JP2006329261A - トルクコンバータのスリップ制御装置 - Google Patents

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雄史 勝又
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Abstract

【課題】ロックアップクラッチの締結状態をスリップモードからロックアップモードへ移行させる際に、ロックアップクラッチの急締結を防止することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、フィードバック制御手段において入力値をスリップ回転偏差から所定値に置換することでロックアップクラッチの締結力をオープンループ制御し、トルクコンバータをロックアップ状態に移行させる際に、ロックアップクラッチの締結力の増加率を制限する(S52、S53、S55、S56)。
【選択図】図2

Description

本発明はトルクコンバータに関するものであり、特にロックアップクラッチの締結状態をスリップ状態からロックアップ状態へ移行させる際の制御に関するものである。
無段変速機を含む自動変速機の駆動力伝達系に挿入されたトルクコンバータのロックアップ制御装置は、トルクコンバータのすべりに起因する燃費の悪化を低減するために、トルク増大作用や変速機のショック吸収機能を必要としない運転領域において、トルクコンバータの入出力要素間をロックアップクラッチを用いて直結状態とする。これをロックアップモードと称呼し、このほかに入出力要素間を完全解放し、流体を介してトルク伝達を行うコンバータモードと、ロックアップクラッチを半締結状態とし、所定のスリップ状態を維持するスリップモードの合わせて3つのモードを備え、車両の運転状態により適宜切り換えられる。そして、このモードの切り換えは、ロックアップ差圧を変化させる事により行い、最小圧の場合はコンバータモード、最大圧の場合はロックアップモードとなる。
このような無段変速機において、スリップモードでフィードバック制御を行っている状態からフィードバック制御を中止し、オープン制御によりロックアップモードへ移行させる際に、フィードバック補償器(F/B補償器)に強制的に負の偏差を入力することでF/B補償器の積分効果を利用してロックアップを完了させる技術が特許文献1に開示されている。
特開2000−240786公報
しかし、F/B補償器に比例成分(P成分)が含まれている場合、負の偏差を入力すると補償器の入力値がステップ状に変化して出力値もステップ状に変化する。また、F/B補償器が高次で構成される場合、入力値のステップ状の変化が強調されて出力される。これにより、ロックアップ差圧が急激に昇圧するのでロックアップクラッチが急締結されてショックや振動が発生する。
また、上述の問題点を考慮するとF/B補償器の設定が制限されるので、スリップモードにおいて適切な特性を持たせることが困難となる。
本発明は、ロックアップクラッチの締結状態をスリップモードからロックアップモードへ移行させる際に、ロックアップクラッチの急締結を防止することを目的とする。
本発明のトルクコンバータのスリップ制御装置は、車両の運転状態に基づいてトルクコンバータを、ロックアップクラッチがスリップしながら締結するスリップ状態からロックアップクラッチがスリップすることなく締結するロックアップ状態へと移行させることを判定する締結状態判定手段と、トルクコンバータの入力要素の回転速度と出力要素の回転速度との差であるスリップ回転速度と、車両の運転状態に基づいて算出された目標スリップ回転速度との差であるスリップ回転偏差を入力値として、入力値がゼロとなるようにロックアップクラッチの締結力をフィードバック制御するフィードバック制御手段と、フィードバック制御手段によってトルクコンバータがスリップ状態となっているときに、締結状態判定手段によってスリップ状態からロックアップ状態への移行が判定されたとき、フィードバック制御手段において入力値をスリップ回転偏差から所定値に置換することでロックアップクラッチの締結力をオープンループ制御し、トルクコンバータをロックアップ状態に移行させるロックアップ制御手段とを備えて、ロックアップ制御手段においてフィードバック制御手段の入力値を所定値に置換するとき、締結力の増加率を制限するように制御する。
本発明によれば、フィードバック制御手段における入力値であるスリップ回転偏差を所定値に置換してオープンループ制御することでスリップ状態からロックアップ状態へ移行するときに、ロックアップクラッチの締結力の増加率を制限するので、ロックアップクラッチの締結力は急激には増大せず緩やかに締結される。よって、ロックアップクラッチの急締結によるショックや振動の発生を防止することができる。
以下では図面等を参照して本発明の実施の形態について詳しく説明する。図1は本発明におけるトルクコンバータのスリップ制御装置のシステム構成概略図である。
トルクコンバータ1は、エンジン14と変速機15との間に介装され、エンジン14の駆動力を流体を介して変速機15に伝達する。変速機15は自動変速機であり、変速機15に伝達された駆動力は、図示しない終減速装置を介して駆動輪16へと伝達される。
トルクコンバータ1には、エンジン14の出力軸と連結されるポンプインペラ12と、変速機15の入力軸に連結されるタービンランナ13とが対向するように配置される。エンジン14の回転に伴ってタービンランナ13が回転すると、トルクコンバータ1の内部に充填された流体(ATF)が流動し、これによってタービンランナ13が回転する。トルクコンバータ1はさらにタービンランナ13とともに回転するロックアップクラッチ2を内蔵している。
トルクコンバータ1は、ロックアップクラッチ2をポンプインペラ12に締結するとトルクコンバータの入力要素と出力要素とが直結されてロックアップ状態となる。また、入力要素と出力要素とを半締結状態にすると、入力要素と出力要素との間にスリップを生じるスリップ状態となる。ロックアップクラッチ2を完全に解放するとコンバータ状態となる。
ロックアップクラッチ2は、その両側に作用するトルクコンバータアプライ圧PA(以下、アプライ圧PA)とトルクコンバータレリーズ圧PR(以下、レリーズ圧PR)との差圧ΔP(=PA−PR)に応じて動作する。ロックアップクラッチ2は、レリーズ圧PRがアプライ圧PAよりも高いとき解放され、レリーズ圧PRがアプライ圧PAよりも低いとき締結される。
ロックアップクラッチ2の締結力、つまりロックアップ容量は差圧ΔPにより決定される。差圧ΔPが大きい程ロックアップクラッチ2の締結力が増大してロックアップ容量が増大する。差圧ΔPはロックアップ制御弁3によって制御される。
ロックアップ制御弁3は、ロックアップクラッチ2に作用するアプライ圧及びレリーズ圧を制御することで差圧ΔPを制御する。ロックアップ制御弁3にはアプライ圧PA及びレリーズ圧PRを向かい合わせに作用させ、さらにアプライ圧PAと同方向にバネ3aの付勢力を作用させ、レリーズ圧PRと同方向にロックアップソレノイド4から供給される信号圧PSを作用させる。差圧ΔPは、これら油圧とバネの付勢力が釣り合うように決定される。
ロックアップソレノイド4は、ポンプ圧PPを元圧としてコントローラ5から送信されるロックアップデューティDに応じて信号圧PSを作り出す。
電源電圧を検出する電源電圧センサ6、ポンプインペラ12の回転速度(トルクコンバータの入力要素の回転速度)を検出するポンプインペラ回転センサ7、タービンランナ13の回転速度(トルクコンバータの出力要素の回転速度)を検出するタービンランナ回転センサ8、変速機15の出力軸回転速度を検出する変速機出力軸回転センサ9、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ10、及びATFの温度を検出するATF温度センサ11は、それぞれの検出値をコントローラ5へ送信する。
コントローラ5は、受信した信号に基づいてロックアップクラッチ2の締結状態を制御するために、ロックアップソレノイド4の駆動デューティDを決定するとともに、電源電圧信号に応じてロックアップデューティDの補正を行う。
次にコントローラ5で行う制御について図2のフローチャートを参照しながら説明する。なお、この制御は例えば20ms毎に行う。また、スリップ制御、ロックアップ制御、コンバータ制御は、それぞれロックアップクラッチ2の締結状態をスリップ状態、ロックアップ状態、コンバータ状態に維持する制御である。
ステップS1では、トルクコンバータ1の制御がスリップ制御であるか否かを判定する。スリップ制御であると判定されるとステップS4へ進み、スリップ制御でないと判定されるとステップS2へ進む。
トルクコンバータ1の制御は図3に示すマップを参照して、車速及びスロットル開度に基づいて検索される。なお、車速は変速機出力軸回転センサによって検出された変速機15の出力軸回転速度に所定の定数を乗じて算出される。図3は車速、スロットル開度、及び制御領域を示すマップであり、車速が所定値V1より小さい場合は、ロックアップクラッチ2をコンバータ制御とする。また、車速が所定値V1より大きく、かつ所定値V2より小さい場合は、スロットル開度が所定値TVO1よりも小さい場合にスリップ制御とし、スロットル開度が所定値TVO1より大きい場合にロックアップ制御とする。さらに、車速が所定値V2よりも大きい場合はロックアップ制御とする。
ステップS2では、トルクコンバータ1の制御がロックアップ制御か否かを判定する。ロックアップ制御であると判定されるとステップS3へ進み、ロックアップ制御でないと判定されるとステップS19へ進む。
ステップS3では、ロックアップ制御において完全ロックアップ状態、すなわち差圧指令値が最大の状態に移行できているか否かを判定する。移行できている場合はステップS18へ進み、移行できていない場合はステップS4へ進む。
ステップS4では、前回処理時の制御状態がコンバータ制御であったか否かを判定する。コンバータ制御であった場合はステップS5へ進み、コンバータ制御でなかった場合はステップS7へ進む。ここで、前回処理時の制御状態がコンバータ状態であったと判定される場合は、制御領域がコンバータ状態からスリップ状態またはロックアップ状態へ移行した初回の処理時であるので、以下のステップS5、S6においてオープンループ制御(以下「オープン制御」という)で差圧指令値を上昇させて昇圧動作を行うための準備処理を行う。
ステップS5では、スロットル開度に基づいて初期差圧を設定する。初期差圧は図4に示すテーブルを参照して設定される。
ステップS6では、オープン制御による昇圧動作を実行中であることを示すスリップ制御フラグパターンをセットする(SlipPTN=10)。
ステップS7では、オープン制御による昇圧動作を実行中であるか否かを判定する。オープン制御を実行中である場合(SlipPTN=10)にはステップS8へ進み、実行中でない場合(SlipPTN≠10)にはステップS12へ進む。
ステップS8では、オープン制御による昇圧動作を終了してよいか否かを判定する。オープン制御終了と判定されるとステップS10へ進み、オープン制御終了と判定されないときステップ9へ進む。オープン制御の終了は以下の(1)式に基づいて判定され、(1)式が成立するときオープン制御終了と判定される。
Nslp<Nslp_end ・・・(1)
ここで、Nslpは実スリップ回転速度、Nslp_endはコンバータ状態からスリップ状態へ移行するためのオープン制御終了回転速度である。Nslp_endは図5のテーブルを参照することでスロットル開度に基づいて算出される。
ステップS9では、コンバータ状態からスリップ状態へ移行するためのオープン制御を実行する。まず図6のテーブルを参照することでスロットル開度に基づいて単位時間当たりの昇圧量DPRSを検索する。ここで、単位時間とは制御サイクルと等価であり例えば20msである。次に以下の(2)式に基づいてオープン制御中の差圧指令値Plucを算出する。
Pluc=P’luc+DPRS ・・・(2)
ここで、P’lucは前回処理時の差圧指令値である。
一方、ステップS8においてオープン制御終了と判定されると、ステップS10へ進んでオープン制御による昇圧動作を終了してスリップ制御に切り替えるために制御系の初期化処理を行う。初期化処理はスリップ制御で用いる積分器などをスリップ制御開始時点の差圧指令に対応させて初期化する処理であり、例えば特開2000−145949公報に記載された方法によって行うが、ここでは詳細な説明について省略する。
ステップS11では、コンバータ状態からスリップ状態へ移行するためのオープン制御を終了してスリップ制御を実行中であることを示すスリップ制御フラグパターンをセットする(SlipPTN=11)。
一方、ステップS7においてオープン制御による昇圧動作を実行中でないと判定されると、ステップS12へ進んでスリップ制御を実行中であるか否かを判定する。実行中であれば(SlipPTN=11)ステップS13へ進み、実行中でなければ(SlipPTN≠11)ステップS17へ進む。
ステップS13では、スリップ制御を終了してよいか否かを判定する。スリップ制御終了と判定されるとステップS15へ進み、スリップ制御終了と判定されないときステップ14へ進む。スリップ制御の終了は以下の(3)式に基づいて判定され、(3)式が成立するときスリップ制御終了と判定される。
Nslp<Nslp_SLPEND ・・・(3)
ここで、Nslp_SLPENDはスリップ制御を終了してロックアップ制御へ移行するためのオープン制御を開始してよいか否かを判定するためのスリップ制御終了スリップ回転速度である。Nslp_SLPENDは図7のテーブルを参照することでスロットル開度に基づいて算出される。
ステップS14では、スリップ制御を実行する。スリップ制御は、トルクコンバータ1のポンプインペラ12回転速度とタービンランナ13回転速度との差であるスリップ回転速度と、車両の運転状態に基づいて算出される目標スリップ回転速度との差であるスリップ回転偏差をF/B補償器の入力値として、入力値がゼロとなるようにロックアップクラッチ2の締結力をフィードバック制御する制御である。スリップ制御は、例えば特許3240979号、3183235号、3230465号などに示す制御系を用いて行い所望の差圧指令値を算出するが、ここでは詳細な説明について省略する。
一方、ステップS13においてスリップ制御終了と判定されると、ステップS15へ進んでスリップ制御を終了してロックアップ状態へ移行させるためのオープン制御に切り替えるための制御系を初期化処理する。初期化処理はステップS10と同様である。
ステップS16では、スリップ制御からロックアップ状態へ移行させるためのオープン制御による昇圧動作を実行中であることを示すスリップ制御フラグパターンをセットする(SlipPTN=12)。
ステップS17では、スリップ制御からロックアップ状態へ移行させるためのオープン制御を実行する。オープン制御は、スリップ制御においてF/B補償器の入力値をスリップ回転偏差から所定の一定値に置換することでロックアップクラッチの締結力をオープンループ制御して、ロックアップ状態に移行させる制御である。なお、本ステップにおけるオープン制御の詳細は後述する。
一方、ステップS3においてロックアップ完了と判定されると、ロックアップ制御における締結動作が完了しているのでステップS18へ進んで差圧ΔPを最高圧に保持する。
ステップS2においてロックアップ制御でないと判定されると、コンバータ制御中であるのでステップS19へ進んで差圧ΔPを最低圧に保持する。このとき、差圧指令値と差圧ΔPの最低圧との間に差がある場合は、指令値が急に最低圧となって指令値に段差が生じることのないように、指令値を所定の変化率で徐々に変化させる。
次にステップS17においてスリップ制御からロックアップ状態へ移行させるために行うオープン制御について図8のフローチャートを参照しながら詳細に説明する。
ステップS50では、図1のステップS14におけるスリップ制御で使用したF/B補償器を用いてオープン制御を実現するために、強制的に設定するF/B補償器の入力値であるエラーErrを算出する。エラーErrはスロットル開度に基づいて設定される負の偏差であり、特開2000−240786公報の記載に基づいて算出されるが、ここでは詳細な説明について省略する。
ステップS51では、F/B補償器が1次のPIコントローラで構成されているか、2次以上の高次のコントローラで構成されているかを判定する。1次であればステップS55へ進み、高次であればステップS52へ進む。F/B補償器の判定は、F/B補償器の構成フラグFB_TYPEを用いて、FB_TYPE=0の場合を1次のPIコントローラとし、FB_TYPE≠0の場合を高次のコントローラとして、FB_TYPE=0であるか否かを判定することで行うことができる。
F/B補償器が高次のコントローラで構成されている場合、ステップS50において設定したエラーErrをそのまま入力すると、F/B補償器の入力値がステップ状に変化することによりステップ状の変化を強調した出力値が出力されるので、これを防止するために入力値の変化率を制限する処理を以下のステップS52〜S54において実行する。
ステップS52では、ローパスフィルタ(以下「LPF」と示す)の時定数TErrを算出する。時定数TErrは図9に示すテーブルを参照することでスロットル開度に基づいてスロットル開度が大きいほど時定数が小さくなるように算出される。
ステップS53では、エラーErrに時定数TErrを持つLPFを施して1次遅れを有するLfil_Errを算出する。
ここで、エラーErrはスロットル開度に基づいて設定される値であり、このエラーErrの変化は様々な周波数成分を持つ正弦波の足し合わせで構成される。このうちLPFによって所定の周波数以下の周波数成分を持つ正弦波のみを通過させ、足し合わせることでエラーErrに対して1次遅れを有する値が得られる。また、LPFの時定数TErrが大きいほど1次遅れを有する値がエラーErrに到達するのに要する時間が長くなる。
ステップS54では、F/B補償器の入力値FbinをステップS53において算出されたLfil_Errに設定する。
F/B補償器が1次のPIコントローラで構成されている場合、ステップS50において設定したエラーErrをそのまま入力するとF/B補償器の入力値がステップ状に変化することにより、これに比例して出力値もステップ状に変化するので、これを防止するために出力値の変化率を制限する処理を以下のステップS55〜S57において実行する。
ステップS55では、PIコントローラの比例成分、すなわちP成分を0に設定する。
ステップS56では、図10に示すテーブルを参照することでスロットル開度に基づいてスロットル開度が大きいほど大きくなるようにPIコントローラの積分成分、すなわちI成分(Iゲイン)を設定する。
ステップS57では、F/B補償器の入力値FbinをエラーErrに設定する。
ステップS58では、FbinをF/B補償器に入力してF/B補償器の出力値FBoutを算出する。F/B補償器の出力値FBoutは、特開2000−240786公報に開示される方法によって算出されるが、ここでは詳細な説明について省略する。
ステップS59では、F/B補償器の出力値FBoutに基づいてロックアップ容量を算出し、ロックアップ容量を実現するために必要な差圧指令値を図11に示すテーブルを参照することで算出する。ロックアップ容量は特許3240979号、3230465号に示される方法によって算出されるが、ここでは詳細な説明について省略する。
以上の制御をまとめて図12〜図18のタイミングチャートを参照しながら本実施形態の作用を説明する。
初めに図12、図13を用いて従来例について説明する。図12は従来例におけるF/B補償器が高次の場合のタイミングチャートである。(a)はスロットル開度、(b)はF/B補償器入力値、(c)はF/B補償器出力値、(d)は差圧指令値、(e)はエンジン回転速度、及び(f)はプライマリ回転速度(変速機入力回転速度)をそれぞれ示している。
時刻t1において、制御領域がスリップ制御からロックアップ締結のためのオープン制御に移行し、F/B補償器の入力値がステップ状にエラーErrに変化する。これにより、F/B補償器の出力値がステップ状の変化を強調するように変化し、差圧指令値が急激に立ち上がる。よって、エンジン回転速度が急激に低下してプライマリ回転速度と等しくなり、その後エンジン回転速度及びプライマリ回転速度が振動する。
図13は従来例におけるF/B補償器が1次の場合のタイミングチャートである。(a)はスロットル開度、(b)はF/B補償器入力値、(c)はPゲイン、(d)はF/B補償器出力値、(e)は差圧指令値、(f)はエンジン回転速度、及び(g)はプライマリ回転速度をそれぞれ示している。
時刻t1において、制御領域がスリップ制御からロックアップ締結のためのオープン制御に移行し、F/B補償器の入力値がステップ状にエラーErrに変化する。F/B補償器には比例成分(P成分)が含まれているので、F/B補償器の出力値が入力値に比例してステップ状に変化し、差圧指令値がステップ状に立ち上がる。よって、エンジン回転速度が急激に低下し、その後エンジン回転速度は振動しながらプライマリ回転速度に収束する。
次に図14〜図18を参照しながら本実施形態について説明する。図14は、本発明におけるF/B補償器が高次の場合のタイミングチャートであり、図8のフローチャートのステップS53においてLPFを施すことによる作用を表している。(a)はスロットル開度、(b)はF/B補償器入力値、(c)はF/B補償器出力値、(d)は差圧指令値、(e)はエンジン回転速度、及び(f)はプライマリ回転速度をそれぞれ示している。なお、図中の点線は従来例を示している。
時刻t1において、制御領域がスリップ制御からロックアップ締結のためのオープン制御に移行すると、F/B補償器の入力偏差の設定値ErrにLPFを施して出力される値Lfil_ErrをF/B補償器入力値とする。このフィルタ操作によりF/B補償器の入力値は滑らかに変化するので、F/B補償器の出力値も滑らかに変化する。これにより、差圧指令値も徐々に上昇するのでエンジン回転速度が徐々にプライマリ回転速度まで低下する。
図15、図16は、本発明におけるF/B補償器が高次の場合のタイミングチャートであり、図8のフローチャートのステップS52においてLPFの時定数TErrをスロットル開度に応じて設定することによる作用を表している。図15はスロットル開度が小さい場合、図16はスロットル開度が大きい場合であり、それぞれ(a)はF/B補償器入力値、(b)はF/B補償器出力値、(c)はエンジン回転速度、(d)はプライマリ回転速度、及び(e)は車速を示している。
時刻t1において、制御領域がスリップ制御からロックアップ締結のためのオープン制御に移行すると、LPFの時定数TErrを設定する。図15ではスロットル開度が小さいので時定数TErrを大きく設定する。スロットル開度が小さい低車速、低回転速度の状態ではロックアップクラッチ2の急締結によってショックが生じやすいので、時定数TErrを大きく取ることで滑らかなロックアップ締結を実現することができる。
図16ではスロットル開度が大きいので時定数TErrを小さく設定する。スロットル開度が大きい比較的高車速、高回転速度の状態ではロックアップクラッチ2の急締結によるショックは生じにくく、またロックアップ締結に時間をかけるとロックアップクラッチ2のフェーシング材の耐久性が低下するので、時定数を小さく設定することで速やかにロックアップ締結を実現する。
図17は、本発明におけるF/B補償器が1次の場合のタイミングチャートであり、図8のフローチャートのステップS55においてPIコントローラで構成されるF/B補償器のP成分を0に設定することによる作用を表している。(a)はスロットル開度、(b)はF/B補償器入力値、(c)はPゲイン、(d)はF/B補償器出力値、(e)は差圧指令値、(f)はエンジン回転速度、及び(g)はプライマリ回転速度をそれぞれ示している。なお、図中の点線はPゲインを0にセットしない場合を示している。
時刻t1において、制御領域がスリップ制御からロックアップ締結のためのオープン制御に移行すると、F/B補償器のPゲインを0に設定する。これによりF/B補償器の入力値がステップ状に変化しても、出力値は入力値に比例せず滑らかに変化する。これにより、差圧指令値も徐々に上昇するのでエンジン回転速度が徐々にプライマリ回転速度まで低下する。
図18は、本発明におけるF/B補償器が1次の場合のタイミングチャートであり、図8のフローチャートのステップS55においてPIコントローラで構成されるF/B補償器のP成分を0に設定するとともに、ステップS56においてI成分をスロットル開度に応じて設定することによる作用を表している。(a)はスロットル開度、(b)はF/B補償器入力値、(c)はPゲイン、(d)はIゲイン、(e)はF/B補償器出力値、(f)は差圧指令値、(g)はエンジン回転速度、及び(h)はプライマリ回転速度をそれぞれ示している。なお、図中の点線はIゲインをスロットル開度に依存させない場合を示している。
時刻t1において、制御領域がスリップ制御からロックアップ締結のためのオープン制御に移行すると、F/B補償器のPゲインを0に設定するとともにIゲインをスロットル開度に応じて設定する。さらに時刻t2においてアクセルペダルが踏込まれてスロットル開度が大きくなると、F/B補償器の入力値を大きくする。しかし、P成分が0であるためF/B補償器の入力値を大きくしても出力値は急激には大きくならず、エンジン回転速度が上昇する。
そこで、Iゲインをスロットル開度の増大に合わせて大きく設定する。これにより、F/B補償器の出力値の上昇率が高くなり、差圧指令値の上昇率も高くなるので、エンジン回転速度の無駄な上昇を抑制することができる。
以上のように本実施形態では、F/B補償器の入力値をスリップ回転偏差から所定値に置換することで、スリップ制御からロックアップ制御へ移行しても、F/B補償器の出力値の急上昇は抑制される。これにより、ロックアップクラッチ2の迅速な締結を実現しながら、出力値に基づいて算出される差圧指令値の急激な上昇を防止して、ロックアップクラッチ2の急締結によるショックや振動の発生を防止することができる。
また、F/B補償器の入力値をスリップ回転偏差から所定値に置換するときに、入力値をスリップ回転偏差から所定値まで遅れをもって変化させるので、F/B補償器の入力値が急激に変化することがなく出力値も緩やかに変化する。これにより出力値に基づいて算出される差圧指令値の急激な上昇を防止して、ロックアップクラッチ2の急締結によるショックや振動の発生を防止することができる。
さらに、入力値の変化の遅れはスロットル開度が大きいほど小さく設定する。これにより、スロットル開度が小さいときは遅れが大きく設定されるので、差圧指令値が緩やかに上昇してロックアップクラッチ2の急締結を防止し、ロックアップ締結に伴うショックや振動の発生を防止することができる。スロットル開度が大きいときは遅れが小さく設定されるので、速やかにロックアップクラッチ2の締結が行われ、スリップ状態を長時間持続させることによるフェーシング材の耐久性の低下を防止できるとともに、エンジン14の無駄な回転上昇を防止できる。
さらに、F/B補償器の入力値をスリップ回転偏差から所定値に置換するときに、エラーErrにLPFを施して得られた値Lfill_ErrをF/B補償器に入力することで、F/B補償器の入力値が急激に変化することがないので出力値も緩やかに変化する。これにより出力値に基づいて算出される差圧指令値の急激な上昇を防止して、ロックアップクラッチ2の急締結によるショックや振動の発生を防止することができる。
さらに、LPFの時定数TErrをスロットル開度が大きいほど小さく設定する。これにより、スロットル開度が小さいときは時定数TErrが大きく設定されるので、差圧指令値が緩やかに上昇してロックアップクラッチ2の急締結を防止し、ロックアップ締結に伴うショックや振動の発生を防止することができる。スロットル開度が大きいときは時定数TErrが小さく設定されるので、速やかにロックアップクラッチ2の締結が行われ、スリップ状態を長時間持続させることによるフェーシング材の耐久性の低下を防止できるとともに、エンジン14の無駄な回転上昇を防止できる。
さらに、F/B補償器がPIコントローラで構成されているとき、P成分を0に設定することで、F/B補償器に入力されるエラーErrが急激に上昇しても、出力値は入力値に比例することなく緩やかに変化する。これにより出力値に基づいて算出される差圧指令値の急激な上昇を防止して、ロックアップクラッチ2の急締結によるショックや振動の発生を防止することができる。
さらに、F/B補償器がPIコントローラで構成されているとき、P成分を0に設定するとともにI成分をスロットル開度が大きくなるほど大きく設定する。これにより、アクセルペダルが踏込まれてスロットル開度が増大したとき、これに応じてI成分も大きくするので、P成分が0に設定されていても差圧指令値を所望の値に上昇させることができ、速やかにロックアップクラッチ2を締結できるとともに、締結の遅れによるエンジン14の無駄な回転上昇やフェーシング材の耐久性の低下を防止できる。スロットル開度が小さいときはI成分を小さくすることで差圧指令値の急上昇を防止して、ロックアップクラッチ2の急締結によるショックや振動の発生を防止することができる。
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明と均等であることは明白である。
本実施形態におけるトルクコンバータのスリップ制御装置を示す概略構成図である。 本実施形態におけるトルクコンバータのスリップ制御装置の制御を示すフローチャートである。 ロックアップクラッチの制御領域を示すマップである。 スロットル開度と初期差圧との関係を示すテーブルである。 スロットル開度とオープン制御終了スリップ回転速度との関係を示すテーブルである。 スロットル開度と昇圧量との関係を示すテーブルである。 スロットル開度とスリップ制御終了スリップ回転速度との関係を示すテーブルである。 スリップ制御からロックアップ状態へ移行させるために行うオープン制御を示したフローチャートである。 スロットル開度とローパスフィルタの時定数との関係を示すテーブルである。 スロットル開度とオープン制御時のIゲインとの関係を示すテーブルである。 ロックアップクラッチ締結圧とロックアップクラッチ容量との関係を示すテーブルである。 従来例においてF/B補償器が高次の場合を説明したタイムチャートである。 従来例においてF/B補償器が1次の場合を説明したタイムチャートである。 本実施形態においてF/B補償器が高次の場合を説明したタイムチャートである。 図14においてスロットル開度が小さい場合を説明したタイムチャートである。 図14においてスロットル開度が大きい場合を説明したタイムチャートである。 本実施形態においてF/B補償器が1次の場合を説明したタイムチャートである。 本実施形態においてF/B補償器が1次の場合を説明したタイムチャートである。
符号の説明
1 トルクコンバータ
2 ロックアップクラッチ
3 ロックアップ制御弁
3a バネ
4 ロックアップソレノイド
5 コントローラ
6 電源電圧センサ
7 ポンプインペラ回転センサ
8 タービンランナ回転センサ
9 変速機出力軸回転センサ
10 スロットル回転センサ
11 ATF温度センサ
12 ポンプインペラ
13 タービンランナ
14 エンジン
15 変速機
16 駆動輪

Claims (7)

  1. エンジンの駆動力を流体を介して伝達する、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、
    車両の運転状態に基づいて前記トルクコンバータを、前記ロックアップクラッチがスリップしながら締結するスリップ状態から前記ロックアップクラッチがスリップすることなく締結するロックアップ状態へと移行させることを判定する締結状態判定手段と、
    前記トルクコンバータの入力要素の回転速度と出力要素の回転速度との差であるスリップ回転速度と、車両の運転状態に基づいて算出された目標スリップ回転速度との差であるスリップ回転偏差を入力値として、前記入力値がゼロとなるように前記ロックアップクラッチの締結力をフィードバック制御するフィードバック制御手段と、
    前記フィードバック制御手段によって前記トルクコンバータが前記スリップ状態となっているときに、前記締結状態判定手段によって前記スリップ状態から前記ロックアップ状態への移行が判定されたとき、前記フィードバック制御手段において前記入力値を前記スリップ回転偏差から所定値に置換することで前記ロックアップクラッチの締結力をオープンループ制御し、前記トルクコンバータを前記ロックアップ状態に移行させるロックアップ制御手段と、
    前記ロックアップ制御手段によって前記フィードバック制御手段の前記入力値を前記所定値に置換するとき、前記締結力の増加率を制限する締結力制限手段と、
    を備えることを特徴とするトルクコンバータ搭載車両。
  2. 前記締結力制限手段は、前記入力値を前記所定値に置換するときに、前記入力値を前記スリップ回転偏差から前記所定値まで遅れをもって変化させることで、前記締結力の増加率を制限することを特徴とする請求項1に記載のトルクコンバータ搭載車両。
  3. 前記エンジンの吸気量を調節するスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度検出手段をさらに備え、
    前記遅れは前記スロットル開度が大きいほど小さく設定することを特徴とする請求項2に記載のトルクコンバータ搭載車両。
  4. 前記締結力制限手段は、前記入力値を前記所定値にローパスフィルタを施した値に置換することで、前記入力値を前記スリップ回転偏差から前記所定値まで遅れをもって変化させることを特徴とする請求項2に記載のトルクコンバータ搭載車両。
  5. 前記ローパスフィルタの時定数は前記スロットル開度が大きいほど小さく設定することを特徴とする請求項4に記載のトルクコンバータ搭載車両。
  6. 前記フィードバック制御手段はPIコントローラによって構成され、
    前記締結力制限手段は、前記PIコントローラの比例成分をゼロに設定することで前記締結力の増加率を制限することを特徴とする請求項1に記載のトルクコンバータ搭載車両。
  7. 前記エンジンの吸気量を調節するスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度検出手段をさらに備え、
    前記締結力制限手段は、前記PIコントローラの比例成分をゼロに設定するとともに、積分成分を前記スロットル開度が大きいほど大きく設定することで、前記締結力の増加率を制限することを特徴とする請求項6に記載のトルクコンバータ搭載車両。
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