JP2014122392A - 希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】希土類金属を用いたボンド磁石用原料粉末作製時の湿式処理工程を改良し、酸洗浄後の磁石合金主相の溶出を抑制し、磁石粉末の磁気特性を向上しうる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法を提供。
【解決手段】希土類酸化物粉末と、鉄粉末と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種の還元剤粉末とを所定の割合で混合する工程、この混合物を不活性ガス雰囲気中で加熱し還元拡散する工程、引き続き、得られた反応生成物を不活性ガス雰囲気中で冷却する工程、その後、反応生成物を昇温し、窒化処理する工程、次に、得られた窒化処理生成物を水中に投入して崩壊させた後、得られたスラリーを酸洗浄と水洗浄で湿式処理する工程を有し、前記湿式処理工程において、酸洗浄終了から1.5時間以内にスラリーのpHが9以上となる条件で水洗浄することを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末。
【選択図】なし
【解決手段】希土類酸化物粉末と、鉄粉末と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種の還元剤粉末とを所定の割合で混合する工程、この混合物を不活性ガス雰囲気中で加熱し還元拡散する工程、引き続き、得られた反応生成物を不活性ガス雰囲気中で冷却する工程、その後、反応生成物を昇温し、窒化処理する工程、次に、得られた窒化処理生成物を水中に投入して崩壊させた後、得られたスラリーを酸洗浄と水洗浄で湿式処理する工程を有し、前記湿式処理工程において、酸洗浄終了から1.5時間以内にスラリーのpHが9以上となる条件で水洗浄することを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末。
【選択図】なし
Description
本発明は、希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法に関し、さらに詳しくは、希土類金属を用いたボンド磁石用原料粉末作製時の湿式処理工程を改良し、酸洗浄後の磁石合金主相の溶出を抑制し、磁石粉末の磁気特性を向上しうる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法に関する。
希土類−鉄系永久磁石は、希土類−鉄合金に窒素を付与させることにより優れた磁気特性を生ずることが知られており、希土類元素としてNdを用いた希土類−鉄−ホウ素系磁石やSmを用いたSm2Fe17N3などの希土類−鉄−窒素系磁石が、モーターをはじめとする各種工業製品に使用されている。
例えば、Sm2Fe17N3では、原料の希土類−鉄母合金粉末が溶解鋳造法、液体急冷法、還元拡散法等により製造される。溶解鋳造法では、希土類金属、鉄、必要に応じてその他の金属を所定の比率で調合して不活性ガス雰囲気中で高周波溶解し、得られた合金インゴットを均一化熱処理した後、ジョークラッシャー等の粉砕装置で所定の粒度に粉砕して製造され、液体急冷法では、上記合金インゴットを用い液体急冷法で合金薄帯を作製し、得られた合金薄帯を粉砕して製造されている。
例えば、Sm2Fe17N3では、原料の希土類−鉄母合金粉末が溶解鋳造法、液体急冷法、還元拡散法等により製造される。溶解鋳造法では、希土類金属、鉄、必要に応じてその他の金属を所定の比率で調合して不活性ガス雰囲気中で高周波溶解し、得られた合金インゴットを均一化熱処理した後、ジョークラッシャー等の粉砕装置で所定の粒度に粉砕して製造され、液体急冷法では、上記合金インゴットを用い液体急冷法で合金薄帯を作製し、得られた合金薄帯を粉砕して製造されている。
これに対して、還元拡散法は、原料であるFe粉末、Sm2O3粉末と、還元剤であるCaを混合した後、不活性ガス雰囲気で加熱処理することにより、Sm2Fe17なる組成の希土類−鉄系合金粉末を得て、次いで得られた希土類−鉄系合金粉末をNH3やN2雰囲気にて窒化することにより、Sm2Fe17N3なる組成の希土類−鉄−窒素系磁石粉末を得る方法である。
このような還元拡散法は、FeとSm金属を用いて高周波炉、アーク炉などにより希土類−鉄合金を作製する溶解鋳造法と比べて、工程が煩雑ではなく原料に高価な希土類金属を用いないため、比較的低コストな製造方法であるとされている。
このような還元拡散法は、FeとSm金属を用いて高周波炉、アーク炉などにより希土類−鉄合金を作製する溶解鋳造法と比べて、工程が煩雑ではなく原料に高価な希土類金属を用いないため、比較的低コストな製造方法であるとされている。
しかし、還元拡散法では、所望の主相であるSm2Fe17合金の他に、CaOなどの還元剤成分の副生成物や、微量のSmFe3などの異相ができてしまう。これら副生成物や異相は、最終製品である磁石の磁気特性を低下させてしまうため、特許文献1に示されているように、窒化後の希土類−鉄−窒素系磁石粉末を湿式処理し、副生成物や異相を分離除去している。
上記湿式処理は、まず磁石粉末を水中に投入しスラリー状に変化させるが、このとき、スラリー中のCaOは水と反応しCa(OH)2に変化する。そしてスラリー中の磁性粉末とCa(OH)2の比重差を利用し、同スラリーを攪拌し上澄みを除去するデカンテーションを繰り返すことにより、Ca(OH)2を除去する。しかし、異相のSmFe3などは主相の磁石粉末表面に生成していることが多く、異相は前記デカンテーションでは除去できないので、加えて酸洗浄を行う必要がある。具体的には前記のスラリーに塩酸や酢酸などの酸を投入、攪拌することで酸洗浄を行い、異相の除去を行う。
特許文献1では、合金粉末を窒化後にイオン交換水に投入し、水中での撹拌、静置、上澄み液の除去を5回繰り返し、最後に2wt%酢酸水溶液中で洗浄しており、これによりCa成分の分離が完了するとしている。
特許文献1では、合金粉末を窒化後にイオン交換水に投入し、水中での撹拌、静置、上澄み液の除去を5回繰り返し、最後に2wt%酢酸水溶液中で洗浄しており、これによりCa成分の分離が完了するとしている。
ところで、これらの希土類−鉄−窒素磁性材料の多くは、保磁力発生機構がニュークリエーションタイプであるため、平均粒径1〜10μmの微細な粉末としなければならない。その理由は、平均粒径が10μmを超えると、必要な保磁力が得られなかったり、ボンド磁石にしたとき該ボンド磁石の表面が粗くなって表面にある磁石粉末の脱落が起こりやすくなってしまうためである。
そのため、還元拡散法により、数μmあるいは数10μmを超える平均粒径を有する希土類−鉄母合金粉末を製造した後、窒素原子を導入するため、窒素やアンモニア、又はこれらと水素との混合ガス雰囲気中で200〜700℃に加熱する窒化処理を行い、次いで、湿式処理し上記所定の粒度に微粉化して製造されている(例えば、特許文献2参照)。なお、窒化終了後の磁石粉末に対して湿式処理を行うのは、窒化する前にこれら副生成物や異相を湿式処理で除去しようとすると、この湿式処理過程で希土類−鉄系合金表面が酸化されて窒化の度合いをばらつかせるからである。
そのため、還元拡散法により、数μmあるいは数10μmを超える平均粒径を有する希土類−鉄母合金粉末を製造した後、窒素原子を導入するため、窒素やアンモニア、又はこれらと水素との混合ガス雰囲気中で200〜700℃に加熱する窒化処理を行い、次いで、湿式処理し上記所定の粒度に微粉化して製造されている(例えば、特許文献2参照)。なお、窒化終了後の磁石粉末に対して湿式処理を行うのは、窒化する前にこれら副生成物や異相を湿式処理で除去しようとすると、この湿式処理過程で希土類−鉄系合金表面が酸化されて窒化の度合いをばらつかせるからである。
しかし、従来の方法では、湿式処理の際、酸が磁石合金の異相のほか主相も徐々に溶かしてしまい、結果として主相の組成や主にその表面性状に悪影響を及ぼし磁気特性を低下させてしまうことがあった。このために、特許文献2では、上記酸洗浄処理の終了後には、水洗し、アルコールあるいはアセトン等の有機溶媒で脱水し、不活性ガス雰囲気中または真空中で乾燥することで希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末を得るようにしている。
ただ、スラリーのpH変化は緩慢であるため、酸洗浄や水洗が終わった後でもスラリーのpHが酸性域のままだと、徐々に主相であるSm2Fe17N3を溶解してしまい、磁気特性が向上しない。
したがって、酸洗浄後の水洗効率を向上させ、磁気特性を改善できる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が必要とされていた。
ただ、スラリーのpH変化は緩慢であるため、酸洗浄や水洗が終わった後でもスラリーのpHが酸性域のままだと、徐々に主相であるSm2Fe17N3を溶解してしまい、磁気特性が向上しない。
したがって、酸洗浄後の水洗効率を向上させ、磁気特性を改善できる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が必要とされていた。
本発明の目的は、従来技術の問題点に鑑み、希土類磁性粉末を製造する湿式処理工程において、異相や還元剤成分の副生成物を除去しつつ良好な磁気特性を持つ磁性粉末を効率的に得ることができる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法を提供することにある。
本発明者は、かかる従来の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、還元拡散法により得られた希土類−鉄母合金粉末を窒化して希土類−鉄−窒素磁石粉末を製造した後、湿式処理中のスラリーのpH変化を詳細に観測し、スラリーのpH変化と磁石粉末の磁気特性との関係を精査したところ、酸洗浄以降はスラリー中にアルカリ性のガスを吹き込むなどして速やかにアルカリ域にすると主相への負荷が小さく、良好な磁気特性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第1の発明によれば、希土類酸化物粉末と、鉄粉末と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種の還元剤粉末とを所定の割合で混合する工程、この混合物を不活性ガス雰囲気中で加熱し還元拡散する工程、引き続き、得られた反応生成物を不活性ガス雰囲気中で冷却する工程、その後、不活性ガスを排出してから、アンモニアと水素とを含有する混合ガスを供給し、この気流中で反応生成物を昇温し、窒化処理する工程、次に、得られた窒化処理生成物を水中に投入して崩壊させた後、得られたスラリーを酸洗浄と水洗浄で湿式処理する工程を有し、
前記湿式処理工程において、酸洗浄終了から1.5時間以内にスラリーのpHが9以上となる条件で水洗浄することを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
前記湿式処理工程において、酸洗浄終了から1.5時間以内にスラリーのpHが9以上となる条件で水洗浄することを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、湿式処理工程における酸洗浄後の水洗の際に、アルカリ性物質を添加することを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、湿式処理工程における酸洗浄後の水洗の際に、アンモニアを添加することを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、水洗の際のアンモニアガス供給量が、5〜10L/分であることを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、湿式処理工程における酸洗浄後の水洗の際に、アンモニアを添加することを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、水洗の際のアンモニアガス供給量が、5〜10L/分であることを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
本発明によれば、希土類−鉄合金の原料混合物に対して還元拡散処理を行い、これにより得られた希土類−鉄合金粉末を窒化後、湿式処理を行う際に、酸洗浄後のスラリーのpHを速やかにアルカリ域にするので、異相以外の主相の溶解が抑制されるため、容易に良好な磁気特性をもつ磁性粉末を生産性よく製造することができる。
以下、本発明の希土類−鉄−窒素磁石粉末の製造方法について、詳しく説明する。
本発明は、希土類酸化物粉末と、鉄粉末と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種の還元剤粉末とを所定の割合で混合する工程、この混合物を不活性ガス雰囲気中、加熱し還元拡散する工程、引き続き、得られた反応生成物(希土類−鉄母合金を含有)を不活性ガス雰囲気中で冷却する工程、その後、不活性ガスを排出してから、アンモニアと水素とを含有する混合ガスを供給し、この気流中で反応生成物を昇温し、窒化処理する工程、次に、得られた窒化処理生成物を水中に投入して崩壊させ、酸洗浄と水洗を行い湿式処理する工程を含んでいる。
本発明は、希土類酸化物粉末と、鉄粉末と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種の還元剤粉末とを所定の割合で混合する工程、この混合物を不活性ガス雰囲気中、加熱し還元拡散する工程、引き続き、得られた反応生成物(希土類−鉄母合金を含有)を不活性ガス雰囲気中で冷却する工程、その後、不活性ガスを排出してから、アンモニアと水素とを含有する混合ガスを供給し、この気流中で反応生成物を昇温し、窒化処理する工程、次に、得られた窒化処理生成物を水中に投入して崩壊させ、酸洗浄と水洗を行い湿式処理する工程を含んでいる。
1.希土類−鉄母合金の製造方法
(1)原料粉末の混合
本発明において、希土類−鉄母合金を製造するには、まず、磁石原料粉末として希土類酸化物粉末、鉄粉末を用い、これを混合する。
(1)原料粉末の混合
本発明において、希土類−鉄母合金を製造するには、まず、磁石原料粉末として希土類酸化物粉末、鉄粉末を用い、これを混合する。
希土類酸化物粉末としては、特に制限されないが、Sm、Gd、Tb、およびCeから選ばれる少なくとも1種の元素、あるいは、さらにPr、Nd、Dy、Ho、Er、Tm、またはYbから選ばれる少なくとも1種の元素が含まれるものが好ましい。中でもSmが含まれるものは、本発明により得られる磁石粉末の性能を顕著に向上させることが可能となるので特に好ましい。Smが含まれる場合、高い保磁力を得るためにはSmを希土類全体の60質量%以上、好ましくは90質量%以上にすることが高い保磁力を得るために好ましい。
鉄粉末としては、例えば還元鉄粉、ガスアトマイズ粉、水アトマイズ粉、電解鉄粉などが使用でき、必要に応じて最適な粒度になるように分級する。ここで鉄粉末の30質量%までを鉄酸化物粉末として投入し、還元拡散反応の発熱量を調整することもできる。また、Feの20質量%以下をCoで置換した組成の希土類−鉄−コバルト−窒素系磁石粉末を製造する場合には、Co源としてコバルト粉末および/またはコバルト酸化物粉末および/または鉄−コバルト合金粉末を用いる。コバルト酸化物としては、たとえば酸化第一コバルトや四三酸化コバルト、これらの混合物で、上記粒度を持つものが使用できる。
ここで、各磁石原料粉末は、粒径10〜70μmの粉末が全体の80%以上を占める鉄粉末、粒径10μm以下の粉末が全体の80%以上を占める希土類酸化物粉末、コバルトを添加する場合は、コバルト粉末および/またはコバルト酸化物粉末とすることが好ましい。鉄粉末は、粒径70μmを超えるものが多くなると、希土類−鉄母合金粉末中に希土類元素が拡散していない鉄部が多くなるとともに母合金粉末の粒径も大きくなり、窒素分布が不均一になって、得られた希土類−鉄−窒素系磁石粉末の角形性が低下しやすい。
これに対し、希土類酸化物粉末、コバルト酸化物粉末は、これらの中でもっとも多い希土類酸化物粉末でも組成が30質量%未満であることから、還元拡散反応時に、反応容器内部で上記鉄粉末の周りに均一に分布存在していることが望ましい。したがって、粒径が0.1〜10μmの粉末が全体の80%以上を占めるものであることが好ましい。粒径0.1μm未満の粉末が多くなると、製造中に粉末が舞い上がり取り扱いにくくなる。また、10μmを超えるものが多くなると、還元拡散法で得られた希土類−鉄−母合金粉末中の希土類元素が拡散していない鉄部が多くなる。
ここで、鉄(−コバルト)−合金粉末については、粒径10〜80μmの粉末が全体の80%以上を占めること、希土類酸化物粉末については、粒径0.1〜10μmの粉末が全体の80%以上を占めるものが好ましい。粒径80μmを超える粒子が多くなると、希土類−鉄母合金中に希土類元素が拡散していない鉄部が多くなるとともに、母合金粉末の粒径も大きくなり窒素分布が不均一になって、得られた希土類−鉄−窒素系磁石粉末の角形性が低下しやすい。
(2)還元拡散
次に、上記の原料粉末に還元剤を混合して、不活性ガス雰囲気中、所定の温度で熱処理し、還元拡散法でTh2Zn17型結晶構造を有する希土類−鉄系母合金を製造する。
次に、上記の原料粉末に還元剤を混合して、不活性ガス雰囲気中、所定の温度で熱処理し、還元拡散法でTh2Zn17型結晶構造を有する希土類−鉄系母合金を製造する。
還元拡散法は、前記したように、希土類酸化物粉末と、他の金属の粉末と、Caなどの還元剤との混合物を、不活性ガス雰囲気中、例えば900〜1180℃で加熱した後、反応生成物を湿式処理して副生したCaOおよび残留Caなどの還元剤成分を除去することによって、直接合金粉末を得る方法である。
まず、鉄、必要に応じてコバルトからなる磁石原料粉末と還元剤とを反応容器に投入する。希土類酸化物粉末は、R2Fe17の化学量論組成の1.1〜1.4倍、好ましくは1.15〜1.35倍、より好ましくは1.2〜1.3倍の範囲で投入する。R2Fe17の化学量論組成の1.1倍未満では鉄粉末に対して希土類元素の拡散が不均一になり、得られる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の保磁力や角形性が低下するので好ましくない。1.4倍を超えると、主相以外の磁化を低下させるSmリッチ相が多くなり、Smリッチ相の除去が必要となり、収率低下や除去にかかるコストが高くなる。
ここで各原料粉末は、それぞれの粉体特性差によって分離しないように均一に混合することが重要である。混合方法としては、たとえばリボンブレンダー、タンブラー、S字ブレンダー、V字ブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー、ボールミル、振動ミル、アトライター、ジェットミルなどが使用できる。
還元剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびこれらの水素化物などが使用でき、取り扱いの安全性とコストの点で、目開き4.00mm以下に篩い分級した粒状金属カルシウムが好ましい。還元剤は上記原料粉末と混合するか、カルシウム蒸気が原料粉末と接触しうるよう分離しておくが、混合して還元拡散させれば、反応生成物が多孔質となり、後で行われる窒化処理を効率的に行うことができる。
原料粉末や還元剤とともに、後の湿式処理工程において反応生成物の崩壊を促進させる添加剤を混合することも効果的である。崩壊促進剤としては、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩や酸化カルシウムなどを用いることができ、原料粉末などと同時に均一に混合する。ここで、不活性ガスは、アルゴンガス、ヘリウムガスから選ばれた1種以上が用いられる。
そして、引き続き混合物を加熱処理して、希土類酸化物と他の酸化物原料とを還元するとともに、還元された希土類元素等の金属元素を鉄粉末に拡散させてTh2Zn17型結晶構造を有する希土類−鉄母合金を生成させる。
本発明においては、熱処理温度を900〜1180℃の範囲とすることが好ましい。900℃未満では、鉄粉末に対して希土類元素の拡散が不均一となり、得られる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の保磁力や角形性が低下する。また、熱処理温度が900℃未満であると拡散に時間がかかるので望ましくない。一方、1180℃を超えると、生成する希土類−鉄母合金が粒成長を起こすため、均一に窒化することが困難になり磁石粉末の飽和磁化と角形性が低下する場合がある。
さらに好ましい熱処理温度は930〜1080℃である。この範囲で3〜8時間熱処理することにより、1次粒子径が小さい希土類−鉄母合金粒子が含まれる反応生成物となり、窒化時、窒素が希土類−鉄母合金粒界から拡散しやすくなって窒化距離を短くなる。また、粉砕時には、焼結している粒子間の粒界の強度が低いので、加工度が小さくてすむことから、結晶歪みを小さくすることができる。さらに、熱処理温度が低い方がSmの蒸発が少なく投入量も低減できるので好ましい。
ここで、還元拡散反応で得られる生成物は、例えば、還元剤として金属カルシウムを用いた場合には、Th2Zn17型結晶構造を有する希土類−鉄母合金と酸化カルシウム、未反応の余剰の金属カルシウムなどからなる塊状の混合物である。さらに粒状金属カルシウムを原料粉末に混合して還元拡散反応させた場合には、多孔質の塊状混合物となっている。
(3)反応生成物の冷却
本発明では、還元拡散反応後の反応生成物に対して、雰囲気ガスを不活性ガスとしたまま変えずに、引き続き、20〜300℃、好ましくは50〜280℃、より好ましくは100〜250℃に冷却する。
本発明では、還元拡散反応後の反応生成物に対して、雰囲気ガスを不活性ガスとしたまま変えずに、引き続き、20〜300℃、好ましくは50〜280℃、より好ましくは100〜250℃に冷却する。
冷却後の温度が300℃を越えていると、窒化の際に反応生成物との窒化反応が急激に進んでしまい、α−Fe相を増加させてしまうことがあるので、300℃よりも低い温度まで冷却するのが望ましい。これは、300℃を越える温度では、反応生成物が活性であるために合金が急激に窒化されて、Th2Zn17型結晶構造を有する金属間化合物がFeリッチ相とSmNとに分解するものと推測されるからである。ただし、20℃よりも低い温度に冷却しても磁気特性の改善は期待できない。
また、冷却温度での保持時間は、特に制限されないが、保持時間が長くなっても窒化は進まないため、10分以下とする。10分を超えても結果的に窒化終了までの時間が長くなるだけである。5分以下とするのが好ましい。
また、冷却温度での保持時間は、特に制限されないが、保持時間が長くなっても窒化は進まないため、10分以下とする。10分を超えても結果的に窒化終了までの時間が長くなるだけである。5分以下とするのが好ましい。
2.希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法
(1)窒化処理
窒化工程では、雰囲気ガスの不活性ガスを排出してから、少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスに変えて昇温し、反応生成物を特定温度に加熱する。
(1)窒化処理
窒化工程では、雰囲気ガスの不活性ガスを排出してから、少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスに変えて昇温し、反応生成物を特定温度に加熱する。
窒化ガスとしては、少なくともアンモニアと水素とを含有していることが必要であり、反応をコントロールするためにアルゴン、窒素、ヘリウムなどを混合することができる。窒化ガスの量は、磁石粉末中の窒素量が3.3〜3.7質量%となるに十分な量であることが好ましい。
全気流圧力に対するアンモニアの比(アンモニア分圧)は、0.2〜0.6、好ましくは0.3〜0.5となるようにする。アンモニア分圧が0.2未満であると、長時間かけても母合金の窒化が進まず、窒素量を3.3〜3.7質量%とすることができず、磁石粉末の飽和磁化と保磁力が低下する。
反応生成物を窒化温度である350〜500℃、好ましくは400〜480℃に加熱しながら、アンモニアと水素とを含有する混合気流を供給して、母合金を窒化熱処理することが必要である。加熱温度が350℃未満であると、反応生成物中の希土類−鉄母合金に3.3〜3.7質量%の窒素を導入するのに長時間を要するので工業的優位性がなくなる。一方、500℃を超えると、主相であるSm2Fe17相が分解してα−Feが生成するので、最終的に得られる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の減磁曲線の角形性が低下するので好ましくない。なお、冷却温度から窒化温度までは、毎分3〜10℃の速度で比較的急速に昇温することが生産効率を高める上で望ましい。
窒化処理の保持時間は、窒化温度にもよるが、100〜300分、好ましくは、140〜250分とする。100分未満では、窒化が不十分になり、一方、300分を超えると窒化が進みすぎるので好ましくない。
本発明においては、窒化処理に引き続いて、さらに水素ガス、または窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス中で合金粉末を熱処理することが望ましい。特に好ましいのは、水素ガスで熱処理した後に窒素ガスおよび/またはアルゴンガスで熱処理をすることである。
これにより、磁石粉末を構成する個々の結晶セル内の窒素分布をさらに均一化することができ、角形性を向上させることができる。熱処理の保持時間は、20〜200分、好ましくは30〜250分が良い。
(2)湿式処理
本発明では、窒化後の窒化処理生成物を湿式処理して、そこに含まれている還元剤成分の副生成物(酸化カルシウムや窒化カルシウムなど)や、SmFe3などの異相を希土類−鉄−窒素系磁石粉末から分離除去する。
本発明では、窒化後の窒化処理生成物を湿式処理して、そこに含まれている還元剤成分の副生成物(酸化カルシウムや窒化カルシウムなど)や、SmFe3などの異相を希土類−鉄−窒素系磁石粉末から分離除去する。
窒化終了後の磁石粉末に対して湿式処理を行うのは、前述したとおり、窒化する前に反応生成物を湿式処理すると、この湿式処理過程で母合金表面が酸化されて窒化の度合いをばらつかせるからである。
また、窒化後に窒化処理生成物を長期間大気中に放置すると、カルシウムなどの還元剤成分の酸化物が生成し除去しにくくなったり、磁石粉末の表面の酸化によって、窒化が不均一になり主相の比率の低下とニュークリエーションの核の生成によって角形性が低下したりする。したがって、大気中に放置された窒化処理生成物は、反応器から取り出してから2週間以内に湿式処理するのがよい。
湿式処理では、まず窒化処理生成物を水中に投入する。これにより窒化処理生成物の塊が崩壊し、スラリー状になる。このときは、Ca(OH)2がまだ残留しているために、水素イオン濃度はpH12を超えている。そのためにデカンテーション(水洗)を5〜10回程度繰り返す。デカンテーション条件は、例えば、該スラリー溶液に注水し、攪拌1分、静置分離2分、排水することを1回とする。
その後、さらに窒化処理生成物からSmFe3などの異相と残留するCa(OH)2を除去するために、酢酸および/または塩酸を用いて酸洗浄する。このときの水溶液の水素イオン濃度はpH4〜7の範囲で実施するとよい。還元拡散時に過剰に投入したSmの影響で主相の周りに磁気特性の飽和磁化を低下させる異相が存在しており、Sm量が23.2〜23.6重量%になるように酸洗を行うことが好ましい。
上記酸洗浄処理の終了時は、水素イオン濃度がpH7〜8となる範囲を目安とするとよい。酸洗浄処理後には、純水により繰り返し水洗を行う。すなわち、スラリー状物を攪拌、静置(デカンテーション)し、排水後に再び純水を注水するという操作を繰り返し行い、生成したCa(OH)2の多くを除去する必要がある。
ここでのデカンテーション条件は、スラリー溶液に注水し、攪拌1〜30分、静置分離1〜3分、排水からなる操作である。窒化処理生成物のSm2Fe17N3は、水洗により一旦は7程度となるが酸化により水素を発生し、水のpHが小さい方向に変わっていく。
しかし、図2から分かるように、スラリーのpH変化は緩慢である。そのため、酸洗浄が終わった後でもスラリーのpHが酸性域のままだと、徐々に主相であるSm2Fe17N3を溶解してしまうため、磁気特性が向上しない。
しかし、図2から分かるように、スラリーのpH変化は緩慢である。そのため、酸洗浄が終わった後でもスラリーのpHが酸性域のままだと、徐々に主相であるSm2Fe17N3を溶解してしまうため、磁気特性が向上しない。
そこで、本発明では水洗浄時に、スラリー中にアルカリ性物質を投入しながら攪拌することで、図1に示すように、早急にスラリーのpHを酸性域からアルカリ域に移行させるようにする。
すなわち、酸洗浄終了から1.5時間以内にスラリーのpHが9以上となる条件で水洗浄(デカンテーション)を行うようにする。これにより、主相の溶解を最小限に抑えることができる。好ましいのは、酸洗浄終了から1時間以内にスラリーのpHが9以上となる条件で水洗浄を行うことである。デカンテーションは、スラリー溶液の状態にもよるが、5〜10回程度繰り返すのが好ましい。
すなわち、酸洗浄終了から1.5時間以内にスラリーのpHが9以上となる条件で水洗浄(デカンテーション)を行うようにする。これにより、主相の溶解を最小限に抑えることができる。好ましいのは、酸洗浄終了から1時間以内にスラリーのpHが9以上となる条件で水洗浄を行うことである。デカンテーションは、スラリー溶液の状態にもよるが、5〜10回程度繰り返すのが好ましい。
なお、アルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化銅などの溶液や、アンモニアガスもしくはアンモニア水などを挙げることができる。このうち、アンモニアガスは、窒化処理にも用いられることから設備面やハンドリング面から好ましく、コスト面からも使用しやすい。一方、水酸化カルシウムなどの強アルカリは、除去したい成分を含むし、供給設備の面で負担が生じることがある。
また、アンモニアガスを使用する場合、アンモニアガスの供給量は、洗浄容器の大きさやスラリー量にもよるが、5〜10L/分とすることができる。アンモニアガスの供給量が5L/分未満ではpH調整に時間がかかり、10L/分を超えるとpH調整効率は良いが供給設備の面で負担が生じるのに加え、アンモニアガス供給量が増すにつれ磁気特性向上効果が飽和してくる(頭打ちとなる)ので、10L/分以下が好ましい。好ましいのは5〜8L/分である。
水洗浄の後は、アルコールあるいはアセトン等の有機溶媒で脱水し、不活性ガス雰囲気中または真空中で乾燥することで希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末を得ることができる。
(3)微粉砕、乾燥
湿式処理後に得られた希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末は、その粒子表面が平滑ではなく、全体的に粒径の異なる多数の粒子が集合した形状をしている。
より具体的には、比較的粒径が大きい1次粒子の周囲に、それよりも粒径が小さい多数の粒子が集って、ぶどう状に焼結し2次粒子を形成している。1次粒子は、粒径20μm以上のものが占める比率が小さく、累積個数百分率が10%未満である。このような磁石粗粉末を溶媒とともにビーズミル、媒体撹拌ミル等の粉砕機に入れ、希土類−鉄−窒素系磁石粉末が平均粒径1〜5μmとなるように微粉砕し、その後ろ過、乾燥するのが望ましい。
湿式処理後に得られた希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末は、その粒子表面が平滑ではなく、全体的に粒径の異なる多数の粒子が集合した形状をしている。
より具体的には、比較的粒径が大きい1次粒子の周囲に、それよりも粒径が小さい多数の粒子が集って、ぶどう状に焼結し2次粒子を形成している。1次粒子は、粒径20μm以上のものが占める比率が小さく、累積個数百分率が10%未満である。このような磁石粗粉末を溶媒とともにビーズミル、媒体撹拌ミル等の粉砕機に入れ、希土類−鉄−窒素系磁石粉末が平均粒径1〜5μmとなるように微粉砕し、その後ろ過、乾燥するのが望ましい。
希土類−鉄−窒素系磁石粉末を微粉砕するには、固体を取り扱う各種の化学工業において広く使用され、種々の材料を所望の程度に粉砕するための粉砕装置であれば、特に限定されるわけではない。その中でも、粉末の組成や粒子径を均一にしやすい点で優れた、媒体撹拌ミルまたはビーズミルによる湿式粉砕方式によることが好適である。
粉砕に用いる溶媒としては、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、メタノール、ヘキサン等が使用できるが、特にイソプロピルアルコールが好ましい。このときに燐酸を添加すると、粉砕と同時に磁石粉末へ表面処理が行われ、表面に燐酸塩皮膜を形成することが出来る。粉砕後、所定の目開きのフィルターを用いて、ろ過、乾燥して希土類−鉄−窒素系磁石微粉末を得る。
以上、本発明をSm−Fe−N系磁石粉末の製造について詳述したが、この方法は、湿式処理が必要とされる磁石粉末、例えばNd−Fe−B系磁石の製造にも適用できる。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。得られた磁石粉末の磁気特性は次の方法で測定した。
<磁気特性評価>
希土類−鉄−窒素磁石粉末試料の磁気特性を測定するため、まず、パラフィンを詰めたサンプルケースを準備し、それにSm−Fe−N合金粉末を詰め、その後、加熱配向、冷却固化を行い、サンプルを作製した。次に振動試料型磁力計(VSM)(東英工業(株)製)を用い、ヒステリシスループを描かせ(最大印加磁場:1670kA/m(21kOe))、残留磁束密度[Br]、保磁力[iHc]、角形性[Hk]、最大エネルギー積[(BH)max]。を求めた。
希土類−鉄−窒素磁石粉末試料の磁気特性を測定するため、まず、パラフィンを詰めたサンプルケースを準備し、それにSm−Fe−N合金粉末を詰め、その後、加熱配向、冷却固化を行い、サンプルを作製した。次に振動試料型磁力計(VSM)(東英工業(株)製)を用い、ヒステリシスループを描かせ(最大印加磁場:1670kA/m(21kOe))、残留磁束密度[Br]、保磁力[iHc]、角形性[Hk]、最大エネルギー積[(BH)max]。を求めた。
(実施例1)
[還元拡散処理、窒化処理]
磁石原料粉末として、アトマイズ法で製造された、粒径10〜70μmの粉末が全体の94%を占める鉄粉末(Fe純度99%:へガネス製 ASC300)1000gと、粒径0.1〜10μmの粉末が全体の96%を占める酸化サマリウム粉末(Sm2O3純度99.5%:トーメン)469gを秤量し、粒度4メッシュ(タイラーメッシュ)以下の金属カルシウム粒(Ca純度99%:ミンテックジャパン製)189gを、ロッキングミキサ(RM−10−2:愛知電機株式会社製)で1時間混合した。酸化サマリウム粉末は、Sm2Fe17化学量論組成の1.27倍である。
これをステンレススチール反応容器に装入し、容器内をロータリーポンプで真空引きしてArガス置換した後、Arガスを流しながら1100℃まで昇温し、4時間保持し250℃まで炉内でArガスを流通しながら冷却した。次に、Arガスをアンモニア分圧が0.33のアンモニア−水素混合ガスに切り替えて昇温し、450℃で200分保持し、その後、同温度で窒素ガスに切り替えて30分保持し冷却した。
[還元拡散処理、窒化処理]
磁石原料粉末として、アトマイズ法で製造された、粒径10〜70μmの粉末が全体の94%を占める鉄粉末(Fe純度99%:へガネス製 ASC300)1000gと、粒径0.1〜10μmの粉末が全体の96%を占める酸化サマリウム粉末(Sm2O3純度99.5%:トーメン)469gを秤量し、粒度4メッシュ(タイラーメッシュ)以下の金属カルシウム粒(Ca純度99%:ミンテックジャパン製)189gを、ロッキングミキサ(RM−10−2:愛知電機株式会社製)で1時間混合した。酸化サマリウム粉末は、Sm2Fe17化学量論組成の1.27倍である。
これをステンレススチール反応容器に装入し、容器内をロータリーポンプで真空引きしてArガス置換した後、Arガスを流しながら1100℃まで昇温し、4時間保持し250℃まで炉内でArガスを流通しながら冷却した。次に、Arガスをアンモニア分圧が0.33のアンモニア−水素混合ガスに切り替えて昇温し、450℃で200分保持し、その後、同温度で窒素ガスに切り替えて30分保持し冷却した。
[湿式処理]
取り出した多孔質塊状の窒化処理生成物1kgを3リットルの純水中に投入したところ、崩壊してスラリーが得られた。
このスラリーから、Ca(OH)2懸濁物をデカンテーションによって分離し、純水を注水後に1分間攪拌し、次いでデカンテーションを行う操作を5回繰り返し、希土類−鉄−窒素系磁石粉末スラリーを得た。なお、このときのpHはCa(OH)2が多く存在しているため、12以上の高アルカリである。
次に、攪拌状態の希土類−鉄−窒素系磁石粉末スラリーに、酢酸(和光純薬(株)試薬特級)60mLを投入し、pHを7以下の酸性域にし、酸洗浄を行った。酢酸投入時にはpHは5.45まで落ちた。なお酸洗浄時間は酸洗浄時の発泡がなくなる1時間とした。
酸洗浄後はスラリー中に溶解している不純物を除去するため、純水を入れ替えての洗浄を行ったが、その際にスラリーのpHをアルカリ域に移行させるため、スラリー中にはNH3ガスを5L/分の割合で吹き込んだ。具体的には純水供給、スラリー攪拌、上澄み除去を6回繰り返し行ったが、アンモニアガスはスラリー撹拌時にスラリー中に導入した。図1に湿式処理中のスラリーのpH推移を示すが、酸洗浄後1.5時間以内の純水洗浄3回目で9.3まで達しており、最大で10.37まで上がった。
最後に洗浄後のスラリーをアルコールで水分置換した後、真空乾燥し、Sm2Fe17N3磁性粉末を得た。得られた磁性粉末は、試料振動型磁力計(東英工業(株)製、以下、VSMと略記する)にて磁気特性を評価した。VSM測定での磁気特性を表1に示すが、残留磁束密度[Br]は1.431T(14.31kG)、保磁力[iHc]は921kA/m(11.57kOe)、角形性[Hk]は475kA/m(5.97kOe)、最大エネルギー積[(BH)max]は332kJ/m3(41.70MGOe)であった。
取り出した多孔質塊状の窒化処理生成物1kgを3リットルの純水中に投入したところ、崩壊してスラリーが得られた。
このスラリーから、Ca(OH)2懸濁物をデカンテーションによって分離し、純水を注水後に1分間攪拌し、次いでデカンテーションを行う操作を5回繰り返し、希土類−鉄−窒素系磁石粉末スラリーを得た。なお、このときのpHはCa(OH)2が多く存在しているため、12以上の高アルカリである。
次に、攪拌状態の希土類−鉄−窒素系磁石粉末スラリーに、酢酸(和光純薬(株)試薬特級)60mLを投入し、pHを7以下の酸性域にし、酸洗浄を行った。酢酸投入時にはpHは5.45まで落ちた。なお酸洗浄時間は酸洗浄時の発泡がなくなる1時間とした。
酸洗浄後はスラリー中に溶解している不純物を除去するため、純水を入れ替えての洗浄を行ったが、その際にスラリーのpHをアルカリ域に移行させるため、スラリー中にはNH3ガスを5L/分の割合で吹き込んだ。具体的には純水供給、スラリー攪拌、上澄み除去を6回繰り返し行ったが、アンモニアガスはスラリー撹拌時にスラリー中に導入した。図1に湿式処理中のスラリーのpH推移を示すが、酸洗浄後1.5時間以内の純水洗浄3回目で9.3まで達しており、最大で10.37まで上がった。
最後に洗浄後のスラリーをアルコールで水分置換した後、真空乾燥し、Sm2Fe17N3磁性粉末を得た。得られた磁性粉末は、試料振動型磁力計(東英工業(株)製、以下、VSMと略記する)にて磁気特性を評価した。VSM測定での磁気特性を表1に示すが、残留磁束密度[Br]は1.431T(14.31kG)、保磁力[iHc]は921kA/m(11.57kOe)、角形性[Hk]は475kA/m(5.97kOe)、最大エネルギー積[(BH)max]は332kJ/m3(41.70MGOe)であった。
(比較例1)
酸洗浄後の純水洗浄中にNH3ガスを吹き込まなかったこと以外は、実施例1と同様に処理し、Sm2Fe17N3磁性粉末を得た。
図2に湿式処理中のスラリーのpH推移を示すが、純水洗浄でもpHは上がっているものの、酸洗浄終了から1.5時間の時点ではpHは9を下回り、pH9以上となったのは1.9時間経過後の純水洗浄4回目であった。また、純水洗浄6回目でもpHは9.55までしか到達しなかった。
得られたSm2Fe17N3磁性粉末の特性を実施例1と同様に評価したところ、表1に示すように、残留磁束密度[Br]は1.408T(14.08kG)、保磁力[iHc]は890kA/m(11.18kOe)、角形性[Hk]は450kA/m(5.66kOe)、最大エネルギー積[(BH)max]は317kJ/m3(39.84MGOe)であり、酸洗浄後の純水洗浄中にアルカリ性ガスを吹き込んだときに比べ、特性が劣化していた。
酸洗浄後の純水洗浄中にNH3ガスを吹き込まなかったこと以外は、実施例1と同様に処理し、Sm2Fe17N3磁性粉末を得た。
図2に湿式処理中のスラリーのpH推移を示すが、純水洗浄でもpHは上がっているものの、酸洗浄終了から1.5時間の時点ではpHは9を下回り、pH9以上となったのは1.9時間経過後の純水洗浄4回目であった。また、純水洗浄6回目でもpHは9.55までしか到達しなかった。
得られたSm2Fe17N3磁性粉末の特性を実施例1と同様に評価したところ、表1に示すように、残留磁束密度[Br]は1.408T(14.08kG)、保磁力[iHc]は890kA/m(11.18kOe)、角形性[Hk]は450kA/m(5.66kOe)、最大エネルギー積[(BH)max]は317kJ/m3(39.84MGOe)であり、酸洗浄後の純水洗浄中にアルカリ性ガスを吹き込んだときに比べ、特性が劣化していた。
(比較例2)
酸洗浄後の純水洗浄中のスラリー中へのNH3ガスの供給量を3L/分とした以外は、実施例1と同様に処理し、Sm2Fe17N3磁性粉末を得た。酸洗浄終了から1.5時間の時点ではpHが9を下回り、pH9以上となったのは1.9時間経過後の純水洗浄4回目であった。なお、比較例2では純水洗浄6回目にpHが最大で10.24まで上がった。
得られた磁性粉末の磁気特性を評価した。VSM測定での磁気特性を表1に示すが、残留磁束密度[Br]は1.413T(14.13kG)、保磁力[iHc]は908kA/m(11.40kOe)、角形性[Hk]は465kA/m(5.85kOe)、最大エネルギー積[(BH)max]は322kJ/m3(40.51MGOe)であった。
酸洗浄後の純水洗浄中のスラリー中へのNH3ガスの供給量を3L/分とした以外は、実施例1と同様に処理し、Sm2Fe17N3磁性粉末を得た。酸洗浄終了から1.5時間の時点ではpHが9を下回り、pH9以上となったのは1.9時間経過後の純水洗浄4回目であった。なお、比較例2では純水洗浄6回目にpHが最大で10.24まで上がった。
得られた磁性粉末の磁気特性を評価した。VSM測定での磁気特性を表1に示すが、残留磁束密度[Br]は1.413T(14.13kG)、保磁力[iHc]は908kA/m(11.40kOe)、角形性[Hk]は465kA/m(5.85kOe)、最大エネルギー積[(BH)max]は322kJ/m3(40.51MGOe)であった。
「評価」
表1の結果から明らかなように、実施例1では、純水洗浄の際にアンモニアガスを供給したために、pHが酸性域に留まっていた時間が短縮され、磁石粉末から主相が溶け出すことが抑制され、磁気特性が向上している。
一方、比較例1のSm2Fe17N3磁石粉末の特性は、実施例1の磁石粉末と比較して低下した。これは純水洗浄の際に酸性域のpHに留まっていた時間が長かったため、主相が溶け出し、特性を劣化させたことによる。また、比較例2では、純水洗浄の際にアンモニアガスを供給したが、供給量が少なかったために、酸性域のpHに留まっていた時間が短縮されず、磁石粉末から主相が溶け出すことを抑制できず、実施例1に比べ磁気特性が低下した。
以上の結果、本発明によれば、製造されたSm2Fe17N3磁石粉末は、比較例に比べ高い磁気特性を示すことから、湿式処理における酸洗浄後のスラリーのpHを1.5時間以内に9以上に上げることの効果が十分認められると言える。
表1の結果から明らかなように、実施例1では、純水洗浄の際にアンモニアガスを供給したために、pHが酸性域に留まっていた時間が短縮され、磁石粉末から主相が溶け出すことが抑制され、磁気特性が向上している。
一方、比較例1のSm2Fe17N3磁石粉末の特性は、実施例1の磁石粉末と比較して低下した。これは純水洗浄の際に酸性域のpHに留まっていた時間が長かったため、主相が溶け出し、特性を劣化させたことによる。また、比較例2では、純水洗浄の際にアンモニアガスを供給したが、供給量が少なかったために、酸性域のpHに留まっていた時間が短縮されず、磁石粉末から主相が溶け出すことを抑制できず、実施例1に比べ磁気特性が低下した。
以上の結果、本発明によれば、製造されたSm2Fe17N3磁石粉末は、比較例に比べ高い磁気特性を示すことから、湿式処理における酸洗浄後のスラリーのpHを1.5時間以内に9以上に上げることの効果が十分認められると言える。
本発明により得られる希土類−鉄−窒素磁石粉末は、高磁石特性を有するので、小型化、高特性化を実現した永久磁石となる。この希土類−鉄−窒素磁石粉末を用いれば、高磁石特性を有するボンド磁石用組成物、並びに磁気特性に優れたボンド磁石を得ることができ、携帯電話やデジタルカメラ、デジタルビデオなどを始めとする家電製品の小型化、軽量化、高性能化に対応できる。
Claims (4)
- 希土類酸化物粉末と、鉄粉末と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種の還元剤粉末とを所定の割合で混合する工程、この混合物を不活性ガス雰囲気中で加熱し還元拡散する工程、引き続き、得られた反応生成物を不活性ガス雰囲気中で冷却する工程、その後、不活性ガスを排出してから、アンモニアと水素とを含有する混合ガスを供給し、この気流中で反応生成物を昇温し、窒化処理する工程、次に、得られた窒化処理生成物を水中に投入して崩壊させた後、得られたスラリーを酸洗浄と水洗浄で湿式処理する工程を有し、
前記湿式処理工程において、酸洗浄終了から1.5時間以内にスラリーのpHが9以上となる条件で水洗浄することを特徴とする希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。 - 湿式処理工程における酸洗浄後の水洗の際に、アルカリ性物質を添加することを特徴とする請求項1記載の希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
- 湿式処理工程における酸洗浄後の水洗の際に、アンモニアを添加することを特徴とする請求項1記載の希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
- 水洗の際のアンモニアガス供給量が、5〜10L/分であることを特徴とする請求項3記載の希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
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Cited By (3)
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---|---|---|---|---|
JP2019090073A (ja) * | 2017-11-13 | 2019-06-13 | 住友金属鉱山株式会社 | 希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法 |
EP4170686A4 (en) * | 2020-06-19 | 2024-07-31 | Nichia Corp | METHOD FOR PRODUCING ANISOTROPIC MAGNETIC POWDER AND ANISOTROPIC MAGNETIC POWDER |
JP7561974B2 (ja) | 2020-12-16 | 2024-10-04 | 横店集団東磁股▲ふん▼有限公司 | 希土類磁性体の窒化方法および窒化型希土類磁性体 |
-
2012
- 2012-12-21 JP JP2012279339A patent/JP2014122392A/ja active Pending
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