JP2007283355A - 溶接止端部の超音波衝撃処理方法および超音波衝撃処理された耐疲労特性に優れた溶接止端部 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】先端部に設けられたピンに超音波振動を与え、このピンにより溶接止端部に超音波衝撃を与える超音波衝撃処理方法において、前記ピンの先端部の曲率半径を2.0mm未満、好ましくは、1.0mm以上2.0mm未満とする。
【選択図】図1
Description
この溶接止端部近傍は、溶接後の冷却時に溶接金属部が凝固収縮するため引張残留応力が存在し易く、さらに、部材に作用する外力により応力が集中し易い部位である。このため、微小な溶接欠陥でも、致命的なき裂や割れに進展する可能性を有しており耐疲労強度の向上の妨げとなっている。
このため、従来から、溶接部の耐疲労特性を向上させるための各種の提案がなされている。例えば、特許文献1には、ビード止端部の形状(止端部角度θ)を大きくして耐疲労特性を向上させることが開示されている。これはフラックスワイヤをルチールとともにFe基微粒子複合金属酸化物を特定量含有させたワイヤとするものである。
図5は、超音波衝撃処理装置により超音波衝撃処理を施す状況の一例を示す模式図である。超音波衝撃処理装置5は、超音波を発信する超音波発信装置6と、その前方に取り付けられ、発信された超音波を衝撃装置に導びくと共に、振動を増幅させるウエーブガイド7と、ヘッド8を有し、このヘッドの先端には、被処理物に衝撃を与えるための工具として衝撃用のピン9が振動可能に取り付けられている。超音波発信装置6で発信された超音波は、ウエーブガイド7を経由してヘッドに装着された衝撃用ピン9に超音波振動を与える。この振動によりピンの先端が処理対象、例えば溶接部に衝撃を与え、衝撃処理するものである。超音波振動の振幅は10〜60μm、周波数10kHz〜60kHz、出力0.2〜3KWで処理するのが一般的である。
このような、超音波衝撃処理装置により、構造物の応力集中箇所に衝撃を与えることによって、上記箇所に塑性変形を生じさせ、これによって応力の分布状況、例えば、溶接引張残留応力状態を圧縮残留応力状態に変えることができる。超音波衝撃処理の後には同処理部近傍で圧縮降伏応力の5割以上の高い圧縮残留応力場を形成することができ、これによって応力集中箇所の疲労特性を向上させることができる。
また、この衝撃を与えることによって、金属組織を塑性変形させ、結晶粒を微細化することも可能であり、これによって、その箇所の強度が局所的に向上し、き裂の発生を抑制することが可能となり、疲労特性の向上効果を得ることができる。
さらに、衝撃処理により処理箇所の表面の曲率を応力集中が低減するような緩やか曲率とすることが可能であり、これらの効果によって、局部の耐疲労特性を向上させることが可能となる。
特許文献2や特許文献3には、金属材料の溶接部に超音波を用いて衝撃処理を施し、溶接部の残留応力を開放し、ボイドや異常粒界のような微小欠陥を低減することが提案されている。
また、特許文献4には、鉄鋼材料継手止端部近傍に超音波衝撃処理を施し、溶接継手の疲労強度を向上することが報告されている。
特許文献2〜4に提案された方法では、溶接後に止端部形状が調整され、確実に所望の溶接止端部形状とすることができるとともに、止端部近傍には圧縮残留応力を付与し、かつ組織を微細化して割れやき裂の進展を阻害することができるため、溶接部の疲労強度の向上には極めて優れているといえる。
超音波衝撃処理により溶接止端部には凹形状の面(凹面)が形成され、その曲率半径は、通常、ピンの先端部の曲率半径にほぼ倣っているものであるが、この凹形状の曲率半径が大きい程、応力集中を緩和する効果は大きいと考えられる。このようなことから従来、ピンは、直径3mm、先端部の曲率半径が3mm程度以上のものが使用されている。これによって、少なくとも溶接止端部に形成される凹形状を曲率半径が3mm以上の形状とすることができ、溶接部の耐疲労特性を向上させることが可能となる。
しかしながら、超音波衝撃装置より溶接止端部に超音波衝撃を与えた場合に、止端部の金属がピンの衝撃により塑性流動し、断面でみるとオーバーラッピング状の疵が生じていることがある。この超音波衝撃処理後のオーバーラッピング状の疵は、き裂状に見えるが、通常の割れや切欠き等の溶接欠陥とされるものとは性質が異なり、超音波衝撃処理による高い圧縮残留応力場の形成により、疵周りは圧縮残留応力によりシールドされ、降伏応力を大きく超える高い繰返し引張応力が作用し、形成されていた圧縮残留応力場が壊されない限り、き裂としてふるまうことはなく問題はないのであるが、他の溶接欠陥との区別が付き難く、疲労強度保証の観点からはこれらのオーバーラップ状の疵の存在は好ましくない。
本発明は、溶接止端部を超音波衝撃処理するに際して、上述のようなオーバーラップ状の疵の生じることのない超音波衝撃処理方法および、オーバーラップ状の疵のない耐疲労特性に優れた溶接止端部を提供するものである。
(1)先端部に設けられたピンに超音波振動を与え、このピンにより溶接止端部に超音波衝撃を与える超音波衝撃処理方法において、前記ピンの先端部の曲率半径を2.0mm未満とすることを特徴とする溶接止端部の超音波衝撃処理方法。
(2)前記ピンの先端部の曲率半径が、1.0mm以上2.0mm未満であることを特徴とする(1)に記載の溶接止端部の超音波衝撃処理方法。
(3)溶接止端部の溶接方向に垂直な断面に、超音波衝撃処理された曲率半径が2.5mm未満の凹形状が形成されていることを特徴とする耐疲労特性に優れた溶接止端部。
(4)前記凹形状の曲率半径が、1.5mm以上2.5mm未満であることを特徴とする(3)に記載の耐疲労特性に優れた溶接止端部。
図2(a)(b)は、超音波衝撃処理条件を探索するための試験の状況を示す図であり、(a)は溶接ビードの形成およびUIT処理状況を、(b)は、UIT処理後の断面観察試験片の採取状況をそれぞれ示す。
すなわち、発明者らは、強度レベルの異なる鋼種(SS400、SM490、SM570)の鋼板(12mm(t)×300mm(w)×300mm(l))の表面に、2つの溶接方法(SMAW:被覆アーク溶接、FCAW:フラックス入りアーク溶接)により、図2(a)に示すような溶接ビード(溶接長さ約250mm)をそれぞれ形成した。それぞれの場合の溶接材料及び溶接条件(電流、電圧、溶接速度、入熱量)を表1に示す。
すなわち、先端の曲率半径が、0.5mm、1.0mm、1.5mm、2.0mm、3.0mmであるピンのみを用いて超音波衝撃処理を施すほかに、曲率半径の異なる2種類のピンの組み合わせ、0.5mm+3.0mm、1.0mm+3.0mm、1.5mm+3.0mm、2.0mm+3.0mmを用いて超音波衝撃処理した。これにより、1本の溶接ビードに対して、9通りの処理条件で超音波衝撃処理された部位を形成した。
なお、超音波衝撃処理は、振幅:20〜40μm、周波数:25〜36kHzとし、処理速度は、各部位とも30cm/分とした。なお、曲率半径の異なるピンを組合せた処理の場合は、まず、小曲率半径のピンにより30cm/分、次いで大曲率のピンでの30cm/分として処理した。
上述のように処理条件を変えて超音波衝撃処理を施した溶接ビードの部位は、図2(b)のS1〜S6およびF1〜F6に対応している。
なお、表2には、各部位のUIT処理において使用した衝撃用ピンの先端部の曲率半径も記載している。
表2において、オーバーラップ疵のない場合を○、オーバーラップ疵の見られるものを×、オーバーラップ疵の有無が明確でないものを△とした。
なお、観察においては、オーバーラップによる疵と溶接欠陥による疵とが必ずしも区別できない場合があるが、上記の判定では、溶接欠陥による疵とオーバーラップ疵とは区別せず両者を合わせて有無を判定している。
以上のことから、本発明においては、溶接止端部に超音波衝撃処理を行うに際して、超音波衝撃処理装置のピンの先端部の曲率半径を2.0mm未満とし、超音波衝撃処理を施してもオーバーラップ疵のない溶接止端部とするものである。これによって、たとえ溶接部に降伏応力を超える繰返し応力が加わっても、良好な疲労特性を維持することができる。
また、溶接止端部への応力集中をできる限り回避するためには、超音波衝撃処理によって形成される止端部の凹形状の曲率半径は大きい方が好ましいので、ピンの先端部の曲率半径を1.0以上〜2.0mm未満として超音波衝撃処理するものであり、さらに好ましくは、この曲率半径を1.0〜1.5mmとするものである。
このようにUIT処理によって形成された凹形状の曲率半径が、使用したUIT処理に使用したピンの曲率半径よりやや大きなものとなるのは、通常、溶接止端部へのUIT処理は、溶接方向、すなわち溶接ビードが延びている方向、に沿って行われるのであるが、処理装置が溶接方向とは交差する方向に変動ないしは揺動することが避けられないことがあり、これに伴って、ピンの先端も処理方向と交差する方向に変動或いは揺動し、このため形成される溶接止端部の溶接方向と直角な断面の凹形状の曲率半径が、ピンの曲率半径よりも大きくなるためである。
揺動が大きくなると、UIT処理が不均一になったり、揺動によって止端部近傍の金属の塑性流動を助長する可能性もあるので、オーバーラップ疵をなくす観点からは好ましくない。
このようなことから、本発明においては、UIT処理によって溶接止端部の溶接方向に直角な断面に形成される凹形状の曲率半径は、ピンの先端部の曲率半径+0.5mm未満となるようにする。凹形状の曲率半径が、ピンの先端部の曲率半径+0.5mm以上となると、UIT処理が不安定になり、オーバーラップ疵を抑制する効果が低下する可能性がある。
本発明によれば、溶接部止端部に超音波衝撃処理を施すことによって、周辺の金属組織を微細化して、耐疲労特性を向上させることができることはいうまでもなく、さらに、従来の超音波衝撃処理方法で生じていたオーバーラップ状の疵をなくすことができるので、極めて安定した耐疲労特性を得ることができる。
溶接後供試体に超音波衝撃処理を施したが、その条件は、共振周波数27kHz、振幅30μm、ピン直径φ5mm、ピン先端曲率半径1.0mm、1.5mm、2.0mm、3.0mm、5.0mm、処理速度は30cm/分とし、溶接止端部の谷線が処理溝の形成により完全に消えていることを確認した。
疲労試験は、軸力の引張-引張の試験とし、公称応力範囲150MPa、応力比0.1、周波数10Hzの条件にて試験体が破断するまでの繰返し寿命回数を評価した。全ての供試体に対して、疲労試験に先立ち、過大荷重付与の影響を評価するため、それぞれの鋼種の規格降伏応力を公称応力として一度負荷した後に除荷し、上記疲労試験に供した。500万回を超えても破断しない場合は試験を中断した。
試験体作製条件、超音波処理ピン曲率、凹形状溝曲率半径、疵発生有無、疲労寿命を表3に示す。
2 溶接金属(溶接ビード)
3 溶接止端部
4 溶融線(フュージョンライン)
5 超音波衝撃処理装置
6 超音波発信装置
7 ウエーブガイド
8 ヘッド
9 衝撃用ピン
10 オーバーラップ状欠陥
11 止端部の凹形状
Rw 凹形状の曲率半径
Rp ピンの先端部の曲率半径
Claims (4)
- 先端部に設けられたピンに超音波振動を与え、このピンにより溶接止端部に超音波衝撃を与える超音波衝撃処理方法において、前記ピンの先端部の曲率半径を2.0mm未満とすることを特徴とする溶接止端部の超音波衝撃処理方法。
- 前記ピンの先端部の曲率半径が、1.0mm以上2.0mm未満であることを特徴とする請求項1に記載の溶接止端部の超音波衝撃処理方法。
- 溶接止端部の溶接方向に垂直な断面に、超音波衝撃処理された曲率半径が2.5mm未満の凹形状が形成されていることを特徴とする耐疲労特性に優れた溶接止端部。
- 前記凹形状の曲率半径が、1.5mm以上2.5mm未満であることを特徴とする請求項3に記載の耐疲労特性に優れた溶接止端部。
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