以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
1.基本構成
1.1 記録システムの概要
図1は、本発明の一実施形態で適用する記録システムにおける画像データ処理の流れを説明するための図である。この記録システムJ0011は、記録すべき画像を示す画像データの生成やそのデータ生成のためのUI(ユーザインタフェース)の設定等を行うホスト装置J0012を具える。またこのホスト装置J0012で生成された画像データに基づいて記録媒体に記録を行う記録装置J0013を具える。記録装置J0013は、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、レッド(R)、グリーン(G)、第1ブラック(K1)、第2ブラック(K2)、グレー(Gray)の10色インクによって記録を行う。そのために、これら10色のインクを吐出する記録ヘッドH1001が用いられる。これら10色のインクは、色材として顔料を含む顔料インクである。
ホスト装置J0012のオペレーティングシステムで動作するプログラムとしてアプリケーションやプリンタドライバがある。アプリケーションJ0001は記録装置で記録するための画像データを作成する処理を実行する。この画像データもしくはその編集等がなされる前のデータは種々の媒体を介してPCに取り込むことができる。本実施形態のホスト装置は、まずデジタルカメラで撮像した例えばJPEG形式の画像データをCFカードによって取り込むことができる。また、スキャナで読み取った例えばTIFF形式の画像データやCD−ROMに格納される画像データをも取り込むことができる。さらには、インターネットを介してウェブ上のデータを取り込むことができる。これらの取り込まれたデータは、ホスト装置のモニタに表示されてアプリケーションJ0001を介した編集、加工等がなされ、例えばsRGB規格の画像データR、G、Bが作成される。ホスト装置J0012のモニタに表示されるUI画面において、ユーザは、記録に使用する記録媒体の種類や記録の品位等の設定を行うと共に記録指示を出す。この記録指示に応じて画像データR、G、Bがプリンタドライバに渡される。
プリンタドライバはその処理として、前段処理J0002、後段処理J0003、γ補正J0004、ハーフトーニングJ0005および記録データ作成J0006を有している。以下、プリンタドライバで行われる各処理J0002〜J0006について簡単に説明する。
(A)前段処理
前段処理J0002は色域(Gamut)のマッピングを行う。本実施形態では、sRGB規格の画像データR、G、Bによって再現される色域を、記録装置J0013によって再現される色域内に写像するためのデータ変換を行う。具体的には、R、G、Bのそれぞれが8ビットで表現された256階調の画像データR、G、Bを、3次元LUTを用いることにより、記録装置J0013の色域内の8ビットデータR、G、Bに変換する。
(B)後段処理
後段処理J0003では、上記色域のマッピングがなされた8ビットデータR、G、Bに基づき、このデータが表す色を再現するインクの組み合わせに対応した8ビット・10色の色分解データを求める。すなわち、Y、M、Lm、C、Lc、K1、K2、R、G、Grayの色分解データを求める。。本実施形態では、この処理は前段処理と同様3次元LUTに補間演算を併用して行う。
(C)γ処理
γ補正J0004は、後段処理J0003によって求められた色分解データの各色のデータごとにその濃度値(階調値)変換を行う。具体的には、記録装置J0013の各色インクの階調特性に応じた1次元LUTを用いることにより、上記色分解データがプリンタの階調特性に線形的に対応づけられるような変換を行う。
(D)ハーフトーニング
ハーフトーニングJ0005は、γ補正がなされた8ビットの色分解データY、M、Lm、C、Lc、K1、K2、R、G、Grayそれぞれについて4ビットのデータに変換する量子化を行う。本実施形態では、誤差拡散法を用いて256階調の8ビットデータを9階調の4ビットデータに変換する。この4ビットデータは、記録装置におけるドット配置のパターン化処理における配置パターンを示すためのインデックスとなるデータである。
(E)記録データの作成処理
プリンタドライバで行う処理の最後には、記録データ作成処理J0006によって、上記4ビットのインデックスデータを内容とする記録画像データに記録制御情報を加えた記録データを作成する。
図2はかかる記録データの構成例を示した図である。記録データは、記録の制御を司る記録制御情報および記録すべき画像を示す記録画像データ(上述の4ビットのインデックスデータ)で構成されている。記録制御情報は、「記録媒体情報」、「記録品位情報」、および給紙方法等のような「その他制御情報」から構成されている。記録媒体情報には、記録の対象となる記録媒体の種類が記述されており、普通紙、光沢紙、はがき、プリンタブルディスクなどのうち、いずれか1種類の記録媒体が規定されている。記録品位情報には、記録の品位が記述されており、「きれい」、「標準」、「はやい」等のうち、いずれか1種の品位が規定されている。なお、これらの記録制御情報は、ホスト装置J0012のモニタおけるUI画面にてユーザが指定した内容に基づいて形成されるものである。また、記録画像データは、前述のハーフトーン処理J0005によって生成された画像データが記述さているものとする。以上のようにして生成された記録データは、記録装置J0013へ供給される。
記録装置J0013は、ホスト装置J0012から供給された当該記録データに対して、次に述べるドット配置パターン化処理J0007およびマスクデータ変換処理J0008を行う。
(F)ドット配置パターン化処理
上述したハーフトーン処理J0005では、256値の多値濃度情報(8ビットデータ)を9値の階調値情報(4ビットデータ)まで階調レベル数を下げている。しかし、実際に記録装置J0013が記録できるデータは、インクドットを記録するか否かの2値データ(1ビットデータ)である。そこで、ドット配置パターン化処理J0007では、ハーフトーン処理J0005からの出力値である階調レベル0〜8の4ビットデータで表現される各画素ごとに、その画素の階調値(レベル0〜8)に対応したドット配置パターンを割当てる。これにより1画素内の複数のエリア各々にインクドットの記録の有無(ドットのオン・オフ)を定義し、1画素内の各エリアごとに「1」または「0」の1ビットの2値データを配置する。ここで、「1」はドットの記録を示す2値データであり、「0」は非記録を示す2値データである。
図3は、本実施形態のドット配置パターン化処理で変換する、入力レベル0〜8に対する出力パターンを示している。図の左に示した各レベル値は、ホスト装置側のハーフトーン処理部からの出力値であるレベル0〜レベル8に相当している。右側に配列した縦2エリア×横4エリアで構成される領域は、ハーフトーン処理で出力される1画素の領域に対応するものである。また、1画素内の各エリアは、ドットのオン・オフが定義される最小単位に相当するものである。なお、本明細書において「画素」とは、階調表現可能な最小単位のことであり、複数ビットの多値データの画像処理(上記前段、後段、γ補正、ハーフトーニング等の処理)の対象となる最小単位である。
図において、丸印を記入したエリアがドットの記録を行うエリアを示しており、レベル数が上がるに従って、記録するドット数も1つずつ増加している。本実施形態においては、最終的にこのような形でオリジナル画像の濃度情報が反映されていることになる。
(4n)〜(4n+3)は、nに1以上の整数を代入することにより、記録すべき画像データの左端からの横方向の画素位置を示している。その下に示した各パターンは、同一の入力レベルにおいても画素位置に応じて互いに異なる複数のパターンが用意されていることを示している。すなわち、同一のレベルが入力された場合にも、記録媒体上では(4n)〜(4n+3)に示した4種類のドット配置パターンが巡回されて割当てられる構成となっているのである。
図3においては、縦方向を記録ヘッドの吐出口が配列する方向、横方向を記録ヘッドの走査方向としている。このように同一レベルに対して複数の異なるドット配置で記録できる構成にしておくことは、ドット配置パターンの上段に位置するノズルと下段に位置するノズルとで吐出回数を分散させたり、記録装置特有の様々なノイズを分散させたりする効果がある。
以上説明したドット配置パターン化処理を終了した段階で、記録媒体に対するドットの配置パターンが全て決定される。
(G)マスクデータ変換処理
上述したドット配置パターン化処理J0007により、記録媒体上の各エリアに対するドットの有無は決定されたので、このドット配置を示す2値データを記録ヘッドH1001の駆動回路J0009に入力すれば、所望の画像を記録することが可能である。この場合、記録媒体上の同一の走査領域に対する記録を1回の走査によって完成させる、いわゆる1パス記録が実行される。しかし、ここでは、記録媒体上の同一の走査領域に対する記録を複数回の走査によって完成させる、いわゆるマルチパス記録の例をとって説明する。
図4は、マルチパス記録方法を説明するために、記録ヘッドおよび記録パターンを模式的に示したものである。本実施形態に適用される記録ヘッドH1001は実際には768個のノズルを有するが、ここでは簡単のため16個のノズルを有するものとして説明する。ノズルは、図のように第1〜第4の4つのノズル群に分割され、各ノズル群には4つずつのノズルが含まれている。マスクパターンP0002は、第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)で構成される。第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)は、それぞれ、第1〜第4のノズル群が記録可能なエリアを定義している。マスクパターンにおける黒塗りエリアは記録許容エリアを示し、白塗りエリアは非記録エリアを示している。第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)は互いに補完の関係にあり、これら4つのマスクパターンを重ね合わせると4×4のエリアに対応した領域の記録が完成される構成となっている。
P0003〜P0006で示した各パターンは、記録走査を重ねていくことによって画像が完成されていく様子を示したものである。各記録走査が終了するたびに、記録媒体は図の矢印の方向にノズル群の幅分(この図では4ノズル分)ずつ搬送される。よって、記録媒体の同一領域(各ノズル群の幅に対応する領域)は4回の記録走査によって初めて画像が完成される構成となっている。以上のように、記録媒体の各同一領域が複数回の走査で複数のノズル群によって形成されることは、ノズル特有のばらつきや記録媒体の搬送精度のばらつき等を低減させる効果がある。
図5は、本実施形態で実際に適用可能なマスクパターンの一例を示したものである。本実施形態で適用する記録ヘッドH1001は768個のノズルを有しており、4つのノズル群にはそれぞれ192個ずつのノズルが属している。マスクパターン大きさは、縦方向がノズル数と同等の768エリア、横方向は256エリアとなっており、4つのノズル群それぞれに対応する4つのマスクパターンで互いに補完の関係を保つような構成となっている。
ところで、本実施形態で適用するような、多数の小液滴を高周波数で吐出するようなインクジェット記録ヘッドにおいては、記録動作時に記録部近傍に気流が生じることが知られている。そして、この気流が特に記録ヘッドの端部に位置するノズルの吐出方向に影響を与えることが確認されている。よって、本実施形態のマスクパターンにおいては、図5からも判るように、各ノズル群また同一のノズル群の中でも、領域によって記録許容率の分布に偏りを持たせている。図5で示すように、端部のノズルの記録許容率を中央部の記録許容率よりも小さくした構成のマスクパターンを適用することにより、端部のノズルにより吐出されるインク滴の着弾位置ずれによる弊害を目立たなくすることが可能となるのである。
なお、マスクパターンで定められる記録許容率とは、つぎのようなものである。つまりマスクパターンを構成する記録許容エリア(図4のマスクパターンP0002の黒塗りエリア)と非記録許容エリア(図4のマスクパターンP0002の白塗りエリア)の合計数に対する記録許容エリアの数の割合を百分率で表したものである。すなわち、マスクパターンの記録許容エリアをM個、非記録許容エリアをN個とすると、そのマスクパターンの記録許容率(%)は、M÷(M+N)×100となる。
本実施形態においては、図5で示したマスクデータが記録装置本体内のメモリに格納してある。そして、マスクデータ変換処理J0008においては、当該マスクデータと上述したドット配置パターン化処理で得られた2値データとの間でAND処理をかけることにより、各記録走査での記録対象となる2値データが決定される。そして、その2値データを駆動回路J0009へ送る。これにより、記録ヘッドH1001が駆動されて2値データに従ってインクが吐出される。
なお、図1では、前段処理J0002、後段処理J0003、γ処理J0004、ハーフトーニングJ0005および記録データ作成処理J0006がホスト装置J0012で実行されるものとした。また、ドット配置パターン化処理J0007およびマスクデータ変換処理J0008が記録装置J0013で実行されるものとした。しかし本発明は、この形態に限られるものではない。例えば、ホスト装置J0012で実行している処理J0002〜J0005の一部を記録装置J0013にて実行する形態であってもよいし、すべてをホスト装置J0012にて実行する形態であってもよい。あるいは、処理J0002〜J0008を記録装置J0013にて実行する形態であってもよい。
1.2 機構部の構成
本実施形態で適用する記録装置における各機構部の構成を説明する。本実施形態における記録装置本体は、各機構部の役割から、概して、給紙部、用紙搬送部、排紙部、キャリッジ部、フラットパス記録部、およびクリーニング部等に分類することができ、これらは外装部に収納されている。
図6、図7、図8、図12および図13は、本実施形態で適用する記録装置の外観を示す斜視図である。ここで、図6は記録装置の非使用時における前面から見た状態、図7は記録装置の非使用時における背面から見た状態、図8は記録装置の使用時における前面から見た状態をそれぞれ示している。また、図12はフラットパス記録時における前面から見た状態、図13はフラットパス記録時における背面から見た状態をそれぞれ示している。また、図9〜図11および図14〜図16は、記録装置本体の内部機構を説明するための図である。ここで、図9は右上部からの斜視図、図10は左上部からの斜視図、図11は記録装置本体の側断面図である。図14はフラットパス記録時の断面図である。さらに、図15はクリーニング部の斜視図、図16はクリーニング部におけるワイピング機構の構成および動作を説明するための断面図、図17はクリーニング部におけるウエット液転写部の断面図をそれぞれ示したものである。
以下、これらの図面を適宜参照しながら、各部を順次説明する。
(A)外装部(図6、図7)
外装部は、給紙部、用紙搬送部、排紙部、キャリッジ部、クリーニング部、フラットパス部およびウエット液転写部の回りを覆うように取り付けられている。外装部は主に、下ケースM7080、上ケースM7040、アクセスカバーM7030、コネクタカバーおよびフロントカバーM7010から構成されている。
下ケースM7080の下部には、不図示の排紙トレイレールが設けられており、分割された排紙トレイM3160が収納可能に構成されている。また、フロントカバーM7010は、非使用時に排紙口を塞ぐ構成になっている。
上ケースM7040には、アクセスカバーM7030が取り付けられており、回動可能に構成されている。上ケースの上面の一部は開口部を有しており、この位置で、インクタンクH1900および記録ヘッドH1001(図21)が交換可能となるように構成されている。なお、本実施形態の記録装置においては、記録ヘッドH1001は、1色のインクを吐出可能な吐出部を複数色分、一体的に構成したユニットの形態である。そして、インクタンクH1900が色毎に独立に着脱可能な記録ヘッドカートリッジH1000として構成されている。上ケースM7040には、アクセスカバーM7030の開閉を検知用の不図示のドアスイッチレバー、LEDの光を伝達・表示するLEDガイドM7060、電源キーE0018、リジュームキーE0019およびフラットパスキーE3004等が設けられている。また、多段式の給紙トレイM2060が回動可能に取り付けられており、給紙部が使われない時は、給紙トレイM2060を収納することにより、給紙部のカバーにもなるように構成されている。
上ケースM7040と下ケースM7080は、弾性を持った勘合爪で取り付けられており、その間のコネクタ部分が設けられている部分を、不図示のコネクタカバーが覆っている。
(B)給紙部(図8、図11)
図8および図11を参照するに、給紙部は次のように構成されている。すなわち、記録媒体を積載する圧板M2010、記録媒体を1枚ずつ給紙する給紙ローラM2080、記録媒体を分離する分離ローラM2041、記録媒体を積載位置に戻すための戻しレバーM2020等がベースM2000に取り付けられることで構成されている。
(C)用紙搬送部(図8〜図11)
曲げ起こした板金からなるシャーシM1010には、記録媒体を搬送する搬送ローラM3060が回動可能に取り付けられている。搬送ローラM3060は、金属軸の表面にセラミックの微小粒がコーティングされた構成となっており、両軸の金属部分を不図示の軸受けが受ける状態で、シャーシM1010に取り付けられている。搬送ローラM3060にはローラテンションバネ(不図示)が設けられており、搬送ローラM3060を付勢することにより、回転時に適量の負荷を与えて安定した搬送が行えるようになっている。
搬送ローラM3060には、従動する複数のピンチローラM3070が当接して設けられている。ピンチローラM3070は、ピンチローラホルダM3000に保持されているが、不図示のピンチローラバネによって付勢されることで、搬送ローラM3060に圧接し、ここで記録媒体の搬送力を生み出している。この時、ピンチローラホルダM3000の回転軸は、シャーシM1010の軸受けに取り付けられ、この位置を中心に回転する。
記録媒体が搬送されてくる入口には、記録媒体をガイドするためのペーパガイドフラッパM3030およびプラテンM3040が配設されている。また、ピンチローラホルダM3000には、PEセンサレバーM3021が設けられている。PEセンサレバーM3021は、記録媒体の先端および後端の検出をシャーシM1010に固定されたペーパエンドセンサ(以下PEセンサと称す)E0007に伝える役割を果たす。プラテンM3040は、シャーシM1010に取り付けられ、位置決めされている。ペーパガイドフラッパM3030は、不図示の軸受け部を中心に回転可能で、シャーシM1010に当接することで位置決めされる。
搬送ローラM3060の記録媒体搬送方向における下流側には、記録ヘッドH1001(図21)が設けられている。
上記構成における搬送の過程を説明する。用紙搬送部に送られた記録媒体は、ピンチローラホルダM3000およびペーパガイドフラッパM3030に案内されて、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とのローラ対に送られる。この時、PEセンサレバーM3021が、記録媒体の先端を検知して、これにより記録媒体に対する記録位置が求められている。搬送ローラM3060とピンチローラM3070とからなるローラ対は、LFモータE0002の駆動により回転され、この回転により記録媒体がプラテンM3040上を搬送される。プラテンM3040には、搬送基準面となるリブが形成されており、このリブにより、記録ヘッドH1001と記録媒体表面との間のギャップが管理されている。また同時に、当該リブが、後述する排紙部と合わせて、記録媒体の波打ちを抑制する役割も果たしている。
搬送ローラM3060が回転するための駆動力は、例えばDCモータからなるLFモータE0002の回転力が、不図示のタイミングベルトを介して、搬送ローラM3060の軸上に配設されたプーリM3061に伝達されることによって得られている。また、搬送ローラM3060の軸上には、搬送ローラM3060による搬送量を検出するためのコードホイールM3062が設けられている。そして、隣接するシャーシM1010には、コードホイールM3062に形成されたマーキングを読み取るためのエンコードセンサM3090が配設されている。なお、コードホイールM3062に形成されたマーキングは、150〜300lpi(ライン/インチ;参考値)のピッチで形成されているものとする。
(D)排紙部(図8〜図11)
排紙部は、第1の排紙ローラM3100および第2の排紙ローラM3110、複数の拍車M3120およびギア列などから構成されている。
第1の排紙ローラM3100は、金属軸に複数のゴム部を設けて構成されている。第1の排紙ローラM3100の駆動は、搬送ローラM3060の駆動が、アイドラギアを介して第1の排紙ローラM3100まで伝達されることによって行われている。
第2の排紙ローラM3110は、樹脂の軸にエラストマの弾性体M3111を複数取り付けた構成になっている。第2の排紙ローラM3110の駆動は、第1の排紙ローラM3100の駆動が、アイドラギアを介して伝達すること行われる。
拍車M3120は、周囲に凸形状を複数設けた例えばSUSでなる円形の薄板を樹脂部と一体としたもので、拍車ホルダM3130に複数取り付けられている。この取り付けは、コイルバネを棒状に設けた拍車バネによって行われているが、同時に拍車バネのばね力は、拍車M3120を排紙ローラM3100およびM3110に対し所定圧で当接させている。この構成によって拍車M3120は、2つの排紙ローラM3100およびM3110に従動して回転可能となっている。拍車M3120のいくつかは、第1の排紙ローラM3100のゴム部、あるいは第2の排紙ローラM3110の弾性体M3111の位置に設けられており、主に記録媒体の搬送力を生み出す役割を果たしている。また、その他のいくつかは、ゴム部あるいは弾性体M3111が無い位置に設けられ、主に記録時の記録媒体の浮き上がりを抑える役割を果たしている。
また、ギア列は、搬送ローラM3060の駆動を排紙ローラM3100およびM3110に伝達する役割を果たしている。
以上の構成によって、画像形成された記録媒体は、第1の排紙ローラM3110と拍車M3120とのニップに挟まれ、搬送されて排紙トレイM3160に排出される。排紙トレイM3160は、複数に分割され、後述する下ケースM7080の下部に収納できる構成になっている。使用時は、引出して使用する。また、排紙トレイM3160は、先端に向けて高さが上がり、更にその両端は高い位置に保持されるよう設計されており、排出された記録媒体の積載性を向上し、記録面の擦れなどを防止している。
(E)キャリッジ部(図9〜図11)
キャリッジ部は、記録ヘッドH1001を取り付けるためのキャリッジM4000を有しており、キャリッジM4000は、ガイドシャフトM4020およびガイドレールM1011によって支持されている。ガイドシャフトM4020は、シャーシM1010に取り付けられており、記録媒体の搬送方向に対して直角方向にキャリッジM4000を往復走査させるように案内支持している。ガイドレールM1011は、シャーシM1010に一体に形成されており、キャリッジM4000の後端を保持して記録ヘッドH1001と記録媒体との隙間を維持する役割を果たしている。また、ガイドレールM1011のキャリッジM4000との摺動側には、ステンレス等の薄板からなる摺動シートM4030が張設され、記録装置の摺動音の低減化を図っている。
キャリッジM4000は、シャーシM1010に取り付けられたキャリッジモータE0001によりタイミングベルトM4041を介して駆動される。また、タイミングベルトM4041は、アイドルプーリM4042によって張設、支持されている。さらに、タイミングベルトM4041は、キャリッジM4000とゴム等からなるキャリッジダンパを介して結合されており、キャリッジモータE0001等の振動を減衰することで、記録される画像のむら等を低減している。
キャリッジM4000の位置を検出するためのエンコーダスケールE0005(図18について後述)が、タイミングベルトM4041と平行に設けられている。エンコーダスケールE0005上には、150lpi〜300lpiのピッチでマーキングが形成されてている。そして、当該マーキングを読み取るためのエンコーダセンサE0004(図18について後述)が、キャリッジM4000に搭載されたキャリッジ基板E0013(図18について後述)に設けられている。キャリッジ基板E0013には、記録ヘッドH1001と電気的な接続を行うためのヘッドコンタクトE0101も設けられている。また、キャリッジM4000には、電気基板E0014から記録ヘッドH1001へ、駆動信号を伝えるための不図示のフレキシブルケーブルE0012(図18について後述)が接続されている。
記録ヘッドH1001をキャリッジM4000に固定するための構成として次のものが設けられている。すなわち、記録ヘッドH1001をキャリッジM4000に押し付けながら位置決めするための不図示の突き当て部と、所定の位置に固定するための不図示の押圧手段が、キャリッジM4000上に設けられている。押圧手段は、ヘッドセットレバーM4010に搭載され、記録ヘッドH1001をセットする際に、ヘッドセットレバーM4010を回転支点を中心に回して、記録ヘッドH1001に作用する構成になっている。
さらに、キャリッジM4000には、CD−R等の特殊メディアへ記録を行う際や、記録結果や用紙端部等の位置検出用として、反射型の光センサからなる位置検出センサM4090が取り付けられている。位置検出センサM4090は、発光素子より発光し、その反射光を受光することで、キャリッジM4000の現在位置を検出することができる。
上記構成において記録媒体に画像形成する場合、行位置に対しては、搬送ローラM3060およびピンチローラM3070からなるローラ対が、記録媒体を搬送して位置決めする。また、列位置に対しては、キャリッジモータE0001によりキャリッジM4000を上記搬送方向と垂直な方向に移動させて、記録ヘッドH1001を目的の画像形成位置に配置させる。位置決めされた記録ヘッドH1001は、電気基板E0014からの信号に従って、記録媒体に対しインクを吐出する。記録ヘッドH1001についての詳細な構成および記録システムは後述する。本実施形態の記録装置においては、記録ヘッドH1001により記録を行いながらキャリッジM4000が列方向に走査する記録主走査と、搬送ローラM3060により記録媒体が行方向に搬送される副走査とを交互に繰り返す。これにより、記録媒体上に画像を形成していく構成となっている。
(F)フラットパス記録部(図12〜図14)
給紙部からの給紙は、図11に示したように記録媒体が通る経路がピンチローラに達するまで曲がっているため、記録媒体を曲げた状態で行われることになる。従って、例えば0.5mm程度以上の厚い記録媒体等を給紙部から給紙しようとすると、曲げられた記録媒体の反力が発生し、給紙抵抗が増えて給紙が行えない場合がある。また、給紙が可能であっても、排紙後の記録媒体が曲がったままとなったり、折れたりすることもある。
厚い記録媒体等、曲げたくない記録媒体や、CD−R等、曲げることのできない記録媒体に対して記録を行うのがフラットパス記録である。
ここで、フラットパス記録には本体背面のスリット上の開口部から(給紙装置の下)、手差し給紙の態様で記録媒体を本体のピンチローラにニップさせ、記録を行うタイプがある。しかし本実施形態のフラットパス記録は、記録媒体を本体手前の排紙口から記録位置まで給紙し、スイッチバックしてから記録を行う形態のものである。
フロントカバーM7010は、通常記録した記録媒体を数十枚程度積載しておくためのトレイを兼ねるために排紙部より下方にある(図8)。フラットパス記録時には、記録媒体を排紙口から水平に、通常の搬送方向とは反対方向に給紙するために、フロントカバーM7010を排紙口の位置まで上げる(図12)。フロントカバーM7010には不図示のフック等が設けられており、フラットパス給紙位置にフロントカバーM7010を固定可能である。フロントカバーM7010がフラットパス給紙位置にあることはセンサで検知可能であり、当該検知に応じてフラットパス記録モードと判断することができる。
フラットパス記録モードでは、記録媒体をフロントトレイM7010に載せて排紙口から記録媒体を挿入するために、まずフラットパスキーE3004を操作する。これによって、想定している記録媒体の厚みより高い位置まで、拍車ホルダM3130とピンチローラホルダM3000とを不図示の機構により持ち上げる。通紙領域内にキャリッジM4000が存在するような場合などは、キャリッジM4000を不図示のリフト機構により持ち上げることにより、記録媒体を挿入しやすくすることができる。またリアトレイボタンM7110を押すことによってリアトレイM7090を開き、さらにリアサブトレイM7091をV字に開くことも可能である(図13)。リアトレイM7090およびリアサブトレイM7091は、長い記録媒体を本体前面から挿入した場合は本体背面から突出するので、長い記録媒体を本体背面でも支えるためのトレイである。厚い記録媒体は記録中にフラットな姿勢を保たないとヘッドフェイス面と擦れたり、搬送負荷が変化したりすることから記録品位に影響を及ぼすおそれがあるので、これらのトレイの配設は有効である。しかし本体背面からはみ出ない程度の長さの記録媒体であれば、リアトレイM7090等を開く必要はない。
以上によって、記録媒体を排紙口から本体内に挿入可能となる。記録媒体の後端部(ユーザに最も近く位置する手前側の端部)と右端部とをフロントトレイM7010のマーカ位置に揃えて、フロントトレイM7010に載せる。
ここで再度フラットパスキーE3004を操作すると、拍車ホルダ3130が降りて排紙ローラM3100およびM3110と拍車3120とで記録媒体をニップする。その後、排紙ローラM3100,M3110で記録媒体を所定量本体内に引き込む(通常記録時の搬送方向とは逆方向)。最初に記録媒体をセットした際に記録媒体の手前側の端部(後端部)を揃えているので、短い記録媒体の前端部(ユーザから見て最も奥側の端部)は搬送ローラM3060まで届いていないことがある。従って所定量とは、想定している一番短い記録媒体の後端が搬送ローラM3060に届くまでの距離とする。所定量送られた記録媒体は搬送ローラM3060に届いているので、その位置でピンチローラホルダM3000を降ろして、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とで記録媒体をニップさせる。そして記録媒体をさらに送り、その後端部が搬送ローラM3060とピンチローラM3070とでニップされるようにする。これで記録媒体のフラットパス記録のための給紙が終了したことになる(記録待機位置)。
排紙ローラM3100およびM3110と拍車M3120とのニップ力は、通常記録時の排紙時に形成画像に影響を与えないよう、比較的低く設定されている。従って、フラットパス記録時には記録を行うまでに記録媒体の位置がずれてしまうおそれがある。しかし本実施形態では、ニップ力が比較的高い搬送ローラM3060とピンチローラM3070とによって記録媒体をニップさせるので、記録媒体のセット位置が確保されたことになる。また、プラテンM3040と拍車ホルダM3130の間にはフラットパス紙検知センサレバー(以下FPPEセンサレバーと称す)M3170が回動可能に設けられている。記録媒体を上記所定量だけ本体内に送るとき、FPPEセンサレバーM3170は、ここでは図示しない赤外線センサであるFPPEセンサを遮蔽または透過して、記録媒体の後端位置(記録時の前端位置)を検知する。
記録媒体が上記記録待機位置に設定されると、記録コマンドを実行する。すなわち、記録ヘッドH1001による記録位置まで搬送ローラM3060で記録媒体を搬送し、後は通常の記録動作と同じように記録を行い、記録後フロントトレイM7010に排紙することになる。
フラットパス記録をさらに行いたい場合は、記録した記録媒体をフロントトレイM7010から取り出し、次の記録媒体をセットして、後は前述した処理を繰り返せばよい。具体的には、フラットパスキーE3004を押すことによって、拍車ホルダM3130とピンチローラホルダM3000とを持ち上げて、記録媒体をセットすることから始まる。
一方、フラットパス記録を終了する場合は、フロントトレイM7010を通常記録位置に戻すことによって通常記録モードに戻すことができる。フラットパス機構は本発明の特徴を有するので、詳細については特徴構成の項で後述する。
(G)クリーニング部(図15、図16)
クリーニング部は記録ヘッドH1001のクリーニングを行うための機構である。これは、ポンプM5000、記録ヘッドH1001の乾燥を抑えるためのキャップM5010、記録ヘッドH1001の吐出口形成面をクリーニングするためのブレードM5020などから構成されている。
クリーニング部の主な駆動力は、APモータE3005から伝達される。APモータE3005には、不図示のワンウェイクラッチが設けられており、一方向の回転でポンプM5000を作動させ、もう一方向の回転ではブレードM5020の移動およびキャップM5010の昇降を行わせるようになっている。なお、APモータE3005は記録媒体の給紙動作の駆動源にも用いられるものであるが、クリーニング部の動作を行うための専用のモータが設けられていてもよい。
キャップM5010はモータE0003から不図示の昇降機構を介して昇降可能に駆動される。そして、上昇位置では、記録ヘッドH1500に設けた数個の吐出部のフェイス面毎にキャッピングを施し、非記録動作時等においてその保護を行ったり、あるいは吸引回復を行ったりすることが可能である。また、記録動作時には記録ヘッド9との干渉を避ける下降位置に設定され、またフェイス面との対向によって予備吐出を受けることが可能である。例えば記録ヘッドH1001に10個の吐出部が設けられ、5個の吐出部のフェイス面毎に一括してキャッピングを施すことが可能となるよう、図示の例ではキャップM5010は2つ設けられている。
ゴム等の弾性部材でなるワイパ部H5020はワイパホルダH5021に固定されている。ワイパホルダH5021は図16の+Yおよび−Y方向(吐出部における吐出口の配列方向)に移動可能である。そして、記録ヘッドH1001がホームポジションに到達したときに、矢印−Y方向にワイパホルダ25が移動することによって、ワイピングが可能である。ワイピング動作が終了すると、キャリッジをワイピング領域の外に退避させてから、ワイパがフェイス面等と干渉しない位置に戻す。なお、本例のワイパ部M5020には、全吐出部のフェイス面を含む記録ヘッドH1001の面全体をワイピングするワイパブレードM5020Aが設けられている。また、5つの吐出部のフェイス面毎に、ノズル近傍をするワイピングする2つのワイパブレードM5020B,M5020Cが設けられている。
そして、ワイピング後には、ワイパ部M5020がブレードクリーナM5060に当接することにより、ワイパブレードM5020A〜M5020C自身へ付着したインクなども除去することができる構成になっている。また、ワイピングに先立ってワイパブレードM5020A〜M5020Cにウエット液を転写させておくことによりワイピングによるクリーニング性を向上する構成(ウエット液転写部)が設けられている。このウエット液転写部の構成およびワイピング動作については後述する。
吸引ポンプM5000は、キャップM5010をフェイス面に接合させてその内部に密閉空間を形成した状態で負圧を発生させることが可能である。これにより、インクタンクH1900から吐出部内にインクを充填させたり、吐出口もしくはその内方のインク路に存在する塵埃、固着物、気泡等を吸引除去したりすることができる。
吸引ポンプM5000としては、例えばチューブポンプ形態のものが用いられる。これは、可撓性を有するものとしたチューブの少なくとも一部を沿わせて保持する曲面が形成された部材と、これに向けて可撓性チューブを押圧可能なローラと、このローラを支持して回転可能なローラ支持部とを有するものとすることができる。すなわち、ローラ支持部を所定方向に回転させることで、ローラは曲面形成部材上で可撓性チューブを押しつぶしながら転動する。これに伴い、キャップM5010が形成する密閉空間に負圧が生じてインクが吐出口より吸引され、キャップM5010からチューブないし吸引ポンプに引き込まれる。そして、引き込まれているインクはさらに下ケースM7080に設けた適宜の部材(廃インク吸収体)に向けて移送される。
なお、キャップM5010の内側部分には、吸引後の記録ヘッドH1001のフェイス面に残るインクを削減するために、吸収体M5011が設けられている。また、キャップM5010を開放した状態で、キャップM5010ないし吸収体M5011に残っているインクを吸引することにより、残インクによる固着およびその後の弊害が起こらないように配慮されている。ここで、インク吸引経路の途中に大気開放弁(不図示)を設け、キャップM5010をフェイス面から離脱させる際に予めこれを開放しておくことで、フェイス面に急激な負圧が作用しないようにしておくことが好ましい。
また、吸引ポンプM5000は、吸引回復だけでなく、キャップM5010がフェイス面に対向した状態で行われる予備吐出動作によってキャップM5010に受容されたインクを排出するためにも作動させることができる。すなわち、予備吐出されてキャップM5010に保持されたインクが所定量に達したときに吸引ポンプM5000を作動させることで、キャップM5010内に保持されていたインクをチューブを介して廃インク吸収体に移送することができる。
以上のワイパ部M5020の動作、キャップM5010の昇降および弁の開閉など、連続して行われる一連の動作は、モータE0003の出力軸上に設けた不図示のメインカムおよびこれに従動する複数のカム,アーム等によって制御可能である。すなわち、モータE0003の回転方向に応じたメインカムの回動によってそれぞれの部位のカム部,アーム等が作動することで、所定の動作を行うことが可能である。メインカムの位置はフォトインタラプタ等の位置検出センサで検出することができる。
(H)ウエット液転写部(図17、図16)
最近では、記録物の記録濃度、耐水性および耐光性等を向上する目的で、色材として顔料成分を含有するインク(以下、顔料インクという)が使用されることが多くなってきている。顔料インクは、元来固体である色材を、分散剤や、顔料表面に官能基を導入するなどして水中に分散させてなるものである。従って、フェイス面上でインク中の水分が蒸発し乾燥した顔料インクの乾燥物は、色材自体が分子レベルで溶解している染料系インクの乾燥固着物と比べ、フェイス面に与えるダメージが大きい。また、また顔料を溶剤中に分散させるために用いている高分子化合物がフェイス面に対して吸着されやすいという性質が見られる。これは、インクの粘度調整や、耐光性向上その他の目的でインクに反応液を添加する結果インク中に高分子化合物が存在する場合には、顔料インク以外でも生じる問題である。
この課題に対し、本実施形態では、ブレードM5020に液体を転写・付着させ、これによって濡れたブレードM5020でワイピングを行う。これにより、顔料インクによるフェイス面の劣化を防ぎ、かつワイパの磨耗を軽減し、さらにはフェイス面に蓄積したインク残渣を溶解させることによって蓄積物を除去するようにしている。かかる液体をその機能から本明細書ではウエット液と称し、これを用いるワイピングをウエットワイピングと称する。
本実施形態では、ウエット液を記録装置本体内部に貯蔵する構成がとられている。M5090はウエット液タンクであり、ウエット液としてグリセリン溶液等を収納している。M5100はウエット液保持部材で、ウエット液がウエット液タンクM5090から漏れないように適度な表面張力を有する繊維質部材等であり、ウエット液を含浸保持している。M5080はウエット液転写部材であり、例えば、多孔質であって適度な毛管力を備えた材質でなり、ワイパブレードと接触するウエット液転写部分M5081を有している。ウエット液転写部材M5080はウエット液が染み込んだウエット液保持部材M5100とも接しており、従ってウエット液転写部材M5080もウエット液が染み込むことになる。ウエット液転写部材M5080は、ウエット液が残り少なくなってもウエット液転写部分M5081へウエット液を供給できるだけの毛管力を有した材質である。
かかるウエット液転写部およびワイパ部の動作を説明する。
まず、キャップM5010を下降位置に設定し、キャリッジM4000がブレードM5020A〜M5020Cに触れない位置に退避させる。この状態で、ワイパ部M5020を−Y方向に移動させ、ブレードクリーナM5060の部位を通過させて、ウエット液転写部分M5081に接触させる(図17)。適切な時間だけ接触状態を維持することで、ブレードM5020にウエット液が適量転写される。
次にワイパ部M5020を+Y方向に移動させるが、ブレードがブレードクリーナM5060に触れるのはウエット液が付着していない面であるので、ウエット液はブレードに保持されたままになる。
ブレードをワイピング開始位置まで戻した後、キャリッジM4000をワイピング位置まで移動させる。再度、ワイパ部M5020を−Y方向に移動させることによって、ウエット液が付いた面で記録ヘッドH1001のフェイス面をワイピングすることが可能となる。
1.3 電気回路構成
次に本実施形態における電気的回路の構成を説明する。
図18は、記録装置J0013における電気的回路の全体構成を概略的に説明するためのブロック図である。本実施形態で適用する記録装置では、主にキャリッジ基板E0013、メイン基板E0014、電源ユニットE0015およびフロントパネルE0106等によって構成されている。
ここで、電源ユニットE0015は、メイン基板E0014と接続され、各種駆動電源を供給するものとなっている。
キャリッジ基板E0013は、キャリッジM4000に搭載されたプリント基板ユニットであり、ヘッドコネクタE0101を通じて記録ヘッドH1001との信号の授受、ヘッド駆動電源の供給を行うインターフェースとして機能する。ヘッド駆動電源の制御に供する部分として、記録ヘッドH1001の各色吐出部に対する複数チャネルのヘッド駆動電圧変調回路E3001を有しする。そして、フレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメイン基板E0014から指定された条件に従ってヘッド駆動電源電圧を発生する。また、キャリッジM4000の移動に伴ってエンコーダセンサE0004から出力されるパルス信号に基づいて、エンコーダスケールE0005とエンコーダセンサE0004との位置関係の変化を検出する。更にその出力信号をフレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメイン基板E0014へと出力する。
キャリッジ基板E0013には、図20に示すように、2つの発光素子(LED)E3011および受光素子E3013でなる光学センサE3010および周囲温度を検出するためのサーミスタE3020が接続されている。以下、これらのセンサをマルチセンサE3000として参照する。マルチセンサE3000により得られる情報は、フレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメイン基板E0014へと出力される。
メイン基板E0014は、本実施形態におけるインクジェット記録装置の各部の駆動制御を司るプリント基板ユニットである。その基板上にホストインタフェース(ホストI/F)E0017を有しており、不図示のホストコンピュータからの受信データをもとに記録動作の制御を行う。また、キャリッジモータE0001、LFモータE0002、APモータE3005、PRモータE3006など、各種モータと接続されて各機能の駆動を制御している。キャリッジモータE0001は、キャリッジM4000を主走査させるための駆動源となるモータである。LFモータE0002、記録媒体を搬送するための駆動源となるモータである。APモータE3005は、記録ヘッドH1001の回復動作および記録媒体の給紙動作の駆動源となるモータである。PRモータE3006は、フラットパス記録動作の駆動源となるモータである。さらに、PEセンサ、CRリフトセンサ、LFエンコーダセンサ、PGセンサのような、プリンタ各部の動作状態を検出する様々なセンサに対して、制御信号および検出信号の送受信を行うためのセンサ信号E0104に接続される。また、メイン基板E0014は、CRFFC E0012および電源ユニットE0015にそれぞれ接続されるとともに、さらにパネル信号E0107を介してフロントパネルE0106と情報の授受を行うためのインターフェースを有している。
フロントパネルE0106は、ユーザ操作の利便性のために、記録装置本体の正面に設けたユニットである。これは、リジュームキーE0019、LED E0020、電源キーE0018およびフラットパスキーE3004を有するほか(図6)、さらにデジタルカメラ等の周辺デバイスとの接続に用いるデバイスI/F E0100を有している。
図19は、メイン基板E1004の内部構成を示すブロック図である。
図において、E1102はASIC(Application Specific Integrated Circuit)である。これは、制御バスE1014を通じてROM E1004に接続され、ROM E1004に格納されたプログラムに従って、各種制御を行っている。例えば、各種センサに関連するセンサ信号E0104や、マルチセンサE3000に関連するマルチセンサ信号E4003の送受信を行う。そのほか、エンコーダ信号E1020、フロントパネルE0106上の電源キーE0018、リジュームキーE0019およびフラットパスキーE3004からの出力の状態を検出している。また、ホストI/F E0017、フロントパネル上のデバイスI/F E0100の接続およびデータ入力状態に応じて、各種論理演算や条件判断等を行い、各構成要素を制御し、インクジェット記録装置の駆動制御を司っている。
E1103はドライバ・リセット回路である。これは、ASIC E1102からのモータ制御信号E1106に従って、CRモータ駆動信号E1037、LFモータ駆動信号E1035、APモータ駆動信号E4001およびPRモータ駆動信号E4002を生成し、各モータを駆動する。さらに、ドライバ・リセット回路E1103は、電源回路を有しており、メイン基板E0014、キャリッジ基板E0013、フロントパネルE0106など各部に必要な電源を供給する。さらには電源電圧の低下を検出して、リセット信号E1015を発生および初期化を行う。
E1010は電源制御回路であり、ASIC E1102からの電源制御信号E1024に従って発光素子を有する各センサ等への電源供給を制御する。
ホストI/F E0017は、ASIC E1102からのホストI/F信号E1028を、外部に接続されるホストI/FケーブルE1029に伝達し、またこのケーブルE1029からの信号をASIC E1102に伝達する。
一方、電源ユニットE0015からは電力が供給される。供給された電力は、メイン基板E0014内外の各部へ、必要に応じて電圧変換された上で供給される。また、ASIC E1102からの電源ユニット制御信号E4000が電源ユニットE0015に接続され、記録装置本体の低消費電力モード等を制御する。
ASIC E1102は1チップの演算処理装置内蔵半導体集積回路であり、前述したモータ制御信号E1106、電源制御信号E1024および電源ユニット制御信号E4000等を出力する。そして、ホストI/F E0017との信号の授受を行うとともに、パネル信号E0107を通じて、フロントパネル上のデバイスI/F E0100との信号の授受を行う。さらに、センサ信号E0104を通じてPEセンサ、ASFセンサ等各部センサ類により状態を検知する。さらに、マルチセンサ信号E4003を通じてマルチセンサE3000を制御するとともに状態を検知する。、またパネル信号E0107の状態を検知して、パネル信号E0107の駆動を制御してフロントパネル上のLED E0020の点滅を行う。
さらにASIC E1102は、エンコーダ信号(ENC)E1020の状態を検知してタイミング信号を生成し、ヘッド制御信号E1021で記録ヘッドH1001とのインターフェースをとり記録動作を制御する。ここにおいて、エンコーダ信号(ENC)E1020はCRFFC E0012を通じて入力されるエンコーダセンサE0004の出力信号である。また、ヘッド制御信号E1021は、フレキシブルフラットケーブルE0012を通じてキャリッジ基板E0013に接続される。そして、前述のヘッド駆動電圧変調回路E3001およびヘッドコネクタE0101を経て記録ヘッドH1001に供給されるとともに、記録ヘッドH1001からの各種情報をASIC E1102に伝達する。このうち吐出部毎のヘッド温度情報については、メイン基板上のヘッド温度検出回路E3002で信号増幅された後、ASIC E1102に入力され、各種制御判断に用いられる。
図中、E3007はDRAMであり、記録用のデータバッファ、ホストコンピュータからの受信データバッファ等として、また各種制御動作に必要なワーク領域しても使用されている。
1.4 記録ヘッド構成
以下に本実施形態で適用するヘッドカートリッジH1000の構成について説明する。 本実施形態におけるヘッドカートリッジH1000は、記録ヘッドH1001と、インクタンクH1900を搭載する手段およびインクタンクH1900から記録ヘッドにインクを供給するための手段を有している。そして、キャリッジM4000に対して着脱可能に搭載される。
図21は、本実施形態で適用するヘッドカートリッジH1000に対し、インクタンクH1900を装着する様子を示した図である。本実施形態の記録装置は、10色の顔料インクによって画像を形成する。10色とはシアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、第1ブラック(K1)、第2ブラック(K2)、レッド(R)、グリーン(G)およびグレー(Gray)である。従ってインクタンクT0001もこれら10色分のものが独立に用意されている。そして、図に示すように、インクタンクそれぞれがヘッドカートリッジH1000に対して着脱自在となっている。なお、インクタンクH1900の着脱は、キャリッジM4000にヘッドカートリッジH1000が搭載された状態で行えるようになっている。
1.5 インク構成
以下に本発明で使用する10色のインクについて説明する。
本発明に用いられる10色とは、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、第1ブラック(K1)、第2ブラック(K2)、グレー(Gray)、レッド(R)およびグリーン(G)である。各色に用いられる着色剤は全てが顔料であることが好ましい。ここで、顔料の分散を行うためには、公知一般の分散剤を用いてもよいし、また公知一般の方法で顔料表面を改質し、自己分散性を付与してもよい。本発明の主旨にあえば、少なくとも一部の色に用いられる着色剤が染料であってもよい。また、少なくとも一部の色に用いられる着色剤が顔料と染料を調色した形でもよく、顔料を複数種ふくんでもよい。また本発明に用いられる10色インクには、本発明の主旨にある範疇で、水溶性有機溶剤・添加剤・界面活性剤・バインダー・防腐剤から選ばれる少なくとも1種以上が含まれてもよい。
2.特徴構成
2.1 フラットパス記録部駆動機構
ここでは、既に説明したフラットパス記録において、本発明を特徴付けるより詳細な機構について説明する。
図22は、フラットパス時の搬送機構部の概略構成を示す斜視図である。フラットパス動作の駆動源となるPRモータE3006から減速された動力は、ピンチローラホルダM3000を昇降するためのギア列M9000と、拍車ホルダM3130を昇降するためのギア列M9100とに分岐される。すなわち、一つのモータで二つの機構の制御を行う。
図23は上記2つのギア列M9000およびM9100の構成を説明するための側面図である。ギア列M9000は、M9001〜M9005およびM9010とから構成され、ピンチローラホルダM3000の昇降を司る。一方、ギア列M9100は、上記ギア列M9000のM9005から分岐するM9101、M9110、M9102およびM9103から構成され、拍車ホルダM3130の昇降に関与する。
ギア列M9000の最終段に設けられたPR振り子ギア機構M9010は、ピンチローラリフト入力ギア(以下PRリフト入力ギアと称す)M9210に接続可能になっている。PRリフト入力ギアM9210は、ピンチローラリフト軸M9200によって、シャーシM1010に回転可能に軸支されており、PRモータE3006の両方向の駆動が伝達される。当該両方向の駆動伝達についての詳細は後述する。なお、PRリフト入力ギアM9210の一部には欠歯部9214が配備されている。
再度図22を参照するに、ピンチローラリフト軸M9200にはピンチローラホルダM3000を離反するためのピンチローラリリースカム(以下PRリリースカムと称す)M9220が複数個配置されている。PRリリースカムM9220は、ピンチローラホルダM3000においてピンチローラM3070が配置された側の端部とは逆側の端部に作用するように形成されている。すなわち、当該逆側の端部を押し下げることにより、ピンチローラホルダM3000を回転させ、他方の端部に配置されたピンチローラM3070を搬送ローラM3060から離反させる。また、ピンチローラリフト軸M9200には、PEセンサレバーM3021を必要に応じて離反するためのPEリリースカムM9230も配置されている。
更に、ピンチローラリフト軸M9200の片方の端部に位置するPRリフト入力ギアM9210には、ペーパガイドフラッパM3030の一端を押し下げるためのカム形状M9211が一体に形成されている。また、ピンチローラリフト軸M9200の他方の軸端部にも、ペーパガイドフラッパM3030の他方の端部を押し下げるためのペーパガイドフラッパリリースカム(以下PGFリリースカムと称す)M9240が配置されている。これら2つのカム形状は対称的な形状になっており、同じタイミングでペーパガイドフラッパM3030を押し下げることにより、ペーパガイドフラッパM3030の通紙面を概ね水平にし、フラットパスを実現している。
PRリフト入力ギアM9210には円筒状のリブM9212が更に配設されている。ピンチローラリフト軸M9200の回転に伴い、リブM9212が赤外線センサである不図示のPRリフトセンサを開放および遮蔽することにより、ピンチローラリフト軸M9200の回転角度が検出できるようになっている。
次に、再度図23を参照することにより、ギア列M9100の説明を行う。ギア列M9100の途中には、SB振り子ギア機構M9110が設けられている。振り子ギア機構M9110には太陽ギアM9111に対し、1つの遊星ギアM9112が接続されている。よって、SB振り子ギア機構M9110より先のギア列にはPRモータE3006の駆動は一方向にしか伝達されない。
ギア列M9100のギアM9103から更に連結された最終段階には、拍車ホルダリフト入力ギア(以下SBリフト入力ギアと称す)M9310が接続されている(図22)。SBリフト入力ギアM9310は、拍車ホルダリフト軸M9300に固定されており、その回転によって拍車ホルダM3130の昇降を行う。なお、拍車ホルダリフト軸M9300は、シャーシM1010およびギア列M9100の一部が配置された拍車ホルダギアベースM9320に回転可能に軸支されている。
拍車ホルダリフト軸M9300の両端部には、拍車ホルダM3130の腕部M3131およびM3132に作用するカムが形成された拍車ホルダリフトカムM9330がそれぞれ設けられている。
SBリフト入力ギアM9310には円筒状のリブM9311が更に設けられている。拍車ホルダリフト軸M9300の回転に伴い、リブM9311が赤外線センサである不図示の拍車ホルダリフトセンサE9000を開放および遮蔽することにより、拍車ホルダリフト軸M9300の回転角度が検出できるようになっている。
(A)ピンチローラホルダリフト機構部
次に、ピンチローラホルダM3000を昇降するための詳細な機構について説明する。
図24は、図23で説明したPR振り子ギア機構M9010とPRリフト入力ギアM9210との接続状態を詳細に説明するための斜視図である。PR振り子ギア機構M9010は、太陽ギアM9011と2つの遊星ギアM9012、M9013とから構成されている。2つの遊星ギアM9012、M9013は、PR振り子ギア機構M9010の幅方向の中心M9010aを境に両側に配置されている。また、PRリフト入力ギアM9210には、それぞれの遊星ギアM9012、M9013と接続するための2つのギアM9213およびM9215が、フランジM9217を挟んで形成されている。2つのギア形状M9213およびM9215には、それぞれ歯の形成されていない欠歯部M9214およびM9216が設けられている。
図25(a)〜(c)は、ピンチローラリフト軸M9200を動作するための、一連のギア列M9000の連結動作を説明するための側面図である。ここで、図25(a)は、PRモータE3006が時計方向E3006aに回転した状態を示している。この場合、ギアM9001〜M9005を介し、PR振り子ギア機構M9010は矢印M9010b方向に回転する。これに伴い、PR振り子ギア機構M9010の片方の遊星ギアM9012に接続しているPRリフト入力ギアM9210は、矢印M9210b方向に回転する。これにより、PRリフト入力ギアM9210が固定されているピンチローラリフト軸M9200も矢印M9210b方向に回転する。
図25(b)は、図25(a)からさらに回転が進んだ状態を示している。ここでは、遊星ギアM9012がPR入力ギアM9210の欠歯部M9214に落ち込み、PRモータE3006の駆動伝達が遮断されている。
図25(c)は、図25(b)の状態からPRモータE3006を半時計方向E3006bに回転した状態を示している。この場合、ギアM9001〜M9005を介し、PR振り子ギア機構M9010は矢印M9010c方向に回転する。これに伴い、PR振り子ギア機構M9010は、もう片方の遊星ギアM9013によってPRリフト入力ギアM9210に接続し、矢印M9210c方向に回転する。これにより、PRリフト入力ギアM9210が固定されているピンチローラリフト軸M9200も矢印M9210c方向に回転する。
反時計回り方向の回転を更に継続すると、前述と同様に遊星ギアM9013もPR入力ギアM9210の欠歯部M9216に落ち込み、駆動の伝達が遮断される。
以上の構成によれば、PRモータE3006の回転方向を反転させながらの駆動を繰り返すことにより、PRリフト入力ギアM9210は、遊星ギアM9012およびM9013へ交互に接続することが可能となる。すなわち、PR振り子ギア機構M9010に固定押されたピンチローラリフト軸M9200は、所定の角度ずつM9210bおよびM9210c方向への回転が制御される。
図26(a)および(b)は、ピンチローラリフト軸M9200に取り付けられたPRリリースカムM9220の作用動作を説明するための側面図である。なお、同図は、図22の構成を矢印D方向から観察した状態の側面図であり、図23や図25とは各部材の配置や回転方向が左右において反転している。
図26(a)はPRリリースカムM9220が初期位置にある状態を示しており、当該初期状態において、ピンチローラM3070は搬送ローラM3060に圧接している。
一方、図26(b)は、初期状態からPRモータE3006が駆動し、既に説明したギア列M9000の連動によってピンチローラリフト軸M9200が矢印9210b方向に所定量回転した状態を示している。ピンチローラリフト軸M9200が回転すると、PRリリースカムM9220も同様に回転し、ピンチローラホルダM3000の端部M3000aに作用して、当該部位を押し下げる。これによってピンチローラホルダM3000は矢印M3000b方向に回転し、端部M3000aとは反対の端部に位置するピンチローラM3070は搬送ローラM3060から離反する。図26(b)は、ピンチローラM3070が最も高く持ち上げられた状態を示しており、このとき搬送ローラM3060とピンチローラM3070との間には所定距離Aの隙間が形成されている。距離Aは、フラットパスが要されるような厚い記録媒体でも充分通過できる距離に設定されている。なお、ここでは図示していないが、ピンチローラばねを更に配備することによって、離反の動作負荷を軽減させるようにしても良い。
図27(a)および(b)は、同じくピンチローラリフト軸M9200に取り付けられたPEリリースカムM9230の作用動作を説明するための側面図である。図27(a)および(b)においても、図26(a)および(b)と同様、図22の構成を矢印D方向から観察した状態の側面図となっている。
図27(a)はPEリリースカムM9230が初期位置にある状態を示している。当該初期状態において、PEセンサレバーM3021は不図示のPEセンサレバーばねの作用により図示の位置に付勢されている。これにより、PEセンサレバーM3021の遮光板部がPEセンサE0007を遮蔽した状態をなる。
記録動作の際、上記初期状態において何らかの記録媒体が矢印C´の方向から搬送されて来ると、その先端部がPEセンサレバーM3021の部位をC´方向に押し、PEセンサレバーM3021を図中の時計方向に回転させる。この回転により、PEセンサレバーM3021の遮蔽板はPEセンサE0007の位置から外れ、透過状態となったPEセンサE0007は、そのタイミングで記録媒体の端部を検出する。このような構成により、記録媒体の先端部あるいは後端部を検知することが出来る。
図27(b)は用紙検知レバーとしてのPEセンサレバーM3021がPEリリースカムM9230によってリリースされた状態を示す部分断面図である。PEリリースカムM9230が矢印M9230a方向に回転すると、PEセンサレバーM3021のカムフォロア部は押し下げられ、PEセンサレバーM3021が矢印M3021a方向に回転する。この回転により、PEセンサレバーM3021に取り付けられている用紙検知部M3021bは、ピンチローラホルダM3000の内側に隠れる。この状態で、用紙が通紙経路に搬入されてきても、用紙はPEセンサレバーM3021に当接することはない。
図26および図27で説明したように、PRリリースカムM9220およびPEリリースカムM9230は、同じピンチローラリフト軸M9200の回転によって動作する。しかし、これら2つのカムの取り付け角度などを調整することによって、互いの動作タイミングをずらすことが出来る。例えば、PEセンサレバーM3021だけをリリースして、ピンチローラホルダM3000は搬送ローラM3060に当接した状態を形成することも出来る。このような状態が実現されれば、用紙を通常の搬送方向とは逆のC方向に自動搬送する際でも、当該用紙を搬送ローラM3060とピンチローラM3070とで挟持しつつ、用紙の表面をPEセンサレバーM3021による傷付きから防御することが出来る。
図28(a)〜(c)は、ペーパガイドフラッパM3030の回避動作を模式的に示す部分断面図である。図28(a)はペーパガイドフラッパM3030が通紙を案内するためにアップした状態を示している。既に説明したが、ペーパガイドフラッパM3030は、図示しないばね部材により持ち上げられる方向に付勢されている。そして、不図示の軸受け部を中心に回転可能になっており、シャーシM1010に当接することで位置決めされている。
図28(b)はペーパガイドフラッパM3030がダウンした状態を示す部分断面図である。ピンチローラリフト軸M9200の両端には、PRリフト入力ギアM9210に形成されたカム形状M9211とPGFリリースカムM9240(図22参照)が対象に形成されており、ペーパガイドフラッパM3030の腕部M3031に当接している。上記2つのカム形状が回転することにより、腕部M3031は矢印M3030a方向に押し下げられ、ペーパガイドフラッパM3030のアップした側も下げられる。これにより、ペーパガイドフラッパM3030の通紙経路面は概ね水平となる。フラットパス記録時には、このような水平状態の下、記録媒体が排紙口側から挿入または搬送される。
図28(c)は、ペーパガイドフラッパM3030を図28(b)の状態よりもさらに下方へ押し下げた状態を示す部分断面図である。通常、ペーパガイドフラッパM3030には、自動給紙装置から搬送された記録媒体の静電気を除去するための除電ブラシM3032が設けられている。しかし、記録媒体のこしが弱い場合には、排紙口から挿入された記録媒体の搬送力が除電ブラシM3032の抵抗力に負けて、上方に向かってしまう恐れが生じる。よって、本実施形態ではこのような状況を回避するために、除電ブラシが付設されたペーパガイドフラッパM3030を、図28(b)で説明した水平な状態よりも更に押し下げ、通紙経路に除電ブラシが突出しないようにしている。
以上説明した機構により本実施形態のペーパガイドフラッパM3030は、図28(a)に示す通常状態、図28(b)に示す小回避状態、図28(c)に示す大回避状態、の3つの状態に変位することが出来る。
図29は、図26〜図28で説明した3つの機構の動作タイミングを説明するためのタイミングチャートである。上記3つの機構は、互いにタイミングをずらしながら動作するように、同じピンチローラリフト軸M9200にそれぞれのカムが角度を異ならせて設置されている。図において、横軸はピンチローラリフト軸M9200の回転角度を示している。縦軸は3つの機構とそのポジション、すなわちリリース(回避状態)にあるか作用状態にあるか、を示している。
既に説明した通り、本実施形態のピンチローラリフト軸M9200はPRモータE3006の両方向の回転に対して一定角度しか回転されず、ポジション1〜ポジション5はこの回転可能範囲を示している。すなわち、ポジション1より左側とポジション5より右側は、PRモータE3006の駆動が伝達されず、空転している領域を示している。ここでは、図25で示したPRモータE3006の時計方向の回転E3006aを、ポジション1からポジション5に向かう方向と定義する。
フラットパス記録を行う場合、ペーパガイドフラッパM3030は、ほぼ水平面を形成していることが要される。よって、ペーパガイドフラッパM3030が大リリース(大回避)または小リリース(小回避)状態にあるポジション3〜5の領域が適用される。特に、記録媒体を自動給紙する際には、ピンチローラM3070と搬送ローラM3060とによって記録媒体を挟持および搬送することが要される。同時に、PEセンサレバーM3021に付随した用紙検知部M3216bによる記録媒体への引っかかりや傷付きも防止しなければならない。よって、ピンチローラM3070が圧接状態で、且つPEセンサレバーM3021がリリース(回避)状態にあるポジション4が適用される。一方、記録動作時にはPEセンサレバーM3021により記録媒体の後端を検知する必要があるため、ポジション5が適用される。
以上説明した様にギア列M9000によって伝達された動力によって、ピンチローラホルダM307の昇降、PEセンサレバーのPEセンサE0007に対する遮蔽および開放、更にペーパガイドフラッパM3030の傾斜の変動が、同時に行われる。
(B)拍車ホルダリフト機構部
次に、ギア列M9100によって伝達される動力を用いた拍車ホルダリフト機構について説明する。
図30は、拍車ホルダM3130を昇降するためのギア列M9100を示す側面図である。PRモータE3006が時計方向E3006aに回転すると、ギアM9001〜M9005を介して、ギア列M9100の初段にあたるギアM9101が矢印M9101a方向に回転する。この回転により、次段のSB振り子ギア機構M9110の太陽ギアM9111が矢印M9110aに回転するので、これに連結する遊星ギアM9112は、ギアM9102に接続する。ギアM9102が回転すると、この回転力はギア列M9103〜M9107を介して、SBリフト入力ギアM9310に伝達される。SBリフト入力ギアM9310には、拍車ホルダリフト軸M9300を昇降するためのカムM9330が付随されており、SBリフト入力ギアM9310の回転に伴いカムM9330が作用し、拍車ホルダM3131の昇降が可能となっている。
一方、PRモータE3006が矢印E3006aとは逆の方向に回転した場合、SB振り子ギア機構M9110は矢印M9110aと逆に回転し、遊星ギアM9112はギアM9102から離反する。結果、拍車ホルダ昇降は行われなくなる。すなわち、PRモータE3006の時計方向の回転E3006a一方向においてのみ、拍車ホルダM3131の昇降は可能となる。
以上説明した拍車ホルダリフト機構部によれば、PRモータE3006を時計方向E3006aに回転し続けた場合、常に拍車ホルダM3130の昇降が継続されることになる。しかし、PRモータE3006の駆動力はピンチローラホルダM3000の昇降にも寄与しているので、両者の間に何の制御も行われないと、ピンチローラホルダM3000の昇降と拍車ホルダM3130の昇降とは同時に行われてしまう。フラットパス記録時には、ピンチローラホルダM3000の昇降と拍車ホルダM3130の昇降とを個別に動作させたい場合も生じるので、この場合本構成のままでは都合が悪い。
よって本実施形態では、SB振り子ギアM9110に対し、動作規制ユニットM9120を接続し、選択的に拍車ホルダM3130への駆動接続を行うことを可能としている。動作規制ユニットM9110は、SB振り子ギア機構M9110の回転を規制し、ギアM9102に接続する以前にSB振り子ギア機構M9110の回転を止めてしまう働きがある。
図31(a)および(b)は動作規制ユニットM9120をそれぞれ両側から観察した場合の分解斜視図である。動作規制ユニットM9120は、ギア部M9121、リング部材M9122、リング部材M9123、更にギア部M9121とそれぞれのリング部材とを圧接するばねM9124およびM9125、とから構成されている。ギア部M9121には、先端に爪形状M9121bを有する軸形状M9121aと、同様に先端に爪形状M9121dを有する軸形状M9121cとが形成されている。それぞれの爪形状はリング部材M9122、M9123に嵌合するようになっている。これにより、ギア部M9121とリング部材M9122、およびギア部M9121とリング部材M9123は、ばねM9124、M9125を介して圧接し、2つのリング部材はギア部M9121に伴って回転する。
リング部材M9122、M9123の外周部には最外周面よりも一段落ちた凹部M9122a、M9123aがそれぞれ設けられている。また、リング部材M9122のリング部材9123と接する面にはリブM9122c、M9122dとによって仕切られた凹形状M9122bが設けられている。リング部材M9123のリング部材M9122に対向する面には、凹形状M9122bに嵌号するようにリブM9123cが設けられている(図32参照)。また、リング部材M9123の外周面には、凸形状M9123bが形成されている。
次に、リング部材M9122とM9123との動作について、リング部材M9123が固定されているものとして説明する。
図32(a)および(b)は、リング部材M9123のリブM9123cが、リング部材9122の凹形状M9122bを仕切る一方のリブM9122dに突き当たっている状態を示す図である。図32(a)は分解図、同図(b)は外周部を示している。両リング部材の外周部に設けた凹部M9122aとM9123aとは、図32(b)に示すように同位相になるように設定されている。この状態において、リブ同士が当接しているので、リング部材は矢印M9211e方向には回転できないが、矢印M9122f方向には回転可能である。
図33(a)および(b)は、図32の状態から矢印M9122f方向にリング部材M9122を回転させ、リング部材M9122の他方のリブM9122cが、リング部材M9123のリブM9123cに突き当たった状態を示している。両リング部材の外周部に設けた凹部M9122aとM9123aとは図33(b)に示すようにずれた位置となる。
図34(a)〜(d)は、上記動作規制ユニットM9120の駆動伝達に対する働きを説明するための模式図である。図34(a)はPRモータE3006を反時計方向E3006b方向に大きく回転させている状態を示している。本状態は、図29におけるポジション1に相当する。この状態において、SB振り子ギア機構M9110は矢印M9110b方向に回転するため、ギアM9102には接続はしない。動作規制ユニットM9120においては、リング部材M9123の外周面に設けられた凸形状M9123bがギア列を支持しているベース部材M9300のリブM9300aに突き当たっているため、これ以上回転することはない。もう一つのリング部材M9122も、図33(b)に示すように振り切られ、リブ同士は当接している状態となる。
図34(b)は、図34(a)の状態からPRモータE3006を時計方向E3006a回転させた状態を示している。PRモータE3006が時計方向E3006aに回転すると、SB振り子ギア機構M9110はギアM9102に接続する方向、すなわち矢印M9110a方向に回転する。一方、動作規制ユニットM9120は矢印M9120c方向に回転する。ここで、SB振り子ギア機構M9110には、動作規制ユニットM9120のリング部材M9122の外周面に突き当たって、その回転を規制するための腕部M9110cが設けられている。また、さらに回転が進んでも、腕部M9110cはリング部材M9123の外周面に突き当たるため、その回転は規制され続ける。よって、SB振り子ギア機構M9110は、ギアM9120に接続して駆動を伝達することができない。すなわち、この状態において、PRモータE3006の駆動はピンチローラホルダM3000を昇降するためのギア列のみに接続される。
図34(c)は図34(b)からPRモータE3006をさらに回転させた状態を示している。本状態は、図29におけるポジション5に相当する。ピンチローラホルダM3000を昇降させるためのPR振り子ギア機構M9010は、図25(b)で説明した欠歯に落ちており、駆動は空転している。また、SB振り子ギア機構M9110の腕部M9110cは、図34(b)の状態から継続して動作規制ユニットM9120のリング部材M9123に当接している。よって、ギアM9102への駆動伝達は行われない。結果、本状態でPRモータE3006を時計方向E3006aに回転し続けても、ピンチローラホルダM3000の昇降機構、拍車ホルダM3130の昇降機構のどちらにも駆動は伝達されない。なお、本状態において、動作規制ユニットM9120のリング部材M9122の外周面に設けられた凹形状M9122aと、リング部材M9123の外周面に設けられた凹形状M9123aとの位相は合致している。
図34(d)は、図34(c)の状態から、PRモータE3006を矢印E3006b方向に所定量回転させた状態を示している。当該所定量とは、動作規制ユニットM9120のリング部材M9123において、外周面に設けられた凸形状M9123bがギア列を支持しているベース部材M9300のリブM9300aに突き当たるまでの回転量に相当する。更に当該所定量は、ピンチローラホルダM3000を駆動するためのPR振り子ギアM9010が、図34(d)に示す状態から矢印M9010c方向に回転し、PRリフト入力ギアM9210に接続するために必要な回転量よりは少なく設定されている。そのため、図34(d)の状態においては、ピンチローラ昇降機構への駆動力は伝達されない。一方で、SB振り子ギア機構M9110の腕部M9110cに対向する位置には、動作規制ユニットM9120のリング部材M9122、M9123の外周面に設けられた凹形状M9122aおよびM9123aが存在している。
図34(e)は、図34(d)の状態からPRモータE3006を時計方向E30006a方向に回転させた状態を示している。この場合、まずSB振り子ギア機構M9110の腕部M9110cが、動作規制ユニットM9120のリング部材M9122およびM9123の外周面に設けられた凹形状M9122aおよびM9123a部に落ち込む。そのため、ギアM9102に接続するに十分な回転量がSB振り子ギア機構M9110に確保される。その後、腕部M9110cはリング部材M9122、M9123の凹形状M9122aおよびM9123aにロックされ、駆動力はギアM9102に伝達され続ける。結果、拍車ホルダM3130の昇降が可能となる。なお、このタイミングにおいて、ピンチローラホルダM3000を昇降するギア列M9000のPR振り子ギア機構M9010とPR入力ギアM9210とは欠歯状態にある。よってこれらは空転し、ピンチローラホルダ昇降機構への駆動力は伝達されない。
ここで、図34(c)の状態から図34(d)の状態になるために要される回転量以上にPRモータE3006を反時計方向E3006b方向に回転させた場合を考える。この場合、リング部材M9122の外周面に設けられた凹部M9122aがもう一つのリング部材M9123の凹部M9123aと全くオーバーラップしていない状態になっていることも考えられる。この場合、このような状態からPRモータE3006を時計方向E3006a方向に回転させたとしても、SB振り子ギア機構M9110の腕部M9110cはまずリング部材M9122の外周面に規制され、その後リング部材M9123の外周面に規制される。よって、ギアM9102に駆動を伝達するために必要なリング部材の凹部への落ち込みが達成されず、結果、拍車ホルダ昇降機構への駆動は伝達されない。
つまり、図29に示す個々のポジション間の移動に必要な回転量を、上記回転量よりも大きく設計しておくことにより、ポジション間の逆方向の移動を規制することが出来る。例えば、ポジション5からポジション4へ移動した後、再度ポジション5に移動しようとしても、拍車ホルダ昇降機構側への駆動伝達は阻止されるのである。
図35は、本実施形態の拍車ホルダ昇降機構の動作タイミングを、既に説明した図29のタイミングチャートに書き加えた図である。既に説明した様に、ポジション5の外側には、PR振り子ギア機構M9010のPRモータE3006反転時の切り替えによる不感帯領域Aが存在する。よって、SB振り子ギアM9110の腕部M9110cが動作規制ユニットM9120のリング部材M9122、M9123の外周面に設けられた凹形状M9122a,M9123a部に落ち込むに必要な回転量Bは、不感帯領域Aよりも小さく設計されている。更に、ポジション1〜5の各ポジション間を移動するための回転量Cは、回転量Bよりも大きく設計されている。
以上説明したように、拍車ホルダ昇降機構へ駆動を伝達するためには、PRモータE3006の時計まわり方向E3006aへの回転と、反時計周り方向E3006bの回転を、交互に繰り返さなければならない。すなわち、まず時計回り方向E3006aへの回転の後、反時計回り方向E3006bへ所定量回転して動作規制ユニットを図32(b)に示す状態とする。更に、PRモータE3006を所定量だけ反時計方向に回転させた後、再度PRモータE3006を時計方向に回転させる。以上4段階の回転動作によって初めて拍車ホルダ昇降機構へ駆動力が伝達されるのである。
また、本実施形態の構成であれば、拍車ホルダの昇降時にはピンチローラ昇降機構への駆動伝達が行われることはない。すなわち、1つのモータE3006の回転駆動によって、ピンチローラ昇降機構と拍車ホルダ昇降機構の動作とをそれぞれ独立して行うことが可能となるのである。
2.2フラットパス記録部制御
図36は、フラットパス記録時において、本実施形態の記録装置およびユーザが行う動作シーケンスを説明するためのフローチャートである。また図37は、個々の工程における各機構の動作状態を説明するための模式的側断面図である。なお、フラットパス記録部の動作については、1.2(F)フラットパス記録部の項で既に説明したが、ここでは、本発明の特徴も交えて、フラットパス記録動作のより詳細な説明を行う。
フラットパス記録モードを行う際、まず、ステップS1において、CPUはセンサの出力値からフロントカバーM7010の位置を検知する。フラットパス記録を行うにあたっては、記録媒体を排紙口から水平に給紙するために、ユーザはフロントカバーM7010を排紙口の位置まで上げる動作を行う。よって、このユーザ操作を検出することによって、フラットパス記録モードが開始される。
ステップS2では、現在記録動作中であるか否かの判定を行う。もし、記録中であると判断された場合には、ステップS3に進み記録中のページのみを記録する。更に、後続する記録データが存在する場合には、ステップS4で当該データをキャンセルする。本実施形態の記録装置では、通常のモードで排紙トレイとして使用していたフロントカバーM7010を、フラットパス記録時には給紙トレイとして概ね水平にしてしまう。記録中に廃止トレイが水平に配置転換され、この状態で複数枚の記録媒体を次々と排出すると、後続して排出される記録媒体が既に排出されている記録媒体を押し出してしまう懸念が生じる。よって、本実施形態ではこのような状況を回避するために、記録中であるの1枚の記録媒体のみ、記録を完了させ、これを排出する。
ステップS2で記録中ではないと判断された場合、ステップS5へ進み、PEセンサE0007、FPPEセンサE9001両方の出力を確認する。ステップS2で記録中ではないと判断された場合であっても、通紙部には前回の記録媒体が残っている恐れがある。よって、本実施形態では、念のために2つのセンサを用いて記録媒体の有無の最終確認を行う。ここでどちらか一方でも用紙有り状態(ON状態)が検出された場合には、ステップS6に進み用紙排出処理を行う。以上の工程まで終了した時点で、通紙経路内には用紙が残っていないことが確実となる。この際、フラットパス記録を行うに当たっての初期動作が終了したことをユーザに告知するために、LEDの点灯・点滅、ブザー音の作動、入力機器の画面への表示、などの動作を行っても良い。初期動作の完了を確認すると、ユーザはフラットパスキーE3004を操作することが出来る。
ステップS7でCPUは、フラットパスキーE3004がON状態にあるか否かを判断する。フラットパスキーE3004がON状態にあると判断された場合、ステップS8に進む。
ステップS8では、まず拍車ホルダM3130を記録媒体の厚みより十分高い位置までリリースするため、ポジション5の位置まで移動する。
次いでステップS9にて、ポジション3の位置に戻し、ピンチローラホルダM3000をリリースする。
図37(a)は、当該ポジション3の状態、すなわち拍車ホルダM3130およびピンチローラホルダM3000が共に十分にリリースされた状態を示している。本状態において、ペーパガイドフラッパM3030は大リリース状態となっており、除電ブラシM3032は下方へ退避している。また、PEセンサレバーM3021も図27(b)で説明した回避状態となっており、排紙口側から用紙を挿入したとしてもこれに引っ掛かることはない。
続くステップS10において、ユーザが記録媒体をセットする。ユーザは、記録媒体の後端部(ユーザに対し手前側の端部)を図37(a)に示すマーカ位置M7010aに揃えた状態でフロントトレイM7010に載せ、フラットパスキーE3004を押下する。 ステップS11において、CPUはフラットパスキーE3004がON状態にあるか否かを判断する。フラットパスキーE3004がON状態の時はステップS12に進み、ポジション5へ移動してピンチローラホルダM3000を圧接状態とし、記録媒体を挟持する。
更にステップS13において、ポジション5のままで拍車ホルダM3130を圧接状態とする。このとき、記録媒体の挟持状態は挿入した記録媒体M9900の長さにより異なってくる。
図37(b)、(c)および(d)は、記録媒体M9900の長さによって異なる3通りの挟持状態を示した図である。図37(b)は、記録媒体が十分に長く、その先端部が搬送ローラM3060とピンチローラM3070のローラ対まで達している状態を示している。また、図37(c)は、記録媒体の先端部が排紙ローラ対には達しているが、搬送ローラ対までは達していない状態を示している。更に、図37(d)は、記録媒体の先端部が排紙ローラ対にも達していない状態を示している。これら3種類の状態は、記録装置も備えられたFPPEセンサE9001およびPEセンサE0007の出力値を確認することによって判別することが出来る。
ステップS14では、まず第1の排紙ローラM3100近傍に設置されたFPPEセンサE9001の出力値を確認する。検出値がONである場合、FPPEセンサレバーM3170部までは記録媒体M9900が到達していると判断し、ステップS16へ進む。一方、検出値がOFFである場合、FPPEセンサレバーM3170部までは記録媒体M9900が到達していない、或いは記録媒体M9900がセットされないままフラットパスキーE3004が押下されたと判断する。そして、ステップS15に進み、用紙無しエラーとして本処理を終了する。
ステップS16では、搬送ローラM3060よりも上流にあるPEセンサE9001の出力値を確認する。検出値がONである場合、PEセンサレバーM3021部までは記録媒体M9900が到達していると判断し、ステップS20へ進む。一方、検出値がOFFである場合、記録媒体M9900はFPPEセンサE9001までは到達しているが、PEセンサレバーM3021部までは到達していないと判断し、ステップS17へ進む。
ステップS17へ進む状態は、図37(c)に示すように、記録媒体M9900の後端部を所定の位置に揃えた場合でも、記録媒体の長さが短くて先端部M9900aが搬送ローラM3060に到達しない状況が想定される。また、ここには図示しないが、搬送ローラM3060を越えてはいるが、PEセンサレバーM3021を回動する程度の位置には達していない状況も考えられる。以上2つの状況を判別することは出来ないが、この状態のまま記録媒体M9900を矢印M9910方向に搬入してしまうと、先端部M9900aがピンチローラM3070に突き当たってしまう恐れが生じる。
よって、本実施形態においては、より安全を見るために、ステップS17にてポジションを3へ移動し、一度ピンチローラホルダM3000をリリースした後、ステップS18にて所定量αの搬送を行う。この状態を図37(e)に示す。この際、所定搬送量αはFPPEセンサレバーM3170と搬送ローラM3060との距離に設定されている。このように設定しておくことにより、記録媒体M9910の先端M9900aがFPPEセンサレバーM3170を通過した直後の位置に存在している場合であっても、所定量αの搬送後には記録媒体M9900は確実に2つのローラ対に挟持されている。
続くステップS19では、ポジションを4に移動し、PEセンサレバーM3021が搬送の妨げにならないようにこれをリリースする。図37(f)は、このような状態を示している。
一方、ステップS16でPEセンサE9001もON状態であると判断された場合であっても、ピンチローラリフト機構はポジション5にあり、このまま搬送を継続すると記録媒体M9900の表面がPEセンサレバーM3021に傷つけられてしまう恐れがある。よって、ステップS20では、ステップS19と同様にポジションを4に移動し、PEセンサレバーM3021が搬送の妨げにならないようにリリースする。
その後、ステップS21において、更に記録媒体M9900を装置内に十分に搬入し、記録動作に先立って記録媒体M9900の頭出し、すなわち記録開始位置の検出を行う。なお、本実施形態の記録装置では、スイッチバック式のフラットパス記録となっているので、搬入時の記録媒体の先端M9900aは記録時には後端となり、搬入時の後端は記録時には先端となる。
続くステップS22で記録データを受信するとステップS23に進み、ポジション5に移動しPEセンサレバーM3021を下ろす。記録動作を行う際中、記録媒体の後端部(記録時の後端部)を検出する必要があるためである。その後、ステップS24へ進み、記録動作を開始する。図37(g)は、当該記録時の状態を示す図である。
1ページ分の記録が完了すると、再びステップS7に戻り、次ページに対するフラットパス記録を継続する。
以上説明したように本実施形態によれば、複数のセンサの情報を効果的に用いながら、記録媒体の搬入および頭だしを確実に行っているので、定形外の記録媒体であってもユーザの手を煩わせることなく、自動的に適切な位置に配置することが出来る。また、1つの駆動源を有効に利用しつつ複数の機構を独立に制御しているので、比較的少ない部品数でありながら、的確に制御されたフラットパス記録を実現することが可能となる。