JP2007529626A - スパッタターゲットの熱応力緩和方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、スパッタリングにおいてスパッタターゲットの熱応力を緩和する方法に関する。本方法は、ターゲットホルダを用意する工程と、このターゲットホルダ上にインジウムスズ酸化物を含むターゲット材料を吹き付けによって付着させる工程と、ターゲットホルダ上のターゲット材料を付着させている間に、ターゲット材料に気孔を導入する工程とを含む。これら気孔により、吹き付けられたターゲット材料は少なくとも2%の気孔率を有するようになり、熱応力が緩和する。また、本発明は、緩和された熱応力を有するスパッタターゲットに関するとともに、インジウムスズ酸化物で基材表面を被覆する方法に関する。
Description
本発明は、スパッタリング中のスパッタターゲットに生じる熱応力を緩和する方法に関する。さらに本発明は、熱応力が緩和されたスパッタターゲット、より詳細にはインジウムスズ酸化物ターゲットに関する。
スパッタターゲットを用いてスパッタリングを行っている間に、ターゲット材料には高い熱応力が発生する可能性がある。このような熱応力により、ターゲット材料の剥離およびクラッキングが生じることがある。例えばインジウムスズ酸化物ターゲットは、この問題に悩まされている。熱応力の発生は、スパッタリングにおいて高出力密度が適用された場合に特に顕著である。
本発明の目的は、ターゲットを製造するにあたって、又はスパッタリングを行うにあたって、スパッタターゲットの熱応力を緩和する方法を提供することである。本発明の別の目的は、ターゲットを製造するにあたって、又はスパッタリングを行うにあたって、熱応力が緩和されたスパッタターゲットを提供することである。本発明の更に別の目的は、高出力密度で基材を被覆する方法を提供することである。
本発明の第一の態様によれば、スパッタリングにおいて、スパッタターゲットの熱応力を緩和する方法が提供される。本方法は、以下の工程を含む。
ターゲットホルダを用意する工程。
このターゲットホルダ上にインジウムスズ酸化物を含むターゲット材料を吹き付けにより付着させて、このターゲットホルダ上にターゲット材料を吹き付けている間に、前記ターゲット材料に気孔を生成する工程。
この気孔により、付着したターゲット材料は少なくとも2%の気孔率を有することとなり、熱応力は緩和される。
ターゲットホルダを用意する工程。
このターゲットホルダ上にインジウムスズ酸化物を含むターゲット材料を吹き付けにより付着させて、このターゲットホルダ上にターゲット材料を吹き付けている間に、前記ターゲット材料に気孔を生成する工程。
この気孔により、付着したターゲット材料は少なくとも2%の気孔率を有することとなり、熱応力は緩和される。
ターゲット材料を吹き付ける方法としては、フレーム溶射法や、プラズマ溶射法、高速酸素燃料(HVOF)溶射法、アーク溶射法などの溶射法が好ましい。
ターゲット材料の気孔率は4%より高いことがより好ましく、例えば10%である。
ターゲット材料の気孔率は、ターゲット材料のある区間の総表面積において、その区間の気孔の表面積が占めるパーセンテージとして計算される。
ターゲット材料の密度は、その気孔率と関連している。気孔率が高いほど、密度が低くなる。
当技術分野においては、低密度(高気孔率)ターゲットよりも高密度(低気孔率)ターゲットの方が好ましいというのが一般的である。これは、高密度ターゲットによってプロセス安定性が向上する(アーク速度(arc rate)レベルがより低くなる)と考えられているためである。よって、ターゲット材料の密度を上昇させるために様々な努力が費やされてきた。スパッタリングの間では、スパッタターゲットの裏面(例えば回転可能な管状スパッタターゲットの内面など)が冷却される。冷却は例えば水冷式である。スパッタターゲットの外側では、高温が発生する。その結果、スパッタターゲットの裏面(内面)と外面との間で大きな温度差が生じ、ターゲット材料において高い熱応力が発生する。スパッタ出力密度が高いほど、温度差は大きくなる。本発明によれば、驚くべきことに、少なくとも2%の最小気孔率を有するスパッタターゲットを用いることによって、スパッタリングにおいて熱応力が緩和されることを見いだした。
ターゲット材料に形成された気孔の20%未満が閉気孔であることが好ましい。ターゲット材料に形成された気孔の10%未満が閉気孔であるか、又はターゲット材料に形成された気孔の5%未満が閉気孔であることがより好ましい。
開気孔は、気孔の網目、粒界、クラックもしくは微小クラック、またはそれらの組み合わせを通してターゲット材料の外面と連通している気孔である。閉気孔は、ターゲット材料の外面に対して開放されていない気孔である。
閉気孔および開気孔の量を決定するためには、インジウムスズ酸化物を含むターゲット材料に蛍光樹脂を含浸する。材料内への樹脂の浸透を改善するために、含浸は真空中で実施してもよい。閉気孔の量は、ある区間の総表面積において、その区間の閉気孔の表面積が占めるパーセンテージとして計算する。
閉気孔を低い割合で且つ開気孔を高い割合で備えたターゲット材料を含むスパッタターゲットが好ましく、このタイプのスパッタターゲットによって、スパッタプロセスの安定性をより向上させる。閉気孔を低い割合で且つ開気孔を高い割合で備えたターゲット材料を有するスパッタターゲットの焼き付け時間中に、ターゲット材料は清浄化されるだけではなく脱気もされる。これは長所として、スパッタリングがいったん開始されるとガス放出が回避されること、及びスパッタプロセスの安定性がより向上することを有する。これとは反対に、閉気孔を高い割合で有するスパッタターゲットは、ガス爆発に相当に悩まされる可能性がある。このタイプのターゲットでのスパッタリングは、少なくともスパッタプロセスの開始時には不安定である。
本発明に係る方法は、熱伝導性を下げたターゲット材料に特に適している。
本方法は、管状スパッタターゲットなどの回転可能なスパッタターゲットを使用する場合に、極めて適している。
ターゲットとしては、ターゲット材料としてインジウムスズ酸化物を有するターゲット、より詳細には、ターゲットホルダ上に吹き付けられたインジウムスズ酸化物を有するターゲットが好ましい。
インジウムスズ酸化物は、薄膜産業において最も多く使用されている透明な導電性酸化物の1つである。用途の範囲は、フラットパネルディスプレイ、スマートウィンドウ、タッチパネル、エレクトロルミネセントランプからEMI遮蔽用途にまで及ぶ。
ターゲット材料は、インジウムスズ酸化物粉末から出発して用いることができる。本発明の目的のためには、インジウムスズ酸化物は、酸化インジウムと酸化スズなどの酸化物の混合物、または酸化インジウムおよび/または酸化スズおよび/またはスズおよび/またはインジウムなどの酸化物と金属の混合物であると理解すべきである。
ターゲット材料は、好ましくは5〜20重量%の範囲内のスズの濃度を有する。より好ましくは、スズの濃度は、5〜15重量%、例えば7、10、または20重量%である。
本発明に係るインジウムスズ酸化物ターゲットの硬さ(マイクロビッカース硬さ)は、好ましくは200〜400HV、例えば250HVである。ターゲット材料の硬さは、マイクロビッカース硬さ測定法によって決定するが、このとき典型的なマイクロビッカースダイヤモンド圧子を光学顕微鏡の接眼レンズ上に取り付ける。顕微鏡は、へこみの幅を決定するために使用する。
本発明に係るスパッタターゲットのターゲット材料の硬さは、熱間静水圧プレスによって入手されるスパッタターゲットの硬さより低い。これは以下のように説明できよう。
熱間静水圧プレス中に、粉末粒子は長時間にわたり高温で維持される(例えば、1000℃で3〜4時間)。時間および高温の組み合わせは、個別粒子間の拡散接合を誘導し、粒子の強力な相互接続を生じさせる。溶射プロセスは熱間静水圧プレス中と同等以上の温度で機能するが、拡散反応は、極めて高い冷却速度のために極めて小さい(典型的には106℃/秒)。粒子間のこの最小の熱相互作用は、主として機械的相互接続を生じさせる。この機械的結合は、硬さへこみ中の溶射構造により高度の柔軟性を提供し、結果としてより低い硬さ値を生じさせる。
熱間静水圧プレス中に、粉末粒子は長時間にわたり高温で維持される(例えば、1000℃で3〜4時間)。時間および高温の組み合わせは、個別粒子間の拡散接合を誘導し、粒子の強力な相互接続を生じさせる。溶射プロセスは熱間静水圧プレス中と同等以上の温度で機能するが、拡散反応は、極めて高い冷却速度のために極めて小さい(典型的には106℃/秒)。粒子間のこの最小の熱相互作用は、主として機械的相互接続を生じさせる。この機械的結合は、硬さへこみ中の溶射構造により高度の柔軟性を提供し、結果としてより低い硬さ値を生じさせる。
さらに、ターゲット材料の熱間静水圧プレス中には、溶射ターゲットに比較してターゲット材料中でより高い応力が発生し、より高い応力は結果としてより高い硬さを生じさせる。これは以下のように説明できよう。
熱間静水圧プレス中には、ターゲットホルダおよびターゲット材料の両方が高温にさせられる。ターゲットホルダとターゲット材料との熱膨張の差は、熱間静水圧プレスサイクル中の冷却中にターゲット材料内で応力を発生させる。上述した応力増加のメカニズムは溶射中には存在しないが、それはターゲットホルダが溶射プロセス中に低温(例えば、50℃)で維持できるからである。
熱間静水圧プレス中には、ターゲットホルダおよびターゲット材料の両方が高温にさせられる。ターゲットホルダとターゲット材料との熱膨張の差は、熱間静水圧プレスサイクル中の冷却中にターゲット材料内で応力を発生させる。上述した応力増加のメカニズムは溶射中には存在しないが、それはターゲットホルダが溶射プロセス中に低温(例えば、50℃)で維持できるからである。
高い気孔率および相当に低い硬さを特徴とする本発明に係るスパッタターゲットを使用することによって、高スパッタ速度を入手できる。スパッタプロセス中に、ターゲット材料にはアルゴンガスなどのイオン化ガスで衝撃が与えられる。そこでターゲット材料から原子が放出され、被覆される基材上に沈着する。本発明に係るターゲットのターゲット材料の個別粒子間の相互接続は余り強力ではないので、ターゲット材料の原子はより容易に放出され、イオン化ガスのエネルギーをより効率的に使用できるので、その結果としてより高度のスパッタ速度を入手できる。
気孔は、1μm2〜1000μm2、より好ましくは6〜80μm2、例えば6〜40μm2の範囲内の孔径を有する。
好ましくは、気孔の50%は10μm2未満の孔径を有する。10μm2の孔径は、ターゲット材料にクラックを発生させるため、そしてスパッタプロセスの安定性のために臨界的孔径であると考えられる。本発明に係るスパッタターゲットのターゲット材料の大量の小さな気孔は、ターゲットを製造する際およびスパッタリングを行う際、応力緩和のために有益である。インジウムスズ酸化物ターゲットなどのセラミックターゲットでは、微小クラックがある程度は存在する。これらの微小クラックによって、発生する熱応力のために、スパッタリング中に深刻なクラックが生じる可能性がある。
本発明に係るターゲット材料によれば、ターゲット材料に存在する微小クラックは、極めて多数の小さな気孔によってターゲット材料/気孔の界面で停止する。この方法で、スパッタリング中に発生した熱応力に起因するクラックのそれ以上の拡大は防止される。クラックの拡大は、溶射の典型的な薄板様構造によっても防止される。クラックは主として2枚の薄板の界面内に伝搬するので、さらに伝搬はまた別の重複する薄板によって防止することができる。さらにその上、小さな孔径を備えるターゲット材料を有するスパッタターゲットは、大きな孔径を備えるターゲット材料を有するスパッタターゲットに比較して、スパッタプロセスの安定性がより向上することが認められている。後者は、スパッタリング中にガス放出が生じることがある。
本発明の第二の態様によれば、ターゲットホルダとターゲット材料とを備えたスパッタターゲットが提供される。ターゲット材料はインジウムスズ酸化物を含み、ターゲットホルダ上に吹き付けられている。ターゲット材料は、少なくとも2%の気孔率を有する。より好ましくは、ターゲット材料は少なくとも4%、例えば10%または20%の気孔率を有する。
ターゲット材料に形成された気孔の20%未満は閉気孔であることが好ましい。ターゲット材料に形成された気孔の10%未満または5%未満の気孔は閉気孔であることがより好ましい。
本発明に係る好ましいスパッタターゲットとしては、管状スパッタターゲットなどの回転可能なスパッタターゲットがある。
本発明に係るインジウムスズ酸化物は、好ましくは200〜400HVの範囲内の硬さを有する。
インジウムスズ酸化物ターゲットのターゲット材料は、好ましくは1μm2〜1000μm2、より好ましくは6〜80μm2、例えば6〜40μm2の平均孔径を有する気孔を有する。好ましくは、気孔の50%は10μm2未満の孔径を有する。この場合には、ターゲット材料に広がった大量の小さな気孔がクラックの拡大を停止することができる。
本発明の更なる別の態様によれば、上述したスパッタターゲットでスパッタリングすることによって、インジウムスズ酸化物で基材表面を被覆する方法が提供される。この方法は、ターゲット材料におけるクラックの発生を回避または減少することを可能にする。
本発明に係るスパッタターゲットを使用することで、スパッタリングにおいて高出力密度を達成することができる。出力密度は、例えば6W/cm2(レーストラック面積当り)より大きく、例えば8W/cm2(レーストラック面積当り)である。この高出力密度でさえ、スパッタリングプロセスにおいてクラックは全く発生しなかった。
インジウムスズ酸化物を溶射したターゲット(表1)を、熱間静水圧プレスによって得たインジウムスズ酸化物ターゲット(表2)と比較した。表1に示すスパッタターゲットは全て、5.8〜6.6g/cm3の密度を有するものであった。表2に示すスパッタターゲットは全て、0.5〜1.8%の気孔率を有するものであった。
表1および表2から、溶射したターゲットは、熱間静水圧プレスによって得たインジウムスズ酸化物ターゲットよりも、高い気孔率、低い密度および低い硬さを示すと結論することができる。
スパッタプロセスにおいて、長さ1850mmを備える回転可能な溶射管状インジウムスズ酸化物ターゲットを使用した。上記のスパッタ試験は44kWまでの出力レベルで行ったが、クラックを発生することはなかった。また、50kWの出力レベルでも行ったが、クラックは出現しなかった。
Claims (18)
- スパッタリング中のスパッタターゲットに生じる熱応力を緩和する方法であって、
ターゲットホルダを用意する工程と、
前記ターゲットホルダ上にインジウムスズ酸化物を含むターゲット材料を吹き付けにより付着させて、このターゲットホルダ上にターゲット材料を吹き付けている間に、熱応力の緩和のため、付着したターゲット材料が少なくとも2%の気孔率を有するように、前記ターゲット材料に気孔を生成する工程と
を含む方法。 - 前記ターゲット材料が少なくとも4%の気孔率を有する請求項1に記載の方法。
- 前記ターゲット材料に形成された気孔の20%未満が閉気孔を含む請求項1または2に記載の方法。
- 前記ターゲット材料に形成された気孔の10%未満が閉気孔を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
- 前記スパッタターゲットが回転可能なスパッタターゲットを含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
- 前記ターゲット材料が200〜400HVの硬さを有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
- 前記ターゲット材料の気孔が1〜1000μm2の範囲の孔径を有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
- 前記気孔の50%が10μm2未満の孔径を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
- ターゲットホルダとインジウムスズ酸化物を含むターゲット材料とを備えたスパッタターゲットであって、前記ターゲット材料が前記ターゲットホルダ上に吹き付けにより付着しており、前記ターゲット材料が少なくとも2%の気孔率を有するスパッタターゲット。
- 前記ターゲット材料が少なくとも4%の気孔率を有する請求項9に記載のスパッタターゲット。
- 前記ターゲット材料に形成された気孔の20%未満が閉気孔を含む請求項9または10に記載のスパッタターゲット。
- 前記ターゲット材料に形成された気孔の10%未満が閉気孔を含む請求項9〜11のいずれかに記載のスパッタターゲット。
- 前記スパッタターゲットが回転可能なスパッタターゲットを含む請求項9〜12のいずれか一項に記載のスパッタターゲット。
- 前記ターゲット材料が200〜400HVの硬さを有する請求項9〜13のいずれか一項に記載のスパッタターゲット。
- 前記ターゲット材料の気孔が1〜1000μm2の範囲の孔径を有する請求項9〜14のいずれか一項に記載のスパッタターゲット。
- 前記気孔の50%が10μm2未満の孔径を有する請求項9〜15のいずれか一項に記載のスパッタターゲット。
- 請求項9〜16のいずれか一項に記載のスパッタターゲットを用いてスパッタリングすることにより、基材表面をインジウムスズ酸化物で被覆する方法であって、この方法によって前記スパッタターゲットの前記ターゲット材料ではクラックの発生が回避される、方法。
- レーストラック面積当り6W/cm2より高い出力密度で前記スパッタリングを行う請求項17に記載の方法。
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