JP2007063514A - 芳香族化合物のスルホン化方法、及びスルホン酸化合物 - Google Patents

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Abstract

【課題】有機溶剤(主にハロゲン溶媒:VOC化合物)やスルホン架橋抑制剤等を用いることなく、高収率で安定した品質のスルホン化物を得る。
【解決手段】安息角が50度以下であり、流動性指数が40以上である粉末状の芳香族化合物を、SO3ガス雰囲気下で、流動させた状態で、スルホン化を行う。
【選択図】図1

Description

本発明は、高収率で安定した品質のスルホン酸化合物を製造する方法、及びこれにより得られたスルホン酸化合物に関するものである。
固体状の芳香族化合物をスルホン化する方法として、従来、塩素系有機溶媒に溶解した状態でスルホン化剤(クロルスルホン酸、発煙硫酸、無水硫酸、濃硫酸等)を反応させる方法が一般的に適用されている。
例えば、ポリスチレンをスルホン化する際にポリスチレンの数倍〜十数倍のエチレンジクロライドを溶媒として使用する方法についての提案がなされている(例えば、特許文献1乃至6参照。)。
これらは、いずれもスルホン化に際してポリスチレンの分子間や分子内でSO2による架橋が生成することを回避するために、ルイス塩基や水、アルコール化合物、陰イオン系化合物、非イオン系化合物を反応系に添加したり、あるいは、高剪断型反応機を用いたりして反応を行っている。
一方、不反応性炭化水素を用いるスルホン化方法に関する技術(例えば、特許文献7乃至9参照。)、炭酸ジアルキルを用いるスルホン化方法に関する技術(例えば、特許文献10参照。)、更には、極性非プロトン性有機溶媒を用いたスルホン化方法に関する技術(例えば、特許文献11参照。)についての提案がなされている。
上述したような従来の技術は、適用する溶媒の種類は異なるものの、いずれも芳香族化合物を数倍〜十数倍量の有機溶剤に溶解してスルホン化剤と反応させるものであるため、原料として多量の有機溶媒が必要であり、かつ反応終了後には多量のエネルギーを投じて回収した有機溶媒を蒸留精製するか、もしくは焼却等により廃棄処理をすることが必要とされるという環境保全面(廃棄物、省資源、省エネ、有害物使用等の側面)や経済面(薬品経費、廃棄物処理費、エネルギー費等)の問題を有していた。
また、スルホン化工程における反応熱や、使用した高速攪拌機の剪断力により芳香族化合物の分子量が低下してしまい、生成物の品質の低下を招来するという課題もあった。
特公昭50−33838号公報 特公昭51−37226号公報 特公昭51−372227号公報 特許第3030444号公報 特公平6−41487号公報 特許第3203280号公報 特公平4−40363号公報 特許3271238号公報 特許3371323号公報 特開平9−227499号公報 特開2004−339337号公報
上述したような従来の状況から、環境保全面(非ハロゲン化、VOCフリー化、廃棄物低減、省資源、省エネ等)や経済面(原料費、溶媒再生費用、廃棄物処理費等)、品質面(芳香族化合物分子量維持等)の観点で優れたスルホン化方法が望まれている。
本発明においては、安息角が60度以下であり、流動性指数が50以上である粉末状の芳香族化合物を、SO3ガス雰囲気下で流動させた状態で、スルホン化を行う芳香族化合物のスルホン化方法、及び当該方法により作製した非水溶性の芳香族スルホン酸化合物を提供する。
本発明によれば、安息角が小さく流動化指数の高い粉末状の芳香族化合物を選定し、これをSO3ガス雰囲気下で流動化させて直接スルホン化反応を行うため、従来技術の様な塩素系炭化水素(ハロゲン溶媒:VOC化合物)で代表される有機溶媒やスルホン架橋抑制剤等の触媒を必要とせず、反応終了後に回収溶媒や触媒を再生処理したり廃棄処理したりすることが不要となるため環境保全面やコストセーブ面で優れた効果を発揮できた。
更には、有機溶剤を用いたスルホン化反応で生じるスルホン架橋の発生が無い点、高剪断型反応機を用いた場合に生じる芳香族化合物の分子量低下が無く、硫酸や硫酸塩等の反応副生成物が反応生主成物である芳香族スルホン化物中に殆ど混入しない点において優れた品質の生成物が得られる。
以下、本発明の芳香族化合物のスルホン化方法、及び芳香族スルホン酸化合物について詳細に説明するが、本発明は以下に示す例に限定されるものではない。
本発明においては、安息角が60度以下であり、流動性指数が50以上である粉末状の芳香族化合物を、SO3ガス雰囲気下で流動させた状態で、スルホン化を行い、非水溶性の芳香族化合物スルホン酸、及び/又は非水溶性の芳香族化合物スルホン酸塩を作製する。
芳香族化合物としては、芳香環を主鎖、あるいは側鎖に有するポリマーが好適であり、例えばビニル系芳香族ポリマー、芳香族ポリエーテル、芳香族ポリエステル、芳香族ポリアミド等が挙げられる。
ビニル系芳香族ポリマーとしては、スチレン重合体、またはその共重合体、α−メチルスチレン重合体、またはその共重合体等が挙げられる。
スチレン共重合体、またはα−メチルスチレン共重合体としては、例えば、スチレン、またはα−メチルスチレンとニトリル基含有モノマー[(メタ)アクリロニトリルなど]、オレフィン類[α−オレフィン、イソプレン、イソブチレン、ジイソブチレン、ブタジエン、ピペリレン、クロロプレン等]、(メタ)アクリル酸アルキルエステル[(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等]、脂肪酸ビニル[酢酸ビニルなど]、芳香族炭化水素モノマー[ビニルナフタレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレンなど]、不飽和カルボン酸、もしくはその無水物[(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸など]等との共重合体が挙げられる。
前記化合物中、特に、ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸エステル(炭素数1〜4の脂肪族炭化水素)共重合体、スチレン−ブタジエン−(メタ)アクリル酸エステル(炭素数1〜4の脂肪族炭化水素)共重合体が好適である。
更には、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体が好ましい。
芳香族ポリエーテルとしては、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンエーテル)、ポリフェニレンスルフィド、ポリチオエーテルスルホン(PTES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケト(PEK)、ポロエーテルニトリル(PECN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポロチオエーテルスルホン(PTES)等が挙げられる。
特に、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンエーテル)、ポリフェニレンスルフィドが好適である。
芳香族ポリエステルとしては、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリアリレート(PAR)、液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。
これらの中で、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好適である。
芳香族ポリアミドとしては、芳香族ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)が挙げられ、その他の芳香族化合物としては、ポリスルホン(PSU)、芳香族シリコーン(ポリフェニルメチルシリコーン等)、ポリアミノビスマレイミド(PABM)、ポリイミド(PI)、フェノール樹脂、芳香族含有エポキシ樹脂、アリル樹脂糖が挙げられる。
これらの中で、芳香族シリコーン、フェノール樹脂、芳香族含有エポキシ樹脂が特に好適である。
上述した芳香族化合物中の芳香環含有量は、芳香族化合物の重量に基づいて、通常0.2%以上であり、更には、5%以上が好ましい。
例えば上記ビニル系芳香族ポリマー(共重合体含む)の場合は、スチレンモノマー単位含有量は、共重合体の重量に基づいて、通常5%以上、好ましくは10%以上が好適である。
ビニル系芳香族ポリマー以外の場合は、芳香環含有量は、ポリマーの重量に基づいて、通常2%以上、好ましくは5%以上である。
芳香族化合物の分子量は、通常500〜20,000,000、好ましくは1,000〜5,000,000である。
特に、ビニル系芳香族ポリマー(共重合体含む)の場合は、分子量は、通常500〜2,000,000、好ましくは1,000〜1,000,000である。
また、ビニル系芳香族ポリマー以外の場合は、分子量は、通常500〜1,000,000、好ましくは2,000〜500,000である。
上述した芳香族化合物は、単独で使用してもよいし、2種類以上の複数種の混合物であっても良い。
なお、複数の芳香族化合物を混合する場合は、混合比率についての限定は特に無い。
また、芳香族化合物は、他の非芳香族化合物とブレンド(アロイ化も含む)しても良いが、その場合、他の非芳香族化合物の含有量は、80重量%未満、好ましくは50重量%未満とすることが望ましい。
これら他の非芳香族化合物の含有量が多くなると、スルホン化反応が阻害されることになるためである。
芳香族化合物には、顔染料、安定剤、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、補強(強化)材やその他補助剤等を添加してもよい。
また、芳香族化合物は、新規に作製された材料であってもよいが、工場や販売店、家庭等からの排出物(いわゆる廃材)であってもよい。
なお、廃材としては、家庭等からの一般廃棄物よりは、工場や販売店等から回収されたものの方が比較的組成が揃ったものが多いため望ましい。
本発明においては、上述した芳香族化合物を、SO3ガスと直接反応させることでスルホン化を行う。
スルホン化反応を容易にするため、芳香族化合物は、優れた流動性を有する粉末状とする。
芳香族化合物は、粒子径、安息角、流動性指数の観点により、下記の条件を設けることが好適である。
ここで、流れ性の指標である『流動性指数』とは、安息角、スパチュラ角、圧縮度、凝集度、均一度により求められる評価指標である。
また、『安息角』とは、例えば、所定の径の円テーブル上に、所定の高さから漏斗を通して粉体を注入し、必要に応じて所定の振動を加えたときの、粉体の山の裾野3箇所の角度の平均値である。この安息角が小さいほど優れた流動性を有している。
粒子径については、60メッシュパス品の重量が30重量%以上、かつ80メッシュパスが10重量%以上であること、より好ましくは、60メッシュパス品の重量が50%以上、かつ80メッシュパスが30重量%以上であること、更に好ましくは、60メッシュパス品の重量が70%以上、かつ80メッシュパスが50重量%以上であることが望ましい。
粒子径がこれより大きくなると、芳香族化合物へのスルホン基の導入率が低くなってしまうためである。
一方、粒子径が小さい場合はスルホン化反応には特に問題は生じないが、反応後のスルホン化物の粒子系が小さくなることになるため、必要に応じて粉塵対策を行うことが望ましい。
安息角については、60度以下、好ましくは50度以下、更に好ましくは40度以下であることが望ましい。
安息角がこれより大きくなると、該芳香族化合物の流動性が低くなり、均一なスルホン化反応が難しくなり反応の再現性が取れにくくなるためである。
なお、安息角は、市販の粉体試験装置(パウダーテスター)を用いて測定することができる。
流動性指数については、50以上、好ましくは、60以上であることが好ましい。
流動性がこれより小さくなると、流動性が低くなりすぎ、均一なスルホン化反応を起こすことが困難になり、反応の再現性も取れにくくなるためである。
なお、流動性指数も、市販の粉体試験装置(パウダーテスター)を用いて測定することができる。
芳香族化合物の粉末化は、製造時に行ってもよく、製造後に行ってもよい。
製造時に行う場合は、塊状重合や溶液重合、乳化重合等によりモノマーを重合した後にポリマーを沈殿させる(再沈→ろ過→乾燥)。
また、製造後に行う場合は、顆粒状(ペレット状等)の芳香族化合物を、粉砕→分級する。
なお、芳香族化合物を粉砕する場合は、ピンミル型、イクシードミル型、衝撃型、ジェットミル型、グラインダー型、過流型、ボールミル型、カッター型のいずれの粉砕機を用いても良いが、特にピンミル型が好適である。
なお、粉砕を行う際には、液体窒素等の冷媒を用いて芳香族化合物を冷却して行うことが好適である。
本発明においては、上述したような、優れた流動性を有する粉末状の芳香族化合物を、SO3ガスを含むガス雰囲気下で、所定温度で、所定時間流動させてスルホン化反応を行う。
芳香族化合物を流動させることができるものであれば、従来公知の装置を適用できる。
例えば、フラスコ(反応釜)型ものであっても良いし、ロータリーエバポレーター型、混練反応型、コニカルドライヤー型、マイクロウェーブ型、超音波反応型、ラインミクサー型等のいずれの方式を用いても良い。特に、ロータリーエバポレーター型、コニカルドライヤー型、フラスコ(反応釜)型が好適である。
上記反応装置には、SO3ガスを注入するための吹き込みラインとSO3の貯蔵タンク、水や蒸気、アルカリ性水溶液等の注入ラインや、芳香族スルホン化物をろ過するためのろ過装置(フィルター等)と乾燥機が併設されているものとする。
ここで、具体的にエバポレーターを用いてスルホン化工程を行う例を示す。
まず、粉末状の芳香族化合物を、なす型フラスコに投入し、装置内で回転させる。
このとき、なす型フラスコの回転により粉末状の芳香族化合物はフラスコ内を流動するようになされる。
次に、SO3の沸点(44.6℃)以上に加熱する。これにより、SO3がフラスコ内で常時ガス状態となる。
その後、フラスコ内の脱気を行い、SO3タンク(SO3をガス化させるために同タンクも44.6℃以上に加熱)からSO3ガスをフラスコ内に吹き込み、スルホン化を開始する。
なお、SO3ガスをフラスコ内に注入した際には常圧状態になるが、反応の進行とともにSO3ガスが芳香族化合物と反応するため、再度減圧状態に戻る。
所定時間反応を行った後、反応系内のSO3ガスの除去を行い(吸引による脱ガス、もしくは、窒素ガスやエアーによる置換)、水や蒸気で芳香族スルホン酸化合物を水洗するか(スルホン酸基を導入する場合)、もしくはアルカリ性水溶液で中和を行う(スルホン酸塩基を導入する場合)。
このとき、スルホン化された芳香族化合物は、水や蒸気、アルカリ性水溶液に溶けないものであるため、処理水のpHを確認の上、芳香族スルホン酸化合物をフィルターにてろ過を行う。その後、ろ過物は乾燥され、乾燥した芳香族スルホン酸化合物が得られる。
上述のようにして作製されたスルホン化物は、そのままか中和処理して塩にする。
中和時には、アルカリ性化合物を使用する。例えば、アルカリ金属(ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、亜鉛、錫、銅、アンチモン等の水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、硫酸塩、燐酸塩等の化合物や、アンモニア、アミン類(1〜3級アルキルアミン化合物:例えばトリエチルアミン、ジメチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン等;アルカノールアミン、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン等)が挙げられる。
スルホン化工程における反応温度は、通常は−150℃〜芳香族化合物の融点未満の範囲であれば良いが、SO3の沸点(44.6℃)〜200℃が好適で、更には、50〜150℃が好適である。
反応温度が低すぎると、スルホン化の進行が遅くなり、高すぎると芳香族化合物が流動性を示さなくなったり(融解するため)、または、芳香族化合物が分解(分子量低下)したりするので、好ましくない。
スルホン化を行う反応時間は、反応温度や目標とするスルホン化導入率にも依存するが、通常、1分〜24時間、好ましくは、30分〜10時間である。
反応時間が短すぎるとスルホン化導入率が低くなり、長過ぎるとスルホン化物に色がついてしまう(白色→褐色)。
スルホン化工程において使用するスルホン化剤としては、SO3ガスを有する無水硫酸や発煙硫酸が好適である。
なお、芳香族化合物に、無水硫酸や発煙硫酸の液体が直接触れないようにする(あくまでも、SO3ガス状態で反応を行う)ことが必須である。
前述の液体が芳香族化合物に直接触れてしまうと、粉末状の芳香族化合物がダマになり流動性が悪化したり、急激な発熱反応によりスルホン化率をコントロールすることが難しくなってしまうためである。
スルホン化剤の添加量は、最終生成物に導入したい目的のスルホン化率によるが、通常、芳香族化合物の重量に対して、SO3重量として、0.01〜300重量%、好ましくは、0.1〜100重量%、更には1〜50重量%が好ましい。
スルホン化剤の添加量が少なすぎると、芳香族化合物へのスルホン化導入率が低くなり、多すぎると余剰のSO3ガスの処分に多量の薬品や時間や経費が必要となり実用的ではない。
なお、芳香族化合物中のスルホン化率は、芳香族化合物の粒子径(分布)と添加量、スルホン化剤の添加量、反応時間、反応温度、反応装置により調整できる。
すなわち、反応条件を同一にすれば、再現性良く同じスルホン化率を有する芳香族化合物を得ることが出来る。
通常、1)該芳香族化合物の粒子径を小さくする(表面積を大きくする)、2)スルホン化剤の添加量を増加する、3)反応温度を上げる、4)反応時間を長くすること、5)該芳香族化合物の流動性を良くすることにより芳香族化合物中のスルホン化率を上昇させることができる。
本発明方法により作製される化合物のスルホン酸基導入率は、芳香族化合物の種類や反応条件にも依存するが、通常は、スルホン化物中の硫黄成分として、0.1〜20重量%、好ましくは0.2〜10重量%、更には1〜5重量%が好ましい。
スルホン化導入率が高すぎると水やアルカリ性水溶液で処理した際にスルホン化物が溶解してしまうことになり、反応系中からスルホン化物を取り出すことが難しくなってしまう。
一方、スルホン化率が低すぎるとスルホン化物に期待される性能(難燃性、帯電防止性、相溶化促進性、酸化防止性、離型性、イオン交換能、触媒能、凝集性、耐熱性)が低下してしまう。
本発明のスルホン化方法によれば、有機溶媒やスルホン架橋抑制剤等を使用せず、高収率で再現性良く、芳香族スルホン酸化合物が得られる。
また、本発明方法により作製された芳香族スルホン酸化合物は、難燃剤、帯電防止剤、相溶化剤、酸化防止剤、離型剤、イオン交換樹脂、反応触媒、排水処理材、耐熱性樹脂、難燃樹脂等の材料として応用できる。
以下、本発明を実証するための実施例、及びこれとの比較例について、具体的なサンプルを作製して説明する。
なお、下記において適用する各樹脂(ポリマー)の分子量は、GPC法にて測定したものとし、安息角と流動性はマルチテスターMT−1001((株)セイシン企業社製の多機能型粉体物性測定器)を用いて測定した。
スルホン化物中の硫黄分の測定は燃焼フラスコ法による元素分析で測定した。
〔実施例1〕
重量平均分子量(Mw)が11万(ポリスチレン換算)のAS樹脂(アクリロニトリル単位:43モル%、スチレン単位:57モル%)のペレットをピンミルタイプの粉砕機にて冷凍粉砕し(液体窒素を使用)、80メッシュスクリーンを通して粉末状とした。このときの粉状体は、60メッシュパス品が84重量%、80メッシュパス品が54重量%であり、安息角:39度、流動性指数:69であった。
この粉末200gを、なす型フラスコに投入し、これをロータリーエバポレーター取り付けて60℃に加温して回転させた。
この時、AS樹脂粉末は、エバポレーターの回転によりフラスコ内で流動状態となった。
次に、真空ポンプによりフラスコの脱気を行い(約0.1KPaまで減圧)密閉した。
次に、バルブの操作により、予め60℃に加熱しておいたSO3タンク(SO3を30g充填)からSO3ガスを脱気したフラスコに送り込んだ。
この時、SO3ガスの注入により、フラスコ内の圧力は直ぐに常圧となったが、反応の進行と共に徐々に減圧状態に戻ったため、再度、SO3ガスを吹き込んだ。
この操作を数回繰り返すことで30gのSO3ガスを全てフラスコ内に吹き込んだ。
60℃で3時間反応を行った後、フラスコ内のSO3ガスを窒素で置換した。
次に、フラスコに水酸化ナトリウム水溶液を投入することでスルホン化物の中和(pH=7に調整)を行いグラスフィルターでスルホン化物のろ過を行った。
その後、ろ過物は水にて水洗された後、再度ろ過を行った上で循風乾燥機(100℃)にて乾燥して淡黄色の粉末:216gを得た。
得られた粉末に関して硫黄分の分析を行ったところ、含有される硫黄分は2.35重量%であった。
〔実施例2〕
SO3の吹き込み量を10gにした。
その他の条件は、実施例1と同様とし、スルホン化を行った。
得られた白色の粉末の重量は213gで、含有硫黄分は、1.11重量%であった。
〔実施例3〕
SO3の吹き込み量を50gにした。
その他の条件は、実施例1と同様とし、スルホン化を行った。
得られた褐色の粉末の重量は219gで、含有硫黄分は、3.26重量%であった。
〔実施例4〕
実施例1で使用したバージンAS樹脂に代えて、使用済み業務用ビデオカセット中の透明リール材であるAS樹脂(重量平均分子量:10.5万、アクリロニトリル単位:40モル%、スチレン単位:60モル%、60メッシュパス品が79重量%、80メッシュパス品が50%、安息角:41度、流動性指数:74)を原料として用いた。
その他の条件は、実施例1と同様とし、スルホン化を行った。
得られた淡黄色の粉末は214gで、含有硫黄分は2.34重量%であった。
〔実施例5〕
実施例1と同じ粉末状の芳香族化合物:200gを、4つ口の丸底フラスコに投入し、アンカー型の攪拌機にて攪拌した状態で発煙硫酸(SO3:60重量%含有):400gから発生するSO3ガスを窒素ガスの背圧により50℃で2時間かけて吹き込んだ(発煙硫酸は50℃に加熱)。
このとき、反応系は密閉(脱気/減圧)せず、常圧環境下でスルホン化反応を行った(SO3ガスはフラスコ内の吹き込みラインから注入され、もう一方の排出ラインから系外に排出される)。
反応終了後、窒素ガスで反応系内のSO3ガスを置換した後、水酸化カリウム水溶液を加えてpHを7に調整した。
次に、グラスフィルターにて反応物をろ過した後、乾燥(真空乾燥機:50℃×10時間)することで淡黄色の粉末:212gを得た。
なお、反応物中の硫黄分は1.94重量%であった。
〔実施例6〕
重量平均分子量が29万のポリスチレン樹脂ペレットの粉砕物(60メッシュパス品が91重量%、80メッシュパス品が72重量%、安息角:41度、流動性指数:62)を用いた。その他の条件は、実施例5と同じ方法でスルホン化を行った。
得られた淡黄色の粉末の重量は221gで、含有硫黄分は3.29重量%であった。
〔実施例7〕
重量平均分子量が5万のポリフェニレンエーテル樹脂を粉砕物(60メッシュパス品が55重量%、80メッシュパス品が21重量%、安息角:49度、流動性指数:57)を用いた。
その他の条件は、実施例5と同じ方法でスルホン化を行った。
得られた黄色の粉末の重量は202gで、含有硫黄分は4.45重量%であった。
〔比較例1〕
重量平均分子量が5万のポリフェニレンエーテル樹脂の試薬(60メッシュパス品が53重量%、80メッシュパス品が25重量%、安息角:65度、流動性指数:44)を用いた。
その他の条件は、実施例7と同様の方法でスルホン化を行った。
この際、粉末品の流動性が悪く、反応中には粒子がダマ状態となってしまい、均一なスルホン化が困難であった。
得られた黄色の粉末の重量は203gで、含有硫黄分は0.04重量%であった。
〔比較例2〕
AS樹脂ペレットの粗粉砕物(60メッシュパス品が15重量%、80メッシュパス品が2重量%、安息角:39度、流動性指数:69)を使用した。
その他の条件は、実施例1と同様の方法でスルホン化を行った。
得られた淡黄色の粉末の重量は199gで、含有硫黄分は0.08重量%であった。
上述した実施例1〜7から明らかなように、所定の粒子径(60メッシュパスが30重量%以上、かつ80メッシュパスが10重量%以上)、安息角(60度以下)、流動性指数(50以上)である粉末状の芳香族化合物を原料として、SO3ガス雰囲気下で流動させた状態でスルホン化を行うことにより、高収率で再現性良く芳香族スルホン酸化合物が作製できた。
実施例1および実施例4は、原料のAS樹脂の種類が若干異なるものの、反応条件は同様のものとした。
これらの場合、作製されたスルホン酸化合物中の硫黄分(スルホン化率)はほぼ同じ値となった(硫黄含有量:それぞれ2.35重量%と2.34重量%)。このことから、本発明方法によれば、スルホン化反応に関し優れた再現性が得られることが確認できた。
また、実施例1〜3においては、SO3ガスの吹き込み量のみを変えて、その他の条件は同様のものとした。
これらの場合のSO3ガスの吹き込み量と、作製されたスルホン酸化合物中の硫黄分との関係について図1に示した。これによると、SO3ガス吹き込み量に従って、スルホン酸化合物中の硫黄分が直線的に増加していることが分かる。すなわち、本発明方法によれば、スルホン化反応について優れた再現性・安定性が実現できることが確認された。
なお、本発明方法によるスルホン反応は、密閉系(実施例1〜4)でも、開放系(実施例5〜7)でも有効であることが確認された。
但し、SO3ガスを無駄なく効率良く使用するには、密閉系の方がより好適である。
一方、比較例1は、原料粒子の流動性(安息角、流動性指数)が悪いため、良好な流動状態が形成されず、均一なスルホン化が行われず、スルホン化率が低下した。
また、比較例2の場合は、原料である芳香族化合物の粒子径が大きく、表面積が小さいため、SO3ガスとの接触反応効率が低下し、生成物のスルホン化率が低くなった。
上述したことから、本発明方法によるスルホン化を行うことにより、有機溶剤(主にハロゲン溶媒:VOC化合物)やスルホン架橋抑制剤等を用いることなく、高収率で安定した品質のスルホン化物が生成できることが明らかになった。
SO3ガスの吹き込み量と、生成物中の硫黄成分含有量との関係を示す。

Claims (11)

  1. 安息角が60度以下であり、流動性指数が50以上である粉末状の芳香族化合物を、SO3ガス雰囲気下で流動させた状態で、スルホン化反応を行うことを特徴とする芳香族化合物のスルホン化方法。
  2. 前記粉末状の芳香族化合物の粒子径は、60メッシュパスが30重量%以上、かつ80メッシュパスが10重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族化合物のスルホン化方法。
  3. 前記粉末状の芳香族化合物が、ポリスチレン、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、スチレン−ブタジエン共重合体、ABS(アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体)、スチレン−無水マレイン酸共重合体、芳香族シリコーン、PC(ポリカーボネート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、ポリフェニレンスルフィド、PPS(ポリスルホン)、PA(芳香族ポリアミド)、ポリフェニレンスルフィドの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の芳香族化合物のスルホン化方法。
  4. 前記粉末状の芳香族化合物が、使用済みの樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族化合物のスルホン化方法。
  5. 前記スルホン化の反応工程を、SO3の沸点(44.6℃)以上の温度条件下で行うことを特徴とする請求項1に記載の芳香族化合物のスルホン化方法。
  6. 安息角が60度以下であり、流動性指数が50以上である粉末状の芳香族化合物をSO3ガス雰囲気下で流動してスルホン化反応を行って得られたものであることを特徴とする、非水溶性の芳香族スルホン酸化合物。
  7. 前記芳香族化合物の粒子径が、60メッシュパスが30重量%以上、かつ80メッシュパスが10重量%以上であることを特徴とする請求項6に記載の非水溶性の芳香族スルホン酸化合物。
  8. 前記粉末状の芳香族化合物が、ポリスチレン、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、スチレン−ブタジエン共重合体、ABS(アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体)、スチレン−無水マレイン酸共重合体、芳香族シリコーン、PC(ポリカーボネート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、ポリフェニレンスルフィド、PPS(ポリスルホン)、PA(芳香族ポリアミド)、ポリフェニレンスルフィドの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の芳香族スルホン酸化合物。
  9. 前記粉末状の芳香族化合物が、使用済みの樹脂であることを特徴とする請求項6に記載の芳香族スルホン酸化合物。
  10. 前記スルホン化の反応工程が、SO3の沸点(44.6℃)以上の温度条件下で行われたことを特徴とする請求項6に記載の芳香族スルホン酸化合物。
  11. SO3ガス雰囲気下で、粉末状の芳香族化合物を流動した状態でスルホン化処理されて得られた前記非水溶性の芳香族スルホン酸化合物中の硫黄含有量が、0.1〜15重量%であることを特徴とする請求項6に記載の芳香族スルホン酸化合物。
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