つぎに、この発明を図面を参照しながら具体的に説明する。図8は、この発明を用いることの可能な車両のパワートレーンの構成例を示す。図8に示された車両Veは、F・R(フロントエンジン・リヤドライブ;エンジン前置き後輪駆動)形式のハイブリッド車(以下、「車両」と略記する)である。図8に示された車両Veは、2種類の駆動力源を有している。2種類の駆動力源は、動力の発生原理が異なり、この実施例では、エンジン1およびモータ・ジェネレータ(MG2)2が駆動力源として搭載されているとともに、エンジン1およびモータ・ジェネレータ2から出力された動力が、共に同じ車輪(後輪)3に伝達されるように動力伝達経路が構成されている。車両Veの駆動力源であるエンジン1は、燃料を燃焼させて、その熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置である。このエンジン1としては、内燃機関または外燃機関を用いることが可能であるが、この実施例では、エンジン1として内燃機関、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いる場合について説明する。このエンジン1は、電子スロットルバルブ(図示せず)などの制御により、出力トルクを電気的に制御することが可能に構成されている。
一方、他の駆動力源であるモータ・ジェネレータ2はケーシング4の内部に収納されており、モータ・ジェネレータ2は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備している。このモータ・ジェネレータ2は、ロータ5およびステータ6を有しており、ステータ6はケーシング4に固定されている。また、エンジン1およびモータ・ジェネレータ2から車輪3に至る動力伝達経路には変速機7が設けられているとともに、エンジン1から変速機7に至る動力伝達経路には、動力分配装置8が設けられている。図8に示された動力分配装置8は、シングルピニオン形式の遊星歯車機構を主体として構成されている。すなわち、動力分配装置8は、入力軸9と同軸上に配置されたサンギヤ10と、サンギヤ10と同軸上に配置されたリングギヤ11と、サンギヤ10およびリングギヤ11に噛合する複数のピニオンギヤ12を、自転かつ公転自在に保持したキャリヤ13とを有している。そして、キャリヤ13と入力軸9とが動力伝達可能に連結、具体的には一体回転するように連結されている。さらに、入力軸9とエンジン1のクランクシャフト1Aとが同軸上に配置されているとともに、クランクシャフト1Aと入力軸9とが、ダンパ機構、具体的にはトーショナルダンパ1Bを介して動力伝達可能に連結されている。トーショナルダンパ1Bはトルク変動を吸収し、かつ、振動を減衰する緩衝装置である。
また、入力軸9の軸線方向において、エンジン1と動力分配装置8との間には、モータ・ジェネレータ(MG1)14が配置されている。モータ・ジェネレータ14は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備している。つまり、エンジン1とモータ・ジェネレータ2,14とでは、動力の発生原理が異なる。このモータ・ジェネレータ14は、ロータ15およびステータ16を有しており、ステータ16はケーシング4に固定されている。そして、ロータ15とサンギヤ10とが動力伝達可能に連結、具体的には一体回転するように連結されている。
前記変速機7は、入力回転数を出力回転数で除した値である変速比を変更可能に構成されており、変速機7は、同軸上に配置された2組のシングルピニオン型遊の星歯車機構17,18を有している。まず、遊星歯車機構17は、同軸上に配置されたサンギヤ19およびリングギヤ20と、サンギヤ19およびリングギヤ20に噛合されたピニオンギヤ21を、自転かつ公転可能に保持するキャリヤ22とを有している。一方、遊星歯車機構18は、同軸上に配置されたサンギヤ23およびリングギヤ24と、サンギヤ23およびリングギヤ24に噛合されたピニオンギヤ25を、自転かつ公転可能に保持するキャリヤ26とを有している。そして、遊星歯車機構17のキャリヤ22と、遊星歯車機構18のリングギヤ24とが一体回転するように連結され、遊星歯車機構18のキャリヤ26と、遊星歯車機構17のリングギヤ20とが一体回転するように連結されている。すなわち、変速機7は、いわゆるC−R・C−R結合式の変速機である。さらに、モータ・ジェネレータ2のロータ5が、リングギヤ11およびサンギヤ23に連結、より具体的には、一体回転するように連結されている。そして、キャリヤ26には出力回転部材27が連結、具体的には一体回転するように連結され、その出力回転部材27から車輪3に至る動力伝達経路には、デファレンシャル28が設けられている。
モータ・ジェネレータ2との間で電力の授受をおこなうことの可能な蓄電装置29が設けられているとともに、モータ・ジェネレータ2と蓄電装置29との間の回路にはインバータ30が設けられている。また、モータ・ジェネレータ14との間で電力の授受をおこなうことの可能な蓄電装置31が設けられているとともに、モータ・ジェネレータ14と蓄電装置31との間の回路にはインバータ32が設けられている。これらの蓄電装置29,31としては、二次電池、具体的にはバッテリ、キャパシタなどを用いることが可能である。また、モータ・ジェネレータ2とモータ・ジェネレータ14との間で、蓄電装置29,31を経由することなく、直接電力の授受をおこなうことが可能となるように、電気回路が構成されている。
図8に示す車両Veにおいて、エンジン1が運転されて、エンジントルクが動力分配装置8のキャリヤ13に伝達されると、モータ・ジェネレータ14により反力トルクを受け持たされて、エンジントルクがリングギヤ11に伝達される。そのリングギヤ11に伝達されたトルクが、変速機7およびデファレンシャル28を経由して車輪3に伝達されて、駆動力が発生する。前記動力分配装置8においては、サンギヤ10とキャリヤ13とリングギヤ11との差動作用により、入力要素であるキャリヤ13と、出力要素であるリングギヤ11との間における変速比を制御することが可能である。具体的には、反力トルクを受け持つモータ・ジェネレータ14の出力を制御することにより、エンジン回転数を無段階に(連続的に)制御することが可能である。
このように、モータ・ジェネレータ14はこの発明における第1の電動機に相当していて、このモータ・ジェネレータ14の出力を制御することにより入力要素と出力要素との間の変速比を無段階に制御できる動力分配装置8は、いわゆる電気的変速機として機能している。なお、モータ・ジェネレータ14の回転方向は正逆に切り換え可能であり、モータ・ジェネレータ14は力行制御または回生制御が実行される。また、モータ・ジェネレータ14の回転数を零に制御する(停止させる)ことも可能である。
さらに、動力分配装置8の変速比を制御する概念について説明すると、エンジン1の燃費を向上させることを目的として、エンジン1の運転状態と、動力分配装置8の変速比とを協調制御するものである。例えば、加速要求(アクセル開度)および車速に基づいて、車両Veにおける要求駆動力が求められる。これは、例えば予め用意したマップから求められる。その要求駆動力と車速とからエンジン1の要求出力が算出され、その要求出力を最小の燃費で出力する目標エンジン回転数が、マップを使用して求められる。そして、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるように、モータ・ジェネレータ14の出力(トルク×回転数)が制御される。この制御と並行して、実エンジン出力を目標エンジン出力に近づけるように、エンジン1の電子スロットルバルブの開度などが制御される。
また、蓄電装置29の電力をモータ・ジェネレータ2に供給してモータ・ジェネレータ2を電動機として駆動させ、モータ・ジェネレータ2のトルクを、変速機7を経由させて車輪3に伝達する制御を実行可能である。したがって、この車両Veにおいては、エンジン1のトルクだけを車輪3に伝達させて走行するいわゆる「エンジン走行」、エンジン1とモータ・ジェネレータ2との両方のトルクを車輪3に伝達させて走行するいわゆる「ハイブリッド走行」、モータ・ジェネレータ2のトルクだけを車輪3に伝達させて走行するいわゆる「モータ走行」(あるいは「EV走行」)を行うことが可能である。
すなわち、車輪3にトルクを伝達して駆動力を発生させる場合、エンジン1またはモータ・ジェネレータ2の少なくとも一方のトルクを車輪3に伝達可能であり、いずれの動力源のトルクまたは両方の動力源のトルクを伝達するかが、電子制御装置34に入力される信号およびデータに基づいて判断される。これに対して、車両Veが惰力走行する場合は、車両Veの運動エネルギが変速機7および動力分配装置8を経由してエンジン1に伝達され、エンジンブレーキ力が発生する。また、車両Veの惰力走行時に発生する運動エネルギの一部をモータ・ジェネレータ2に伝達し、このモータ・ジェネレータ2で回生制動力を発生させ、発生した電力を蓄電装置29に充電することも可能である。このように、モータ・ジェネレータ2はこの発明における第2の電動機に相当している。
つぎに、前述の変速機7の変速比を制御するための機構について説明すると、前記キャリヤ22を、モータ・ジェネレータ2のロータ5およびリングギヤ11およびサンギヤ23に対して選択的に連結・解放させるクラッチC1が設けられている。また、キャリヤ22およびリングギヤ24の回転・停止を制御するブレーキB1が設けられており、サンギヤ19の回転・停止を制御するブレーキB2が設けられている。これらのクラッチC1およびブレーキB1,B2などの係合装置としては、摩擦式係合装置または電磁式係合装置、あるいは噛み合い式係合装置のいずれを用いてもよいが、この実施例では、摩擦式係合装置を用いているものとする。また、クラッチC1およびブレーキB1,B2を制御するアクチュエータとして、油圧制御装置33が設けられている。この油圧制御装置33は、油圧回路およびソレノイドバルブなどを有する公知の構造を有している。
一方、車両Veの全体を制御するコントローラとして電子制御装置(ECU)34が設けられており、電子制御装置34には、シフトポジションセンサの信号、車速センサの信号、加速要求検知センサの信号、制動要求検知センサの信号、エンジン回転数センサの信号、蓄電装置29,31の充電量を検知するセンサの信号、モータ・ジェネレータ2,14の回転数を検知するセンサの信号、変速機7の入力回転数および出力回転数を検知するセンサの信号などが入力される。これに対して、電子制御装置34からは、エンジン1を制御する信号、インバータ30,32を介してモータ・ジェネレータ2,14を制御する信号、油圧制御装置33を介してクラッチC1およびブレーキB1,B2を制御する信号などが出力される。
また、変速機7の変速比は、マニュアル変速操作または自動変速制御により切替可能であり、この変速機7においては、第1速ないし第3速の変速段を選択的に切替可能である。この変速機7における変速比の切り替えを、図9に基づいて説明する。図9において、「○」印は係合装置が係合されることを示し、「×」印は係合装置が解放されることを示す。まず、第1速(1st)が選択された場合は、ブレーキB1が係合され、ブレーキB2およびクラッチC1が解放される。すると、動力分配装置8のリングギヤから変速機7に伝達されたトルクが、サンギヤ23に伝達されるとともに、リングギヤ24が反力要素となり、キャリヤ26が出力要素となる。つまり、第1速が選択された場合は、サンギヤ23の回転数よりもキャリヤ26の回転数の方が低回転数となり、変速機7がいわゆる減速機として機能し、変速比が「1」よりも大きくなる。
第2速(2nd)が選択された場合は、ブレーキB2が係合され、ブレーキB1およびクラッチC1が解放される。すると、動力分配装置8のリングギヤから変速機7に伝達されたトルクが、サンギヤ23に伝達されるとともに、サンギヤ19が反力要素となり、キャリヤ26が出力要素となる。つまり、第2速が選択された場合は、サンギヤ23の回転数よりもキャリヤ26の回転数の方が低回転数となり、変速機7がいわゆる減速機として機能し、変速比が「1」よりも大きくなる。なお、第1速が選択された場合の変速比は、第2速が選択された場合の変速比よりも大きくなる。
第3速(3rd)が選択された場合は、クラッチC1が係合され、ブレーキB1,B2が解放される。すると、動力分配装置8のリングギヤから変速機7に伝達されたトルクが変速機7に伝達され、遊星歯車機構17,18を構成する回転要素が一体的に回転し、変速機7の入力回転数と出力回転数との比が「1」となる。つまり、変速機7の入力回転部材と出力回転部材とが直結状態となる。
なお、変速機7の他の構成例(変速機7A)を図8Aに示してある。図8Aに示された構成において、上記の図8に示された構成と同じ構成については、図8と同じ符号を付してある。図8Aにおいて、変速機7Aは、前述の変速機7と同様の、遊星歯車機構17,18により構成されている。すなわち、変速機7Aは、前述の変速機7と同様、遊星歯車機構17のキャリヤ22と、遊星歯車機構18のリングギヤ24とが一体回転するように連結され、遊星歯車機構18のキャリヤ26と、遊星歯車機構17のリングギヤ20とが一体回転するように連結された、いわゆるC−R・C−R結合式の変速機である。また同様に、モータ・ジェネレータ2のロータ5が、リングギヤ11およびサンギヤ23に一体回転するように連結されている。そして、キャリヤ26には出力回転部材27が一体回転するように連結されている。
そして、変速機7Aは、クラッチC1およびブレーキB1,B2により構成された係合装置が設けられている前述の変速機7に対して、クラッチC0,C1,C2、およびブレーキB1,B2、およびワンウェイクラッチF1により構成された係合装置が設けられている。すなわち、キャリヤ22をモータ・ジェネレータ2のロータ5およびリングギヤ11に対して選択的に連結・解放させるクラッチC0が設けられている。また、サンギヤ23をロータ5およびリングギヤ11に対して選択的に連結・解放させるクラッチC1が設けられている。また、サンギヤ19をロータ5およびリングギヤ11に対して選択的に連結・解放させるクラッチC2、およびサンギヤ19の回転・停止を制御するブレーキB1が設けられている。また、前記のキャリヤ22およびリングギヤ24の回転・停止を制御するブレーキB1が設けられている。そして、キャリヤ22およびリングギヤ24の回転を一方向に規制するワンウェイクラッチF1が設けられている。
上記のクラッチC0,C1,C2およびブレーキB1,B2などの係合装置としては、前述の変速機7と同様に、摩擦式係合装置または電磁式係合装置、あるいは噛み合い式係合装置のいずれを用いてもよいが、この実施例では、摩擦式係合装置を用いているものとする。また同様に、クラッチC0,C1,C2およびブレーキB1,B2は、前記の油圧制御装置33によりその係合・解放状態が制御されるように構成されている。
上記の変速機7Aにおける各回転要素の状態を、図10の共線図に示してある。図10の共線図において、「正」は回転要素が正回転することを示し、「逆」は回転要素が逆回転することを示す。正回転とはエンジン1の回転方向を示している。そして、変速機7Aではサンギヤ19とサンギヤ23との間に、リングギヤ20およびキャリヤ26および出力回転部材27が位置している。そして、サンギヤ19と、リングギヤ20およびキャリヤ26および出力回転部材27との間に、リングギヤ24およびキャリヤ22が位置している。この図10に示すように、変速機7Aにおいては、クラッチC0,C1,C2およびブレーキB1,B2の係合・解放状態を適宜に制御することによって、第1速ないし第4速の前進4段と、後進第1速(リバース)段の後進1段を設定することができる。
このように、変速機7,7Aは、クラッチC1およびブレーキB1,B2、あるいはクラッチC0,C1,C2およびブレーキB1,B2などの複数の係合装置を有し、それら複数の係合装置の係合・解放状態を制御することにより、入力部材と出力部材との間の動力伝達状態を切り替え制御する、いわゆる回転状態切替機構として機能している。
つぎに、この発明を用いることの可能なハイブリッド車の他の構成例を、図11に基づいて説明する。図11に示された構成において、上記の図8に示された構成と同じ構成については、図8と同じ符号を付してある。図11に示された車両Veにおいては、エンジン1から車輪3に至る動力伝達経路に変速機35が設けられている。この変速機35は、同軸上に配置されたダブルピニオン型の遊星歯車機構36およびシングルピニオン型の遊星歯車機構37を有している。遊星歯車機構36は、サンギヤ38およびリングギヤ39と、サンギヤ38に噛合されたピニオンギヤ40と、リングギヤ39およびピニオンギヤ40に噛合されたピニオンギヤ41と、ピニオンギヤ40,41を自転、かつ、公転可能に保持するキャリヤ42とを有している。一方、遊星歯車機構37は、サンギヤ43およびリングギヤ44と、サンギヤ43およびリングギヤ44に噛合されたピニオンギヤ45を自転、かつ、公転可能に保持するキャリヤ42とを有している。つまり、キャリヤ42は、遊星歯車機構37,38で共用化されている。そして、リングギヤ44が出力回転部材27に連結、具体的には一体回転するように連結されている。
さらに、動力分配装置8のリングギヤ11と、サンギヤ43とが一体回転するように連結され、リングギヤ39とリングギヤ44とが一体回転するように連結されている。また、回転要素同士の連結関係、および回転要素の回転・停止を制御する係合装置が設けられている。この係合装置として、動力分配装置8のキャリヤ13および入力軸9を、キャリヤ42に対して選択的に係合・解放させるクラッチC1と、リングギヤ11およびサンギヤ43を、サンギヤ38に対して選択的に係合・解放させるクラッチC2と、サンギヤ38の回転・停止を制御するブレーキB1と、キャリヤ42の回転・停止を制御するリバースブレーキBRとが設けられている。これらの係合装置としては、摩擦式係合装置、電磁式係合装置、噛み合い式係合装置のいずれを用いてもよいが、この実施例では摩擦式係合装置を用いる場合について説明する。また、これらの係合装置は、油圧制御装置33により、トルク容量が制御されるように構成されている。
上記のように構成された動力分配装置8と変速機35との関係を説明する。変速機35においては、動力伝達状態を制御するために、前進ポジションおよび後進ポジション(Rev)を選択的に切替可能であるとともに、前進ポジションでは、低速モード(Lo)、中速モード(Mid)、高速モード(Hi)の3段階の変速モードを選択的に切替可能である。ここで、低速モード、中速モード、高速モードが選択された場合、および後進ポジションが選択された場合における係合装置の状態を、図12に基づいて説明する。図12において、「○」印は係合装置が係合されることを示し、「×」印は係合装置が解放されることを示す。この図12に示すように、低速モードが選択された場合は、ブレーキB1が係合され、その他の係合装置は全て解放される。低速モードが選択された場合に、エンジントルクが動力分配装置8を経由して変速機35のサンギヤ43に伝達されると、停止されているサンギヤ38が反力要素となり、リングギヤ44が出力要素となる。このように、低速モードが選択された場合は、サンギヤ43の回転速度に対してリングギヤ44の回転速度が減速される。すなわち、変速機35の変速比が「1」よりも大きくなる。
また、中速モードが選択された場合は、クラッチC1が係合され、その他の係合装置は全て解放される。そして、エンジントルクが動力分配装置8を経由して変速機35のキャリヤ42に入力され、かつ、サンギヤ38が反力要素となり、リングギヤ48が出力要素となる。このように、中速モードが選択された場合は、変速機35に対して、サンギヤ43およびクラッチC1の2系統を経由して動力が伝達される。なお、低速モードが選択された場合は、変速機35の変速比はモータ・ジェネレータ2の回転数に応じて決定される。また、中速モードが選択された場合は、モータ・ジェネレータ2,14の回転数およびエンジン回転数に基づいて、変速機35の変速比が決定される。そして、中速モードが選択された場合は、変速機35の変速比は「1」よりも大きい値、「1」以下の値など、任意に調整可能である。
さらに、高速モードが選択された場合は、クラッチC2が係合され、その他の係合装置は全て解放されて、変速機35を構成する回転要素が一体回転する状態となる。すなわち、変速機35の変速比が「1」に固定される。一方、後進ポジションが選択された場合は、リバースブレーキBRが係合され、その他の係合装置は全て解放される。そして、エンジントルクが動力分配装置8を経由して変速機35のサンギヤ43に入力されると、キャリヤ42が反力要素となり、リングギヤ48が、前進ポジションとは逆方向に回転する。
このように、変速機35は、前述の変速機7,7Aと同様に、クラッチC1,C2およびブレーキB1,BRなどの複数の係合装置を有し、それら複数の係合装置の係合・解放状態を制御することにより、入力部材と出力部材との間の動力伝達状態を切り替え制御する、いわゆる回転状態切替機構として機能している。
なお、図8,図8A,図8Bに基づいて説明した回転状態切替機構(変速機7,7Aおよび各係合装置)と、図11に示された回転状態切替機構としてのモード切替機構(変速機35および各係合装置)との相違点を説明すると、図8,図8A,図8Bに示された例では、エンジントルクを変速機7,7Aに伝達する場合、動力が、動力分配装置8の入力要素および出力要素を必ず経由するが、図11の例では、エンジントルクを動力分配装置8の入力要素および出力要素を経由させることなく、変速機35に伝達できる中速モードを選択できる。また、図8,図8A,図8Bに示す動力分配装置8および変速機7,7Aは、変速機7,7Aの回転要素が、動力分配装置8の回転要素同士の間に位置していないとともに、動力分配装置8の回転要素が、変速機7,7Aの回転要素同士の間に位置していない。これに対して、図11に示す動力分配装置8および変速機35の場合、遊星歯車機構37の回転要素が、動力分配装置8の回転要素同士の間に位置している点が異なっている。
(第1の実施例)
つぎに、図5に示された車両Veにおいて実行可能なこの発明による制御の一例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。なお、この発明を用いることの可能なハイブリッド車の構成としては、変速機7,7Aと変速機35とのいずれを用いることも可能であるが、ここでは変速機7Aを用いた場合について説明する。図1のフローチャートにおいて、先ず、変速機7Aに対して、変速機7Aを動作させて、すなわち変速機7Aの係合装置の係合・解放状態を制御して、変速比を変更する変速要求があるか否かが判断される(ステップS1)。これは、例えば電子制御装置34に入出力される信号に基づいて検出することができる。
変速要求がないことによって、このステップS1で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わずに、このルーチンを一旦終了する。これに対して、変速要求があったことによって、ステップS1で肯定的に判断された場合には、ステップS2へ進み、車両Veがモータ・ジェネレータ2の出力だけによる駆動力によって走行するEV走行中であるか否かが判断される。
車両VeがEV走行中でないことによって、このステップS2で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わずに、このルーチンを一旦終了する。これに対して、車両VeがEV走行中であることによって、ステップS2で肯定的に判断された場合には、ステップS3へ進み、エンジンフリクショントルクTefricが算出される。エンジンフリクショントルクTefricとは、例えばエンジン1各部の摺動部分で生じる摩擦抵抗や、エンジン1各部の可動部分における潤滑油の粘性抵抗などによって生じるトルクである。したがって、このステップS3における制御では、エンジン1の回転数、潤滑油の温度等が検出され、それらの検出値に基づいてエンジンフリクショントルクが求められる。
続いて、変速機7Aの係合装置のトルク容量の上限である上限クラッチ容量Tclmaxが算出される(ステップS4)。すなわち、クラッチC0,C1,C2およびブレーキB1,B2などの係合装置のトルク容量の上限が、上限クラッチ容量Tclmaxとして算出される。具体的には、動力分配装置8のギヤ比(サンギヤ10の歯数Zs/リングギヤ11の歯数Zr)をρとすると、
Tclmax={1/(ρ+1)}×Tefric
として算出することができる。
上限クラッチ容量Tclmaxが算出されると、その値に基づいて変速機7Aの係合装置が制御される、すなわち係合装置のトルク容量がエンジンフリクショントルクTefricに基づいて設定される上限クラッチ容量Tclmax以下に制限されるとともに、変速要求に基づいた変速制御が実行される(ステップS5)。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
上記の図1に示す第1の実施例における各回転要素の状態を、図2の共線図に基づいて説明する。図2の共線図において、「正」は回転要素が正回転することを示し、「逆」は回転要素が逆回転することを示している。正回転とはエンジン1の回転方向を示している。そして、動力分配装置8ではモータ・ジェネレータ14とモータ・ジェネレータ2との間に、エンジン1が位置している。また、変速機7Aでは、サンギヤ23とサンギヤ19との間に、リングギヤ20およびキャリヤ26および出力回転部材27が位置している。そして、サンギヤ19と、リングギヤ20およびキャリヤ26および出力回転部材27との間に、リングギヤ24およびキャリヤ22が位置している。
図2は、変速機7Aで、第4速が設定されている状態から第3速にダウンシフトされる場合を示している。変速機7Aにおいて、変速機7Aの係合装置の従来のトルク容量がTcl_convであったとすると、第4速から第3速へダウンシフトされる場合、トルク容量Tcl_convの範囲で、相対的に大きなイナーシャトルクが変速機7Aから動力分配装置8側へ伝達される。このとき、エンジン1のフリクショントルクTefricよりも動力分配装置8へ伝達されるイナーシャトルクが大きいと、エンジン1がそのイナーシャトルクにより連れ回されて、エンジン1の回転数が上昇するいわゆる吹け上がりが発生する(図2の点線L1で示す状態)。
そこで、この発明の第1の実施例では、変速機7Aで変速が行われることが予測された場合、すなわち変速機7Aに対して変速比を変更させる変速要求があった場合に、変速機7Aの係合装置のトルク容量が低減される。上記の第4速から第3速へのダウンシフトの場合は、クラッチC2のトルク容量が、エンジンフリクショントルクTefricに基づいて求められる上限クラッチ容量Tclmaxに低減もしくは制限される。そのため、変速機7Aで変速が行われる際に変速機7Aから動力分配装置8側へ伝達されるイナーシャトルクが、上限クラッチ容量Tclmaxで制限される。その結果、変速機7Aでの変速の際に、変速機7Aから動力分配装置8側へ、エンジンフリクショントルクTefricを上回る大きなイナーシャトルクが伝達されることによるエンジン1の吹け上がりを回避することができる(図2の一点鎖線L2で示す状態)。
上記に示したこの発明の第1の実施例による制御内容を、図6のタイムチャートに基づいて説明する。変速機7Aに対して変速要求があり(この場合は、第4速から第3速へのダウンシフト要求)に基づいて、変速機7Aの変速制御が開始されると、ブレーキB1が連結状態から解放状態へ制御されるとともに、クラッチC2が解放状態から係合状態へ制御される。このとき、従来(図6の点線で示す状態)では、クラッチC2は、そのトルク容量がトルク容量Tcl_convまで増大された状態で係合状態が設定される。モータ・ジェネレータ2の回転数の上昇が示すように、変速機7Aから動力分配装置8側へイナーシャトルクが伝達され、そのイナーシャトルクがエンジンフリクショントルクTefricを上回ることにより、エンジン1が連れ回されて、エンジン1の回転数が一時的に上昇する、いわゆる吹け上がりが発生する。
これに対して、上記に示すこの発明の第1の実施例(図6の実線で示す状態)では、変速機7Aの変速が行われる際にクラッチC2が係合状態に制御される場合、クラッチC2のトルク容量が、従来のトルク容量Tcl_convに対して、エンジンフリクショントルクTefricに基づいて求められた上限クラッチ容量Tclmaxで制限される値で係合状態が設定される。すなわち、変速機7Aでの変速の際に、クラッチC2のトルク容量が従来のトルク容量Tcl_convから上限クラッチ容量Tclmaxへ低減されて係合状態が設定される。そのため、クラッチC2のトルク容量の上限が上限クラッチ容量Tclmaxで規制されるとともに、クラッチC2が係合状態に移行することにより完了する変速機7Aでの変速速度が低下される。その結果、変速機7Aでの変速時に、変速機7Aから動力分配装置8側へ、エンジンフリクショントルクTefricを上回るイナーシャトルクが伝達されることがなく、エンジン1の吹け上がりが発生することもない。
このように、上記の第1の実施例に示すこの発明の制御装置によれば、エンジン1のトルクがモータ・ジェネレータ(MG1)14と動力分配装置8とから構成されるいわゆる電気的変速機に伝達されて、モータ・ジェネレータ14でエンジン1のエンジントルクの反力を受け持たされ、動力分配装置8から出力されたトルクが、変速機7,7A,35により構成されるいわゆる回転状態切替機構を経由して車輪3に伝達される。ここで、モータ・ジェネレータ14の出力を制御することにより、動力分配装置8における入力要素すなわちキャリヤ13と、出力要素すなわちリングギヤ11との間の変速比が無段階に制御される。また、変速機7,7A,35の係合装置の係合・解放を制御することにより、動力伝達状態が制御される。そして、モータ・ジェネレータ(MG2)2の出力による駆動力によって走行するEV走行時に、変速機7,7A,35の係合装置の係合・解放状態が制御されて変速機7,7A,35における動力伝達状態が切り替えられる場合、すなわち変速機7,7A,35において変速が行われる場合には、例えば変速機7,7A,35のイナーシャトルクなどの、変速機7,7A,35から動力分配装置8側へ伝達される伝達トルクが低減するように制御される。そのため、エンジン走行時と比較して静粛な運転が可能なEV走行時における、変速機7,7A,35による変速、すなわち動力伝達状態の切り替えの際に、大きな伝達トルクが動力分配装置8に伝達されることによるエンジン1の回転状態の変動を防止もしくは抑制することができる。
ここで、図1に示す第1の実施例と、この発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS1の機能的手段が、この発明の変速要求検出手段に相当し、また、ステップS2の機能的手段が、この発明のEV走行検出手段に相当し、そして、ステップS3ないしS5の機能的手段が、この発明の伝達トルク低減手段に相当する。
(第2の実施例)
つぎに、この発明の第2の実施例について説明する。この第2の実施例は、図8Bに示すように、動力分配装置8と変速機7Aとの動力伝達経路内にトルク容量を変更可能なクラッチ51が設けられた構成において実行可能な制御の一例を示すものである。すなわち、前述の第1の実施例が、変速機7Aに対する変速要求がなされた場合に、変速機7Aの動力伝達状態を制御する係合装置のトルク容量(伝達トルク)を低減することにより、変速機7Aの変速時に、変速機7Aのイナーシャトルクトルクなどの伝達トルクが変速機7Aから動力分配装置8側へ伝達されて、エンジン1の回転が変動してしまうことを回避する構成であるのに対して、この第2の実施例は、動力分配装置8と変速機7Aとの動力伝達経路内に設けられたクラッチ51のトルク容量(伝達トルク)を低減することにより、変速機7Aの変速時におけるエンジン1の回転変動を回避するように構成された例である。クラッチ51としては、前述の変速機7Aの係合装置と同様に、摩擦式係合装置あるいは電磁式係合装置などの、トルク容量(クラッチ容量)を変更可能な係合装置を採用することができる。
したがって、この第2の実施例による制御は、前述の図1のフローチャートによる制御例の説明において、「変速機7Aの係合装置」を「クラッチ51」に読み換えることによって、その制御内容を説明することができるため、ここでは、フローチャートを用いた制御内容の説明は省略し、図3の共線図に基づいて説明する。前述の図2の共線図と同様に、図3の共線図においても、「正」は回転要素が正回転することを示し、「逆」は回転要素が逆回転することを示している。そして、動力分配装置8ではモータ・ジェネレータ14とモータ・ジェネレータ2との間に、エンジン1が位置している。また、変速機7Aでは、サンギヤ23とサンギヤ19との間に、リングギヤ20およびキャリヤ26および出力回転部材27が位置している。また、サンギヤ19と、リングギヤ20およびキャリヤ26および出力回転部材27との間に、リングギヤ24およびキャリヤ22が位置している。そして、動力分配装置8と変速機7Aとの間にクラッチ51が設けられている。
図3は、変速機7Aで、第4速が設定されている状態から第3速にダウンシフトされる場合を示している。クラッチ51の係合装置の従来のトルク容量がTcl_convであったとすると、第4速から第3速へダウンシフトされる場合、トルク容量Tcl_convの範囲で、相対的に大きなイナーシャトルクが変速機7Aから動力分配装置8側へ伝達される。このとき、エンジン1のフリクショントルクTefricよりも動力分配装置8へ伝達されるイナーシャトルクが大きいと、エンジン1がそのイナーシャトルクにより連れ回されて、エンジン1の回転数が上昇するいわゆる吹け上がりが発生する(図3の点線L1で示す状態)。
そこで、この発明の第2の実施例では、変速機7Aで変速が行われることが予測された場合、すなわち変速機7Aに対して変速比を変更させる変速要求があった場合に、動力分配装置8と変速機7Aとの間に設けられたトルク容量可変のクラッチ51のトルク容量が低減される。具体的には、クラッチ51のトルク容量が、エンジンフリクショントルクTefricに基づいて求められる上限クラッチ容量Tclmaxに低減もしくは制限される。そのため、変速機7Aで変速が行われる際に変速機7Aから動力分配装置8側へ伝達されるイナーシャトルクが、上限クラッチ容量Tclmaxで制限される。その結果、変速機7Aでの変速の際に、変速機7Aから動力分配装置8側へ、エンジンフリクショントルクTefricを上回る大きなイナーシャトルクが伝達されることによるエンジン1の吹け上がりを回避することができる(図3の一点鎖線L2で示す状態)。
このように、上記の第2の実施例に示すこの発明の制御装置によれば、モータ・ジェネレータ(MG2)2の出力による駆動力によって走行するEV走行時に、変速機7,7A,35の係合装置の係合・解放状態が制御されて変速機7,7A,35における動力伝達状態が切り替えられる場合、すなわち変速機7,7A,35において変速が行われる場合には、動力分配装置8と変速機7Aとの間に設けられたクラッチ51のトルク容量が低減されることによって、例えば変速機7,7A,35のイナーシャトルクなどの、変速機7,7A,35から動力分配装置8側へ伝達される伝達トルクが低減するように制御される。そのため、エンジン走行時と比較して静粛な運転が可能なEV走行時における、変速機7,7A,35による変速、すなわち動力伝達状態の切り替えの際に、大きな伝達トルクが動力分配装置8に伝達されることによるエンジン1の回転状態の変動を防止もしくは抑制することができる。
(第3の実施例)
つぎに、この発明の第3の実施例について説明する。前述の第1の実施例が、変速機7Aに対する変速要求がなされた場合に、変速機7Aの動力伝達状態を制御する係合装置のトルク容量(伝達トルク)を低減することにより、変速機7Aの変速時に、変速機7Aのイナーシャトルクトルクなどの伝達トルクが変速機7Aから動力分配装置8側へ伝達されて、エンジン1の回転変動を回避する構成であるのに対して、この第3の実施例は、変速機7Aの変速時における前記の伝達トルクに対して、その伝達トルクを打ち消す方向のトルクを出力するように、言い換えると、前記伝達トルクと互いに相殺するように、モータ・ジェネレータ(MG2)2の回転を制御することにより、変速機7Aの変速時におけるエンジン1の回転変動を回避するように構成された例である。
この第3の実施例による制御の一例を、図1Aのフローチャートに基づいて説明する。なお、この図1Aのフローチャートに示す第3の実施例は、前述の図1のフローチャートに示す第1の実施例を一部変更したものであって、図1のフローチャートに示す第1の実施例と同じ制御内容のステップについては、図1と同様の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
図1Aのフローチャートにおいて、変速機7Aに対して変速要求があり、かつ車両VeがEV走行中であることが検出されると、ステップS11において、変速機7Aの変速時に、変速機7Aから動力分配装置8側へ伝達される伝達トルクとして、変速機7AのイナーシャトルクトルクTinertiaが算出される。例えば変速機7Aの変速比、入出力回転数などの運転状態に基づいて、イナーシャトルクトルクTinertiaが求められる。
続いて、上記のステップS11で求められたイナーシャトルクトルクTinertiaに対して、そのイナーシャトルクトルクTinertiaを打ち消す方向のトルクをモータ・ジェネレータ2で出力するためのMG2補償トルクTmg2が算出される(ステップS12)。このMG2補償トルクTmg2とは、イナーシャトルクトルクTinertiaと互いに相殺することによって、イナーシャトルクトルクTinertiaを打ち消す方向のトルクである。
MG2補償トルクTmg2が算出されると、モータ・ジェネレータ2の出力がそのMG2補償トルクTmg2に基づいて制御されるとともに、変速要求に基づいた変速制御が実行されるれ、その後、このルーチンを一旦終了する。
つぎに、図4の共線図に基づいてこの第3の実施例による制御の一例を説明する。前述の図2の共線図と同様に、図4の共線図においても、「正」は回転要素が正回転することを示し、「逆」は回転要素が逆回転することを示している。そして、動力分配装置8ではモータ・ジェネレータ14とモータ・ジェネレータ2との間に、エンジン1が位置している。また、変速機7Aでは、サンギヤ23とサンギヤ19との間に、リングギヤ20およびキャリヤ26および出力回転部材27が位置している。また、サンギヤ19と、リングギヤ20およびキャリヤ26および出力回転部材27との間に、リングギヤ24およびキャリヤ22が位置している。
図4は、変速機7Aで、第4速が設定されている状態から第3速にダウンシフトされる場合を示している。第4速から第3速へダウンシフトされる場合、相対的に大きなイナーシャトルクが変速機7Aから動力分配装置8側へ伝達される。このとき、エンジン1のフリクショントルクTefricよりも動力分配装置8へ伝達されるイナーシャトルクが大きいと、エンジン1がそのイナーシャトルクにより連れ回されて、エンジン1の回転数が上昇するいわゆる吹け上がりが発生する(図4の点線L1で示す状態)。
そこで、この発明の第3の実施例では、変速機7Aで変速が行われることが予測された場合、すなわち変速機7Aに対して変速比を変更させる変速要求があった場合に、変速機7Aから動力分配装置8側へ伝達されるイナーシャトルクトルクTinertiaが検出され、そのイナーシャトルクトルクTinertiaを打ち消すトルクがモータ・ジェネレータ2から出力される。そのため、変速機7Aでの変速の際に、変速機7Aから動力分配装置8側へ、エンジンフリクショントルクTefricを上回る大きなイナーシャトルクが伝達されることによるエンジン1の吹け上がりを回避することができる(図4の一点鎖線L2で示す状態)。
このように、上記の第3の実施例に示すこの発明の制御装置によれば、変速機7,7A,35における動力伝達状態が切り替えられ、すなわち変速が行われる際に、モータ・ジェネレータ2の出力を制御することによって、変速機7,7A,35から動力分配装置8側へ伝達される伝達トルクを低減することができる。
(第4の実施例)
つぎに、この発明の第4の実施例について説明する。前述の第3の実施例が、変速機7Aの変速時における変速機7Aから動力分配装置8側への伝達トルクに対して、その伝達トルクを打ち消す方向のトルクを出力するようにモータ・ジェネレータ(MG2)2の回転を制御することにより、エンジン1の回転変動を回避する構成であるのに対して、この第4の実施例は、変速機7Aの変速時における前記の伝達トルクに対して、その伝達トルクが動力分配装置8に作用してもエンジン1が回転変動を起こさないようなトルクを出力するように、モータ・ジェネレータ(MG1)14の回転を制御するように構成された例である。
この第4の実施例による制御の一例を、図1Bのフローチャートに基づいて説明する。なお、この図1Bのフローチャートに示す第4の実施例は、前述の図1のフローチャートに示す第1の実施例を一部変更したものであって、図1のフローチャートに示す第1の実施例と同じ制御内容のステップについては、図1と同様の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
図1Bのフローチャートにおいて、変速機7Aに対して変速要求があり、かつ車両VeがEV走行中であることが検出されると、ステップS21において、変速機7Aの変速時に、変速機7Aから動力分配装置8側へ伝達される伝達トルクとして、変速機7AのイナーシャトルクトルクTinertiaが算出される。例えば変速機7Aの変速比、入出力回転数などの運転状態に基づいて、イナーシャトルクトルクTinertiaが求められる。
続いて、モータ・ジェネレータ14の出力を制御するためのMG1補償トルクTmg1が算出される(ステップS12)。このMG1補償トルクTmg1とは、上記のステップS21で求められたイナーシャトルクトルクTinertiaが動力分配装置8に作用した場合に、エンジン1で生じる回転数の変動状態が予測され、その回転数変動を生じさせないためのトルク、すなわちエンジン1の回転数変動を押さえ込むトルクをキャリヤ13に作用させるために、モータ・ジェネレータ14で出力されるトルクである。
MG1補償トルクTmg1が算出されると、モータ・ジェネレータ14の出力がそのMG1補償トルクTmg1に基づいて制御されるとともに、変速要求に基づいた変速制御が実行されるれ、その後、このルーチンを一旦終了する。
つぎに、図5の共線図に基づいてこの第4の実施例による制御の一例を説明する。前述の図2の共線図と同様に、図5の共線図においても、「正」は回転要素が正回転することを示し、「逆」は回転要素が逆回転することを示している。そして、動力分配装置8ではモータ・ジェネレータ14とモータ・ジェネレータ2との間に、エンジン1が位置している。また、変速機7Aでは、サンギヤ23とサンギヤ19との間に、リングギヤ20およびキャリヤ26および出力回転部材27が位置している。また、サンギヤ19と、リングギヤ20およびキャリヤ26および出力回転部材27との間に、リングギヤ24およびキャリヤ22が位置している。
図5は、変速機7Aで、第4速が設定されている状態から第3速にダウンシフトされる場合を示している。第4速から第3速へダウンシフトされる場合、相対的に大きなイナーシャトルクが変速機7Aから動力分配装置8側へ伝達される。このとき、エンジン1のフリクショントルクTefricよりも動力分配装置8へ伝達されるイナーシャトルクが大きいと、エンジン1がそのイナーシャトルクにより連れ回されて、エンジン1の回転数が上昇するいわゆる吹け上がりが発生する(図5の点線L1で示す状態)。
そこで、この発明の第4の実施例では、変速機7Aで変速が行われることが予測された場合、すなわち変速機7Aに対して変速比を変更させる変速要求があった場合に、変速機7Aから動力分配装置8側へ伝達されるイナーシャトルクトルクTinertiaが検出され、そのイナーシャトルクトルクTinertiaが動力分配装置8に伝達された場合であっても、エンジン1に回転数変動を生じさせないトルクが作用するように、モータ・ジェネレータ14の出力が制御される。そのため、変速機7Aでの変速の際に、変速機7Aから動力分配装置8側へ、エンジンフリクショントルクTefricを上回る大きなイナーシャトルクが伝達される場合であっても、エンジン1の吹け上がりを回避することができる(図5の一点鎖線L2で示す状態)。
上記に示したこの発明の第4の実施例による制御内容を、図7のタイムチャートに基づいて説明する。変速機7Aに対して変速要求があり(この場合は、第4速から第3速へのダウンシフト要求)に基づいて、変速機7Aの変速制御が開始されると、ブレーキB1が連結状態から解放状態へ制御されるとともに、クラッチC2が解放状態から係合状態へ制御される。このとき、従来(図7の点線で示す状態)では、クラッチC2は、そのトルク容量がトルク容量Tcl_convまで増大された状態で係合状態が設定される。モータ・ジェネレータ2の回転数の上昇が示すように、変速機7Aから動力分配装置8側へイナーシャトルクが伝達され、そのイナーシャトルクがエンジンフリクショントルクTefricを上回ることにより、エンジン1が連れ回されて、エンジン1の吹け上がりが発生する。
これに対して、上記に示すこの発明の第4の実施例(図7の実線で示す状態)では、変速機7Aから動力分配装置8側へ伝達されるイナーシャトルクが検出され、そのイナーシャトルクにより生じるエンジン1の吹け上がりを押さえ込むためのトルクであるTmg1がモータ・ジェネレータ14の回転が制御されて出力される。そのため、変速機7Aでの変速時に、変速機7Aから動力分配装置8側へ、エンジンフリクショントルクTefricを上回るイナーシャトルクが伝達される場合であっても、エンジン1の吹け上がりの発生が回避される。
また、この第4の実施例に対する比較例として、前述の第1ないし第3の実施例によるモータ・ジェネレータ2の回転状態(図7の一点鎖線で示す状態)を再掲すれば、この第4の実施例による変速時間に対して、第1ないし第3の実施例による変速時間が期間tだけ長くなっている。すなわち、この第4の実施例によれば、前述の第1ないし第3の実施例による変速に対して、変速時間を短縮することができる。
このように、上記の第4の実施例に示すこの発明の制御装置によれば、変速機7,7A,35における動力伝達状態が切り替えられ、すなわち変速が行われる際に、変速機7,7A,35から動力分配装置8側へ、変速機7,7A,35のイナーシャトルクなどの伝達トルクが伝達された場合であっても、モータ・ジェネレータ1の出力を制御することによって、エンジン1の回転状態の変動を防止もしくは抑制することができる。また、そのエンジン1の回転変動の抑制制御は、モータ・ジェネレータ14の出力を制御することにより、クラッチやブレーキなどの係合装置の係合・解放状態の変化とは別に行われるため、変速機7,7A,35の変速時間を短縮することができる。
(第5の実施例)
つぎに、この発明の第5の実施例について説明する。この第5の実施例は、前述の第4の実施例による制御が、変速機7Aの変速時にエンジン1の回転変動を回避できるとともに、変速時間を短縮することができる制御であることを利用し、例えばマニュアルシフトや急制動などの乗員の操作が行われて変速機7Aの変速比が急速に切り替えられる高応答変速が行われる際に、エンジンンの回転数変動を回避しつつ、応答性のよい変速制御が実行できるように構成された例である。
この第5の実施例による制御の一例を、図1Cのフローチャートに基づいて説明する。なお、この図1Cのフローチャートに示す第5の実施例は、前述の図1,図1Bのフローチャートに示す第1,第4の実施例を一部変更したものであって、図1,図1Bのフローチャートに示す第1,第4の実施例と同じ制御内容のステップについては、図1,図1Bと同様の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
図1Cのフローチャートにおいて、変速機7Aに対して変速要求があり、かつ車両VeがEV走行中であることが検出されると、ステップS31において、この場合の変速が、例えば運転者の手動操作による急速なマニュアルシフトや、ブレーキペダルが急激に踏み込まれた急制動などに対応して、変速機7Aに対して変速速度が速く変速の応答性が高い、いわゆる高応答変速が要求されているか否かが判断される。
高応答変速が要求されていないことによって、このステップS31で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。なお、この図1Cのフローチャートにおいては図示しないが、ステップS31で否定的に判断された場合に、例えば、前述の図1のフローチャートに示す第1の実施例、あるいは図1Aのフローチャートに示す第3の実施例による制御を実行するように構成することもできる。
これに対して、高応答変速が要求されていることによって、ステップS31で肯定的に判断された場合には、ステップS21へ進み、以降の制御が前述の図1Bに示す第4の実施例と同様に実行される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
このように、上記の第5の実施例に示すこの発明の制御装置によれば、マニュアルシフトや急制動などの乗員の操作が行われて変速機7,7A,35における動力伝達状態が切り替えられ、すなわち変速が行われる際に、変速機7,7A,35から動力分配装置8側へ、変速機7,7A,35のイナーシャトルクなどの伝達トルクが伝達された場合であっても、モータ・ジェネレータ1の出力を制御することによって、エンジン1の回転状態の変動を防止もしくは抑制することができ、変速機7,7A,35の変速時間を短縮することができる。
なお、この発明は、上述した具体例に限定されないのであって、各構成例においては、動力分配装置がシングルピニオン型の遊星歯車機構を主体として構成されている例を示しているが、動力分配装置がダブルピニオン型の遊星歯車機構を主体とした構成であってもよい。
また、回転要素が4個以上設けられた動力分配装置を有する車両においても、この実施例を適用可能である。つまり、この発明において、第1の要素ないし第3の要素とは、複数個ある回転要素のうち、第1の要素ないし第3の要素を、原動機および2個のモータ・ジェネレータに連結する構成となっており、4要素ある回転要素と、原動機および2個のモータ・ジェネレータとの連結関係を変更可能な動力分配装置であってもよい。また、この発明において、動力分配装置を構成する回転要素には、ギヤ、キャリヤ、回転メンバ、回転軸、コネクティングドラム、ハブなどが含まれる。
また、第4速以上の変速段を設定可能な変速機を有するハイブリッド車においても、この発明の制御例を実行可能である。また、前進ポジションで4以上のモードを設定可能な変速機を有するハイブリッド車においても、この発明の制御例を実行可能である。
さらに有段変速機としては、選択歯車式変速機を用いることも可能である。また、この実施例において、変速機として無段変速機を用いる場合は、トロイダル式無段変速機またはベルト式無段変速機のいずれを用いてもよい。この場合は、入力回転数と出力回転数との比である変速比を、無段階に制御および変更可能である。また、有段変速機または無段変速機は、その変速比が自動的に切り替えられる変速機、または手動操作により切り替えられる変速機のいずれでもよい。
さらに、バッテリ33に代えて、燃料電池を用いた車両においても、この発明の制御を実行可能である。さらにまた、蓄電装置および燃料電池の両方を有する車両において、この発明の制御例を実行することも可能である。
さらに、動力源としてのエンジンおよびモータ・ジェネレータの動力が、後輪(車輪)に伝達されるように構成された車両、つまり、後輪駆動車の他に、動力源としてのエンジンおよびモータ・ジェネレータの動力が、前輪(車輪)に伝達されるように構成された前輪駆動車にも、この実施例を適用可能である。さらに、動力源としてのエンジンおよびモータ・ジェネレータの動力が、トランスファ(図示せず)を経由して前輪(車輪)および後輪(車輪)に分配されるように構成された四輪駆動車にも、この実施例を適用可能である。
1…エンジン、 2,14…モータ・ジェネレータ、 3…車輪、 7,7A,35…変速機、 8…動力分配装置、 10…サンギヤ、 11…リングギヤ、 13…キャリヤ、 29,31…蓄電装置(バッテリ)、 30,32…インバータ、 33…油圧制御装置、 34…電子制御装置(ECU)、 51…クラッチ、 C0,C1,C2…クラッチ、 B1,B2…ブレーキ、 Ve…車両。