JP2007224486A - エアバッグ用織物およびエアバッグならびにエアバッグ用織物の製造方法 - Google Patents

エアバッグ用織物およびエアバッグならびにエアバッグ用織物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】エアバッグ用織物に求められる優れた低通気性と、収納時のコンパクト性とを兼ね備え、しかも経済性にも優れたエアバッグ用織物とそれからなるエアバッグ、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】タテ糸およびヨコ糸が合成繊維フィラメントからなる織物であって、合成繊維フィラメントの単繊維繊度が1〜4dtexであり、タテ糸の織密度がヨコ糸の織密度よりも大きいことを特徴とするエアバッグ用織物。
【選択図】 なし

Description

本発明は、自動車安全部品のひとつであるエアバッグに関する。また、それを構成するエアバッグ用織物およびその製造方法に関する。
近年、交通安全意識の向上に伴い、自動車の事故が発生した際に乗員の安全を確保するために、種々のエアバッグが開発されるに伴いその有効性が認識され、急速に実用化が進んでいる。
エアバッグは、車両が衝突してから極めて短時間に車内で膨張展開することで、衝突の反動で移動する乗員を受け止め、その衝撃を吸収して乗員を保護するものである。この作用上、袋を構成する布帛の通気量は小さいことが求められている。また、エアバッグ作動時の衝撃に耐える必要から、布帛には一定以上の強度が求められる。また、車内の意匠性や他の部品との関係から、収納時のコンパクト性が求められ、さらには低コスト化の要求も高まっている。
従来、布帛の通気量を小さくする手段として、エアバッグ用織物に樹脂を塗布したりフィルムを貼り付けた、コート布が提案されている。
しかし、樹脂の塗布やフィルムを貼り付けると、布帛の厚みが増し、収納時のコンパクト性が悪化し、エアバッグ用織物としては不適当であった。また、このような樹脂塗布工程やフィルムの貼り付け工程が増えることによって、製造コストが上がるという問題があった。
そこで、このような問題を解決するために、近年、樹脂加工を施さず、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の合成フィラメント糸を高密度に製織することで布帛の通気量を小さくするノンコート布が提案されており、例えば、低通気性を実現する手段として、300〜400dtexの繊度を有する合成フィラメント糸を用い、対称な織物組織を有する織物を使用する手段が開示されている(例えば特許文献1参照)。この手段は、300〜400dtexの繊度を有する合成繊維フィラメント糸を用い、タテ糸およびヨコ糸に23〜28本/cmの糸数を有する実質的にタテ糸とヨコ糸の織り密度が対称の織物組織とすることで、試験差圧ΔP=500Paで10L/dm・min以下の通気量と、タテ糸方向とヨコ糸方向の特性が等方的な機械特性を実現する。
しかし、この手段では、優れた低通気性と所定の機械性能を実現するために、タテ糸およびヨコ糸を、ともに23〜28本/cmもの高密度の織物にすることを必要としており、収納時のコンパクト性を損なうという問題があった。また、高密度なるが故に製織速度が上がりにくく、生産性にも問題があった。
一方、基布の強度や柔軟性に等方性を与えつつも生産性を向上させるために、
{(ヨコ糸の織密度)×(ヨコ糸の繊度)1/2}÷{(タテ糸の織密度)×(タテ糸の繊度)1/2}
なる式で定義される密度係数比なるものを規定する手段も知られている(例えば特許文献2参照)。
この手段によれば、上記密度係数比が0.92を超えないように調整することで、織物のタテ方向とヨコ方向の剛軟度の差を小さくするができ、エアバッグ収納時のコンパクト性の改善が図れるものである。
しかし、剛軟度の等方性だけに注目しており、エアバッグとして最も重要な通気量の低減についてはなんら触れられていない。
このように、従来技術では、エアバッグ用織物に必要な低通気性と高強度を兼ね備え、しかも収納時のコンパクト性に優れたエアバッグ用織物は実現されていない。
特開平3−137245号公報(特許請求の範囲第1項) 特開2001−200447号公報(請求項1、段落0013)
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、エアバッグ用織物に求められる低通気性と収納時のコンパクト性とを兼ね備え、しかも経済性にも優れたエアバッグ用織物およびエアバッグならびにエアバッグ用織物の製造方法を提供することにある。
すなわち本発明は、タテ糸およびヨコ糸が合成繊維フィラメントからなる織物であって、合成繊維フィラメントの単繊維繊度が1〜4dtexであり、タテ糸の織密度がヨコ糸の織密度よりも大きいことを特徴とするエアバッグ用織物である。
また本発明は、本発明のエアバッグ用織物を縫製してなるエアバッグである。
また本発明は、本発明のエアバッグ用織物を製造する方法であって、タテ糸張力を75〜230g/本に調整して製織することを特徴とするエアバッグ用織物の製造方法である。
また本発明は、本発明のエアバッグ用織物を製造する方法であって、タテ糸開口における上糸の張力と下糸の張力とに10〜90%の差をつけて製織することを特徴とするエアバッグ用織物の製造方法である。
本発明によれば、エアバッグ用織物に求められる、優れた低通気性と収納時のコンパクト性とを兼ね備え、しかも経済性にも優れたエアバッグ用織物とそれからなるエアバッグならびにエアバッグ用織物の製造方法を得ることができる。
本発明のエアバッグ用織物は、合成繊維フィラメントからなる。合成繊維フィラメントの素材としては、例えば、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維、ポリサルホン系繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等を用いることができる。
ポリアミド繊維としては例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46や、ナイロン6とナイロン66との共重合ポリアミド繊維、ナイロン6にポリアルキレングリコール、ジカルボン酸、アミン等を共重合させた共重合ポリアミド繊維等を挙げることができる。
また、ポリエステル繊維としては例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維等を挙げることができる。ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに酸成分としてイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸や、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合させた共重合ポリエステル繊維であってもよい。
なかでも、大量生産性や経済性に優れたポリアミド繊維やポリエチレンテレフタレート繊維が好ましい。ナイロン6繊維、ナイロン66繊維は耐衝撃性に特に優れており、好ましい。
また、合成繊維フィラメントには、原糸の製造工程や加工工程での生産性、あるいは、特性改善のために、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。
また、合成繊維フィラメントの単繊維の断面形状としては、丸断面の他に、扁平断面のものを用いることも好ましい。扁平断面繊維を用いることにより、織物としたときの繊維の充填化が促進され、織物中の単繊維間に占める空隙が小さくなり、同じ織物組織であれば、同等繊度の丸断面糸を使用した場合よりも通気量を抑えることができる。扁平断面の形状については、単繊維の断面形状を楕円に近似した際、その長径(D1)と短径(D2)の比(D1/D2)で定義される扁平率が1.5〜4であることが好ましく、より好ましくは2.0〜3.5である。かかる扁平断面形状としては、幾何学的に真の楕円形の他、例えば、長方形、菱形および繭形でもよいし、左右対称の他、左右非対称型でもよい。また、これらを組み合わせた形状のものでもよい。さらに、上記を基本形として、突起や凹みあるいは部分的に中空部があるものであってもよい。
本発明のエアバッグ用織物を構成するタテ糸およびヨコ糸の合成繊維フィラメントの単繊維繊度としては、1〜4dtexとすることが重要である。これは、エアバッグ用織物としては比較的低繊度である。4dtex以下とすることで、合成繊維フィラメントの剛性が低下、柔軟性が向上し、エアバッグとしての収納性が向上する。また、通気量を低下させることができ好ましい。さらに、後述するようにタテ糸張力を上げた状態で製織するなどの一定条件下の製織条件を採用することで、タテ糸とヨコ糸間の織物組織の安定度が飛躍的に向上し、抗目ズレ性を著しく向上させることができる。一方、1dtex以上とすることで、特別な工夫を施すことなく合成フィラメントの製造が可能となる。単繊維繊度は、より好ましくは1.5〜3.5dtex、さらに好ましくは2.0〜3.0dtexである。単繊維繊度がこれらのより限定された範囲内であると、織物中の単繊維間に占める空隙が小さくなり、繊維の充填化効果がより一層向上する。
タテ糸およびヨコ糸の総繊度としては、200〜700dtexが好ましい。200dtex以上とすることで、織物の強度を維持できる。また、700dtex以下とすることで、収納時のコンパクト性や、低通気性を維持できる。
このうち、タテ糸の繊度としては、200〜400dtexがより好ましく、さらに好ましくは300〜400dtexである。この範囲内の繊度とすることで、タテ糸の織り密度を大きくすることが容易になるため好ましい。また、これによって、通気量も小さくすることができ、さらに、織物の柔軟性とコンパクト収納性も向上するので好ましい。
また、ヨコ糸の繊度としては、300〜700dtexがより好ましく、さらに好ましくは350〜700dtexである。このように、ヨコ糸の繊度をタテ糸の繊度よりも大きめの傾向とすることで、ヨコ方向のカバーファクターを大きくすることができ、織密度を小さくしても織物のカバーファクターの和を維持することができるため好ましい。ヨコ糸の総繊度が300dtexより小さい場合は、カバーファクターを大きくする効果が小さいため好ましくない。
本発明のエアバッグ用織物を構成する合成繊維フィラメントの引張強度としては、エアバッグ用織物として要求される機械的特性を満足するためにタテ糸およびヨコ糸ともに8.0〜9.0cN/dtexが好ましく、より好ましくは8.3〜8.7cN/dtexである。
本発明のエアバッグ用織物は、タテ糸の織密度がヨコ糸の織密度よりも大きいことが重要である。
ここで、タテ糸の織密度とは、タテ糸の、織物の幅方向1インチ(2.54cm)当たりの本数である。また、ヨコ糸の織密度とは、ヨコ糸の、織物の長さ方向1インチ(2.54cm)当たりの本数である。タテ糸の織密度をヨコ糸の織密度よりも大きくすることで、タテ糸密度とヨコ糸密度が等しい対称組織の織物に比べ、同等の通気量を維持しながら、ヨコ糸密度を小さくすることで織物の製織速度、すなわち生産性を向上させることができるとともに、織物のヨコ方向の柔軟性をも向上させることができる。一般的にエアバッグ用織物は、織物のヨコ方向の柔軟性がタテ方向のそれに対して悪いため、ヨコ方向の柔軟性を改善することで、タテ方向の柔軟性を改善すること以上にエアバッグとしての収納性を改善することができる。特に、最近急速に普及しているカーテンエアバッグの場合、織物のタテ方向に1〜3m程度の略長方形状に切り抜いたものを縫製し、織物のヨコ方向に巻き込むような形でエアバッグとして収納されるため、ヨコ方向の柔軟性を向上させることは重要である。
また、タテ糸の織密度をヨコ糸の織密度よりも大きくすることで、バッグの反転作業等を経ても低通気性を維持することができる。縫製タイプのエアバッグの製造工程では、エアバッグを構成するパーツを縫製して袋状に仕立てた後に、裏表を反転させ、縫い代部が袋の内側になるようにして使用する。反転作業は、エアバッグに設けられたガス発生装置の取り付け穴から引き抜くようにして行われるが、このときに、織物がもまれることで織物組織が動き、当初の通気度が変化する可能性がある。
タテ糸の織密度をヨコ糸の織密度よりも大きくすることでバッグの反転作業等を経ても低通気性を維持することができるそのメカニズムとしては、次のようなことであると考える。すなわち、織物中の合成繊維フィラメントは、マルチフィラメントの断面形状として略楕円形状にまとまっているが、タテ糸の方がヨコ糸よりも楕円形状の長半径が大きくなる傾向がある。これは、タテ糸は一定の張力下で織機の開口運動によって繰り返しヨコ糸に押さえつけられながら織り込まれるためであり、直線的に打ち込まれるヨコ糸に比べて横長のフィラメント束形状になる。このような織物が、反転作業時に穴部を通過するなどしてもまれたとき、フィラメント束は略楕円形状から円形に変形しようとする。このとき、長半径が大きいタテ糸のほうが変化の割合が大きいことになるが、タテ糸密度を大きくすることで、初期のフィラメント束形状を円形に近づけ、また、繊維の充填率を高くし、フィラメント束の変形代を小さくすることができる。よって、反転作業等による通気度の変化を小さくすることができる。
ヨコ糸の織密度に対するタテ糸の織密度の比(タテ糸の織密度/ヨコ糸の織密度)としては、1.1〜1.5が好ましく、より好ましくは1.1〜1.3である。この比を1.1以上とすることで、織物のヨコ方向の柔軟性を向上させる効果が良くなり、1.5以下、より好ましくは1.3以下とすることで織物組織の安定度を維持することができるからである。
上述したように、本発明のエアバッグ用織物は、タテ糸密度を大きくするため、単位面積あたりに使用されている糸量を示すカバーファクターは維持されている。同じ繊度とフィラメント数の糸からなる織物の通気量は、おおよそカバーファクターに比例するため、カバーファクターを維持することで同等カバーファクターの対称組織を有する織物と同等の通気量を得られ、好ましい。ここで、カバーファクターは、タテ糸総繊度をDw(dtex)、ヨコ糸総繊度をDf(dtex)、タテ糸密度をNw(本/2.54cm)、ヨコ糸密度をNf(本/2.54cm)としたとき、次の式で表される。
カバーファクター=(Dw)1/2×Nw+(Df)1/2×Nf 。
カバーファクターは1800〜2400の範囲が好ましい。カバーファクターをこの範囲に調整することで、良好な製織性と必要な低通気性を両立することができるからである。カバーファクターが1800よりも小さいと、製織性は向上するが、通気量が大きくなり好ましくない。また、カバーファクターが2400よりも大きくなると、通気量は小さくなるが、製織性が悪化しコスト高となるため好ましくない。
本発明のエアバッグ用織物は、JIS L 1096:1999 8.27.1 A法で規定するフラジール法に基づく試験差圧が19.6kPaで測定したときの通気量が、0.7L/cm・min以下であることが好ましく、より好ましくは0.6L/cm・min以下である。通気量を上記の範囲に調整することで、衝突時にインフレーターから発せられる膨張用ガスを漏れなく有効に使用することができ、乗員を確実に受け止めることができる。通気量が0.7L/cm・minを超えると、乗員が衝突した反動でエアバッグの膨張状態を維持できず、乗員拘束性が劣るため好ましくない。
本発明のエアバッグ用織物は、ASTM D4032「Circular Bend法」における押し込み作業を5回行ったときの、次式で定義される通気度変化率が、40%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下である。
通気度変化率(%)=(P−P)÷P×100
ここに、P:押し込み作業を行わないときの通気量(L/cm・min)
:押し込み作業を5回行った後の通気量(L/cm・min)
そうすることで、反転作業等による通気度の変化を小さく抑えることができる。
この通気度変化率は、前述のとおり、織物のタテ糸の織密度をヨコ糸の織密度よりも大きくすることで小さくすることができる。
また、本発明のエアバッグ用織物は、ASTM D6479−02による滑脱抵抗値が、織物のタテ糸方向およびヨコ糸方向ともに400N以上であることが好ましい。滑脱抵抗値を上記範囲に調整することで、縫製部の抗目ズレ性が改善し、エアバッグ作動時の衝撃による縫製部の目開きが抑制される。
また、本発明のエアバッグ用織物は、JIS L 1096−1999 8.19.1 A法で規定する45°カンチレバー法に基づく剛軟度が、タテ糸方向ヨコ糸方向ともに120mm以下であることが好ましく、より好ましくは110mm以下である。
さらに、本発明のエアバッグ用織物は、JIS L 1096−1999 8.12.1 A法で規定するストリップ法に基づく引張強力が500N/cm以上であることが重要である。好ましくは550N/cm以上であり、より好ましくは600N/cm以上である。エアバッグ作動時に織物強度が原因でエアバッグが破損する場合、最も強度が低い部分に応力が集中して破損する傾向がある。言い換えれば、織物の最低強度が、求められる強度を満たしていれば、破損を防ぐことができるのである。さらに、引張伸度は、使用する合成フィラメント糸の伸び特性によって決まり、織密度には大きくは影響されない。
本発明のエアバッグは、上記エアバッグ用織物を袋状に縫製し、インフレーターなどの付属機器を取り付けたものである。
次に、本発明のエアバッグ用織物を製造する方法について説明する。
本発明のエアバッグ用織物は、前述したように合成繊維フィラメント糸をタテ糸およびヨコ糸に用いタテ糸の織密度がヨコ糸の織密度より大きくなるように設定して製織する。
まず、前述した素材および総繊度のタテ糸を整経して織機にかけ、同様にヨコ糸の準備をする。
織機としては、ウォータージェットルーム、エアージェットルームおよびレピアルームなどが使用可能である。中でも、生産性を高めるためには、高速製織が比較的容易なウォータージェットルームが好ましい。
本発明のエアバッグ用織物の製造方法として、製織においてタテ糸張力を75〜230g/本に調整して行うことが好ましく、タテ糸張力としてより好ましくは100〜200g/本である。かかる範囲内にタテ糸張力を調整することで、織物を構成するマルチフィラメント糸の糸束中の単繊維間空隙を減少させることができ、かつ通気量をも低減することができる。また、ヨコ糸打ち込み後に、上記張力のかけられたタテ糸がヨコ糸を押し曲げることで、ヨコ糸方向の織物の組織拘束力を高める効果が得られる。これによって、織物の抗目ズレ性が向上し、エアバッグとして袋体を形成するときの縫製部分の目ズレによる空気漏れを抑えることができる。タテ糸張力が75g/本よりも小さいと、単繊維間空隙を減少させる効果が小さくなる。また、230g/本を超えると、単繊維間空隙を小さくすることはできるが、タテ糸が毛羽立ち、製織性が悪化する。
タテ糸張力を上記範囲内に調整する具体的方法としては、織機のタテ糸送り出し速度を調整する他、ヨコ糸の打ち込み速度を調整する方法が挙げられる。
またタテ糸張力は、例えば織機稼動中に経糸ビームとバックローラーの中央部分において、タテ糸一本当たりに加わる張力を張力測定器で測ることにより、容易に測定することができる。
また、タテ糸開口時に、上糸と下糸の張力に10〜90%の差をつけることが好ましい。上記範囲に張力を調整することで、筬討ちされたヨコ糸が低張力側のタテ糸のほうに逃げながら織り込まれ、その後の開口時には、低張力だったタテ糸が高張力に変化することで、タテ糸とヨコ糸が強く押さえつけられて糸−糸間の摩擦抵抗力が大きくなり、滑脱抵抗力を向上させることができる。
タテ糸開口時に、上糸と下糸の張力に差をつける方法としては、バックローラーを高めの位置に設置するなどして、片方の糸の走行線長を長くする方法がある。なかでも、バックローラーと綜絖との間にガイドロールを配し、このガイドロールによって、開口支点をワープラインから上または下にずらすことが好ましい。これによって、開口時に片方の糸の走行線長が他方に比べ長くなる分、張力が上がり、結果として上糸と下糸の張力に差をつけることが可能になる。ガイドロールの設置位置は、必要に応じて任意に設定すれば良いが、バックローラーと綜絞の間隔に対しバックローラー側から20〜50%の位置に配置することが好ましい。また、開口支点の位置は、ワープラインから5cm以上離れていることが好ましい。
また、開口装置にカム駆動方式を採用し、片側のドエル角を他方よりも100度以上取ることが好ましい。筬打ち時の張力が、ドエル角を大きくした方が高くなり、上記ガイドロールを設置した時と類似の効果を発生するため、好ましい。
織機のテンプルとしては、バーテンプルを用いることが好ましい。バーテンプルを用いると、織前全体を把持しながら筬打ちすることができるため、合成フィラメント同士の空隙を小さくすることができ、その結果、通気量と抗目ズレ性が向上するからである。
製織工程に次いで、必要に応じて、精練、熱セット等の加工を施す。特に小さい通気量が求められる場合には、必要に応じて、基布表面に樹脂等を塗布したり、フィルムを貼り付け、コート布としてもよい。
[測定方法]
(1)織物厚さ
JIS L 1096:1999 8.5に則り、試料の異なる5か所について厚さ測定機を用いて、23.5kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
(2)織物目付け
JIS L 1096:1999 8.4.2に則り、20cm×20cmの試験片を3枚採取し、それぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
(3)引張強度
JIS L 1096:1999 8.12.1 A法(ストリップ法)のラベルドストリップ法に則り、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて、試験片を3枚ずつ採取し、幅の両側から糸を取り除いて幅30mmとし、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/minで試験したときの破断強力を測定し、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて平均値を算出した。
(4)通気量
JIS L 1096:1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準じて、試験差圧19.6kPaで試験したときの通気量を測定した。試料の異なる5か所から200mm×200mmの試験片を採取し、口径100mmの円筒の一端に試験片を取り付け、取り付け箇所から空気の漏れが無いように固定し、レギュレーターを用いて試験差圧19.6kPaに調整し、そのときに試験片を通過する空気量を流量計で計測し、5枚の試験片についての平均値を算出した。
(5)通気度変化率
試料の異なる5か所から200mm×200mmの試験片を採取し、ASTM D4032−94「Standard Test Method for Stiffness of Fabric by the Circular Bend Procedure」における押し込み作業を5回繰り返した。
その後のサンプルの通気量を、上記(4)と同様にして測定し、通気量Pを求め、5枚の平均値を算出した。
そして、上記(4)による通気量Pと、次式により通気度変化率を求めた。
通気度変化率(%)=(P−P)÷P×100
ここに、P:押し込み作業を行わないときの通気量(L/cm・min)
:押し込み作業を5回行った後の通気量(L/cm・min)。
(6)滑脱抵抗値
ASTM D6479−02に則り測定した。
(7)剛軟度
JIS L 1096:1999 8.19.1 A法(45°カンチレバー法)に則り測定した。タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて、幅2cm×長さ約15cmの試験片を5枚ずつ採取し、カンチレバー形試験機の上に試験片の短辺をスケール基線に合わせて置いた。次に、試験片をカンチレバー形試験機の斜面の方向に緩やかに滑らせて、試験片の一端の中央点が前記斜面と接したときの他端の位置をスケールによって読んだ。試験片が移動した長さ(mm)を、試験片の表裏について測り、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて平均値を算出した。
(8)タテ糸張力
金井工機(株)製チェックマスター(登録商標)(形式:CM−200FR)を用い、織機稼動中に経糸ビームとバックローラーの中央部分において、タテ糸一本当たりに加わる張力を測定した。
また、織機をタテ糸が開口した状態で停止させ、バックローラと綜絞との間において、上側にあるタテ糸一本あたりに加わる張力を、上糸の張力として測定した。バックローラーと綜絖との間にガイドロールを配している場合には、ガイドロールと綜絞との間で測定を行った。同様にして、織機をタテ糸が開口した状態で停止させ、下側にあるタテ糸一本あたりに加わる張力を、下糸の張力として測定した。
(9)総合評価基準
上記の測定方法による通気量および剛軟度について、それぞれ、0.7L/cm・min以下、120mm以下を目標値とし、次の基準により評価した。
○:両方の目標値を満足する。
△:どちらか片方の目標値を満足する。
×:両方の値を満足しなかった。
[実施例1]
(タテ糸)
タテ糸として、ナイロン6・6からなり、円形の断面形状を持つ単糸繊度が2.5dtexの単繊維140フィラメントで構成され、総繊度350dtexで、強度8.5cN/dtex、伸度23.5%で、無撚りの合成繊維フィラメントを使用した。
(ヨコ糸)
タテ糸と同様の合成繊維フィラメントをヨコ糸として使用した。
(製織工程)
上記タテ糸とヨコ糸を用い、ウォータージェットルームにて織物を製織した。
筬打ち部とフリクションローラーとの間にはバーテンプルを設置して織物を把持し、バックローラーと綜絞との間に、バックローラから40cmの位置で、ワープラインから7cmタテ糸を持ち上げるようにガイドロールを取り付けた。
タテ糸総荷重を230kgとすることによりタテ糸張力を130g/本、停止時の上糸の張力を110g/本、下糸の張力を150g/本となるように調整し、織機回転数は500rpmとした。
得られた織物のタテ糸の織密度は62.5本/2.54cm、ヨコ糸の織密度は54本/2.54cmであった。
(精練・熱セット工程)
次いでこの織物に、熱水収縮槽を通過させ、引き続きピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で180℃にて1分間の熱セット加工を施した。
得られたエアバッグ用織物の特性を表1に示す。表1に示すようにこのエアバッグ用織物は、低通気性と収納時のコンパクト性を兼ね備えていた。
[実施例2]
(タテ糸)
実施例1で用いたのと同様のものをタテ糸とした。
(ヨコ糸)
ナイロン6・6からなり、円形の断面形状を持つ単糸繊度が3.3dtexの単繊維144フィラメントで構成され、総繊度470dtex、強度8.6cN/dtex、伸度24.0%の無撚りの合成繊維フィラメントをヨコ糸に使用した。
(製織工程)
上記タテ糸とヨコ糸を用い、実施例1と同様にバーテンプルおよびガイドロールを設けたウォータージェットルームを用いて、織物を製織した。
タテ糸総荷重を286kgとすることによりタテ糸張力を150g/本、停止時の上糸の張力を120g/本、下糸の張力を170g/本となるように調整し、織機回転数は500rpmとした。
得られた織物のタテ糸の織密度は62.5本/2.54cm、ヨコ糸の織密度は49.5本/2.54cmであった。
(精練・熱セット工程)
次いでこの織物に、実施例1と同様の精練・熱セット加工を施した。
得られたエアバッグ用織物の特性を表1に示す。このエアバッグ用織物も、低通気性と収納時のコンパクト性を兼ね備えていた。
[比較例1]
(タテ糸)
実施例1で用いたのと同様のものをタテ糸とした。
(ヨコ糸)
実施例1で用いたのと同様のものをヨコ糸とした。
(製織工程)
上記タテ糸とヨコ糸を用い、実施例1と同様にバーテンプルおよびガイドロールを設けたウォータージェットルームを用いて、織物を製織した。タテ糸総荷重を202kgとすることによりタテ糸張力を130g/本、停止時の上糸の張力を110g/本、下糸の張力を150g/本となるように調整し、織機回転数は500rpmとした。得られた織物のタテ糸の織密度は55本/2.54cm、ヨコ糸の織密度は62.5本/2.54cmであった。
(精練・熱セット工程)
次いでこの織物に、実施例1と同様の精練・熱セット加工を施した。
得られたエアバッグ用織物の特性を表1に示す。このエアバッグ用織物は、通気性は問題ないが、ヨコ方向の柔軟性が悪く、好ましくない。
[比較例2]
(タテ糸)
タテ糸として、ナイロン6・6からなり、円形の断面形状を持つ単糸繊度が4.9dtexの単繊維72フィラメントで構成され、総繊度350dtexで、強度8.5cN/dtex、伸度23.5%で、無撚りの合成繊維フィラメントを用いた。
(ヨコ糸)
タテ糸に用いたのと同様のものをヨコ糸とした。
(製織工程)
上記タテ糸とヨコ糸を用い、実施例1と同様にバーテンプルおよびガイドロールを設けたウォータージェットルームを用いて、織物を製織した。タテ糸総荷重を286kgとすることによりタテ糸張力を150g/本、停止時の上糸の張力を120g/本、下糸の張力を170g/本となるように調整し、織機回転数は500rpmとした。
得られた織物のタテ糸の織密度は62.5本/2.54cm、ヨコ糸の織密度は62.5本/2.54cmであった。
(精練・熱セット工程)
次いでこの織物に、実施例1と同様の精練・熱セット加工を施した。
得られたエアバッグ用織物の特性を表2に示す。このエアバッグ用織物は、通気量が大きく、剛軟度も高いため、収納時のコンパクト性が悪く好ましくない。
[比較例3]
(タテ糸)
実施例1で用いたのと同様のものをタテ糸とした。
(ヨコ糸)
実施例1で用いたのと同様のものをヨコ糸とした。
(製織工程)
上記タテ糸とヨコ糸を用い、ウォータージェットルームにて、織物を製織した。
筬打ち部とフリクションローラーとの間にはリングテンプルを設置して織物を把持し、バックローラーと綜絞との間に、バックローラから40cmの位置で、ワープラインから7cmタテ糸を持ち上げるようにガイドロールを取り付けた。
タテ糸総荷重を90kgとすることによりタテ糸張力を70g/本、停止時の上糸の張力を38g/本、下糸の張力を80g/本となるように調整し、織機回転数は500rpmとした。
得られた織物のタテ糸の織密度は59本/2.54cm、ヨコ糸の織密度は59本/2.54cmであった。
(精練・熱セット工程)
次いでこの織物に、実施例1と同様の精練・熱セット加工を施した。
得られたエアバッグ用織物の特性を表2に示す。このエアバッグ用織物は、通気量が大きく、好ましくないものであった。
[比較例4]
(タテ糸)
実施例1で用いたのと同様のものをタテ糸とした。
(ヨコ糸)
実施例1で用いたのと同様のものをヨコ糸とした。
(製織工程)
上記タテ糸とヨコ糸を用い、ウォータージェットルームにて、織物を製織した。
筬打ち部とフリクションローラーとの間にはリングテンプルを設置して織物を把持した。
タテ糸総荷重を100kgとすることによりタテ糸張力を70g/本、停止時の上糸の張力を70g/本、下糸の張力を70g/本となるように調整し、織機回転数は500rpmとした。
得られた織物のタテ糸の織密度は59本/2.54cm、ヨコ糸の織密度は59本/2.54cmであった。
(精練・熱セット工程)
次いでこの織物に、実施例1と同様の精練・熱セット加工を施した。
得られたエアバッグ用織物の特性を表2に示す。このエアバッグ用織物は、通気量が大きく、好ましくないものであった。
Figure 2007224486
Figure 2007224486
本発明によるエアバッグ用織物は、エアバッグ用織物に求められる優れた低通気性と収納時のコンパクト性を兼ね備え、経済性にも優れている。そのため、本発明のエアバッグ用織物は、特に運転席用、助手席用、後部座席用、側面衝突用サイドエアバッグなどに好適に用いることができる。なかでも、特に大きな拘束力が求められる運転席用、助手席用エアバッグとして好適である。

Claims (11)

  1. タテ糸およびヨコ糸が合成繊維フィラメントからなる織物であって、合成繊維フィラメントの単繊維繊度が1〜4dtexであり、タテ糸の織密度がヨコ糸の織密度よりも大きいことを特徴とするエアバッグ用織物。
  2. タテ糸の総繊度が200〜400dtexである、請求項1記載のエアバッグ用織物。
  3. ヨコ糸の総繊度が300〜700dtexである、請求項1または2記載のエアバッグ用織物。
  4. ヨコ糸の織密度に対するタテ糸の織密度の比(タテ糸の織密度/ヨコ糸の織密度)が1.1〜1.5の範囲内である、請求項1〜3のいずれか記載のエアバッグ用織物。
  5. ASTM D6479−02による織物の滑脱抵抗値が400N以上である、請求項1〜4のいずれか記載のエアバッグ用織物。
  6. JIS L 1096:1999 8.27.1 A法で規定するフラジール形法に基づいて試験差圧19.6kPaで測定したときの通気量が0.7L/cm・min以下である、請求項1〜5のいずれか記載のエアバッグ用織物。
  7. ASTM D4032「Circular Bend法」における押し込み作業を5回行ったときの、次式で定義される通気度変化率が、40%以下である、請求項1〜6のいずれか記載のエアバッグ用織物。
    通気度変化率(%)=(P−P)÷P×100
    ここに、P:押し込み作業を行わないときの通気量(L/cm・min)
    :押し込み作業を5回行った後の通気量(L/cm・min)
  8. 請求項1〜7のいずれか記載のエアバッグ用織物を縫製してなることを特徴とするエアバッグ。
  9. 請求項1〜7のいずれか記載のエアバッグ用織物を製造する方法であって、タテ糸張力を75〜230g/本に調整して製織することを特徴とするエアバッグ用織物の製造方法。
  10. 請求項1〜7のいずれか記載のエアバッグ用織物を製造する方法であって、タテ糸開口における上糸の張力と下糸の張力とに10〜90%の差をつけて製織することを特徴とするエアバッグ用織物の製造方法。
  11. 製織時のテンプルとしてバーテンプルを使用する請求項9〜10のいずれか記載のエアバッグ用織物の製造方法。
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