(2) 本発明の位相制御回路においては、前記変換手段が、前記ホールド信号を電流に変換する電圧電流変換器であり、前記位相シフト手段が磁界発生源であるとともに、前記電流が前記位相シフト手段に入力されるものであることが好ましい。
(3) 上記(2)の別の観点として、本発明の位相制御回路においては、前記変換手段が、前記ホールド信号を電圧に変換する電圧発生回路であり、前記位相シフト手段が電界発生源であるとともに、前記電圧が前記位相シフト手段に入力されるものであってもよい。
(4) 上記(2)、(3)の別の観点として、本発明の位相制御回路においては、前記変換手段が、前記ホールド信号を電圧に変換する電圧発生回路であり、前記位相シフト手段が電磁波発生源であるとともに、前記電圧が前記位相シフト手段に入力されるものであってもよい。
(5) 上記(2)〜(4)の別の観点として、本発明の位相制御回路においては、前記変換手段が、前記ホールド信号を電圧又は/及び電流に変換する電圧又は/及び電流発生回路であり、前記位相シフト手段が近接場発生源であるとともに、前記電圧又は/及び電流が前記位相シフト手段に入力されるものであってもよい。
上記(1)〜(5)の構成によると、電流経路を通過するキャリアの位相をシフトさせる際に、電磁界検出素子の検出感度を最大化することができる位相制御回路を提供できる。
(7) また、本発明の電磁界検出回路は、前記ロックイン検出器の出力信号が接続され、前記電磁界検出素子からの出力信号を外部に出力できる出力端子をさらに備えた位相制御回路を有し、前記出力端子からの信号を検出するものである。
<第1実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る電磁界検出回路における電磁界検出素子について説明した後、本発明の第1実施形態に係る電磁界検出回路を説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る電磁界検出回路における電磁界検出素子の斜視構成図である。図2は、図1の電磁界検出素子10をY軸方向から見た場合の構成図である。
本発明の第1実施形態に係る電磁界検出回路は、電磁界検出素子10(図1参照)と、後述する位相制御回路102(図6参照)とを有している。図1に示すように、本実施形態に係る電磁界検出素子10において、微小な領域で電磁界検出をするために、基板1上に絶縁層2、3、4が順に互いに平行な表面を有するように積層されており、これら絶縁層2、3、4の間隔L方向の各端面及び基板1表面と接するように電極5、6が形成されている。
絶縁層2、3、4からなる積層部分は、電極5、6の対向面5a、6aの間に収まるように形成されている。特に、絶縁層2、4において絶縁破壊を確実に起こさせるために、絶縁層3は、Z軸方向に関する対向面5a、6aの重複範囲の両端に形成された境界面7、8からそれぞれ離隔しつつ、上記対向面5a、6aの重複範囲内に収まるように電極5と電極6との間に挟まれている。絶縁層2の下面は境界面8と、絶縁層4の上面は境界面7とそれぞれ一致している。電極5、6の対向面5a、6aは、絶縁層2、3、4の表面と直交するように形成されている。これにより、電極に到達したバリスティックなキャリアの干渉性を高めることができる。
また、基板1と絶縁層2及び電極5、6との間には、絶縁破壊電界の高い絶縁体又は半導体(図示せず)が形成されている。これにより、電極5、6に電界が印加された場合、絶縁破壊によるバリスティック電子が基板1内で生成されるのを抑制することができる。この絶縁体又は半導体は、基板1又は絶縁層2、3、4と同じ材料からなる。
絶縁層3は、絶縁層2、4よりも絶縁破壊電界が高い材料で構成されている。これにより、絶縁層2、4を絶縁破壊させ且つ絶縁層3を絶縁破壊させない大きさの電圧を対向している電極5、6間に印加した場合、電極5、6の対向面間に形成された絶縁破壊電界の大きな絶縁体3と周囲の絶縁層2、4との界面に沿って、選択的に絶縁破壊が起こり、高電圧で加速されたバリスティックなキャリア(ここでは、電子)が形成される。したがって、対向する電極5、6間において少なくとも2つのバリスティックな電流経路が形成されることになる。基板1及び絶縁層2、3、4は、Si、Ge、SiC等のIV属半導体、GaAs、GaP、InP、AlAs、GaN、InN、InSb、GaSb、AlNに代表されるIII−V属化合物半導体、ZnTe、ZeSe、ZnS、ZnO等のII−VI属化合物半導体、ZnO、Al2O3、SiO2、TiO2、CrO2、CeO2等の酸化物絶縁体、または、SiNなどの窒化物絶縁体からなる。
絶縁層3は、フェライトやガーネットなどの3以上の透磁率を有する物質で形成されている。そのため、絶縁層3が生じさせる磁界シフトが電流経路を通過するキャリアの位相をシフトさせるので、外部電磁界の検出効率を改善できる。なお、絶縁層3の代わりに、絶縁層2又は絶縁層4が3以上の透磁率を有する物質で形成されていてもよい。
また、一変形例として、絶縁層3が4以上の誘電率を有する物質で形成されていてもよい。これによると、絶縁層3が生じさせる電界シフトが電流経路を通過するキャリアの位相をシフトさせるので、外部電磁界の検出効率を改善できる。なお、絶縁層3の代わりに、絶縁層2又は絶縁層4が4以上の誘電率を有する物質で形成されていてもよい。
上述のように、絶縁層3は、絶縁層2、4よりも高い絶縁破壊電界を有する材料で構成されている。例えば、絶縁破壊電界が1MV/cmのZnOを絶縁層2、4に形成した場合、絶縁破壊に必要な電圧は7Vとなる。ZnOは成膜条件(材質の組成や欠陥の数、不純物の量など)を変えることで物質中に容易に酸素欠損や空孔を形成でき、絶縁破壊電界を制御(減少させる)することができる。これは、他の酸化物絶縁体や窒化物絶縁体にも適応できる(窒化物絶縁体の場合は窒素欠損の形成)。
なお、基板1及び絶縁層2、3、4は、すべてが半導体であることが好ましい。半導体は望ましい結晶成長をするため、原子レベルで平坦な絶縁層界面が得られ、直線的な電流経路が得られるからである。酸化物絶縁体又は窒化物絶縁体を使用する場合には、同じ製造過程で成膜することができ、製造コストをおさえることができるので、絶縁層2、3、4すべてに酸化物絶縁体若しくは窒化物絶縁体を用いるのが望ましい。このとき、基板1は、上述の例示材料のものであれば、どれでもかまわない。また、絶縁層2、4は同材料である必要はない。
次に、絶縁層2、3、4の層厚について説明する。図2に示すように、絶縁層2、3、4のそれぞれの層厚は、t1、t2、t3で表されている。基板1上に多層構造として、絶縁層2、3、4と対向電極5、6とを形成することで、各層の層厚制御によってバリスティック電子の2つの貫通経路間距離でもある層厚t2及び貫通経路幅でもある層厚t1、t3の制御を行うことができる。これによって、2つのバリスティックな電流経路に挟まれた領域を数百nm2のサイズに制限でき、ナノサイズの微小な領域での電磁界検出が可能となる。絶縁層3の層厚t2は、電極5、6を構成する金属の電子の平均自由行程(30nm)の2倍以下(60nm)となるように形成されている。これにより、2つの経路から貫通してきたバリスティック電子の干渉性が高まり、電磁界の検出感度が向上する。なお、さらに電磁界の検出感度を向上させるために、絶縁層3の層厚t2を、電極5、6を構成する金属の電子の平均自由行程(30nm)以下としてもよい。また、絶縁層2、4の層厚t1、t3は、電極5、6を構成する金属の電子の平均自由行程以下となるように形成されており、電極5、6を構成する金属の電子の平均自由行程より層厚が厚い場合に比べ、バリスティック電子のコヒーレント性が改善されている。
電極5、6は、対向面5a、5bを内側にそれぞれ有するように配置されている。電極5、6の材質は通常の金属であってもよいが、電気伝導度の高い物質がよいため、金属中の電子の平均自由行程が約30〜40nmのAu、Ag、又はCuを用いる。これにより、電極5、6に到達したバリスティックな電子の干渉性を高めることができる。また、図示しないが、電極5、6の密着性を高めるために、絶縁層2、3、4と電極5、6との間、及び、基板1と電極5、6との間には、Zn、Ti、Cr、Alなどから構成される密着層が形成されている。密着層の膜厚は、電子の干渉性を維持するためにも密着層を構成する金属中電子の平均自由行程(約10nm)以下となっている。また、対向した電極5、6間での2つのバリスティックな電流経路での電子の干渉性を高めるために、電極5、6の幅Wは、電極5、6に用いられる金属での電子の平均自由行程以下となっている。
電極5、6の間隔Lは、最短部で100nm以下に形成されている。このように対向した電極5、6間の距離が短くなることで、低電圧でも絶縁層3において絶縁破壊を起こしてバリスティックな電子を生成できる。具体的に説明すると、間隔Lが70nmであって、絶縁破壊電界が0.06MV/cmのGaAsで絶縁層2、4を形成した場合、絶縁破壊に必要な電圧=間隔L(70nm)×絶縁破壊電圧(0.06MV/cm)=0.42Vとなる。なお、1MV/cmのZnOで絶縁層2、4を形成した場合は、絶縁破壊に必要な電圧=間隔L(70nm)×絶縁破壊電圧(1MV/cm)=7Vとなる。絶縁破壊後の電圧電流特性は、空間電荷制限伝導に基づいた電流が得られるとすると、チャイルド則からi∝V2/L3となる。絶縁層2、4における電子の移動度が30cm2/V・sである場合、間隔Lを100nm、印加電圧を10Vとし、絶縁層2、4における電子の緩和時間を1psとすると、電子の速度=電子の移動度×電界、電界=印加電圧/間隔Lの式より、電子の速度=(30cm2/V・s)×(10V/100nm)=3×107m/sとなる。平均自由行程=電子の速度×電子の緩和時間であるので、平均自由行程=(3×107m/s)×1ps=300nmとなる。絶縁層2、4における絶縁体の欠陥などによる緩和時間の減少や電極5、6間での電界分布などによっては、平均自由行程は多少減少するが、100nmの間隔Lでは干渉性を保ったまま電子が電極間を貫通することができる。
図示していないが、電磁界検出素子10の表面全体は、電極5、6の間の絶縁層2、4以外の短絡を防ぐために、絶縁層2、4よりも高い絶縁破壊電界を有する絶縁体で覆われている。
ここで、AB効果及びAC効果とともに電磁界検出素子10の動作について説明する。図3は、AB効果の原理説明を行うために使用する図である。
(AB効果と電磁界検出素子10の動作)
図3の上図に示すように、電子線源11から電子線e1、e2が放出され,磁界BによるベクトルポテンシャルAが発生しているゲージ場中を電子線e1、e2が通過し、電子線検出器12で検出される。この場合磁界Bに対して、電子線の検出量(伝導度)Fは、周期的に振動する。これは、電子線e1、e2がベクトルポテンシャルAにより、位相が変化し、それぞれの位相が異なる電子線e1、e2が電子線検出器12で干渉することで、図3の下図のように検出量Fの周期的振動が表れる。振動周期(磁界[T])はB0=Φ0/Sとなっている。磁束量子Φ0=h/2eは、2.07×10−15[Wb]の普遍定数であり、Sは電子線e1、e2の経路が囲む面積である。ここでL=70nm、t2=30nmとし、バリスティック電子の経路が絶縁層3の界面付近の数nm範囲で貫通する場合、S=(30×70)nm2となり、記録面密度300Gb/inch2のビットサイズに対応しており、このときの振動周期B0[T]は0.98[T]となる。また、記録面密度1Tb/inch2に対応したビットサイズS=(25×25)nm2の場合、振動周期B0[T]は3.3[T]となる。この電磁界検出素子10からの検出信号を一般的な信号処理を施すことにより、振動周期B0の1/1000まで磁界分解能を高めることが出来る。従って、記録面密度1Tb/inch2に対応した場合は、振動周期B0=3.3[T]であるため、磁界分解能は約3[mT]となる。一般的なハードディスクの磁気記録媒体の磁化200emu/ccを例にとると、磁気記録媒体から発生する磁界は、約250[mT]であり十分検出が可能になる。従って、この電磁界検出素子10は、記録面密度1Tb/inch2超えた磁気記録媒体についても、磁気記録媒体からの漏洩磁界を十分検出することが可能となる。
ここで、一例として、実際に図1に示す電磁界検出素子10とほぼ同構成の電磁界検出素子を作製し、この電磁界検出素子の磁気抵抗効果を測定した。まず、本例における電磁界検出素子の製造方法について説明する。SiO2からなる熱酸化膜が表面に形成されたSi基板上にZnO層(厚さ30nm) 、SiO2層(厚さ40nm)、ZnO層(厚さ30nm)、更にZnO層上に保護層としてSiO2層(厚さ100nm)を順にスパッタリング成膜して多層構造を形成した。多層構造形成後にレジストによるパターンニングを行い、ドライエッチングによりレジストに覆われた部分以外の部位を深さ250nmまで削り、絶縁層2、3、4に相当する層を形成する。その後、電子線蒸着法により絶縁層2、3、4に相当する層の上から密着層としてTi層(厚さ50nm)、電極としてAu層(厚さ200nm)を順に形成し、レジストと、レジストの上のTi層及びAu層をエッチングで除去し、電磁界発生素子10とほぼ同構成の電磁界検出素子を作製した。なお、電極間の間隔Lは1μm、電極の幅Wも1μmの構成になっている。
上述の実際に作製した電磁界検出素子では、電極間でIV曲線を測定したところ図21に示すように良好なオーミック特性が得られ、低電圧下でもバリスティック電子を生成することができた。すなわち、実験結果に示した電磁界検出素子はオーミック特性を示しているので、電磁界検出素子の低抵抗化が実現でき、インピーダンスが低くなるので電磁界検出素子の高周波検出特性の改善や低消費電力化が実現できる。
図22、23に電極間の印加電圧が10Vと0.5Vの場合における、上述の実際に作製した電磁界検出素子の磁気抵抗効果の測定結果を示す。図22、23の縦軸は電流値、横軸は磁場を示している。なお、測定は室温(常温)で行い、外部磁界発生機及びホールセンサにより半導体パラメータアナライザで測定した。
図22および図23に示すように、磁場の大きさが0.2T(2kOe)と0.25T(2.5kOe)付近で少なくとも107(7桁)の磁気抵抗変化が生じており、磁気抵抗変化が非常に巨大な電磁界検出素子が得られていることがわかる。急激な磁気抵抗変化が生じる外部印加磁場の大きさは、電極の形状・電極間の距離・絶縁層の多層構造変化によって変化する。これは、バリスティック電子のコヒーレント性に強く依存するためである。したがって、電極間の間隔Lや電極の幅Wが100nmの上記電磁界検出素子と同構成の電磁界検出素子も、原理上上記電磁界検出素子と同様の効果が得られると考えられるので、電極間の距離Lや電極幅Wを100nmのサイズにすることでバリスティック電子の干渉性が向上し、より高感度な電磁界検出が可能な電磁界検出素子を実現できることがわかる。
(AC効果と電磁界検出素子10の動作)
電磁界検出素子10は、電子干渉効果により電子経路中のスピン軌道相互作用を検出でき、外部電界をこのスピン軌道相互作用を介して検出できるため、静的な外部電界も検出することができる。これはAC効果を利用したものであるが、具体的にAB効果と比較しながらこのAC効果について説明する。AB効果では、磁界Bが下記式(1)のシュレーディンガー方程式中のベクトルポテンシャルAとして導入される。
電界Eを用いた場合、シュレーディンガー方程式は下記式(2)となる。
ここでのμは、電子の磁気モーメントのことである。電子の磁気モーメントはパウリ行列σにより、下記(3)式となる。なお、μ
Bは、ボーア磁子である。
ここで、電界Eと電子の磁気モーメント(スピン)によるスピン軌道相互作用をベクトルポテンシャルA
SOの形式にみなせば、下記式(4)のようになる。
これは、電界Eによる位相変化について、形式的にAB効果と同様に取り扱えることを意味する。つまり、電界Eと電子の磁気モーメントμからのベクトルポテンシャルA
SOによって、電子の位相変化とその干渉効果とが生じることを示している。この効果をAC効果と呼ぶ。この効果が発生すると、電子の2つの経路で印加される電界Eが異なることで、位相変化が現れる。この点がAB効果と異なる点ではあるが、電気伝導度との関連は、AB効果の場合と同様である。
また、2つの電子線経路に挟まれた領域である絶縁層3に、外部電磁波(近接場も含む)を吸収してキャリアを励起し、続いて電子・ホール対を生成するような材料(上述した基板1の材料と同様のものなど)を形成すると、外部電磁波を絶縁層3に照射した場合に、電子・ホール対生成により絶縁層3の誘電率が変化し内部電界変化が生じる。このような電磁界検出素子10は、この内部電界変化をベクトルポテンシャルの変化として検出できるため、静的な電磁界のみならず、動的な外部電磁波も検出が可能となる。
上記構成の電磁界検出素子10によると、絶縁層2、3、4からなる絶縁領域のうち電極5、6の間に挟まれた部分を絶縁破壊させつつ絶縁層3を絶縁破壊させない大きさの電界を電極5、6間に印加すると、電極5、6間に絶縁層3を挟む2つのバリスティック(弾道的)な電流経路が形成される。つまり、常温下において絶縁層3を挟む2つのバリスティックな電流経路が形成される。これら2つの電流経路に挟まれた領域又はその近傍に電磁界が存在する場合、その電磁界に由来するベクトルポテンシャルによって、2つの電流経路を通過するバリスティックな(つまり、コヒーレント性(可干渉性)を有する)キャリアに位相変化が生じる。その結果、2つの電流経路を通過したキャリアは相互の位相ずれに起因した干渉(AB効果やAC効果)を起こす。つまり、外部電磁界に係るベクトルポテンシャルによって電極5、6間の電気伝導度が変化するため、電磁界検出素子10の電気特性を常温下において測定すれば、電磁波、近接場を含む静的な外部電磁界を検出することができる。また、2つの電流経路に挟まれた領域又はその近傍での電磁界変化を電極5、6間の電気伝導度の変化として検出することで、常温下における動的な外部電磁界検出も可能となる。このように本実施形態の電磁界検出素子10は、AB効果又はAC効果を利用した高効率の電磁界検出を、常温下において行うことを可能とする。しかも、電磁界検出素子10は、素子構造が比較的単純で製造も容易であるという利点を有している。
また、絶縁層3をこれと接触する2つの絶縁層2,4で挟んでいるので、電磁界検出素子10の電気特性が安定し、より高い精度での外部電磁界検出が可能となる。
また、絶縁層2、4が、電極5、6の対向面5a、6aの両方と接触しているので、電極に到達したバリスティックなキャリアの干渉性を高めることができる。
なお、絶縁層2、3、4の間隔L方向の両端面が電極5、6の対向面5a、6aと物理的に接触していなくとも、絶縁破壊された際、上述の2つの電流経路が形成されるように接近していればよい。ただし、絶縁層2、3、4の間隔L方向の両端面が電極5、6の対向面5a、6aと接触している方が、電極に到達したバリスティックなキャリアの干渉性は高くなる。また、絶縁層3の絶縁破壊電界が空気よりも大きい場合には、絶縁層2、4を除去してもよい。その場合、絶縁層3の両側の空気層が絶縁層2、4と同等の機能を果たすことになる。
(上記電磁界検出素子10の変形例1)
次に、上記電磁界検出素子10の変形例1について説明する。なお、上記電磁界検出素子10と同様の部分には一の位が同じ符号を付け、その説明を省略することがある。図4は、上記電磁界検出素子10の変形例1の電磁界検出素子を示す図であって、(a)は斜視構成図、(b)は上視図である。図4(b)に示すように、電極25、26は、絶縁層22、23、24と幅W1の部分にわたって接続され、中心から遠ざかるにつれて幅が広くなるように基板21上に形成されている。これらの点が電磁界検出素子10と異なっている。なお、ここでは、電極25、26と絶縁層22、23、24との接続部分の幅が同じ距離である場合を示したが、それぞれ同じ幅でなくともよい。
本変形例によると、電磁界検出素子10と同様の作用・効果を得ることができる。また、幅W1を電極25、26の電子の平均自由行程よりも小さくすることが容易にできるので、電極25、26に到達したバリスティックなキャリアの干渉性を高めることができる。
(上記電磁界検出素子10の変形例2)
次に、上記電磁界検出素子10の変形例2について説明する。なお、上記電磁界検出素子10と同様の部分には一の位が同じ符号を付け、その説明を省略することがある。図5は、上記電磁界検出素子10の変形例2の電磁界検出素子を図2と同様Y軸方向から見た場合の構成図である。電磁界検出素子30は、絶縁層32、34と絶縁層33との電極35、36間方向の長さが異なっており、絶縁層32、34の長さが絶縁層33よりも短くなるように形成されている。言い換えれば、電極35、36の対向面にそれぞれ1つの凹部(図面においては、凹部とその外側との境界角部に符号P1、Q1:P2、Q2を付している)が形成されており、間隔P1−P2と、Q1−Q2とが電極35、36間の最短部となっている。これらの点が電磁界検出素子10と異なっている。
本変形例によると、電磁界検出素子10と同様の作用・効果を得ることができるだけでなく、電極25、26間に電界を印加した場合に、選択的にこの最短部に電界及び電流が集中し、バリスティック電子の生成が効率よく行われるという効果も奏する。
(電磁界検出回路)
次に、本発明の第1実施形態に係る電磁界検出回路について説明する。なお、電磁界検出素子10と同様の部分には十の位が4であり且つ一の位が同じ符号を付け、その説明を省略することがある。
図6は、本発明の第1実施形態に係る電磁界検出回路の概略図である。図7は、図6の電磁界検出回路の電磁界検出素子と磁界発生源との関係を具体的に示す斜視構成図である。図6に示すように、本実施形態に係る電磁界検出回路100は、電磁界検出センサ101と、位相制御回路102とを備えている。
電磁界検出センサ101は、上述の電磁界検出素子10と同構成の電磁界検出素子40と、電磁界検出素子40の近傍に設けられている磁界発生源としての金属細線103と、電磁界検出素子40に直列接続されている基準抵抗104と、基準抵抗104に直列接続されている定電圧電源回路105と、基準抵抗104と並列接続されている信号増幅器106とを備えている。
図7に示すように、電磁界検出素子40の絶縁層44上部(図5中のZ方向)に、磁界Bを発生させる金属細線103が配設されている。尚、図示していないが、金属細線103と電極45、46とは絶縁体を介して絶縁されている。この金属細線103は、電気伝導度の高い物質(Au、Ag、又はCu)からなる。また、位相制御回路102によって、金属細線103に流す電流iを制御できるようになっている。ここでは磁界発生源として、金属細線103を用いたが、他の磁界発生源として、例えば磁気コイルや磁性体などを配置しても良い。
図7に示すように、絶縁層44の上部に金属細線103を配置した場合、金属細線103に電流iを流すことで磁界Bが、金属細線103の周囲に発生し、絶縁層42、43、44に図7中のY軸方向に略並行に磁界Bが印加される。このように構成する理由は以下の通りである。通常、所望の測定すべき電磁界以外に、電磁界検出素子40の絶縁層42、43、44や、電極45,46それぞれの界面で発生する電界の影響や、外因的な漏洩電磁界の影響によりバリスティック電子に位相変化が生じる。したがって、この位相変化をキャンセルするために、新たに磁界発生源としての金属細線103を設け、印加された磁界Bにより、2つの絶縁層42、44を貫通する電子の位相に変化を与え、外因的な要因からの位相シフトを制御することによって、外部電磁界の検出効率を改善するものである。
ここで示した位相シフト制御用の金属細線103は、外因的な要因からの位相シフトに応じて、2つの電子位相差を制御できるように配置される。
基準抵抗104は、電磁界検出素子40の検出信号を電圧として検出するものである。定電圧電源回路105は、電磁界検出素子40に所望する定電圧を印加することができるものである。信号増幅器106は、検出信号を増幅するのに用いられるものである。
位相制御回路102は、ロックイン検出器107と、出力端子108と、変調信号用発信器109、110と、V/I変換器111、112と、スイッチ113と、ホールド回路114と、スイッチ回路115と、抵抗116とを備えている。
ロックイン検出器107は、信号を選択的に検出できるものであり、電磁界検出センサ101における信号増幅器106と直列接続されている。出力端子108は、検出信号を出力するためのものであり、ロックイン検出器107に接続されている。
変調信号用発信器109は、ロックイン検出器107に接続され、周波数f0の信号を発するものである。V/I変換器111は、変調信号用発信器109から発せられる変調信号用発信器110から発せられる信号を電流に変換するものである。同様に、V/I変換器112は、抵抗116を介して信号を電流に変換するものである。また、これらV/I変換器111、112は、電磁界検出センサ101における金属細線103と接続されている。スイッチ113は、変調信号用発信器109とV/I変換器111との電気接続のオン・オフを行うためのものである。
変調信号用発信器110は、周波数f0よりも低い周波数f1の三角波の信号をホールド回路114に向けて発することができるものである。ホールド回路114は、ホールド信号をスイッチ回路115に発することができるものである。スイッチ回路115は、変調信号用発信器110の制御を行うものである。
次に、電磁界検出回路100の動作について説明する。まず、電磁界検出素子40に基準抵抗104を介して定電圧電源回路105から所望の定電圧を印加する。このとき、電磁界検出素子40からの検出信号は、基準抵抗104の電圧として検出される。この検出信号は信号増幅器106により増幅され、ロックイン検出器107を介して出力端子108に出力される。位相シフト制御を行う場合には、位相制御回路102が用いられる。具体的には、スイッチ113がオンになり、周波数f0の変調信号用発信器109の信号がV/I変換器111により電流iに変換され、電流iが金属細線103に流れ、変調磁界Bを発生する。発生した磁界Bを電磁界検出素子40が検出し、ロックイン検出器107によって電磁界検出素子40から発せられた検出信号の周波数f0成分の信号増幅を行う。増幅された検出信号は、ホールド回路114に入力され、検出信号の最大値がモニタリングされる。次に、周波数f0よりも低い周波数f1の変調信号用発信器110から三角波の信号がホールド回路114に入力され、この入力された三角波信号は、抵抗116を介してV/I変換器112により電流iに変換される。金属細線103には、ロックイン検出器107からの信号による電流とV/I変換器112からの三角波信号に対応した電流とが重畳して流れる。これにより、金属細線103から磁界Bcが発生する。そして、ホールド回路114は、周期1/f1内でロックイン検出器107からの検出信号が最大になる三角波の位相を検出し、その位相の電圧値をホールドする。スイッチ回路115は、ホールド回路114からのホールド信号により、変調信号用発信器110をオフ状態にする。ホールド回路114からのホールド信号は、V/I変換器112により電流iに変換され、ホールド信号に対応した位相シフト磁界Bp(位相制御が完了したときの磁界)が金属細線103から発生する。これにより、外部電磁界検出を行う場合に、電磁界発生素子40の検出感度が最大になる。
本実施形態の電磁界検出回路100によれば、磁界発生源103が発生した磁界がベクトルポテンシャルを変化させるので、電流経路を通過するキャリアの位相をシフトさせることができる。その結果として、電磁界検出素子40における外部電磁界の検出効率を改善することができる。さらに、位相制御回路102を用いることによって、電磁界検出素子40の検出感度を最大化することができる。この点については、図19において詳細に説明する。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る電磁界検出回路について説明する。なお、第1実施形態と同様の部分には十の位が5であり且つ一の位が同じ符号を付け、その説明を省略することがある。また、本実施形態における符号201、202、204〜210、213〜216が付されている部位は、第1実施形態の符号101、102、104〜110、113〜116の部位と同様の部位であるため、これらについてもその説明を省略することがある。
図8は、本発明の第2実施形態に係る電磁界検出回路の概略図である。図9は、図8の電磁界検出回路の電磁界検出素子と電界発生源との関係を具体的に示す斜視構成図である。図8に示すように、本実施形態に係る電磁界検出回路200は、電磁界検出センサ201と、位相制御回路202とを備えている。
電磁界検出センサ201は、第1実施形態における電磁界検出センサ101とほぼ同構成であるが、磁界発生源の代わりに電界発生源としての金属板203を用いている点が異なっている。具体的には、図9に示すように、電磁界検出素子50の絶縁層54上部(図9中のZ方向)に、電界Eを発生させる電界発生源である金属板203が配設されている。尚、図示していないが、金属板203と電極55、56とは絶縁体を介して絶縁されている。金属板203は、電気伝導度の高い物質(Au、Ag、又はCu)からなる。また、位相制御回路202によって、金属板203に印加される電圧Vを制御できるようになっている。
また、図9に示すように、絶縁層54の上部に金属板203を配置した場合、金属板203に印加する電圧Vによって電界Eが、金属板203の周囲に発生し、絶縁層52、53、54に図9中のZ軸方向に略並行に磁界Eが印加される。印加された電界Eは絶縁層52、53、54中でのスピン軌道相互作用を通じて、絶縁層52、53、54中のバンド構造に変化を与え、それがベクトルポテンシャル変化を与える。このように構成する理由は以下の通りである。通常、所望の測定すべき電磁界以外に、電磁界検出素子50の絶縁層52、53、54や、電極55,56それぞれの界面で発生する電界の影響や、外因的な漏洩電磁界の影響によりバリスティック電子に位相変化が生じる。したがって、この位相変化をキャンセルするために、新たに金属板203を設け、印加された電界Eにより、2つの絶縁層52、54を貫通する電子の位相に変化を与え、外因的な要因からの位相シフトを制御することによって、外部電磁界の検出効率を改善するものである。
ここで示した位相シフト制御用の金属板203は、外因的な要因からの位相シフトに応じて、2つの電子位相差を制御できるように配置される。
位相制御回路202は、第1実施形態における位相制御回路102とほぼ同構成であるが、V/I変換器111、112の代わりに、金属板203に電圧Vを印加する電圧発生回路211を用いている点が異なっている。
次に、電磁界検出回路200の動作について説明する。まず、電磁界検出素子50に基準抵抗204を介して定電圧電源回路205から所望の定電圧を印加する。このとき、電磁界検出素子50からの検出信号は、基準抵抗204の電圧として検出される。この検出信号は信号増幅器206により増幅され、ロックイン検出器207を介して出力端子208に出力される。位相シフト制御を行う場合には、位相制御回路202が用いられる。具体的には、スイッチ213がオンになり、周波数f0の変調信号用発信器209の信号が電圧発生回路211により電圧Vに変換され、電圧Vが電界発生源203に印加されることにより、変調電界Eを発生する。発生した電界Eを電磁界検出素子50が検出し、ロックイン検出器207によって電磁界検出素子40から発せられた検出信号の周波数f0成分の信号増幅を行う。増幅された検出信号は、ホールド回路214に入力され、検出信号の最大値がモニタリングされる。次に、周波数f0よりも低い周波数f1の変調信号用発信器210から三角波の信号がホールド回路214に入力され、この入力された三角波信号は、抵抗216を介して電圧発生回路211により電圧Vに変換される。金属板203には、ロックイン検出器207からの信号とホールド回路214からの三角波信号とを重畳した信号に対応した電圧Vが発生する。これにより、金属板203から電界Ecが発生する。そして、ホールド回路214は、周期1/f1内でロックイン検出器207からの検出信号が最大になる三角波の位相を検出し、その位相の電圧値をホールドする。スイッチ回路215は、ホールド回路214からのホールド信号により、変調信号用発信器210をオフ状態にする。ホールド回路214からのホールド信号は、電圧発生回路211により電圧Vに変換され、ホールド信号に対応した位相シフト電界Epが金属板203から発生する。これにより、外部電磁界検出を行う場合に、電磁界発生素子50の検出感度が最大になる。
本実施形態の電磁界検出回路200によれば、金属板203が発生した電界が絶縁層53や絶縁領域における物質中でのスピン軌道相互作用を通じて物質中のバンド構造に変化を与え、ベクトルポテンシャルを変化させるので、電流経路を通過するキャリアの位相をシフトさせることができる。その結果として、電磁界検出素子50における外部電磁界の検出効率を改善することができる。さらに、位相制御回路202を用いることによって、電磁界検出素子50の検出感度を最大化することができる。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る電磁界検出回路について説明する。なお、第1実施形態と同様の部分には十の位が6であり且つ一の位が同じ符号を付け、その説明を省略することがある。また、本実施形態における符号301、302、304〜306が付されている部位は、第1実施形態の符号101、102、104〜106の部位と同様の部位であるため、これらについてもその説明を省略することがある。
図10は、本発明の第3実施形態に係る電磁界検出回路の概略図である。図11は、図10の電磁界検出回路の電磁界検出素子と半導体レーザー素子との関係を具体的に示す斜視構成図である。図10に示すように、本実施形態に係る電磁界検出回路300は、電磁界検出センサ301と、位相制御回路302とを備えている。
電磁界検出センサ301は、第1実施形態における電磁界検出センサ101とほぼ同構成であるが、磁界発生源の代わりに、電磁波発生源である半導体レーザー素子303と、光検出素子317と、レーザー駆動回路318と、レーザー駆動電流出力回路319とを用いている点が異なっている。
半導体レーザー素子303は、駆動電源からの入力端子320と接続されており、レーザー光発振を実現するための分布型ブラッグ反射器303a、303bをレーザー光発振方向(図11におけるY軸方向)の両端部付近に有するレーザー光発振部303cと、レーザー光発振部303cに電流を注入するための電極303d、303eとを備えている。図11に示すように、レーザー光発振部303cは、半導体レーザー素子303の活性領域303fから発振されるレーザー光が電磁界検出素子60の絶縁層62、63、64に伝播するように、また、基板61上において2つの電極65、66によって挟まれた位置に形成されている。電極303dは、レーザー光発振部303cの側面付近において、レーザー光発振部303cに沿って基板61上に形成され、電極303eは、レーザー光発振部303cの上面に形成されている。ここで、図示していないが、電磁界検出素子60と半導体レーザー素子303との間は、電極65、66や電極303d、303eと絶縁状態を維持するために絶縁体でコーティングされている。なお、分布型ブラッグ反射器303a、303bの代わりに切り出し端面(図11中のY軸方向から見たときの半導体レーザー素子303の端面)側に反射膜が形成されていてもよい。
このような半導体レーザー素子303から発振されるレーザー光が、絶縁層62、63、64の全体又は一部においてキャリアを励起し、電子・正孔対が生成される。これによって、電子・正孔対が電界を発生するため、絶縁層62、64を絶縁破壊させるために電極65、66に印加すべき電界を低減できる。また、半導体レーザー素子303から発振されたレーザー光が発生させるキャリア励起により、絶縁層62、63、64の全体又は一部において誘電率変化が引き起こされ、絶縁層62、63、64内部の電界が変化するので、バリスティック電子の位相がレーザー光の強度に応じて変化し、電気移動度の変化として現れる。従って、半導体レーザー素子303から発生するレーザー光のパワーをモニタリングすることができる。レーザー光の強弱により、電子位相の制御も可能となる。
電磁界検出センサ301の符号307〜311、313〜316の各部位は、第1実施形態における電磁界検出センサ201の符号207〜211、213〜216の各部位と同構成であるので、その説明を省略する。
次に、電磁界検出回路300の動作について説明する。まず、電磁界検出素子60に基準抵抗304を介して定電圧電源回路305から所望の定電圧を印加する。このとき、電磁界検出素子60からの検出信号は、基準抵抗304の電圧として検出される。この検出信号は信号増幅器306により増幅され、ロックイン検出器307を介して出力端子308に出力される。位相シフト制御を行う場合には、位相制御回路302が用いられる。具体的には、スイッチ313がオンになり、周波数f0の変調信号用発信器309の信号が電圧発生回路311により電圧Vに変換され、この電圧Vがレーザー駆動回路318に入力される。入力された電圧Vにしたがって、レーザー駆動電流出力回路319が半導体レーザー素子303に電流を流す。半導体レーザー素子303からの発光は、光検出素子317によって検出され、レーザーパワーが電流として変換され、レーザー駆動回路318に入力される。レーザー駆動回路318は光検出素子317からの電流から、電圧発生回路311からの電位Vに対応した所望のレーザーパワーになるようにフィードバック制御される。レーザーパワーの安定化が行われる時間tsの場合、周波数f0は1/tsよりも十分低くなるように調整する。半導体レーザー素子303からの発光を電磁界検出素子60が検出し、検出信号はロックイン検出器307によって周波数f0成分の信号増幅を行う。増幅された検出信号は、ホールド回路314に入力され、検出信号の最大値がモニタリングされる。次に、周波数f0よりも低い周波数f1の変調信号用発信器310から三角波の信号がホールド回路314に入力され、この入力された三角波信号は、抵抗316を介して電圧発生回路311により電圧Vに変換される。したがって、半導体レーザー素子303には、ロックイン検出器307からの信号とホールド回路314からの三角波信号とを重畳した信号に対応した電圧Vが印加される。これにより、半導体レーザー素子303からレーザー光が発生する。そして、ホールド回路314は、周期1/f1内でロックイン検出器307からの検出信号が最大になる三角波の位相を検出し、その位相の電圧値をホールドする。スイッチ回路315は、ホールド回路314からのホールド信号により、変調信号用発信器310をオフ状態にする。ホールド回路314からのホールド信号は、電圧発生回路311により電圧Vに変換され、ホールド信号に対応した位相シフトレーザー光が半導体レーザー素子303から発生する。これにより、外部電磁界検出を行う場合に、電磁界発生素子60の検出感度が最大になる。
本実施形態の電磁界検出回路300によれば、半導体レーザー素子303から発せられるレーザー光がベクトルポテンシャルを変化させるので、電流経路を通過するキャリアの位相をシフトさせることができる。これを利用すると、半導体レーザー素子303から発生するレーザー光のパワーをモニタリングすることができる。また、半導体レーザー素子303が発生したレーザー光が絶縁領域中のキャリアを励起し、電子正孔対が生成されると、絶縁領域を低電圧で絶縁破壊させることが可能となる。その結果として、電磁界検出素子60における外部電磁界の検出効率を改善することができる。さらに、位相制御回路302を用いることによって、電磁界検出素子60の検出感度を最大化することができる。
<第3実施形態の変形例1>
ここで、第3実施形態の変形例1について説明する。ここでは、光検出素子を用いずに、電磁界検出素子の検出信号を用いて、半導体レーザー素子のレーザーパワー制御及びレーザー光検出に伴う位相制御を行う場合について説明する。なお、第1実施形態と同様の部分には十の位が7であり且つ一の位が同じ符号を付け、その説明を省略することがある。また、本実施形態における符号401、402、404〜406が付されている部位は、第1実施形態の符号101、102、104〜106の部位と同様の部位であるため、これらについてもその説明を省略することがある。図12は、本発明の第3実施形態の変形例に係る電磁界検出回路の概略図である。本変形例に係る電磁界検出回路400は、電磁界検出センサ401と、位相制御回路402とを備えている。
電磁界検出センサ401は、第3実施形態における電磁界検出センサ301とほぼ同構成であるが、光検出素子317を用いていない点で異なる。
位相制御回路402は、第3実施形態における位相制御回路302とほぼ同構成であるが、ホールド回路414とレーザー駆動回路318とが直接接続されている点が異なる。また、図示していないが、第1又は第2実施形態で述べた位相制御回路が存在し、レーザー光の検出の前に、第1又は第2実施形態で述べた位相制御回路により、電磁界発生素子70の検出感度が最大になるようにすでに位相制御がなされている点が異なる。なお、電磁界検出センサ401の符号407〜411、413〜416の各部位は、第1実施形態における電磁界検出センサ201の符号207〜211、213〜216の各部位と同構成であるので、その説明を省略する。
次に、半導体レーザー素子403のレーザーパワー制御について説明する。まず、電磁界検出素子70に基準抵抗404を介して定電圧電源回路405から所望の定電圧を印加する。このとき、電磁界検出素子70からの検出信号は、基準抵抗404の電圧として検出される。この検出信号は信号増幅器406により増幅され、ロックイン検出器407を介して出力端子408に出力される。入力端子421から、所望のレーザーパワーに対応した電圧Vがレーザー駆動回路418に入力される。入力された電圧Vにしたがって、レーザー駆動電流出力回路419が、駆動電源の入力端子420と接続されている半導体レーザー素子403に電流を流す。半導体レーザー素子403からの発光は、電磁界検出素子70によって検出され、検出信号が、ホールド回路414を経由して、電圧発生回路411により所望の電圧Vに変換され、電圧Vがレーザー駆動回路418に入力される。このとき、レーザー駆動回路418は、信号により電磁界検出素子70からの検出信号をそのままレーザー駆動回路418に流すようにホールド回路414へ信号を出している。レーザー駆動回路418において、入力端子421からの信号と電磁界検出素子70からの検出信号とから、偏差を示す信号が演算され、偏差信号が増幅された後、この増幅信号がレーザー駆動電流出力回路419に入力され、入力端子421からの信号に対応する設定レーザーパワーになるようにフィードバックが行われる。レーザーパワーの制御が完了した後は、レーザー駆動回路418は、ホールド回路414への信号を停止する。以上の手順により、電磁界検出素子70を用いて、所望するレーザーパワーを出力できるレーザーパワー制御が実現する。
レーザーパワー制御の後に、位相シフト制御を行う場合には、位相制御回路402が用いられる。具体的には、スイッチ413がオンになり、周波数f0の変調信号用発信器409の信号が電圧発生回路411により所望の電圧Vに変換され、この電圧Vがレーザー駆動回路418に入力される。入力された電圧Vにしたがって、レーザー駆動電流出力回路419が半導体レーザー素子403に電流を流す。ここでは、半導体レーザー素子403に、半導体レーザー素子403の闘値電流よりも大きな値に変調した電流を流してレーザー光発振させる。半導体レーザー素子403からの発光は、電磁界検出素子70によって検出され、レーザーパワーが電流として変換され、レーザー駆動回路418に入力される。レーザー駆動回路418は光検出素子417からの信号から、所望のレーザーパワーになるようにフィードバック制御される。レーザーパワーの安定化が行われる時間tsの場合、周波数f0は1/tsよりも十分低くなるように調整する。半導体レーザー素子403からの発光を電磁界検出素子70が検出し、検出信号はロックイン検出器407によって周波数f0成分の信号増幅を行う。増幅された検出信号は、ホールド回路414に入力され、検出信号の最大値がモニタリングされる。次に、周波数f0よりも低い周波数f1の変調信号用発信器410から三角波の信号がホールド回路414に入力され、この入力された三角波信号は、抵抗416を介して電圧発生回路411により電圧Vに変換される。したがって、半導体レーザー素子403には、ロックイン検出器407からの信号とホールド回路414からの三角波信号とを重畳した信号に対応した電圧Vが印加される。これにより、半導体レーザー素子403からレーザー光が発生する。そして、ホールド回路414は、周期1/f1内でロックイン検出器407からの検出信号が最大になる三角波の位相を検出し、その位相の電圧値をホールドする。スイッチ回路415は、ホールド回路414からのホールド信号により、変調信号用発信器410をオフ状態にする。ホールド回路414からのホールド信号は、電圧発生回路411により電圧Vに変換され、ホールド信号に対応した位相シフトレーザー光が半導体レーザー素子403から発生する。これにより、外部電磁界検出を行う場合に、電磁界発生素子70の検出感度が最大になる。
本変形例によれば、半導体レーザー素子403から発せられるレーザー光がベクトルポテンシャルを変化させるので、電流経路を通過するキャリアの位相をシフトさせることができる。その結果として、電磁界検出素子70における外部電磁界の検出効率を改善することができる。また、位相制御回路402を用いることによって、電磁界検出素子70の検出感度を最大化することができる。さらに、光検出素子を用いないので、第3実施形態の電磁界検出回路300に比べ、簡易な構成とできる。
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係る電磁界検出回路(図示せず)と、この電磁界検出回路と接続されている磁気記録再生ヘッドについて説明する。なお、第1実施形態と同様の部分には十の位が8であり且つ一の位が同じ符号を付け、その説明を省略することがある。
図13は、本発明の第4実施形態に係る電磁界検出回路と接続されている磁気記録再生ヘッドを示す正面構成図である。図13に示すように、磁気記録再生ヘッド500は、基板81上に形成されている電磁界発生素子501と、絶縁層502を介して電磁界発生素子501上に形成されている電磁界検出素子80とを備えている。
電磁界発生素子501は、絶縁体503を挟み込むように形成された一対の電極504、505と、電極504、505に跨るように形成された薄肉の導体層506と、基板81上においてY軸方向に第3実施形態と同じように配置され、かつ、同構成の半導体レーザー素子(図13においては各素子の裏側になるので図示せず)とを備えている。電磁界検出素子80は、絶縁層82、83、84と、電極85、86とを備えている。
電極504、505と導体層506は、電気伝導率が高い金属またはカーボンナノチューブで構成されている。特に、高周波応答性を考える上で非磁性金属であるAu、Pt、Ag、Cu、Al、Ti、W、Ir、Pdなどが用いられる。また、図示しないが、電極504、505と導体層506との界面及び電極504、505、導体層506と他の絶縁体部位との界面には、Zn、Ti、Cr、Alなどから構成される密着層が形成されている。
図13中のAw、Ahは、半導体レーザー素子(図示せず)の活性領域の幅と高さを示しており、点線で囲まれる領域にレーザー光が伝播するように構成されている。電極504、505の間にはギャップGがあいており、ギャップGは透明な絶縁体503で埋め込まれている。Gは200nm以下であり、導体層506の幅(図13中のY軸方向長さ)は400nm以下である。また、導体層506がAuからなる場合、導体層506の断面積(X軸に垂直な切断面)は6400nm2程度より大きく形成される。断面積が、6400nm2より小さくなると、電流iが流れた時に発生するジュール熱で導体層506が発熱融解してしまうからである。なお、他の導電材料では、Auの断面積と同等か、さらに大きい断面積とする。
次に、図14を用いて、電磁界発生素子501による電磁界の発生原理を説明し、併せて電磁界検出素子80の動作についても説明する。電極505から導体層506を介して電極504に電流iを流した場合、導体層506のギャップGに対応する部位で磁界Bが発生する。また、導体層506に電位Vを印加した場合には、導体層506の周辺に電界が発生する。また、半導体レーザー素子からレーザー光が照射された場合、導体層506のギャップGに対応する部位で近接場NFが発生する。ここで、近接場の発生原理について説明する。金属(ここでは導電層506)と誘電体物質(ここでは絶縁層502、503)との界面に電磁波(近赤外から可視光領域のもの)が照射されると、その界面に金属中の電荷による疎密波が発生し、照射した電磁波とカップリングする。この状態では、上記界面に電磁波が閉じ込められ、界面に対して垂直方向には伝播できなくなる。このような状態を近接場が発生している状態という。ここでの近接場とはエバネッセント波、表面プラズモン、表面プラズモンポラリトン、局所表面プラズモンポラリトンなどを総称している。従って、電磁界発生素子501からの、磁界B、電界E、近接場NFによって、電磁界検出素子80内の2つのバリスティック電子の位相差を制御することができる。また、電磁界検出素子80において、レーザー光による絶縁層82、83、84でのキャリア励起と同様に、近接場NFによってもキャリア励起に伴う電子・正孔対生成により絶縁層82、83、84の全体又は一部の誘電率の変化を引き起こし、絶縁層82、83、84内部の電界が変化することで、バリスティック電子の位相が変化し電気伝導度の変化として現れる。従って、電磁界検出素子80によって、電磁界発生素子501から発生する近接場NFのパワーをモニタリングすることができる。なお、レーザー光を照射するのは、絶縁層82、83、84のうちのいずれか1つであってもよい。また、絶縁層503が透明な材料からなるものであれば、絶縁層503と金属材料からなる導電層506との界面での近接場の減衰が抑えることができる。
本実施形態によれば、電磁界発生素子501によって情報記録媒体上に記録した電磁界情報を、電磁界検出素子80によって高感度で検出できる。したがって、例えば1Tb/inch2を超えた高記録面密度に対応した電磁界情報の記録及び再生が可能な磁気記録再生ヘッド500が得られる。また、電磁界発生素子501を用いることで、電磁界発生素子501から発生する電界E・磁界B・近接場NFにより、電磁界検出素子80の位相の制御が可能となり、電磁界検出素子80による電界E・磁界B・近接場NFの検出感度が改善される。
なお、本実施形態での電磁界検出回路について、位相制御回路以外は、第1実施形態と同様である。本実施形態での位相制御回路については、前述の第1実施形態から第3実施形態で挙げた位相制御回路を用いたり、組み合わせたりすることで実現できる。
<第4実施形態の変形例>
次に、第4実施形態の磁気記録再生ヘッドの変形例について説明する。なお、第1実施形態と同様の部分には十の位が9であり且つ一の位が同じ符号を付け、その説明を省略することがある。
図15は、本発明の第4実施形態の磁気記録再生ヘッドの変形例を示す正面構成図である。図15に示すように、磁気記録再生ヘッド600は、基板91上に形成されている電磁界検出素子90と、絶縁層602を介して電磁界検出素子90上に形成されている電磁界発生素子601とを備えている。
電磁界検出素子90は、基板91上に形成されている絶縁層92、83、84と、電極85、86とを備えている。電磁界発生素子601は、絶縁層602の上に形成された導体層606と、導体層606及び絶縁層602の上において、絶縁体603を挟み込むように形成された電極604、605と、基板91上においてY軸方向に第3実施形態と同じように配置され、かつ、同構成の半導体レーザー素子(図15においては各素子の裏側になるので図示せず)とを備えている。
上記構成であれば、第4実施形態と同様の作用・効果を得ることができるとともに、基板91に結晶基板を用いて、電磁界検出素子90を形成することができるため、絶縁層92、93、94の各層が結晶性の物質で構成される場合、結晶性が改善され絶縁破壊電界の増加や、電子の伝導度が改善されるといった効果をも奏することができる。
<第1参考実施形態>
次に、本発明の第1参考実施形態に係る情報記録再生装置について説明する。図16は、本発明の第1参考実施形態に係る情報記録再生装置の主要部の構成を示す斜視図である。図17は、図16に示す情報記録再生装置の情報記録再生ヘッド付近の拡大斜視図である。図18は、図16に示す情報記録再生装置の情報記録再生ヘッドが情報記録媒体に対して行う電磁界情報の記録・再生の動作を説明するための図である。
情報記録再生装置700は、移動手段であるアクチュエータ701によって移動するアーム702と、アーム702によって支持されているスライダ703と、スライダ703に取りつけられている情報記録再生ヘッド800と、情報記録再生ヘッド800によって、電磁界情報の記録・再生がなされる情報記録媒体704とを備えている。
情報記録再生ヘッド800は、図17、図18に示すように、第4実施形態で説明した情報記録再生ヘッド500と同構成のものであり、基板806の上に形成された半導体レーザー素子802及び電磁界発生素子803と、電磁界発生素子803の上に絶縁層805を介して形成されている電磁界検出素子804とを備えている。導電層803cを介して電気的に接続されている電磁界発生素子803の電極803a、803bと、半導体レーザー素子802の電極802a、802bと、電磁界検出素子804の電極804a、804bとがそれぞれフレキシブルケーブルの細線が接続されている。電磁界検出素子804は、第4実施形態で説明した情報記録再生ヘッド500と同構成の絶縁層804c、804d、804eを有している。
図17に示すように、スライダ703の下部には、エアーベアリング構造801が形成されており、回転する情報記録媒体704の記録面704aを滑走する。情報記録再生ヘッド800と記録面704aとの距離(フライングハイト)は、100nm以下に設定されている。また、スライダ703は、移動手段であるアクチュエータ701によって情報記録媒体704の記録トラックを走査する。
情報記録媒体704は、ハードディスクドライブに用いられている一般的な磁気記録媒体であり、例えば、CoCrPt系磁気記録媒体、希土類遷移金属磁気記録媒体あるいはFePt系磁気記録媒体などである。または、RhFe系などの反強磁性物質で構成された磁気記録媒体でも良い。または、熱による相変化を生じる媒体であっても良い。
次に、本実施の形態の情報記録再生ヘッド800が情報記録媒体704に対して、記録または再生する動作原理について、図18を用いて説明する。
まず、記録時の動作原理について説明する。第4実施形態でも説明したように、情報記録再生ヘッド800の半導体レーザー素子802からレーザー光が電磁界発生素子803の導体層803cに照射されギャップ周辺に近接場を発生する。発生した近接場によって、情報記録媒体704が局所的に加熱される。情報記録媒体704が保磁力の大きな磁性体で構成される場合、局所加熱した情報記録媒体704の部位では保磁力が減少する。同時に導体層803cに電流iを流すことにより、情報記録媒体704の保磁力以上の磁界Bを印加することで、近接場アシスト磁気記録が行われる。また、図18において、電磁界発生素子803に対して、情報記録媒体704が紙面左に向かって移動する場合、近接場アシスト垂直磁気記録が行われる。逆に、電磁界発生素子803に対して、情報記録媒体704が紙面右に向かって移動する場合、近接場アシスト斜め磁気記録が行われる。また、常温で情報記録媒体704の保磁力よりも、発生磁界が強い場合は、通常の磁気記録を行っても良い。情報記録媒体704が相変化媒体で構成される場合、近接場の発生による情報記録媒体704の局所加熱によって、相変化記録を行う。以上のように、電磁界発生素子803により、情報記録媒体704に記録が実現される。
次に、再生時の動作原理について説明する。電磁界検出素子804に所望の高電界が印加され、2つのバリスティック電子の経路が生成される。図19は、図18に示す情報記録媒体704の情報記録トラック704b上に記録された磁気記録ビット704cが、電磁界検出素子804付近を通過した場合の電磁界検出の様子を説明するための図である。図19では、垂直磁気記録媒体を例に用いて説明する。情報記録トラック704bには、図19紙面に対し垂直であって、磁化の向きが反平行の磁気記録ビット704cが交互に並んでいる。また、この磁気記録ビット704cによるベクトルポテンシャルが点線矢印で示されている。最も上の磁気記録ビット704cにおいては、紙面表面に向けて磁化が向き、左回りのベクトルポテンシャルが形成されている。図19(A)左図のようにバリスティック電子の経路e1の進行方向がベクトルポテンシャルと反対向きで経路e2の進行方向がベクトルポテンシャルと同じ向きである場合、2つのバリスティック電子間で位相変化が生じる。2つのバリスティック電子間の位相差は2πΔΦ/Φ0となる。ここで、Φ0は磁束量子、ΔΦは2つのバリスティック電子の経路に挟まれる領域での磁束量である。このとき電磁界検出素子800の電気伝導度Fは位相差分だけ減少する(図19(A)の中央図)。
図19(B)左図のようにバリスティック電子の経路e1、e2の進行方向のいずれもベクトルポテンシャルと直交している場合、2つのバリスティック電子間で位相変化が生じない。したがって、電磁界検出素子800の電気伝導度Fは減少しない(図19(B)の中央図)。
図19(C)左図のようにバリスティック電子の経路e1の進行方向がベクトルポテンシャルと同じ向きで経路e2の進行方向がベクトルポテンシャルと反対向きである場合、2つのバリスティック電子間で位相変化が生じる。2つのバリスティック電子間の位相差は、図19(A)の場合とは逆に−2πΔΦ/Φ0となる。2つのバリスティック電子の経路に挟まれる領域での磁束量は−ΔΦとなる。このとき電磁界検出素子800の電気伝導度Fは、図19(A)の場合と同じ量だけ減少する(図19(C)の中央)。ただし、両者間で磁束量Φすなわち位相差の正負が互いに異なるので、図19(A)の中央図と図19(C)の中央図とでは変化の方向が逆となっている。
ここで、外部の磁界B、電界E、絶縁層804dの透磁率μ、誘電率εを変化させ、2つのバリスティック電子間に同じ位相シフトを導入することで、磁束量をΦ+θとする。θ(B、E、μ、ε)は、磁界B、電界E、透磁率μ、誘電率εの関数となっている。例えば図6、図8、図10又は図12に示したような位相制御回路を用いて位相制御を行うことで、電磁界検出素子804の電磁界検出感度を最大にすることができる。位相制御前においては、図19(A)、(B)、(C)の各中央図を見比べると分かるように、これらの間での電気伝導度F同士の差異は比較的小さく、図19(A)の中央図と図19(C)の中央図とを比べると分かるように、これら2つの電気伝導度Fは同じである。これに対して、磁束量がΦ+θとなると、θ>0の場合は、磁気記録ビットと逆位相の再生(磁気記録ビットの信号の極性(正負)が反転した極性(負正)で再生)が行われ、θ=π/2の時に検出感度が最大になる。つまり、図19(A)、(B)、(C)の各右図を見比べると分かるように、これらの間での電気伝導度F同士の差異は比較的大きく、図19(A)の右図と図19(C)の右図とを比べると分かるように、これら2つの電気伝導度Fの差は最大値となっている。したがって、このときの電気伝導度をモニタリングすることで、磁気記録ビットの情報を検出すれば高精度の検出が可能である。同様に、θ<0の場合は、磁気記録ビットと同位相の再生が行われ、θ=−π/2の時に検出感度が最大になる。
ここでは、磁気記録について取り上げたが、電磁界検出素子804は原理的にはベクトルポテンシャルを直接検出するため、磁界以外の電界や近接場も検出できる。従って、情報記録媒体704が相変化記録媒体で構成される場合、相変化記録媒体の磁気記録ビット704cの電界Eの検出や、電磁界発生素子803から発生した近接場が磁気記録ビット704cで反射した近接場を電磁界検出素子804により検出できる。電磁界検出素子804と情報記録トラック704bとの配置に関しては、任意の角度で配置されても検出が可能である。以上のことから、2つのバリスティック電子の経路に挟まれる領域のサイズを25nm平方のサイズにすれば、1Tb/inch2を超えた記録面密度に対応した電磁界情報を検出することができる記録または再生を行う情報記録再生ヘッドを提供することができる。
次に、情報記録再生装置700の動作について説明する。図20は、情報記録再生装置700の記録・再生の動作を説明するための概略ブロック図である。
情報記録再生装置700は、さらに上位装置から記録または再生を制御する記録再生制御端子901と、上位装置から記録データが入力される入力端子902と、上位装置へ再生データを出力する出力端子903とを有している。また、記録再生制御端子901に接続され、記録または再生を制御する記録再生制御部904と、入力端子902に接続され、記録データを記録信号化するデータ記録部905と、出力端子903に接続され、再生信号を符号化するデータ再生部906とを有している。さらに、半導体レーザー素子802を備えているレーザー発光部907と、レーザー駆動部908と、電磁界発生素子803を備えている電磁界発生部909と、電流・電圧制御部910と、電磁界検出素子804を備えている電磁界検出部911とを有している。
記録再生制御部904は、データ記録部905、データ再生部906、レーザー発光部907のレーザー駆動電流を制御するレーザー駆動部908、データ記録部905からの記録信号に従って記録磁界を発生させる電磁界発生部909へ流す電流を制御する電流・電圧制御部910に接続されている。電磁界検出部911は、記録再生制御部904からの指示により、レーザー発光部907からのレーザー光、あるいは電磁界発生部909から発生する近接場を受光し、記録再生制御部904へレーザー光強度の検出信号を記録再生制御部904に出力し、記録再生制御部904はレーザー光強度または電磁界発生部909から発生する近接場を一定にするようにレーザー駆動部908を制御する。また、電磁界検出部911は、情報記録媒体704と電磁界発生部909から発生する近接場との相互作用による強度変化を検出し、検出結果をデータ再生部906に出力する。
通常の磁気記録の場合は、電流・電圧制御部910は、データ記録部905からの記録信号および記録再生制御部904からの指示により、電磁界発生部909に対して記録データに応じた電流を発生させる。これにより、情報記録媒体704に情報記録を行う。近接場アシスト磁気記録の場合は、通常磁気記録の場合の手順に加え、記録再生制御部904からの指示により、レーザー駆動部908が制御され、レーザー発光部907が所望の強度のレーザー光が発生し、電磁界発生部909に近接場が発生することで、情報記録媒体704が局所的に加熱され、過熱された領域でのみ近接場アシスト磁気記録が実現され情報記録を行われる。また、近接場NFによる相変化記録の場合、データ記録部905からの記録信号から記録再生制御部904が、レーザー駆動部908に指示を出し、レーザー発光部907が所望の強度のレーザー光が発生し、電磁界発生部909に近接場が発生することで、情報記録媒体704が局所的に加熱され、過熱された領域でのみ相変化記録が行われる。
再生の前段階として、電磁界の検出感度を最大にするために、前述の位相制御回路を用いて電磁界検出部911でのバリスティック電子に対して所望の位相シフトを行う。再生時は、記録再生制御部904からの指示で、電磁界発生部909から所望の磁界もしくは電界、あるいは、近接場が発生する。情報記録媒体704の記録マークのからの電磁界情報を電磁界検出部911が検出し、データ再生部906に再生信号を出力する。データ再生部906は、記録再生制御部904からの指示で、再生信号より、再生データに変換し出力端子903に再生データ出力させる。
本実施形態によれば、基板806に形成された情報記録再生ヘッド800がスライダ703と一体化されており、従来の磁気ヘッドと類似のプロセスが利用できるため生産性が向上する。さらに、それぞれの素子の端子が、スライダ703と一体化した基板806上に形成されるので、外部への端子のアクセスが容易になり生産性が向上する。また、情報記録媒体704の所望の位置に情報記録再生ヘッド800を移動することができ、1Tb/inch2を超えた記録面密度に対応したナノサイズの領域での電磁界情報を記録、再生できるので、1Tb/inch2を超えた高密度情報記録再生装置を提供することができる。
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、電磁界検出素子10の変形例1、2の電磁界検出素子のいずれかを第1〜第3実施形態の各電磁界検出素子の代わりに用いてもよい。また、第1〜第3を組み合わせた電磁界検出回路としてもよい。また、上述した実施形態では一対の電極の対向面が3つの絶縁層の表面と直交しているが、一対の電極の対向面が3つの絶縁層の表面と平行であってもよい。