JP2007191041A - タイヤ前後力推定装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】車輪の慣性モーメントの実際値が変化した場合であってもタイヤ前後力に対応する値を精度良く推定すること。
【解決手段】このタイヤ前後力推定装置は、車輪の回転運動方程式に基づく式「Tfxc=T+α・Ic・dω/dt」を利用してタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcを計算する。Tはホイールトルク、dω/dtは車輪の角加速度であり、これらはセンサ出力を利用して得られる。Icは車輪の諸元等から既知である車輪の慣性モーメント計算値である。αは慣性モーメント計算値Icを慣性モーメントの実際値に一致させるための補正係数である。αは、「dω/dtが「0」以外から「0」になる時点(時刻t2を参照)にてタイヤ前後力相当トルクの実際値Tfxの時間微分値が「0」となる」という関係を利用して、「α=m/(m−n)」なる式から求められる(m:同時点でのTの時間微分値、n:同時点でのTfxcの時間微分値)。
【選択図】 図3

Description

本発明は、車輪の制動力、及び/又は駆動力を制御して車両の運動を制御する(車両の挙動を安定化させる)車両の運動制御装置に適用されるタイヤ前後力推定装置に関する。
従来より、アンチスキッド制御システム、トラクション制御システム、車両挙動制御システム等、車輪の制動力、及び/又は駆動力を制御して車両の運動を制御する車両の運動制御装置が広く知られている。係る制御では、タイヤが路面から受ける同タイヤの回転方向の力(本出願では、「タイヤ前後力」と称呼する。)が利用され得る。従って、係る制御を精度良く達成するためには、タイヤ前後力を精度良く取得する必要がある。
タイヤ前後力を取得する手法の一つとして、タイヤに対応する車軸に装着された歪ゲージ等のセンサによりタイヤ前後力を物理的に直接検出する手法が広く知られている(例えば、下記特許文献1を参照)。しかしながら、このようなタイヤ前後力を直接検出するセンサは一般に高価であり、装置の製造コストが高くなるという問題がある。
以上より、タイヤ前後力を直接検出するセンサを用いることなくタイヤ前後力を推定する要求がある。この要求に対処するため、例えば、下記特許文献2では、車輪の角加速度と、車輪に接続された車軸に発生するトルク(本出願では、「ホイールトルク」と称呼する。)と、車輪の慣性モーメントと、車輪の回転運動方程式とを利用してタイヤ前後力を計算により推定する技術が開示されている。
ここで、上記タイヤ前後力の計算に使用される車輪の角加速度は、例えば、周知の車輪の角速度センサにより得られる車輪の角速度を時間微分すること等により精度良く逐次取得され得る。また、上記タイヤ前後力の計算に使用されるホイールトルクも、例えば、車軸のトルクを直接検出するセンサを用いること、或いはホイールシリンダ内の制動液圧に所定の比例係数を乗じること等により精度良く逐次取得され得る。
一方、上記タイヤ前後力の計算に使用される車輪の慣性モーメントは、予め入力された値(設計値、固定値)が使用される。しかしながら、車輪の慣性モーメントの実際値は、タイヤ交換に伴うタイヤサイズの変更、タイヤの磨耗、ホイールの変更等により変化し得る。
従って、上記タイヤ前後力の計算に使用される車輪の慣性モーメント(に係わる定数)が対応する実際値と一致しなくなる場合が発生し得る。この結果、タイヤ前後力が精度良く推定されない場合が発生し得るという問題がある。
特開平3−220056号公報 特開昭63−25169号公報
従って、本発明の目的は、タイヤ前後力を直接検出するセンサを用いることなく、タイヤ前後力の計算に使用される車輪の慣性モーメントに係わる定数に対応する実際値が変化した場合であってもタイヤ前後力を精度良く推定できるタイヤ前後力推定装置を提供することにある。
本発明に係るタイヤ前後力推定装置は、車両の車輪の角加速度を取得する角加速度取得手段と、前記ホイールトルクに対応する値をホイールトルク対応値として取得するホイールトルク取得手段とを備えた車両の運動制御装置に適用される。
ここで、前記角加速度は、例えば、周知の車輪の角速度センサにより得られる車輪の角速度を時間微分すること等により取得され得る。前記ホイールトルク対応値としては、例えば、ホイールトルクそのもの、ホイールシリンダ内の制動液圧等が挙げられる。ホイールトルクは、例えば、周知のトルクセンサにより車軸のトルクを検出すること、或いは周知の圧力センサにより検出されたホイールシリンダ内の制動液圧に所定の比例係数を乗じること等により取得され得る。また、ホイールシリンダ内の制動液圧は、周知の圧力センサにより検出すること等により取得され得る。
本発明に係るタイヤ前後力推定装置は、前記取得された車輪の角加速度と、前記取得されたホイールトルク対応値と、前記車輪の慣性モーメントに係わる定数とに基づいて、前記タイヤ前後力に対応する値をタイヤ前後力対応値として推定するタイヤ前後力推定手段を備えている。
具体的には、前記タイヤ前後力推定手段は、前記取得された車輪の角加速度と、前記取得されたホイールトルク対応値と、前記車輪の慣性モーメントに係わる定数と、を車輪の回転運動方程式に適用することで前記タイヤ前後力対応値を推定するように構成される。
ここで、「前記ホイールトルク対応値、及び前記タイヤ前後力対応値」の組み合わせとしては、例えば、「前記ホイールトルクそのもの、及び前記タイヤ前後力に前記タイヤの半径を乗じて得られるタイヤ前後力相当トルク」が使用され、或いは、「前記車輪に対応するホイールシリンダ内の制動液圧、及び前記タイヤ前後力に前記タイヤの半径を乗じた値(即ち、上記タイヤ前後力相当トルク)を制動液圧を制動トルクに変換するための比例係数で除して得られるタイヤ前後力相当液圧」が使用される。
本発明に係るタイヤ前後力推定装置の特徴は、前記タイヤ前後力推定手段が、「前記取得された車輪の角加速度がゼロ以外からゼロになった時点において前記タイヤ前後力の時間微分値がゼロになる」という関係(以下、「角加速度−タイヤ前後力間の特定関係」と称呼する。)を利用して前記タイヤ前後力対応値を補正するタイヤ前後力補正手段を備えたことにある。以下、車輪の角加速度がゼロ以外からゼロになった時点を、「角加速度ゼロ時点」と称呼することもある。
本発明者は、上記「角加速度−タイヤ前後力間の特定関係」を利用することで、タイヤサイズの変更等によりタイヤ前後力の計算に使用される「車輪の慣性モーメントに係わる定数」に対応する実際値が変化した場合であっても、その「車輪の慣性モーメントに係わる定数」を同対応する実際値と一致するように補正できることを見出した。この結果、「車輪の慣性モーメントに係わる定数」に対応する実際値が変化してもタイヤ前後力を精度良く推定できる。
より具体的には、前記タイヤ前後力補正手段は、前記ホイールトルク対応値の時間微分値を取得するホイールトルク時間微分値取得手段と、前記タイヤ前後力対応値の時間微分値を取得するタイヤ前後力時間微分値取得手段とを備え、前記角加速度ゼロ時点における前記ホイールトルク対応値の時間微分値と、前記角加速度ゼロ時点における前記タイヤ前後力対応値の時間微分値と、上記「角加速度−タイヤ前後力間の特定関係」とに基づいて前記慣性モーメントに係わる定数を補正することで前記タイヤ前後力対応値を補正するように構成される。係る構成、並びに、上記「角加速度−タイヤ前後力間の特定関係」については、後に「実施形態」の欄にて詳述する。
これによれば、「車輪の慣性モーメントに係わる定数」に対応する実際値が変化した場合であっても、例えば、その「車輪の慣性モーメントに係わる定数」を同対応する実際値と一致するように補正するための補正値(例えば、補正係数等)を取得することができる。従って、係る補正値を用いて補正した後の「車輪の慣性モーメントに係わる定数」を上記車輪の回転運動方程式に適用することで、「車輪の慣性モーメントに係わる定数」に対応する実際値が変化してもタイヤ前後力を精度良く推定していくことができる。
以下、本発明によるタイヤ前後力推定装置を含んだ車両の運動制御装置の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る運動制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。
(第1実施形態)
この運動制御装置10は、各車輪に制動液圧によるブレーキトルク(ホイールトルク)を発生させるためのブレーキ液圧制御装置30と、各種センサから構成されるセンサ部40と、電子制御装置50とを含んで構成されている。
ブレーキ液圧制御装置30は、モータ、モータにより駆動される液圧ポンプ、及び複数の電磁弁等からなる周知のハイドロリックユニットを含んで構成されている。ブレーキ液圧制御装置30は、通常、ブレーキペダルBPの操作力に応じた制動液圧を車輪**のホイールシリンダW**に供給するようになっている。一方、電子制御装置50からの指示により上記モータ(従って、上記液圧ポンプ)、及び上記複数の電磁弁等が駆動されることで、ブレーキ液圧制御装置30は、ブレーキペダルBPの操作力とは無関係に、且つ車輪毎に別個独立してホイールシリンダ内の制動液圧(ホイールシリンダ液圧)を自由に調整できるようになっている。
なお、上記「**」は、車輪を識別するための「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、上記「ホイールシリンダW**」は、左前輪のホイールシリンダWfl,
右前輪のホイールシリンダWfr, 左後輪のホイールシリンダWrl, 右後輪の車輪速度Wrrを包括的に示している。以下、他の各種変数・フラグ・符号等の末尾に付された「**」についても同様である。
再び図1を参照すると、センサ部40は、車輪**の角速度に応じた周波数を有する信号をそれぞれ出力する電磁ピックアップ式の車輪角速度センサ41**と、車輪**に接続された車軸**の内部の所定位置に埋設されていて車軸**に発生するトルクをホイールトルクとしてそれぞれ検出しホイールトルクT**(ホイールトルク対応値)を示す信号をそれぞれ出力するホイールトルクセンサ42**と、運転者によるブレーキペダルBPの踏力を検出しブレーキペダル踏力Fpを示す信号を出力する踏力センサ43と、車輪**のホイールシリンダW**内の制動液圧をそれぞれ検出しホイールシリンダ液圧Pw**を示す信号をそれぞれ出力するホイールシリンダ液圧センサ44**とから構成されている。
電子制御装置50は、互いにバスで接続されたCPU51、CPU51が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM52、CPU51が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM53、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM54、及びADコンバータを含むインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース55は、前記センサ41〜44、及び図示しない他の複数のセンサ(ヨーレイトセンサ等)と接続され、センサ41〜44、及び図示しない他の複数のセンサからの信号をCPU51に供給するとともに、同CPU51の指示に応じてブレーキ液圧制御装置30の上記複数の電磁弁及び上記モータに駆動信号を送出するようになっている。
これにより、CPU51は、前記センサ41〜44、及び図示しない他の複数のセンサからの信号に加えて、後述するように車輪毎に個別に推定されるタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**(タイヤ前後力対応値)にも基づいて、周知の、アンチスキッド制御、トラクション制御、車両挙動制御、自動車間距離制御、自動ブレーキ制御等の各種制御を達成できるようになっている。係る制御については周知であるのでこれらの詳細な説明を省略する。
(タイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcの取得・補正方法の概要)
次に、上述のように構成された本発明によるタイヤ前後力推定装置を含んだ車両の運動制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)によるタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc(タイヤ前後力対応値)の取得・補正方法の概要について説明する。ここで、タイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcとは、タイヤ前後力Fxにタイヤの半径Rを乗じて得られるタイヤ前後力Fxに相当するトルク(=Fx・R、タイヤ前後力相当トルクTfx)の推定値である。
先ず、図2を参照しながら、制動中の或る車輪(タイヤ+ホイール)に働くトルクについて説明する。図2は、半径Rのタイヤを備えた車輪が反時計回りに角速度ωで回転しながら紙面左方向に進行している場合において車輪にホイールシリンダ液圧によるブレーキトルクを働かせたときの同車輪に働くトルク(及び力)を示した図である。ここにおいて、車輪の車輪速度はR・ωとなる。この車輪速度は車輪のスリップ率が「0」のとき車輪の進行速度と等しくなる。
図2に示したように、この場合、車輪には、同車輪を減速させる方向(時計回り)に働くブレーキトルク(従って、ホイールトルクT)と、ホイールトルクTに応じて発生する紙面右方向に働くタイヤ前後力Fxに基づく同車輪を加速させる方向(反時計回り)に働くトルクFx・R(即ち、上記タイヤ前後力相当トルクTfx)とが作用する。従って、この車輪の回転運動方程式は、下記(1)式にて表すことができる。
I・dω/dt=Tfx−T ・・・(1)
(1)式において、dω/dtは車輪の角加速度であり、車輪角速度センサ41から得られる車輪の角速度ωを時間微分することで精度良く逐次取得できる。ホイールトルクTは、ホイールトルクセンサ42により精度良く逐次取得できる。Iは車輪(タイヤ+ホイール)の慣性モーメントである。慣性モーメントIとしては、実際に使用される車輪の諸元等から既知である値Ic(設計値、固定値、以下、「慣性モーメント計算値Ic」と称呼する。)が使用される。
以上より、上記(1)式においてIをIcに置き換えTfxをTfxcに置き換えた式をTfxcについて解いた下記(2)式に従って、タイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcを逐次取得していくことができる。
Tfxc=T+Ic・dω/dt ・・・(2)
ところで、慣性モーメントの実際値(以下、「慣性モーメント実際値I」と称呼する。)は、タイヤ交換に伴うタイヤサイズの変更、タイヤの磨耗、ホイールの変更等により変化し得る。従って、タイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcの計算に使用される上記慣性モーメント計算値Icが慣性モーメント実際値Iと一致しなくなる場合が発生し得、この結果、タイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcが精度良く推定されない場合が発生し得るという問題がある。
そこで、本装置は、以下のように、慣性モーメント計算値Icを慣性モーメント実際値Iと一致するように補正するための補正係数αを計算する。以下、この補正係数αの計算方法について図3を参照しながら説明する。
図3は、時刻t1以前から運転者がブレーキペダルBPの操作力を増大していくことにより時刻t1以降にてアンチスキッド制御が開始・実行されている場合における、或る車輪についての、ホイールトルクT(=ブレーキトルク)、上記(2)式に従って計算されるタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc、タイヤ前後力相当トルクの実際値(以下、「タイヤ前後力相当トルク実際値Tfx」と称呼する。)、角速度ω、スリップ率S、角加速度dω/dtの変化の一例を示したタイムチャートである。
ここで、スリップ率Sは、車両の車体速度をタイヤの半径Rで除した値を車体速度相当角速度ωsoと呼ぶものとすると、下記(3)式にて表される値である。
S=(ωso−ω)/ωso ・・・(3)
また、図3に示した例では、慣性モーメント計算値Icが慣性モーメント実際値Iからずれていて、この結果、タイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcがタイヤ前後力相当トルク実際値Tfxからずれた値に計算されている場合が示されている。なお、図3において、Fxはタイヤ前後力相当トルク実際値Tfxをタイヤの半径Rで除した値(タイヤ前後力実際値)であり、Fxcはタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcをタイヤの半径Rで除した値(タイヤ前後力推定値)である。
図3に示すように、この例では、車輪の角速度ωは、アンチスキッド制御が開始された時刻t1以降も時刻t2まで減少し、時刻t2以降にて増大している。これに伴い、スリップ率Sは、時刻t2まで増大し、時刻t2以降にて減少している。換言すれば、時刻t2は、ロック傾向にあった車輪が復帰傾向に転じる時刻である。また、車輪の角加速度dω/dtは、時刻t1以前から時刻t2まで負の値に維持され、時刻t2にて「0」となり、時刻t2以降にて正の値となっている。即ち、時刻t2は、上述した「角加速度ゼロ時点」に相当している。
なお、時刻t2では、車輪の角加速度dω/dt=0となっているから、上記(1)式、(2)から容易に理解できるように、時刻t2において、タイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc、タイヤ前後力相当トルク実際値Tfx、及びホイールトルクTは一致する(点Aを参照)。
ところで、タイヤ前後力実際値Fxは、路面摩擦係数にタイヤに作用する垂直荷重を乗じた値に等しい。従って、タイヤに作用する垂直荷重を一定と仮定すると、タイヤ前後力実際値Fxは、路面摩擦係数に応じて変化する。他方、図4に示すように、路面摩擦係数は、一般に、スリップ率Sが「0」から或る値S1までの間はスリップ率Sの増大に応じて増大し、スリップ率Sが値S1を超えると、スリップ率Sの増大に応じて減少する。加えて、時刻t2におけるスリップ率Sは上記値S1よりも大きい。
以上のことから、時刻t2は、減少していたタイヤ前後力実際値Fxが増加に転じる時刻となる。即ち、時刻t2は、減少していたタイヤ前後力相当トルク実際値Tfx(=Fx・R)が増加に転じる時刻となる。このことは、「角加速度ゼロ時点(dω/dt=0)となる時刻t2においてタイヤ前後力相当トルク実際値Tfxの時間微分値が「0」となる」という関係(即ち、上記角加速度−タイヤ前後力間の特定関係)が成立することを意味する。換言すれば、タイヤ前後力相当トルク実際値Tfxの時刻t2における傾きは「0」となる(図3を参照)。
従って、上記(1)式の両辺を時間微分して得られる下記(4)式は、時刻t2において、タイヤ前後力相当トルク実際値Tfxの時間微分値dTfx/dt=0と置くことで下記(5)にて表すことができる。(5)式において、(d2ω/dt2)t=t2は時刻t2における角加速度dω/dtの時間微分値である。また、(dT/dt)t=t2は時刻t2におけるホイールトルクTの時間微分値である。この時刻t2におけるホイールトルクTの時間微分値(dT/dt)t=t2を値mとおくと、下記(6)式が得られる。なお、この値mは、ホイールトルクTの時刻t2における傾きに対応する値である(図3を参照)。
I・d2ω/dt2=dTfx/dt−dT/dt ・・・(4)
I・(d2ω/dt2)t=t2=−(dT/dt)t=t2 ・・・(5)
I・(d2ω/dt2)t=t2=−(dT/dt)t=t2=−m ・・・(6)
一方、上記(2)式の両辺を時間微分すると下記(7)式が得られるから、時刻t2において、下記(8)式が得られる。(8)式において、(dTfxc/dt)t=t2は時刻t2におけるタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcの時間微分値である。この時刻t2におけるタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcの時間微分値(dTfxc/dt)t=t2を値nとおくと、下記(9)式が得られる。なお、この値nは、タイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcの時刻t2における傾きに対応する値である(図3を参照)。
dTfxc/dt=dT/dt+Ic・d2ω/dt2 ・・・(7)
(dTfxc/dt)t=t2=(dT/dt)t=t2+Ic・(d2ω/dt2)
t=t2 ・・・(8)
(dTfxc/dt)t=t2=(dT/dt)t=t2+Ic・(d2ω/dt2)
t=t2=n ・・・(9)
ここで、上記(6)式の関係を上記(9)式に代入して(d2ω/dt2)t=t2と(dT/dt)t=t2とを消去するとともに、補正係数α=I/Icと定義すると、下記(10)式が得られる。この補正係数αを慣性モーメント計算値Icに乗じることで、慣性モーメント計算値Icそのものを慣性モーメント実際値Iと一致するように補正することができる。
α=I/Ic=m/(m−n) ・・・(10)
以上のことから、本装置は、車輪角速度センサ41、及びホイールトルクセンサ42の出力を利用しながら、角加速度ゼロ時点(角加速度dω/dtがゼロ以外からゼロになる時点)が到来するまでの間は、上記(2)式に従ってタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcを計算する一方、角加速度ゼロ時点が到来した時点以降、上記(2)式においてIcをα・Icに置き換えた式である下記(11)式に従ってタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcを計算する。
Tfxc=T+α・Ic・dω/dt ・・・(11)
このように、本装置は、上記「角加速度−タイヤ前後力間の特定関係」を利用して、上記角加速度ゼロ時点におけるホイールトルクTの時間微分値mと、角加速度ゼロ時点におけるタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcの時間微分値nとに基づいて(従って、補正係数αに基づいて)慣性モーメント計算値Icを補正することでタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcを補正する。なお、上述した例では、アンチスキッド制御中において上記「角加速度−タイヤ前後力間の特定関係」が成立することを利用して補正係数αが設定されているが、トラクション制御中であっても上記「角加速度−タイヤ前後力間の特定関係」が成立する。従って、トラクション制御中であっても上記と同様に補正係数αを設定することができる。以上が、本装置によるタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcの取得・補正方法の概要である。
(実際の作動)
次に、以上のように構成された本装置の実際の作動について、電子制御装置50のCPU51が実行するルーチンをフローチャートにより示した図5〜図6を参照しながら説明する。なお、これらのルーチン内にて使用されるフラグSET**は、その値が「0」のとき車輪**について「角加速度ゼロ時点」が未だ到来していない状態を示し、その値が「1」のとき車輪**について「角加速度ゼロ時点」が既に到来した状態を示す。いま、車輪**について「角加速度ゼロ時点」が未だ到来しておらず、従って、フラグSET**=0となっているものとして説明を続ける。
CPU51は、図5に示したタイヤ前後力相当トルクの推定を行うルーチンを所定時間Δt(例えば、6msec)の経過毎に、車輪毎に、繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ500から処理を開始し、ステップ505に進んで車輪**の角速度ω**を算出する。具体的には、CPU51は、車輪角速度センサ41**が出力する信号の周波数に基づいて車輪**の角速度ω**を算出する。
次いで、CPU51はステップ510に進み、上記算出した角速度ω**と、角速度ω**の前回値ωb**と、ステップ510内に記載の式とに基づいて車輪**の角加速度dω**/dtを求める。ここで、角速度ω**の前回値ωb**としては、前回の本ルーチン実行時において後述するステップ535にて更新されている値が使用される。
続いて、CPU51はステップ515に進んで、ホイールトルクセンサ42**により検出される現時点でのホイールトルクT**と、ホイールトルクT**の前回値Tb**と、ステップ515内に記載の式とに基づいて車輪**のホイールトルクT**の時間微分値dT**/dtを求める。ここで、ホイールトルクT**の前回値Tb**としては、前回の本ルーチン実行時において後述するステップ540にて更新されている値が使用される。
次に、CPU51はステップ520に進み、フラグSET**=0であるか否かを判定する。現時点では、上記仮定によりフラグSET**=0となっている。従って、CPU51はステップ520にて「Yes」と判定してステップ525に進んで、ホイールトルクセンサ42**により検出される現時点でのホイールトルクT**と、先のステップ510にて求めた角加速度dω**/dtと、上記(2)式に相当するステップ525内に記載の式とに基づいて車輪**についてのタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**を求める。なお、Ic**は、車輪**についての上述した慣性モーメント計算値である。
次いで、CPU51はステップ530に進み、上記求めたタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**と、タイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**の前回値Tfxcb**と、ステップ530内に記載の式とに基づいて車輪**のタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**の時間微分値dTfxc**/dtを求める。ここで、タイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**の前回値Tfxcb**としては、前回の本ルーチン実行時において後述するステップ545にて更新されている値が使用される。
続いて、CPU51はステップ535に進み、角速度ω**の前回値ωb**を先のステップ505にて算出した角速度ω**の値に更新し、続くステップ540にてホイールトルクT**の前回値Tb**をホイールトルクセンサ42**により検出される現時点でのホイールトルクT**の値に更新し、続くステップ545にてタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**の前回値Tfxcb**を先のステップ525(或いは、後述するステップ550)にて計算されたタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**に設定した後、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上の処理は、フラグSET**の値が「0」に維持される限りにおいて繰り返し実行されていく。これにより、所定時間Δt毎に、上記(2)式に基づいてタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**が計算・更新されていく。この値は、上述したアンチスキッド制御、トラクション制御等の各種制御に利用される。
また、CPU51は、図6に示した補正係数の決定・更新を行うルーチンをも所定時間Δt(例えば、6msec)の経過毎に、車輪毎に、繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ600から処理を開始し、ステップ605に進んで、先のステップ510にて求めた車輪**の角加速度dω**/dtの値が「0」以外(前回値)から「0」(今回値)に変化したか否か(即ち、「角加速度ゼロ時点」が到来したか否か)を判定し、「No」と判定する場合、ステップ695に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
いま、「角加速度ゼロ時点」が初めて到来したものとすると、CPU51はステップ605に進んだとき「Yes」と判定してステップ610に進み、値mを、先のステップ515にて求めているホイールトルクT**の時間微分値dT**/dt(即ち、「角加速度ゼロ時点」での値dT**/dt)に設定し、続くステップ615にて、値nを、先のステップ530にて求めているタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**の時間微分値dTfxc**/dt(即ち、「角加速度ゼロ時点」での値dTfxc**/dt)に設定する。
続いて、CPU51はステップ620に進んで、フラグSET**=0であるか否かを判定する。現時点では、上述の仮定によりフラグSET**=0となっている。従って、CPU51はステップ620にて「Yes」と判定してステップ625に進み、フラグSET**の値を「0」から「1」に変更する。
そして、CPU51はステップ630に進み、車輪**についての補正係数α**の値を、先のステップ610にて求めた値mと、先のステップ615にて求めた値nと、上記(10)式とに基づいて決定した後、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
これにより、以降、フラグSET**=1となっている。従って、図5のルーチンを所定時間Δt毎に繰り返し実行しているCPU51は、ステップ520に進んだとき「No」と判定するようになり、ステップ550に進んで、ホイールトルクセンサ42**により検出される現時点でのホイールトルクT**と、先のステップ510にて求めた角加速度dω**/dtと、先のステップ630にて決定されている補正係数α**と、上記(11)式に相当するステップ550内に記載の式とに基づいて車輪**についてのタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**を求める。
これにより、慣性モーメント計算値Ic**が補正されることでタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**が補正される。以後、係るステップ550により、タイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**が繰り返し計算・更新されていく。
加えて、図6のルーチンを所定時間Δt毎に繰り返し実行しているCPU51は、その後も、ステップ605に進む毎に「角加速度ゼロ時点」が到来したか否かをモニタし続ける。そして、「角加速度ゼロ時点」が到来する毎に、CPU51はステップ605にて「Yes」と判定してステップ610以降に進み、ステップ620に進む。
現時点では、フラグSET=1となっている。従って、CPU51はステップ620にて「No」と判定するようになり、ステップ635に進んで、慣性モーメント計算値Ic**を、現時点まで使用されていた慣性モーメント計算値Ic**に現時点まで使用されていた補正係数α**を乗じた値(即ち、現時点までステップ550にて使用されていた、慣性モーメント計算値Ic**の補正後の値)に更新した後、ステップ630にて補正係数α**を更新する。
このように更新された慣性モーメント計算値Ic**、及び補正係数α**は、以降、ステップ550におけるタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**の計算に使用されていく。このように、以降、「角加速度ゼロ時点」が到来する毎に、慣性モーメント計算値Ic**が補正されることでタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc**が補正されていく。
以上、説明したように、本発明によるタイヤ前後力推定装置の第1実施形態によれば、上記「角加速度−タイヤ前後力間の特定関係」を利用して、「角加速度ゼロ時点」が到来する毎に、「角加速度ゼロ時点」におけるホイールトルクTの時間微分値mと、「角加速度ゼロ時点」におけるタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcの時間微分値nとから求めた補正係数α(上記(10)式を参照)により慣性モーメント計算値Icを補正することでタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcを補正していく。
これにより、「角加速度ゼロ時点」が到来する毎に、慣性モーメント計算値Icそのものを慣性モーメント実際値Iと一致するように補正することができる。この結果、タイヤ交換に伴うタイヤサイズの変更等により慣性モーメント実際値Iが変化した場合であっても、タイヤ前後力を直接検出するセンサを用いることなく、タイヤ前後力Fxに相当するタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcを精度良く計算していくことができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るタイヤ前後力推定装置について説明する。この第2実施形態は、車輪角速度センサ41及びホイールシリンダ液圧センサ44の出力を利用しながらタイヤ前後力に対応する値としてのタイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcを推定していく点において、車輪角速度センサ41及びホイールトルクセンサ42の出力を利用しながらタイヤ前後力に対応する値としてのタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxcを推定していく上記第1実施形態と異なる。
なお、タイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcとは、上記タイヤ前後力相当トルクTfxを「制動液圧(ホイールシリンダ液圧)を制動トルク(ホイールトルク)に変換するための比例係数K」で除して得られるタイヤ前後力Fxに相当するホイールシリンダ液圧(=(Fx・R)/K、タイヤ前後力相当液圧Pwfx)の推定値である。以下、係る相違点を中心に説明する。
第1実施形態では、ホイールトルクTは、ホイールトルクセンサ42から直接検出されていた。一方、第2実施形態では、「制動トルクはホイールシリンダ液圧とほぼ比例関係にある」ことを利用して、ホイールトルクTは、ホイールシリンダ液圧センサ44から検出されるホイールシリンダ液圧Pwに上記比例係数Kを乗じることで取得される。
従って、上記(1)式に示した回転運動方程式は、下記(12)式に従って表すことができる。この(12)式の両辺を比例係数Kで除すると、下記(13)式が得られる。
I・dω/dt=Tfx−Pw・K ・・・(12)
(I/K)・dω/dt=Pwfx−Pw ・・・(13)
(13)式において、車輪の角加速度dω/dtは、上記第1実施形態と同様、車輪角速度センサ41から得られる車輪の角速度ωを時間微分することで精度良く逐次取得できる。ホイールシリンダ液圧Pwは、ホイールシリンダ液圧センサ44により精度良く逐次取得できる。慣性モーメントIとしては、上記第1実施形態と同様、実際に使用される車輪の諸元等から既知である慣性モーメント計算値Icが使用される。比例係数Kとしては、実際に使用されるブレーキパッドとブレーキディスクの間の摩擦係数の諸元等から既知である比例係数計算値Kcが使用される。
以上より、上記(13)式においてIをIcに置き換えKをKcに置き換えPwfxをPwfxcに置き換えた式をPwfxcについて解いた下記(14)式に従って、タイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcを逐次取得していくことができる。
Pwfxc=Pw+(Ic/Kc)・dω/dt ・・・(14)
ところで、上述したように、慣性モーメント実際値Iは、タイヤ交換に伴うタイヤサイズの変更等により変化し得る。加えて、比例係数の実際値(以下、「比例係数実際値K」と称呼する。)は、ブレーキパッドの交換等により変化し得る。従って、タイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcの計算に使用される上記計算値(Ic/Kc)が実際値(I/K)と一致しなくなる場合が発生し得、この結果、タイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcが精度良く推定されない場合が発生し得るという問題がある。
そこで、第2実施形態は、以下のように、計算値(Ic/Kc)を実際値(I/K)と一致するように補正するための補正係数αを計算する。以下、この補正係数αの計算方法について図7を参照しながら説明する。
図7は、上述した図3と同じ状況における或る車輪についての、ホイールシリンダ液圧Pw、上記(14)式に従って計算されるタイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxc、タイヤ前後力相当液圧の実際値(以下、「タイヤ前後力相当液圧実際値Pwfx」と称呼する。)、角速度ω、スリップ率S、角加速度dω/dtの変化の一例を示したタイムチャートである。図7における時刻t1、t2はそれぞれ、図3における時刻t1、t2に対応している。従って、この例でも、時刻t2は、上述した「角加速度ゼロ時点」に相当している。
図7に示した例では、計算値(Ic/Kc)が実際値(I/K)からずれていて、この結果、タイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcがタイヤ前後力相当液圧実際値Pwfxからずれた値に計算されている場合が示されている。
なお、時刻t2では、車輪の角加速度dω/dt=0となっているから、上記(13)式、(14)から容易に理解できるように、時刻t2において、タイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxc、タイヤ前後力相当液圧実際値Pwfx、及びホイールシリンダ液圧Pwは一致する(点Aを参照)。
また、図7に示した例でも、図3の場合と同様の理由により、「角加速度ゼロ時点(dω/dt=0)となる時刻t2においてタイヤ前後力相当液圧実際値Pwfxの時間微分値が「0」となる」という関係(即ち、上記角加速度−タイヤ前後力間の特定関係)が成立する。換言すれば、タイヤ前後力相当液圧実際値Pwfxの時刻t2における傾きは「0」となる(図7を参照)。
従って、上記(13)式の両辺を時間微分して得られる下記(15)式は、時刻t2において、タイヤ前後力相当液圧実際値Pwfxの時間微分値dPwfx/dt=0と置くことで下記(16)にて表すことができる。(16)式において、(d2ω/dt2)t=t2は時刻t2における角加速度dω/dtの時間微分値である。また、(dPw/dt)t=t2は時刻t2におけるホイールシリンダ液圧Pwの時間微分値である。この時刻t2におけるホイールシリンダ液圧の時間微分値(dPw/dt)t=t2を値mとおくと、下記(17)式が得られる。なお、この値mは、ホイールシリンダ液圧Pwの時刻t2における傾きに対応する値である(図7を参照)。
(I/K)・d2ω/dt2=dPwfx/dt−dPw/dt ・・・(15)
(I/K)・(d2ω/dt2)t=t2=−(dPw/dt)t=t2 ・・・(16)
(I/K)・(d2ω/dt2)t=t2=−(dPw/dt)t=t2=−m ・・・(17)
一方、上記(14)式の両辺を時間微分すると下記(18)式が得られるから、時刻t2において、下記(19)式が得られる。(19)式において、(dPwfxc/dt)t=t2は時刻t2におけるタイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcの時間微分値である。この時刻t2におけるタイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcの時間微分値(dPwfxc/dt)t=t2を値nとおくと、下記(20)式が得られる。なお、この値nは、タイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcの時刻t2における傾きに対応する値である(図7を参照)。
dPwfxc/dt=dPw/dt+(Ic/Kc)・d2ω/dt2 ・・・(18)
(dPwfxc/dt)t=t2=(dPw/dt)t=t2+(Ic/Kc)・(d2ω/dt2)
t=t2 ・・・(19)
(dPwfxc/dt)t=t2=(dPw/dt)t=t2+(Ic/Kc)・(d2ω/dt2)
t=t2=n ・・・(20)
ここで、上記(17)式の関係を上記(20)式に代入して(d2ω/dt2)t=t2と(dPw/dt)t=t2とを消去するとともに、補正係数α=(Kc/Ic)・(I/K)と定義すると、下記(21)式が得られる。この補正係数αを計算値(Ic/Kc)に乗じることで、計算値(Ic/Kc)を実際値(I/K)と一致するように補正することができる。
α=(Kc/Ic)・(I/K)=m/(m−n) ・・・(21)
以上のことから、第2実施形態は、車輪角速度センサ41、及びホイールシリンダ液圧センサ44の出力を利用しながら、角加速度ゼロ時点(角加速度dω/dtがゼロ以外からゼロになる時点)が到来するまでの間は、上記(14)式に従ってタイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcを計算する一方、角加速度ゼロ時点が到来した時点以降、上記(14)式において(Ic/Kc)をα・(Ic/Kc)に置き換えた式である下記(22)式に従ってタイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcを計算する。
Pwfxc=Pw+α・(Ic/Kc)・dω/dt ・・・(22)
このように、第2実施形態は、上記「角加速度−タイヤ前後力間の特定関係」を利用して、上記角加速度ゼロ時点におけるホイールシリンダ液圧Pwの時間微分値mと、角加速度ゼロ時点におけるタイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcの時間微分値nとに基づいて(従って、補正係数αに基づいて)計算値(Ic/Kc)(前記慣性モーメントに係わる定数)を補正することでタイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcを補正する。このタイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcは、上述したアンチスキッド制御、トラクション制御等の各種制御に利用される。以上が、第2実施形態によるタイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcの取得・補正方法の概要である。
(第2実施形態の実際の作動)
次に、以上のように構成された第2実施形態の実際の作動について、電子制御装置50のCPU51が実行するルーチンをフローチャートにより示した図8〜図9を参照しながら説明する。この図8〜図9のルーチンは、図5〜図6において「T**」を「Pw**」に変更し、「Ic**」を「Ic**/Kc**」に変更した点を除いて、図5〜図6のルーチンと同じである。
即ち、図8のステップ805〜850はそれぞれ図5の505〜550に対応し、図9のステップ905〜935はそれぞれ図6の605〜635に対応している。従って、図8〜図9のルーチンについての詳細な説明は省略する。
以上、説明したように、本発明によるタイヤ前後力推定装置の第2実施形態によれば、上記「角加速度−タイヤ前後力間の特定関係」を利用して、「角加速度ゼロ時点」が到来する毎に、「角加速度ゼロ時点」におけるホイールシリンダ液圧Pwの時間微分値mと、「角加速度ゼロ時点」におけるタイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcの時間微分値nとから求めた補正係数α(上記(21)式を参照)により計算値(Ic/Kc)を補正することでタイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcを補正していく。
これにより、「角加速度ゼロ時点」が到来する毎に、計算値(Ic/Kc)を実際値(I/K)と一致するように補正することができる。なお、Ic,Kcを個別に、対応する実際値と一致するようにそれぞれ補正することはできない。この結果、第1実施形態と同様、タイヤ交換に伴うタイヤサイズの変更等、ブレーキパッドの交換等により実際値(I/K)が変化した場合であっても、タイヤ前後力を直接検出するセンサを用いることなく、タイヤ前後力Fxに相当するタイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxcを精度良く計算していくことができる。
本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記各実施形態においては、「角加速度ゼロ時点」が未だ到来していない状態(フラグSET=0)では、図5のステップ525(図8のステップ825)にてタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc(タイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxc)が計算され、「角加速度ゼロ時点」が既に到来した状態(フラグSET=1)では、図5のステップ550(図8のステップ850)にてタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc(タイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxc)が計算されるように構成されているが、「角加速度ゼロ時点」が既に到来しているか否かにかかわらず(フラグSETの値にかかわらず)、図5のステップ550(図8のステップ850)にてタイヤ前後力相当トルク推定値Tfxc(タイヤ前後力相当液圧推定値Pwfxc)が計算されてもよい。この場合、「角加速度ゼロ時点」が未だ到来していない状態(フラグSET=0)では、補正係数α=1に設定される。
また、上記各実施形態においては、「角加速度ゼロ時点」の到来を、角加速度dω/dtの値が「「0」以外(前回値)から「0」(今回値)に変化したこと」で判定しているが、角加速度dω/dtの値が「「0」を通過したこと」で判定してもよい。この場合、具体的には、角加速度dω/dtの値が、「「正又は負」(前々回値)、「0」(前回値)、「負又は正」(今回値)と変化したこと」、或いは、「「正又は負」(前回値)から「負又は正」(今回値)に変化したこと」で判定できる。
本発明の第1実施形態に係るタイヤ前後力推定装置を含んだ車両の運動制御装置を搭載した車両の概略構成図である。 制動時において車輪に働く力、及びトルクを示した図である。 時刻t1以降にてアンチスキッド制御が開始・実行されている場合における、或る車輪についての、ホイールトルク、タイヤ前後力相当トルク推定値、タイヤ前後力相当トルク実際値、車輪の角速度、車輪のスリップ率、車輪の角加速度の変化の一例を示したタイムチャートである。 車輪のスリップ率と路面摩擦係数との一般的な関係を示した図である。 図1に示したCPUが実行するタイヤ前後力相当トルクを推定するためのルーチンを示したフローチャートである。 図1に示したCPUが実行する補正係数の決定・更新を行うためのルーチンを示したフローチャートである。 図3と同じ状況における或る車輪についての、ホイールシリンダ液圧、タイヤ前後力相当液圧推定値、タイヤ前後力相当液圧実際値、車輪の角速度、車輪のスリップ率、車輪の角加速度の変化の一例を示したタイムチャートである。 本発明の第2実施形態に係るタイヤ前後力推定装置のCPUが実行するタイヤ前後力相当液圧を推定するためのルーチンを示したフローチャートである。 本発明の第2実施形態に係るタイヤ前後力推定装置のCPUが実行する補正係数の決定・更新を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
符号の説明
10…車両の運動制御装置、30…ブレーキ液圧制御装置、40…センサ部、41**…車輪角速度センサ、42**…ホイールトルクセンサ、44**…ホイールシリンダ液圧センサ、50…電子制御装置、51…CPU

Claims (6)

  1. 車両の車輪の角加速度(dω/dt)を取得する角加速度取得手段(41**,505,510,805,810)と、
    前記車輪に接続された車軸に発生するトルクであるホイールトルク(T)に対応する値をホイールトルク対応値(T,Pw)として取得するホイールトルク取得手段(42**,44**)と、
    を備えた車両の運動制御装置に適用され、
    前記取得された車輪の角加速度(dω/dt)と、前記取得されたホイールトルク対応値(T,Pw)と、前記車輪の慣性モーメントに係わる定数(Ic,Ic/Kc)とに基づいて、前記車輪のタイヤが路面から受ける同タイヤの回転方向の力であるタイヤ前後力(Fx)に対応する値をタイヤ前後力対応値(Tfxc,Pwfxc)として推定するタイヤ前後力推定手段(51、図5、図6、図8、図9のルーチン)を備えたタイヤ前後力推定装置において、
    前記タイヤ前後力推定手段(51、図5、図6、図8、図9のルーチン)は、
    前記取得された車輪の角加速度(dω/dt)がゼロ以外からゼロになった時点において前記タイヤ前後力の時間微分値(dFx/dt)がゼロになるという関係を利用して前記タイヤ前後力対応値(Tfxc,Pwfxc)を補正するタイヤ前後力補正手段(51、550、図6、850、図9のルーチン)を備えたタイヤ前後力推定装置。
  2. 請求項1に記載のタイヤ前後力推定装置において、
    前記タイヤ前後力補正手段(51、550、図6、850、図9のルーチン)は、
    前記ホイールトルク対応値(T,Pw)の時間微分値(dT/dt,dPw/dt)を取得するホイールトルク時間微分値取得手段(51,515,815)と、
    前記タイヤ前後力対応値(Tfxc,Pwfxc)の時間微分値(dTfxc/dt,dPwfxc/dt)を取得するタイヤ前後力時間微分値取得手段(51,530,830)と、
    を備え、
    前記タイヤ前後力補正手段(51、550、図6、850、図9のルーチン)は、
    前記取得された車輪の角加速度(dω/dt)がゼロ以外からゼロになった時点における前記ホイールトルク対応値の時間微分値(m)と、前記取得された車輪の角加速度(dω/dt)がゼロ以外からゼロになった時点における前記タイヤ前後力対応値の時間微分値(n)とに基づいて前記慣性モーメントに係わる定数(Ic,Ic/Kc)を補正することで前記タイヤ前後力対応値(Tfxc,Pwfxc)を補正する(550,850)ように構成されたタイヤ前後力推定装置。
  3. 請求項1又は請求項2に記載のタイヤ前後力推定装置において、
    前記ホイールトルク対応値(T,Pw)として前記ホイールトルクそのもの(T)が使用され、前記タイヤ前後力対応値(Tfxc,Pwfxc)として前記タイヤ前後力(Fx)に前記タイヤの半径(R)を乗じて得られるタイヤ前後力相当トルク(Tfxc=Fx・R)が使用されたタイヤ前後力推定装置。
  4. 請求項1又は請求項2に記載のタイヤ前後力推定装置において、
    前記ホイールトルク対応値(T,Pw)として前記車輪に対応するホイールシリンダ(W**)内の制動液圧(Pw)が使用され、前記タイヤ前後力対応値(Tfxc,Pwfxc)として、前記タイヤ前後力(Fx)に前記タイヤの半径(R)を乗じた値を制動液圧を制動トルクに変換するための比例係数(Kc)で除して得られるタイヤ前後力相当液圧(Pwfxc=(Fx・R)/Kc)が使用されたタイヤ前後力推定装置。
  5. 請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のタイヤ前後力推定装置において、
    前記角加速度取得手段(41**,505,510,805,810)は、
    前記車輪の角速度(ω)を取得する角速度取得手段(41**,505,805)を備え、
    前記取得された車輪の角速度(ω)を時間微分して前記車輪の角加速度(dω/dt)を取得する(510,810)ように構成されたタイヤ前後力推定装置。
  6. 車両の車輪の角加速度(dω/dt)を取得する角加速度取得手段(41**,505,510,805,810)と、
    前記車輪に接続された車軸に発生するトルクであるホイールトルク(T)に対応する値をホイールトルク対応値(T,Pw)として取得するホイールトルク取得手段(42**,44**)と、
    を備えた車両の運動制御装置に適用され、
    前記取得された車輪の角加速度(dω/dt)と、前記取得されたホイールトルク対応値(T,Pw)と、前記車輪の慣性モーメントに係わる定数(Ic,Ic/Kc)とに基づいて、前記車輪のタイヤが路面から受ける同タイヤの回転方向の力であるタイヤ前後力(Fx)に対応する値をタイヤ前後力対応値(Tfxc,Pwfxc)として推定するタイヤ前後力推定ステップ(図5、図6、図8、図9のルーチン)を備えたタイヤ前後力推定用のプログラムにおいて、
    前記タイヤ前後力推定ステップ(図5、図6、図8、図9のルーチン)は、
    前記取得された車輪の角加速度(dω/dt)がゼロ以外からゼロになった時点において前記タイヤ前後力の時間微分値(dFx/dt)がゼロになるという関係を利用して前記タイヤ前後力対応値(Tfxc,Pwfxc)を補正するタイヤ前後力補正ステップ(550、図6、850、図9のルーチン)を備えたタイヤ前後力推定用のプログラム。
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