JP2007239310A - 梁継手構造及び構造物 - Google Patents

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英一郎 佐伯
Atsushi Watanabe
厚 渡辺
Hideaki Yoshikawa
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Abstract

【課題】地震等により外力が作用した場合に,構造物の主架構を塑性変形させることなく,ダンパー部材が当該外力のエネルギーを十分に吸収する梁継手構造を提供すること。
【解決手段】鋼製の柱材110に設けられたブラケット112と,鋼製の梁材120とを接合する梁継手構造100において,ブラケットのフランジ114,116と梁材のフランジ124,126とを接合するフランジ用スプライスプレート130と,ブラケットのウエブ118と梁材のウエブ128とを接合するウエブ用スプライスプレート140と,を備え,フランジ用スプライスプレートの略中央部は,細首化された塑性化部132が形成されており,ウエブ用スプライスプレートと梁材のウエブおよびウエブ用スプライスプレートとブラケットのウエブとはボルト接合されており,ウエブ用スプライスプレート,梁材のウエブまたはブラケットのウエブに形成された貫通孔のいずれかが長円形である。
【選択図】図1

Description

本発明は,梁継手構造及び構造物に関し,特にエネルギー吸収力に優れた梁継手構造及び構造物に関する。
従来,構造物の柱梁構造は,柱材と梁材の接合部である柱梁接合部を剛接合したラーメン構造とする場合が多かった。ラーメン構造において耐震設計をする際,中小の地震時には構造物は弾性挙動の範囲に収まるように設計される。これに対し,従来の建築耐震設計法では,大地震時,例えば稀に発生する地震(気象庁震度階としてV強程度)時の外力を超える外力が構造物に作用した場合,柱材や梁材などの主架構(構造耐力上主要な部分)が塑性変形することを許容している。
しかしながら,柱材や梁材は長期荷重を支える部位であるため,地震によって塑性化した柱材や梁材の補修は,実質的に困難である。そこで,ラーメン構造に,さらにブレース(斜材)や耐震壁(耐震パネル)を設ける場合がある。これらのブレースや耐震壁は,ダンパー部材として機能し,地震エネルギーを吸収することができる。これにより,大地震時に構造物の柱材や梁材を塑性変形させないような設計をすることが可能である。
しかし,構造物の主架構にブレースや耐震壁を設けると,構造物内の空間が仕切られてしまう。そのため,構造物内の空間レイアウトを優先する場合,ブレースや耐震壁が,耐震設計上,効率良く配置されず,構造強度が偏った構造物が構築されるという問題があった。
そこで,ダンパー部材として機能するスプライスプレートを構造物の梁継手構造に設けて,スプライスプレートにより地震エネルギーを吸収する技術が提案されている(例えば,特許文献1,2を参照)。かかる梁継手構造は,上記ブレースや耐震壁と異なり,構造物内の空間を仕切ることがないため,レイアウトに制限が生じることがない。
特許文献1の梁継手構造は,柱材に設けられたブラケットのフランジと梁材のフランジとを接合するスプライスプレートの略中央部に塑性化部を形成して,スプライスプレートをダンパー部材として作用させる。また,特許文献2では,柱材に設けられたブラケットのフランジと梁材のフランジとを接合するスプライスプレートにおいて,スプライスプレートの塑性化部に,塑性化部の座屈を拘束する座屈拘束部材を設ける梁継手構造が提案されている。
特開2000−144901号公報 特開2004−278293号公報
しかしながら,従来の建築耐震設計法においては,稀に発生する地震(気象庁震度階としてV強程度)時の外力が作用する程度では,ダンパー部材の塑性変形が許容されていなかった。そのため,従来技術におけるダンパー部材を備えた梁継手構造は,稀に発生する地震時において塑性変形しないように設計される必要があった。
例えば,特許文献1における梁継手構造では,柱材に設けられたブラケットのウエブと梁材のウエブは,ウエブ用スプライスプレートを介して,ボルト接合されている。このように,ブラケットのウエブと梁材のウエブは,剛接合となっているので,梁材の回転が拘束されていた。そのため,稀に発生する地震時の外力が作用したとして,柱材に対して梁材は回動せず,ウエブ用スプライスプレートは塑性変形しない。
また,従来の建築耐震設計法では,極めて稀に発生する地震(気象庁震度階としてVI強〜VII程度)時の外力がダンパー部材に作用したとき初めて,ダンパー部材は塑性変形することが許容されていた。そのため,ダンパー部材の塑性化部の長さが長くなり,塑性化部の座屈が生じやすい構造となるため,座屈を防止するため別途座屈拘束材を塑性化部に設けなければならないという問題があった。
例えば,特許文献2では,ダンパー部材としてのフランジ用スプライスプレートの塑性化部に座屈拘束部材を設ける技術が提案されている。しかし,当該技術では,座屈拘束部材を設けることにより,梁継手構造が複雑になってしまうという問題がある。また,特許文献2では,柱材に設けられたブラケットのウエブと梁材のウエブを接合するウエブ用スプライスプレートが設けられていない。そのため,ブラケットと梁材間で,大きな剪断力の伝達ができないという問題があった。
ところで,2005年に「エネルギーの釣り合いに基づく耐震計算法」の告示が公布されており,この告示によって,建築耐震設計において,極めて稀に発生する地震時の外力ほど大きくなくても,稀に発生する地震時の外力がダンパー部材に作用した場合に,ダンパー部材を塑性化させて,地震エネルギーを吸収させることが許容されることとなった。従って,このような条件下でダンパー部材によって,地震エネルギーを吸収可能な梁継手構造に関する技術が希求されていた。
そこで,本発明は,上記問題に鑑みてなされたものであり,本発明の目的とするところ
は,地震等により外力が作用した場合に,構造物の主架構を塑性変形させることなく,ダンパー部材が当該外力のエネルギーを十分に吸収することが可能な,新規かつ改良された梁継手構造及び構造物を提供することにある。
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,鋼製の柱材に設けられたブラケットと,鋼製の梁材とを接合する梁継手構造において:ブラケットのフランジと梁材のフランジとを接合するフランジ用スプライスプレートと;ブラケットのウエブと梁材のウエブとを接合するウエブ用スプライスプレートと;を備え,フランジ用スプライスプレートの略中央部には,細首化された塑性化部が形成されており,ブラケットのウエブとウエブ用スプライスプレート,および梁材のウエブとウエブ用スプライスプレートとはボルト結合されており,ブラケットのウエブに形成されたボルト貫通孔,梁材のウエブに形成されたボルト貫通孔,またはウエブ用スプライスプレートに形成されたボルト貫通孔のいずれかが長円形であることを特徴とする,梁継手構造が提供される。
かかる構成により,フランジ用スプライスプレートの塑性化部は,塑性化部の断面積が塑性化部以外の断面積よりも小さいため,応力が集中し,塑性化部以外の部分よりも塑性化しやすい。また,例えば梁材のウエブに形成された貫通孔が長円形である場合,梁材のウエブとウエブ用スプライスプレートとを接合するボルトは,長円形のボルト貫通孔内を移動可能である。従って,ある強度以上の外力が加わったときに,梁材のウエブとウエブ用スプライスプレートとが相対移動することができるので,梁材は柱材に対して回動できる。なお,ブラケットのウエブまたはウエブ用スプライスプレートに形成された貫通孔が長円形である場合も,ある程度以上の外力が加わったとき,同様に梁材は柱材に対して回動できる。よって,地震等により外力が梁継手構造に作用したとき,梁材は回動し,フランジ用スプライスプレートの塑性化部は塑性化して,当該外力のエネルギーを吸収できる。
上記ブラケットの一側のフランジ及び梁材の一側のフランジが他部材によって拘束される場合には,ブラケットの一側のフランジと梁材の一側のフランジとは,塑性化部の形成されていないフランジ用スプライスプレートで剛接合され,ブラケットの他側のフランジ及び梁材の他側のフランジとは,塑性化部を有するフランジ用スプライスプレートにより接合されてもよい。かかる構成により,一側のブラケットのフランジ及び梁材のフランジが他部材に拘束されていても,他側のフランジ用スプライスプレートの塑性化部は塑性化し,梁材は,ウエブ用スプライスプレートに拘束されず回動できる。
上記ブラケットのウエブ,梁材のウエブ,またはウエブ用スプライスプレートに形成された長円形のボルト貫通孔は,他部材によって拘束されない側に少なくとも1つ形成されてもよい。かかる構成により,他部材によって拘束される側のフランジおよびウエブが主架構の剛性の一部となる。
上記ブラケットのウエブ,梁材のウエブ,またはウエブ用スプライスプレートに形成されたボルト貫通孔は,梁材の軸方向に長い長円形であるとしてもよい。かかる構成において,ボルトは梁材の軸方向に移動できる。一方,ボルトは,梁材の軸方向と垂直方向への移動が拘束される。よって,地震等の外力が作用しないときである通常時,ウエブ用スプライスプレートは梁材にかかる剪断力に対抗することができる。
上記塑性化部は,少なくとも気象庁震度階がV強程度の地震時の外力が梁継手構造に作用したとき,塑性化するように設計されてもよい。かかる構成により,建築耐震設計時に設定する地震外力を低減させた設計をすることができる。
また,上記課題を解決するために,本発明の別の観点によれば,柱材と梁材とを剛接合したラーメン構造体と;柱材のブラケットと梁材とを接合する上記の梁継手構造からなるダンパー構造体と;を含むことを特徴とする,構造物が提供される。
かかる構成により,ダンパー構造は,地震等の外力のエネルギーを吸収することができる。また,梁継手構造は,建築空間のレイアウトによる制限を受けないため,構造設計において,構造的にバランスのよい設計をすることができる。さらに,ダンパーや耐震壁と異なり,梁継手構造を設ける場合は,空間が仕切られないため,自由度の高い設計をすることができる。
上記ラーメン構造体は,気象庁震度階がVI強〜VII程度以下の地震時の外力より低い外力が作用したときに,弾性挙動する座屈拘束ブレースによって補強されてもよい。かかる構成により,ダンパー部材を設置しないラーメン構造よりも,安価な部材であるダンパー部材としての座屈拘束ブレースによって構造物の剛性の調整をすることができ,自由度の高い構造物の設計が可能である。
以上説明したように,本発明によれば,地震等により外力が作用した場合に,構造物の主架構を塑性変形させることなく,ダンパー部材が当該外力のエネルギーを十分に吸収することができる。
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
まず,図1〜3を参照して,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造について説明する。図1は,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造100を示す側面図である。図2は,同実施形態にかかる梁継手構造100を示す上面図である。図3は,図1のA−A線で切断した断面図である。
図1〜3に示すように,梁継手構造100は,柱材110に設けられたブラケット112と梁材120とを接合する。
柱材110は,本実施形態では,例えば円形の鋼管によって構成される。柱材110には,柱材110と梁材120とを接合するためのブラケット112が設けられる。ブラケット112は,上フランジ114,下フランジ116及びウエブ118から構成される。上フランジ114,下フランジ116,ウエブ118は,それぞれ平板材であり,柱材110の外周面に,例えば溶接によって接合される。上フランジ114と下フランジ116は,柱材110の周囲を囲むように柱材110の軸方向と垂直な面に形成される。上フランジ114と下フランジ116は,互いに平行に配される。ウエブ118は,上フランジ114と下フランジ116との間に,柱材110の軸方向に延設される。
ブラケット112の上フランジ114と下フランジ116には,ボルト162を貫通させるためのボルト貫通孔(図示せず。)が形成される。この上フランジ114とフランジ用スプライスプレート130,及び下フランジ116とフランジ用スプライスプレート130とが,ボルト162,ナット164によってそれぞれボルト接合される。ブラケット112の上フランジ114と下フランジ116に形成されるボルト貫通孔の大きさや数は,構造物の設計によって適宜決定される。
ブラケット112のウエブ118には,図3に示すように,ボルト166を貫通させるためのボルト貫通孔152が形成される。このウエブ118とウエブ用スプライスプレート140とが,ボルト166とナット168によってボルト接合される。ウエブ118に形成されるボルト貫通孔152の大きさや数は,構造物の設計によって適宜決定される。
梁材120は,本実施形態では,例えばH型鋼で構成できる,この梁材120は,上フランジ124,下フランジ126及びウエブ128から構成される。上フランジ124と下フランジ126は,互いに平行に配される。ウエブ128は,上フランジ124と下フランジ126との間に,延設される。
梁材120の上フランジ124と下フランジ126には,ボルト162を貫通させるためのボルト貫通孔(図示せず。)が形成される。この上フランジ124とフランジ用スプライスプレート130,及び下フランジ126とフランジ用スプライスプレート130とが,ボルト162とナット164によってそれぞれボルト接合される。
梁材120のウエブ128には,図3に示すように,ボルト166を貫通させるためのボルト貫通孔154が形成される。このウエブ128とウエブ用スプライスプレート140とがボルト接合される。ウエブ128に形成されるボルト貫通孔154は,一般的なボルト接合時と同様の径の円形の孔である。ボルト貫通孔154の大きさや数は,構造物の設計によって適宜決定される。
次に,図1〜図4を参照して,本実施形態にかかる梁継手構造100において,地震等の外力のエネルギーを吸収できるダンパー部材としてのフランジ用スプライスプレート130について説明する。図4は,本実施形態にかかるフランジ用スプライスプレート130を示す平面図である。
フランジ用スプライスプレート130は,鋼製の平板材であり,ブラケット112のフランジ114,116と梁材120のフランジ124,126とを接合する。フランジ用スプライスプレート130には,ボルト162を貫通させるためのボルト貫通孔136が形成される。ブラケット112の上フランジ114側に設けられるフランジ用スプライスプレート130は,ブラケット112の上フランジ114とボルト接合され,さらに梁材120の上フランジ124とボルト接合される。また,ブラケット112の下フランジ116側に設けられるフランジ用スプライスプレート130は,ブラケット112の下フランジ116とボルト接合され,さらに梁材120の下フランジ126とボルト接合される。フランジ用スプライスプレート130に形成されるボルト貫通孔の大きさや数は,構造物の設計によって適宜決定される。
フランジ用スプライスプレート130は,梁継手構造100に地震等の外力が入力されたときに,塑性変形して外力のエネルギーを吸収するダンパー部材として機能する。具体的には,フランジ用スプライスプレート130は,図4に示すように,フランジ用スプライスプレート130の略中央部が細首化した塑性化部132が形成されている。この塑性化部132が形成されたフランジ用スプライスプレート130は,例えば,砂時計型の形状とすることができる。すなわち,略四角形の鋼製の平板材において,梁材120の軸方向に平行する相向き合う2つの側面にU字状の切り欠き部134が形成されており,塑性化部132の幅は,塑性化部132以外の部分の幅よりも狭く形成される。なお,塑性化部132以外の部分とは,ブラケット112のフランジ114,116や梁材120のフランジ124,126とボルト接合される部分である。
かかる構成により,フランジ用スプライスプレート130の塑性化部132は,塑性化部132の断面積が塑性化部132以外の断面積よりも小さいため,応力が集中し,塑性化部132以外の部分よりも塑性化しやすい。その結果,梁継手構造100に地震等の外力が作用したとき,フランジ用スプライスプレート130の塑性化部132は,塑性変形し,当該外力のエネルギーを吸収するダンパー部材として機能する。
なお,塑性化部132は,図1,図2及び図4に示す形状に限定されず,例えば,塑性化部132の厚さを塑性化部132以外の部分の厚さより薄くしてもよい。また,塑性化部132は,例えば塑性化部132の幅と厚さの両方を,塑性化部132以外の部分よりも小さくし,断面積を縮小することによって,塑性化部132を塑性変形させる形状とすることができる。さらに,塑性化部132は,上述したようにU字状の切り欠き部134によって形成される場合に限定されず,塑性化部132以外の断面積よりも塑性化部132の断面積が小さくなるように形成されていればよい。そのため,塑性化部132は,例えば略四角形の平板材の相向き合う側面にV字状の切り欠きやテーパー状の切り欠きを設けて形成されてもよく,略四角形の平板材の略中央部に任意の大きさの貫通孔を設けて形成されてもよい。
また,2005年に告示された「エネルギーの釣り合いに基づく耐震計算法」では,フランジ用スプライスプレート130の塑性化部132は,稀に発生する地震時の外力によって塑性変形するよう設計できるようになった。従来の建築耐震設計法では,稀に発生する地震時のエネルギーでフランジ用スプライスプレートを塑性化させず,極めて稀に発生する地震時のエネルギーで初めて塑性化するようにフランジ用スプライスプレートに塑性化部を形成しなければならなかった。従って,フランジ用スプライスプレートの塑性化部の細首化した部分の長さは,極めて稀に発生する地震よりも低いエネルギーで塑性変形しないような任意の長さで形成される必要があった。
本実施形態では,2005年に告示された「エネルギーの釣り合いに基づく耐震計算法」に対応して,フランジ用スプライスプレート130の塑性化部132を,極めて稀に発生する地震時のエネルギーよりも低い稀に発生する地震時のエネルギーで塑性変形させる。そのため,本実施形態にかかるフランジ用スプライスプレート130の塑性化部132の細首化した部分の長さは,従来の塑性化部の細首化した部分の長さよりも,短くすることができる。
かかる構成において,フランジ用スプライスプレート130の塑性化部132の細首化した部分が短いため,本実施形態にかかる塑性化部132は,従来の建築耐震設計法で形成されたフランジ用スプライスプレートの塑性化部よりも座屈しにくい構造とすることができる。その結果,従来のフランジ用スプライスプレートには座屈拘束材を設ける必要があったが,特許文献2と異なり,本実施形態では,座屈拘束材を設けなくとも,塑性化部132の機能を低下させることがない。
次に,図1〜図3を参照して,ウエブ用スプライスプレート140について説明する。ウエブ用スプライスプレート140は,鋼製の板状部材であり,ブラケット112のウエブ118と梁材120のウエブ128とを接合する。
ウエブ用スプライスプレート140には,ボルト貫通孔142,144が形成される。ボルト貫通孔142は,ウエブ用スプライスプレート140において,柱材110のブラケット112側に形成される孔である。ボルト貫通孔144は,ウエブ用スプライスプレート140において,梁材120側に形成される孔である。ボルト貫通孔142,144は,それぞれ複数個形成されており,梁材120の軸方向に対して垂直方向に配列される。
ボルト貫通孔142は,一般的なボルト接合時と同様の径の円形の孔である。一方,ボルト貫通孔144は,長円形の孔である。本明細書で長円形の貫通孔とは,所定方向に延びる溝状の孔である。例えば,本実施形態のように,両端が半円形であり中間部が任意の一定の幅を有してもよいし,楕円形であってもよい。梁材120側に形成されるボルト貫通孔は,梁材120の軸方向に長い長円形とすることができる。
かかる構成により,梁材120のウエブ128とウエブ用スプライスプレート140を接合するボルト166は,長円形のボルト貫通孔144内を移動可能である。従って,ある強度以上の外力が加わったときに,梁材120のウエブとウエブ用スプライスプレート140とが相対移動することができるので,梁材120は柱材110に対して回動できる。よって,地震等により外力が梁継手構造100に作用したとき,梁材120は回動し,フランジ用スプライスプレート130の塑性化部は塑性化して,当該外力のエネルギーを吸収できる。また,かかる外力が作用した後も,ボルト貫通孔144は円形ではなく,長円形であるため,ウエブ用スプライスプレート140は塑性変形せず,ウエブ用スプライスプレート140は構造物の構造耐力を保持することができる。
ボルト貫通孔144は,梁材120の軸方向に長い長円形とした場合,ボルト166は梁材120の軸方向に移動できる。一方,ボルト166は,梁材120の軸方向と垂直方向への移動が拘束される。よって,地震等の外力が作用しないときである通常時,ウエブ用スプライスプレート140は梁材120にかかる剪断力に対抗することができる。
従来の長円形を設けないウエブ用スプライスプレートでは,地震等の外力が作用するとボルトがウエブ用スプライスプレートに衝突するため,ウエブ用スプライスプレートは塑性変形する。従って,従来技術では,本発明の実施形態で得られる上記のような効果を発揮することはなかった。なお,ボルト貫通孔142,144の数や大きさは,設計上適宜決定することができる。
次に,図3を参照して,ウエブ用スプライスプレート140の接合部分について詳細に説明する。図3は,図1のA−A線で切断した断面図である。
ウエブ用スプライスプレート140は,ブラケット112のウエブ118と梁材120のウエブ128を挟んで,2枚のウエブ用スプライスプレート140でブラケット112と梁材120とを接合する。ブラケット112のウエブ118端部と梁材120のウエブ128端部との間には,任意の間隔が設けられる。
ブラケット112のウエブ118端部と梁材120のウエブ128端部との間隔は,地震等の外力が作用したときにフランジ用スプライスプレート130の塑性化部132が塑性変形し,梁材120が回動する際,ブラケット112と梁材120が相互に衝突して,損傷しないような間隔で設けられることが必要である。そのため,ブラケット112のウエブ118端部と梁材120のウエブ128端部との間隔は,フランジ用スプライスプレート130の塑性化部132の変形角を設計によって決定することで,その間隔の長さを決めることができる。
また,ボルト貫通孔144の梁材120の軸方向の長さは,地震等の外力が作用したときに,梁材120のウエブ128とウエブ用スプライスプレート140とを接合するボルト166が長円形のボルト貫通孔144内を移動可能なように,フランジ用スプライスプレート130の塑性化部132の変形角,及びブラケット112のウエブ118端部と梁材120のウエブ128端部との間隔を決定することで,その長さを決めることができる。
次に,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造100に地震等の外力が作用した場合について説明する。
地震等の外力が作用しないときである通常時,本実施形態にかかる梁継手構造100は,ブラケット112と梁材120が,フランジ用スプライスプレート130とウエブ用スプライスプレート140とによって接合されており,固定化した状態を維持している。
本実施形態では,2005年に告示された「エネルギーの釣り合いに基づく耐震計算法」に対応して,稀に発生する地震時の外力が梁継手構造100に作用したときに,梁継手構造100におけるフランジ用スプライスプレート130が塑性化される構造とすることができる。また,フランジ用スプライスプレート130がダンパー部材として塑性化されることによって,稀に発生する地震時の外力が構造物に作用しても,柱材110や梁材120などの構造耐力上主要な部分である主架構が塑性化されない耐震設計をすることが可能となる。
一方,フランジ用スプライスプレート130は,稀に発生する地震時の外力が梁継手構造100に作用したときは,塑性化される。このとき,フランジ用スプライスプレート130の塑性化部132は,弾性挙動の範囲を超えて,塑性変形する。その結果,梁材のウエブ128とウエブ用スプライスプレート140とを接合するボルト166が貫通孔144内を移動し,梁材120は,梁材120のウエブ128面内で,図1及び図2に示した回動軸Xを中心とした回動をする。ここで,回動軸Xは,ブラケット112のウエブ118端部と梁材120のウエブ128端部との間の中央部,梁材120の梁せいの中央部の高さに位置し,回動軸Xの軸方向は梁材120のウエブ128の面に対して垂直方向である。
ウエブ用スプライスプレート140の梁材120側のボルト貫通孔144は,長円形であり,複数個配されていることから,ボルト貫通孔144とボルト貫通孔154とが両方とも円形であるときに比べて,梁材120の回動がボルト166によって拘束されることがない。従って,梁継手構造100のフランジ用スプライスプレート130は,稀に発生する地震時の外力が作用したとき,すなわち極めて稀に発生する地震時の外力に比べて低い外力が作用したときにも,塑性化される。
稀に発生する地震時の外力が作用することによって,フランジ用スプライスプレート130の塑性化部132が塑性変形した場合には,構造物の安全性を維持するためフランジ用スプライスプレート130の交換が必要な場合がある。しかし,このようにフランジ用スプライスプレート130の交換の必要性が生じた場合でも,本実施形態では,柱材110や梁材120などの主架構は塑性変形しないため,フランジ用スプライスプレート130を交換しただけで,構造物の当初の構造性能を保持することができる。また,フランジ用スプライスプレート130は長期荷重を支えていないため,フランジ用スプライスプレート130の交換が容易である。
次に,図5及び図6を参照して,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造の変更例について説明する。図5は,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造の変更例を示した側面図である。図6は,図5のB−B線で切断した断面図である。
上述した実施形態においては,ウエブ用スプライスプレート140に長円形のボルト貫通孔144が形成され,梁材120のウエブ128に円形のボルト貫通孔154が形成された場合について説明した。一方,ウエブ用スプライスプレート140に円形のボルト貫通孔254が形成され,梁材120のウエブ128に長円形のボルト貫通孔254が形成されてもよい。具体的には,梁材120のウエブ128に長円形のボルト貫通孔254が複数個形成され,梁材120の軸方向に長い長円形であるとすることができる。
この変更例の場合に,稀に発生する地震時の外力が梁継手構造100に作用すると,フランジ用スプライスプレート130の塑性化部132は,弾性挙動の範囲を超えて,塑性変形する。その結果,梁材のウエブ128とウエブ用スプライスプレート140とを接合するボルト166が貫通孔254内を移動し,梁材120は,梁材120のウエブ128の面内で,図5及び図6に示した回動軸Xを中心とした回動をする。ここで,回動軸Xは,ブラケット112のウエブ118端部と梁材120のウエブ128端部との間の中央部,梁材120の梁せいの中央部の高さに位置し,回動軸Xの軸方向は梁材120のウエブ128の面に対して垂直方向である。
梁材120に形成されたボルト貫通孔254は,長円形であり,複数個配されていることから,ボルト貫通孔144とボルト貫通孔254とが両方とも円形であるときに比べて,梁材120の回動がボルト166によって拘束されることがない。従って,梁継手構造100のフランジ用スプライスプレート130は,稀に発生する地震時の外力が作用したとき,すなわち極めて稀に発生する地震時の外力に比べて低い外力が作用したときにも,塑性化される。
次に,図7を参照して,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造の変更例について説明する。図7は,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造の変更例を示した側面図である。
上述した実施形態においては,ウエブ用スプライスプレート140または梁材120のウエブ128に長円形のボルト貫通孔が形成された場合について説明した。一方,図7に示すとおり,柱材110に設けられたブラケット112のウエブ118に円形の貫通孔152が形成され,ウエブ用スプライスプレート140のブラケット112側に長円形のボルト貫通孔242が形成されてもよい。具体的には,ウエブ用スプライスプレート140のブラケット112側に長円形のボルト貫通孔242が複数個形成され,梁材120の軸方向に長い長円形であるとすることができる。このとき,梁材120のウエブ128とウエブ用スプライスプレート140に形成された貫通孔は,両者とも円形の貫通孔とし,通常のボルト接合とする。
この変更例の場合に,稀に発生する地震時の外力が梁継手構造100に作用すると,フランジ用スプライスプレート130の塑性化部132は,弾性挙動の範囲を超えて,塑性変形する。その結果,ブラケット112のウエブ118とウエブ用スプライスプレート140とを接合するボルト166が貫通孔242内を移動し,梁材120は,梁材120のウエブ128の面内で,図7に示した回動軸Xを中心とした回動をする。ここで,回動軸Xは,ブラケット112のウエブ118端部と梁材120のウエブ128端部との間の中央部,梁材120の梁せいの中央部の高さに位置し,回動軸Xの軸方向は梁材120のウエブ128の面に対して垂直方向である。
ウエブ用スプライスプレート140のブラケット112側に形成されたボルト貫通孔242は,長円形であり,複数個配されていることから,ブラケット112のウエブ118に形成されたボルト貫通孔152とウエブ用スプライスプレート140のボルト貫通孔242とが両方とも円形であるときに比べて,梁材120の回動がボルト166によって拘束されることがない。従って,梁継手構造100のフランジ用スプライスプレート130は,稀に発生する地震時の外力が作用したとき,すなわち極めて稀に発生する地震時の外力に比べて低い外力が作用したときにも,塑性化される。
次に,図8を参照して,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造の変更例について説明する。図8は,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造の変更例を示した側面図である。
図7を参照して説明した実施形態においては,ウエブ用スプライスプレート140のブラケット112側に長円形のボルト貫通孔242が形成された場合について説明した。一方,図8に示すとおり,柱材110に設けられたブラケット112のウエブ118に長円形の貫通孔252が形成され,ウエブ用スプライスプレート140のブラケット112側に円形のボルト貫通孔142が形成されてもよい。具体的には,ブラケット112のウエブ118に長円形のボルト貫通孔252が複数個形成され,梁材120の軸方向に長い長円形であるとすることができる。このとき,梁材120のウエブ128とウエブ用スプライスプレート140に形成された貫通孔は,両者とも円形の貫通孔とし,通常のボルト接合とする。
この変更例の場合に,稀に発生する地震時の外力が梁継手構造100に作用すると,フランジ用スプライスプレート130の塑性化部132は,弾性挙動の範囲を超えて,塑性変形する。その結果,ブラケット112のウエブ118とウエブ用スプライスプレート140とを接合するボルト166が貫通孔252内を移動し,梁材120は,梁材120のウエブ128の面内で,図7に示した回動軸Xを中心とした回動をする。ここで,回動軸Xは,ブラケット112のウエブ118端部と梁材120のウエブ128端部との間の中央部,梁材120の梁せいの中央部の高さに位置し,回動軸Xの軸方向は梁材120のウエブ128の面に対して垂直方向である。
柱材110に設けられたブラケット112のウエブ118形成されたボルト貫通孔242は,長円形であり,複数個配されていることから,ブラケット112のウエブ118に形成されたボルト貫通孔242とウエブ用スプライスプレート140のボルト貫通孔142とが両方とも円形であるときに比べて,梁材120の回動がボルト166によって拘束されることがない。従って,梁継手構造100のフランジ用スプライスプレート130は,稀に発生する地震時の外力が作用したとき,すなわち極めて稀に発生する地震時の外力に比べて低い外力が作用したときにも,塑性化される。
次に,図9を参照して,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造100の変更例について説明する。図9は,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造100の変更例を示した側面図である。
上述した実施形態においては,柱材110のブラケット112の上面及び梁材120の上面,または柱材110の下面及び梁材120の下面には,ブラケット112及び梁材120を拘束する他部材が設けられていない。また,ブラケット112と梁材120とを接合するフランジ用スプライスプレート130は,梁材120の上側及び下側に設けられるフランジ用スプライスプレート130の両方ともに塑性化部132が形成されている場合について説明した。
図9には,ブラケット112の上フランジ114と梁材120の上フランジ124がコンクリート床材170によって拘束される場合を示している。この場合,梁材120の上側がコンクリート床材170によって拘束されるため,梁継手構造100に地震等の外力が作用したとしても,梁材120の上側に設けられるフランジ用スプライスプレートは塑性変形しにくい。
従って,ブラケット112の上フランジ114と梁材120の上フランジ124とが,柱材110や梁材120以外の他部材,例えばコンクリート床材170によって拘束される場合には,ブラケット112及び梁材120の上側に塑性化部132の形成されたフランジ用スプライスプレート130は設けられない。このことから,ブラケット112の上フランジ114と梁材120の上フランジ124との接合は,塑性化部132の形成されないフランジ用スプライスプレート330を介してボルト162によってボルト接合される。一方,他側のブラケット112の下フランジ116と梁材120の下フランジ126とは,塑性化部132を有するフランジ用スプライスプレート130を介してボルト162によってボルト接合される。
塑性化部132の形成されないフランジ用スプライスプレート330は,鋼製の平板材からなり,略四角形の形状を有する。また,ブラケット112の上フランジ114及び梁材120のフランジ124とをボルト接合するため,ボルト貫通孔(図示せず。)が形成される。
この変更例の場合に,梁継手構造100に,稀に発生する地震時の外力が作用すると,梁材120は,梁材120のウエブ128面内で,例えば図9に示した回動軸Yを中心とした回動をする。梁材120の上側がコンクリート床材170によって拘束されているため,梁材120の回転の支点である回動軸Yは,上記の実施形態の回動軸Xと異なり,例えば梁材120の上フランジ124の高さ付近に位置する。また,回動軸Yは,ブラケット112のウエブ118端部と梁材120のウエブ128端部との間の中央部に位置し,回動軸Yの軸方向は梁材120のウエブ128の面に対して垂直方向である。このとき,梁材120の下側に設けられた塑性化部132を有するフランジ用スプライスプレート130が塑性変形することによって,地震時のエネルギーが吸収される。
また,ウエブ用スプライスプレート140に形成されたボルト貫通孔144は,例えばウエブ用スプライスプレート140の上部から下部まで全て長円形であり,複数個配されていることから,ボルト貫通孔144と梁材120のウエブ128に形成されたボルト貫通孔(図示せず。)との両方が円形であるときに比べて,梁材120の回動がボルト166によって拘束されることがない。従って,稀に発生する地震時の外力が作用したとき,すなわち極めて稀に発生する地震時の外力に比べて低い外力が作用したとき,梁継手構造100のフランジ用スプライスプレート130を塑性化させることができる。
なお,図9には,梁材120の上側がコンクリート床材170によって拘束される場合を説明したが,本実施形態はこれに限られず,柱材110のブラケット112及び梁材120の下側が,例えばコンクリート床材170などの他部材によって拘束される場合であってもよい。この場合,梁材120の下側が,塑性化部132の形成されないフランジ用スプライスプレート330を介してボルト接合され,梁材120の上側が塑性化部132を有するフランジ用スプライスプレート130を介してボルト接合される。
また,図9には,ウエブ用スプライスプレート140に長円形のボルト貫通孔144を形成する場合を説明したが,図5及び図6で示した実施形態と同様に,梁材120のウエブ128に長円形のボルト貫通孔254を形成してもよい。また,図7及び図8に示した実施形態と同様に柱材110のブラケット112側に,ボルト貫通孔242またはボルト貫通孔252を形成してもよい。
次に,図10を参照して,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造100の変更例について説明する。図10は,同実施形態にかかる梁継手構造100の変更例を示した側面図である。なお,塑性化部132を有するフランジ用スプライスプレート130と塑性化部132の形成されないフランジ用スプライスプレート330の配置については,図9に示した変更例と同一であるため,詳細な説明は省略する。
上記の図9に示した本実施形態にかかる梁継手構造100では,ウエブ用スプライスプレート140に形成されたボルト貫通孔144が,例えばウエブ用スプライスプレート140の上部から下部まで全て長円形である場合について説明した。
図10には,ウエブ用スプライスプレート140に形成された長円形のボルト貫通孔144が,コンクリート床材170によって拘束されない側に配され,ウエブ用スプライスプレート140に形成された通常の,例えば円形のボルト貫通孔(図示せず。)が,コンクリート床材170によって拘束される側に配される場合を示している。例えば,図10に示すように,ウエブ用スプライスプレート140と梁材120との接合に5つのボルト166を用いる場合,コンクリート床材170によって拘束されない側に3つの長円形のボルト貫通孔144を配し,コンクリート床材170によって拘束される側に残りの2つの長円形のボルト貫通孔を配する。但し,ウエブ用スプライスプレート140と梁材120との接合に用いられるボルト166の数や,ウエブ用スプライスプレート140に配される長円形のボルト貫通孔144の数は,設計によって変更される。
このとき,コンクリート床材170によって拘束されるブラケットの上フランジ114と梁材の上フランジ124,およびフランジ用スプライスプレート330は,主架構の剛性の一部となる。さらに,コンクリート床材170によって拘束される側のウエブ用スプライスプレート140と梁材の上フランジ124とのボルト結合を,通常のボルト結合とし,他側のボルト結合ではウエブ用スプライスプレート140のボルト貫通孔144を長円形とすることによって,コンクリート床材170によって拘束される側の梁材120のウエブ128,ウエブ用スプライスプレート140によって形成される面は,主架構の剛性の一部となる。そのため,本変更例では,図9に示した変更例に比べて,剛性の増加した梁継手構造100とすることができる。
この変更例の場合に,梁継手構造100に,稀に発生する地震時の外力が作用すると,梁材120は,梁材120のウエブ128面内で,例えば図10に示した回動軸Zを中心とした回動をする。梁材120の上側がコンクリート床材170によって拘束され,さらに梁材120のウエブ128とウエブ用スプライスプレート140とのボルト接合によって拘束されているため,梁材120の回転の支点である回動軸Zは,上記の実施形態の回動軸Yよりも梁材120の上フランジ124側から下がった位置となる。なお,回動軸Zは,ブラケット112のウエブ118端部と梁材120のウエブ128端部との間の中央部に位置し,回動軸Zの軸方向は梁材120のウエブ128の面に対して垂直方向である。
このとき,梁材120の下側に設けられた塑性化部132を有するフランジ用スプライスプレート130が塑性変形することによって,地震時のエネルギーが吸収される。また,ウエブ用スプライスプレート140に形成された長円形のボルト貫通孔144は,梁材120の回動をボルト166によって拘束しない。従って,稀に発生する地震時の外力が作用したとき,すなわち極めて稀に発生する地震時の外力に比べて低い外力が作用したとき,梁継手構造100のフランジ用スプライスプレート130を塑性化させることができる。
次に,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造100が構造物に適用される例について説明する。図11は,同実施形態にかかる梁継手構造100からなるダンパー構造体を含む構造物を示す模式図である。
柱材110のブラケット112と梁材120とを接合した梁継手構造100からなるダンパー構造体は,柱材110と梁材120とを剛接合したラーメン構造体との組み合わせによる構造物に適用することができる。本実施形態にかかる梁継手構造100は,ピン接合であるため,梁継手構造100のみで構成された構造物を構築することはできない。そのため,本実施形態にかかる梁継手構造100は,ラーメン構造体との組み合わせに適用される。
本実施形態にかかる梁継手構造100は,ダンパー部材としてのフランジ用スプライスプレート130を備えている。梁継手構造100のフランジ用スプライスプレート130は,建築の壁面に形成されるブレースや耐震壁などのダンパー部材と同等の役割を果たすが,ブレースや耐震壁と異なり,構造物内の空間を仕切ることがない。従って,梁継手構造100を構造物に適用すると,レイアウトに制約のない設計をすることが可能となり,構造物の設計に自由度が増す。また,レイアウトの制約を受けないため,耐震設計は,構造物全体として構造上バランスの良い設計とすることができる。
次に,本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造100が構造物に適用される別の例について説明する。図12は,同実施形態にかかる梁継手構造100からなるダンパー構造体を含む構造物を示す模式図である。
本実施形態にかかる柱材110のブラケット112と梁材120とを接合した梁継手構造100からなるダンパー構造体は,上述したように主架構としてのラーメン構造体との組み合わせによる構造物に適用できる。さらに本実施形態にかかる梁継手構造100からなるダンパー構造体は,ラーメン構造体に主架構としてのブレースを設置した構造体との組み合わせによる構造物に適用することができる。この主架構としてのブレースには,極めて稀に発生する地震時における外力より低い外力が作用するときは,塑性変形せず弾性挙動を示す座屈拘束ブレース,例えばアンボンドブレースを使用することができる。かかる構成により,主架構としてのブレースを設置しないラーメン構造よりも,安価な部材である主架構としての座屈拘束ブレースによって構造物の剛性の調整をすることができる。そして,ダンパー構造体が適用される場所を増加させることができるので,自由度の高い構造物の設計が可能である。
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば,上述した実施形態においては,ウエブ用スプライスプレート140に形成されたボルト貫通孔144,梁材120のウエブ128に形成されたボルト貫通孔254は,梁材120のウエブ128の高さ方向に一列に直線的に並ぶ構成としたが,これに限定されず,設計に応じてボルト貫通孔144,254は任意の位置に配置することができる。
また,例えば,上述した実施形態においては,長円形のボルト貫通孔144,254は柱材110の軸方向に長い形状であるとしたが,これに限定されず,長円形のボルト貫通孔の向きは設計に応じて任意に決定することができる。
また,例えば,上述した実施形態においては,長円形のボルト貫通孔144,254が,ウエブ用スプライスプレート140の梁材120側,または梁材120のウエブ128に形成されるとしたが,これに限定されず,長円形のボルト貫通孔は,ウエブ用スプライスプレート140の柱材110側に形成されてもよく,ブラケット112のウエブ118に形成されてもよい。
本発明の第1の実施形態にかかる梁継手構造を示す側面図である。 同実施形態にかかる梁継手構造を示す上面図である。 図1のA−A線で切断した断面図である。 同実施形態にかかるフランジ用スプライスプレートを示す平面図である。 同実施形態にかかる梁継手構造の変更例を示す側面図である。 図4のB−B線で切断した断面図である。 同実施形態にかかる梁継手構造の変更例を示す側面図である。 同実施形態にかかる梁継手構造の変更例を示す側面図である。 同実施形態にかかる梁継手構造の変更例を示す側面図である。 同実施形態にかかる梁継手構造の変更例を示す側面図である。 同実施形態にかかる梁継手構造からなるダンパー構造体を含む構造物を示す模式図である。 同実施形態にかかる梁継手構造からなるダンパー構造体を含む構造物を示す模式図である。
符号の説明
100 梁継手構造
110 柱材
112 ブラケット
114 上フランジ
116 下フランジ
118 ウエブ
120 梁材
124 上フランジ
126 下フランジ
128 ウエブ
130,330 フランジ用スプライスプレート
132 塑性化部
134 切り欠き部
136,142,144,152,154,244,254 ボルト貫通孔
140 ウエブ用スプライスプレート
162 ボルト
164 ナット
166 ボルト
168 ナット
170 コンクリート床材
180 ブレース

Claims (7)

  1. 鋼製の柱材に設けられたブラケットと,鋼製の梁材とを接合する梁継手構造において:
    前記ブラケットのフランジと前記梁材のフランジとを接合するフランジ用スプライスプレートと;
    前記ブラケットのウエブと前記梁材のウエブとを接合するウエブ用スプライスプレートと;
    を備え,
    前記フランジ用スプライスプレートの略中央部には,細首化された塑性化部が形成されており,
    前記ブラケットのウエブと前記ウエブ用スプライスプレート,および前記梁材のウエブと前記ウエブ用スプライスプレートとはボルト結合されており,前記ブラケットのウエブに形成されたボルト貫通孔,前記梁材のウエブに形成されたボルト貫通孔,または前記ウエブ用スプライスプレートに形成されたボルト貫通孔のいずれかが長円形であることを特徴とする,梁継手構造。
  2. 前記ブラケットの一側のフランジ及び前記梁材の一側のフランジが他部材によって拘束される場合には,前記ブラケットの一側のフランジと前記梁材の一側のフランジとは,前記塑性化部の形成されていないフランジ用スプライスプレートで剛接合され,
    前記ブラケットの他側のフランジ及び前記梁材の他側のフランジとは,前記塑性化部を有する前記フランジ用スプライスプレートにより接合されていることを特徴とする,請求項1に記載の梁継手構造。
  3. 前記ブラケットのウエブ,前記梁材のウエブ,または前記ウエブ用スプライスプレートに形成された長円形の前記ボルト貫通孔は,前記他部材によって拘束されない側に少なくとも1つ形成されたことを特徴とする,請求項2に記載の梁継手構造。
  4. 前記ブラケットのウエブ,前記梁材のウエブ,または前記ウエブ用スプライスプレートに形成された前記ボルト貫通孔は,前記梁材の軸方向に長い長円形であることを特徴とする,請求項1〜3のいずれかに記載の梁継手構造。
  5. 前記塑性化部は,少なくとも気象庁震度階がV強程度の地震時の外力が前記梁継手構造に作用したとき,塑性化するように設計されていることを特徴とする,請求項1〜4のいずれかに記載の梁継手構造。
  6. 柱材と梁材とを剛接合したラーメン構造体と;
    柱材のブラケットと梁材とを接合する請求項1〜5のいずれかに記載の梁継手構造からなるダンパー構造体と;
    を含むことを特徴とする,構造物。
  7. 前記ラーメン構造体は,気象庁震度階がVI強〜VII程度以下の地震時の外力より低い外力が作用したときに,弾性挙動する座屈拘束ブレースによって補強されていることを特徴とする,請求項6に記載の構造物。

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