JP5235452B2 - 耐食性と耐磨耗性に優れる織機部材用マルテンサイト系ステンレス鋼とその鋼帯の製造方法 - Google Patents

耐食性と耐磨耗性に優れる織機部材用マルテンサイト系ステンレス鋼とその鋼帯の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は焼き入れ、焼き戻し後の耐食性と耐磨耗性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼鋼帯の中間材と該鋼帯の製造方法に関する。より詳しく言えば、本発明は耐食性と耐磨耗性に優れ、寿命の長いフラットヘルド、ドロッパー、筬羽、変形筬、デンツ、リード等の織機部用のマルテンサイト系ステンレス鋼に関する。
フラットヘルド、ドロッパー、筬羽、変形筬、リード、デンツ等の織機部には、ステンレス鋼SUS420J2を焼き入れ、焼き戻した組織強化材や、SUS420J2をベースにNbを添加してNb炭窒化物により析出強化したステンレス鋼が使用されている。この様な高強度材料が使われる背景には、長期間の仕様により糸道が糸で磨耗する現象がある。特に昨今では、繊維の高機能化により磨耗環境が苛酷になってきている。
また、耐食性を有するステンレス鋼が求められる理由としては、磨耗のために塗装やメッキなどの表面処理による防食が困難な事がある。また、横糸をウォータージェットで飛ばす織機においては、湿潤環境になって腐食が促進される。更には、ウォータージェットのノズル詰まり防止のために、次亜塩素酸ナトリウム水溶液が添加される場合があり、塩素イオンの付着により織機部品が短期間で腐食するケースも見受けられる。また、炭窒化物を分散させた析出強化型のステンレス鋼では、糸道に彗星状の磨耗痕を形成し、繊維を損傷させる問題も認められる。
ステンレス鋼の耐食性については、一般に成分で整理され、Cr、Mo、Nの添加により向上することが知られている。各元素の効果について多くの検討がなされており、マルテンサイト系ステンレス鋼において、Cr+3.3Mo+16〜30Nで整理でき、この値が大きいほど耐食性が向上するという報告もある。また、ステンレス鋼は焼き入れ後研摩して使用されるため、Alなどを下げる事で、大型の介在物を避け研摩性を向上させることも必要とされる。
これらの知見を特許文献で説明する。まず、特許文献1では、Cr:12〜16%、Mo:1.3〜3.5%、N:0.06%〜0.13%を含有する耐銹性に優れた高強度マルテンサイト系ステンレス鋼線材について記載されている。
耐銹性を向上させるMoは、高価な元素であると共に、オーステナイト温度域を狭くすることで焼き入れ性を低下させる問題を抱えている。焼き入れ熱処理時にオーステナイト単相化できない場合、オーステナイトとフェライトの二相域から焼入れすることになるが、オーステナイトがマルテンサイト変態開始する温度は約300℃程度と低く、空冷焼入れのような遅い冷却速度ではCの拡散速度が速いフェライトから炭化物が析出し、その結果生じたCr欠乏層により耐食性が著しく低下する。もちろん、オーステナイト相においても冷却速度が遅いと炭化物が析出し、耐食性を低下させるが、拡散速度がフェライト中よりも小さいため、冷却速度の影響が比較的小さくなる。この様な、炭化物の析出による耐食性低下は冷却速度が遅い場合、例えば気体冷却で焼き入れする際に顕在化する。
一方、窒素はオーステナイト域を広げると共に、安価な元素であるが、溶解鋳造時に固溶限を超えた窒素が気泡を造り、健全な鋼塊が得られないことが問題となる。窒素の固溶限は成分や雰囲気の気圧によって変わる。成分としてはCr、C量の影響が大きく、SUS420J1,SUS420J2等のマルテンサイト系ステンレス鋼を大気圧下で鋳造した場合、窒素の溶解量は約0.1%程度と一般に報告されている。特許文献2においても、ピンホール欠陥のないマルテンサイト系ステンレス鋼として、N:0.06〜0.10%にすることが記載されている。
織機部品用のマルテンサイト系ステンレス鋼としてTi,Nbの析出強化を利用した鋼種に関しては、特許文献3において記載されており、Ti+Nb:合計量で0.05〜2.0%添加しマトリックスに0.1%以上の合計析出量で分散析出させることで耐摩耗性が向上すると記載されている。
以上の様に、耐食性を向上させたマルテンサイト系ステンレス鋼、耐磨耗性を向上させた織機部品用マルテンサイト系ステンレス鋼について種々提案されている。
しかしながら、本発明者らが織機部品用途において種々のマルテンサイト系ステンレス鋼の適用を検討した結果、特許文献1では、Cr、Moの添加による耐食性向上に主眼が置かれているため、合金コストが高くなると共に、凝固偏析によってCr、Moが濃化した部位が、安定なδフェライト相となって、オーステナイト単相化するためには、長時間の焼き入れ熱処理が必要になるとともに、熱延板を冷間圧延する前に行う軟化焼鈍においても、長時間を要するなどの問題があることが判明した。
また、特許文献2に記載された方法、すなわちピンホール欠陥を出さずに耐食性向上のために窒素を0.06%〜0.10%添加することは、特許文献1でも同様に行なわれていた事であるが、Cr量が12.5〜14.5%と低いため当該環境においては十分な耐食性が得られないことが判明した。更に耐摩耗性の点でもC:0.12〜0.17%で焼き入れ硬さが低いため、十分な耐磨耗性が得られないことも明らかになった。
次に、特許文献3に記載されたステンレス鋼では、炭窒化物の分散析出強化に主眼が置かれているため、焼き入れ後もフェライトが残留して、均質な焼き入れ組織が得られない例や、未固溶炭窒化物に起因する耐食性の低下が生じる場合において、十分な耐食性が得られないことが分かった。また、Ti及びNbの粗大な硬質炭窒化物が分散しているため、炭窒化物の周辺だけが不均一に磨耗して彗星状の磨耗痕を生じる問題があった。
特開平5−287456号公報 特開2005−163176号公報 特開2000−192198号公報
本発明は上述した現状に鑑み、焼き入れ焼き戻し後の耐食性が良好で、また、耐摩耗性にも優れた、織機部品用マルテンサイト系ステンレス鋼板の中間材及び鋼帯を安価に提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するため、織機部品の使用環境における耐食性、耐磨耗性に及ぼすマルテンサイト系ステンレス鋼の成分や製造条件、焼き入れ、焼き戻し条件の影響について調査すると共に、焼き入れ後の析出物の状況や耐摩耗性に対する影響について検討した。その結果、良好な耐食性を得るためは、焼き入れ時の加熱温度域におけるオーステナイトの安定度を高めると共に、焼き入れ時の炭窒化物析出量を調整することが重要であること、そのためには、特にC、N、Cr、Moの成分バランスを最適化し、未固溶炭化物を低減することが非常に重要であるとの知見を得た。特に、織機部品のような薄いステンレス鋼帯を連続ラインで焼き入れ焼き戻しする工程において、最適な耐食性と耐磨耗性を造り込むためには、その工程に適した成分設計が重要となることを見出した。本発明は上記知見に基づきなされたものでその要旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.20〜0.30%、Si:0.30〜0.60%、Mn:0.60%以下、P:0.035%以下、S:0.010%以下、Cr:15.0〜16.6%、Ni:0.10〜0.60%、N:0.04%以上0.09%以下を含有し、更に、Cu:0.50%以下、Mo:0.50%以下、V:0.10%以下、Nb:0.05%以下、Ti:0.05%以下、Al:0.03%以下に制限し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有し、C+N:0.25〜0.35%、C/N:2.2〜6.0、Cr+3.3Mo:15〜16.6とすることを特徴とする織機部用マルテンサイト系ステンレス鋼。
(2)上記(1)に記載の織機部品用マルテンサイト系ステンレス鋼の鋼帯を製造するにあたり、焼入れ可能な厚さに冷間圧延し、溶体化処理を行なった後に、急速冷却して焼き入れ、焼き戻し処理を行うことを特徴とする耐食性と耐磨耗性に優れる織機部品用マルテンサイト系ステンレス鋼鋼帯の製造方法。
)上記(2)に記載の織機部品用マルテンサイト系ステンレス鋼の鋼帯を製造するにあたり、0.9mm以下に冷間圧延し、950〜1100℃の温度域で5〜180秒間溶体化処理を行なった後に、200℃以下まで急速冷却して焼き入れ、引き続き300〜500の温度域で、5〜300秒の焼き戻し処理を行うことを特徴とする食性と耐磨耗性に優れる織機部品用マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
マルテンサイト系ステンレス鋼の各成分バランスを最適化することで、焼き入れ、焼き戻し後のマトリクスの耐食性を確保すると共に、耐摩耗性を兼ね備えた、織機部品の用途に最適なステンレス鋼を安価に提供することが可能になった。
以下に本発明を詳細に説明する。
一般に、ステンレス鋼の耐食性はその成分で整理され、Cr+3.3Mo+16〜30Nといった指標で整理され、この数値が高いほど高い耐食性を有する。このときの耐食性とは、中性の塩化物水溶液環境をさすものであり、評価方法として、例えばJIS G0577に規定されるステンレス鋼の孔食電位測定方法や、JISZ2371に規定される塩水噴霧試験方法などが上げられる。化学・食品プラントや温水器などの貯水槽、海浜環境で使われる用途以外、すなわち日常的な屋内環境において、高濃度の塩化物水溶液に曝される可能性は極めて少なく、洋食器ナイフとしてSUS420J1鋼が用いられている様に、13%程度のCr量でも十分な耐食性が得られる。
ところが、ウォータージェットタイプの織機で水に次亜塩素酸ナトリウム水溶液が添加される場合、織機部品表面、特に隙間構造部において塩素イオンが付着、残留、濃化して、13Crベースのマルテンサイト系ステンレス鋼であるSUS420J1やSUS420J2鋼では、耐食性が維持できなくなる。本発明では、Cr量を15.0〜16.5%以上にすると共に、N:0.04〜0.09%とすることで焼き入れ焼き戻し後の耐食性を、織機部品の使用環境において十分確保しうるものである。
本発明によるマルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性向上機構には、いくつかのポイントがある。一つ目のポイントは、織機部品は、0.5mm以下の薄い板厚のものが主であるため、空冷焼入れでも、板厚が6mmを超える洋食器ナイフ用ステンレス鋼の冷却速度に比べると、比較的冷却速度は速いが、未固溶炭化物が残存すると、鋭敏化が促進する傾向がある。そこで、C+N量を一定の元に、C/N比を下げることで、炭化物の溶体化を促進させた。Nの増量により、母地の耐食性も副次的に向上し、冷却時の炭化物析出も抑制される。
耐食性向上の二つ目のポイントはCr量の適正化である。当該環境において十分な耐食性を確保するためにはCr、Mo,Nの増量が効果的であるが、Cr,Moの増加は溶体化処理において、オーステナイト単相温度域が狭くなり、場合によってはオーステナイトとフェライトの二相組織から焼き入れることになる。フェライト相における鋭敏化はオーステナイトよりもより短時間で起こるため、気体冷却を前提とする織機部品の製造においては、鋭敏化を助長し耐食性が大きく損なわれる。従って、フェライト生成元素であるCr,Mo量に上限を規定し、適性範囲に制御することが重要である。
耐食性向上の三つ目のポイントは、焼入れに際し、冷間圧延材を素材にして、オーステナイト単相域で溶体化処理を行うと共に、焼き戻しを炭窒化物の析出しない温度域で行うことである。冷延素材を用いることにより、C,Nの溶体化は促進し、連続焼鈍炉で鋼帯を120秒以下の短時間で溶体化する工程でも、本発明範囲内のC,N量であれば十分に溶体化させることが可能になった。
これらの耐食性向上機構により、織機部品として十分な耐摩耗性、焼き切れ焼き戻し硬さを有し、織機環境において十分な耐食性を有するマルテンサイト系ステンレス鋼を得る事が可能となった。
以上の知見に基づき本発明は、当該用途におけるマルテンサイト系ステンレス鋼としての最適成分バランスを見出したものである。各成分の限定理由を以下に説明する。なお、以下の説明中、各元素の含有量を示す「%」は特に断りが無い限り「質量%」を示す。
C:0.20〜0.30%
Cは焼き入れ硬さを支配する元素であり、織機部品に必要な硬さを得るために0.20%以上必要である。一方、過度に添加すると焼き入れ硬さが必要以上に上がり、打ち抜き加工時の負荷が増えるほか、未固溶炭化物による彗星状の磨耗痕も生じる。また、空冷焼き入れ時にCr炭化物が析出し耐食性を損なう問題も生じるため0.30%以下とした。
Si:0.30〜0.60%
Siは溶解精錬時における脱酸のために必要であるほか、焼き入れ熱処理時の酸化スケール生成を抑制するのにも有効であるため、0.30%以上とした。但し、Siはオーステナイト単相温度域を狭くし、焼き入れ安定性を損ねるために、0.60%以下とした。
Mn:0.60%以下
Mnは、オーステナイト安定化元素であるが、焼き入れ熱処理時の酸化皮膜生成を促進し、その後の耐食性を低下させるために0.60%を上限とした。
P:0.035%以下
Pは原料である溶銑やフェロクロム等の合金中に不純物として含まれる元素である。熱延焼鈍板や焼き入れ後の靭性に対して有害であるとともに、凝固偏析に伴うδフェライトの生成によって耐食性を劣化させるため、0.035%以下とした。
S:0.010%以下
Sはオーステナイト相に対する固溶量が小さく、粒界に偏析して熱間加工性の低下を促進する元素であり、0.010%を超えるとその影響は顕著になるため0.010%以下とした。
Cr:15.0〜16.6%
Crは織機部品の使用環境において十分な耐食性を保持するために、少なくとも15.0%必要である。一方、オーステナイト安定温度域を狭める効果もあるため、16.6%を上限とした。これらの特性をより効果的にするためには、Crの範囲を15.2〜15.7%とすることが好ましい。
Ni:0.10〜0.60%
Niは、Mnと同様にオーステナイト安定化元素であると共に、焼き入れ後の靭性向上に有効な元素である。更には、隙間腐食の抑制にも有効であるため、最低限0.10%以上の添加することとした。一方で、Niは他の合金元素に比べて高価であり、コスト上昇を招くために0.60%以下とした。
Cu:0.50%以下
Cuは溶製時のスクラップからの混入等、不可避的に含有される場合が多いが、過度の含有は熱間加工性や耐食性を低下させるので、0.5%以下とした。
V:0.10%以下
Vは合金原料であるフェロクロム等から不可避的に混入する場合が多いが、オーステナイト単相温度域を狭める作用が強いため、0.10%以下とした。
Al:0.03%以下
Alは脱酸のために有効な元素であるが、スラグの塩基度を上げ、鋼中に可溶性介在物CaSを析出させ、耐食性を低下させる。また、アルミナ系の非金属介在物による研摩性の低下も引き起こすため、0.03%を上限とした。
N:0.04%以上0.09%以下
NはCと同様に焼き入れ硬さ上げる効果を有する。また、Cと異なる効果として耐食性を次の二つの点で向上させる。一つ目は不動態皮膜を強化させる働きであり、もう一つはCr炭化物の析出抑制(Cr欠乏層の抑制)である。これらの効果を得るためにNは0.04%以上とする。但し、過剰な添加はCr炭化物の析出量を極端に低下させ、耐摩耗性を損ねるほか、製造性を損なうため、0.09%以下とした。
Ti:0.05%以下
Tiは炭窒化物を形成し、当該鋼の焼き入れ時の溶体化処理では溶体化困難である。炭窒化物起因の不均一な磨耗を防止するために上限を0.050%とした。
Nb:0.05%以下
NbもTiと同様に炭窒化物形成元素である。炭窒化物起因の不均一な磨耗を防止するために上限を0.050%とした。
以上説明したマルテンサイト系ステンレス鋼は、さらに耐食性を向上させるには、鋼中へのMo添加が有効に働く。
Mo:0.50%以下
耐食性を向上させるためには、Moの添加が有効であるが、高価な元素であると共に、焼入れ時の溶体化熱処理温度域において、オーステナイト単相温度域を狭め、焼き入れ性を損ねるため、0.50%をその上限とする。
成分における望ましい範囲は式で規定した成分条件を満たすことで得られる。以下に規定理由を説明する。
C+N:0.25〜0.35%
織機部品に必要な焼入れ焼戻硬さを得るためにはC+Nの合計量で0.25%以上が必要である。但し、C+N量が過剰になると焼入れ焼戻し硬さが増して、製品の打ち抜き性を損ねるために、0.35%を上限とした。
C/N:2.2〜6.0
焼き入れ硬さに関して、CとNは、ほぼ等価に作用するが、耐食性や耐摩耗性に関しては、効果が異なってくるため、CとNの比を制御する事が必要となる。C/N下限は耐磨耗性向上の観点から2.2を下限とした。また、鋭敏化や脱炭層防止による耐食性向上のために上限を6.0とした。
Cr+3.3Mo:15〜16.6
Cr、Mo、Nは耐食性の向上に効果を発揮する元素であり、CrとMoは同様の作用機構を有するために、Cr+3.3Mo量で必要な耐食性を整理すると、15%以上が必要である。但し、Cr+3.3Moを過度に上げると、焼き入れ時に溶体化熱処理温度域を狭めるため、16.6%を上限とする。
C+N、C/Nの最適範囲とC,N個々に規定された範囲に対しての関係を図1に、Cr、Mo,Nと織機部品品質や製造性の関係を図2に示した。また、代表成分系における鋼帯の板厚と焼き入れ焼き戻し後の品質の関係を図3に示した。これら、本発明の構成要件である全ての条件を満たした場合にのみ、気体冷却焼き入れ時の耐食性や耐摩耗性、焼き入れ焼戻し硬さ、製造性の全てを満たす事が可能となった。図3において、○印が焼き入れ硬さを、△印が孔食電位を示すものである。孔食電位で200mVを超える場合、塩水噴霧試験で3週間評価しても顕著な錆発生は見られず、織機環境において十分な耐食性を有するものと考えられる。板厚が0.9mm超になると、当該連続焼き入れ設備において、650℃近傍における冷却速度が30℃/sを下回るようになり、鋭敏化による耐食性や硬度の低下が生じた。
次に、本発明によるマルテンサイト系ステンレス鋼の製造においては、熱間圧延時の加熱温度を1140〜1240℃とし、巻き取り温度を700〜840℃とし、熱延板焼鈍をバッチ式焼鈍炉にて700〜900℃で4時間以上行なうことが望ましい。
即ち、熱延加熱温度が1240℃より高くなると、γ単相からγ+δの二相域となる。δ相には、Cr、Si等が濃化し、C、N、Ni等が不偏析し、焼き入れ時のγ単相化を阻害し、焼き入れ性を損ねる。一方、1140℃未満になると、凝固偏析を解消するための拡散時間として均熱時間が2時間以上必要となり、熱延の生産性を大きく損ねるために好ましくない。
また熱延後、鋼帯の巻取に際しては、巻き取温度を700〜840℃とすることが望ましい。700以上にすることで、コイルの冷却に際して、耐摩耗性向上に有効な炭化物の粗大化が進む。また、840℃を超えると、表面に厚い酸化スケールが形成され、脱炭相の形成による耐食性低下や焼き入れ後の研摩性不良などの問題を生じるために望ましくない。
次に、熱延板の焼鈍条件であるが、焼き入れ前の加工性を良くするため、軟質化させることが必要である。そのためには、連続焼鈍炉では十分な軟質化のための焼鈍時間が確保できないため、バッチ式焼鈍炉にて700〜900℃の温度域に4時間以上保持する熱処理が望ましい。700℃以下や900℃以上では軟質化が不十分になる。また4時間未満では、コイル内の温度不均一に起因するコイル内材質変動が生じる。
熱延鋼板は、酸洗後に冷間圧延される。この際に必要に応じて中間焼鈍や酸洗が行なわれる。この冷延板を焼入れに供するが、冷延板を用いることで焼き入れ時の溶体化を促進させることが可能になる。また、冷却は気体中で冷却速度を十分に得るために板厚を0.9mm以下にすることが望ましい。冷延焼鈍板や、0.9mmを超える板厚の冷延板を用いて、0.9mm以下の冷延材と同様に焼き入れを行なうと、溶体化の遅延や、冷却時の炭化物析出により、耐食性や焼入れ硬度が低下する。冷延焼鈍板や板厚0.9mmを超える冷延材に適した溶体化処理、焼き入れ条件にすることも可能であるが、設備・操業コストの増加が生じる。
焼き入れ熱処理に際しては、950〜1100℃の温度域で、5〜120秒保定し、気体冷却焼入れすることが望ましい。
溶体化処理においては、当該鋼種においてオーステナイト単相組織を得るために、950℃以上が必要である。但し、1100℃超えると、高温強度の低下などにより通板性を損ねるために、1100℃以下とする。また、溶体化時間についても温度と同様に、オーステナイト炭相化のため、5秒以上とし、通板性の観点から300秒以下とした。
焼入れに際しては、本発明鋼でマルテンサイト変態をほぼ完了させるために、200℃以下にすることが必要である。また、この間の冷却速度はオーステナイト相における鋭敏化を抑制するために20℃/秒以上が必要である。
焼き入れに続いて、靭性を向上させるために焼き戻しを行なう必要がある。連続焼鈍炉で行なうためには、短時間で焼き戻し完了することが必要であり、そのために、300℃以上が必要である。但し、過度に温度を上げると炭化物の析出により耐食性を損ねるため、500℃以下とすることが必要である。当該温度域において、安定して焼き戻しを行なうためには5秒以上が必要である。また、長時間の焼き戻しは耐食性を損なう場合があるため、300秒以下とする。
表1、表2(表1のつづき)に示す化学組成値(質量%)を有する鋼を、真空溶解炉にて溶解後、大気圧の不活性ガス窒素雰囲気下で鋳造し、100mm厚みの鋼塊とした。その後、1220℃に加熱後、板厚2.7mmまで熱間圧延し、700℃で巻き取った。引き続き850℃で4時間の熱処理後、炉冷して焼き戻しした。酸洗後に、板厚0.9mmまで冷間圧延し、軟化焼鈍を750℃で行なった。更に、板厚0.3mmまで冷間圧延し、窒素雰囲気の熱処理炉中で1050℃、120秒間保持後、気体冷却焼き入れし、続けて400℃で60秒間焼き戻しした。得られた焼き入れ焼き戻し鋼板を供試材として、下記の方法で焼き入れ硬さと、耐食性、耐摩耗性を評価した。
硬さ
板厚断面において、JISZ2244に規定されるビッカース硬さ試験に基づいて、加重50Nで測定した。Hv500以上、570以下を合格とした。
耐食性
焼き入れ後の試料表面をサンドペーパーを用いて600番研摩仕上げとした。JISZ2371に規定される塩水噴霧試験を3週間行ない、発銹が軽微な点錆か発銹のないものを合格とした。
耐摩耗性
供試材を10mm径のアルミナボールで擦って磨耗深さを測定した。荷重は9.8N、滑り速度10〜100mm/s、ストローク20mm、往復回数500回で評価し、磨耗深さ1.0μm以下を合格とした。
表3に示す結果から分かるように、本発明鋼は、焼入れ焼き戻しした際の硬さが織機部品として望まれる硬さ範囲:Hv500〜570を満たすと共に、SST試験における錆の発生が極めて少なく、かつ耐摩耗性に優れ、優れた品質を有している。
これに対して、本発明範囲を外れる成分では、焼き入れ焼戻し硬さ、耐食性が不良であるか、その他の特性(気泡系欠陥、熱間加工性、原料コスト)が発明鋼に対して劣るものであり、製造性、品質、コストの面で不合格のものであった。
Figure 0005235452
Figure 0005235452
Figure 0005235452
本発明によれば、気体冷却により焼入れ焼き戻しした際の耐食性と耐磨耗性に優れた織機部用マルテンサイト系ステンレス鋼の中間材及び鋼帯を、安価にかつ生産性良く製造することが可能になる。したがって本発明は、織機部品用のステンレス鋼製造コスト、品質を大幅に改善することに寄与するものである。
C、Nの最適成分範囲を示す図。 Cr、Mo、Nの最適成分範囲を示す図。 耐食性、耐磨耗性に対する、板厚の影響を示す図。

Claims (3)

  1. 質量%で、C:0.20〜0.30%、Si:0.30〜0.60%、Mn:0.60
    %以下、P:0.035%以下、S:0.010%以下、Cr:15.0〜16.6%、
    Ni:0.10〜0.60%、N:0.04%以上0.09%以下を含有し、更に、Cu:0.50%以下、Mo:0.50%以下、V:0.10%以下、Nb:0.05%以下、Ti:0.05%以下、Al:0.03%以下に制限し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有し、C+N:0.25〜0.35%、C/N:2.2〜6.0、Cr+3.3Mo:15〜16.6とすることを特徴とする織機部用マルテンサイト系ステンレス鋼。
  2. 請求項1に記載の織機部品用マルテンサイト系ステンレス鋼の鋼帯を製造するにあたり、焼入れ可能な厚さに冷間圧延し、溶体化処理を行なった後に、急速冷却して焼き入れ、焼き戻し処理を行うことを特徴とする耐食性と耐磨耗性に優れる織機部品用マルテンサイト系ステンレス鋼鋼帯の製造方法。
  3. 請求項に記載の織機部品用マルテンサイト系ステンレス鋼の鋼帯を製造するにあたり、0.9mm以下に冷間圧延し、950〜1100℃の温度域で5〜180秒間溶体化処理を行なった後に、200℃以下まで急速冷却して焼き入れ、引き続き300〜500の温度域で、5〜300秒の焼き戻し処理を行うことを特徴とする食性と耐磨耗性に優れる織機部品用マルテンサイト系ステンレス鋼鋼帯の製造方法。
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