JP2007073842A - 希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末 - Google Patents

希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末 Download PDF

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Abstract

【課題】主相の内部に、MnおよびNの濃度が高く長短のあるワイヤー状形態をしたアモルファス相がランダムに存在することで、良好な保磁力と優れた角形性を有する希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を提供。
【解決手段】希土類元素、Fe、MnおよびNから実質的に構成され、かつその中のNの含有量が全体に対して3.5重量%以上である、平均粒径が10μm以上で、保磁力が320kA/m以上である希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末であって、希土類元素、Fe、MnおよびNを成分とする菱面体晶または六方晶の結晶構造を有する相からなる主相と、該主相の内部にランダムに存在する、主相に比べてMnおよびNの濃度が高くかつ直径が20nm以下で長短のあるワイヤー状形態をしたアモルファス相とを含む構造形態を有することを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末によって提供する。
【選択図】図1

Description

本発明は、希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末に関し、さらに詳しくは、主相の内部に、MnおよびNの濃度が高く長短のあるワイヤー状形態をしたアモルファス相がランダムに存在するという新規な構造形態をもち、それに伴い良好な保磁力と優れた角形性とをバランスよく有する希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末に関する。
フェライト磁石、アルニコ磁石、希土類磁石等が、自動車、一般家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器をはじめとする種々の製品にモータなどとして組み込まれ、使用されている。これら磁石は、主に焼結法で製造されるが、脆く、薄肉化しにくいため複雑形状への成形は困難であり、また焼結時に15〜20%も収縮するため、寸法精度を高められず、研磨等の後加工が必要で、用途面において大きな制約を受けている。
これに対し、ボンド磁石は、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂をバインダとし、磁石粉末を充填して容易に製造できるため、新しい用途開拓が繰り広げられている。
これら樹脂バインダの中で、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂は、280℃を超える高い融点を有しているとともに、有機酸や無機酸、強アルカリ、油脂、有機溶媒などに対する優れた耐薬品性も併せ持っている。そのためPPSをバインダとしたボンド磁石は、高い耐熱性や耐薬品性を必要とする用途に用いられている。また、PPSに匹敵する良好な耐熱性と耐薬品性を有する樹脂バインダとして、芳香族系ポリアミドや液晶ポリマ−が知られている。
磁石粉末には多くの種類があるが、BaフェライトやSrフェライトなどのハ−ドフェライトである場合には、磁気特性が悪く最大エネルギ−積で20kJ/m未満であるため、それ以上の性能が必要である場合には希土類遷移金属系磁石粉末が用いられる。
希土類−遷移金属系磁石粉末としては、Sm−Co系磁石粉末、Nd−Fe−B系磁石粉末、Sm−Fe−N系磁石粉末が知られており、Sm−Co系のSmTM17磁石粉末(TMはCo、Fe、Cu、Zr、Hfなど)や、Nd−Fe−B系のMQ磁石粉末(マグネクエンチインターナショナル製の等方性粉末)を用いたPPSボンド磁石が実用化されている。
Sm−Fe−N系のSmFe17磁石粉末を用いたPPSボンド磁石(例えば、特許文献1参照)は、高温で混練・成形されるため、磁石粉末の保磁力や角形性が低下する問題がある。
また、芳香族系ポリアミドを含有するボンド磁石については、芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドの混合物を樹脂バインダとしたものが提案されており、固有保磁力8kOe(640kA/m)以上のものが得られているが、磁石粉末の耐熱性が十分でないために原料粉末には固有保磁力が16kOe(1280kA/m)レベルのものを使わざるを得ないという問題を有する。
SmFe17磁石粉末の耐熱性を向上させるため、粉末表面をZnで処理すること(例えば、特許文献2参照)、また磁石粉末を燐酸化合物で処理すること(例えば、特許文献3参照)が提案されているが、まだ十分なものとは言えなかった。
そのため、Sm−Fe−N系磁石粉末の結晶構造を制御し、主相の結晶中に構造が異なる相をピンニングサイトとして微細析出させ、あるいは2つ以上の相に分離させることも提案されている(特許文献4参照)。ここには、主相の結晶とは構造が異なる相を生成させる方法として、RとTとMを所望の配合量に溶解鋳造し、溶体化処理してR17相中にMを固溶させ、これを適当な条件で時効処理してM化合物として微細析出させる方法などが記載されている。
このとき生成するM化合物には、R−M系、R−T−M系、M−T系があり、窒化中に析出する場合は、それらの窒化物を生成することもある。また、既に析出していたM化合物が窒化処理中に窒化されることもある。一方、M濃度の異なる2つ以上の相に分離する場合も、相によって窒素濃度が変化することがあるとされている。
一方、耐熱性に優れたSm−Fe−N系磁石粉末として、希土類元素と、鉄または鉄およびコバルトと、マンガンと、窒素とからなる磁性材料が提案されている。K.Majimaらは、その金属組織について研究し、個々の粒子がSm(Fe、Mn)17化合物結晶相からなる10〜30nmの微結晶粒の集合組織を有しており、セル境界がアモルファス相であると報告している(例えば、非特許文献1参照)。そして、このアモルファス相においては、窒素とマンガン組成が結晶相に比べてかなり高いとしている。
この磁性材料は、従来のSmFe17磁石粉末以上の過剰な窒素を合金粉末に導入することによって製造されている。SmFe17に窒素を導入した場合、SmFe17あたり窒素が3個であるSmFe17であると、磁気異方性エネルギー、磁化、キュリー温度など多くの磁気特性が最適となることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。さらに、この導入窒素量をSmFe17あたり5〜5.5個程度まで増やすと、粗粉体の状態での保磁力が最大となる。
しかし、マンガンを含む粉末では、Sm([Fe,Co],Mn)17あたりNが3個を越えて増加すると、Nは格子間に侵入するため結晶格子が広がり、不安定な状態を経て、ついに、N濃度分布に濃淡が生じ、結晶格子が崩れた部分や崩れかけた部分が生じる。さらに、合金組成や窒素量、窒化条件や窒化後の焼鈍条件によっては、菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する強磁性相の周りをN濃度の高い結晶格子の崩れた或いは崩れかけた部分が取り囲む、セルのような構造(以下、単に「セル構造」と略称する場合もある。)が生じるとされている(例えば、特許文献5参照)。そして、このようなセル構造が生じる一例として、Sm8.5Fe65.0Mn3.523.0材料の微構造をTEM(透過電子顕微鏡)により観察した結果が示され、そこでは、10〜200nmの結晶粒子径を有したセル構造が生じているのが確認できる。
Sm−Fe−N3元系でも、NがSmFe17あたり3個を越えて4個まで増加すると、同様な微構造を生じることが知られているが、その磁気的性質は報告されていない(非特許文献3参照)。
しかし、これにMnが共存した場合には、高窒化領域での保磁力が大きく増加するとされている。例えば、30μm程度の粗粉体Sm−Fe−N3元系では、上述のように保磁力の最大値が2kOe程度であるのに対して、Mnが共存すると、保磁力は9〜12kOeまで増加する。Mnの役割については不明であるが、N濃度の高い部分、または、結晶格子の崩れた或いは崩れかけた部分にMnが存在することにより、磁化反転をくい止める効果が生じるものと考えられている。
また、Mnの組成比にもよるが、Sm([Fe,Co],Mn)17あたりのNの数が4個から6個程度までの材料について、磁気曲線の立ち上がりや保磁力の着磁磁場依存性などが調べられ、この材料は、ピンニング型の磁化反転機構を示すとされている。この傾向はCoを含む、含まないにかかわらず同様と見られている。
特許文献5に記載された実施例によれば、例えば飽和磁化134emu/g(134Am/kg)で固有保磁力4.1kOe(328kA/m)の磁石粉末や飽和磁化が102emu/g(102Am/kg)で固有保磁力が9.3kOe(744kA/m)の粉末が得られ、これらの粉末は、110℃の温度に200時間さらした後も、初期値の98%以上の優れた保磁力を維持するとしている。
さらに、CuまたはBiの少なくとも一種を含有させることによって、その磁気特性を高めた磁石粉末が提案されており、例えば飽和磁化12.5kG(1.25T)で保磁力9.1kOe(728kA/m)の粉末が得られるとされている(例えば、特許文献6参照)。これによれば、良好な飽和磁化と保磁力を有する磁石粉末が得られるが、減磁曲線の角形性が悪く、また、高い磁気特性を再現性よく得ることが困難であった。さらに、窒素を導入する前の希土類−鉄−マンガン母合金粉末は、溶解法で製造されており、特に希土類元素がSmの場合には原料となる金属Smが高価であるため、コスト的にも問題があった。溶解法で得る場合、1500℃以上の高温での溶解、粉砕、組成均一化のための熱処理が必要であり、工程が極めて煩雑であるとともに、各工程間において、処理物が一旦大気中に曝されるために酸化により不純物質が生成するという問題もある。
また、希土類−鉄−マンガン系磁石では、母合金粉末を篩分級などにより粒度調整した後、さらに窒素を導入して得られた希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末に対しても粒度調整を行ってはじめて、高い保磁力が得られるため、製品収率が低いという点でも工業製品としてコスト的に問題があった。
特許文献7では、還元拡散法によりSm10.1Fe85.3Mn2.9Cu1.7合金を製造し、この合金をキルンに入れ、水素−アンモニア混合ガスを1:1の割合で流しながら、470℃で7時間窒化している。得られた合金の組成は、Sm8.1Fe68.7Mn2.3Cu1.419.5であり、その内部を透過電子顕微鏡(TEM)で観察すると、白い帯状の部分と、それ以外の黒い部分が混在している様子が観察されている。また、電子線回折によって、白い帯状の部分はアモルファス相であり、それ以外の黒い部分は微小結晶相であり、さらに、一つの粒子内の微小結晶相は、結晶方向が揃っていることも電子線回折により確認されている。
上記した従来技術から明らかなように、これまでは良好な飽和磁化と保磁力を得ることはできたが、減磁曲線の角形性が悪く、また一定の条件で磁石粉末を製造しても高い磁気特性を再現性よく得ることは困難であった。そのため、還元拡散法によって低コストで安定的に製造でき、角型性が良好で優れた飽和磁化と保磁力を得ることができる磁石粉末の構造解明が強く望まれていた。
特開平3−160705号公報 特開平9−190909号公報 特開2002−8911号公報 特開平6−20813号公報 特開平8−55712号公報(段落0032、0033、実施例1 〜11) 特開平11−135311号公報 特開2004−269914号公報 J.Appl.Phys.81(1997)p.4530−4532 IEEE Trans. Magn.,28,2326(1992) 日本応用磁気学会誌、18巻、201ページ、1994年
本発明の目的は、このような状況に鑑み、主相の内部に、MnおよびNの濃度が高く長短のあるワイヤー状形態をしたアモルファス相がランダムに存在するという新規な構造形態をもち、それに伴い良好な保磁力と優れた角形性とをバランスよく有する希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を提供することにある。
本発明者らは、かかる従来の課題を解決するために、希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の高性能化について鋭意検討した結果、還元拡散反応後の反応生成物を、引き続き不活性ガス雰囲気下で特定の温度以下に冷却後、湿式処理する前に窒化熱処理したところ、得られた希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末は、希土類元素、Fe、MnおよびNを成分とする菱面体晶または六方晶の結晶構造を有する相からなる主相と、その主相の内部にランダムに存在する、主相に比べてMnおよびNの濃度が高くかつ直径が特定値以下で長短のあるワイヤー状形態をしたアモルファス相とを含むという新規な構造形態を有し、その構造形態によって、高い保磁力と良好な角形性とがバランスよく得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第1の発明によれば、希土類元素、Fe、MnおよびNから実質的に構成され、かつその中のNの含有量が全体に対して3.5重量%以上である、平均粒径が10μm以上で、保磁力が320kA/m以上である希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末であって、希土類元素、Fe、MnおよびNを成分とする菱面体晶または六方晶の結晶構造を有する相からなる主相と、該主相の内部にランダムに存在する、主相に比べてMnおよびNの濃度が高くかつ直径が20nm以下で長短のあるワイヤー状形態をしたアモルファス相とを含む構造形態を有することを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末が提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記アモルファス相の存在割合は、主相に対して0.05〜5容量%であることを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記アモルファス相をなすワイヤー状形態のアスペクト比は、10〜1000であることを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末が提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第1〜3の発明において、前記アモルファス相をなすワイヤー状形態の直径は、5〜10nmであることを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4の発明において、各成分元素の存在量は、希土類元素が22〜27重量%、Mnが7重量%以下、Nが3.5〜6.0重量%、及び残部がFeであることを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、前記Nの含有量は、4.0〜5.5重量%であることを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末が提供される。
本発明の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末は、希土類元素、Fe、MnおよびNを成分とする菱面体晶または六方晶の結晶構造を有する相からなる主相と、主相に比べてMnおよびNの濃度が高くかつ直径が特定値以下で長短のあるワイヤー状形態をしたアモルファス相とを主相の内部にランダムに含むという新規な構造形態を有するため、高い保磁力を有するばかりでなく、減磁曲線の角形性が良好でかつ優れた磁気特性を有する。この磁石粉末は、還元拡散後の反応生成物である希土類−鉄−マンガン系母合金を、不活性ガス雰囲気下で一旦特定の温度まで冷却後、雰囲気ガスを切り替え昇温して、特定条件で窒化することで、容易かつ低コストで製造できる利点がある。
以下、本発明の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末について図面を用いて、さらに詳しく説明する。
1.希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末
本発明の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末は、希土類元素、Fe、MnおよびNから実質的に構成され、かつその中のNの含有量が全体に対して3.5重量%以上である、平均粒径が10μm以上で、保磁力が320kA/m以上である希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末であって、希土類元素、Fe、MnおよびNを成分とする菱面体晶または六方晶の結晶構造を有する相からなる主相と、該主相の内部にランダムに存在する、主相に比べてMnおよびNの濃度が高くかつ直径が20nm以下で長短のあるワイヤー状形態をしたアモルファス相とを含む構造形態を有することを特徴とする。
この希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の組成は、特に限定されるわけではないが、22〜27重量%の希土類元素と、7重量%以下のMnと、3.5〜6.0重量%のNと、残部が実質的にFeまたはFeおよびCoであるものが好ましい。特に好ましいのは、23〜26重量%の希土類元素と、2〜5重量%以下のMnと、4.0〜5.0重量%のNと、残部が実質的にFeまたはFeおよびCoである磁石粉末である。
希土類元素としては、Smを希土類全体の60重量%以上、好ましくは90重量%以上にするのが、高い保磁力を得るために必要である。希土類元素が22重量%未満であると、磁石粉末に未拡散の鉄(−コバルト)−マンガン相が残留するので、磁化と保磁力と角形性が低下する。また、希土類元素が27重量%を超えると、ThZn17型のSm(Fe、Mn)17化合物結晶相よりも希土類リッチの窒化物相が形成され、磁石粉末の磁化と角形性が低下する。
Mnは、保磁力を発現させるための必須元素であるが、7重量%を超えると磁石粉末の磁化が低下する。より好ましいMn量は2〜5重量%である。
N量は、3.5重量%未満では、微粉砕して保磁力を発現するタイプの合金になってしまい、平均粒径が10μm以上では保磁力が320kA/m以下になってしまい、角形性が不十分となるので、3.5重量%以上でなければならない。ただし、6.0重量%を超えると、磁石粉末中のアモルファス相が増加するとともに、ThZn17型結晶構造を持つSm(Fe、Mn)17化合物結晶相主相をアモルファス相が取り囲む形をとった個々のセル構造において、ThZn17型結晶構造を持つSm(Fe、Mn)17化合物結晶相のc軸が揃わなくなってくるため、磁化が低下する。より好ましいN量は、4.0〜5.5重量%である。
残部はFeであるが、その一部をCoで置換することができる。Feの20重量%以下をCoで置換するとキュリー温度が上昇し、磁化や磁化の温度係数を改善できる。
本発明の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末は、平均粒径が10μm以上であり、特に粒径10〜70μmの粉末が全体の75%以上を占めるものがより好ましい。平均粒径が10μm未満となり、微粉末が多くなると磁石粉末の磁化と角形性が低下する。一方、粒径70μmを超える粗粉末が多くなると、その粗粉末の窒素分布が不均一になって磁石粉末の角形性が低下する。
また、この磁石粉末は、優れた保磁力を有し、少なくとも320kA/mであり、好ましくは500kA/m以上、より好ましくは700kA/m以上の性能を発揮する。本発明の磁石粉末が、このような優れた力を有するのは、ワイヤー状形態を有するアモルファス相が、単結晶内部にワイヤー状に存在しているので、「セル構造」よりも非磁性相が少ない分、より大きな磁化が得られ、また、アモルファス相は単結晶内部にワイヤー状に存在するため単結晶の構造を変化させることがないためと考えられる。
本発明の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の組織を透過型電子顕微鏡で観察した結果を図1に示す。試料は、FIB(Focused Ion Beam)―マイクロサンプリング法で20μm粒径の粉末を薄片化して作製した。観察は、FEI社製透過電子顕微鏡Technai G2 F30 S−Twinを用いて行った。図1は、HAADF−STEM像(高角環状暗視野像)を撮影した結果である。試料を±70度の傾角で1度毎に141枚撮影した。この像を用いることで回折コントラストの影響が除去できるという効果がある。実質的には、ThZn17型結晶構造を有する相とアモルファス相のみから構成されていることがわかる。 ThZn17型結晶構造を有する相は、希土類元素、Fe、MnおよびNを成分とする菱面体晶または六方晶の結晶構造を有する相からなる主相であって、該主相の内部にランダムに存在する、主相に比べてMnおよびNの濃度が高くかつ直径が20nm以下で長短のあるワイヤー状形態をしたアモルファス相とを含む構造形態を有することが分かる。
図2は、図1で代表される141枚のHAADF−STEM像を用いてFEI社のXplore3Dで構築した3次元トモグラフィーである。4枚の写真を示すが、上から順に試料を傾けて見たものである。図中に変化の様子が分かりやすい部分をa、b、c、d、eの文字で示した。アモルファス相は、白く帯状に見えるものであり、黒く見える結晶相の内部に木の根のように生成している部分に相当する。電子線の透過能が低いため厚み方向にゴーストが見られる。ただ、この図によれば、a、b、d付近のそれぞれ2本のアモルファス相は、試料の傾きに伴いその間隔を狭めているのに対して、c付近のものは、その間隔が逆に広がっており、e付近に見られるものは、1本に見えていたアモルファス相が2本に別れて見えている。これらのことから、結晶相の中にワイヤー状のアモルファス相がネットワークを形成していることが分かる。なお、横に長く引かれた白い点の筋は、指標となる金粒子がゴーストにより線状になって見える結果である。この部分は、従来技術で述べた「セル構造」に至る途中段階の状態であると考えられる。
前記したように、特許文献5には、菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する強磁性相の周りをN濃度の高い結晶格子の崩れた、或いは崩れかけた部分が取り囲んだ「セル構造」が記載されている。
これは、SmFe17の場合、Sm([Fe,Co],Mn)17あたり3個を越えるように窒素を導入すると、Nは格子間に侵入するため結晶格子が広がり、不安定な状態を経て、ついに、N濃度分布に濃淡が生じ、結晶格子が崩れた或いは崩れかけた部分が生じ、さらに、合金組成や窒素量、窒化条件や窒化後の焼鈍条件によっては、菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する強磁性相の周りをN濃度の高い結晶格子の崩れた、或いは崩れかけた部分が取り囲むようになるとされている。
そして、このようなセル構造とは別に、Sm−Fe−N系磁石粉末の結晶構造を制御し、主相の結晶中に構造が異なる相をピンニングサイトとして微細析出させ、あるいは2つ以上の相に分離させることも前記のとおり特許文献4で考えられていた。ここで微細析出されるM化合物には、R−M系、R−T−M系、M−T系があり、窒化中に析出する場合はそれらの窒化物を生成する場合もある。また、既に析出していたM化合物が窒化処理中に窒化されることもある。一方、M濃度の異なる2つ以上の相に分離する場合も、相によって窒素濃度が変化することがあるとされている。この技術は基本的に、微細析出物としてM化合物を生成するものであり、窒化中に析出する場合は窒化物が生成することもあるという技術で、極めてあいまいなものであった。
本発明においては、希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を構成するアモルファス相の形状、主相中における形態を高性能な電子顕微鏡などを用いて微細な部分まで観察し、3次元的に詳細に解析している。その結果、アモルファス相がワイヤー状形態で主相の内部にランダムに存在していると捉えることができた。そして、ThZn17型結晶構造を有する相は、希土類元素、Fe、MnおよびNを成分とする菱面体晶または六方晶の結晶構造を有する相からなる主相であって、該主相の内部にランダムに存在する、主相に比べてMnおよびNの濃度が高くかつ直径が20nm以下で長短のあるワイヤー状形態をしたアモルファス相とを含み、結晶相の中にワイヤー状のアモルファス相はネットワークを形成しており、従来技術で述べた「セル構造」に至る途中段階の状態であると考えられる。
本発明においてワイヤー状形態とは、前記のような木の根状を代表的な形態としている。樹木や草などの根には、主根の他に側根(ひげ根)を有するものがあるが、図2には、直径が比較的均一で比較的長い主根のみからなり、螺旋状に捩じれている状態が示されている。先に、アモルファス相を含む構造形態を、長短のあるワイヤー状形態と表現したが、本発明では、このような木の根状を包含するが、比較的長さが短いもの、互いに交差しないものも含まれる。交差するものであれば、一ヶ所だけでなく複数箇所で交差したものも含まれる。そして、途中から枝別れして、前後の方向にも根が伸びた状態にあるものも含まれる。
前記アモルファス相をなすワイヤー状形態の直径は、特に制限される訳ではないが、5nm以上であることが望ましい。より好ましいのは、5〜10nmである。直径が5nm未満では、保磁力が不足し、10nmを越えると、保磁力は得られても、非磁性相の割合を多くすることになり、磁化の低下の原因となるために好ましくない。直径は、この範囲内であれば、必ずしも均一である必要はなく、太いところと細いところがあっても構わない。
従来の「セル構造」では、結晶の周りを取り巻いているアモルファス相の厚さは、多少のばらつきはあるものの、全体的には隣り合う結晶を実質的に分離していなければならないと考えられていた。
ところが、アモルファス相が単結晶内部に生成して微細な主相を取り巻く「セル構造」を形成するためには、微細な主相の比表面積に相当する量のアモルファス相が必要となるため、非磁性相の割合が多くなり、磁化の減少を引き起こすことになる(図3参照)。また、「セル構造」を構築することで微細な主相間に格子上の繋がりがなくなり、微細な主相間の磁気的な結合を介して主相間の結晶方位が変動し、等方的になり磁化が減少するという問題がある。
本発明では、ワイヤー状形態を有するアモルファス相が、単結晶内部にワイヤー状に存在していれば、「セル構造」と同等以上の保磁力が得られるだけでなく、非磁性相が少ない分より大きな磁化が得られ、また、アモルファス相は単結晶内部にワイヤー状に存在するため単結晶の構造を変化させることがない(図4参照)。結晶の幅が広いところではワイヤー状形態を有するアモルファス相の長さが比較的長く、結晶の幅が狭いところでは比較的短くてもよい。従って、長さは特に限定されるわけではないが、5〜1000nmであることが好ましく、10〜500nmがより好ましい。長さが5nmより短いと、磁壁のピンニングに有効でないため所望の保磁力が得られない、また、1000nmより長くなると、十分な保磁力が得られるものの、非磁性相の割合を多くすることになり、磁化の低下の原因になることがある。
前記アモルファス相をなすワイヤー状形態のアスペクト比は、特に制限される訳ではないが、10以上であることが望ましい。さらに、アスペクト比は10〜1000であることが好ましい。アスペクト比は、ワイヤー状形態で存在するアモルファス相の直径と長さとの比であり、太くて長いもの、細くて短いものなど様々な形態をとりうるものである。しかし、アスペクト比が10より小さいと、磁壁のピニングに有効でないため所望の保磁力が得られない、また、1000を越えると、保磁力は得られるものの、非磁性相の割合を多くすることになり、磁化の低下の原因になるという問題がある。
ワイヤー状形態を有するアモルファス相が、主相である結晶に何本存在するか、すなわちその密度が重要である。本発明では、ワイヤー状形態を有するアモルファス相が、主相である結晶を突き抜けたものについて、ワイヤー相互の間隔で示すことになる。この間隔は、30nm以上であればよく、50〜800nm、特に100〜500nmが好ましい。間隔が30nm未満では、非磁性相の割合を多くすることになり、磁化の低下を招き、所望の磁気特性を得ることができない。
アモルファス相の存在割合は、このような観点から主相に対して0.05容量%以上であることが望ましい。特に好ましいのは、主相に対して0.05〜5容量%である。0.05容量%よりも少ないと、保磁力が不足し、5容量%を越えると、非磁性相の割合を多くすることになり、磁化の低下を招き、好ましくない。
なお、アモルファス相の存在割合は、本発明では次のようにして決定した。たとえば、直径が10nmで長さが10μm(10000nm)のワイヤー状アモルファス相を仮定する。一方、主相を10μm立方体と仮定し、これにワイヤーが400nm間隔で突き抜けたとする。このものを3面で考えると、主相中に25本×25本×3面で1875本のワイヤーが存在することとなる。ワイヤーの体積に1875本を掛け算すると、アモルファス相の体積は1.46μmになる。立方体の体積は1000μmであるから、これで割り算するとアモルファス相の存在割合は0.146容量%になる。
本発明の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末は、その母合金を熔融鋳造法で製造することも可能であるが、還元拡散法を利用することが好ましい。還元拡散法を利用する代表的な方法として、(1)磁石原料粉末と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種の還元剤粉末とを所定の割合で混合し、(2)得られた混合物を不活性ガス雰囲気中で900〜1200°Cに加熱して、磁石原料の酸化物粉末を金属に還元して合金化し、(3)引き続き、得られた反応生成物を不活性ガス雰囲気中で300°C以下に冷却し、必要により、水素を導入して、合金に水素を吸蔵させて崩壊させてから、(4)次に、雰囲気ガスを変え、少なくともアンモニアと水素とを含有する混合気流中で昇温して、350〜500°Cで窒化熱処理し、(5)得られた窒化熱処理物を水中に投入して湿式処理することにより希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を製造する方法を挙げることができる。
(1)磁石原料粉末の混合
本発明においては、希土類−鉄−マンガン系母合金粉末を製造するために、磁石原料粉末として希土類酸化物粉末、鉄粉末、マンガン粉末および/またはマンガン酸化物粉末を用いる。
本発明において、希土類源としては、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ジスプロシウム(Dy)、イットリウム(Y)等の希土類金属の酸化物が使用される。これら希土類酸化物は、希土類金属単体よりも極めて安価であるため、経済的に極めて有利である。勿論、希土類源の一部として、希土類金属単体の粉末あるいは該希土類金属を含む合金粉末を希土類酸化物と併用することは可能である。また使用する希土類源の希土類酸化物等の粉末は、平均粒径(フィッシャー・サブシーブ・サイザー法)が1〜50μmの範囲にあることが好適である。
希土類酸化物粉末としては、特に制限されないが、Sm、Gd、Tb、およびCeから選ばれる少なくとも1種の元素、あるいは、さらにPr、Nd、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbから選ばれる少なくとも1種の元素が含まれるものが好ましい。中でもSmが含まれるものは、本発明の効果を顕著に発揮させることが可能となるので特に好ましい。Smが含まれる場合、高い保磁力を得るためにはSmを希土類全体の60重量%以上、好ましくは90重量%以上にすることが高い保磁力を得るために好ましい。
遷移金属源としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の遷移金属の粉末が使用されるが、特に鉄粉が好適に使用される。これらの遷移金属粉末は、金属または合金粉末、あるいはこれらの混合物の形態で使用することができる。またこれら遷移金属源の一部は酸化物として使用することができる。特に、当該金属が、遷移金属源全体の使用量に比して少量であるときには、当該金属の全量を酸化物の形で使用することもできる。本発明において、遷移金属源として用いる粉末の粒度は特に制限されないが、製造される合金粉末の粒度及び合金組成の均一性からいって、粒度100メッシュ以下(タイラー基準)であることが望ましい。上述した希土類源と遷移金属源との配合比は、目的とする合金粉末の組成に応じて適宜設定される。
鉄粉末としては、例えば還元鉄粉、ガスアトマイズ粉、水アトマイズ粉、電解鉄粉などが使用でき、必要に応じて最適な粒度になるように分級する。
ここで鉄粉末の30重量%までを鉄酸化物粉末として投入し、還元拡散反応の発熱量を調整することもできる。また、マンガン量の全部または一部を鉄−マンガン合金粉末の形で投入することもできる。
さらに、Feの20重量%以下をCoで置換した組成の希土類−鉄−コバルト−マンガン−窒素系磁石粉末を製造する場合には、Co源としてコバルト粉末および/またはコバルト酸化物粉末および/または鉄−コバルト−マンガン合金粉末を用いる。
なお、マンガンとコバルト源としては、得られる希土類−鉄(−コバルト)−マンガン母合金粉末中のMn組成の、粒子間ばらつきを小さくするために、酸化物粉末を使用するのが好ましく、また取り扱い時の発火に対する安全性からも酸化物が好ましい。
マンガン酸化物としては、たとえば酸化マンガンや二酸化マンガン、これらの混合物で、上記粒度を持つものが使用できる。また、コバルト酸化物としては、たとえば酸化第一コバルトや四三酸化コバルト、これらの混合物で、上記粒度を持つものが使用できる。
ここで、各磁石原料粉末は、粒径が10〜70μmの粉末が全体の80%以上を占める鉄粉末、粒径が0.1〜10μmの粉末が全体の80%以上を占めるマンガン粉末および/またはマンガン酸化物粉末、希土類酸化物粉末、コバルト粉末および/またはコバルト酸化物粉末とすることが好ましい。
鉄粉末は、粒径10μm未満の粒子が多くなると、希土類−鉄(−コバルト)−マンガン母合金粉末粒子が多結晶体となり、得られた希土類−鉄(−コバルト)−マンガン−窒素系磁石粉末の磁化が低下しやすい。一方、粒径70μmを超えるものが多くなると、希土類−鉄(−コバルト)−マンガン母合金粉末中に希土類元素が拡散していない鉄部または鉄−マンガン部が多くなるとともに母合金粉末の粒径も大きくなり、窒素分布が不均一になって、得られた希土類−鉄(−コバルト)−マンガン−窒素系磁石粉末の角形性が低下しやすい。
これに対し、他の原料であるマンガン酸化物粉末、希土類酸化物粉末、コバルト酸化物粉末は、これらの中でもっとも多い希土類酸化物粉末でも組成が30重量%未満であることから、還元拡散反応時に、反応容器内部で上記鉄粉末の周りに均一に分布存在していることが望ましい。したがって、粒径が0.1〜10μmの粉末が全体の80%以上を占めるものであるとよい。粒径が0.1μm未満の粉末が多くなると、製造中に粉末が舞い上がり取り扱いにくくなる。また、10μmを超えるものが多くなると、還元拡散法で得られた希土類−鉄(−コバルト)−マンガン母合金粉末中のMn組成が粒子間でばらつきやすくなり、希土類元素が拡散していない鉄部または鉄(−コバルト)−マンガン部が多くなる。
ここで、鉄(−コバルト)−マンガン合金粉末については、粒径が10〜80μmの粉末が全体の80%以上を占めること、希土類酸化物粉末については、粒径が0.1〜10μmの粉末が全体の80%以上を占めるものが好ましい。粒径10μm未満のものが多くなると、希土類−鉄(−コバルト)−マンガン母合金粒子が多結晶体となり、得られた希土類−鉄(−コバルト)−マンガン−窒素系磁石粉末の磁化が低下する。一方、粒径80μmを超える粒子が多くなると、希土類−鉄(−コバルト)−マンガン母合金中に希土類元素が拡散していない鉄部または鉄(−コバルト)−マンガン部が多くなるとともに、母合金粉末の粒径も大きくなり窒素分布が不均一になって、得られた希土類−鉄(−コバルト)−マンガン−窒素系磁石粉末の角形性が低下しやすい。
(2)還元拡散
本発明においては、次に上記の磁石原料粉末を不活性ガス雰囲気中、所定の温度で熱処理し、還元拡散法でThZn17型結晶構造を有する希土類−鉄−マンガン系母合金粉末を製造する。
還元拡散法は、例えば特開昭61−295308号公報に記載されているように、希土類酸化物粉末と、他の金属の粉末と、Caなどの還元剤との混合物を、不活性ガス雰囲気中などで加熱した後、反応生成物を湿式処理して副生したCaOおよび残留Caなどの還元剤成分を除去することによって、直接合金粉末を得る方法である。
本発明では、鉄、マンガン、必要に応じてコバルトからなる磁石原料粉末と還元剤とを反応容器に投入し、加熱処理することによって、希土類酸化物と他の酸化物原料とを還元するとともに、還元された希土類元素等の金属元素を鉄粉末に拡散させてThZn17型結晶構造を有する希土類−鉄(−コバルト)−マンガン母合金粉末を生成させる。
ここで各原料粉末は、それぞれの粉体特性差によって分離しないように均一に混合することが重要である。混合方法としては、たとえばリボンブレンダー、タンブラー、S字ブレンダー、V字ブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー、ボールミル、振動ミル、アトライター、ジェットミルなどが使用できる。
本発明においては、上記の混合粉末に還元剤を配合する。この還元剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種が使用される。その代表的な例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びこれらの水素化物を例示することができるが、取扱の安全性及びコストの点から金属カルシウムが好適である。またこれらの還元剤は、粒状または粉末状の形で使用されるが、特にコストの点から粒度4メッシュ以下の粒状金属カルシウムが好適である。これらの還元剤は、反応当量(希土類酸化物を還元するのに必要な化学量論量であり、遷移金属を酸化物の形で使用した場合には、これを還元するに必要な分を含む)の1.1〜3.0倍量、好ましくは1.5〜2.0倍量の割合で使用される。
還元剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびこれらの水素化物などが使用でき、取り扱いの安全性とコストの点で、目開き4.00mm以下に篩い分級した粒状金属カルシウムが好ましい。還元剤は上記原料粉末と混合するか、カルシウム蒸気が原料粉末と接触しうるよう分離しておくが、混合して還元拡散させれば、反応生成物が多孔質となり、引き続き行われる窒化処理を効率的に行うことができる。
本発明においては、上記希土類源、遷移金属源及び還元剤とともに、必要に応じて崩壊促進剤を使用することができる。この崩壊促進剤は、後述する湿式処理に際して、生成物の崩壊、粒状化を促進させるために適宜使用されるものであり、例えば特開昭63−105909号公報に開示されている塩化カルシウム等のアルカリ土類金属塩、及び酸化カルシウム等がある。これらの崩壊促進剤は、希土類源として使用される希土類酸化物当り1〜30重量%、特に5〜30重量%の割合で使用され、磁石原料粉末などと同時に均一に混合する。
本発明においては、上述した原料粉末と還元剤、及び必要により使用される崩壊促進剤とを混合し、該混合物を窒素以外の不活性雰囲気、例えばアルゴンガス中で加熱を行うことにより還元を行う。
熱処理温度は、900〜1200°C、特に1050〜1150℃の範囲とすることが望ましい。900°C未満では鉄粉末に対して、マンガン、希土類元素、コバルトの拡散が不均一となり、また、微細な単結晶で構成される等方性の多結晶粒子になるため、得られる希土類−鉄(−コバルト)−マンガン−窒素系磁石粉末の磁化や角形性が低下する。一方、1200°Cを超えると、生成する希土類−鉄(−コバルト)−マンガン母合金粉末が粒成長を起こすとともに互いに焼結するため、均一に窒化することが困難になり磁石粉末の残留磁束密度と角形性が低下する。加熱処理時間は特に制約されないが、還元反応を均一に行うためには、通常、1〜10時間とすることがよい。
還元拡散反応で得られる生成物は、例えば、還元剤として金属カルシウムを用いた場合には、ThZn17型結晶構造を有する希土類−鉄(−コバルト)−マンガン母合金粉末と酸化カルシウム、未反応の余剰の金属カルシウムなどからなる塊状の混合物である。さらに粒状金属カルシウムを原料粉末に混合して還元拡散反応させた場合には、多孔質の塊状混合物となっている。
(3)反応生成物の冷却
本発明では、還元拡散反応後の反応生成物に対して、雰囲気ガスを不活性ガスとしたまま変えずに、引き続き300°C以下、好ましくは250°C以下に冷却する。
冷却後の温度、すなわち、少なくともアンモニアと水素とを含有する窒化ガス(混合気流)を導入する温度が300°Cを超えると、反応生成物との窒化反応が急激に進んでしまい、Feリッチ相を増加させることがあるので、300°C以下とするのが望ましい。これは、300°Cを超える温度では、活性な反応生成物が急激に窒化されるためにThZn17型結晶構造を有する金属間化合物がFeリッチ相とSmNとに分解されるためであると推測される。
冷却後に、多孔質の塊状混合物(反応生成物)を湿式処理しないで次の窒化工程に移る。このとき反応生成物が大気中に曝されると、反応生成物中の活性な希土類−鉄(−コバルト)−マンガン母合金粉末が酸化されて失活して、窒化の度合いをばらつかせるので、大気(酸素)に曝されることのないように窒化工程に持ち込むことが望ましい。
本発明では、窒化工程に持ち込む前に、必要により、上記反応生成物に対して水素処理を行うことができる。冷却は、少なくとも水素を含有する雰囲気の温度が500°C以下となるようにする。500℃を越えると、消費エネルギーが大きくなり、しかも、目的の希土類−鉄母合金が分解をしたり、副反応生成物が生じたりすることがあるからである。反応生成物に水素を吸蔵させることは室温でも十分行うことができる。反応生成物が水素を吸蔵すると自己発熱を起し材料温度が上昇するため、500℃を越えないように留意する。
水素処理では、還元拡散処理を行った後、冷却した反応生成物を炉内に入れたまま、還元拡散処理で用いた不活性ガスを水素雰囲気ガスに置換し、この水素を含む雰囲気ガスで加圧するか、あるいは流しながら一定時間吸蔵処理することにより行う。このとき次工程の窒化処理に悪影響を与えない範囲で加熱してもかまわない。
水素ガスの置換は、炉内にある不活性ガスを脱気して、真空に引いてから水素ガスを導入した方が短時間で水素ガスに完全に置換ができるので好ましい。このときの真空度は、大気圧に対して−30kPa以下が好ましく、−100kPa以下がさらに好ましい。アルゴンガスは、水素ガスよりも比重が大きいため反応生成物の底部まで完全に水素ガスで置換しきれないと、水素処理が効果的に行えず水素処理後も大きな塊のまま存在することがあるから、注意を要する。次に、水素を含む雰囲気ガスで置換後、水素の吸蔵を促進するために炉内の圧力を大気圧に対して+5kPa以上に加圧しておくことが好ましい。加圧は大気圧に対して+10〜50kPaがより好ましい。加圧した状態で放置し、反応生成物が水素を吸蔵していくと、初期加圧圧力から徐々に低下していくことで水素吸蔵が進行していくことが確認できる。
反応生成物では、主相であるSmFe17相の周りにSmリッチ相で覆われている状態が通常である。上記水素処理を行うことにより、水素がSmリッチ相等の結晶格子内に入ることで、Smリッチ相は主相よりも膨張率が大きいために、Smリッチ相と主相の粒界から割れて崩壊する。また、強固に凝集している反応生成物の周りにある未反応還元剤や酸化カルシウム等が水素と反応して、凝集がほぐれて崩壊していく。
取り出した崩壊物の粒径が10mm以下、好ましくは1mm以下になるように反応温度と時間を設定することが好ましい。崩壊物の粒径が10mmを越える状態では、窒化処理工程で均一な窒化が困難になり磁気特性の角形が低下してしまい、水素処理の効果がない。
特開平9−241708号公報や特開平11−124605号公報には、従来の還元拡散法で処理する場合、反応生成物を冷却後に反応容器から取り出し、大気中に晒すことによって自然崩壊していくことが示されている
ところが、本発明に係る水素処理を行い水素吸蔵させた反応生成物は、該水素処理後、容器から取り出した時点で既に崩壊しており、引き続き行われる窒化工程での崩壊性も向上している。そのため生成した主相であるSmFe17相磁性粉末の凝集が小さく崩壊して、該磁性粉末の表面が活性となっており、その後の窒化処理において該磁性粉末合金内の窒素の分布が均一になり、結果として、微粉砕して得られる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の減磁曲線の角形性が良好なものとなる。また、このように水素処理で崩壊した後窒化処理して得られる希土類−鉄−窒素系粗磁石粉末は、窒素の分布が均一となるので、磁気特性を低下させる希土類−鉄−窒素系磁石粉末が少なくなるので収率が高くなる。
水素処理後、崩壊物の温度が300°Cを越えていると、窒化の際に反応生成物との窒化反応が急激に進んでしまい、α−Fe相を増加させてしまうことがあるので、300°Cよりも低い温度まで冷却するのが望ましい。これは、300°Cを越える温度では、反応生成物が活性であるために合金が急激に窒化されて、ThZn17型結晶構造を有する金属間化合物がFeリッチ相とSmNとに分解するものと推測されるからである。ただし、20℃よりも低い温度に冷却しても磁気特性の改善は期待できない。
(4)窒化処理
このように、本発明においては、不活性雰囲気中での加熱(900〜1200℃)により、希土類−遷移金属系合金が多孔質塊状で得られる。したがって、水素を吸蔵して崩壊させて、機械的な粉砕工程を経ることなく、直ちに窒素雰囲気で熱処理(300〜600℃)を行うことにより、上記合金中に窒素を均一に導入して窒化を行い、引き続いて湿式処理を行うことにより、希土類−遷移金属−窒素系合金の粉末を得るようにする。
この熱処理は、上記還元のための加熱温度領域から降温させて、300〜600℃、特に400〜550℃の温度とし、この温度範囲で雰囲気を窒素雰囲気に置換することにより行われる。例えば、この熱処理温度が300℃未満であると、前記工程で得られた反応生成物である希土類−遷移金属系合金中への窒素の拡散が不十分となり、窒化を均一且つ有効に行うことが困難となる。さらに熱処理温度が600℃を超えると、希土類−遷移金属系合金が希土類−窒素系化合物と、α−Fe等の遷移金属とに分解するため、得られる合金粉末の磁気特性が著しく低下するという不都合を生じる。上記熱処理時間は、窒化が十分に均一に行われる程度に設定されるが、一般にこの時間は、4〜12時間程度である。
窒化工程では、雰囲気ガスを不活性ガスから、少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスに変えてから昇温して、反応生成物を特定温度に加熱する。窒化ガスとしては、少なくともアンモニアと水素とを含有していることが必要であり、反応をコントロールするためにアルゴン、窒素、ヘリウムなどを混合することができる。
全気流圧力に対するアンモニアの比(アンモニア分圧)は、0.4〜1.0、好ましくは0.5〜0.8となるようにする。本発明では、アンモニア分圧が0.4未満であると、長時間かけても母合金粉末の窒化が進まず、窒素量を3.5重量%以上とすることができず、アモルファス相が十分形成されないため、磁石粉末の磁化と保磁力が低下する。
アンモニアと水素とを含有する混合気流を350〜500°C、好ましくは400〜480°Cに昇温して、母合金粉末を窒化熱処理する。温度が350°C未満であると、反応生成物中の希土類−鉄(−コバルト)−マンガン母合金粉末に3.5重量%以上の窒素を導入するのに長時間を要するので工業的優位性がなくなる。一方、500°Cを超えると磁石粉末の減磁曲線の角形性が低下するので好ましくない。
窒化熱処理の保持時間は、窒化温度にもよるが、200〜600分、好ましくは、300〜550分とする。200分未満では、窒化が不十分になり、一方、600分を超えると窒化が進みすぎるので好ましくない。
従来技術によれば、アンモニア分圧を0.1〜0.7の範囲に制御すれば、窒化効率が高い上に本発明の窒素量範囲全域の磁性材料を作製することができるとされ、加熱温度は、母合金組成、窒化雰囲気によって異なるが、200〜650°Cの範囲で選ばれるのが望ましいとされている。
ところが、このような条件の中には、良好な飽和磁化と保磁力が得られても、減磁曲線の角形性が悪くなる部分があり、また一定の条件で磁石粉末を製造しても高い磁気特性を再現性よく得ることができない。それは、主相中に好ましい形態でアモルファス相が存在していないためと判断される。
このような主相中に好ましい形態でアモルファス相を存在させるようにするため、本発明では、還元拡散反応後の反応生成物を、不活性ガス雰囲気中で特定温度以下に冷却してから、雰囲気ガスをアンモニアと水素を含む窒化ガスに切り替えて昇温して、アンモニア分圧と加熱温度を特定して窒化するのである。
ところで、希土類−鉄(−コバルト)−窒素系磁石粉末の製造では、還元拡散の反応生成物に対して窒化処理する場合、特開平05−148517号公報では、還元拡散の反応生成混合物を窒素雰囲気中において、300〜600°Cの温度に保持し、特開平05−279714号公報では、窒素あるいはアンモニア雰囲気中で窒化処理し、得られた熱処理物を湿式処理している。しかし、このような窒素又はアンモニア雰囲気中の熱処理では、本発明の希土類−鉄(−コバルト)−マンガン−窒素系磁石粉末を得ることはできない。
また、Mnを含まない合金を対象とした特開平06−212342号公報の実施例では、還元拡散反応後に250°Cまで冷却し、水素ガスに切り替えて熱処理し、さらに窒素ガスに切り替えて500°Cまで昇温してから窒化している。しかしながら、本発明の必須元素であるMnを含まないために、磁気特性が十分ではない上に、N量が3.3±0.1重量%と本発明のN量の下限値(3.5重量%)より小さくなっている。なお、常圧の窒素ガスで窒化した場合には、SmFe17において、xが高々3.3重量%の試料しか得られない。
本発明においては、窒化熱処理に引き続いて、さらに水素ガスおよび/または窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス中で合金粉末を熱処理することが望ましい。特に好ましいのは、水素ガスおよび/または窒素ガスおよび/またはアルゴンガスである。これにより、磁石粉末を構成する個々のセル内の窒素分布をさらに均一化することができ、角形性を向上させることができる。熱処理の保持時間は、30〜200分、好ましくは60〜150分である。
(5)湿式処理
最後に、本発明では、窒化処理後の反応生成物に含まれている還元剤成分の副生成物(酸化カルシウムや窒化カルシウムなど)を、湿式処理して希土類−鉄(−コバルト)−マンガン−窒素系磁石粉末から分離除去する。
窒化終了後の磁石粉末に湿式処理を行うのは、前述したとおり、窒化する前に、反応生成物を湿式処理すると、この湿式処理過程で母合金表面が酸化されて窒化の度合いをばらつかせるからである。
窒化後に反応生成物を長期間大気中に放置すると、炭酸カルシウムなどの還元剤成分の炭酸化物が生成し除去しにくくなり、磁石粉末の磁化の低下が起こったり、配向不良によって角形性が低下したりする。したがって、大気中に放置された反応生成物は、反応器から取り出してから2週間以内に湿式処理するのがよい。
本発明によれば、上記で得られた希土類−遷移金属−窒素合金の混合物を水中に投入し攪拌する等の方法で水と接触させればよい。即ち、塊状混合物を水と接触させると、これに含まれている未反応還元剤及び副生した還元剤の酸化物等が水と反応し、例えばCa(OH)等の水酸化物を生成して溶解する。従って、塊状混合物は容易に崩壊する。本発明において、この崩壊は、通常、20〜30時間程度であるが、例えば崩壊促進剤として酸化カルシウムを使用した場合には、1〜2時間程度に短縮することができる。
湿式処理は、まず崩壊した生成物を水中に投入し、デカンテーション−注水−デカンテーションを繰り返し行い、生成したCa(OH)の多くを除去する。さらに必要に応じて、残留するCa(OH)を除去するために、酢酸および/または塩酸を用いて酸洗浄する。pH3〜6、好ましくはpH4〜5の範囲で酸洗浄することによって完全に除去される。
上記処理終了後には、例えば水洗し、アルコールあるいはアセトン等の有機溶媒で脱水し、不活性ガス雰囲気中または真空中で乾燥することで希土類−鉄(−コバルト)−マンガン−窒素系磁石粉末を得ることができる。
上記の還元拡散法によれば、主相の中にワイヤー状のアモルファス相がランダムに存在する本発明の磁性粉末が得られるわけであるが、それがいかなる理由によるものかは完全には解明されていない。本発明においては、上記還元拡散工程で希土類−遷移金属系合金が多孔質塊状で得られるため、粉砕を行うことなく直ちに窒素雰囲気中で熱処理を行うことができ、合金の主相に窒素がスムーズに入りこむことができ、これにより窒化が均一に行われた希土類−遷移金属−窒素合金が得られるものと考えられる。
これに対して、前記特許文献6などで採用されている溶解法は、希土類原料として希土類金属が用いられ、これは還元拡散法で用いられる希土類酸化物原料に比べて高価である。また、アモルファス相が単結晶内部に生成して、微細な主相を取り巻く「セル構造」を形成するためには、微細な主相の比表面積に相当する量のアモルファス相が必要となるため、非磁性相の割合が多くなり、磁化の減少を引き起こすことになる。また、「セル構造」を構築することで微細な主相間に格子上の繋がりがなくなり、微細な主相間の磁気的な結合を介して主相間の結晶方位が変動し、等方的になり磁化が減少するという問題がある。また、アモルファス相がワイヤー状に形成されて主相内部に存在するという本発明に比べて磁化の減少が大きい。また、上記粒度調整で発生する不要な粉末は、製品収率を低下させ、粉末コストをさらに引き上げてしまう。また溶解法では、得られた合金中のα−Fe相などをなくすための均質化熱処理工程が必要になり、さらに窒素を導入する前に均質化熱処理した合金を粗粉砕する工程と、粗粉砕粉末を粒度調整する工程が必要になるので好ましくない。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
得られた磁石粉末の微細組織は、粉末の透過電子顕微鏡によるHAADF−STEM像を用いて3次元トモグラフィーを作成し観察した。HAADF−STEM像は、FEI社製の透過電子顕微鏡Tecnai G2 F30 S−Twinを用いて、試料を±70°の傾角で1°毎に141枚撮影した。この像を用いることで回折コントラストの影響が除去でき、3次元トモグラフィーが得られる。
また、得られた磁石粉末の磁気特性は、最大印加磁界1200kA/mの振動試料型磁力計(東英工業株式会社製、VSM−3)で測定した。測定では、日本ボンド磁石工業協会ボンド磁石試験法ガイドブックBMG−2005に準じて、1600kA/mの配向磁界をかけて試料を作製し、4000kA/mの磁界で着磁してから評価した。
(実施例1)
純度99.5重量%、粒度325メッシュ(タイラ−標準、以下同じ)以下の電解鉄粉(Hoganas製)1.2kgと、純度99.4重量%、平均粒度325メッシュの酸化サマリウム粉末((株)トーメン製)0.50kgと、純度99.5重量%、平均粒度325メッシュの二酸化マンガン(東ソー社製)0.1kgと、純度99.3重量%の粒状金属カルシウム(ミンテックジャパン(株)製)0.32kgとを、Vブレンダーで混合した。
これをステンレス製容器に入れ、アルゴンガス雰囲気下、1150℃で4時間加熱処理した。温度を100℃まで降下させた後に、反応容器内を水素ガスで置換して、多孔質塊状の希土類−遷移金属系合金を含む反応生成物に水素を吸収させて崩壊させ、その後、水素とアンモニアの混合ガス雰囲気下で、430℃で470分の窒化処理を行った。
反応生成物を冷却して、水中に投じて崩壊させ、水素イオン濃度が8以下になるまで攪拌−デカンテーションを繰り返し、最終的に真空中40℃で10時間乾燥することで水分を除去して、約1.6kgの合金粉を得た。この合金粉の組成は、Smが23.8重量%、Feが68.2重量%、Mnが3.59重量%、Nが4.5重量%、Oが0.13重量%であった。
この合金粉の磁気測定を行ったところ、残留磁束密度1.02T、保磁力755kA/m、最大エネルギー積160kJ/mとなった。
粉末の透過電子顕微鏡によるHAADF−STEM像を図1に示す。これを用いて作成した3次元トモグラフィーを図2に示す。この3次元トモグラフィー画像中、白く帯状に見えるものはアモルファス相であり、それが黒く見える結晶相の内部に木の根のように生成していることが分かる。
(比較例1)
合金組成としてSmが24.7重量%、Feが72.5重量%、Cuが2.8重量%(原子%で、Sm11.0 Fe87.0 Cu3.0)の組成となるように高周波誘導炉を用いて溶解、鋳造し合金インゴットを得た。
該インゴットをAr雰囲気中で1100℃、24時間の溶体化処理、続いて800℃で1時間の時効処理を行った。ここで溶体化熱処理後は室温までガス急冷し、時効熱処理後は炉冷とした。
XRDにより溶体化後はSmFe17相単相であることを確認した。また時効後の試料をTEM観察したところ、SmFe17相内に数十nm程度の非常に微細な粒状のCu化合物の析出相が存在しているのが認められた。
この合金をジョークラッシャーにより粉砕し、次いで窒素雰囲気中ローターミルでさらに粉砕した後、ふるいで粒度を調整して、平均粒径約50μmの粉体を得た。このSm−Fe−Mn合金粉体を横型管状炉に仕込み、465℃ において、アンモニア分圧0. 35atm、水素ガス0.65atmの混合気流中で4時間加熱処理し、続いてアルゴン気流中で1時間焼鈍したのち、平均粒径約30μmに調整した。窒化後の試料をTEM観察したところ、結晶相内に数十nm程度の非常に微細な粒状のCu化合物の析出相が同様に存在しているのが認められた。
この合金粉の磁気測定を行ったところ、残留磁束密度1.00T、保磁力415kA/m、最大エネルギー積100kJ/mとなった。
(比較例2)
純度99.9%のSm、純度99.9%のFe及び純度99.9%のMnを用いてアルゴンガス雰囲気下、高周波溶解炉で溶解混合し、さらにアルゴン雰囲気中、1150℃で20時間焼鈍し徐冷することにより、Sm11.2Fe84.2Mn4.6組成の合金を調製した。この合金をジョークラッシャーにより粉砕し、次いで窒素雰囲気中ローターミルでさらに粉砕した後、ふるいで粒度を調整して、平均粒径約50μmの粉体を得た。このSm−Fe−Mn合金粉体を横型管状炉に仕込み、465℃ において、アンモニア分圧0. 35atm、水素ガス0.65atmの混合気流中で4時間加熱処理し、続いてアルゴン気流中で1時間焼鈍したのち、平均粒径約30μmに調整した。
得られたSm−Fe−Mn−N合金粉体をTEM観察したところ、主相の周りをアモルファス相が取り巻きセル構造を形成していることが観察された。この合金粉の磁気測定を行ったところ、残留磁束密度0.80T、保磁力528kA/m、最大エネルギー積88.8kJ/mとなった。
「評価」
実施例1により、得られた磁石合金粉は、アモルファス相が主相の結晶中にワイヤー状の形態で存在しているため、優れた磁気特性を有することが分かる。
これに対して、比較例1は、主相中に微細な析出相の存在が認められたが、粒状でワイヤー状の形態ではないため、所望の磁気特性が得られていない。また、比較例2は、主相の周りをアモルファス相が取り巻き、セル構造を形成しており、アモルファス相がワイヤー状の形態ではなく、主相の周りをアモルファス相が取り巻いてセル構造を形成していることから所望の磁気特性が得られておらず、特に、セル構造を形成していることから非磁性相の割合が多くなり磁化が低下しているものと考えられる。
本発明の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末は、従来の磁石粉末と異なり、ワイヤー状のアモルファス相が主相中に特定の形態で存在しており、しかも十分な窒素を含んでいるため、従来の粉末に比べて高い保磁力と角形性を有する。そのため、良好な耐熱性が要求されるボンド磁石用の粉末として利用でき、その工業的価値は極めて大きい。
本発明のSm−Fe−Mn−N磁石粉末を透過電子顕微鏡で撮影したHAAD−STEM像である。 図1のHAAD−STEM像を用いて作成した本発明のSm−Fe−Mn−N磁石粉末の3次元トモグラフィーである。 従来の磁石粉末において、アモルファス相が単結晶粒子を取り巻いた「セル構造」の概念を示した説明図である。 本発明の磁石粉末において、主相中にワイヤー状形態を有するアモルファス相が存在する状態を示した説明図である。

Claims (6)

  1. 希土類元素、Fe、MnおよびNから実質的に構成され、かつその中のNの含有量が全体に対して3.5重量%以上である、平均粒径が10μm以上で、保磁力が320kA/m以上である希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末であって、
    希土類元素、Fe、MnおよびNを成分とする菱面体晶または六方晶の結晶構造を有する相からなる主相と、該主相の内部にランダムに存在する、主相に比べてMnおよびNの濃度が高くかつ直径が20nm以下で長短のあるワイヤー状形態をしたアモルファス相とを含む構造形態を有することを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末。
  2. 前記アモルファス相の存在割合は、主相に対して0.05〜5容量%であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末。
  3. 前記アモルファス相をなすワイヤー状形態のアスペクト比は、10〜1000であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末。
  4. 前記アモルファス相をなすワイヤー状形態の直径は、5〜10nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末。
  5. 各成分元素の存在量は、希土類元素が22〜27重量%、Mnが7重量%以下、Nが3.5〜6.0重量%、及び残部がFeであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末
  6. 前記Nの含有量は、4.0〜5.5重量%であることを特徴とする請求項5に記載の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末。
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