JP2007107514A - スタータ - Google Patents

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Abstract

【課題】電機子の逆回転を防止できる逆転防止用クラッチ7を備え、そのクラッチ性能の低下及びブラシ寿命の低下を抑制できるスタータ1を提供する。
【解決手段】スタータ1は、ピニオンギヤ6がエンジンのリングギヤ24に常時噛み合わされ、モータ2の電機子9がエンジン始動時とは逆方向に回転することを防止する逆転防止用クラッチ7を備える。このクラッチ7は、内部の潤滑剤がモータ2側へ流出することを抑制するために、クラッチカバー35の端部に取り付けられたシール部材36を電機子軸13上に配置して構成されるシール手段を備えている。シール部材36は、ゴム材料から成り、そのゴム材料をクラッチカバー35の内周側端部に焼き付けて固定されている。なお、クラッチ7に使用される潤滑剤と、減速機4に使用される潤滑剤は、基油、増ちょう材、添加剤等から成るグリースであり、両者のグリースの基油が同種である。
【選択図】図1

Description

本発明は、エンジン側のリングギヤにピニオンギヤが常時噛み合わされている常時噛合い式スタータに関する。
従来、ピニオンギヤを押し出してエンジン側のリングギヤに噛み合わせる一般的な電磁押し込み式スタータは、始動時以外では、ピニオンギヤがリングギヤに噛み合っておらず、始動時のみピニオンギヤが前進してリングギヤに噛み合い、モータで発生した駆動力をピニオンギヤからリングギヤに伝達してエンジンを駆動し、エンジン始動後は、イグニッションスイッチをSTART位置からON位置に戻すことで、ピニオンギヤがリングギヤから離脱する方式である。
この電磁押し込み式スタータでは、エンジンが停止する前(エンジンが惰性回転している時)に再始動させようとしても、エンジン側のリングギヤが高速で回転しており、そのリングギヤにピニオンギヤを噛み合わせることができないため、エンジンが停止する前に再始動させることは困難である。
一方、エンジン側のリングギヤとスタータ側のピニオンギヤとが直接または中間ギヤ等を介して常時噛み合っている常時噛合い式スタータが知られている(特許文献1参照)。この常時噛合い式スタータでは、エンジン始動後、ピニオンギヤがリングギヤから離脱することはなく、常時噛み合っているので、エンジンが停止する前の再始動も可能である。また、電磁押し込み式スタータでは、ピニオンギヤがリングギヤに噛み合う時に噛み合い音が発生するが、常時噛合い式スタータでは、噛み合い音が発生しないため、静音性の点でも優れている。
ところで、エンジンの始動においては、エンジンが完爆してエンジン回転数がスタータ回転数を上回ると、ピニオンギヤがリングギヤに回されることになる。この時、スタータモータの電機子は、リングギヤとピニオンギヤとのギヤ比(一般的にピニオンギヤ:1に対してリングギヤ:8〜15程度)を乗じた回転数(内部減速機を有するスタータでは、更に内部減速比を乗じた回転数)で回されることになり、電機子が遠心力により破損する原因となる。
これを防止するために、スタータの内部やリングギヤ側に一方向クラッチが設けられている。この一方向クラッチには、エンジン回転数がスタータ回転数を上回ると空転して、エンジン回転数を電機子に伝えない機能を持たせている。
ところが、エンジン回転数がスタータ回転数を上回った時に空転する一方向クラッチは、エンジン停止時の揺動等でエンジンが逆方向に回転した時に契合状態(クラッチが繋がった状態)となるため、常時噛合い式スタータでは、逆回転方向に発生した回転力がエンジン側からスタータ側に伝達されてしまう。その結果、リングギヤとピニオンギヤとのギヤ比(減速比)を乗じた回転数(内部減速機を有するスタータでは、更に内部減速比を乗じた回転数)で電機子が回されることになり、ブラシ寿命の低下や、電機子が遠心力によって破損することが懸念される。
そこで、本出願人は、エンジン始動時には電機子の回転を許容し、エンジンの逆回転が電機子に伝達された時には、電機子の逆回転を規制する逆転防止用クラッチを備えたスタータを提案している(特許文献2参照)。
上記の逆転防止用クラッチは、電機子軸に設けられたクラッチインナと、このクラッチインナと同心に配置されて、回転不能に固定されたクラッチアウタと、クラッチインナとクラッチアウタとの間に配設されるクラッチ部材(例えばローラ)とを有し、エンジン始動時には、クラッチ部材が空転することで電機子の回転を許容し、エンジンの逆回転が電機子軸に伝達された時には、クラッチ部材がクラッチインナとクラッチアウタとに係合して電機子の逆回転を阻止する。
特開2004−225544号公報 特願2005−38081
ところで、通常、クラッチには、摺動部の摩擦や摩耗の低減、及び焼き付き防止を目的として、潤滑剤を塗布することが一般的である。しかし、先願(特許文献2)に記載されたスタータでは、逆転防止用クラッチが電機子軸上に配置されているため、スタータモータの発熱や、エンジンからの輻射熱によってクラッチ内部の潤滑剤が気化し、整流子やブラシに付着することが考えられる。整流子やブラシに潤滑剤が付着すると、ブラシの寿命低下を招くことが知られている。また、クラッチ内部の潤滑剤が流出して減少すると、逆転防止用クラッチが所定の空転性能や係合性能を発揮できなくなり、スタータの信頼性低下に繋がる。
さらに、先願のスタータでは、逆転防止用クラッチをスタータの内部減速機に隣接して配置しているため、内部減速機に使用される潤滑剤がクラッチ内部の潤滑剤と混入することも考えられ、その場合、クラッチ性能が低下する恐れがある。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、電機子の逆回転を防止できる逆転防止用クラッチを備え、そのクラッチ性能の低下及びブラシ寿命の低下を抑制できるスタータを提供することにある。
(請求項1の発明)
本発明は、電機子軸の一端側に整流子が設けられる電機子を有し、整流子上に配置されるブラシを通じて電機子に始動電流が供給されることにより、電磁力の作用で電機子に回転力を発生するモータと、電機子の一方向の回転(正回転と呼ぶ)を許容し、他方向の回転(逆回転と呼ぶ)を阻止する逆転防止用クラッチと、この逆転防止用クラッチの反モータ側に隣接して配置され、電機子の正回転を減速する減速機と、この減速機を介して電機子軸に連結される出力軸と、エンジン側のリングギヤに常時噛み合い、出力軸と一体に回転してリングギヤを駆動するピニオンギヤとを備え、逆転防止用クラッチは、電機子軸上に配置されると共に、クラッチ内部の潤滑剤がモータ側へ流出することを抑制するシール手段を有していることを特徴とする。
本発明によれば、シール手段によってクラッチ内部の潤滑剤がモータ側へ流出することを抑制できるので、整流子やブラシに潤滑剤が付着することによるブラシ寿命の低下を抑制できる。
また、クラッチ内部の潤滑剤の減少を抑制できるので、潤滑剤の減少による逆転防止用クラッチの性能低下を抑制できる。
(請求項2の発明)
請求項1に記載したスタータにおいて、逆転防止用クラッチは、電機子軸と一体に設けられたクラッチインナと、このクラッチインナと同心に配置され、且つ回転不能に固定されたクラッチアウタと、クラッチインナとクラッチアウタとの間に配設されるクラッチ部材とを有し、エンジン始動時には、クラッチ部材が空転することで電機子の正回転を許容し、エンジン始動時と逆方向の回転が電機子軸に伝達された時には、クラッチ部材がクラッチインナとクラッチアウタとに係合することで電機子の逆回転を阻止することを特徴とする。
上記の構成によれば、エンジン始動時には、電機子の正回転が逆転防止用クラッチで許容されて出力軸に伝達されることにより、その出力軸の回転がピニオンギヤからエンジン側のリングギヤに伝達されてエンジンを始動させることができる。一方、エンジンの逆回転により、エンジン始動時と逆方向の回転が電機子軸に伝達されると、逆転防止用クラッチによって電機子の逆回転が阻止されるので、電機子がエンジン始動時と逆方向に回転することを防止できる。
(請求項3の発明)
請求項2に記載したスタータにおいて、逆転防止用クラッチは、クラッチアウタに固定されたクラッチカバーを有し、シール手段は、クラッチカバーにシール部材を取り付け、そのシール部材を電機子軸上に配置して構成されることを特徴とする。
通常、クラッチの適切な空転性能や係合性能を発揮させるためには、クラッチインナとクラッチアウタとを同心に配置する(偏心量を少なくする)必要がある。
また、回転体(本発明では電機子)に対するシール構造では、回転体とシール部材との摺動ロスを軽減するために、且つ確実なシール性を確保するために、回転体とシール部材とを同心に配置する必要がある。
本発明では、クラッチインナと同心に配置されたクラッチアウタにクラッチカバーが固定され、そのクラッチカバーにシール部材を取り付けているので、クラッチインナに対しシール部材を同心に配置できる。また、クラッチインナは、電機子軸と一体に設けられているので、電機子軸上に配置されるシール部材と電機子軸との同心も確保できる。その結果、電機子軸とシール部材との摺動ロスを軽減でき、且つ確実なシール性を確保できる。 また、クラッチカバーにシール部材を取り付けることで、シール部材を電機子軸と同心に配置するための余分な部材を削減でき、コスト面でも有利である。
(請求項4の発明)
請求項3に記載したスタータにおいて、シール部材は、ゴム材料から成り、そのゴム材料をクラッチカバーに焼き付けて固定されていることを特徴とする。
シール部材の固定方法として、ゴム材をクラッチカバーに嵌め込んで固定する、あるいは接着剤によって固定する等の方法が考えられるが、回転する電機子軸に対してシール性を確保するためには、シール部材の周方向の固定力が必要となる。これに対し、本発明では、ゴム材料をクラッチカバーに焼き付けて固定しているので、十分な固定力を確保することができ、回転する電機子軸に対して十分なシール性を得ることができる。
(請求項5の発明)
請求項3に記載したスタータにおいて、シール部材は、オイルシールであり、そのオイルシールがクラッチカバーに回転不能に固定されていることを特徴とする。
シール部材としてオイルシールを用いた場合、スタータを取り付けるエンジンや車両による環境変化の影響で必要なシール機能が変更となった場合でも、オイルシールの種類を選定することで対応できる。また、JIS等で規格化された汎用のオイルシールを用いればコスト的にも有利である。
(請求項6の発明)
請求項3〜5に記載した何れかのスタータにおいて、シール部材が配置される電機子軸の外径は、クラッチインナの外径と同一であることを特徴とする。
シール部材が配置される電機子軸の外径とクラッチインナの外径とが異なる(段差が有る)と、そのクラッチインナが一体に設けられる電機子軸の加工が複雑になり、コストアップの要因となる。また、逆転防止用クラッチ及びシール部材をスタータAssyへ組み付ける際に、電機子軸上の段差が障害となって組み付けが困難となり、組み付け工数が多くなってしまう。
これに対し、シール部材が配置される電機子軸の外径とクラッチインナの外径とが同一であれば、上記の問題を解消できる。
(請求項7の発明)
請求項3〜6に記載した何れかのスタータにおいて、クラッチカバーは、クラッチアウタの外周に圧入された状態で固定されていることを特徴とする。
クラッチカバーの固定には、クラッチカバーをクラッチアウタの外周にかしめて固定することもできるが、クラッチカバーをクラッチアウタの外周に圧入して固定した方が、クラッチカバーとクラッチアウタとの隙間を小さくできるので、クラッチ内部の潤滑剤が流出することを抑制できる。
(請求項8の発明)
請求項2〜7に記載した何れかのスタータにおいて、クラッチアウタの外周部に配置される第2のシール部材を有し、この第2のシール部材により、クラッチアウタの減速機側とモータ側との間がシールされていることを特徴とする。
本発明のシール手段は、クラッチ内の潤滑剤がモータ側へ流出することを抑制できるが、減速機側への流出を抑制するものではない。そのため、クラッチアウタの外周に隙間があると、クラッチ内の潤滑剤が減速機側へ流れた後、クラッチアウタの外側(隙間)を通り抜けてモータ側へ流れ込み、整流子やブラシに付着することも考えられる。また、減速機で使用される潤滑剤がクラッチアウタの外側(隙間)を通ってモータ側へ流出することも考えられる。
これに対し、クラッチアウタの外周部に第2のシール部材を配置し、この第2のシール部材によってクラッチアウタの減速機側とモータ側との間をシールすることにより、クラッチ内部または減速機内部の潤滑剤が減速機側からモータ側へ流出することを抑制できるので、整流子やブラシへの潤滑剤の付着によるブラシ寿命の低下を更に抑制できる。
(請求項9の発明)
請求項1〜8に記載した何れかのスタータにおいて、減速機に使用される減速機用潤滑剤および逆転防止用クラッチに使用されるクラッチ用潤滑剤は、基油、増ちょう材、添加剤等から成るグリースであり、且つ減速機用潤滑剤とクラッチ用潤滑剤は、グリースの基油が同種であることを特徴とする。
クラッチ内部のグリースは、一般的に低温での係合性を重視するために、摩擦係数の高いグリース(例えばシリコン系グリース)が使用されることが多い。
一方、減速機に用いられるグリースは、ギヤ摩耗を抑制するために、摩擦係数の低いグリース(例えばエステル系グリース)が使用されることが多い。
逆転防止用クラッチは、通常のスタータに用いられる一方向クラッチとは異なり、エンジン始動時にはクラッチ部材を空転させて使用する。使用頻度の多いエンジン始動時に空転側で使用するため、クラッチインナやクラッチアウタの摩耗を抑制するためには、摩擦係数の低いグリースを使用する方が良い。この場合、減速機で使用されるグリースと目的が同一となるため、減速機のグリースと同種の基油(例えばエステル系グリース)をクラッチのグリースに使用することができ、減速機側のグリースとクラッチ側のグリースとが混入しても問題はない。このため、クラッチ側と減速機側との間をシール部材等で分離させる必要がなく、構造的に簡略化でき、コスト的にも有利である。
本発明を実施するための最良の形態を以下の実施例により詳細に説明する。
図1は常時噛合い式スタータ1の半断面図である。
実施例1のスタータ1は、図1に示す様に、回転力を発生するモータ2と、このモータ2の通電回路(モータ回路と呼ぶ)に設けられるメイン接点を開閉する電磁スイッチ3と、モータ2の回転を減速する減速機4と、この減速機4を介してモータ2に駆動される出力軸5と、この出力軸5に支持されるピニオンギヤ6と、モータ2の逆回転を防止する逆転防止用クラッチ7等より構成される。このスタータ1は、エンジンの停止および再始動を自動制御するエンジン自動停止/再始動システム(アイドルストップ、エコランシステム等とも呼ばれる)に用いることができる。
モータ2は、磁界を形成する界磁(以下に説明する)と、整流子8を有する電機子9と、整流子8上に配置される複数のカーボンブラシ10等より構成され、界磁と電機子9との間に働く電磁力によって電機子9に回転力を発生する周知の直流電動機である。
界磁は、磁気回路を形成するヨーク11の内周に複数の永久磁石12を周方向等間隔に配置して構成される。なお、永久磁石12の代わりに界磁コイルを使用することもできる。電機子9は、電機子軸13に固定された電機子鉄心14に電機子コイル15を巻線して構成され、電機子軸13の両端が回転自在に支持されている。
電磁スイッチ3は、バッテリ(図示せず)から通電されて電磁石を形成する励磁コイル(図示せず)と、この励磁コイルの内側に挿入されるプランジャ16とを備え、励磁コイルへの通電によって電磁石が形成されると、その電磁石にプランジャ16が吸引されて、モータ回路のメイン接点を閉操作する。また、励磁コイルへの通電が停止して電磁石の吸引力が消滅すると、図示しないリターンスプリングの反力にプランジャ16が押し戻されて、メイン接点を開操作する。
減速機4は、電機子軸13の反整流子側に形成された太陽歯車17と、下述のトルクリミッタを介して回転規制される内歯歯車18と、両歯車17、18に噛み合う複数の遊星歯車19とで構成される周知の遊星歯車減速機であり、後述する逆転防止用クラッチ7の軸方向反モータ側に隣接して配置される。
トルクリミッタは、摩擦力によって回転規制された回転ディスク20を有し、この回転ディスク20の静止トルクを超える過大トルクが内歯歯車18に加わると、回転ディスク20が摩擦力に抗して滑る(回転する)ことにより、内歯歯車18の回転が許容されて、過大トルクを吸収する。
出力軸5は、電機子軸13と同軸線上に配置されて、一端側が減速機4を介して電機子軸13に連結され、他端側が軸受21を介してフロントハウジング22に回転自在に支持されている。
ピニオンギヤ6は、出力軸5の外周に軸受23を介して嵌合すると共に、エンジン側のリングギヤ24に常時噛み合わされており、以下に説明する衝撃吸収装置を介して出力軸5に連結されている。
衝撃吸収装置は、出力軸5に連結される第1の回転体25と、ピニオンギヤ6に連結される第2の回転体26と、両回転体25、26の間に配置されるゴム等の弾性体27等より構成される。
第1の回転体25は、例えば、出力軸5の外周にセレーション嵌合して出力軸5と一体に回転する。第2の回転体26は、ピニオンギヤ6と一体に設けられた円筒部6aの外周にセレーション嵌合してピニオンギヤ6と一体に回転する。弾性体27は、両回転体25、26の間に中間部材28を介して直列に複数個(図1では1段あたり3個×2段の計6個配置)使用される。
この衝撃吸収装置は、大きな慣性エネルギを有するエンジンを始動する際に、スタータ1に生じる衝撃トルクを弾性体27が圧縮変形することによって吸収する。
逆転防止用クラッチ(以下クラッチ7と略す)は、電機子軸13上に設けられるクラッチインナ29と、このクラッチインナ29と同心に配置されるクラッチアウタ30と、クラッチアウタ30の内周に形成されるカム室31(図2参照)に配設され、スプリング32によってカム室31の狭小方向へ付勢されているローラ33等より構成される。
クラッチインナ29は、電機子鉄心14が嵌合する電機子軸13のセレーション軸部と、太陽歯車17が形成されたギヤ形成部との間に設けられ、セレーション軸部及びギヤ形成部より外径が大きく設けられている。
クラッチアウタ30は、図2に示す様に、径方向中央部に丸孔を有する円盤状のアウタ壁部30aと、このアウタ壁部30aの一端側にリング状に設けられたアウタボス部30bとを有し、このアウタボス部30bの内周にカム室31が複数箇所形成されている。なお、カム室31の軸方向一端側(反アウタ壁部側)は開放されており、カム室31にローラ33及びスプリング32が組み込まれた状態でワッシャ34により塞がれ、そのワッシャ34がクラッチカバー35によって固定されている。
このクラッチアウタ30は、アウタ壁部30aがヨーク11の端部にインロー嵌合して組み合わされると共に、フロントハウジング22の開口部内周に挿入され、アウタ壁部30aの外周に設けられた回転規制部30c(図2(b)参照)がフロントハウジング22の内周に係合して回転規制されている。
上記のクラッチ7は、電機子9の一方向の回転(正回転)を許容し、他方向の回転(逆回転)を阻止する働きを有する。つまり、エンジン始動時に電機子9が正回転する時は、ローラ33がカム室31の一方側(広い側)に移動して空転することにより、クラッチインナ29の回転を許容する。一方、エンジン始動時と逆方向の回転がエンジン側より伝達された時は、ローラ33がカム室31の他方側(狭い側)に移動して、クラッチアウタ30とクラッチインナ29との間にロックされることにより、クラッチインナ29の回転が阻止される。その結果、電機子9がエンジン始動時と逆方向に回転することを防止する。
また、クラッチ7には、カム室31のローラ摺動面等に塗布される潤滑剤がモータ2側へ流出することを抑制するためのシール手段が設けられている。このシール手段は、クラッチカバー35の端部にシール部材36を取り付け、そのシール部材36を電機子軸13上に配置して構成される。
クラッチカバー35は、アウタボス部30bの外周に圧入により固定され、内周側の端部が反ローラ方向へ折り曲げられている。
シール部材36は、ゴム材料から成り、そのゴム材料をクラッチカバー35の内周側端部に焼き付けて固定されている。なお、シール部材36が配置される電機子軸13の外径は、クラッチインナ29の外径と同一である。
なお、クラッチ7に使用される潤滑剤と、減速機4に使用される潤滑剤は、基油、増ちょう材、添加剤等から成るグリースであり、両者のグリースの基油が同種である。
次に、上記スタータ1の作動及び効果について説明する。
電磁スイッチ3によりモータ回路のメイン接点が閉操作されると、バッテリから電機子コイル15に通電され、その電機子コイル15に働く電磁力によって電機子9に回転力を発生する。電機子9の回転(正回転)は、クラッチ7によって阻止されることはなく、減速機4を介して出力軸5に伝達され、更に、ピニオンギヤ6からリングギヤ24に伝達されて、クランキングを行う。この時、スタータ1に生じる衝撃トルクは、衝撃吸収装置によって効果的に吸収される。また、衝撃吸収装置で吸収しきれない(つまり弾性体27が全圧縮した場合)過大な衝撃は、トルクリミッタによってカットされる。
エンジンが完爆してエンジン回転数がスタータ回転数を上回ると、例えば、リングギヤ24に内蔵された一方向クラッチ(図示せず)が空転して、エンジンのクランク軸からリングギヤ24が切り離される(クランク軸の回転がリングギヤ24に伝達されない)ことで、エンジンの回転がピニオンギヤ6に伝達されることはなく、電機子9のオーバランを防止できる。
また、エンジンが停止する際に生じるクランク軸の揺動あるいは登板路のエンストで車両が後退する時等にエンジンが逆回転すると、その逆回転がリングギヤ24に常時噛み合うピニオンギヤ6に伝達され、エンジン始動時とは逆方向の回転が出力軸5に生じる。この出力軸5の逆回転が減速機4を介して電機子軸13に伝達されると、クラッチ7のローラ33がロックされて、クラッチインナ29の回転、すなわち電機子軸13の逆回転が阻止されるため、電機子9がエンジン始動時と逆方向に回転することを防止できる。
本実施例のスタータ1は、クラッチ7にシール手段が設けられており、そのシール手段によってクラッチ内部の潤滑剤がモータ2側へ流出することを抑制できるので、クラッチ内部の潤滑剤の減少を抑制でき、クラッチ7の空転性能及び係合性能を維持できる。また、モータ2側へ流出する潤滑剤が抑制されることにより、例えば、気化した潤滑剤の油分が整流子8やブラシ10に付着することによるブラシ寿命の低下を抑制できる。
上記のシール手段は、クラッチカバー35に取り付けたシール部材36を電機子軸13上に配置して構成されるので、シール部材36を電機子軸13と同心に配置できる。その結果、電機子軸13とシール部材36との摺動ロスを軽減でき、且つ確実なシール性を確保できる。また、クラッチカバー35にシール部材36を取り付けることで、シール部材36を電機子軸13と同心に配置するための余分な部材を削減でき、コスト面でも有利である。
さらに、クラッチカバー35をアウタボス部30bの外周に圧入して固定しているので、クラッチカバー35とアウタボス部30bとの隙間を小さくでき、その隙間からクラッチ内部の潤滑剤が流出することを抑制できる。
また、本実施例のクラッチ7は、エンジン始動時にローラ33を空転させて使用するため、クラッチインナ29やクラッチアウタ30の摩耗を抑制するために、摩擦係数の低いグリースを使用する方が良い。これは、減速機4で使用されるグリースと目的が同一となるため、減速機4のグリースと同種の基油(例えばエステル系グリース)をクラッチ7のグリースに使用することができる。この場合、減速機4側のグリースとクラッチ7側のグリースとが混入しても特に問題はない。このため、クラッチ7側と減速機4側との間をシール部材等で分離させる必要がなく、構造的に簡略化でき、コスト的にも有利である。
シール部材36は、ゴム材料をクラッチカバー35に焼き付けて固定されるので、例えば、シール部材36をクラッチカバー35に嵌め込んで取り付ける方法、あるいは接着材により固定する方法等と比較して、十分な固定力(特に周方向の固定力)を確保することができ、高速で回転する電機子軸13に対して十分なシール性を得ることができる。
また、実施例1に記載したスタータ1は、シール部材36が配置される電機子軸13の外径とクラッチインナ29の外径とが同一であるため、両者の外径が異なる場合(段差が有る場合)と比較して、電機子軸13の加工が簡単であり、且つクラッチ7及びシール部材36をスタータAssyへ組み付ける作業が容易で、組み付け工数を少なくできる。
図3は常時噛合い式スタータ1の半断面図である。
実施例2に示すスタータ1は、クラッチアウタ(アウタ壁部30a)の外周部に第2のシール部材37を配置した場合の一例である。
第2のシール部材37は、例えば、ゴム製のOリングであり、図3に示す様に、アウタ壁部30aの外周部とヨーク11の軸方向端部との間に挟持されている。これにより、アウタ壁部30aとヨーク11との嵌合隙間を第2のシール部材37によってシールできるので、例えば、クラッチ7あるいは減速機4で使用される潤滑剤が、減速機4側からアウタ壁部30aの外周を通ってモータ2側へ流出することを抑制でき、整流子8やブラシ10への潤滑剤の付着によるブラシ寿命の低下を更に抑制できる。
図4は常時噛合い式スタータ1の半断面図である。
実施例3に示すスタータ1は、クラッチカバー35をアウタボス部30bの外周にかしめ固定した場合の一例である。
実施例1では、クラッチカバー35をアウタボス部30bの外周に圧入して固定する例を記載したが、図4に示す様に、かしめによって固定することもできる。この場合、かしめることでアウタボス部30bとクラッチカバー35との隙間を小さくできるので、実施例1と同様に、アウタボス部30bとクラッチカバー35との隙間より流出する潤滑剤を抑制できる効果がある。
図5〜図7はシール部材36を有するクラッチ7の半断面図である。
実施例1では、ゴム材料から成るシール部材36をクラッチカバー35に焼き付けて固定した一例を記載したが、シール部材36にオイルシールを用いることもできる。
オイルシールは、例えば、図5に示す様に、金属環36aに合成ゴムを焼き付けて構成され、その合成ゴムによって形成されるシールリップ36bの外周にばね36cが組み込まれている。
このオイルシールは、クラッチカバー35に設けられた円筒部35aの内周に圧入状態で嵌め合わされてクラッチカバー35に回転不能に固定され、ばね36cにより押圧されたシールリップ36bがクラッチインナ29(図1参照)の外周面に押し付けられることにより、潤滑剤の漏れを防止している。また、このオイルシールには、ダストリップ36dが一体に設けられており、このダストリップ36dにより外部からのダストの侵入を防止できる。
図5に示すオイルシールは、シールリップ36bを押圧するばね36cを有しているが、例えば、図6あるいは図7に示す様に、ばね36cを持たないオイルシールを採用することもできる。
図6に示すオイルシールは、金属環36aの周囲が合成ゴムで覆われ、その合成ゴムによりシールリップ36bが形成されている。また、図7に示すオイルシールは、クラッチカバー35への嵌め合い部が金属環36aだけで形成され、その金属環36aの端部に焼き付けられた合成ゴムによりシールリップ36bが形成されている。
本実施例の様に、シール部材36にオイルシールを用いると、スタータ1を取り付けるエンジンや車両による環境変化の影響で必要なシール機能が変更となった場合でも、オイルシールの種類を選定することで対応できる。また、図5〜図7に示すオイルシールは、JIS等で規格化されているため、汎用性の高いオイルシールを用いることができ、コスト的にも有利である。
なお、本実施例において、シール部材36に使用するオイルシールは、図5〜図7に示す形状に限定されるものではなく、その他の形状のオイルシールを用いても良いことは言うまでもない。
常時噛合い式スタータの半断面図である(実施例1)。 (a)クラッチの半断面図、(b)クラッチの軸方向平面図である。 常時噛合い式スタータの半断面図である(実施例2)。 常時噛合い式スタータの半断面図である(実施例3)。 シール部材を有するクラッチの半断面図である(実施例4)。 シール部材を有するクラッチの半断面図である(実施例4)。 シール部材を有するクラッチの半断面図である(実施例4)。
符号の説明
1 スタータ
2 モータ
4 減速機
5 出力軸
6 ピニオンギヤ
7 逆転防止用クラッチ
8 整流子
9 電機子
10 ブラシ
13 電機子軸
24 リングギヤ
29 クラッチインナ
30 クラッチアウタ
33 ローラ(クラッチ部材)
35 クラッチカバー
36 シール部材(シール手段)
37 第2のシール部材

Claims (9)

  1. 電機子軸の一端側に整流子が設けられる電機子を有し、前記整流子上に配置されるブラシを通じて前記電機子に始動電流が供給されることにより、電磁力の作用で前記電機子に回転力を発生するモータと、
    前記電機子の一方向の回転(正回転と呼ぶ)を許容し、他方向の回転(逆回転と呼ぶ)を阻止する逆転防止用クラッチと、
    この逆転防止用クラッチの反モータ側に隣接して配置され、前記電機子の正回転を減速する減速機と、
    この減速機を介して前記電機子軸に連結される出力軸と、
    エンジン側のリングギヤに常時噛み合い、前記出力軸と一体に回転して前記リングギヤを駆動するピニオンギヤとを備え、
    前記逆転防止用クラッチは、前記電機子軸上に配置されると共に、クラッチ内部の潤滑剤が前記モータ側へ流出することを抑制するシール手段を有していることを特徴とするスタータ。
  2. 請求項1に記載したスタータにおいて、
    前記逆転防止用クラッチは、前記電機子軸と一体に設けられたクラッチインナと、このクラッチインナと同心に配置され、且つ回転不能に固定されたクラッチアウタと、前記クラッチインナと前記クラッチアウタとの間に配設されるクラッチ部材とを有し、エンジン始動時には、前記クラッチ部材が空転することで前記電機子の正回転を許容し、エンジン始動時と逆方向の回転が前記電機子軸に伝達された時には、前記クラッチ部材が前記クラッチインナと前記クラッチアウタとに係合することで前記電機子の逆回転を阻止することを特徴とするスタータ。
  3. 請求項2に記載したスタータにおいて、
    前記逆転防止用クラッチは、前記クラッチアウタに固定されたクラッチカバーを有し、 前記シール手段は、前記クラッチカバーにシール部材を取り付け、そのシール部材を前記電機子軸上に配置して構成されることを特徴とするスタータ。
  4. 請求項3に記載したスタータにおいて、
    前記シール部材は、ゴム材料から成り、そのゴム材料を前記クラッチカバーに焼き付けて固定されていることを特徴とするスタータ。
  5. 請求項3に記載したスタータにおいて、
    前記シール部材は、オイルシールであり、そのオイルシールが前記クラッチカバーに回転不能に固定されていることを特徴とするスタータ。
  6. 請求項3〜5に記載した何れかのスタータにおいて、
    前記シール部材が配置される前記電機子軸の外径は、前記クラッチインナの外径と同一であることを特徴とするスタータ。
  7. 請求項3〜6に記載した何れかのスタータにおいて、
    前記クラッチカバーは、前記クラッチアウタの外周に圧入された状態で固定されていることを特徴とするスタータ。
  8. 請求項2〜7に記載した何れかのスタータにおいて、
    前記クラッチアウタの外周部に配置される第2のシール部材を有し、この第2のシール部材により、前記クラッチアウタの減速機側とモータ側との間がシールされていることを特徴とするスタータ。
  9. 請求項1〜8に記載した何れかのスタータにおいて、
    前記減速機に使用される減速機用潤滑剤および前記逆転防止用クラッチに使用されるクラッチ用潤滑剤は、基油、増ちょう材、添加剤等から成るグリースであり、且つ前記減速機用潤滑剤と前記クラッチ用潤滑剤は、グリースの基油が同種であることを特徴とするスタータ。
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