法による板状鋳塊は、オンラインでもオフラインでも熱間圧延せずに、冷間圧延される。
(冷間圧延)
冷間圧延では、双ロール式連続鋳造方法による板状鋳塊が、また、DC鋳造などで鋳造した鋳塊では、上記熱間圧延された熱延板が、製品板の板厚0.5 〜3mm に冷間圧延されて、鋳造組織が加工組織化される。
この点、冷間圧延される板の板厚が厚い場合には、冷延途中に中間焼鈍を入れて、最終の冷間圧延における冷延率を60% 以下とすることが好ましい。なお、冷間圧延における加工組織化の程度は冷間圧延の冷延率にもより、上記集合組織制御のために、鋳造組織が残留する場合もあるが、成形性や機械的な特性を阻害しない範囲で許容される。
(最終焼鈍)
冷延後のAl合金冷延板は、400 ℃〜液相線温度で最終焼鈍することが好ましい。この最終焼鈍によって、Mgの偏析度合いが小さくなり、Mgの偏析度合いを、上記本発明範囲内に抑制することができ、これに起因するβ相の析出や成形性の低下を抑制できる。
焼鈍温度が400 ℃未満では、溶体化効果が得られない可能性が高く、更に、Mgの偏析度合いを小さくする効果が無い。このため、最終焼鈍温度は好ましくは450℃以上が良い。
また、この最終焼鈍後には、500 〜300 ℃の温度範囲を10℃/s以上の、できるだけ速い平均冷却速度で冷却する必要がある。最終焼鈍後の平均冷却速度が遅く、10℃/s未満であれば、冷却過程で、Mgの偏析度合いが逆に大きくなり、上記本発明範囲内に抑制することができず、これに起因するβ相の析出や成形性の低下を抑制できない可能性がある。このため、高MgのAl-Mg 系合金板の強度−延性バランスが低下して、プレス成形性が低下する可能性が高い。このため、上記平均冷却速度は、好ましくは15℃/s以上が良い。
以下に本発明の実施例を説明する。表1 に示す種々の化学成分組成のAl-Mg 系Al合金溶湯(発明例A〜D、比較例E、F)を、前記した双ロール連続鋳造法およびDC鋳造法により、表2 に示す条件で各鋳塊板厚に鋳造した。但し、表2においてDC鋳造法により製造した発明例5、6、7、8は全て本発明範囲外の参考例である。
そして、双ロール連続鋳造法の場合には、各Al合金薄板鋳塊を、表2 に示す条件で選択的に均熱処理した後、熱間圧延することなしに、板厚1.0mm まで冷間圧延した。また、DC鋳造法の場合には、表2 に示す条件で各Al合金鋳塊を均熱処理した後、480 ℃の開始温度、350 ℃の終了温度で、板厚4.0mm まで圧延する熱間圧延を行い、その後、板厚1.0mm まで冷間圧延した。なお、これらの冷間圧延中の中間焼鈍は行なわなかった。
また、これら各冷延板を、表2 に示す温度と冷却条件で、連続焼鈍炉で最終焼鈍を行った (焼鈍温度での保持時間は1 秒以下) 。
双ロール連続鋳造の際の、双ロールの周速は70m /min、Al合金溶湯を双ロールに注湯する際の注湯温度は、液相線温度+20℃と、各例とも一定とし、双ロール表面の潤滑は行なわなかった。
このように得られた、最終焼鈍後の高Mgの Al-Mg系Al合金板から各試験片を採取し、板厚方向のMg偏析度合いを、前記した方法により調査した。この結果を表2 に示す。なお、EPMAは日本電子製X 線マイクロアナライザー:JXA-8800RL を用いた。
なお、これら発明例、比較例とも、比較例13を除き、得られたAl合金板表面の平均結晶粒径は30〜60μm の範囲であった。比較例13は得られたAl合金板表面の平均結晶粒径が100 μm を超えていた。
更に、前記各試験片の機械的性質と、強度延性バランス [引張強度(TS:MPa)×全伸び(EL:%)](MPa%) の平均値を求め、また、長手方向に亙って、互いの間隔を100mm 以上開けた任意の各試験片を各試験毎に5 枚採取して、成形性などの特性も計測、評価した。これらの結果も表2 に示す。
引張試験はJIS Z 2201にしたがって行うとともに、試験片形状はJIS 5 号試験片で行い、試験片長手方向が圧延方向と一致するように作製した。また、クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
成形性の材料試験評価としては、張出性の評価として、平面ひずみ状態の張出試験、伸びフランジ性の評価としてバーリング試験を行った。
張出試験は、直径101.6mmの球頭張出ポンチを用い、長さ180mm、幅110mmの試験片に潤滑剤としてR-303Pを塗布し、成形速度4mm/s、しわ押さえ荷重200kNで張出成形試験を行い、試験片が割れる際の高さ(mm)を測定した。
バーリング試験は、1辺が100mmの正方形の板に直径10mmの孔を打ち抜く。そして、直径25mmの60°円錐ポンチを用いて、バリを上面(ダイス面)側とし潤滑油として防錆油を用いて、しわ押さえ力4.0トン、ポンチ速度10m/minでバーリング試験を行い、前記打ち抜き孔の縁に破断が発生した段階でポンチを止め、破断後の孔内径(d s )と成形試験前の初期孔径(d0)から下記式によってバーリング率(λ)を求めた。
λ:(d s −d0)/d0 ×100
破断後の孔内径については、圧延方向と、圧延方向に垂直な方向でそれぞれ測定し、バーリング率を各々求めた後に平均を取って、各サンプルのバーリング率とした。さらに、各サンプルについて3回のバーリング試験を行い、その平均値を最終的にバーリング率(λ%)とした。これらの結果も表2 に示す。
表2 の通り、発明例1 〜8 は、表1 のA 〜D の本発明範囲内の組成を有する高MgのAl-Mg 系Al合金板例であって、好ましい製造条件範囲内で製造されている。このため、板厚方向に亙って測定された各Mg濃度と、これらを平均化した平均Mg濃度との関係において、この平均Mg濃度からの前記各Mg濃度のずれ幅の最大値が絶対値で4%以下であるとともに、この平均Mg濃度からの前記各Mg濃度のずれ幅の平均値が絶対値で0.8%以下である。この結果、発明例1 〜8 は、強度延性バランス、限界張出高さ、λが高く、プレス成形性に優れている。
これに対して、表2 の通り、比較例11〜17は、表1 のA 、B の本発明範囲内の組成を有する高MgのAl-Mg 系Al合金例ではあるが、好ましい製造条件の範囲外で製造されている。このため、板厚方向に亙って測定されたMg偏析度が本発明範囲を外れて高い。この結果、強度延性バランスが低く、プレス成形性に劣っている。
比較例11、12は、表1 のA の本発明範囲内の組成を有する合金例ではあるが、均熱処理を行なっていない。
比較例13は、表1 のA の本発明範囲内の組成を有する合金例ではあるが、双ロール連続鋳造時の冷却速度が小さ過ぎる。
比較例14、16は、表1 のA の本発明範囲内の組成を有する合金例ではあるが、最終焼鈍温度が低過ぎる。
比較例15、17は、表1 のA の本発明範囲内の組成を有する合金例ではあるが、最終焼鈍における冷却速度が遅過ぎる。
一方、比較例9 、10は、好ましい製造条件の範囲内で製造されているものの、表1 のE 、F の本発明範囲外の組成を有する高MgのAl-Mg 系Al合金例である。このため、強度延性バランスが低く、プレス成形性に劣っている。
比較例9 は、Mg含有量が下限を下回って少な過ぎるE の合金を用いている。
比較例10は、Mg含有量が上限を上回って多過ぎるF の合金を用いている。
したがって、これらから、Mg量との関係で、本発明のMg偏析度を規定する要件や、これを規定内とする好ましい製造条件の、強度、延性、強度延性バランス、成形性に対する臨界的な意義が分かる。
Figure 0004542004
Figure 0004542004
以上説明したように、本発明によれば、高MgのAl-Mg 系合金を含めたアルミニウム合金の伸びや強度延性バランスを向上させることができ、成形性を向上させることができる。この結果、自動車、船舶、航空機あるいは車両などの輸送機、機械、電気製品、建築、構造物、光学機器、器物の部材や部品などの、成形性が要求されるアルミニウム合金板用途への適用を拡大できる。
10%Mg のAl-Mg 系合金板の、EPMAで測定した、板厚方向に亙ってのMgの偏析度を示す説明図(発明例)である。 10%Mg のAl-Mg 系合金板の、EPMAで測定した、板厚方向に亙ってのMgの偏析度を示す説明図(発明例)である。 10%Mg のAl-Mg 系合金板の、EPMAで測定した、板厚方向に亙ってのMgの偏析度を示す説明図(比較例)である。 10%Mg のAl-Mg 系合金板の、EPMAで測定した、板厚方向に亙ってのMgの偏析度を示す説明図(比較例)である。

Claims (3)

  1. 質量% で、Mg:6.0〜15.0% を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなり、双ロール連続鋳造された板厚が1 〜13mmの薄板を熱間圧延することなしに冷間圧延して製造されたAl-Mg 系アルミニウム合金板であって、この板の板厚方向に亙って測定された各Mg濃度と、これらを平均化した平均Mg濃度との関係において、この平均Mg濃度からの前記各Mg濃度のずれ幅の最大値が絶対値で4%以下であるとともに、この平均Mg濃度からの前記各Mg濃度のずれ幅の平均値が絶対値で0.8%以下であることを特徴とする成形用アルミニウム合金板。
  2. 前記Mg含有量が8%を超え14% 以下である請求項1に記載の成形用アルミニウム合金板。
  3. 前記アルミニウム合金板が、前記Mg以外の元素として、Fe:1.0% 以下、Si:0.5% 以下、Mn:0.3% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.3% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.1% 以下、Cu:1.0% 以下、Zn:1.0% 以下、に各々抑制した請求項1または2に記載の成形用アルミニウム合金板。
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