以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
本発明に係る樹脂組成物は、アクリル系樹脂を主成分とし、平均粒子径が0.01μm以上1μm以下の範囲内の有機微粒子を含む樹脂組成物であって、上記アクリル系樹脂は、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であり、上記有機微粒子は、シアン化ビニル系単量体の構造単位と芳香族ビニル系単量体の構造単位とを含む。
尚、明細書における「異物」とは、原料からフィルムの成形品を得るまでの間の全ての工程において混入する汚染物質、重合反応中に発生するゲルなどの副生物、有機微粒子の凝集物およびフィルム成形時などにおける樹脂の劣化に起因する副生物などを含み、樹脂組成物またはフィルムになじまない性質を有する物質全般を意味する。
また、「重量」は「質量」と同義語として扱い、「重量%」は「質量%」と同義語として扱う。また、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。
また、「主成分」とは50重量%以上含有しているという意味として扱う。つまり、上記アクリル系樹脂は、50重量%以上、(100重量%−有機微粒子の樹脂組成物中における重量%)以下の範囲内で上記樹脂組成物中に含まれる。
(I)アクリル系樹脂
上記アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルを主成分として含有する単量体組成物を重合した樹脂であれば特には限定されない。上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、一般式(2)
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を示す。)
で表される構造を有する化合物(単量体)、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、耐熱性、透明性が優れる点から、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物、メタクリル酸メチルがより好ましい。
一般式(2)で表される構造を有する化合物としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ターシャリーブチルなどが挙げられる。これらの中でも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性向上効果が高い点で、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。一般式(2)で表される化合物は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記アクリル系樹脂は、上述した(メタ)アクリル酸エステルを重合した構造以外の構造を有していてもよい。(メタ)アクリル酸エステルを重合した構造以外の構造としては、特には限定されないが、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記一般式(3)
(式中、R6は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R7基、または−C−O−R8基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R7およびR8は水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。)
で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
水酸基含有単量体としては、一般式(2)で表される単量体以外の水酸基含有単量体であれば特に限定されないが、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸などが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、本発明の効果を十分に発揮させる点で、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
一般式(3)で表される化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、本発明の効果を十分に発揮させる点で、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
上記アクリル系樹脂が、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含有する単量体を重合した樹脂である場合、上記アクリル系樹脂はラクトン環構造を有していることがより好ましい(以下、ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂を「ラクトン環含有重合体」と記す)。以下、ラクトン環含有重合体について説明する。
上記ラクトン環構造としては、例えば、下記一般式(1)
(式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。)
で表される構造が挙げられる。
尚、上記一般式(1)、(2)、(3)における有機残基は、炭素数が1〜20の範囲内であれば特には限定されないが、例えば、直鎖若しくは分岐状のアルキル基、直鎖若しくは分岐状のアルキレン基、アリール基、−OAc基、−CN基などが挙げられる。
上記アクリル系樹脂中の上記ラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%の範囲内、より好ましくは10〜70重量%の範囲内、さらに好ましくは10〜60重量%の範囲内、特に好ましくは10〜50重量%の範囲内である。上記ラクトン環構造の含有割合が5重量%よりも少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になることがあり、好ましくない。上記ラクトン環構造の含有割合が90重量%よりも多いと、成形加工性に乏しくなる傾向があり、好ましくない。
ラクトン環含有重合体において、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、(メタ)アクリル酸エステルを重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは10〜95重量%の範囲内、より好ましくは10〜90重量%の範囲内、さらに好ましくは40〜90重量%の範囲内、特に好ましくは50〜90重量%の範囲内である。
また、水酸基含有単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
また、不飽和カルボン酸を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
また、一般式(3)で表される単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
ラクトン環含有重合体の製造方法については、特に限定はされないが、好ましくは、重合工程によって分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得た後に、得られた重合体を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合工程を行うことによってラクトン環含有重合体を得ることができる。
上記一般式(2)で表される化合物を含む単量体組成物の重合反応を行うことにより、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得る。
上記重合反応(重合工程)において供する単量体組成物中における一般式(2)で表される化合物の含有割合は、好ましくは5〜90重量%の範囲内、より好ましくは10〜70重量%の範囲内、さらに好ましくは10〜60重量%の範囲内、特に好ましくは10〜50重量%の範囲内である。重合工程において供する単量体成分中の一般式(2)で表される単量体の含有割合が5重量%よりも少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になることがあり、好ましくない。重合工程において供する単量体組成物中の一般式(2)で表される単量体の含有割合が90重量%よりも多いと、重合時、ラクトン環化時にゲル化が起こることや、得られた重合体の成形加工性が乏しくなることがあり、好ましくない。
重合工程において供する単量体組成物中には、一般式(2)で表される単量体以外の単量体を含んでいてもよい。このような単量体としては、例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、一般式(3)で表される単量体が好ましく挙げられる。一般式(2)で表される単量体以外の単量体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
一般式(2)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは10〜95重量%の範囲内、より好ましくは10〜90重量%の範囲内、さらに好ましくは40〜90重量%の範囲内、特に好ましくは50〜90重量%の範囲内である。
一般式(2)で表される単量体以外の水酸基含有単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
不飽和カルボン酸を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
一般式(3)で表される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
単量体組成物を重合して分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得るための重合反応の形態としては、溶剤を用いた重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。
重合温度、重合時間は、使用する単量体(単量体組成物)の種類、使用比率等によって異なるが、好ましくは、重合温度が0〜150℃の範囲内、重合時間が0.5〜20時間の範囲内であり、より好ましくは、重合温度が80〜140℃の範囲内、重合時間が1〜10時間の範囲内である。
溶剤を用いた重合形態の場合、重合溶剤は特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられ、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、使用する溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃の範囲内のものが好ましい。
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;などが挙げられ、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、用いる単量体の組み合わせや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑止するために、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50重量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50重量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50重量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中の生成した重合体の濃度は、より好ましくは45重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。なお、重合反応混合物中の重合体の濃度があまりに低すぎると生産性が低下するため、重合反応混合物中の重合体の濃度は、10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましい。
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されず、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中の生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより十分に抑止することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中の水酸基およびエステル基の割合を高めた場合であってもゲル化を十分に抑制できる。添加する重合溶剤としては、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの溶剤であってもよいし、2種以上の混合溶剤であってもよい。
以上の重合工程で得られた重合体は、分子鎖中にエステル基(上記重合体が、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含有する単量体を重合した場合では、水酸基とエステル基)を有する重合体であり、重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000の範囲内、より好ましくは5,000〜1,000,000の範囲内、さらに好ましくは10,000〜500,000の範囲内、特に好ましくは50,000〜500,000の範囲内である。
上記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含有する単量体を重合して得られた重合体では、続くラクトン環化縮合工程において、加熱処理によりラクトン環構造を重合体に導入することができ、ラクトン環含有重合体とすることができる。
上記重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれている。上記重合体をラクトン環含有重合体とする場合では、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、その後に続くラクトン環化縮合工程を行うことが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
上記重合体へラクトン環構造を導入するための反応は、加熱により、重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とが環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、重合体に高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不十分であると、耐熱性が十分に向上しなかったり、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在する恐れがあるため好ましくない。
ラクトン環化縮合工程において得られるラクトン環含有重合体は、好ましくは、上記一般式(1)で表されるラクトン環構造を有する。
上記重合体を加熱処理する方法については特に限定されず、公知の方法が利用できる。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。また、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。また、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を持つ加熱炉や反応装置、脱揮装置のある押出機等を用いて加熱処理を行うこともできる。
環化縮合反応を行う際に、上記重合体に加えて、他のアクリル系樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒またはエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸等の有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に示されている様に、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などを用いてもよい。
環化縮合反応を行う際には、有機リン化合物を触媒として用いることが好ましい。触媒として有機リン化合物を用いることにより、環化縮合反応率を向上させることができるとともに、得られるラクトン環含有重合体の着色を大幅に低減することができる。さらに、有機リン化合物を触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができる。
環化縮合反応の際に触媒として用いることができる有機リン化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸等のアルキル(アリール)亜ホスホン酸(但し、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのジエステルあるいはモノエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸等のジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのジエステルあるいはモノエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸等のアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸ジエステルあるいはモノエステルあるいはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸ジエステルあるいはモノエステルあるいはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のモノ、ジ若しくはトリアルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィン等のアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィン等の酸化モノ、ジ若しくはトリアルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム等のハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。これらの中でも、触媒活性が高くて低着色性のため、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステルあるいはモノエステル、リン酸ジエステルあるいはモノエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステルあるいはモノエステル、リン酸ジエステルあるいはモノエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸ジエステルあるいはモノエステルが特に好ましい。これら有機リン化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されないが、上記重合体に対して、好ましくは0.001〜5重量%の範囲内、より好ましくは0.01〜2.5重量%の範囲内、さらに好ましくは0.01〜1重量%の範囲内、特に好ましくは0.05〜0.5重量%の範囲内である。触媒の使用量が0.001重量%未満であると、環化縮合反応の反応率の向上が十分に図れないおそれがあり、一方、5重量%を超えると、着色の原因となったり、重合体の架橋により溶融賦形しにくくなることがあるため、好ましくない。
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、且つ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、および、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体等の揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要により減圧加熱条件下で、除去処理する工程をいう。この除去処理が不十分であると、生成した樹脂中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質等によって着色したり、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こったりする問題等が生じる。
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、使用する装置については特に限定されないが、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、前記脱揮装置と前記押出機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置またはベント付き押出機を用いることがより好ましい。
前記熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。反応処理温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
前記熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜66.5hPa(600〜50mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
前記ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
前記ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。上記温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
前記ベント付き押出機を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜13.3hPa(600〜10mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
なお、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン環含有重合体の物性が悪化するおそれがあるので、好ましくは、上述した脱アルコール反応の触媒を使用し、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機等を用いて行うことが好ましい。
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体を溶剤とともに環化縮合反応装置系に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機等の上記反応装置系に通してもよい。
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体を、2軸押出機を用いて、250℃近い、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解等が生じ、得られるラクトン環含有重合体の物性が悪くなるおそれがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン環含有重合体の物性の悪化を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基をあらかじめ環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型の反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置のついた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機等で、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特にこの形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
上述のように、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、ラクトン環含有重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、環化縮合反応率もより高まり、ガラス転移温度がより高く、耐熱性に優れたラクトン環含有重合体が得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、実施例に示すダイナッミクTG測定における、150〜300℃間での重量減少率が2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は特に限定されないが、好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置等が挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用できる。より好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器である。しかしながら、ベント付き押出機等の反応器を使用するときでも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュウ形状、スクリュウ運転条件等を調整することで、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、好ましくは、重合工程で得られた重合体と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、および、前記(i)または(ii)を加圧下で行う方法が挙げられる。
なお、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま使用してもよいし、一旦溶剤を除去したのちに環化縮合反応に適した溶剤を再添加してもよいことを意味する。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;クロロホルム、DMSO、テトラヒドロフランなどでもよいが、好ましくは、重合工程で用いることができる溶剤と同じ種類の溶剤である。
上記方法(i)で添加する触媒としては、一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒またはエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などが挙げられるが、本発明においては、前述の有機リン化合物を用いることが好ましい。
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。添加する触媒の量は特に限定されないが、重合体の重量に対し、好ましくは0.001〜5重量%の範囲内、より好ましくは0.01〜2.5重量%の範囲内、さらに好ましくは0.01〜0.1重量%の範囲内、特に好ましくは0.05〜0.5重量%の範囲内である。方法(i)の加熱温度と加熱時間とは特に限定されないが、加熱温度としては、好ましくは室温以上、より好ましくは50℃以上であり、加熱時間としては、好ましくは1〜20時間の範囲内、より好ましくは2〜10時間の範囲内である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
上記方法(ii)としては、例えば、耐圧性の釜などを用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱する方法等が挙げられる。加熱温度としては、好ましくは100℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。加熱時間としては、好ましくは1〜20時間の範囲内、より好ましくは2〜10時間の範囲内である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
上記方法(i)、(ii)ともに、条件によっては加圧下となっても何ら問題はない。また、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、すなわち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150〜300℃の間での重量減少率は、2%以下が好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。重量減少率が2%より高いと、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が十分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン環含有重合体の物性が低下するおそれがある。なお、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤とを分離することなく、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行ってもよい。また、必要に応じて、前記重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を分離してから溶剤を再添加する等のその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても構わない。
脱揮工程は、環化縮合反応と同時に終了することのみには限定されず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
得られたラクトン環含有重合体は、重量平均分子量が、好ましくは1,000〜2,000,000の範囲内、より好ましくは5,000〜1,000,000の範囲内、さらに好ましくは10,000〜500,000の範囲内、特に好ましくは50,000〜500,000の範囲内である。
ラクトン環含有重合体は、ダイナミックTG測定における150〜300℃の間での重量減少率が1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。
ラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形後の成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。さらに、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に十分に導入されるため、得られたラクトン環含有重合体が十分に高い耐熱性を有している。
ラクトン環含有重合体は、15重量%のクロロホルム溶液中での着色度(YI)が6以下となるものが好ましく、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、最も好ましくは1以下である。着色度(YI)が6を越えると、着色により透明性が損なわれ、本来目的とする用途に使用できない場合がある。
ラクトン環含有重合体は、熱重量分析(TG)における5%重量減少温度が、330℃以上であることが好ましく、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは360℃以上である。熱重量分析(TG)における5%重量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが330℃未満であると、十分な熱安定性を発揮できないおそれがある。
ラクトン環含有重合体は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは115℃以上、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上、さらに好ましくは135℃以上、最も好ましくは140℃以上である。
ラクトン環含有重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下である。残存揮発分の総量が1500ppmよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーストリークなどの成形不良の原因となる。
ラクトン環含有重合体は、射出成形により得られる成形品の、ASTM−D−1003に準じた方法で測定された全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の目安であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないおそれがある。
(II)有機微粒子
本実施の形態に係る樹脂組成物は、上記アクリル系樹脂を主成分とし、有機微粒子を含んでいる。
上記有機微粒子は、樹脂組成物をフィルムとした場合の可撓性の改善および位相差を低下させる効果を有するものである。
樹脂組成物をフィルムとした場合の位相差を小さくするため、上記有機微粒子は、シアン化ビニル系単量体の構造単位と芳香族ビニル系単量体の構造単位とを含むことがより好ましい。上記構成によれば、上記構造単位を有する有機微粒子は、アクリル系樹脂との相溶性に優れるため、上記有機微粒子はアクリル系樹脂中でより均一に分散することができる。このため、フィルムとした場合の耐折曲げ性(可撓性)をより改善することができる。さらには、上記有機微粒子はアクリル系樹脂中での凝集が少ないため、フィルタの目詰まりなどを起こすことなく濾過を行うことができる。これにより、異物の少ない樹脂組成物を提供することができる。
尚、上記シアン化ビニル系単量体の構造単位とは、シアン化ビニル系単量体を重合することにより構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)のことである。同様に、上記芳香族ビニル系単量体の構造単位とは、芳香族ビニル系単量体を重合することにより構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)のことである。
上記シアン化ビニル系単量体としては、ビニル基とシアノ基とを有する化合物であれば特には限定されないが、例えば、アクリロニトリルなどが挙げられる。
上記芳香族ビニル系単量体としては、ビニル基と芳香族骨格とを有する化合物であれば特には限定されないが、例えば、スチレンなどが挙げられる。
シアン化ビニル系単量体の構造単位と芳香族ビニル系単量体の構造単位とを含む有機微粒子としては、具体的には、アクリロニトリル−スチレン共重合体を含む化合物が挙げられる。
また、樹脂組成物をフィルムとした場合の可撓性を改善するため、上記有機微粒子は架橋構造を有していることがより好ましい。
上記架橋構造を有する有機微粒子としては、例えば、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性化合物を含む単量体組成物を重合することによって得ることができる。
上記多官能性化合物としては、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ジシクロペンテニル、アクリル酸ジシクロペンテニル、ジメタクリル酸1,4−ブタンジオール、ジメタクリル酸エチレングリコール、トリアリルシアヌレ−ト、トリアリルイソシアヌレ−ト、ジアリルフタレ−ト、ジアリルマレ−ト、ジビニルアジペ−ト、ジビニルベンゼンエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジビニルベンゼンエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリアクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラメタクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラアクリレ−ト、ジプロピレングリコ−ルジメタクリレ−トおよびジプロピレングリコ−ルジアクリレ−トなどが挙げられ、これらは1種類のみ用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
また、上記有機微粒子は、上述したアクリル系樹脂を構成する、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、一般式(3)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の構造を有していてもかまわない。
上記有機微粒子が、上述したアクリル系樹脂を構成する重合体構造単位の構造を有していることにより、樹脂組成物中での有機微粒子の分散性がより改善され、有機微粒子の凝集などによって生じる異物の副生をより抑制することができる。これにより、例えば、フィルム成形時における濾過工程をより短時間で行うことができる。
上記有機微粒子は、上記多官能性化合物を含む単量体組成物を重合することにより得られる場合、架橋弾性を示す。これにより、フィルムとした場合の可撓性は改善され、フィルム成形性および耐折曲げ性に優れるフィルムを提供し得る樹脂組成物を得ることができる。
また、樹脂組成物中でより均一に分散させるため、上記有機微粒子はコア・シェル構造を有することが好ましい。つまり、上記有機微粒子は、中心の部分(コア)のみに多官能性化合物由来の構造を有し、中心の部分を囲む部分(シェル)には、樹脂組成物を構成するアクリル系樹脂との相溶性が高く、且つフィルムとした場合における位相差を低下させる構造を有することが好ましい。これより、有機微粒子は上記樹脂組成物中でより均一に分散することができ、フィルムとした場合の耐折曲げ性(可撓性)をより改善することができる。さらには、上記有機微粒子はアクリル系樹脂中での凝集が少ないため、フィルタの目詰まりなどを起こすことなく濾過を行うことができる。これにより、異物の少ない樹脂組成物を提供することができる。
このようなコア・シェル構造を有する有機微粒子は、例えば、上記多官能性化合物を含む単量体組成物を重合した後、反応せずに残った反応性官能基(二重結合)をグラフト交叉点として、シアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体とグラフト重合させることにより得ることができる。以下、上記コア・シェル構造のシェル部およびコア部について説明する。
上記シェル部としては、樹脂組成物を構成するアクリル系樹脂との相溶性が高い構造であり、且つフィルムとした場合の位相差を低下させることができれば特には限定されない。具体的には、上述したシアン化ビニル系単量体の構造単位と芳香族ビニル系単量体の構造単位とを有するシェル部が挙げられる。
シアン化ビニル系単量体(特にアクリロニトリル)の構造単位は、ラクトン環含有重合体との相性が良いため、シェル部にシアン化ビニル系単量体の構造単位を導入すると、有機微粒子の樹脂中における分散性が向上する。また、芳香族ビニル系単量体(特にスチレン)の構造単位は負の位相差特性を示し、ラクトン環構造由来の正の位相差を打ち消す働きをする。更には、芳香族ビニル系単量体はアクリロニトリルとの共重合性が良く、アクリロニトリルと共重合させることで、アクリロニトリルに起因する着色を抑制することができる。
上記シェル部の構造としては、具体的には、アクリル系樹脂が上述したラクトン環含有重合体である場合、例えば、アクリロニトリル(以下、ANと記す)とスチレン(以下、Stと記す)とからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、AN/St構造と記す)などが挙げられる。この場合、ANとStとの割合は、5:95〜50:50の範囲内であることが好ましく、10:90〜40:60の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。
上記コア部の構造としては、上記樹脂組成物をフィルムとした場合の可撓性を改善する効果を発現する構造であれば特には限定されず、例えば、架橋を有する構造が挙げられる。また、架橋を有する構造としては、架橋ゴム構造であることが好ましい。架橋ゴム構造としては、例えばアクリル系ゴム、ポリブタジエン系ゴム、オレフィン系ゴムの構造(繰り返し構造単位)が挙げられる。
上記架橋を有する構造としては、例えば、上述した多官能性化合物由来の構造が挙げられる。上記多官能性化合物の中でも、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ジシクロペンテニルがより好ましい。
上記コア部の製造時における多官能性単量体の使用量は、有機微粒子の製造に用いる単量体組成物の0.01〜15重量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜10重量%の範囲内であることがより好ましい。多官能性単量体を上記範囲内で使用することにより、得られるフィルムは良好な耐折曲げ性を示す。
上記コア部と上記シェル部との割合は、重量比で、コア部:シェル部が20:80〜80:20の範囲内が好ましく、40:60〜60:40の範囲内であることがより好ましい。コア部が20重量%未満では、得られる有機微粒子から形成したフィルムの耐折曲げ性が悪化する傾向があり、80重量%を超えると、フィルムの硬度および成形性が低下する傾向がある。
有機微粒子の平均粒子径は、0.01〜1μmの範囲内であることが好ましく、0.03〜0.5μmの範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.3μmの範囲内であることが特に好ましい。上記平均粒子径が0.01μm未満では、フィルムとした場合に、十分な可撓性が得られない傾向があり、上記平均粒子径が1μmを超えると、フィルム製造時における濾過処理工程においてフィルタに有機微粒子が詰まりやすくなる傾向がある。
上記有機微粒子の製造方法は特には限定されず、従来公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法により、上述した単量体組成物を1段若しくは多段で重合させることにより、上記有機微粒子を製造することができる。これらの中では、乳化重合法がより好ましい。
乳化重合により有機微粒子を製造する場合、乳化重合後の重合液を塩析や再沈により有機微粒子を凝集させた後、濾過、洗浄を行う。洗浄後、有機微粒子を乾燥し、アクリル系樹脂と混合することによって樹脂組成物を製造することができる。また、洗浄後、有機微粒子を乾燥せずに、得られる有機微粒子のケーキをMIBK(メチルイソブチルケトン)などの有機溶剤に再分散させ、その再分散液にアクリル系樹脂を溶解、若しくは再分散液とアクリル系樹脂溶液(アクリル系樹脂を有機溶剤で溶解させた溶液)とを混合し、その後、水および/または有機溶剤を脱揮することによっても樹脂組成物を製造することができる。
上記有機微粒子の重合時における重合開始剤としては、従来公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。具体的には、例えば、t−ブチルハイドロパ−オキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパ−オキサイド、スクシン酸パ−オキサイド、パ−オキシマレイン酸t−ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、アゾビス(2−メチルプロピオナミジン)ジハイドロクロライド、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
上記重合開始剤は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの錯体などの還元剤と組み合わせた通常のレドックス型開始剤として使用してもよい。
上記有機系過酸化物は、重合系にそのまま添加する方法、単量体に混合して添加する方法、乳化剤水溶液に分散させて添加する方法など、公知の添加法で添加することができるが、透明性の点から、単量体に混合して添加する方法あるいは乳化剤水溶液に分散させて添加する方法が好ましい。
また、上記有機系過酸化物は、重合安定性、粒子径制御の点から、2価の鉄塩等の無機系還元剤および/またはホルムアルデヒドスルホキシル酸ソ−ダ、還元糖、アスコルビン酸等の有機系還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤として使用することが好ましい。
上記乳化重合に使用される界面活性剤にも特に限定はなく、通常の乳化重合用の界面活性剤であれば使用することができる。具体的には、例えばアルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノ−ル類、脂肪族アルコ−ル類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に必要であれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。
得られる有機微粒子のラテックスは、通常の凝固、洗浄および乾燥の操作により、または、スプレ−乾燥、凍結乾燥などによる処理により、分離、回収することができる。
上述した有機微粒子は樹脂組成物中に1種類のみ含まれていてもよいし、2種類以上含まれていてもよい。また、上述した有機微粒子に加えて、例えば、可撓性のみを付与する有機微粒子(以下、可撓性付与有機微粒子と記す)を樹脂組成物中に更に含有させてもよい。これにより、上述した位相差を低下させる効果を有する有機微粒子と位相差を低下させる効果を有しない有機微粒子(可撓性付与有機微粒子)との樹脂組成物中における含有割合を調整することにより、フィルムとした場合の位相差を所望の値に調整することができる。
上記可撓性付与有機微粒子としては、例えば、上述した多官能性化合物を含む単量体組成物を重合することによって得られる有機微粒子が挙げられ、上述したアクリル系樹脂を構成する、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、一般式(3)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の構造を更に有していているものがより好ましい。
また、上記可撓性付与有機微粒子としては、位相差を低下させる効果を有する構造(例えば、上述したシアン化ビニル系単量体の構造単位と芳香族ビニル系単量体の構造単位)をシェル部に有しない、上述したコア・シェル構造の有機微粒子が挙げられる。
位相差を低下させる効果を有する構造を有しない上記シェル部の構造としては、例えば、アクリル系樹脂が上述したラクトン環含有重合体である場合、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(以下、RHMAと記す)とメタクリル酸メチル(以下、MMAと記す)とからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、RHMA/MMA構造と記す)、メタクリル酸シクロヘキシル(以下、CHMAと記す)とMMAとからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、CHMA/MMA構造と記す)、メタクリル酸ベンジル(以下、BzMAと記す)とMMAとからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、BzMA/MMA構造と記す)、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(以下、HEMAと記す)とMMAとからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、HEMA/MMA構造と記す)などが挙げられる。
シェル部の構造がRHMA/MMA構造である場合、RHMAとMMAとの割合は、5:95〜50:50の範囲内であることが好ましく、10:90〜40:60の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。また、上記RHMA/MMA構造を有するシェルの場合、ラクトン環構造を含んでいることが好ましい。ラクトン環構造は、上記シェルを形成した後、ラクトン化することにより導入することができる。
上記シェル部の構造がCHMA/MMA構造である場合、CHMAとMMAとの割合は、5:95〜50:50の範囲内であることが好ましく、10:90〜40:60の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。
上記シェル部の構造がBzMA/MMA構造である場合、BzMAとMMAとの割合は、10:90〜60:40の範囲内であることが好ましく、20:80〜50:50の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。
上記シェル部の構造がHEMA/MMA構造である場合、HEMAとMMAとの割合は、2:98〜50:50の範囲内であることが好ましく、5:95〜40:60の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。
上記可撓性付与有機微粒子におけるコア部としては、上述した有機微粒子のコア部と同じ組成のものが挙げられる。
(III)樹脂組成物
本実施の形態に係る樹脂組成物は、上述したアクリル系樹脂と上述した有機微粒子とを含む。
上記樹脂組成物中のアクリル系樹脂の含有量は、50重量%〜95重量%の範囲内であることが好ましく、65重量%〜95重量%の範囲内であることがより好ましい。上記アクリル系樹脂の含有量が50重量%未満である場合、耐熱性およびフィルムとした場合の光学特性が低下する傾向がある。
上記樹脂組成物中の有機微粒子の含有量は、5重量%〜50重量%の範囲内であることが好ましく、10重量%〜30重量%の範囲内であることがより好ましい。上記有機微粒子の含有量が5重量%未満である場合、フィルムとした場合に十分な可撓性が得られない傾向がある。
上記有機微粒子と上記アクリル系樹脂との混合は、例えば、オムニミキサーなど、従来公知の混合機で上記有機微粒子と上記アクリル系樹脂とをプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。
上記有機微粒子とアクリル系樹脂との混合は、上記有機微粒子をアクリル系樹脂中により均一に分散させるため、有機微粒子を上記アクリル系樹脂中で高濃度で含有するマスターバッチを別途製造し、このマスターバッチを上記アクリル系樹脂で希釈することにより樹脂組成物を作製することがより好ましい。
本実施の形態に係る樹脂組成物は、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤などの帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。
樹脂組成物中における上記添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5重量%の範囲内、より好ましくは0〜2重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜0.5重量%の範囲内である。
本実施の形態に係る樹脂組成物は、厚さ100μmのフィルムとした場合に、25℃、65%RH(relative humidity:相対湿度)の雰囲気下、折り曲げ半径1mmにおいて180°折り曲げた際、クラックを生じないことが好ましい。ここで、折り曲げ半径とは、フィルムの折り曲げの中心から屈曲部の最端部までの距離を意味する。折り曲げ半径1mmにおいて180°折り曲げた際、クラックを生じない、アクリル系樹脂を主成分として含むフィルムは、取り扱いが非常に容易であり、工業的に有用である。25℃で65%RHの雰囲気下、折り曲げ半径1mmにおいて180°折り曲げた際、クラックを生じるフィルムは、可撓性が不十分であり、取り扱いが困難である。尚、折り曲げ試験は、JISに準拠して行えばよい。例えば、K5600−5−1(1999年)に準拠して行うことが好ましい。上記クラックの形状は、特には限定されず、例えば、長さが1mm以上の割れのことを意味する。
本実施の形態に係る樹脂組成物は、厚さ100μmのフィルムとした場合に、25℃、65%RHの雰囲気下、折り曲げ半径1mmにおいて180°折り曲げた際、フィルムが折り曲げ部を境界として部分的にまたは全体的に分離しない(割れない)ことが好ましい。この場合、フィルムが折り曲げ部を境界として分離するに至らない程度の微小な割れが生じてもよいが、そのような微小な割れが生じないことがより好ましい。
本実施の形態に係る樹脂組成物は、フィルムとした場合に、面方向の厚さ100μmあたりの位相差が10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。また、上記フィルムの1.5倍単軸延伸後の面方向の厚さ100μmあたりの位相差も、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。一般に、フィルムを延伸すると、フィルムの可撓性は改善されるが、屈折率の異方性が上昇することにより位相差が増大する。このような位相差が大きいフィルムは、低屈折率が要求される用途では使用することができない。これに対して、本実施の形態に係る樹脂組成物からなるフィルムは、上述したような有機微粒子を含んでいるため、フィルムを延伸した場合でも位相差の増加量が小さい。
本実施の形態に係る樹脂組成物は、フィルムとした場合に、ヘイズが5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましい。
このようにして得られた樹脂組成物は、例えば、ガラス転移温度が120℃以上200℃以下の範囲内であり、フィルムとした場合の位相差が、面方向の厚さ100μmあたり10nm以下であり、厚さ100μmのフィルムとした場合に、25℃、65%RHの雰囲気下、折り曲げ半径1mmにおいて180°折り曲げた際、クラックを生じない。
また、上記有機微粒子と上記アクリル系樹脂との混合後、有機微粒子が分散したアクリル系樹脂を、ポリマーフィルタで濾過することが好ましい。ポリマーフィルタで濾過することにより、異物の少ない樹脂組成物を得ることができる。
上記樹脂組成物中のフィルムとした場合の異物の数は、具体的には、粒子径が20μm以上の異物が1000個/m2以下であることが好ましく、500個/m2以下であることがより好ましく、200個/m2以下であることがさらに好ましく、理想的には0個/m2である。
上記ポリマーフィルタとしては、濾過精度が1μm以上20μm以下の範囲内であることが好ましく、1μm以上10μm以下の範囲内であることがより好ましく、1μm以上5μm以下の範囲内であることが更に好ましい。濾過精度が1μm未満であると、濾過滞留時間が長くなり、生産効率が低下するため好ましくない。また、濾過滞留時間が長くなると、アクリル系樹脂などが熱劣化し易くなるため、異物の増加を招く恐れがある。濾過精度が20μmを超えると、異物が混入し易くなるため好ましくない。
また、上記ポリマーフィルタは、上記範囲内の濾過精度を有するポリマーフィルタであれば特には限定されず、従来公知のポリマーフィルタを使用することができる。上記ポリマーフィルタとしては、例えば、リーフディスクタイプのポリマーフィルタ、パックディスクフィルタ、円筒型フィルタ、キャンドル状フィルタなどが挙げられる。これらの中では、濾過面積が広く、高粘度の樹脂を濾過した場合でも圧力損失が少ないため、リーフディスクタイプのポリマーフィルタがより好ましい。
上記ポリマーフィルタがリーフディスクタイプのポリマーフィルタである場合、フィルタとしては、金属繊維不織布を焼結した材料からなるもの、金属粉末を焼結した材料からなるもの、金網を数枚積層したものなどが挙げられる。これらの中では、金属繊維不織布を焼結した材料からなるものがより好ましい。
上記ポリマーフィルタにおける時間当たりの樹脂(樹脂組成物)処理量に対する濾過面積は、処理量に応じて適宜選択されるため、特には限定されず、例えば、0.001〜0.15m2/(kg/h)とすることができる。
上記ポリマーフィルタでの濾過において、有機微粒子が分散した上記アクリル系樹脂の温度は、260℃以上であることが好ましく、270℃以上であることがより好ましい。また、310℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、290℃以下であることが更に好ましい。
上記ポリマーフィルタでの濾過時における有機微粒子が分散した上記アクリル系樹脂の粘度(剪断速度100/sで測定した場合)は、500Pa・s以下が好ましく、450Pa・s以下がより好ましく、400Pa・s以下が更に好ましい。
上記ポリマーフィルタでの濾過時における上記樹脂組成物の滞留時間は、20分以下が好ましく、10分以下がより好ましく、5分以下が更に好ましい。また、上記ポリマーフィルタでの濾過時におけるフィルタの入口圧は、例えば3〜15MPaの範囲内、フィルタの出口圧は、例えば0.3〜10MPaの範囲内とすることができる。また、フィルタにおける圧力損失は、1〜15MPaの範囲内であることが好ましい。圧力損失が1MPa未満では、樹脂(樹脂組成物)がポリマーフィルタを通過する流路に偏りが生じ易く、濾過後の樹脂組成物の品質の低下が起こる傾向がある。逆に、圧力損失が15MPaを超えると、フィルタの破損が起こり易くなる。
本実施の形態に係る樹脂組成物は、透明性や耐熱性に優れるのみならず、低着色性、機械的強度、成型加工性などの所望の特性を備えると共に、特に高い光学的等方性を有する低複屈折材料であるので、例えば、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルム、光学ファイバー、光学ディスクなどの用途に有用である。これらの中でも特に、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルムが好ましい。
本実施の形態に係る樹脂組成物は、用途に応じて様々な形状に成形することができる。形成可能な形状としては、例えば、フィルム、シート、プレート、ディスク、ブロック、ボール、レンズ、ロッド、ストランド、コード、ファイバーなどが挙げられる。成形方法としては、従来公知の形成方法の中から形状に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
(IV)フィルム
本実施の形態に係るフィルムは、上述した本実施の形態に係る樹脂組成物から得ることができる。尚、上記フィルムは、上記樹脂組成物を一旦取り出してから、後述する成形方法により作製してもよいし、上記アクリル系樹脂と上記有機微粒子とを混合後に、上記樹脂組成物として取り出すことなく、後述する成形方法により連続的にフィルムを形成してもよい。
また、上記樹脂組成物の作製の際に行うことができる、上述したポリマーフィルタによる濾過は、樹脂組成物からフィルムを形成する際に行ってもよい。
上記フィルムのフィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が特に好適である。
溶液キャスト法(溶液流延法)に使用する溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチエルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の成形温度は、フィルム原料のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは150〜350℃の範囲内、より好ましくは200〜300℃の範囲内である。
Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸などを行うこともできる。
本実施の形態に係るフィルムは、未延伸フィルムであってもよいし、延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムである場合は、1軸延伸フィルムまたは2軸延伸フィルムのどちらであってもよい。2軸延伸フィルムである場合は、同時2軸延伸フィルムまたは逐次2軸延伸フィルムのどちらであってもよい。2軸延伸した場合は、機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。上記フィルムは、延伸しても位相差の増大を抑制することができ、光学的等方性を保持したフィルムを得ることができる。
延伸温度は、フィルム原料であるアクリル系樹脂のガラス転移温度近傍であることが好ましく、具体的には、好ましくは(ガラス転移温度−30℃)〜(ガラス転移温度+100℃)の範囲内、より好ましくは(ガラス転移温度−20℃)〜(ガラス転移温度+80℃)の範囲内である。延伸温度が(ガラス転移温度−30℃)未満であると、充分な延伸倍率が得られないことがある。逆に、延伸温度が(ガラス転移温度+100℃)超えると、アクリル系樹脂の流動(フロー)が起こり、安定な延伸が行えなくなることがある。
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍の範囲内、より好ましくは1.3〜10倍の範囲内である。延伸倍率が1.1倍未満であると、延伸に伴う靭性の向上につながらないことがある。逆に、延伸倍率が25倍を超えると、延伸倍率を上げるだけの効果が認められないことがある。
延伸速度は、一方向で、好ましくは10〜20,000%/minの範囲内、より好ましく100〜10,000%/minの範囲内である。延伸速度が10%/min未満であると、充分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなる。逆に、延伸速度が20,000%/minを超えると、延伸フィルムの破断などが起こる恐れがある。
なお、本実施の形態に係るフィルムは、その光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行うことができる。熱処理の条件は、従来公知の延伸フィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
本実施の形態に係るフィルムは、その厚さが好ましくは5〜200μmの範囲内、より好ましくは10〜100μmの範囲内である。厚さが5μm未満であると、フィルムの強度が低下するだけでなく、他の部品に貼着して耐久性試験を行った場合、捲縮が大きくなる傾向がある。逆に、厚さが200μmを超えると、フィルムの透明性が低下するだけでなく、透湿性が小さくなり、他の部品に貼着する際に水系接着剤を用いた場合、その溶剤である水の乾燥速度が遅くなることがある。
本実施の形態に係るフィルムは、その表面の濡れ張力が、好ましくは40mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上、さらに好ましくは55mN/m以上である。表面の濡れ張力が少なくとも40mN/m以上であると、上記フィルムは、他の部品との接着強度が高い状態を維持できる。表面の濡れ張力を調整するために、例えば、コロナ放電処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他の従来公知の表面処理を施すことができる。
本実施の形態に係るフィルムは、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤などの帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。
フィルム中における上記添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5重量%の範囲内、より好ましくは0〜2重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜0.5重量%の範囲内である。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の説明では、便宜上、「重量部」を単に「部」と記すことがある。
尚、実施例において便宜上、下記略称を用いて説明する。
MMA:メタクリル酸メチル
RHMA:2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル
SFS:ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート
EDTA:エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
BA:アクリル酸n−ブチル
St:スチレン
AN:アクリロニトリル
BDMA:ジメタクリル酸1,4−ブタンジオール
AMA:メタクリル酸アリル
PBH:t−ブチルハイドロパーオキサイド
CHP:クメンハイドロパーオキサイド
TDM:ターシャリードデシルメルカプタン
<重量平均分子量>
アクリル系樹脂の重量平均分子量は、GPC(東ソー社製GPCシステム、ポリスチレン換算、展開溶媒:クロロホルム)により求めた。
<ガラス転移温度>
アクリル系樹脂、樹脂組成物およびフィルムの熱分析は、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50cc/minの条件で、DSC((株)リガク社製、装置名:DSC−8230)を用いて行った。なお、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に従い、中点法により求めた。
<ダイナミックTG>
重合体(もしくは重合体溶液あるいはペレット)を一旦テトラヒドロフランに溶解もしくは希釈し、過剰のヘキサンもしくはメタノールへ投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1mmHg(1.33hPa)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分などを除去し、得られた白色固形状の樹脂を以下の方法(ダイナミックTG法)で分析した。
測定装置:Thermo Plus2 TG−8120 Dynamic TG((株)リガク社製)
測定条件:試料量 5〜10mg
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素フロー 200ml/min
方法:階段状等温制御法(60℃〜500℃の間で重量減少速度値0.005%/sec以下で制御)
<平均粒子径>
有機微粒子の平均粒子径の測定は、NICOMP社製粒度分布測定装置(Submicron Particle Sizer NICOMP380)を用いた。
<異物数>
粒子径が20μm以上の異物の数は、5cm×20cmの厚さ100μmのフィルム5枚を目視で観察し、平均した。尚、異物の粒子径は光学顕微鏡を用いて測定した。
<可撓性>
フィルムの可撓性(耐折曲げ性)は、25℃、65%RHの雰囲気下、厚さ100μmのフィルムを、折り曲げ半径1mmにおいて180°折り曲げた際、クラックを生じない状態を「○」、折り曲げ方向によりクラックが生じる状態を「△」、クラックを生じる状態を「×」として評価した。尚、フィルムを単軸延伸した場合には、単軸延伸した方向および単軸延伸した方向と垂直の方向の2方向でそれぞれ試験を行った。
<カッターカット性>
フィルムのカッターカット性は、25℃、65%RHの雰囲気下、厚さ100μmのフィルムをカッターナイフで切り、カット部に割れが生じずカットできる状態を「○」、割れが生じる状態を「×」、カットする方向により割れが生じる状態を「△」として評価した。尚、フィルムを単軸延伸した場合には、単軸延伸した方向および単軸延伸した方向と垂直の方向の2方向でそれぞれ試験を行った。
<ヘイズ>
ヘイズは、厚さ100μmのフィルムを、日本電色工業社製NDH−1001DPを用いて測定した。
<屈折率異方性>
屈折率異方性(リタデーション:Re)は、王子計測器社製KOBRA−WRを用いて測定した。
<分散性>
フィルムの切片をエポキシ樹脂に梱包した後、エポキシ樹脂を硬化させ、ミクロトームで薄く切り取り、観察用のサンプルを作製した。得られたサンプルを走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ社製、FE−SEM S−4800型)で測定し、得られたフィルム断面の透過電子像から熱可塑性樹脂に対する有機微粒子の分散性を観察した。
<ラクトン環構造単位の含有割合>
ラクトン環構造単位の含有割合は、以下のようにして求めた。
最初に、重合で得られた重合体組成から全ての水酸基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる重量減少を基準とし、ダイナミックTG測定において重量減少が始まる前の150℃から、重合体の分解が始まる前の300℃までの間の脱アルコール反応による重量減少から脱アルコール反応率を求めた。
ここで、ラクトン環構造を有する重合体のダイナミックTG測定において150℃から300℃までの間の重量減少率の測定を行い、得られた実測重量減少率を(X)とする。一方、当該重量体の組成から、全ての水酸基が脱アルコールすると仮定した場合の理論重量減少量(即ち、重合体の組成において、起こりうる脱アルコール反応が100%起きたと仮定して算出した重量減少量)を(Y)とする。
尚、理論重量減少量(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール反応に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体のモル比、即ち当該重合体組成における上記原料単量体の含有率から算出することができる。
そして、下記式
脱アルコール反応率=(1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少量(Y))
から脱アルコール反応率を求めることができる。
一例として、後述する製造例1で得られるアクリル系樹脂(A−1)のラクトン環構造の占める割合を計算する。アクリル系樹脂(A−1)の理論重量減少量(Y)は、メタノールの分子量は32であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの分子量は116であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの重合体中の含有率(重量比)は組成上20重量%であるから、(32/116)×20≒5.52重量%となる。
一方、ダイナミックTG測定によるアクリル系樹脂(A−1)の実測重量減少率(X)は0.18重量%であった。これらの値を上記脱アルコール反応率の式に当てはめると、
(1−(0.18/5.52))≒0.967
であり、脱アルコール反応率は96.7%となる。
そして、上記脱アルコール反応率の分だけラクトン環化反応が行われたと仮定して、下記式
ラクトン環の含有割合(重量%)=B×A×MR/Mm
(式中、Bは、ラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体の当該共重合に用いられた単量体組成における重量含有割合であり、MRは生成するラクトン環構造単位の式量であり、Mmはラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体の分子量であり、Aは脱アルコール反応率である)
により、ラクトン環含有割合を算出することができる。
例えば、製造例1の場合、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのアクリル系樹脂(A−1)における含有率が20.0重量%、算出した脱アルコール反応率が96.7%、分子量が116の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルがメタクリル酸メチルと縮合した場合に生成するラクトン環構造単位の式量が170であることから、アクリル系樹脂(A−1)におけるラクトン環の含有割合は28.3(=20.0×0.967×170/116)重量%となる。
<製造例1>(アクリル系樹脂の製造)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた30Lの反応釜に、RHMA10部、MMA40部、トルエン50部を仕込み、窒素パスを行いながら昇温した。105℃で、開始剤としてターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.05部を添加すると同時に、ターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.1部とトルエン0.9部とからなる溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下(100〜115℃)で溶液重合を行った。滴下終了後、還流下(100〜115℃)で更に4時間熟成を行い、重合体溶液を得た。
上記重合体溶液100部に対して0.05部のリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学製)を加え、窒素パスを行いながら、還流下(95〜100℃)で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、バレル温度250℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa、リアベント数1個とフォアベント数4個のベントタイプスクリュー2軸押出機(直径=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で、環化縮合反応後の重合体溶液を導入し、押出機内で更なる環化縮合反応と脱揮とを行い、押出機から押し出すことにより、透明なアクリル系樹脂(A−1)のペレットを得た。アクリル系樹脂(A−1)の重量平均分子量は139,000であり、ガラス転移温度は135℃であった。
<製造例2>(有機微粒子の製造1)
冷却器と攪拌機とを備えた重合容器に、脱イオン水710部、ラウリル硫酸ナトリウム1.5部を投入して溶解し、内温を70℃に昇温した。そして、SFS0.93部、硫酸第一鉄0.001部、EDTA0.003部、脱イオン水20部の混合液を上記重合容器中に一括投入し、重合容器内を窒素ガスで十分置換した。
モノマー混合液(M−1)(BA7.10部、St2.86部、BDMA0.02部、AMA0.02部)と重合開始剤溶液(PBH0.13部、脱イオン水10.0部)とを上記重合容器の中に一括添加し、60分間重合反応を行った。
続いて、モノマー混合液(M−2)(BA63.90部、St25.20部、AMA0.9部)と重合開始剤溶液(PBH0.246部、脱イオン水20.0部)とを別々に90分間かけて連続滴下しながら重合を行った。滴下終了後さらに60分間重合を継続させた。これにより、有機微粒子のコア・シェル構造のコアとなる部分を得た。
続いて、モノマー混合液(M−3)(St73.0部、AN27.0部)と重合開始剤溶液(PBH0.27部、脱イオン水20.0部)とを別々に100分間かけて連続滴下しながら重合を行い、滴下終了後内温を80℃に昇温して120分間重合を継続させた。次に内温が40℃になるまで冷却した後に300メッシュ金網を通過させて有機微粒子の乳化重合液を得た。
得られた有機微粒子の乳化重合液を塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥して、粉体状の有機微粒子(B−1、平均粒子径0.105μm)を得た。
<製造例3>(有機微粒子の製造2)
冷却器と攪拌機とを備えた重合容器に、脱イオン水710部、ラウリル硫酸ナトリウム1.5部を投入して溶解し、内温を50℃に昇温した。そして、SFS0.93部、硫酸第一鉄0.001部、EDTA0.003部、脱イオン水20部の混合液を上記重合容器中に一括投入し、重合容器内を窒素ガスで十分置換した。
モノマー混合液(M−1)(BA35.50部、St14.00部、AMA0.5部)と重合開始剤溶液(PBH0.13部、脱イオン水10.0部)とを上記重合容器の中に一括添加し、60分間重合反応を行った。
続いて、モノマー混合液(M−2)(BA35.50部、St14.00部、AMA0.5部)と重合開始剤溶液(PBH0.246部、脱イオン水20.0部)とを別々に90分間かけて連続滴下しながら重合を行った。滴下終了後さらに60分間重合を継続させた。これにより、有機微粒子のコア・シェル構造のコアとなる部分を得た。
続いて、モノマー混合液(M−3)(St73.0部、AN27.0部)と重合開始剤溶液(PBH0.27部、脱イオン水20.0部)とを別々に100分間かけて連続滴下しながら重合を行い、滴下終了後内温を80℃に昇温して120分間重合を継続させた。次に内温が40℃になるまで冷却した後に300メッシュ金網を通過させて有機微粒子の乳化重合液を得た。
得られた有機微粒子の乳化重合液を塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥して、粉体状の有機微粒子(B−2、平均粒子径0.220μm)を得た。
<製造例4>(有機微粒子の製造3)
冷却器と攪拌機とを備えた重合容器に、脱イオン水550部、2重量%ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム水溶液37.5部を投入して溶解し、内温を60℃に昇温し、重合容器内を窒素ガスで十分置換した。そして、SFS0.45部、硫酸第一鉄0.00075部、EDTA0.003部、脱イオン水12部の混合液を上記重合容器中に一括投入し、再度重合容器内を窒素ガスで十分置換した。
モノマー混合液(M−1)(BA132部、MMA14.7部、AMA2.93部、CHP0.293部)を60℃で5時間かけて滴下し、滴下後更に30分間重合反応を行った。
続いて、2重量%ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム水溶液7.5部と脱イオン水5部とを加えた後、モノマー混合液(M−2)(MMA120.0部、St30.0部、TDM0.45部、CHP0.45部)を5時間かけて滴下しながら重合を行った。滴下終了後さらに2時間重合を継続させた。そして、内温が25℃になるまで冷却した後、重合容器の内容物を300メッシュ金網を通過させて、有機微粒子の乳化重合液(平均粒子径0.119μm)を得た。
得られた有機微粒子の乳化重合液を塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥して、粉体状の有機微粒子(B−3)を得た。
〔実施例1〕
製造例1で得られたアクリル系樹脂(A−1)と製造例2で得られた有機微粒子(B−1)とを、アクリル系樹脂(A−1)/有機微粒子(B−1)=80/20の重量比でフィーダーを用いフィードしながら、2軸押出機(シリンダー径:20mm)を用いて260℃の温度で混練し、リーフディスク型のポリマーフィルタ(長瀬産業製、濾過精度5μm)で濾過し、ペレットを得た。更に、単軸押出機を用いて260℃でコートハンガータイプTダイ(幅150mm)から溶融押出しを行い、厚さ100μmのフィルム(未延伸フィルム)(C−1)を作製した。また、上記フィルム(C−1)をオートグラフ(AGS−100D、島津製作所製)で1.5倍単軸延伸(140℃、30秒)することで、厚さ75μmのフィルム(D−1)を得た。フィルム(C−1)、(D−1)のガラス転移温度はどちらも129℃であった。また、フィルム(C−1)の異物数は180個/m2であった。フィルム(C−1)、(D−1)それぞれの各種測定結果を表1に示す。
また、フィルム(C−1)の断面の透過電子像を走査型電子顕微鏡で測定し、アクリル系樹脂(A−1)に対する有機微粒子(B−1)の分散性を観察したところ、直径0.1μm程度の粒子径の粒子が均一に分散しており、有機微粒子の凝集物は観察されなかった。
〔実施例2〕
製造例1で得られたアクリル系樹脂(A−1)と製造例3で得られた有機微粒子(B−2)とをアクリル系樹脂(A−1)/有機微粒子(B−2)=80/20の重量比でフィーダーを用いてフィードしながら、2軸押出機(シリンダー径:20mm)を用いて280℃の温度で混練し、リーフディスク型のポリマーフィルタ(長瀬産業製、濾過精度5μm)で濾過し、ペレットを得た。更に、単軸押出機を用いて260℃でコートハンガータイプTダイ(幅150mm)から溶融押出しを行い、厚さ100μmのフィルム(未延伸フィルム)(C−2)を作製した。フィルムの各種測定結果を表1に示す。また、上記フィルム(C−2)をオートグラフ(AGS−100D、島津製作所製)で1.5倍単軸延伸(140℃、30秒)することで、厚さ75μmのフィルム(D−2)を得た。フィルム(C−2)、(D−2)のガラス転移温度はどちらも128℃であった。また、フィルム(C−1)の異物数は200個/m2であった。フィルム(C−2)、(D−2)それぞれの各種測定結果を表1に示す。
また、フィルム(C−2)の断面の透過電子像を走査型電子顕微鏡で測定し、アクリル系樹脂(A−1)に対する有機微粒子(B−2)の分散性を観察したところ、直径0.2μm程度の粒子径の粒子が均一に分散しており、有機微粒子の凝集物は観察されなかった。
〔比較例1〕
製造例1で得られたアクリル系樹脂(A−1)を単軸押出機を用いて260℃でコートハンガータイプTダイ(幅150mm)から溶融押出しを行い、厚さ100μmのフィルム(未延伸フィルム)(C−3)を作製した。また、上記フィルム(C−3)をオートグラフ(AGS−100D、島津製作所製)で1.5倍単軸延伸(140℃、30秒)することで、厚さ75μmのフィルム(D−3)を得た。フィルム(C−3)、(D−3)それぞれの各種測定結果を表1に示す。
〔比較例2〕
製造例1で得られたアクリル系樹脂(A−1)と製造例4で得られた有機微粒子(B−3)とをアクリル系樹脂(A−1)/有機微粒子(B−3)=80/20の重量比でフィーダーを用いてフィードしながら、2軸押出機(シリンダー径:20mm)を用いて260℃の温度で混練し、リーフディスク型のポリマーフィルタ(長瀬産業製、濾過精度5μm)で濾過しようとしたが、フィルタの樹脂圧力(入口圧)が急上昇したため、装置を停止させた。
そこで、ポリマーフィルターでの濾過を行わないこと以外は、実施例1と同じ条件で混練を行い、得られたペレットを熱プレス(240℃)でフィルム化し、130μmの厚みのフィルムを作製した。
得られたフィルムの可撓性とカッターカット性は○であったが、ヘイズは36%であった。
また、上記フィルムの断面の透過電子像を走査型電子顕微鏡で測定し、アクリル系樹脂(A−1)に対する有機微粒子(B−3)の分散性を観察したところ、有機微粒子は直径1〜3μm程度に凝集していた。
表1に示すように、比較例1の未延伸のフィルム(C−3)は、有機微粒子を含有していないため、可撓性およびカッターカット性が悪い。また、比較例1の延伸後のフィルム(D−1)では、延伸することにより可撓性およびカッターカット性は改善しているが、位相差が30倍以上も大きくなる。
これに対して、表1から明らかのように、実施例1,2のフィルムでは、正の位相差を有するラクトン環構造を有するが、負の位相差を与える構造単位を有するので、透明性や耐熱性に優れるのみならず、低着色性、機械的強度、成型加工性などの所望の特性を備えると共に、1.5倍延伸した後でも、特に面方向の位相差が非常に低い。