JP2007296804A - 意匠構造体及び意匠構造前駆体 - Google Patents

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Abstract

【課題】漆喰層などの水の存在下での固化により形成された無機固化物層の表面に、転写画像が固定された商品価値の高い意匠構造体を提供する。
【解決手段】基材3と、水の存在下での固化により該基材の表面に形成された無機固化物層5とからなり、無機固化物層5表面に画像7を含む親水性ポリマーの層9が浸透して固定されていることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、漆喰層等の水の存在下で形成された無機固化物層の表面に絵画などの画像が形成された意匠構造体に関する。
従来、壁画に用いられる画法として、フレスコと呼ばれる技法が古くから知られている。この技法は、漆喰を壁に塗って乾ききらないうちに、水彩絵の具で絵画を描くというものであり、漆喰層(炭酸カルシウム層)の中に絵の具が滲み込んで乾くため、堅牢な画像が形成されるという利点がある。
最近になって、漆喰層を基材シートの表面に設けた建築用ボードが実用に供されている。この建築用ボードは、基材シートの表面に、消石灰(水酸化カルシウム)と水との混練物からなるスラリーを塗布し、このスラリー層の表面に通気性の保護シートを貼着し、養生(炭酸ガスの吸収)してスラリーのコーティング層を固化させて漆喰層を形成した後、保護シートを引き剥がして壁材などとして機能させるというものであり、例えば、通気性の保護シートが貼着されている状態で壁に接着固定し、養生して固化させた後に、保護シートの引き剥がしが行われる。
従って、このような建築用ボードに上記の画法を利用することが考えられる。例えば、特許文献1には、上記の保護シートの片面に所定の像を形成しておき、この保護シートを、その像形成面がスラリーのコーティング層の表面に密着するように貼着し、養生後に保護シートを引き剥がすことにより、画像を漆喰層の表面に転写させる技法が提案されている。
特許文献1で提案されている方法により形成された建築ボードは、前述したフレスコ画法を応用したものであるが、転写により像を形成するため、漆喰層となるスラリーのコーティング層がかなり流動性を有している段階で、転写すべき像が密着し、その後、養生する。従って、転写された画像は、漆喰層の表面に深く浸透して固化を生じることとなり、画像が強固に漆喰層に固定されており、例えば、拭き取りなどによっても画像の色落ちを生じないという利点がある。フレスコ画法のように、像を描く場合には、漆喰層となる面が半固化状態ではあるが流動性を失っている状態で像が形成されるため(流動性を有している場合には、像を描くことができない)、形成される像は、固化した漆喰層の表面上に載った状態で存在することとなり、従って、拭き取りなどにより、像の色落ちなどが生じてしまう。
このように、転写法により、漆喰層の表面に像を形成する特許文献1に記載されている方法は、像がしっかりと漆喰層表面に固定され、色落ちなど有効に防止され、耐久性の良好な像を形成できるという利点がある。
特開平11−210200号
しかしながら、特許文献1の方法では、保護シートの表面に形成される像を、漆喰層の表面に十分に転写させることができず、このため、単なる線、或いは単純な形状の文字などの像の形成には、ある程度利用することができるが、模様(特に複雑な模様)や絵画などの複雑な像については、適用が困難であるという問題がある。また、線や単純な形状の文字などについても、転写された場合には、かなりかすれた像となってしまう。即ち、特許文献1に記載の方法では、模様や絵画などの像を形成することにより、ボードの商品価値を高めることが困難である。
従って、本発明の目的は、漆喰層などの水の存在下での固化により形成された無機固化物層の表面に、転写画像が固定された商品価値の高い意匠構造体を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記の意匠構造体の転写画像の上に剥離シートが設けられており、この剥離シートを引き剥がして意匠構造体として使用される意匠構造前駆体を提供することにある。
本発明によれば、基材と、水の存在下での固化により該基材の表面に形成された無機固化物層とからなり、該無機固化物層表面に着色画像を含む親水性ポリマーの層が浸透して固定されていることを特徴とする意匠構造体が提供される。
本発明によれば、基材と、水の存在下での固化により形成された無機固化物層と、該無機固化物層表面に浸透して固定される着色画像を含む親水性ポリマーの層と、剥離性シートとが、この順序で位置している積層構造を有していることを特徴とする意匠構造前駆体が提供される。
本発明の意匠構造体及び意匠構造前駆体においては、
(1)前記無機固化物層が、漆喰層であること、
(2)前記親水性ポリマーが、水の接触角が50度以下のポリマーであること、
(3)基材または剥離性シートが通気性を有していること、
が好適であり、特に意匠構造前駆体においては、
(4)前記剥離性シートが透明乃至半透明であること、
が好適である。
本発明の意匠構造体は、ポリビニルアルコールなどの親水性ポリマーの層が表面に形成された剥離シートを使用し、この剥離シートの親水性ポリマー層表面に無機顔料等による着色画像を形成し、基材表面に形成されている無機固化物層上に該剥離シートが貼着された意匠構造前駆体を作成し、かかる意匠構造前駆体から剥離シートを引き剥がすことにより製造される。従って、本発明の意匠構造体においては、剥離シート側に形成されている着色画像は、親水性ポリマーとともに該無機固化物層表面に浸透して固定される。即ち、親水性ポリマーとともに転写が行われるため、像の転写効率が極めて高く、剥離シート側の像が確実に転写され、従って、絵画や複雑な模様などの像を転写画像として有することができ、意匠的価値が高い。また、無機固化物層上に転写された像は、無機固化物層の表面にポリビニルアルコール等の親水性ポリマーとともに浸透してしっかりと固定されるため、表面を拭いたり、擦ったりしても像の色落ちなどの不都合は生ぜず、像の耐久性の点でも優れている。
このような意匠構造体は、優れた意匠性を有しており、商品価値が高く、例えば壁画調の壁材としては勿論のこと、絵画や写真などの画像を有するボード或いはシートとして、適当な位置に設置して、置物、展示物などとして、鑑賞用、表示用など、種々の用途に使用される。また、かかる意匠構造体は、通常、意匠構造前駆体の形で販売され、使用時に剥離シートを引き剥がして使用に供される。
図1を参照して、全体として1で示す本発明の意匠構造体は、基材3と、無機固化物層5とからなり、無機固化物層5の表面には、着色画像7(以下、単に画像と呼ぶ)を含む親水性ポリマーの層9が無機固化物層5の表面に浸透して固定されている。即ち、画像7は、親水性ポリマー層9とともに無機固化物層5の表面に転写されるものである。
また、図2は、図1に示す意匠構造体1を得るための意匠構造前駆体(全体として10で示す)を示すものであり、この意匠構造前駆体10は、基材3上の無機固化物層5表面に親水性ポリマー層9と、剥離シート11とが積層された構造を有しており、画像7が形成されている親水性ポリマー層9が無機固化物層5の表面に浸透して固定されている。即ち、かかる構造の意匠構造前駆体10から剥離シート11を引き剥がすことにより、図1の意匠構造体1が得られる。
かかる意匠構造体1及び意匠構造前駆体10において、基材3は、後述する無機固化物層5の形成が可能であり、例えば、無機固化物層3を形成するための無機材料と水との混練物、特に混練物中の固形分が透過しないものであれば特に制限なく使用され、シートのような変形性を有する形態を有するものであってもよいし、ボードのように変形しない形態のものであってもよいし、さらには、表面に曲率面や段差などを有する複雑な形状を有するものであってもよい。一般に、好適に使用される基材3としては、石膏ボード用原紙;パラフィンコート紙等の耐水紙;ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、カーボン繊維等の繊維状物からなる織布または不織布;或いは、石膏ボード、ケイ酸カルシウムボード、木質合板、鋼板、木毛センメントボード、中空セメントボード、発泡セメントボード、コンクリートボード、モルタルボードなどが挙げられ、基材3の上に形成する無機固化物層5の種類や、意匠構造体1の用途などに応じ、適宜の物性或いは材質のものを使用することができる。
基材3の上に形成する無機固化物層5は、水の存在下で固化せしめることにより形成されるものであり、消石灰と水との混練物の炭酸化によって固化して形成される漆喰(炭酸カルシウム)、硫酸カルシウムの半水和物(半水石膏;CaSO・1/2HO)と水との混練物が固化して形成される石膏(CaSO・2HO)、或いは水硬性セメントなどが代表的である。本発明においては、画像の転写のし易さ、画像の浸透固定性、画質などの観点から、漆喰により無機固化物層5が形成されていることが最も好適である。
また、上記の無機固化物層5には、無機固化物を形成する際に調製される水との混練物中の無機材料(例えば消石灰、半水石膏、セメント材料など)の分散性を高め、また形成される無機固化物層5の物性を調整するための各種の添加剤が配合されていてよい。このような添加剤としては、例えば、水性エマルジョンの固形分、繊維、無機細骨材、活性微粒子等を例示することができる。
上記水性エマルジョンの固形分は、無機材料の固化により形成された無機固化物層5の靱性を向上せしめるほか、無機固化物層5と基材3或いは後述する親水性ポリマー層9との接着強度等を向上せしめる作用を有するものである。この水性エマルジョンは、水媒体中にモノマー、オリゴマー或いはこれらの重合体等が分散したものであり、例えばアクリル樹脂系、酢酸ビニル系、スチレン/ブタジエンゴム系等の合成高分子系エマルジョンを挙げることができる。このような水性エマルジョンは、無機固化物層5が形成される際に、媒体が蒸発して固形分の少なくとも一部が無機固化物層5中に存在することとなる。
上記繊維、無機細骨剤、活性微粒子は、無機固化物層5の強度等の物理特性を向上させるものであり、繊維の例としては、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、カーボン繊維、金属繊維等を使用できる。また、繊維の形状としては短繊維、長繊維、織布、不織布等の形状のものが使用できるが、これらのうち短繊維は無機固化物層5の靱性および切断加工性の向上に特に有効である。このような短繊維の長さおよび直径は特に制限されないが、長さは1mm〜10mm、特に2mm〜6mmであり、直径は5〜50μm、特に10〜30μmであることが、無機固化物層3の靱性をより向上させ、また切断加工性においても優れたものとするために好適である。
また、無機細骨材としては、例えば、平均粒子径が0.03〜2mm程度の範囲内にある無機粒状物であり、この範囲内で、形成する無機固化物層5の厚みの1/2以下の平均粒子径を有するもの、具体的には、珪砂、寒水砂、マイカ、施釉珪砂、施釉マイカ、セラミックサンド、ガラスビーズ、パーライト、或いは炭酸カルシウムなどを挙げることができる。
更に、活性微粒子としては、平均粒子径が0.1〜50μm程度の高炉水砕スラグ、フライアッシュ、シリカフューム等が挙げられる。
上記のような添加剤は、それぞれ1種単独でも、2種以上が配合されていてもよいが、何れにしろ、必要以上に多量に配合すると、無機固化物層5への画像7の浸透性が損なわれてしまうため、無機固化物層5の種類に応じて、画像7の浸透及び固定が損なわれない程度の量で配合することができる。
また、このような無機固化物層5の厚みは、特に制限されず、意匠構造体1の用途に応じて適宜設定すればよいが、一般的には、0.05乃至5mm、特に0.1乃至2mm程度の範囲である。
また、親水性ポリマー層9は、画像7とともに、水の存在下で固化する無機固化物層5に転写され、該無機固化物層5の表面に浸透して固定されるものである。従って、このような親水性ポリマーとしては、水に対する濡れ性が良好であり、例えば、水に対する接触角(25℃)が50度以下のものが好適である。また、画像7とともに転写されるため、画像7の視認性を損なうものであってはならず、当然、無色透明のものでなければならない。このように、水に対する濡れ性が良好であり、且つ無色透明なものであり、フィルムを形成するに足る分子量を有しているものであれば、種々の重合体或いは共重合体を使用することができるが、転写性や無機固化物層5への浸透性、或いはコストなどの観点から、水溶性ポリマー、例えばポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、デンプン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸ソーダ、ゼラチンなどが最も好適である。
上記のような親水性ポリマー層9の厚みは特に制限されるものではないが、あまり薄いと、画像7を保持したままでの転写性が損なわれるおそれがあるため、一般的には、転写前の状態、即ち、図2における剥離シート11に施された状態(剥離シート11を無機固化物層5に貼着するまえの状態)で10μm以上の厚みとするのがよい。また、剥離シート11を引き剥がして無機固化物層5に転写されたときの厚みが必要以上に厚いときには、転写した画像7の視認性が低下して意匠性が低下するおそれがあるし、またコストの増大がもたらされるばかりで、格別のメリットは発生しない。従って、このような観点から、剥離シート11に施された状態で、親水性ポリマー層9の厚みは、300μm以下とするのがよい。さらに、無機固化物層5が漆喰により形成されているときには、剥離シート11に通気性を持たせることが好ましい場合があり、このような場合には、親水性ポリマー層9の厚みを、剥離シート11の通気性を損なわない程度とすればよい。
本発明において、剥離シート11としては、これを引き剥がしたとき、親水性ポリマー層9が無機固化物層5側に移行(即ち転写)するようなものであれば、特に制限されず、任意の材質のものが使用されるが、一般的には、透明乃至半透明のものが好適である。即ち、図1に示す構造の意匠構造体1は、これに剥離シート11が貼着された図2に示す構造の意匠構造前駆体10の形態で販売されるのが一般的である。このような場合、親水性ポリマー層9に形成されている画像7が、剥離シート11を介して視認できることが望ましいからである。
従って、このような剥離シート11としては、通常、ポリエチレン、ポリプロピレン等の膜状物および防水紙等の非透水性シートや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ビニロン、ポリエチレンテレフタレート、耐アルカリガラス等の人工繊維ポリエステル、ビニロン、耐アルカリガラス等の人工繊維からなる織布および不織布等の繊維シートが好適に使用される。
また、本発明において、前述した無機固化物層5が漆喰である場合には、前述した基材3或いは剥離シート11の少なくとも一方が通気性を有していることが必要である。即ち、漆喰は、消石灰(水酸化カルシウム)と水との混練物が炭酸ガスを吸収して炭酸化(炭酸カルシウムを形成)することにより固化して形成されるものである。従って、固化に必要な炭酸ガスを供給するために、基材3或いは剥離シート11の何れかが通気性を有していることが必要となる。例えば、基材3或いは剥離シート11の少なくとも一方が、2000sec/100cc以上のガーレ透気度を有していることが必要である。従って、基材3や剥離シート11の少なくとも一方として、織布や不織布などの繊維シート、或いはニードルパンチ、延伸等、公知の方法により通気性のみを付与する微多孔を形成して上記範囲の通気性(ガーレ透気度)を付与した樹脂シートなどが好適に使用される。尚、剥離シート11に通気性を持たせる場合には、親水性ポリマー層9が形成された状態で、上記のようなガーレ透気度が付与されているのがよく、このため、親水性ポリマー層9の厚みは、前述した転写性を満足させる範囲で、可及的に薄く形成されていることが好ましい。
<意匠構造体1及び意匠構造前駆体10の製造>
上述した構造を有する意匠構造体1及び意匠構造前駆体10は、以下のようにして製造される。
先ず、前述した材質の剥離シート11を用意し、この剥離シート11上に親水性ポリマーをコーティングして親水性ポリマー層9を形成する。このコーティングは、例えば親水性ポリマーの水溶液を用い、これを所定厚みに塗布し、乾燥することにより行われるが、場合によっては、剥離シート11上に親水性ポリマーを押出すことによっても形成することができる。
このようにして形成された親水性ポリマー層11の表面に画像7を形成する。この画像7は、所定の顔料乃至染料が分散乃至溶解したインキを使用し、グラビア印刷などによって、所定の大きさのものを連続して印刷することにより形成することができる。また、インクジェットプリンターやレーザプリンタなどを用いて、適当なサイズに裁断された剥離シート11上の親水性ポリマー層9上に形成することもできる。
上記のような画像7の形成に際して、用いるインキやトナーの種類などは特に制限されないが、最も好適には、水溶性染料が溶解し或いは顔料が界面活性剤などで水(或いは水/アルコール混合溶媒など)に分散された親水性のインキを用いることが、親水性ポリマー層9上に滲みがなく且つ安定に保持された鮮鋭な画像7を形成する上で好ましく、また転写性の点でも好適である。特に画像7の耐候性や転写性という観点から、界面活性剤などにより無機顔料が溶媒に分散されたタイプのインキが最も好適である。
尚、上記のような画像7は、意匠構造体1で視認される画像とは鏡像の関係にあり、従って、デジタルカメラなどで撮影された写真などの画像を形成する場合には、コンピュータで鏡像の形に処理して親水性ポリマー層9上に印刷されることとなる。
一方、無機固化物層5を形成するために、所定の無機材料と水との混練物からなるスラリーを調製し、このスラリーを基材3の表面に所定厚みで、ロールコーター、フローコーター、ナイフコーター、コンマコーター、スプレー、ディッピング、吐出、型材転写等により塗布し、必要に応じてコテ押さえ、口金絞り、ローラ転圧、1軸プレス等を採用することにより、コーティングすることができる。この無機材料は、先に述べたように、形成する無機固化物層5の種類に応じて選択されるものであり、例えば消石灰や半水石膏などである。また、このスラリー(水との混練物)中には、前述した各種の添加剤が必要により配合されている。また、このスラリーは、基材1上に塗布したときに垂れなどを生じないように、増粘剤を配合し、適度な粘度に調製されていることが好適である。
上記のようにして形成されたスラリーのコーティング層の上に、表面に画像7を有する親水性ポリマー層9が形成された剥離シート11を、親水性ポリマー層9側が対面するようにして貼着し、養生することにより、図2の形態の意匠構造前駆体10が得られる。
尚、上記のような剥離シート11の貼着は、スラリーのコーティング層を基材1の表面にコーティングしながら行うこともできる。例えば、図3に示されているように、互いに対向する一対の基体ローラ25a,25bを設け、基体ローラ25a及び搬送ローラ26によって、基材3を、基体ローラ25a,25bのニップを通過させる。また、一方の基体ローラ25aには、塗布ローラ27を対向させ、表面に画像7を有する親水性ポリマー層9が形成された剥離シート(図3では、画像7及び親水性ポリマー層11を省略し、20で示した)を、基体ローラ25bによって、塗布ローラ27とのニップを通して、上記の基材1上に流す。この状態で、基体ローラ25bと塗布ローラ27とのニップに、前述した混練物からなるスラリー29を、スラリー供給管31から供給する。これにより、スラリー29は、シート20の親水性ポリマー層側に密着しながら、基体ローラ25a,25bのニップに供給され、かくして該ニップを通過する基材3上にスラリーのコーティング層33が形成され、同時に、該コーティング層33には、シート20(即ち、表面に画像7を有する親水性ポリマー層9が形成された剥離シート)が貼着されることとなり、連続して、スラリーのコーティング層31の形成と、剥離シート11の貼着とが同時に行われることとなる。
即ち、上記のようにして得られる積層体を、これを所定時間、養生することにより、上記スラリーのコーティング層31が、炭酸ガスの吸収や水との反応などにより固化し、無機固化物層5となり、図2に示す構造の意匠構造前駆体10が得られる。この養生に際して、親水性ポリマー層9は、未だ流動性を有しており、水が存在しているコーティング層31の表面から画像7とともに内部に浸透し、この状態でコーティング層31が固化するため、親水性ポリマー層9は、画像7とともに、無機固化物層5の表面に浸透した状態でしっかりと固定されることとなる。尚、養生時間は、無機固化物層5の種類や厚みによっても異なるが、一般に、漆喰の場合で0.5乃至5時間程度、石膏の場合で0.5乃至12時間程度である。
このようにして得られた図2に示す構造の意匠構造前駆体10は、無機固化物層5が完全に固化した状態で剥離シート11を引き剥がすことにより、図1に示す構造の意匠構造体1が得られるのである。
即ち、上記のようにして得られる意匠構造体1は、親水性ポリマー層9が、画像7とともに、無機固化物層5の表面に浸透して固定されているため、親水性ポリマー層9の実質上全てが、画像7とともに無機固化物層5側に浸透して転写され、その表面にしっかりと固定されたものとなる。尚、図1の例では、画像7は、親水性ポリマー層9と同一厚みで示されているが、一般的には、この画像7の表面は、親水性ポリマー層9で覆われており、画像7の上には、親水性ポリマー9の薄層が形成されている。
従って、本発明の意匠構造体1では、画像7の転写効率が極めて良好であり、例えば絵画、写真、複雑な模様などの画像であっても、ほとんどそのまま転写されるため、優れた意匠性を有しており、極めて商品価値が高い。また、画像7は、無機固化物層5の表面に浸透して固定されるため、拭き取りや摺擦などによる色落ちがほとんど生ぜず、極めて耐久性が良好である。
このような本発明の意匠構造体1は、通常、意匠構造前駆体10の形態で市販され、購入した需要者が、所望の時に、剥離シート11を引き剥がして使用に供される。かかる意匠構造体1は、その用途に応じて、基材3の裏面に、接着剤層を設けてシリコンペーパなどの離型紙を貼着しておくことにより、離型紙を剥がして、所望の場所に貼り付けることもできる。
本発明の意匠構造体は、壁材、或いは所望の大きさにして、各種の鑑賞用部材、展示用部材、或いは文字を転写画像とすることにより、各種の表示板などとして使用することもでき、種々の用途に使用することができる。
本発明の優れた効果を、次の実験例で説明する。
なお、以下に、実験例で用いた各試験方法および材料を示す。
(1)画像のにじみ率:
インクジェットプリンター(キャノン製iP8100型、無機顔料が分散された水溶性インキ使用)により剥離シートの無機スラリーに接する面側に、直径10mmの円を印刷して、各実施例及び比較例に示す条件で、意匠構造体を作製した。得られた意匠構造体の表面に転写された円を市販のカラースキャナーでデジタル画像としてパーソナルコンピューターに読み込み、画像処理ソフトを用いて、転写された色のピクセル数を測定し、インクジェットプリンター用専用紙に印刷した場合のピクセル数と比較することにより、下記式によりにじみ率(SR)を算出した。
SR=P1/P0
SR:にじみ率(−);通常1以上、にじみが多いと数値が大きくなる。
P1:意匠構造体の転写画像のピクセル数(ピクセル)
P0:インクジェットプリンター用専用紙に印刷した画像のピクセル数(ピクセル)
(2)インクの転写濃度:
インクジェットプリンター(キャノン製iP8100型)により剥離シートの無機スラリーに接する面側に、直径10mmの黒の円を印刷して、各実施例及び比較例に示す条件で、意匠構造体を作製した。
得られた意匠構造体の表面に転写された円を分光色差計(日本電色製NF333型)でL*a*b*表色系(JIS Z 8729)における明度(L*)を測定し、インクジェットプリンター用専用紙に印刷した場合の明度と比較することによりインクの転写濃度(CR)を算出した。
CR=100×L0/L1
CR:インクの転写濃度(%);通常100%以下、転写された画像の色が薄いと数値が小さい。
L1:意匠構造体の画像の明度(L*)
L0:インクジェットプリンター用専用紙に印刷した画像の明度(L*)
(3)耐摩擦試験:
JIS A 6921にしたがって、湿潤時の摩擦試験を行い、5段階評価における耐摩擦度(級)を測定した。
耐摩擦度:1〜5級の5段階評価;耐摩擦度としては5級が最も高い。
以下の実施例及び比較例で用いた材料は、以下の通りである。
(A)基材シート:
炭カル紙:王子製紙株式会社製「OKコスモCA135」(商品名)(厚み0.18mm、目つけ量138g/m
(B)水酸化カルシウム:
消石灰:宇部マテリアルズ製「高純度消石灰CH」(商品名)
(C)無機細骨材:
炭酸カルシウム:薬仙石灰製「ホワイト7」(商品名)
(D)水性エマルジョン:
ポリトロン:旭化成工業株式会社製「ポリトロンA1480」(商品名)(アクリル系共重合体ラテックス、固形分40重量%)
(E)流動化剤:
シーカメント:日本シーカ株式会社製「シーカメント1000NT」(商品名)
(F)剥離シート:
不織布A:ユニセル株式会社製「BT−1306WM」(商品名)
不織布B:デュポン社製「タイベック1056D」(商品名)
PETフィルム:厚み50μm
(実施例1)
ポリビニルアルコール(和光純薬製、平均重合度:1000、ケン化度:約90%)を加熱しながら水に溶解させ、10重量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。次に、得られた10重量%のポリビニルアルコール水溶液を、不織布Aの表面にハケで塗布し、50℃の乾燥機中で1時間乾燥させ、ポリビニルアルコールをコートした剥離シートAを作製した。さらに、この剥離シートAにインクジェットプリンターで直径5mmの黒色の円を印刷し、室内にて30分乾燥させた。
基材シート(300×200mm)の表面に水酸化カルシウム100重量部、水性エマルジョン30重量部、水40重量部の配合比で混練した混合物をコーター法により塗布し、直径10mmの黒色の円を印刷した剥離シートをその上に密着させ、60℃の恒温乾燥機中で約3時間乾燥させ、意匠構造前駆体を作製し、剥離シートを剥がして、意匠構造体Aを得た。このときの漆喰層3の厚みは0.3mmであった。
このようにして得られた意匠構造体Aのにじみ率は1.08であった。また、インクの転写濃度は68%で、耐摩擦度は5級であった。
(比較例1)
不織布Aに直接、インクジェットプリンターで直径10mmの黒色の円を印刷し、室内にて30分乾燥させた以外は、実施例1と全く同様にして、意匠構造前駆体Bを作製し、剥離シートを剥がして、意匠構造体Bを得た。このときの漆喰層3の厚みは0.3mmであった。
このようにして得られた意匠構造体Bのにじみ率は、1.81とにじみが多かった。また、インクの転写濃度は21%と低く、耐摩擦度は2級であった。
(実施例2、3)
不織布Aの代わりに表1に示す剥離シートを使った以外は、実施例1と同様な操作を行い、得られた意匠構造体のにじみ率、インクの転写濃度および耐摩擦度を測定した。その結果を表1に示す。
Figure 2007296804
(比較例2、3)
ポリビニルアルコールの親水性ポリマー層を作製しない以外は、実施例2,3と同様な操作を行い、得られた意匠構造体のにじみ率、インクの転写濃度および耐摩擦度を測定した。その結果を表2に示す。
Figure 2007296804
本発明の意匠構造体の構造を示す図。 図1の意匠構造体の作製に際して製作される意匠構造前駆体の構造を示す図。 意匠構造前駆体を作製するにあたっての無機固化物層を形成するためのスラリーのコーティング方法の一例を説明するための図。
符号の説明
1:意匠構造体
3:基材
5:無機固化物層
7:画像
9:親水性ポリマー層
10:意匠構造前駆体
11:剥離シート

Claims (9)

  1. 基材と、水の存在下での固化により該基材の表面に形成された無機固化物層とからなり、該無機固化物層表面に、着色画像を含む親水性ポリマーの層が浸透して固定されていることを特徴とする意匠構造体。
  2. 前記無機固化物層が、漆喰層である請求項1に記載の意匠構造体。
  3. 前記親水性ポリマーが、水の接触角が50度以下のポリマーである請求項1または2に記載の意匠構造体。
  4. 前記基材が通気性を有している請求項2に記載の意匠構造体。
  5. 基材と、水の存在下での固化により形成された無機固化物層と、該無機固化物層表面に浸透して固定される着色画像を含む親水性ポリマーの層と、剥離性シートとが、この順序で位置している積層構造を有していることを特徴とする意匠構造前駆体。
  6. 前記剥離性シートが透明乃至半透明である請求項5に記載の意匠構造前駆体。
  7. 前記無機固化物層が、漆喰層である請求項5または6に記載の意匠構造体。
  8. 前記親水性ポリマーが、水の接触角が50度以下のポリマーである請求項5乃至7の何れかに記載の意匠構造前駆体。
  9. 前記基材または剥離シートが通気性を有している請求項7に記載の意匠構造前駆体。
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