この発明は、化合物半導体材料として用いられるIII−V族化合物単結晶を、成長単結晶と異なる物質の基板を用いた液相エピタキシー(LPE、Liquid-Phase Epitaxy)法、すなわち、ヘテロLPE法、により製造する方法に関する。本発明は、LPE法による高品質かつ実用的な大きさのIII−V族化合物単結晶の成長を可能にするものである。本発明は、窒化アルミニウム(AlN)を始めとして、GaN,InN,AlGaN,InGaN,GaAs等のIII−V族化合物の単結晶の製造に適用することができる。
化合物半導体の中でもIII−V族化合物は、汎用の単原子半導体材料であるシリコンに比べてエネルギーバンドギャップが広く、熱伝導率、絶縁破壊電界が高いので、例えば高密度実装用基板、高出力素子のヒートシンク、高出力HIC(ハイブリッド集積回路)基板などとして有用であり、しかも光学的透過率が高いことから、特に紫外発光用の半導体レーザや発光ダイオードに適していることが知られている。
III−V族化合物半導体の1種である窒化アルミニウムは、高融点(約2700℃)で、高い窒素分解圧を有する。そのため、窒化アルミニウム単結晶の製造には、これまで昇華法、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法などの気相成長法が用いられてきた。
昇華法としては、例えば、下記特許文献1に、結晶を成長させる密閉容器内の複式核形成部位上に、Al、Nなどの適当な蒸気種を堆積させて、欠陥密度が低く、不純物の含有量が少ない窒化アルミニウムのバルク単結晶を製造する方法が提案されている。
ところが、この方法では、温度や密閉容器内の流動状態によって基板表面に到達する蒸気種が変動するため、蒸気分圧を化学量論的に正確に制御することが困難である。その結果、結晶内で特定の元素や分子が過剰に析出して欠陥と成りやすい。また、昇華法には、結晶の多形転位を生じやすいという欠点もある。
他の気相成長としては、サファイア基板上に窒化アルミニウム膜を成長させるMOVPE(Metal−Organic Vapor Phase Epitaxy)法がある。この方法では、トリメチルアルミニウムガスおよびアンモニアガスを反応炉に導入し、1080℃に加熱して熱分解させ、基板上に窒化アルミニウム膜を成長させている。
下記特許文献2には、比較的低温で成長が可能で、しかも純度の高い窒化アルミニウム膜の製造方法として、高純度の金属Alと窒素ガスを用いるECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマ法が提案されている。この方法では、電磁石コイルが設置されたプラズマ生成室にプラズマを生成させるためのマグネトロンと薄膜堆積室とが接続され、その接続部分にAlターゲットが設置された装置を使用している。
しかし、MOVPE法とECRプラズマ法は、いずれも結晶成長装置が非常に高価となり、成長に使用する部材(原材料)も制約されるという問題があった。
これに対し、溶液から単結晶をエピタキシャル成長させるLPE法は、複雑な制御手段を必要としないため装置が比較的単純であり、原材料の制約も少ない。代表的なLPE法では、坩堝に収容した融液に成長させようとする目的物を飽和濃度まで溶解させ、得られた溶液に上部が下部より低温となるような温度勾配を形成して、結晶保持具の先端に付けた種結晶基板を融液表層の低温部(過冷却状態になっていて、目的物の濃度は過飽和である)に接触させて基板上に目的とする単結晶を成長させ、単結晶が成長するにつれて結晶保持具を引き上げていく。
LPE法には、この方法で成長させた単結晶が、分子の再配列に伴うエネルギー変化が小さいため、気相成長により得られた単結晶に比べて、一般に欠陥が少なく、多形転移を生ずる欠点も少ないという、さらなる利点がある。
しかし、LPE法による化合物半導体の単結晶の製造に関して、炭化珪素についてはこれまでも多くの提案がなされてきたが、窒化アルミニウム(AlN)を始めとし、GaN、InN、AlGaN、InGaN、GaAs等の化合物も含む、いわゆるIII−V族化合物単結晶の成長についてはほとんど試みられてこなかった。その原因として、炭化珪素の場合は、黒鉛坩堝からシリコン融液中に炭素を溶解させることにより炭化珪素の溶液が容易に形成できるのに対し、窒化アルミニウム等のIII−V族化合物の場合は溶液の形成がより困難であることが考えられる。
下記特許文献3には、窒化アルミニウム焼結体製の坩堝に原材料のアルミニウムを入れ、この坩堝を、窒素を主成分とする不活性ガス雰囲気下で1100℃以上の温度に加熱してアルミニウムを溶融させ、生成したアルミニウム融液に坩堝から窒素を溶解させて窒化アルミニウム溶液を形成し、この溶液と接触している種結晶の基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長させることからなる、LPE法による窒化アルミニウム単結晶の製造方法が開示されている。基板としては、アルミニウム融液と接触する面が(0001)面を有するサファイア、YAG等のアルミニウム化合物が用いられている。
この方法は、窒化アルミニウム焼結体製の坩堝を用いているため、坩堝からの窒素の溶出のために2100℃程度という高温が必要になること、アルミニウムの融解で生成したアルミニウム融液の表層に酸化物(アルミナ)が浮遊すること、アルミニウム融液に溶解した窒素は窒化アルミニウムとして生成した溶液の表層部に集積するため、溶液に浸漬した基板上ではエピタキシャル成長し難いこと、窒化アルミニウム結晶と上述した基板材料との間には約17%という比較的大きな格子不整合が存在するため、結晶に転位が発生し易く、品質に優れた単結晶を得られないこと、といった問題点を抱えている。
下記特許文献4には、LPE法における単結晶成長において、坩堝周囲の常伝導コイルに交流を印加して融液にローレンツ力を作用させて融液を隆起させながら成長を行うことが開示されている。しかし、そこに具体的に開示されている技術はSiC単結晶の成長だけであって、使用する基板も単結晶と同じSiCの基板である。SiC単結晶の場合は、成長中にCの補給が必要になるため、坩堝の一部に黒鉛を使用し、成長中にその溶出によりCを融液中に補給することが記載されている。
特表2002−527342号公報
特開平9−194204号公報
特開2004−189549号公報
特開2005−179080号公報
本発明の目的は、高品質かつ大型の窒化アルミニウムに代表されるIII−V族化合物の単結晶を安価な装置を用いて効率的に成長させることができる方法を提供することである。より具体的な目的は、LPE法によるIII−V族化合物単結晶の成長において、上述した問題点のない方法を提供することである。
本発明によれば、溶液温度が高い、溶液表層に酸化物が浮遊する、大きな格子不整合が存在するといった、上述した従来のLPE法による窒化アルミニウム成長における問題点が、格子不整合の小さい適切な種結晶基板を選択し、かつ融液組成を調整し、好ましくは成長結晶を構成する元素を坩堝素材から供給するのではなく雰囲気ガスから供給し、さらに溶液を効率的に攪拌する手段を適用して溶液表層温度を高めることにより解決される。
本発明は、坩堝に収容されたIII族元素とV族元素とが溶解している融液に種結晶基板を接触させ、融液から種結晶基板を引き上げることにより基板上に単結晶を成長させるIII−V族化合物単結晶の製造方法であって、種結晶基板がSiC単結晶であり、融液はIII族元素およびV族元素に加えてSiおよびCを含有し、融液中のC及びSiの含有量は基板からのSiCの溶解を抑え、かつ基板上へのSiCの成長を防止するのに有効な量であることを特徴とする、III−V族化合物単結晶の製造方法である。
III−V族化合物が窒化アルミニウム(AlN)である場合、本発明は、坩堝に収容された、AlとNとが溶解している融液に種結晶基板を接触させ、融液から種結晶基板を引き上げることにより基板上にAlN単結晶を成長させる窒化アルミニウム単結晶の製造方法であって、種結晶基板がSiC単結晶であり、融液はAlおよびNに加えてSiおよびCを含有し、融液中のC及びSiの含有量は基板からのSiCの溶解を抑え、かつ基板上へのSiCの成長を防止するのに有効な量であることを特徴とする、窒化アルミニウム単結晶の製造方法、である。
AlNのようにV族元素がN(窒素)である化合物(すなわち、III族元素の窒化物)の場合、坩堝の周囲雰囲気を、窒素を含有する非酸化性雰囲気とし、融液中のNを窒素ガスの溶解により供給することが好ましい。この方法は、AlNだけでなく、GaN,InN,AlGaN,InGaN等の他のIII族元素窒化物の場合にも適用することができる。
本発明の好適態様においては、坩堝の融液と接する部分を、Cを含まない材質から構成することにより、融液へのCの供給を、坩堝からの溶出によらない方法で行う。より好ましくは、融液へのCの供給は融液中に浸漬した炭素含有物質の溶解のように、融液と接触させた炭素含有物質の管理された溶解により行いう。管理された溶解とは、Cの溶解量が制御可能であることを意味する。黒鉛坩堝からの溶出によりCを供給すると、Cの溶解量を制御することができない。
また、融液をローレンツ力により隆起させ、隆起した融液の頂点付近に種結晶基板を接触させることも好ましい。そのために、坩堝は、Cを含まない材質からなる側壁部と、Cを含まない材質からなる融液保持部とを有し、側壁部の少なくとも一部がスリットの入った水冷坩堝の構造を有するものとし、坩堝の周囲に高周波誘導コイルを配置することができる。この坩堝は、融液保持部の下側にCを含む材質からなる底部構造物をさらに備えていてもよい。融液保持部は、一体構造でもよいが、その少なくとも一部を粉体状の材料から構成することもできる。融液保持部別の態様では、坩堝は、その壁面全体がCを含まない材質からなる水冷坩堝の構造を有し、その側壁部は少なくとも一部にスリットを有し、かつ坩堝の周囲に高周波誘導コイルが配置されている構造とする。高周波誘導コイルは、少なくとも融液の表層近傍を電磁攪拌するように配置することが好ましい。
次に、本発明の技術思想について、より詳しく説明する。以下では、AlNを例にとって本発明を説明するが、AlN以外の他のIII−V族化合物の場合にも原則として同じ説明があてはまる。
1)種結晶基板(単に基板ともいう)
化合物単結晶をLPE法により成長させる場合、種結晶基板として使用するその化合物の単結晶の入手が困難な場合が多い。AlNや他のIII−V族化合物にもこれが当てはまる。このような場合、高品質の単結晶を得るためには、格子不整合が可及的に小さい別の化合物の基板を選択して、ヘテロエピタキシー法により結晶を成長させることができる。そこで、本発明では、基板材料として、種結晶基板に使用可能な単結晶が比較的容易に入手できる炭化珪素(SiC)を選択する。SiC結晶はAlN結晶との格子不整合が非常に小さい。即ち、両者は結晶形が同じであり、六方晶a軸の格子定数の差も0.6%程度と非常に小さい。AlN以外の他のIII−V族化合物の場合も、格子定数の差がやや大きくなるものの同様である。例えば、SiCとGaNの六方晶a軸の格子定数の差は3.2%程度である。基板との格子定数の差が約±20%以内であれば、異種基板上への単結晶成長は可能である。転位の少ない単結晶を得るには、基板との格子定数の差が±15%以内であることが好ましい。
AlNとは異なるSiCを基板材料に選択することによって、新たな問題が発生する。AlNを成長させる融液はAlとNとを含有している必要がある。しかし、融液がAlとNのみから構成されると、AlN結晶の成長に先行して、基板のSiCが融液中に溶解してしまい、基板が溶解、消失するのでエピタキシャル成長が起こらない。
そこで、本発明では、融液中に、AlおよびNに加えて、SiおよびCも含有させる。SiおよびCの融液中の含有量が少なすぎると、SiC基板の溶解を抑制することができない。逆に、この含有量が多すぎると、AlN単結晶の成長に先行して、基板上にSiCの単結晶が成長するという問題が生ずる。そこで、本発明では、融液中のCおよびSiの含有量を、基板からのSiCの溶解を抑え、かつ基板上へのSiCの成長を防止するのに有効な量とする。
なお、融液からのSiCの析出はCとSiの溶解度積に依存するので、CとSiの一方の元素の濃度が実質的に一定である場合には、他方の元素の濃度を、溶解度積を超えないように制御すればよい。例えば、C濃度が一定の場合にはSi濃度を制御して、SiCの析出による成長が起こらないようにすることができる。しかし、一般に金属元素のSiは融液中に多量に溶解させることができ、融液中のその濃度を実質的に一定に保持できるため、融液中のSi濃度を一定とし、融液に添加するC量を制御することが好ましい。
融液へのNの供給を雰囲気ガス(一般に非酸化性ガスである)中に含有させた窒素の溶解により行い、Cの供給は、融液中に添加した炭素含有物質の完全な溶解、あるいは炭素含有物質を所定時間だけ融液と接触(例、浸漬)させる等の、C溶解量を制御できる管理されたCの溶解により行い、融液中のC濃度(C含有量)を制御することができる。こうすると、Nは融液の表面から供給され、CはSiCの成長を促進するには不十分な一定量だけが供給される。そのため、基板上で優先的にAlNが成長し、SiCの基板上での成長が効果的に防止される。
2)坩堝
従来のLPE法による単結晶成長においては、多くの場合、安価かつ大型化が容易で、ジュール発熱が可能な炭素元素を含む素材からなる坩堝、代表的には黒鉛坩堝、が使用されてきた。また、例えば、SiC単結晶の製造においては、この黒鉛坩堝をCの供給原料としても利用してきた。即ち、SiC単結晶の成長につれて融液のCが消費されると、坩堝が溶解して坩堝から融液中にCが供給される。
本発明の場合、黒鉛坩堝をそのまま使用すると、融液中に坩堝からCが供給され、C濃度が高くなりすぎて、基板へのSiC成長を防止することができず、AlN単結晶が成長せず、SiCが混入したいわゆる混晶が生成することが懸念される。さらに、黒鉛坩堝では、磁束が減衰するので、後述するローレンツ力も利用することが困難となる。
そのため、坩堝の少なくとも融液と接触する部分については、融液と接触してもCが溶解しない材料から構成する。それには、坩堝のこの部分を、Cを含有しない材料から構成することが確実である。但し、融液と接触しない部分は、Cを含有する材料から構成してもよい。
Cを含まず、高温の融液温度に耐え、成分が溶出しても融液を汚染しない坩堝材料として、窒化珪素または窒化アルミニウムが考えられる。しかし、これらの材料からなる坩堝は非常に高価であり、消耗品である坩堝材料として好ましい材料であるとは言えない。
本発明の好適態様においては、坩堝の壁面構造内に水冷手段を備えた、いわゆる冷却坩堝(cold crucible、低温坩堝ともいう)を利用する。即ち、側壁部の少なくとも一部を、水冷坩堝の構造とする。
冷却坩堝は、坩堝の表面温度が低温になるため、坩堝の構成元素による融液の汚染の可能性は極めて小さくなる。また、水冷手段の組み込みにより坩堝の単価は高くなっても、再使用が可能なため、結果的に結晶の製造単価を下げることが可能である。
より重要な利点として、冷却坩堝では、壁面を導電性に優れた金属製とすることができるので、融液に対してローレンツ力を作用させて、例えば、図2に示すように、融液を高く盛り上った隆起状態に保持することができる。それにより、融液と接触する坩堝部分を底面近傍の小面積に限定することができる。そこで、単結晶成長中も融液と接触状態になり、融液を下から支える坩堝の融液保持部(底部とその周辺部分)だけに、断熱性が高く、Cを含まない高純度の高価な坩堝材料(例、上記窒化物)を用い、側壁部は水冷坩堝構造として、繰り返し使用することができる。それにより、融液保持部だけが消耗品となり、冷却坩堝の加熱効率が高まるので、坩堝全体を冷却坩堝とする場合と比べても、むしろ結晶の製造単価を下げることが可能となる。
ローレンツ力を有効に作用させるため、上記特許文献4に記載されているように、水冷構造の坩堝側壁部にスリットを入れ、周囲に配した高周波誘導コイルに好ましくは交流を通電して、ローレンツ力を作用させると同時に、融液を電磁攪拌する。但し、本発明では、坩堝の融液と接触する部分には、黒鉛といったCを含有する素材を使用しない。
3)融液温度
LPE法による単結晶成長では、融液温度は低い方が好ましい。融液温度が高すぎると、結晶成長に必要なエネルギー単価が増加するだけでなく、坩堝寿命が短くなり、長時間のエピタキシャル成長が困難となって、生産効率が下がる。さらに、融液の一部が蒸発して溶液組成が変化すると共に、装置内の低温部に凝縮、堆積して、装置の円滑な動作を阻害する一因になる弊害が生じる。
上記特許文献3に提案された従来技術において融液温度が高いのは、単結晶の構成元素であるNをAlN焼結体製の坩堝の溶解により供給するためである。融液温度は、坩堝の一部が溶解するのに必要な温度まで高める必要がある。
本発明では、Nを気相(雰囲気ガス)から供給するため、融液温度を下げることができる。しかし、気相からのNの供給には、供給速度が遅いため、単結晶の成長速度が遅くなるという別の問題を生ずる。この問題は、ローレンツ力により融液を隆起形状に保持して融液の表面積を拡大することにより解決することができる。
黒鉛坩堝を高周波加熱した場合、発生する誘導電流の大部分は坩堝で消費されるので、坩堝内の融液の顕著な攪拌、あるいはローレンツ力を利用した融液の形状制御を行うことは実現できない。一方、Cを含まない、例えば、窒化珪素焼結体あるいは窒化アルミニウム燒結体などの非導電性の坩堝の外周に誘導コイルを配置して融液を直接誘導加熱する場合、融液の攪拌は促進されるものの、同時に攪拌により坩堝の溶損も促進されるので、長時間の結晶成長に使用することはできない。
略鉛直方向にスリットを入れて互いにセグメントが分割された、いわゆる冷却坩堝の全体、または少なくとも誘導コイルに隣接するその一部を冷却坩堝の構造とした坩堝では、誘導電流は絶縁機能を持つ導電性坩堝のスリット部分で坩堝の内側に導かれるので、融液に対して顕著な電磁誘導作用を発生させることができる。この結果、融液はその表面積を増加させて、ドーム状に高く盛り上った隆起形状になり、同時に融液内を電磁攪拌することができる。
コイルの巻き高さ方向の電磁場の不均一は、コイルと融液との間に冷却坩堝が配置されているので、誘導電流のいわゆる交差流に起因して均一化される。このため電磁攪拌は対称性に優れており、スリットの数の回転対称を持つ。この結果、ローレンツ力で隆起する融液の形状は安定し、長時間のエピタキシャル成長を行っても、融液の表面積は殆ど変化せず、融液に対して窒素ガスの供給が持続される。
このように、スリットを入れた冷却坩堝を用いて融液にローレンツ力を作用させると、融液と雰囲気ガスとの界面の面積を増加させることができ、同時に融液の電磁攪拌も生ずるので、気相/液相間の物質移動が促進され、融液に結晶成長の持続に十分な量の窒素を確実に供給し続けることができる。
4)表層析出
LPE法による単結晶の連続エピタキシャル成長では、融液の表層温度は、基板温度よりは高温ではあるが、融液内部の温度よりは低温にして、融液の上部ほど低温になる温度勾配を形成するのが一般的である。そのため、融液の表層温度が低くなりすぎると、融液表層に、目的物(本発明の場合はAlN)の多結晶が析出することがある。
表層に多量の多結晶が析出すると、融液に浸漬した基板上に単結晶をエピタキシャル成長させることができない。また、上記のように結晶成分であるNを気相からの溶解により融液に供給する場合には、表層に析出した結晶が気相から融液へのNの溶解を阻害するので、必要量のNを供給することが困難になる場合がある。
本発明では、融液を電磁攪拌して、表層析出物を流動により融液の周辺(坩堝と融液の間)に移動させると共に、融液表層の温度を高めることにより、上記問題を解決することができる。即ち、高周波誘導コイルの配置を効果的な電磁攪拌が可能となる位置とする。
電磁攪拌を促進するには、坩堝内に大きな磁場勾配を形成すればよいのであるから、高周波誘導コイルの巻き高さを融液高さと同程度にすると共に、冷却坩堝を用いて融液に対して効率的に電磁場を印加することが好ましい。電磁場の周波数の選択も影響を及ぼし、周波数が高すぎるとローレンツ力で融液は隆起するものの、電磁攪拌は起こらない。逆に、周波数が低過ぎると、電磁場が融液を透過して、電磁攪拌の作用を生じない。電磁場が融液の攪拌に効果的に作用する最適な周波数を選択する。この電磁攪拌の作用は、3)で説明したように冷却坩堝を用いることによって効果的に発現される。
本発明の方法は、従来のLPE法によるAlN単結晶のエピタキシャル成長が抱えている上述した種々の問題点を解消することができる。
まず、種結晶基板として、サファイアやYAGと比べてAlNとの格子不整合が小さいSiCを用いることにより、格子不整合に起因する結晶の転位発生を低減することができる。また、融液中に適量のSiとCを含有させることによって、ヘテロエピタキシャル成長用基板の溶解を抑制し、かつ融液からのSiCの析出も防止することができる。
さらに、Nを気相から供給することにより、融液の全体的な温度を従来法より下げることができる。坩堝を冷却坩堝として、ローレンツ力を作用させて融液を隆起させ、融液と気相との界面の面積を増大させ、かつ電磁攪拌することにより、AlN単結晶の成長持続に十分な量のNを融液に供給し続けることができる。電磁攪拌により融液の表層温度を上げることもでき、それにより表層での多結晶の析出によるエピタキシャル成長の阻害を防止することができる。
その結果、本発明によれば、転位欠陥が少なく、格子配列の乱れが小さな高品質のバルクAlN単結晶をLPE法により比較的安価に製造することが可能となる。
本発明の方法は、AlNのみならず、他のIII−V族化合物、特にIII族−N化合物の単結晶の製造に一般に適用することができ、その場合でも、程度の差はあれ、上述した効果を得ることができる。
以下では、本発明を窒化アルミニウム(AlN)単結晶の製造についてより詳しく説明する。しかし、前述したように、本発明はAlN単結晶の製造方法に限定されるものではなく、GaN,InN,AlGaN,InGaN,GaAsといった他のIII−V族化合物、特にIII族−N化合物の単結晶の製造にも同様に適用することができる。
LPE法によるAlN結晶の成長に用いる融液は、AlとNとが溶解している融液であり、通常は溶融Al中にNを飽和濃度近傍まで溶解させたものである。
本発明で用いる融液は、AlNの構成元素であるAlとNに加えて、種結晶基板として用いるSiCの構成元素であるSiとCも含有する。この融液は、一般には、金属であるAlおよびSiを溶融させ、そこに非金属であるNおよびCを溶解させることにより調製される。従って、融液の主成分は少なくとも金属成分であるAlおよびSiである。また、場合によってはフラックスとしての機能を持つ第三の元素を添加することもある。
AlとSiの割合は、両者の質量比で1:5から5:1の範囲に設定することが好ましい。Siが多すぎるとAlNが成長せず、少なすぎると基板が溶解する。このような割合でAlとSiを含有する融液の温度は一般に1400〜1700℃の温度となる。
前述したように、坩堝の周囲雰囲気を、窒素を含有する非酸化性雰囲気とし、融液中のNは窒素ガスの溶解により供給することが好ましい。それにより、Nは融液表面から融液中に供給されることになり、基板近傍でのN含有量の不足によるSiCの析出を防止することができる。Nは成長開始前の融液中に、そのN含有量が飽和濃度の近傍に達するまで溶解させる。こうして、N濃度がほぼ飽和濃度に達した溶液を形成する。
坩堝周囲の非酸化性雰囲気は、純窒素雰囲気でもよく、あるいはアルゴンなどの不活性ガスと窒素との混合ガス雰囲気でもよい。この雰囲気へはアンモニアなどの窒素含有還元性ガスを供給することもできるが、坩堝周囲の高温ではアンモニアは窒素と水素に分解する。水素のような還元性ガスも、爆発の危険性がない少量であれば、非酸化性雰囲気中に含有させることができる。雰囲気中の窒素ガス濃度は概ね50%以上とすることが好ましい。融液へのNの供給の点からは、純窒素ガスを使用することが有利である。
上記特許文献3に開示されているように、Nを坩堝の溶解により供給する場合には、必然的に耐熱性の坩堝を溶解できるように融液温度を高める必要がある。特許文献3の実施例では成長中の融液温度は2100℃という高温にしている。このように融液温度を高めると、結晶成長に必要なネルギー単価が増加するばかりか、坩堝寿命も著しく短くなり、長時間にわたる連続エピタキシャル成長が困難となって、生産効率が低下する。
本発明の好適態様に従って気相からNを供給することにより、融液温度を下げることができ、坩堝の寿命が延長される。気相からのNの供給は、供給速度が遅くなるという欠点があるが、本発明では、融液にローレンツ力を作用させて隆起させることにより融液と気相との界面を増大させ、かつ融液を電磁攪拌することにより、気相からのNの供給を加速することができる。
Nの融液への供給促進する別の手法は、雰囲気ガスを加圧するか、または加圧と減圧を繰り返すことである。一般に、気体の溶解度は、低圧では、ヘンリーの法則に従って圧力に比例して上昇する。この法則を利用して、雰囲気ガスを加圧すると、Nの供給を加速することができる。また、雰囲気ガスの加圧/減圧を繰り返すと、融液に溶解したNが融液内で析出し、基板近傍に移動してAlNのエピタキシャル成長が促進される。加圧/減圧の繰り返しとローレンツ力とを組み合わせることも考えられる。
融液のC含有量(C濃度)は、基板からのSiCの溶解を抑え、かつ基板上へのSiCの成長を防止するのに有効な量である。融液中のC含有量が低すぎると基板からのSiCの溶解の進行が避けられず、C含有量が高すぎて、融液中に溶解したCが飽和濃度に達すると、表層あるいは融液内でのSiC結晶の析出が起こり、目的とするAlN単結晶の成長が阻害される。従って、融液のC含有量を適正な範囲に管理することが、AlN単結晶の成長に重要である。
適正なC含有量は、融液の0.01〜3.00質量%程度が目安となる。適正なC含有量は、融液組成(C以外の他成分の含有量、特にSi含有量)や融液温度によって変動し、実験により決定することもできる。融液のSi含有量が上記の好ましい範囲である場合、融液の適正なC含有量は0.05〜2.50質量%の範囲内となろう。
Cを坩堝の溶解により供給すると、Cが融液中に溶出し続けてSiCの飽和濃度に達し、SiC結晶の析出によりAlN単結晶の成長が阻害されるようになる。従って、Cは、その溶出量を制御するために、坩堝の溶出によらない方法で融液中に供給することが好ましい。そのため、坩堝の構造を工夫し、坩堝の融液と接する部分はCを含まない材質から構成して、坩堝からのCの溶出を防止し、融液のC含有量を一定値に制御することが好ましい。
黒鉛坩堝を使用することもできるが、その場合は、融液と接触する部分(即ち、坩堝の内壁)を、Cを含まない材料(例、窒化アルミニウムまたは窒化珪素焼結体など)で被覆する必要がある。しかし、薄い被覆では坩堝の寿命が著しく短くなる。
融液へのCの供給は、融液と接触させた炭素含有物質の管理された溶解により行うことが好ましい。Cは、AlN単結晶の成長中にほとんど消費されないので、成長中に融液に補給する必要はない。従って、成長開始前に融液中に炭素含有物質を完全に溶解させて、融液のC含有量を所定値にすればよく、溶解させる炭素含有物質の大きさやC含有量によって、融液中に溶出するC量、従って、融液中のC含有量を制御することができる。その場合、Cが完全に溶解し、かつ融液に気相から溶解したN含有量が飽和濃度に近づいてから、結晶保持具の先端に取り付けたSiC種結晶基板を融液と接触させ、AlN単結晶の成長を開始することが好ましい。
炭素含有物質は、通常高純度の黒鉛を用いるが、不純物を含まないSiCの燒結体もしくは粉末であっても良い。添付図面において、結晶成長中の融液に炭素含有物質が11として示されているが、実際には、成長開始までにこのC供給源を完全に溶解させることが好ましいので、成長中の融液には炭素含有物質11は存在しない。炭素含有物質は成長開始までに溶解させるのであるから、図示のように塊状物である必要はなく、例えば、粉末や粒状物でもよい。さらに、炭素含有物質の融液内での位置も、図示のように融液底部であるとは限らない。比重が軽ければ融液の上部に浮上する。Cの供給は、一定量の炭素含有物質を融液に添加し、完全に溶解させる方法でよいが、別の方法として、融液表層から炭素含有物質を必要な時間だけ融液と接触させ、その後に融液から回収する方法も可能である。
融液は、Al,N,Si,Cの4元素だけから構成してもよく、あるいはフラックスとして、他の元素を含有することもできる。そのような他の元素の例としてはTi、Cu、Fe、Co、Cr、Mn等が挙げられる。
本発明では、種結晶基板としてSiC単結晶を使用する。従来のLPE法によるAlN単結晶の成長では、サファイアやYAGといったアルミニウム化合物が基板材料として使用されてきたが、これらはAlN結晶との格子不整合が屋17%前後と大きい。一方、本発明で使用するSiCは、例えば、6H−SiCの場合で、AlN結晶との格子不整合が六方晶のa軸で約0.6%と小さい。従って、格子不整合に起因する転位発生が低減され、良質なAlN単結晶を成長させることが可能となる。
基板に用いるSiC単結晶は好ましくは6H−SiCであるが、他の結晶形態のSiCも基板に使用することができる。基板に適したSiC単結晶は、例えば、昇華法、CVD法などにより製造することができる。基板のSiC単結晶はできるだけ欠陥の少ないものが好ましい。
融液を収容する、Cを含有しない耐熱性坩堝として、例えば、窒化珪素または窒化アルミニウムの焼結体からなる高価な坩堝も使用可能である。この坩堝が溶損しても、溶損により融液中に溶解する元素はいずれも融液の構成元素であるので、融液の汚染は生じない。このような坩堝を使用し、一般的なLPE法を適用して、本発明に従って、AlとN以外にSiとCを含有する融液からSiC基板上に目的とするAlN単結晶を成長させることも可能であり、それも本発明の範囲内である。
しかし、高温の融液を収容する坩堝は損傷が激しく消耗品であるので、上記のような高価な坩堝を消耗品として使用すると、単結晶の製造単価が高くなる。
そこで、本発明で使用する好ましい坩堝は、少なくとも側壁部が水冷坩堝の構造を有し、側壁部は少なくとも一部にスリットを有しており、坩堝周囲には高周波誘導コイル(常伝導コイル)を配置する。この坩堝構造は、基本的には上記特許文献4に記載されているものと同様でよいが、但し、坩堝の少なくとも融液と接触する部分がCを含有しない材質から構成する点において異なる。
この坩堝を利用し、誘導コイルに高周波の交流電流を通電すると、坩堝内の融液にローレンツ力が作用して融液はドーム状に隆起する。それにより、気相と融液との接触界面を増加させると同時に、融液を電磁攪拌することができる。交流電流の通電は、直流電流の通電に比べて、ローレンツ力により隆起した形状が安定化すると同時に、ジュール熱による融液の加熱効果も期待できる。こうして得られる界面の面積増加と電磁攪拌によって、気相(雰囲気ガス)からAlN単結晶のエピタキシャル成長の持続に十分な量の窒素を融液中に溶解させることが可能となる。
黒鉛坩堝では、高周波加熱により発生する誘導電流の大部分は坩堝で消費されてしまうため、坩堝の厚さを極端に薄くするか、あるいは交流電流の周波数を低くするといった、実用化には不利な条件を採用しないと、重力に逆らって融液を効果的に隆起させるためのローレンツ力を発生させることはできない。
一方、炭素を含まない窒化物焼結体などのセラミック製坩堝の外周に誘導コイルを配置して融液を直接誘導加熱する場合は、融液の攪拌は促進されるものの、同時に攪拌により坩堝の溶損も促進されるので、長時間のエピタキシャル成長に使用することはできない。
これに対し、ローレンツ力を作用させて融液を隆起させると、前述した気相との界面の増加や電磁攪拌効果によるNの溶解促進に加えて、さらに、融液が坩堝の側面の実質部分と接触させずに、エピタキシャル成長を持続することができるという、別の利点が得られる。従って、坩堝の側壁部からの異種元素の溶解による融液の汚染や、この側壁部の溶損が回避され、側壁部は非消耗部分として長期にわたり使用可能となる。さらに、この側壁部は、冷却されるため、融点が融液より低温の金属から構成することが可能となる。
坩堝の側壁部は、高周波誘導コイルにより発生する誘導電流をこの側壁部を介して融液に印加し、融液の隆起に必要なローレンツ力を発生させるために、導電性材質(例、銅などの金属)から構成され、かつ高周波誘導コイルの巻き方向と略直交方向(通常はこの方向は略鉛直方向に一致)にスリットを設けた構造とする。これは、坩堝の側壁部を周方向に分割してセグメント化することにより達成される。セグメント間のスリットが絶縁機能を持つので、高周波誘導コイルにより発生する誘導電流がスリットに遮られて、側壁部の外側から内側へ流れることにより、融液に効率よくローレンツ力を発生させることができる。側壁部はジュール熱により発熱するので、少なくとも側壁部の一部は水冷による冷却が可能な構造とする。
高周波誘導コイル(常伝導コイル)の周囲に超伝導コイルを配置してもよい。超伝導コイルで静磁場を形成すると、一般に融液の流動の顕著な部分にブレーキ効果が現れるので、融液の隆起形状がより安定化する。
融液の攪拌を促進し、単結晶成長部分を除いて融液温度を均一にすることができれば、多結晶の成長を抑制することができる。しかし、融液の攪拌促進によって、冷却坩堝の側壁部に融液が接触すると、そこで多結晶が析出する。従って、融液の攪拌促進は、融液と坩堝の側壁部との非接触状態を安定して維持し、両者の間に気体が常に存在するようにして行う必要がある。
上記の非接触状態を維持しながら融液を効果的に攪拌するには、高周波誘導コイルが形成する磁場分布の端効果を利用して、融液に作用するローレンツ力に分布を持たせればよい。そのため、有限の長さの巻き高さを持つ多重螺旋構造の高周波誘導コイルを、融液の一部あるいは全部と重なる高さに配置することが好ましい。融液の高さに比べてコイルの巻き高さが極端に高いと、端効果が得られず、有効な融液表層の電磁攪拌が得られない。
ローレンツ力の分布は、融液と高周波誘導コイルとの相対的な上下方向の位置関係により制御することができる。そのため、高周波誘導コイルまたは坩堝に上下に移動可能な手段を設けてもよい。
本発明によるAlNのエピタキシャル成長に利用可能な、水冷構造の側壁部を有する坩堝にはいくつかの異なる構造をとることが可能である。
まず、従来の冷却坩堝の構造をそのまま利用することができる。この場合、坩堝の壁面全体が水冷坩堝の構造を有する。この坩堝では、坩堝の側壁部と底面とは一体構造にするのが一般的である(図4を参照)。坩堝は全体がCを含有しない材料から構成される。ローレンツ力を有効に作用させるため、側壁部の少なくとも一部に略鉛直方向のスリットを設ける。例えば、側壁部を周方向に分割してセグメント化し、各セグメントに水冷手段を組み込めばよい。セグメント間の微小間隙(例、0.1〜1.0mm程度)がスリットとなる。底面にも、側壁部と連通するか、或いは別個の水冷手段を設けて、冷却する。坩堝の側壁の周囲には高周波誘導コイルが配置される。
この構造の坩堝では、坩堝の表面温度が全体的に低温になるので、冷却坩堝を構成する元素の溶解による融液の汚染は極めて小さくなる。また、坩堝の壁面が冷却されるため、耐火物ではなく導電性の高い金属(例、銅)を坩堝素材に使用することができる。それにより、誘導電流が坩堝であまり消費されないため、融液に隆起に必要な強さのローレンツ力を作用させることでき、坩堝壁面のジュール熱による発熱も抑制される。冷却構造の組み込みにより坩堝の単価が高くなる可能性があっても、坩堝の再使用が可能なため、結果的に単結晶の製造単価を下げることができる。
冷却坩堝を用いて融液に対してローレンツ力を作用させることにより、融液と接触する坩堝の部分を底部とその周辺に限定することができるが、高温の融液が水冷された低温の坩堝壁の一部と接触することは避けられないので、従来の冷却坩堝構造では加熱効率が低くなる。
この欠点を改善するため、本発明により改善された別の坩堝構造では、冷却坩堝と耐火物製の非冷却坩堝とを適切に組み合わせる。すなわち、図1〜3に示すように、融液と接触しない側壁部7は水冷坩堝の構造とし、底面とその近傍、即ち、ローレンツ力により隆起させた融液と接触して融液を下から支える部分(本発明では、この部分を融液保持部と称する)8は、耐火物製の非冷却坩堝構造とする。
側壁部7を構成する水冷坩堝の構造は、上述した従来の冷却坩堝構造と同様でよい。すなわち、これは好ましくは導電性金属(例、銅)から構成され、この側壁を坩堝の周方向に分割してセグメント化することにより、坩堝の略高さ方向(鉛直方向)のスリットが形成される。
側壁に採用した水冷坩堝の構造を有する部分から融液に対してローレンツ力を効果的に作用させることができ、それにより融液を隆起させて、融液を接触する坩堝の部分を底面とその周辺、すなわち、融液保持部だけに限定することができる。
融液を下から支える融液保持部8の材質は必要な耐熱性があれば特に制限されないが、融液と接触するので、本発明ではCを含有しない材質から構成する。成長結晶がAlNの場合、融液保持部の溶出による融液の汚染を避けるため、融液保持部を窒化珪素または窒化アルミニウムから構成することが好ましい。より一般的には、目的とする成長結晶を構成する元素であるIII族元素(Al、Ga、In等)、V族元素(N、P、As等)と種結晶基板を構成するC以外の元素(すなわち、Si)から選んだ元素からなる耐火性材料から融液保持部を構成することが好ましい。溶液保持部が消耗しても、この限定された部分だけを交換すればよく、坩堝全体を更新する必要はない。
融液保持部8の形状は特に制限されず、融液と接触する表面は、平面であってもよいが、好ましくは中央部が凹んだ形状である。すなわち、融液保持部は、中央部が薄く、側壁に近い部分は厚くなっている断面形状を有するようにすることが好ましい。高周波電磁場におかれた融液は、その表面がいくらか揺らぐが、坩堝の底部が窪んでいる構造の方が、水冷坩堝部分との接触の機会が減少し、高い加熱効率が得られるからである。
Cを含まない材料から構成される融液保持部8は、塊状の一体構造物であっても構わないが、少なくとも一部は粉体状の材料から構成してもよい。粉体の材料はより安価である上、融液保持部の形状を任意に変えることができるという利点がある。また、粉体材料は、2種以上の材料の混合物を自由な混合比率で使用することができるので、例えば、窒化アルミニウムの粉体と窒化珪素の粉体の混合物を、融液中のSiとAlと同じSi/Al原子比になるような割合で使用することができる。それにより、融液保持部が溶損しても、融液組成の変動が避けられる。
融液保持部がこのように粉体材料を単に敷いただけであっても、粉体の粒径が適度であって、その厚みがある程度以上あれば、融液が漏れることはなく、また融液中に混入して結晶に付着することもない。このため、融液保持部を構成する粉体は、平均粒径が10〜1000μm程度のものが好ましく、また融液保持部の厚みは、最も厚みの薄い部分(好ましくは上記のように中央部)において1mm以上とすることが好ましい。但し、融液保持部の全体が粉体材料から構成される場合は、安全のために、次に述べる底部構造物をその下に配置することが好ましい。
融液保持部が、上記のように窒化珪素および/または窒化アルミニウム(粉体でも、塊状でもよい)から構成される場合、素材が黒鉛または金属である場合と異なり、坩堝の底部の誘導加熱が期待できない。高温の融液や側壁部からの伝熱による加熱だけでは、融液保持部の加熱が不十分で、坩堝の底部で多結晶の析出が起こる場合には、融液保持部の下側に、黒鉛などのCを含む材質からなる底部構造物9を配置して(図1、2を参照)、融液保持部の加熱を促進することができる。この底部構造物は必要に応じて設置すればよい。この底部構造物は融液と実質的に接触しないので、Cを含有していても、融液を汚染する可能性は非常に低い。融液保持部が粉体材料から構成される場合には、この底部構造物は粉体を保持する支持体としても機能する。
あるいは、図3に示すように、底部構造物9を配置せずに、図4と同様の底部と側壁を一体化して、底部まで水冷構造とし、かつ加熱可能にした冷却坩堝に直接融液保持部8を配置した構造にすることもできる。
上述したいずれの坩堝構造でも、坩堝全体または高周波誘導コイルに隣接する側壁部の部分が水冷坩堝の構造から構成されており、誘導電流は側壁部に設けた絶縁機能を持つスリット部分で、坩堝の内側に導かれるので、融液に対して顕著な電磁誘導作用を発生させ、加熱と電磁攪拌を達成すると同時に、融液をドーム状に隆起させて、その表面積を増加させる。その結果、融液と雰囲気ガスの界面積が増加し、同時に融液の電磁攪拌もあって、気相/液相間の物質移動が促進され、融液にAlN単結晶の成長維持に必要な量のNを雰囲気ガスから持続して供給することができる。
単結晶成長用の坩堝に付設される付属部品、例えば、種結晶基板を取り付ける結晶保持具、坩堝や結晶保持具の回転機構、坩堝の雰囲気ガスや圧力の制御手段などは、従来のLPE法に使用されるものと同様でよい。単結晶の成長には、融液に上部の表層が高温で、底部が低温になる温度勾配が形成される。この温度勾配の形成は、高周波誘導コイルのコイル巻きの距離を調節するか、および/またはコイルを高さ方向に2以上に分割し、各分割コイル部分への通電量を変化させる、あるいは、結晶保持具からの抜熱を制御することにより達成することができる。
本例は、図1および図2に示す坩堝構造を利用したAlN単結晶の製造を例示する。
この坩堝は、図示のように、坩堝の側壁部に相当する、水冷坩堝構造を有する第1の坩堝部分7と、融液保持部に相当する第2の坩堝部分8と、この第2の坩堝部分8の下に配置された底部構造物に相当する第3の坩堝部材9とから構成される。坩堝の側壁部の周囲には、高周波誘導コイル10が配置されている。図2に示すように、坩堝とコイルはチャンバー1に収納され、チャンバー1内は窒素ガスを主な成分とする雰囲気ガス5で充たされている。
本例では、冷却坩堝を利用し、その底部に底部構造物9とその上の融液保持部8とを内装することにより坩堝を構成した。そのため、図1に示すように、底部構造物9の下側には水冷坩堝構造は存在しない。図2からより明らかなように、ローレンツ力により融液をドーム状に隆起させると、側壁部7は融液2とは接触しないのに対し、融液保持部8は融液2と接触する。しかし、その下側の底部構造物9は融液と接触しない。
坩堝の側壁部7は概略円筒形状で、その内径は約100mm、高さ(図1の側壁部7の上から下までの長さ)は約300mmであり、銅材質から成る。図1に示すように、側壁部7の壁は、側壁部7の高さよりは短いが通電コイル10の巻き高さよりは長い長さで鉛直方向に延びる、絶縁機能を持つスリット12を介して、互いに周方向に絶縁された複数のセグメント13から組み立てられている。通電コイル10の巻き高さは約100mm、スリット12の長さは約200mmである。
複数のセグメント13の内部には冷却水を供給することが可能で、運転中、側壁部7の温度は冷却水の温度より約100℃を越えて高くならない温度に維持される。側壁部7の上部は開口している。この開口部は内径約100mmの円形断面を持ち、そこから結晶保持具6を坩堝内に容易に挿入することができる。
側壁部7に内装されている融液保持部8および底部構造物9は、いずれもが側壁部の内径に嵌合する外径を持つ。側壁部7と融液保持部8および底部構造物9との間隙は、広いところで1mm、狭いところでは0mm(両者は接触する)に設定することが好ましい。本例においては、融液保持部8は窒化珪素の一体構造物(焼結体)から成り、底部構造物9は黒鉛から作製した。
側壁部7の外周を包囲する高周波誘導コイル10は、一巻きが概略水平面に含まれるように4〜5巻き程度の多重螺旋構造に配置されている。したがって、スリット12とコイル10は、互いにほぼ垂直の位置関係にある。コイル10と側壁部7が接触して導通が可能になる点は存在せず、両者の間隔は接近しているところで約1mm、離れているところで約10mmの距離がある。コイル10はブスバー(図示せず)を介して高周波電源(図示せず)に接続されている。高周波電源の最大出力は300kW、周波数は5kHzから30kHzの間で可変である。
融液保持部8の上面は、側壁部7に隣接する周辺部が盛り上がり、側壁部7から離れた中心付近では窪んだ形状になっている。この融液保持部8の上面の高さ(起伏)の変化は約20mmである。したがって、融液保持部8は深さ約20mmの窪みを有している。
融液保持部8の上面と側壁部7の側壁および開口部で囲まれた空間は自由空間であり、この空間内に融液2、雰囲気ガス5、種結晶基板3、結晶保持具6の一部等を収容することができる。この自由空間の体積は約1200cm3である。結晶成長の前の融液2には、図2に示すように、C供給源となる炭素含有物質11が存在する。この炭素含有物質は、本例では、黒鉛粉であった。
開口部から坩堝内に挿入される結晶保持具6の直径は、高さによって30mmから60mmの間で変化し、長さは約500mmで主に炭素材質から成る。結晶保持具6の先端には約30mm直径の大きさの種結晶基板3が取り付けられている。
坩堝全体とコイル10の主要部を収納するチャンバー1は、加減圧と雰囲気ガスの供給および排気が可能で、部分的に水冷構造を有している。結晶保持具6はチャンバー1を貫通して昇降が可能である。チャンバー1は、気体供給装置(図示せず)、真空ポンプ(図示せず)、排ガス処理装置(図示せず)などに接続されている。チャンバー1は気密性と耐圧性を有し、内容積は約35000cm3であり、材質はステンレス鋼である。チャンバー1には、運転に必要なバルブ、圧力計、流量計、熱電対挿入口、輻射温度計窓、観察窓などが適宜装着されている。
上記装置を用いて、本例における単結晶の製造を次のように行った。
まず、側壁部7と融液保持部8とで囲まれた坩堝内の自由空間に、珪素とアルミニウムと炭素含有物質(本例では黒鉛粉を使用)とを含む固体原料を合計約1kg装入した。原料に含まれている炭素の量は10gであり、Si/Alの割合は質量比で約3/8であった。
単結晶製造装置、高周波電源等の冷却を必要とする部分への冷却水の供給を開始した。チャンバー1内を約0.13Paまで減圧した後、チャンバー1内に主に窒素ガスから成る雰囲気ガス5(窒素濃度99%以上)を供給すると共に、供給分を排気し、チャンバー1内の圧力を約0.11MPaに維持した。主に炭素材質から成る結晶保持具6の下端には、(0001)面が融液2と接触する向きに6H−SiCの種結晶基板3を固定した。
その後、高周波誘導により効果的に融液2が加熱される高さにコイル10の位置を調整し、高周波電源を用いて、コイル10に周波数10kHz、出力100kWの交流電流を供給した。数分で、固体原料は昇温、溶融し、融液2に変化すると共に、融液2はその周囲が第1の坩堝7の側壁と接触しない態様でドーム状に隆起した状態に保持され、同時に電磁攪拌の影響を受けて攪拌された。黒鉛粉は比重が小さいため、融液の上部に浮上した。この状態で融液の加熱を続け、冷却水の水量とコイルへの通電量を調整して、融液温度を約1600℃に保持した。この状態で約5時間の運転を続けると、雰囲気ガス5から融液2に溶解したN含有量がほぼ窒素の飽和濃度に到達し、かつ融液保持部8の黒鉛粉も完全に融液2に溶解した。
こうして、結晶成長の準備が整った後、誘導コイルへの通電量を制御することにより、融液の上部と底部との間に約10℃の温度差を形成し、先端に種結晶基板3を取り付けた結晶保持具6を、先端の基板3がドーム状に隆起した融液2の頂点に接触するようにチャンバ1内を下降させて、AlN単結晶のエピタキシャル成長を開始させた。成長中、結晶保持具6は平均約50μm/hの速度で引き上げ、200時間の連続運転を行った。引き上げの初期には、引き上げ速度を適宜増減した。
図2は、種結晶基板3の先端に単結晶4が成長した結晶成長中の様子を示す図である。従って、実際にはC含有物質(黒鉛粉)11は既に完全に溶解していて、融液中には存在しない。発明の理解を助けるために、図2には原料の一部として投入されるC含有物質を融液の底部に示している。
こうして、長さ約10mm、直径約50mmのAlN単結晶4が得られた。結晶成長中も含めて、融液2が隆起してからは、融液2は融液保持部8および雰囲気ガス5とは常時接触していたが、側壁部7と接触することはなかった。結晶保持具6を上方に引き上げ、融液2と成長結晶を分離した後、徐々に降温して単結晶を取り出した。SiC基板3の全面にAlN単結晶4が成長していた。
得られたAlN単結晶の特にエピタキシャル成長の過程で生ずる格子不整合に伴う転位密度を評価するためTEM(透過式電子顕微鏡)を用いた観察を行った。その結果、転位密度は約106cm-2以下であった。これは、十分な深紫外光の発光強度が見込める品質を有するAlN結晶材料であることを意味する。
さらに、格子配列の周期と方位に関する規則性を確認するために、CuターゲットのK系列固有X線CuKα1を用いて(0002)面からのXRD(X線回折分光)評価を行った。得られたロッキングカーブにおける半値幅の値は角度で約0.5分(arc minute)以下であり、半導体材料として結晶性に優れていることが分かった。
本例は、図3に示す坩堝構造を利用したAlN単結晶の製造を例示する。
本例で使用した坩堝と、実施例1で使用した坩堝との主要な相違は、本例では、融液保持部8の下側に配置される融液と接触しない底部構造物9が存在せず、底部構造物9の代わりに、側壁部7の下方に向かって内側に湾曲して、融液保持部8を下側から支えていることである。
すなわち、側壁部7の縦断面は、図3に示すように、上方に向かって開き、下方に向かって収斂する湾曲形状をとる。開口部の内径は約100mmである。この側壁部7の底部に配置した、窒化珪素焼結体からなる融液保持部は、側壁部の底部形状にほぼ沿った湾曲形状を有し、凹部の深さ(起伏の高低差)は約20mm、外径は約70mmである。そのため、自由空間の体積は約600cm3と、実施例1に比べて小さくなった。また、側壁部7の湾曲形状に合わせて、コイルの積層構造も、下方に向けて収斂する構造にする。このコイルには出力140kWの交流電流を通電した。その他の点についてはほぼ実施例1と同様にして、AlN単結晶の成長を行った。
得られたAlN単結晶は、実施例1と同等の品質を有しており、半導体材料としての品質に優れていることが分かった。実施例2では、底部構造物9を必要としないので、装置構造が簡単になる利点がある。しかし、坩堝底では誘導電流が誘起され難いので、単結晶を成長させるのに必要なエネルギー供給量が増大する。
本例は、図4に示す坩堝構造を利用したAlN単結晶の製造を例示する。
実施例2との相違は、実施例2では融液2と側壁部7の間に融液保持部8が存在するのに対し、本例では両者の間に何も存在せず、融液2と側壁部7とが直接接触する構造となっていることである。出力180kWの交流電流をコイル10に供給する点を除いて、ほぼ実施例2と同じ方法で単結晶の成長を行った。
得られたAlN単結晶は実施例1と同等の品質を有しており、半導体材料としての品質に優れていることが分かった。実施例3では、融液保持部8および底部構造物9を必要としないので装置構造がさらに一層簡単になるとともに、消耗品としての融液保持部8を必要としないという利点がある。しかし、坩堝底で誘導電流が誘起され難く、また、融液2から側壁部7に向かう熱流束が増加するので、単結晶を成長するに必要なエネルギーはさらに増加する。
本例は、融液保持部8を窒化珪素の一体構造物(焼結体)ではなく、同じ窒化珪素の粉体から構成した点を除いて、実施例1と同様の装置を用いてAlN単結晶の成長を行った。従って、本例で使用した坩堝は、図1および2に示す坩堝構造のものであって、側壁部7とは別部材の融液保持部8および底部構造物9を備えている。運転条件も実施例1と同様であった。使用した窒化珪素の粉体の平均粒径は200μmであった。この粉体を、坩堝の底部構造物(黒鉛性)9の上に、図1の融液保持部8に示す形状になるように敷きつめた。
得られたAlN単結晶は、実施例1と同等の品質を有しており、半導体材料としての品質に優れていることが分かった。融液保持部8を粉体から構成しても、この粉体が底部構造物9から浮上して結晶に付着する現象は認められなかった。また、融液が粉体層を浸透して漏れだし下側の黒鉛製の底部構造物に接触する、という現象も見られなかった。その理由は解明されていないが、粉体が融液により加熱されて焼結している可能性が考えられる。
融液保持部8の素材として、一体物の素材ではなく粉体が使用できることは、消耗品としての融液保持部8の単価を下げることができるだけでなく、融液保持部8の形状を、結晶成長に適した最適な形状に容易に変形できるメリットを有する。
(比較例1)
本例は、図5に示したように、Cを融液に含有させない結晶成長の例を示す。
図示のように、図5に示した装置および坩堝は、図1、2に示す実施例1で使用したものと全く同じである。しかし、坩堝に最初に投入した原料はAlおよびSiだけであり、C含有物質は坩堝に供給しなかった。その他の運転条件も実施例1と同様である。
成長後に得られた6−SiC基板上のAlN単結晶を目視観察したところ、SiC基板のほぼ1/2以上が融液に溶解しており、AlN単結晶は基板の全面には成長していなかった。
(比較例2)
本例は、融液と接触する坩堝部分がCを含有する材質から構成されている例を示す。
使用した坩堝を図6に示す。図示のように、この坩堝は、坩堝の底部部分を、黒鉛からなる底部構造物9から構成し、その底部構造物に、融液保持のための窪みを形成した点を除いて、図1、2に示すものと同様である。すなわち、実施例1で使用した、図1、2に示す坩堝における融液保持部8および底部構造物9を一体化し、それを底部構造物9と同じ材質で構成したものに相当する。融液を保持する窪みの形状は実施例1と同じであり、従って、坩堝内の自由空間の大きさも実施例1と同じである。
この坩堝を用いて、実施例1と同様にAlN単結晶を成長させた。坩堝に投入した原料約1kgは、10gの炭素を含有していた。成長後の観察では、6H−SiC基板の上に50μm程度までAlNがエピタキシャル成長した後、6H−SiCが成長して、AlNの成長を阻害していた。これは、成長中も坩堝から融液中にCが供給され、気相からのNの供給より坩堝からのCの供給が多いため、SiCが飽和濃度を超えた後はSiCが析出するようになったためであると考えられる。つまり、この例では、融液中へのCの溶解が管理されておらず、Cの溶解量を制御できないため、基板上のSiCの析出を防止することができなかった。
実施例で使用した坩堝構造例を一部透視的に示す斜視図。
図1の坩堝構造例を模式的に示す縦断面図。
実施例で使用した別の坩堝構造例を模式的に示す縦断面図。
実施例で使用したさらに別の坩堝構造例を模式的に示す縦断面図。
比較例で使用した坩堝構造例を模式的に示す縦断面図。
比較例で使用した別の坩堝構造例を模式的に示す縦断面図。
符号の説明
1:チャンバー、2:融液、3:種結晶基板(SiC)、4:成長単結晶、5:雰囲気ガス、6:結晶保持具、7:側壁部、8:融液保持部、9:底部構造物、10:高周波誘導コイル、11:炭素含有物質、12:スリット、13:壁面セグメント