JP2007207577A - 多成分系金属粒子スラリー及びそのスラリーを用いた導電性インク又は導電性ペースト - Google Patents

多成分系金属粒子スラリー及びそのスラリーを用いた導電性インク又は導電性ペースト Download PDF

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Abstract

【課題】良好な粒子分散性を示すnmオーダーの1次粒子径を含み、十分な低温焼結特性を示す多成分系金属粒子スラリーの提供を目的とする。
【解決手段】上記課題を達成するため、溶媒にナノ粒子径サイズの成分の異なる金属粒子を含んだ多成分系金属粒子スラリーであって、前記金属粒子は、一次粒子径が30nm〜300nmのスズ粒子と、一次粒子径が30nm〜300nmの銅粒子及び銀粒子のいずれか一種又は二種を含む多成分系金属粒子スラリーを採用する。また、多成分系金属粒子スラリーとしての体積を100vol%としたとき、総金属粒子を20vol%〜70vol%含有した多成分系金属粒子スラリー等を採用する。
【選択図】なし

Description

本件出願に係る発明は、多成分系金属粒子スラリーに関する。特に、nmレベルの一次粒子径を備えるスズ粒子を必須として、nmレベルの一次粒子径を備える銅粒子や銀粒子を組み合わせた多成分系金属粒子スラリーの提供を目的とする。
電子機器には、小型化、軽量化と同時に高機能化を達成するため、電子機器等の回路配線にも小型軽量化が要求され、その結果として、微細回路形成や高密度実装など新しい技術が求められてきた。特に、近年は、特許文献1に開示されているような、導電性インクを用いてインクジェット法で、回路形成、導電性薄膜の形成を行うことも一般化しており、前記導電性インクの導電性フィラーとしての金属ナノ粒子(nmレベルの一次粒子径を備えた金属粒子の意である。)の品質向上及び応用が期待されている。
そして、一方では、環境対策に伴う、半田の鉛フリー化や半田メッキの廃液問題が存在する。この問題を解決するため、特許文献2にあるような鉛フリー、フラックスレス、低温実装といった利点を備える導電性ナノ粒子ペーストや導電性インクに対する要求が顕著になってきている。
この金属ナノ粒子は、粒子がナノサイズであり微粒化効果によって融点降下や、バルクの材料にはない高い表面活性を示すことが期待されている。例えば、銀粉を用いて形成した導体には、電気抵抗の低減と、高い接続信頼性とが要求される。そのため、樹脂成分の硬化と共にフィラーである銀粉自体も焼結して導電性を発揮する銀インクあるいは銀ペーストに対する要求が高まった。そして、銀粒子の焼成温度を下げることを考え、特許文献3に開示されているような、導電性フィラーである銀粉の粒子をnmレベルに微細化する努力が払われてきた。
特開2002−324966号公報 特開平10−58190号公報 特開2002−324966号公報
しかしながら、ナノサイズの銀粉、銅粉を初めとする金属粉を導電性フィラーとして含む導電性インクの場合には、ナノ粒子の分散性を確保するため、保護コロイドとして多量の分散剤を添加するのが一般的である。ここで使用される分散剤は、前記金属ナノ粒子の焼成温度よりも高い分解温度の分散剤を使用するのが一般的であり、金属ナノ粒子が本来持つ低温焼結特性を充分に生かしきれないという欠点がある。
以上のことから、市場では、良好な粒子分散性を示すnmオーダーの1次粒子径を含み、十分な低温焼結特性を示す導電性ペースト及び導電性インクが求められてきた。
導電性インクにおいて、そこに含まれる導電性フィラーである金属ナノ粒子の再凝集を防止して分散性を確保するため、保護コロイドとして多量の分散剤を用いることを前提として考えねばならない。そこで、本件発明の発明者等は、鋭意研究の結果、導電性フィラーである金属ナノ粒子として、低融点金属粒子(スズナノ粒子)を一定量含ませれば、分散剤が多量であっても、低温焼結性を確保できると判断した。その結果、導電性フィラーの焼結特性に優れた導電性インク、導電性ペーストの製造原料として、以下に述べる多成分系金属粒子スラリーを用いることに想到した。
本件発明に係る多成分系金属粒子スラリー: 本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーは、溶媒にナノ粒子径サイズの成分の異なる金属粒子を含んだ多成分系金属粒子スラリーであって、前記金属粒子は、一次粒子径が30nm〜300nmのスズ粒子と、一次粒子径が30nm〜300nmの銅粒子及び銀粒子のいずれか一種又は二種を含むことを特徴とする。
本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーにおいて、前記金属粒子は、多成分系金属粒子スラリーとしての体積を100vol%としたとき、総金属粒子を20vol%〜70vol%含有することが好ましい。
本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーにおいて、前記金属粒子がスズ粒子と銅粒子又は銀粒子とからなる場合において、その金属粒子の総重量を100wt%としたとき、スズ粒子と銅粒子又は銀粒子との重量含有比が、[スズ粒子(wt%)]/[銅粒子又は銀粒子(wt%)]=0.2〜0.8である事が好ましい。以下、これを2成分系と称する。
また、本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーにおいて、前記金属粒子がスズ粒子と銅粒子と銀粒子とからなる場合において、その金属粒子の総重量を100wt%としたとき、スズ粒子と銅粒子と銀粒子との重量含有比は、スズ粒子のwt%の値を1としたとき、[スズ粒子(wt%)]:[銅粒子(wt%)]:[銀粒子(wt%)]=1:0.05〜0.30:0.10〜0.50である事が好ましい。以下、これを3成分系と称する。
そして、本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーに用いる前記溶媒は、多成分系金属粒子スラリーの重量を100wt%としたとき、カルボキシル基を有する化合物を1wt%〜30wt%含有したしたものであることが好ましい。
本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーにおいて、前記カルボキシル基を有する化合物は、カルボン酸類であり、且つ、分子量が200以上のものを用いる事が好ましい。
本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーを用いた導電性インク等: 上記多成分系金属粒子スラリーは、そのままで用いることも可能であるが、本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーは、溶媒成分の事後的調整を行い導電性インク又は導電性ペーストを調整するための基礎材料として使用することも可能である。
即ち、本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーの溶媒成分を、一定量除去して、その中に適宜必要な成分を添加して任意の成分の導電性インク又は導電性ペーストを調整するのである。
本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーは、スズナノ粒子を必須の金属粒子として用い、これに銀ナノ粒子、銅ナノ粒子を組み合わせて用いることで、焼成温度300℃以下で合金化した焼成膜の形成に好適である。特に、当該多成分系金属粒子スラリーは、その中に低温焼結性を向上させるため、カルボキシル基を有する化合物を含ませることが好ましく。カルボキシル基を有する化合物を用いることで、焼成温度が200℃前後であっても合金化反応を起こさせることが可能となる。従って、これらを用いて得られる導電性インク及び導電性ペーストは、低温焼結用途に於いて好適なものとなる。そして、スズナノ粒子の含有量を調整することで、半田ペースト等の代替え材料としても好適な製品を提供できる。
以下、本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーの実施の形態に関して説明する。本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーは、溶媒にナノ粒子径サイズの成分の異なる金属粒子を含んだ多成分系金属粒子スラリーであって、前記金属粒子は、一次粒子径が30nm〜300nmのスズ粒子と、一次粒子径が30nm〜300nmの銅粒子及び銀粒子のいずれか一種又は二種を含むことを特徴とする。即ち、本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーの場合、構成成分として低融点金属であるスズナノ粒子を必須とする。そして、他の成分としては銅ナノ粒子及び銀ナノ粒子を選択的に組み合わせて用いるのである。従って、誤解の無きように、本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーを2成分系と3成分系とに分けて説明する。
[本件発明に係る2成分系の多成分系金属粒子スラリー形態]
ここで、スズ粒子、銅粒子、銀粒子の一次粒子径は、30nm〜300nmの範囲のナノ粒子を用いることが好ましい。一次粒子径が30nm未満の金属ナノ粒子は、良好な粒度分布を備えた製品として得ることが困難である。仮に30nm未満の良好な粒度分布を備える製品が得られたとすれば、使用可能なものとなる。一方、一次粒子径が300nmを超える金属ナノ粒子は、ナノ粒子と称することはできても、十分な低温焼結性を得ることが困難となる。
ここで、2成分系の多成分系金属粒子スラリーに含まれる粒子の低温焼結特性の説明を分かりやすくするため、スズ粒子、銀粒子、銅粒子のそれぞれ単独の焼結特性に関して述べておく。なお、金属粒子の焼結特性は、金属粒子の溶融挙動を観測する事により行い、DSC(高温示差走査熱量計)を用いた測定結果で説明する。前記DSCの測定条件は、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/min、測定範囲は室温〜800℃であり、80℃で30分間、定温加熱を行い、その後800℃まで昇温する加熱方法を採用した。そして、焼結の度合いは、粒子の結晶性を見ることとして、X線回折測定装置で評価した。そして、粒子の状態観察には、FE−SEM(電界放射走査型電子顕微鏡)を用いた。
スズ粒子の熱特性: スズ粒子の溶融特性及び焼結特性に関して説明する。ここで、図1に、平均一次粒径が100nm程度の球状ナノ粒子のスズ粒子(以下、「試料A(スズ)」と称する。)のFE−SEM観察像を示す。このナノ粒子径を備えるスズ粒子のレーザー回折法による粒度分布測定のD50は0.3μmと大きい値になった。これは、図1のFE−SEM観察像からも分かるように粒子凝集による二次粒子の存在による影響であり、微粒化により凝集時に粒子同士の付着力が強くなっていると考えられる。しかし、この凝集状態は、ビーズミル等の媒体解砕機、ホモジナイザー等の高速攪拌機等による粒子分散処理での、粒子分散性を向上させる解砕が可能である。従って、スズナノ粒子の場合、上述の如き湿式での粒子分散処理を行い粒子分散性を高めることが好ましく、また、銅粒子又は銀粒子との均一な混合状態を得るためには好ましい。そして、粒子分散の効果は、[D50(nm)]/[一次粒子径(nm)]の値が3.0以下、より好ましくは2.0以下となるレベルまで粒子分散処理することが好ましい。以下のDSC分析に用いたナノ粒子径を持つスズ粒子も流体ミルによる粒子分散処理を施し、[D50(nm)]/[一次粒子径(nm)]の値が1.4となるように調整した。一方、図2に平均一次粒径が2μm程度の球状スズ粉(以下、「試料B(スズ)」と称する。)のFE−SEM観察像を示している。この図1から明らかなように、一次粒子径が5μm程度の粗粉や、一次粒子径が1μm以下の微粉が混在し、かなりブロードな粒度分布となっていることが理解できる。但し、FE−SEM観察像と粒度分布の測定結果から判断すると、粒子凝集は少ないと考えられる。
次に、この粒径の異なる試料A(スズ)及び試料B(スズ)のそれぞれを用い、粒径の違いによる溶融挙動への影響を確認するため、DSCによる測定を行った。その結果、試料A(スズ)及び試料B(スズ)ともに230℃付近にスズの融解に由来する吸熱ピークが見られ、粒径の違いによる差は見られなかった。なお、270℃付近に有機物の酸化による発熱ピークを確認した。この有機物の発熱ピークは、比表面積の大きなナノ粒子、特にスズの如き卑金属のナノ粒子は非常に酸化されやすいため、空気に触れないよう有機溶媒中に金属粒子を分散させたスラリーを用いたことに起因したものである。また、X線回折の結果から、試料A(スズ)及び試料B(スズ)ともにスズに固有の回折パターンが確認され、それぞれ純粋な金属スズであることが確認できた。
そして、次に粒径の違いによる焼結特性の差異を見るため、以下のような評価を行った。即ち、最初に試料A(スズ)及び試料B(スズ)のスズ粒子を用いた金属粒子スラリーを調製した。ここでは、スズ粒子を有機溶媒(ターピネオール)中に分散させたものを、スズ粒子スラリーとした。そして、このときのスラリー中のスズ含有率は、良好な塗膜形成の可能なように粒径に応じてスズ含有量を調整し、スズ粒子スラリーを100wt%としたとき、試料A(スズ)の一次粒子径が100nmのスズ粒子については68wt%、試料B(スズ)の一次粒子径が2μmのスズ粒子については87wt%とした。このスズ粒子スラリーを、スクリーン印刷によりアルミニウム基板上に印刷し、窒素雰囲気中で130℃〜300℃の範囲で焼成を行い、焼成後の塗膜の状態をFE−SEMで観察し、粒子の焼結状態を観察した。その結果、試料B(スズ)の一次粒子径が2μmの粒子を用いた場合には200℃以下では焼結が起こったとは確認できなかった。これに対し、試料A(スズ)の一次粒子径が100nmの粒子を用いた場合には、150℃以上で焼成すれば、図3に示すように、焼結による粒子成長が確認された。以上の結果から見れば、溶融挙動は粒径に依存しないものの、粒子同士の焼結挙動は粒径が小さいほど、低温で起こることが理解できる。
銀粒子の熱特性: 次に、ナノレベルの粒径を備える銀粒子に関する溶融挙動及び焼結挙動に関して述べる。これらの評価方法に関しては、上記スズ粒子の場合と同様の評価を行った。ここで用いた銀粒子の一つは、図4のFE−SEM観察像から明らかなように、球状で平均一次粒径が80nm程度のナノレベルの銀粒子(以下、「試料A(銀)」と称する。)であり、ナノレベルのスズ粒子と同様に粒子同士の凝集が進行している。その結果、粒度分布測定のD50の値は、0.2μmと大きなものとなっている。従って、ここで用いたナノ粒子径を持つ銀粒子は、上記ナノ粒子径を持つスズ粒子の場合と同様に、流体ミルによる粒子分散処理を施し、[D50(nm)]/[一次粒子径(nm)]の値が1.5となるように調整したものである。一方、対比用に、図5のFE−SEM観察像に示した平均一次粒径が4μm程度の球状粉であり、1μm〜5μm程度の粗粉までを含んで、粒子凝集は少ないものの、粒度分布がブロードな銀粒子(以下、「試料B(銀)」と称する。)を用いた。
そして、DSCによる溶融特性の評価を行ったが、その測定結果から、試料A(銀)及び試料B(銀)ともに800℃以下の範囲では、銀の融解に由来する吸熱ピークが見られず、粒径の違いによる差は見られなかった。そして、更に、溶融試験後の試料A(銀)及び試料B(銀)のX線回折の結果からは、双方の試料とも純粋な金属銀のスペクトルのみが得られた。
次に、銀粒子の粒径の違いによる焼結特性を見るため、上記スズ粒子の場合と同様に銀粒子スラリーを作製した。そして、このときのスラリー中の銀含有率は、良好な塗膜形成の可能なように粒径に応じてスズ含有量を調整し、銀粒子スラリーを100wt%としたとき、試料A(銀)の一次粒子径が80nmの銀粒子については72wt%、試料B(銀)の一次粒子径が4μmの銀粒子については91wt%とした。そして、上記スズ粒子の場合と同様にして焼結挙動の観察を行った。その結果、FE−SEMの観察結果によると、試料B(銀)の一次粒子径が4μmの粒子を用いた場合には300℃付近に焼結開始点があった。これに対し、試料A(銀)の一次粒子径が80nmの粒子を用いた場合には、150℃付近に焼結開始点が確認された。図6に焼成温度150℃での焼成膜を示す。以上の結果から見れば、溶融挙動は粒径に依存しないものの、粒子同士の焼結挙動は粒径が小さいほど、低温で起こることが理解できる。これらの挙動は、スズ粒子の場合と同様である。
銅粒子の熱特性: 次に、ナノレベルの粒径を備える銅粒子に関する溶融挙動及び焼結挙動に関して述べる。これらの評価方法に関しては、上記スズ粒子の場合と同様の評価を行った。ここで用いた銅粒子の一つは、図7のFE−SEM観察像から明らかなように、球状で平均一次粒径が50nm程度のナノレベルの銅粒子(以下、「試料A(銅)」と称する。)であり、ナノレベルのスズ粒子と同様に粒子同士の凝集が進行している。その結果、粒度分布測定のD50の値は、0.3μmと大きなものとなっている。従って、ここで用いたナノ粒子径を持つ銅粒子は、上記ナノ粒子径を持つスズ粒子の場合と同様に、流体ミルによる粒子分散処理を施し、[D50(nm)]/[一次粒子径(nm)]の値が1.4となるように調整したものである。一方、対比用に、図8のFE−SEM観察像に示した平均一次粒径が5μm程度の角張った部位のある球状粉であり、粒子凝集は少ないものの、粒度分布がブロードな銅粒子(以下、「試料B(銅)」と称する。)を用いた。
そして、DSCによる溶融特性の評価を行ったが、その測定結果から、試料A(銅)及び試料B(銅)ともに800℃以下の範囲では、銀の融解に由来する吸熱ピークが見られず、粒径の違いによる差は見られなかった。そして、更に、溶融試験後の試料A(銅)及び試料B(銅)のX線回折の結果からは、双方の試料とも純粋な金属銅のスペクトルのみが得られた。
次に、銅粒子の粒径の違いによる焼結特性を見るため、上記スズ粒子の場合と同様に銀粒子スラリーを作製した。そして、このときのスラリー中の銀含有率は、良好な塗膜形成の可能なように粒径に応じてスズ含有量を調整し、銀粒子スラリーを100wt%としたとき、試料A(銅)の一次粒子径が50nmの銀粒子については88wt%、試料B(銅)の一次粒子径が5μmの銀粒子については88wt%とした。そして、上記スズ粒子の場合と同様にして焼結挙動の観察を行った。その結果、FE−SEMの観察結果によると、試料B(銅)の一次粒子径が5μmの粒子を用いた場合には300℃でも焼結は開始しなかった。これに対し、試料A(銅)の一次粒子径が50nmの粒子を用いた場合には、150℃以上で焼結が開始することが確認された。図9に焼成温度200℃での焼成膜を示す。以上の結果から見れば、溶融挙動は粒径に依存しないものの、粒子同士の焼結挙動は粒径が小さいほど、低温で起こることが理解できる。これらの挙動は、スズ粒子の場合と同様である。
以上に述べてきたようなナノレベルの粒子径を備えるスズ粒子を必須成分として、これにナノレベルの粒子径を備える銀粒子又は銅粒子を組みあせて、2成分系の多成分系金属粒子スラリーの導電性フィラーとして用いるのである。以下、その組み合わせを考慮して2成分系の多成分系金属粒子スラリーとした場合の溶融特性及び焼結特性に関して述べる。
2成分系(スズ粒子と銀粒子)の熱特性: まず、粒径の違いによる異種金属間の合金化反応の反応性を検討するために、上述の一次粒子径が100nmの試料A(スズ)と一次粒子径が80nmの試料A(銀)とを組み合わせた場合と、一次粒子径が2μmの試料B(スズ)と一次粒子径が80nmの試料A(銀)とを組み合わせた場合の対比を行った。このとき、上述のスズ粒子スラリーと銀粒子スラリーとを混合し、スズ粒子(wt%)と銀粒子(wt%)とが1:1の割合になるように混練し、スズ粒子と銀粒子との2成分のナノ粒子を含む多成分系金属粒子スラリー(以下、単に「スズ/銀スラリー」と称する。)とした。次に、この多成分系金属粒子スラリーを、スクリーン印刷法によりアルミニウム基板上に印刷し、窒素雰囲気中150℃〜300℃の範囲で焼成を行い、焼成膜を作製した。
この結果、一次粒子径が100nmの試料A(スズ)と一次粒子径が80nmの試料A(銀)とを組み合わせた場合には、焼成膜のFE−SEM による観察結果から150℃以上であれば粒子同士が焼結して粒子成長することが確認できた。また、焼成膜のX線回折パターンの測定を行うと、150℃での焼成膜ではスズと銀との回折パターンが分離して観察された。しかし、200℃での焼成膜は、単独のスズと銀との回折パターンが僅かに観察されるものの、銀−スズ合金の回折パターンが強くなり、合金化の進行が顕著であると考えられる。更に、300℃での焼成膜は、単独のスズと銀との回折パターンは完全に消失し、銀−スズ合金の回折パターンのみが観察される。そして、次に、DSCによる溶融特性の測定を行った。焼成前のスズ/銀スラリーを用いて測定したところ、227℃にスズの溶融に由来する吸熱ピークが、484℃に銀−スズ合金に特有の吸熱ピークが確認できた。これに対し、ここで言うスズ/銀スラリーを300℃で焼成した後の焼成膜で、DSCによる測定を行った。その結果、スズに由来する吸熱ピークは消失し、484℃の銀−スズ合金に特有の吸熱ピークがより強く現れた。即ち、焼成前のスズ/銀スラリーを用いてDSC測定を行うと測定途中で合金化が進行するが、一旦300℃で焼成された焼成膜の場合には、既に合金化が進行しているため、銀−スズ合金に特有の吸熱ピークがより強く現れたのであり、焼成による合金化が良好に行われている証拠となる。
一方、一次粒子径が2μmの試料B(スズ)と一次粒子径が80nmの試料A(銀)とを組み合わせた場合には、次のような結果となる。ここでは、前述の一次粒子径が100nmのスズナノ粒子を、一次粒子径が2μmのスズ粒子に代えたのみであり、上述と同様にして、スズ粒子(wt%)と銀粒子(wt%)とが1:1の割合になるスズ粒子と銀粒子との2成分のナノ粒子を含む多成分系金属粒子スラリー(以下、単に「スズ/銀スラリー」と称する。)とした。次に、このスズ/銀スラリーを、スクリーン印刷法によりアルミニウム基板上に印刷し、窒素雰囲気中150〜300℃の範囲で焼成を行い、焼成膜を作製した。
その結果、焼成膜のX線回折を行うと、200℃での焼成膜においては銀−スズ合金に特有の回折パターンが観察されるものの、スズ独自の回折パターンも強く観察される。これは、300℃でも焼成膜でも同様であり、銀−スズ合金と独立のスズ成分とが混在していると判断できる。また、次に、DSCによる溶融特性の測定を行った。焼成前のスズ/銀スラリーを用いて測定したところ、227℃にスズの溶融に由来する吸熱ピークが、484℃に銀−スズ合金に特有の吸熱ピークが確認できた。これに対し、ここで言うスズ/銀スラリーを300℃で焼成した後の焼成膜で、DSCによる測定を行った。その結果、単独のスズに特有の吸熱ピークが確認されると同時に、484℃の銀−スズ合金に特有の吸熱ピークが現れる。このように単独のスズが、焼成後に残留していると、焼成膜の電気的抵抗が上昇し好ましくない。これらの結果から分かるのは、スズ粒子の粒径による合金化反応の違いが明瞭となる。そして、300℃以下での低温焼成領域で十分な合金化を行わせようとすると、粒径がナノレベルの粒子同士を組み合わせて用いる必要があることが理解できる。しかも、完全な合金化が起きていれば、融点の低いスズ(232℃)が焼成膜中に存在しなくなるため、低温(スズの融点232℃)では溶融せず480℃付近で初めて溶融する耐熱特性に優れた焼成膜となる。
2成分系(スズ粒子と銅粒子)の熱特性: 次に、スズナノ粒子と銅ナノ粒子とを組み合わせた多成分系スラリーを用いて、焼成膜を作製した。ここで用いた銅粒子上記図5に示した球状で平均一次粒径が50nm程度のナノレベルの銅粒子(試料A(銅))である。また、ここで用いたスズ粒子は、図1に示す平均一次粒径が100nm程度の球状ナノ粒子のスズ粒子(試料A(スズ))である。即ち、上述の一次粒子径が100nmの試料A(スズ)と一次粒子径が50nmの試料A(銅)とを組み合わせた場合の評価を行った。
このとき、上述のスズ粒子スラリーと銅粒子スラリーとを混合し、スズ粒子(wt%)と銅粒子(wt%)とが1:1の割合になるように混練し、スズ粒子と銅粒子との2成分のナノ粒子を含む多成分系金属粒子スラリー(以下、単に「スズ/銅スラリー」と称する。)とした。次に、この多成分系金属粒子スラリーを、スクリーン印刷法によりアルミニウム基板上に印刷し、窒素雰囲気中150〜300℃の範囲で焼成を行い、焼成膜を作製した。
この結果、一次粒子径が100nmの試料A(スズ)と一次粒子径が50nmの試料A(銅)とを組み合わせた場合には、焼成膜のFE−SEM による観察結果から150℃以上であれば粒子同士が焼結して粒子成長することが確認できた。ところが、X線回折の結果は、スズ/銀スラリーの場合とは異なる結果が得られた。即ち、焼成温度が150℃の場合には、スズと銅との単独の回折パターンが得られる点は、スズ/銀スラリーを用いた場合と同様である。これに対し、焼成温度が200℃の場合には、FE−SEM観察の見た目では焼成の進行が認められても、スズと銅との単独の回折パターンが僅かに観察され、銅−スズ合金であるCuSnの回折パターンが観察され始める。そして、焼成温度を300℃とすると、スズと銅との単独の回折パターンは消失し、CuSnの回折パターンが顕著となる。ここで分かるのは、スズと銅との組み合わせは、例えナノ粒子同士でも、300℃付近の焼成温度を採用しないと、相互拡散を起こしにくく、合金が出来ないと言うことである。
次に、DSC測定の結果による、溶融特性に関して説明する。この測定条件等は上述と同様である。焼成前のスズナノ粒子のDSC測定の結果は、225℃にスズの特徴的吸熱ピーク、300〜400℃に有機物の酸化によると考えられる発熱ピークが観測され、300℃で焼成するとスズに固有の吸熱ピークが消失し、発熱ピークのみとなる。このDSC測定の結果、銅−スズの組み合わせの場合も、銀−スズの組み合わせの場合と同様に、焼成後に合金化することにより溶融温度が上昇することが確認できた。また、銀−スズの組み合わせの場合の200℃での焼成膜は、銀−スズ合金の回折パターンが強く確認されるのに対し、銅−スズの組み合わせの場合の200℃での焼成膜は銅−スズ合金の回折パターンは非常に弱くなる。このことは、銅−スズの組み合わせの場合には、銀−スズの組み合わせの場合と比べ、合金化するためにはより高温の加熱が必要となることを裏付けている。これは、銅ナノ粒子表面が、銀ナノ粒子表面より酸化されやすいため、銅ナノ粒子表面の酸化が原因で、合金化温度が上昇したと考えられる。
以上に述べてきたような実験及び研究を通して、本件発明者等は、一次粒子径が300nmを超える金属ナノ粒子を組み合わせて用いることで、焼成温度300℃以下、より好ましくは200℃以下での、スズ粒子と銅粒子又は銀粒子との合金化可能な焼結が可能と結論づけたのである。従って、300nmを超えるナノ粒子同士を組み合わせて、焼結させようとしても、焼成温度に300℃を超える温度が必要となり好ましくない。特に、半田粉の代替え材料として使用する場合には、200℃前後での溶融及び合金化を伴う焼結が求められ、好ましくない。
2成分系の多成分系金属粒子スラリー中の金属粒子の含有状況: 本件発明に係る2成分系の多成分系金属粒子スラリーにおいて、前記金属粒子は、多成分系金属粒子スラリーとしての体積を100vol%としたとき、20vol%〜70vol%であることが好ましい。ここで、総金属粒子とは、スズ粒子と銅粒子又は銀粒子との合計を意味することを明記しておく。そして、多成分系金属粒子スラリーとは、溶媒に金属ナノ粒子を分散させたものであり、その多成分系金属粒子スラリーの用途に応じて、総金属粒子量が決められる。例えば、導電性インクとして用いる場合には15vol%〜25vol%、導電性ペーストとして用いる場合には80vol%〜92vol%、そして、導電膜を形成する手法であるスクリーン印刷法、グラビア印刷法等の種々の方法及び設備特性に会わせて、適宜有機溶媒を添加して等の調整を受ける。従って、この多成分系金属粒子スラリーを導電性インク及び導電性ペーストを調製するための基礎材料として考えれば、18vol%〜97vol%の金属粒子スラリーとして供給することが好ましい。しかし、金属粒子スラリーとして、金属粒子を高濃度で含有する場合には、スラリー中で粒子の再凝集が起こる場合もあり、常に粒子分散性を安定して保ちたい場合には、18vol%〜50vol%、更には18vol%〜35vol%程度とすることが品質の長期安定性確保の観点から好ましい。
そして、本件発明に係る2成分系の多成分系金属粒子スラリーにおいて、前記スズ粒子と銅粒子又は銀粒子との総重量を100wt%としたとき、スズ粒子と銅粒子又は銀粒子との重量含有比が、[スズ粒子(wt%)]/[銅粒子又は銀粒子(wt%)]=0.2〜0.8である事が好ましい。[スズ粒子(wt%)]/[銅粒子又は銀粒子(wt%)]の値が0.2未満で、スズ粒子の存在量が少なくなりすぎると、焼成膜の低温焼結性が得られなくなるため好ましくない。一方、[スズ粒子(wt%)]/[銅粒子又は銀粒子(wt%)]の値が0.8を超えると、銅粒子又は銀粒子の存在量に対してスズ粒子の存在量が多くなり、焼結による十分な合金化が起こっても、合金化しないスズ成分が単独で残留し、焼結後の溶融温度が低くなり好ましくない。なお、[スズ粒子(wt%)]/[銅粒子又は銀粒子(wt%)]の値が0.3、より好ましくは0.4を超えると半田ペースト等の代替え材としての使用に好ましく、[スズ粒子(wt%)]/[銅粒子又は銀粒子(wt%)]の値が0.3未満の場合には電気的抵抗を特段問題としない導電体の低温焼結加工用途に好適である。
2成分系の多成分系金属粒子スラリー中の溶媒: 本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーで用いる金属ナノ粒子は、濾別、洗浄、脱水、乾燥して採取することも可能である。しかし、極めて微粒で、余分な粒子表面の酸化を防止するためスラリー状態で保存することが好ましい。スラリー状態で保存する場合には、特に限定はないが、以下のような溶媒を用いることが好ましい。ここで用いる前記溶媒は、多成分系金属粒子スラリーの重量を100wt%としたとき、カルボキシル基を有する化合物を1wt%〜30wt%含有したものであることが好ましい。ここで言う溶媒は、事後的に導電性ペーストや導電性インクへの加工の容易なターピネオール、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ブチルカルビトール、エチレングリコール等の有機溶媒の一種又はこれらを組み合わせて主剤として用いることが好ましい。そして、ここにカルボキシル基を有する化合物を1wt%〜30wt%含有させるのである。このカルボキシル基を有する化合物は、当該スラリー中にある金属粒子の表面に付着して表面処理剤と同様に機能するが、焼成膜を形成するときの低温焼結性能をより高めるための助剤として機能する。このカルボキシル基を有する化合物を本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーに予め含ませておけば、これを溶媒置換する等して導電性ペーストや導電性インクへの加工が行われても、金属ナノ粒子表面への当該カルボキシル基を有する化合物の付着が起こっており、低温焼結性能を効果的に高めるのである。カルボキシル基を有する化合物の含有量が、多成分系金属粒子スラリーの重量を100wt%としたとき1wt%未満の場合には、焼成膜を形成するときの低温焼結性能をより高めるための助剤として機能し得ない。一方、カルボキシル基を有する化合物の含有量が、多成分系金属粒子スラリーの重量を100wt%としたとき30wt%を超えるものとしても、それ以上に前記低温焼結性能を向上させ得ず、むしろ焼成膜中の有機物残留量(炭素量として事後的に溶解させ分析可能)が増加し、電気的抵抗の上昇を招くため好ましくない。
また、前記溶媒中に、樹脂成分としてエチルセルロース、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を添加することが、低温焼結性能をより向上させる観点から好ましい。これらの樹脂の添加量としては、多成分系金属粒子スラリー中の金属粒子重量を100wt%としたとき、1wt%〜15wt%の範囲で含有させることが好ましい。これら樹脂成分の含有量が前記1wt%未満の場合には、低温焼結性を向上させる効果を得ることは出来ない。一方、これら樹脂成分の含有量が前記15wt%を超えるものとすると、多成分系金属粒子スラリーの増粘化が起こり取扱が困難な傾向が出ると同時に、焼成膜の内部に不純物としての炭素成分が残留しやすくなり導体抵抗を上昇させるため、好ましくない。
そして、前記カルボキシル基を有する化合物は、特に、カルボン酸類であり、且つ、分子量が200以上のものを用いる事が好ましい。この分子量200未満のカルボン酸は、前記低温焼結特性の向上効果が少ないが、分子量が200以上のカルボン酸類は顕著に低温焼結特性を向上させることができる。この分子量200以上のカルボン酸を具体的に言えば、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸等である。
ここで、低温焼結特性の変化を評価するのに、FE−SEM観察像とX線回折により算出される結晶子径とを用いて判断した。ここで言うカルボキシル基を有する化合物(以下、図面を用いた説明では「カルボン酸類」と言う。)を多成分系金属粒子スラリーに含ませると、低温焼結性が顕著に向上する効果をFE−SEM観察像で説明する。図10には、カルボン酸類を含ませていない金属粒子スラリー(試料A(スズ))を用いて、窒素雰囲気、焼成温度200℃で得た焼成膜の30000倍の観察像を示す。そして、図11には、カルボン酸類を含ませた同様の金属粒子スラリー(カルボン酸類の含有量8wt%)を用いて、同様の条件で得た焼成膜の30000倍の観察像を示す。そして、焼成膜の結晶子径を測定した。最初に、カルボン酸類を含ませなかった場合の焼結膜の結晶子径は435Åであった。一方、カルボン酸類としてステアリン酸を用いた場合の焼成膜の結晶子径は775Å、オレイン酸の場合の結晶子径は592Å、アクリル酸の場合の結晶子径は576Åであった。この結果から分かるように、分子量200以上のカルボン酸を用いれば、焼結特性が向上し、粒子同士の拡散又は溶融結合が容易に起こり、結晶子径の大きな粒子が生成すると言える。これに対し、分子量が200未満のデカン酸を用いた場合の結晶子径は418Åと、カルボン酸類を添加しなかった場合よりも劣る焼結性能となる事が分かる。即ち、分子量が200未満のカルボン酸類は、粒子同士の焼結を阻害するように働くのである。
次に、2成分系における低温焼結特性に与えるカルボン酸類の影響を確認するため、上述と同様にFE−SEM観察像を用いて判断した。ここで言うカルボン酸類を多成分系金属粒子スラリーに含ませると、単独の金属ナノ粒子の場合以上に、顕著に低温焼結性が向上する効果をFE−SEM観察像で説明する。図12には、カルボン酸類を含ませていないスズ/銀粒子スラリー(試料A(スズ)と試料A(銀)とを用いて、[スズナノ粒子(wt%)]/[銀ナノ粒子(wt%)]=1とした混合スラリー)を用いて、窒素雰囲気、焼成温度200℃で得た焼成膜の焼成状態を最も捉えやすい部位の100000倍の観察像を示す。そして、図13には、カルボン酸類としてステアリン酸、樹脂成分としてエチルセルロースを含ませた同様の金属粒子スラリー(ステアリン酸の含有量8wt%、エチルセルロースの含有量5wt%)を用いて、同様の条件で得た焼成膜の焼成状態を最も捉えやすい部位の30000倍の観察像を示す。図12から分かるように、焼結が進行していても、拡大してみると焼結して連結した粒子同士の存在が明瞭に確認できる。これに対し、図13では、図12より低倍率で観察しているが、焼結して連結した粒子同士の観察できる部位は少なくなり、完全に溶融して合金化が起こりフラットになった領域が観察される。従って、結晶子径の違いを見るまでもなく、カルボン酸類としてステアリン酸を含ませたスズ/銀金属粒子スラリーの方が容易に焼結することが理解できる。この結果に関しては、後述する3成分系の多成分系金属粒子スラリーにおいても同様である。
[本件発明に係る3成分系の多成分系金属粒子スラリー形態]
本件発明に係る3成分系の多成分系金属粒子スラリーは、溶媒にナノ粒子径サイズの成分の異なる金属粒子を含んだ多成分系金属粒子スラリーであって、前記金属粒子は、一次粒子径が30nm〜300nmのスズ粒子と、一次粒子径が30nm〜300nmの銅粒子と、一次粒子径が30nm〜300nmの銀粒子とを含む3成分金属粒子であることを特徴とする。即ち、3種のナノ粒子を含むスラリーである。
3成分系(スズ粒子、銀粒子、銅粒子)の熱特性: ここでは、スズ(試料A(スズ))、銀(試料A(銀))、銅(試料A(銅))の各ナノ粒子スラリーを、重量比1:1:1で混練することによりスズ/銀/銅多成分系スラリーを調製した。そして、上述と同様にスクリーン印刷後、窒素雰囲気中で150〜300℃の範囲で焼成を行い焼成膜を得た。
上記焼成膜のFE−SEM観察像から判断するに、150℃以上で焼成することによりナノ粒子同士が連結し粒子成長することが確認された。また、X線回折の結果からは、焼成温度が200℃の場合には、スズ、銀、銅それぞれの単独回折パターンに加え、わずかにCuSnの回折パターンが確認できた。そして、焼成温度が300℃の場合には、スズ、銅それぞれの単独回折パターンは消失するが、CuSnの回折パターンと銀の単独回折パターンが強く確認できる。
以上の結果を考えるに、単に2成分系で確認できた挙動を根拠とした3成分系の反応挙動とは異なると言える。即ち、2成分系では、銅−スズの組み合わせの場合と、銀−スズの組み合わせの場合とを比べると、合金化を起こさせるためには、前者の銅−スズの組み合わせの方が、より高温の加熱が必要となると考えられた。しかし、スズ−銀−銅の組み合わせの3成分系の場合には、銀とスズとの合金化反応に比べ、銅とスズとの合金化反応が優先して起こりCuSnが早期に生成する。現段階で、この現象の明確なメカニズムは特定できていないが、3成分系の混合ナノ粒子組成を採用することで、単独のナノ粒子又は2成分系のナノ粒子では起こりえない焼結特性が得られることを予見させる。
ここでも、スズ粒子と銅粒子と銀粒子の各一次粒子径は、30nm〜300nmの範囲のナノ粒子を用いることが好ましい。以下、念のためにその上限下限の意味合いを記載するが、実質的には上述と同様である。一次粒子径が30nm未満の金属ナノ粒子は、良好な粒度分布を備えた製品として得ることが困難である。仮に30nm未満の良好な粒度分布を備える製品が得られたとすれば、使用可能なものとなる。一方、一次粒子径が300nmを超える金属ナノ粒子は、ナノ粒子と称することはできても、十分な低温焼結性を得ることが困難となる。即ち、以上に述べてきたような実験及び研究を通して、本件発明者等は、一次粒子径が300nmを超える金属ナノ粒子を組み合わせて用いることで、焼成温度300℃以下、より好ましくは200℃以下での、金属粒子間の合金化が可能な焼結ができると結論づけたのである。従って、300nmを超えるナノ粒子同士を組み合わせて、焼結させようとしても、焼成温度に300℃を超える温度が必ず必要となるため好ましくない。特に、半田粉の代替え材料として使用する場合には、200℃前後での溶融及び合金化を伴う焼結が求められるからである。
3成分系の多成分系金属粒子スラリー中の金属粒子の含有状況: 本件発明に係る3成分系の多成分系金属粒子スラリーにおいて、前記金属粒子は、多成分系金属粒子スラリーとしての体積を100vol%としたとき、スズ粒子と銅粒子と銀粒子の総金属粒子量が20vol%〜70vol%であることが好ましい。そして、その多成分系金属粒子スラリーの用途に応じて、総金属粒子量が決められる。なお、導電性インク、導電性ペーストとして用いる場合の考え方は、上述のとおりであり、より好ましい範囲も上述のとおりであるため、ここでの重複した説明は省略する。
本件発明に係る3成分系の多成分系金属粒子スラリーにおいて、前記スズ粒子と銅粒子と銀粒子の総重量を100wt%としたとき、スズ粒子と銅粒子と銀粒子の重量含有比は、スズ粒子のwt%の値を1としたとき、[スズ粒子(wt%)]:[銅粒子(wt%)]:[銀粒子(wt%)]=1:0.05〜0.30:0.10〜0.50であることが好ましい。この重量含有比のバランスが保たれる限り、相互の金属ナノ粒子同士の加熱による相互拡散が良好に行え、強度及び耐熱性的にも良好な焼結膜を得ることが出来るのである。即ち、この重量含有比の中で、スズ粒子に起因したスズの量が、銅粒子及び銀粒子に対して少なくなると焼成膜の低温焼結性が得られなくなる。一方、スズ粒子に起因したスズの量が、銅粒子及び銀粒子に対して多くなると、銅粒子及び銀粒子の存在量に対してスズ粒子の存在量が少なくなり、焼結による十分な合金化を起こさせても、合金化しないスズ成分が単独で残留し、焼結後の溶融温度が低くなり好ましくない。なお、銀粒子と銅粒子の重量含有比として考えた場合、銅と銀とは広く固溶する領域を備えているため、特段の限定はない。最終的に得られる焼成膜の用途に応じて、焼成膜の電気抵抗、焼成膜の強度等を考慮して、任意に重量含有比を定めることが可能である。
以上のことから分かるように、銀粒子と銅粒子とを併せて「混合第2成分粒子」として捉えると、2成分系の場合と同様に、[スズ粒子(wt%)]/[混合第2成分粒子(wt%)]=0.2〜0.8とする事が好ましい。[スズ粒子(wt%)]/[混合第2成分粒子(wt%)]の値が0.2未満で、スズ粒子の存在量が少なくなりすぎると、焼成膜の低温焼結性が得られなくなる。一方、[スズ粒子(wt%)]/[混合第2成分粒子(wt%)]の値が0.8を超えると、混合第2成分の存在量に対してスズ粒子の存在量が多くなり、焼結による十分な合金化が起こっても、合金化しないスズ成分が単独で残留し、焼結後の溶融温度が低くなり好ましくない。なお、[スズ粒子(wt%)]/[混合第2成分粒子(wt%)]の値が0.3、より好ましくは0.4を超えると半田ペースト等の代替え材としての使用に好ましく、[スズ粒子(wt%)]/[混合第2成分粒子(wt%)]の値が0.3未満の場合には電気的抵抗を特段問題としない導電体の低温焼結加工用途に好適である。
3成分系の多成分系金属粒子スラリー中の溶媒: 本件発明に係る3成分系の多成分系金属粒子スラリーに用いる前記溶媒は、多成分系金属粒子スラリーの重量を100wt%としたとき、上述と同様にカルボキシル基を有する化合物を1wt%〜30wt%含有したものであることが好ましい。そして、前記カルボキシル基を有する化合物は、カルボン酸類であり、且つ、分子量が200以上のものを用いる事が好ましい。これらに関しては、上述したと同様であるため、ここでの説明は省略する。
本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーは、スズナノ粒子、銀ナノ粒子、銅ナノ粒子を組み合わせて用いたもので、焼成温度300℃以下で合金化した焼成膜の形成に好適である。従って、そのスズナノ粒子の含有量を適性に調整すれば、半田代替え材料として200℃前後での焼結又は溶融可能な導電性ペースト又は導電性インクを調製するための基礎材料として好適なものとなる。特に、当該多成分系金属粒子スラリーは、その中に低温焼結性を向上させるためのカルボキシル基を有する化合物を含ませると、一般的な低温半田材料に比べ、更に低温領域での焼成、溶融が可能であり、プリント配線板の回路配線、表面実装の分野での応用が期待できる。
また、本件発明に係る多成分系金属粒子スラリーは、その構成溶媒を容易に他の成分の溶媒に置換することが可能であり、必要な組成の導電性インク又は導電性ペーストを調製する事が容易で、種々の組成の製品製造に好適である。
スズナノ粒子のFE−SEM観察像である。 スズ粒子のFE−SEM観察像である。 スズナノ粒子で構成した焼成膜(焼成温度150℃)のFE−SEM観察像である。 銀ナノ粒子のFE−SEM観察像である。 銀粒子のFE−SEM観察像である。 銀ナノ粒子で構成した焼成膜(焼成温度150℃)のFE−SEM観察像である。 銅ナノ粒子のFE−SEM観察像である。 銅粒子のFE−SEM観察像である。 銅ナノ粒子で構成した焼成膜(焼成温度200℃)のFE−SEM観察像である。 カルボン酸類を含ませていないスズナノ粒子スラリーを用いて、窒素雰囲気、焼成温度200℃で得た焼成膜の30000倍の観察像である。 カルボン酸類を含ませた同様のスズナノ粒子スラリーを用いて、窒素雰囲気、焼成温度200℃で得た焼成膜の30000倍の観察像である。 カルボン酸類を含ませていないスズ/銀粒子スラリーを用いて、窒素雰囲気、焼成温度200℃、で得た焼成膜の焼成状態の典型的部位の30000倍の観察像である。 カルボン酸類としてステアリン酸等を含ませたスズ/銀粒子スラリーを用いて、窒素雰囲気、焼成温度200℃で得た焼成膜の焼成状態の典型的部位の30000倍の観察像である。

Claims (8)

  1. 溶媒にナノ粒子径サイズの成分の異なる金属粒子を含んだ多成分系金属粒子スラリーであって、
    前記金属粒子は、一次粒子径が30nm〜300nmのスズ粒子と、
    一次粒子径が30nm〜300nmの銅粒子及び銀粒子のいずれか一種又は二種を含む多成分系金属粒子スラリー。
  2. 前記金属粒子は、多成分系金属粒子スラリーとしての体積を100vol%としたとき、総金属粒子を20vol%〜70vol%含有した請求項1に記載の多成分系金属粒子スラリー。
  3. 前記金属粒子がスズ粒子と銅粒子又は銀粒子とからなる場合において、
    その金属粒子の総重量を100wt%としたとき、スズ粒子と銅粒子又は銀粒子との重量含有比が、[スズ粒子(wt%)]/[銅粒子又は銀粒子(wt%)]=0.2〜0.8である請求項1又は請求項2に記載の多成分系金属粒子スラリー。
  4. 前記金属粒子がスズ粒子と銅粒子と銀粒子とからなる場合において、
    その金属粒子の総重量を100wt%としたとき、スズ粒子と銅粒子と銀粒子との重量含有比は、スズ粒子のwt%の値を1としたとき、[スズ粒子(wt%)]:[銅粒子(wt%)]:[銀粒子(wt%)]=1:0.05〜0.30:0.10〜0.50である請求項1又は請求項2に記載の多成分系金属粒子スラリー。
  5. 前記溶媒は、多成分系金属粒子スラリーの重量を100wt%としたとき、カルボキシル基を有する化合物を1wt%〜30wt%含有した請求項1〜請求項4のいずれかに記載の多成分系金属粒子スラリー。
  6. 前記カルボキシル基を有する化合物は、カルボン酸類であり、且つ、分子量が200以上のものを用いる請求項5に記載の多成分系金属粒子スラリー。
  7. 請求項1〜請求項6のいずれかに記載の多成分系金属粒子スラリーを用いて得られる導電性インク。
  8. 請求項1〜請求項6のいずれかに記載の多成分系金属粒子スラリーを用いて得られる導電性ペースト。
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