JP2007113141A - 炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。 - Google Patents

炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。 Download PDF

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Abstract

【課題】
乾燥緻密化時の単繊維間融着を抑制して、高性能な炭素繊維を製造することと同時に、シリコーン由来のスケール堆積を抑制し、焼成工程通過性を改善する。
【解決手段】
油剤が付与された繊維束を、界面活性剤が含有された洗浄液と接触せしめ、前記油剤の少なくとも一部を除去する炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、炭素繊維前駆体繊維束の単繊維間融着が発生することを防止し、また、品質および物性の優れた炭素繊維を製造することに好適で、炭素繊維の製造に際して工程通過性が改善された炭素繊維前駆体繊維束の製造方法に関するものである。
炭素繊維は、他の繊維に比べて優れた比強度および比弾性率を有するため、その優れた機械的特性を利用して樹脂との複合材料用の補強繊維として工業的に広く利用されているが、かかる炭素繊維については、さらに、産業用途への広がりが進む中で、さらなる品質の安定化と高品位化が求められている。
炭素繊維は、その炭素繊維前駆体繊維を酸化性雰囲気中で220〜300℃の温度に加熱(耐炎化処理)して耐炎化繊維束に転換後、不活性雰囲気中で1,000℃以上の温度に加熱(炭素化処理)して得られるが、生産性の観点から数千〜数万の繊維束として焼成される。各工程において繊維束を構成する単繊維間の融着が発生すると、毛羽の発生や断糸による操業性の悪化と共に欠陥増加による炭素繊維のストランド強度の低下が著しくなる。この単繊維間の融着は軽微なものでも、炭素繊維の品質や品位に大きな影響を与えるため、この単繊維間の融着を回避する目的で前駆体繊維束の製造工程において、繊維束に油剤を付与することが必須となっている。
従来、油剤としては、とりわけ、耐熱性と離型性に優れ、単繊維間の融着を効果的に防止できる各種変性シリコーン化合物が好ましく用いられ、数多くの提案がなされている。例えば、特定のアミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーンおよびアルキレンオキサイド変性シリコーンを混合した油剤は、空気中および窒素中での加熱時の減量が少なく、融着防止効果が高いことが開示されている(特許文献1参照)。
しかしながら、シリコーン化合物を主成分とした油剤は、繊維から脱落して粘着物となり、その粘着物が前駆体繊維束の製造工程や耐炎化処理工程の繊維搬送ローラーやガイドなどの表面に堆積して、繊維が巻き付いたり引っかかったりして断糸するなどの操業性低下を引き起こす原因になるという問題があった。また、耐炎化処理工程や炭素化処理工程などの焼成工程においては、酸化ケイ素、炭化ケイ素あるいは窒化ケイ素等を生成して、これらのスケールの堆積が糸切れを引き起こすなど、操業性を低下させ、さらには該スケール除去のための停機が必要となり稼働率の低下につながるという問題を有していた。
これらの問題に対して、前駆体繊維束に付与する油剤のシリコーン化合物ひいてはケイ素含有量を低減する油剤技術がいくつか提案されている。例えば、ビスフェノールA系の芳香族エステルと特定のアミノ変性シリコーンとの組み合わせた油剤(特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、前駆体繊維束に油剤を付与する際には、付着むらが発生することが多く、該提案油剤においても、付着量を高めにして単繊維間の融着を抑制しており、上述した操業性の低下を完全に解決できるものではなかった。
そのため、単繊維間の融着を抑制しつつ、上述した操業性の低下を解決するために、油剤付与、乾燥緻密化後に水の入った水洗浄槽に導いて、前駆体繊維束に付着している油剤を除去することが(特許文献3〜5参照)が提案されている。これらは、ケイ素を含有量が低減するため、上述の操業性の低下は一部抑制できるが、本発明者らが検討したところ、油剤過付着部分は極めて洗浄効率が悪く、付着むらは解消されないため、ローラーやガイドなどへの堆積物の低減が不十分であることと、さらには、付着量の少ない部分も同時に洗浄され、焼成工程において、単繊維間融着防止効果が十分とはいえず、高品質で高品位の炭素繊維を安定して得ることができないという問題があった。
特公平3−40152号公報(全頁) 特開2002−266239号公報(全頁) 特開昭60−224817号公報(特許請求の範囲) 特開2005−89883号公報(特許請求の範囲、第0048段落) 特開2005−89884号公報(特許請求の範囲、第0046段落)
本発明は、乾燥緻密化時の単繊維間融着を抑制して、高性能な炭素繊維を製造することと同時に、シリコーン由来のスケール堆積を抑制し、焼成工程通過性を改善することができる炭素繊維前駆体繊維束の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法は、前記課題を解決するために、次の構成を有する。すなわち、油剤が付与された繊維束を、界面活性剤が含有された洗浄液を接触せしめ、前記油剤の少なくとも一部を除去する炭素繊維前駆体繊維束の製造方法である。
本発明により、乾燥緻密化時の単繊維間融着を抑制するため、高性能な炭素繊維を製造でき、また、焼成工程前に付着したシリコーンを効率的に洗浄することで、シリコーン由来のスケール堆積を抑制し、焼成工程通過性を改善できる。
本発明者は、前記課題を解決するために、鋭意検討し、湿熱下で単繊維間融着の起きやすい乾燥緻密化工程でのシリコーンの必要量と耐炎化工程以降のシリコーンの必要量が異なることを見出して、到達した。すなわち、乾燥緻密化工程での必要量のシリコーンを含む油剤を付与した後、焼成工程前に、付着したシリコーンを、界面活性剤が含有された洗浄液を用いて、むらなく効率的に洗浄する工程を有するものである。
以下に、本発明をより詳細に説明する。
炭素繊維の前駆体となる前駆体繊維束は、ポリアクリロニトリル系重合体を含む紡糸原液を湿式または乾湿式紡糸した後、水洗して得られる水膨潤状態の糸条に油剤を付与した後、130〜200℃で熱処理することにより製造することができる。高性能な炭素繊維を得るための前駆体繊維束として好ましいポリアクリロニトリル系重合体の成分としては、少なくとも95モル%以上、より好ましくは98モル%以上のアクリロニトリルと、5モル%以下、より好ましくは2モル%以下の、耐炎化を促進し、かつ、アクリロニトリルと共重合性のある耐炎化促進成分を共重合したものを好適に使用することができる。かかる耐炎化促進成分としては、ビニル基含有化合物からなる共重合体が好適に使用される。ビニル基含有化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸など使用することができるが、これらに限定されるものではない。また、一部または全量をアンモニア中和したアクリル酸、メタクリル酸、またはイタコン酸のアンモニウム塩からなる共重合体は、耐炎化促進成分としてより好適に使用される。
紡糸原液は、従来知られている溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などを採用して得ることができる。紡糸原液に使用される溶媒としては、有機、無機の溶媒が使用することができるが、特に有機溶媒を使用するのが好ましく、具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが使用され、特にジメチルスルホキシドが好ましく使用される。
紡糸方法は、乾湿式紡糸法や湿式紡糸法が好ましく採用されるが、炭素繊維の高性能化に有利な、表面が平滑な前駆体繊維束を生産性よく製造することができることから、前者がより好ましく使用される。
1000〜10000個、より好ましくは3000〜8000個の吐出孔を有する紡糸口金から直接または間接に凝固浴中に紡糸原液を吐出して凝固繊維束を得るが、凝固浴液は、紡糸原液に使用する溶媒と凝固促進成分とから構成するのが、簡便性の点から好ましく、凝固促進成分として水を用いるのがさらに好ましい。凝固浴中の紡糸溶媒と凝固促進成分の割合、および凝固浴液温度は、得られる凝固繊維束の緻密性、表面平滑性および可紡性などを考慮して適宜選択して使用される。
得られた凝固繊維束は、20〜98℃に温調された単数または複数の水浴中で水洗、延伸するのが好ましい。延伸倍率は、糸切れや単繊維間の接着が生じない範囲で、適宜設定することができるが、より表面が平滑な炭素繊維前駆体繊維束を得るためには、5倍以下が好ましく、4倍以下がより好ましく、3倍以下がさらに好ましい。また、得られる炭素繊維前駆体繊維の緻密性を向上させる観点から、延伸浴の最高温度は、50℃以上とするのが好ましく、70℃以上がより好ましい。
本発明では、このようにして得られた繊維束に油剤を付与する。その油剤の付着量は、繊維の乾燥重量に対して、0.1〜5重量%が好ましく、0.3〜3重量%がより好ましく、0.5〜2重量%がさらに好ましい。その付着量が少なすぎると、単繊維同士の融着が生じ、高性能な炭素繊維が得られなくなることがある一方で、多すぎても、シリコーン由来のスケール堆積が多く、焼成工程通過性悪化することがある。油剤成分としては、単繊維間融着防止効果や集束性が認められるものであれば特に限定されないが、シリコーン化合物は、一般に高い融着防止効果が認められるため、好ましく使用できる。かかるシリコーン化合物は、表面平滑な均一皮膜を素早く形成するために、25℃における動粘度が低いことが好ましく、具体的には、10〜10000cStが好ましく、100〜2000cStがより好ましく、300〜1000cStがさらに好ましい。シリコーンは、上記したものの他に分子中のケイ素原子に結合する有機基として、アミノ基、脂環式エポキシ基、アルキレンオキサイド基などが好ましく、さらに繊維と親和性の高いアミノ基が含まれていることが特に好ましい。そのアミノ基はモノアミンタイプでもポリアミンタイプでもよいが、とりわけ、次の一般式に示す変性基が好ましく用いられる。すなわち、一般式―Q−(NH−Q’)−NHで表され、QおよびQ’は同種または、異種の炭素数1〜10の2価の炭化水素基、Pは0〜5の整数である。アミノ基が少なすぎると繊維との親和性が低下し、多すぎると耐熱性が低下するため、その変性量は、末端アミノ基量を−NHの重量に換算して、0.05〜10重量%が好ましく、0.1〜5重量%がより好ましい。アミノ変性シリコーンは、粘度の低いシリコーンの組成比で、20〜100重量%が好ましく、30〜90重量%がより好ましく、40〜80重量%がさらに好ましい。
また、油剤として、シリコーン化合物の代わりに、ケイ素非含有化合物を用いて単繊維間融着防止効果を高めることも好ましいものである。上述のように、シリコーンは、高い単繊維間融着防止効果を有する一方で、焼成炉内でシリコーン由来のスケールが堆積して操業性を低下させる可能性がある。そのような懸念をなくすため、ケイ素を含有しない化合物を用いるのは好ましいことである。このようなケイ素非含有化合物としては、耐熱性の高い有機化合物が好ましく、特に芳香族系有機化合物は好ましく用いられる。例えば、付加モル数1以上のスチレン化フェノール系化合物、ビスフェノール系化合物、ナフタレンのホルムアルデヒド縮合物、タンニンなどのポリフェノール類、芳香族エステル系化合物などが挙げられる。また、この中でも、ケイ素非含有化合物が実質的に水溶性または水中自己乳化性を有する液体であることが単繊維への均一付着の点で好ましい。例えば、上記例のような各種の芳香族系有機化合物に親水基、例えばエチレンオキサイド鎖や水酸基などが付加されているような化合物が挙げられる。
シリコーン化合物やケイ素非含有化合物の重量比は10〜100/0〜90が好ましい。この範囲を外れると単繊維間融着の防止が不十分な場合がある。
上記油剤は、240℃で2時間、空気中で熱処理した時に、その減量率が70%以下、好ましくは50%以下に抑えられるような耐熱性を有するものが好ましい。減量率が70%より大きいと耐炎化工程において単繊維間に存在する油剤量が不足して、単繊維間の接着が発生しやすくなる場合がある。かかる減量率は、低ければ低いほど好ましく、0%が最も好ましい。
さらに、上記油剤は、上記成分以外にも、平滑剤、吸湿剤、界面活性剤、粘度調整剤、離型剤、展着剤、酸化防止剤、抗菌剤、防腐剤、防錆剤およびpH調整剤などの成分を本発明の効果を阻害しない範囲で含んでもよい。

油剤を繊維束に付与する方法は、ディップ・ニップ法やスプレー法、ガイド給油法など、特に限定されるものではないが、上述の油剤のみを付与すると、過剰付着する場合には、油剤を水に希釈して用いると良い。その際に油剤が溶解または自己乳化・分散しにくい場合、界面活性剤を併用することによる乳化・分散に頼ることになる。そのとき、自己乳化・分散しにくい化合物毎に乳化・分散してから混合してもかまわないし、これら化合物を混合したものを乳化・分散してもかまわない。この場合、前記シリコーン化合物とケイ素非含有化合物を相溶化させ、均一な皮膜を形成させるため、相溶化剤として界面活性剤を用いることも好ましい。かかる相溶化剤は、HLB値(親水親油バランス値)が5〜10のものを挙げることができる。
油剤において乳化・分散に用いられる界面活性剤は、特に種類は問わず、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のいずれもが用いられ、アニオン性とカチオン性の組み合わせ以外は、組み合わせて用いても構わないが、カチオン性が好ましく、アミノ基等がもたらす弱カチオン性はなお好ましく、ノニオン性は特に好ましく用いられる。ノニオン性の界面活性剤としては、例えばポリエチレングリコールのアルキルエーテルやアルキルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロック共重合体、弱カチオン性も有するアルキルアミンエーテルなどを挙げることができる。乳化・分散した場合の流体力学的平均粒径は、0.05〜5μmが好ましく、0.1〜1μmがより好ましく、0.2〜0.7μmがさらに好ましい。0.05μmより小さい場合、効果が飽和する傾向にあるにも関わらず、乳化・分散が困難となりやすい。また、5μmより大きい場合には、繊維束の中心付近まで粒子が届かず、不均一付着を起こす場合がある。かかる平均粒径は市販の光散乱などを原理とする粒度分布計で確認することができる。 さらに、油剤には、上記シリコーン化合物に加えて、25℃における動粘度が80000cSt以上の液体を必須成分とする液状微粒子を用いることも好ましい。かかる液状微粒子は、製糸工程の間、動粘度の高い液滴があたかも固体スペーサーのように作用し、単繊維間に隙間を作ることで、融着を抑制すると考えられる。変形を抑制する観点から、液状微粒子に含まれる液体は、その動粘度が高いほど好ましく、25℃における動粘度が、80000cSt以上、好ましくは100000cSt以上、より好ましくは500000cSt以上のものを用いる。動粘度の上限は特に限定されないが、高すぎると微粒化が困難になることがあるので、10000000cSt以下とするのが現実的である。
かかる液体としては、一般の鉱油や合成油、シリコーンオイルなどのオイルが好ましく用いられ、中でも、シリコーンオイルは、粘度温度係数が小さいことや離型性が高いことから特に好ましく用いられる。シリコーンオイルとしては、基本的に直鎖状のシロキサン骨格を有するものであることが好ましい。若干の分岐を有していてもよいが、分子全体が直鎖状の構造からなるものが好ましい。分子中のケイ素原子に結合する有機基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、へキシルなどのアルキル基;シクロヘキシルなどのシクロアルキル基;ビニル、アリルなどのアルケニル基;フェニル、トリルなどのアリール基、グリシジル基、脂環式エポキシ基などが例示される。
かかる液状微粒子は、作製の方法は問わないが、例えば、分散媒を用いて、上述したシリコーンなどの高動粘度の液体を乳化することにより形成される。分散媒としては、上述したものと同様のものを用いることが好ましい。

油剤において、水を分散媒とする際には、通常、界面活性剤を併用する。界面活性剤としては、特に種類は問わず、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のいずれもが用いられ、アニオン性とカチオン性の組み合わせ以外は、組み合わせて用いても構わないが、中でも、カチオン性が好ましく、アミノ基などがもたらす弱カチオン性はなお好ましく、ノニオン性は特に好ましく用いられる。 シリコーン化合物とケイ素非含有化合物の合計と分散媒を除いた液状微粒子の重量比は60〜100/0〜40が好ましい。液状微粒子が多すぎるとこの工程後の洗浄が不均一になる場合がある。
油剤を付与された繊維束は、速やかに乾燥すると共に緻密化するのが好ましい。本発明においては、油剤が適量付着しているため、単繊維間融着の起きやすい乾燥緻密化工程でも単繊維間接着を効率的に抑制できる。乾燥温度は、高いほど生産性の観点からも好ましいので、単繊維間の融着が生じない範囲で高く設定するのが良い。具体的には、100〜200℃が好ましく、120〜200℃がより好ましく、150〜190℃が更に好ましい。
本発明では、乾燥緻密化工程後、耐炎化工程までの間に、水に界面活性剤が添加された洗浄液に、油剤が付与された繊維束を接触せしめ、付着した油剤の少なくとも一部を除去する処理をする。この処理をすることで、油剤がむらなく、効果的に洗浄され、過付着部分が減少し、油剤の付着量が平準化するために、後続する工程への油剤および油剤の分解物の脱落、飛散が大幅に減少する。
かかる界面活性剤は、乾燥緻密化工程における単繊維間融着を抑制された繊維束に付着した油剤成分をむらなく、かつ、効果的に洗浄するための成分であり、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、および両性界面活性剤の中から任意に選択して使用することができる。具体的には、例えば、次のようなものが例示される。
アニオン性界面活性剤としては、ヘキシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、セチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ミリスチルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩;ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンデシルエーテル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンイコシルエーテル硫酸エステルナトリウムのようなポリオキシエチレンモノアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩;ポリオキシエチレンデシルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムのようなポリオキシエチレンモノ(アルキルフェニル)エーテル硫酸エステルナトリウム塩;ジオクチルスルホコハク酸塩のようなジアルキルスルホコハク酸塩などが例示される。
カチオン性界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、牛脂トリメチルアンモニウムクロリド、ヤシ油トリメチルアンモニウムクロリド、オクチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ジオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリドのような第四級アンモニウム塩などが例示される。
ノニオン性界面活性剤としては、モノラウリン酸グリセリル、モノミリスチン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリルのようなグリセリン脂肪酸エステル;同様の脂肪酸残基を有するポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、およびポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンイソセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテルのようなポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルのようなポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;オキシエチレン・オキシプロピレンブロック共重合体;(ポリオキシエチレン)アセチレングリコール;ポリオキシエチレンスチレン化フェノールなどが例示される。
両性界面活性剤としては、ベタイン型のヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油アルキルベタインなどが例示される。
本発明においては、表面張力低下効果及び濡れ性向上効果を高める点で、これらの界面活性剤の中でもアセチレングリコールやジオクチルスルホコハク酸塩が特に好ましく用いられ、アセチレングリコールは、日信化学工業株式会社からサーフィノールやオルフィンなどの商標で各種グレードが市販されている。また、乳化・分散効果を高める点で、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシエチレンスチレン化フェノールも特に好ましく用いられる。
これらの界面活性剤は、1種を単独で使用しても良いが、濡れ性向上する成分と乳化・分散性を向上する成分等、2種以上を混合して使用することが特に好ましい。また、上記した成分以外にも、消泡剤、抗菌剤、防腐剤、防錆剤およびpH調整剤などの成分を本発明の効果を阻害しない範囲で含んでもよい。
本発明で用いる洗浄液は、25℃における表面張力が40mN/m以下であることも、濡れ性を向上する点で好ましい。特に、シリコーン類を用いた油剤が付与された繊維束の場合、撥水性を示すことがあり、過付着部分においても効果的に洗浄するためには濡れ性が重要となる。その指標が表面張力であり、25℃において30mN/m以下がより好ましい。下限は特に規定するものではないが、20mN/mを下回る場合には効果が飽和する傾向にある。乳化・分散するための界面活性剤を含んだ水溶液で、40mN/m以下になる場合は問題ないが、それらだけでは40mN/m以下にならない場合は、さらに表面張力を低下させるための界面活性剤を添加するのが好ましい。本発明において表面張力は、ウィルヘルミー法で白金プレートを用いて測定する。測定温度は25℃である。
さらに、洗浄液における界面活性剤の添加濃度は、0.1〜10重量%であることが好ましい。0.1重量%より低いと、表面張力が高く、洗浄効果が不足することが多く、また10重量%より高いと効果が飽和するにも関わらず、その界面活性剤の洗浄に手間がかかることがある。
油剤の洗浄方式は、浸漬法や液流貫通法、揺動法、シャワー法、超音波振動法などの方法があるが、キャビテーション効果が得られることから超音波振動法が特に好ましい。
洗浄による油剤の除去量については、炭素繊維前駆体繊維束への油剤の付着量が、繊維の乾燥重量に対して、0.1〜1.5重量%、好ましくは0.3〜1重量%となるようにすることが好ましい。その付着量が少なすぎると、単繊維同士の融着が生じ、高性能な炭素繊維が得られなくなることがある一方で、多すぎると、耐炎化工程の際にシリコーン由来のスケールの堆積が多く、操業性を低下させることがある。
洗浄液に用いた界面活性剤は、耐炎化工程では、タール化して、耐炎化繊維の品位を悪化させる恐れがあるため、耐炎化工程までの間に水を用いて洗浄することが好ましい。油剤を洗浄された繊維束を加圧スチーム中で延伸する場合は、洗浄液に用いた界面活性剤がスチームの浸透性を高める効果があるため、加圧スチーム延伸後に界面活性剤を洗浄することがより好ましい。
さらに、耐炎化工程での単繊維間融着が発生しやすい場合には、上記の方法で油剤を洗浄した繊維束に、上記のケイ素非含有化合物あるいは、その乳化・分散物を耐炎化工程までの間に付与して補ってもかまわない。乳化・分散した場合は、油剤を付与された糸条を速やかに乾燥することが好ましい。
乾燥された繊維束は、さらに加圧スチーム中または乾熱下で後延伸されるのが、得られる炭素繊維前駆体繊維束の緻密性や生産性の観点から好ましい。後延伸時のスチーム圧力または温度や後延伸倍率は、糸切れ、毛羽発生のない範囲で適宜選択して使用するのがよいが、3〜7倍が好ましく、4〜6倍がより好ましい。
このようにして前駆体繊維束が得られるが、その前駆体繊維束の単繊維繊度は、0.1〜2.0dTexであることが好ましく、0.3〜1.2dTexであることがより好ましく、0.6〜1.0dTexがさらに好ましい。かかる繊度は小さいほど、得られる炭素繊維の引張強度や弾性率の点で有利であるが、生産性は低下するため、性能とコストのバランスを勘案し選択するのがよい。このような単繊維繊度は、紡糸原液の口金からの単糸一本当たりの吐出速度で容易に調整できる。
また、前駆体繊維束を構成する単繊維数は、好ましくは、1000〜96000本であり、より好ましくは、12000〜48000本であり、さらに好ましくは、12000〜24000本である。ここで、前駆体繊維束を構成する単繊維数とは、耐炎化処理される直前の単繊維数をいい、生産性の観点から多いほど好ましい。単繊維の数が1000本未満では、生産性が悪化することが多く、また、96000本を超えると耐炎化の際に均一に焼成できなくなることが多い。このような本数は、一つの口金から吐出した繊維束を、必要に応じて、上述の任意の工程の前後で合流、または最終の前駆体繊維束となった後で合糸させれば得られる。
上述したような好ましい方法により、本発明で用いられる、高性能な炭素繊維を得るための前駆体繊維束が製造される。かかる前駆体繊維束を耐炎化処理して後、炭素化処理することにより焼成して、高性能な炭素繊維を製造でき、また、シリコーン由来のスケール堆積を抑制し、焼成工程通過性を改善できる。
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、なお、実施例中、特性評価は次のようにして実施した。
<炭素繊維の引張強度および引張弾性率>
炭素繊維束に下記組成の樹脂を含浸させて130℃の温度で35分間硬化させ、ストランドとした。6本のストランドについてそれぞれJIS R7601(1986年)に基づいて引張試験を行い、各試験で得られた強度および弾性率をそれぞれ平均して、炭素繊維の引張強度および引張弾性率とした。
*樹脂組成(かっこ内は本発明の実施例で用いたもののメーカー等)
・3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート(ERL−4221、ユニオンカーバイド社製) 100重量部
・3−フッ化ホウ素モノエチルアミン(ステラケミファ(株)製) 3重量部
・アセトン(和光純薬工業(株)製) 4重量部
<洗浄前と洗浄後油剤付着量>
洗浄前油剤付着量および、洗浄工程で処理された前駆体繊維束を乾燥した後の洗浄後油剤付着量は溶媒抽出法により測定した。
<操業性>
炭素繊維を1週間サンプリングしたときの、耐炎化処理工程、炭素化処理工程などの焼成工程における酸化ケイ素、炭化ケイ素および窒化ケイ素等の生成物によって引き起こされる糸切れ頻度により、操業性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
○:糸切れ回数(回/1ton-前駆体繊維)<0.2
×:糸切れ回数(回/1ton-前駆体繊維)≧0.2
[実施例1]
下記処方の炭素繊維前駆体繊維用油剤を調製した。
アミノ変性シリコーン 7重量部
ノニオン性界面活性剤 3重量部
トリスチレン化フェノールEO付加物(HLB12) 80重量部
水 4000重量部
アミノ変性シリコーンは、アミノ当量2000mol/g、その25℃における動粘度が1500cStのものを用いた。ノニオン性界面活性剤としては、オキシエチレン・オキシプロピレンブロック共重合体(重量平均分子量4100)を用いた。上記のシリコーン、界面活性剤、トリスチレン化フェノールEO付加物および水を加え、ホモミキサー、ホモジナイザーを用いて乳化液を調製した。この乳化液に、ジメチルシリコーン(25℃における動粘度が100000cSt)、ノニオン性界面活性剤、水からなる乳化液BY22−029(東レダウコーニング(株)製)を20重量部添加し、攪拌して油剤を得た。
アクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%からなる共重合体をジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により重合し、濃度22重量%の紡糸原液を得た。重合後、アンモニアガスをpH8.5になるまで吹き込み、イタコン酸を中和して、アンモニウム基をポリマー成分に導入することにより、紡糸原液の親水性を向上させた。得られた紡糸原液を40℃として、直径0.15mm、孔数4000の紡糸口金を用いて、一旦空気中に吐出し、約4mmの距離の空間を通過させた後、3℃にコントロールした35重量%ジメチルスルホキシド水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸により凝固させた。得られた凝固糸を水洗したのち70℃の温水中で3倍に延伸し、さらに油剤浴中を通過させることにより、調製した油剤をディップーニップ法で付着させた。さらに180℃の加熱ローラーを用いて、接触時間40秒の乾燥処理を行った。得られた乾燥糸を水に濃度1%の表1に示す界面活性剤が添加された洗浄液を満たした超音波洗浄槽に導いて30秒浸漬し、付着した油剤の一部を除去した。さらに、水洗槽で30秒浸漬し、付着した界面活性剤を除去した。続いて、0.4MPaの加圧スチーム中で延伸することにより、製糸全延伸倍率を14倍とし、単繊維繊度1.0dTex、単繊維本数4000本の前駆体繊維束を得た。なお、得られた前駆体繊維束の油剤付着量は純分で1.0重量%であった。
得られた前駆体繊維束を3本合糸して単繊維本数12000本とした後、240〜280℃の空気中で加熱して耐炎化繊維に転換した。耐炎化処理の時間は40分、耐炎化処理の工程における延伸比は0.86とした。
さらに、この耐炎化繊維を、300〜800℃の窒素雰囲気中で加熱して予備炭素化処理した後、最高温度1350℃の窒素雰囲気中で加熱して炭素化処理した。予備炭素化処理の工程における延伸比は0.95、炭素化処理の工程における延伸比は、0.95とした。さらに、炭素化処理して得られた繊維を硫酸水溶液中で、10クーロン/g−CFの電気量で陽極酸化処理を行って炭素繊維を得た。これらの間、炭素繊維には、操業性に影響を及ぼすような顕著な毛羽や切断は発生しなかった。得られた良好な品位の炭素繊維の引張強度は5.5GPa、引張弾性率は240GPaであった。
[比較例1]
洗浄液として、界面活性剤を用いず、水のみとした以外は、実施例1と同様に操作を行って炭素繊維を得た。その結果、シリコーン由来のスケール堆積が多く、焼成工程通過性が悪かった。得られた炭素繊維の引張強度は5.3GPa、引張弾性率は240GPaであった。
[比較例2]
洗浄液として、界面活性剤を用いず、水のみとするとともに、かつ、超音波法を用いない水流貫通法とした以外は、実施例1と同様に操作を行って炭素繊維を得た。その結果、シリコーン由来のスケール堆積が多く、焼成工程通過性が悪かった。また、単繊維間融着が一部発生し、得られた炭素繊維の引張強度は4.8GPa、引張弾性率は240GPaであった。
[実施例2〜6]
洗浄液において、界面活性剤として、表1に示す界面活性剤に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って前駆体繊維束を得た。さらに、実施例1と同様に操作を行って炭素繊維を得た。その結果を表1にまとめて示した。
Figure 2007113141
*1:ポリオキシエチレンーアセチレングリコール サーフィノール(登録商標)485(日信化学工業(株)製)
*2:ポリオキシエチレンーアセチレングリコール オルフィン(登録商標)PD−001(日信化学工業(株)製)
*3:ポリオキシエチレンーアセチレングリコール オルフィン(登録商標)PD−002(日信化学工業(株)製)
*4:ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(HLB10)
*5:ポリオキシエチレンスチレン化フェノール(HLB12)
*6:ポリオキシエチレンー芳香族エステル系化合物を60%とポリオキシエチレンアルキルエーテルを40%混合したもの
本発明の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法によれば、乾燥緻密化時の単繊維間融着を抑制しつつ、焼成工程前に付着したシリコーンを効率的に洗浄することで、シリコーン由来のスケール堆積を抑制し、毛羽や糸切れのない安定した品位で、高性能な炭素繊維を製造することができる。かかる炭素繊維は、プリプレグ化したのち複合材料に成形することもでき、本発明で得られた炭素繊維を用いた複合材料は、ゴルフシャフトや釣り竿などのスポーツ用途、航空宇宙用途、フードおよびプロペラシャフトなどの自動車構造部材用途、フライホイールおよびCNGタンクなどのエネルギー関連用途などに好適に用いることができる。

Claims (3)

  1. 油剤が付与された繊維束を、界面活性剤が含有された洗浄液と接触せしめ、前記油剤の少なくとも一部を除去する炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
  2. 前記洗浄液の表面張力が40mN/m以下である請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
  3. 前記洗浄液における界面活性剤の濃度が0.1〜10重量%である請求項1または2に記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
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