添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
以下の実施の形態では、成分濃度測定装置を、血液成分濃度測定装置として説明する。本実施形態において説明する生体被検部を被測定物に、血液を溶液に、水を液体に、グルコース又はコレステロールを対象成分に、それぞれ置き換えれば、成分濃度測定装置として実施することができる。例えば、溶液には、血液に限らず、リンパ液や涙等の生体を構成する溶液が含まれる。そして、対象成分には、グルコース又はコレステロールに限らず、例えば「リンパ液成分」や「涙成分」等の生体を構成する溶液中の成分も含まれる。このように測定対象に応じて種々の成分を測定できる。
また、以下の実施形態や実施例の構成において、生体被検部に代えて果物をおけば、果実糖度計として機能する。これは、果実の甘さ成分である蔗糖や果糖は、血糖成分であるグルコースと類似の波長に吸収を有するからである、このように本実施形態の精神を逸脱しない範囲で、本実施形態に係る測定装置を様々の対象に適用できることは言うまで無い。
(第1実施形態)
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置は、異なる波長の2波の光を発生する測定用光発生手段と、該異なる波長の2波の光の各々を同一周波数で逆位相の信号により電気的に強度変調する光変調手段と、強度変調された該異なる波長の2波の光を1つの光束に合波し生体に向けて出射する光出射手段と、出射された光により生体内に発生する音波を検出する音波検出手段と、検出された音波の圧力から生体内の血液成分濃度を算定する血液成分濃度算定手段と、を備えた血液成分濃度測定装置である。なお、本実施形態に係る血液成分濃度算定手段は、本実施形態において適用する他、後に説明する実施形態においても適用することができる。
さらに、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置においては、前記測定用光発生手段は、1波の光の波長を血液成分が特徴的な吸収を呈する波長に設定し、他の1波の光の波長を水が前記1波の光の波長におけるのと相等しい吸収を呈する波長に設定することもできる。
図1を参照して、本実施形態に係る構成について説明する。図1は、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置の基本構成を示している。図1において、測定用光発生手段の一部としての第1の光源101は、光変調手段の一部としての駆動回路104により、光変調手段の一部としての発振器103に同期して強度変調されている。
一方、測定用光発生手段の一部としての第2の光源105は、光変調手段の一部としての駆動回路108により、同じく上記発振器103に同期して強度変調されている。但し、駆動回路108には、発振器103の出力が、光変調手段の一部としての180°移相回路107を経て給電され、その結果、第2の光源105は、上記第1の光源101に対して、180°位相が変化した信号により強度変調されるように構成されている。
ここで、図1に示す第1の光源101および第2の光源105の各々の波長は、1波の光の波長を血液成分が特徴的な吸収を呈する波長に設定し、他の1波の光の波長を水が前記1波の光の波長におけるのと相等しい吸収を呈する波長に設定する。
第1の光源101および第2の光源105は各々異なる波長の光を出力し、各々の出力する光は、光出射手段としての合波器109により合波され、1つの光束として、被検体としての生体被検部110に照射される。照射された第1の光源101および第2の光源105の各々が出力する光により生体被検部110内に発生される音波、すなわち光音響信号は、音波検出手段の一部としての超音波検出器113により検出され、光音響信号の音圧に比例した電気信号に変換される。前記電気信号は、上記発振器103に同期した音波検出手段の一部としての位相検波増幅器114により同期検波され、音圧に比例する電気信号が出力端子115に出力される。
ここで、出力端子115に出力される信号の強度は第1の光源101および第2の光源105の各々が出力する光が生体被検部110内の成分により吸収された量に比例するので、前記信号の強度は生体被検部110内の成分の量に比例する。従って、出力端子115に出力される前記信号の強度の測定値から、血液成分濃度算定手段(図示せず)が生体被検部110内の血液中の測定対象の成分の量を算定する。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置は第1の光源101および第2の光源105の出力する異なる波長の2波の光を同一周期、すなわち同一周波数の信号で強度変調しているので、超音波検出器113の周波数特性の不均一の影響を受けない特徴があり、この点が既存技術より優れている点である。
以上説明したように本実施形態に係る血液成分濃度測定装置は高精度に血液成分を測定することができる。
本実施形態に係る前記血液成分濃度測定装置において、前記光変調手段は生体内に発生する音波の検出に関わる共鳴周波数と同一の周波数で変調する手段とすることもできる。異なる波長の2波の光の各々を生体内に発生する音波の検出に関わる共鳴周波数と同一の周波数で変調することにより、生体内に発生する音波を高感度に検出できる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置において、前記血液成分濃度算定手段は、前記異なる波長の2波の光を生体に照射して発生する音波の圧力を、前記2波の光のうち1波の光を零としたときに発生する音波の圧力で除算する手段とすることもできる。このような除算により、高精度に血液成分濃度を測定することができる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置において、前記測定用光発生手段は、強度変調された前記異なる波長の2波の光を1つの光束に合波し水に照射して発生する音波の圧力が零になるように前記異なる波長の2波の光の各々の相対的な強度を調整する手段とすることもできる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置において、例えば、図1において、生体被検部110に代えて校正用の水に、前述の血液成分濃度の測定と同様に、第1の光源101および第2の光源105の出力する光を1つの光束に合波した光を照射し、超音波検出器113が検出する光音響信号が零になるように、第1の光源101および第2の光源105の出力する光の相対的な強度を調節する場合である。
上記のように第1の光源101および第2の光源105の光の強度を調節する場合、第1の光源101および第2の光源105の光の相対的な強度を容易に等しく調整することができるので、容易に、高精度に血液成分濃度を測定することができる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置において、前記音波検出手段は、前記変調周波数に同期して同期検波により検出する手段とすることもできる。本実施形態に係る血液成分濃度測定装置は、例えば、第1の光源101および第2の光源105の出力する光の各々に対応する光音響信号が超音波検出器113により検出され電気信号に変換された信号を、位相検波増幅器114において第1の光源101および第2の光源105の出力する光の各々を強度変調する信号に同期して、同期検波により検出する例である。位相検波増幅器114において第1の光源101および第2の光源105の出力する光の各々に対応する光音響信号の検出精度が向上し、いっそう高精度に光音響信号を測定することができる。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置において、前記測定用光発生手段及び前記光変調手段は、2つの半導体レーザ光源の各々を同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調する手段とすることができる。2つの半導体レーザ光源の各々を同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調する装置構成とすることにより、装置構成が簡略化できる。
次に本実施形態に係る血液成分濃度測定装置の基本となる技術の詳細を説明する。
図1を参照して本実施形態に係る血液成分濃度測定装置構成を説明する。図1に示す本実施形態に係る血液成分濃度測定装置は、第1の光源101、第2の光源105、駆動回路104、駆動回路108、180°移相回路107、合波器109、超音波検出器113、位相検波増幅器114、出力端子115、発振器103により構成される。
発振器103は、信号線により駆動回路104、180°移相回路107、位相検波増幅器114とそれぞれ接続され、駆動回路104、180°移相回路107、位相検波増幅器114のそれぞれに信号を送信する。
駆動回路104は、発振器103から送信された信号を受信し、信号線により接続されている第1の光源101へ駆動電力を供給し、第1の光源101を発光させる。
180°移相回路107は、発振器103から送信された信号を受信して、前記受信した信号に180°の位相変化を与えた信号を、信号線により接続されている駆動回路108へ送信する。
駆動回路108は、180°移相回路107から送信された信号を受信し、信号線により接続されている第2の光源105へ駆動電力を供給し、第2の光源105を発光させる。
第1の光源101および第2の光源105の各々は、互いに異なる波長の光を出力し、各々が出力した光を光波伝送手段により合波器109へ導く。
第1の光源101の出力した光と第2の光源105の出力した光は、合波器109に入力され、合波されて、1つの光束として生体被検部110の所定の位置へ照射され、生体被検部110内に音波、すなわち光音響信号を発生させる。
超音波検出器113は、生体被検部110の光音響信号を検出し、電気信号に変換して、信号線により接続されている位相検波増幅器114へ送信する。
位相検波増幅器114は、発振器103から送信される同期検波に必要な同期信号を受信するとともに、超音波検出器113から送信されてくる光音響信号に比例する電気信号を受信し、同期検波ならびに増幅、濾波を行って、出力端子115へ光音響信号に比例する電気信号を出力する。
第1の光源101は、発振器103の発振周波数に同期して強度変調された光を出力する。一方、第2の光源105は、発振器103の発振周波数で、かつ180°移相回路107により180°の位相変化を受けた信号に同期して強度変調された光を出力する。
上記のように、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置においては第1の光源101の出力した光と第2の光源105の出力した光は、同一の周波数の信号により強度変調されているので、従来技術において、複数の周波数の信号により強度変調している場合に問題となる測定系の周波数特性の不均一性の影響は存在しない。
一方、従来技術において問題となる光音響信号の測定値に存在する非線形的な吸収係数依存性は、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置においては等しい吸収係数を与える複数の波長の光を用いて測定することにより解決できることを、以下に説明する。
波長λ
1および波長λ
2の各々光に対して、背景の吸収係数α
1 (b)、α
2 (b)及び測定対象とする血液成分のモル吸収α
1 (0)、α
2 (0)が既知の場合、各波長における光音響信号の測定値s
1およびs
2を含む連立方程式は、次の数式(1)のように表される。
数式(1)を解いて未知の血液成分濃度Mを求める。ここで、Cは、変化し制御或は予想困難な係数、即ち、音響的な結合状態、超音波検出器の感度、前記照射部と前記検出部の間の距離(以下rと定義する)、比熱、熱膨張係数、音速、変調周波数、更に、吸収係数にも依存する未知乗数である。
数式(1)の1行目と2行目のCに差異が生ずるならば、それは、照射光に関係する量、即ち、吸収係数による差異以外にはあり得ない。ここで、数式(1)の各行の括弧の中、即ち吸収係数が互いに等しくなるように、波長λ1および波長λ2の組み合わせを選べば、吸収係数が等しくなり、1行目と2行目のCは等しい。しかしこれを厳密に行うと、波長λ1および波長λ2の組み合わせが、未知の血液成分濃度Mに依存することになるため、不便である。
ここで、数式(1)の吸収係数(各行括弧中)に占める比率は、背景(α
i (b)、i=1、2)の方が、血液成分濃度Mを含む項(Mα
i (0))よりも著しく大きい。そこで、各行の吸収係数を正確に等しくする代わりに、背景、α
i (b)の吸収係数を等しくすれば十分である。即ち、異なる波長λ
1および波長λ
2の2波の光は、各々における背景の吸収係数、α
1 (b)、α
2 (b)が互いに等しくなるように選べば良い。このように1行目と2行目のCを等値できれば、それを未知定数として消去し、測定対象の血液成分濃度Mは数式(2)で表される。
数式(2)の後段の変形にはs
1≒s
2という性質を用いている。
ここで、数式(2)を見ると、分母に波長λ1および波長λ2における測定対象の血液成分の吸収係数の差が現れている。この差が大きい方が、光音響信号の差信号s1−s2が大きく、その測定が容易となる。この差を最大とするには、測定対象の成分の吸収係数α1 (0)が極大となる波長を波長λ1に選び、かつ、α2 (0)=0、即ち、測定対象の成分が吸収特性を示さない波長に波長λ2を選ぶのが良い。ここで、前の条件から、この第2の波長λ2は、α2 (b)=α1 (b)、即ち、背景の吸収係数が第1の波長λ1の吸収係数に等しくなければならない。
さらに、数式(2)において、光音響信号s1は、光音響信号s2との差s1−s2の形でのみ登場している。今、測定対象の成分としてグルコースを例にとると、上述したように、2つの光音響信号s1および光音響信号s2の強度には、0.1%以下の差異しかない。
しかし、数式(2)の分母の光音響信号s2には5%程度の精度があれば十分である。従って、2つの光音響信号s1および光音響信号s2を逐次個別に測定するよりも、それらの差s1−s2を測定しこの測定値を、個別に測定した光音響信号s2で除する方が、格段に容易に精度が保てる。従って、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置においては、2つの波長λ1および波長λ2の光を、互いに逆相に強度変調して照射することにより、生体内で光音響信号s1および光音響信号s2が相互に重畳されて生じる光音響信号の差信号s1−s2を測定する。
以上説明したように、血液成分濃度を測定する場合、異なる特定の波長の2波の光を用いて、前記異なる特定の波長の2波の光が生体内に発生する光音響信号を各々個別に測定するよりも、前記光音響信号の差信号を測定し、さらに、所定の一方の光音響信号を零として、他方の光音響信号を測定して、これらを数式(2)により演算して、容易に血液成分濃度を測定できることが分かる。
次に、光照射によって発生する音圧について、図2を参照して説明する。図2は本実施形態に係る基礎となる直接光音響法の説明図であり、図2には直接光音響法における観測点の配置が、音源分布のモデルと伴に、示されている。図2において照射光201は、生体に垂直に入射し、その結果、上述したように、光が照射される部分の表面近傍に音源202が生成される。
音源202から出て生体内(簡単のために音波について一様とする)を伝搬する音波について、照射光201の延長線上にあり、音源から距離rだけ離れた観測点203で、その音圧p(r)を観測する。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置において使用する波長1μm以長の光に対しては、生体は、背景(水)による強い吸収を受けるために、音源202は光の照射される部分の表面に局在し、その結果、発生する音波は球面波と見なせる。
図2に示す音波伝搬を記述する波動方程式は、流体力学の方程式から求められる。即ち、連続の式とNavier Stokes方程式を、密度変化、圧力変化、及び流速変化が微小な場合として、各々を線形とし、これらと流体(水)における圧力と密度の関係を記述する状態方程式を連立して解くことにより求められる。ここで、前記状態方程式は、温度をパラメータとして含み、熱源Qが存在する時の温度変化は、前記状態方程式を介して取り込まれる。
熱伝導を無視する時、微小な圧力変化pは、次の非斉次のHelmholtz方程式により記述される。
ここで、cは音速、βは熱膨張係数、C
pは定圧比熱である。
本実施形態に係る血液成分濃度測定装置の場合、一定周期Tで強度変調された光を照射し、該一定周期Tに同期した音圧変化を検出するので、変調周波数をf=1/T、また変調角周波数をω=2πfとおく時、全ての量について、時間依存性exp(−iωt)を持つ量のみに注目すればよい。その結果、時間微分は−iωとの積になる。
また熱源Qは、照射光吸収に続く非発光緩和に起因するため、吸収係数αに比例し、またその分布は、媒質中での照射光201(散乱光が生ずればそれも含めた)の空間分布に等しくなる。即ち、各点での光強度をIと書くと、Q=αIである。以上により、定常的な直接光音響法に関わる基本方程式は次の数式(4)のように表される。
ここで、音波の波数k=ω/c=2πλ(λは音波の波長)を導入した。
数式(4)のp(r→∞)→0の境界条件の下での解は、十分遠方(r)α
−1)において、次の数式(5)のように表される。
今、若干の光分布について数式(5)により、観測される音圧を計算する。先ず、光分布のモデルA204としては、強度が動径r´に対して、e−αr´で減衰する半球状の分布を考える。これは、著しく散乱が大きく、照射光201が入射するや否や、全方位に散乱される場合に対応する。
これに対して、散乱が零である場合が、図2におけるモデルB205、およびモデルC206であり、各々半径w0のガウス型のビームと一様円形ビームを入射した場合に相当している。これら各モデルの光強度分布は、図2中に示されている。
今、既に用いた条件r≫α
−1に加えて、r≫w
0、および、N≡w
0 2/(rλ)≪1(モデルA204についてのNは、w
0に代えてα
−1を用いて定義する)が成り立つ時、数式(5)による計算結果は、以下のようにまとめられる。
ここで、P
0は照射光201の全パワーであり、またF(ξ)は、
と計算される。音源の分布の情報は、この形状関数F(kα
―1)に集約される。前記形状関数のグラフを、図3に示した。
以上の結果によると、ξ=kα―1が小さい時、即ち、音波の波長が吸収長に比べて非常に長い場合(λ)α−1)には、光音響信号は、吸収係数の情報を何ら含まない。その理由は、ξ≪1で、F(ξ)≒ξであって、αF(ξ)≒kに帰してしまうからである。従って、音波の波長が吸収長に比べて非常に長い場合、すなわち変調周波数が低すぎる場合は光音響法によって血液成分濃度の測定はできないことが分かる。
従って、生体に対して行う直接光音響法においては、ξ≒1、すなわちf≒αc/(2π)以上に変調周波数を設定すべきであり、照射光201の波長が1.6μm近傍の場合は変調周波数fを150kHz以上、あるいは照射光201の波長が2.1μm近傍の場合は変調周波数fを0.6MHz以上とする必要がある。
次に、モデルB205、およびモデルC206の結果に差異がないことから、光軸に垂直方向の光強度分布が、信号に影響しないことが分かる。但し、この簡単化が許されるのは、上記N=w0 2/(rλ)≪1が成り立つ場合に限られる。このNはフレネル数と呼ばれる量であり、観測点から音源を見込む際、視線に垂直方向の音源の拡がりに因って、音源の各点からの音波の寄与に生じる位相の変化幅を表している。フレネル数Nが、1に比べて十分小さければ、視線に垂直方向に音源が拡がりを持たないのと等価となる。
その結果、照射光201のビーム径w0が、光音響信号に影響を与えないという、極めて都合の良い性質が生ずるのである。その理由は以下の2つである。
その1は、生体における散乱の影響の抑制である。上記モデルA204は、散乱が大きい極限の場合を想定しているが、生体における散乱は実際、これ程は甚だしくはない。一般に散乱現象は散乱係数μsと異方性gによって特徴付けられる。ここで、後者は、散乱角θの余弦の平均値<cosθ>であり、生体、特に皮膚における値として、概略0.9が報告されている(例えば、Applied Optics誌、32巻、1993年、435−447頁、参照)。即ち、実際の生体における散乱は、小角散乱<θ>≒26°が主である。
今、単位長さの伝搬中に入射光束から散乱によって光が減少してゆく割合は、還元散乱係数μ´s=μs(1−g)で与えられ、この値は光の波長1μm以長に対して、概略1mm−1と実測されている。この値は、単位長さの伝搬中に、入射光束から吸収によって光が減少してゆく割合である吸収係数αの値(光の波長1.6μm前後で0.6mm−1、2.1μm前後で2.4mm−1)と同程度の大きさである。
即ち、今、生体において照射光201は、吸収長α―1の間に高々2回の散乱を受けるのみであり、しかも散乱角は小さい。この結果、生体内部の光分布(入射光束と散乱光の和)は、深さとともに序々にビーム径が拡って行き、あたかもピンの頭のような形となる。このような光分布の実測例も報告されている(Applied Optics誌、40巻、2001年、5770−5777頁、参照)。この時、深さzの面内における光分布の総量は、依然、exp(−αz)に従って減衰することが期待される。これは、少回の散乱が、小散乱角で起こる故である。
従って、光音響信号が照射光201のビーム径に依らない場合、各深さでの光分布のビーム径自体は問題にならず、各深さ面内でのその総量のみが形状関数F(ξ)に影響し得る。これが、exp(−αz)であれば、結果的に、散乱のないモデルB205、およびモデルC206の場合に異ならず、よって形状関数への散乱の影響が無いことが予想されるのである。
2つの波長λ1、および波長λ2の光照射において、該形状関数を等値することは、本実施形態における方法の骨子である。従って、2つの波長λ1、および波長λ2における散乱に相違があるのは、非常に望ましくない。現実には、光の波長1.3μm以長に対して、皮膚における散乱の波長依存性の実測報告は未だ無いが、血液については、一定の還元散乱係数μ´sが報告されている(Journal of Biomedical Optics誌、4巻、1999年、36−46頁、参照)。
従って、例えば、形状関数への若干の散乱の影響があったとしても、その波長依存性は小さく、実害に及ばない可能性はある。さらに、ここで示したように、フレネル数を小さく設定すれば、形状関数への散乱の影響自体を抑止できる。それ故、散乱の波長依存性如何に関わらず、形状関数の等値は正当化され、本実施形態における装置が高い信頼性を持つことが分かる。
その2は、変調周波数の最適化が可能になる事である。人体に対する光の照射には、照射部位と波長、照射時間などに依存する光強度の許容限度がある。フレネル数Nが小さい範囲で、ビーム径w0を拡大すれば、光強度の限度を越えずに、照射光201の全パワーP0を高め、光音響信号を増大できる。
ここで、照射強度の限度をImaxと書くと、P0=πw0 2Imaxであり、フレネル数Nは、全パワーP0によって、N=f/(πcr)(P0/Imax)と表される。距離rは、生体被検部110の厚みによって決まる量(例えば、指頭では10mm、手首では40mm程度)であることを考慮すると、Nを一定に留めて、k、即ち、変調周波数f(∝k)を高める場合、全パワーP0を減らさざるを得ない。ところが、形状関数の大きさ|F(kα−1)|は、kに比例して増えないので、検出される音波は減少する。従って、高過ぎる変調周波数も、また望ましくないことが分かる。
数式(6)の与える音圧振幅p
aを、NとI
maxを用いて、書き直すと次のようになる。
ここで、音圧上界p
supは以下の数式(9)となる。
数式(8)で、|F(ξ)|/ξは、ξについて単調に減少する関数であり、信号振幅のみの観点では、低い変調周波数が有利となる。
今の場合、数式(8)のαに関わる変化率、∂pa/∂α=−(psupN/α)ξd(|F(ξ)|/ξ)/dξを最大とするξ=kα―1が、最適の変調周波数を与える。このようなξは、モデルA204で2.49、モデルB205、およびモデルC206では21/2であり、その様なξにおける|F(ξ)|/ξの値は、各々、0.620、1/31/2と算出される。即ち、信号の強度と吸収係数αへの感度の相反する要求の妥協点として、最適の変調周波数が存する。
上述したように、現実の生体における光分布はモデルB205、およびモデルC206に近いと考えられるので、最適な変調周波数は、2πf=1.41cαであり、その時、f→0における最大値psupNに対し、57.7%の信号振幅が期待される。
次に、図4を参照して、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置の原理を説明する。図1に示す第1の光源101は発振器103に同期して強度変調され、第1の光源101の出力する光は図4の上段に、第1の光源(λ1)の光211として示す波形となる。
一方、図1に示す第2の光源105は、同じく発振器103に同期して強度変調される。ここで、発振器103の送信する信号は180°移相回路107により180°の位相推移を与えられるので、第2の光源105の出力する光は第1の光源101の出力する光に対して逆位相な信号により強度変調され、図4の下段に、第2の光源(λ2)の光212として示す波形となる。
ここで図4においては、第1の光源101および第2の光源105を強度変調する信号は周期が1μ秒、即ち、変調周波数fが1MHzであり、かつ、占有率50%の信号の場合について示している。
ここで、数式(4)では、照射光201に正弦波的変化を仮定し、図4においては、矩形波の光を照射する場合を示しているが、このことは次の理由により矛盾しない。
すなわち、数式(3)は線形であり、異なる周波数の成分は互いに独立のものとして扱える。また音波の振幅が大きくなると、Navier Stokes方程式自体の持つ非線形性の影響を受けるが、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置における光音響信号の場合は、発生する音波は微弱であり線形の数式(3)が適用できる。また、矩形波は奇数次の高調波成分を含むが、そのうちの基本周期の正弦波成分の振幅を、数式(4)のIに読みかえれば良い。光源は、正弦波形状よりも矩形波形状に強度変調する方が容易であり、かつ、矩形波は同振幅の正弦波に比べて、4/π=1.27倍の基本周期正弦波成分を含み、効率は若干良い。
第1の光源101および第2の光源105の各々が出力する異なる波長の2波の光は、合波器109により合波され、生体被検部110に照射される。ここで、前記異なる波長の2波の光の各々は、独立に数式(6)で表される音圧を発生するものと考えることができる。
ここで、音波が線形に重畳されることは、数式(3)の線形性より既に明らかである。さらに、前記異なる波長の2波の光の各々は吸収が飽和する程には強くないので、前記異なる波長の2波の光の各々による発熱Qも線形に重畳される。ここで、吸収が飽和した場合であっても、吸収が不均一な拡がりを持ち、前記異なる波長の2波の光の波長の間隔が均一幅よりも広ければ、依然、発熱の線形な重畳は成立する。ここで、前記異なる波長の2波の光に対して共通に吸収が生じる水に対して、こうした条件もよく満されている。
以上のように、前記異なる波長の2波の光により、各々互いに独立に数式(6)で表される音圧の光音響信号が発生され、これらを重畳した音圧が、超音波検出器113により検出される。従って、上記のように重畳された音圧は次の数式により表される。
ここで、α
iF(kα
i ―1)(i=1、2)が差の形で重畳されているのは、前記異なる波長の2波の光の各々の入射光が互いに逆相で強度変調された結果である。これを、超音波検出器113により検出し変換して得られる電気信号の中の基本周期の正弦波成分の波形を図6に実線で示す。図6に実線で示す信号の振幅(rms値)が、発振器103に同期した位相検波増幅器114によって測定され、図6にV
dとして示す信号として、出力端子115に出力される。
数式(10)と数式(1)により、上記未知定数Cは次の数式により表される。
次に、数式(2)により、測定対象とする血液成分濃度の算出の原理を説明する。既に、第1の光源101および第2の光源105の各々が出力する光に対応する光音響信号の差信号s
1−s
2が得られているので、次に光音響信号s
2を測定すれば、数式(2)から、測定対象の血液成分濃度Mを算出できる。
そこで、図5に示す第2の光源(λ2)の光212のみを照射した状態で、光音響信号を測定する。即ち、図5に示すように、第2の光源105の出力する光の波形を保ったまま、第1の光源101の出力を零とする。これは、図1に示す第1の光源101の出力する光を、機械的なシャッターで遮る、または駆動回路104の出力を第1の光源101の発振閾値以下に下げる等の手段により実現できる。
上記の状態で測定される光音響信号の値を、超音波検出器113により検出し、電気信号に変換すると、基本周期正弦波成分として図6に破線により示す波形が得られる。また、図6に破線により示す波形のrms振幅値は、前述の方法と同様に位相検波増幅器114によって測定され、図6にVrとして示す信号として、出力端子115に出力される。
ここで光音響信号s2は、光音響信号の差信号s1−s2に対して、逆相となる。また、光音響信号s2は、前記光音響信号の差信号s1−s2に比べて、桁違いに大きい。例えば、健常者の血糖値測定の場合、1000倍以上である。従って、光音響信号s2と光音響信号の差信号s1−s2の2つの測定の間に、位相検波増幅器114の感度及び時定数の切替えを行う。
上記の測定により、2つの測定値Vd、Vrを得れば、それらの各々を、数式(2)中のs1−s2、s2のそれぞれに代入して、測定対象とする血液成分濃度Mを算出する。
ここで、測定値の比Vd/Vrから、血液成分濃度Mへの変換には、比吸光度α1 (0)/α1 (b)(α2 (0)が非零の場合、更にα2 (0)/α1 (b))を必要とする。
図7に、上記の比吸光度の値および、前述のように背景の吸収係数を等しくする2つの測定する波長λ1および波長λ2の選定方法を示す。
図7は、血糖値の測定の場合について、本実施形態に係る血液成分濃度測定装置における第1の光源101と第2の光源105のそれぞれの波長の選択法を示す図である。
図7は、光波長1.2μmから2.5μmにわたって、水及びグルコース水溶液(濃度1.0M)の吸光度(OD)を示している。吸光度ODは吸収係数αとの間に、α=ODln10の関係がある。図7の右側の縦軸に吸収係数αの目盛を示す。
図7において、グルコース分子による吸収は、僅かに1.6μm近傍と2.1μm近傍に認められるが、グルコース分子による吸収は水に比べて、非常に小さい。
水とグルコースの吸光度の差を図8の上側に示し、これを更に、水の吸光度で除した比吸光度を図8の下側に示す。
図8に示す比吸光度によると、グルコース分子による吸収の明瞭な極大は、1608nmと2126nmに認められる。ここで、一例として、グルコース分子による吸収波長として、第1の光源101の波長λ1を1608nm(比吸光度は、0.114M−1)に設定する。これを、図8中に〇付きの縦実線で示した。
ここで、波長1608nmにおける背景(水)の吸収係数α1 (b)は、図7から、0.608mm−1と読み取れる。そこで、α2 (b)=α1 (b)となる波長λ2は、同じく図7の水の吸収スペクトルから波長1381nm、あるいは波長1743nmである。これらの第2の光源105の波長λ2の候補の各々について、図8の比吸光度のスペクトルによって、α2 (0)の値を点検する。その結果、波長1381nmにおいては比吸光度が零であるが、一方、波長1743nmはグルコース分子の吸収帯にあり、比吸光度が0.0601M−1である。吸光度差α1 (0)−α2 (0)は、出来るだけ大きい方が測定が容易であるので、上記の場合、第2の光源105の波長λ2として、1381nmを選定する。
長波長側の吸収帯において、2126nmを第1の光源101の波長λ1(比吸光度は0.0890M−1)に設定する場合、前述と同様の方法により、水分子が波長2126nmにおける吸収係数α1 (b)=2.361mm−1と等しい吸収係数を示す波長として、1837nm、あるいは2294nmがあり、これらの何れもがグルコースの吸収を外れている(図8中に縦点線で示した)ので、第2の光源105の波長λ2としては1837nm、あるいは2294nmのいずれを選定しても良い。
(第2実施形態)
図9は、本実施形態に係る成分濃度測定装置の概略構成図である。本実施形態に係る成分濃度測定装置290は、生体被検部110が静止状態となり、かつ、温度計291の時定数の影響が小さくなったことを判定する温度変化判定手段292を備えることによって、生体被検部110に存在する溶液における血液成分の濃度を高い精度で測定可能とすることを特徴とする。以下、具体的に説明する。
図9に示す成分濃度測定装置290は、生体被検部110で発生する光音響信号を検出するための構成を備える。例えば、成分濃度測定装置290は、測定用光発生手段としての第1の光源101及び第2の光源105と、光変調手段としての第1の光源101、第2の光源105、駆動回路104、駆動回路108、180°移相回路107及び発振器103と、測定用光合成手段としての合波器109と、光出射手段としての照射ヘッド112と、音波検出手段としての超音波検出器113と、を備える。さらに、成分濃度測定装置290は、レンズ139、140、音響結合器142、位相検波増幅器114、出力端子115を備えていてもよい。以上の生体被検部110で発生する光音響信号を検出するための構成及び動作については、第1実施形態と同様である。なお、本実施形態では、測定用光発生手段の一方を第1の光源101、測定用光発生手段の他方を第2の光源105として説明する。測定用光発生手段の一方を第2の光源105、測定用光発生手段の他方を第1の光源101としてもよい。
成分濃度測定装置290では、さらに、温度測定手段としての温度計291と、温度変化判定手段292と、判定結果出力手段293と、表示手段294と、光発生制御手段295と、光遮断手段296と、光出射制御手段297と、を備える。以下、具体的に説明する。
温度計291は、照射ヘッド112からの光の光路上に配置されている生体被検部110の温度を測定する。照射ヘッド112の出射する光の光路上には生体被検部110が配置される。照射ヘッド112の出射する光のビーム径は、指や耳などの生体被検部110に比べて十分小さい。このため、照射ヘッド112の出射する光の光路上に生体被検部110が配置されたときに、生体被検部110が必然的に配置される位置が生じる。温度計291は、この生体被検部110が必然的に配置される位置の温度を測定することが好ましい。
温度計291は、例えば、接触式又は非接触式の温度計である。接触式の温度計は、例えば、熱電対、白金抵抗測温体などの金属線の電気抵抗変化を利用したもの、サーミスタなどの半導体バルクの電気抵抗変化を利用したもの、半導体のPN接合での電圧降下の温度依存性を利用したものである。非接接触式の温度計は、例えば、生体被検部110の放射する赤外線の波長を測定する赤外線放射温度計である。
温度変化判定手段292は、温度計291の検出する単位時間当たりの温度変化が一定値よりも小さいか否かを判定する。生体被検部110が静止状態となり、かつ、温度計291の時定数の影響が小さくなるに従い、温度計291の検出する単位時間当たりの温度変化は小さくなる。温度変化判定手段292が温度計291の検出する温度変化が小さくなったことを判定するので、生体被検部110が静止状態となり、かつ、温度計291の時定数の影響が小さくなったことを判定することができる。
温度変化は、温度計291の検出した複数の温度を比較して判定する。複数の温度は、2つであってもよいし、3つ以上であってもよい。複数の温度が2つであれば、温度変化は2つ温度の差である。複数の温度が3つ以上であれば、最小二乗法によって導いた温度変化の関数における単位時間当たりの温度の差とすることができる。複数の温度を3つ以上とすることで、温度計291の測定ごとのばらつきの影響を排除することができる。
単位時間は、生体被検部110が静止状態にあり、かつ、温度計291の時定数の影響が小さくなったことを判定するに足りる時間である。生体被検部110が静止状態にあるか否かは、被検者に応じて異なることが好ましい。例えば、被検者の年齢によって異なることが好ましい。また、温度計291の時定数の影響が小さくなったか否かも、温度計291によって異なることが好ましい。例えば、温度計291が接触式の温度計か非接触式の温度計かで異なることが好ましい。
温度変化の一定値は、生体被検部110が静止状態にあり、かつ、温度計291の時定数の影響が小さくなったことを判定するための閾値である。生体被検部110が静止状態にあるか否かを判定するために、温度変化の一定値は、測定する位置が1mmでもずれたことを判定することができる温度変化であることが好ましい。
さらに、温度変化判定手段292は、生体被検部110が静止状態にあることを判定するために、生体被検部110の固有の温度範囲内であるか否かを判定することが好ましい。生体被検部110が人間であれば、34℃以上42℃未満であるか否かを判定することが好ましい。温度計291による温度測定値が生体被検部110の固有の温度範囲内であることで、静止状態にあるものが生体被検部110であることを判定することができる。
判定結果出力手段293は、温度変化判定手段292の判定する結果に対応する表示内容を出力する。温度計291の検出する単位時間当たりの温度変化が一定値よりも小さい場合、生体被検部110が静止状態にあり、かつ、温度計291の時定数の影響が小さくなっている。この場合の温度変化判定手段292の判定する結果に対応する表示内容は、例えば、血液成分の濃度の測定準備が整った旨である。温度計291の検出する単位時間当たりの温度変化が一定値よりも小さくない場合、生体被検部110が静止状態にないか、また、温度計291の時定数の影響が小さくなっていない。この場合の温度変化判定手段292の判定する結果に対応する表示内容は、例えば、血液成分の濃度の測定準備がまだ整っていない旨である。温度変化判定手段292の判定する結果に対応する表示内容は、温度計291の検出する単位時間当たりの温度変化によって異なってもよい。例えば、温度変化が徐々に小さくなっていれば、温度計291の時定数の影響が残っている旨である。
判定結果出力手段293の出力する表示内容は、表示手段294によって異なる。例えば、表示手段294が表示画面であれば、表示内容は、文字、記号、模様、色彩又はこれらの組み合わせである。表示手段294が発光体であれば、表示内容は色又は色の組み合わせである。表示手段294が音源であれば、表示内容はメロディー又は警告音である。表示手段294が振動体であれば、表示内容はパルス周期又はパルス周期の組み合わせである。
表示手段294が表示画面である場合、血液成分の濃度の測定準備が整った旨は、例えば、「血圧の測定準備ができました。」という文字情報である。血液成分の濃度の測定準備がまだ整っていない旨は、例えば、「照射ヘッド112を着けなおしてください。」又は「温度測定値が安定するまでお待ちください。」という文字情報である。
表示手段294は、判定結果出力手段293の出力する表示内容を表示する。例えば、表示画面、発光体、音源又は振動体である。表示画面は、液晶ディスプレイなどの視認性に優れているものが好ましい。発光体は、発光ダイオードなどの低消費電力のものが好ましい。音源又は振動体は、骨伝導スピーカなどの聴覚が弱っていても聞きやすいものが好ましい。
光発生制御手段295は、第1の光源101及び第2の光源105の光の発生を制御する。具体的には、光発生制御手段295は、温度計291の検出する温度変化が一定値よりも小さくないと温度変化判定手段292が判定すると、第1の光源101及び第2の光源105に光を発生させない。さらに、光発生制御手段295は、温度計291の検出する温度変化が一定値よりも小さいと温度変化判定手段292が判定すると、第1の光源101及び第2の光源105に光を発生させる。第1の光源101及び第2の光源105の光の発生を制御することで、血液成分の濃度を高い精度で測定可能な状態となったことを確認した上で、第1の光源101及び第2の光源105を駆動させることができる。第1の光源101及び第2の光源105を必要以上に駆動しないので、第1の光源101及び第2の光源105の劣化を防ぐことができる。
光発生制御手段295は、例えば、第1の光源101及び第2の光源105の駆動のオンとオフを切り替えるスイッチである。図9においては、図面が複雑になるのを避けるため、論理的な信号線を省略した。駆動回路104及び108が第1の光源101及び第2の光源105を駆動する場合は、光発生制御手段295は、駆動回路104及び108の駆動のオンとオフを切り替えるスイッチであってもよい。
光遮断手段296は、照射ヘッド112の出射する強度変調光及び測定用合成光を遮断する。照射ヘッド112の出射する光を遮断するので、血液成分の濃度を高い精度で測定可能な状態となるまで、照射ヘッド112からの強度変調光及び測定用合成光の出射を防ぐことができる。
強度変調光及び測定用合成光の遮断は、例えば、強度変調光及び測定用合成光の吸収又は反射によって行う。第1の光源101及び第2の光源105への戻り光を防ぐため、強度変調光及び測定用合成光の遮断は、強度変調光及び測定用合成光の吸収によって行うことが好ましい。また、光遮断手段296は、第1の光源101及び第2の光源105から照射ヘッド112までのどこに配置されていてもよいが、合波器109から照射ヘッド112までの間に配置することが好ましい。
光出射制御手段297は、照射ヘッド112からの強度変調光及び測定用合成光の出射を制御する。具体的には、光出射制御手段297は、温度計291の検出する温度変化が一定値よりも小さくないと温度変化判定手段292が判定すると、強度変調光及び測定用合成光を光遮断手段296に遮断させ、かつ、温度計291の検出する温度変化が一定値よりも小さいと温度変化判定手段292が判定すると、強度変調光及び測定用合成光を光遮断手段296に遮断させない。血液成分の濃度を高い精度で測定可能な状態となったことを確認した上で、強度変調光及び測定用合成光を照射ヘッド112に出射させることができる。血液成分の濃度を高い精度で測定可能な状態となったときに、第1の光源101及び第2の光源105の駆動を安定させておくことができる。
光遮断手段296による強度変調光及び測定用合成光の遮断の制御は、例えば、液晶のように化学的構造の変化、又は、強度変調光及び測定用合成光の光路上の遮蔽板を移動させる機械的構造の変化によって行う。光遮断手段296が化学的構造の変化によって行うものであれば、光出射制御手段297は、光遮断手段296の化学的構造を変化させる。また、光遮断手段296が機械的構造の変化によって行うものであれば、光出射制御手段297は、遮蔽板の位置を移動させる。光出射制御手段297は、温度計291の検出する温度変化が一定値よりも小さいと温度変化判定手段292が判定したことを条件に、強度変調光及び測定用合成光を照射ヘッド112の出射口に透過させる。
成分濃度測定装置290の規格化用音波及び測定用音波の検出の一例について、図9を用いて説明する。規格化用音波及び測定用音波の検出の前に、温度計291は、生体被検部110の温度を測定する。そして、温度変化判定手段292は、温度計291による温度測定値の温度変化が一定値よりも小さいか否かを判定する。このとき、表示手段294は、生体被検部110を静止状態とするように促す旨を表示する。
光発生制御手段295は、生体被検部110が静止状態となり、かつ、温度計291の時定数の影響が小さくなるまで、第1の光源101及び第2の光源105に光を発生させない。一方で、光出射制御手段297も、生体被検部110が静止状態となり、かつ、温度計291の時定数の影響が小さくなるまで、強度変調光及び測定用合成光を光遮断手段296に出射させない。ここで、光発生制御手段295又は光出射制御手段297のいずれかを備えれば、生体被検部110が静止状態となり、かつ、温度計291の時定数の影響が小さくならなければ、血液成分の濃度の測定を開始しないようにすることができる。この間も、表示手段294は、生体被検部110を静止状態とするように促す旨を表示する。
光発生制御手段295は、生体被検部110が静止状態となり、かつ、温度計291の時定数の影響が小さくなると、第1の光源101及び第2の光源105に光を発生させる。一方で、光出射制御手段297も、生体被検部110が静止状態となり、かつ、温度計291の時定数の影響が小さくなると、強度変調光及び測定用合成光を光遮断手段296に出射させる。ここで、光発生制御手段295又は光出射制御手段297のいずれかを備えれば、生体被検部110が静止状態となり、かつ、温度計291の時定数の影響が小さくなったときに、血液成分の濃度の測定を開始することができる。このとき、表示手段294は、血液成分の濃度の測定を開始する旨を表示する。
規格化用音波の検出について説明する。この場合、第2の光源105は強度変調光を出射しない。第1の光源101は、駆動回路104の駆動を受けて、強度変調光を出力する。レンズ139は、第1の光源101からの強度変調光を合波器109に入射させる。合波器109は、第1の光源101からの強度変調光を照射ヘッド112へ導く。そして、照射ヘッド112は、第1の光源101からの強度変調光を生体被検部110に向けて出射する。超音波検出器113は、生体被検部110に存在する血液で発生した規格化用音波を検出する。
測定用音波の検出について説明する。第1の光源101は、駆動回路104の駆動を受けて、強度変調光を出力する。レンズ139は、第1の光源101からの強度変調光を合波器109に入射させる。第2の光源105は、駆動回路108の駆動を受けて、強度変調光を出力する。レンズ140は、第2の光源105からの強度変調光を合波器109に入射させる。合波器109は、第1の光源101からの強度変調光及び第2の光源105からの強度変調光を合波する。そして、照射ヘッド112は、合波器109の合波する第1の光源101からの強度変調光及び第2の光源105からの強度変調光を合成した測定用合成光を生体被検部110に向けて出射する。超音波検出器113は、生体被検部110に存在する血液で発生した測定用音波を検出する。
位相検波増幅器114は、超音波検出器113の検出する規格化用音波及び測定用音波の光音響信号に比例する電気信号を出力端子115に出力する。規格化用音波及び測定用音波の光音響信号に比例する電気信号を解析することで、血液成分であるグルコースの濃度を測定することができる。
以上説明したように、本実施形態に係る成分濃度測定装置290では、血液におけるグルコースの濃度の測定において、生体被検部110が静止状態となり、かつ、温度形291の時定数の影響が小さくなったことを判定し、その上でグルコースの濃度を測定することができる。そのため、本発明に係る成分濃度測定装置290は、血糖値などの血液成分の濃度を高い精度で測定可能とする。