しかしながら、製造工程又は修理工程において行われるミシンの動作の調整又は確認を行う動作テストの際に得られる情報は、一般的に紙面ベースのチェックシートにより管理されていたため、製造工程又は修理工程において動作テストが適切に実施されたか否かに関する情報はミシンに記憶されていなかった。このため、製造工程又は修理工程において、実施された動作テストに際して得られる実施記録を動作テスト後に参照することが困難であり、動作テストの際に得られた実施記録をフィードバックして製造管理等に有効に利用されることはなかった。
本発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであり、ミシンの製造工程又は修理工程における生産情報を有効利用できるようにし、更に、その生産情報をミシンごとに容易に管理することができるミシン及びミシンの製造管理方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明のミシンは、上下動する針に対して相対的に加工布を移動して加工布に縫目を形成するための縫目形成手段を備えたミシンにおいて、前記ミシンの動作の調整又は確認を行う動作テストの実施記録を表示する表示手段と、前記実施記録を前記動作テストのテスト項目と対応づけて記憶する実施記録記憶手段とを備えている。
また、請求項2に係る発明のミシンは、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記実施記録は、前記動作テストにおける前記ミシンの動作を調整する際に設定され、前記ミシンの動作を制御する際に参照されるパラメータである調整設定値を少なくとも含むことを特徴とする。
また、請求項3に係る発明のミシンは、請求項1又は2に記載の発明の構成に加え、前記実施記録は、前記動作テストにおける前記ミシンの動作を確認する際に計測される計測値を少なくとも含むことを特徴とする。
また、請求項4に係る発明のミシンは、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記実施記録は、前記テスト項目ごとに対応づけられた前記動作テストの実施の有無を少なくとも含むことを特徴とする。
また、請求項5に係る発明のミシンは、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記テスト項目を記憶する項目記憶手段と、前記項目記憶手段に記憶されている前記テスト項目を選択する項目選択手段と、前記項目選択手段により選択された前記テスト項目の前記実施記録を前記表示手段に表示させる実施記録表示制御手段とを備えている。
また、請求項6に係る発明のミシンは、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記動作テストの合格基準を前記テスト項目に対応づけて記憶する基準記憶手段と、前記実施記録又は前記動作テストの操作と、前記基準記憶手段に記憶された前記合格基準とを比較して、前記テスト項目ごとに合否を判定する判定手段と、前記判定手段の判定結果を前記表示手段に表示させる判定結果表示制御手段とを備えている。
また、請求項7に係る発明のミシンは、請求項5に記載の発明の構成に加え、前記動作テストの合格基準を前記テスト項目に対応づけて記憶する基準記憶手段と、前記実施記録又は前記動作テストの操作と、前記基準記憶手段に記憶された前記合格基準とを比較して、前記テスト項目ごとに合否を判定する判定手段と、前記項目記憶手段に記憶された全ての前記テスト項目について、前記判定手段により合格と判定されたか否かを判定する総合判定手段と、前記総合判定手段の判定結果を前記表示手段に表示させる総合判定結果表示制御手段とを備えている。
また、請求項8に係る発明のミシンは、請求項1乃至7のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記動作テストは、前記ミシンの製造工程において行われることを特徴とする。
また、請求項9に係る発明のミシンは、請求項1乃至8のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記表示手段は、液晶ディスプレイからなることを特徴とする。
また、請求項10に係る発明のミシンは、請求項1乃至9のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記表示手段は、前記テスト項目ごとに前記実施記録を表示する。
また、請求項11に係る発明のミシンは、請求項1乃至10のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記動作テストを実行又は前記実施記録を表示する第1モードと、縫製を行う第2モードとを切り替えるモード切替手段を備えている。
また、請求項12に係る発明のミシンは、請求項11に記載の発明の構成に加え、前記表示手段は、前記第1モードの状態において前記実施記録を表示し、前記第2モードの状態において少なくとも縫製模様を含む縫製情報を表示することを特徴とする。
また、請求項13に係る発明のミシンは、請求項1乃至12のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記実施記録記憶手段に記憶された前記実施記録を、少なくとも前記ミシンの個体識別情報とともに、外部に出力する出力手段を備えている。
また、請求項14に係る発明のミシンの製造管理方法は、請求項1乃至13のいずれかに記載のミシンの製造管理方法において、前記動作テストを実施するとともに、前記動作テストの前記実施記録を前記ミシンの前記実施記録記憶手段に記憶させる調整確認工程と、前記実施記録記憶手段に記憶された前記実施記録を参照して得られる前記動作テストの前記テスト項目の実施の有無及び、前記実施記録と予め定められた合格基準とを比較して得られる前記テスト項目ごとの合否の少なくともいずれか一方を前記表示手段に表示させる確認表示工程とを有することを特徴とする。
請求項1に係る発明のミシンによれば、ミシンの動作を調整又は確認する動作テストの実施記録を実施記録記憶手段に記憶させるとともに、この実施記録記憶手段に記憶されている実施記録を表示させる表示手段を備えているので、製造工程又は修理工程等において実施された動作テストの実施記録を、動作テスト時又は動作テスト終了後において、表示手段により確認することができる。また、実施記録記憶手段に記憶された実施記録を生産情報としてミシンごとに容易に管理することができ、例えば、ミシンに不具合が発生した場合や故障した場合に参照し、製造工程等にフィードバックすることも可能である。
また、請求項2に係る発明のミシンによれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、実施記録は、動作テストにおいてミシンの動作を調整する際に設定され、ミシンの動作を制御する際に参照される調整設定値を含んでいるため、動作テスト時にどのような調整設定値が設定されたかをミシンが備える表示手段により確認することができる。また、動作テスト終了後においても、動作テストにおいて適切な調整設定値が設定されているか否かを確認することができる。さらに、例えば、ミシンに不具合が生じたり、故障したりした時に、動作テスト時の調整設定値を参照することができ、不具合や故障の原因究明に利用することも可能である。
また、請求項3に係る発明のミシンによれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、動作テストにおけるミシンの動作を確認する際に計測される計測値を、ミシンが備える表示手段に表示させているので、動作テスト時にどのような計測値が計測されたかをミシンが備える表示手段により確認することができる。また、動作テスト終了後においても、動作テストにおいて適切な計測値が計測されていたか否かを確認することができる。さらに、例えば、ミシンに不具合が生じたり、故障したりした時に、動作テスト時の計測値を参照することができ、不具合や故障の原因究明に利用することも可能である。
また、請求項4に係る発明のミシンによれば、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明の効果に加え、ミシンの動作の調整又は確認を行われる動作テストの実施の有無を実施記録記憶手段に記憶させるようにしているので、各テスト項目が実施されたか否かを記録し忘れることを防止することができ、動作テスト終了後に、動作テストにおいて各動作テストの実施の有無を確認することができる。さらに、各テスト項目の実施記録を参照することで、重複して動作テストを行ったり、特定のテスト項目を実施し忘れたりすることを防ぐことができる。
また、請求項5に係る発明のミシンによれば、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明の効果に加え、項目記憶手段に記憶されているテスト項目の中から、所望のテスト項目を項目選択手段により容易に選択し、表示させることができる。
また、請求項6に係る発明のミシンによれば、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明の効果に加え、動作テストの結果又は操作が、基準記憶手段に記憶されている動作テストの合格基準に照らして合格と判定されるか否かを、判定手段により判定させ、その結果を表示手段に表示するようにしているので、テスト項目ごとに動作テストが適切に実施されたか否かの確認作業の労力を軽減することができる。
また、請求項7に係る発明のミシンによれば、請求項5に記載の発明の効果に加え、全てのテスト項目について、判定手段により合格と判定されているかを総合判定手段により判定させ、その判定結果を表示手段に表示するようにしているので、動作テストが全てのテスト項目について適切に実施されたか否かの確認作業の労力を軽減することができる。
また、請求項8に係る発明のミシンによれば、請求項1乃至7のいずれかに記載の発明の効果に加え、動作テストが製造工程において行われるため、製造工程時の動作テストが適切に行われたか否かを参照することができる。さらに、例えば、ミシンに不具合が生じたり、故障したりした時に、製造工程時の動作テストの実施記録を参照することにより、不具合や故障の原因究明に利用することも可能である。
また、請求項9に係る発明のミシンによれば、請求項1乃至8のいずれかに記載の発明の効果に加え、表示手段が薄型の液晶ディスプレイからなるため、表示手段を設置するためのスペースを小さくすることができる他、実施記録を鮮明に表示することが可能である。
また、請求項10に係る発明のミシンによれば、請求項1乃至9のいずれかに記載の発明の効果に加え、テスト項目ごとに実施記録を表示するため、テスト項目ごとに、動作テストの実施の有無や、調整設定値を確認することができる。また、テスト項目ごとに実施記録を表示するため、所望のテスト項目の実施記録を確実に確認することができ、複数のテスト項目に係る実施記録が一覧で表示される場合に比べ、誤って別のテスト項目の実施記録を参照したり、実施記録を誤認したりすることを防ぐことができる。
また、請求項11に係る発明のミシンによれば、請求項1乃至10のいずれかに記載の発明の効果に加え、動作テストを実行又は実施記録を閲覧する第1モードと、縫製を行う第2モードとを切り替えるモード切替手段を有しているので、通常は、第2モードを選択することにより、縫製を行うことができる。このため、縫製中に誤って動作テストをしてしまう誤操作を防ぐことができる。
また、請求項12に係る発明のミシンによれば、請求項11に記載の発明の効果に加え、実施記録を表示する表示手段が、縫製時に使用される複数の模様を含む縫製情報を表示する表示手段としての機能を有しているため、新たに表示手段を追加することなく、実施記録を表示させることができる。
また、請求項13に係る発明のミシンによれば、請求項1乃至12のいずれかに記載の発明の効果に加え、動作テストの実施記録をミシンの個体識別情報とともに出力することができるので、ミシンに不具合が生じた場合や故障した場合等に、どのような動作テストが行われたミシンであるかを追跡調査することができる。また、動作テスト終了後に外部に出力させた動作テストの実施記録を、製造管理等に有効に利用することが可能である。
また、請求項14に係る発明のミシンの製造管理方法によれば、調整確認工程において動作テストを行い、動作テストの実施記録をミシンが備える実施記録記憶手段に記憶させている。さらに、この実施記録記憶手段を参照して、全てのテスト項目について動作テストが正常に完了しているか否かを、表示手段を介して確認するようにしているので、動作テストの実施の有無を適切に管理することができる。また、実施記録記憶手段に記憶された動作テストの実施記録を製造工程にフィードバックすることにより、ミシンの製造工程を適切に管理することが可能である。
以下、本発明に係るミシンを適用した実施の形態について、図面を参照して説明する。本実施形態は、上下動する針に対して相対的に加工布を移動して加工布に縫目を形成するミシンに本発明を適用した場合の一例である。最初に、本実施形態に係るミシン1の物理的構成及び電気的構成を説明する。
まず、ミシン1の物理的構成について、図1及び2を参照して説明する。図1は、開閉カバー16が開けられた状態のミシン1の上側からの斜視図であり、図2は、ミシン1を構成し、押え足30を上下に昇降させる昇降機構40の要部の正面図である。尚、図1及び2において、紙面の手前側を前方、紙面の奥行き側を後方と言い、紙面の左右方向を左右方向と言う。
図1に示すように、ミシン1は、左右方向に長いミシンベッド11と、ミシンベッド11の右端部から上方へ立設された脚柱部12と、脚柱部12の上端から図1における左方へ延びるアーム部13と、アーム部13の左先端部に設けられた頭部14とを有する。ミシンベッド11には、ミシンベッド11上面に配設された針板33と、この針板33の下側に設けられ、縫製を施そうとする加工布(図示せず)を所定の送り量で移送するための送り歯34と、この送り歯34を駆動する布送り機構(図示せず)と、送り量を調整する送り量調整用パルスモータ78(図3参照)と、釜機構(図示せず)とが設けられている。頭部14には、縫針29が装着された針棒(図示せず)を上下方向に駆動させる針棒機構(図示せず)と、この針棒を左右方向に揺動させる針振り用パルスモータ80(図3参照)と、天秤機構(図示せず)とが設けられている。上記の各機構が本発明の縫目形成手段に相当し、ミシン1に内蔵されたマイクロコンピュータ等から構成される制御装置により制御される。
脚柱部12の前面には、本発明の表示手段に相当する液晶ディスプレイ15が設けられている。この液晶ディスプレイ15には、動作テストを実行又は動作テストの実施記録を表示する第1モードにおいては、調整設定値、計測値並びに実施の有無等を含む動作テストの実施記録、テスト項目、判定結果等が表示される。一方、縫製を行う第2モードにおいては、種々の縫目模様、縫製作業に必要な各種の機能を実行させる機能名、更には各種のメッセージ等が表示される。このように、第1モードと第2モードとで、液晶ディスプレイ15に表示する内容を切り替える切替手段を備えることにより、新たに表示手段を追加することなく、第1モードにおいて表示する動作テストに関する各種内容を表示させることができる。
この液晶ディスプレイ15の前面には、第1モードにおいては、動作テストのテスト項目の選択画面や実施記録等の表示位置の各々に対応させて、透明電極からなるタッチパネル26が設けられている。このタッチパネル26は、第2モードにおいては、複数の実用的な模様の模様名や各種の機能を実行させる機能名、送り量調整用パルスモータ78による加工布の送り量や針振り用パルスモータ80による針振り量等の各種設定画面における数値設定等の表示位置の各々に対応するように設けられている。このため、これらの液晶ディスプレイ15に表示された画面の模様表示部や設定部に対応するタッチパネル26を、指や専用のタッチペンを用いて押圧操作することにより、第1モードにおいては、動作テストの実施や実施記録の閲覧に関わる動作の指示や数値設定等を、第2モードにおいては、縫製に供する模様の選択や機能の指示や数値設定等を、実行することができる。
また、脚柱部12の図1における右側面には、コネクタ35(図3参照)が設けられている。このコネクタ35を介して、各種縫製データや、各種プログラムをミシン内部に取り込んだり、ミシン外部に出力したりすることが可能である。このコネクタ35は、本発明における出力手段に相当する。
次に、アーム部13の構成について説明する。アーム部13には、その上部側を開閉する開閉カバー16が取り付けられている。この開閉カバー16はアーム部13の長手方向に設けられ、アーム部13の上後端部に左右方向向きの軸回りに開閉可能に軸支されている。この開閉カバー16を開けた状態の、アーム部13の上部中央近傍には、ミシン1に糸を供給する糸駒19を収容するための凹部である糸収容部17が設けられている。この糸収容部17の脚柱部12側の内壁面には、頭部14に向かって突出し、糸駒19を装着するための糸立棒18が配設され、糸駒19は、糸駒19が備える挿入孔が糸立棒18に挿入されて装着される。この糸駒19から延びる上糸20は、図示しないが、頭部14に設けられた糸張力を調整する糸調子器及び糸取バネ、上下に往復駆動して上糸を引き上げる天秤等の複数の糸掛部を経由して、針棒に装着された縫針29に供給される。
また、アーム部13には、ミシンモータ79(図3参照)により回転駆動され、アーム部13の長手方向に延設されるミシン主軸(図示せず)が設けられ、このミシン主軸の回転により針棒機構と天秤機構が駆動される。
このアーム部13の前面下部には、ミシンの運転を開始及び停止する、即ち、縫製開始及び停止を指示する縫製開始・停止スイッチ21,加工布を通常とは逆方向である後方から前方へ送るための返し縫いスイッチ22,針棒の停止位置を上下に切り換える針上下スイッチ23,押え足30を昇降させる動作を指示する押え足昇降スイッチ24及び、天秤、糸調子器、糸取りバネに糸掛けを行うと共に、縫針29の目孔にも糸通しを行う自動糸掛開始を指示する自動糸掛開始スイッチ25等が設けられている。これらのスイッチのうち、縫製開始・停止スイッチ21,返し縫いスイッチ22及び針上下スイッチ23は、脚柱部12の右側面に設けられた電源スイッチ(図示せず)とともに、前述の第1モードと第2モードとを切り替える切替手段に相当し、これら3つのスイッチを同時に押しながら、電源スイッチをONにしてミシン1を起動させた場合に、ミシン1は第1モードとして起動される。一方、これらのスイッチを押すことなく、電源スイッチによりミシン1を起動させた場合には、ミシン1は第2モードとして起動される。このように本実施形態では、通常は同時に押すことのない3つのボタンを押しながら電源スイッチをONにするという、通常の立ち上げ方法とは異なる方法で電源スイッチをONにした場合に、第1モードとして起動するようにしているので、ミシン使用者が誤って第1モードとしてミシン1を起動させるような誤操作を防ぐことができる。
また、アーム部13の左先端部に設けられた頭部14には、前述の針棒、天秤、糸調子器,糸取バネの他、図示しないが、自動糸掛け装置、自動糸通し機構等が設けられている。また、針棒の後側には、ミシン機枠に昇降可能に支持された押え棒31(図2参照)が配設され、この押え棒31の下端部には、適切な押圧力で加工布を送り歯34に密着させるための押え足30が装着されている。
次に、この押え棒31を上下に昇降させる昇降機構40について、図2を参照して説明する。この昇降機構40は、後述する動作テストにおいて適切に動作されるか否かが確認されるものであり、図2に示すように、針棒(図示せず)の後側に配設されて、ミシン機枠に昇降可能に支持された押え棒31と、押え棒31の下端部分に装着された押え足30と、この押え棒31の上端部分に昇降可能に外嵌されたラック形成部材41と、押え棒31の上端に固定された止め輪42とを備えている。また、この昇降機構40は、押え棒31を昇降させるための駆動機構である押え足昇降パルスモータ43と、その出力軸に連結された駆動ギヤ44と、駆動ギヤ44に噛合する中間ギヤ45と、この中間ギヤ45に一体的に形成され、ラック形成部材41と噛合するピニオン46と、押え棒31の高さ方向中段部に固定された押え棒抱き47と、ラック形成部材41と押え棒抱き47の間の押え棒31に外装された押えバネ48とを備えている。また、この昇降機構40は、押え足昇降パルスモータ43による押え棒31の昇降動作とは独立して、手動操作により押え棒31を昇降させる押え上げレバー49,押え棒31の昇降位置を検知する位置検知手段であるポテンショメータ52(図3参照)等を備えている。
この昇降機構40が備える押え上げレバー49は、ミシン機枠に固着された枢支ピン50にその一端部を回動可能に支持され、他端部に手動操作の為の操作部51を有し、その操作部51を手動操作して、押え上げレバー49を回動することで、押え足30を針板33に当接する下降位置と針板33からミシンベッド11から所定高さ上方の上昇位置とに亙って昇降移動させることができる。
一方、押え足昇降パルスモータ43の駆動による押え棒31の昇降動作は、次のように行われる。まず、押え足昇降パルスモータ43が駆動されると、その駆動力が中間ギヤ45及びピニオン46に伝達され、ラック形成部材41を昇降移動させる。ラック形成部材41を上昇させたときには、そのラック形成部材41の上端面が押え棒31の上端に固定された止め輪82を上昇させるため、押え足30も上昇する。反対に、押え足昇降パルスモータ43を駆動してラック形成部材41を下降させると、ラック形成部材41の下端面に当接する押えバネ48を下方に押圧する。そのため、押え棒31に固定されている押え棒抱き47も下方に押圧され、押え足30は針板33に当接する最下降位置に押圧される。尚、後述する動作テストにおいて、押え足30の昇降高さがポテンショメータ52により検知され、押え足昇降パルスモータ43の駆動により押え棒31が所定の位置に昇降するか否かが確認される。
次に、ミシン1の電気的構成について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、ミシン1の電気的構成を示すブロック図である。図4は、EPPROM64の記憶領域の説明図である。図3に示すように、このミシン1の装置本体60は、CPU61,ROM62,RAM63,EEPROM64,コネクタ35,外部アクセスRAM37,入力インターフェイス65,出力インターフェイス66等で構成され、これらはバス67により相互に接続されている。そして、入力インターフェイス65には、前述の縫製開始・停止スイッチ21,返し縫いスイッチ22,針上下スイッチ23,押え足昇降スイッチ24,自動糸掛開始スイッチ25,ミシン主軸(図示せず)の回転数を計測する回転数センサ53,ポテンショメータ52及び、タッチパネル26等が接続されている。一方、出力インターフェイス66には、送り量調整用パルスモータ78,ミシン主軸を回転駆動させるミシンモータ79,針棒を揺動駆動する針振り用パルスモータ80,前述の押え足昇降パルスモータ43及び液晶ディスプレイ15がそれぞれ駆動回路71乃至75を介して電気的に接続されている。
CPU61は、ミシン1の主制御を司り、第1モードにおいては、読み出し専用の記憶素子であるROM62の動作テストプログラム記憶領域に記憶された動作テストプログラムに従って、各種演算及び処理を実行するものである。一方、第2モードにおいてCPU61は、ROM62の縫製制御プログラム記憶領域に記憶された縫製制御プログラムに従って、縫製を実行するための各種演算及び処理を実行する。尚、動作テストプログラムはメモリカード等の外部記憶装置に記憶されていてもよく、その場合は、当該プログラムをRAM63上に読み込んで実行する。また、このCPU61は、後述するように、項目選択手段として機能するタッチパネルにより選択されたテスト項目の実施記録を液晶ディスプレイ15に表示させる実施記録表示制御手段として機能する。また、CPU61は、後述するEEPROM64に記憶されている実施記録と基準記憶手段に相当するROM62に記憶された合格基準とに基づいて、テスト項目ごとに合否を判定する判定手段と、判定手段の判定結果を表示手段に相当する液晶ディスプレイ15に表示させる判定結果表示制御手段として機能する。さらに、全てのテスト項目について、合格と判定されたか否かを判断する総合判定手段と、総合判定手段の判定結果を表示手段に表示させる総合判定結果表示制御手段として機能する。
ROM62は、各種の駆動機構を駆動制御するとともに、縫製模様を選択する模様選択制御や各種の表示制御を含む縫製制御プログラムが記憶された縫製制御プログラム記憶領域に加えて、後述する本願特有の動作テストに関わる動作テストプログラム、テスト項目、テスト項目に対応づけられた合格基準等が予め格納された動作テストプログラム記憶領域等が設けられている。尚、ROM62は、本発明のテスト項目を記憶する項目記憶手段及び、動作テストの合格基準をテスト項目に対応づけて記憶する基準記憶手段に相当する。
RAM63は、任意に読み書き可能な記憶素子であり、縫製に供する模様データを記憶する縫製用模様データ記憶領域と、CPU61が演算処理した演算結果を収容する各種記憶領域が必要に応じて設けられている。
EEPROM64は、読み書き可能な不揮発性記憶素子であり、本発明に係る動作テストの実施記録を記憶する記憶領域が設けられている。EEPROM64の詳細について、図4を参照して説明する。図4に示すように、ROM62に記憶されているプログラムのバージョンを記憶するプログラムバージョン記憶領域101,ミシンごとの固有の記号であるシリアルナンバーを記憶するシリアルナンバー記憶領域102及び、ミシン1の機種コードを記憶する機種コード記憶領域104が記憶されている。また、製造工程時において液晶ディスプレイ15に表示された画像の表示位置と、タッチパネル26が認識する位置とを調整した際の調整設定値を記憶するタッチパネル調整設定値記憶領域103が設けられている。また、図6及び図7を参照して後述する動作テストの実施記録を記録する記憶領域として、コントラスト調整記憶領域105,コントラスト調整設定値記憶領域106,コントラスト初期値記憶領域107,ピボット高さ確認記憶領域108,最高回転数確認記憶領域109,最高回転数記憶領域110,消費電力確認記憶領域111,タッチパネル調整確認記憶領域112及び、パラメータチェック記憶領域113がそれぞれ設けられている。尚、実施記録をテスト項目と対応づけて記憶するEEPROM64は、本発明における実施記録記憶手段に相当する。
以上のミシン1は、本発明のミシンとしての機能を有するものである。次に、以上のように構成されたミシン1の製造管理方法について図面を参照して説明する。図5は、本発明に係るミシン1の製造工程の流れを示すフローチャートである。また、図6は、調整確認工程において実施される動作テストの実施順序を示すフローチャートである。尚、図5に示す製造工程及び、図6に示す調整確認工程を実行させるプログラムは、ROM62に記憶されており、図3に示すCPU61が実行する。
また、図7は、ROM62に記憶されたテスト項目ごとの合格基準を説明するための説明図である。また、図8は、液晶ディスプレイ15に表示されるテスト項目を選択する選択画面500を説明するための説明図であり、図9は、テスト項目として液晶コントラスト調整が選択された場合に、液晶ディスプレイ15に表示される画面510を説明するための説明図である。また、図10は、テスト項目としてピボット動作確認が選択された場合に、液晶ディスプレイ15に表示される画面520を説明するための説明図であり、図11は、テスト項目として最高回転数確認が選択された場合に、液晶ディスプレイ15に表示される画面530を説明するための説明図である。また、図12は、テスト項目として消費電力確認が選択された場合に、液晶ディスプレイ15に表示される画面540を説明するための説明図であり、図13は、テスト項目としてタッチパネル調整確認が選択された場合に、液晶ディスプレイ15に表示される画面550を説明するための説明図である。また、図14は、テスト項目としてパラメータデフォルトが選択された場合に、液晶ディスプレイ15に表示される画面560を説明するための説明図である。また、図15は、液晶ディスプレイ15に総合判定手段による判定結果(OK)が表示された画面610を説明するための説明図であり、図16は、液晶ディスプレイ15に総合判定手段による判定結果(NG)が表示された画面630を説明するための説明図である。
ミシン1の製造工程においては、図5に示すように、まず、ミシン1内部の各機構を組立てる組立て工程を経て、ミシン1の外装部品を組付ける外装部品組付工程(S210)が行われる。
続くタッチパネル5点設定工程(S220)において、ミシン1の液晶ディスプレイ15に表示される画面と、液晶ディスプレイ15の前面に配置されたタッチパネル26が認識する画面位置とが所定の対応を示すか否かがチェックされ、所定の対応を示さない場合には、タッチパネル26が備える位置センサとこの位置センサが認識する接触位置の座標とを対応づけるパラメータを調整する。この時調整した調整設定値は、EEPROM64のタッチパネル調整設定値記憶領域103に記憶される。そして、この工程が正常に終了された場合には、タッチパネル5点設定工程を管理するシステムにより、ミシンごとに付与される固有の記号である機種コード及びシリアルナンバーがミシン1に付与され、EEPROM64の機種コード記憶領域104及びシリアルナンバー記憶領域102にそれぞれ記憶される。
続くEEPROM初期化工程(S230)において、EEPROM初期化工程を管理するシステムにより、EEPROM64が初期化される。この工程では、まず、EEPROM64の機種コード記憶領域104が参照され、機種コードがミシン1に正常に記憶されているか否かが判定される。機種コードが正常に記憶されていない場合には、ミシン1が備える液晶ディスプレイ15にエラーが表示される。一方、機種コードが正常に記憶されている場合には、EEPROM初期化工程を管理するシステムは、初期化ファイルを生成し初期化データを付与してミシン1に転送する。転送が正常に終了した場合には、タッチパネル5点設定工程(S220)において記憶したミシン1のタッチパネル調整設定値とシリアルナンバー記憶領域102に記憶されているシリアルナンバーとをミシン1の外部に出力し、続くアップグレード工程において、ファイルを生成するために使用するアップグレード要求フラグをRAM63の所定の記憶領域にセットする。
続くアップグレード工程(S240)において、アップグレード画面立ち上げ時に、外部アクセスRAM37に空きファイルが作製される。そして、アップグレード工程を管理する管理システムは、この空きファイルが存在することを確認後、この空きファイルを削除し、アップグレードファイルをミシン1に転送する。アップグレードファイルがミシン1に転送され、正常にアップグレード工程が終了した場合には、アップグレード工程を管理する管理システムは、EEPROM初期化工程終了時にセットされたアップグレード要求フラグをクリアする。
次に、図5に示す製造工程の調整確認工程(S250)において、ROM62に記憶されているテスト項目について動作テストが行われる。この調整確認工程について、図6乃至図16を参照して詳細に説明する。本実施形態に係るミシン1のROM62には、図7に示すように、液晶ディスプレイ15のコントラストを調整する液晶コントラスト調整、押え足30が正しく動作するか否かを確認するピボット動作確認、運転時のミシン主軸の最高回転数を計測し、計測された最高回転数が所定の最高回転数であるか否かを確認する最高回転数確認、ミシン運転時の消費電力を計測する消費電力確認、液晶ディスプレイ15に表示された画像の表示位置と、タッチパネル26が認識する画像位置とが所定の対応を示すか否かを確認するタッチパネル調整確認及び、EEPROM64に記憶されているパラメータが全てROM62に記憶されているデフォルト値と同じか否かを確認するパラメータデフォルト確認の合計6つのテスト項目が記憶されている。
本実施形態においては、図7の6つのテスト項目について、図6に示すフローチャートに従って動作テストが行われるものとする。尚、調整確認工程は、図6に示すフローチャーの順番通りに実施しなければ、全ての動作テストを実施することができない工程ではなく、特定の動作テストを省略して実施したり、動作テストの順番を入れ替えて実施したりすることも可能である。また、図6に示すフローチャートの順序に従わない場合にも、動作テストの実施記録は記憶可能である。
図6に示す調整確認工程において、まず、作業者は、ミシン1のアーム部13の前面下方に備えられた縫製開始・停止スイッチ21,返し縫いスイッチ22及び針上下スイッチ23を同時に押しながら、脚柱部12の右側面に設けられた電源スイッチ(図示せず)をONにして、ミシン1を第1モードとして起動する。液晶ディスプレイ15には、図8に示すテスト項目を選択する選択画面500が表示される。この液晶ディスプレイ15に表示される図8に示す四角で囲まれた数字は、図7に示すROM62に記憶されているテスト項目の番号に対応した数字であり、「01」が液晶コントラスト調整、「02」がピボット動作確認、「03」が最高回転数確認、「04」が消費電力確認、「05」がタッチパネル調整確認、「06」がパラメータデフォルト確認にそれぞれ対応し、選択画面500下段に表示された「07」は、全てのテスト項目について動作テストが適切に行われた否かを判定する総合判定結果を表示する総合判定結果表示に対応している。
まずS251において、作業者により図8に示す液晶ディスプレイ15に表示された選択画面500から「01」が選択され、実施記録表示制御手段により、図9に示す液晶コントラスト調整(S251)に対応する画面510が表示される。この動作テストでは、液晶ディスプレイ15のコントラストが調整される。図7に示すように、ROM62には、図9に示す画面510が表示されることが合格基準であると記憶されており、この液晶コントラスト調整では、動作テストの操作と合格基準とが比較される。したがって、図9に示す画面510が表示された時に、液晶コントラスト調整が正常に終了したと判定手段により判定され、動作テストの実施記録として、EEPROM64のコントラスト調整記憶領域105に、実施済みであると記憶される。このように、EEPROM64のコントラスト調整記憶領域105に、実施済みであると記憶された実施記録は、このテスト項目の実施の有無を示す情報である他、判定手段による判定結果としての情報を包含している。このため、コントラスト調整記憶領域105に記憶された実施記録を参照すれば、液晶コントラスト調整の実施の有無と、判定結果との双方を確認することができる。また、作業者により図8に示す液晶ディスプレイ15に表示された選択画面500から、既に実施された動作テストに対応する番号が選択された場合には、実施記録表示制御手段により、実施済みの動作テストの実施記録が各画面に表示される。このため、特定の動作テストを誤って重複して実施することを防ぐことができる。後述する他のテスト項目に係る実施記録についても同様である。
このS251において、図9に示す画面510が液晶ディスプレイ15に表示された後、画面510中央に表示されたテスト表示領域518のうち、灰色領域512が、隣接する黒色領域511と白色領域513との中間のコントラストを示しているかについて、作業者により確認される。コントラストを調整する必要がある場合には、作業者によりコントラスト調整キー515又は516を選択することにより調整される。このときの、コントラスト調整量514が表示される。最適な液晶コントラストが確認された場合には、作業者により終了ボタン517が選択され、図8に示す選択画面500に戻る。この時、コントラスト調整量514の値が、実施記録に包含される調整設定値としてコントラスト調整設定値記憶領域106に記憶される。
続いて、作業者により図8に示す液晶ディスプレイ15に表示された選択画面500から「02」が選択され、実施記録表示制御手段により、図10に示すピボット動作確認に対応する画面520が表示される。この動作テストでは、ピボット動作が適切に行われているか否かが確認される(S252)。ここでピボット動作とは、縫製動作を停止した際に、押え足昇降パルスモータ43が作動し、押え足30を布の厚みを考慮した所定の高さまで上昇させる動作をいい、ミシン1を操作するオペレータが縫製する方向を変えたい場合に、押え上げレバー49の操作部51を手動操作して押え足30を上昇させる手間を省くための機能である。縫製動作を停止した際の押え足30の高さは、前述のように、ポテンショメータ52(図3参照)により検知され、液晶ディスプレイ15に表示される。この動作テストでは、図10に示す画面520が液晶ディスプレイ15に表示され、運転を停止した場合に、押え足30が所定の高さまで上昇するか否かが確認される。一方、図7に示すように、ROM62には、図10に示す画面520に表示されたOKボタン521が作業者により押されることが合格基準であると記憶されており、このピボット動作確認では、動作テストの操作と合格基準とが比較される。
このS252において、図10に示す画面520が表示された状態で、ミシン1の運転を停止させたときに液晶ディスプレイ15に表示される押え足30の高さが、所定の高さであるか否かが作業者により確認される。作業者により画面520に表示された押え足30の高さが所定高さであると判断され、OKボタン521が選択された場合には、ピボット動作確認が正常に終了したと判定手段により判定され、EEPROM64のピボット高さ確認記憶領域108に、実施済みであると記憶される。そして、作業者により終了ボタン523が選択されると、図8に示す選択画面500に戻る。
続いて、作業者により図8に示す液晶ディスプレイ15に表示された選択画面500から「03」が選択され、実施記録表示制御手段により、図11に示す最高回転数確認に対応する画面530が表示される。ミシン運転時のミシン主軸(図示せず)の最高回転数を計測し、計測された最高回転数が所定の最高回転数であるか否かが確認される(S253)。図7に示すように、ROM62には、最高回転数が毎分950乃至1050回の範囲にあることが、最高回転数確認の合格基準であると記憶されている。この最高回転数確認では、実施記録と合格基準とが比較される。尚、この合格基準と比較するために参照される実施記録は、ミシン1が保持する実施記録であればよく、実施記録記憶手段に相当するEEPROM64に記憶済みのものに限らず、RAM63等の他の記憶領域に一時的に記憶されたEEPROM64に記憶される前の実施記録や、EEPROM64には記憶されない実施記録を用いてもよい。
このS253において、図11に示す画面530が表示された状態で、作業者により運転が開始されると、液晶ディスプレイ15には回転数センサ53により計測されたミシン主軸(図示せず)の最高回転数531が表示され、この最高回転数531が毎分950乃至1050回の範囲にある場合には、ROM62に記憶されている合格基準を満たしていると判定手段により判定され、EEPROM64の最高回転数確認記憶領域109に、実施済みであると記憶されるとともに、最高回転数531が実施記録に包含される計測値として最高回転数記憶領域110に記憶される。そして、作業者により終了ボタン532が選択されると、図8に示す選択画面500に戻る。
続いて、作業者により図8に示す液晶ディスプレイ15に表示された選択画面500から「04」が選択され、実施記録表示制御手段により、図12に示す消費電力確認に対応する画面540が表示され、ミシン運転時の消費電力が計測される(S254)。この動作テストでは、図12に示す画面540を表示された状態で、ミシン1に電力計を接続し、ミシン運転時の消費電力をこの電力計により計測する。図7に示すように、ROM62には、図12に示す画面540が表示された状態でミシン1の運転を開始させることが、消費電力確認の合格基準であると記憶されており、この消費電力確認では、動作テストの操作と合格基準とが比較される。したがって、図12に示す画面540を表示された状態で、ミシン1の運転を開始させると、ROM62に記憶されている合格基準を満たしていると判定手段により判定され、EEPROM64の消費電力確認記憶領域111に、実施済みであると記憶される。そして、作業者により終了ボタン541が選択されると、図8に示す選択画面500に戻る。
続いて、作業者により図8に示す液晶ディスプレイ15に表示された選択画面500から「05」が選択され、実施記録表示制御手段により、図13に示すタッチパネル調整確認に対応する画面550が表示される。この動作テストでは液晶ディスプレイ15に表示される画像の表示位置と、タッチパネル26が認識する画像位置とが所定の対応を示すか否かを確認する(S255)。図7に示すように、ROM62には、図13に示す画面550の中央に表示されたバツ印551が作業者により押圧された際に、タッチパネル26が認識する押圧位置と、ROM62が記憶するバツ印の表示位置とのX方向のズレが3ドット以内、かつ、Y方向のズレが4ドット以内でることが、タッチパネル調整確認の合格基準であると記憶されており、このタッチパネル調整確認では、EEPROM64に記憶されない実施記録、即ち、タッチパネル26が認識する押圧位置と、ROM62が記憶するバツ印の表示位置とのズレと合格基準とが比較される。したがって、作業者が指やタッチペンを用いてバツ印551を押圧した際にタッチパネル26が認識する押圧位置と、ROM62に記憶されたバツ印の表示位置とのズレが、この合格基準を満たすと判定手段により判定される場合には、EEPROM64のタッチパネル調整確認記憶領域112に、実施済みであると記憶される。そして、作業者により終了ボタン552が選択されると、図8に示す選択画面500に戻る。
続いて、作業者により図8に示す液晶ディスプレイ15に表示された選択画面500から「06」が選択され、実施記録表示制御手段により、図14に示すパラメータデフォルト確認に対応する画面560が表示される。この動作テストではEEPROM64に記憶されているパラメータが全てROM62に記憶されているデフォルト値と同じか否かを確認する(S256)。図7に示すように、ROM62には、図14に示す画面560の左部に表示された15項目のパラメータが、ROM62に記憶されているデフォルト値と全て同じであることが、パラメータデフォルト確認の合格基準であると記憶されており、このパラメータデフォルト確認では、実施記録と合格基準とが比較される。したがって、EEPROM64とROM62とが参照され、図14に示す画面560に表示されたパラメータが、デフォルト値であると判定手段により判定される場合には、判定手段によりROM62に示す合格基準に適合すると判定され、その判定結果561が、判定結果表示制御手段により、図14に示す画面560の右上に表示されるとともに、EEPROM64のパラメータチェック記憶領域113に、実施済みであると記憶される。
一方、判定手段により合格基準に適合しないと判定される場合には、この判定結果が判定結果表示制御手段により画面に表示され、デフォルト値とは異なる値が記憶されているパラメータが白黒反転表示される。合格基準に適合しないと判定された場合、作業者により図14に示す画面560に表示されたボタン562が選択されると、図14に表示された全てのパラメータがデフォルト値に設定され、EEPROM64に記憶される。その後、判定手段により、パラメータが全てデフォルト値であると判定手段により判定され、その判定結果561が、判定結果表示制御手段により図14に示す画面560右上に表示されるとともに、EEPROM64のパラメータチェック記憶領域113に、実施済みであると記憶される。そして、作業者により終了ボタン563が選択されると、図8に示す選択画面500に戻る。
以上で、図5に示す調整確認工程(S250)が終了する。引き続き、図5を参照して製造工程について説明する。調整確認工程(S250)終了後、全ての動作テストが適切に終了しているか否かを確認する確認表示工程(S260)が行われる。この工程では、図7に示す前述の液晶ディスプレイ15に表示された選択画面500から「07」が選択され、ミシン1が備える総合判定手段による判定結果が確認される。総合判定手段は、EEPROM64のコントラスト調整記憶領域105,ピボット高さ確認記憶領域108,最高回転数確認記憶領域109,消費電力確認記憶領域111,タッチパネル調整確認記憶領域112及び、パラメータチェック記憶領域113をそれぞれ参照し、全てのテスト項目について実施済みであると記憶されているか否かを判定する。総合判定手段により、全てのテスト項目について動作テストが実施済みであると判定される場合には、総合判定結果表示制御手段により、図15に示す画面610が液晶ディスプレイ15に表示される。画面610において、左上部に表示された文字は判定結果表示制御手段により表示されたテスト項目を表し、動作テストが正常に終了していないテスト項目は、文字を白黒反転させて表示される。したがって、画面610に表示された、液晶コントラスト調整611,ピボット動作確認612,最高回転数確認613,消費電力確認614,タッチパネル調整確認615,パラメータデフォルト確認616は、各テスト項目が正常に終了していることを示している。
また、画面610には、実施記録として調整設定値や計測値が記憶されているテスト項目については、それらの調整設定値や計測値が画面に表示される。画面610において、液晶コントラスト調整611の調整設定値として「62」が、最高回転数確認613の計測値として「1010」が、それぞれ表示されている。このように、総合判定手段の判定結果が示される画面610において、1画面に動作テストの実施記録が集約されているので、動作テストの全実施記録を容易に確認することができる。そして、この画面610の右上部には判定結果として、全てのテスト項目について動作テストが正常に実施されていることを示す「OK」が表示される。このため、実施記録をテスト項目ごとに参照して、適切に行われているかどうかを判断する手間を省くことができ、動作テストが全てのテスト項目について適切に実施されたか否かの確認作業の労力を軽減することができる。
尚、図15に示す画面610の右中央部に表示されている出力ボタン620は、EEPROM64に記憶されている動作テストの実施記録を、ミシン1のシリアルナンバーからなる個体識別情報とともに、外部に出力することを指令するためのボタンであり、作業者によりこの出力ボタン620が押下されると、EEPROM64に記憶されている実施記録と個体識別情報とが、外部アクセスRAM37に出力され、コネクタ35を介して、ミシン1外部に出力が可能になる。このように、ミシン1は出力手段として機能するコネクタ35を備えているので、動作テストの際に得られた情報がフィードバックされて製造管理等に有効に利用することが可能である。また、画面610の下部に表示された表示領域618は、動作テストが追加された場合に、追加された動作テストの実施記録を記憶可能に設けられた予備の記憶領域を示し、図15に示すように12個のテスト項目を新たに追加可能である。このように、予備の記憶領域を備えることで、テスト項目が新たに追加された場合にでも、新たに記憶領域を追加することなく、追加されたテスト項目の実施記録を記憶することが可能になっている。
一方、総合判定手段により、いずれかのテスト項目について実施済みであるとEEPROM64に記憶されていないと判定される場合には、総合判定結果表示制御手段により、図16に示す画面630が液晶ディスプレイ15に表示される。この画面630の右上部には、判定結果としていずれかのテスト項目について動作テストが正常に実施されていないことを示す「NG」が表示され、EEPROM64に実施済みであると記憶されていないテスト項目を明示するために、判定結果表示制御手段により、実施済みであると記憶されていないテスト項目を示す文字は他のテスト項目を示す文字とは異なる態様で表示される。図16においては、消費電力確認が未実施であるとして、消費電力確認624を示す「POWER」が白黒反転して表示されている。この確認表示工程(S260)において「NG」となった場合には、図15に示す画面610が表示されるまで、作業者により未実施のテスト項目について動作テストが行われ、再度確認表示工程(S260)に供される。尚、通常、画面630のように「NG」が表示された状態で動作テストが終了されることはないため、画面630には図15に示す画面610に表示されている出力ボタン620に相当するボタンは表示されない。
確認表示工程において、調整確認工程が適切に終了していると判定された場合には、続いて、ミシン1は検査工程(S270)に供される。この工程では、ミシン1に関する各種検査が行われる。この検査工程が終了すると、全ての製造工程が終了する。
以上で、本発明に係るミシン1の製造工程が終了する。この製造工程で行われた実施記録は、例えば、第1モードで起動したミシン1を操作し、前述の画面610又は画面630を参照することにより閲覧可能である。
以上説明したミシンの製造管理方法によれば、調整確認工程(S250)においてミシン1に動作テストが行われ、動作テストの実施記録をミシンが備える記憶装置に記憶させている。そして、確認表示工程(S260)において、全てのテスト項目について動作テストが正常に完了しているか否かを、液晶ディスプレイ15を介して確認するようにしているので、動作テストの実施の有無をミシンごとに適切に管理することができる。また、動作テストの際に得られた実施記録を製造工程にフィードバックすることにより、ミシンの製造工程を適切に管理することが可能である。また、動作テストが製造工程において行われるため、本製造管理方法で管理された製造工程を経たミシン1は、製造工程時の動作テストが適切に行われたか否かをミシンごとに参照することができる。さらに、例えば、ミシンに不具合が生じたり、故障したりした時に、製造工程時の動作テストの実施記録を参照することにより、不具合や故障の原因究明に利用することも可能である。
また、以上説明したミシン1によれば、EEPROM64にミシンの動作を調整又は確認する動作テストの実施記録を記憶させるとともに、EEPROM64に記憶されている実施記録を表示させる液晶ディスプレイ15を備えているので、製造工程又は修理工程等において実施された動作テストの実施記録をこの液晶ディスプレイ15により確認することができる。また、動作テストの際に得られた情報がフィードバックされて製造管理等に有効に利用することも可能である。また、この実施記録には、調整設定値、計測値、実施の有無に関する情報が包含されているので、これらの情報を含む実施記録を動作テスト後に確認することができる。したがって、各テスト項目の実施記録を生産情報としてミシンごとに容易に管理することができ、これらを参照することで、重複して動作テストを行ったり、特定のテスト項目を実施し忘れたりすることを防ぐことができる。また、ミシン1は項目記憶手段として機能するROM62に記憶されているテスト項目の中から、所望のテスト項目を項目選択手段として機能するタッチパネル26により容易に選択することができる。
また、動作テストの結果が、ROM62に記憶されている動作テストの合格基準に照らして合格と判定されるか否かを、判定手段として機能するCPU61により判定させ、その結果を液晶ディスプレイ15に表示するようにしているので、テスト項目ごとに動作テストが適切に実施されたか否かの確認作業の労力を軽減することができる。さらに、全てのテスト項目について合格と判定されているかを総合判定手段として機能するCPU61により判定させ、その判定結果を表示手段に表示するようにしているので、動作テストが全てのテスト項目について適切に実施されたか否かの確認作業の労力を軽減することができる。また、表示手段が薄型の液晶ディスプレイからなるため、表示手段を設置するためのスペースを小さくすることができる他、実施記録を鮮明に表示することが可能である。また、液晶ディスプレイ15はテスト項目ごとに実施記録を表示するため、テスト項目ごとに、動作テストの実施の有無や、調整設定値を確認することができる。
また、ミシン1は動作テストを実行又は実施記録を閲覧する第1モードと、縫製を行う第2モードとを切り替えるモード切替手段として機能する縫製開始・停止スイッチ21,返し縫いスイッチ22並びに針上下スイッチ23及び、電源スイッチ(図示せず)を有しているので、通常は、第2モードを選択することにより、縫製を行うことができる。そして、ミシン使用者が誤って第1モードとしてミシン1を起動させるような誤操作を防ぐことができる。また、ミシン1は出力手段として機能するコネクタ35を備えているので、動作テストを記録した実施記録をミシンの個体識別情報であるシリアルナンバーとともに出力することができ、ミシン1に不具合が生じた場合や故障した場合等に、どのような動作テストが行われたミシンであるかを追跡することができ、動作テストの際に得られた情報がフィードバックされて製造管理等に有効に利用することが可能である。
尚、テスト項目を記憶するROM62は、本発明の項目記憶手段に相当する。また、動作テストの合格基準をテスト項目に対応づけて記憶するROM62は、本発明の基準記憶手段に相当する。また、実施記録をテスト項目と対応づけて記憶するEEPROM64は、本発明の実施記録記憶手段に相当する。また、図3に示すタッチパネル26は、本発明の項目選択手段に相当する。また、第1モードと第2モードとを切り替える、縫製開始・停止スイッチ21,返し縫いスイッチ22並びに針上下スイッチ23及び、電源スイッチ(図示せず)は、本発明の切替手段に相当する。
図6に示す調整確認工程を構成する各動作テストにおいて、タッチパネル26により選択されたテスト項目の実施記録を、液晶ディスプレイ15に表示させる図3に示すCPU61は、本発明の実施記録表示制御手段として機能する。また、EEPROM64に記憶されている実施記録と基準記憶手段に相当するROM62に記憶された合格基準とに基づいて、テスト項目ごとに合否を判定するCPU61は、本発明の判定手段として機能する。また、図14に示す画面560,図15に示す画面610,図16に示す画面630のように、判定手段の判定結果を表示手段に相当する液晶ディスプレイ15に表示させる図3に示すCPU61は、本発明の判定結果表示制御手段として機能する。また、EEPROM64に記憶されている実施記録とROM62に記憶されているテスト項目とを参照して、全てのテスト項目について、合格と判定されたか否かを判定する図3に示すCPU61は、本発明の総合判定手段として機能する。また、図15に示す画面610及び図16に示す画面630のように、総合判定手段の判定結果を表示手段に表示させる図3に示すCPU61は、本発明の総合判定結果表示制御手段として機能する。
尚、本発明は、以上詳述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。まず、本実施形態においては、実施記録として、調整設定値、計測値及び、実施の有無を用いたが、動作テスト時に得られる任意の情報を実施記録として記憶させることが可能である。例えば、動作テストを行った日の日付、実施者の名前又はID,実施場所又は実施場所を示すID,実施場所の温度や湿度等の実施条件等を実施記録として記憶させるようにしてもよい。また、本実施形態においては、EEPROM64に記憶される実施記録としての実施の有無が判定手段による判定結果を兼ねていたが、実施の有無とこの判定結果とを別々に記憶させるようにしてもよいし、計測値や調整確定値が実施の有無を兼ねるようにしてもよい。
また、本実施形態では実施記録記憶手段としてEEPROM64を、項目記憶手段としてROM62を、基準記憶手段としてROM62をそれぞれ用いていたが、これに限定されず任意の記憶手段を採用可能である。また、実施記録記憶手段は、最新の実施記録のみを記憶するようにしてもよいし、新たに実施される動作テストの実施記録を追加可能に記憶領域を設け、複数回行われた動作テストを別々に記憶するようにしてもよい。
また、本実施形態では表示手段として、液晶ディスプレイ15を用いていたが、これに限定されず、プラズマディスプレイ等の他の表示デバイスを採用してもよい。また、表示手段に表示される内容や各表示項目の配置等は、テスト項目や表示手段の大きさ、表示特性等に応じて変更可能であり、本実施形態の画面に限定されない。また、本実施形態では動作テストごとに異なる画面を液晶ディスプレイ15に表示させるようにしていたが、これに限定されず、1つの画面が複数の動作テストに対応するようにしてもよい。
また、本実施形態では項目選択手段としてタッチパネル26を用いていたが、これに限定されず、各種のスイッチ、トラックボールやマウス、音声入力装置等、作業者とのインターフェイスをとるものを採用可能である。
また、本実施形態では、切替手段として縫製開始・停止スイッチ21,返し縫いスイッチ22及び針上下スイッチ23を用いていたが、第1モードと第2モードとを切り替え可能な手段を採用可能であり、これに限定されない。例えば、縫製開始・停止スイッチ21,返し縫いスイッチ22及び針上下スイッチ23のいずれか1つのスイッチのみを押しながら電源スイッチを入れるようにした場合に、第1モードと第2モードとが切り替わるようにしてもよいし、特定のスイッチを所定の時間押し続けた場合に、第1モードと第2モードとが切り替わるようにしてもよい。また、専用のスイッチを設け、この専用のスイッチにより第1モードと第2モードとが切り替わるようにしてもよいし、タッチパネル26により切り替えを選択するようにしてもよい。尚、第2モードにおける通常の縫製作業時に誤って切替手段を選択することがないよう、本実施形態のように、通常の操作とは異なる操作を行った場合に第1モードと第2モードとが切り替わる切替手段を備えることが望ましい。
本実施形態に係るミシン1は、製造工程において実施される動作テストの実施記録を記憶するようにていたが、製造工程において実施された動作テストの実施記録を記憶するのではなく、記録可能であるように構成してもよい。ただし、製造工程時にどのような動作テストが実施されたかを、動作テスト実施後において参照し、動作テストの際に得られた情報がフィードバックされて製造管理等に有効に利用することを可能にするためには、製造工程において実施された動作テストの実施記録を記憶させるように構成することが望ましい。
また、本実施形態においては、調整確認工程において、6つのテスト項目について動作テストを実施するようにしていたが、テスト項目の内容や、テスト項目の数、動作テストの実施順序は適宜変更可能であり、本実施形態に限定されない。
また、本実施形態においては、図5に示す製造工程を管理する製造管理方法について説明したが、これに限定されることなく、必要に応じて、製造工程中の各工程を追加削除したり、各工程の実施順序を変更したり、各工程において実施される内容を変更することが可能である。
また、本実施形態においては、調整確認工程の液晶ディスプレイ15に表示されたテスト項目を選択する操作、各テスト項目に対応する画面の操作や各種確認作業を作業者が行うようにしていたが、これに限定されず、その一部又は全部を、ミシン1に自動的に実施させるようにしてもよいし、調整確認工程を管理するシステムに実施させるようにしてもよい。
また、本実施形態においては、確認表示工程において総合判定手段による判定結果を表示させるようにしていたが、これに限定されず、実施記録記憶手段に記憶された実施記録を参照して得られる動作テストのテスト項目の実施の有無及び、テスト項目ごとの合否の少なくともいずれか一方を表示手段に表示させるようにすればよい。