近年、回路基板は高密度化、小型化及び耐環境性の要求が強まっている。例えば、自動車用IC基板において、ハイブリッドIC化に伴う高集積化、さらには従来、基板を車室内に配設していたのを今後エンジンルーム内に配設すること等の要求が考えられる。
このため、絶縁基板上に形成される配線部分にも従来以上に厳しい信頼性特性が要求されている。例えば、狭い配線間隔に電圧を印加し温湿度環境下に長時間放置した後においても配線部間の絶縁性は劣化しないこと等である。しかしながら、銀を含む導体ペーストを用いて絶縁基板上に形成された配線部分では、水や水蒸気が存在すると、電圧印加時に配線部に含まれる銀がイオン化し、プラス電極部からマイナス電極部に移動し銀のデンドライトが発生し、配線部間の絶縁性が低下するいわゆる銀のマイグレーションが起き易いことが一般的に知られている。このため、通常は銀のマイグレーション防止のために封止構造を施していた。
ところが、本発明者等は、水や水蒸気が存在しなくても、高温雰囲気にて電圧を印加すると絶縁抵抗が劣化する現象を今回発見した。以下、この現象について、本発明者等の検証実験結果を交えながら説明する。この現象を簡単に説明すると、例えば、絶縁基板上に銀を含む配線部が100μm程度に狭い間隔に配置され、配線部間に16V程度(例えば車載用の最大規格に相当)の電圧を印加し150℃程度の高温雰囲気下に放置すると、配線部間の絶縁抵抗値が時間と共に大きく低下し、ひいては絶縁不良を引き起こしてしまう現象である。
本現象は、100℃以上或いは真空中等のように水分による影響の無い雰囲気下においても発生し、かつ、ショートに近い状態になっても、配線部間に、水分の存在下で発生するマイグレーション発生時に必ず見られる銀のデンドライトの発生が無く、また、極性も見られない(つまりプラス電極部とマイナス電極部との極性に関わらず発生する)ことから、従来より広く知られている水分の存在下で発生するマイグレーションとは全く異なる新しく見出された現象であるとが言える。以下、本現象を高温リーク現象と称す。
本現象の発生メカニズムは完全には解明されていないものの我々の検証によれば概略は以下のようである。従来、一般の厚膜配線基板は、アルミナからなるセラミック基板等の絶縁基板上に銀を含む導電性金属粉末とガラスフリット等からなる無機結合剤とを有機ビヒクル中にて分散させてなる導体ペースト組成物を、印刷焼成することにより配線部を形成し得られる。
ここで、導体ペースト組成物は通常800〜900℃にて焼成されるが、この焼成時に絶縁基板上に印刷形成された配線部から導体ペーストの組成物である銀及び無機結合剤の一部が蒸発し、銀を含んだ反応物となって配線部周辺近傍の絶縁基板上に付着する。この反応物は極めて薄い状態にて存在するため通常観察されない。また、反応物は絶縁性を有するものであり配線部間の絶縁性は下地の絶縁基板と同じである。
しかしながら、この反応物が存在する配線部間に電圧を印加し、水分による影響の無い高温雰囲気(以下、高温雰囲気という)下に放置すると、反応物に含まれる銀が導電性化され配線部間の絶縁性が時間と共に低下する。以上が、高温リーク現象の概略メカニズムであるが、これは、以下に述べる幾つかの検証実験(検証実験A、検証実験B)等により解明した。
まず、検証実験Aについて述べる。銀を含む一般的な導体ペースト組成物を用いて、アルミナからなるセラミック基板上に複数の異なる配線間隔を有する配線部を印刷焼成により形成した配線基板を作成し、その配線部間に電圧を印加し高温雰囲気下に放置する。なお、本検証実験Aでは、配線部間に印加する電圧は、加速のために通常使用電圧より高い(例えば60V)ものとした。
すると、図1に示す様に、高温放置時間と共に配線部間の絶縁抵抗値が低下することがわかった。図1は高温放置時間と絶縁抵抗値(Log10×、単位Ω)との関係を示すグラフである。なお、図中の各プロットマークにおいて、白丸及び黒丸は放置温度125℃、白三角及び黒三角は放置温度150℃、各白マークは配線間隔100μm、各黒マークは配線間隔50μmを示す。
この時、絶縁抵抗値の低下した配線部間には、従来より知られている水分によって発生する銀のデンドライトの様な外観変化はどこにも見られない。従って、本現象は、配線部間隔、加えられる電圧値及び放置温度等の負荷条件に影響される性質であることがわかった。さらに、配線部間の絶縁抵抗値が100MΩ以下となった放置時間を絶縁不良時間として、配線部間に加えられる電圧によって求まる電界強度との関係を調べたところ、図2に示すような結果が得られた。図2は電界強度と絶縁不良時間との関係を示すグラフである。なお、図中各プロットマークにおいて、○は放置温度150℃、△は放置温度125℃を示す。
以上図1及び図2に示す検証実験Aの結果から、反応物の導電性化による配線部間の絶縁性劣化は、配線部間隔、及び加えられる電圧によって求まる電界強度に依存し、放置温度が高い程加速されるものであることがわかった。ここで、何故絶縁性劣化が生じるのかについて詳細な観察を行った。まず、絶縁性低下の見られる配線部及び周辺近傍を電子走査顕微鏡(SEM)を用いて観察を行ったが、絶縁性低下前後にて外観的な変化は確認されなかった。更に、同様箇所を波長分散型X線分析装置(EPMA)にてそこに存在する物質の分析観察を行ったが、絶縁性低下前後では差は確認されなかった。
しかしながら、絶縁性低下前後で、そもそもセラミック基板自身にはその構成物として含まれない導体ペーストの組成物である銀と無機結合剤の一部が存在していることを確認した。また、これらは、配線部周辺近傍にのみ存在し、配線部に近い程多い。そこで、具体的にどのような状態にて存在しているのかを、透過電子顕微鏡(TEM)にて観察した結果、図3に示すように、セラミック基板の主構成物であるアルミナ粒子A1の粒界部分に存在する同構成物のガラス物質A2の部分に、微細な銀粒子A3が存在していることを確認した。
これは、導体ペーストにより印刷焼成されてなる配線部周辺近傍において、その焼成時に、導体ペーストに含まれる銀と無機結合剤の一部が蒸発しセラミック基板上に付着する際、アルミナセラミック基板のアルミナ粒界面に存在するガラス質が軟化しているため、前記蒸発物を吸着しやすいためであると推定される。なお、当然のことではあるが、導体ペーストが印刷焼成されていないセラミック基板において同様の観察を行っても銀粒子等の導体ペースト組成物の付着存在は確認されない。こうして、高温リーク現象は、導体ペーストに含まれる銀と無機結合剤の一部が何らかの形で関与していることがわかった。
次に、上記銀と無機結合剤の一部が、どのような由来で配線部周辺近傍に存在し得るのかについて、以下の検証実験(検証実験B)を行い、無機結合剤と銀とが化学的に反応した物質(反応物と略す)が導体ペースト焼成時に付着すること、また、導電性化は反応物中の銀に起因することを確認し得た。まず、検証実験Bの第1ステップとして、以下に示す基板α、基板β、および基板γを用いた検証実験B1について述べる。
配線部間の絶縁性低下が発生する通常の配線基板を基板αとする。絶縁基板上に銀を含む導体ペーストを印刷焼成して形成された配線部間の絶縁基板表面部分を、一般的に厚膜抵抗体の抵抗値調整のために用いられるレーザ法によるトリミング手法(以下レーザトリミングと略す)を用いて配線部間のほぼ中央付近を配線部と平行するように溝を形成することによって配線部間に存在する反応物を機械的に除去したものを基板βとする。
また、あらかじめ配線部間の絶縁基板表面部分を上記と同様にレーザトリミングにて溝を形成した後に配線部を印刷焼成により形成した配線基板を基板γとする。これら基板α、基板β、基板γについて配線部間に電圧を印加し、高温雰囲気下に放置した時の絶縁性を確認した結果、基板αと基板γにのみ絶縁性低下が確認された。
このことから、絶縁基板上に銀を含む導体ペーストを用いて印刷焼成することによって得られる配線部分の周辺近傍には、その焼成時に導体ペースト組成物の一部が付着するため、ある条件下にて絶縁性低下が生じるものであることが言える。つまり検証実験B1では、導体ペースト組成物の一部の付着が焼成によってなされることがわかった。
続いて、検証実験Bの第2ステップとして、基板δおよび基板εを用いた検証実験B2について、図4ないし図6を参照して述べる。絶縁基板上に銀を含む厚膜導体ペーストaをほぼ絶縁基板b表面全面に印刷したものを基板δ(図4参照)とし、絶縁基板f上にあらかじめ絶縁性低下を生じないことを確認した金材料を用いて金配線部eを形成したものを基板ε(図5参照)とした。
図6に示す様に、基板δと基板εとがスペーサcにて任意のギャップdを保った状態で向かい合うようにしたものを、導体ペーストaの焼成温度にて焼成する。この後に、基板εの金の配線部間hをEPMA装置にて観察すると上述の様に導体ペーストaの組成物である銀と無機結合剤の一部の存在を確認した。また、その存在分布は、基板δの導体ペーストaの印刷面(つまり絶縁基板b表面全面)とほぼ同じである。この様な状態にある金配線部e間に電圧を印加し、高温雰囲気下に放置すると金配線部e間の絶縁性は低下することを確認した。
このことから、一般的な銀を含む導体ペーストは、その焼成時に銀及び無機結合剤の一部が蒸発し、空気中を飛散して、すなわち検証実験B2においては基板δと基板εとのギャップd間を飛散して、その周辺近傍の絶縁基板上に反応物となって付着存在するものであることが言える。つまり、検証実験B2では、焼成時における銀及び無機結合剤の一部の付着経路がわかった。
更に、検証実験Bの第3ステップとして、上記基板δと基板εとを用いた検証実験B3について、図7を参照して述べる。図7に示す様に、スペーサcの厚みを変えることにより向かい合う基板δと基板εとの距離gを任意に設定することができる。その結果、反応物の飛散距離を変えることができ、基板ε上に付着する反応物の付着量をも変えることができる。
すなわち、基板間の距離gを変えることによって基板ε上に付着する銀の量を変えることが出来、基板間の距離gが大きくなる程、銀の付着量は減少する。このようにして銀の付着量を変えたものに電圧と温度を加えると、図8に示す様に銀の付着量によって絶縁性低下に差が生じることが確認出来た。図8は、銀の付着量と上記絶縁不良時間との関係を示すグラフである。
この検証実験B3から、本現象は配線部周辺近傍に反応物となって存在する銀の量によって左右され、銀の付着量が多い程、絶縁性低下は加速されると言える。従って、検証実験Bにおいては、配線部周辺近傍に存在する反応物が導体ペースト焼成時に空気中を飛散して付着し存在すること、また、絶縁抵抗の劣化は高温雰囲気下にて電圧を印加したときに反応物中の銀が導電性化することに起因することを確認し得た。
ところで、本高温リーク現象は、従来においては、水分或いは水蒸気雰囲気下にて生じる銀のマイグレーション防止のために封止構造を施していたこと、本高温リーク現象の発生要因である反応物が通常観察されず、かつ、導電性化し通電状態となっても外観上の変化が無いことなどから今日まで発見されなかったものである。
また、このことから推測するにこれまで水分による銀のマイグレーションが原因とされていた絶縁不良の中にも本高温リーク現象によるものが含まれていた可能性が高いと言える。また、以上により、本高温リーク現象の発生要因となる物質(反応物)が焼成時に絶縁基板上に付着形成されていること、水分が無い状態においても発生することから、従来より取られている銀のマイグレーションを防止するような封止構造でも導電性化即ち本現象を防止するのは非常に困難である。
本発明は、本発明者等が新たに発見した高温リーク現象に鑑みてなされたものであり、銀を含む配線部を有する回路基板において、高温雰囲気にて電圧を印加したとき、水や水蒸気の存在の有無に係わらず生じる配線部間の絶縁抵抗の劣化を好適に抑制できるようにすることを目的とする。
本発明者等は、上記目的を達成するため、次の様な検討実験を行った。
従来の一般的な銀を含む導体ペースト組成物を用いて、全く無機結合剤を含まない無機結合剤レスペースト材料を製作し、アルミナからなるセラミック基板上に印刷焼成して配線部を形成後、この配線部周辺近傍をSEM装置にて観察すると銀粒子が孤立した状態にて存在していることを確認した。また、この配線部間に電圧を印加し高温雰囲気下に放置しても配線部間の絶縁性は低下しなかった。
更に、導体ペースト組成物の構成物である銀粉末は、その焼成時に絶縁基板上に付着存在すること、また、焼成温度が700℃以上から蒸発しはじめ、約800℃以上になると急激にその付着量が多くなることも見出した。このことから、銀を含む導体ペースト組成物を印刷焼成してなる配線部において、その焼成時に配線部周辺近傍に付着存在し絶縁性低下を引き起こす要因となる銀を含む反応物は、無機結合剤無くしては形成されないことが言える。
故に、高温リーク現象は、導体ペースト組成物の無機結合剤成分組成、及び無機結合剤成分の銀粉末に対する配合比や用いられる絶縁性基板の組成等によって反応物の形成ならびに導電性化は大きく影響され、絶縁性低下を左右する結果となる。更に、反応物の付着量及び導電性化は、前記の他に絶縁基板上に形成される導体ペースト組成物の密度及び焼成条件によっても影響される。
従って、導電化を引起こす反応物自体の発生を抑制することに着目して、銀を含む導電性金属粉末と無機結合剤とを有機ビヒクル中に分散させてなる導体ペースト組成物において、無機結合剤、絶縁基板、焼成条件等についても実験検討を進めた。請求項1〜請求項5の発明は、導電化を引起こす反応物の発生を抑制するような無機結合剤構成とした導体ペースト組成物を提供するものである。
すなわち、請求項1記載の発明においては、銀を含む導電性金属粉末と無機結合剤とを有機ビヒクル中に分散させてなる導体ペースト組成物において、無機結合剤が銀の蒸発を抑制する物質からなるから、導電化を引起こす反応物の発生を抑制でき、高温リーク現象を好適に抑制できる。ここで、請求項1記載の無機結合剤は、請求項2〜5記載のガラスフリットもしくはガラスフリットの混合物とできる。
特に、請求項3〜5記載の発明によれば、無機結合剤であるガラスフリットが、導体ペースト組成物焼成時に形成される反応物中に存在し導電性化しやすい物質(例えば、V、W、Mn、Mo、Cu、Zn等)を含まない。この様なガラスフリットは導体ペースト組成物焼成時に蒸発し、反応物となって基板上に付着存在し、かつ、電圧と温度が加えられても導電性化しにくい。このため、効果的に配線部間の絶縁性不良を抑制することが出来る。
ここで、請求項2および請求項3記載のガラスフリットは、導体ペースト組成物焼成時に軟化する温度が高いため、必然的に蒸気圧が低くなる。その結果、導体ペースト焼成時に蒸発し、化学的に反応し付着する反応物の付着量が低減し、より高い配線部間の絶縁性を得ることが出来る。なお、一般的に厚膜導体ペースト材料に用いられるガラスフリットの軟化点は、その添加目的から400〜700℃の範囲のものが殆どである。
また、請求項4記載のB−Si−Pb系ガラスフリットは、比較的軟化温度が低いため、導体ペースト組成物焼成時に蒸発し易いので、反応物のガラスフリットの割合が多くなり導電性化しにくくなる。また、このガラスフリットは焼成時に、銀が激しく蒸発し始める温度(約800℃程度)以前に軟化溶融する。このため、溶融したガラスフリットは銀粉末の一部或いは大半を覆い、銀の表面積を小さくし、銀の蒸発量を妨げる。この結果、反応物となって付着する銀の付着量が低減することにより導電性化しにくくなる。
なお、請求項5記載の発明のように、無機結合剤が請求項3及び4に記載する2種類のガラスフリットの混合物であってもよい。
また、請求項6〜請求項8記載の発明は、銀を含む配線部を有する基板の配線部を形成するための導体ペースト組成物であって、銀を含む導電性金属粉末と無機結合剤とを有機ビヒクル中に分散させてなり、無機結合剤は銀の蒸発を抑制する物質からなることを特徴とする。この銀の蒸発を抑制する物質からなる無機結合剤は、請求項1記載の無機結合剤と同様の効果を奏し、高温リーク現象を好適に抑制できる。
また、請求項9記載の発明は、銀を含む配線部を有する基板において、請求項1〜請求項8記載の導体ペースト組成物を用いたものであり、高温リーク現象が好適に抑制された回路基板を提供することができる。ところで、上述のように、高温リーク現象は配線部間隔に依存する(図1参照)が、これは導体ペースト組成物からの銀等の飛散距離が影響していると考えられる。この点について、さらに検討を行った結果、その飛散距離は200μm程度であることがわかった。
よって、配線部間隔が400μmあたりから高温リーク現象は発生すると考えられる。例えば、ハイブリッドIC基板等の一般的な配線基板においては、配線部間隔は通常500μm以下であり、高温リーク現象が発生しやすい。従って、上記各絶縁性ペースト組成物及び導体ペースト組成物を、間隔が500μm以下である銀を含む配線部を有する基板を備える回路基板に用いることは効果的である。
また、上述のように、導体ペースト組成物の構成物である銀粉末は、焼成温度が700℃以上から蒸発しはじめ、約800℃以上になると急激にその付着量が多くなることから、上記各絶縁性ペースト組成物及び導体ペースト組成物を、銀を含む配線部を有するとともに、700℃以上の温度にて加熱される部分を有する基板を備える回路基板に用いることは効果的である。
さらに、本発明者らの検討によれば、銀を含む配線部を有する基板がアルミナ基板であると、高温リーク現象が発生しやすいことも確認している。請求項10〜請求項12記載の発明は、このような配線部間隔、導体ペースト組成物の焼成条件、および、用いられる絶縁性基板の組成等に関する知見に基づいてなされたものであり、高温リーク現象の発生しやすい回路基板に関して、好適に高温リーク現象を抑制できるような導体ペースト組成物を焼成することにより形成されている回路基板を提供できる。
本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、第1、第2、第4、第5実施形態は参考例であり、第3実施形態が特許請求の範囲に記載した発明の実施形態に相当する。
(第1実施形態)
本実施形態は、カリウム化合物が、無機固形分100重量部に対し酸化物に換算して5〜30重量部含有されていることを特徴とする絶縁性ペースト組成物に係るものである。本実施形態は、間隔が500μm以下である銀を含む配線部を有する基板を備える回路基板(配線基板)、および、銀を含む配線部を有するとともに700℃以上の温度にて加熱される部分を有する基板を備える回路基板(配線基板)等に用いることができる。特に基板がアルミナ基板である場合等に好適である。
図9に本発明に係る回路基板の断面構成図を示す。10は回路基板、1はガラス物質とアルミナ粉末とからなり電気的に絶縁されたアルミナ基板であり、2は基板1上に形成された銀を含む複数個のライン状の配線部(厚膜配線部)であり、紙面垂直方向に配線部間隔L1(例えば100μm)を設けてストライプ状に配置されている。本実施形態では、基板1上の配線部2の間にカリウム酸化物もしくはこれを含むガラス等(以下、カリウム酸化物等という)を存在させている。
回路基板10は、基板1上に、銀を含む導体ペースト組成物を印刷焼成することにより配線部2を形成して得られる。この配線部2間にて、導体ペースト組成物焼成時に形成される反応物中にカリウム酸化物等を共に存在させることによって、反応物の導電性化を防止し、配線部2間の絶縁性の高い回路基板を得、高温リーク現象を好適に抑制できる。
カリウム化合物としては、酸化カリウム、グルコン酸カリウム、水酸化カリウム、クエン酸カリウム、酒石酸水素カリウム等を用いることができる。カリウム化合物は、無機固形分100重量部に対し酸化物に換算して5〜30重量部となるように配合し、本実施形態の絶縁性ペースト組成物を作成する。図10は、本実施形態の絶縁性ペースト組成物を用いた回路基板の製造方法の一例を示す説明図である。
この絶縁性ペースト組成物3を、あらかじめ導体ペースト組成物を印刷する前に基板1上に付与することにより、基板1の少なくとも配線部間に対応する部位にカリウム化合物を存在させることができる。ここで、マスキング等により配線部間に対応する部位にのみカリウム化合物を存在させてもよい。ここで、導体ペースト組成物を印刷焼成すると、配線部2とともに配線部2間に反応物が形成される。これと同時に、あらかじめ付与され配線部2間に存在するカリウム化合物が、その焼成(例えば700℃以上)によってカリウム酸化物等となり、かつ、導体ペースト組成物によって形成される反応物中に存在し導電性化を抑制する。
ここで、導体ペースト組成物を印刷焼成する前に、絶縁性ペースト組成物3の熱処理まで行ってもよい。なお、図10および後述の図11において、完成後の絶縁性ペースト組成物3(つまり各図において回路基板10における絶縁性ペースト組成物3)は、便宜上膜状に示してあるが、実際には、焼成により絶縁性ペースト組成物中の揮発成分が蒸発するので、粒子状にカリウム化合物が散在した形となっているのが通常である。
この絶縁性ペースト組成物の付与および熱処理は、上述のように、導体ペースト組成物の印刷、焼成において、どのタイミングで行ってもよい。図11は本実施形態の絶縁性ペースト組成物を用いた回路基板の製造方法の他の例を示す説明図である。基板1に導体ペースト組成物を印刷した後、基板1の少なくとも配線部2間に対応する部位に、絶縁性ペースト組成物3を塗布(印刷)し、両ペースト組成物を同時に焼成するか、又は、基板1に導体ペースト組成物を印刷、焼成して配線部2を形成した後、絶縁性ペースト組成物3を塗布(印刷)、焼成してカリウム化合物を存在させてもよい。いずれの方法においても、反応物中にカリウム酸化物等を存在させることができ、反応物の導電性化を抑制する。
また、配線部2間に供給されるカリウム化合物或いはカリウム酸化物等は、その単独を溶剤にて溶液化した状態にて付与しても良く、水酸化カリウム溶液でも良い。無機固形物は、セラミック基板の構成物であるガラス質に用いられても良い。セラミック基板は一般的に、アルミナ粉末とガラス質とを溶剤中にて分散させた後に、板状に加工され800〜1200℃にて焼結することにより得られる。この時、カリウム化合物はカリウム酸化物等となってアルミナ粒界部分及び基板1表面部に存在するガラス質中に含まれている。このガラス質は、導体ペースト組成物の焼成温度にて若干軟化する。
この基板1上に導体ペーストを印刷焼成すると、その焼成時に形成される反応物が、基板1のガラス質中のカリウム酸化物等を含んだ状態にて付着物層となり存在する。このカリウム酸化物が存在する反応物は導電性化が抑制され、信頼性の高い回路基板を得ることができ、高温リーク現象を好適に抑制できる。
(第2実施形態)
本第2実施形態は、カリウム化合物を、焼成により回路基板の厚膜状の配線部(厚膜配線部)を形成する導体ペースト組成物(厚膜導体ペースト)に含有させたもの、すなわち、銀を含む導電性金属粉末と無機結合剤とを有機ビヒクル中にて分散させてなる導体ペースト組成物に(厚膜導体ペースト)係るものである。本実施形態の導体ペースト組成物も上記第1実施形態と同様の回路基板等に用いて好適である。
本実施形態の回路基板も、図9と同様の構成である。ガラス物質とアルミナ粉末とからなり、電気的に絶縁された基板1上に、少なくとも銀を導電性金属とし、かつ、カリウム化合物を構成物とする厚膜導体ペーストを印刷焼成することで基板上に配線部2を形成し回路基板10を得る。厚膜導体ペースト中に配合されたカリウム化合物は、焼成時に銀及び無機結合剤と共に蒸発し、カリウム酸化物等となって反応物中に存在する。
従って、配線部2周辺近傍には銀を含む反応物が付着存在するとともに、反応物中にはカリウム酸化物等が存在する。反応物中に存在するカリウム酸化物等は反応物の導電性化を阻害する効果を有し、高温リーク現象を好適に抑制する。また、反応物中のカリウム酸化物等が多い程導電性化の抑制効果は大きい。ここで、導電性金属粉末としては、従来厚膜導体ペーストに用いられる銀粉末が使用でき、銀単独のものあるいは必要に応じて、パラジウム、白金、金、銅等を含有していても良い。また、銀と上記金属とを予め合金化した粉末を用いても良い。
また、一般的に使用される銀粉末の平均粒径は0.5〜7μm、比表面積は0.5〜3m2 /g、パラジウムや白金粉末等の平均粒径は0.1〜1μm、比表面積は10〜40m2 /gである。カリウム化合物としては、酸化カリウム、もしくは炭酸カリウム等、厚膜導体ペーストの焼成中に酸化カリウムもしくは酸化カリウムを含むガラス状物質を生成するものであれば良く、グルコン酸カリウム等の有機金属化合物も使用できる。
カリウム化合物は、その必要配合量が極僅かで良く、酸化カリウムとして直接厚膜導体ペースト中に配合分散することができ、また、無機結合剤中のガラスフリットの成分として配合してあっても良い。ここで、その必要配合量は、例えば、導電性金属粉末100重量部に対してカリウム酸化物に換算して0.01重量部以上でよく、半田特性をも考慮すると、カリウム酸化物に換算して、導電性金属粉末100重量部に対して、0.01〜0.4重量部であるものが好ましい。
有機金属化合物としてのカリウム化合物を用いる場合には、有機ビヒクル中の溶剤等に溶解して配合したり、銀粉等の導電性金属粉末の表面に付着させておいたりすることもできる。ここで、本実施形態の導体ペースト組成物においては、半田特性向上のために、ビスマス化合物、ルテニウム化合物、もしくはニッケル化合物を添加したものとしてもよい。
ビスマス化合物としては、酸化ビスマスもしくは焼成によって酸化ビスマスを生成するものであればよく、オクチル酸ビスマス等の有機化合物も使用できる。また、無機結合剤中のガラスフリットの成分として配合してあっても良い。酸化ビスマス粉末としては、五酸化二ビスマスを、平均粒径1〜4μm程度に粉砕したものが使用できる。
これらビスマス化合物の含有量は、高温リーク特性(高温リーク現象を抑制する性能)と半田特性との両立のために、ビスマス酸化物に換算して、導電性金属粉末100重量部に対して0.1〜20重量部とするのが好ましい。無機結合剤としては、従来厚膜導体ペーストに用いられているものから、焼成後の導体が必要とする諸特性に適する組み合わせを選択して用いることができる。
厚膜導体ペーストの無機結合剤粉末として、亜鉛含有量の多いホウケイ酸鉛亜鉛系ガラスを用いたり、バナジウム化合物、銅化合物、マンガン化合物、クロム化合物等を用いると、焼成後の導体膜の半田特性が向上する場合があるが、これらの配合は、同時に高温リーク特性を劣化させる傾向にある。しかし、半田特性との兼ね合いで、高温リーク特性が許す限りこれらを配合することが可能である。
ルテニウム化合物としては、酸化ルテニウムもしくは、厚膜導体ペーストの焼成中に酸化ルテニウムを生成するオクチル酸ルテニウム等の前駆物質が使用できる。酸化粉末としては、平均粒径は1〜10μm、比表面積は10〜50m2 /g、である二酸化ルテニウム粉末等が使用できる。ニッケル化合物としては、酸化ニッケル粉末もしくは、厚膜導体ペーストの焼成中に酸化ニッケルを生成するニッケル金属粉末等を用いることができる。ニッケル金属粉末としては、平均粒径は0.1〜2μm、比表面積は10〜20m2/g、であるニッケル金属粉末等が使用できる。
これらルテニウム化合物及びニッケル化合物の含有量は、導電性金属粉末100重量部に対して酸化物に換算すると0.01重量部〜3重量部であることが好ましい。有機ビヒクルとしては、エチルセルロース等の樹脂をターピネオールやブチルカルビトール等の有機溶剤に溶解したもの等、従来厚膜導体ペーストに用いられているものが使用できる。有機ビヒクルの配合量は、ペーストの粘度や流動性等、印刷適正を好ましい程度にできるように選択すれば良い。
本実施形態によれば、従来の厚膜導体ペーストに必要とされる諸特性を確保した上で、新たに見出された高温リーク特性をも満足させることができるので、厚膜回路基板の機械的及び電気的信頼性を向上する効果がある。次に、本実施形態における上記各添加物の効果を示す具体例を、図12〜図14を参照して以下に述べる。なお、本例はあくまでも、上記各添加物の効果を定性的な傾向として示すものであり、定量的に好適な含有量としては、種々の導体ペースト組成物の配合構成を鑑みて求める。
図12は、この具体例の各導体ペースト組成物に用いた化合物を示す図表である。この図表中、ビスマス化合物A及びB、カリウム化合物A〜C、ガラスフリットA〜Eは、それぞれ、右欄に示す化合物又は混合物に相当するものであり、カリウム化合物Cはカリウム含有ガラスフリットとして、ガラスフリット中にK2 Oが含まれたものとなっている。また、ガラスフリットA〜Eの括弧内の数字は、重量%を示す。
また、この具体例の各導体ペースト組成物の配合比及び後述する諸特性を、図13(試料1〜20)及び図14(試料21〜31)に示した。なお、両図中、酸化Ruは酸化ルテニウム、酸化Vは酸化バナジウムを示す。また、図中の※は、ガラスフリット中に含まれるカリウム化合物の量も含んだ値を示す。エチルセルロース樹脂をターピネオールに溶解した有機ビヒクル中に、導電性金属粉末として銀、パラジウム(Pd)、白金を用い、また、図12の図表に示すビスマス化合物、カリウム化合物、ガラスフリット、及び、その他の無機結合剤粉末を用いて、図13および図14の各図表に示す配合比で混合し、混練分散して試料1〜試料31の31種類の厚膜導体ペーストを作製した。なお、試料1、試料3及び試料30は、カリウム化合物が入っていない導体ペースト組成物であり、比較例である。
こうして作製された各厚膜導体ペーストを、96%Al2 O3 絶縁基板上に印刷乾燥後、コンベア炉を用いて850℃:ピーク10分で2回焼成し、膜厚9〜13μmの導体膜を有する厚膜配線板を作製した。尚、スクリーンは325メッシュ総厚75μmのものを用いた。このようにして作製された厚膜配線板の導体表面に、ロジンフラックスを塗布し、2Ag/62Sn/36Pbの半田よりなる1mmφの半田ボールを載せ、230℃にて15秒間リフローした後、濡れ広がった半田ボールの高さを測定し、半田濡れ性の尺度とした。
次に、別の厚膜配線板をロジンフラックス中に浸漬してから、2Ag/62Sn/36Pbの半田に250℃5秒間浸漬した後、2×2mmパッドに直径0.6mmの半田メッキ銅線を半田ゴテにて半田付けし、150℃恒温槽にて1000時間放置後、ピールテストにより密着強度を測定し、これを半田密着強度の尺度とした。
更に、別の厚膜配線板の対向電極部分(電極間隔100μm、電極対向長さ20mm)にDC16Vを印加し、150℃恒温槽にて1000時間放置した。この試料にて、電極間の抵抗値が100MΩ以上のものを合格とし、その合格率(%)を高温リーク特性の尺度とした。これらの結果もまた、図13および図14中にまとめた。なお、両図中の半田濡れ性(単位mm)は、数値が小さいほど良く、半田密着強度(単位kg/2mm□)は数値が大きいほど良い。
試料1及び3(比較例)と試料2との比較から、カリウム化合物の有無により高温リーク特性が大きく変わる(20%と100%)ことがわかる。試料4、5、6、7、及び8の比較から、含有されるカリウム化合物量の増加とともに、高温リーク特性が向上するが、逆に半田特性が低下していくのがわかる。また、試料6、9、及び10の比較から、カリウム化合物の種類によらず高温リーク特性は良好であり、また、半田特性も大差はないことがわかる。
試料6と試料11との比較から、添加するビスマス化合物の種類は、高温リーク特性及び半田特性に関係がないことがわかる。また、試料6、12、13、及び14の比較から、含有されるガラスフリットの種類は、高温リーク特性及び半田特性に関係がないことがわかる。また、試料15、16、及び17の比較から、導電性金属粉末の種類は、高温リーク特性及び半田特性に関係がないことがわかる。
試料18、19、20、及び21の比較から、ビスマス化合物量が多すぎると半田濡れ性が悪くなることがわかる。また、試料22、23、19、24、及び25の比較から、酸化ルテニウム量が多い程、半田密着強度が向上するが、多すぎると高温リーク特性が悪くなることがわかる。試料26、27、19、28、及び29の比較から、酸化ニッケル量が多い程、半田密着強度が向上することがわかる。
また、試料30(比較例)と試料31との比較から、リークを起こしやすい酸化バナジウムを含む厚膜導体ペーストであっても、カリウム化合物の含有により、高温リーク特性が良好にできることがわかる。
(第3実施形態)
上記第1および第2実施形態は、導体ペースト焼成によって配線部周辺近傍に反応物(無機結合剤と銀とが化学的に反応した物質)が存在しても、高温雰囲気下にて電圧を印加したときに反応物中の銀が導電性化しないようにすることで、高温リーク現象を好適に抑制するものとしている。
本第3実施形態は、導体ペースト組成物において、無機結合剤中に導電性化しやすい成分を含まないような組成とすることで、高温リーク現象を好適に抑制しようとするものである。本実施形態の導体ペースト組成物も上記第1及び第2実施形態と同様の回路基板等に用いて好適である。本実施形態の回路基板も、図9と同様の構成であるが、配線部2間に上記カリウム酸化物等は存在していない。本実施形態の導体ペースト組成物は、銀を含む導電性金属粉末と後述のガラスフリット等からなる無機結合剤とが有機ビヒクル中にて分散させてなる導体ペースト組成物(厚膜導体ペースト)である。そして、ガラス物質とアルミナ粉末とからなり電気的に絶縁された基板1上に、この導体ペースト組成物を印刷焼成(例えば700℃以上)することで配線部2を形成し回路基板10を得る。
上記ガラスフリット等からなる無機結合剤は、少なくともV、Cr、Mo、Mn、W、Cu、Zn等の導電性化しやすい元素を含む化合物を含有せず、また、上記導電性化しやすい元素を含む化合物の前駆物質を含有しないガラスフリットにより構成されたものである。従って、この様なガラスフリットは導体ペースト焼成時に蒸発し、反応物となって基板上に付着存在し、かつ、電圧と温度が加えられても導電性化しにくい。このため、配線部間の絶縁性不良を抑制することが出来、高温リーク現象を好適に抑制できる。
ここで、導電性金属粉末としては、従来の導体ペーストに用いられる銀粉末が使用でき、銀単独のものあるいは必要に応じて、パラジウム、白金、金、銅等を含有していても良い。また、銀と上記金属とを予め合金化した粉末を用いても良い。また、使用される銀粉末の平均粒径は0.5〜7μm、比表面積は0.5〜3m2 /g、パラジウムや白金粉末等の平均粒径は0.1〜1μm、比表面積は10〜40m2 /g、である。
無機結合剤中のガラスフリットとしては、軟化点が700〜950℃で、かつB−Si−Al−Ca系の高軟化ガラス、及びB−Si−Pb系のガラスを使用できる。これらのガラスは焼成時に、上述したように、厚膜導体ペースト中の銀の蒸発を抑制できるものである。ここで、前者のガラスとしては、例えばB2 O3 (10)−SiO2 (50)−Al2 O3 (15)−CaO(25)であるガラス(括弧内は重量%)等を使用でき、後者のガラスとしては、例えばB2 O3 (10)−SiO2 (15)−PbO(75)であるガラス(括弧内は重量%)等を使用でき、各ガラスは平均粒径1〜10μm程度に粉砕したものが使用できる。なお、配合量は、焼成後の導体が必要とする諸特性に適する様に調整する必要がある。
その他の無機結合剤としては、従来厚膜導体ペーストに用いられるものから、焼成後の導体が必要とする諸特性に適する組み合わせを選択して用いることができる。有機ビヒクルとしては、エチルセルロース等の樹脂をターピネオールやブチルカルビトール等の有機溶剤に溶解したもの等、従来厚膜導体ペーストに用いられているものが使用できる。有機ビヒクルの配合量は、ペーストの粘度や流動性等、印刷適正を好ましい程度にできるように選択すれば良い。
以下、本第3実施形態の具体例を図15を参照して以下に述べるが、本実施形態はこの具体例に限定されるものではない。図15は、この具体例の各導体ペースト組成物の配合比及び高温リーク特性を示す図表である。ここで、各ガラスフリットA、Bの括弧内の数値は各ガラスフリットにおける配合比であり、単位は重量%である。また、各ガラスフリットA、Bの軟化点はそれぞれ790℃、380℃である。
エチルセルロース樹脂をターピネオールに溶解した有機ビヒクル中に、導電性金属粉末及びガラスフリット及びその他の無機結合剤粉末を、図15に示す配合比で混合し、混練分散して、試料40〜試料44の5種類の厚膜導体ペーストを作製した。こうして作製された各厚膜導体ペーストを、96%Al2 O3 絶縁基板上に印刷乾燥後、コンベア炉を用いて850℃:ピーク10分で2回焼成し、膜厚9〜13μmの導体膜を有する厚膜配線板を作製した。尚、スクリーンは325メッシュ総厚75μmのものを用いた。
このようにして作製された厚膜配線板の対向電極部分(電極間隔100μm、電極対向長さ20mm)にDC16Vを印加し、150℃恒温槽にて1000時間放置した。この試料にて、電極間の抵抗値が100MΩ以上のものを合格とし、その合格率(%)を高温リーク特性の尺度とした。図15に示すように、試料40〜試料44により作製された厚膜配線板は、いずれも良好な高温リーク特性を示した。
ところで、本実施形態の導体ペースト組成物に、さらに、上記第2実施形態にて述べたようなカリウム化合物を添加したものとしてもよい。本実施形態の効果に加え、上述のカリウム化合物の効果が得られる。
(第4実施形態)
本第4実施形態は、導体ペースト組成物において、銀の含有量を少なくすることで焼成時に蒸発する銀の量を低減して、高温リーク現象を好適に抑制しようとするものである。本実施形態の導体ペースト組成物も上記第1〜3実施形態と同様の回路基板等に用いて好適である。
本実施形態の回路基板も、図9と同様の構成であるが、配線部2間に上記カリウム酸化物等は存在していない。本実施形態の導体ペースト組成物は、銀を含む導電性金属粉末とガラスフリット及びビスマス酸化物の少なくとも一方からなる無機結合剤とを後述の所定割合として有機ビヒクル中にて分散させてなる導体ペースト組成物(厚膜導体ペースト)である。
そして、ガラス物質とアルミナ粉末とからなり電気的に絶縁された基板1上に、この導体ペースト組成物を印刷焼成(例えば700℃以上)することで配線部2を形成し回路基板10を得る。ここで、導電性金属粉末と無機結合剤との割合は、無機結合剤の含有量が導電性金属粉末100重量部に対して45重量部以上であることが望ましい。45重量部以下では、絶縁基板上への銀の付着量が多くなり配線部間の絶縁性不良を防止することが出来ない。この根拠を図16に示す。
図16は、横軸にガラスフリット及びビスマス酸化物の少なくとも一方からなる無機結合剤の導電性金属粉末100重量部に対する含有量としてのガラス重量部(wt%)を示し、左側縦軸に高温リーク現象による絶縁不良の発生率を表す累積不良率(%)を示し、右側縦軸に導体ペースト組成物を焼成して形成した配線部の配線部抵抗値(mΩ/□)を示したものである。
図16から、無機結合剤の含有量が45重量部以上であれば、累積不良率を0とでき、高温リーク現象を好適に抑制できることがわかる。45重量部以下では、絶縁基板上への銀の付着量が多くなり配線部間の絶縁性不良を防止することが出来ない。また、100重量部以下であれば、一般的な回路基板の配線抵抗の望ましい値である5mΩ/□を達成できる。従って、無機結合剤の含有量が45〜100重量部であれば、配線部間の絶縁性不良防止と良好な配線部抵抗特性の両立が図れる。
ここで、100重量部以上では、配線部の抵抗値が極端に高くなったり、半田付け性が低下するなどの問題が生じ配線部として機能しないものとなる。但し、用いられる導電性金属粉末の種類又は、構成、及び無機結合剤成分組成等によって無機結合剤の最大添加量は100重量部以下となる場合があるので、用いる厚膜導体ペースト組成物毎に最適化する必要がある。
導電性金属粉末としては、従来厚膜導体ペーストに用いられている銀粉末が使用でき、銀単独のものあるいは必要に応じて、パラジウム、白金、金、銅等を含有しても良い。銀と上記金属とを予め合金化した粉末を用いても良い。また、一般的に使用される銀粉末の平均粒径は0.5〜7μm、比表面積は0.5〜3m2 /g、パラジウムや白金粉末等の平均粒径は0.1〜1μm、比表面積は10〜40m2 /g、である。
ガラスフリットとしては、従来厚膜導体ペーストに用いられているホウケイ酸鉛ガラスが使用できる他、軟化点がおよそ800℃以下であるガラスフリットであれば、どの様な組成でも良い。ガラスフリット粉末としては、上記フリットを平均粒径1〜10μm程度に粉砕したものが使用できる。このようなガラスフリットを用いれば、上述したように溶融により銀の蒸発抑制がなされる。
ビスマス酸化物粉末としては、五酸化二ビスマスを、平均粒径1〜4μm程度に粒砕したものが使用できる。ビスマス酸化物は銀粉末との馴染みが良く、かつ、焼成温度が約800℃の温度にて融解するためガラスフリットと同様の効果を得ることが出来る。有機ビヒクルとしては、エチルセルロース等の樹脂をターピネオールやブチルカルビトール等の有機溶剤に溶解したもの等、従来厚膜導体ペーストに用いられているものが使用できる。有機ビヒクルの配合量は、ペーストの粘度や流動性等、印刷適正を好ましい程度にできるように選択すれば良い。
以下、本第4実施形態の具体例を図17を参照して以下に述べるが、本実施形態はこの具体例に限定されるものではない。図17は、この具体例の各導体ペースト組成物の配合比及び後述の諸特性(抵抗値、高温リーク特性)を示す図表である。ここで、各ガラスフリットA、Bの括弧内の数値は各ガラスフリットにおける配合比であり、単位は重量%である。
エチルセルロース樹脂をターピネオールに溶解した有機ビヒクル中に、導電性金属粒膜及びガラスフリット、ビスマス酸化物粉末を、図17に示す配合比で混合し、混練分散して、試料50〜試料56の厚膜導体ペーストを作製した。こうして作製された各厚膜導体ペーストを、96%Al2 O3 絶縁基板上に印刷乾燥後、コンベア炉を用いて850℃:ピーク10分で2回焼成し、膜厚9〜13μmの導体膜を有する厚膜配線板を作製した。尚、スクリーンは325メッシュ総厚75μmのものを用いた。
このようにして作製された厚膜配線板の導体配線部分の抵抗値(単位mΩ/□)を測定した。更に、別の厚膜配線板の対向電極部分(電極間隔100μm、電極対向長さ20mm)にDC16Vを印加し、150℃恒温槽にて1000時間放置した。この試料にて、電極間の抵抗値が100MΩ以上のものを合格とし、その合格率(%)を高温リーク特性の尺度とした。
これら抵抗値(単位mΩ/□)および高温リーク特性の結果も、また、図17に、それぞれまとめた。図17において、試料50〜試料56により作製された厚膜配線板は、いずれも良好な抵抗値及び高温リーク特性を示した。なお、試料54は、導電性金属粉末としてもともと抵抗値の高い銀−Pd(パラジウム)を用いているので、抵抗値は他のものより高くなっているが、本実施形態の意図と異なるものではない。試料54において銀もしくは銀−白金とすれば、他のものと同様レベルの抵抗値とできる。
ところで、本実施形態の導体ペースト組成物に、さらに、上記第2実施形態にて述べたようなカリウム化合物を添加したものとしてもよい。本実施形態の効果に加え、上述のカリウム化合物の効果が得られる。
(第5実施形態)
本第5実施形態は、そもそも導電化を引起こす反応物の要因となる無機結合剤を含まない導体ペースト組成物を提供するものである。本実施形態の導体ペースト組成物も上記第1〜4実施形態と同様の回路基板等に用いて好適である。
本実施形態の回路基板も、図9と同様の構成であるが、配線部2間に上記カリウム酸化物等は存在していない。本実施形態の導体ペースト組成物は、銀を含む導電性金属粉末と有機ビヒクルとからなる導体ペースト組成物(厚膜導体ペースト)において無機結合剤を含まないものである。そして、ガラス物質とアルミナ粉末とからなり電気的に絶縁された基板1上に、この導体ペースト組成物を印刷焼成(例えば700℃以上)することで配線部2を形成し回路基板10を得る。
ここで、上述のように、配線部2間には銀が孤立状態で付着するため、導電性化は起こらず、高温リーク現象を好適に抑制できる。導電性金属粉末としては、従来厚膜導体ペーストに用いられる銀粉末が使用でき、銀単独のものあるいは必要に応じて、パラジウム、白金、金、銅等を含有していても良い。銀と上記金属とを予め合金化した粉末を用いても良い。
また、一般的に使用される銀粉末の平均粒径は0.5〜7μm、比表面積は0.5〜3m2 /g、パラジウムや白金粉末等の平均粒径は0.1〜1μm、比表面積は10〜40m2 /g、である。絶縁基板との密着性を確保するための接着強度補助物質としては、ビスマス酸化物、銅酸化物、マンガン酸化物、ニッケル酸化物、亜鉛酸化物、クロム酸化物、チタン酸化物、及び、珪素酸化物のうち少なくとも1つからなるものを用いることが出来る。その添加量は配線部間の絶縁性に影響しない程度の微量なもので良い。
具体的には、ビスマス酸化物粉末としては、五酸化二ビスマスを、平均粒径1〜4μm程度に粉砕したものが使用できる。酸化銅粉末としては、亜酸化銅を、平均粒径0.5〜3μm程度に粉砕したものが使用できる。また、二酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化亜鉛、三酸化二クロム、二酸化チタン、二酸化珪素を、平均粒径0.1〜3μm程度に粉砕したものが使用できる。
有機ビヒクルとしては、エチルセルロース等の樹脂をターピネオールやブチルカルビトール等の有機溶剤に溶解したもの等、従来厚膜導体ペーストに用いられているものが使用できる。有機ビヒクルの配合量は、ペーストの粘度や流動性等、印刷適正を好ましい程度にできるように選択すれば良い。以下、本第5実施形態の具体例を図18を参照して以下に述べるが、本実施形態はこの具体例に限定されるものではない。図18は、この具体例の各導体ペースト組成物の配合比及び後述の諸特性(半田密着強度、高温リーク特性)を示す図表である。
エチルセルロース樹脂をターピネオールに溶解した有機ビヒクル中に、導電性金属粉末及び接着強度補助物質である五酸化二ビスマス、亜鉛化銅、二酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化亜鉛、三酸化二クロム、二酸化チタン、二酸化珪素を、図18に示す配合比で混合し、混練分散して、試料60〜試料70の導体ペースト組成物を作製した。
こうして作製された厚膜導体ペーストを、96%Al2 O3 絶縁基板上に印刷乾燥後、コンベア炉を用いて850℃:ピーク10分で2回焼成し、膜厚9〜13μmの導体膜を有する厚膜配線板を作製した。尚、スクリーンは325メッシュ総厚75μmのものを用いた。このようにして作製された厚膜配線板をロジンフラックス中に浸漬してから、2Ag/62Sn/36Pb半田に250℃5秒間浸漬した後、2×2mmパッドに直径0.6mmの半田メッキ銅線を半田ゴテにて半田付けし、ピールテストにより密着強度を測定し、これを半田密着強度(単位kg/2mm□)の尺度とした。
更に、別の厚膜配線板の対向電極部分(電極間隔100μm、電極対向長さ20mm)にDC16Vを印加し、150℃恒温槽にて1000時間放置した。この試料にて、電極間の抵抗値が100MΩ以上のものを合格とし、その合格率を高温リーク特性の尺度とした。図18に示すように、試料60〜試料70により作製された厚膜配線板は、いずれも良好な高温リーク特性を示し、また、接着強度補助物質により、ある程度の半田密着強度を示すことがいえる。
なお、接着強度補助物質が無くとも、導体ペースト組成物焼成後、形成された配線部を、封止剤等を用いて覆うようにすれば、半田密着強度を示さないものであっても回路基板上に配置固定することが可能である。ところで、本実施形態の導体ペースト組成物に、さらに、上記第2実施形態にて述べたようなカリウム化合物を添加したものとしてもよい。本実施形態の効果に加え、上述のカリウム化合物の効果が得られる。
1…基板、2…配線部、3…絶縁性ペースト組成物、10…回路基板、A1…アルミナ粒子、A2…ガラス物質、A3…銀粒子、a…厚膜導体ペースト、b…絶縁基板、c…スペーサ、d…ギャップ、e…金配線部、f…絶縁基板、g…基板δと基板εとの距離、h…金の配線部間。