JP2007277407A - 耐水性ポリエステル樹脂の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】系の顕著な増粘を引き起こすことなく、かつ有機溶剤の使用なしに、耐水性ポリエステル樹脂またはその組成物を製造する方法。
【解決手段】分子末端が主として水酸基であるポリエステル樹脂を重縮合反応によって得た後、溶融状態の該ポリエステル樹脂に、環状酸無水物基含有ポリマーを添加する耐水性ポリエステル樹脂の製造方法であって、ポリエステル樹脂の水酸基と環状酸無水物基含有ポリマーの酸無水物基との当量比(水酸基/酸無水物基)が1.5以上であり、ポリエステル樹脂と環状酸無水物基含有ポリマーとの使用割合が質量比(ポリエステル樹脂/環状酸無水物基含有ポリマー)で70/30〜95/5であることを特徴とする耐水性ポリエステル樹脂の製造方法、および該方法で製造された耐水性ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解する耐水性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、耐水性に優れた塗料、インキ、接着剤等のバインダーとして有用な耐水性ポリエステル樹脂の製造方法に関するものである。
ポリエステル樹脂は、単独で、または、硬化剤や他の樹脂と併用して、塗料、インキ、接着剤等のバインダーとして広く用いられている。しかしながら、ポリエステル樹脂を塗料、インク、接着剤等に含有させて、ガラスのごとき親水性の材料に対して使用した場合、たとえ硬化剤を併用したときでも、耐水性不良による欠陥が具現する。例えば、ポリエステル樹脂を含有する接着剤を用いて接着させたガラスを、水中に浸漬すると、接着力が顕著に低下する。
そこで、耐水性の改良された耐水性ポリエステル樹脂系接着剤が提案されている(特許文献1および特許文献2等)。かかる提案においては、原料ポリエステル樹脂を、一旦大気中に、払い出した後、該原料ポリエステル樹脂とマレイン酸共重合ポリプロピレンとの共重合を有機溶剤または不活性ガスの存在下でおこなうことにより製造されている。
特開2000−136366号公報 特開2000−177084号公報
しかしながら、原料ポリエステル樹脂は、一旦、大気中に払い出せば、酸素や水分が吸着されるため、加水分解や熱分解を回避するには、不活性ガスの添加だけでは不十分で、現実には有機溶剤の使用が必須であった。
本発明の発明者等は、原料ポリエステル樹脂の製造過程でマレイン酸共重合ポリプロピレンを添加し、それらの共重合を行うことを試みたが、反応系の粘度が顕著に増大するという新たな問題が生じた。樹脂の粘度が顕著に増大すると、撹拌が困難になり、反応缶からの取り出しが著しく困難となるばかりか、反応缶に払い出されないポリマーが残留し、生産性や品質維持に対して少なくない支障になっていた。
本発明は、系の顕著な増粘を引き起こすことなく、かつ有機溶剤の使用なしに、耐水性ポリエステル樹脂またはその組成物を製造する方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、
分子末端が主として水酸基であるポリエステル樹脂を重縮合反応によって得た後、溶融状態の該ポリエステル樹脂に、環状酸無水物基含有ポリマーを添加する耐水性ポリエステル樹脂の製造方法であって、
ポリエステル樹脂の水酸基と環状酸無水物基含有ポリマーの酸無水物基との当量比(水酸基/酸無水物基)が1.5以上であり、
ポリエステル樹脂と環状酸無水物基含有ポリマーとの使用割合が質量比(ポリエステル樹脂/環状酸無水物基含有ポリマー)で70/30〜95/5であることを特徴とする耐水性ポリエステル樹脂の製造方法および該方法で製造された耐水性ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解することを特徴とする耐水性ポリエステル樹脂組成物の製造方法を要旨とする。
本発明によれば、系の顕著な増粘を引き起こすことなく、耐水性ポリエステル樹脂を生産性よく製造できる。得られたポリエステル樹脂は耐水接着力に優れ、また、該耐水性ポリエステルを有機溶剤に溶解した組成物は、塗料、インキ、接着剤に好適に利用することができるため、産業上の利用価値はきわめて高い。
本発明に係る耐水性ポリエステル樹脂の製造方法において、ポリエステル樹脂を重縮合反応によって溶融状態で得た後、該溶融状態のポリエステル樹脂に特定比率で環状酸無水物基含有ポリマーを添加する。すなわち、重縮合反応完了後の溶融ポリエステル樹脂に対して環状酸無水物基含有ポリマーを特定の比率で添加して撹拌する。これによって、有機溶剤の使用なしにポリエステル樹脂の加水分解を抑制でき、かつ、反応系の顕著な増粘を防止でき、結果として耐水性ポリエステル樹脂を生産性よく製造できる。重縮合反応によって得られたポリエステル樹脂を、一旦払い出した後、該ポリエステル樹脂を溶融状態にして用いると、当該ポリエステル樹脂に吸着した酸素や水分の存在によってポリエステル樹脂の加水分解が起こるので、再溶融に先立って乾燥したり、窒素置換したりする必要が生じるがこの方法では水分の除去が十分でなく、また、製造が煩雑になる。また、前述のように、ポリエステル樹脂の製造過程、例えば、原料モノマーを仕込むとき、環状酸無水物基含有ポリマーを添加すると、反応系で顕著な増粘が起こる。
環状酸無水物基含有ポリマーは、一般に、分子内に環状酸無水物基を有する付加重合型ポリマーであって、反応性不飽和結合を含まないものである。そのような環状酸無水物基含有ポリマーを溶融ポリエステル樹脂に添加すると、溶融ポリエステル樹脂は末端に水酸基を有するので、環状酸無水物基含有ポリマーが有する環状酸無水物基とポリエステル樹脂の末端水酸基とが付加反応し、グラフト共重合体が生成する。詳しくは、環状酸無水物基が開環し、ポリエステル樹脂末端の水酸基と、環状酸無水物基1個あたり1個のエステル結合を形成するとともに、1個のカルボキシル基が生成する。その結果、ポリエステル樹脂と環状酸無水物基含有ポリマーとの結合が達成され、ポリエステル樹脂に耐水性能が有効に付与される。
本発明において製造される耐水性ポリエステル樹脂が有する耐水性とは、当該樹脂を有機溶剤に溶解して調製した接着剤を用いて接着させた接着物(被着物)を水に168時間浸漬させた後の接着力(耐水接着力)が常態時の接着力の50%以上、特に80%以上を確保する特性をいう。
本明細書中、環状酸無水物基含有ポリマーは環状酸無水物基を有するポリマーだけでなく、環状無水物基を形成可能なポリマーも包含する。すなわち、環状酸無水物基含有ポリマーは、分子内で環状酸無水物基を有する重合性モノマーを他の重合性モノマーと付加重合させることによって得られるものだけでなく、分子内で環状酸無水物基を形成可能な重合性モノマーを他の重合性モノマーと付加重合させることによって得られるものも包含する。環状無水物基を形成可能なポリマーとは、ポリマー分子鎖において環状無水物基が実際に形成されていなくても、溶融ポリエステル樹脂に添加したときに、当該ポリエステル樹脂が有する熱によって容易に脱水し、環状酸無水物基を形成し得るものである。
環状酸無水物基とは、重合性モノマー分子内において隣接する炭素原子が有する2個のカルボキシル基の脱水反応によって形成される下記式;
Figure 2007277407
の構造を有するものであり、重合によってポリマーの分子鎖が、下記式;
Figure 2007277407
の構造を有するものである。
このような環状酸無水物基を有する重合性モノマーの具体例としては、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等が例示され、コストパーフォーマンスの点から無水マレイン酸が好まれている。
以下、環状酸無水物基を分子内で形成可能な重合性モノマーおよび環状酸無水物基を分子内に有する重合性モノマーを含めて重合性モノマーAと呼ぶものとする。重合性モノマーAは2種類以上組み合わせて使用してよく、特に、環状酸無水物基を分子内で形成可能な重合性モノマーと環状酸無水物基を分子内に有する重合性モノマーとを併用してもよい。
単にカルボキシル基を有するアクリル酸等のような重合性モノマーを用いてポリマーにカルボキシル基を導入しても、当該カルボキシル基とポリエステル樹脂の水酸基との反応性は比較的低いため、十分に耐水性のあるポリエステル樹脂を製造できない。
環状酸無水物基含有ポリマーを構成する重合性モノマーA以外の他の重合性モノマーは、水酸基、スルホン酸基等の親水基を有さない疎水性重合性モノマーであれば特に制限されず、例えば、脂肪族炭化水素モノマー、芳香族炭化水素モノマー等が挙げられる。耐水性を損なわない範囲内であれば、(メタ)アクリル酸エステル等を他の重合性モノマーとして用いても良い。2種類以上の他の重合性モノマーを組み合わせて使用してもよい。
脂肪族炭化水素モノマーの具体例として、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテン等のようなオレフィン系炭化水素類、およびブタジエン、イソプレン等のようなジエン系炭化水素類等が挙げられる。
芳香族炭化水素モノマーの具体例として、例えば、スチレン等が挙げられる。
環状酸無水物基含有ポリマーは重合性モノマーA以外に少なくとも脂肪族炭化水素モノマー(特にオレフィン系炭化水素類)を含有することがより好ましい。
環状酸無水物基含有ポリマーは市販品として入手可能である。例えば、無水マレイン酸共重合ポリエチレン系樹脂(ボンダインHX−8290;住友化学社製)、無水マレイン酸共重合ポリプロピレン(ポリボンド3200;ユニロイヤルケミカル社製)、無水マレイン酸共重合スチレン・エチレン・ブテン・スチレン樹脂(クレイトンFG1901X;シェル社製)、無水マレイン酸共重合ポリプロピレン・ブテン系樹脂(アドマ−QE060;三井化学社製)等が挙げられる。
環状酸無水物基含有ポリマーは、当該ポリマーが添加される原料ポリエステル樹脂の水酸基の当該環状酸無水物基含有ポリマーの酸無水物基に対する当量比(水酸基/酸無水物基)が通常1.5以上、好ましくは1.5〜30、最適には3〜15となるように使用する。このような当量比を達成することによって、系の顕著な増粘を引き起こすことなく、かつ、有機溶剤の使用なしに、耐水性ポリエステル樹脂を製造できる。当該当量比が小さすぎると、特に1に近づく場合、原料ポリエステル樹脂と環状酸無水物基含有ポリマーとの反応系において顕著な増粘が起こり好ましくない。特に環状酸無水物基含有ポリマー1分子中に酸無水物基が平均で2個以上含まれる場合、ゲル化による増粘の懸念が大きい。
前記当量比は原料ポリエステル樹脂の水酸基価、環状酸無水物基含有ポリマーの酸無水物基価および原料ポリエステル樹脂と環状酸無水物基含有ポリマーとの使用割合(質量比)より算出可能である。例えば、原料ポリエステル樹脂の水酸基価をx(mgKOH/g)、環状酸無水物基含有ポリマーの酸無水物基価をx(mgKOH/g)、原料ポリエステル樹脂と環状酸無水物基含有ポリマーとの使用割合(原料ポリエステル樹脂:環状酸無水物基含有ポリマー)をy:y(但し、y+y=1)としたとき、当量比(水酸基/酸無水物基)は以下の式によって算出可能である。
当量比(水酸基/酸無水物基)=x×y/(x×y
環状酸無水物基含有ポリマーにおける重合性モノマーAの含有量は、原料ポリエステル樹脂の水酸基と該環状酸無水物基含有ポリマーの酸無水物基との当量比が上記範囲内であれば特に制限されず、通常は、原料ポリエステル樹脂と環状酸無水物基含有ポリマーとの反応系における顕著な増粘をより有効に防止し、かつ、耐水性をより有効に向上させる観点から、当該環状酸無水物基含有ポリマーを構成する全モノマー量に対して0.5〜5質量%であることが好ましく、1〜3質量%であることがより好ましい。2種類以上の重合性モノマーAを使用する場合はそれらの合計含有量が上記範囲内であればよい。
環状酸無水物基含有ポリマーの酸無水物基価は通常、2〜30mgKOH/g、特に3〜15mgKOH/gである。
環状酸無水物基含有ポリマーの分子量は本発明の目的が達成される限り特に制限されず、通常はMFR(メチルフローレート)が2〜200となるような範囲内であればよい。MFRは(JIS K 7210)に従って測定された値である。
環状酸無水物基含有ポリマーを添加する溶融状態のポリエステル樹脂(本明細書中、「原料ポリエステル樹脂」ということがある)は、多塩基酸成分と多価アルコール成分とを公知の方法により重縮合反応させることにより製造できる。例えば、全モノマー成分および/またはその低重合体を、不活性ガス雰囲気下、180〜260℃で2.5〜10時間程度反応させてエステル化反応をおこない、引き続いて重縮合触媒の存在下、220〜280℃の温度で所望の分子量に達するまで重縮合反応を進めて溶融ポリエステル樹脂を得る。
原料ポリエステル樹脂は分子末端が主として水酸基であるものである。原料ポリエステル樹脂の分子末端が主として水酸基であるとは、必ずしも該ポリエステル分子の全ての末端基が水酸基でなければならないというわけではなく、水酸基と環状酸無水物基含有ポリマーの環状無水物基との反応によって耐水性が付与され得る程度に分子末端に水酸基を有するという意味である。そのような原料ポリエステル樹脂は通常、2〜10mgKOH/g、特に3〜8mgKOH/gの水酸基価を有すればよい。
原料ポリエステル樹脂は通常、製造時において多価アルコール成分の合計使用量を多塩基酸成分の合計使用量よりもモル比で多くすることによって製造できる。そのような使用割合は、(多価アルコール成分の合計使用量(モル))×(多価アルコール成分の価数)をX、(多塩基酸成分の合計使用量(モル))×(多塩基酸成分の価数)をYとしたとき、使用比率(X/Y)で1.00を越えればよく、好ましくは1.05〜2.00、より好ましくは1.10〜1.50である。使用比率(X/Y)が1.00以下であると、環状酸無水物基含有ポリマーとの反応が有効に進行しないので、十分に耐水性のあるポリエステル樹脂を得ることができない。
原料ポリエステル樹脂の酸価は特に制限されるものではなく、通常は0.5〜3mgKOH/g、特に1〜2mgKOH/gである。
原料ポリエステル樹脂に環状酸無水物基含有ポリマーを添加するときの原料ポリエステル樹脂の温度は220〜280℃、特に240〜260℃が好ましく、通常はポリエステル樹脂の重縮合反応が完了したときの温度をそのまま維持し、環状酸無水物基含有ポリマーを添加すればよい。当該温度が低すぎると、原料ポリエステル樹脂の溶融粘度が高くなり攪拌動力が高くなるに止まらず、耐水性ポリエステル樹脂の反応系からの取り出しが困難になる。当該温度が高すぎると、熱分解等により耐水性ポリエステル樹脂の着色が顕著となり好ましくない。
環状酸無水物基含有ポリマーと原料ポリエステル樹脂との反応は、そのような環状酸無水物基含有ポリマー添加時の原料ポリエステル樹脂温度を維持し、反応系を1〜2時間撹拌することによって達成される。このとき反応系は窒素等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。環状酸無水物基含有ポリマーが環状酸無水物基を形成可能なカルボキシル基を含有する場合は、脱水によって発生する水分除去に配慮する。
環状酸無水物基含有ポリマーを添加するときの溶融ポリエステル樹脂の分子量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、例えば、数平均分子量で10,000〜30,000の範囲が、得られた耐水性ポリエステル樹脂溶液の塗布作業性、塗布された膜の強度の点で好ましい。
原料ポリエステル樹脂と環状酸無水物基含有ポリマーとの使用割合は質量比(ポリエステル樹脂/環状酸無水物基含有ポリマー)で70/30〜95/5、好ましくは75/25〜95/5である。環状酸無水物基含有ポリマーの使用割合が大きすぎると、原料ポリエステル樹脂と環状酸無水物基含有ポリマーとの反応系において顕著な増粘が起こり、耐水性ポリエステル樹脂を取り出せない。環状酸無水物基含有ポリマーの使用割合が小さすぎると、耐水性を有するポリエステル樹脂を製造できない。
原料ポリエステル樹脂を構成する多塩基酸成分および多価アルコール成分は本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではなく、例えば、以下に示す具体例が挙げられる。
多塩基酸成分としては、芳香族多塩基酸、脂肪族多塩基酸、脂環式多塩基酸等が挙げられる。
芳香族多塩基酸のうち芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等が挙げられる。3官能以上の芳香族多塩基酸として、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸等が挙げられる。
脂肪族多塩基酸のうち脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、無コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。3官能以上の脂肪族多塩基酸として、例えば、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等が挙げられる。
脂環式多塩基酸のうち脂環式ジカルボン酸としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸及びその無水物、テトラヒドロフタル酸およびその無水物等が挙げられる。
多塩基酸成分としては、耐水性ポリエステル樹脂製造時のゲル化による増粘をより有効に抑制する観点から、2官能の多塩基酸のみを使用することが好ましい。
前記した多塩基酸の中でも、耐水性のさらなる向上の観点から、芳香族多塩基酸が好ましく、原料ポリエステル樹脂の多塩基酸成分に占める芳香族多塩基酸の割合は、50モル%以上、特に50〜100%であることが好ましく、60〜100モル%であることがより好ましく、70〜100モル%であることが最適である。
芳香族多塩基酸としては、工業的に多量に生産され安価であることからテレフタル酸やイソフタル酸が好ましく、原料ポリエステル樹脂の多塩基酸成分に占めるテレフタル酸とイソフタル酸の合計の割合としては、50〜100モル%であることが好ましく、60〜100モル%であることがより好ましく、70〜100モル%であることが最適である。
特に、原料ポリエステル樹脂の多塩基酸成分に占めるテレフタル酸の割合としては、30〜100モル%であることが好ましく、40〜50モル%以上であることがより好ましい。テレフタル酸の割合を増すことにより、耐水性がより有効に向上する傾向にある。
原料ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分としては、1分子あたり2個以上の水酸基を有する化合物であれば特に制限されず、例えば、炭素数2〜10の脂肪族グリコール、炭素数6〜12の脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコール等が挙げられる。
炭素数2〜10の脂肪族グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3‐プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、3,3−ジメチル−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール等が挙げられる。
炭素数6〜12の脂環族グリコールとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノールが挙げられる。
エーテル結合含有グリコールとしては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。なお、エーテル結合含有グリコールは、耐水性のさらなる向上の観点から、使用しないことが好ましい。
多価アルコール成分としては、耐水性ポリエステル樹脂製造時のゲル化による増粘をより有効に抑制する観点から、2官能の多価アルコールのみを使用することが好ましい。
多価アルコールとしては、脂肪族グリコール、主としてエチレングリコール、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ルを使用することが重縮合反応を円滑に進める上で好ましい。原料ポリエステル樹脂の多価アルコール成分に占める脂肪族グリコール、特にエチレングリコールの割合としては、50〜100モル%が好ましく、60〜100モル%がより好ましく、70〜100モル%がさらに好ましく、80〜100モル%が最も好ましい。
また、原料ポリエステル樹脂を構成するモノマーとしては、オキシカルボン酸も使用できる。例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、o−ヒドロキシ安息香酸、乳酸、オキシラン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。
原料ポリエステル樹脂を構成する多塩基酸成分と多価アルコール成分との好ましい組み合わせは、芳香族ジカルボン酸−脂肪族ジカルボン酸−炭素数2〜10の脂肪族グリコールである。
環状酸無水物基含有ポリマーと原料ポリエステル樹脂との反応が完了した後は、通常、得られた耐水性ポリエステル樹脂を反応缶から取り出して冷却する。通常、ペレット形状またはシート形状に成形する。
以上のような方法で得られた耐水性ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解して耐水性ポリエステル樹脂組成物を製造することができる。有機溶剤は、耐水性ポリエステル樹脂を溶解可能な限り特に制限されず、例えば、トルエン、メチルエチルケトンおよびそれらの混合物等が使用可能である。耐水性ポリエステル樹脂組成物には、粘着剤、紫外線吸収剤、熱劣化防止剤、顔料、染料等の添加剤が含有されてもよい。
耐水性ポリエステル樹脂組成物は塗料、インキ、接着剤として有用であり、また、ホットメルト接着剤として用いることができる。
次に実施例と比較例を示して本発明を具体的に説明する。なお、実施例と比較例の各性能の測定、評価は以下のように実施した。
(1)溶液粘度
ブルックフィールド型回転粘度計を用いて、20℃で測定した。
(2)常態接着力
実施例/比較例で得られた接着剤を、厚み50μmのアルミシート上に塗布乾燥後、25mm巾に裁断し、ガラス板上に200℃で2秒間ホットプレスした(圧力3kg/cm)。その後、JIS K 6854に従い、5cm/分の引張速度で剥離強度を測定した。
(3)耐水接着力
常態接着力の測定方法と同様の方法で調製したガラス板/アルミシートの被着体を、JIS K 6829に従って水に168時間浸漬処理した後、剥離強度を測定した。
(4)ポリエステル樹脂の酸価
ポリエステル樹脂0.5gを50mlのトルエンに溶解し、クレゾールレッドを指示薬としてKOHで滴定を行い、中和に消費されたKOHのmg数をポリエステル樹脂1gあたりに換算した値を酸価として求めた。
(5)ポリエステル樹脂の水酸基価
ポリエステル樹脂3gを精秤し、無水酢酸0.6mlおよびピリジン50mlとを加え、室温下で8時間攪拌して反応させ、続いて、蒸留水5mlを添加して、さらに6時間、室温下で攪拌を継続することにより、上記反応に使われなかった分の無水酢酸も全て酢酸に変えた。この液にトルエン50mlを加えて、クレゾールレッド・チモールブルーを指示薬としてKOHで滴定を行い、中和に消費されたKOHの量(W)と、最初に仕込んだ量の無水酢酸がポリエステル樹脂と反応せずに全て酢酸になった場合に中和に必要とされるKOHの量(計算値:W)とから、その差(W−W)をKOHのmg数で求め、これをポリエステル樹脂のg数で割った値を水酸基価とした。
(6)環状酸無水物基含有ポリマーの酸無水物基価
酸無水物基含有モノマ−の共重合質量%をH−NMR分析(バリアン社製、300MHz)により求め、この結果からの計算値を使用した。
(実施例1)
テレフタル酸665g(26質量部)、イソフタル酸498g(19質量部)、セバシン酸606g(24質量部)、エチレングリコール807g(31質量部)を加圧可能なオートクレーブに投入して、窒素雰囲気下、室温から250℃まで昇温して250℃で5時間、エステル化反応で生成する水分を除いてエステル化反応を終了した。重合触媒としてテトラブチルチタネート1.36g(0.05質量部)を加えて減圧下、250℃で数平均分子量約20,000に調製するべく重縮合反応をおこなった。得られたポリエステル樹脂の水酸基価および酸価はそれぞれ4.6mgKOH/gおよび0.9mgKOH/gであった。
製造直後の溶融状態のポリエステル樹脂2030gに、環状酸無水物基含有ポリマー(無水マレイン酸共重合ポリエチレン系樹脂、ボンダインHX−8290;住友化学社製、無水マレイン酸共重合量2質量%、酸無水物基価11.4mgKOH/g)226gを添加し(ポリエステル樹脂:環状酸無水物基含有ポリマー=90/10)、250℃で1時間、窒素雰囲気下で撹拌混合することにより、ポリエステル樹脂の水酸基と環状酸無水物基含有ポリマーの酸無水物基との反応をおこない、耐水性ポリエステル樹脂を調製し、反応缶から取り出し冷却した。
耐水性ポリエステル樹脂をトルエン/メチルエチルケトン(1/1)混合溶液に溶解して、樹脂濃度25質量%の接着剤を調製し、接着剤の溶液粘度および接着力を評価した。
(実施例2)
ポリエステル樹脂80質量%および環状酸無水物基含有ポリマー20質量%を使用したこと以外、実施例1と同様の方法により、接着剤を調製し、評価をおこなった。
(実施例3)
ポリエステル樹脂92.5質量%および環状酸無水物基含有ポリマー7.5質量%を使用したこと以外、実施例1と同様の方法により接着剤を調製し、評価をおこなった。
(実施例4)
環状酸無水物基含有ポリマーとして無水マレイン酸共重合ポリプロピレン(ポリボンド3200;ユニロイヤルケミカル社製、無水マレイン酸共重合量1質量%、酸無水物基価5.7mgKOH/g)を使用したこと以外、実施例1と同様の方法により、接着剤を調製し、評価をおこなった。
(実施例5)
環状酸無水物基含有ポリマーとして無水マレイン酸共重合スチレン・エチレン・ブテン・スチレン樹脂(クレイトンFG1901X;シェル社製、無水マレイン酸共重合量2質量%、酸無水物基価11.4mgKOH/g)を使用したこと以外、実施例1と同様の方法により、接着剤を調製し、評価をおこなった。
(実施例6)
250℃での窒素雰囲気下で撹拌時間を1時間から2時間に変更したこと以外、実施例1と同様の方法により、接着剤を調製し、評価をおこなった。
(比較例1)
ポリエステル樹脂に環状酸無水物基含有ポリマーを添加することなく、該ポリエステル樹脂をそのまま用いて接着剤を調製したこと以外、実施例1と同様の方法により、接着剤を調製し、評価をおこなった。
(比較例2)
ポリエステル樹脂70質量%および環状酸無水物基含有ポリマー30質量%を使用したこと以外、実施例1と同様の方法により、耐水性ポリエステル樹脂の調製を試みたが、溶融状態のポリエステル樹脂への環状酸無水物基含有ポリマーの添加30分後に著しく増粘の兆候が認められ反応を中断した。
(比較例3)
テレフタル酸665g(26質量部)、イソフタル酸498g(19質量部)、セバシン酸606g(24質量部)、エチレングリコール807g(31質量部)および環状酸無水物基含有ポリマー226g(9質量部)を加圧可能なオートクレーブに投入して、窒素雰囲気下、室温から250℃まで昇温して250℃で5時間、エステル化反応で生成する水分を除いてエステル化反応を終了した。重合触媒としてテトラブチルチタネート1.36g(0.05質量部)を加えて減圧下、250℃で重縮合反応をおこなったところ、重縮合開始後45分後に著しく増粘の兆候が認められ反応を中断した。
(比較例4)
ポリエステル樹脂97.5質量%および環状酸無水物基含有ポリマー2.5質量%を使用したこと以外、実施例1と同様の方法により接着剤を調製し、評価をおこなった。
Figure 2007277407
本発明の耐水性ポリエステル樹脂組成物が、優れた耐水接着力を示すことが、実施例1〜6と比較例1、4との比較から明らかである。
実施例1〜6と比較例3との比較から、ポリエステル樹脂の重縮合反応終了後、直ちに環状酸無水物基含有ポリマーを添加することにより、容易に耐水性ポリエステル樹脂を調製できる。
実施例1〜6と比較例2との比較から、ポリエステル樹脂に環状酸無水物基含有ポリマーを添加するにあたり、ポリエステル樹脂が有する水酸基と環状酸無水物基含有ポリマーが有する酸無水物基の当量比がゲル化を回避するための重要な因子であることが明らかである。
実施例1と実施例6との比較から、ポリエステル樹脂と環状酸無水物基含有ポリマーとの反応時間を延長しても耐水性ポリエステル樹脂の性能の差はほとんど認められず、重縮合反応終了後の高分子量のポリエステル樹脂に対する環状酸無水物基含有ポリマーの反応のみが選択的に進むことが示唆されている。
本発明の方法で製造された耐水性ポリエステル樹脂は、有機溶剤に溶解または分散して、塗料、インキ、接着剤等のバインダーとして有用であり産業上の利用価値はきわめて高い。

Claims (2)

  1. 分子末端が主として水酸基であるポリエステル樹脂を重縮合反応によって得た後、溶融状態の該ポリエステル樹脂に、環状酸無水物基含有ポリマーを添加する耐水性ポリエステル樹脂の製造方法であって、
    ポリエステル樹脂の水酸基と環状酸無水物基含有ポリマーの酸無水物基との当量比(水酸基/酸無水物基)が1.5以上であり、
    ポリエステル樹脂と環状酸無水物基含有ポリマーとの使用割合が質量比(ポリエステル樹脂/環状酸無水物基含有ポリマー)で70/30〜95/5であることを特徴とする耐水性ポリエステル樹脂の製造方法。
  2. 請求項1に記載の方法で製造された耐水性ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解することを特徴とする耐水性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。


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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2020017269A1 (ja) * 2018-07-20 2020-01-23 東洋紡株式会社 ポリオレフィン系接着剤組成物

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