JP2007270267A - 曲げ加工性及び寸法安定性に優れた高強度銅合金 - Google Patents

曲げ加工性及び寸法安定性に優れた高強度銅合金 Download PDF

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Abstract

【課題】従来と同等の強度及び曲げ加工性を有しながら、更にプレス加工精度を向上させたチタン銅を提供する。
【解決手段】Tiを2.0〜4.0質量%含有し、第3元素群としてMn、Fe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0.05〜0.50質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物からなる銅合金において、断面検鏡による観察で、結晶粒界に存在する第二相粒子の面積率が第二相粒子全体の面積率の70%以下であり、面積1.0μm2以上の第二相粒子の数密度が20個/10000μm2以下である電子部品用銅合金。
【選択図】図4

Description

本発明は、電子部品用のチタン銅に関し、特にコネクター用のチタン銅に関する。また、本発明はチタン銅を用いて作製した電子部品に関し、特にチタン銅を用いて作製したコネクターに関する。
近年では携帯端末などに代表される電子機器の小型化が益々進み、従ってそれに使用されるコネクターは狭ピッチ化及び低背化の傾向が著しい。小型のコネクターほどピン幅が狭く、小さく折り畳んだ加工形状となるため、使用する素材には、必要なバネ性を得るための高い強度と、過酷な曲げ加工に耐え得る優れた曲げ加工性が求められる。また、小型のコネクターほどバネたわみ量が少ないので、嵌合したときに全てのピンが規定の接触圧力を得られるようにするためには、プレス加工での寸法安定性も要求される。
この点、チタンを含有する銅合金(以下、「チタン銅」と称する。)は、比較的強度が高く、応力緩和特性にあっては銅合金中最も優れているため、特に素材強度が要求される信号系端子用素材として、古くから使用されてきた。しかしながら、以上のような電子機器の軽薄短小化が急速に進展する中で、素材の特性に対する要求レベルは益々高度化し、従来のチタン銅では対処できなくなっているため、新たな素材の開発が要望されていた。
チタン銅は時効硬化型の銅合金である。具体的には、溶体化処理によって溶質原子であるTiの過飽和固溶体を形成させ、その状態から低温で比較的長時間の熱処理を施すと、母相中に変調構造が発達する。強度の向上は、変調構造の発達初期より見られ、後に続いて延性も向上する。ここで変調構造とは、母相中のTi濃度の周期的変動であり、その発達段階の或る時期において、強度はピークを迎える。それより時効し過ぎると、いわゆる過時効の状態となり、強度が低下してしまう。また過時効では、粒界に安定相が析出するので、粒界のフレキシビリティが失われて延性も低下する。準安定相である変調構造は、過飽和固溶体から生じる変化であり、安定相からは変化し得ない。つまり、溶体化処理で固溶仕切れなかった部分、すなわち安定相が残存してしまうと、その分は時効中、変調構造の発達に寄与しない。よって、溶体化処理では、全てのTi成分を固溶させることが、最終的な強度をより高くするのに重要である。
また、チタン銅も他の銅合金と同様に結晶粒を微細化することにより特性の向上を図ることができる。すなわち、結晶粒径の逆数の平方根と降伏応力又は耐力が比例する所謂Hall-Petch則がほぼ成立しているのである。チタン銅の標準的な製造工程において、最終の溶体化処理が再結晶焼鈍に相当するため、この溶体化処理中に生じる再結晶粒の成長をいかに抑制するかが、より高い強度を得るのに重要となってくる。
従って、チタン銅の特性を向上させるための基本的な方針としては安定相であるTiCu3の析出抑制と結晶粒の微細化を同時に図ることである。しかしながら、結晶粒が微細化する温度(例えば750〜775℃)で再結晶焼鈍(溶体化処理)を行うと安定相であるTiCu3が多量に析出し、一方、チタンを完全に固溶させる温度(例えば800℃以上)で溶体化処理(再結晶焼鈍)すると再結晶粒が粗大化しやすいという問題があった。
そこで、上記課題を解決するための試みとして各種の手法がこれまで提案されているが、その代表的なものは、第3元素を微量添加してこれを第二相粒子として析出させることにより、Tiが充分固溶する温度で溶体化処理をしても結晶粒が容易に微細化するという知見に基づく手法である。この第二相粒子の分布状態は曲げ加工性に影響し、微細且つ均一に分散させることが望ましいとされている。
例えば、特開2004−176163号公報では、変調構造の規則性を高くすることが、強度と曲げ加工性を得るのに重要であるという観点から、それを乱すのが母相中に固溶する不純物元素群(Pb、Zn、Mn、Fe、Co、Ni、S、Si、Al、P、As、Se、Te、Sb、Bi、Au及びAg)であるという事実に注目し、それらの合計含有量を0.1質量%以下に規定するとともに、これらの元素群を第二相粒子(Cu−Ti−X系粒子)として析出させることで、母相中に固溶しているこれらの元素群の含有量を無視できるレベルに微量化する技術が記載されている。また、不純物元素が主成分の第二相粒子は、その存在密度が少ない中でも、結晶粒成長の抑制にできるだけ寄与するように、その分布形態が規定され、優れた曲げ加工性を実現したチタン銅合金が記載されている。該分布形態について、例えば、断面検鏡によって観察される面積0.01μm2以上の第二相粒子の粒子密度を1〜100個/100μm2とすること等が記載されている。
そして、そのようなチタン銅を得るためには、950℃以上で1時間以上(実施例では980℃×24時間としている。)の均質化焼鈍を行うことや、最終冷間圧延前の溶体化処理では少なくとも600℃までは昇温速度を20℃/秒以上とすること、該溶体化処理はTiの固溶限が添加量よりも大きくなる温度まで加熱すること、時効処理は420℃で200分程度が好ましい等が記載されている。
特開2005−97638号公報には、結晶粒を微細化させるのに有効な微量添加元素と第二相粒子の密度を規定する技術が記載されている。特開2004−176163号と異なるのは、強度と曲げ加工性を得るための手段として、変調構造の規則性よりも、結晶粒の微細化に重点を置き、その手段として微量添加元素を添加し、その場合の第2層粒子の存在形態を規定している点である。具体的には、第3元素群(Fe、Co、Ni、Si、Cr、V、Zr、B、P)の合計含有量を0.01〜0.50質量%とし、断面検鏡によって観察される面積0.01μm2以上の第二相粒子の平均粒子密度が10個/μm2以下であり、平均結晶粒径が1.0〜10.0μmであるとしている。そのようなチタン銅を得るためには、950℃以上で1時間以上(実施例では980℃×12時間としている。)の均質化焼鈍を行うこと、最終冷間圧延加工前の溶体化処理ではTiが完全に固溶する温度まで急速に加熱し、冷却速度も速くすること、溶体化処理後の冷間圧延加工度を50%未満とすること、時効処理は400℃×1h〜400℃×3hが好ましい等が記載されている。
特開2005−97639号公報には、結晶粒を微細化させるのに有効な微量添加元素と第二相粒子の存在位置を規定する技術が記載されている。特開2005−97638号と異なるのは、曲げ加工性をより重視したもので、良好な曲げ性を得るには結晶粒界のフレキシビリティが必要であるという点に着目し、それを損なう粒界析出の割合を規定しているのである。具体的には、第3元素群(Fe、Co、Ni、Si、Cr、V、Zr、B、P)の含有量を0.01〜0.50質量%とし、結晶粒界に存在する第2粒子の面積率が、第二相粒子全体の面積率の70%以下であるとしている。そのようなチタン銅を得るためには、950℃以上で1時間以上(実施例では980℃×12時間としている。)の均質化焼鈍を行うこと、溶体化処理ではTiが完全に固溶する温度まで急速に加熱し、冷却速度も速くすること、溶体化処理後の冷間圧延加工度を25%以下とすること、時効処理の温度は高くても380℃程度で3時間とすること等が記載されている。
特開2004−176163号公報 特開2005−97638号公報 特開2005−97639号公報
上記の発明により得られるチタン銅は強度や曲げ加工性において優れた特性を有しているので、コネクターの小型化に必要な素材側の条件のうちの2つまでを有していると考えられるが、もう一つの重要な条件である寸法安定性に関しては、全く言及されていない。すなわち、いくら素材の強度と曲げ加工性を向上させたとしても、小型コネクターを規格通りに安定して生産できなければ、実用的とはいえないのである。具体的には、従来のチタン銅素材を用いて小型(例えばピン幅が板厚の1.5倍程度)のコネクターピン形状にプレス加工した場合、ピン毎の寸法が充分には均一化されないという問題がある。ここで、寸法安定性とは、同じ金型でプレスしたときの加工形状のばらつきであり、素材の変形抵抗の局所的なばらつきが主因となっている。
そこで、本発明の一課題は、従来と同等の強度及び曲げ加工性を有しながら、更に寸法安定性を向上させたチタン銅を提供することである。
また、本発明の別の一課題は、そのようなチタン銅を用いた電子部品、とりわけコネクターを提供することである。
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究したところ、上記の発明により得られるチタン銅を10,000μm2の広い視野でSEM観察すると、面積1μm2以上の粗大な第二相粒子がかなりの数で点在し、これがチタン銅に対する寸法精度に特に悪影響を及ぼすことが分かった。そこで、粗大な第二相粒子の分布状況に着目して調査した結果、断面検鏡にて観察される面積1μm2以上の第二相粒子の数密度を20個/10,000μm2以下とすることで、現在開発されている中で最も小さなコネクター(ピン幅が板厚の1.5倍程度)のプレス加工においても十分なプレス加工精度が得られることが判明した。
以上の知見に基づいて完成された本発明は、一側面において、Tiを2.0〜4.0質量%含有し、第3元素群としてMn、Fe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0.05〜0.50質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物からなる銅合金において、断面検鏡による観察で、結晶粒界に存在する第二相粒子の面積率が第二相粒子全体の面積率の70%以下であり、面積1.0μm2以上の第二相粒子の数密度が20個/10,000μm2以下である電子部品用銅合金である。
また、本発明に係る銅合金の一実施形態においては、断面検鏡による観察で、面積0.01μm2以上1.0μm2未満の第二相粒子の数密度が50〜2000個/100μm2である。
また、本発明に係る銅合金は別の一実施形態において、2.0〜15.0μmの平均結晶粒径を有する。
本発明は別の一側面において、上記銅合金を用いた伸銅品である。
本発明はまた別の一側面において、上記銅合金を用いて作製した電子部品である。
本発明はまた別の一側面において、上記銅合金を用いて作製したコネクターである。
本発明はまた別の一側面において、Cuに、Mn、Fe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0.05〜0.50質量%含有するように添加し、次いでTiを2.0〜4.0質量%含有するように添加してインゴットを製造する工程と、
前記インゴットを、900〜970℃にて3〜24時間均質化焼鈍する工程と、
次いで、元厚から加工度が90%となるまでのパスを900℃以上とし、1パス当たりの圧下量を10〜20mmとして960℃以下で熱間圧延する工程と、
次いで、加熱時間を850〜900℃で2〜10分として溶体化処理する工程と、
次いで、加工度70%〜99%で冷間圧延する工程と、
次いで、730〜840℃のTiの固溶限が添加量よりも大きくなる温度で0.5〜1.5分の加熱後に水冷する工程と、
次いで、10〜50%の加工度で冷間圧延する工程と、
次いで、360〜420℃で3〜24時間時効処理する工程と、
を含む銅合金の製造方法である。
以上説明したように、本発明によれば、Tiの含有量の適正化、第3元素の適正な微量添加及び第二相粒子の分布に制限を与えることにより、優れた強度及び曲げ加工性に加えて高い寸法安定性を同時に実現することができる。
Ti含有量
Tiが2質量%未満ではチタン銅本来の変調構造の形成による強化機構を充分に得ることができないことから十分な強度が得られず、逆に4質量%を超えると粗大なTiCu3が析出し易くなり、強度及び曲げ加工性が劣化する傾向にある。従って、本発明に係る銅合金中のTiの含有量は2.0〜4.0質量%であり、好ましくは2.5〜3.5質量%である。このようにTiの含有量を適正化することで、優れた強度及び曲げ加工性を共に実現することができる。
第3元素群
本発明では、第3元素群の添加を規定しているが、これらの元素の効果は微量の添加によりTiが十分に固溶する温度で溶体化処理をしても結晶粒が容易に微細化することである。また、第3元素群が第二相粒子として析出することにより母相中に固溶している該元素群の含有量は無視できるほど微量となるため、母相中に形成されるチタンの濃度波の波長や振幅に乱れが生ずることはなくなる。更に、TiCu3の析出を抑制する効果もある。そのため、チタン銅本来の時効硬化能が得られるようになる。本発明は析出硬化を狙った第3元素の積極的な添加ではなく、特定元素の微量添加により結晶粒の微細化を狙いとする点で、いわゆる析出硬化型の合金ではないことに留意すべきである。チタン銅において上記効果が最も高いのがFeである。そして、Mn、Co、Ni、Si、Cr、V、Nb、Mo、Zr、B及びPにおいてもFeに準じた効果が期待でき、単独の添加でも効果が見られるが、2種以上を複合添加してもよい。
これらの元素は、合計で0.05質量%以上含有するとその効果が現れだすが、合計で0.5質量%を超えるとTiの固溶限を狭くして粗大な第二相粒子を析出し易くなり、強度は若干向上するが曲げ加工性が劣化する。従って、本発明に係るチタン銅では、第3元素群としてMn、Fe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0.05〜0.50質量%含有する。
これら第3元素のより好ましい範囲は、Feにおいて0.17〜0.23質量%であり、Co、Ni、Cr、Si、V、Nb、Mn、Moにおいて0.15〜0.25質量%、Zr、B、Pにおいて0.05〜0.10質量%である。
第二相粒子
ここで、“第二相粒子”とは母相の成分組成とは異なる組成の粒子を指し、本発明で制御の対象としているのは、熱処理中に析出して母相と境界を形成するCuとTiを主成分とした粒子のことで、具体的にはTiCu3粒子、又は第3元素群の構成要素X(具体的にはMn、Fe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPの何れか)を含むCu−Ti−X系粒子として現れる。Cu−Ti−X系粒子は溶体化処理時又は溶体化処理前に形成させることができ、溶体化処理時の再結晶の成長を抑制する働きをもつ。
剪断加工において、被加工材中に内在する第二相粒子は、その打ち抜き性を左右する重要な因子である。剪断加工とは、板状の被加工材に剪断応力を与えることにより、切断する加工方法である(図1)。ダイ上に置かれた被加工材は、ストリッパによって固定され、パンチが押し込まれることによって、剪断応力が加えられる。この応力により、被加工材は剪断変形するが、ある程度パンチが押し込まれたところで、亀裂が生じ、さらにそれが板厚方向に伝播して、切断に至る。切断された面は、剪断変形により形成された剪断面と亀裂の伝播によって形成された破断面とに分けられる(図2)。そして、剪断加工中、塑性歪は被加工材の内部まで進行し、加工終了後も残存する。一方、被加工材中に内在する粗大な第二相粒子は、母相との整合性が悪く、塑性加工中はその周囲に歪が貯まりやすいので、塑性変形の連続性を阻害する。よって、剪断加工においては、粗大な第二相粒子が亀裂の起点となる。そして、発生した亀裂は、板厚方向に分布する第二相粒子に沿って伝播する。すなわち、剪断加工において、粗大な第二相粒子は切り取り線のような役割を果たす(図3)ので、このような第二相粒子は、切断面の形状及び塑性歪の形成に影響することになる。また、第二相粒子は、被加工材中にランダムに分布しているので、このような第二相粒子を多量に内在する場合は、切断面の形状がばらついてしまう。ここで、ピン幅が十分に広ければ、ピンの平坦性に及ぼす切断面の影響は無視できるが、ピン幅が狭くなると無視できなくなる。それは、剪断加工によって生じた塑性歪は、ピン幅全体に対してかなりの部分を占めるようになるからである。具体的には、板厚に対して、ピン幅が3倍以下になると、切断面の状況がピンの平坦性に影響するようになる。現在では、板厚0.1mmの素材から、ピン幅0.15mmのコネクターを得る高精細なプレス加工が求められており、このようなプレス加工では、切断面がピンの平坦性に及ぼす影響が非常に大きい。したがって、疲加工材中に、粗大な第二相粒子が多量に内在すると、精密加工製品の寸法安定性を低下させてしまうのである。
本発明では10,000μm2の比較的広い視野でSEM観察するとその存在が明瞭に確認できる面積1μm2以上の粗大な第二相粒子の分布を制御する点に特徴を有している。すなわち、本発明では、面積1.0μm2以上の第二相粒子の数密度を20個/10,000μm2以下、好ましくは15個/10,000μm2以下、より好ましくは5個/10,000μm2以下に制御することを特徴としている。炉材やフラックス、溶解原料中の不純物などのような外来の介在物の混入は避けられないので、このような粗大な第二相粒子であっても、数密度を0にすることは実際上困難であるが、本発明によれば5個/10,000μm2以下程度までは制御することが可能である。
また、面積0.01μm2以上1.0μm未満の第二相粒子は面積1.0μm2以上の第二相粒子に比べて寸法安定性に与える悪影響は決定的ではないが、あまり多いと曲げ加工性に悪影響を与えると共に面積0.01μm2未満の微細な第二相粒子の数の減少を招いき、逆に少なすぎても結晶粒の成長抑制効果が充分に得られないので適切な範囲とするのが好ましい。本発明に係る銅合金では面積1.0μm2以上の粗大な第二相粒子の生成を抑制した結果、面積0.01μm2以上1.0μm2未満の第二相粒子の数密度も制御されており、面積0.01μm2以上1.0μm2未満の第二相粒子の数密度は通常50〜2000個/100μm2であり、好ましくは100〜1000個/100μm2、より好ましくは200〜500個/100μm2である。
一方、面積0.01μm2未満の微細な第二相粒子は銅合金の特性にほとんど悪影響を与えることがない。微細な第二相粒子が多数均一に分散している状態は、本発明の製造工程が効果的に機能し、目的の再結晶粒が得られたことに対する側面である。本発明に係る銅合金における面積0.01μm2未満の第二相粒子の数密度を正確に特定することは測定技術上困難であるが、粗大な第二相粒子及び中間的な大きさの第二相粒子を上述したような分布状態に制御したことによって、結果的に面積0.01μm2未満の微細な第二相粒子が多数存在することとなった。本発明に係る銅合金をSEMにより断面検鏡するとそのような微細な第二相粒子が均一に分散しているのが実際に確認できる。
また、結晶粒界に第二相粒子が多数存在すると、粒界のフレキシビリティが失われ、曲げ加工時にはクラックの発生源と成り易い。即ち単相の場合の粒界は、傾角が柔軟に変化し易いため、塑性加工中に転位の滑り系が異なる粒の間に発生する応力を緩和する働きがあるが、粒界に第二相粒子が多数析出している場合は、それによって粒界が固定されるので、逆に歪が溜まってクラックが発生し易くなるのである。
具体的には、粒界に存在する第二相粒子の面積が第二相粒子全体の面積の70%を超えると曲げ加工性に著しく支障をきたすようになる。従って、本発明の一実施形態では、結晶粒界に存在する第二相粒子の面積率は第二相粒子全体の面積率の50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。第二相粒子の結晶粒界における面積率を0にすることは実際上困難であるが、本発明によれば10%以下程度までは制御することが可能である。なお、第二相粒子全体の面積は、面積が0.01mm2以上である第二相粒子の面積の総和してもよい。第二相粒子の面積が0.01mm2未満であれば、その影響はほとんど無視することができるからである。
結晶粒径
結晶粒が小さいほど、強度と曲げ性は向上する。しかし極端に小さくなると、応力緩和特性が低下してしまう。チタン銅の優れた応力緩和特性は、変調構造によるものであるが、粒界ではそれが途切れているため、粒界が多いほど、言い換えれば結晶粒が小さいほど応力緩和しやすいのである。しかし、その傾向が見られるのは、結晶粒径が2.0μm未満のときであり、3.0μm以上であれば、応力緩和特性に対する影響は殆どない。チタン銅ではどのような再結晶焼鈍を行っても、2.0μm以下の微細粒を得ることは難しいので、通常の溶体化処理では、可能な限り結晶粒を微細化したほうが良い。本発明では、微量添加した第3元素群が、先述したような分布状態で第二相粒子として析出するため、通常のチタン銅よりも格段に結晶粒を微細化することができる。本発明に係る銅合金は一実施形態において、2〜15μm、好ましくは3〜12μm、より好ましくは4〜10μmの平均結晶粒径を有することができる。
本発明に係る銅合金の特性
本発明に係る銅合金は、優れた強度及び曲げ加工性を有する。例えば、0.2%耐力が850MPa以上、好ましくは900MPa以上を有することができ、W曲げ試験を行って割れの発生しない最小半径(MBR)の板厚(t)に対する比であるMBR/t値は2.0以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下である。
また、本発明に係る銅合金は曲げ加工をしたときに曲げ部外周部にクラックが発生しにくいばかりではなく、曲げ部の板厚が一様に均一となる性質を有する。本発明に係る銅合金がこのような性質を有しているのは、板厚方向の圧縮変形抵抗が他の方向の変形抵抗に比べて比較的高く、曲げ加工時に板厚方向のネッキングが起こりにくいからである。これは、ばね材として大変重要な性質である。なぜなら仮に曲げ部の板厚が均一ではなく、板厚方向のネッキング部があると、そこに応力が集中してばね性を低下させることになるからである。本発明が提供する合金において、板厚方向の圧縮変形抵抗が他の方向の変形抵抗に比べて高くなっている理由はまだ解明していないが、製造工程の改良や微量添加元素によって、更に向上すると考えられ、現在も引き続き研究中である。
本発明に係る銅合金は精密プレス加工での寸法安定性も高い。そのため、例えば小型のコネクターピンを作製したときにピン毎の寸法の均一性が高くなる。また、本発明で添加する第3元素群は結晶粒の微細化を目的として極微量添加するだけであるので、プレス金型の摩耗を促進させる硬質の析出物はほとんど析出しない。また、剪断加工においては、べリリウム銅のノンミルハードン材でみられるような剪断面を長く引きずる局所伸びは生じないので、プレス金型の凝着摩耗も少ない。よって、連続プレスによって、精密部品を加工する際、頻繁に金型を研磨しなくても、高い寸法精度を維持できるものと考えられる。
従って、本発明に係る銅合金は種々の板厚の伸銅品に加工することができ、各種の電子部品の材料として有用である。本発明に係る銅合金は特に高い寸法精度が要求される小型のばね材として優れており、限定的ではないが、スイッチ、コネクター、ジャック、端子、リレー等の材料として好適に使用することができる。
本発明に係る銅合金の製造方法
本発明に係る銅合金は、上述したように、微細な第二相粒子を析出させて強度を向上させる析出硬化型の合金ではなく、母相中のチタン濃度が周期的に変動する、いわゆる変調構造の発達によって、素地を強化させる銅合金である。そして、チタン銅中に形成しやすい析出物は、TiCu3相のように、析出硬化に寄与しないばかりか曲げ加工性を低下させるものが多い。それらの有害な析出物は、溶体化処理温度が低い場合と時効温度が高い場合に形成しやすい。変調構造を最大限効果的に発達させる時効温度は、第二相粒子が析出する温度よりも低温側の領域である。よって、第二相を完全に固溶させる溶体化処理を行って、適正な時効処理を施せば、有害な第二相粒子はほとんど形成されない。また、溶体化処理と時効処理の間に冷間加工をすると最終的な強度が高くなる。よって、チタン銅の基本的な仕上げ工程(「下工程」ともいう。)は、溶体化処理→冷間圧延→時効処理である。このときの加工度が高いほど最終的な強度が高くなるが、延性は逆に低下するという性質がある。
従って、本発明に係る銅合金を製造するに当たっての仕上げ工程の基本思想は、チタンが完全に固溶する温度で溶体化処理を行い、質別を調整するための適度な加工度の冷間圧延を行って製品板厚とし、安定相が発達しにくい比較的低温で時効処理を行うということである。溶体化処理温度が高いほど、析出物が固溶する速度も速いので、十分な溶体化処理を行うには溶体化処理温度が高いほど望ましいといえる。しかし、あまり高温で行うと、再結晶粒を微細化させるために第3元素群が添加されていても、再結晶粒が粗大化するので注意する必要がある。
また、チタン銅の場合、中間圧延前の素条段階で粗大な第二相粒子が多数存在していると、圧延中はその周囲にオロワンループが形成されるのみで、第二相粒子は殆ど分断されずに、元の大きさを保ったまま残存してしまう。そして、下工程の溶体化処理を十分に高温(例えば900℃)で行えば、このような粗大な第二相粒子であっても固溶させることができるが、上述したように再結晶粒が粗大化してしまうので、このような高温で行うことが出来ない。よって、素条段階で粗大な第二相粒子が多数存在すると、最終工程を終えても残存してしまう。粗大な第二相粒子は、プレスの金型を摩耗させやすく、金型摩耗によるプレス加工品の寸法精度の低下も懸念される。よって、粗大な第二相粒子はできるだけ上工程の段階で消失させておくことが望ましい。
そこで、まずは予め上工程で十分な溶体化処理を行い、最終の溶体化処理の負担を軽減しておくのがよい。予め十分な溶体化処理を行っておけば、最終の溶体化処理では、新たに析出させない程度に再結晶焼鈍するだけでよいので再結晶粒の粗大化を阻止することができる。具体的には平衡状態図上での固溶限よりほんの僅か高温側の温度まで加熱して急冷すれば十分である。ここで上工程とは、製品板厚の5倍以上、好ましくは10倍以上の板厚にある素条段階での工程のことである。また、十分な溶体化とは、第二相が完全に消失する温度で第二相が消失するまで溶体化処理を行うことである。但し、不必要に高温で行うと、固溶していた第3元素群が、表面から進入して拡散してきた酸素によって、表層部より内部酸化してしまうので好ましくない。添加した第3元素群の酸化しやすさにもよるが、950℃を超える高温に加熱するとこの傾向が強くなる。よって、上工程で行う溶体化処理の好ましい温度範囲は850〜900℃である。
このように上工程で行う十分な溶体化処理は、本発明を得る上で重要な工程の一つである。しかし、素条段階でTiの偏析が大きく残存していると、850℃以上に加熱しても溶体化されない。Cu−Ti系の850℃におけるTiの固溶限は、約5.0wt%である。よって、5.0wt%を超える濃度のTi偏析層が残存している状態で、850℃に短時間の加熱をすると、Ti濃度の高い第二相粒子が析出してしまう。しかも、高温なために、このときに生じる第2粗粒子は粗大化してしまう。ここで、高濃度部のTiが拡散するうえで十分な時間の加熱をすれば、850℃でも溶体化できるが、実機の溶体化処理設備は連続ラインであるため、短時間の加熱しかできない。この時点で粗大な第二相粒子が生じてしまうと、後工程の溶体化処理では固溶せず、最終工程を終えても残存してしまうので、極力低減させておかなければならない。そのためには、素条段階でTiの偏析を極力低減させておく必要がある。一般に、偏析の低減には熱間圧延前に均質化焼鈍を行っておくことが有効であるとされる。
一方、Cu−Ti系合金は固液共存領域も広いため凝固偏析が生じやすく、第3元素を添加した場合は、更に偏析が生じやすくなる。よって、インゴットの状態で十分な均質化焼鈍を行うには長時間の加熱を要し、実操業上支障をきたす。具体的にはTiの偏析層を5.0%以下にするには、950℃以上で10時間以上の加熱時間が必要になってしまうのである。しかもこのような高温で10時間以上も焼鈍を続けることは、実操業上極めて非効率であるばかりでなく、インゴット表面からの粒界酸化が進行し、それが熱間圧延中に押し込みキズとなるので、品質上の問題も生じてしまう。
しかし、この問題については、以下に説明するように熱間圧延条件を工夫することによって、均質化焼鈍が940〜960℃にて3〜5時間程度で済むようになるため、解決することができる。熱間圧延とは再結晶温度以上で行う圧延のことである。そのため、圧延中に再結晶が生じ、加工歪が集積することはないので、ランダムな方位の再結晶組織が形成される。すなわち、再結晶により凝固組織が壊され、転位のすべり系が縦横無尽に発達するので、内部成分が良く混じりあい、偏析が低減する効果もある。
通常の熱間圧延では、板厚200mm程度のスラブを10mm以下の板厚のコイルにすることが目的であり、そのためには15〜20パスを必要とする。熱間圧延の場合は、ワークロールが材料から受ける熱によって、熱膨張し、更に脆化することを防ぐために、ワークロールに水をかけて冷やしながら圧延するうのが通常であるが、このときの冷却水によって、加工の材料も冷やされることになる。特に板厚が薄くなるにつれて表面積が増大するので、冷えやすくなる。そのため、通常の方法で熱間圧延したのでは全体の加工度が80%を超えるまでに材料温度が900℃よりも下がることになる。チタン銅の場合、900℃よりも材料温度が下がってしまうと、Ti濃度が低い部分が優先的に変形され、Tiが濃化した部分は変形抵抗が高いので、薄く延ばされずに残存するようになる。
そこで、熱間圧延は、元厚から全体の加工度が90%までのパスを900℃以上で行うのが好ましい。例えば板厚が200mmのスラブの場合は、板厚が20mmになるまでは、材料温度を900℃以上に保つということである。チタン銅は900℃以上では拡散速度及び塑性流動性が高く、Ti濃度の違いによる変形抵抗に差異が生じないので、このようにすることで偏析層が分断されて均質化が助長される。例えば、圧延機のラインテーブルに誘導加熱装置を取り付けて、板厚が薄くなっても冷えないように加熱し続けるという方法によってこの条件を達成することができる。なお、加工度は{(圧延前の厚み−圧延後の厚み)/圧延前の厚み×100%}で定義される。
また、チタン銅の場合、偏析部ではチタンが濃化して低融点となっているため、960℃を超える加熱をすると、液相が出現して、そのまま熱間圧延をするとその部分で割れるという液体金属脆性が生じてしまう。よって、960℃を超える温度での加熱は不都合であるので、熱延前の加熱温度は960℃以下とするのが好ましく、圧延中も材料温度を960℃以下に保つのが好ましい。
更に、熱間圧延中、パス毎に適度な再結晶を起こしてTiの偏析を効果的に低減するために、1パスあたりの圧下量を10mm以上にする必要があり、板厚が50mm以下の場合は、1パスあたりの加工度を20%以上とするのが良い。ここで、初期パスの加工度があまりにも高すぎると、加工熱によって、材料内部の温度が必要以上に上昇し、液相が出現することがあるので、望ましくない。よって、1パスあたりの好ましい圧下量は10〜15mmである。
このように均質化焼鈍を短時間で行い、適度な条件で熱間圧延を行うことによりTiの偏析は低減され、850〜900℃で行う溶体化処理によって、Tiは濃度ムラ無く完全に固溶する。その上で中間の冷間圧延を行い、その後の最終の溶体化処理では第二相の固溶限直上付近の温度で行えばよい。このとき実際の系では揺らぎがあるので、第3元素を含有した第二相粒子が微細に析出する。上述したように、粗大な第二相粒子は曲げ性を害し、強度にも寄与しないので、極力少なくすることが望ましいが、微細かつ均等に分散していれば、強度と曲げ加工性に及ぼす影響は極めて小さい。一方、最終の溶体化処理温度を低温側にシフトしていくと、第二相がラメラ状に高速析出する現象がみられる。このような組織が現れると強度と曲げ加工性が顕著に劣化する。
したがって、本発明に係るチタン銅を作りこむための基本工程は、
「インゴットの製造→短時間の均質化焼鈍→十分な加工度及び加工温度での熱間圧延→上工程での十分な溶体化処理(第1次溶体化処理)→冷延(中間圧延)→第二相粒子成分の固溶限の直上での溶体化処理(最終の溶体化処理)→調質冷間圧延(最終冷間圧延)→時効」
である。第1次溶体化処理までは、規定の成分に溶製後、鋳造し、熱延を経て、冷延、焼鈍を適当に繰り返せばよく、熱延後すぐに第1次溶体化処理を行っても良い。
以下、本発明に係る銅合金の製造方法の好適な例を工程毎に順次説明する。
1)インゴット製造工程
溶解及び鋳造によるインゴットの製造は、基本的に真空中又は不活性ガス雰囲気中で行う。溶解において添加元素の溶け残りがあると、強度の向上に対して有効に作用しない。よって、溶け残りをなくすため、FeやCr等の高融点の添加元素は、添加してから十分に攪拌したうえで、一定時間保持する必要がある。一方、TiはCu中に比較的溶け易いので第3元素群の溶解後に添加すればよい。従って、溶製に関しては、適当量のCuに第3元素群としてMn、Fe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPの中から1種以上を0.01〜0.50質量%添加し、十分保持した後にTiを2〜4質量%添加する。
2)インゴット製造工程以降の工程
インゴット製造工程後には950℃で3〜5時間の均質化焼鈍を行う。次いで熱間圧延を所定条件、すなわち、加熱温度について、熱延前及び熱延中は960℃以下とし、且つ、元厚から全体の加工度が90%までのパスは900℃以上とする。そして、板厚が50mmまでは、パスごとの圧下量を10mm以上とし、板厚が50mm以下からは、1パス当たりの加工度が20%以上となるようなパススケジュールで行う。1パスあたりの圧下量は10〜15mmとする。この段階で凝固偏析や鋳造中に発生した晶出物をできるだけ無くすことが望ましい。後の溶体化処理において、第二相粒子の析出を微細かつ均一に分散させるためであり、混粒の防止にも効果があるからである。
3)第一溶体化処理
その後、冷延と焼鈍を適宜繰り返してから溶体化処理を行う。途中の焼鈍でも温度が低いと第二相粒子が形成されるので、この第二相粒子が完全に固溶する温度で行う。第1次溶体化処理は加熱温度を850〜900℃とし、3〜10分間行えばよい。そのときの昇温速度及び冷却速度においても極力速くし、第二相粒子が析出しないようにする。それは、第二相粒子が完全に固溶した状態から後の最終の溶体化処理を行った方が、微細で均質な組織が得られるからである。
4)中間圧延
最終の溶体化処理前の中間圧延における加工度を高くするほど、最終の溶体化処理における第二相粒子が均一かつ微細に析出する。それは、集積した加工ひずみが再結晶の核生成サイトとなるので、加工度を高くしてひずみをためた方が、多数の再結晶核が生成するため、結晶粒が微細化するのである。但し、加工度をあまり高くして最終の溶体化処理を行うと、再結晶集合組織が発達して、塑性異方性が生じ、プレス整形性を害することがある。従って、中間圧延の加工度は好ましくは70〜99%である。
5)最終の溶体化処理
最終の溶体化処理では、析出物を完全に固溶させることが望ましいが、完全に無くすまで高温に加熱すると、結晶粒が粗大化するので、加熱温度は第二相粒子組成の固溶限付近の温度とする(Tiの添加量が2.0〜4.0質量%の範囲でTiの固溶限が添加量と等しくなる温度は730〜840℃であり、例えばTiの添加量が3質量%では800℃程度)。そしてこの温度まで急速に加熱し、冷却速度も速くすれば粗大な第二相粒子の発生が抑制される。また、固溶温度での加熱時間は短い程、結晶粒が微細化する。加熱時間は例示的には30〜60秒である。この時点で発生した第二相粒子は微細かつ均一に分散していれば、強度と曲げ加工性に対してほとんど無害である。しかし粗大なものは最終の時効で更に成長する傾向にあるので、有害である。
6)最終の冷延加工度・最終の時効処理
上記溶体化処理工程後、最終の冷間圧延及び時効処理を行う。最終の冷間加工によってチタン銅の強度を高めることができる。この際、加工度が10%未満では充分な効果が得られないので加工度を10%以上とするのが好ましい。但し、加工度が高いほど次の時効処理で粒界析出が起こり易いので、加工度を50%以下、より好ましくは25%以下とする。時効処理については、低温ほど粒界への析出を抑制することができる。同じ強度が得られる条件であっても、高温短時間側より低温長時間側の方が、粒界析出を抑制できるのである。従来技術において適正範囲とされていた420〜450℃では、時効が進むにつれて強度は向上するが、粒界析出が生じやすく、僅かな過時効でも安定相であるCuTi3が発生して曲げ加工性を低下させてしまう。従って、添加元素によっても適正な時効条件は異なってくるが、通常は360〜420℃で1〜24時間であり、380〜400℃で12時間〜24時間とするのが好ましい。390〜400℃では12〜18時間とし、380℃〜390℃では18〜24時間とするのがより好ましい。例えば400℃×12h、380℃×24hとすることができる。
次に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
本発明例の銅合金を製造するに際しては、活性金属であるTiが第2成分として添加されるから、溶製には真空溶解炉を用いた。また、本発明で規定した元素以外の不純物元素の混入による予想外の副作用が生じることを未然に防ぐため、原料は比較的純度の高いものを厳選して使用した。
まず、実施例1〜7及び比較例8〜12について、Cuに、Fe、Co、Ni、Cr、Si、V、Nb、Zr、B及びPを表1に示す組成でそれぞれ添加した後、同表に示す組成のTiをそれぞれ添加した。添加元素の溶け残りがないよう添加後の保持時間にも十分に配慮した後に、これらをAr雰囲気で鋳型に注入して、それぞれ約2kgのインゴットを製造した。
上記インゴットに対して均質化焼鈍、及びそれに続く熱間圧延を行い、板厚10mmの熱延板を得た。面削による脱スケール後、冷間圧延して素条の板厚(1.5〜2.0mm)とし、素条での第1次溶体化処理を行って、中間の板厚(0.18〜0.6mm)まで冷間圧延した。その後、急速加熱が可能な焼鈍炉に挿入して最終の溶体化処理を行い、酸洗による脱スケール後、冷間圧延して板厚0.15mmとし、不活性ガス雰囲気中で時効して発明例及び比較例の試験片とした。尚、成分組成、均質化焼鈍の条件、熱間圧延条件、素条での第1次溶体化処理条件、最終の冷間圧延加工度、時効条件については、表1〜3に示す通りとした。
面積10000μm 2 中に存在する面積1.0μm 2 以上の第二相粒子
SEM及び画像処理装置を用いて、圧延面を電解研磨してから組織観察を行い、それぞれ面積10000μm2中に存在する面積1.0μm2以上の第二相粒子の数を数えて任意の10箇所の平均を求めた(ρ値)。
結晶粒界に存在する第二相粒子の面積率
電界放出型オージェ電子分光分析装置(FE−AES)によって得られた任意の10箇所の結晶組織の画像(観察視野100μm2)を画像処理装置を用いて、単位走査視野に存在する面積0.01μm2以上の第二相粒子の面積をすべて測定し、その合計(x値)と粒界上に存在する第二相粒子のみの合計(y値)とから、結晶粒界に存在する第二相粒子の面積率z値(x÷y×100)を求めた。
面積10000μm 2 中に存在する面積0.01μm 2 以上1.0μm 2 未満の第二相粒子
観察視野10000μm2に存在する面積0.01μm2以上の第二相粒子を画像処理にて総べてカウントし、そのうち面積0.01μm2以上1.0μm2未満の粒子の数密度(v値)を求めた。
平均結晶粒径
平均結晶粒径は切断法により求めた。結晶粒径の測定は、圧延方向に直角な断面の組織を、エッチング(水(100mL)−FeCl3(5g)−HCl(10mL))により現出させ、切断法(JISH0501)に準拠して行った。ここでは、板幅方向の結晶粒径の平均値を平均結晶粒径とした。
Figure 2007270267
Figure 2007270267
Figure 2007270267
まず引っ張り試験を行って、JIS Z 2201に準拠して圧延平行方向の0.2%耐力を測定し、JIS H 3130に従って、Badway(曲げ軸が圧延方向と同一方向)のW曲げ試験を行って割れの発生しない最小半径(MBR)の板厚(t)に対する比であるMBR/t値を測定した。また、精密プレス加工をする上での寸法精度の評価としては、専用の金型を用いて、図7及び8に示すようなコネクターピン形状にプレス加工し、各ピンの高さを測定し、その標準偏差hσを求めた。ピンの高さのばらつきが少ないほど、寸法精度に優れることになる。
Figure 2007270267
表4から明らかなように、各発明例においては、いずれも0.2%耐力が850MPa以上でMBR/t値が2.0以下であり、高い強度と優れた曲げ加工性とを同時に実現していることがわかる。また、hσの値が0.01mm以下であり、優れた寸法精度を有していることが判る。
一方、比較例No.8は、最終の圧延加工度が高い上に時効温度が高いので粒界に安定相が析出してしまい、強度、曲げ加工性及び寸法精度が共に不十分となった。比較例No.9は、最終の溶体化処理温度が低いために、Ti、Co及びNiが充分に固溶せず、第二相がラメラ状に析出してしまい、強度、曲げ加工性及び寸法精度が共に不十分となった。比較例No.10は、上工程で行った第1次溶体化処理が不十分であるために、最終の溶体化処理で第二相が固溶しきれず、強度、曲げ加工性及び寸法精度が共に不十分となった。比較例No.11においては、第3元素群の添加量の合計値が0.5質量%を超えているために、第二相粒子が必要以上に析出してしまい、曲げ加工性及び寸法精度が不十分であった。比較例No.12は均質化焼鈍が足りないため、No.13は熱間圧延中の温度が低いため、No.14は熱間圧延での各パスの加工度が低いため、何れも素条段階でTiの偏析が残存してしまい、850℃での第1次溶体化処理では、偏析部が逆に粗大な析出物となってしまい、強度、曲げ加工性及び寸法精度が共に不十分となった。
プレス加工を示す図である。 剪断加工した板の切断面を示す図である。 素材中の第二相粒子が剪断加工に影響する様子を示した図である。 本発明に係る実施例1の銅合金の圧延面の内部組織を観察したときのSEM写真である。 比較例10の銅合金の圧延面の内部組織を観察したときのSEM写真である。 面積0.01μm2以上1.0μm2未満の第二相粒子の数密度が200個/100μm2程度に制御された組織の写真である。 寸法精度を調査したピンの配列を示す図である。 寸法精度を調査したピンの形状と寸法を示す図である。

Claims (7)

  1. Tiを2.0〜4.0質量%含有し、第3元素群としてMn、Fe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0.05〜0.50質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物からなる銅合金において、断面検鏡による観察で、結晶粒界に存在する第二相粒子の面積率が第二相粒子全体の面積率の70%以下であり、面積1.0μm2以上の第二相粒子の数密度が20個/10000μm2以下である電子部品用銅合金。
  2. 断面検鏡による観察で、面積0.01μm2以上1.0μm2未満の第二相粒子の数密度が50〜2000個/100μm2である請求項1に記載の銅合金。
  3. 2〜15μmの平均結晶粒径を有する請求項1又は2に記載の銅合金。
  4. 請求項1〜3の何れか一項に記載の銅合金を用いた伸銅品。
  5. 請求項1〜3の何れか一項に記載の銅合金を用いて作製した電子部品。
  6. 請求項1〜3の何れか一項に記載の銅合金を用いて作製したコネクター。
  7. Cuに、Mn、Fe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0.05〜0.50質量%含有するように添加し、次いでTiを2.0〜4.0質量%含有するように添加してインゴットを製造する工程と、
    前記インゴットを、940〜960℃にて3〜5時間均質化焼鈍する工程と、
    次いで、元厚から加工度が90%となるまでのパスを900℃以上とし、1パス当たりの圧下量を10〜15mmとして960℃以下で熱間圧延する工程と、
    次いで、850〜900℃で3〜10分の加熱条件で溶体化処理する工程と、
    次いで、加工度70〜99%で冷間圧延する工程と、
    次いで、730〜840℃のTiの固溶限が添加量よりも大きくなる温度で30〜60秒の加熱条件で、溶体化処理する工程と、
    次いで、10〜50%の加工度で冷間圧延する工程と、
    次いで、360〜420℃で1〜24時間時効処理する工程と、
    を含む請求項1〜3の何れか一項に記載の銅合金の製造方法。
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