近時、半導体レーザの応用範囲は拡大しつつあり、高出力半導体レーザへのニーズが年々高まっている。高出力動作を実現するために、屈折率導波型のストライプ導波路を有する半導体レーザにおいては、発光幅を広げることで光密度を下げる方法が一般的に採用されている。ところがこの種の半導体レーザにおいては、発光幅を大きくするほど大出力が得られるものの、その幅を10μm以上と広くした場合は、レーザ光に多くの高次横モードが混在するようになる。その結果、光出力が不安定となり、雑音や、電流−光出力特性上のキンクが発生することが知られている。
さらに詳細に説明すると、複数の高次横モードはそれぞれ、近視野像、遠視野像、発振スペクトル、電流から光への変換効率等が互いに異なる。また幅の広い発光部から放射されるレーザ光に含まれる多くの高次横モードは、時間経過に伴ってそれぞれ独立して強度が変化する。このことは、発光幅の広い半導体レーザを応用システムに用いた場合、提供される光の性質が時間経過に伴って変動することを意味し、安定動作に大きな妨げとなることを意味する。
以下、これらの発光幅の広い半導体レーザを励起光源とした固体レーザ、またそのような固体レーザにおいて特に非線形光学結晶を設けて固体レーザ光を短波長化するようにした固体レーザ、さらにはレーザ光源から発せられた光を光ファイバーに入射させるようにしたレーザ装置において生ずる問題を詳述する。
まず、半導体レーザ励起固体レーザにおける問題について説明する。図2はこの種の固体レーザの概略構成を示すものであり、該固体レーザは、ストライプ導波路1を有する半導体レーザ2、この半導体レーザ2から発せられた励起光としての半導体レーザ光3を集光するレンズ4、集光された半導体レーザ光3によって励起(ポンピング)される固体レーザ結晶5、および共振器ミラー6から構成される。この構成においては、固体レーザ結晶5が半導体レーザ光3を吸収して、そのエネルギーを固体レーザ光7として放出する。なお共振器は多くの場合、共振器ミラー6のミラー面6aと、固体レーザ結晶5の後端面5aとで構成される。このような固体レーザにおいては、以下の2つの理由により、高次横モードの変化が固体レーザ光7の著しい強度変化の原因となる。
まず第一の理由は、半導体レーザ光3の発光パターンが変化すると固体レーザ結晶5内に集光される半導体レーザ光3の照射パターンが変化し、さらには固体レーザ結晶5におけるエネルギーの変換効率が揺らぐことであり、それが最終的に、固体レーザ光7の予期せざる強度変化を発生させる。
また第二の理由は、固体レーザ結晶5が吸収する光の波長幅が非常に狭いことに由来する。すなわち、半導体レーザ2の高次横モード変動に起因して発振波長が変動すると、光の吸収波長が狭い固体レーザ結晶5に吸収されるエネルギー量が変化し、その結果、固体レーザの光出力変動を招く。
このように、励起光源である半導体レーザの横モードの変化は、固体レーザの光出力の変動、雑音発生の原因となる。同様の現象は、前述したように非線形光学結晶を設けて、固体レーザ光を短波長化するようにした固体レーザにおいてさらに顕著なものとなる。
図3は、この種の固体レーザの概略構成を示すものである。なお同図において、図2中の要素と同等の要素には同番号を付し、それらについての説明は特に必要のない限り省略する(以下、同様)。この固体レーザにおいては、共振器を構成する共振器ミラー6と固体レーザ結晶5との間に非線形光学結晶8が配置されており、固体レーザ光7はこの非線形光学結晶8によって例えば第2高調波9に変換され、共振器ミラー6から出射する。
この固体レーザにおいても、図2の固体レーザと同様の原因で雑音を発生する。具体的には、半導体レーザ2の高次横モードの変化で発光パターンと波長が変動し、結果的に、固体レーザ光7の光出力が変動する。さらに本装置においては、第2高調波発生のために非線形光学結晶8が用いられているので、光出力の変化が非線形光学効果により増大されて大きな雑音成分となる。
なお、第2高調波を発生させる固体レーザは、銀塩写真感材を露光させる銀塩写真用レーザプリンターにおいて、緑色光や青色光を発生する露光光源として用いられることもある。そのようなレーザプリンターを用いて高品質の画像を露光する上では、露光光に1%程度の雑音が含まれていても障害になるので、雑音発生をそれ以下に抑えることが要求されるが、第2高調波を発生させる従来の固体レーザでそのような要求に応えられるものは殆ど無いのが現状である。
次に、レーザ光源から発せられた光を、光ファイバーに対してその端面から入射させる構造を有するレーザ装置における問題について説明する。この種のレーザ装置は、図4にその基本構成を示す通り、半導体レーザ2と、そこから発せられた半導体レーザ光3を集光する集光レンズ4と、この集光レンズ4による集光位置に一端面10aが有る状態に配置された光ファイバー10とから構成されるものである。
このようなレーザ装置において、集光レンズ4により集光されて光ファイバー10に入射、結合する光の強度は、各横モードでそれぞれ異なるため、半導体レーザ光3における横モードの比率の時間変動は、とりもなおさず光ファイバー10中の光の強度変動につながる。このような事態が生じれば、当然、光ファイバー10から出射するレーザ光の出力が変動することになり、レーザ装置を種々に応用する上で大きな問題となる。
以上説明した三例でも分かるように、半導体レーザの発光幅が広いことによって高次横モードが存在することは、横モード変動に伴う光出力変動や、横モード間スイッチングによる雑音の原因となる。
従来、この高次横モードの変動を抑制する手段として、特許文献1に示されているように、活性層の幅方向に屈折率の異なる物質を配置して、横モードの閉じ込め(光の閉じ込め)を行う屈折率導波構造を形成することが提案されている。またこの特許文献1には、半導体レーザにおいて発光ガイド層を設け、発光層をマウント側から遠去けることで、高次横モードの変動をより一層低減できることも示されている。
特開2000−252585号公報
しかし、上記特許文献1に示されている技術を適用しても、雑音が数%以下である高品位半導体レーザを安定に製造することは困難であった。また、発光層をマウント部材から遠去ける手法を適用した半導体レーザは放熱特性に劣り、その結果、発光層の劣化を招くので、信頼性が低いものとなっている。
本発明は上記の事情に鑑みて、屈折率導波構造を成す幅広のストライプ導波路を有する半導体レーザにおいて、安定した高次横モード発振を実現することを目的とする。
また本発明は、そのような半導体レーザを高歩留まりで作製可能な方法を提供することを目的とする。
さらに本発明は、半導体レーザを励起光源として用いる固体レーザにおいて、光出力の変動および雑音発生を抑制することを目的とする。
また本発明は、レーザ光源から発せられた光を光ファイバーに入射させて伝搬させるようにしたレーザ装置において、光ファイバーから出射するレーザ光の出力変動を抑制することを目的とする。
また本発明は、レーザ光によって銀塩写真感材を露光させる銀塩写真用レーザプリンターにおいて、露光光であるレーザ光における雑音発生を抑制して、高品質の画像を露光可能とすることを目的とする。
本発明による半導体レーザは、
10μm以上の幅を有する、屈折率導波型のストライプ導波路と、
このストライプ導波路の両端に各々形成された、互いに平行な2つの共振器ミラーとを有する半導体レーザにおいて、
前記ストライプ導波路の長軸と前記共振器ミラーとがなす角度が、90±0.1度の範囲にあることを特徴とするものである。
ここで、上記構成について図1を参照して詳しく説明する。同図は、本発明による半導体レーザの導波路部分を上方から見た状態を概略的に示している。この半導体レーザ100は、周囲媒質との屈折率の差で光を閉じ込めて導波させる屈折率導波型のストライプ導波路101を有し、その幅Wは10μm以上である。またこのストライプ導波路101の両端には、劈開による互いに平行な2つの共振器ミラー102、102が形成されている。本発明の半導体レーザは、図中1点鎖線で示すストライプ導波路101の長軸と共振器ミラー102、102とがなす角度αが、90±0.1度の範囲に収められていることを特徴とするものである。
なお本発明の半導体レーザの特に好ましい実施形態においては、上記ストライプ導波路が、少なくとも第1導電型光ガイド層、活性層および第2導電型光ガイド層を備えて構成され、そして上記2つの光ガイド層の合計層厚が0.5μm以上とされる。ここで上記第1導電型、第2導電型とは、p型およびn型の一方と他方を示す。
また、この本発明による半導体レーザをヒートシンク上にボンディングするに当たっては、前述の特許文献1に開示されているように、活性層から遠い方の面をヒートシンク上に半田付けする構造(ジャンクションアップ組立構造)を適用することが望ましい。
また、本発明による半導体レーザの作製方法は、
概略円形で一部に劈開面に沿った切除辺を有する半導体ウエハから、屈折率導波型のストライプ導波路を有する半導体レーザを作製する方法において、
前記切除辺を15mm以上とした半導体ウエハを用い、
前記ストライプ導波路を、前記切除辺と整合させられる一辺および該一辺に対して直角に延びるストライプ規定用マスクパターンを有するマスクを用いたリソグラフィー工程によって形成することを特徴とするものである。
他方、本発明による固体レーザは、半導体レーザを励起光源とする固体レーザにおいて、励起光源として本発明による半導体レーザが用いられたことを特徴とするものである。なお、この本発明による固体レーザは、固体レーザ光を波長変換する非線形光学結晶を備えたものであることが特に好ましい。
また、本発明によるレーザ装置は、レーザ光源から発せられた光を、光ファイバーに対してその端面から入射させる構造を有するレーザ装置において、レーザ光源として本発明による半導体レーザが用いられたことを特徴とするものである。
さらに、本発明による銀塩写真用レーザプリンターは、露光光源から発せられたレーザ光によって銀塩写真感材を露光させる銀塩写真用レーザプリンターにおいて、露光光源として、本発明による固体レーザの中で特に上述の非線形光学結晶を備えてなる固体レーザが用いられたことを特徴とするものである。
半導体レーザにおいて高次横モードが不安定化する原因として、以下のことが考えられる。通常、共振器ミラーは結晶面に由来する壁開面で構成されるので、原子オーダーで平行である。一方、ストライプ構造はフォトリソグラフィープロセスで形成するために、直線性および対称性(活性層に直角な方向から見た状態で、共振器軸に関して左右対称になっていること)に留意して形成しても、プロセス上の誤差や不正確さにより、必ずしも共振器ミラー面に直角に形成できるとは限らず、何らかの非対称性が持ち込まれる。
そこで、この導波路の非対称性により高次横モードのパターンは、大なり小なり非対称となる。その結果、光強度の強い部分において、電流注入により生成したレーザ発振利得の源であるキャリアは誘導放出により減少し、利得も減った状態になる。言い換えれば、光強度が強い所ほどキャリア密度が低くなり、強い発光を維持するのが困難で、不安定な状態にある。
本発明は、この現象を抑制するために、キャリアの空間的な分布の非対称を極限まで減らすことに着眼して得られたものである。具体的には、10μm以上と幅の広いストライプを有する半導体レーザにおいて、1対の共振器ミラーの実際に光を反射する領域を互いに精度良く向かい合わせることで、生じる雑音を抑制できることが明らかになったので、共振器ミラーをそのように形成したものである。1対の共振器ミラーの実際に光を反射する領域を互いに精度良く向かい合わせるには、2つの壁開面が上述の通り原子オーダーで平行であることを考慮すれば、ストライプ導波路の長軸が壁開面つまりミラー面に対して高精度で直角になっていればよく、そこで本発明の半導体レーザではストライプ導波路の長軸と共振器ミラーとがなす角度を90±0.1度の範囲に規定したものである。
以下、上記構成による効果を調べた実験の結果を説明する。この実験には、発振波長807nmのGaAs系半導体レーザを用いた。ストライプ構造は、屈折率段差を持つ単純なストライプ構造である。ストライプ幅は50μmで、共振器長は概略1mmである。また1対の共振器ミラー面は劈開によって形成され、原子オーダーで平行と考えられる。そしてストライプ導波路は、その長軸と共振器ミラー面とがなす角度が90.0±0〜0.3度の範囲となるように形成した。
評価方法は、図3に示した非線形結晶を組み込んだ固体レーザに各半導体レーザを搭載し、半導体レーザの駆動電流を100mAから200mAの間で40秒かけてゆっくり上昇させ、前述の銀塩写真用レーザプリンターにおいて高品位画像を形成する際の目安となる光出力の揺らぎ(10Hz以上の周波数領域で1%以上の光強度雑音)を発生する固体レーザを不良と判定するものである。
ストライプ導波路の長軸と共振器ミラーとがなす角度θ(図1参照)と90度との間の誤差角度φ(絶対値)と、半導体レーザの不良率との関係を、図5において白丸で示す。ここに示される通り、上記誤差角度φが0.1度以内に収まっていれば、固体レーザの不良率は大きく低下する、つまり歩留まりが顕著に高くなることが分かった。このことは、半導体レーザにおけるストライプ導波路の長軸と共振器ミラーとがなす角度が90±0.1度の範囲にあれば、該半導体レーザにおける光出力の変動および雑音発生が極めて小さく抑制されることを示している。
なお、本発明の半導体レーザが前述の好ましい実施形態を取る場合、つまりストライプ導波路が、少なくとも第1導電型光ガイド層、活性層および第2導電型光ガイド層を備えて構成され、そして上記2つの光ガイド層の合計層厚が0.5μm以上とされた場合には、上述した効果がより顕著となる。すなわち、この2つの光ガイド層の合計層厚が0.5μmの場合の前記誤差角度φと半導体レーザの不良率との関係を、図5において黒丸で示す。同図において白丸で示したのは、上記2つの光ガイド層の合計層厚が0.25μmの場合の関係であるが、それと比べてこの黒丸の場合は不良率が顕著に低下していることが分かる。
また本発明によれば、半導体レーザの初期特性が改善されて歩留まりが向上するだけではなく、信頼性上も大きな利点のあることが明らかになった。具体的には、10μm以上の幅広ストライプを有する半導体レーザでは、長期的動作をさせると雑音が増えるが、本発明の半導体レーザでは、その雑音の増え方がかなり少ないことが分かった。図12は、前記誤差角度φが0.1度を超えている半導体レーザと、この誤差角度φが0.1度以内に収まっている本発明の半導体レーザについて、動作時間と雑音強度との関係を調べた結果を示すものである。破線が前者に関する結果を、実線が後者に関する結果を示している。ここに示されている通り、両半導体レーザとも動作開始当初の雑音強度は1%以下となっているが、前者の半導体レーザの場合は動作時間の経過とともに雑音強度が顕著に増大して、不良化する素子も多かったのに対し、本発明の半導体レーザの場合は、安定した雑音特性を示した。
上述のように雑音強度が増大する原因は、半導体レーザを長時間動作させ続けると徐々に半導体が部分的に劣化して、導波路内部で利得の不均一な増幅が行われ、そこで、導波路構造に少しでも非対称性が有ると光の横モードの不安定が助長されるからと考えられる。それに対して本発明の半導体レーザでは、導波路の対称性が高いため、導波路内部で多少利得の不均一な増幅があったとしても、光の横モードの安定性が保たれるものと考えられる。
なお、本発明による半導体レーザが、前述のジャンクションアップ組立構造を適用してヒートシンク上にボンディングされた場合は、ヒートシンクと半導体レーザの接着面の金属の熱膨張率差による歪みが活性層に伝わり難くなるので、この点からも信頼性が高められることになる。
一方、本発明による半導体レーザの作製方法は、劈開面に沿った切除辺を15mm以上と長くした半導体ウエハを用い、この切除辺と整合させられる一辺および該一辺に対して直角に延びるストライプ規定用マスクパターンを有するマスクを用いたリソグラフィー工程によってストライプ導波路を形成するようにしたので、劈開面に対して高精度で直角になるようにストライプ導波路を形成可能である。そこでこの方法によれば、ストライプ導波路の長軸と共振器ミラーとがなす角度が、前述のように90±0.1度の範囲にある半導体レーザを高歩留まりで作製することが可能となる。
また本発明による固体レーザは、半導体レーザを励起光源として用いる固体レーザにおいて、励起光源として、前述のように光出力の変動および雑音発生が抑制された本発明による半導体レーザが用いられたものであるので、固体レーザ光の出力変動および雑音発生が少ないものとなる。
特に本発明による固体レーザが、固体レーザ光を波長変換する非線形光学結晶を備えたものである場合は、本来、光出力の変化が非線形光学効果により増大されて大きな雑音成分となりやすいので、固体レーザ光の出力変動および雑音発生を抑制する効果がより顕著なものとなる。
また本発明によるレーザ装置は、レーザ光源から発せられた光を、光ファイバーに対してその端面から入射させる構造を有するレーザ装置において、レーザ光源として前述のように光出力の変動および雑音発生が抑制された本発明による半導体レーザが用いられたものであるので、光ファイバーから出射するレーザ光の出力変動および雑音発生が少ないものとなる。
さらに本発明による銀塩写真用レーザプリンターは、露光光源として、前述のように光出力の変動および雑音発生が抑制された本発明による半導体レーザが用いられたものであるので、露光光であるレーザ光における雑音発生を抑制して、高品質の画像を露光可能となる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図6は、本発明の第1の実施形態による半導体レーザの正断面形状を示すものである。図示の通りこの半導体レーザは、n-GaAs基板21と、その上に順次積層されたn-AlGaAs下部クラッド層22、アンドープAlGaAs下部光ガイド層23、アンドープ活性層24、アンドープAlGaAs上部光ガイド層25、p-AlGaAs上部クラッド層26およびp-GaAsキャップ層27と、p-AlGaAs上部クラッド層26およびp-GaAsキャップ層27に形成されたメサ部の側方を覆うように形成された絶縁層28と、この絶縁層28およびp-GaAsキャップ層27の上に形成されたp電極29と、n-GaAs基板21の裏側に形成されたn電極30とから構成されている。
次に、この半導体レーザの作製方法について説明する。まずn-GaAs基板21の上にn-AlGaAs下部クラッド層22からp-GaAsキャップ層27までを結晶成長させる。次に、ストライプ導波路をフォトリソグラフィー工程を用いて形成する。本実施形態では、ウエハの劈開面に合わせて、垂直からの角度ズレが0.1度以内となるように、フォトリソグラフィー工程でストライプを形成する。その具体的方法を以下説明する。一般的には、図8に示すように、概略円形で一部に劈開面に沿った切除辺S1を有する半導体ウエハSを基板として用いる。その場合、切除辺S1を設けたことによって円形から削除された部分の面積が小さい方が一ウエハからの素子生産数量が増すため、この切除辺S1の長さLはなるべく短くすることが求められ、従来は通常5mm程度とされてきた。
また、このフォトリソグラフィー工程においては、ストライプ形成するために、通常、図9に示すようなマスクMが用いられる。このマスクMはガラス等の透明部材を基材とし、そこに互いに平行な複数のストライプ規定用マスクパターンMSが形成されてなるものである。これらのマスクパターンMSは、基材の一端面に対して直角に延びるもので、遮光材料を層成して形成される。
ウエハSに前記n-AlGaAs下部クラッド層22からp-GaAsキャップ層27までの各層が成長され、さらにその上に図示外のフォトレジストが形成された後、マスクMは、その一端面内の合わせ部(図9に破線を付した領域)が前記切除辺S1と合致する状態にして、ウエハSと重ねられる。例えば上記フォトレジストとしてポジ型のものを用い、マスクMを通してフォトレジストを露光し、その後現像すると、フォトレジストのマスクパターンMSによって遮光されていたストライプ状領域のみが残り、他の領域が除去される。
そこで、この残ったストライプ状フォトレジストをエッチングマスクとして用いてp-GaAsキャップ層27 およびp-AlGaAs上部クラッド層26をエッチングすると、図6に示したようにp-GaAsキャップ層27 およびp-AlGaAs上部クラッド層26からなるメサ部が形成される。このメサ部は、図6において紙面に直角な方向に延び、その左右側部よりも高屈折率となって、ストライプ状光導波路を構成する。
このメサ部は上述の説明から分かる通り、基本的に、ウエハSの切除辺S1に対して、つまり劈開面に対して直角に形成され、ストライプ導波路の形状を規定するものとなる。ここで、このストライプ導波路の劈開面に対する角度を前述のように90±0.1度の範囲に収めるためには、マスクMの寸法精度や、ウエハSの切除辺S1の劈開面からの角度ズレ等の要因を考慮すると、マスクMの合わせ部と切除辺S1との間のずれ角α(図10参照)を0.03度以内程度に抑えることが望まれる。
このことは、切除辺S1の長さを従来のウエハにおけるように5mm程度とすると、図10に示したずれ状態で、ずれが最大となる切除辺S1の端部におけるマスクMとのずれ量が概略3μm以内となる合致精度でマスクMの位置合わせをする必要があり、これは容易ではない。そこで本実施形態では、この種の半導体レーザを作製する上で従来使用されて来たウエハとは異なって、図11に示すように切除辺S1がより大きく形成されたウエハSを使用する。具体的にこの切除辺S1の長さは、上記5mmの3倍に相当する15mmである。このようなウエハSを用いることで、上記合致精度は概略10μmと大きく緩和される。この結果本実施形態では、マスクMのマスクパターンMSと、後に共振器ミラー面とされる劈開面とがなす角度が、安定して90±0.1度の範囲に収められるようになる。
以上のようにウエハSとマスクMとを組み合わせた後、前述したリソグラフィー工程によりメサ部を形成する。その際、p-AlGaAs上部クラッド層26の残し厚みが0.2μmとなるようにエッチングを制御する。このようにして、メサ部で等価的に屈折率が高くなるような屈折率導波構造のストライプ導波路が形成される。なお本実施形態では、ストライプ導波路の幅は50μmとする。
その後絶縁膜28を形成する。さらに、電極窓となる部分の絶縁膜28をリソグラフィーにより除去し、その上にp電極29を形成し、n-GaAs基板21側にn電極30を形成する。この試料を劈開により切断して幅900μmのバーを作製し、それぞれ素子前端、後端の共振器ミラー面となる一方の劈開面、他方の劈開面に各々反射率10%、90%のコートを施し、このバーをさらにバー幅方向に切断して複数に分断すると半導体レーザが完成する。以上の説明から明らかなように、この半導体レーザの素子長つまり共振器長は900μmとなる。
以上の通りにして、ストライプ導波路の延びる方向(長軸)と、劈開面からなる共振器ミラー面との角度が90±0.1度の範囲にある本実施形態の半導体レーザが得られる。この構成の半導体レーザにおいては、先に詳しく説明した理由により、光出力の変動および雑音発生が極めて小さく抑制される。
なお本実施形態では、切除辺S1の長さが15mmであるウエハSを用いているが、切除辺S1の長さが15mmを超えたウエハを用いても、勿論、ストライプ導波路の長軸と、共振器ミラー面との角度が90±0.1度の範囲にある半導体レーザを高歩留まりである。しかし、この切除辺の長さを大きくするほど、1枚のウエハから作製できる素子数は少なくなるので、その点との兼ね合いも考慮して切除辺の長さを決めることが肝要である。
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図7は、本発明の第2の実施形態による半導体レーザの正断面形状を示すものである。図示の通りこの半導体レーザは、n-GaAs基板41と、その上に順次積層されたn-AlGaAs下部クラッド層42、アンドープAlGaAs下部光ガイド層43、アンドープ活性層44、アンドープAlGaAs上部光ガイド層45、p-AlGaAs上部クラッド層46およびp-GaAsキャップ層47を有する。また、ストライプ領域となるp-AlGaAs上部クラッド層46の部分の左右両側には、埋め込み型のn-AlGaInP電流ブロック層48が形成されている。そしてp-GaAsキャップ層47の上にはp電極49が、n-GaAs基板41側にはn電極50が形成されている。
以下、この半導体レーザの作製方法について説明する。まずn-GaAs基板41の上に、1回目の結晶成長により、n-AlGaAs下部クラッド層42、アンドープAlGaAs下部光ガイド層43、アンドープ活性層44、アンドープAlGaAs上部光ガイド層45、p-AlGaAs上部クラッド層46およびn-AlGaInP電流ブロック層48までを積層する。その後、n-AlGaInP電流ブロック層48の上に図示外のフォトレジストを層状に形成する。
次に前述したマスクMと同様のマスクを用いてフォトリソグラフィーにより、ストライプ領域となる部分の上記フォトレジストを除去する。次に、残ったこのフォトレジストをマスクとしてエッチングにより、ストライプ領域となる部分のn-AlGaInP電流ブロック層48を除去する。その後2回目の結晶成長により、このn-AlGaInP電流ブロック層48のエッチング除去された部分および該層48の上にp-AlGaAs上部クラッド層46を形成し、さらにその上にp-GaAsキャップ層47を形成する。
次にp-GaAsキャップ層47の上にp電極49を形成し、n-GaAs基板41側にn電極50を形成する。この試料を劈開により切断して幅900μmのバーを作製し、それぞれ素子前端、後端の共振器ミラー面となる一方の劈開面、他方の劈開面に各々反射率10%、90%のコートを施し、このバーをさらにバー幅方向に切断して複数に分断すると半導体レーザが完成する。以上の説明から明らかな通り、この半導体レーザの素子長つまり共振器長は900μmとなる。
本実施形態の半導体レーザにおいては、ストライプ領域となる部分のp-AlGaAs上部クラッド層46の両側に、それよりも屈折率の低いn-AlGaInP電流ブロック層48が形成され、それにより、上記ストライプ領域に対応する活性層44に光を閉じ込めるいわゆる埋め込み型の屈折率導波構造が構成されている。なお本実施形態でも、ストライプ導波路の幅は50μmである。
この半導体レーザも、切除辺の長さが15mmであるウエハから作製される。そしてストライプ領域つまり左右のn-AlGaInP電流ブロック層48の間に形成されたp-AlGaAs上部クラッド層46の部分は、これも前述のマスクパターンMSと同様のマスクパターンによって形状が規定されるので、ストライプ導波路の長軸と、劈開面からなる共振器ミラー面との角度が90±0.1度の範囲に収められる。そこでこの半導体レーザも、光出力の変動および雑音発生が極めて小さく抑制されるものとなる。
次に、以上述べたような本発明による半導体レーザが好適に用いられる装置について説明する。まず、図3に示したような半導体レーザ励起固体レーザが挙げられる。この固体レーザの基本的な構成および作用は先に述べた通りであるが、より具体的に固体レーザ結晶5としては例えばNd:YAG 結晶が用いられ、非線形光学結晶8としては例えばLiNbO3結晶が用いられる。その場合、半導体レーザ1としては例えば808nmのレーザ光3を発するものが用いられ、固体レーザ結晶5であるLiNbO3結晶はこの半導体レーザ光3により励起されて波長946nmの光を発する。そして共振器の作用で発振した波長946nmの固体レーザ光7は、非線形光学結晶8であるLiNbO3結晶によって波長473nmの第2高調波9に変換される。
このような半導体レーザ励起固体レーザは、励起光源として、前述のように光出力の変動および雑音発生が抑制された本発明による半導体レーザが用いられたものであるので、第2高調波9の出力変動および雑音発生が少ないものとなる。
なお、固体レーザ結晶5としてはNd:YAG 結晶に限らず、その他例えばNd:YVO4結晶等を用いることも可能であり、他方、非線形光学結晶8としてはLiNbO3結晶に限らず、その他例えばKTP結晶等を用いることも可能である。
さらに、本発明による半導体レーザが好適に用いられる装置として、前述した銀塩写真用レーザプリンターも挙げられる。この銀塩写真用レーザプリンターに用いられる露光光源として本発明による半導体レーザを適用した場合は、露光光の強度変動が少なく、高品位の画像が得られた。
なお本発明の半導体レーザは、上記のような固体レーザや、先に述べた光ファイバーを用いるレーザ装置での使用に限らず、光変調素子と組み合わせて使用することも可能であり、その場合にも同様の効果が得られる。