JP2007258119A - スピン偏極電子発生装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来のものより2桁以上高い電流密度のスピン偏極電子線を生成できるスピン偏極電子発生装置を提供する。
【解決手段】スピン偏極電子発生装置10において、励起光入射装置46は、スピン偏極電子発生素子22の半導体基板62側から励起光を入射し超格子半導体光電層66に収束させるものであることから、直列的に配設された貫通孔を有するアノード電極、ソレノイドレンズ、偏向電磁石(スピンマニピュレータ)を順次通してスピン偏極電子発生素子の表面に励起光を収束させる従来の場合に比較して、励起光入射装置46の収束レンズ54とスピン偏極電子発生素子22との間の焦点距離fを少なくとも1/10程度に大幅に短縮できるので、スピン偏極電子発生素子22に収束される励起光Lのスポット径を格段に小さくすることができ、高い電流密度のスピン偏極電子線Bを得ることができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、スピン方向が偏在している偏極電子線を発生するスピン偏極電子発生装置の改良に関する。
スピン方向が2種類のうちの一方に偏在しているスピン偏極電子群から成る偏極電子線は、たとえば、高エネルギー素粒子の実験分野においては未発見の基本粒子を探索する次世代型電子線加速器において、また、物性物理の実験分野においては物質表面のナノサイズ磁区構造を探査する装置においてそれぞれ有効な手段として利用される。この偏極電子線は、価電子帯にバンドスプリッティングを有する半導体光電層を備えたスピン偏極電子発生素子を用い、そのスピン偏極電子発生素子の半導体光電層に円偏光レーザ光のような励起光を入射させることにより取り出される。このスピン偏極電子発生素子としては、たとえばGaAsP半導体の上にそれよりもバンドギャップが小さく且つ格子定数が異なるGaAs半導体を半導体光電層として結晶成長させた歪みGaAs半導体が知られている。これによれば、GaAsP半導体に対して格子定数の異なるGaAs半導体が結合されることによりそのGaAs半導体には格子歪みが付与されるため、そのGaAs半導体の価電子帯にバンドスプリッティングが発生し、ヘビーホール(重い正孔)のサブバンドとライトホール(軽い正孔)のサブバンドとの間にエネルギー準位差が生じる一方、両サブバンドの励起によって取り出される電子のスピン方向が反対であるため、エネルギー準位の高い方すなわち伝導帯とのエネルギーギャップが小さい方のサブバンドのみを励起できる光エネルギーをGaAs半導体に注入すれば、一方のスピン方向の偏極電子群が伝導帯に発生し、それを負の電子親和性を有する半導体素子の表面から真空中へ引き出すことにより、高いスピン偏極度を備えた電子線が得られるのである。
上記半導体光電層において、その歪み効果に超格子効果を加えたものが、歪み超格子構造の光電層である。超格子効果により価電子帯のヘビーホールとライトホールとのエネルギー準位が拡大され、高い偏極度を有するスピン偏極電子の生成が期待できる。たとえば、特許文献1に記載のスピン偏極電子発生素子がそれである。これら従来のスピン偏極電子発生素子では、半導体光電層が量子化されたエネルギー準位置を形成する歪み超格子により構成され、比較的高いスピン偏極度(偏極率)および量子効率QEが得られることが実証されている。
特開2000−90817号公報
上記従来のスピン偏極電子発生素子を用いたスピン偏極電子発生装置では、スピン偏極電子発生素子を構成する半導体光電層の基板と隣接する表面とは反対側にある表面に励起光を入射させるとともにその表面から電子を取り出すように構成されている。たとえば図9はその一例のスピン偏極電子発生装置100を示している。この従来のスピン偏極電子発生装置100では、真空容器112内において、図示しない支持ブロックの端面に基板側が接する状態でカソード電極により保持されたスピン偏極電子発生素子122から、貫通孔を有するアノード電極124、ソレノイドレンズ126、偏向電磁石(スピンマニピュレータ)128が順次所定距離だけ離隔して直列的に配設され、励起光入射装置148から出力された励起光Lがそれらを順次通して入射されると、スピン偏極電子発生素子122の表面から引き出されたスピン偏極電子線Bは、同じ経路を逆方向に進行し、偏向電磁石128によって直角に曲げられた後、Mott散乱偏極度測定装置や投影型表面電子顕微鏡等へ送られる。
ところで、上記表面電子顕微鏡では、細く絞った低エネルギーのスピン偏極電子線を対象物の表面に入射させて走査することにより、その反射率分布のスピン依存性を高いS/N比で観測することにより、詳細な表面の情報を得ることができる特徴があるが、上記従来のスピン偏極電子線発生装置100では、高いビーム輝度すなわち電流密度のスピン偏極電子線を得ることができず、例えば投影型表面電子顕微鏡(LEEM)においては1画像を得るために十秒以上の時間が必要となり、実時間で対象物の表面を観察することが困難であった。
高い電流密度のスピン偏極電子線を得るためには、励起光を小さなスポット径(収束径)でスピン偏極電子発生素子に照射する必要があるのに対し、前述の従来のスピン偏極電子発生装置100では、真空容器112内において、スピン偏極電子発生素子122から、貫通孔を有するアノード電極124、ソレノイドレンズ126、偏向電磁石(スピンマニピュレータ)128が順次所定距離だけ離隔して直列的に配設されているため、真空容器112の外部に位置する励起光入射装置148から出力された励起光Lが透明板119を通し且つそれらアノード電極124、ソレノイドレンズ126、偏向電磁石128を順次通して収束されるようにするために、励起光入射装置148の収束(対物)レンズ154からスピン偏極電子発生素子122までの距離fを十分に小さくできず、小さなスポット径(収束径)が得られないのである。
ここで、励起光入射装置の収束レンズとそのスピン偏極電子発生素子との距離が収束スポット径との関係は物理光学的に以下のように説明される。すなわち、一般に、レーザ光のスポット径Rは(1) 式からレーザ光の波長λと対物レンズの開口数NAとで決定され、その開口数NAは(2) 式から光路の屈折率nと角度θとで決定され、(2) 式の角度θは(3) 式から対物レンズの(有効)径rおよび焦点距離fとで決定される。これら(1) 式、(2) 式、(3) 式から、焦点距離fが小さくなると、角度θが大きくなってNAが大きくなるので、スポット径Rが小さくなる関係が導かれる。
R∝λ/NA ・・・(1)
NA=n・sin θ ・・・(2)
θ= tan-1( r/f) ・・・(3)
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、高い電流密度のスピン偏極電子線が得られるスピン偏極電子発生装置を提供することにある。
本発明者は、以上の事情を背景として種々検討を重ねた結果、真空容器内において保持されたスピン偏極電子発生素子の裏面から励起光を照射すると、励起光入射装置の収束レンズとそのスピン偏極電子発生素子との距離が大幅に短縮される結果、小さなスポット径で励起光をスピン偏極電子発生素子に収束でき、高い電流密度のスピン偏極電子ビームが得られることを着想した。本発明はこのような知見に基づいて為されたものである。
すなわち、前記目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、基板の一面に結晶成長させられた格子定数が互いに相違し且つ互いに隣接する少なくとも一対の第1半導体層および第2半導体層が成長させられることにより構成されて価電子帯にバンドスプリッティングを有する半導体光電層とを備えたスピン偏極電子発生素子と、そのスピン偏極電子発生素子の半導体光電層に励起光を入射させる励起光入射装置とを含み、その半導体光電層に励起光が収束されることによってその半導体光電層からスピン方向が偏在しているスピン偏極電子を発生させる形式のスピン偏極電子発生装置であって、前記励起光入射装置は、前記スピン偏極電子発生素子の基板側から前記半導体光電層に励起光を収束させるものであることを特徴とする。
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、前記スピン偏極電子発生素子は、前記励起光のエネルギーよりも価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップエネルギーが大きい半導体基板と、その半導体基板の一面に結晶成長させられその半導体基板とは異なる格子定数を有するバッファ層と、格子定数が互いに相違し且つ互いに隣接する第1半導体層および第2半導体層が交互にそのバッファ層の上に複数対成長させられることにより超格子構造として構成された半導体光電層とを備えていることを特徴とする。
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、請求項2に係る発明において、(a) 前記バッファ層はGaAsPから構成され、(b) 前記半導体光電層は、前記第1半導体層としてのGaAs層と前記第2半導体層としてのGaAsP層とが交互に積層されることにより厚み方向に複数の井戸型ポテンシャルを有する多重量子井戸構造のエネルギー準位が形成された歪み超格子半導体光電層から構成されていることを特徴とする。
また、請求項4に係る発明の要旨とするところは、請求項1乃至3のいずれかに係る発明において、(a) 前記基板はGaPから構成され、(b) 前記スピン偏極電子発生素子は、GaP基板型スピン偏極電子発生素子を構成することを特徴とする。
また、請求項5に係る発明の要旨とするところは、請求項1乃至3のいずれかに係る発明において、(a) 前記基板は前記励起光を該基板の厚み方向に通過させるために形成された貫通孔を備え、(b) 前記スピン偏極電子発生素子は、ピンホール型スピン偏極電子発生素子を構成することを特徴とする。
また、請求項6に係る発明の要旨とするところは、請求項1乃至5のいずれかに係る発明において、(a) 前記スピン偏極電子発生素子は真空容器内に収容され、(b) 前記励起光入射装置は、レーザ光源と、該レーザ光源から出力されたレーザ光を円偏光に変換する素子と、該素子からの円偏光を前記スピン偏極電子発生素子の半導体光電層に収束するための収束レンズとを備え、前記真空容器の窓口に設けられた透明板を通して前記スピン偏極電子発生素子の半導体光電層に励起光を入射するものであることを特徴とする。
また、請求項7に係る発明の要旨とするところは、請求項6に係る発明において、前記励起光入射装置の収束レンズは、前記真空容器内において前記透明板とスピン偏極電子発生素子との間に配置されていることを特徴とする。
また、請求項8に係る発明の要旨とするところは、請求項6または7に係る発明において、(a) 前記スピン偏極電子線発生素子は、伝導帯を価電子帯側へ局部的に引き下げるバンドベンディングを形成するために相対的に高濃度のP型不純物がドープされたGaAs表面層を、前記半導体光電層の上に備えたものであり、(b) 前記真空容器内には、前記GaAs表面層の表面を負の電子親和性表面とするために付着させるセシウムおよび酸素またはフッ化窒素を放出する装置が設けられていることを特徴とする。
請求項1に係る発明のスピン偏極電子発生装置によれば、励起光入射装置は、スピン偏極電子発生素子の基板側すなわち裏面側から前記半導体光電層に励起光を収束させるものであることから、直列的に配設された貫通孔を有するアノード電極、ソレノイドレンズ、偏向電磁石(スピンマニピュレータ)を順次通してスピン偏極電子発生素子の表面に励起光を収束させる場合に比較して、励起光入射装置の収束レンズとスピン偏極電子発生素子との間の距離を大幅に短縮できるので、スピン偏極電子発生素子に収束される励起光のスポット径を格段に小さくすることができ、高い電流密度のスピン偏極電子線を得ることができる。
また、請求項2に係る発明のスピン偏極電子発生装置によれば、スピン偏極電子発生素子は、前記励起光のエネルギーよりも価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップエネルギーが大きい半導体基板と、その半導体基板の一面に結晶成長させられその半導体基板とは異なる格子定数を有するバッファ層と、格子定数が互いに相違し且つ互いに隣接する第1半導体層および第2半導体層が交互にそのバッファ層の上に複数対成長させられることにより構成された半導体光電層とを備えていることから、スピン偏極電子発生素子の基板側から入射される励起光はその基板およびバッファ層によるエネルギー吸収を受けないで半導体光電層に到達でき、高い量子効率を得ることができる。
また、請求項3に係る発明のスピン偏極電子発生装置によれば、(a) 前記バッファ層はGaAsPから構成され、(b) 前記半導体光電層は、前記第1半導体層としてのGaAs層と前記第2半導体層としてのGaAsP層とが交互に積層されることにより厚み方向に複数の井戸型ポテンシャルを有する多重量子井戸構造のエネルギー準位が形成された歪み超格子半導体光電層から構成されている。その歪み超格子層においては、各半導体の電子親和力およびバンドギャップエネルギーの相違により周期的なポテンシャルが形成されるが、各層が極めて薄いことにより生じるトンネル効果により、電子は量子的波動として伝播することができ、一層高い量子効率が得られる。また、上記GaAs層とGaAsP層とが交互に積層された超格子薄膜層から成る半導体光電層の照射には高いスピン偏極度が得られる波長たとえば780nm付近の波長の励起光が用いられるが、前記基板およびGaAsPから構成された上記バッファ層はそのよう波長の励起光のエネルギーE(=hν)よりも大きいバンドギャップエネルギーを有するものであることから、基板側から励起光が入射されるとき、その励起光はその半導体基板およびバッファ層によって殆どエネルギー吸収されることなく半導体光電層に到達できるので、高い量子効率が確保される。
また、請求項4に係る発明のスピン偏極電子発生装置によれば、(a) 前記基板はGaPから構成され、(b) 前記スピン偏極電子発生素子はGaP基板型スピン偏極電子発生素子を構成するので、基板側から励起光が入射されるとき、その励起光はその半導体基板およびバッファ層によって殆どエネルギー吸収されることなく半導体光電層に到達できて、高い量子効率が確保される。
また、請求項5に係る発明のスピン偏極電子発生装置によれば、(a) 前記基板は前記励起光を該基板の厚み方向に通過させるために形成された貫通孔を備え、(b) 前記スピン偏極電子発生素子は、ピンホール型スピン偏極電子発生素子を構成するので、基板側から励起光が入射されるとき、その励起光はその半導体基板によって殆どエネルギー吸収されることなく上記貫通孔を通して半導体光電層に到達できて、高い量子効率が得られる。
また、請求項6に係る発明のスピン偏極電子発生装置によれば、(a) 前記スピン偏極電子発生素子は真空容器内に収容され、(b) 前記励起光入射装置は、レーザ光源と、該レーザ光源から出力されたレーザ光を円偏光に変換する素子と、該素子からの円偏光を前記スピン偏極電子発生素子の半導体光電層に収束するための収束レンズとを備え、前記真空容器の窓口に設けられた透明板を通して前記スピン偏極電子発生素子の半導体光電層に励起光を入射するものであるので、真空容器内に収容されたスピン偏極電子発生素子の基板側から励起光を入射させることができる。
また、請求項7に係る発明のスピン偏極電子発生装置によれば、前記励起光入射装置の収束レンズは、前記真空容器内において前記透明板とスピン偏極電子発生素子との間に配置されていることから、その収束レンズと前記スピン偏極電子発生素子との間の距離を一層短縮できるので、励起光のスピン偏極電子発生素子に対する収束スポット径を一層小さくすることができる。
また、請求項8に係る発明のスピン偏極電子発生装置によれば、(a) 前記スピン偏極電子線発生素子は、表面近傍の伝導帯を価電子帯側へ局部的に引き下げるバンドベンディングを形成するために相対的に高濃度のP型不純物がドープされたGaAs表面層を、前記半導体光電層の上に備えたものであり、(b) 前記真空容器内には、前記GaAs表面層の表面を負の電子親和性表面とするために付着させるセシウムおよび酸素またはフッ化窒素を放出する装置が設けられている。高濃度のP型不純物ドープによりスピン偏極電子発生素子の表層内に形成されたバンドベンディングによって仕事函数が低くされると共に、セシウムおよび酸素がGaAs表面層に付着させられてその表面層が負の電子親和性を持つにいたるので、スピン偏極電子発生素子内のスピン偏極電子が容易に引き出される。
以下、本発明の一実施例を、概念的な図面を参照しつつ説明する。なお、各図は概念図であるから、以下の実施例においても、細部の機械的構造や各部の寸法比等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、スピン偏極電子線発生装置10の構成を説明する概念図である。このスピン偏極電子線発生装置10は、図示しない排気系に接続されて超高真空に維持される気密な真空容器12を備えている。この真空容器12は、励起光Lが入射される開口14を形成する筒状のポート16と、Mott散乱偏極度測定装置或いは投影型表面電子顕微鏡(LEEM)などのスピン偏極電子線利用機器に接続されて真空容器12内で発生させられたスピン偏極電子線Bをそれらの機器へ導くための筒状の接続用のポート18とが設けられている。上記ポート16の開口14は、石英などの透光板19によって気密に閉じられている。
上記排気系は、高真空とするために真空容器12内を排気するターボポンプとロータリポンプとが直列に接続された粗排気系と、真空容器12全体を200℃程度でベーキングした後に排気して真空容器12内を10-10 Pa台の超高真空とするためにイオンポンプとNEGポンプとを用いる本排気系とから構成される。
上記真空容器12には、図2に示す素子保持装置20によって上記開口14の中心位置となるように保持される偏極電子線発生素子22と、図示しない支持装置によって支持されて上記偏極電子線発生素子22からスピン偏極電子線Bを引き出すための電界を印加する円筒状のアノード電極24と、アノード電極24により引き出されたスピン偏極電子線Bを収束させるための円筒状のソレノイドレンズ26と、前記取出口14へ向かうように上記スピン偏極電子線Bの進行方向を直角に曲げて偏極電子のスピン軸を進行方向に対してたとえば直角とするための偏向電磁石(スピンマニピュレータ)28とが、一直線上に所定の間隔で配置されている。また、真空容器12において、上記ポート18と偏向電磁石(スピンマニピュレータ)28との間には、スピン偏極電子線Bのスピンの向き(方位角)を制御するための円筒状のソレノイドレンズ30が配設されている。
図2に詳しく示すように、偏極電子源素子保持装置20は、円筒状の一端部が外向きに突き出してポート16に固定されているカソードホルダ32と、そのカソードホルダ32を介して真空容器12のポート16に固定されて上記偏極電子線発生素子22をその両端面が露出するように周縁部で保持し位置決めする保持ブロック34と、前記円筒状のアノード電極24と同心となるように上記カソードホルダ32に嵌め着けられたカソード電極36とを備えている。カソード電極36は周壁部34aと底壁部36bとを有する有底円筒状を成し、その底壁部36bは、偏極電子線発生素子22の中央部を露出させるために中央部に貫通して形成された中央穴36cと、外周部から中央穴36cに向かうに従って薄くなる厚み形状とを備えている。前記アノード電極24は、カソード電極36へ向かうに従って小径となるテーパ形状を備え、上記中央穴36cから露出した偏極電子線発生素子22付近の電界強度が最も大きくなるようにされている。上記アノード電極24およびカソード電極36は、暗電流を抑制するためにその表面が鏡面仕上げされたものであり、たとえばステンレス鋼により構成される。
上記保持ブロック34には、それにより保持されている偏極電子線発生素子22の基板側表面すなわち裏面の中央部を露出させるために貫通して形成された貫通穴38と、その貫通穴38の外周側に位置して保持ブロック34内に嵌め着けられた円筒状のヒータ40とが設けられている。上記保持ブロック34はたとえば偏極電子線発生素子22の構成元素であるGaAsに対して非反応性の金属材料たとえばモリブデン、タンタル等により構成されている。
また、真空容器12のポート16内には、偏極電子線発生素子22の非基板側表面すなわち電子放出側表面を負の電子親和性(NEA:Negative Electron Affinity) 表面とするために、アノード電極24およびカソード電極36付近でセシウムCsおよび酸素Oを放出するセシウム放出装置44および図示はしていないが酸素Oを導入する装置がそれぞれ設けられている。セシウム放出装置44は、たとえば、CsCrO4 および還元剤がゲッター剤とともにニクロム製スリーブ内に収容されることにより構成され、そのヒータの通電加熱によりCsCrO4 を還元させることでセシウムCsを放出する。偏極電子線発生素子22の清浄にされた電子放出側表面すなわちGaAs層から成る表面層の表面にセシウムCsおよび酸素Oが付加されることによりおよそ数原子層の厚さを持つ電気2重層ポテンシャルが形成されて真空順位が下げられる。すなわち、真空中へ伝導帯にある偏極電子が放出されるための電子親和性が負とされて、スピン偏極電子線Bを得るための量子効率が高められる。なお、酸素Oを導入する代りに、三フッ化窒素NF3 などのフッ化窒素を導入する装置を設けて、前記電子放出側表面にセシウムCsおよびフッ化窒素を付加しても、同様の効果が得られる。
前記励起光Lは、励起光入射装置46により発生させられて偏極電子線発生素子22の基板側表面すなわち裏面に入射させられるようになっている。励起光入射装置46は、たとえばレーザ光源48と、そのレーザ光源48から出力されたレーザ光を直線偏光から円偏光に変換して励起光Lとするための直線偏光子50およびλ/4波長板52と、その励起光Lを収束させるためにカソードホルダ32から透光板19側へ突設されたレンズ支持部56により前記アノード電極24と同心に支持されることにより真空容器12内に配置されたレンズ54とを備え、収束レンズ54は、ポート16の開口14を塞ぐように設けられた透光板19および保持ブロック34に形成された貫通穴38を通して、励起光Lを小さなスポット径で偏極電子線発生素子22の基板側から入射させ、超格子半導体光電層66に収束させる。収束レンズ54と偏極電子線発生素子22との間の距離すなわち焦点距離fは、上記透光板19の厚み寸法と保持ブロック34の厚み寸法とを加えた値よりも大きいが、アノード電極24、ソレノイドレンズ26、および偏向電磁石(スピンマニピュレータ)28を通して偏極電子線発生素子22の非基板側表面に収束する場合に比較して、大幅に短縮されている。この装置例よりさらに収束レンズ54と偏極電子線発生素子22の距離を短くすることは可能であり、たとえば負の電子親和性表面処理(NEA活性化)は別の真空容器で行った偏極電子線発生素子22をロードロック機構によりカソード電極36にセットする方式を採用すると円筒状のヒータ40は不要となり、収束レンズ54と偏極電子線発生素子22との間の距離を数mm以内にすることができる。
前記偏極電子線発生素子22は、図3に示すように、例えばMOVPE(Metal Organic Chemical Vapor Phase Epitaxy:有機金属化学気相エピタキシー)法等のよく知られた結晶成長技術によって、GaP半導体基板62と、その上に順次結晶成長させられたグレーティドGaAsPバッファ層63、GaAsPバッファ層64、超格子半導体光電層66、および表面層68を順次備えたものであり、GaP基板型(基板透過型)偏極電子線発生素子を構成している。
上記半導体基板62は、例えば400μm 程度の厚さのp−GaPの単結晶または高濃度のPを含有するp−GaAsPの単結晶から成る化合物半導体であり、p型のドーパントであるたとえばZn(亜鉛)が不純物としてドープされることによってキャリア濃度が1×1018 (cm-3) 程度とされている。また、この半導体基板62を構成するGax Asy 1-y は、励起光LのエネルギーEL (=hν)よりも大きいバンドギャップエネルギーを有するように、Pの混晶比(1−y)が0.6程度以上と高く設定されており、励起光Lの吸収が可及的に小さくされている。
グレーティドGaAsPバッファ層63は、Pの混晶比が順次低くされたGaAsP多層膜であり、半導体基板62の格子定数に近い値からGaAsPバッファ層64の格子定数に近い値へ順次変化させられている。
GaAsPバッファ層64は、この上に成長させる超格子半導体光電層66のGaAs層66aに歪みを与えるために、グレーティッドGaAsPバッファ63の上に成長させられ、2μm程度の厚みを備え、上記同様にp型のドーパントであるたとえばZn(亜鉛)が不純物としてドープされている。GaAsPバッファ層64のPの混晶比(1−y)はたとえば0.34程度が採用され、この混晶比は超格子半導体光電層66のGaAsP層66bのPの混晶比と同一の値にとる。このGaAsPバッファ層64は、エネルギーギャップが隣接する超格子半導体光電層66のエネルギーギャップよりも大きくなるようにつくられるので励起光を吸収することはない。
上記超格子半導体光電層66は、例えば3nm程度の厚さであるp−GaAsの単結晶から成る化合物半導体であってp型のドーパントであるたとえばZnが不純物としてドープされることによってキャリア濃度が1.5×1018 (cm -3)程度とされてバリア層として機能する第1半導体層66a と、たとえば3nm程度の厚さであってPの混晶比(1−y)が0.34であるp−GaAs0.660.34の単結晶から成る化合物半導体であってp型のドーパントであるたとえばZn(亜鉛)が不純物としてドープされることによってキャリア濃度が1.5×1018 (cm -3)程度とされて井戸層として機能する第2半導体層66b との対が、その第1半導体層66a がバッファ層64側に位置する状態でたとえば12層が順次積層されることにより構成されている。上記のように、3nm程度の極めて薄い第2半導体層66b および第1半導体層66a がバッファ層64の上に成長させられると、図4に示すように厚み方向に複数の井戸型ポテンシャルを有する多重量子井戸構造のエネルギー準位が形成される。また、それらバッファ層64、第1半導体層66a 、および第2半導体層66b の相互の格子定数差に起因して、第1半導体層66a には圧縮方向の歪みが発生し、その歪みにより価電子帯にバンドスプリッティングが発生させられることから、上記半導体光電層66は歪超格子層とも称される。
前記表面層68は、例えば5nm程度の厚さのp−GaAsの単結晶から成る化合物半導体であってp型のドーパントであるZn(亜鉛)が不純物として相対的に高い濃度でドープされることによってキャリア濃度がたとえば6.0×1019 (cm-3) 程度とされている。この表面層68は、上記バッファ層64や半導体光電層66よりもキャリア濃度が高められることにより伝導帯のバンドバンディングを発生させて表面の電子親和性を低くし、その半導体光電層66で発生した偏極電子線を真空中に取り出し易くする機能を備えている。
さらに偏極電子線を真空中に取り出し易くするために、真空容器12内では、上記表面層68の上に、セシウムと酸素またはフッ化窒素とを付加させることによっておおよそ数原子層のきわめて薄い厚さの電気二重層ポテンシャルを発生させ、電子親和度を負とするための電子親和性表面処理が施される。
上記のように構成された半導体光電層66では、歪超格子から構成されているので、図4に示すように、3nm程度の極めて薄い第1半導体層66a および第2半導体層66b が交互に積層されて相互にヘテロ結合されていることから、層厚みが電子波の波長程度以下すなわち10nm程度以下となるときに顕著となる量子サイズ効果によって厚み方向に複数の井戸型ポテンシャルを有する量子化された多重量子井戸構造のエネルギー準位が形成されるとともに、それら第1半導体層66a および第2半導体層66b の相互の格子定数差に起因する歪みにより、重い正孔ミニバンドと軽い正孔ミニバンドとが、それらの間のバンドギャップδs で価電子帯が分離させられるバンドスプリッティングが発生させられている。その重い正孔ミニバンドと軽い正孔ミニバンドとの間のバンドギャップδs は、量子井戸構造ではない歪みGaAsの場合に対して、大幅に増加させられているために、高いスピン偏極度と量子効果が得られる。
上記のように重い正孔ミニバンドと軽い正孔ミニバンドとの間のバンドギャップδs が大きくなると、価電子帯の重い正孔ミニバンドと伝導帯との間のバンドギャップEthと、価電子帯の軽い正孔ミニバンドと伝導帯との間のバンドギャップ(Eth+δs )との差が大きくなることから、価電子帯の重い正孔ミニバンドに存在するスピン方向が偏在した偏極電子のみを伝導帯へ励起できる許容波長帯域が大きくなるため、高いスピン偏極度および励起波長に対する広い許容幅が得られる。
上記のように構成される偏極電子線発生素子22は、例えば、原料ガスとしてトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、アルシン(AsH3)、およびホスフィン(PH3 )、p型のドーパントガスとしてたとえばジエチル亜鉛(DEZ)を用い、MOVPE装置によってたとえば650℃の成長温度下で半導体基板62上にグレーティドバッファ層63、GaAsバッファ層64、半導体光電層66、表面層68を順次結晶成長させることにより製造される。この結晶成長の過程において、各層の組成に応じて結晶成長装置内に導入される原料ガスの種類および量比が適宜変更されると共に、各層の極性およびキャリア濃度に応じてドーパントガスの種類および量比が適宜変更されることによって、図3に示されるように層毎に組成およびキャリア濃度の異なるエピタキシャルウェハが得られることとなる。
図5は、GaAs基板上に前述と同様の半導体光電層66および表面層68が順次設けられた前面光入射型偏極電子線発生素子を用い、真空容器中において、アノード電極とカソード電極との間のギャップに高加速電圧を印加した状態で、可変波長レーザ(チューナブルレーザ)Lを用いて試料表面に照射する励起レーザ光(CWの円偏光)Lの波長λ(nm)を変えていったときに表面から引き出された電子の偏極度或いは偏極率(%)を示すものである。この図にあるように、励起光の波長λが780nm付近であるとき、すなわち760〜810nmの範囲、好適には770〜790nmの範囲内において、80%或いは85%以上の高い偏極度が得られる。一方、量子効率GEは、偏極電子線発生素子22から引き出した電子数を入射した光子数で割った値であり、引き出した電流をI(μA)、照射レーザ光のパワーをP(mW)、照射レーザ光の波長をλ(nm)とすると、式:QE=1.24×I/Pλにより表される。図5の最大偏極度が得られた波長λが780nm付近の量子効率としては0.3%以上が得られることが実証されている。図6は、上記前面光入射型偏極電子線発生素子の量子効率QE(規格化値)の経過時間に伴う低下いわゆるNEA表面寿命が真空容器の真空度に強く依存することを示している。○印は、5.7×10-10 Paの真空状態における低下を示し、3.2×10-10 Paの真空状態の△印に比較して3倍(150時間)以上の寿命を示している。前述の本実施例のスピン偏極電子発生素子22を用いた場合でも、上記図5および図6と同様またはそれ以上の性能が得られると考えられる。
上述のように、本実施例のスピン偏極電子発生装置10によれば、励起光入射装置46は、スピン偏極電子発生素子22の半導体基板62側すなわち裏面側から半導体光電層66に励起光を収束させるものであることから、図9に示す直列的に配設された貫通孔を有するアノード電極124、ソレノイドレンズ126、偏向電磁石(スピンマニピュレータ)128を順次通してスピン偏極電子発生素子の表面に励起光を収束させる従来の場合に比較して、励起光入射装置46の収束レンズ54とスピン偏極電子発生素子22との間の焦点距離fを、少なくとも1/10程度と大幅に短縮できるので、スピン偏極電子発生素子22に収束される励起光Lのスポット径を格段に小さくすることができ、高い電流密度のスピン偏極電子線Bを得ることができる。
また、本実施例のスピン偏極電子発生装置10によれば、スピン偏極電子発生素子22は、励起光Lのエネルギーよりも価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップエネルギーが大きい半導体基板62と、その半導体基板62の一面に結晶成長させられその半導体基板62とは異なる格子定数を有するバッファ層64と、格子定数が互いに相違し且つ互いに隣接する第1半導体層66aおよび第2半導体層66bが交互にそのバッファ層64の上に複数対成長させられることにより構成された半導体光電層66とを備えているが、スピン偏極電子発生素子22の半導体基板62側から入射される励起光Lはそれらの半導体基板62とバッファ層64によるエネルギー吸収を受けないで半導体光電層66に到達でき、高い量子効率を得ることができる。すなわち上記半導体基板62とバッファ層64は励起光のエネルギーE(=hν)よりも大きいバンドギャップエネルギーを有することから、励起光を吸収することができないように設計されている。
また、スピン偏極電子生成用半導体光電層66として、たとえば第1半導体層66aとしてのGaAs層と第2半導体層66bとしてのGaAsP層とが交互に積層されたものが挙げられる。この場合には厚み方向に複数の井戸型ポテンシャルを有する多重量子井戸構造のエネルギー準位が形成された歪み超格子層から構成され、その歪み超格子層における各半導体の電子親和力およびバンドギャップエネルギーの相違により形成される周期的なポテンシャル幅が薄いことから、電子は量子的波動として伝播することができ、高い量子効率が得られる。
また、本実施例のスピン偏極電子発生装置10によれば、スピン偏極電子発生素子22の基板62はGaPから構成され、そのスピン偏極電子発生素子22はGaP基板型スピン偏極電子発生素子を構成するので、基板62側から励起光が入射されるとき、その励起光はその半導体基板62およびGaAsPバッファ層64によって殆どエネルギー吸収されることなく半導体光電層66に到達できて、高い量子効率が確保される。
また、本実施例のスピン偏極電子発生装置10によれば、励起光入射装置46は、レーザ光源48と、そのレーザ光源48から出力されたレーザ光を円偏光に変換する素子50、52と、その素子50、52からの円偏光をスピン偏極電子発生素子22の半導体光電層66に収束するための収束レンズ54とを備えたものであり、前記スピン偏極電子発生素子22が収容された真空容器12の窓口14に設けられた透明板19を通してそのスピン偏極電子発生素子22の半導体光電層66に励起光Lを入射させるものであることから、真空容器内に収容されたスピン偏極電子発生素子の基板側から励起光を入射させることができる。
また、本実施例のスピン偏極電子発生装置10によれば、励起光入射装置46の収束レンズ54は、真空容器12内において透明板19とスピン偏極電子発生素子22との間に配置されていることから、その収束レンズ54とスピン偏極電子発生素子22との間の距離fを一層縮少できるので、励起光のスピン偏極電子発生素子22に対する光収束スポット径を一層小さくすることができる。
また、本実施例のスピン偏極電子発生装置10によれば、スピン偏極電子線発生素子22は、相対的に高濃度のP型不純物がドープされたGaAs表面層68を半導体光電層66の上に備えているので、表面近傍の伝導帯を価電子帯側へ局部的に引き下げるバンドベンディングによって仕事函数が低くされると共に、セシウム放出装置44および酸素導入装置から放出されたセシウムおよび酸素がGaAs表面層68に付着させられてそのGaAs表面層68の表面が負の電子親和性とされるので、スピン偏極電子発生素子22内の伝導帯に励起されたスピン偏極電子が容易に引き出される。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互間で共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図7は、スピン偏極電子発生素子22の他の変形例を示している。この変形例ではスピン偏極電子発生素子22の半導体基板62は、従来と同様のGaAsから構成されている他は、図3に示す例と同様に構成されている。本実施例の半導体基板62は、たとえば350μm 程度の厚さのp−GaAsの単結晶から成る化合物半導体であり、p型のドーパントであるたとえばZn(亜鉛)が不純物としてドープされることによってキャリア濃度が1×1018 (cm-3) 程度とされている。また、半導体基板62の中央部には、厚み方向に貫通する貫通孔70が形成されている。本実施例のスピン偏極電子発生素子22は、上記半導体基板62を厚み方向に貫通して形成された貫通穴70を備えていることからピンホール型スピン偏極電子発生素子を構成するので、基板側から励起光Lが入射されるとき、その励起光Lは貫通孔70を通過することによりその半導体基板によって殆どエネルギー吸収されることなく上記貫通孔を通して半導体光電層に到達できて、高い量子効率が得られる。
図8は、励起光入射装置46の他の例を示している。本実施例において、励起光入射装置46の収束レンズ54は、真空容器12の外側にされている他は、前述の実施例と同様に構成されている。本実施例においても、図9に示す従来の装置に比較して、その収束レンズ54とスピン偏極電子発生素子22との間の収束(焦点)距離fを短縮できるので、励起光Lのスピン偏極電子発生素子22に対する収束スポット径を小さくすることができ、高い電流密度のスピン偏極電子線Bを得ることができる。
以上、本発明の一実施例について図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施される。
例えば、前述のスピン偏極電子発生装置10では、球形の真空容器12が用いられ、その中央部には、スピン偏極電子のスピン軸を進行方向に対して直角とするためにスピン偏極電子線Bの向きを90度変更するための偏向電磁石(スピンマニピュレータ)28が設けられていたが、スピン偏極電子線Bの向きを変えないでスピン偏極電子のスピン軸を進行方向に対して直角とすることが可能な直線型スピンマニピュレータが用いられる場合には、直線上に配列された、スピン偏極電子発生素子22、アノード電極24、ソレノイドレンズ26、スピンマニピュレータ28が収容された円筒状の真空容器が用いられ得る。
また、前述のスピン偏極電子発生素子22では、半導体基板62の上にグレーディドバッファ層63、バッファ層64、半導体光電層66、表面層68が順次積層されることにより構成されていたが、基板として適当なPの混晶比を持つGaAsPを用いる場合にはグレーディドバッファ層63は必ずしも設けられていなくてもよい
また、前述の実施例においては、偏極電子線発生素子22では、p型不純物がドーピングされることにより、半導体基板62、グレーディドバッファ層63、バッファ層64、半導体光電層66、表面層68がそれぞれp型半導体とされていたが、そのドーピング濃度は必要に応じて適宜変更されてもよく、また、表面層を除いては、そのようなp型不純物のドーピングが行われていなくても差し支えない。
また、前述の実施例の偏極電子線発生素子22において、活性層である半導体光電層66を挟んだ一対の反射層が設けられてもよい。この一対の反射層は、好適には、ブラッグ反射の原理を用いて光を反射するように構成された半導体多層膜(DBR)から構成されるとともに、励起用レーザ光を共振させる光共振器を光入射面との間で形成する。
また、前述の実施例の偏極電子線発生素子22において、半導体基板62、バッファ層64および表面層68の各々の厚さ、格子定数はあくまでも例示であり、必要に応じて適宜変更され得る。
また、前述の実施例の偏極電子線発生素子22において、第1半導体層66a および第2半導体層66b の厚みは、3nm程度とされていたが、4nm程度とするなど、量子サイズ効果を発生するための条件すなわち電子波の波長程度以下の層厚みであればよい。それぞれの層の厚みやGaAsP層のPの混晶比等はスピン偏極度と量子効率の両方を高くするために調整すればよい。
また、前述の実施例の偏極電子線発生素子22に備えられた半導体光電層66を構成する第1半導体層66a および第2半導体層66b の厚みは、3nm程度と同じ厚み度とされていたが、相互に異なる厚みであってもよい。
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
本発明の一実施例のスピン偏極電子発生装置の構成を説明するための概念図である。 図1の偏極電子線発生装置の一例の要部を拡大して詳細に説明する図である。 図1の偏極電子線発生装置の真空容器内に設けられるスピン偏極電子発生素子の構成を説明する図である。 図1の実施例のスピン偏極電子発生装置に用いられている偏極電子線発生素子の半導体光電層および表面層において形成されるエネルギーギャップを説明する図である。 図1のスピン偏極電子発生装置に用いる偏極電子線発生素子を図9に例として示す従来型の偏極電子源に装着して調べた励起光Lの波長λと偏極率(%)との関係を示す図である。 図1に示す偏極電子発生装置の真空容器の真空度の良否が量子効率の寿命(時間的低下)に大きな影響を持つことを示すデータである。図では規格化量子効率と経過時間との関係を示してある。 本発明の他の実施例であって、偏極電子線発生素子の他の構成例を説明する図である。 本発明の他の実施例であって、励起光入射装置の他の構成例を説明する図である。 従来のスピン偏極電子発生装置の構成を説明するための模式図である。
符号の説明
10:スピン偏極電子発生装置
12:真空容器
19:透明板
22:偏極電子線発生素子
44:セシウム酸素放出装置
46:励起光入射装置
48:レーザ光源
54:収束レンズ
62:半導体基板(基板)
64:バッファ層
66:超格子半導体光電層(半導体光電層)
66a:第1半導体層(バリア層)
66b:第2半導体層(井戸層)
68:表面層
70:貫通孔

Claims (8)

  1. 基板の一面において結晶成長させられた格子定数が互いに相違し且つ互いに隣接する少なくとも一対の第1半導体層および第2半導体層が成長させられることにより構成されて価電子帯にバンドスプリッティングを有する半導体光電層を備えたスピン偏極電子発生素子と、該スピン偏極電子発生素子の半導体光電層に励起光を入射させる励起光入射装置とを含み、該半導体光電層に励起光が収束されることによって該半導体光電層からスピン方向が偏在しているスピン偏極電子を発生させる形式のスピン偏極電子発生装置であって、
    前記励起光入射装置は、前記スピン偏極電子発生素子の基板側から前記半導体光電層に励起光を収束させるものであることを特徴とするスピン偏極電子発生装置。
  2. 前記スピン偏極電子発生素子は、前記励起光のエネルギーよりも価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップエネルギーが大きい半導体基板と、該半導体基板の一面に結晶成長させられ該半導体基板とは異なる格子定数を有するバッファ層と、格子定数が互いに相違し且つ互いに隣接する第1半導体層および第2半導体層が交互に該バッファ層の上に複数対成長させられることにより構成された半導体光電層とを備えていることを特徴とする請求項1のスピン偏極電子発生装置。
  3. 前記バッファ層はGaAsPから構成され、
    前記半導体光電層は、前記第1半導体層としてのGaAs層と前記第2半導体層としてのGaAsP層とが交互に積層されることにより厚み方向に複数の井戸型ポテンシャルを有する多重量子井戸構造のエネルギー準位が形成された歪み超格子半導体光電層から構成されていることを特徴とする請求項2のスピン偏極電子発生装置。
  4. 前記基板はGaPから構成され、
    前記スピン偏極電子発生素子は、GaP基板型スピン偏極電子発生素子を構成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかのスピン偏極電子発生装置。
  5. 前記基板は前記励起光を該基板の厚み方向に通過させるために形成された貫通孔を備え、
    前記スピン偏極電子発生素子は、ピンホール型スピン偏極電子発生素子を構成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかのスピン偏極電子発生装置。
  6. 前記スピン偏極電子発生素子は真空容器内に収容され、
    前記励起光入射装置は、レーザ光源と、該レーザ光源から出力されたレーザ光を円偏光に変換する素子と、該素子からの円偏光を前記スピン偏極電子発生素子の半導体光電層に収束するための収束レンズとを備え、前記真空容器の窓口に設けられた透明板を通して前記スピン偏極電子発生素子の半導体光電層に励起光を入射するものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかのスピン偏極電子発生装置。
  7. 前記励起光入射装置の収束レンズは、前記真空容器内において前記透明板とスピン偏極電子発生素子との間に配置されていることを特徴とする請求項6のスピン偏極電子発生装置。
  8. 前記スピン偏極電子線発生素子は、伝導帯を価電子帯側へ局部的に引き下げるバンドベンディングを形成するために相対的に高濃度のP型不純物がドープされたGaAs表面層を、前記半導体光電層の上に備えたものであり、
    前記真空容器内には、前記GaAs表面層に負の電子親和性を持たせるために、GaAs表面層付着させるセシウムおよび酸素またはフッ化窒素を放出する装置が設けられていることを特徴とする請求項6または7のスピン偏極電子発生装置。
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