以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1および図2は本発明の一実施形態による4サイクル火花点火式エンジンの概略構成を示している。このエンジンには、シリンダヘッド10およびシリンダブロック11を有するエンジン本体1と、エンジン制御用のECU2とを備える。エンジン本体1には複数の気筒(当実施形態では4つの気筒)12A〜12Dが設けられている。各気筒12A〜12Dにはコンロッドを介してクランクシャフト3に連結されたピストン13が嵌挿され、ピストン13の上方に燃焼室14が形成されている。
各気筒12A〜12Dの燃焼室14の頂部には点火装置27に接続された点火プラグ15が装備され、そのプラグ先端が燃焼室14内に臨んでいる。さらに、燃焼室14の側方部には、燃焼室14内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16は、図略のニードル弁及びソレノイドを内蔵し、パルス信号が入力されることにより、そのパルス入力時期にパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を噴射するように構成されている。そして、点火プラグ15付近に向けて燃料を噴射するように燃料噴射弁16の噴射方向が設定されている。なお、この燃料噴射弁16には図外の燃料ポンプにより燃料供給通路等を介して燃料が供給され、かつ、圧縮行程での燃焼室内の圧力よりも高い燃料圧力を与え得るように燃料供給系統が構成されている。
また、各気筒12A〜12Dの燃焼室14に対して吸気ポート17及び排気ポート18が開口し、これらのポート17,18に吸気弁19及び排気弁20が装備されている。これら吸気弁19及び排気弁20は、図外のカムシャフト等からなる動弁機構により駆動される。そして、各気筒12A〜12Dが所定の位相差をもって吸気・圧縮・膨張・排気という燃焼サイクルを行うように、各気筒12A〜12Dの吸・排気弁19,20の開閉タイミングが設定されている。
また、エンジン本体1は、吸気弁19および排気弁20(吸気弁19のみでも良い)の開閉時期を変動させ、開弁期間を調整する周知の機構であるVVT(Variable Valve Timing)39(開弁期間調整手段)を備える。
上記吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。上記吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aとされ、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられるとともに、この共通吸気通路21cには、アクチュエータ24により駆動されるスロットル弁23からなる吸気流量調節手段が配設されている。スロットル弁23に、アイドル運転時の回転速度を調節する図略のISC(Idle Speed Control)ユニットを併設しても良い。このスロットル弁23の上流側には吸気流量を検出するエアフローセンサ25と吸気温度を検出する吸気温センサ29とが配設されている。またスロットル弁23の下流側には吸気圧力(ブースト圧)を検出する吸気圧センサ26が配設されている。また排気通路22には、排気を浄化する排気浄化装置37が設けられている。
また、エンジン本体1には、タイミングベルト等によりクランクシャフト3に連結されたオルタネータ(発電機)28が付設されている。このオルタネータ28は、図略のフィールドコイルの電流をレギュレータ回路28aで制御して出力電圧を調節できるように構成され、ECU2からの制御信号に基づき、通常時に車両の電気負荷および車載バッテリーの電圧等に対応した目標発電電流の制御が実行されるように構成されている。
また、エンジン本体1には、クランクシャフト3に直結されたリングギヤ(そのピッチ円の一部を一点鎖線で示す)を駆動するスタータモータ(以下スタータ36と称す)が設けられている。スタータ36は、必要に応じてピニオンギヤをリングギヤに噛合させ、そのピニオンギヤを駆動することにより、エンジンを正転方向に駆動する。スタータ36として、オルタネータを統合したモータ(ISG:Integrated Starter Generator)を用いても良い。スタータ36は、通常のエンジン始動時に用いられる他、当実施形態のエンジン自動停止後の再始動時に、その始動を補助するアシスト始動を行うときにも用いられる。
さらに、上記エンジンには、クランクシャフト3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30,31が設けられ、一方のクランク角センサ30から出力される検出信号に基づいてエンジンの回転速度が検出されるとともに、上記両クランク角センサ30,31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランクシャフト3の回転方向および回転角度が検出されるようになっている。
また、上記エンジンでは、カムシャフトの特定回転位置を検出して気筒識別信号として出力するカム角センサ32と、エンジンの冷却水温度を検出する水温センサ33とが設けられ、さらに運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ34と、運転者がブレーキ操作を行ったことを検出するブレーキセンサ35と、車速を検出する車速センサ38とが設けられている。
なおエンジン本体1には、図略の自動変速機(以下ATとも略称する)が連結されている。ATは、車両の走行状態や運転者の操作に応じて、エンジン出力を最適な回転速度および駆動トルクに自動的に変換して車軸に伝達する機構である。ATは、車輪側への駆動力の伝達が切り離されたニュートラル状態と、車輪側への駆動力の伝達が可能なドライブ状態とに切換え可能に構成されている。
ECU2は、エンジンの運転を統括的に制御するコントロールユニットである。当実施形態のエンジンは、予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立したときに各気筒12A〜12Dへの燃料噴射を所定のタイミングで停止(燃料カット)して自動的にエンジンを停止させるエンジン自動停止制御を行うとともに、その後に運転者によるアクセル操作が行われる等により再始動条件が成立したときにエンジンを自動的に再始動させる自動再始動制御を行うように構成されている。つまりECU2は停止再始動制御手段として機能する。以下ECU2の説明にあたり、上記エンジン自動停止制御や自動再始動制御に関する部分を中心に説明する。
ECU2には、エアフローセンサ25、吸気圧センサ26、吸気温センサ29、クランク角センサ30,31、カム角センサ32、水温センサ33、アクセル開度センサ34、ブレーキセンサ35および車速センサ38らの各検知信号が入力されるとともに、燃料噴射弁16、スロットル弁23のアクチュエータ24、点火プラグ15の点火装置27、オルタネータ28のレギュレータ回路28aおよびスタータ36のそれぞれに各駆動信号を出力する。ECU2は、燃料噴射制御部41、点火制御部42、吸気流量制御部43、発電量制御部44、ピストン位置検出部45およびスタータ制御部46、バルブタイミング制御部47を機能的に含んでいる。
燃料噴射制御部41は、燃料噴射時期と、各噴射における燃料噴射量とを設定して、その信号を燃料噴射弁16に出力する燃料噴射制御手段である。特に当実施形態のエンジン自動停止制御では、後述するように、エンジンの自動停止条件が成立したときに、エンジン運転を継続させるための燃料噴射を全気筒に対して停止させる。またその全気筒燃料噴射停止に先行してなされる特定モード運転において、着火順序の隣り合わない2つの気筒(停止時膨張行程気筒12Bおよび停止時吸気行程気筒12C)への燃料噴射を停止させる。
点火制御部42は、各気筒12A〜12Dに対して適切な点火時期を設定し、各点火装置27に点火信号を出力する。
吸気流量制御部43は、各気筒12A〜12Dに対して適切な吸気流量を設定し、その吸気流量に応じたスロットル弁23の開度信号をアクチュエータ24に出力する。特に当実施形態では、エンジン自動停止制御においてスロットル弁23の開度を調節して、ピストン13が再始動に適した適正停止範囲に停止するような制御を行っている。吸気流量制御部43は、その際のスロットル弁23の開度調節も行う。スロットル弁23にISCユニットが併設されている場合は、その制御(ISC制御)も行う。
発電量制御部44は、オルタネータ28の適切な発電量を設定し、その駆動信号をレギュレータ回路28aに出力する。特に当実施形態では、エンジン自動停止制御においてオルタネータ28の発電量を調節することによってクランクシャフト3の負荷を変化させ、ピストン13が再始動に適した適正範囲に停止するような制御を行っている。発電量制御部44は、その際のオルタネータ28の発電量の調節も行う。
ピストン位置検出部45は、クランク角センサ30,31の各検出信号に基づき、ピストン位置を検出する。ピストン位置とクランク角(°CA)とは1対1に対応するので、一般的になされているように当明細書においてもピストン位置をクランク角で表す。当実施形態では、膨張行程気筒および圧縮行程気筒の自動停止中のピストン位置に基いて各筒内空気量を算出し、それに応じて再始動時における各気筒の燃焼制御を行っている。
スタータ制御部46は、スタータ36の駆動制御を行う。通常は、運転者のエンジン始動操作に応じてスタータ36に駆動信号を送る。また自動再始動制御において、必要に応じてエンジン始動を補助するアシスト始動やバックアップ制御を行う際にもスタータ36に駆動信号を送る。
バルブタイミング制御部47は、吸気弁19や排気弁20の開閉時期が運転状態に応じた最適なタイミングとなるように設定し、VVT39に制御信号を送る。特に当実施形態では、エンジン自動停止制御および自動再始動制御において、吸気弁19の閉弁時期を遅延させる制御を行う。
以上のような構成のECU2によってエンジンを自動停止させた後、自動再始動制御を行うにあたり、当実施形態では最初に圧縮行程気筒で燃焼を行わせることにより、そのピストン13を押し下げてクランクシャフト3を少しだけ逆転させる。これによって膨張行程気筒のピストン13を一旦上昇(上死点に近づける)させ、その気筒内の空気(燃料噴射後は混合気となる)を圧縮した状態で、この混合気に点火して燃焼させることにより、クランクシャフト3に正転方向の駆動トルクを与えてエンジンを再始動させるように構成されている。
上記のようにしてスタータ36を使用することなく、特定の気筒に噴射された燃料に点火するだけでエンジンを適正に再始動させるためには、上記膨張行程気筒の混合気を燃焼させることにより得られる燃焼エネルギーを充分に確保することにより、これに続いて圧縮上死点を迎える気筒(当実施形態では圧縮行程気筒および吸気行程気筒)がその圧縮反力に打ち勝って圧縮上死点を超えるようにしなければならない。したがって、膨張行程気筒内に充分な空気量を確保しておく必要がある。
図3(a),(b)に示すように、圧縮行程気筒と膨張行程気筒とでは、それぞれ位相が180°CAだけずれているため、各ピストン13が互いに逆方向に作動する。膨張行程気筒のピストン13が行程中央よりも下死点側に位置していれば、その気筒の空気量が多くなって充分な燃焼エネルギーが得られる。しかし、上記膨張行程気筒のピストン13が極端に下死点側に位置した状態となると、圧縮行程気筒内の空気量が少なくなり過ぎて、再始動時の初回燃焼でクランクシャフト3を逆転させるための燃焼エネルギーが充分に得られなくなる。
これに対して上記膨張行程気筒の行程中央、つまり圧縮上死点後のクランク角が90°CAとなる位置よりもやや下死点側の所定範囲R、例えば圧縮上死点後のクランク角が100°〜120°CAとなる範囲R内にピストン13を停止させることができれば、圧縮行程気筒内に所定量の空気が確保されて上記初回の燃焼によりクランクシャフト3を少しだけ逆転させ得る程度の燃焼エネルギーが得られることになる。しかも、膨張行程気筒内に多くの空気量を確保することにより、クランクシャフト3を正転させるための燃焼エネルギーを充分に発生させてエンジンを確実に再始動させることが可能となる(以下この範囲Rを適正停止範囲Rとする)。そこで、ピストン13を適正停止範囲R内に停止させるよう、ECU2によってスロットル弁23の開度を調節する等のエンジン自動停止制御が行われる。
ところで、たとえピストン13が適正停止範囲Rに停止したとしても、気筒、特に膨張行程気筒の掃気が不充分であって、気筒内に既燃ガスが多く残留している状態であると、新気による燃焼のエネルギーを充分得ることができないので再始動に不利となる。そこで当実施形態では、膨張行程気筒および吸気行程気筒での掃気を充分行うために、エンジン自動停止制御の初期段階で以下に詳述する特定モード運転を実行する。
図4は、エンジン自動停止制御によるエンジン自動停止時のタイムチャートであり、上段にはエンジンの回転速度、下段には気筒の行程推移チャートを示す。なお、以下説明を簡潔にするため、エンジンが完全に停止した時、#1気筒12Aが圧縮行程、#2気筒12Bが膨張行程、#3気筒12Cが吸気行程、#4気筒12Dが排気行程にあるものとする。そして便宜上、#1気筒12Aを停止時圧縮行程気筒12A、#2気筒12Bを停止時膨張行程気筒12B、#3気筒12Cを停止時吸気行程気筒12C、#4気筒12Dを停止時排気行程気筒12Dと称する。
図4に示すタイムチャートは、AT(自動変速機)がドライブ状態にあるときにエンジンの自動停止条件が成立した場合を示している。このとき、当実施形態ではATをドライブ状態としたままエンジンを自動停止させる。こうすることにより、自動停止動作期間中に再加速要求(アクセルオン)があった場合、エンジンの燃焼を復帰させるだけで円滑かつ速やかに車両を再加速させることができるという利点がある。しかし一方では、ATをニュートラル状態に切換えてエンジンを停止させるものに比べて、エンジンの回転抵抗(負荷)が大きくなり、エンジン完全停止までの期間が短くなって掃気が不充分となる懸念も生じる。
そこでECU2は、エンジンの自動停止条件が成立した時点(タイムチャートの時点t1よりも前の段階)で、エンジンの目標回転速度を、エンジンを自動停止させない時の通常のアイドル回転速度(以下、通常のアイドル回転速度という)よりも高い目標回転速度N0に設定する。そうすることにより、エンジン完全停止までの期間を適度に延長させ、掃気性の向上が図られる。またピストンを狙いの位置に停止させる制御が行い易くなる。当実施形態では、ATがドライブ状態のときの通常のアイドル回転速度が650rpmに設定されており、目標回転速度N0は900rpm(車速V>12km/hのとき)または850rpm(車速V≦12km/hのとき)に設定されている。
さらにVVT39が、ECU2のバルブタイミング制御部47からの制御信号によって、吸気弁19の閉弁時期をリタードさせる。こうすることにより、吸気弁19の開弁期間が長くなって掃気が促進されるとともに、ポンピングロスが低減されるので、エンジン完全停止までの期間が短くなりすぎることを抑制することができる。
エンジンの回転速度が目標回転速度N0で安定する(時点t1)と、特定モード運転A1に移行する(特定モード運転A1の実行期間を矢印で示す)。特定モード運転A1は、全気筒燃料噴射停止A2に先行して一部の気筒への燃料供給停止を行う運転形態である。以下、特定モード運転A1で燃料停止を行う気筒を先行燃料停止気筒と称する。これに対し燃焼を継続する気筒を継続稼動気筒と称する。先行燃料停止気筒には停止時膨張行程気筒12Bと停止時吸気行程気筒12Cとが含まれていることが望ましい。そうすることが円滑な再始動を行う上で有利になるからである。当実施形態では、停止時膨張行程気筒12Bと停止時吸気行程気筒12Cとが先行燃料停止気筒となるように制御される。
図4のタイムチャートには、吸気・圧縮・膨張・排気の各行程を簡略的に「吸」「圧」「膨」「排」で表している。特定モード運転A1の開始時点である時点t1以降、継続稼動気筒である停止時圧縮行程気筒12Aおよび停止時排気行程気筒12Dでは、時点t1以前から継続して吸気行程で燃料噴射Fがなされ、圧縮行程後半で点火Sがなされる。すなわち燃焼が継続して行われる。
一方、先行燃料停止気筒である停止時膨張行程気筒12Bおよび停止時吸気行程気筒12Cでは燃料噴射が停止される(燃料停止C)。従って燃焼も行われない。しかし吸気行程においては吸気弁19が、排気行程においては排気弁20が、それぞれ開弁するので、排気が排出され、また新気が導入されて掃気が促進する。
各気筒の着火順序(膨張行程となる順序)に着目すると、通常の燃焼では#1気筒→#3気筒→#4気筒→#2気筒である。#2気筒12Bと#3気筒12Cとが特定モード運転A1における先行燃料停止気筒であるから、特定モード運転A1では、先行燃料停止気筒は着火順序の隣り合わない気筒において燃焼が停止されることとなる。換言すれば、通常の燃焼では180°CA毎に各気筒で順次燃焼が行われるのに対し、特定モード運転A1では、360°CA毎に継続稼動気筒(12A,12D)で交互に燃焼が行われることとなる。
先行燃料停止気筒(12B,12C)での燃焼が停止されるに伴い、継続稼動気筒(12A,12D)への1気筒当たりの燃料噴射量と吸気流量が増量される。そして適切な点火時期、燃料噴射時期が設定されて、特定モード運転A1の開始前に対してエンジン出力が大きく変動しないように調整される。
継続稼動気筒(12A,12D)への吸気流量の増大は、具体的にはスロットル弁23の開度増大やISC制御によって行われる。こうすることによりブースト圧Btが上昇するので、それによる先行燃料停止気筒(12B,12C)での更なる掃気促進効果も得ることができる。
特定モード運転A1は、2サイクル程度、つまり停止時膨張行程気筒12Bにおいて吸排気行程が各2回程経過するような、比較的短時間行われる。
なお、特定モード運転A1は、一部の燃焼が省略された燃焼形態なので、通常の燃焼形態に比べて出力トルクの変動が大きくなりがちである。そのためNVHレベルの低下が懸念される。しかし、上述したようにエンジン回転速度が通常のアイドル回転速度よりも高い値(850rpm以上)に設定されているので、トルク変動が低減され、NVHレベルの低下が抑制される。
なお、あまり回転を高くし過ぎると、特に低車速域においてエンジン回転音が増大して運転者に違和感を与えたり、ATのクリープ力の増大が懸念されたりする。そこで、このような懸念の小さい、比較的車速の高い場合(当実施形態では12km/hより高い場合)には、低い場合に比べてエンジン回転速度を高く(900rpm)設定して、乗員に与える違和感を抑制しつつ可及的大幅なNVHレベルの低下抑制を図っている。
一方、NVH低下懸念が大である極低車速(当実施形態では7km/h以下。停車状態を含む)では、当該特定モード運転A1を行わないようにして、その懸念を払拭している。特定モード運転A1を行わない場合には、エンジン回転速度の目標値N0がN0=850rpmに設定される。またブースト圧Btの目標値が比較的高い所定の値(約−400mmHg)に設定される。そしてその目標ブースト圧Btとなるようにスロットル弁23の開度Kの調節またはISC制御が行われる。こうして予めブースト圧Btを高めておくことにより、掃気性の向上が図られる。
時点t2でECU2は特定モード運転A1を終了させ、全気筒燃料噴射停止A2を行う。時点t2以前に燃料噴射Fがなされた気筒(図4の例では停止時圧縮行程気筒12A)がある場合には、点火Sを行って燃焼させ、未燃ガスが排気通路22に排出されないようにする。
またECU2は、時点t2以降、スロットル弁23の開度KをK1に増大させる(例えば開度K1=30%程度)。またはISC制御によって吸気流量を増大させる。これによってブースト圧Btが増大し始めるので、排気ガスの掃気が促進される。
さらにECU2は、所定のタイミングでオルタネータ28の発電量を増減させることによってエンジンの負荷を調節し、エンジン回転速度の低下度合が所定の目標値となるように制御する。
こうして時点t2で燃焼噴射を停止するとエンジンの回転速度が低下し始め、予め設定された基準速度N1(例えばN1=760rpm)以下になったことが確認された時点t3でスロットル弁23が閉止される。すると時点t3からやや遅れてブースト圧Btが減少し始め、エンジンの各気筒に吸入される吸気流量が減少する。スロットル弁23を開放している時点t2から時点t3までの間に吸入された空気は、共通吸気通路21c及びサージタンク21bを経由して各気筒の分岐吸気通路21aに導かれる。時点t2及び時点t3の設定を上記のようにすることによって、エンジン完全停止時点t6において、停止時圧縮行程気筒12Aよりも停止時膨張行程気筒12Bの方がより多くの空気を吸入することになり、結果的にピストン13が図3(b)に示す適正停止範囲Rで停止することとなる。
時点t2以降はエンジンが惰性で回転するため、エンジンの回転速度が次第に低下し、やがて時点t6で停止する。このエンジンの回転速度の低下は、図4に示すように、波打ちながら低下して行く。この波の谷のタイミングは、何れかの気筒が圧縮上死点となるタイミングと一致している。つまり、エンジンの回転速度は、各気筒が順次圧縮上死点を経過する度に一時的に落ち込んだ後、その圧縮上死点を超えた後に再び上昇するという小刻みなアップダウンを繰り返しながら次第に低下する。
そして最後の圧縮上死点を通過した時点t5の後に圧縮上死点を迎える停止時圧縮行程気筒12Aでは、慣性力によるピストン13の上昇に伴って空気圧が高まり、その圧縮反力によりピストン13が上死点を超えることなく押し返されてクランクシャフト3が逆転する(エンジン回転速度が負の値となる)。このクランクシャフト3の逆転によって停止時膨張行程気筒12Bの空気圧が上昇するため、その圧縮反力に応じて停止時膨張行程気筒12Bのピストン13が下死点側に押し返されてクランクシャフト3が再び正転し始め、このクランクシャフト3の逆転と正転とが数回繰り返されてピストン13が往復作動した後に停止することになる(逆転期間を矢印A3で示す)。
このようにしてエンジンを自動停止させ、エンジン回転速度が低下する過程において、各気筒12A〜12Dが圧縮上死点を通過する際のエンジン回転速度(上死点回転速度)と、膨張行程気筒12Aのピストン停止位置との間に明確な相関関係がある。すなわち、各段階(停止前から2番目、3番目、4番目・・・)の上死点回転速度がそれぞれ一定の速度範囲内にあるときに膨張行程気筒12Aのピストン停止位置が適正停止範囲R内となる確率が高くなるのである。
この特性を利用し、当実施形態ではエンジン回転速度の低下過程における所定の段階(特に重要なのは停止前から2番目(時点t4))の上死点回転速度が一定の速度範囲内となるような制御を行って、膨張行程気筒12Aのピストン13がより確実に適正停止範囲R内で停止するような制御を行っている。具体的には、オルタネータ28の発電量を増減させることによってクランクシャフト3の負荷(エンジン負荷)を調節し、停止前から2番目の上死点回転速度(時点t4)が、350±50rpmの範囲内となるようにしている。
ところで、図4はATがドライブ状態にあるときのタイムチャートであるが、ATがニュートラル状態にあるときには、特定モード運転A1が省略される。ATがニュートラル状態にあるときには、ドライブ状態にあるときよりもエンジンの回転抵抗(負荷)が小さいので、全気筒燃料噴射停止A2(時点t2)からエンジン完全停止(時点t6)までのクランクシャフト3の回転総数(経過サイクル総数)が多くなる。つまり吸排気行程の回数が多くなるので、特定モード運転A1を行わなくても停止時膨張行程気筒12Bの充分な掃気が確保される。
図5〜図6は、上記特定モード運転を含むエンジン自動停止制御の概略フローチャートである。この制御がスタートすると、まずステップS1でエンジンの自動停止条件が成立したか否かが判定される。このエンジンの自動停止条件とは、例えば車速が所定値(例えば20km/h)以下、アクセルオフ、ブレーキオン、エアコンオフ、ATのロックアップオフ、ステアリング操舵角が所定値以下、ウインカーオフ、バッテリー電圧が所定値以上等である。
なお、減速時燃料カット制御(周知の制御であるため詳述しないが、アクセルオフの減速時に燃料供給を停止して燃費向上を図る制御。ATのロックアップがオンのときになされるので、その逆駆動力によってエンジンは停止しない。)に引き続いて当該エンジン自動停止制御を行う場合には、車速条件がATのロックアップオフ車速(49km/h程度)以下となる。
これらの条件を全て満たしてエンジンの自動停止条件が成立すると、次にATがドライブ状態であるか否かの判定が行われる(ステップS3)。ステップS3でNO、つまりニュートラル状態である場合には特定モード運転A1を行わないのでステップS16に移行する。ステップS3でYESの場合には、さらに車速V>V1(V1=12km/h)であるか否かの判定が行われる(ステップS4)。
ステップS4でYESの場合、エンジンの目標回転速度N0がN01(N01=900rpm)に設定される(ステップS5)。ステップS4でNOの場合、さらにさらに車速V>V2(V2=7km/h)であるか否かの判定が行われる(ステップS9)。
そしてステップS9でYESの場合、エンジンの目標回転速度N0が、N01より低いN02(N02=850rpm)に設定される(ステップS10)。一方、ステップS9でNOの場合には特定モード運転A1を行わない。この場合はエンジンの目標回転速度N0が、N02(N02=850rpm)に設定され(ステップS13)、ブースト圧Btがスロットル弁23の調整またはISC制御によって−400mmHgとなるように調整され、ステップS16に移行する。
ステップS5またはステップS10の次に、バルブタイミング制御部47が吸気弁19の閉時期をリタード(遅延)させる(ステップS6)。VVT39は、その制御信号に基き、吸気弁19の閉時期を遅らせる。
そしてエンジン回転速度が目標回転速度N0で安定したら、ステップS7に移行して特定モード運転A1を実行する。特定モード運転A1開始後、所定回数(7〜9回程度)のTDC(上死点)が経過した後(ステップS15でYES)、再始動要求がないことを確認し(ステップS16でNO)、ステップS18に移行する。ステップS18では、ステップS1のエンジン停止条件に、エンジン回転速度の目標値への収束、およびブースト圧Btの目標値への収束等が加えられた全気筒F/C(燃料噴射停止)条件が成立したか否かが判定される。その成立を待って(ステップS18でYES)、スロットル開度Kを目標値K1(=30%)に制御する(ステップS20)とともに全気筒燃料噴射停止A2を行う(ステップS21)。さらにオルタネータ28の発電量を調節することによるピストン停止位置制御を行う(ステップS22)。
そして、再始動要求のないまま(ステップS23でNO)、エンジン回転速度が基準速度N1(=760rpm)より低くなったら(ステップS25でYES)、スロットル開度Kを0%とするか、またはこれに相当するISC制御を行い(ステップS26)、最終的に停止時圧縮行程気筒12Aよりも停止時膨張行程気筒12Bの吸気量の方が多くなるようにする。
そして再始動要求のないまま(ステップS27でNO)、最終TDC(図4の時点t5)を経過した後(ステップS29)、エンジンが完全に停止したか否かの判定がなされる(ステップS31)。
ここで、ステップS31におけるエンジン完全停止の判定について説明する。この判定は、その停止直前から停止までのピストン13の動作をクランク角センサ30,31で検出することによってなされる。またエンジンが完全停止するのに伴い、ECU2のピストン位置検出部45がピストン13の停止位置を検出する。図7は、そのピストン停止位置の検出制御動作を示すフローチャートである。この検出制御がスタートすると、第1クランク角信号CA1(クランク角センサ30からの信号)および第2クランク角信号CA2(クランク角センサ31からの信号)に基づき、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLowであるか否か、または第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighであるか否かを判定する(ステップS41)。これにより、エンジンの停止動作時における上記信号CA1,CA2の位相の関係が、図8(a)のようになるか、それとも図8(b)のようになるかを判定してエンジンが正転状態にあるか逆転状態にあるかを判別する。
すなわち、エンジンの正転時には、図8(a)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相遅れをもって生じることにより、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLow、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighとなる。一方、エンジンの逆転時には、図8(b)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相の進みをもって生じることにより、エンジンの正転時とは逆に第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がHigh、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がLowとなる。
そこで、ステップS41の判定がYESであれば、エンジンの正転方向のクランク角変化を計測するためのCAカウンタをアップし(ステップS42)、ステップS41の判定がNOの場合は、上記CAカウンタをダウンする(ステップS43)。そして、エンジン停止後に上記CAカウンタの計測値を調べることでピストン停止位置を求める(ステップS44)。
再び図6に戻って説明を続ける。ステップS31でYESと判定され、エンジン完全停止時のピストン位置が求められたら、それが狙い通りの位置であるか、つまり図3(b)に示す適正停止範囲R内であるか否かの判定が行われる(ステップS33)。ステップS33でYESの場合、さらに、特定モード運転A1で燃焼停止させた気筒(先行燃料停止気筒)が、停止時膨張行程気筒12Bおよび停止時吸気行程気筒12Cとなっているか否かの判定が行われる(ステップS35)。ステップS35でYESであれば、狙い通りのエンジン自動停止制御が行われたことを示しており、図4に示すように、停止時膨張行程気筒12Bと停止時吸気行程気筒12Cとが先行燃料停止気筒、停止時圧縮行程気筒12Aと停止時排気行程気筒12Dとが継続稼動気筒であり、かつこれらの気筒のピストン13が、適正停止範囲Rに停止している。このとき、自動停止フラグFがF=1にセットされ(ステップS37)、リターンされる。
一方、ステップS33またはステップS35でNOと判定された場合には、何らかの影響で狙いから外れた停止形態になっている。この場合には自動停止フラグFがF=2にセットされ(ステップS38)、リターンされる。
遡って、ステップS16,S23,S27でYES、つまり再始動要求有りと判定された場合には、ステップS39に移行してエンジン復帰制御を実行する。エンジン復帰制御では、各気筒への燃料供給が再開され、燃焼が行われてエンジンが通常の継続運転に復帰する。なお、再始動要求有無の判定は上記ステップS16,S23,S27の各タイミングのみで行う必要はなく、再始動条件が成立した時点で、どのタイミングであっても当該フローチャートに割り込むようにしても良い。
次に、エンジンの再始動時の制御について説明する。図9はエンジン再始動時のタイムチャートである。このタイムチャートは逆転始動方式のものである。後述するように、この逆転始動方式は、狙いのエンジン自動停止制御が実現した場合(自動停止フラグF=1)に、その後自動再始動が行われるときに採用される。詳細については、次のフローチャートに即して説明する。
図10〜図11は、図9に示す逆転始動方式の制御を含む自動再始動制御のフローチャートである。この制御が開始すると、まずエンジン再始動条件(アクセルオン、ブレーキオフ、エアコンオン、バッテリー電圧が低下などのうち、少なくとも1つがYESのときに成立)が成立したか否かが判定される(ステップS61)。YESとなった時点で自動停止フラグFの判定が行われる(ステップS63)。自動停止フラグF=1の場合(ステップS63でYES)、図9に示す逆転始動方式の制御に移行する(ステップS71)。
逆転始動方式の制御が開始する(図9の時点t1)と、ECU2は、まずピストン13の停止位置に基づいて停止時圧縮行程気筒12Aおよび停止時膨張行程気筒12B内の空気量を求め、さらにその空気量に応じて適宜空燃比となるように各気筒への燃料噴射量を設定する。そして図9に示すように、まず停止時圧縮行程気筒12Aに対して1回目の燃料噴射J1が行われる(ステップS72)。この燃料噴射J1は、理論空燃比ないしはそれよりリッチ空燃比となるようにすることが望ましい。そうすることにより、停止時圧縮行程気筒12A内の空気量が少ないときであっても、逆転のための燃焼エネルギーを充分得ることができる。
次に燃料噴射J1から気化時間を考慮して設定した時間の経過後に、当該気筒に対して点火D1を行う(ステップS73)。点火D1による燃焼によって、エンジン(クランクシャフト3)は逆回転する。すなわちエンジン回転速度が負の値となる(逆転期間を図9の矢印A6で示す)。
点火D1から一定時間内にクランク角センサ30,31のエッジ(クランク角信号の立ち上がり又は立ち下がり)が検出され、ピストン13が動いた(逆転を始めた)か否かが確認される(ステップS75)。この判定は、所定時間経過後のクランク位置と、その位置での角速度から燃焼の良否を判定するものであっても良い。
ステップS75でYESと判定されると、停止時膨張行程気筒12Bに燃料噴射を行う(ステップS83)。当実施形態では、停止時膨張行程気筒12Bへの燃料噴射をJ2aとJ2bとに分割して行う。前段噴射J2aによって気化が促進される。また後段噴射J2bによって、ピストン13が上死点に接近したときの筒内圧が低減され、ピストン13をより上死点近くにまで上昇させることができる。なお、前段噴射J2aは、もっと早期、例えば燃料噴射J1と略同時期、あるいはそれよりも早い時期(再始動条件成立以前)に行っても良い。
その後、所定のディレー時間経過後に(ステップS84でYES)に、当該停止時膨張行程気筒12Bに点火(D2)され、燃焼が行われる(ステップS85)。この点火D2による停止時膨張行程気筒12Bでの燃焼により、エンジンは逆転から正転に転ずる(図9の時点t12)。従って停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13は上死点側に移動し、内部のガス(点火D1によって燃焼した既燃ガス)を圧縮し始める。
この点火D2による燃焼は、エンジンを逆転から正転に転じさせる重要な燃焼であり、大きな燃焼エネルギーが望まれる。当実施形態では、特定モード運転A1によって掃気が促進されているので、多くの新気によって燃焼を行わせることができ、燃焼エネルギーを増大させることができる。
次に、自動停止フラグFの判定が行われ、自動停止フラグF=1(ステップS86でNO)であれば、自動停止フラグFがリセットされ(ステップS93)、以下に述べる通常の逆転方式の始動制御が継続される(ステップS95)。
点火D1後、燃料気化時間を考慮に入れ、停止時圧縮行程気筒12Aに2回目の燃料噴射J3が行われる。燃料噴射J3の噴射量は、燃料噴射J1の噴射量とを合計した噴射量に基づく全体の空燃比が可燃空燃比(下限は7〜8)よりも更にリッチ(例えば6程度)になるように設定される。この燃料噴射J3の気化潜熱によって、停止時圧縮行程気筒12Aの圧縮上死点(第1TDC。時点t13)付近の圧縮圧力が低減するので、少ないエネルギー消費量で第1TDCを越えることができる。
なお、通常の逆転方式の始動制御において、停止時圧縮行程気筒12Aへの燃料噴射J3は、専ら筒内の圧縮圧力を低減させるためになされるものであって、これに対する点火D3は行われず、燃焼しない(可燃空燃比よりもリッチなので自着火も起こらない)。この不燃燃料は、その後、排気通路22の排気浄化装置37によって無害化され、排出される。
上記のように停止時圧縮行程気筒12Aでの燃料噴射J3による燃焼が行われないので、停止時膨張行程気筒12Bでの最初の燃焼に続く次の燃焼は、停止時吸気行程気筒12Cでの最初の燃焼となる。停止時吸気行程気筒12Cのピストン13が圧縮上死点(第2TDC。時点t14)を越えるためのエネルギーとして、停止時膨張行程気筒12Bにおける初回燃焼のエネルギーの一部が充てられる。停止時膨張行程気筒12Bにおける初回燃焼のエネルギーは、停止時圧縮行程気筒12Aが第1TDCを超えるためと停止時吸気行程気筒12Cが第2TDCを越えるためとの両方に供される。従って、円滑な始動のためには停止時吸気行程気筒12Cが第2TDCを越えるためのエネルギーが小さいことが望ましい。
また、停止時吸気行程気筒12Cは、エンジン停止中にサージタンク21b内で滞留して高温になった空気を最初に吸気する気筒である。このため、その圧縮行程における筒内温度が高くなりがちである。そのため、第2TDC前の圧縮行程で自着火してしまう虞がある。このような自着火が起こると、その燃焼によって第2TDC前に停止時吸気行程気筒12Cのピストン13を下死点側に押し戻す逆トルクが発生する(いわゆる温間ロック)。これはその分第2TDCを越えるためのエネルギーを多く消費するので望ましくない。
そこで、停止時吸気行程気筒12Cが第2TDCを越えるためのエネルギーを小さくするために、また自着火を起こさせないようにするために、停止時吸気行程気筒12Cへの燃料噴射J4が第1TDC後の圧縮行程において行われる。
燃料噴射J4が行われると、その気化潜熱によって圧縮圧力が低減するので、第2TDCを越えるための必要エネルギーが低減する。すなわち第2TDCが超えやすくなる。その噴射時期は、エンジンの自動停止期間、吸気温度、エンジン水温等に基いて、圧縮行程内の適宜タイミングとなるように設定される。そしてその後の点火D4は、第2TDC以降に遅延して行われる。そのため、点火D4による燃焼圧が第2TDCを超える妨げとならず、より第2TDCが超えやすくなっている。
また、燃料噴射J4の気化潜熱によって圧縮圧力が低減するので、第2TDC前の自着火が抑制され、温間ロックが効果的に防止される。燃料噴射J4の量は、筒内圧力の低減および第2TDC後のエンジントルクの増大のためには多い方が望ましい。しかし、多すぎると空燃比がリッチとなって逆に自着火を起こしやすくなったり、燃焼によって多くのスモーク(黒煙)を発生させたりする。従って、燃料噴射J4の量を多くしつつも、空燃比としては可及的にリーン側であることが望ましい。そのためには、停止時吸気行程気筒12C内に新気が多く含まれていれば良い。換言すれば、掃気が充分なされていれば良い。自動停止フラグF=1のとき、停止時膨張行程気筒12Bと同様、停止時吸気行程気筒12Cも特定モード運転において燃料噴射を停止する先行燃料停止気筒である。従って、停止時吸気行程気筒12Cでの掃気が充分なされているため、停止時吸気行程気筒12Cが継続稼動気筒である場合に比べ、燃料噴射J4の量を多く設定することができる。
また、図9には停止時吸気行程気筒12Cの開弁期間81を示すが、その閉弁時期がVVT39によってリタード(遅延)されている。これによっても圧縮行程の圧縮圧が低減されるので、上記温間ロックの抑制が一層効果的になされる。
時点t14以降は、停止時排気行程気筒12Dでの燃料噴射J5と点火D5が行われ、以下順次通常制御に移行して行く。
フローチャートを遡ってステップS75でNOと判定された場合について説明する。この場合、停止時圧縮行程気筒12Aでの点火D1による燃焼が不良であった、或いは失火したことを意味する。そのとき、初期点火から所定時間経過するまで(ステップS77でNO)は再度点火が行われる(ステップS78)。この点火によりステップS75でYESと判定されればステップS83に移行するが、点火を繰り返してもステップS75がNOのまま所定時間を経過した場合(ステップS77でYES)には、燃焼による再始動が困難と判定し、スタータ36によるバックアップ始動を行う(ステップS80)。すなわちスタータ36によってクランクシャフト3に正転方向のトルクを付与してエンジンを再始動させる。以下は自動停止フラグFをリセットして(ステップS81)リターンする。
ところで、当実施形態では停止時圧縮行程気筒12Aは継続稼動気筒である。これは、停止時圧縮行程気筒12Aが先行燃料停止気筒である場合よりも掃気性が不利であり、ステップS75でNOと判定される可能性が比較的高い。そのような場合でも、スタータバックアップ始動モードにより確実に再始動を行うことができる。
さらにフローチャートを遡って、ステップS63でNOと判定された場合、つまりエンジン再始動条件成立直後に自動停止フラグF=2と判定された場合について説明する。このとき、さらに迅速始動要求の有無が判定される(ステップS65)。これは、ステップS61の再始動条件成立の内容によって判定される。例えば、ブレーキオフやアクセルオン等、発進や最加速に関係する事項で再始動条件が成立した場合には迅速再始動性要求度合が高いので、YESと判定される。
自動停止フラグF=2であるということは、図6のステップS33〜S38に示すように、ピストン13の停止位置が適正停止範囲R内にないか、または停止時膨張行程気筒12Bが先行燃料停止気筒とならなかったということである。つまり、停止時膨張行程気筒12Bと停止時圧縮行程気筒12Aとの燃焼エネルギーのバランスが適正でなかったり、停止時膨張行程気筒12Bの掃気が不充分であったりして、停止時膨張行程気筒12Bの点火D2による燃焼エネルギーが充分得られない虞がある。この場合、いったん逆転始動方式を試み、それが成功しなかったときにバックアップ始動モード(ステップS80と同様の制御)に切換えるようにしても良いが、そうすると結果的に始動遅れとなる懸念がある。特に迅速再始動性要求度合が高い場合には、その始動遅れが発進遅れや加速のもたつき等を招いてしまう。そこでステップS65でYESと判定された場合には、最初からスタータ36によるアシスト始動を行う(ステップS66)ことにより、始動遅れを確実に防止することができる。
ステップS66のスタータアシスト始動モードでは、上述したような逆転始動方式の制御を行わず、最初から停止時膨張行程気筒12Bに燃料を噴射し、点火して燃焼を行わせる。つまり正転方向の始動となる。またその燃焼に同期させてスタータ36を作動させ、クランクシャフト3に正転方向の駆動力を付与する。従って、たとえ停止時膨張行程気筒12Bにおける燃焼エネルギーが充分得られなくても、スタータ36の補助によって迅速で円滑な再始動を行うことができる。その後、自動停止フラグFをリセットして(ステップS67)リターンする。
一方、ステップS65でNOの場合、例えばエアコンオン等によって再始動条件が成立した場合には、ある程度の再始動遅れは許容される状況である。この場合には自動停止フラグF=2であってもステップS71に移行し、逆転始動方式の制御を試みる。その結果、たとえ最終的にバックアップ始動モードでの再始動となったとしても、その始動遅れによって実害が発生することはない。一方、自動停止フラグF=2であっても、逆転始動方式での始動に成功する場合もある。その場合には、自動停止フラグF=2の場合に常にスタータアシスト始動モード(ステップS66)に切換えるものに比べ、スタータ36の使用回数を削減したことになる。つまりスタータ36の使用機会を、真に必要な場合のみに抑制することができる。結果的に、再始動に必要な迅速性の確保と、スタータ36の使用頻度の抑制とを両立させることができる。
また、自動停止フラグF=2のとき、ステップS86でYESと判定される。この場合は、まず停止時圧縮行程気筒12Aへの2回目の燃料噴射J3を行うとともに、タイマーTmのカウントを開始する(ステップS88)。そして所定の気化時間経過後(ステップS90でYES)、上死点TDC経過後に点火D3を行う(ステップS91)。すなわち自動停止フラグF=1の場合と異なり、燃料噴射J3に対する燃焼を行わせる。このときの噴射量は、可燃空燃比の範囲に調整される。
また燃焼のための新気は、点火D1による燃焼で消費された空気の残余の空気と、逆転中に(下死点近くで)吸気弁19が開弁する場合にはその吸気弁19から導入される空気とが充てられる。停止時圧縮行程気筒12Aが先行燃料停止気筒となった場合(停止時膨張行程気筒12Bが先行燃料停止気筒とならなかった場合)には、停止時圧縮行程気筒12Aの掃気が促進されているので、点火D1による燃焼で消費された空気の残余の空気が比較的多いことが期待できる。
このように、自動停止フラグF=2であって、停止時膨張行程気筒12Bでの点火D2による燃焼エネルギーが充分でない場合であっても、停止時圧縮行程気筒12Aでの燃焼によって正転方向にトルクを補い、より円滑な再始動を図ることができる。
なお、この場合の燃料噴射J3は、正転後の圧縮行程の後半で行えば筒内圧が低減するので圧縮上死点TDCを超え易くなり、逆転中の後半(下死点近く)で行えば、筒内圧が低減するので、過逆転(下死点を超えて更に前の吸気行程まで逆転してしまうこと)の防止に寄与することができる。
ステップS91の後は自動停止フラグFをリセットし(ステップS93)、上記自動停止フラグF=1の場合と同様の始動制御に移行する。
以上、本発明の実施形態について説明したが、この実施形態は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。その変形例を以下に説明する。
(1)上記実施形態における完全停止後の再始動制御では、自動停止フラグF=1のとき、エンジン再始動時にエンジンをいったん逆転作動させてから正転作動させるものとされているが、最初から正転作動だけで再始動させるものであってもよい。ただし、エンジンをいったん逆転作動させると、停止時膨張行程気筒12Bの燃焼エネルギーが高まることから、より確実にエンジンを再始動させることができる。
(2)上記実施形態では、エンジン自動停止制御を行う車速域を3段階に分け、比較的高車速(12km/h超)では比較的エンジン回転速度の高い特定モード運転を行い、それよりも低速域(7km/h超、12km/h以下)では比較的エンジン回転速度の低い特定モード運転を行い、極低速域(7km/h以下)では特定モード運転を行わないようにしたが、必ずしもそのようにする必要はない。
例えば、エンジン自動停止制御を行う車速域を適宜車速で2段階に分け、比較的高車速域では比較的エンジン回転速度の高い特定モード運転を行い、低速域では比較的エンジン回転速度の低い特定モード運転を行うようにしても良い。或いは、比較的高車速域では特定モード運転を行い、低速域では特定モード運転を行わないようにしても良い。さらには、エンジン自動停止制御を行う車速域を分割せず、全域においてエンジン回転速度の等しい特定モード運転を行うようにしても良い。
(3)上記実施形態では、説明の都合上、#1気筒12Aを停止時圧縮行程気筒、#2気筒12Bを停止時膨張行程気筒、#3気筒12Cを停止時吸気行程気筒、#4気筒12Dを停止時排気行程気筒であるとしたが、必ずしもそのようにする必要はなく、また自動停止する度に変動しても良い。但し着火順序は変動しないので、どの気筒が停止時膨張行程気筒であるかが決定すれば、他の気筒は一義的に決定する。
(4)上記実施形態では、ATがドライブ状態のままエンジンを自動停止させるものを挙げたが、必ずしもそれに限定するものではなく、ATをニュートラル状態としてエンジンを自動停止させるものに適用しても良い。なお、ATのドライブ状態またはニュートラル状態とは、その動力伝達形態を指すものであり、必ずしも運転者が操作するシフトレバー等のポジションと一致するものではない。例えば、シフトレバーのポジションが「D」レンジであっても、AT内部の動力伝達系(油圧クラッチ等)を解放することにより、ATをニュートラル状態とすることができる。