JP2007254233A - 単結晶の製造装置および製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】多結晶の成長やエピフロントでの融液の取り込みがなく、多形制御に対する自由度の高い手法によって、液相エピタキシー法により高品質のバルク単結晶を製造する。
【解決手段】単結晶原料の融液を収容する坩堝を、融液保持部3と、スリットを有し、冷却機構を備えた、導電性材質から構成された第1の側壁部(低温壁)1と、冷却機構を有しない第2の側壁部(高温壁)2とから構成する。側壁部の外周に配置した通電コイル8に高周波電流を通電すると、原料が誘導加熱されてて融液となり、融液はローレンツ力によって隆起すると電磁攪拌される。基板6は、図示のように上方から挿入される結晶保持具5の先端に取付けてもよく(引き上げ法)、或いは融液保持部3の上面を平面にして、この上面に取付けてもよい。その場合は融液保持部3を単結晶の成長につれて下方に移動させる。
【選択図】図1

Description

この発明は、半導体基板材料等として用いられる単結晶を液相エピタキシャル法により製造するための装置および方法に関する。本発明による単結晶の製造装置および製造方法は、高品質かつ実用的な大きさの炭化珪素(SiC)等の単結晶の成長を、多形制御の自由度を高めて可能にするものである。
SiCは、熱的および化学的に安定な化合物半導体型の基板材料として有用であり、現在広範に使用されている単元素のSi半導体基板に比べて、約3倍のバンドギャップ、約10倍の絶縁破壊電圧、約2倍の電子飽和速度、約3倍の熱伝導係数などの有利な特性を示す。このような優れた特性から、SiCは新しい電子デバイスの基板材料としての応用が期待されている。
しかし、高品質で実用的な大きさのSiC単結晶の製造が困難であることが、SiC基板の実用化を阻む大きな原因となっている。これはSiCに限った話ではなく、単結晶の製造が困難である化合物半導体は他にも存在する。例えば、AlN、AlGaN、AlInGaN等である。
一般に、SiC等の単結晶の製造技術は、気相成長法である昇華法および化学気相成長法(CVD法)と、液相エピタキシャル法(LPE法)とに大別される。SiC単結晶の製造に工業規模でこれらの手法を適用する場合、数多くの課題が存在する。
一般に、昇華法により製造された単結晶には、多数の格子欠陥が存在することが知られている。例えば、SiCの場合、昇華の際にはSiCが一旦分解して、Si、SiC2、Si2Cなどとなって気化すると共に、黒鉛が昇華するが、温度に依存して単結晶基板表面に到達する頻度がガス種により異なる。到達頻度を一定に維持するために、ガス分圧を化学量論的に正確に制御することは困難である。このため、一般に、結晶内で特定の元素や分子が過剰に析出して欠陥と成りやすい。また、昇華法には、結晶の多形転位が生じやすいという欠点もある。多くの結晶多形を示すSiCは、特に結晶の多形転位を生じやすい化合物である。
CVD法は、ガスで原料を供給するため、原料の供給量を増加させることが難しく、バルク(大型)単結晶の成長法としては実用的でない。
LPE法では、例えばSiCの場合、その構成元素である炭素を含む坩堝(例、黒鉛坩堝)にSiを含む融液(Si単味またはSiと他の金属との合金の融液)を収容し、このSiを含む融液に、Siが坩堝の構成元素である炭素と反応して生成したSiCを溶解させる(すなわち、融液をSiC溶液にする、溶媒は坩堝に投入したSiまたはSi合金である)と共に、融液に温度勾配を形成し、結晶保持具の先端に付けた単結晶基板を融液の低温部に浸漬して基板上にSiC単結晶を成長させるのが一般的である。
通常は、融液に上部が下部より低温となるような温度勾配を形成して、結晶保持具の先端の単結晶基板を融液の液面と接触させ、SiC単結晶の成長と共に結晶保持具を引き上げる、引き上げ法によって、連続的に単結晶の成長が行われる。LPE法によるSiC単結晶の成長では、基板周辺を過冷却状態にすることによってSiCの適度の過飽和状態をつくり、それがSiC単結晶成長の駆動力となる。
LPE法で得られるSiC単結晶は、一般に、欠陥が少なく、多形転移の生じる頻度も少ないという特長を有する。しかし、LPE法によってバルク単結晶を得るために、長時間の単結晶成長を連続的に行うと、坩堝の低温部分、融液の低温部に浸漬された結晶保持具の周辺、あるいは融液の表面近傍などが、抜熱によって単結晶成長部より低温になり、そこに多くの多結晶が成長する。多結晶が成長するとSiCが消費されて単結晶の成長が阻害されるため、バルク単結晶は得られ難い。そのため、LPE法によるSiC単結晶の成長は、単結晶基板上に薄いSiC単結晶(すなわち、薄膜単結晶)を成長させるのに適用されているに過ぎない。
さらに、LPE法によるSiC単結晶の製造では、SiC単結晶の成長温度がSiの融点より約300℃高温であるため、Siの気化により融液(すなわち、SiC溶液)中のSiC濃度が増加して過飽和度が過度に高くなりやすく、多結晶を生じやすいという問題もある。
バルクSiC単結晶を成長させるためのLPE法の改良として、下記の技術が提案されている。
下記特許文献1には、少なくとも1種の遷移金属とSiとCとを含む原料を炭素質坩堝内で加熱溶融して、Siと遷移金属との合金の融液を溶媒とするSiC溶液を形成し、融液を冷却するか、あるいは融液に温度勾配を形成することによって、種結晶にSiC単結晶を析出成長させる方法が開示されている。適切な遷移金属を選択することで融液の蒸気圧を下げることができるので、種結晶以外の場所でのSiC多結晶の成長が抑制できると説明されているが、現実には蒸気圧を顕著に下げることが難しく、SiC濃度の過飽和を抑制して多結晶の成長を抑制することは難しいと考えられる。
また、坩堝の低温部分、結晶保持具、融液の表面近傍などの低温部における多結晶発生に対する特別な技術が開示されていないので、温度管理の面からも多結晶の成長を抑制することは難しい。
特許文献1の方法では、Cの供給源として炭素を含む坩堝材質以外に、Cを含む原料を坩堝に供給している。この場合、Cを含む原料が融液中に未溶解で残留し、未溶解の原料を核として多結晶が成長しやすいので、基板上の単結晶の成長が阻害される欠点がある。
下記特許文献2には、この点を改良する発明が提案されている。特許文献2では、限定された元素Mを含むSi、C、Mから成る特定組成の三元系Si含有融液を用いて、特許文献1と概ね類似の方法で、基板上にSiC単結晶を効率的に析出成長させる。
特許文献2では、特許文献1と比較して多結晶の成長抑制には成功している。しかし、3C−SiCを選択成長させるのに必要な低温成長を維持することはできない。3C−SiCの成長を目的に低温の融液温度条件でエピタキシャル成長を行うと、融液表層等の低温部に多結晶が成長するからである。
このように、特許文献2に開示された技術は、例えば6H−SiC、4H−SiCのような特定の多形SiCの成長は可能であるが、3C−SiCなどを含めて、より多くの多形SiCを対象に、選択的に特定の多形SiCの成長を可能にする程には、結晶成長に対する自由度が高い技術ではない。
下記特許文献3には、黒鉛坩堝のような炭素質坩堝ではなく、冷却坩堝(水冷などの冷却機構を備えた坩堝)を用いてSiC等の単結晶をLPE法で成長する技術が提案されている。この技術では、坩堝周囲に配した通電コイルに交流電流を通電することにより、ローレンツ力を利用して融液を隆起させると共に融液を電磁攪拌するため、融液温度は概ね均一となり、また坩堝の表層温度が低温なので、大きな基板温度勾配条件で結晶成長が実現できる。
このため、基板を表層付近に浸漬すると、多結晶の成長を抑制しつつ比較的大きな温度勾配で低温成長が可能となり、その結果、3C−SiCの成長を実現することができる。一方、融液への基板の浸漬深さを深くすることにより、低温度勾配かつ高温成長条件を維持することが可能となり、この場合は、6H−SiCの成長を実現することができる。このように、特許文献3に開示の技術は、成長するSiCの多形制御に対する自由度が高いという特長を有する。
しかし、特許文献3に開示の技術では、概して温度勾配が大きくなるので、エピフロント(エピタキシャル成長面)が乱れやすく、融液の取り込みを生じやすい。基板の浸漬深さを深くすれば、成長方向の温度勾配は緩和されるので、融液の取り込みは生じ難くなるものの、半径方向の温度勾配は逆に大きくなる傾向にあるので、c軸などの特定方向に沿って均一な成長を行うことが難しくなる。
特開2000−264790号公報 特開2004−2173号公報 特開2005−179080号公報
本発明は、上述した従来のLPE法の種々の問題点を解消することを目指したものである。すなわち、多結晶の成長やエピフロントにおける融液の取り込みのといった問題を伴わず、かつ多形制御に対する自由度の高い手法によって、LPE法により高品質のバルク単結晶の効率的な製造を可能にする単結晶の製造装置および製造方法を提供することが、本発明の目的である。
特許文献1、2に開示されている、いわゆる高温壁(冷却機構を有しない)型の坩堝では、基板の温度勾配が、成長方向(上下方向)では緩やかで、それに直交する半径方向においてはさらに極めて小さいので、転位密度が低く、品質に優れた単結晶が成長する反面、その成長速度は遅いという欠点を有する。また、成長可能な多形の自由度が低いという欠点も有する。
一方、特許文献3に開示されている、いわゆる低温壁を有し、かつ通電コイルによるローレンツ力を利用する 冷却坩堝では、融液の隆起による表面積の増加により気相から融液への物質移動が促進され、同時に融液の電磁攪拌による坩堝/融液および雰囲気ガス/融液間の物質移動も促進される。さらに、融液温度の均一化、融液表層のジュール加熱などの効果を発現することが可能となる。その結果、成長可能な多形の自由度が高まると共に、特許文献2に開示した方法では成長速度が遅い、例えばAlN単結晶を効率的に成長させることも可能となる。しかし、その一方で、成長速度が大き過ぎて不均一成長が生じやすいので、結晶成長の際にいわゆる融液の取り込み等の欠陥が生じやすく、さらに半径方向で品質が異なることがあるという欠点も存在する。
本発明の着想は、いわゆる高温壁を有する坩堝といわゆる低温壁を有する坩堝を適切に組み合わせた、いわば高・低温壁を有する坩堝を用いることにより、高温壁を有する坩堝の利点と低温壁を有する坩堝の利点の両者を享受しつつ半導体基板として使用可能なバルク単結晶の成長を可能にする点にある。
第1の態様において、本発明は、単結晶原料の融液を収容する坩堝と、単結晶成長用基板の装着が可能な、上方から坩堝内に挿入された結晶保持具と、坩堝の外周に配置された通電コイルと、これらを収容するためのチャンバーとを備えた単結晶製造装置であって、前記坩堝が、
・融液保持部と、
・絶縁機能を果たすスリットを有し、冷却機構を備えた、導電性材質から構成された第1の側壁部と、
・冷却機構を有しない第2の側壁部と、
を備え、第1の側壁部と第2の側壁部が異なる高さに隣接して配置され、それらが一体となって坩堝の側壁を構成し、前記コイルに通電することにより融液にローレンツ力を発生させて融液を隆起させるとともに融液を誘導加熱することができることを特徴とする、単結晶製造装置である。
第2の態様において、本発明は、単結晶原料の融液を収容する坩堝と、坩堝の外周に配置された通電コイルと、これらを収容するためのチャンバーとを備えた単結晶製造装置であって、前記坩堝が、
・単結晶成長用基板の装着が可能で、かつ上下方向に移動可能な融液保持部と、
・絶縁機能を果たすスリットを有し、冷却機構を備えた、導電性材質から構成された第1の側壁部と、
・冷却機構を有しない第2の側壁部と、
を備え、第1の側壁部と第2の側壁部が異なる高さに隣接して配置され、それらが一体となって坩堝の側壁を構成し、前記コイルに通電することにより融液にローレンツ力を発生させて融液を隆起させるとともに融液を誘導加熱することができることを特徴とする、単結晶製造装置である。
第1の態様は、いわゆる引き上げ法による単結晶の連続成長法に関する装置である。この方法では、上方から坩堝内に挿入された結晶保持具に単結晶成長用基板を装着し、通常は基板を融液表面近傍に接触させて単結晶を成長させ、成長速度に合わせて結晶保持具を上方に移動させる。従って、エピフロント(エピタキシャル成長面)は融液の表面近傍であり、融液の温度勾配は上方が低温部、下方が高温部となる傾斜である。
これに対して、第2の態様では、融液を保持する融液保持部に単結晶成長用基板を装着する。すなわち、融液の底部がエピフロントとなるので、融液の温度勾配は上記とは逆に、上方が高温部、下方が底部となる傾斜である。そして、融液保持部を上下方向に移動可能として、単結晶の成長に合わせて融液保持部を下方に移動させる。
低温壁(第1の側壁部)は、導電性物質から構成され、冷却機構(例、内部水冷管)に加えて、絶縁機能を果たすスリットを備える。このスリットは、通電コイルの巻き方向に略直交方向に複数個設けることが好ましい。コイル巻き方向は、普通は略水平方向であるから、スリットは好ましくは複数個を略鉛直方向に設ける。それにより低温壁は複数のセグメントに分割される。スリットが絶縁機能を果たすことから、通電コイルに交流電流を供給すると、発生した誘導電流はスリットに遮られて低温壁の外側から内側に流れ、融液に効率よくローレンツ力を発生させることができる。
通電コイルに交流電流を通電すると、まず炉内の固体原料は誘導加熱(ジュール加熱)されて溶融し、融液となる。生成した融液は上記ローレンツ力の作用で隆起する。また、上記特許文献3に説明されているように、コイル位置の適正化により磁場分布の端効果を利用してローレンツ力に分布を持たせることにより、電磁攪拌を効果的に行うことができる。
高温壁は、通電コイルによる誘導加熱によって加熱されて壁自体が高温となり、高温壁からの輻射伝熱によって融液の一部、成長結晶の一部は加熱あるいは保温される。また、融液保持部も誘導加熱によって加熱されるので、伝導伝熱のために融液の一部は加熱される。
低温壁と高温壁は、例えば、低温壁が下側、高温壁が上側となるように、上下方向に異なる位置(高さ)に配置され、それらが一体となって坩堝の側壁が構成される。高温壁と低温壁は、その高さ方向に全く重ならないように配置してもよい。その場合は、例えば、低温壁の上端の上に高温壁の下端が位置するようになる。或いは、低温壁と高温壁が高さ方向に一部重なるように配置することも可能である。この場合は、この重なり部分の坩堝壁の水平方向断面を観察すると、例えば、内側が高温壁、外側が低温壁という二重の炉壁が存在する。
高温壁あるいは低温壁によって囲まれる空間の水平方向の断面形状は高さ方向に沿って必ずしも一定とする必要はなく、融液量や、成長結晶、結晶保持具、単結晶成長用基板および融液保持部の大きさや形状によって、高温壁及び/又は低温壁の形状を高さと共に連続的または段階的に変化させてもよい。
高温壁および低温壁の外側には、壁に近接するが、しかし非接触の状態で通電コイルが多重螺旋状に配置される。前述したように、コイルの巻き方向と低温壁に設けられた絶縁機能を果たすスリットの配列方向は略直交させる。高温壁と低温壁が重なった坩堝高さにおいては低温壁の外側に低温壁に接近して通電コイルが配置される。従って、外側が低温壁となるように重なることが好ましい。
通電コイルは高温壁あるいは低温壁と接触することはない。高温壁とそれに近接する他部材、すなわち、通電コイルあるいは低温壁との対向部分には、断熱材を介在させて、高温壁からの抜熱を抑制することがエネルギーの利用効率を高めるために好ましい。この断熱材は誘導加熱により実質的に発熱しない特性を持つものを使用する。
高温壁の厚さΔrは(1)式の不等式を満足するように決めることが好ましい。
Figure 2007254233
ここで、δはいわゆる表皮深さであって、通常下記(2)式によって定義される。
Figure 2007254233
ω,μ,σは、それぞれ印加される 交流電流の角周波数、真空中の透磁率、高温壁の電気伝導度であり、真空中の透磁率は定数、4π×10-7H/mである。
(1)式で数値限定された高温壁の厚さΔrを選択することにより、コイルによって誘導される電磁場が高温壁を透過し、一部がエピフロント近傍に印加される。電磁場によるジュール加熱、高温壁表面からの輻射熱、エピフロントと高温壁あるいは低温壁との位置関係を制御することによりエピフロントにおける温度勾配を結晶成長に適した値に制御することができる。
融液保持部は一般に非水冷構造とする。融液保持部は融液と接触するので、融液と接触しても実質的に融液を汚染しない材質のものとする。例えば、融液保持部を、成長結晶の構成 元素からなる材料(例、SiCの場合の黒鉛などの炭素材料)から構成するか、あるいはエピタキシャル成長した単結晶それ自体から構成することができる。
上記構造の坩堝、すなわち、高温壁を有する坩堝と低温壁を有する坩堝を適切に組み合わせる等の点に特徴を有する坩堝を用いることにより、高温壁を有する坩堝の利点と低温壁を有する坩堝の利点の両者を享受することが可能となる。
すなわち、まずローレンツ力や効率的な電磁攪拌を可能にする低温壁によって、表面積の増加による気相から融液への物質移動促進、融液の攪拌による坩堝/融液および雰囲気ガス/融液間の物質移動促進の効果が得られる。一方、低温壁だけでは、融液の表面付近の温度が低下し、温度勾配が大きくなりすぎるが、高温壁を組み合わせることによって、成長結晶および 融液表層を含む融液全体のジュール加熱が可能となり、融液の温度勾配の適正化、半径方向の融液温度の均一化が可能となる。
この結果、成長可能な多形の自由度が高まると共に、特許文献2に開示の方法では成長が遅い、例えばAlN単結晶を効率的に成長させることが可能となる。また、エピフロントの温度勾配を適切に制御すると共に、それに直交する融液半径方向においては極めて小さい温度勾配が実現できるので、エピフロントで融液の取り込みが生ずること無く、転位密度が低い、品質に優れた単結晶を成長することが可能となる。
本発明による単結晶の製造装置を用いて、本発明に示した方法により、IV族あるいはIII―V族化合物から成る、いわゆるワイドバンドギャップ半導体の高品質な基板材料 を工業的に実用的な成長速度で得ることができる。
以下、本発明の技術について実施の形態を記述する。
(1)高温壁の厚さΔr
不等式(1)式における指数関数と高温壁における電磁エネルギーの分配の関係を図7に示す。誘導コイルで発生する電磁エネルギーの内、高温壁に到達し、そこで吸収された電磁エネルギーは高温壁の加熱に寄与し、やがて大部分は輻射エネルギーとして失われる。また、高温壁を透過した電磁エネルギーは誘導加熱(ジュール加熱)により融液を昇温する。図7はこのような電磁エネルギーの分配の概要を表している。通常の運転条件では電気伝導度が高い融液を透過する電磁エネルギーは存在しない。
交流電流の 周波数が一定の条件で考えると、図7から分かるように、高温壁の厚さΔrが小さい条件ではe−Δr/δは1に漸近するので、高温壁で吸収されるエネルギーは小さく、大部分は融液の誘導加熱に消費される。また、逆に高温壁の厚さΔrが大きい条件ではe−Δr/δは0に漸近するので、高温壁で消費されるエネルギーの割合が高まる。
前者の条件は実質的に特許文献3に開示の技術内容に近く、後者の条件は実質的に特許文献2に開示の技術内容に近く、いずれの場合も結晶品質、多形制御などに問題がある。
本発明では、高温壁の厚さを適切な数値に限定することによって、図7から分かるように、融液と高温壁の両者に対して電磁エネルギーが供給される。融液へのエネルギー供給は融液の電磁攪拌と表層のジュール加熱に寄与し、多形制御、成長速度の増加、結晶品質の向上と深く関わる。
また、高温壁へのエネルギー供給は、融液のエピフロントにおける温度勾配の緩和や半径方向の温度分布の均一性に寄与し、融液取り込み等が存在しない、均質な成長面を有する結晶成長を可能にする。e−Δr/δの適正範囲を限定する数値は、種々高温壁の厚さを変数として行った実験に基づいて得られた。
高温壁の厚さΔrが小さい条件では、必然的に高温壁の機械強度が弱くなる。この場合は、高温壁の一部の背面に、断熱材等を介して低温壁で補強することが好ましい。
(2)高温壁と低温壁の配置
高温壁と低温壁は互いに異なる高さに隣接して配置する。図示例では、低温壁の上に高温壁が配置されているが、この配置は逆であっても構わない。その理由は、低温壁と高温壁の配置順序に関係なく、類似の温度勾配等の条件が実現されるからである。
2つの壁の間に間隙が存在しても、外周に通電コイルが存在し、かつ融液の隆起高さが通電コイルが発生するローレンツ力を融液の鉛直方向に沿って積分したいわゆる磁気圧力に比べて特段に高くなければ、融液を坩堝壁、あるいは通電コイルに接触することなく保持できるので、特段の問題はない。
しかし、停電など不測の事態が生じた場合、融液と通電コイルの間には何も障壁が存在しないので、融液が流出して、水冷の通電コイルと融液が接触することが懸念される。このような不測の事態に対処するため、高温壁と低温壁は互いに隣接して配置することが好ましい。
また、高温壁と低温壁は高さ方向で一部重なることもあり得る。特に、高温壁の厚さが薄い(上記Δr が小さい)場合には、結晶保持具が落下する等の不測の事態が発生した場合に高温壁が破断して融液が流出して通電コイルに接触することが懸念される。これを防ぐため、高温壁の少なくとも一部の外周を低温壁が取り囲むように低温壁を上方に延長してもよい(図4を参照)。
特にこの場合、低温壁を介して高温壁からの抜熱が顕著となるので、両者の間(すなわち、高温壁と低温壁との対向部分)には断熱材を配置することが好ましい。それ以外の場合も、高温壁と低温壁との対向部分(例えば、突き合わせで隣接する場合には端面間)に断熱材を介在させることが好ましい。また、高温壁からの抜熱の増加によるエネルギー損失を抑制する観点から、高温壁とその外周に配置される通電コイルの間にも断熱材を配置することが好ましい(図1〜4参照)。
すなわち、高温壁の外周、ならびに高温壁の端面が低温壁と対向している場合にはその端面を断熱材で包囲することが好ましい。断熱材は誘導加熱により発熱しない材質のものが好ましい。そのような断熱材としては、黒鉛質の炭素繊維や積層薄膜が挙げられる。断熱材の厚みは、高温壁からの抜熱を効果的に抑制できるように選定する。
(3)エピフロントの位置
エピフロント(エピタキシャル成長面)の高さ 位置は、高温壁の領域と低温域の領域のいずれに存在していてもよいが、好ましいのは高温壁と低温壁との接続部近傍の位置である。
エピフロントが高温壁の領域にあると、高温壁で消費されるエネルギーの割合を高めることができるので、実質的に特許文献3に開示の技術に近い条件が実現される。一方、エピフロントが低温域の領域に存在すと、実質的に特許文献2に開示の技術に近い条件が実現される。いずれの場合も、背景技術に関して上に説明したように、結晶品質や多形制御に問題が出てくることがある。
本発明では、高温壁を有する坩堝と低温壁を有する坩堝を適切に組み合わせることにより、高温壁を有する坩堝の利点と低温壁を有する坩堝の利点の両者を享受するとともに、高温壁を有する坩堝と低温壁を有する坩堝をそれぞれ単独に用いる場合に生ずる欠点を解消することを目的とする。
すなわち、表面積の増加により気相から融液への物質移動促進、融液の攪拌による坩堝/融液および雰囲気ガス/融液間の物質移動促進、融液温度の均一化、融液表層のジュール加熱などの効果を発現する。エピフロントが高温壁と低温壁との接続部の近傍に位置すると、低温壁と高温壁のそれぞれの利点をいずれも享受することができ、これらの効果を相乗的に 効率よく達成することができる。
その結果、成長可能な多形の自由度が高まると共に、特許文献2に開示の方法では成長が遅い、例えばAlN単結晶を効率的に成長させることが可能となる。また、エピフロントの温度勾配を適切に制御すると共に、それに直交する坩堝の半径方向において極めて小さい温度勾配が実現できるので、エピフロントで融液の取り込みが生ずることが防止されると共に、転位密度が低い品質に優れた単結晶を成長することが可能となる。
AlNの場合、Nは固体原料から供給することも可能であるが、雰囲気ガスを窒素ガスとして雰囲気ガスの融液の溶け込みによりNを供給することが簡便である。本発明では、融液がローレンツ力により隆起して表面積が大きくなることと、融液の電磁攪拌により、雰囲気ガスから十分にNを供給することが可能となる。
(4)エピタキシャル成長方向
エピタキシャル成長の方向は2種類考えられる。ひとつは高温壁側、他の一つは低温壁側である。
低温壁の上に高温壁が配置される実施例1から4に示した方式においては、エピタキシャル成長の方向が高温壁側の場合は、エピフロントが融液表面近傍となるため、その位置確認が容易であり、かつ比較的大きな温度勾配が得られ、成長速度が高くなる。逆に、エピタキシャル成長の方向が低温壁側の場合は、エピフロントの位置確認が困難ではあるが、比較的小さな温度勾配が得られ、良好な結晶品質を安定して確保することができる。
エピタキシャル成長方向は、目的とする結晶の特性に応じて使い分ければよい。このエピタキシャル成長方向に合わせて、エピフロントが低温部となるように、融液の温度勾配の向きを選択する。
基板を上方から坩堝に挿入された結晶保持具に装着した場合には、単結晶の成長速度に合わせて、結晶保持具の先端に装着された基板を上方に移動させる。エピタキシャル成長方向が下向きの場合には、結晶保持具を使用せずに、基板を融液保持部に装着することも可能である。その場合は、融液保持部を上下に移動可能とし、単結晶の成長速度に合わせて融液保持部を下降させる。
単結晶成長用の融液の組成および基板の種類は、成長結晶に応じて選択すればよい。本発明は、基板単結晶が組成 および結晶構造の両方で成長結晶と同一であるホモエピタキシャル成長と、基板単結晶が組成及び/又は結晶構造で異なるヘテロエピタキシャル成長のいずれに適用することもできる。特に、基板の結晶構造とは異なる単結晶の成長も可能であり、多形制御の自由度が広がる。単結晶成長条件(温度勾配など)は、成長単結晶に応じて選択すればよい。
低温壁は金属製のいわゆる冷却坩堝(水冷坩堝)の構造である。金属素材は、銅、アルミニウム、銀などの比較的電気伝導度が高い金属が好ましいが、ステンレスなども素材として使うことが出来る。誘導電流を低温壁の内側に導くために、絶縁機能を持つ複数のスリットを通電コイルの巻き方向と概略ねじれの位置関係に配置する。通常、この低温壁は、水冷管を通すことによって冷却する。
高温壁は、炭素、あるいは含炭素耐火材から成り、融液より高い融点を有する。また、電気伝導度は低温壁に比べて低い導電性を有している。
融液保持部は、本発明による単結晶成長方法において成長中に融液が接触する部分である。従って、成長単結晶を構成し、かつ溶媒を構成しない元素(例、SiCの場合のC、例えば、黒鉛)から融液保持部を構成すると、結晶成長に応じて消費されたCを融液保持部からその溶解によって供給することができ、成長を連続的に長時間持続することができる。しかし、例えば、Cの塊状物を融液の高温部に保持するといった適当なCの供給手段を利用すれば、融液保持部を非溶解性の材料(例、セラミックなどの耐火物)から構成することもできる。
以下、本発明の装置および方法の特定の実施例について、図面を参照しながら説明する。これらは例示にすぎず、本発明の範囲内で多くの変更が可能であることは言うまでもない。
図1は本発明の第一の実施例で使用した単結晶製造装置を模式的に示す縦断面図である。坩堝の側壁は低温壁1と高温壁2とから構成される。
低温壁1は概略円筒形状で、その内径は約100mm、高さは約150mm、厚さは約20mmであり、銅材質から成る。低温壁1は絶縁機能を持つスリット(図6)によって互いに周方向で絶縁された複数のセグメントから組み立てられている。複数のセグメントの内部には冷却水を供給することが可能で、運転中、低温壁1の温度は、概略冷却水の温度より100℃を越えて高くならない温度に維持される。低温壁1の上部は、結晶保持具を坩堝内に挿入することを可能にする内径約100mmの円形断面の開口部(図5)となっている。
低温壁1には、その内壁と一部接触する状態で融液保持部3が内装されている。低温壁1と融液保持部3の間隙は、広いところで1mm、狭いところでは0mm(両者は接触している)である。融液保持部3は黒鉛質であって、その主な素材は炭素である。
低温壁1の上には、ほぼ密着する断熱材4を介して高温壁2が配置されている。高温壁2は概略円筒形状で、その内径は約100mm、高さは約150mm、厚さは約10mmであり、黒鉛材質から成る。
高温壁2の外周と下端を覆うように断熱材4が配置されている。断熱材はファイバー状の黒鉛材質(黒鉛質炭素繊維 )から成る。ファイバーの代表寸法は、上記(2)式で規定される表皮深さより小さい。このように微細なファイバー状であることによって、電磁誘導路が遮断されるので、導電性である断熱材が誘導加熱により発熱することはない。
低温壁1および高温壁2の外周には通電コイル8が、一巻きが概略水平面に含まれるようにして、約10巻きの多重螺旋状に巻かれている。通電コイル8は、ブスバー(図示せず)を介して高周波電源(図示せず)に接続されている。高周波電源の最大出力は300kW、周波数は5kHzから30kHzの間で可変である。高温壁2と通電コイル8との間で断熱材4の厚みは約5mmである。
融液保持部3の上面は低温壁1に隣接するところで、隆起しており、低温壁1から離れた中心付近では窪んだ形状である。融液保持部3の上面の起伏の変化は約20mmである。融液保持部3の上面、低温壁1の側壁、高温壁2および開口部で囲まれた空間は自由空間であり、この空間内に融液9、気体15、基板6、結晶保持具5の一部等を収容することができる。自由空間の体積は概略1200cm3である。
開口部から坩堝内に挿入される結晶保持具5の直径は、高さによって30mmから60mmの間で変化しており、長さは約500mmで主に炭素材質から成る。結晶保持具5の先端には約30〜35mm直径の大きさの単結晶基板6が取り付けられる。使用する基板は昇華法により得られた6H−SiCバルク単結晶である。
低温壁1、高温壁2、融液保持部3、結晶保持具5の一部、通電コイル8の一部などは加減圧、気体の供給および排気が可能な一部水冷構造のチャンバーに収納されており、チャンバーは気体供給装置(図示せず)、真空ポンプ(図示せず)、排ガス処理装置(図示せず)などと結合されている。
チャンバーは気密性と耐圧性を有しており、内容積は約35000cm3であり、材質はステンレス鋼である。チャンバーには運転に必要なバルブ、圧力計、流量計、熱電対挿入口、輻射温度計窓、観察窓などが適宜装着されている。
上記の単結晶の製造装置は概略以下のようにして運転された。
低温壁1、高温壁2および融液保持部3から構成される坩堝内の自由空間に珪素を含む固体原料を約1kg装入した。単結晶製造装置、高周波電源等の冷却を必要とする部分には冷却水を供給した。チャンバー内を約0.13Paまで減圧した後、チャンバー内に主にArガスから成る気体を供給すると共に、供給分を排気して、チャンバー内の圧力を約0.1MPaに維持した。
高周波電源を用いて、通電コイル8に周波数10kHz、出力100kWの交流電流を供給した。数分で固体原料は加熱、溶融し、融液9に変化した後、融液9はその周囲が低温壁1と接触しない態様でドーム状に隆起して保持されると共に、電磁攪拌の影響を受けて、融液9は攪拌された。
本実施例の場合、高温壁2の厚さは10mmであった。一方、上記(2)式で算出される表皮深さは約18E−3mなので、e−Δr/δ=0.57となり、高温壁2の厚さは不等式(1)を満足している。約5時間運転して、融液9の組成がこの運転条件において平衡に到達した後、6H−SiC単結晶の底面(0001)が融液9面と概略平行になるように単結晶基板6を結晶保持具に配置した。単結晶基板6をドーム状に隆起した融液9の頂点に接触するまで下降した後、平均約250μm/hの速度で結晶保持具を100時間連続して上昇する運転を行った。
その際、引き上げの初期に引き上げ速度を適宜増減することによってエピフロントを低温壁1と高温壁2の接合部より、若干高い位置に設定した。このようにして、長さ約25mm、直径30〜35mmの単結晶3C−SiCが得られた。
高温壁2を有する坩堝と低温壁1を有する坩堝を適切に組み合わせた第一の実施例の坩堝を用いることにより、高温壁2を有する坩堝の利点と低温壁1を有する坩堝の利点の両者を享受することが可能となった。具体的には、融液9の攪拌による坩堝/融液間の物質移動促進、融液温度の均一化、融液表層のジュール加熱などの効果を発現することが可能で、その結果、基板6とは異なる多形の3C−SiCの高速成長が可能となった。同時に、エピフロントの温度勾配を適切に制御することが可能で、融液9の取り込みが認められない概略平坦なエピフロントを実現することができた。
このようにして、KOHによるエッチングで求めたピット密度が103/cm2以下の品質に優れた3C−SiC単結晶が得られた。
本発明の第二の実施例の概要について説明する。図2は本発明の第二の実施例で使用した単結晶製造装置を模式的に示す縦断面図である。高温壁2の内径が80mmである点を除いて、概略、本発明の第一の実施例に類似の単結晶製造装置を用いた。但し、断熱材4は高温壁の外周だけに配置し、低温壁1は高温壁の下端とは接触せず、断熱材の下端だけに接するように配置した
単結晶製造装置は概略以下のようにして運転した。
低温壁1、高温壁2および融液保持部3から構成される坩堝内の自由空間に珪素およびアルミニウムを含む固体原料を約1kg装入した。単結晶製造装置、高周波電源等の冷却を必要とする部分に冷却水を供給した。チャンバー内を約0.13Paまで減圧した後、チャンバー内に主に窒素ガスから成る気体を供給すると共に、供給分を排気し、チャンバー内の圧力を約0.2MPaに維持した。
続いて、高周波電源を用いて、通電コイル8に周波数10kHz、出力130kWの交流電流を供給した。数分で固体原料は加熱、溶融し、融液9に変化すると共に、融液9はその周囲が低温壁1の側壁と接触しない態様でドーム状に隆起して保持されると共に、電磁攪拌の影響を受けて、融液9は攪拌された。この時、時間平均した融液9の流れは、融液9表層では下降する向きの流れであった。
約5時間運転して、融液9の組成がこの運転条件において平衡に到達した後、6H−SiC単結晶の底面(0001)が融液9面と概略平行になるように単結晶基板6を結晶保持具に配置した。単結晶基板6をドーム状に隆起した融液9の頂点に接触するまで下降した後、平均約25μm/hの速度で結晶保持具を100時間連続して上昇する運転を行った。
その際、引き上げの初期に引き上げ速度を適宜増減することによってエピフロントを低温壁1と高温壁2の接合部より、若干高い位置に設定した。このようにして、厚さ 約2.5mm、直径約30〜35mmの単結晶AlNが得られた。
上記構造の坩堝、すなわち、高温壁2を有する坩堝と低温壁1を有する坩堝を適切に組み合わせた坩堝を用いることにより、高温壁2を有する坩堝の利点と低温壁1を有する坩堝の利点の両者を享受することが可能となった。
すなわち、融液9が隆起することによって表面積が増加し、さらに融液9に生ずる攪拌により窒素ガス/融液間の物質移動が促進される。さらに、エピフロントの温度勾配を適切に制御すると共に、それに直交する半径方向においては極めて小さい温度勾配が実現できるので、TEM(透過型電子顕微鏡)で求めた転位密度が10/cm程度と低い、品質に優れた単結晶を育成することができた。
本発明の第三の実施例の概要について説明する。図3は本発明の第三の実施例で使用した単結晶製造装置を模式的に示す縦断面図である。第三の実施例では結晶保持具が存在せず、基板6は融液保持部3に固定されており、融液保持部3は上下に移動可能な構造である点を除いて、概略、本発明の第一の実施例に類似の単結晶製造装置を用いた。
基板6は6H−SiCであり、初期の状態では、その(0001)面が融液9と接触可能な状態で融液保持部3に固定されている。
単結晶製造装置を概略以下のようにして運転した。
低温壁1、高温壁2、上面が平坦な融液保持部3および融液保持部3に固定された基板6から構成される坩堝内の自由空間に珪素を含む固体原料を約1kg装入した。その際、融液保持部3を、事前に上下移動させる高さ調整によって、基板6が低温壁1とは接触しないが高温壁2とは接触する可能性がある位置になるように配置した。また、固体原料としては、あらかじめ黒鉛坩堝内で約5時間事前溶融させることにより、炭素が原料に溶解して平衡濃度に到達した原料を用いた。
単結晶製造装置、高周波電源等の冷却を必要とする部分に冷却水を供給した。チャンバー内を約0.13Paまで減圧した後、チャンバー内に主にArガスから成る気体を供給すると共に、供給分を排気し、チャンバー内の圧力を約0.1MPaに維持した。
高周波電源を用いて、通電コイル8に周波数10kHz、出力100kWの交流電流を供給した。数分で固体原料は昇温、溶融し、融液9に変化した後、融液9はその周囲が高温壁2と接触する態様でドーム状に隆起して保持されると共に、電磁攪拌の影響を受けて、融液9は攪拌された。本実施例の場合、高温壁2の厚さは10mmであった。上記(2)式で算出される表皮深さは約18E−3mであるので、e−Δr/δ=0.57となり、高温壁2の厚さは不等式(1)の条件を満足している。
続いて、平均約250μm/hの速度で融液保持部3を100時間連続して下降する運転を行った。その際、下降の初期に引抜き速度を適宜増減することによってエピフロントを低温壁1と高温壁2の接合部より、若干高い位置に設定した。このようにして、長さ約25mm、直径約30〜35mmの単結晶3C−SiCが得られた。
高温壁2を有する坩堝と低温壁1を有する坩堝を適切に組み合わせた坩堝を用いることにより、高温壁2を有する坩堝の利点と低温壁1を有する坩堝の利点の両者を享受することが可能となった。具体的には、融液9の攪拌による坩堝/融液9間の物質移動促進、融液9温度の均一化、融液9表層のジュール加熱などの効果を発現することが可能で、その結果、基板6と異なる多形の3C−SiCの高速成長が可能になった。同時に、エピフロントの温度勾配を適切に制御することが可能で、融液9の取り込みが認められない概略平坦なエピフロントを有する単結晶が得られた。
このようにして、第三の実施例では、KOHによるエッチングにより求めたピット密度が103/cm2以下の品質に優れた3C−SiC単結晶が得られた。
本発明の第四の実施例の概要について説明する。図4は本発明の第四の実施例で使用した単結晶製造装置を模式的に示す縦断面図である。第四の実施例では低温壁1と高温壁2の間に、低温壁1が断熱材を介して高温壁2の外周に一部重なっている点を除いて、概略、本発明の第三の実施例に類似の単結晶製造装置を用いた。
基板6は6H−SiCであり、初期の状態では、その(0001)面が融液9と接触可能な態様で融液保持部3に固定されている。なお、基板6の大きさは直径約30mmである。
単結晶製造装置を概略以下のようにして運転した。
低温壁1、高温壁2、上面が平坦な融液保持部3および融液保持部3に固定された基板6から構成される坩堝内の自由空間にアルミニウムを含む固体原料を約1kg装入した。その際、融液保持部3を上下に移動することにより、基板6を、低温壁1とは接触しないが、高温壁2とは接触する可能性がある位置に配置した。
固体原料としては、あらかじめ黒鉛坩堝等において約3時間事前溶融し、所定量の炭素が溶解した原料を用いた。
単結晶製造装置、高周波電源等の冷却を必要とする部分に冷却水を供給した。チャンバー内を約0.13Paまで減圧した後、チャンバー内に主に窒素ガスから成る気体を供給すると共に、供給分を排気し、チャンバー内の圧力を約0.2MPaに維持した。
高周波電源を用いて、通電コイル8に周波数10kHz、出力130kWの交流電流を供給した。数分で、固体原料は昇温、溶融し、融液9に変化した後、融液9はその周囲が高温壁2と接触しない態様でドーム状に隆起して保持されると共に、電磁攪拌の影響を受けて、融液9は攪拌された。
本実施例の場合、高温壁2の厚さは10mmであった。一方、上記(2)式で算出される表皮深さは約18E−3mなので、e−Δr/δ=0.57となり、高温壁2の厚さは不等式(1)の条件を満足していた。
続いて、平均約25μm/hの速度で融液保持部3を100時間連続して下降する運転を行った。その際、下降の初期に引抜き速度を適宜増減することによってエピフロントを低温壁1と高温壁2の接合部より若干高い位置に設定した。このようにして厚さ 約2.5mm、直径約30〜35mmの単結晶AlNが得られた。
上記構造の坩堝、すなわち、高温壁2を有する坩堝と低温壁1を有する坩堝を適切に組み合わせた坩堝を用いることにより、高温壁2を有する坩堝の利点と低温壁1を有する坩堝の利点の両者を享受することが可能となる。すなわち、融液9が隆起することによって表面積が増加し、さらに融液9に生ずる攪拌により窒素ガス/融液9間の物質移動が促進される。
さらに、エピフロントの温度勾配を適切に制御すると共に、それに直交する半径方向においては極めて小さい温度勾配が実現できるので、TEM(透過型電子顕微鏡)法で求めた転位密度が103/cm1程度と低い品質に優れたAlN単結晶を育成することができた。
(比較例)
図5および図6は、特許文献3に 記載されたのと同様の冷却坩堝(即ち、本発明における低温壁)から構成される、比較用の単結晶製造装置を模式的に示す、それぞれ縦断面図および坩堝構造を一部透視的に示す斜視図である。
低温壁1は概略円筒形状で、その内径は約100mm、高さは約300mmであり、銅材質から成る。図6に示すように、坩堝の壁は低温壁1の高さよりは短いが、しかし通電コイル8の巻き高さよりは長い状態で鉛直方向に延びる絶縁機能を持つスリット14を介して互いに周方向で絶縁された複数のセグメント16から組み立てられている。なお、通電コイル8の巻き高さおよびスリット14の長さはそれぞれ、約100mm、約200mmである。
複数のセグメント16の内部には図6に示すように二重管が配置され、それに冷却水を供給することが可能で、運転中、低温壁1の温度は概略冷却水の温度より100℃を越えて高くならない温度に維持される。低温壁1の上部には結晶保持具5を坩堝内に挿入することを可能にする内径約100mmの円形断面の開口部12が設けられている。
低温壁1には、その内壁と一部接触する状態で融液保持部3が内装されている。低温壁1と融液保持部3の間隙は広いところで1mm、狭いところでは0mm(両者は接触している)である。融液保持部3は黒鉛質であって、その主な素材は炭素である。
低温壁1の外周には銅材質で中空円形断面の通電コイル8が一巻きが概略水平面に含まれるように4ないし5巻き程度で多重螺旋構造に配置されている。つまり、スリット14と通電コイル8は概略直角にねじれの位置の関係にある。通電コイル8と低温壁1が接触して導通が可能になる点は存在せず、両者の間隔は接近しているところで約1mm、離れているところで約10mmの距離がある。通電コイル8はブスバー(図示せず)を介して高周波電源(図示せず)に接続されている。高周波電源の最大出力は300kW、周波数は5kHzから30kHzの間で可変である。
融液保持部3の上面は低温壁1に隣接するところで、若干隆起しており、低温壁1から離れた中央付近では窪んだ形状である。融液保持部3の上面の起伏の変化は約20mmである。融液保持部3の上面と低温壁1の側壁および開口部12で囲まれた空間は自由空間13であり、この空間13内に融液9、気体15、基板6、結晶保持具5の一部等を収容することができる。自由空間13の体積は概略1200cmである。
開口部12から坩堝内に挿入される結晶保持具5の直径は、高さによって30mmから60mmの間で変化しており、長さは約500mmで主に炭素材質から成る。結晶保持具13の先端には約30mm直径の大きさの基板6が取り付けられる。
低温壁1、融液保持部3、結晶保持具5の一部、通電コイル8の一部などは加減圧、気体の供給および排気が可能な一部水冷構造のチャンバー11に収納されており、チャンバー11は気体供給装置(図示せず)、真空ポンプ(図示せず)、排ガス処理装置(図示せず)などと結合されている。チャンバー11は気密性と耐圧性を有しており、内容積は約35000cm3であり、材質はステンレス鋼である。チャンバー11には運転に必要なバルブ、圧力計P、流量計、熱電対挿入口、輻射温度計窓、観察窓などが適宜装着されている。
上記の単結晶の製造装置を概略以下のようにして運転した。
低温壁1と融液保持部3から構成される坩堝内の自由空間13に、珪素を含む固体原料を約1kg装入した。装入した固体原料には、珪素以外に、フラックスとしてチタンが含まれている。単結晶製造装置、高周波電源等の冷却を必要とする部分に、冷却水を供給した。チャンバー11内を約0.13Paまで減圧した後、チャンバー11内に不活性ガスとして主にArガスから成る気体15を供給すると共に供給分を排気し、チャンバー11内の圧力を約0.2MPaに維持した。
続いて高周波電源を用いて、通電コイル8に、周波数10kHz、出力100kWの交流電流を供給した。数分で、固体原料は昇温、溶融して、融液9に変化すると共に、融液9は、ドーム状に隆起して、その周囲が低温壁1と接触しない状態に保持された。同時に、融液9は、電磁撹件の影響を受けて攪拌された。
この条件で約5時間運転して、融液9にエピタキシャル成長に必要な量の炭素を溶解させた後、6H−SiC単結晶の基板6をその(0001)面が融液9に接触する向きに結晶保持具5に配置した。結晶保持具5の下降を開始し、基板6がドーム状に隆起した融液9の頂点に接触した時点で、結晶保持具5の下降を停止した。その後、平均約500μm/hの速度で結晶保持具5を上昇させつつ100時間の連続運転を行った。その際、引き上げの初期には、引き上げ速度を適宜増減した。
その結果、長さ約50mm、直径約30〜35mmの単結晶インゴット(成長結晶7)が得られた。運転中、融液9は、融液保持部3および気体とは常時接触していたが、低温壁1と接触することは無かった。
融液9は攪拌されているので、融液9の温度は単結晶の成長部分を除いて均一にすることが可能となり、融液9の表面に多結晶の成長は認められなかった。融液保持部3には低温部が存在しないので、この融液保持部3にも多結晶の成長は認められなかった。
このように、坩堝内に多結晶が成長することはなく、基板6にのみ、実用的な成長速度で、棒状の単結晶が成長した。この結晶は比較的大きな温度勾配で低温成長によって得られたために、得られた結晶は立方晶の3C−SiCであった。
ところが、3C−SiCには融液9の取り込み部分が散見され、品質的には不良であった。この坩堝構造には、温度勾配を緩和する機能がないため、エピフロントにおいて成長速度が過度に大きくなったためと考えられる。
本発明の第一の実施例で使用した単結晶製造装置を模式的に示す縦断面図。 本発明の第二の実施例で使用した単結晶製造装置を模式的に示す縦断面図。 本発明の第三の実施例で使用した単結晶製造装置を模式的に示す縦断面図。 本発明の第四の実施例で使用した単結晶製造装置を模式的に示す縦断面図。 比較例で使用した公知の単結晶製造装置を模式的に示す縦断面図。 図5の単結晶製造装置の坩堝構造を一部透視的に示す斜視図。 高温壁における電磁エネルギーの分配を示す説明図。
符号の説明
1:低温壁(第1の側壁部)、2:高温壁(第2の側壁部)、3:融液保持部、
4:断熱材、5:結晶保持具、6:基板、7:成長結晶、8:通電コイル、9:融液、
10:エピフロント、11:チャンバー、12:開口部、13:自由空間、
14:スリット、15:気体、16:セグメント

Claims (7)

  1. 単結晶原料の融液を収容する坩堝と、単結晶成長用基板の装着が可能な、上方から坩堝内に挿入された結晶保持具と、坩堝の外周に配置された通電コイルと、これらを収容するためのチャンバーとを備えた単結晶製造装置であって、前記坩堝が、
    ・融液保持部と、
    ・絶縁機能を果たすスリットを有し、冷却機構を備えた、導電性材質から構成された第1の側壁部と、
    ・冷却機構を有しない第2の側壁部と、
    を備え、第1の側壁部と第2の側壁部は異なる高さに隣接して配置され、それらが一体となって坩堝の側壁を構成し、前記コイルに通電することにより融液にローレンツ力を発生させて融液を隆起させるとともに融液を誘導加熱することができることを特徴とする、単結晶製造装置。
  2. 単結晶原料の融液を収容する坩堝と、坩堝の外周に配置された通電コイルと、これらを収容するためのチャンバーとを備えた単結晶製造装置であって、前記坩堝が、
    ・単結晶成長用基板の装着が可能で、かつ上下方向に移動可能な融液保持部と、
    ・絶縁機能を果たすスリットを有し、冷却機構を備えた、導電性材質から構成された第1の側壁部と、
    ・冷却機構を有しない第2の側壁部と、
    を備え、第1の側壁部と第2の側壁部が異なる高さに隣接して配置され、それらが一体となって坩堝の側壁を構成し、前記コイルに通電することにより融液にローレンツ力を発生させて融液を隆起させるとともに融液を誘導加熱することができることを特徴とする、単結晶製造装置。
  3. 第2の側壁部の通電コイルとの対向部分およびび第1の側壁部との対向部分にそれぞれ、誘導加熱により実質的に発熱しない断熱材が介在する、請求項1または2記載の単結晶製造装置。
  4. 第2の側壁部の厚さΔrが(1)式によって表される範囲内にある、請求項1ないし3のいずれかに記載の単結晶製造装置。
    Figure 2007254233
    ここで、δは下記(2)式で定義される表皮深さである。
    Figure 2007254233
    ここで、ωは印加される交流電流の角周波数、μは真空中の透磁率、σは第2の側壁部の電気伝導度である。
  5. 第1の側壁部と第2の側壁部とが、高さ方向で部分的に重なって隣接する、請求項1ないし4のいずれかに記載の単結晶製造装置。
  6. 坩堝に収容された、成長結晶物質が溶解している単結晶原料の融液に上下方向の温度勾配を形成し、融液の低温部に単結晶成長用の種結晶基板を接触させ、種結晶基板を上方または下方に移動させることにより基板上に単結晶を連続成長させる単結晶の製造方法であって、融液の上下方向の温度勾配を請求項1ないし5のいずれかに記載の単結晶製造装置を用いて形成することを特徴とする、単結晶製造方法。
  7. エピタキシャル成長面を第1の側壁部と第2の側壁部との接合部の近傍に配置する、請求項6記載の単結晶製造方法。
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