JP2007530784A - 細部切削用鋼 - Google Patents
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Abstract
下記の組成(wt%):C :0.40〜0.60、Si:0.1〜1.0、Mn:0.3〜1.0、Cr:12〜15、Mo:2.5〜4.0、Ni:0〜1.0、Co:0〜4.0、N :0.15〜0.20、残部:鉄および通常存在する不純物を有し、硬さ>56HRCがサブゼロ処理なしで得られ、PRE>25、ただしPRE=%Cr+3.3×%Mo+16×%Nであることを特徴とする鋼。更に、炭化物、窒化物および/または炭窒化物を含有し、炭化物、窒化物および/または炭窒化物の最大径が5μm以下であることを特徴とする鋼。本鋼は種々の切削用途の刃先材料に極めて適している。
Description
本発明は、特に高い耐食性と硬さが要求される細部を切削するための材料に関する。材料の細部は、フォトエッチングで作製でき、上記の要求を満たすためには、以下に述べるように諸性質を非常に特定の組み合わせとすることが必要である。
切削工具に適した材料に何が必要かをまず考えると、硬さが非常に重要である。硬さの高い材料ほど、刃先の劣化に共通したメカニズムである塑性変形に対する抵抗が大きく、工具は応力がかかると単純に曲がったり、ゆがんだりする。また、硬さの高い材料ほど、耐摩耗性が高く、刃先が鋭利に維持される時間が長くなり、すなわち刃先の耐久性が高くなる。材料の硬さが高くなるのに伴うもう一つの利点として、通常は靭性が低下するので、機械的な研削および研磨の際のバリ(まくれ)の破断性が高まり、得られる刃先の鋭利さが高まる。刃先の耐久性と機械的な鋭利化の可能性が要求される刃先用の材料の最小硬さは56HRC(ロックウェルCスケール。荷重1kgで測定したビッカース硬さで約615HV1kgに対応する。)である。
刃先耐久性により顕著な影響を及ぼす要因は、材料中の硬質粒子(炭化物、窒化物、炭窒化物、以下、一括して炭窒化物と呼ぶ)の存在である。炭窒化物の体積率が増加すると刃先耐久性が高まる。しかし、考慮しなくてはならない限界は、機械加工またはフォトエッチングによって真に鋭利な刃先を形成できる可能性である。刃先角度が小さい(<30°)刃先を機械加工する際、これまでの経験によると、直径10μm以上の炭窒化物(スラグや介在物も同様)は、脱落による刃先損傷が起きて、最初にあった刃先の鋭利さが顕著に劣化する。エッチングによる刃先の製造については、要求が更に強い。薄い(細い)材料に複雑な細部を製造するのに適しているフォトエッチングの際には、材料表面を部分的に保護フィルムによって保護する。表面にエッチング剤(例えばHClとFeCl3との混合液)をスプレーすると、保護していない領域が化学的な加工を受ける。マトリクスと炭窒化物との電気化学的な性質の違いのために、両者の境界でエッチングが優先的に進行する。これにより炭窒化物による危険性がエッチング除去される。この現象によって最終製品に悪影響が出ないように、材料中に直径5μmを超える炭窒化物が存在してはならない。粗大な炭窒化物の通常の成因は合金成分、例えばバナジウムのような非常に強い炭化物生成元素であるから、このようなタイプの合金元素は避けることが望ましい。粗大な炭窒化物のもう1つの成因は、鋳造および熱間加工時のプロセス制御が良くないことである。粗大な(φ>10μm)炭窒化物は、鋳造時に生成する角張った初晶炭化物のどれよりも、材料の光輝研磨性を低下させる。
クロム系マルテンサイトステンレス鋼の腐食では、粗大炭窒化物が孔食の主因となる。このタイプの腐食を制御するために最も重要な合金成分は、クロム、モリブデン、窒素の3種類である。耐孔食性の指標としてよく用いられるのは、PRE値(Pitting Corrosion Resistance)であり、PRE=%Cr+3.3×%Mo+16×%Nである。これまでの経験では、Cr系マルテンサイトステンレス鋼の塩素イオン環境中での耐食性を十分に確保するには、上記の式によるPRE値が25より大であることが必要である。
本発明においては、材料に対して更に要求することは、コスト効率が高く品質を確保できる形で、オーステナイト化炉と、マルテンサイト変態用焼入れ処理と、最終の焼き戻し炉とを含む連続プロセス(ストリップ幅1000以下、ストリップ厚さ15μm以上)によって硬化できることである。オーステナイト化処理において、材料中の炭窒化物はある程度まで固溶し、マトリクス中の合金元素の濃度が高まる。この固溶を均一に(良好な寸法公差の確保)かつ短時間で(高い生産性を確保)起こさせるためには、炭窒化物のサイズが小さく(φ<5μm)かつサイズ分布が均一でなくてはならず、これらを制御するには製造プロセスの精密な制御が必要である。製造プロセスには、電弧炉または高周波炉で原料を溶解する工程がある。炭素含有量を制御するには、原料の選定あるいは、AOD(アルゴン酸素脱炭法)、CLU(Creusot Loire Uddenholm法)などの精錬処理を行なう。あるいは、VIM(真空誘導溶解)、VAR(真空アーク再溶解)、ESR(エレクトロスラグ再溶解)などの二次冶金処理を行なう。鋳造は従来どおりインゴット鋳造または連続鋳造により行なう。最初に強加工を熱間で行ない、次に球状化処理を行なう。次に、中間焼鈍を含む複数パスで冷間圧延を行なう。顧客に供給する材料の状態としては、冷間圧延状態、焼鈍状態、または焼き入れ・焼き戻し状態がある。上記のクロム系マルテンサイトステンレス鋼は、フォトケミカル処理での細部形成については、オーステナイト鋼よりも有利である。特に、焼き入れ後の材料の平坦性が非常に良好であり、歪も無い点で有利である。また、このタイプの加工での生産性を高めることができる。
上述の諸要求を満たすと同時に高いコスト効率でストリップ状の製品を製造するためには、特に合金元素の最適化と、プロセスパラメータの最適化とが必要である。製造コストを合理的なレベルにするには、通常の(加圧しない)冶金法で製造可能であることが必要である。そのため、良く制御されたプロセスにおいて、窒素含有量の実際上の限界は0.20wt%以下である。したがって、窒素含有量は0.15〜0.20wt%とする。焼入れ状態での材料の硬さは、(炭素+窒素)合計wt%によって実質的に決まるので、サブゼロ処理なしで硬さを56HRC超にできるためには、クロムおよびモリブデンのような炭化物生成元素が多量に存在することを前提として、上記合計が0.55wt%超とする必要がある。そのため、一般に炭素含有量は約0.40wt%超とする必要があり、窒素に対する炭素の比率は2より大となる。このように炭素含有量を比較的高くした場合、炭素活量を限定して凝固時の初晶炭化物の生成を回避することが必要である。これはシリコン含有量を低く、すなわち0.1〜1.0wt%、望ましくは0.1〜0.80wt%、最も望ましくは0.15〜0.55wt%に維持することにより可能である。焼入れに際しては、材料を950〜1150℃、望ましくは1000〜1070℃でオーステナイト化し、次いで室温まで急冷する(適宜、冷却クランプに挟んで油中に又は圧縮空気で)。焼き戻しは、硬さ>56HRCを得るために約200℃で行なう。焼き戻しの前に−80℃でサブゼロ処理すると、更に2HRC程度の硬さ増加が得られる。
クロムは、材料表面に耐食性酸化皮膜を生成させるために十分な添加量とする必要があるが、クロム含有量が多過ぎると、回避すべき粗大な初晶炭化物の生成という問題が生ずる。したがって、クロム含有量は12〜15wt%、望ましくは13〜15wt%、最も望ましくは14〜15wt%とする。モリブデンはPRE>25とするために十分な添加量とする。適正なモリブデン含有量は2.5〜4.0wt%、望ましくは2.6〜4.0wt%、最も望ましくは2.6〜3.0wt%である。モリブデンおよび窒素の添加量が多過ぎると、材料の加工性が劣化する危険性があるので、この危険性を抑制するために、同様の作用がある他の元素を最小限のレベルに保つ必要があり、例えば銅は含有量を0.1wt%未満とする。ニッケルおよびコバルトは高価な合金材料であるが、通常の冶金プロセスにおいて安定であるので、リサイクル鋼材を用いた製鋼では時間経過に伴い蓄積してくる。ステンレス鋼については、ヨーロッパ指令99/45/ECによる発がん性物質やアレルギー誘発性物質としないために、ニッケル含有量は1wt%以下とするという制限があるので、本発明の合金のニッケル含有量の上限もこれを採用している。望ましくは、ニッケルは意図的に添加せず、オーステナイトの安定化を避けるためにニッケル含有量の上限は0.7wt%とする。本発明の合金は更に、マンガンを0.1〜1.0wt%、望ましくは0.4〜0.8wt%、最も望ましくは0.4〜0.7wt%含有するが、Mnもオーステナイトを安定化する元素である。コバルト含有量の上限は4wt%としたが、これはコスト上の理由と共に、特に原子炉分野で通常は不純物とされているコバルトがリサイクル鋼の処理で急速に蓄積することを回避するためでもある。望ましくは、コバルトは意図的に添加せず、マルテンサイト生成温度の上昇への影響が大きくなるが、コバルト含有量の上限は0.5wt%とする。このように、コバルト添加によって、焼入れ後の冷却時の相変態がマルテンサイト寄りになる。
従来の標準的な材料を見ると、PRE>25であって同時にHRC>56である要求を満たすものは非常に少ない。これに加えて炭窒化物φ<5μmという要求を同時に満たす標準的な材料は皆無である。例えばAISI440Cは硬さの要求のみを満たす。上記のPRE値と炭窒化物についての要求を満たすものとしては、オーステナイト鋼および2相鋼のみが挙げられるが、これらの鋼では硬さと刃先耐久性が不十分である。
この領域の特許明細書を調べてみると、以下の4つが注目される。ドイツ公開特許公報DE-A-3901470には、特に剃刀刃およびナイフに適した材料が開示されている。しかし、0.20wt%超の窒素を得るために加圧冶金法を用いているため、炭素含有量が最大で窒素の2倍にも達している。また、記載されている2種類の実施例合金はいずれも硬さが600HV未満である。更に、少量のバナジウムを添加している。したがって、上記で述べた硬さと合金成分としてのバナジウムを避けるという要求を満たさず、製造コストも非常に高くなる。ヨーロッパ公開特許公報EP-A-638658では、高温焼き戻し時に顕著な二次硬化を行なうためにバナジウムを用いており、例えば被覆したり高温で用いたりする場合には利点になる。しかし、最終形状にエッチングしたり非常に鋭利な刃先の製造に用いたりする場合には欠点となる。また、炭窒化物の最大許容サイズは、本発明が5μmであるのに対して40μmである。ヨーロッパ公開特許公報EP-A-750687には、炭素+窒素の含有量上限として0.55wt%と記載されているが、これは本発明においては十分な硬さを得るための下限である。上記ヨーロッパ公報で目標としている硬さはHRC>50であり、実施例の合金で最高硬さは56.3HRC(180℃で1時間の焼き戻し状態)である。このように硬さに限界があり、同時に、残留する炭窒化物の割合が少ないため、要求の高い刃先用途に対しては刃先耐久性が不十分である。本発明は、第一に耐食性に対する要求が著しく高い製品も対象としており、これまで銅も添加されてきたために、硬さと熱間加工性が無視されてきた点に着目している。アメリカ合衆国特許US-A-6,235,237は、特に減衰性能に対する要求の高いスキー用のスチールエッジに関し、高クロム、低モリブデン、低窒素にした結果、実施例では硬さが50HRC未満となっており、要求の高い刃先用途に対しては刃先耐久性が不十分である。
そこで本発明の第一の目的は、上記従来技術の欠点を全て解消した新規な鋼を提供することである。
特に本発明の目的は、硬さが56HRC以上で、耐食性に優れ、フォトエッチングによる加工性の良い鋼を提供することである。
上記の目的を達成するために、本発明によれば、下記の組成(wt%):
C :0.40〜0.60
Si:0.1〜1.0
Mn:0.3〜1.0
Cr:12〜15
Mo:2.5〜4.0
Ni:0〜1.0
Co:0〜4.0
N :0.15〜0.20
を備え、サブゼロ処理なしで硬さ>56HRCが得られ、かつPRE>25であり、PREはPRE=%Cr+3.3×%Mo+16×%Nで定義される鋼が提供される。組成を100%とする残部は鉄および原料由来および/または製造プロセス由来の通常存在する不純物である。望ましくは、刃先関連関連問題の危険性を低減し、オーステナイト化処理時に炭化物、窒化物、炭窒化物を固溶できるように、炭化物、窒化物、炭窒化物の最大径はφ<5μmとする。
C :0.40〜0.60
Si:0.1〜1.0
Mn:0.3〜1.0
Cr:12〜15
Mo:2.5〜4.0
Ni:0〜1.0
Co:0〜4.0
N :0.15〜0.20
を備え、サブゼロ処理なしで硬さ>56HRCが得られ、かつPRE>25であり、PREはPRE=%Cr+3.3×%Mo+16×%Nで定義される鋼が提供される。組成を100%とする残部は鉄および原料由来および/または製造プロセス由来の通常存在する不純物である。望ましくは、刃先関連関連問題の危険性を低減し、オーステナイト化処理時に炭化物、窒化物、炭窒化物を固溶できるように、炭化物、窒化物、炭窒化物の最大径はφ<5μmとする。
望ましくは、本発明の鋼は下記の組成(wt%)を有する。
C :0.42〜0.60
Si:0.15〜0.80
Mn:0.4〜0.8
Cr:13〜15
Mo:2.6〜4.0
Ni:0〜0.7
Co:0〜0.5
N :0.15〜0.20
残部:鉄および通常存在する不純物。
Si:0.15〜0.80
Mn:0.4〜0.8
Cr:13〜15
Mo:2.6〜4.0
Ni:0〜0.7
Co:0〜0.5
N :0.15〜0.20
残部:鉄および通常存在する不純物。
更に望ましくは、本発明の鋼は下記の組成(wt%)を有する。
C :0.42〜0.50
Si:0.15〜0.55
Mn:0.4〜0.7
Cr:14〜15
Mo:2.6〜3.0
Ni:0〜0.7
Co:0〜0.5
N :0.15〜0.20
残部:鉄および通常存在する不純物。
Si:0.15〜0.55
Mn:0.4〜0.7
Cr:14〜15
Mo:2.6〜3.0
Ni:0〜0.7
Co:0〜0.5
N :0.15〜0.20
残部:鉄および通常存在する不純物。
本発明により製造される材料の適する用途例は、食品産業用のナイフであり、これは硬さと刃先耐久性を要求されると共に、塩素イオン含有環境および腐食性食器洗剤に対する耐食性を要求される用途である。他の用途例として、乾式および湿式の髭剃り刃、外科用メス、潜水ナイフなどがある。更に、印刷産業用のドクターブレード、パルプ産業用のドクターブレード(コーターブレード)やクレープ加工用ブレードも用途の一つである。
本発明の鋼の製造方法の選択に特に関係するのは、材料の所望量、許容される最大コスト、スラグ純度に対する要求である。また、顧客の要求する、焼入れ・焼き戻し状態、冷間圧延状態、最終仕上げ状態などの条件も当然関係する。しかし、製造プロセスには通常の大気圧(1 atm=1 bar)での冶金プロセスが必ず含まれる。この冶金プロセスは電弧炉または高周波炉による溶解工程を含む。炭素含有量は、合金元素の選択により、またはAODやCLUなどの精錬プロセスでの脱炭により、調整する。窒素含有量は、ガス状態での供給または窒素添加材料を用いて、調整する。あるいは、材料を、VIM、VAR、ESRなどの二次冶金プロセスで再溶解することもできる。鋳造をインゴット鋳造または連続鋳造により行なった後に、熱間加工によりストリップ状にする。熱間加工の後に、球状化処理を施し、次いで中間再結晶焼鈍処理を含む複数パスの冷間圧延を行なって所望厚さにする。顧客が焼入れ・焼き戻し状態での納入を望む場合は、焼入れは連続ストリッププロセスにおいて保護雰囲気中でオーステナイト化を行ない、急冷し(マルテンサイト変態させ)、そして最終的に焼き戻しを施して所望硬さにする。次いで、顧客の要望に応じて、所望の幅または長さに切断する。最終製品はどのような従来プロセスで製造してもよい。例えば、焼入れ材からフォトエッチングおよび成形してもよいし、あるいは、冷間圧延ストリップ材からパンチング/切断、成形、焼入れ、焼き戻し、最終研磨してもよい。また、ワイヤ、チューブ、インゴットの形態で販売してもよい。
〔実施例1〕
本発明の鋼1をCLU冶金法により10トンスケールで溶製した。インゴットに鋳造し、熱間圧延し、次いで中間焼鈍を含む冷間圧延を行なって、試験に適した厚さにした。本発明の溶湯は表1に鋼1で示した組成を有する。本発明の鋼を3種類の比較例1〜3と比較した。比較例1〜3の公称組成も表1に示した。
本発明の鋼1をCLU冶金法により10トンスケールで溶製した。インゴットに鋳造し、熱間圧延し、次いで中間焼鈍を含む冷間圧延を行なって、試験に適した厚さにした。本発明の溶湯は表1に鋼1で示した組成を有する。本発明の鋼を3種類の比較例1〜3と比較した。比較例1〜3の公称組成も表1に示した。
比較例の概略を図1に示す。図1には、硬さと耐食性との対比および合金元素C、N、Cr、Moの影響も示す。
本発明の鋼について耐食性と切削能力を評価するために6種類のナイフ刃を作製し、ISO8442.1およびISO8442.5により評価を行なった。3種類の刃(A〜C)は鋼1の材料から作製し、1055℃で焼入れし、サブゼロ処理し、275℃で焼き戻しして硬さを58〜58.5HRCとした。3種類の刃(D〜F)は比較例1の組成で作製し、1080℃で焼入れし、サブゼロ処理し、230℃で焼き戻しして硬さを58〜58.5HRCとした。全ての刃について、同じ設備で研磨および仕上げをして同等の刃先と表面仕上げ状態にした。試験結果を表2に示す。
ISO8442.1による腐食試験の結果、本発明の材料は合格であったが、比較例1は不合格であった。ISO8442.5による刃先試験の結果、本発明例は比較例と全く同一レベルであった。
〔実施例2〕
本発明の材料の耐食性を陽極分極/臨界孔食電位(CPP:critical pitting potential)によって測定し、比較例1および比較例2と比較した。鋼1、比較例1、比較例2からそれぞれサンプルを採取した。各組成は表1に示す。鋼1のサンプルは1035℃で焼入れし、比較例1のサンプルは1080℃で焼入れし、比較例2のサンプルは1030℃で焼入れした。いずれも各鋼の推奨温度である。各サンプル共に225℃で焼き戻しした。各サンプルの全表面を600番の湿式研削で仕上げた。試験溶液は0.1%NaClであり、試験温度は20℃とし、サンプルの電位を試験開始時の−600mVから75mV/分で上昇させた。溶液中で窒素ガスをバブリングして酸素レベルを低下させた。孔食開始の判定基準はI>10μA/cm2に設定した。試験結果を図2に示す。
本発明の材料の耐食性を陽極分極/臨界孔食電位(CPP:critical pitting potential)によって測定し、比較例1および比較例2と比較した。鋼1、比較例1、比較例2からそれぞれサンプルを採取した。各組成は表1に示す。鋼1のサンプルは1035℃で焼入れし、比較例1のサンプルは1080℃で焼入れし、比較例2のサンプルは1030℃で焼入れした。いずれも各鋼の推奨温度である。各サンプル共に225℃で焼き戻しした。各サンプルの全表面を600番の湿式研削で仕上げた。試験溶液は0.1%NaClであり、試験温度は20℃とし、サンプルの電位を試験開始時の−600mVから75mV/分で上昇させた。溶液中で窒素ガスをバブリングして酸素レベルを低下させた。孔食開始の判定基準はI>10μA/cm2に設定した。試験結果を図2に示す。
〔実施例3〕
鋼1について焼入れ試験を行ない、比較例1、比較例2、比較例3の典型データと比較した。鋼1の焼入れは、1035℃から20℃に急冷する方法と、1055℃焼入れで−70℃のサブゼロを行なう方法とを行なった。図3に、30分焼き戻し後の硬さを焼き戻し温度に対して示す。
鋼1について焼入れ試験を行ない、比較例1、比較例2、比較例3の典型データと比較した。鋼1の焼入れは、1035℃から20℃に急冷する方法と、1055℃焼入れで−70℃のサブゼロを行なう方法とを行なった。図3に、30分焼き戻し後の硬さを焼き戻し温度に対して示す。
通常の焼き戻し温度の全範囲について、鋼1は比較例1および比較例2よりも硬さが高かった。焼き戻し温度が225℃以上の範囲では、鋼1の硬さは比較例3に対しても高くなっている。これは、鋼1が高モリブデンかつ高窒素であるため高温での影響を受け難く、焼き戻し軟化抵抗が高いためである。このように鋼1の焼き戻し軟化抵抗が向上したため、例えばPVDやPTFEによる表面被覆を行なう製品には非常に有利である。
〔実施例4〕
図4に、耐食性および硬さについて鋼1と比較例1および比較例2とを比較して示す。いずれのサンプルも焼き戻しは225℃で行ない、前述した条件で熱処理した。ここで、耐食性が高く且つ硬さが高いことが望ましい。これを図4中に望ましい性質の方向として矢印で示してある。すぐ分かるように、鋼1は比較例1よりも硬さが向上し、比較例2よりも耐食性が向上している。
図4に、耐食性および硬さについて鋼1と比較例1および比較例2とを比較して示す。いずれのサンプルも焼き戻しは225℃で行ない、前述した条件で熱処理した。ここで、耐食性が高く且つ硬さが高いことが望ましい。これを図4中に望ましい性質の方向として矢印で示してある。すぐ分かるように、鋼1は比較例1よりも硬さが向上し、比較例2よりも耐食性が向上している。
鋼1の焼鈍状態での典型的なミクロ組織は、フェライトマトリクス中に第2相の炭化物、窒化物、炭窒化物が均一に分散している。また、鋼1のミクロ組織には5μmより大きい初晶の炭化物、窒化物、炭窒化物が存在しない。鋼1の典型的な組織を図5に示す。これは、横断面を研磨・エッチングしてから倍率1000倍の光学顕微鏡で撮影したミクロ組織写真である。エッチングは4%ピクリン酸に少量の塩酸を添加した溶液で行なった。炭化物、窒化物、および/または炭窒化物の平均径は凡そ0.4μmと見積もられる。
機械的な方法またはエッチングで非常に鋭利な刃先を形成する刃先用途の場合、5μmより大きい初晶の炭化物が存在しない上記の組織は、刃先に脱落やエッチング欠陥が発生しないために必要である。比較のため、図6に、比較例3について典型的な組織について、上記と同じ条件で撮影したミクロ組織写真を示す。
図7に、硬さレベルおよび組織について、本発明の鋼1と、比較例1および比較例3とを比較して示す。
〔実施例5〕
鋼の性質は焼入れ条件の影響が大きいので、基本組成に基づく評価は誤りを生ずる。所定の適当な焼入れ温度での平衡計算をソフトウェアThermoCalcを用いて行なうと、最終的な性質の計算精度が高まるので、鋼2〜6、鋼1、比較例1〜3について行なった。鋼2〜6の組成は表3に、計算結果は表4に示した。
鋼の性質は焼入れ条件の影響が大きいので、基本組成に基づく評価は誤りを生ずる。所定の適当な焼入れ温度での平衡計算をソフトウェアThermoCalcを用いて行なうと、最終的な性質の計算精度が高まるので、鋼2〜6、鋼1、比較例1〜3について行なった。鋼2〜6の組成は表3に、計算結果は表4に示した。
用いたデータベースはTCFE3であった。各鋼について最適焼入れ温度を選定してモデリングに用いた。焼入れ温度でのオーステナイト相の組成に基づいて、PRE値、Ms、侵入型元素である窒素および炭素のwt%を計算した。オーステナイト相と平衡するM23C6炭化物のパーセンテージは、摩耗および刃先耐久性に対して重要な要因であるので、計算により求めた。PREについては、既述の式を用いた。Msは下記に示すAndrewの公式を用いて計算した。
Ms=539−423×C−30.4×Mn−12.1×Cr−17.7×Ni−7.5×Mo+(−423×N−7.5×Si+10×Co)
鋼1と比較例1を比較すると、本発明鋼はPRE値が大幅に高く、同時に、浸入型元素および炭化物相の量は同等であるため、硬さと刃先性能を同等に確保しつつ耐食性が大幅に高まる。比較例2はPRE値が鋼1に比較的近いが、マトリクス中の侵入型元素の量が少なく、炭化物相の量も少ないため、硬さが低く、刃先性能が劣ると予測される。これらのデータは前の実施例における実測結果と対応している。鋼1のMs温度は比較例2および比較例2のいずれよりも低いが、比較例3とは同じ範囲内にある。比較例3は焼入れ性が良好であることが分かっているが、炭化物量が大幅に多くて前出の図6に示すように粗大なミクロ組織になる。
鋼2〜6は本発明による組成の別の実施形態であり、化学組成の違いは小さいが性質が種々異なる。鋼2および鋼4はPRE値、侵入型元素量、Msが同等であり、耐食性、硬さ、焼入れ性は同等であるが、鋼4はM23C6の量が約2倍であるため刃先耐久性が高い。鋼3はマトリクス中の侵入型元素量が最も高いため、硬さが最も高くなることが期待され、コバルトを添加してあるので焼入れ性も十分である。鋼5は、鋼6より更にコバルト量が多く、他の性質を大きく変えることなく焼入れ性が更に高まる。
Claims (11)
- 下記の組成(wt%):
C :0.40〜0.60
Si:0.1〜1.0
Mn:0.3〜1.0
Cr:12〜15
Mo:2.5〜4.0
Ni:0〜1.0
Co:0〜4.0
N :0.15〜0.20
残部:鉄および通常存在する不純物
を有し、硬さ>56HRCがサブゼロ処理なしで得られ、PRE>25、ただしPRE=%Cr+3.3×%Mo+16×%Nであることを特徴とする鋼。 - 請求項1において、C=0.42〜0.60wt%、望ましくは0.42〜0.50wt%であることを特徴とする鋼。
- 請求項1または2において、Si=0.15〜0.80wt%、望ましくは0.15〜0.55wt%であることを特徴とする鋼。
- 請求項1から3までのいずれか1項において、Mn=0.4〜0.8wt%、望ましくは0.4〜0.7wt%であることを特徴とする鋼。
- 請求項1から4までのいずれか1項において、Cr=13〜15wt%、望ましくは14〜15wt%であることを特徴とする鋼。
- 請求項1から5までのいずれか1項において、Mo=2.6〜4.0wt%、望ましくは2.6〜3.0wt%であることを特徴とする鋼。
- 請求項1から6までのいずれか1項において、炭化物、窒化物および/または炭窒化物を含有し、炭化物、窒化物および/または炭窒化物の最大径が5μm以下であることを特徴とする鋼。
- 請求項1から7までのいずれか1項記載の鋼を含んで成ることを特徴とする食品産業用、彫刻用などに適したナイフなどのナイフ。
- 請求項1から7までのいずれか1項記載の鋼を含んで成ることを特徴とする乾式または湿式の髭剃り刃。
- 請求項1から7までのいずれか1項記載の鋼を含んで成ることを特徴とするメスなどの外科用切削工具。
- 請求項1から7までのいずれか1項記載の鋼を含んで成ることを特徴とするドクターブレードまたはクレープ加工用ブレード。
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