JP2007131076A - バッテリ状態診断装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 車両状態を変化させることなく電動モータに通電してバッテリの状態を精度よく診断する。
【解決手段】 イグニッションスイッチ80のオフ操作から所定期間経過後に電動パワーステアリング装置1の電動モータ15に徐々に通電し、その通電量とそれに応じて変動するバッテリ検出電圧とに基づいてバッテリ60の劣化状態を診断する。この場合、電動モータ15をブラシレスDCモータで構成し、そのd−q座標系におけるd軸電機子電流Idのみ流すことで電動モータ15が回転しないようにして安全を図る。また、回転子の永久磁石が減磁しないように、モータ検出温度に応じてd軸電機子電流の上限値Idmaxを設定する。
【選択図】 図3

Description

本発明は、車両に設けられた車両状態制御装置に電源供給するバッテリの状態を診断するバッテリ状態診断装置に関する。
従来から、車載バッテリから電源供給される車両状態制御装置の1例として電動パワーステアリング装置が知られている。この電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドルの操舵状態に応じて電動モータへの通電量を制御して操舵トルクを与える装置であるが、電力消費量がかなり高い。そのため、バッテリの能力が低下した場合には(以下、劣化と呼ぶ)、操舵トルクを発生させる電動モータへの通電量が制限されて所定の操舵トルクが得られなくなったり、同時に作動する他の電気制御システムへの電源電圧の低下を招くおそれがある。
従って、こうした状況になる前にバッテリ劣化を事前に検知し、運転者に対してバッテリ交換を促すようにすることが重要である。
車載バッテリの劣化を検出する装置として、例えば、特許文献1に示される電動ステアリング装置では、車輪を転舵する2組の電動モータを備え、バッテリからこの電動モータに大電流を流したときのバッテリ端子電圧の降下量に基づいてバッテリ状態を診断するようにしている。
特開2005−28900
この特許文献1に示されるものでは、バッテリ状態の診断時に車輪が転舵されないようにするため、2組の電動モータのうちの一方を右転舵方向に駆動し、他方を左転舵方向に駆動するようにしている。
しかしながら、このようなバッテリ診断を行うためには、2組の独立した電動モータを必要とし、そうした構成を有さない一般的なシステムには適用できないという問題が存在する。
本発明の目的は、上記問題に対処するためになされたもので、複数の電動モータを備えない車両状態制御装置においても、車両状態を変化させることなく電動モータに通電してバッテリの状態を診断できるようにすることにある。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、電動モータと上記電動モータを駆動制御するモータ制御手段とを有して車両状態を制御する車両状態制御手段と、上記車両状態制御手段に電源供給するバッテリとを備えた車両に設けられ、上記バッテリから上記電動モータに通電したときの上記バッテリ電圧の変動状態に基づいて上記バッテリの状態を診断するバッテリ状態診断装置において、上記電動モータをブラシレスDCモータで構成するとともに、上記モータ制御手段は、上記バッテリ状態診断時においては、上記ブラシレスDCモータの回転子の永久磁石が作り出す磁束の作用軸となるd軸および上記d軸に直交したq軸からなるd−q座標系におけるd軸電機子電流のみ流し、q軸電機子電流を流さないように通電するd軸通電制御手段を備えたことにある。
上記のように構成した本発明によれば、バッテリ状態を診断するときには、d軸通電制御手段により、ブラシレスDCモータのd−q座標系におけるd軸上の電機子電流のみ流すため、回転トルクが発生しない。
一般に、永久磁石同期モータを構成するブラシレスDCモータのトルクは、d−q座標系において、電機子巻線鎖交磁束数とq軸電機子電流の積に比例し、d軸電機子電流の値に影響されない。
従って、ブラシレスDCモータのd軸電機子電流を流すことにより、車両状態を変更することなくバッテリから電流を引き出すことができる。そして、バッテリ状態診断装置は、このときのバッテリ電圧の変動状態に基づいてバッテリの状態を診断する。
この結果、従来装置のように複数の電動モータを組み合わせて通電制御しなくても、車両状態を変化させずにバッテリから電流を引き出してバッテリ状態を診断することができ、汎用性が極めて高いものとなる。
例えば、ブラシレスDCモータを3相同期式永久磁石モータで構成した場合、d軸通電制御手段は、d−q座標系における2相指令電流(Id*,Iq*)を3相の電機子電流(Iu,Iv,Iw)に変換する2相/3相変換手段と、モータに通電する電流の位相を決定するためのモータ回転角(磁石位置)検出手段とを備えるとよい。
また、例えば、バッテリ状態の診断は、バッテリから電動モータへの通電量(電流値)と、そのときのバッテリ電圧との測定値に基づいて行うとよい。
また、本発明の他の特徴は、上記d軸通電制御手段は、上記d軸電機子電流を所定の上限電流値以下に制限することにある。
ブラシレスDCモータにおいては、d軸電機子電流を流しすぎると、回転子に設けられた永久磁石が減磁してしまうが、本発明によれば、d軸電機子電流に上限値が設定されるため、そうした不具合を防止することができる。
また、本発明の他の特徴は、上記ブラシレスDCモータの温度を測定あるいは推定により検出する温度検出手段を備え、上記d軸通電制御手段は、上記検出された温度に応じて、上記上限電流値を設定することにある。
ブラシレスDCモータの回転子に設けられる永久磁石は、磁性体の種類により高温あるいは低音で減磁しやすくなる特性がある。例えば、希土類磁石では高温側で減磁しやすく、フェライト磁石では低音側で減磁しやすい。そこで本発明では、モータの温度を検出し、その検出温度に応じてd軸電機子電流の上限値を設定するため、精度よく減磁防止を図ることができる。
また、本発明の他の特徴は、上記車両状態制御手段は、操舵ハンドルの操舵状態に応じて、上記ブラシレスDCモータを駆動制御して操舵輪に対して所定の操舵力を付与する電動パワーステアリング装置であることにある。
電動パワーステアリング装置は、電動モータへの通電量が大きいため、バッテリ診断時において、大電流を流すことができ、十分なバッテリ診断を行うことができる。つまり、バッテリ診断を行うためには、バッテリからかなり大きな電流を引き出す必要があるが、もともと電動パワーステアリング装置では電動モータに大電流を流して作動するものであるためバッテリ診断に好適な負荷といえる。
しかも、一般に電動パワーステアリング装置は、電動モータへの通電量を精度よく制御するための電流センサを備えるため、この電流センサを有効利用してバッテリ状態を診断することができる。従って、電流センサを新たに設けなくてもよく、低コストでバッテリ状態の診断を行うことができる。
更に、バッテリ診断時に電動モータに通電しても電動モータは回転しないため、操舵トルクが発生せず、操舵ハンドルが回転してしまうことがない。この結果、運転者に対して安全にバッテリ状態の診断を行うことができる。
以下、本発明の一実施形態に係るバッテリ状態診断装置を備えた電動パワーステアリング装置について図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係る電動パワーステアリング装置を概略的に示している。
この電動パワーステアリング装置1は、大別すると、操舵輪へ操舵アシスト力を付与する操舵アシスト機構10と、操舵アシスト機構10の電動モータ15を駆動制御するアシスト制御装置30とから構成される。
操舵アシスト機構10は、操舵ハンドル11の回動操作に連動したステアリングシャフト12の軸線周りの回転をラックアンドピニオン機構13によりラックバー14の軸線方向の運動に変換して、このラックバー14の軸線方向の運動に応じて操舵輪である左右前輪FW1,FW2を操舵するようになっている。ラックバー14には電動モータ15が組み付けられている。電動モータ15は、その回転に応じてボールねじ機構16を介してラックバー14を軸線方向に駆動することにより、操舵ハンドル11の回動操作に対してアシスト力を付与する。電動モータ15には回転角センサ17が付設され、ステアリングシャフト12の下端部には操舵トルクセンサ20が組みつけられている。
回転角センサ17はレゾルバにより構成され、電動モータ15の回転角を検出して、検出した回転角を表す検出信号を出力する。操舵トルクセンサ20は、ステアリングシャフト12に介装されて上端および下端をステアリングシャフト12に接続したトーションバー21と、トーションバー21の上端部および下端部にそれぞれ組み付けられたレゾルバ22,23とからなる。レゾルバ22,23は、トーションバー21の上端および下端の回転角をそれぞれ検出して、検出した各回転角を表す検出信号をそれぞれ出力する。
アシスト制御装置30は、主要部をマイクロコンピュータにより構成される電子制御装置40と、電子制御装置40からの制御信号により電動モータ15を駆動制御するモータ駆動回路50とからなる。また、電子制御装置40は、その機能面からバッテリ診断部41とモータ制御部42とから構成される。
モータ制御部42は、回転角センサ17、操舵トルクセンサ20および車両の速度を検出する車速センサ28からの検出信号にもとづいて電動モータ15への通電量を決定し、モータ駆動回路50を制御して所定の操舵アシスト力を発生させる。また、後述するd軸電機子電流の上限値を設定するためにモータ温度センサ18が接続される。
一方、バッテリ診断部41は、モータ制御部42を介して電動モータ15に通電してバッテリ60の状態を診断するもので、その診断開始条件として車両状態をチェックするために、ドアの開閉を検知するドアスイッチ81、ドアのロックを検知するドアロックスイッチ82、イグニッションキーの挿脱を検出するキースイッチ83、および、診断結果を運転者に報知する報知器29を接続している。
モータ駆動回路50は、図2に示すように、3相インバータ回路を構成するもので、電動モータ15の各コイルCLu,CLv,CLwにそれぞれ対応したスイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32を有する。これらのスイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32は、本実施形態においてはMOSFETが用いられ、モータ制御部42からのPWM制御信号によりオン・オフ制御される。また、モータ駆動回路50には、電動モータ15に流れる電流値を検出する電流センサ53a、53b、53cが各相に設けられる。以下、この3つの電流センサ53a、53b、53cを合わせて電流センサ53と呼ぶ。
次に、電動モータ15および電動モータ15を駆動制御するモータ制御部42について詳述する。
本実施形態の電動モータ15としては、三相同期式永久磁石モータで構成したブラシレスDCモータが用いられる。この電動モータ15は、ハウジング内に固定されたステータを備え、ステータに巻かれたコイルCLu,CLv,CLwに3相電流(電機子電流)を流すことにより3相回転磁界を形成し、この3相磁界内を永久磁石を固着したロータが3相電流に応じて回転するものである。
モータ制御部42は、電動モータ15のコイルCLu,CLv,CLwに流す3相電流を制御するもので、図3に示すように、車速vおよび操舵トルクTRを入力するアシスト電流を演算してフィードバック制御部42cに指令するアシスト電流指令部42aを有する。
このアシスト電流指令部42aは、操舵トルクTRの増加にしたがって増加するとともに、車速vの増加にしたがって減少するアシストトルクに対応した2相指令電流(Id*,Iq*)を計算する。
尚、この2相指令電流(Id*,Iq*)は、図17の模式図に示すように、電動モータ15の回転子上の永久磁石MGが作り出す磁束と同一方向のd軸と、d軸に直交したq軸とからなるd−q座標系における電機子電流である。つまり、2相指令電流(Id*,Iq*)は、d−q座標系におけるd軸上のd軸電機子電流と、q軸上のq軸電機子電流とからなる指令電流となる。
3相同期式永久磁石モータを構成するブラシレスDCモータのトルクは、d−q座標系において、電機子巻線鎖交磁束数とq軸電機子電流の積に比例し、d軸電機子電流の値に影響されない。従って、アシスト制御中においては、回転トルクを発生するq軸電機子電流のみが流れるように通電指令され、d軸電機子指令電流Id*は「0」に設定される。
また、モータ制御部42は、後述するバッテリ状態診断制御時に電動モータ15に通電指令する診断電流指令部42bを備える。バッテリ状態診断制御は、後述するように電動モータ15に所定電流を通電してそのときのバッテリ電圧に基づいてバッテリ状態を診断するものであるが、その時に電動モータ15が回転しないように、診断電流指令部42bにおいては、d−q座標系において回転トルクを発生しないd軸電機子電流のみ通電するように2相指令電流(Id*,Iq*)を用いてフィードバック制御部42cに指令する。従って、この場合、q軸電機子指令電流Iq*は「0」となる。
また、d軸電機子電流を流した場合、回転子に設けられた永久磁石には反対向きの磁束が加わることになる。そのため、d軸電機子電流を流しすぎると永久磁石が減磁してしまう。しかも、永久磁石は、磁性体の種類により高温あるいは低音で減磁しやすくなる特性がある。例えば、ネオジウム等の希土類磁石では高温側で減磁しやすく、フェライト磁石では低音側で減磁しやすい。
そこで本実施形態においては、診断電流指令部42bは、電動モータ15の温度を検出するモータ温度センサ18の検出信号を取り込み、検出温度に応じてd軸電機子電流の上限値を設定する。例えば、永久磁石に高温側で減磁しやすい希土類磁石を採用している場合には、図16(A)に示すように検出温度に応じてd軸電機子電流上限値Idmaxが設定され、低音側で減磁しやすいフェライト磁石を採用している場合には、図16(B)に示すように検出温度に応じてd軸電機子電流上限値Idmaxが設定される。
モータ温度センサ18としては、電動モータ15のハウジングの温度やその雰囲気温度を検出する構成を採用してもよいが、そうした直接的な温度検出に代えて推定による検出であってもよい。例えば、外気温度を検出する外気温センサ、エンジンの吸気温度を検出する吸気温センサ、電子制御装置40の図示しない回路基板の温度を検出する基板温センサなど既存の温度センサを用いて、モータ温度検出に代えてもよい。また、これらの外気温センサ、吸気温センサ、基板温センサの各検出温度を取り込み、これらの検出温度の組み合わせからモータ温度を推定してもよい。
アシスト電流指令部42aおよび診断電流指令部42bからの指令信号は、フィードバック制御部42cに出力される。このフィードバック制御部42cには、電動モータ15のコイルCLu,CLv,CLwに流れる3相電流Iu,Iv,Iwの検出値を2相電流に変換した2相電流Id,Iqの検出値が入力される。電動モータ15に流れる3相電流Iu,Iv,Iwは電流センサ53により検出され、3相電流Iu,Iv,Iwから2相電流Id,Iqへの変換は、3相/2相変換部42fによって行われる。
この3相/2相変換のために、3相/2相変換部42fには、回転角センサ17により検出されたモータ回転角を電気角に変換する回転角変換部42gが接続されている。
フィードバック制御部42cは、電動モータ15のコイルCLu,CLv,CLwに流れる3相電流Iu,Iv,Iwをフィードバック制御するために、2相指令電流Id*,Iq*と2相検出電流Id、Iqとの偏差をあらわす差信号Id*−Id,Iq*−Iqを算出する。
そして、2相電流の差信号Id*−Id,Iq*−Iqは、2相/3相変換部42dにて3相の信号に変換されてPWM制御部42eに出力される。尚、この2相/3相変換のために、2相/3相変換部42dには回転角変換部42gからの電気角信号が入力される。
PWM制御部42eは、2相/3相変換部42dからの3相信号に基づいて、差信号Id*−Id,Iq*−Iqに対応したパルス幅変調(PWM)制御信号をモータ駆動回路50に出力する。
尚、このように構成されたモータ制御部42は、本実施形態においてはマイクロコンピュータのプログラムの実行により実現されるものであって、図3に示す構成は、その各機能をブロック図にて表したものである。
また、本発明のd軸通電制御手段は、診断電流指令部42b、フィードバック制御部42c、2相/3相変換部42d、PWM制御部42e、3相/2相変換部42f、回転角変換部42gにて構成される。
次に、バッテリ60の電源供給ラインの構成について図2を用いて説明する。
本実施形態で使用されるバッテリ60は、定格電圧12V仕様のものである。
このバッテリ60の電源端子(+端子)61に接続される電源供給元ライン62には、発電機としてのオルタネータ70が接続されるとともに、イグニッションスイッチ80を介して電動パワーステアリング装置1および他の電気制御システムESが接続される。
電動パワーステアリング装置1への電源供給ラインは、イグニッションスイッチ80の2次側(負荷側)に接続される制御電源供給ライン63と、イグニッションスイッチ80の1次側(電源側)に接続される駆動電源供給ライン64とからなる。
駆動電源供給ライン64には、電源リレー65が設けられるとともに、電源リレー65の負荷側に、制御電源供給ライン63とを結ぶ連結ライン66が設けられる。連結ライン66には、制御電源供給ライン63から駆動電源供給ライン64へ電流が流れないようにする逆流防止素子としてのダイオード67が設けられる。
また、制御電源供給ライン63には、連結ライン66との接続点よりも電源側に、電源側への電流の流れを防止する逆流防止素子としてのダイオード68が設けられる。
制御電源供給ライン63は電子制御装置40への電源供給用に、また、駆動電源供給ライン64はモータ駆動回路50および電子制御装置40への電源供給用に使用される。
駆動電源供給ライン64に設けられた電源リレー65は、電子制御装置40からの信号により開閉されるもので、イグニッションスイッチ80がオンしたのちオン(閉)し、イグニッションスイッチ80がオフしたのち後述のバッテリ状態診断制御ルーチンが完了するとオフ(開)する。また、駆動電源供給ライン64の電圧は、バッテリ検出電圧としてバッテリ診断部41にモニタされる。
次に、電子制御装置40が実行するバッテリ状態診断制御について説明する。
図4〜図7は、電子制御装置40が実行するバッテリ状態診断制御ルーチンを表すもので、電子制御装置40のROM内に制御プログラムとして記憶されている。
バッテリ状態診断制御ルーチンは、大別すると図4に示すように、バッテリ60の診断開始条件をチェックする診断開始条件チェックルーチン(S1)と、電動モータ15に実際に通電を行ってバッテリ電圧の低下レベルを検出する診断用モータ通電ルーチン(S5)と、そのバッテリ電圧低下レベルに基づいてバッテリ60の状態を判定するバッテリ状態判定ルーチン(S8)とから構成される。
まず、バッテリの診断開始条件チェックルーチンについて、図5を用いて説明する。
図5は、電子制御装置40が実行する診断開始条件チェックルーチンを表すもので、所定の短い周期で繰り返し実行され、診断開始条件が整ったときに本ルーチンを抜けてステップS5の診断用モータ通電ルーチンに移行し、途中でバッテリ劣化が判定され診断終了を決定したときに本ルーチンを抜けてステップS8のバッテリ状態判定ルーチンに移行する。
本ルーチンが起動すると、まず、イグニッションスイッチ80がオフしたか否かを判断する(S11)。イグニッションスイッチ80がオフになるまで、この判断が繰り返され、イグニッションスイッチ80のオフ操作が検出されると(S11:YES)、フラグFが0か否かを判断する(S13)。このフラグFは、本ルーチンの起動時には0に設定されており、後述するようにイグニッションスイッチ80がオフしてから所定時間経過したときに1に設定されるものである。
従って、イグニッションスイッチ80がオフ操作された直後においては、ステップS13の判断は「YES」となり、時間計測用のタイマを増加させる(S14)。このタイマは、イグニッションスイッチ80がオフされてからの時間を計測するもので、ステップS14が最初に行われたときには、タイマをスタートすることになる。
続いて、タイマによる計測が所定時間に達したか否かを判断し(S15)、所定時間に達するまで、この処理を繰り返す。
そして、所定時間が経過するとステップS15の判断が「YES」となり、タイマをゼロクリアするとともに(S16)、フラグFを1に設定する(S17)。
こうして、イグニッションスイッチ80がオフしたのち所定時間経過すると、図8に示すように、各電気制御システムESの作動が停止して、バッテリ60から流れる電流量は、ごくわずかな量(暗電流分)となる。つまり、タイマで計測する所定時間を、各電気制御システムESが停止するのに必要な時間相当に設定している。
続いて、ステップS18に移行し、バッテリ検出電圧Vxを読み込み、そのバッテリ検出電圧Vxと最低基準電圧Vmin0(本実施形態ではVmin0=11V)とを比較する(S18)。そして、Vx<Vmin0である場合は(S18:YES)、後述するバッテリ60の診断を行うまでもなくバッテリ60が劣化状態にあると判断して(S19)、診断終了信号を出力し(S20)ステップS8のバッテリ状態判定ルーチンへ移行する。
一方、ステップS18において、バッテリ電圧Vxが最低基準電圧Vmin0以上ある場合には、更に、次の3つの診断開始条件をチェックする。
つまり、イグニッションキーが抜かれていること(S21)、車両のドアが開閉されたこと(S22)、ドアロックがなされたこと(S23)の3つの条件が成立したかどうかを判断する。ステップS21の判断はイグニッションキーの挿脱に応じてオンオフするキースイッチ83の信号を、ステップS22の判断はドアの開閉に応じてオンオフするドアスイッチ81の信号を、ステップS23の判断はドアロックの有無に応じてオンオフするドアロックスイッチ82の信号をそれぞれ読み込むことにより判断される。
そして、この3つの条件が成立したときに、運転者が車両から降りていると推定してバッテリ状態の診断開始許可がおり(S24)、ステップS5の診断用モータ通電ルーチンに移行する。
一方、こうした3つの条件が成立しない間は、次の診断用モータ通電処理に移行せずに、上述した処理が繰り返し実行される。そして、この繰り返し処理の最中にイグニッションスイッチ80がオンされた場合には(S11:NO)、フラグFを0に戻しておく(S12)。こうして、再度イグニッションスイッチ80がオフされたときには、上述した処理を最初からやり直すようにしている。
また、ステップS21,S22,S23の3つの条件が成立しない時間を計測し(S25)、所定時間経過してもこの条件が成立しなければ(S26:YES)、この制御ルーチンを終了する。
次に、ステップS5の診断用モータ通電制御ルーチンについて説明する。
図6は、電子制御装置40が実行する診断用モータ通電制御ルーチンを表すもので、所定の周期で繰り返し実行される。
まず、フラグFが1か否かを判断する(S51)。この制御ルーチンが起動されたときには、上述したステップS17においてフラグFは1にセットされていることから、必ず「YES」と判断される。尚、このフラグFは、後述するように、電動モータ15への通電開始前には1に、通電中には2に、通電停止中には3にセットされるものである。
続いて、電動モータ15に通電することができるd軸電機子電流上限値Idmaxが後述の設定電流値Id3(図9に示す3回目の通電電流I3を2相変換したd軸電機子電流値)以上であるか否かを判断する(S52)。d軸電機子電流上限値Idmaxは、モータ温度センサ18による検出温度から図16(A)あるいは(B)に示すテーブルを参照して演算される。そして、Idmax≧Id3であれば、次のステップS53からの通電処理に移行する。一方、Idmax<Id3であれば、電動モータ15の永久磁石の減磁を回避するためにバッテリ診断用モータ通電制御を終了する。
ステップS52の判断が「YES」、つまり、d軸電機子電流上限値Idmaxが設定電流値Id3以上であれば、ステップS53処理に移行し、第1回目の電動モータ15への通電を開始する。尚、ステップS53の「n」は、診断開始時においてはn=1に設定される。
本実施形態では、例えば、図9に示すように3回に分けて通電する。この場合、電動モータ15に流す電流は、診断電流指令部42bからの2相指令電流Id*,Iq*と、電流センサ53にて検出した3相電流を2相電流に変換した2相検出電流Id、Iqとの偏差をあらわす差信号Id*−Id,Iq*−Iqに基づいて、PWM制御部42eがモータ駆動回路50の各スイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32のパルス幅を調整することで所定電流値に調整される。
この場合、モータ制御部42は、通電により電動モータ15が回転しないように、d−q座標系におけるd軸電機子電流のみ流して、q軸電機子電流は流さないようにする。
従って、バッテリ診断のために電動モータ15に通電するときには電動モータ15が回転しないため、操舵ハンドル11が回転することは無く、仮に運転席に人が乗っていても安全である。
また、各回の通電にあたり、通電開始時と終了時は、徐々に電流値を増加/減少させる。
尚、d軸電機子電流のみを流すように制御していても、仮に電動モータ15が回転した場合には、その時点で通電を停止してバッテリ状態の診断を終了するようにするとよい。
ステップS53にて第1回目の電動モータ15への通電を開始したら、続いて、フラグFを2にセットする(S54)。
そして、通電時間を計測する通電タイマをインクリメントし(S55)、通電タイマが所定時間経過したか否かを判断する(S56)。所定時間経過するまでのあいだ電動モータ15への通電が継続されるが、その途中で、バッテリ検出電圧Vxが予め設定した所定電圧Vmin1(本実施形態ではVmin1=9V)を下回ったか否かを判断し(S57)、Vx<Vmin1となる場合は、バッテリ60が劣化状態にあり、これ以上通電による診断を続けることはバッテリ60を更に劣化させるため好ましくないと判断して通電を停止し(S58,S59)、ステップS8の処理に抜ける。
一方、ステップS57において、バッテリ検出電圧Vxが所定電圧Vmin1以上あると判断された場合には、更に、バッテリ診断の中断条件が検出されているか否かを判断する(S60)。そして、中断条件が検出されている場合には、通電を停止して(S75)本制御ルーチンを終了する。つまり、本制御ルーチンが行われている途中で、イグニッションスイッチ80がオンされた場合、キースイッチが挿入された場合、ドアが開閉された場合、ドアロックが解除された場合には本制御ルーチンを終了する。
また、中断条件が発生していない場合は、本制御ルーチンのステップS51に戻るが、この場合には、フラグFが2に設定されているため、ステップS51からステップS55に移行して通電タイマをインクリメントし、所定時間の通電が完了するまで同様の処理を繰り返す。
こうして、通電開始後から、所定時間経過して通電タイマがタイムアップすると(S56:YES)、通電タイマをゼロクリアし(S61)、バッテリ検出電圧Vxが正常基準電圧Vn0より高いか否かを判断する(S62)。
本制御ルーチンにおいては、後述する処理からわかるように電動モータ15への通電を3回に分けているため、その通電回数(n回目)に応じてこの正常基準電圧Vn0は予め設定されており、良好なバッテリ60の電圧低下特性に基づいて、その値が設定される。
そして、ステップS61の判断において、Vx>Vn0であれば、この時点で、バッテリ60の状態は良好であると判断して通電を停止し(S63,S64)、ステップS8の処理に抜ける。
一方、ステップS62において、バッテリの検出電圧Vxが正常基準電圧Vn0以下であれば、バッテリ検出電圧Vxを電子制御装置40内の不揮発性メモリに記憶し(S65)、通電を停止する(S66)。
続いて、フラグFを3にセットし(S67)、停止タイマをインクリメントする(S68)。この停止タイマは、通電終了からの経過時間を計測するもので、この期間においてフラグFが3にセットされる。そして、停止タイマがタイムアップするまで、上述したステップS57,S60の判断が繰り返される。
こうして、停止タイマにより所定時間の経過が計測されると、停止タイマをゼロクリアし(S71)、フラグFを1にセットし(S72)、カウンタ値nを値1だけ増加させる(S73)。このカウンタ値nは、通電回数を表すもので、初期値は1に設定されている。従って、1回の通電後はカウンタ値が2に変更される。
そして、ステップS74において、カウンタ値nが4であるか否かを判断し、n=4になるまで上述した処理が繰り返される。つまり、図9に示すように、電動モータ15に3回分けて所定の電流を通電し(d軸電機子電流のみの通電)、それぞれの通電時におけるバッテリ検出電圧Vnxを記憶する。
この場合、ステップS53における通電は、カウンタ値nが大きくなるほど電流値が大きくなるように設定される(I1<I2<I3)。この理由は、初回通電時からいきなり大電流を流した場合には、バッテリ60の状態によっては、バッテリ電圧が急激に低下してしまい車両の常時通電システムがダウンしてしまうおそれがあるからである。
また、複数回に分けて通電することで、バッテリ60の消費電力を抑えることもできる。この場合、1回の通電時間は1秒以内が望ましい。
また、各通電期間においては、通電開始時に電流を徐々に増大させ(図9のA部参照)、通電終了時に電流を徐々に低下させる(図9のB部参照)ことで、万が一電動モータ15に回転トルクが発生しても、その回転作動が急激なものとならないように安全配慮している。
更に、途中でバッテリ状態が判断できた場合、つまり、バッテリ状態が全く正常である場合や極端に劣化している場合には、その判断時点で通電を終了しているため、必要以上にバッテリ60の電力を消費することが無い。
上述した処理により、3回の通電が終了すると、次に、ステップS8のバッテリ状態判定処理に移行する。
ここでステップS52の処理について補足説明する。
この診断用モータ通電制御においては、電動モータ15のd−q座標系におけるd軸電機子電流を流すようにしているが、d軸電機子電流を流しすぎると、回転子に設けられた永久磁石が減磁するおそれがある。しかも、永久磁石は、磁性体の種類により高温あるいは低音で減磁しやすくなる特性がある。そこで、診断電流指令部42bには、モータ検出温度に応じてd軸電機子電流上限値Idmaxが設定される。
そして、上述した診断用モータ通電制御中において、モータ温度に応じて設定されるd軸電機子電流上限値Idmaxが下がり、予め設定された3回目の通電時の設定電流値I3を2相変換したd軸電機子電流値Id3よりも下回る場合には(S52:NO)、バッテリ診断のための通電により永久磁石が減磁してしまうおそれがあるため、ステップS75に移行して、通電状態であれば通電を停止してバッテリ診断用モータ通電制御を終了するようにしている。
この結果、バッテリ状態の診断時における電動モータ15の永久磁石の減磁を良好に防止することができる。
次に、電子制御装置40が実行するバッテリ状態判定ルーチンについて図7を用いて説明する。
本ルーチンが起動すると、まず、バッテリ状態が判定済みであるか否かを判断する(S81)。つまり、上述したステップS63でバッテリ状態が良好と判断された場合、および、ステップS19、ステップS58でバッテリ状態が不良と判断された場合には、バッテリ状態が判定済みであると判断し、それ以外は、判定済みでないと判断する。
そして、判定済みで無い場合には、ステップS82に移行する。ここでは、上述したステップS65において記憶したバッテリ検出電圧V3x(3回目の通電時のバッテリ検出電圧)が過去に検出したバッテリ検出電圧V3xの最大値V3iよりも高いか否かを判断する。そして、今回のバッテリ検出電圧V3xが、過去に検出したバッテリ検出電圧V3xの最大値V3iよりも高い場合には、今回のバッテリ検出電圧V3xを過去に検出したバッテリ検出電圧V3xの最大値V3iとして更新記憶する(S83)。つまり、バッテリ60の初期状態におけるバッテリ電圧特性を記憶しておくのである。以下、最大値V3iをバッテリ電圧初期値V3iと呼ぶ。
続いて、ステップS84にて、バッテリ60の劣化度Dを判定する。本実施形態では、バッテリ電圧初期値V3iから今回検出したバッテリ検出電圧V3xを引いた値をバッテリの劣化度Dとする(D=V3i−V3x)。
尚、本明細書中においては、バッテリ60が劣化している場合と、バッテリ60の充電率が低下している場合とを特別に区別することなく、バッテリ60の保有する電力量が少なくなっている状態をバッテリ60が劣化していると表現し、その保有する電力量が少ないほどバッテリ60の劣化度Dが高いと表現する。
図10は、バッテリ60の劣化度Dに応じた電圧変動特性を表す。
この例において、電圧変動特性L1は、バッテリ60の初期状態におけるもので、劣化度Dが高いほど通電電流の増大に対して電圧降下が大きくなる(図中に付した符号Lの末尾につけた数値が大きいほど劣化度Dが高い)。
従って、一番大きな電流を流す3回目の通電時におけるバッテリ検出電圧V3xをバッテリ電圧初期値V3iと比較することで、バッテリ60の劣化状態を精度よく判断することができる。
尚、この図10に示した例で、電圧変動特性L4を有する状態のバッテリにおいては、2回目の通電時にバッテリ検出電圧V2xが所定電圧Vmin1(9V)を下回ってしまい、上述したステップS58にて劣化大と判断され、この時点で診断を終了してバッテリ検出電圧V3xは測定されないが、こうしたケースのものについては、劣化度Dを最大値に設定する。
また、上述したステップS62にて、バッテリ状態が良好であると判定されたケースにおいては、劣化度Dは最小値に設定される。
こうしてバッテリの劣化度Dが算出されると、次に、この劣化度Dに基づいて、アシスト電流の上限電流値Iasmaxを決定する(S85)。このアシスト電流の上限電流値Iasmaxは、図11の参照テーブルに示すように、劣化度Dが高いほど低い値に設定される。尚、この参照テーブルは、電子制御装置40のROM内に予め記憶されている。
アシスト電流は、所定の操舵トルクを発生するために電動モータ15に通電する電流のことで、本実施形態においては、図12に示すように、操舵トルクTRと車速vとから決定される。
こうして、アシスト電流の上限値Iasmaxが決定されると、本バッテリ状態判定制御ルーチンが終了する。
この制御ルーチンで得られたバッテリ状態の診断結果は、アシスト上限電流値Iasmaxに反映されるだけでなく、次の運転開始時に、報知器29から運転手に対して報知するようにするとよい。この場合には、バッテリ状態の診断結果を見て適切な時期にバッテリ交換を行うことが可能となり、電動パワーステアリング装置1の操舵アシスト機能を十分得られるだけでなく、各種の電気制御システムESが常に良好に作動することになる。また、突然、電気制御システムがダウンしてしまうといったことも防止できる。更に、まだバッテリ劣化していないうちにバッテリ交換をしてしまうという無駄も防止できる。
尚、バッテリ状態の診断にあたっては、バッテリ60から引き出される電流値を正確に検出する必要があるが、本実施形態では、モータ駆動回路50の電流センサ53で検出した電流値に基づいて、バッテリ60から引き出される電流値を推定する。
例えば、電流センサ53で検出した電流値と、電子制御装置40で使用される電流分(既知)、および他の電気制御システムESで使用される暗電流分(既知)を合計することでバッテリ60から引き出される電流値を推定することができる。
次に、電子制御装置40のモータ制御部42が実行するアシスト制御処理について説明する。
図13は、モータ制御部42が実行するアシスト制御ルーチンを表すもので、電子制御装置40のROM内に制御プログラムとして記憶され、短い周期で繰り返し実行される。
イグニッションスイッチ80のオンにより本制御ルーチンが起動すると、まず、ステップS101にて、車速センサ28によって検出された車速vと、操舵トルクセンサ20のレゾルバ22,23によって検出した回転角度の差から演算された操舵トルクTRを読み込む。
続いて、図12に示すアシスト電流テーブルを参照して、入力した車速vおよび操舵トルクTRに応じた必要アシスト電流Iasを計算する(S102)。アシスト電流テーブルは、電子制御装置40のROM内に記憶されるもので、図12に示すように、操舵トルクTRの増加にしたがって必要アシスト電流Iasも増加し、しかも、車速vが低くなるほど大きな値となるように設定される。
次に、上述したバッテリ状態診断制御ルーチンで決定したアシスト上限電流値Iasmaxを読み込む(S103)。
続いて、ステップS102で算出された必要アシスト電流値IasとステップS103で読み込んだアシスト上限電流値Iasmaxとから、その小さいほうの電流値を電動モータ15に流す目標アシスト電流値として決定する(S104)。従って、電動モータ15に通電する目標アシスト電流値は、必要アシスト電流値Iasが上限電流値Iasmaxよりも小さければ必要アシスト電流Iasとなり、必要アシスト電流値Iasが上限電流値Iasmaxよりも大きければ上限電流値Iasmaxとなる。
この場合、アシスト電流指令部42aにて目標アシスト電流Iasに対応した2相指令電流Id*、Iq*が演算されるが、d−q座標系におけるq軸電機子電流のみ通電指令するようにして、d軸電機子電流は「0」に設定される。
続いて、決定された目標アシスト電流値になるように電動モータ15に通電し所定のアシストトルクを発生させる(S105)。
こうした処理を繰り返し実行することで、バッテリ状態に応じた適切なアシスト電流を電動モータ15に流すことができる。
尚、アシスト制御ルーチンはイグニッションスイッチ80のオンにより起動するが、直前回のイグニッションスイッチ80のオフ操作から今回のオン操作までの期間が所定期間(例えば半年間)以上経過している場合には、バッテリ状態が大幅に変化している可能性があるため、上述した前回のバッテリの診断結果(劣化度D)を無効にして、劣化度Dに応じて設定されるアシスト上限電流値Iasmaxを無視する。つまり、アシスト上限電流値Iasmaxの制限を行わない。あるいは、アシスト上限電流値Iasmaxを補正するようにしてもよい。
以上説明した本実施形態のバッテリ状態診断装置を備えた電動パワーステアリング装置1によれば、以下の効果を奏する。
1.イグニッションスイッチ80のオフにより各種の電気制御システムESへの電源供給が停止された後に、電動パワーステアリング装置1の電動モータ15に通電してバッテリ状態の診断を行うため、他の電気制御システムESの作動やオルタネータ70の発電によるバッテリ診断への悪影響が無く、しかも、十分な診断時間をとることができるため、精度の高い診断結果を得ることができる。
2.モータ駆動回路50に備えた電流センサ53を利用してバッテリ診断時に所定の電流を流すことができるため、バッテリ診断用に特別な電流センサを設ける必要が無く、コストメリットが得られる。
3.消費電流の大きな電動パワーステアリング装置1を使ってバッテリ診断を行うため、バッテリ診断時においてバッテリ60からの引込電流値を大きくとることができ、バッテリ状態の診断精度が高くなる。
4.バッテリ診断時は、電動モータ15のd−q座標系におけるd軸電機子電流のみ流すようにして、q軸電機子電流に流さないため、回転トルクが発生せず、操舵ハンドル11が回転してしまうことが無い。従って、運転者に対して安全にバッテリ状態を診断することができる。
このため、従来装置のように複数の電動モータを互いに逆方向に駆動するといった複雑な構成を必要とせず、簡単な構成で車両状態を変化させることなくバッテリの状態を診断することができ、非常に汎用性の高いものとなる。
5.d軸電機子電流を流すに当たって、モータ温度に応じた上限電流値を設定し、その上限電流値以下の範囲にて通電するようにしているため、回転子の永久磁石の減磁を良好に防止することができる。
6.バッテリ診断時には、電動モータ15への通電量が徐々に増加されることから、いきなりバッテリ電圧が低下してしまい車両の常時通電システムがダウンしてしまうといった不具合が防止される。また、万が一電動モータ15に回転トルクが働いたとしても、急激に動作しないため安全である。
7.電動モータ15に断続的に通電することより、バッテリ60の電力消費量を抑えることができる。また、通電回数の増加にあわせて電流値を増加させるため、電動モータ15への急激な通電が回避され、バッテリ電圧が急に低下してしまうことも無い。また、通電回数が所定回数に達しないうちにバッテリ診断ができた場合には、その時点で通電を終了するため、この点においても、バッテリ60の電力消費量を抑えることができる。
8.バッテリ劣化の判定にあたっては、実際のバッテリの初期状態の電圧値(検出電圧V3i)と診断時の電圧値(検出電圧V3x)とを比較しておこない、しかも、検出電圧V3xが過去の計測値に比べて高い場合には、その値を初期状態の電圧値V3iとして更新記憶するようにしているため、バッテリ60の個体差による電圧特性のばらつきの影響が無く、常に初期状態に対する診断が可能となり、精度の高い診断結果が得られる。
9.バッテリ劣化度Dに応じて、アシスト電流の上限値を決定しているため、電動モータ15への通電量を過剰に制限してしまうことが防止され、操舵アシストトルクが適正に得られる。逆に、電動モータ15への上限電流値を高く設定しすぎて他の電気制御システムESへの電力供給量が過剰に抑えられてしまうといった不具合も防止される。この結果、バッテリ60の限られた電力をバランスよく各電気制御システムESに配分することが可能となる。
10.イグニッションスイッチ80のオフ動作から次のオン動作までの経過時間が所定時間を越える場合には、前回までに行われたバッテリ状態の診断結果を無効にし、劣化度Dに応じて設定される上限電流値Iasmaxを無視するため、誤った診断結果を使った制御を防止することができる。
11.バッテリ状態の診断開始条件をチェックしているとき(通電開始前)に、バッテリ60の劣化が判定された場合には、その時点で診断を終了しているため、診断のための通電による電力消費を防止しバッテリ60の更なる劣化を防ぐことができる(S18〜S20)。
12.通電を開始してバッテリ状態を診断している途中でバッテリ電圧が所定電圧を下回った場合には、バッテリ状態が不良であるとして、その時点で通電を終了させるため、通電続行によりバッテリ残容量をさらに低下させてしまうといった不具合が防止される(S57〜S59)。
13.バッテリ60への通電を開始したのち、バッテリ電圧が通電量に応じて設定される所定電圧以上であることが確認されれば、その時点でバッテリ60が良好状態にあると判断して診断を終了するため、必要以上にバッテリ60に通電することがなく、診断にかかるバッテリ60の消費電力を抑えることができる(S62〜S64)。
14.バッテリ状態を診断するときに、その診断開始条件として、イグニッションキーの抜き操作、ドアの開閉操作、ドアロック状態を確認し、運転者が車両から降りていると推定される状態で電動モータに通電することができるため安全である(S21〜S24)。しかも、運転者による操舵ハンドル11の操作が行われないため、電動モータ15から回生電力が発生することが無く、バッテリ診断に悪影響を及ぼさない。
以上、本実施形態としてのバッテリ状態診断装置を備えた電動パワーステアリング装置1について説明したが、次に、上述したステップS5の診断用モータ通電ルーチンにかかる別の実施形態について説明する。
図14は、他の実施形態としての診断用モータ通電ルーチンを表すもので、電子制御装置40のROM内に制御プログラムとして記憶され、所定の周期で繰り返し実行される。
まず、フラグFが1か否かを判断する(S501)。このルーチンが起動したときには、上述したステップS17においてフラグFは1にセットされていることから、必ず「YES」と判断される。尚、このフラグFは、電動モータへの通電開始前には1に、通電中には2にセットされる。
続いて、ステップS502の処理に移行し、通電タイマをスタートさせる。この通電タイマは、通電開始からの時間を計測するものである。そして、この通電タイマのタイマ値に応じた電流値で電動モータ15に通電する(S504)。
このタイマ値に応じた電流値は、図15のテーブルに基づいて決定される。本実施形態においては、例えば、通電時間Ts=5秒間、5秒経過時のd軸電機子電流値Ida=50アンペアとなるように電流値を徐々に(例えば経過時間に比例させて)増大させる。
但し、ステップS503において、モータ温度に応じて設定されるd軸電機子電流上限値Idmaxが、この5秒経過時の電流値Ida以上あるか否かを判断し、Idmax<Idaであると判断された場合には、この診断用モータ通電ルーチンを終了する。
電動モータ15に流す電流量は、電流センサ53からの信号に基づいてモータ駆動回路50の各スイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32をPWM制御することで所定電流に調整される。この場合においても、先の実施形態と同様に、電動モータ15が回転しないように、d−q座標系におけるd軸電機子電流のみ流すようにする。
続いて、フラグFを2にセットする(S505)。
次に、通電タイマによる計測時間が所定時間Tsを越えたか否かを判断し(S506)、所定時間Tsを越えるまで、以下の処理を繰り返し行う。
まず、バッテリ検出電圧Vxを読み込み、この検出電圧Vxが、通電量に応じて予め設定された基準電圧Vt0より大きいか否かを判断する(S507)。そして、Vx>Vt0であれば、バッテリ60は正常状態にあると判定し(S508)、通電タイマをゼロクリアするとともに(S509)、電動モータ15への通電を停止して(S510)ステップS8のバッテリ状態判定ルーチンに移行する。
この予め設定された基準電圧Vt0は、例えば、図10の電圧変動特性L1と考えてよい。つまり、診断したバッテリ60の電圧特性が、正常時のバッテリ電圧特性L1よりも図10のグラフにおいて上に位置するときに、バッテリ60は正常状態にあると判断するわけである。
ステップS507において、「NO」と判断された場合には、次に、バッテリ検出電圧Vxが予め設定した所定電圧Vmin1(本実施形態ではVmin1=9V)を下回っているか否かを判断し(S511)、Vx<Vmin1と判断された場合には、バッテリ60が劣化状態にあると判断して(S512)通電タイマをゼロクリアするとともに(S509)、電動モータ15への通電を停止して(S510)ステップS8のバッテリ状態判定ルーチンに移行する。
例えば、図10において、電圧変動特性L4がこのケースに該当する。
一方、ステップS511において「NO」と判断された場合には、更に、バッテリ診断の中断条件が検出されているか否かを判断し(S513)、バッテリ診断の中断条件が検出された場合、つまり、途中でイグニッションスイッチ80がオンされた場合、キースイッチが挿入された場合、ドアが開閉された場合、ドアロックが解除された場合には、通電タイマをゼロクリアするとともに(S514)、電動モータ15への通電を停止して(S515)本制御ルーチンを終了する。つまり、この時点でバッテリ状態の診断を中止する。
また、中断条件が発生しない場合は、繰り返し本ルーチンのステップS501に戻るが、この場合には、フラグFが2に設定されているため、ステップS501からステップS503に移行し、タイマ値に応じて電流値を増大させ上述した処理を繰り返す。
こうした処理を繰り返し、通電タイマが所定時間Tsを計測すると(S506:YES)、そのときのバッテリ検出電圧Vxを読み込み、電子制御装置40内に設けられた不揮発性メモリ内に記憶する(S516)。そして、通電タイマをゼロクリアするとともに(S509)電動モータ15への通電を停止して(S510)、ステップS8のバッテリ状態判定ルーチンに移行する。
この場合、所定時間Ts経過時のバッテリ検出電圧Vxがバッテリ劣化度Dの判定要素となる。つまり、先の実施形態のバッテリ状態判定ルーチンにおけるバッテリ検出電圧V3xが、この実施形態におけるバッテリ検出電圧Vxに相当する。また、バッテリ電圧初期値V3iについても、過去のバッテリ検出電圧Vxの最大値として、記憶更新していくようにすればよい。
以上説明した別の実施形態の診断用モータ通電ルーチンによれば、電動モータ15への連続した1回の通電でバッテリ状態を診断するため、バッテリ60内の化学反応が十分に行われるとともに、実際の使用環境に近い条件でバッテリ状態を診断しているため、診断結果の精度が一層向上する。つまり、実際の車両走行中においては、バッテリ60から連続的に電流が引き出されるが、この実施形態においても時間をかけて電流を引き出しているため、使用環境に近い条件での診断が可能となり、精度の高い診断結果が得られる。
以上、本実施形態のバッテリ劣化装置を備えた電動パワーステアリング装置1について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態では、イグニッションスイッチ80のオフ操作から所定時間経過後にバッテリ状態の診断(通電)を開始するようにしているが、どのようなタイミングでバッテリ状態の診断を行ってもかまわない。
また、本実施形態においては、バッテリ状態の診断を電動パワーステアリング装置1を用いて行っているが、必ずしもその必要はなく、ブラシレスDCモータを備えたシステム、例えば、電気制御式サスペンション装置や電気制御式ブレーキ装置などを使って診断することも可能である。
更に、電流値の計測は、モータ駆動回路50の電流センサ53を利用する必要もなく、例えば、バッテリ端子部61に電流センサを設けて測定してもよい。
また、実施形態における、電圧値、電流値、時間、通電回数等の数値については一例を示すものに過ぎず、任意に設定できるものである。
本発明の実施形態に係るバッテリ状態診断装置を備えた電動パワーステアリング装置の全体構成図である。 電動パワーステアリング装置の主に電源供給系を表す概略回路構成図である。 モータ制御部の機能を表す機能ブロック図である。 バッテリ状態診断制御ルーチンの全体を表すフローチャートである。 診断開始条件チェックルーチンを表すフローチャートである。 診断用モータ通電ルーチンを表すフローチャートである。 バッテリ状態判定ルーチンを表すフローチャートである。 イグニッションスイッチのオフ後の状態を表すタイミングチャートである。 通電電流とバッテリ電圧の変化を表すグラフである。 通電電流の増加に対するバッテリ電圧特性を表すグラフである。 アシスト上限電流値を算出するためのテーブルを表す説明図である。 必要アシスト電流を算出するためのテーブルを表す説明図である。 アシスト制御ルーチンを表すフローチャートである。 他の実施形態としての診断用モータ通電ルーチンを表すフローチャートである。 通電電流の変化を表すグラフである。 d軸電機子電流上限値を算出するためのテーブルを表す説明図である。 d−q座標系の説明図である。
符号の説明
電動パワーステアリング装置…1、操舵アシスト機構…10、電動モータ…15、電子制御装置…40、バッテリ診断部…41、モータ制御部…42、モータ駆動回路…50、電流センサ…53、バッテリ…60、オルタネータ…70、イグニッションスイッチ…80、キースイッチ…83、他の電気制御システム…ES、永久磁石…MG。

Claims (4)

  1. 電動モータと上記電動モータを駆動制御するモータ制御手段とを有して車両状態を制御する車両状態制御手段と、上記車両状態制御手段に電源供給するバッテリとを備えた車両に設けられ、上記バッテリから上記電動モータに通電したときの上記バッテリ電圧の変動状態に基づいて上記バッテリの状態を診断するバッテリ状態診断装置において、
    上記電動モータをブラシレスDCモータで構成するとともに、
    上記モータ制御手段は、上記バッテリ状態診断時においては、上記ブラシレスDCモータの回転子の永久磁石が作り出す磁束の作用軸となるd軸および上記d軸に直交したq軸からなるd−q座標系におけるd軸電機子電流のみ流し、q軸電機子電流を流さないように通電するd軸通電制御手段を備えたことを特徴とするバッテリ状態診断装置。
  2. 上記d軸通電制御手段は、上記d軸電機子電流を所定の上限電流値以下に制限することを特徴とする請求項1記載のバッテリ状態診断装置。
  3. 上記ブラシレスDCモータの温度を測定あるいは推定により検出する温度検出手段を備え、
    上記d軸通電制御手段は、上記検出された温度に応じて、上記上限電流値を設定することを特徴とする請求項2記載のバッテリ状態診断装置。
  4. 上記車両状態制御手段は、操舵ハンドルの操舵状態に応じて、上記ブラシレスDCモータを駆動制御して操舵輪に対して所定の操舵力を付与する電動パワーステアリング装置であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のバッテリ状態診断装置。

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