本発明は、車輪に車体を懸架させるための車両用サスペンションシステムに関する。
車両用サスペンションシステムは、車輪に車体を懸架させるシステムであり、一般的なものとして、サスペンションアーム等のばね下部材と車体の一部(例えば、タイヤハウジングの上部)であるばね上部材との間に配設されたサスペンションスプリングと、それらばね下部材とばね上部材とを繋いでそれらの接近・離間運動に対する減衰力を発生させるためのアブソーバとを備えたシステムがよく知られている。このようなサスペンションシステムにおいて、ばね下部材あるいはばね上部材とアブソーバとの間に、それらを弾性的に連結する弾性連結機構と、ばね上部材あるいはばね下部材とアブソーバのとの相対運動に対して減衰力を付与するための減衰力付与装置を設けることが検討されている。そのような弾性連結機構と減衰力付与装置とを設けたサスペンションシステムに関して、例えば、下記特許文献に記載されたようなシステムが存在する。
特開平8−197931号公報
上記特許文献に記載のサスペンションシステムは、電磁式作動機である電磁式モータを有してそのモータの力に依拠する減衰力を発生する電磁式アブソーバを備えたシステムであり、ばね下部材への衝撃的な荷重の入力等の際のモータのロック現象を回避するために、上記弾性連結機構および減衰力付与装置が設けられている。ここに挙げられている弾性連結機構および減衰力付与装置は一例ではあるが、それらの機構および装置はサスペンションシステムの特性を向上させる点において、有効に機能するものとなっている。ところが、それらの弾性連結機構および減衰力付与装置を備えたサスペンションシステムは、実用性という面において、改善の余地を多分に残すものとなっている。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いサスペンションシステムを提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明のサスペンションシステムは、サスペンションスプリングと、電磁式のアブソーバと、ばね下部材とばね上部材との一方とアブソーバとの間に設けられて、それらを弾性的に連結する弾性連結機構およびそれらの接近・離間方向の力である接近離間方向力を付与する接近離間方向力付与装置(上記減衰力発生装置はそれの一例である)とを備え、その接近離間方向力付与装置が、電磁式作動機が発生する力によって接近離間方向力を付与するものとされ、当該システムが、その接近離間方向力を制御する制御装置を備えたことを特徴とする。
本発明のサスペンションシステムが有する接近離間方向力付与装置は、従来のシステムが有するいわゆる油圧式の装置と異なり、電磁式モータ等の電磁作動機の力によって、減衰力等の接近離間方向力を発生させる構造とされている。そのため、電磁式作動機の作動の制御によって接近離間方向力の制御が実行可能であることから、接近離間方向力を応答性,即応性よく制御することが可能となる。また、後に詳しく説明するが、接近離間方向力付与装置をダンパとして機能させて、ばね下高周波振動を効果的に吸収させることができ、その場合に、接近離間方向力を制御することにより、その振動吸収の効果の程度を容易に制御でき、また、アブソーバを効果的に機能させたい状況にあっては、その機能を十分に担保することが可能となる。そのような点で、本発明のサスペンションシステムは、実用性の高いものとなっている。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項と請求項との関係を示せば、(1)項と(2)項とを合わせたものが請求項1に相当し、請求項1に(7)項の限定を加えたものが請求項2に、請求項2に(8)項の限定を加えたものが請求項3に、請求項2または請求項3に(9)項の限定を加えたものが請求項4に、請求項2ないし請求項4のいずれかに(11)項の限定を加えたものが請求項5に、請求項5に(12)項の限定を加えたものが請求項6に、請求項2ないし請求項6のいずれかに(15)項の限定を加えたものが請求項7に、請求項7に(16)項の限定を加えたものが請求項8に、請求項2ないし請求項8のいずれかに(17)項による限定を加えたものが請求項9に、請求項1ないし請求項9のいずれかに(18)項の限定を加えたものが請求項10に、請求項1ないし請求項10のいずれかに(19)項および(22)項の限定を加えたものが請求項11に、請求項11に(23)項の限定を加えたものが請求項12に、それぞれ相当する。
(1)ばね下部材とばね上部材との間に配設されたサスペンションスプリングと、
ばね下部材とばね上部材との間に前記サスペンションスプリングと並列的に配設されたアブソーバと、
ばね下部材とばね上部材との一方である一方部材と前記アブソーバとを弾性的に連結する弾性連結機構と、
その弾性連結機構と並列的に前記一方部材と前記アブソーバとの間に配設されるとともに、電磁式作動機を有し、その電磁式作動機の発生する力に依拠して、前記一方部材と前記アブソーバとにそれらの接近・離間方向の力である接近離間方向力を付与する接近離間方向力付与装置と
その接近離間方向力付与装置が発生させる前記接近離間方向力を制御する制御装置と
を備えた車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、概念的には、図1のように示すことができる。図1に示す態様においては、ばね上部材Muと、車輪Wを保持するばね下部材Mlとの間に、互いに並列的にサスペンションスプリングSSとアブソーバAとが配設され、アブソーバAと一方部材としてのばね下部材Mlとの間には、それらを弾性的に連結する弾性連結機構CSが設けられ、その弾性連結機構CSと並列的に、アブソーバAとばね下部材Mlとに対して上記接近離間方向力を発生させるための接近離間方向力付与装置Dが設けられている。この接近離間方向力付与装置Dは、電磁式作動機の力に依拠する接近離間方向力を発生させる構造のものであり、その接近離間方向力は、制御装置Cによって制御される。
以下、この図を参照しつつ説明すれば、本項にいう「ばね上部材Mu」は、例えば、サスペンションスプリングSSによって支持される車体の部分を広く意味し、「ばね下部材Ml」は、例えば、サスペンションアーム等、車輪Wとともに上下動する車両の構成要素を広く意味する。サスペンションスプリングは、ばね下部材Mlとばね上部材Muとを相互に弾性的に支持するものであればよく、その構造が特に限定されるものではない。たとえば、コイルスプリング等の弾性部材を主体とするもの,空気圧を利用したエアスプリング等、種々の構造のものを採用可能である。
アブソーバAは、主として、ばね下部材Mlとばね上部材Muとの上下方向における相対振動、つまり、車体と車輪Wとの接近・離間運動に対して、減衰力を発生させる機能を有するものである。その構造が特に限定されるものではなく、例えば、従来から一般的に採用されている油圧式のものを採用することが可能である。また、後に詳しく説明するが、電磁作動機(電磁式モータ,発電機の両者を含む概念である)の力に依拠して減衰力を発生する構造のもの、すなわち、電磁式のアブソーバ(「電磁式アクチュエータ」と呼ぶこともできる)を採用することも可能である。この構造のものを採用する場合、当該サスペンションシステムは、電磁式サスペンションシステム(いわゆる「電磁サス」と呼ばれるものである)として構成されることになる。電磁式アブソーバを採用する場合、上記減衰力だけでなく、ばね下部材Mlとばね上部材Muとの相対運動に対する推進力を発生させることも可能である。
弾性連結機構CSは、ばね下部材Mlとばね上部材Muとの一方(以下、「一方部材Mo」と呼ぶ場合がある。図1では、ばね下部材Mlが一方部材Moとされている)と、アブソーバAとを相互に弾性支持するものであればよく、その構造が特に限定されるものではないが、一方部材MoとアブソーバAとの間隔を一定の間隔に維持するような弾性力を発揮する構造のものを採用することが望ましい。言い換えれば、当該サスペンションシステムに対して外力が作用していない場合(車両が平坦な場所に静止しているような状態)におけるそれらの間隔を中立間隔と定義すれば、それらの間隔が中立間隔よりも大きくあるいは小さくなったときには、その間隔を中立間隔に戻す方向の弾性力が発生するような構造のものを採用することが望ましい。具体的には、例えば、2つの弾性部材を用い、それらの一方が一方部材MoとアブソーバAとの間隔を広げる向きの弾性力を、他方がその間隔を狭める向きの弾性力を発揮するように構成し、それらの弾性力の釣合いによって、一方部材MoとアブソーバAとの間隔を中立間隔に維持させるような構造のものとすることが可能である。単に、コイルスプリング等の弾性部材を一方部材MoとアブソーバAとの間に介在させるような構成とすることも可能であり、また、一方部材MoとアブソーバAとの接近・離間方向の相対運動を、何らかの回転体の回転運動に変換するような機構を設け、その回転体の回転に対して弾性力が作用するような構成とすることも可能である。
接近離間方向力付与装置Dは、上記弾性連結機構CSと並列的に配置され、一方部材MoとアブソーバAとに対して、それらの接近・離間方向の力である接近離間方向力を作用させる。つまりそれらを接近させるあるいは離間させる向きの力を発揮させる。接近離間方向力は、一方部材MoとアブソーバAとの相対運動に対する減衰力と推進力との両者を含む概念である。減衰力を発揮させる場合においては、いわゆるダンパとして機能するものとなる。本項における接近離間方向力付与装置Dは、電磁式作動機の発生する力に依拠して、上記接近離間方向力を作用させるものとされている。そのため、電磁式作動機の作動の制御によって、接近離間方向力の制御、詳しく言えば、その大きさおよび向きに関する制御を実行することができ、応答性,即応性に優れた接近離間方向力の制御が可能となる。なお、接近離間方向力の基になる電磁式作動機の力は、電磁式作動機が発電機として機能する場合においてそれに生じる起電力を利用した力であってもよく、また、モータとして機能する場合において電源から供給される電力によって発揮される駆動力であってもよい。また、電磁式作動機は、リニアモータ等のような直線動作型の電磁式作動機であってもよく、また、回転モータのような回転運動型の電磁式作動機であってもよい。回転運動型の電磁作動機を採用する場合、一方部材MoとアブソーバAとの接近・離間方向の相対運動を回転体の回転運動に変換する運動変換機構を備え、その回転体に対して回転力を付与するように構成することも可能である。
制御装置Cは、例えば、コンピュータを主体とするような電子制御装置とすることができる。さらに言えば、例えば、電磁作動機と電源とがインバータ等の駆動回路を介して接続されているような場合に、制御装置Cがその駆動回路に制御信号を発することで、その駆動回路による電磁式作動機の作動制御が実行されるように構成することが可能である。
本項の態様において、弾性連結機構CSと接近離間方向力付与装置Dとの機能は、特に限定されるものではないが、例えば、接近離間方向力付与装置Dをダンパとして機能させることにより、弾性連結機構CSと接近離間方向力付与装置Dとの相互作用によって、ばね下部材Mlからばね上部材Muへ伝達される特定周波数範囲を振動を効果的に吸収するように機能させることが可能である。具体的に言えば、いわゆるばね下共振周波数近傍あるいはそれよりも高い周波数域のばね下振動を、効果的に吸収させることが可能であり、そのことによって、車両の乗り心地を向上させることができる。その場合において、その減衰力を、例えば、ダンパの特性としての減衰係数を変更するような制御を行えば、効果的に吸収可能な振動の周波数域を変更すること、振動吸収の効果の程度等を変更することが可能となる。つまり、本項の態様のサスペンションシステムでは、そのような目的の接近離間方向力の制御が可能とされているのである。
また、本項の態様においては、アブソーバAと弾性連結機構CSおよび接近離間方向力付与装置Dとが直列的に連結され、アブソーバAと一方部材Moとの間隔の変化が許容されている。そのため、接近離間方向力付与装置Dが発生させる接近離間方向力による支持が十分でない場合には、アブソーバAが発揮する減衰力がばね下部材Mlとばね上部材Muとに対して効果的には付与されない状況となる。このことは、ばね下部材Mlとばね上部材Muとの相対運動の減衰というアブソーバAの機能を低下させる一因となる。また、接近離間方向力による支持が十分でない場合には、車体の姿勢の安定性を損なう一因ともなる。つまり、弾性連結機構CSと接近離間方向力付与装置Dとによって、ばね下高周波振動を効果的に吸収するためには、接近離間方向力付与装置Dによる減衰力を比較的小さくすることが望ましいが、逆に、アブソーバAによる比較的低周波域のばね上ばね下の相対振動の減衰、車体姿勢の安定性を考えた場合には、接近離間方向力付与装置Dの接近離間方向力によって、アブソーバAと一方部材Moとの相互支持力(以下、「アブソーバ支持力」という場合がある)を高めることが望ましく、そのことによって、車体の安定性,車両の乗り心地を向上させることができる。このような二律背反的な現象に鑑みれば、後に説明するよに、シチュエーションに応じて、接近離間方向力を変更することが望ましく、本項の態様のサスペンションシステムでは、そのような目的の接近離間方向力の変更が、容易に実行可能となる。
なお、本項の態様において、接近離間方向力の制御の目的は上記の目的に限定されるものではない。例えば、後に説明するように、アブソーバAと一方部材Moとの間隔の変動範囲を制限するような目的等、種々の目的において接近離間方向力を制御することが可能である。
(2)前記アブソーバが、電磁式作動機を有し、その電磁式作動機の発生する力を利用して作動する電磁式アブソーバである(1)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、電磁式サスペンションシステムに関する態様である。電磁式アブソーバは、電磁式モータ等の電磁式作動機の発生する力に依拠して、ばね下部材Mlとばね上部材Muとの相対運動に対する減衰力を発生させる。また、電磁式アブソーバは、減衰力だけでなく上記相対運動に対する推進力をも発揮し得ることも可能である。電磁式アブソーバは、制御性が良好である等の特性を利用して、例えば、スカイフック理論に基づくサスペンションシステムを容易に構築できるといった利点を有し、実車化が期待されている。上記相対運動に対する減衰力を考えた場合、その相対運動力が大きく、また、その相対運動のストロークもある程度大きくする必要があることから、電磁式アブソーバが有する電磁式作動機は、比較的大きな力を発揮するものを採用することが望まれる。ところが、そような電磁作動機は、イナーシャ等によって、比較的高速な相対運動に追従して効果的な減衰力を発生することが困難であるという実情を抱える。したがって、電磁式アブソーバでは、比較的高周波的な振動を十分には吸収し得ないものとなり、例えば、ばね下共振周波数近傍あるいはそれより高周波域のばね下部材Mlの振動を効果的には吸収し得ないこととなる。本項の態様においては、そのような高周波的な振動吸収を、弾性連結機構CSおよび接近離間方向力付与装置Dに担わせることができるため、本項の態様によれば、高周波的な振動に対しての乗り心地の良好な車両を実現可能な電磁式サスペンションシステムが構築できることとなる。そして先に説明したように、比較的周波数の低いばね上ばね下相対振動に対しても、接近離間方向力付与装置Dが発生させる接近離間方向力を制御することで、十分に効果的な減衰力を付与し、比較的低周波的な振動に対する乗り心地を良好なものとすることが可能となる。
(3)前記一方部材がばね下部材である(1)項または(2)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項の態様は、弾性連結機構CSおよび接近離間方向力付与装置Dを、ばね下部材MlとアブソーバAとの間に配設したものであり、それらをばね下振動吸収目的で使用する場合において、そのばね下振動のアブソーバAへの伝達が抑制されることとなる。したがって、例えば、電磁式作動機を有する電磁式アブソーバを採用する態様の場合、その電磁作動機の振動からの保護という観点において、本項の態様のサスペンションシステムは、優れたシステムとなる。
(4)前記制御装置が、前記一方部材と前記アブソーバとの接近離間方向の相対運動に対する減衰力を成分とする前記接近離間方向力を制御するものとされた(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項の態様は、平たく言えば、接近離間方向力付与装置Dが減衰力を発揮するものとされた態様であり、言い換えれば、ダンパとしての機能を有するように構成された態様である。先に説明したように、弾性連結機構CSおよび接近離間方向力付与装置Dによって、ばね下部材Mlの高周波振動を吸収させる場合に好適な態様である。なお、本項の態様における接近離間方向力は、減衰力成分以外の何らかの成分を有するものであってもよく、減衰力成分のみを有するものであってもよい。
(5)前記制御装置が、前記一方部材と前記アブソーバとの接近離間方向における間隔を中立間隔に近づける向きの力である中立方向力を成分とする前記接近離間方向力を制御するものとされた(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項の態様は、簡単に言えば、接近離間方向力付与装置Dが、アブソーバAと一方部材Moとの間隔を所定の間隔に維持させる向きの力を発揮する態様である。本項にいう「中立間隔」は、例えば、車両が平坦かつ平滑な路面に静止しているような状態におけるアブソーバAと一方部材Moとの間隔と考えることができる。また、本項にいう「中立方向力」は、例えば、アブソーバAと一方部材Moとの間隔(以下「対部材アブソーバ間隔」という場合がある)をできるだけ中立状態に維持させようとする力、中立状態から大きくずれることを制限する力等を意味し、本項の態様は、中立状態の維持,中立状態からの大きな変化を抑制するような制御を実行する場合において有効な態様となる。例えば、対部材アブソーバ間隔の変動の範囲を規制するストッパ等が設けられている場合において、そのストッパが機能することによる衝撃,音の発生等を抑制するような目的で、接近離間方向力を利用して対部材アブソーバ間隔の変動を制限することが可能である。なお、本項の態様における接近離間方向力は、中立方向力成分以外の何らかの成分を有するものであってもよく、中立方向力成分のみを有するものであってもよい。
(6)前記制御装置が、前記一方部材と前記アブソーバとの接近離間方向における間隔の前記中立間隔からの偏差に応じた大きさの前記中立方向力を成分とする前記接近離間方向力を制御するものとされた(5)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、簡単いえば、上述の中立方向力が、ばね力あるいはそれに類似するような力となるような態様である。本項の態様によれば、例えば、接近離間方向力付与装置Dを、弾性連結機構CSによるばね力を補助するように利用することが可能である。
(7)前記制御装置が、状況に応じて前記接近離間方向力を変更する接近離間方向力変更部を有する(1)項ないし(6)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項の態様は、接近離間方向力が、シチュエーションに応じて、言い換えれば、何らの状態に関する条件,何らかの状態を示すパラメータ等に基づいて変更可能とされた態様である。本項の態様においては、接近離間方向力の方向,大きさ等を変更してもよく、また、接近離間方向力を構成する一部の成分の方向,大きさ等を変更してもよい。
(8)前記制御装置が、前記一方部材と前記アブソーバとの接近離間方向の相対運動に対する減衰力を成分とする前記接近離間方向力を制御するものとされ、前記接近離間方向力変更部が、その減衰力を変更するものとされた(7)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、接近離間方向力のうちの減衰力成分を、状況に応じて変更する態様であり、先に説明したところの接近離間方向力付与装置Dをダンパとして機能させる場合において、有効な態様である。先に説明したように、ばね下高周波振動の吸収効果を変更することが可能となる。また、減衰力に基づくアブソーバ支持力の変更も可能である。ちなみに、減衰力に基づくアブソーバ支持力は、対部材アブソーバ間隔の変化速度に依拠した大きさの支持力とされるため、その速度が大きい場合に特に大きな支持力を発揮させることが可能である。なお、接近離間方向力が減衰力成分のみの場合においては、本項の態様は、接近離間方向力自体を変更する態様となる。
(9)前記制御装置が、前記一方部材と前記アブソーバとの接近離間方向における間隔を中立間隔に近づける向きの力である中立方向力を成分とする前記接近離間方向力を制御するものとされ、前記接近離間方向変更部が、その中立方向力を変更するものとされた(7)項または(8)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、接近離間方向力のうちの中立方向力成分を、状況に応じて変更する態様であり、例えば、中立方向力に基づくアブソーバ支持力の変更が可能である。ちなみに、中立方向力に基づくアブソーバ支持力は、減衰力に基づくアブソーバ支持力と異なり、対部材アブソーバ間隔の変化速度に拠らない大きさの支持力とされるため、その速度が小さい場合であっても比較的大きな支持力を発揮させることができる。例えば、後に説明するように、車体のロール挙動,ピッチ挙動等の際において大きなアブソーバ支持力を得ようとするような場合において有効である。なお、接近離間方向力が中立方向力成分のみの場合においては、本項の態様は、接近離間方向力自体を変更する態様となる。
(10)前記接近離間方向力変更部が、車両の走行状態,車両が操作されている状態,車両姿勢状態,車両の挙動状態,車両に作用する外部力の状態から選ばれる1以上のものに関する状況に応じて前記接近離間方向力を変更するように構成された(7)項ないし(9)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項は、接近離間方向力変更部が接近離間方向力の変更の際に依拠する状況の基となる各種の状態、言い換えれば、その状況を判断するための根拠情報の属するカテゴリを列挙した項である。本項の態様によれば、変更の目的に応じて、種々の状態に基づく状況を根拠として、接近離間方向力を変更できることになる。本項にいう「車両走行状態」には、例えば、車両の走行速度、旋回中であるか直進中であるか,車両がどのような路面を走行しているか等が、「車両が操作されている状態」には、例えば、アクセル,ブレーキ,ステアリング操作部材等の操作量,操作速度、各種の操作スイッチの状態等が、「車両姿勢状態」には、例えば、車両のロール量,ピッチ量,ヨー量等が、「車両の挙動状態」には、例えば、ロール速度,ピッチ速度,ヨー速度等が、「車両に作用する外部力の状態」には、例えば、横加速度,上下加速度,前後加速度,ロールモーメント,ピッチモーメント等が、それぞれ含まれる。
(11)前記接近離間方向力変更部が、路面状況に応じて前記接近離間方向力を変更するように構成された(7)項ないし(10)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、上記状況として、車両が走行している路面(以下、「走行路面」と言う場合がある)の状況に基づいて、接近離間方向力を変更する態様である。走行路面の状態、例えば、荒れた路面、うねり路(モーグル路)、平坦路(例えば、舗装路等)といった路面状態によって、車輪に入力される振動、ばね上部材Muとばね下部材Mlとの相対振動等は、異なるものとなる。したがって、路面状況に応じて、吸収すべき振動や、アブソーバAの機能のさせ方等が異なるものとなる。本項に記載の態様によれば、そのようなサスペンションシステムが有すべき特性を、路面状況に応じて任意に変更させることが可能となる。
(12)前記制御装置が、前記一方部材と前記アブソーバとの接近離間方向の相対運動に対する減衰力を成分とする前記接近離間方向力を制御するものとされるとともに、前記接近離間方向力変更部が、その減衰力を変更するものとされ、
前記接近離間方向力変更部が、ばね下高周波振動が比較的発生し易い路面状態において前記減衰力を小さく、ばね下高周波振動が比較的発生し難い路面状態において前記減衰力を大きくするものである(11)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、路面状況に応じて接近離間方向力を変更する態様の一態様である。例えば、荒れた路面を走行する場合は、10Hz前後のいわゆるブルブル振動や、15Hz以上のいわゆるゴツゴツ振動等がばね下振動としてして発生する。本項にいう「ばね下高周波振動」は、例えば、そのような振動、言い換えれば、このようなばね下共振周波数近傍あるいはそれ以上の周波数域の振動と考えることのできるものである。ばね下高周波振動を効果的に吸収してばね上への伝達を抑制するような場合には、先に説明したように、接近離間方向力付与装置Dをダンパとして機能させて、弾性連結機構CSおよび接近離間方向力付与装置Dによってそれらの振動を吸収させることが可能である。その場合,接近離間方向力、すなわち、減衰力は比較的小さくすることが望ましい。逆に、荒れた路面に限らず多くの路面において発生する数Hz以下の振動、例えば、あおり振動、バウンシング振動等に対しては、先に説明したように、アブソーバ支持力を高めることが望ましい。このようなことに鑑み、本項に記載の態様は、例えば、ばね下高周波振動が比較的発生し易い路面状態であるか否か、つまり、荒れた路面を走行しているか否か、荒れた路面を走行している蓋然性が高いか否か等によって、減衰力をを変化させるような態様として実施することが可能である。
(13)前記接近離間方向力変更部が、ばね下高周波振動の発生状況に応じて前記接近離間方向力を変更するように構成された(7)項ないし(12)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項の態様は、ばね下高周波振動の発生の有無、発生の蓋然性の高低等に応じて、接近離間方向力を変更する態様である。先に説明した路面状況に応じて変更する態様と関係の深い態様であり、説明が重複することに鑑みて、ここでの説明は省略する。
(14)前記接近離間方向力変更部が、ばね上部材とばね下部材との相対振動の発生状況に応じて前記接近離間方向力を変更するように構成された(7)項ないし(13)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、ばね下高周波振動であるか否かに拘わらず、サスペンションシステムに入力される振動に広く対応して接近離間方向力を変更する態様である。例えば、接近離間方向力付与装置Dをダンパとして機能させる場合において、通常、それの減衰力を小さくしておき、アブソーバの支持力を高める必要があるような振動が入力された場合において、上記減衰力が大きくなるように変更する態様等が含まれる。
(15)前記接近離間方向力変更部が、車体の回動状況に応じて前記接近離間方向力を変更するように構成された(7)項ないし(14)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項にいう「車体の回動状況」とは、ロール,ピッチ,ヨー挙動に関する状況、具体的には、それら挙動の程度を指標する量(例えばロール量等の回動量)、それらの挙動の速度(例えばロール速度等の回動速度)、それらの挙動の原因となる力等(例えば、横加速度等)に関する状態を意味し、広くは、ステアリング操作部材の操作量,操作速度等から判断される旋回状況をも意味する。例えば、先に説明したように、車体のロール等、車体の回動動作を抑制するためには、アブソーバAを十分に機能させるべくアブソーバ支持力を高めることが望ましい。本項の態様は、そのような観点に基づいて、接近離間方向力を変更するような態様が含まれる。
(16)前記制御装置が、前記一方部材と前記アブソーバとの接近離間方向における間隔を中立間隔に近づける向きの力である中立方向力を成分とする前記接近離間方向力を制御するものとされるとともに、前記接近離間方向変更部が、その中立方向力を変更するものとされ、
前記接近離間方向力変更部が、車体の回動量が大きくなる状態において前記中立方向力を大きく、車体の回動量が小さい状態において前記中立方向力を小さくするものである(15)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、車体の回動状況に基づく接近離間方向力の変更を実施する態様の一態様である。本項の態様では、先に説明したように、ロール量,ピッチ量等の車体の回動量が大きい場合には、アブソーバ支持力を高くすることが望ましことに鑑みて、中立方向力を大きくしている。また、車体のロール挙動,ピッチ挙動等は、車体の回動速度は比較的小さい場合もあるため、対部材アブソーバ間隔の変動の速度に依拠しない中立方向力は、それらロール挙動,ピッチ挙動を抑制する場合において、アブソーバ支持力の向上のために必要とされる接近離間方向力として好適なものとなる。
(17)前記接近離間方向力変更部が、車両が搭載するカーナビゲーションシステムが受信した情報に依拠する状況に応じて前記接近離間方向力を変更するように構成された(7)項ないし(16)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様には、例えば、カーナビゲーションシステム(以下、「カーナビ」と略す場合がある)が受信する情報を基にして、現在どのような路面状態の路を走行しているかを判断し、その判断に基づいて、例えば、走行している路が荒れた路面である場合とそうでない場合とで、接近離間方向力を変更するような態様が含まれる。この態様では、実際にばね下高周波振動が入力する前から、そのような振動に対する準備が行えるため、路面状況の変化への対応が遅れるといった事態が防止できることとなる。なお、そのような態様の場合、カーナビが走行路面状態に関する情報を受信し、その情報に基づいて直接的に接近離間方向力を変更するように構成されてもよく、また、カーナビが現在の走行地点に関する情報を受信し、車両に別途設けられた路面情報管理システムがその走行地点に関する情報から、現在の走行地点における路面状態を判断し、判断された路面状態に基づいて接近離間方向力を変更するように構成されてもよい。後者の構成は、カーナビ情報に基づいて、間接的に、接近離間方向力を変更する構成と考えることができる。なお、本項の態様において、カーナビが受信する情報は、路面状態に関する情報、現在走行地点に関する情報に限定されるものではなく、車両走行状態等、先に列挙した種々の状態に関する情報の中から目的に応じたいくつかの情報を受信し、その受信した情報に基づいて、接近離間方向力を変更するように構成することができる。
(18)前記制御装置が、前記一方部材と前記アブソーバとの設定接近限度を超える接近動作と設定離間限度を超える離間動作との少なくも一方を、前記接近離間方向力によって制限する限度超過動作制限部を有する(1)項ないし(17)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、接近離間方向力を利用して、先に説明した対部材アブソーバ間隔の変動を制限する態様である。例えば、対部材アブソーバ間隔の変動範囲が、ストッパ機構によって規定されているような場合において有効な態様である。具体的に言えば、ストッパによって対部材アブソーバ間隔が規制される場合、そのストッパによる係止の際に、衝撃や、その衝撃に起因する音が発生するといった現象が生じる可能性があり、本項の態様によれば、そのような現象を防止あるいは抑制することが可能となる。本項にいう「接近操作」は、いわゆるバウンド方向の動作であり、「離間動作」は、リバウンド方向の動作である。制限の基準となる「設定接近限度」および「設定離間限度」は、例えば、ストッパによる規制範囲に対してある程度の余裕を持たせるべく、範囲端の手前に設定することが望ましい。また、制限時に発生させる接近離間方向力は、限度を超過する動作に対して相当に大きな抵抗となるような力とすることが望ましい。
(19)前記接近離間方向力付与装置が有する電磁式作動機が発電機として機能するものとされた(1)項ないし(18)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
接近離間方向力付与装置が有する電磁式作動機が発電機として機能する場合には、電源からの電力供給なしに、作動させられることによって発生する起電力に基づく接近離間方向力(以下、「起電力に依拠する接近離間方向力」という場合がある)を発生させることができる。そのため、本項の態様によれば、電力消費が抑えられたサスペンションシステムが実現する。なお、本項における電磁式作動機は、発電機としてのみ機能するものであってもよく、電磁式モータを発電機として機能させることで、電源からの供給電力に依拠する接近離間方向力と、起電力に依拠する接近離間方向力とを選択的に発生させるような構成とすることも可能である。ちなみに、起電力に依拠する接近離間方向力は、減衰力として作用することとなる。
本項以下の電磁式作動機に関する技術的特徴は、接近離間方向力付与装置Dが有する電磁式作動機に関するものであるが、それらの技術的特徴は、アブソーバAが電磁式のアブソーバである場合において、そのアブソーバが有する電磁式作動機に関する技術的特徴ともなり得、それらの技術的特徴による限定を加えた各種の態様も、請求可能発明の態様となり得る。
(20)当該サスペンションシステムが、前記接近離間方向力付与装置が有する電磁式作動機が発電する電力を抵抗消費させるための抵抗器を備えた(19)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、起電力に依拠する接近離間方向力を発生させるための1つの手段として、上記抵抗器を利用する態様である。抵抗器の抵抗値を適切なものとすることで、接近離間方向力の大きさを適切なものとすることが可能である。
(21)前記制御装置が、前記抵抗器の抵抗値を変化させることで前記接近離間方向力を制御可能に構成された(20)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、抵抗器を利用した場合における接近離間方向力の制御の手段に関する態様である。本項によれば、簡便に、接近離間方向力の変更,調整が可能となる。
(22)当該サスペンションシステムが、前記接近離間方向力付与装置が有する電磁式作動機が発電する電力を電源に回生可能に構成された(19)項ないし(21)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、起電力に依拠する接近離間方向力を発生させる場合における一態様であり、本項の態様によれば、良好な省電力特性を有するサスペンションシステムが実現する。具体的には、例えば、電磁式作動機をインバータ等の駆動回路を介して電源と連結し、スイッチング素子の切換えにおけるデューティ比の調整等、その駆動回路の作動によって、発生する接近離間方向力の大きさに応じた量の電力を電源に回生させることが可能である。
(23)前記制御装置が、前記発電された電力を回生する回生制御と、前記発電された電力を回生しない非回生制御とを切換える回生・非回生制御切換部を有する(22)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項の態様は、電源への電力の回生を実現する状態と、回生を実現しない状態とを選択的に実現する態様である。例えば、電源の満充電状態である場合等には、回生することができないあるいは回生することが望ましくない状況が発生し得る。本項の態様によれば、そのような状況の有無に拘わらず、起電力に依拠する適正な接近離間方向力を発生させることが可能である。
(24)当該サスペンションシステムが、前記接近離間方向力付与装置が有する電磁式作動機に発生する起電力を抵抗消費させるための抵抗器を備え、前記非回生制御において前記発電された電力をその抵抗器に抵抗消費させるように構成された(23)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、回生制御と非回生制御とを選択的に実現する態様において、非回生制御を実行する場合に、上記抵抗器を利用する態様である。本項の態様では、例えば、先に説明したように、抵抗値の変更によって、非回生制御においても適切な接近離間方向力を発生させることが可能となる。
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
<車両用サスペンションシステムの構成>
図2に、本実施例の車両用サスペンションシステム10が有する車両用サスペンション装置12の正面断面図を示す。この車両用サスペンション装置12は、独立懸架式のサスペンション装置であり、前後左右の各車輪毎に設けられている。本サスペンション装置は、車輪を保持してばね下部材として機能するサスペンションロアアーム(以下、「ロアアーム」と略する場合がある)14と、車体の一部(タイヤハウジングの上部)に設けられてばね上部材として機能するマウント部16とを繋ぐ電磁式のアブソーバ18を備えている。また、本サスペンション装置では、アブソーバ18とロアアーム14との間に、ダンパ装置20が配設されており、ロアアーム14とマウント部16との間に、サスペンションスプリングとしてのコイルスプリング22が配設されている。
アブソーバ18は、アウターチューブ30と、そのアウターチューブ30に嵌入してアウターチューブ30の下端部から下方に突出するインナチューブ32とを含んで構成されている。インナチューブ32の下端部には、円板状のエンドプレート34が付設されており、このエンドプレート34が、ダンパ装置20を介してロアアーム14に連結されている。一方、アウターチューブ30は、その上端部がマウント部16に連結されている。
また、アブソーバ18は、雄ねじが形成されたねじロッド40と、ベアリングボールを保持してねじロッド40と螺合するナット42と、電磁作動機としての電磁式モータ44(DCブラシレスモータであり、以下、単に「モータ44」という場合がある)とを有している。モータ44は、モータケース46に固定して収容され、そのモータケース46の鍔部がマウント部16の上面側に固定されることでマウント部16に対して固定されている。アウターチューブ30の上端部は、モータケース46の鍔部に固定されており、アウターチューブ30はモータケース46を介してマウント部16に連結されている。モータ44の回転軸であるモータ軸48は、ねじロッド40の上端部と一体的に接続されている。つまり、ねじロッド40は、モータ軸48を延長する状態でアウタチューブ30内に配設され、モータ44によって回転させられるように構成されている。一方、ナット42は、インナチューブ32の上端部に固定されており、その状態で、ねじロッド40と螺合されている。さらに、アウタチューブ30には、その内壁面にアブソーバ18の軸線の延びる方向(以下、「軸線方向」という場合がある)に1対のガイド溝50が設けられ、それらのガイド溝50の各々には、ナット42の外周上部に付設された1対のキー52の各々が嵌まるようにされている。このような構造から、アウタチューブ30とインナチューブ32とは、相対回転不能に、かつ、上記軸線方向に相対移動可能とされている。
上記構造により、車体と車輪との相対振動、つまり、マウント部16とロアアーム14との上下方向の相対運動に伴って、アウターチューブ30とインナチューブ32とが軸線方向に相対運動し、それに伴って、ねじロッド40はナット42に対し回転する。モータ44は、ねじロッド40に回転トルクを付与可能とされている。つまり、モータ44は、ねじロッド40とナット42とに相対回転トルクを付与することが可能であり、このトルクの向きおよび大きさを適切化することによって、マウント部16とロアアーム14との相対運動に対して、その相対運動を阻止する方向の適切な抵抗力を発生させることが可能とされている。この抵抗力が、その相対運動に対する減衰力となるのである。また、本アブソーバ18では、モータ44の駆動力によって、マウント部16とロアアーム14との相対運動に対して推進力を発生させることも可能とされている。
次に、図2のAA’線における断面図である図3をも参照しつつ、ダンパ装置20について説明すれば、ダンパ装置20は、ロアアーム14に連結されたカバーチューブ70と、軸線に対し直角に立体交差して設けられたシリンダユニット72と、ラックロッド76とを含んで構成されている。カバーチューブ70は、段付形状の筒部と、筒部の下端部を塞ぐ蓋部とを備える概して有底円筒状のものであり、ラックロッド76は、インナチューブ32に付設されたエンドプレート34に固定された状態で、カバーチューブ70内に軸線方向に延びるように配設され、外周部に形成されたラックにおいて、シリンダユニット72が備えるピニオン軸74と噛合している。
シリンダユニット72は、カバーチューブ70に固定された概して円筒状のハウジング78と、ハウジング78に回転可能に保持されたピニオン軸74と、ピニオン軸74を弾性的に支持するトーションバー80と、電磁式作動機としての電磁式モータ82(以下、単に「モータ82」と略す場合がある)とを有している。詳しく言えば、ハウジング78は、自身の両端の各々をを塞ぐ第1蓋部84,第2蓋部86を有しており、ピニオン軸74は、両端部の各々において、それら第1蓋部84,第2蓋部86の各々に、ベアリング88,90を介して回転可能に保持され、ピニオンが形成された部分において、ラックロッド76と噛合している。ピニオン軸74は、上記モータ軸部が中空構造とされており、その内部にトーションバー80を収容している。トーションバー80の一端部は、モータ軸部の底壁に固定され、他端部が第2蓋部86に固定されている。このような構造によって、ピニオン軸74はハウジング78に弾性的に支持されている。
モータ82は、ピニオン軸74のピニオンが形成された部分と隣接する部分がモータ軸、つまり、回転動作軸となるように構成されたものであり、そのモータ軸となる部分(以下、「モータ軸部」という場合がある)の外周に固定されて配設された複数の永久磁石92と、それら永久磁石92と向かい合うようにしてハウジング78の周壁の内面に固定的に設けられた複数のステータコイル94とを有している。このモータ82は、永久磁石92がロータとして、ステータコイル94がステータとして機能するDCブラシレスモータとして構成されている。
カバーチューブ70の下端部には、取付部材96が付設されており、この取付部材96がロアアーム14に取り付けられることによって、ダンパ装置20がロアアーム14に取り付けられる。カバーチューブ70の上端部には環状のガイド部材100が固定され、ガイド部材100はアウタチューブ30の外周部と接するように設けられており、ガイド部材100とアウタチューブ30とは軸線方向に相対移動可能とされている。なお、カバーチューブ70には、その外周部に環状の下部リテーナ102が設けられ、この下部リテーナ102と、マウント部16の下面側に付設された環状の上部リテーナ104とによって、サスペンションスプリングとしてのコイルスプリング22が挟まれる状態で支持されている。つまり、コイルスプリング22とアブソーバ18とは、ロアアーム14とマウント部16との間に並列的に配設されているのである。
カバーチューブ70には、係止ピン106が挿入されており、さらに、インナチューブ32に付設されたエンドプレート34の上面に緩衝ゴム108が貼着されている。また、カバーチューブ70の内部底壁面にも緩衝ゴム110が貼着されている。つまり、アブソーバ18とロアアーム14とがある範囲を超えて接近する方向に動作(以下、「接近動作」という場合がある)しようとする場合には、ラックロッド76の下端が緩衝ゴム110を介してカバーチューブ70の内部底壁面に当接し、逆に、アブソーバ18とロアアーム14とがある範囲を超えて離間する方向に動作(以下、「離間動作」という場合がある)しようとする場合には、エンドプレート34が緩衝ゴム108を介して係止ピン106に当接するようになっている。つまり、本サスペンション装置では、このようなストッパ機構によって、アブソーバ18とロアアーム14との接近離間動作の範囲が規制されているのである。
さらに、カバーチューブ70には、ラックロッド76とピニオン軸74とを確実に噛合するためのラックロッド押付機構112が設けられている。具体的に言えば、カバーチューブ70にはガイド筒114が設けられるとともにガイド筒114内には付勢部材116が配設されており、その付勢部材116が、筒蓋118に支持されたコイルスプリング120の弾性力によってラックロッド76をピニオン軸74に向かって付勢する構造とされている。
上述の構造により、アブソーバ18とロアアーム14との接近離間動作に伴うラックロッド76の軸線方向への移動が、ラックアンドピニオン機構によって、ピニオン軸74の回転に変換され、そして、ピニオン軸74はトーションバー80によって弾性的に支持されている。詳しく言えば、ピニオン軸74の回転は、トーションバー80の発生する弾性力を受けた状態とされている。したがって、アブソーバ18とロアアーム14との接近離間動作に対して弾性力が付与される構造とされており、ダンパ装置20は、アブソーバ18とロアアーム14とを弾性的に連結する弾性連結機構を含んで構成されるものとなっているのである。
また、アブソーバ18とロアアーム14との接近離間動作に伴ってピニオン軸74が回転する場合、モータ82によって、モータ軸であるピニオン軸74に回転トルクを付与可能とされている。つまり、このトルクの向きおよび大きさを適切化することによって、アブソーバ18とロアアーム14との相対運動に対して、その相対運動を阻止する方向の適切な抵抗力を発生させることが可能とされている。この抵抗力が、その相対運動に対する減衰力となる。また、モータ82の駆動力によって、アブソーバ18とロアアーム14との相対運動に対して推進力を発生させることも可能とされている。つまり、ダンパ装置20は、モータ82の発生する力に依拠して、アブソーバ18とロアアーム14とにそれらの接近離間方向の力(以下、「接近離間方向力」という場合がある)を付与する接近離間方向力付与装置としての機能を有するものとなっている。つまり、ダンパ装置20は、一方部材としてのロアアーム14とアブソーバ18との間に、弾性連結機構と接近離間方向力付与装置とが並列的に配設された構造とされているのである。
図4に、本実施例の車両用サスペンションシステム10の全体構成を模式的に示す。本サスペンションシステムは、各車輪に設けられたサスペンション装置12の各々の制御を実行する制御装置であるサスペンション電子制御装置(以下、「サスペンションECU」いう場合がある)130を備えている。このサスペンションECU130は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されており、そのROMには、後に後述するサスペンション制御プログラム,サスペンション装置12の制御に関する各種のデータ等が記憶されている。アブソーバ18のモータ44は、駆動回路としてのインバータ132を介して電源であるバッテリ134(図では、それぞれ、「INV」,「BAT」と表示されている)に接続されている。一方、ダンパ装置20のモータ82は、切換スイッチ136(図では、「CSw」と表示されている)を介して、バッテリ134に繋がるインバータ138(図では、「INV」と表示されている)と、抵抗値が可変とされた抵抗器140(図では、「R」と表示されている)とに、選択的に接続されるようにされている。そして、インバータ132,138,切換スイッチ136,抵抗器140が、サスペンションECU130に接続され、サスペンションECU130は、インバータ132を介してモータ44の発生する力を制御し、インバータ138もしくは抵抗器140を介してモータ82の発生する力を制御するものとされている。
サスペンションECU130によるサスペンション装置12の制御は、後に説明するように、状況に応じて、例えば路面状況,車体のロール状態等に基づいて行われる。そのため、本サスペンションシステムでは、それら路面状況,車体のロール状態等を検出するための各種センサが、車両の各所に設けられるとともに、それら各種センサは、サスペンションECU130に接続されている。具体的には、ロアアーム14の上下加速度を検出するためのばね下加速度センサ142,ステアリングホイールの操舵角を検出するための操舵角センサ144,マウント部16とロアアーム14との相対距離を検出するためのストロークセンサ146,ダンパ装置20のモータ82の回転角を検出する回転角センサ148,アブソーバ18のモータ44の回転角を検出する回転角センサ150が接続されている。そして、バッテリ134には電圧を検出するための電圧センサ152が設けられており、その電圧センサ152も、サスペンションECU130に接続されている。さらに、サスペンションECU130には、車両操作者が所望するサスペンション特性に応じて、後に説明するダンパ装置20の制御モードの決定態様を選択するための決定態様選択スイッチ154が接続されている。ちなみに、それらのセンサ等は、図では、それぞれ、「Gs」,「θ」,「St」,「ω1」,「ω2」,「V」,「SSw」と表示されている。
また、サスペンション装置12は、後に説明するように、車両が搭載するカーナビゲーションシステムが受信した情報、詳しくは、現在走行地点情報に依拠して判断される路面状況に応じた制御をも実行可能とされている。そのため、サスペンションECU130は、車内LANを介して、路面情報管理システム160に接続されるとともに、この路面情報管理システム160には、車内LANを介して、カーナビゲーションシステム(カーナビシステム)162(図では、「NAVI」と表示されている)が接続されている。路面情報管理システム160は、カーナビシステム162が受信した現在走行地点情報に基づき、その地点における道路の路面状態を、自身が学習によって作成した路面地図データを参照して判断するようにされている。
<サスペンション装置の制御>
本サスペンション装置の制御は、上述のように、サスペンションECU130によって実行される。本サスペンション装置では、アブソーバ18の制御と、ダンパ装置20の制御とが、詳しく言えば、アブソーバ18が発揮する力(以下、アブソーバ力」という場合がある)を制御するためのモータ44の作動制御と、ダンパ装置20の接近離間方向力付与装置として機能する部分が発揮する力である前述の接近離間方向力(以下、「ダンパ力」という場合がある)を制御するためのモータ82の作動制御とが行われる。本サスペンションシステム10は、前後左右の各輪にサスペンション装置12を備えており、それら4つのサスペンション装置12が独立して制御されるが、説明の単純化に配慮して、特に断りのない限り、4つのサスペンション装置12を一元化して扱うこととする。
アブソーバ力の制御は、マウント部16とロアアーム14との相対運動(以下、「両部材相対運動」という場合がある)に対して適切な力を発生させることを目的として行われる。具体的に言えば、ストロークセンサ146によってマウント部16とロアアーム14との相対距離XAが検出され、その変化速度である相対速度VAがサスペンションECU130により演算され、検出された相対距離XAと演算された相対速度VAとに基づき、次式
FA=CA・VA+KA・XA
に従って、アブソーバ力FAが演算される。上記式における第1項は、相対速度VAに依拠するアブソーバ力成分、つまり、いわゆる減衰力成分であり、CAはそのゲインであって、いわゆる減衰係数に相当する。また、第2項は、相対距離XAに依拠するアブソーバ力成分であり、アブソーバ18をばね的に機能させた場合において発揮する力の成分である。KAはその成分に関するゲインであり、いわゆるばね定数に相当する。
アブソーバ18の主たる機能は、マウント部16とロアアーム14との相対振動、詳しく言えば、制御が追従可能な比較的低周波的な振動、つまり、比較的振幅が大きな振動に対する減衰であり、車両旋回時を除いて、専ら、その振動減衰が効果的になされるようなアブソーバ力FAが発揮されるように制御される。そのため、通常、ばね的な力の成分についてのゲインKAは、0とされ、また、減衰力成分についてのゲインCAは、その効果的な振動が担保される値CA0に設定されている。一方、車両が旋回している場合には、車体のロールを抑制するための力の一部としてアブソーバ力FAが利用される。そのため、車両旋回時においては、上記ばね的な力の成分を発揮させるべく、その成分についてのゲインKAが、KAHに決定される。ちなみに、ロール抑制力は、旋回内輪と旋回外輪とではその方向が逆になるため、旋回内輪側のアブソーバ18に対するゲインKAと、旋回外輪側のアブソーバ18に対するゲインKAとは、符号が互いに逆となるように決定される。このような力の成分が付加されることにより、車体のロールが効果的に抑制されることになる。まとめて言えば、図5(a)に示すように、アブソーバ18の制御モードは、「通常時モード」と「旋回時モード」との2つが設定されており、車両が旋回しているか否か、厳密に言えばステアリングホイールが操作されているか否かによっていずれかの制御モードが決定され、その決定された制御モードにおいてそれぞれ設定されているゲインCA,KAに基づいてアブソーバ力FAが決定され、その決定されたアブソーバ力FAが発揮されるように、アブソーバ18が制御されることになる。
アブソーバ力FAを制御するためのモータ44の作動制御は、インバータ132によって行われる。詳しく言えば、アブソーバ力FAをモータ44に発揮させるための制御信号がインバータ132に出力され、インバータ132によって、モータ44の作動が制御される。具体的には、そのインバータ132の有するスイッチング素子の切換えが、モータ44の回転角に基づき、アブソーバ力FAの発生方向に応じたパターンとなるように、かつ、アブソーバ力FAの大きさに応じたデューティ比となるように行われる。その際に依拠するモータ44の回転角ω2は、回転角センサ150によって検出された値が採用される。
ダンパ力の制御は、アブソーバ18とロアアーム14との相対運動に対して適切な力を発生させることを目的として行われる。具体的には、回転角センサ148によってモータ82の回転角ω1が検出され、この検出された回転角ω1を基に、アブソーバ18とロアアーム14との接近離間方向における間隔(以下、「対部材アブソーバ間隔」という場合がある)の、車両が平坦かつ平滑な路面に静止しているような状態における対部材アブソーバ間隔(以下、「中立間隔」という場合がある)からの偏差(以下、「間隔偏差」という場合がある)LDが演算され、その演算された間隔偏差LDを基に、相対速度VDが演算される。そして、それら間隔偏差LDと相対速度VDとに基づき、次式
FD=CD・VD+KD・LD
に従って、ダンパ力FDが演算される。アブソーバ力FAと同様、上記式における第1項は、相対速度VDに依拠するダンパ力成分、つまり、いわゆる減衰力成分であり、CDはそのゲインであって、いわゆる減衰係数に相当する。また、第2項は、間隔偏差LDに依拠するダンパ力成分であり、ダンパ装置20(厳密には、それの相対離間方向力付与装置として機能する部分)をばね的に機能させた場合において発揮する力の成分、言い換えれば、先に説明した中立方向力としてのダンパ力成分である。KDはその成分に関するゲインであり、いわゆるばね定数に相当する。
ダンパ装置20の主たる機能は、荒地を走行する場合等において発生するゴツゴツ振動等のばね下高周波振動の吸収である。そのため、その機能を十分に発揮させたい場合において、中立方向力としてのダンパ成分についてのゲインKDは0とされ、減衰力成分についてのゲインCDは、比較的小さな減衰力が発生する値であるCDSとされる。一方で、ダンパ装置20は、アブソーバ18を支持する機能をも果たしており、例えば、アブソーバ18による比較的低周波的な振動吸収、特に、振幅の大きな振動吸収を阻害する可能性を有し、また、車体姿勢の安定性を阻害する可能性をも有する。そのため、低周波的な振動の吸収機能を担保させたい場合において、アブソーバ18の支持力を高めるべく、減衰力成分についてのゲインCDは、比較的大きな減衰力が得られる値であるCDHとされる。さらに、車両の旋回時には、アブソーバ18によるロール抑制効果を担保する必要があることから、ゲインCDがCDHとされるとともに、相対速度VDに依拠しないダンパ力成分を大きくすべく、中立方向力としてのダンパ力成分についてのゲインKDが、大きな中立方向力が得られる値であるKDH(t)に決定される。つまり、ダンパ力FDは、車体の回動量であるロール量が大きくなる場合には、ロール量が小さい場合よりが大きくなるように決定され、言い換えれば、車体の回動状況に応じて変更されるのである。また。この値KDH(t)は、旋回が開始されてからの時間tをパラメータとする関数であり、時間tの経過に伴って漸増するようにされ、対部材アブソーバ間隔が中立間隔に徐々に近づくように徐々に大きくされている。そのことによって、旋回状態が継続する限りアブソーバ支持力がより大きくなり、より効果的に車体姿勢の安定化が図られている。
アブソーバ力FAと同様に、まとめて言えば、図5(b)に示すように、ダンパ装置20の制御モードは、アブソーバ18の制御モードに対応して「通常時モード」と「旋回時モード」との2つが設定されており、さらに、通常時モードには、ばね下高周波振動を吸収するのに適した「高周波振動吸収モード」と、アブソーバ18による比較的低周波的な振動吸収を担保する「低周波振動吸収担保モード」との2つのサブモードが設定されている。アブソーバ力FAの制御と同様、通常時モードと旋回時モードとは、車両が旋回しているか否かによって決定される。また、通常時モードにおけるサブモードの決定に関しては、運転者の任意によって切換え可能な決定態様が2つ準備されており、先に説明した決定態様選択スイッチ154の操作によっていずれの決定態様が選択されているかで異なる。詳しく言えば、2つの決定態様のうちの1つは、「第1決定態様」と呼ばれる態様であり、基本的には低周波振動吸収担保モードに決定され、ばね下高周波振動が発生する路面状態となった場合あるいはその路面状態となったと擬制できる場合に高周波振動吸収モードに決定される態様である。この決定態様が選択されている場合には、ばね下高周波振動を優先的に吸収させることによる車両の乗り心地が向上させられたサスペンション特性が得られる。もう1つは、「第2決定態様」と呼ばれる態様であり、基本的には高周波振動吸収モードに決定され、比較的低周波的な振動が入力された場合に低周波振動吸収担保モードに決定される態様である。この決定態様が選択されている場合には、低周波振動の振動吸収を優先させることによって車両の乗り心地,車体の安定性が向上させられたサスペンション特性が得られる。このように、通常時モードでは、選択されている決定態様に従って、2つのサブモードのいずれかに決定されることになる。いずれの制御モード,サブモードが決定された場合であっても、その決定された制御モード,サブモードにおいてそれぞれ設定されているゲインCD,KDに基づいてダンパ力FDが決定され、その決定されたダンパ力FDが発揮されるように、ダンパ装置20が制御されることになる。
さらに、ダンパ装置20には、前述したストッパ機構が機能する場合の衝撃等を防止あるいは緩和するために、対部材アブソーバ間隔の変動を制限するような機能を有している。アブソーバ18とロアアーム14の接近動作において接近限度が、また、離間動作において離間限度が、それぞれ設定されており、間隔偏差LDが設定閾値を超えて増加あるいは減少する場合に、ダンパ力FDが、上記演算式によらずに、それら接近動作,離間動作を阻止する方向にかつモータ82が発生し得る略最高の大きさの力であるFDMAXに決定される。この決定は、上記制御モードがいかなる制御モードである場合においてもなされ、決定されてる制御モードの如何に拘わらず、ストッパ機構による衝撃等の防止,緩和が図られる。
ダンパ力FDを制御するためのモータ82の作動制御は、後に説明する抵抗器140による場合を除いて、インバータ138によって行われる。インバータ138による作動制御は、インバータ132によるモータ44の作動制御と同様、ダンパ力FDをモータ82に発揮させるための制御信号がインバータ138に出力され、インバータ138は、その制御信号に基づいてモータ82の作動を制御する。インバータ132による場合と同様、具体的には、そのインバータ138の有するスイッチング素子の切換えが、モータ82の回転角に基づき、ダンパ力FDの発生方向に応じたパターンとなるように、かつ、ダンパ力FDの大きさに応じたデューティ比となるように行われる。その際に依拠するるモータ82の回転角ω1は、回転角センサ148によって検出された値が採用される。
<モータによって発電された電力の回生>
図6に、ダンパ装置20が有するモータ82の回転速度−トルク特性を概念的に示す。この図は、モータ82の回転トルクTqを回転方向と反対方向に発揮させる場合の特性、つまり、制動トルクを発生させる場合のそのトルクの回転速度Vωに対する特性を表している。この図において示されている短絡特性線であり、モータ82の各相への通電端子を相互に短絡させた場合の特性、すなわち、いわゆる短絡制動させた場合に得られる制動トルクの大きさを示す特性線である。この短絡特性線の下方に存在する領域(図6における斜線領域)は、いわゆる回生制動領域であり、モータ82が、発電機として機能し、起電力に依拠して発電した電力を電源に回生可能な領域である。一方、短絡特性線の上方に存在する領域は、いわゆる逆転制動領域であり、モータ82が電源から電力の供給を受けて回転トルクTqを発生する領域である。モータ82は、特に大きなダンパ力FDの発生を必要する場合を除いて、概ねこの回生制動領域で作動するようなモータとされており、本サスペンションシステム10では、多くの場合に、モータ82によって発電された電力がバッテリ134に回生される。
回生のためのモータ82の作動制御(回生制御)は、インバータ138によって行われ、必要なダンパ力FDに応じたモータ82の作動制御を実行することにより、ダンパ力FDが上記回生制動領域となる場合には、バッテリ134に対して発電された電力が回生され、上記逆転制動領域となる場合には、バッテリ134から電力が供給された状態で、そのダンパ力FDに応じた大きさの回転トルクTqを発揮するような制御が実行される。ところが、バッテリ134が満充電状態であるような場合には、たとえ回生制動領域であってもそれ以上の充電は望ましくないため、切換スイッチ136によってモータ82は抵抗器140に接続され、モータ82によって発電された電力が抵抗器140によって消費されるような制御(非回生制御)が実行される。
抵抗器140は、図7に模式的に示すように、モータ82の各相の通電端子間に介在するように配置された3つの可変抵抗190と、それら可変抵抗190の抵抗値を変更する駆動回路192とを含んで構成されている。サスペンションECU130からのダンパ力FDに関する制御信号は、駆動回路192に入力され、駆動回路192は、可変抵抗190の抵抗値を、その制御信号に基づいて変更する。それにより、モータ82は、インバータ138によらずに、ダンパ力FDに応じた回転トルクTqを発生するように制御される。
なお、アブソーバ18の有するモータ44は、要求されるアブソーバ力FAに応じた回転トルクが概して逆転制動領域となるようなモータとされており、殆ど、電力が回生されないようにされているため、そのモータに44に対応する抵抗器は設けられていない。
<サスペンション制御プログラム>
本サスペンション装置12の制御は、図8にフローチャートを示すサスペンション制御プログラムが、イグニッションスイッチがON状態とされている間、短い時間間隔(例えば、数m〜数十msec)をおいてサスペンションECU130により繰り返し実行されることによって行われる。以下に、本プログラムに従うサスペンション装置12の制御に関するフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、詳しく説明する。
サスペンション制御プログラムに従う制御では、まず、ステップ1(以下、単に「S1」と略す。他のステップについても同様とする)において、ダンパ装置20の備えるモータ82に設けられた回転角センサ148の検出値に基づいて、モータ82の回転角ω1が取得され、S2において、ストロークセンサ146の検出値に基づいて、マウント部16とロアアーム14との相対距離XAが取得され、さらに、S3において、操舵角センサ144の検出値に基づいてステアリングホイールの操舵角θが取得される。次に、S4において、回転角ω1に基づいて、アブソーバ18とロアアーム14との間隔偏差LDと相対速度VDとが演算され、S5において、相対距離XAに基づいて、相対速度VAが演算される。
続いて、S6において、図9にフローチャートを示す路面状況監視サブルーチンが実行される。路面状況監視サブルーチンでは、まず、S31において、路面情報管理システム160から現在走行地点の路面状態に関する情報を取得する。先に説明したように、路面情報管理システム160は、自身が学習によって作成した路面地図データを有しており、カーナビシステム162が受信した現在走行地点の情報に基づき、現在走行地点が荒れた路面であるか否かを判断するようにされている。現在走行地点における路面が、ばね下高周波振動の発生の蓋然性の高い路面である「高周波振動路面」と擬制する。S31では、その旨の情報を、サスペンションECU130が路面情報管理システム160から取得するのである。続くS32において、路面情報管理システム160からの情報に基づき、現在走行地点の路面が高周波振動路面であるか否かが判断される。高周波振動路面であると判断されたときには、S33において、後の制御モードの決定において用いられるフラグである高周波振動フラグFが1とされ、高周波振動路面ではないと判断された場合には、S34において、高周波振動フラグFが0とされる。
続くS35において、ばね下加速度センサ142の検出値に基づいてばね下加速度Gsが取得され、S36において、取得されたばね下加速度Gsに基づき、実際にばね下高周波振動が発生しているか否かが判定がされる。この判定では、今回取得されたばね下加速度Gsと今回以前の本プログラムの実行において取得されているばね下加速度Gsとを基に、それらの変化の様子が設定された条件を満たしている場合に、ばね下高周波振動が発生していると判定される。この判定のアルゴリズムは、既に公知のものを採用可能であり、ここでの詳しい説明は省略する。この判定結果は、S37において、路面情報管理システム160にフィードバックする。路面情報管理システム160は、このフィードバックされた判定結果を基に、先に説明した路面地図データを更新する。次いで、S38において、S36の判定結果に基づき、ばね下高周波振動が発生中か否かが判断される。ばね下高周波振動が発生中と判断されたときには、S39において、高周波振動フラグFが1とされ、高周波振動が発生中でないと判断されたときには、既に決定されているフラグ値が維持される。つまり、本サブルーチンでは、路面情報管理システム160の判断と、実際の高周波振動の検出に基づく判断とのいずれかによって高周波振動路面であると認定された場合に、高周波振動フラグFが1とされ、いずれによっても高周波振動路面でないと判断された場合に、高周波振動フラグFが0とされるのである。
路面状況監視サブルーチンの実行の後、メインルーチンのS7において、操舵角θが設定閾角θ0以上か否かによって、車両が旋回状態にあるか否かが判断される。操舵角θが設定閾角θ0以上と判断されたときは、旋回状態にあるとして、S8において、旋回フラグGが1とされ、設定閾角θ0未満であると判断されたときは、旋回状態ではないとして、S9において、旋回フラグGが0とされる。
旋回状態の判断の後、S10において、図10にフローチャートを示すアブソーバ制御モード決定サブルーチンが実行される。このサブルーチンでは、まず、S41
において、旋回フラグGの値が判断され、旋回フラグGの値が1の場合、つまり、旋回中である場合には、S42において、アブソーバ18の制御モードが旋回時モードに決定され、先に示したアブソーバ力FAを決定するための演算式におけるゲインKAが、KAHに、ゲインCAがCA0に、それぞれ決定される。旋回フラグGの値が0の場合、つまり、旋回中でない場合には、S43において、制御モードが通常時モードに決定され、ゲインKAが0に、ゲインCAがCA0に、それぞれ決定される。
S10のアブソーバ制御モード決定サブルーチンの実行後、S11において、図11にフローチャートを示すダンパ装置制御モード決定サブルーチンが実行される。このサブルーチンでは、まず、S51において、間隔偏差LDが設定接近限度閾値α未満若しくは設定離間限度閾値βより大きく、かつ、間隔偏差LDの絶対値が今回以前の本プログラムの実行において取得されている間隔偏差LDPの絶対値より大きいか否かが判断される。上記の条件が満たされた場合には、接近限度,離間限度を超えて接近動作,離間動作がなされており、S52において、ダンパ力FDが後の処理によって決定される際に、略最高のダンパ力である上述のFDMAXに決定されるように、ダンパ力FDの演算式として、〔FD=FDMAX〕が選択される。S51の条件が満たされていない場合には、S53において、ダンパ力FDの演算式として、前述の〔FD=CD・VD+KD・LD〕が選択される。
次いで、S54において、旋回フラグGの値が判断され、旋回フラグGの値が1の場合、つまり、旋回中である場合には、S55において、ダンパ装置20の制御モードが、旋回時モードに決定され、上記後者の演算式におけるゲインKDが、KDH(t)に、ゲインCDがCDHに、それぞれ決定される。なお、KDH(t)は、旋回が開始されてからの経過時間tをパラメータとするマップデータを参照して決定されるが、時間の経過とともにKDH(t)が大きくなるようななっている。そのため、時間の経過を把握するためのカウンタアップ処理が、次のS56において実行される。
旋回フラグGの値が0である場合、つまり、旋回中でない場合には、ダンパ装置20の制御モードが通常時モードとされる。その場合、まず、S57において、旋回開始からの経過時間tがリセットされる。次いで、サブモードを決定するため、S58において、決定態様選択スイッチ154によって、第1決定態様と第2決定態様とのいずれが選択されているが判断される。第1決定態様が選択されている場合には、S59において、S6の路面状況監視サブルーチンにおいて決められた高周波振動フラグFの値が判断される。高周波振動フラグが1の場合には、S60において、サブモードが高周波振動吸収モードに決定され、上記演算式におけるゲインCDがCDSに、ゲインKDが0に、それぞれ決定される。高周波振動フラグFが0の場合には、S61において、サブモードが低周波振動吸収担保モードに決定され、上記演算式におけるゲインCDがCDHに、ゲインKDが0に、それぞれ決定される。それに対して、第2決定態様が選択されている場合には、S62において、今回および今回以前のストロークセンサ146の検出値に基づき、所定の判断条件にしたがって、比較的低周波かつ比較的振幅の大きいばね下ばね上の相対振動が入力されているか否かが判断される。そのような低周波振動が入力されていると判断された場合には、S61において、サブモードが低周波振動吸収担保モードに決定され、上記演算式におけるゲインCDがCDHに、ゲインKDが0に、それぞれ決定される。そのような低周波振動が入力されていないと判断された場合には、S60において、サブモードが高周波振動吸収モードに決定され、上記演算式におけるゲインCDがCDSに、ゲインKDが0に、それぞれ決定される。
上記ダンパ装置制御モード決定サブルーチンが実行された後、S12において、アブソーバ力FAが、既にゲインKA,CAが決定されている演算式に従って演算されることで決定され、S13において、その決定されたアブソーバ力FAに対応する信号が、インバータ132に送られる。この処理により、アブソーバ18の有するモータ44は、決定されたアブソーバ力FAを発揮するように作動制御される。
次に、S14において、ダンパ力FDが、選択された演算式あるいは選択されかつ既にゲインKD,CDが決定されている演算式に従って演算されることによって決定される。続いて、S15において、決定されたダンパ力FDを発揮させるためのモータ82の回転トルクTqと、既に取得されているモータ82回転角ω1から算出されるモータ82の回転速度Vωとの関係が、図7に示すようなマップデータを参照しつつ、回生制動領域にあるか否かが判断される。回生制動領域にあると判断された場合には、S16において、電圧センサ152により検出されるバッテリ134の電圧Eが設定閾電圧E0未満か否かが判断される。バッテリ134の電圧Eが設定閾電圧E0未満であると判断された場合、および、S15において回生制動領域にないと判断された場合には、S17において、切換スイッチ136が、モータ82とインバータ138とが接続されるように作動させられる。また、S16においてバッテリ134の電圧Eが設定閾電圧E0以上であると判断された場合には、S18において、切換スイッチ136が、モータ82と抵抗器140とが接続されるように作動させられる。モータ82がインバータ138と抵抗器140とのいずれかに接続された後、S19において、上記決定されたダンパ力FDに対応する信号が、インインバータ138若しくは抵抗器140に送られる。この処理により、ダンパ装置20の有するモータ82は、決定されたダンパ力FDを発揮するように作動制御される。このS19の処理を完了して、本プログラムの1回の実行が終了する。
<制御装置の機能構成>
以上のようなプログラムが実行されるサスペンションECU130は、その実行処理に基づけば、図12に示すような機能構成を有するものと考えることができる。その機能構成によれば、サスペンションECU130は、アブソーバ18が発揮するアブソーバ力FAを決定するアブソーバ力決定部200を有しており、また、ダンパ装置20の発揮するダンパ力FDを決定するダンパ力決定部202を有するものとされている。
上記プログラムによれば、アブソーバ力FAは、アブソーバ制御モード決定サブルーチンの処理によって旋回状態に応じて制御モードが決定されることで、結果的に旋回状態に応じて変更されるものとなっている。つまり、アブソーバ力決定部200は、そのサブルーチンの処理が実行されることによって機能する機能部として、アブソーバ力変更部204を有しているのである。
一方、ダンパ力FDは、ダンパ装置制御モード決定サブルーチンの内のS51〜S53の処理によって決定に用いる演算式が選択されることで、接近限度,離間限度を超えた接近動作,離間動作がなされている場合に大きくされ、結果的に、その場合の動作を制限するような力となる。したがって、ダンパ力決定部202は、それらの処理が実行されることによって機能する機能部として、限度超過動作制限部206を有しているのである。また、ダンパ力FDは、S54〜S62の処理によって車両旋回状況,路面状況,振動の入力状況等に応じて制御モードが決定されることで、結果的にそれらの状況に応じて変更されるものとなっている。つまり、ダンパ力決定部202は、それらの処理が実行されてることによって機能する機能部として、ダンパ力変更部208(接近離間方向力変更部の一態様である)を有しているのである。
さらに、上記プログラムによれば、S15〜S19の処理において、ダンパ装置20が備えるモータ82が起電力に依拠した発電を行う場合に、発電された電力を回生する制御と、回生しない制御と切換えられる。したがって、サスペンションECU130は、それらの処理が実行されることによって機能する機能部として、回生・非回生制御切換部210を有するものとされている。
請求可能発明の車両用サスペンションシステムに採用されるサスペンション装置を概念的に図である。
請求可能発明の実施例である車両用サスペンションシステムに採用されるサスペンション装置の正面断面図である。
図2に示すサスペンション装置のAA’線における断面図である。
実施例の車両用サスペンションシステムの全体構成を示す模式図である。
図2に示すサスペンション装置を構成するアブソーバおよびダンパ装置の各制御モードと、アブソーバ力およびダンパ力を決定するために採用される演算式における各制御モードごとのゲインとを示す表である。
図2のサスペンション装置を構成するダンパ装置20が有する電磁式モータの特性を示すチャートである。
実施例の車両用サスペンションが備える抵抗器の構成を概念的に示す図である。
実施例の車両用サスペンションシステムの制御において実行されるサスペンション制御プログラムを示すフローチャートである。
サスペンション制御プログラムにおいて実行される路面状況監視サブルーチンを示すフローチャートである。
サスペンション制御プログラムにおいて実行されるアブソーバ制御モード決定サブルーチンを示すフローチャートである。
サスペンション制御プログラムにおいて実行されるダンパ装置制御モード決定サブルーチンを示すフローチャートである。
実施例の車両用サスペンションシステムの制御を司るサスペンション電子制御装置の機能に関するブロック図である。
符号の説明
10:車両用サスペンションシステム 14:サスペンションロアアーム(ばね下部材) 16:マウント部(ばね上部材) 18:アブソーバ 20:ダンパ装置(弾性連結機構)(接近離間方向力付与装置) 22:コイルスプリング(サスペンションスプリング) 44:電磁式モータ 82:電磁式モータ 130:サスペンション電子制御装置 132,138:インバータ 140:抵抗器 160:路面情報管理システム 162:カーナビゲーションシステム 200:アブソーバ力決定部 202:ダンパ力決定部 204:アブソーバ力変更部 206:限度超過動作制限部 208:ダンパ力変更部(接近離間方向力変更部) 210:回生・非回生制御切換部