しかし、上述の従来例においては以下のような課題がある。即ち、人体で発生した光音響信号である音波を音波検出器で効率よく検出するため、音波の波面を球面波ではなく平面波にする必要がある。そのため、光の照射面積が大きいほど検出距離を遠くしなければならず、音波検出器と音波の発生源との距離や照射面積に制約が生じる。例えば、生体の指先を被検体とした場合には、検出距離も短いため、照射面積を小さくする必要がある。
一方、生体の皮膚上に照射可能なレーザ出力の限界値がJIS規格で定められているため、照射点で生じさせることができる光音響信号の大きさにも限界がある。ここで、JISC6802によると、皮膚に対して非可視赤外光(波長が0.8μm以上)を連続照射する場合、1mm2当たり1mWが最大許容量となる。
従って、上述の従来例では、生体の光の被照射部位によっては、発生させた光音響信号が微弱とならざるを得ず、雑音の影響を受け易くなってしまうという課題があった。
上記の課題を解決するために、本発明は、測定対象の成分の吸光度特性から設定した異なる2波長の光を合波し、さらに複数に分岐して出射することにより、音波の発生源を分散させて被検体への負担を軽減させると共に、音波の総量を大きくすることで雑音の影響を少なくして成分濃度を正確に測定する成分濃度測定装置である。ここで、被検体とは測定対象の人間や動物である。
初めに、本発明の成分濃度測定装置の基本原理を、一例として、被検体の成分濃度を測定する場合について説明する。
本発明では、異なる2波長の光の中の、第一の光の波長を、例えば被検体の測定対象の成分による吸光度が被検体の大部分を占める水による吸光度と顕著に異なる波長に設定し、第二の光の波長を水が第一の光の波長におけるのと合い等しい吸光度を示す波長に設定する。上記の波長の設定方法を、血液中のグルコースの濃度を測定する場合を例として図1により説明する。
図1は常温における水とグルコース水溶液の吸光度特性を示す。図1において、縦軸は吸光度を示し、横軸は光の波長を示している。また、図1において、実線は水の吸光度特性を示し、破線はグルコース水溶液の吸光度特性を示している。図1に示す波長λ1はグルコースによる吸光度が水による吸光度と顕著に異なる波長であり、波長λ2は、水がλ1における吸光度と合い等しい吸光度を示す波長である。従って、例えば、第一の光の波長をλ1と設定し、第二の光の波長をλ2と設定することができる。
以下の説明においては、一例として、第一の光の波長を測定対象の成分による吸光度が水による吸光度と顕著に異なる波長λ1に設定し、第二の光の波長を水が第一の光の波長λ1におけるのと合い等しい吸光度を示す波長λ2に設定した場合を説明する。
上記のように設定した異なる2波長の光の各々を、同一周波数で逆位相の信号により強度変調してパルス状の光として出射し、出射された異なる2波長の光が被検体の成分に吸収されて発生する音波を検出して、検出した音波の大きさから、被検体の測定対象の成分の濃度を測定する。上記のように強度変調された異なる2波長の光を出射した場合、第一の光を測定対象の成分と水の両方が吸収して被検体から発生する第一の音波と、第二の光を被検体の大部分を占める水が吸収して被検体から発生する第二の音波とは、周波数が等しくかつ逆位相である。従って、第一の音波と第二の音波は被検体内で重畳し、音波の差として、第一の音波の中の測定対象の成分が吸収して被検体から発生する音波の大きさのみが残留する。そこで、残留した音波により、第一の光を測定対象の成分が吸収して被検体から発生する音波のみを測定することができる。上記の測定においては、測定対象の成分と水の両方が吸収して発生する音波と水が吸収して発生する音波を個別に測定して差を演算するよりも、測定対象の成分が吸収して被検体から発生する音波を正確に測定することができる。
さらに、被検体と音波検出素子との接触状態などの音波測定系の誤差の要因を除いて、高精度に測定する方法を以下に説明する。波長λ1の光及び波長λ2の光の各々に対する、被検体の大部分を占める水の吸収係数をα1 (w)及びα2 (w)として、被検体の測定対象の成分のモル吸収係数をα1 (g)及びα2 (g)とすれば、波長λ1の光及び波長λ2の光の各々により被検体から発生する音波の大きさs1及びs2を含む連立方程式は数式(1)で表される。
上記の、数式(1)を解いて、被検体の測定対象の成分濃度Mを求めることができる。ここで、Cは制御あるいは予想困難な係数、すなわち、被検体と音波検出素子の結合状態、音波検出素子の感度、被検体において光により音波が発生される位置と音波検出素子との間の距離、被検体の比熱及び熱膨張係数、被検体の内部の音波の速度、波長λ1の光及び波長λ2の光の変調周波数、水の吸収係数及び被検体の成分のモル吸収係数、などに依存する未知定数である。さらに数式(1)でCを消去すると次の数式(2)が得られる。
ここで、波長λ1の光及び波長λ2の光の各々に対する、被検体の大部分を占める水の吸収係数α1 (w)及びα2 (w)が等しくなるように選択されているので、α1 (w)=α2 (w)が成立し、さらに、s1≒s2であることを用いれば、成分濃度Mは数式(3)で表される。
上記の数式(3)に、既知の係数として、α1 (w)、α1 (g)及びα2 (g)を代入し、さらに、波長λ1の光及び波長λ2の光の各々により被検体から発生する音波の大きさs1及びs2を測定して代入することにより、被検体の成分濃度Mを算出することができる。上記の数式(3)においては、2つの音波の大きさs1及びs2を個別に測定するよりも、それらの差s1−s2を測定して、別に測定した音波の大きさs2で除する方が、被検体の成分濃度を高精度に測定することができる。
そこで、本発明の成分濃度測定装置においては、まず、波長λ1の光及び波長λ2の光を、互いに逆位相の変調信号により強度変調して、1の光束に合波して出射することにより、被検体から発生する音波の大きさs1及び音波の大きさs2が相互に重畳して生じる音波の差(s1−s2)を測定する。次に、波長λ2の光を出射して、被検体から発生する音波の大きさs2を測定する。上記のように測定した(s1−s2)とs2により、(s1−s2)÷s2を演算することにより、数式(3)により、被検体の測定対象の成分濃度を高精度に測定することができる。
以上が本発明の成分濃度測定装置の基本原理である。
次に本発明による課題を解決するための具体的手段について説明する。本発明は、異なる2波長の光を発生して出力する光発生手段と、前記光発生手段からの2波長の光のそれぞれを同一周波数で逆位相の信号により電気的に強度変調して出力する光変調手段と、前記光変調手段からの2波長の光を合波して出力する光合波手段と、前記光合波手段により合波され出力される光を複数に分岐して出射する光出射手段と、前記光出射手段により分岐され出射される複数の光により発生する音波を前記複数の光の照射されるそれぞれの被照射部位から略等距離の位置で検出する音波検出手段と、を備えたことを特徴とする成分濃度測定装置である。
本発明では、光変調手段は、光発生手段で発生させた互いに波長の異なる第一の光及び第二の光の各々を同一周波数で逆位相の信号により電気的に強度変調し出力する。そして、光合波手段は、光変調手段からの2波長の光を合波して出力する。さらに、光出射手段は、光合波手段により合波された光を複数に分岐させて出射する。また、音波検出手段は、上記のように光出射手段から出射された第一の光及び第二の光により被検体で発生する音波を光の被照射部位から略等距離の位置で検出する。ここで、音波検出手段により検出される音波は前述の第一の光により発生する第一の音波と第二の光により発生する第二の音波の差の音波である。
このように、2波長の光を合波し分岐して出射することにより、光強度が複数に分散するため、1箇所に光が集中して照射されることがないので、照射する光の総量を大きくすることができる。さらに、被照射部位から略等距離の位置で音波を検出することにより、音波の位相が揃う位置で音波を検出できるため、検出した音波の大きさを複数の被照射部位からの音波の総和として検出することができる。そのため、各被照射部位からの音波の誤差を平均化することができる。従って、本発明の成分濃度測定装置は、被検体への負担が少なく且つ被検体で発生する音波への雑音による影響を少なくして、測定対象の成分濃度を正確に測定することができる。
音波検出手段は、被検体で発生した音波を前述の測定原理で説明した(s1−s2)として測定する。
また、本発明は、異なる2波長の光を1組として前記異なる2波長の光のそれぞれと同一波長の2波長の光を複数組発生して出力する光発生手段と、前記光発生手段からの複数の組の各組の2波長の光のそれぞれを前記各組について同一周波数で逆位相の信号により前記複数の組について同相で電気的に強度変調して出力する光変調手段と、前記光変調手段からの複数の組の各組の2波長の光を前記各組について合波して出射する光出射手段と、前記光出射手段により前記複数の組の各組の2波長の光について合波され出射される複数の光により発生する音波を前記複数の光の照射されるそれぞれの被照射部位から略等距離の位置で検出する音波検出手段と、を備えたことを特徴とする成分濃度測定装置である。
本発明では、光発生手段は、互いに波長の異なる第一の光及び第二の光を1組として複数組発生させる。ここで、各組の第一の光は、それぞれ同一の波長であり、各組の第二の光は、それぞれ同一の波長を有している。そして、光変調手段は、光発生手段で発生させた各組の第一の光及び第二の光の各々を同一周波数で逆位相の信号により電気的に強度変調して出力する。そして、光出射手段は、光変調手段から出力された各組の2波長の光を各組で合波して出射する。また、音波検出手段は、上記のように光出射手段から出射された第一の光及び第二の光により被検体で発生する音波を光の被照射部位から略等距離の位置で検出する。ここで、音波検出手段により検出される音波は前述の第一の光により発生する第一の音波と第二の光により発生する第二の音波の差の音波である。
このように、各組の2波長の光を合波しそれぞれ出射することにより、光強度を複数に分散させることができるため、1箇所に光が集中して照射されることがないので、照射する光の総量を大きくすることができる。さらに、被照射部位から略等距離の位置で音波を検出することにより、音波の位相が揃う位置で音波を検出できるため、検出した音波の大きさを複数の被照射部位からの音波の総和として検出することができる。そのため、各被照射部位からの音波の誤差を平均化することができる。従って、本発明の成分濃度測定装置は、被検体への負担が少なく且つ被検体で発生する音波への雑音による影響を少なくして、測定対象の成分濃度を正確に測定することができる。
音波検出手段は、被検体で発生した音波を前述の測定原理で説明した(s1−s2)として測定する。
本発明の成分濃度測定装置において、前記光変調手段は、前記複数の組の各組についての前記同一周波数で逆位相の信号のそれぞれを遅延させて前記2波長の光を強度変調することができることが望ましい。
光変調手段により、光を強度変調する前段で予め第一及び第二の光の変調信号をそれぞれ遅延させることができることで、電気配線による物理的な遅延量を調整して音波検出手段での音波の位相を揃えることができる。そのため、被検体で発生する音波の音波検出手段に同相で到達する精度が向上し、音波の総和による信号増加を図ることができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記光出射手段は、前記複数の光のビームの並びが前記複数の光の出射方向に垂直な面に対し前記音波検出手段の前記音波の検出位置を中心とした円周上に分布して配置されるように前記複数の光を出射することが望ましい。
複数の光のビームの並びを音波の検出位置を中心とした円周上に分布させることにより、音波検出手段を円の中心を貫く直線のいずれかに配置すれば各被照射部位からの音波の検出距離を等距離とすることができる。そのため、円の中心を貫く直線方向の音波検出手段による音波の検出位置のずれを許容して、正確に測定対象とする成分濃度を測定することができる。また、複数の光のビームの並びを音波の検出位置を中心とした円周上に分布させることにより、それに従って光の被照射部位を円周上に分布させることができるため、光の被照射面の起伏と被照射部位から音波検出手段までの間の音響伝達の違いによる影響を平均化することができる。そのため、音波検出手段での音波検出の状態を略一定に保つことができ成分濃度の測定誤差を少なくして、測定対象の成分濃度を正確に測定することができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記光出射手段は、複数の前記被照射部位の並びが前記複数の光の出射方向に垂直な面に対し前記音波検出手段の前記音波の検出位置を中心とした円周上に分布して配置されるように前記複数の光を出射することが望ましい。
光の被照射部位を円周上に分布させることにより、音波検出手段を円の中心を貫く直線上のいずれかに配置すれば各被照射部位からの音波の検出距離を等距離とすることができる。そのため、円の中心を貫く直線方向の音波検出手段による音波の検出位置のずれを許容して、正確に測定対象とする成分濃度を測定することができる。また、光の被照射部位を円周上に分布させることにより、光の被照射面の起伏と被照射部位から音波検出手段までの間の音響伝達の違いによる影響を平均化することができる。そのため、音波検出手段での音波検出の状態を略一定に保つことができ成分濃度の測定誤差を少なくして、測定対象の成分濃度を正確に測定することができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記光発生手段は、前記2波長の光の波長を、測定対象とする成分の呈する吸収の差が水の呈する吸収の差よりも大きい2波長の光の波長に設定することが望ましい。
2波長の光の波長を測定対象とする成分の呈する吸収の差が水の呈する吸収の差よりも大きい2波長の光の波長とすることにより、水による吸収の影響を少なくして成分濃度測定の測定精度を良くすることができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記光発生手段は、前記2波長の光のうち一方の光の波長を測定対象とする成分が特徴的な吸収を呈する波長に設定し、他方の光の波長を水が前記一方の光の波長におけるのと相等しい吸収を呈する波長に設定することが望ましい。
2波長の光のうち所定の1波の波長を測定対象とする成分が特徴的な吸収を呈する波長に設定し、他方の1波長の光の波長を水が前記所定の1波の波長におけるのと相等しい吸収を呈する波長とすることにより、水による吸収の影響を少なくして成分濃度測定の測定精度を良くすることができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記光発生手段は、前記2波長の光のうち一方の光の波長を測定対象とする成分以外の成分が吸収を呈さない波長に設定することが望ましい。
2波長の光の波長を測定対象とする成分の呈する吸収の差がそれ以外の成分の呈する吸収の差よりも大きい2波長の光の波長とすることにより、さらにそれ以外の成分の吸収の影響を少なくして成分濃度の測定精度を向上させることができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記測定対象とする成分がグルコース又はコレステロールであることが望ましい。
グルコース又はコレステロールの濃度を測定する場合には、グルコース又はコレステロールの特徴的な吸収を示す波長を照射することによって、精度よく測定することができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記光発生手段は、前記光変調手段からの2波長の光を1の光束に合波し水に照射して発生する音波の圧力が零になるように前記2波長の光の各々の相対的な強度を調整することが望ましい。
異なる2波長の光を被検体に照射して発生する音波の圧力は、前述のように1波長の光が被検体内に発生する測定対象の成分と水の混在した状態の全吸収に対応する音波の圧力と、他方の光が被検体内の大部分を占める水のみが発生する音波の圧力の差となって検出されるので、この差の値が零となるように異なる2波長の光の相対的な強度を校正して成分濃度の測定精度を向上させることができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記光変調手段は、前記2波長の光により発生する音波の検出に関わる共鳴周波数と同一の周波数で変調することが望ましい。
本発明においては、異なる2波長の光の各々を電気的に強度変調する変調周波数を、被検体内に発生する音波の検出に関わる共鳴周波数と同一の周波数で変調することにより、音波の測定値における吸収係数に関わる非線形性に配慮して選択された異なる2波長の光に対する音波を測定し、これらの測定値から、一定に保ち難い多数のパラメータの影響を排除して、高精度に被検体内に発生する音波を検出することができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記光発生手段及び前記光変調手段は、2の半導体レーザ光源の各々を同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調することが望ましい。
本発明においては、2の半導体レーザ光源の各々を同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調することにより、異なる2波長の光を発生し同時に変調することが可能であり、装置構成を簡略化できる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記音波検出手段は、前記変調周波数に同期する同期検波により音波を検出することが望ましい。
音波を変調周波数に同期した同期検波により検出することにより、音波を高精度に検出することができる。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記音波検出手段により検出される音波の圧力から成分濃度を算定する成分濃度算出手段をさらに備えることが望ましい。
本発明では、成分濃度測定装置が成分濃度算出手段をさらに有することにより、予め用意した被検体で発生する音波と測定対象とする成分濃度との関係を示す理論値、あるいは実験値を記憶し、被検体で発生した音波を検出した値から測定対象の成分濃度を算定する。
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記成分濃度算出手段は、前記光変調手段からの2波長の光により発生する音波の圧力を、前記2波長の光のうち1波長の光を零としたときに発生する音波の圧力で除算することが望ましい。
本発明では、光出射手段が出射した2波長の光により被検体から発生する音波の大きさ(s1−s2)及び光出射手段から出射した1波長の光により被検体から発生する音波の大きさs2を、音波強度測定手段により測定した結果から、前述の測定原理に従って(s1−s2)÷s2の演算を実行して、測定対象の成分濃度を算出することができる。従って、本発明の成分濃度測定装置は、被検体の測定対象の成分濃度を、簡易な構成で正確に測定することができる。
本発明の成分濃度測定装置は、被検体への負担が少なく且つ被検体で発生する音波への雑音による影響を少なくして、測定対象の成分濃度を正確に測定することができる。
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
以下の実施形態は、本発明の構成の例であり、被検体としての人体の指により成分濃度を測定する場合の実施の形態であるが、本発明は以下の実施の形態に制限されるものではない。また、以下においては、被検体を被測定物に置き換えれば被測定物の成分濃度を測定する場合の実施の形態とすることができる。また、各実施形態に係る成分濃度測定装置の構成を示す図2から図4において、電源、あるいは全体の動作を制御する制御部などの通常の技術により実現できる部分は図示していない。
(第1実施形態)
本実施形態に係る成分濃度測定装置について説明する。本実施形態に係る成分濃度測定装置は、異なる2波長の光を発生して出力する光発生手段と、前記光発生手段からの2波長の光のそれぞれを同一周波数で逆位相の信号により電気的に強度変調して出力する光変調手段と、前記光変調手段からの2波長の光を合波して出力する光合波手段と、前記光合波手段により合波され出力される光を複数に分岐して出射する光出射手段と、前記光出射手段により分岐され出射される複数の光により発生する音波を前記複数の光の照射されるそれぞれの被照射部位から略等距離の位置で検出する音波検出手段と、を備える。さらに、本実施形態の成分濃度測定装置は被検体の成分濃度算出手段を備えることが好ましい。
図2に、本実施形態に係る成分濃度測定装置の概略構成図を示す。
本実施形態に係る成分濃度測定装置10は、光発生手段及び光変調手段の一部としての発振器101、駆動回路102、180°移相回路104、駆動回路105、第1の光源103及び第2の光源106、光合波手段としての合波部107、光出射手段としての光分岐部108、音波検出手段の一部としての音波検出部111、フィルタ112及び位相検波増幅部113、成分濃度算出手段としての成分濃度算出部114を有する。また、本実施形態では、被検体2で発生する音波の伝達効率を高めるため音響整合物質110を被検体2と音波検出部111との間に設けることとした。
発振器101は、第1の光源103及び第2の光源106から出力される2波長の光を強度変調するための変調信号を出力する。180°移相回路104は発振器101からの変調信号のうち一方を反転して出力する。
駆動回路102は、発振器101からの変調信号を基に第1の光源103を駆動させる。また、駆動回路105は、180°移相回路104で反転された変調信号を基に第2の光源106を駆動させる。第1の光源103は、異なる2波長の光のいずれか一方を駆動回路102からの信号により強度変調して出力し、第2の光源106は、他方の光を駆動回路105からの信号により強度変調して出力する。これにより、異なる2波長の光のそれぞれを同一周波数で逆位相の信号により電気的に強度変調して出力することができる。
ここで、第1の光源103及び第2の光源106は、例えば半導体レーザを適用することができ、2波長の光の波長を測定対象とする成分の呈する吸収の差が水の呈する吸収の差よりも大きい2波長の光の波長とする。また、第1の光源103および第2の光源106の各々の波長は、一方の光の波長を測定対象とする成分が特徴的な吸収を呈する波長に設定し、他方の光の波長を水が一方の光の波長におけるのと相等しい吸収を呈する波長に設定することもできる。さらに、2波長の光の波長を測定対象とする成分の呈する吸収の差がそれ以外の成分の呈する吸収の差よりも大きい2波長の光の波長とすることもできる。これにより、水や測定対象とする成分以外の成分による吸収の影響を少なくして成分濃度測定の測定精度を良くすることができる。ここで、測定対象とする成分をグルコース又はコレステロールとした場合には、グルコース又はコレステロールの特徴的な吸収を示す波長を照射することによって、グルコース又はコレステロールの濃度を精度よく測定することができる。第1の光源103及び第2の光源106としての半導体レーザは、ヒーター又はペルチェ素子により加熱又は冷却することにより発生する光の波長を変化させることができる。
また、駆動回路102、105は、第1の光源103及び第2の光源106からの2波長の光を1の光束に合波し水に照射して発生する音波の圧力が零になるように2波長の光の各々の相対的な強度を調整することが望ましい。異なる2波長の光を被検体に照射して発生する音波の圧力は、前述のように前記1波の光が被検体内に発生する測定対象の成分と水の混在した状態の全吸収に対応する音波の圧力と、他の1波の光が被検体内の大部分を占める水のみが発生する音波の圧力の差となって検出されるので、この差の値が零となるように異なる2波長の光の相対的な強度を校正して成分濃度の測定精度を向上させることができる。
また、駆動回路102、105は、第1の光源103及び第2の光源106からの2波長の光により発生する音波の検出に関わる共鳴周波数と同一の周波数で変調することが望ましい。
異なる2波長の光の各々を電気的に強度変調する変調周波数を、被検体内に発生する音波の検出に関わる共鳴周波数と同一の周波数で変調することにより、音波の測定値における吸収係数に関わる非線形性に配慮して選択された異なる2波長の光に対する音波を測定し、これらの測定値から、一定に保ち難い多数のパラメータの影響を排除して、高精度に被検体内に発生する音波を検出することができる。
また、本実施形態では、発振器101から矩形波信号を出力することとし、2の半導体レーザ光源である第1の光源103及び第2の光源106の各々を同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調する。このように、2の半導体レーザ光源の各々を同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調することにより、異なる2波長の光を発生し同時に変調することが可能であり、装置構成を簡略化できる。
合波部107は、第1の光源103からの光と第2の光源106からの光とを例えばハーフミラーにより合波して光分岐部108に向けて出射する。
光分岐部108は、合波部107からの光を複数に分岐させて変調光120を出射する。光分岐部108としては、例えば、ファイバカップラや空孔を空けた金属板やPLC(平面光波回路)を適用することができる。ここで、ファイバカップラの光ファイバの並びを光ファイバのコア中心線方向に垂直な面に対し円周上に配置することにより、又は金属板の空孔を金属板面に対して円周上に配置することにより、又はPLCの光導波路を変調光120の出射方向に垂直な面に対して円周上に配置することにより、光分岐部108は、複数の光のビームとしての変調光120の並びが光の出射方向に垂直な面に対し音波検出部111の音波の検出位置を中心とした円周上に分布して配置するように、光を出射させることができる。なお、光分岐部108として空孔を空けた金属板を適用する場合は、ビーム径を広げた平行光を空孔を含む大きさに広げて金属板に照射する。なお、光分岐部108から出射される光により被検体2の表面上に形成される被照射部位については、後述する。
音波検出部111は、光の被照射部位から略等距離の位置に配置され、光分岐部108から出射された光により被検体2で発生する音波を音響整合物質110を介して検出し、音波の振幅に比例した電気信号を出力する。フィルタ112は、音波検出部111からの電気信号から高周波ノイズを除去して出力する。位相検波増幅部113は、フィルタからの電気信号を発振器101からの変調信号により同期検波し、音圧に比例する電気信号を出力する。このように、音波を変調周波数に同期した同期検波により検出することで、音波を高精度に検出することができる。
成分濃度算出部114は、異なる時間に出射された2波長の光及び1波長の光による音波の大きさをそれぞれ記憶しておき、予め用意した前述の数式(3)から成分濃度を算出する。このように、成分濃度算出部114を有することにより、前述の測定原理に従って(s1−s2)÷s2の演算を実行して、測定対象の成分濃度を算出することができる。従って、本実施形態の成分濃度測定装置は、被検体の測定対象の成分濃度を、簡易な構成で正確に測定することができる。
ここで、光分岐部108から出射された光による生体の被照射部位の配置、及び被照射部位と音波検出部との位置関係について説明する。
図5は、光分岐部から出射される光により形成される被照射部位の配置と音波検出部の配置を示した概略図である。図5において(1)は被検体の上面図を示し、(2)は(1)のA−A´面による断面図を示す。(1)及び(2)は、被検体の被照射部位を含む一部分のみを示している。なお、図5では、変調光120i(i=aからh)による被照射部位を被照射部位121iとして解釈するものとする。
前述のように図2に示す光分岐部108から複数の光のビームとしての変調光120の並びが光の出射方向に垂直な面に対し音波検出部111の音波の検出位置を中心5とした円周上に分布して配置するように、光を出射すると、図5(1)に示すように、複数の被照射部位121aから121hを音波検出部111を中心5とした円周上に配置させることができる。本実施形態では、光分岐部108で光を8分岐することとしたため、8個の被照射部位121aから121hが被検体2上に形成される。また、音波検出部111を被照射部位121aから121hの配置された円の中心5とするため、図5(2)に示す各被照射部位121aから121hからの音波130aから130hの伝搬距離を略同一とすることができる。
このように、合波した2波長の光を光分岐部108で分岐して出射することにより、被照射部位を複数にして光強度を分散することができるため、1箇所に光が集中して照射されることがないので、照射する光の総量を大きくすることができる。さらに、被照射部位121aから121hから略等距離に配置した音波検出部111で音波を検出することにより、音波130aから130hの位相が揃う位置で音波130aから130hを検出できるため、検出した音波の大きさを複数の被照射部位121aから121hからの音波130aから130hの総和として検出することができる。そのため、各被照射部位121aから121hからの音波130aから130hの誤差を平均化することができる。従って、図2に示す本実施形態の成分濃度測定装置10は、被検体2への負担が少なく且つ被検体2で発生する音波130aから130hへの雑音による影響を少なくして、測定対象の成分濃度を正確に測定することができる。
また、複数の光のビームとしての変調光120aから120hの並びを音波の検出位置を中心5とした円周上に分布させることにより、音波検出部111を円の中心5を貫く直線のいずれかに配置すれば被照射部位121aから121hから音波検出部111までの音波130aから130hの検出距離を等距離とすることができる。そのため、円の中心5を貫く直線方向の音波検出部111による音波130aから130hの検出位置のずれを許容して、正確に測定対象の成分濃度を測定することができる。また、複数の光のビームとしての変調光120aから120hの並びを音波の検出位置を中心5とした円周上に分布させることにより、それに従って光の被照射部位121aから121hを円周上に分布させることができる。そのため、光の被照射面の起伏と被照射部位121aから121hから音波検出部111までの間の音響伝達の違いによる影響を平均化することができる。そのため、音波検出部111での音波検出の状態を略一定に保つことができ成分濃度の測定誤差を少なくして、測定対象の成分濃度を正確に測定することができる。
また、被検体2の表面の形状に合わせて、光分岐部108としてファイバカップラの光ファイバの配置や空孔を空けた金属板の金属板上での空孔の配置を調整して、図5(1)に示すように複数の被照射部位121aから121hの並びが複数の変調光120aから120hの出射方向に垂直な面に対し音波検出部111の音波の検出位置を中心5とした円周上に分布して配置されるように複数の変調光120aから120hを出射することが望ましい。光の被照射部位121aから121hを円周上に分布させることにより、音波検出部111を円の中心5を貫く直線のいずれかに配置すれば被照射部位121aから121hから音波検出部111までの音波130aから130hの検出距離を等距離とすることができる。そのため、円の中心5を貫く直線方向の音波検出部111による音波130aから130hの検出位置のずれを許容して、正確に測定対象の成分濃度を測定することができる。また、光の被照射部位121aから121hを円周上に分布させることにより、光の被照射面の起伏と被照射部位121aから121hから音波検出部111までの間の音響伝達の違いによる影響を平均化することができる。そのため、音波検出部111での音波検出の状態を略一定に保つことができ成分濃度の測定誤差を少なくして、測定対象の成分濃度を正確に測定することができる。
また、さらに複数の光のビームとしての変調光120の数を増加させることにより、被照射部位の数を増加させることができる。ここで、図6に、被照射部位の数を限りなく増加させたときの被照射部位の形状の概略図を示す。
変調光120の数を増加させて図5に示す被照射部位121aから121hの数を8個より増加させると、被照射部位全体の形状は、円環状に近づいていく。そして被照射部位の数を限りなく増加させると、被照射部位の全体の形状は、図6の被照射部位120kのように、円環状となる。被照射部位120kのように円環状とすると、図5に示す被照射部位121aから121hの配置された円の半径が同じ条件で、被照射部位全体の面積が最大となるため、被照射部位からの音波の総量を最大とすることができる。ここで、被照射部位120kのように円環状とするには、例えば、前述の複数の空孔を空けた金属板において、複数の空孔に代えて円環状の空孔を空けることにより実現できる。
次に、本実施形態に係る成分濃度測定装置10の成分濃度測定の動作を図2及び図5を参照して説明する。
成分濃度測定装置10は、混合光出射手順として、以下の動作を行なう。
まず、駆動回路102は、発振器101からの変調信号に同期して第1の光源103を駆動する信号を出力する。また、駆動回路105は、180°移相回路104を介した変調信号に同期して第2の光源106を駆動させる信号を出力する。ここで、駆動回路102から出力される信号と駆動回路105から出力される信号とは、互いに反転している。第1の光源103は、発生する光の波長を、例えば測定対象とする成分が特徴的な吸収を呈する波長λ1に設定し、設定した波長の光を駆動回路102からの信号により電気的に強度変調して出力する。また、第2の光源106は、水が一方の光の波長におけるのと相等しい吸収を呈する波長λ2に設定し、設定した波長の光を駆動回路105からの信号により電気的に強度変調して出力する。ここで、駆動回路102から出力される信号と駆動回路105から出力される信号とが互いに反転しているため、第1の光源103から出射される第1の光と第2の光源106から出射される第2の光とは交互に出射されることとなる。
合波部107は、第1の光源103から受信する第1の光及び第2の光源106から受信する第2の光を合波して出射する。そして、光分岐部108は、合波部107からの光を複数に分岐させて被検体2に向けて変調光120を出射する。
次に、成分濃度測定装置10は、音波強度検出手順として、以下の動作を行なう。
音波検出部111は、光分岐部108から出射された第1の光により被検体2から第1の音波が発生し、第2の光により被検体2から前記第2の音波が発生し重畳して、第1の音波と第2の音波の差の音波として、図5に示す被検体2の各被照射部位121aから121hからの音波130aから130hの総和として音波(s1−s2)を音響整合物質110を介して検出し、図2に示す成分濃度算出部114は、音波検出部111により検出された音波(s1−s2)の大きさを記憶する。
次に、成分濃度測定装置10は、単一音波強度測定手順として、以下の動作を行なう。第1の光源103は、第1の光の発生を停止し、第2の光源106が波長λ2の第2の光を発生し、駆動回路105からの信号により電気的に強度変調して出力し、光分岐部108から変調光120を出射する。音波検出部111は、被検体2の各被照射部位121aから121hからの音波130aから130hの総和として音波s2を検出し、成分濃度算出部114は、音波s2の大きさを記憶する。
次に、成分濃度測定装置10は、成分濃度算出手順として、以下の動作をおこなう。成分濃度算出部114は、音波検出部111から取得した(s1−s2)及びs2から、前述の測定原理に従って数式(3)により成分濃度を算出する。
本実施形態に係る成分濃度測定装置10は、光分岐部108により合波した光を分岐して複数の光を出射するので、以上の手順により成分濃度を測定して、被検体2への負担が少なく且つ被検体2で発生する音波への雑音による影響を少なくして、測定対象の成分濃度を正確に測定することができる。
(第2実施形態)
第2実施形態に係る成分濃度測定装置について説明する。
図3に本実施の形態の成分濃度測定装置の概略構成図を示す。図3において、第1実施形態と同様の構成部分については構成要素番号を同一とした。
本実施形態に係る成分濃度測定装置11は、第1の半導体レーザ光源801と第2の半導体レーザ光源805の出力する光のパワーを等しく調整する手段として、校正用検体811を導入した形態である。また、本実施形態の成分濃度測定装置11は、図2により説明した第1実施形態に係る成分濃度測定装置10における第1の光源103、第2の光源106及び光分岐部108の光発生手段、光変調手段及び光出射手段に異なる点を有している。
本実施形態の成分濃度測定装置11の上記以外の部分は、図2に示す第1実施形態に係る成分濃度測定装置10と同様であるので、ここでは本実施形態に係る成分濃度測定装置11について、第1実施形態の成分濃度測定装置10と異なる部分について説明する。また、本実施形態に係る成分濃度測定装置11の測定原理は第1実施形態に係る成分濃度測定装置10と同様であるため、本実施形態に係る成分濃度測定装置11の説明に適宜図5を参照する。
本実施形態に係る成分濃度測定装置11は、光発生手段及び光変調手段の一部としての第1の半導体レーザ光源801、第2の半導体レーザ光源805、レンズ802、レンズ806、光合波手段の一部としての合波部107、レンズ815、光出射手段としてのファイバカップラ812、ファイバコリメータ813及びガラス板814を有する。
本実施形態において第1の半導体レーザ光源801、第2の半導体レーザ光源805は、光の波長をそれぞれ波長1608nm及び1381nmに設定し、光強度CW光12mWの光を発振器101の周波数450kHzで互いに逆位相の強度変調光として出射する。
合波部107は、第1の半導体レーザ光源801から出射されレンズ802を介して集光された光及び第2の半導体レーザ光源805から出射されレンズ806を介して集光された光の2波長の光を合波して出力する。
ファイバカップラ812は、レンズ815により光ファイバに結合された光を等パワーに4分岐させ出力する。分岐させた各ファイバの先端にファイバコリメータ813が接続され、ファイバコリメータ813は、ファイバカップラ812からの光を1mm径の平行光ビームに変換しガラス板814を介して出射する。なお、光を等パワー、ビーム径に分割する方法に限定するものではなく、第1実施形態で説明したように、例えば、径を大きく広げた平行ビームを等間隔に空孔を空けた金属板に透過させても同様に分割することができる。また、光の分岐数に関しても、得られる音響周波数特性から最適値が調整されるもので、4に限定しない。ここで、本実施形態では、被検体2の光の被照射面に対して反対側に設置された音波検出部111の受音面を直径16mmとしており、その受音面の中心5から半径4mmの円周上に図5に示す被照射部位が90度間隔で配置されるように、被検体2の直上にあるファイバコリメータ813の位置を調整した。
ここで、本実施形態では、光照射位置にある音源と音波検出部111の間に骨が介在しないように、指の腹に向けてファイバコリメータ813からの光を出射する。さらに、指の表面の凹凸によって、各被照射部位である音源と受音面からの距離が変化することを避けるために、ガラス板814を被検体2の被照射面に押し付けることとする。ガラス板814の押し付けには、押し付け面の指表皮で血液が虚血することを避けるために、被照射部位となる位置に空孔を用意し、被照射部位が直接ガラスに接触しないようにし、接触部は被照射部位の周囲に限定した。また、音波検出部111の表面には、指との間に空泡が散在しないように、ジェルを塗布することとする。
また、音波検出部111の受音面において各被照射部位からの音波が平面波になるように被照射部位である音源と受音面の距離が遠距離音場となるように指の位置を調整する。本実施形態の場合、被検体2としての指の厚みは15mm程度であったため、遠距離音場となる距離を15mm程度とする。なお、この値は、音波検出部111及び被照射部位である音源サイズに依存するもので、必ずしもこの値に限定されるものではない。
成分濃度測定装置11の構成を上記の構成とし、波長1381nmの光のみを第2の半導体レーザ光源805から出射し、光の照射位置、照射パワー等の各種パラメータの調整を行った。音波検出部111の中心5(図5)を光の出射位置との距離、及び発振器101での変調周波数を操作し、音波の大きさが最大となる値に調整する。また、各被照射部位である音源の位置によって、音波検出部111までの音響伝達経路・特性がランダムに異なるため、音波検出部111上でこれらの信号が加算された結果、各共振ピークが鈍化する。
ここで、共振ピークの鈍化について説明する。図7は発振器の変調周波数に対する音波強度の変化を示した図である。図7において、実線は光を分岐させない場合(分岐数1)の音波強度を示し、点線は前述のファイバカップラでの光の分岐数を4とした場合の音波強度を示す。
図7に示すように、光の分岐数を4とした場合には、分岐数1とした場合に比べ共振ピークが鈍化することがわかる。また、周波数特性のリプルは部分的に3dB以下に平坦とすることが可能である。また、被検体2としての指よりも被照射部位である音源と音波検出部111の距離が長くなる手の平では、共振ピークの強度が比較して弱まり、より平坦度は増加することが分かった。
以上の調整手順の後に、図3の被検体2としての指を固定する。音波検出部111からの信号は、位相検波増幅部113の一部である前置増幅器で増幅された後に、ロックインアンプで位相検波しており、指示値は1.65mVであった。指の音響伝達特性の変化(音響インピーダンス、微弱な体動によるずれ)に伴う信号変化の多くは、周波数領域のシフトにより発生するため、周波数特性の平坦化によって抑制され、20分間の測定時間において、信号の変化率は1%以下であった。
次に、被検体2の代わりに、水を充填したシリコンゴム製のセルである校正用検体811を配置し、また、波長1.60μmの光を第1の半導体レーザ光源801から追加して出射し、光パワーの調整を行い、ロックインアンプの信号値を、およそ0.5μVとした。再び、校正用検体811に換えて被検体2としての指を配置し、信号を観測したところ、ロックインアンプの指示値は、およそ4μVであった。また、水のみの吸収を呈する光波長1.38μmの光のみでの指示値は1.72mVであり、信号値の除算を行い、対象成分であるグルコースと水の吸光度比を掛けることによりグルコース成分濃度が算定され、145mg/dlと求まった。
(第3実施形態)
第3実施形態に係る成分濃度測定装置について説明する。本実施形態に係る成分濃度測定装置は、異なる2波長の光を1組として前記異なる波長の2波長のそれぞれと同一波長の2波長の光を複数組発生して出力する光発生手段と、前記光発生手段からの複数の組の各組の2波長の光のそれぞれを前記各組について同一周波数で逆位相の信号により前記複数の組について同相で電気的に強度変調して出力する光変調手段と、前記光変調手段からの複数の組の各組の2波長の光を前記各組について合波して出射する光出射手段と、前記光出射手段により前記複数の組の各組の2波長の光について合波され出射される複数の光により発生する音波を前記複数の光の照射されるそれぞれの被照射部位から略等距離の位置で検出する音波検出手段と、を備える。さらに、本実施形態の成分濃度測定装置は被検体の成分濃度算出手段を備えることが好ましい。
図4に本実施形態に係る成分濃度測定装置の概略構成図を示す。図4において、第1実施形態と同様の構成部分については構成要素番号を同一とし、また、同じ構成要素が2つ以上あるときは各構成要素の番号にそれぞれ英語符号を付した。
本実施形態に係る成分濃度測定装置12は、図2に示す第1実施形態の成分濃度測定装置10のように光を光分岐部108により分岐させる代わりに、複数の光源を有することとした場合である。
本実施形態の成分濃度測定装置12の上記以外の部分は、図2に示す第1実施形態に係る成分濃度測定装置10と同様であるので、ここでは本実施形態に係る成分濃度測定装置12について、第1実施形態の成分濃度測定装置10と異なる部分について説明する。また、本実施形態に係る成分濃度測定装置12の測定原理は第1実施形態に係る成分濃度測定装置10と同様であるため、本実施形態に係る成分濃度測定装置12の説明に適宜図5を参照する。
本実施形態に係る成分濃度測定装置12は、光発生手段及び光変調手段の一部としての発振器101、180°移相回路104、多チャンネル駆動回路115a、115b、第1の光源103a、103b及び第2の光源106a、106b、光合波手段としての合波部107a、107b、光出射手段としての光ファイバ118a、118b及び光照射器117、音波検出手段としての音波検出部111、を有する。さらに、本実施形態に係る成分濃度測定装置12は、光変調手段の一部として、第1の光源103b及び第2の光源106bからの光を強度変調するための同一周波数で逆位相の信号をそれぞれ遅延させる遅延発生器116a、116bを有する。
本実施形態では、第1の光源103a及び第2の光源106aで1組とし、第1の光源103b及び第2の光源106bで1組とする。第1の光源103a及び第2の光源106aから出力された異なる2波長の光は、合波部107aにより合波され、光ファイバ118aに向けて出力される。一方、第1の光源103b及び第2の光源106bから出力された異なる2波長の光は、合波部107bにより合波され、光ファイバ118bに向けて出力される。ここで、第1の光源103a、103bの光の波長は互いに同一とし、第2の光源106a、106bの光の波長は互いに同一とする。
本実施形態では、第1の光源103a、第2の光源106a及び第1の光源103b、第2の光源106bの2組の2波長の光を設けたが、組数が図5で説明した被照射部位の数と一致するため、2組に限らず、音波検出部111で検出する音波の大きさに合わせて多数組み設けることとしてもよい。即ち、被照射部位を増加させるほど音波の大きさが大きくなるため、各被照射部位における光強度を弱めることができる。
多チャンネル駆動回路115aは、第2の光源106a、106bをそれぞれ駆動させる信号を発振器101からの変調信号に同期して出力する。また、多チャンネル駆動回路115bは、第1の光源103a、103bをそれぞれ駆動させる信号を発振器101からの変調信号に同期して出力する。
遅延発生器116aは、多チャンネル駆動回路115aから出力される信号のうち第2の光源106bを駆動させる信号を所定時間遅延させる。また、遅延発生器116bは、多チャンネル駆動回路115bから出力される信号のうち第1の光源103bを駆動させる信号を所定時間遅延させる。
このように、遅延発生器116a、116bを設けて、光を強度変調する前段で予め第1及び第2の光の変調信号をそれぞれ遅延させることができることで、電気配線による物理的な遅延量を調整して音波検出部111での音波の位相を揃えることができる。そのため、被検体2で発生する音波の音波検出部111に同相で到達する精度が向上し、音波の総和による信号増加を図ることができる。ここで、本実施形態では、第1の光源103b、第2の光源106bへの信号を遅延させることとしたが、第1の光源103a、第2の光源106aへの信号を遅延させる遅延発生器をさらに設けることとしてもよい。さらに複雑な遅延処理を行なうことができる。また、本実施形態では、第1及び第2の光を強度変調する変調信号をそれぞれ遅延させるものとして遅延発生器116a、116bを設けることとしたが、遅延発生器116a、116bに代えてパルス遅延調整器を適用することとしてもよい。パルス遅延調整器は、パルス遅延調整器内に設けた内部クロック周波数でパルス信号である変調信号のパルス時間を計測し、指定した遅延時間に対応したパルスを再出力する装置である。
ここで、遅延発生器116a、116bでの遅延量は、電気系の遅延差、光系での遅延差、被検体内での音波の速度の違い(骨や肉では音速が異なる)によって変わるため、被照射部位である音源と音波検出部111との物理的距離だけでは決定できない。そのため、遅延発生器116a、116bは、予め遅延量を調整しておく。例えば、第1の光源103b及び第2の光源106bの組の光のみを出射し、遅延発生器116a、116bの遅延量を片方ずつ遅延させて、当該光による音波の大きさが増加する方向に遅延調整を行なう。
光照射器117は、例えば前述したファイバカップラを適用して、光ファイバ118a、118bに入射する光をそれぞれ被検体2に向けて変調光120として出射する。ここで、光照射器117は、第1実施形態において図5を参照して説明したのと同様に、被検体2に向けて出射される複数の光のビームとしての変調光120の並びが光の出射方向に垂直な面に対し音波検出部111の検出位置を中心5とした円周上に分布して配置されるように複数の変調光120を出射することが望ましい。複数の光のビームとしての変調光120の並びを音波の検出位置を図5に示す中心5とした円周上に分布させることにより、音波検出部111を円の中心5を貫く直線のいずれかに配置すれば各被照射部位から音波検出部111までの音波の検出距離を等距離とすることができる。そのため、円の中心5を貫く直線方向の音波検出部111による音波の検出位置のずれを許容して、正確に測定対象の成分濃度を測定することができる。また、複数の光のビームとしての変調光120の並びを音波の検出位置を図5に示す中心5とした円周上に分布させることにより、それに従って光の被照射部位を円周上に分布させることができる。そのため、光の被照射面の起伏と被照射部位から音波検出部111までの間の音響伝達の違いによる影響を平均化することができる。そのため、音波検出部111での音波検出の状態を略一定に保つことができ成分濃度の測定誤差を少なくして、測定対象の成分濃度を正確に測定することができる。
また、被検体2の表面の形状に合わせて、光照射器117としてファイバカップラの光ファイバの配置や空孔を空けた金属板の金属板上での空孔の配置を調整して、図5(1)に示すように複数の被照射部位の並びが複数の変調光120の出射方向に垂直な面に対し音波検出部111の音波の検出位置を中心5とした円周上に分布して配置されるように前記複数の光を出射することが望ましい。光の被照射部位を円周上に分布させることにより、音波検出部111を円の中心5を貫く直線のいずれかに配置すれば各被照射部位から音波検出部111までの音波の検出距離を等距離とすることができる。そのため、円の中心5を貫く直線方向の音波検出部111による音波の検出位置のずれを許容して、正確に測定対象の成分濃度を測定することができる。また、光の被照射部位を円周上に分布させることにより、光の被照射面の起伏と被照射部位から音波検出部111までの間の音響伝達の違いによる影響を平均化することができる。そのため、音波検出部111での音波検出の状態を略一定に保つことができ成分濃度の測定誤差を少なくして、測定対象の成分濃度を正確に測定することができる。
音波検出部111は、第1実施形態で説明したように、光の被照射部位から略等距離の位置に配置され、合波部107から出射された光により被検体2で発生する音波を音響整合物質110を介して検出し、音波の振幅に比例した電気信号を出力する。
このように、第1の光源103a、第2の光源106a及び第1の光源103b、第2の光源106bの各組の2波長の光を合波部107a、107bで合波しそれぞれ出射することにより、光強度を複数に分散させることができるため、1箇所に光が集中して照射されることがないので、照射する光の総量を大きくすることができる。さらに、被照射部位から略等距離の位置で音波を検出することにより、音波の位相が揃う位置で音波を検出できるため、検出した音波の大きさを複数の被照射部位からの音波の総和として検出することができる。そのため、各被照射部位からの音波の誤差を平均化することができる。従って、本実施形態の成分濃度測定装置12は、被検体2への負担が少なく且つ被検体2で発生する音波への雑音による影響を少なくして、測定対象の成分濃度を正確に測定することができる。
次に、本実施形態に係る成分濃度測定装置12の成分濃度測定の動作を図4を参照して説明する。
成分濃度測定装置12は、混合光出射手順として、以下の動作を行なう。
まず、多チャンネル駆動回路115bは、発振器101からの変調信号に同期して第1の光源103a、第1の光源103bを駆動する信号を出力する。また、多チャンネル駆動回路115aは、180°移相回路104を介した変調信号に同期して第2の光源106a、第2の光源106bを駆動させる信号を出力する。ここで、多チャンネル駆動回路115aから出力される信号と多チャンネル駆動回路115bから出力される信号とは、互いに反転している。第1の光源103aは、発生する光の波長を、例えば測定対象とする成分が特徴的な吸収を呈する波長λ1に設定し、設定した波長の光を多チャンネル駆動回路115bからの信号により電気的に強度変調して出力する。また、第2の光源106aは、水が一方の光の波長におけるのと相等しい吸収を呈する波長λ2に設定し、設定した波長の光を多チャンネル駆動回路115aからの信号により電気的に強度変調して出力する。ここで、多チャンネル駆動回路115aから出力される信号と多チャンネル駆動回路115bから出力される信号とを互いに反転させているため、第1の光源103aから出射される第1の光と第2の光源106aから出射される第2の光とは交互に出射されることとなる。一方、第1の光源103bは、発生する光の波長を、第1の光源103aと同一の波長λ1に設定し、設定した波長の光を多チャンネル駆動回路115bからの信号により電気的に強度変調して出力する。また、第2の光源106bは、第2の光源106aと同一の波長λ2に設定し、設定した波長の光を多チャンネル駆動回路115aからの信号により電気的に強度変調して出力する。
合波部107aは、第1の光源103aから受信する第1の光及び第2の光源106aから受信する第2の光を合波して出射する。一方、合波部107bは、第1の光源103bから受信する第1の光及び第2の光源106bから受信する第2の光を合波して出射する。そして、光照射器117は、合波部107a、107bからの光をそれぞれ被検体2に向けて変調光120として出射する。
次に、成分濃度測定装置12は、音波強度検出手順としての以下の動作を行なう。
音波検出部111は、光照射器117から出射された第1の光により被検体2から第1の音波が発生し、第2の光により被検体2から前記第2の音波が発生し重畳して、第1の音波と第2の音波の差の音波として、被検体2の各被照射部位からの音波の総和として音波(s1−s2)を音響整合物質110を介して検出し、成分濃度算出部114は、音波検出部111により検出された音波(s1−s2)の大きさを記憶する。
次に、成分濃度測定装置12は、単一音波強度測定手順として、以下の動作を行なう。第1の光源103a、103bは、第1の光の発生を停止し、第2の光源106a、106bが波長λ2の第2の光を発生し、多チャンネル駆動回路115a、115bからの信号により電気的に強度変調して出力し、光照射器117から変調光120を出射する。音波検出部111は、被検体2の各被照射部位からの音波の総和として音波s2を検出し、成分濃度算出部114は、音波s2の大きさを記憶する。
次に、成分濃度測定装置12は、成分濃度算出手順として、以下の動作をおこなう。成分濃度算出部114は、音波検出部111から取得した(s1−s2)及びs2から、前述の測定原理に従って数式(3)により成分濃度を算出する。
本実施形態に係る成分濃度測定装置12は、光照射器117から複数の光を出射するので、以上の手順により成分濃度を測定して、被検体2への負担が少なく且つ被検体2で発生する音波への雑音による影響を少なくして、測定対象の成分濃度を正確に測定することができる。