JP2008022706A - ニトリラーゼおよびニトリラーゼを用いるカルボン酸の製造方法 - Google Patents

ニトリラーゼおよびニトリラーゼを用いるカルボン酸の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 有機溶媒耐性の高いニトリラーゼを利用して、ニトリルから効率的にカルボン酸を製造する方法を提供する。
【解決手段】 ニトリル化合物を、有機溶媒を含む水溶液中で、アースロバクター エスピー F−73株に由来し、特定の理化学的性質を有するニトリラーゼと接触させ、生成されるカルボン酸を回収する工程を含む、カルボン酸の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、特定の理化学的性質を有するニトリラーゼおよび当該ニトリラーゼを利用するニトリル化合物からカルボン酸を製造する方法に関する。
カルボン酸の製造方法として、ニトリラーゼ酵素を用いてニトリルを加水分解して製造する方法がある。ニトリラーゼはニトリルからカルボン酸に変換し得る有用な酵素である。
従来、ニトリラーゼとしては、たとえば、Rhodococcus rhodochrous J1由来 のニトリラーゼ(非特許文献1)、Rhodococcus rhodochrousK22由来の酵素(非特許文献2)、Alcaligenes faecalisJM3由来の酵素(非特許文献3)、Alcaligenes faecalis ATCC8750由来の酵素(特許文献1)、Pseudomonas DSM11387(非特許文献4)、Synechocystis sp. PCC6803(非特許文献5)などが報告されている。また、Pseudomonas fluorescens由来の酵素(非特許文献6)、Synechosystis sp.由来の酵素(非特許文献7)なども報告されている。
Rhodococcus、Alcaligenesの酵素(非特許文献1、2、3、特許文献1)に関しては、有機溶媒耐性が知られていないか、あるいは低いので、有機溶媒を添加するような反応液を用いてニトリルを変換してカルボン酸を生産する等に商業的に利用するには改善の余地を残していた。公知のニトリラーゼは有機溶媒に対する感受性が比較的高い。また、Pseudomonasの酵素(非特許文献4)はC6−C16のアルカンに対して耐性がある、あるいはC6−C11のアルカノールに対して耐性があるという報告はあるが、親水性の高い有機溶媒に対する耐性について報告はない。Synechocystisの酵素(非特許文献5)は精製酵素を用いて各種有機溶媒中での反応を比較しているが、有機溶媒に曝した場合の活性の低下は不明であり、有機溶媒耐性という観点では不明である。また、アリル基を持つアセトニトリルに対し活性の高いニトリラーゼとして、前記非特許文献3、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7が知られているが、非特許文献3、6は分子量、非特許文献5、7は分子量およびpH安定性で本発明酵素と異なっている。
さらに、各種ニトリラーゼ酵素を、メタノール、イソプロパノール、トルエンまたはヘキサンを含有する反応液(メタノールは10%、25%、イソプロパノールは10%、トルエンは40%、ヘキサンは70%)中で反応をさせた結果が開示されているが、反応性の比較は開示されてはいない(特許文献2)。
また例えば、ニトリラーゼ活性物質を産生する微生物として、アースロバクター属に属する微生物が報告されている(特許文献3、4)。
一般に酵素反応は水溶液中で高活性を示すが、有機溶媒存在下では活性が著しく低下するか活性を全く示さないことがある。実際に、水溶性の低いニトリルを原料とする場合、予め有機溶媒を用いて溶解することが望ましいが、上述したアースロバクター属由来のニトリラーゼは有機溶媒に対する耐性を有しない。したがって、既知のアースロバクター属微生物由来のニトリラーゼ酵素は、水溶性の低いニトリルを原料としたカルボン酸の製造手段として適していなかった。
以上、従来、ニトリラーゼの有機溶媒耐性は不明である。しかしながら、水に溶解しないニトリル化合物の加水分解には必ず有機溶媒の添加が必要なので、有機溶媒に耐性のあるニトリラーゼの提供が望まれていた。
特開平4−341185号公報 米国公開特許20040002147号公報 特開平11−341979号公報 特開2003−274933号公報 Eur.J.Biochem.,182,349−356(1989) J.Bacteriol.,172,4807−4815(1990) Eur.J.Biochem,194,765−772(1990) Biotechnology Letters,20(4),329−331(1998) Applied and Environmental Microbiology,69(8),4359−4366(2003) J.Mol.Catal.B.,5,467−474(1998) Arch.Microbiol.184,407−418(2006)
本発明は、ニトリル加水分解活性とともに高い有機溶媒耐性を持つニトリラーゼの提供および当該ニトリラーゼを用いてカルボン酸を製造する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは鋭意検討した結果、アースロバクター エスピー F−73株に由来し、特定の理化学的性質を有する新規な酵素、好ましくは精製酵素が、極めて高い有機溶媒耐性と、ニトリル加水分解活性を示すことを見出した。また、該酵素が有機溶媒存在下で高いニトリラーゼ活性を維持し、水溶性の低いニトリルからカルボン酸を製造する手段として有用であることを見出し、本発明に至った。具体的には本発明は以下に示す通りである。
〔1〕 アースロバクター エスピー F−73株に由来し、下記の理化学的性質を有するニトリラーゼ;
[1]作用:
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を酸化してカルボキシル基にする、
[2]基質特異性:
2−チオフェンアセトニトリルに作用するが、アセトニトリル、ベンゾニトリルに作用しない、
[3]至適pH:
pH6.0〜8.0(反応温度30℃)でニトリラーゼの酸化活性が至適である、
[4]至適温度:
40〜45℃でニトリル基の酸化作用が最大活性を示す、
[5]pH安定性:
pH5.0−11.0が安定領域である、および
[6]分子量:
ゲルろ過法による分子量が約530kDa、
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、分子量約44kDaのサブユニットに分離される、
[7]有機溶媒耐性:
メタノール、エタノール、アセトン、DMSOおよび2−プロパノールからなる群から選択されたいずれかの有機溶媒を20%(V/V)含む水溶液で、20℃で60分間処理して50%以上の残存活性を示す。
〔2〕 前記ニトリラーゼが精製酵素である、〔1〕に記載のニトリラーゼ。
〔3〕 前記精製酵素が、下記段階を含む精製工程を経て得られたものである、〔2〕に記載のニトリラーゼ;
(1) アースロバクター エスピー F−73株に由来する無細胞抽出液を、還元剤としてジチオスレイトールを存在させ、さらに酵素が含まれる溶液の温度が5℃以下の条件下で調製する工程;
(2) 還元剤としてジチオスレイトールを存在させ、酵素が含まれる溶液のpHを7.0±0.3の条件下で、無細胞抽出液を硫安分画する工程;
(3) 還元剤としてジチオスレイトールを存在させ、酵素濃度が100μg/ml以下にならない条件下で、陰イオン交換クロマトグラフィーを行う工程;および
(4) 還元剤としてジチオスレイトールを存在させ、酵素濃度が100μg/ml以下にならない条件下で、疎水クロマトグラフィーを行う工程。
〔4〕 有機溶媒を含む水溶液中で、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のニトリラーゼをニトリル化合物に接触させ、生成されるカルボン酸を回収する工程を含む、カルボン酸の製造方法。
〔5〕 有機溶媒が、水溶性アルコール、水溶性ケトン、アミド類、ジメチルスルホキシド、エステル類、ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素類、高級アルコール類およびエーテル類からなる群から選択される少なくとも1種である、〔4〕に記載の製造方法。
〔6〕 ニトリル化合物が、アリールアセトニトリルである、〔4〕または〔5〕に記載の製造方法。
〔7〕 有機溶媒の含有量が、90%(V/V(有機溶媒の耐性/溶液の全体積))以下である、〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載の製造方法。
本発明によれば、水溶性ニトリルを原料としてカルボン酸を効率的に製造できるだけでなく、水溶性が低く従来酵素反応に適さなかったニトリルをも効率的に加水分解し、対応するカルボン酸を製造することが可能となる。また本発明の酵素は、好ましくは精製酵素である。このような精製酵素は、極めて高い有機溶媒耐性と、ニトリル加水分解活性を示しつつ、保存安定性に優れ、副反応の生成を抑制し工業的利用に有利である。
[発明の実施の形態]
本発明は、アースロバクター エスピー F−73株に由来し、特定の理化学的性質を有するニトリラーゼを提供する。本発明のニトリラーゼは優れた有機溶媒耐性を示す。
アースロバクター エスピー F−73株
本発明のニトリラーゼを含有する「アースロバクター エスピー F−73株」は岐阜大学の構内から採取された土壌より分離した微生物株であり、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにおいて「FERM P−20349」として寄託されている。本菌株は本アクセッション番号をもとに前記受託機関より入手することができる。
あるいは、アースロバクター属の株の単離は、たとえば、先ず、アースロバクター属微生物を含む被験試料をニトリル含有培地で培養し、培養物に蓄積するカルボン酸を測定することによって、目的とするニトリラーゼ活性を有する微生物の存在を同定し得る。被験試料は土壌、河川、あるいは湖沼などから採取の材料とすることができる。アースロバクター属に属する微生物を単離・同定する方法は、たとえば、「Bergey's Manual of Determinative Bacteriology, 9th Edition」(Edited by John G. Holt, Williams & Wilkins, Baltimore)を参照することができる。
上記微生物は、細菌の培養に用いられる一般的な培地で培養される。前記微生物を培養するための培地は、その微生物が増殖しうるものであれば特に制限はない。例えば、炭素源としては上記微生物が利用可能な任意の炭素源を使用することができる。具体的には、グルコース、フルクトース、シュクロース、デキストリンなどの糖類、ソルビトール、グリセロールなどのアルコール類、フマール酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸類およびその塩類、パラフィンなどの炭化水素類、トルエン、クレゾール、安息香酸などあるいはこれらの混合物を使用することができる。
窒素源としては例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどの無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウムなどの有機酸のアンモニウム塩、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、尿素、などの無機有機含窒素化合物、あるいはこれらの混合物を使用することができる。他に無機塩、微量金属塩、ビタミン類など、通常の培養に用いられる栄養源を適宜混合して用いることができる。また、必要に応じて微生物の増殖を促進する因子、本発明の目的化合物の生成能力を高める因子、あるいは培地のpH保持に有効なCaCOなどの物質も添加できる。
培養方法としては、培地pHは3〜11、好ましくは4〜8、培養温度は15〜60℃、好ましくは20〜45℃で、嫌気的あるいは好気的に、その微生物の生育に適した条件下5〜240時間、好ましくは12〜120時間程度培養する。
ニトリラーゼ
本発明のニトリラーゼは、アースロバクター エスピー F−73株に由来し、下記の理化学的性質を有するニトリラーゼである。
[1]作用:
ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を酸化してカルボキシル基にする、
[2]基質特異性:
2−チオフェンアセトニトリルに作用するが、アセトニトリル、ベンゾニトリルに作用しない、
[3]至適pH:
pH6.0〜8.0(反応温度30℃)でニトリラーゼの酸化活性が至適である、
[4]至適温度:
40〜45℃でニトリル基の酸化作用が最大活性を示す、
[5]pH安定性:
pH5.0−11.0が安定領域である、および
[6]分子量:
ゲルろ過法による分子量が約530kDa、
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、分子量約44kDaのサブユニットに分離される、
[7]有機溶媒耐性:
メタノール、エタノール、アセトン、DMSOおよび2−プロパノールからなる群から選択されたいずれかの有機溶媒を20%(V/V)(有機溶媒の体積/溶液の全体積)含む水溶液で、20℃で60分間処理して50%以上の残存活性を示す。
本発明において「ニトリラーゼ」とは、ニトリル化合物を加水分解してカルボン酸に変換する酵素である。本発明の特定の理化学的性質を有するニトリラーゼは、従来のニトリラーゼでは見られない水溶性有機溶媒を含めた有機溶媒に対して耐性を示す。そのため、水に難溶なニトリルを基質として効率よく対応するカルボン酸に変換し得る。したがって、本発明のニトリラーゼのニトリラーゼ活性を利用すれば、水溶性のニトリルから水に難溶なニトリルという広範囲な基質化合物を原料として、対応するカルボン酸を工業的に製造することが可能となる。本発明のニトリラーゼは、アースロバクター エスピー F−73株に由来する。
本発明における「ニトリラーゼ活性」は、次のようにして確認することができる。酵素活性の測定は、20℃で、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、1mM ジチオスレイトール(以下「DTT」と略す。)適当量の酵素液を加えた反応液(2ml)に10mMの基質を加えることにより反応を開始させる(基質が2−チオフェンアセトニトリルの場合、標準反応条件)。反応は3NHClを0.2mlの添加により停止する。反応時間は60分として行う。
反応液を遠心分離して上清液を得る。HPLCにより基質を定量分析する。HPLC分析は、Wakosil−II C18TS(4.6x150mm)を用いて、展開溶媒として10mM KHPO/HPO(pH2.8)/CHCN(基質が2−チオフェンアセトニトリルの場合、13/7(V/V))を用い(流速1ml/min)、235nmで検出する。
標準反応条件下で1分間に1マイクロモル(1μmol)の2−チオフェン酢酸の生成を触媒する酵素量を1ユニットと定義する。
タンパク質の定量は、たとえばBradford法(Bradford,M.(1976) Anal.Biochem.72,248−254.)により、Bio−Rad社製のタンパク定量キットを用いて行うことができる。
基質特異性の検討においては、生成したアンモニアをインドフェノール法(Fawcett,J.K.&Scott,J.E.(1960)J.Clin.Pathol.13,156−159.)によって比色定量することができる。
本発明における「有機溶媒耐性」とは、有機溶媒で処理した後に、酵素活性が維持されることをいう。本発明のニトリラーゼは、たとえば20%(V/V)のアセトンで20℃で60分間処理したときに、酵素活性は実質的に低下しない。本発明において「酵素活性が実質的に低下しない」とは、有機溶媒の無い状態で同じ条件で処理した場合と比較して、酵素の残存活性が10%以上である場合を意味する。
本発明のニトリラーゼは、アセトンのほか、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、DMSO、DMF、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ヘキサン、n−オクタン、n−ヘキサデカン、t−酪酸メチル、ジイソプロピルアルコール、酢酸エチルなどの有機溶媒に対する耐性を有する。
本発明のニトリラーゼは、これらの有機溶媒のうち、メタノール、エタノール、アセトン、DMSOおよび2−プロパノールからなる群から選択されたいずれかの有機溶媒に対しては、これらを20%(V/V)(有機溶媒の体積/溶液の全体積)含む水溶液で20℃で60分間処理して、50%以上、好ましくは50%−100%、さらに好ましくは65%−100%の残存活性を有する。
本発明で用いるニトリラーゼは、精製酵素であることが好ましい。本発明において「精製酵素」とは、電気泳動的にほぼ単一バンドまで精製した酵素を意味し、分画やクロマトグラフィーなどを実施していない単なる抽出後の粗精製酵素は含まない。このような精製酵素は粗酵素と比較して、保存安定性に優れるとともに、副生成物の生成が抑制されるので、工業的に有利である。
本発明のアースロバクター エスピー F−73株に由来するニトリラーゼは、サブユニットの12量体であると推定され、かつ得られる酵素量が微量であったため、通常のタンパク質精製方法では酵素を安定的に得ることが困難である。このため、酵素の安定的取得のため、各種の精製手段を組み合わせる必要がある。
たとえば該酵素を産生する微生物を、まず十分に増殖させた後に菌体を回収し、適当な緩衝液中で、破砕して無細胞抽出液とする。緩衝液には、2−メルカプトエタノール(2−mercaptoethanol)等の還元剤や、フェニルメタンスルホニルフルオリド(phenylmethansulfonyl fluoride; PMFS)のようなプロテアーゼ阻害剤を加えることができる。
アースロバクター エスピー F−73株からの酵素の調製においては、無細胞抽出液の調製に当たり、還元剤としてジチオスレイトールを存在させ、さらに酵素が含まれる溶液の温度が5℃以下の条件下であることが好ましい。このような条件であると、12量体である酵素を安定に得ることができる。
得られた無細胞抽出液から、蛋白質の溶解度による分画および各種のクロマトグラフィーを組み合わせることにより、ニトリラーゼを精製する必要がある。
蛋白質の溶解度による分画方法としては、例えばアセトンやジメチルスルホキシドのような有機溶媒による沈澱や硫安による塩析等を利用することができる。一方クロマトグラフィーには、陽イオン交換、陰イオン交換、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィーや、キレート、色素、抗体などを用いた多くのアフィニティクロマトグラフィーが公知である。より具体的には、例えば、フェニル-トヨパールを用いた疎水クロマトグラフィー、DEAE-セファロースを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、ブチル-トヨパールを用いた疎水クロマトグラフィー、ブルー-セファロースを用いたアフィニティークロマトグラフィー、スーパーデックス200を用いたゲルろ過等を経て、本発明のニトリラーゼを電気泳動的にほぼ単一バンドまで安定に精製することができる。
たとえば、酵素の精製方法としては次のステップを含むことが好ましい。
(1) 無細胞抽出液を硫安分画する工程、
(2) 陰イオン交換クロマトグラフィーを行う工程、および
(3) 疎水クロマトグラフィーを行う工程。
この場合、無細胞抽出液を硫安分画する工程は、還元剤としてジチオスレイトールを存在させ、酵素が含まれる溶液のpHを7.0±0.3の条件下で行うことが好ましい。
陰イオン交換クロマトグラフィーを行う工程は、還元剤としてジチオスレイトールを存在させ、カラムから溶出させる緩衝液中の酵素濃度が100μg/ml以下にならないように濃度調製して行うことが好ましい。
疎水クロマトグラフィーを行う工程は、還元剤としてジチオスレイトールを存在させ、カラムから溶出させる緩衝液中の酵素濃度が100μg/ml以下にならないように濃度調製して行うことが好ましい。
このような条件であると、12量体である酵素を安定に得ることができる。
本発明のニトリラーゼ活性を有する前記酵素は、実質的に純粋なタンパク質とすることができる。本発明において、実質的に純粋なタンパク質とは、他の生物学的な分子を実質的に含まないことをいう。より具体的には、実質的に純粋なタンパク質とは、乾燥重量で、通常75%以上、あるいは80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上の純度を有する。タンパク質の純度を決定する方法は公知である。具体的には、各種カラムクロマトグラフィー、あるいはSDS−PAGE等の電気泳動分析によって、タンパク質の純度を知ることができる。
ニトリラーゼを用いるカルボン酸の製造方法
本発明は、前記ニトリラーゼを利用して、ニトリルからカルボン酸を製造する方法を提供する。
本発明のカルボン酸の製造方法では、上述した微生物に由来する、またはそれと同一の理化学的性質を有するニトリラーゼを使用するが、ニトリラーゼの精製酵素であることが好ましい。また精製したニトリラーゼを不溶性の担体や水溶性の担体分子に結合したもの、酵素分子を包括固定することによって得られる固定化酵素等も本発明のニトリラーゼに含まれる。
本発明の製造方法において、原料となるニトリルは、好ましくはアリールアセトニトリル、シアノヒドリン類、飽和ニトリル、不飽和ニトリルであり、さらに好ましくはアリールアセトニトリルである。
本発明において「アリールアセトニトリル」とは、C6-10アリール環または5〜10員ヘテロアリール環にアセトニトリル基が結合した化合物を意味する。C6-10アリール環とは炭素数6〜10の芳香族性の炭化水素環をいい、具体的には、ベンゼン、トルエン、ナフタレンなどが挙げられる。5〜10員ヘテロアリール環とは、環を構成する原子の数が5〜10、好ましくは5または6であり、環を構成する原子中に1〜2個(好ましくは1個)のヘテロ原子(硫黄原子、酸素原子または窒素原子、好ましくは窒素原子)を含有する芳香族性の環を意味し、具体的にはたとえば、ピリジン環、チオフェン環などが挙げられる。
アリールアセトニトリルとしては、たとえば、好ましくは2−チオフェンアセトニトリル、3−チオフェンアセトニトリル、3−ピリジンアセトニトリル、2−ピリジンアセトニトリル、2−トリルアセトニトリル、3−トリルアセトニトリル、4−トリルアセトニトリル、ベンジルシアナイド、ナフチルアセトニトリルなどが挙げられる。これらのうちでは、2−チオフェンアセトニトリル、3−チオフェンアセトニトリル、3−ピリジンアセトニトリル、2−ピリジンアセトニトリル、4−トリルアセトニトリルなどがさらに好ましい。
シアノビドリン類としては、マンデロニトリル、2−クロロマンデロニトリル、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリルなどが挙げられる。
飽和ニトリルとしては、プロピロニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、2−フルオロニトリル、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリル、3−シアノ−2−メチルプロパノールなどが挙げられる。
不飽和ニトリルとしては、アクリロニトリルなどが挙げられる。
本発明のカルボン酸の製造方法を実施するための反応液は、水や緩衝液などの水系反応であっても、有機溶媒が添加された水系反応液であってもよい。上述の通り、本発明のニトリラーゼは、ニトリラーゼ活性を有し、かつこのニトリラーゼは有機溶媒耐性である。したがって、水または緩衝液のような水系反応液を用いて製造を実施することも、有機溶媒が添加された水系反応液で実施することもできる。したがって、基質となるニトリルが水系反応液に溶けにくい場合には、有機溶媒が添加されて水系反応液を用いて基質の溶解度を高めた状態で反応させることが可能となる。このことにより従来の微生物のニトリラーゼを用いた方法では、製造が困難あるいは不効率であった水に難溶なニトリルを原料とするカルボン酸も工業的に製造することが可能となる。
水系反応液に添加し得る有機溶媒としては、以下に具体的に例示する水溶性アルコール類、水溶性ケトン類、アミド類、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
前記水溶性アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、1,3−プロパンジオール、エチレングリコールなどが挙げられ、これらのうち、メタノール、エタノール、プロパノールが好ましく、メタノール、エタノールがさらに好ましい。
前記水溶性ケトン類としては、アセトンなどが挙げられる。前記アミド類としては、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。
あるいは、水に溶解しにくい有機溶媒を添加し有機溶媒と水系反応液との二層系を用いてもよい。水に溶解しにくい有機溶媒としては、以下に例示するエステル類、ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素類、高級アルコール類、エーテル類等が挙げられる。
エステル類としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、t−酪酸メチルなどが挙げられる。
ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素類としては、n−ヘキサン、n−オクタン、n−ヘキサデカン、シクロヘキサン、またはクロロホルムなどが挙げられる。
高級アルコール類としては、1−オクタノールなどが挙げられる。
エーテル類としては、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
有機溶媒は本発明の加水分解反応を損なわない範囲で適宜添加すればよいが、通常、水系反応液に対して、好ましくは90%(V/V)(有機溶媒の体積/溶液の全体積)以下、さらに好ましくは80%(V/V)以下、より好ましくは60%(V/V)以下の量を添加できる。添加量の下限値は、好ましくは1%、さらに好ましくて5%程度である。
例えば、アセトン、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等の場合は10〜50%(V/V)以下、好ましくは20〜40%(V/V)が添加できる。ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,3−プロパンジオール等の場合は5〜30%(V/V)以下、好ましくは10〜20%以下の量が添加できる。酢酸エチルの場合は、5〜90%(V/V)以下、好ましくは10〜80%以下の量が添加できる。
また、これらの有機溶媒は、酵素活性を損なわない範囲で適宜2種以上を混合して添加しても差し支えない。
反応液中の基質化合物の濃度は、特に制限されないが、たとえば通常、0.1〜10重量%、好ましくは0.2〜5.0重量%とすることができる。基質は反応開始時に一括して添加することも可能であるが、反応液中の基質濃度が高くなりすぎないように連続的、もしくは非連続的に添加することが望ましい。
さらに本発明の加水分解反応において、反応液中に界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、0.1〜5.0重量%のTriton X−100、あるいはTween60などが用いられる。
この基質濃度に対して、本発明のニトリラーゼは、たとえば1mU/mL〜100U/mL、好ましくは100mU/mL以上の酵素活性量とすることにより、酵素反応を効率的に進めることができる。酵素は、反応液に溶解あるいは分散させることにより、基質と接触させることができる。あるいは、化学結合や包括などの手法によって固定化した酵素を用いることもできる。更に、基質は透過できるが、酵素分子や菌体の透過を制限する多孔質膜で基質溶液と酵素を隔てた状態で反応させることもできる。
反応は、通常、氷点〜50℃、好ましくは10〜30℃で0.1〜100時間行うことができる。反応液のpHは、酵素活性を維持できれば特に限定されないが、通常、5〜10、好ましくは6〜9の範囲で適宜設定すればよい。
反応液中でニトリルと本発明の酵素が接触することにより、ニトリルが加水分解されて対応するカルボン酸が生成し反応液に蓄積する。ここで蓄積したカルボン酸は、反応液から公知の方法によって回収し、精製することができる。具体的には、たとえば、限外ろ過、濃縮、カラムクロマトグラフィー、抽出、活性炭処理、蒸留など通常の方法を組み合せることで回収、精製できる。
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
[実施例1]
培養:
アースロバクター エスピー F−73株の前培養(4ml)はペプトン、酵母エキスを含む栄養培地を用いて28℃で24時間振とう培養を行った。本培養は0.4%(w/v)L−グルタミン酸ナトリウム、0.15%酵母エキス、0.1%リン酸第一カリウム、0.02%硫酸マグネシウム(7水和物)からなる培地(40ml, pH7.0)を500ml容の肩つき振とうフラスコに入れ、滅菌処理を行った。これに、前培養(4ml)を植菌し、同時に0.3%(V/V)イソバレロニトリルをニトリラーゼ生成のインデユーサーとして添加して、28℃で72時間、振とう培養した。このようにして高活性のニトリラーゼを含む菌体を調製した。
無細胞抽出液の調製:
菌株を5℃で15,000rpmで20分間、遠心分離して集菌した。培養液(2L)から得られた菌体(乾燥菌体量として5.2g)を、0.85%(w/v)NaClに懸濁して遠心分離をする操作を2度繰り返して、菌体を十分に洗浄した。この菌体を1mMジチオスレイトール(DTT)を含む50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)の50mlに5℃以下で懸濁した。5℃以下で超音波発生装置(Model201久保田製作所)を用いて100W、20分間の破砕操作を行い、細胞抽出液を調製した。これを13,000rpmで20分間遠心分離して菌体を除去し、無細胞抽出液を得た。
酵素の精製:
本発明の酵素の精製にあたっては、酵素を安定かつ純度よく精製するために各種の精製手段を組み合わせた。
(1)硫安分画
無細胞抽出液に硫酸アンモニウムを40%飽和になるように添加した。この時、10%(w/v)アンモニア溶液を添加してpH7.0に保った。4時間攪拌した後、遠心分離(15,000rpm、20分間)を行い、沈殿画分を1mM DTTを含む50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)(BufferA)に懸濁した。この懸濁液をBufferAで十分に透析して硫酸アンモニウムを除いた。透析後、遠心分離して、沈殿物を除去して上清液を得た。
(2)DEAE−Sephacel カラムクロマトグラフィー(陰イオン交換クロマトグラフィー)
BufferAで十分に平衡化したDEAE−Sephacelカラム(Φ30×250mm)に酵素液をのせ、同緩衝液を流して洗浄した。その後0.25M KClを含むBufferAで洗浄したが活性は溶出しなかった。次に0.35M KClを含むBufferAを流したところ、目的とするニトリラーゼ活性が溶出した。この画分に硫酸アンモニウムを20%飽和となるように添加した。この間、カラムから溶出された緩衝液中の酵素濃度が、109μg/mlとなるように、溶液量を調整した。
(3)Butyl−Toyopearl カラムクロマトグラフィー(疎水性クロマトグラフィー)
20%飽和硫酸アンモニウムを含むBufferAで十分に平衡化したButyl−Toyopearlカラム(Φ20×200 mm)に活性画分をのせ、同緩衝液で十分に洗浄した。次に10%飽和硫酸アンモニウムを含むBufferAで洗浄した後、5%飽和硫安アンモニウムを含むBufferAで目的とするニトリラーゼ活性が溶出した。本活性画分を集めて15%飽和硫酸アンモニウムを含むBuffer Aで十分に透析した。この間、カラムから溶出された緩衝液中の酵素濃度が、376μg/mlとなるように、溶液量を調整した。
(4)Phenyl−Sepharose カラムクロマトグラフィー
15%飽和硫酸アンモニウムを含むBufferAで十分に平衡化したPhenyl−Sepharoseカラム(Φ20×10 mm)に活性画分をのせ、同Bufferを流して洗浄した。その後BufferAで洗浄した後、10%(V/V)ethylene glycolを含むBufferAを流すことにより、目的とするニトリラーゼ活性が溶出した。活性画分を集めて、BufferAで十分に透析を行った。
表1にアースロバクター エスピー F−73株のニトリラーゼを精製した結果を示す。このように精製した酵素は、SDS−PAGEで単一バンドを示し、高度に精製されていることを確認した。
本アースロバクター エスピー F−73株のニトリラーゼの最終精製標品は総タンパク質4.6mg、標準反応条件下での比活性61.1unit/mg、精製収率13.8%であった。
Figure 2008022706
得られた酵素の諸性質:
(1)分子量、サブユニット分子量
SDSゲル電気泳動から、本ニトリラーゼのサブユニットは約44kDa、ゲル濾過クロマトグラフィーから分子量は約530kDaと算出され、同じ大きさのサブユニットの12量体と考えられた。
(2)至適pH、温度、熱安定性
本酵素反応を30℃で15分行い反応の至適pHを検討したところ、pH6.0−8.0にあり、pH5.0以下、pH9.0以上で急激に活性が低下した。各種pH条件下で酵素溶液を30分間保った後、pH7.0で10分間反応させpH安定性を検討したところ、pH5.0−11.0の範囲で安定であった。
本酵素を15分あるいは30分間、各種温度に保った後、30℃で10分間反応させたところ、40−45℃で安定であったが、50℃を超えると失活が認められた。また20−60℃で10分間反応させた反応の至適温度を検討したところ、40−45℃で最大活性を示した。
[実施例2]
基質特異性:
実施例において、酵素活性の測定は、20℃で、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、1mM DTTと適当量の酵素液を加えた反応液(2ml)に表2の基質10mMを加えることにより反応を開始させて実施した。反応は3NHClを0.2 mlの添加により停止した。反応時間は60分とした。反応液を遠心分離して上清液を得た。
反応によって生成した有機酸を高速液体クロマトグラフィーあるいはガスクロマトグラフィーで定量分析した。
HPLC分析は、Wakosil−II 5C18TS(4.6x150mm)を用いて、10mM、KHPO/HPO(pH2.8)/CHCNの系で、リン酸緩衝液とアセトニトリルの溶媒の量比を基質によって変化させた。
たとえば、マンデル酸は17/3(v/v)で235nmで検出、2−クロロマンデル酸は13/7(v/v)で220nmで検出、2−,3−チオフェン酢酸は65:35(v/v)で235nmで検出、3−トリルアセトニトリル、ベンジルシアナイド、ナフトアセトニトリルは、1:1(v/v)で230nmで検出、2−トリルアセトニトリル、2−,3−ピリジンアセトニトリルは、2/1(v/v)で230nmで検出、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリルと2−ヒドロキシ−4−メチルチオ酪酸は9/1(v/v)で210nmで検出、2−フランカルボン酸は9/1(v/v)で、230nmで検出、アクリル酸は 4/1(v/v)で210nmで検出した。
GC分析は、ガスクロマトグラフィー(島津モデルGC−14A)を用いて、Thermon3000(5% on ChromosorbW)80/100メッシュ)をパックしたガラスカラムを用いて、インジェクター、検出器、カラムの温度をそれぞれ230、230、150℃にセットして行った。
各種基質に対する本ニトリラーゼの基質特異性(相対活性)の結果を表2に示す。本酵素は、2−チオフェンアセトニトリルをもっとも良好な基質とし、これに対する活性(43μmol/min/mgタンパク質)を100とした相対活性で示した。3−チオフェンアセトニトリル、3−ピリジンアセトニトリル、2−ピリジンアセトニトリル、4−トリルアセトニトリル、3−トリルアセトニトリル、ベンジルシアナイドなどアリールアセトニトリル類を良好な基質とし、アンモニア及び対応するカルボン酸を生成した。
他にマンデロニトリル、2−クロロマンデロニトリル、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリルなどのα−シアノヒドリン類にも作用した。アクリロニトリル、n−バレロニトリルにも作用したが、ベンゾニトリル、p−シアノフェノール、o−シアノフェノール、o、mあるいはp−トルニトリル、3-シアノピリジン、シアノピラジン、2-シアノチオフェン、3-インドールアセトニトリル、メタアクリロニトリル、イソバレロニトリル、イソブチロニトリル、クロトンニトリル、アセトニトリル、イソブチロニトリルなどには作用しなかった。よって本ニトリラーゼはアリルアセトニトリラーゼの範疇に入ると判断された。なお2−チオフェンアセトニトリルに対するKm値は、15μM以下の小さい値を示し、値が小さすぎるために正確なKm値の測定ができなかった。
Figure 2008022706
タンパク質の定量は、Bradford法(Bradford,M.(1976) Anal.Biochem.72,248−254.)により、Bio−Rad社製のタンパク定量キットを用いて行った。
基質特異性の検討においては、生成したアンモニアをインドフェノール法(Fawcett,J.K.&Scott,J.E.(1960)J.Clin.Pathol.13,156−159.)によって比色定量した。
[実施例3]
阻害剤の効果:
各種阻害剤を添加して本ニトリラーゼ活性を測定したところ、1mM のCu2+、Hg2+、Ag、0.1mM p−クロロ水銀安息香酸(p−CMB)などのSH阻害剤の添加によって大きく阻害を受けた。これらの阻害は5mM DTTを添加することで回復した。
[実施例4]
有機溶媒の添加効果:
有機溶媒添加条件下、活性を検討した。結果を表3に示す。菌体に比べて精製酵素の有機溶媒に対する耐性は減少したが、表3に示した水に可溶性の有機溶媒添加条件下では、溶媒耐性を示し活性を示した。
n−ブタノールと水の混合液(1:9、V/V)、トルエンと水との混合液(1:9、V/V)に対しては強い阻害を受け、ほぼ完全に失活した。しかし、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ヘキサン、n−オクタン、n−ヘキサデカン、t-酪酸メチル、ジイソプロピルエーテルと水の混合液(1:1、V/V)については、全く阻害を受けなかった。酢酸エチルと水との混合液(9:1、8:2)に対しては、無添加に比べて、それぞれ75%、38%の活性を示した。
Figure 2008022706
このような精製したニトリラーゼが、優れた有機溶媒耐性を有することは、本発明において初めて見出された極めて驚くべき性質である。たとえば、菌体では細胞膜によるバリヤーが存在し、無細胞粗酵素では、不純物および安定化を促す夾雑物の存在により、菌体反応および無細胞反応(粗酵素)に一定の有機溶媒耐性があることはあり得る。しかし精製したニトリラーゼが優れた有機溶媒耐性を有するかどうかは、予測不可能であり、今回、単離精製して初めて確認された。
[実施例5]
有機溶媒存在下の水溶液中における精製ニトリラーゼを用いる各種カルボン酸の生産:
実施例1で得られた精製酵素0.1mgを反応液2ml(表4に列挙した基質 20mMを含む、リン酸カリ緩衝液(pH7.0)100mMメタノール5%(v/v))を含む試験管中で、25℃で、2時間反応させた後、さらに基質20mMを追加添加して、さらに2時間、25℃で反応させた。計4時間の反応のあと、生成したカルボン酸を定量した。結果を表4に示す。基質として用いた2−チオフェンアセトニトリル、3−チオフェンアセトニトリル、3−ピリジンアセトニトリル、2−ピリジンアセトニトリル、4−トリルアセトニトリル、3−トリルアセトニトリル、ベンジルシアナイド、(R,S)−マンデロニトリル、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリルにおいて、高い収率で、対応するカルボン酸が得られた。結果を表4に示す。
Figure 2008022706
本発明の有機溶媒耐性のニトリラーゼを利用することにより、反応に使用し得る反応液が、水系反応液、水溶性有機溶媒を添加した水系反応液、水系反応液に溶解しない有機溶媒を添加したニ層系などと広がり、これにより基質として使用し得るニトリルも水溶性ニトリルから、水に難溶なニトリルまで広範囲に対応することが可能となった。そのため、本発明の酵素を用いることにより、従来、ニトリラーゼを利用した製造では困難であったカルボン酸を含むより多くのカルボン酸を工業的に製造することが可能となる。

Claims (7)

  1. アースロバクター エスピー F−73株に由来し、下記の理化学的性質を有するニトリラーゼ;
    [1]作用:
    ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を酸化してカルボキシル基にする、
    [2]基質特異性:
    2−チオフェンアセトニトリルに作用するが、アセトニトリル、ベンゾニトリルに作用しない、
    [3]至適pH:
    pH6.0〜8.0(反応温度30℃)でニトリラーゼの酸化活性が至適である、
    [4]至適温度:
    40〜45℃でニトリル基の酸化作用が最大活性を示す、
    [5]pH安定性:
    pH5.0−11.0が安定領域である、および
    [6]分子量:
    ゲルろ過法による分子量が約530kDa、
    SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、分子量約44kDaのサブユニットに分離される、
    [7]有機溶媒耐性:
    メタノール、エタノール、アセトン、DMSOおよび2−プロパノールからなる群から選択されたいずれかの有機溶媒を20%(V/V)含む水溶液で、20℃で60分間処理して50%以上の残存活性を示す。
  2. 前記ニトリラーゼが精製酵素である、請求項1に記載のニトリラーゼ。
  3. 前記精製酵素が、下記段階を含む精製工程を経て得られたものである、請求項2に記載のニトリラーゼ;
    (1) アースロバクター エスピー F−73株に由来する無細胞抽出液を、還元剤としてジチオスレイトールを存在させ、さらに酵素が含まれる溶液の温度が5℃以下の条件下で調製する工程;
    (2) 還元剤としてジチオスレイトールを存在させ、酵素が含まれる溶液のpHを7.0±0.3の条件下で、無細胞抽出液を硫安分画する工程;
    (3) 還元剤としてジチオスレイトールを存在させ、酵素濃度が100μg/ml以下にならない条件下で、陰イオン交換クロマトグラフィーを行う工程;および
    (4) 還元剤としてジチオスレイトールを存在させ、酵素濃度が100μg/ml以下にならない条件下で、疎水クロマトグラフィーを行う工程。
  4. 有機溶媒を含む水溶液中で、請求項1〜3のいずれかに記載のニトリラーゼをニトリル化合物に接触させ、生成されるカルボン酸を回収する工程を含む、カルボン酸の製造方法。
  5. 有機溶媒が、水溶性アルコール、水溶性ケトン、アミド類、ジメチルスルホキシド、エステル類、ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素類、高級アルコール類およびエーテル類からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の製造方法。
  6. ニトリル化合物が、アリールアセトニトリルである、請求項4または5に記載の製造方法。
  7. 有機溶媒の含有量が、90%(V/V(有機溶媒の耐性/溶液の全体積))以下である、請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法。
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