JP2006328486A - 薄帯用鋼および薄帯 - Google Patents
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Abstract
強度および靱性が高いというマルエージング鋼の特徴を確保しつつ、疲労強度特性に関して、既知のものよりすぐれた薄帯用鋼を提供する。
【解決手段】
重量%で、C:0.05〜0.15%、Ni:10.0〜18.0%、Co:5.0〜30.0%、Mo:1.0〜5.0%、Al:0.5〜1.3%、およびCr:1.0〜3.0%を含有し、Ti:0.10%以下、S:0.003%以下、P:0.03%以下、N:0.03%以下、かつ、O:0.03%以下であって、残部がFeおよび不可避の不純物からなる合金組成を有する薄帯用鋼。さらに、いくつかの任意添加元素から選んだものを、1種または2種以上添加した合金組成であってもよい。
【選択図】 図1
Description
・C含有量と引張り強さとの関係は、図1の上段のグラフに示すように、在来の低Cの領域を超えて0.3%に至るまでは、在来品より高い値が得られること。(図1の上段において破線で示した値が、在来のマルエージング鋼の強度レベルである。)
・ところが、疲労特性に関しては、C含有量が在来のものを超えて多量になると、図1の下段のグラフに示したように、ある程度までは疲労限界が向上するが、0.15%を超えると低下しはじめ、0.23%に至って、在来材のレベル(図1の下段において破線で示した)を下回ること。この、0.23%までは在来材と同等以上の疲労特性が得られるのは、母材自身の強度に助けられたためと理解される。
・疲労特性は、窒化処理によってマルエージング鋼製品の表面に形成される窒素拡散層の深さによって左右され、この層の深さは、図1の中段のグラフに見るように、C含有量が0.15%を超えると低下すること。この結果は、下段のグラフの疲労強度の変化と対応している。
1)B:0.0001〜0.010%、Ca:0.0001〜0.010%、およびMg:0.0001〜0.010%の1種または2種以上、
2)Zr:0.005〜0.04%、
3)V:0.01〜1.0%、Nbおよび(または)Ta(併用の場合は合計量で):0.01〜1.0%、W:0.01〜1.0%およびCu:0.01〜1.0%の1種または2種以上、ならびに
4)REM:0.005〜0.020%
上に説明したように、従来のマルエージング鋼においては、CはTiと結合してTiCを形成し、これが強度および靱性を低下させるとして、0.03%以下という低い含有量に制限していた。ところが本発明においては、Cは、時効によりCrおよびMoと結合しこれらの炭化物となって析出することを利用し、二次硬化を引き起こさせることを目的として含有させるものであるから、積極的に多量を添加する。しかし、Cが0.15%を超えると、窒化処理時に十分な窒化層深さが得られず、破壊のパターンが内部起点型から表面起点型に移行し、表面キズや外部環境の影響を受けて、疲労強度が低下する。母材の強度と窒化特性とのバランスから、C量の増大に伴って、0.23%までは通常のマルエージング鋼に比べて、同等以上の曲げ疲労強度が得られるが、すぐれた曲げ疲労強度特性が安定して得られる0.05〜0.15%の範囲を選んだ。
Niは、マトリクスをオーステナイト組織にし、それを固溶化熱処理温度から室温まで放冷することによりマルテンサイト組織に変わることによって強度および靱性を向上させ、延性・靱性遷移温度を高くする。それとともに、時効によりMoおよびAlと金属間化合物を形成し、それが析出して二次硬化を引き起こす。Niがもたらすこのような効果は、10.0%以上の添加により可能となるが、18.0%を超えて添加すると、上記の放冷をしてもオーステナイトが残ってしまい、全体をマルテンサイトにすることができなくなる。
Coは、時効硬化特性を高めて強度を向上させるとともに、マルテンサイト変態温度を高めてマルテンサイトへの変態を容易にするので、それらを目的として添加する。これらの効果を得るためには、5.0%以上の含有が必要であるが、20.0%を超えると添加効果が飽和する傾向にあるので、30.0%を上限とする。好ましい添加量は、8.0〜20.0%である。
Moは、時効によりNiと化合して金属間化合物Ni3Moを析出させるだけでなく、Crと同様にCと結合して炭化物を析出させ、それら析出物が二次硬化を引き起こすはたらきがある。この効果は、1.0%以上の添加で認められる、5.0%を超えると延性および靱性を低下させるので、上記の範囲内の添加量を選ぶ。
Alは、溶製時の脱酸剤であるとともに、時効によりNiと結合して金属間化合物を析出させ(NiAlなど)、二次硬化による強度向上の効果をもたらす。この効果を得るために、0.5%以上のAlを添加するが、1.3%を超える添加は延性および靱性を損なうので、この範囲内の添加量とする。
Crは、Moに関して上記したように、炭化物を析出させて二次硬化を引き起こすとともに、マトリクスに溶解して耐腐食性を高める。これらの目的で添加するCrの量は、少なくとも1.0%なければならない。多量の添加は延性・靱性にとって不利にはたらくので、3.0%を上限とする。
Tiは、CおよびNと結合してTi系の非金属介在物を形成し、疲労強度などの疲労特性を低下させるから、その量を0.10%以内に止める。
Sは被削性を高める元素であるが、被削性をもたらすMnSは靱性および疲労強度にとっては好ましくない存在であるから、含有量を0.003%以下に制限する。
Pは靱性にとっても疲労強度にとってもマイナスとなる成分である。含有量を0.03%以下にしなければならない。
Nは、上記のようにTiなどと化合してTi系の非金属介在物を形成し、それが疲労特性を低下させるから、その含有量を0.03%以下に抑える。
OはAlなどと化合して、酸化物系の非金属介在物を形成する。それらは疲労特性にとって望まれない存在であるから、Oの含有量を0.03%以下に低減する。
B,Ca,Mgは、疲労強度の向上に効果があり、また、熱間加工性を向上させる上でも有効な元素である。この効果は、含有量0.0001%以上で現れるが、過剰な添加は、低融点のホウ化物を粒界に析出させたり、酸化物を形成させたりするため、鋼の清浄度が低下し、熱間加工性や冷間加工性を低下させる上、疲労強度の低下をも招くため、0.010%以下の量に止める必要がある。
Zrを添加する意義は、TiCの生成を抑制して疲労強度を高めることにある。この効果は0.005%以上の添加により得られるが、過大な添加をすると偏析が多くなって靱性が損なわれるので、その問題のない0.040%までの範囲で、添加量を選択すべきである。
V,Nb,Ta,WおよびCuは、マトリクスに固溶して疲労強度を向上させるので、その目的で添加することが好ましい。効果が明らかになるのは、いずれも0.01%以上の添加量においてである。1.0%を超える多量の添加は、延性および靱性を低下させるので、それぞれの含有量を、0.01〜1.0%の範囲内に選ぶ。
REMは、酸化被膜の密着性を高くして、高温における耐食性を向上させるので、使用環境によっては、その目的で添加することが推奨される。この効果は、0.005%以上の含有量で認められるが、0.020%を超える添加は、局部的に融点を低下させて熱間加工性を損なうという弊害がでるので、これを上限とする。
1)900℃に60分間加熱する固溶化−空冷
2)480℃に4時間加熱−空冷
3)大気中250℃に60分間加熱する酸化処理
4)窒化雰囲気中で450℃に60分間加熱−不活性ガスでガス冷却する時効窒化処理。
[清浄度]
JIS G0555に定める、鋼中の非金属介在物の顕微鏡試験方法に準じて、介在物の面積率(%)を測定した。試験片は、0.4mm×5mm×10mmの短冊型にした薄板材を5枚重ねて樹脂に埋め込み、鏡面研磨して製作した。
[引張り試験]
JIS Z2241に定める、金属引張り試験方法に準じて、引張り強度(MPa)を測定した。試験片は、JIS Z2201による5号試験片とした。
[T/2硬さ]
JIS Z2241に定める、ビッカース硬さ試験方法に準じて実施した。試験片は、上記の清浄度試験のために用意したものと同じであって、荷重0.5Nで測定した。測定部位は、横断面に置いて表面から試料厚さの1/2の位置(T/2)である。測定値は10点の平均値を採用した。
上記の清浄度試験のために用意したものと同じ試験片について、EPMAにより窒素濃度の分布を測定し、図2に示したグラフを描き、そこで斜線を施した部分、すなわち、表面から窒素濃度が最低値で飽和するまでの深さをもって、窒化層深さ(μm)とした。
[曲げ疲労特性]
JIS Z2273に定める、金属材料の疲れ試験方法通則に準じて調査。具体的には、図3に示すように、寸法が0.4mm×10mm×100mmの短冊型の試験片に対して、両振りで振幅応力1000〜1300N/mm2、加振速度1000rpmの条件で、試験片を繰り返し曲げ変形させ、破断に至るまでの加振(変形)繰り返し回数を測定した。試験片のつけ根部に加わる垂直応力の最大値を変化させて、破断までの繰り返し回数が107回以上になる強度を疲労強度(N/mm2)とした。
Claims (7)
- 重量%で、C:0.05〜0.15%、Ni:10.0〜18.0%、Co:5.0〜30.0%、Mo:1.0〜5.0%、Al:0.5〜1.3%、およびCr:1.0〜3.0%を含有し、Ti:0.10%以下、S:0.003%以下、P:0.03%以下、N:0.03%以下、かつ、O:0.03%以下であって、残部がFeおよび不可避の不純物からなる合金組成を有する曲げ疲労特性にすぐれた薄帯用鋼。
- 請求項1に規定した合金成分に加えて、B:0.0001〜0.010%、Ca:0.0001〜0.010%およびMg:0.0001〜0.010%の1種または2種以上を含有する請求項1の薄帯用鋼。
- 請求項1または2に規定した合金成分に加えて、Zr:0.005〜0.040%を含有する請求項1または2の薄帯用鋼。
- 請求項1ないし3のいずれかに規定した合金成分に加えて、V:0.01〜1.0%、Nbおよび(または)Ta(併用の場合は合計量で):0.01〜1.0%、W:0.01〜1.0%およびCu:0.01〜1.0%の1種または2種以上を含有する請求項1ないし3のいずれかの薄帯用鋼。
- 請求項1ないし4のいずれかに規定した合金成分に加えて、REM:0.005〜0.020%を含有する請求項1ないし4のいずれかの薄帯用鋼。
- 請求項1ないし5のいずれかに規定した合金組成を有する薄帯用鋼を薄帯形状に成形し、表面の窒化処理を施してなる、繰り返し曲げ応力が加わる用途に用いる薄帯。
- 請求項6の薄帯であって、厚さ0.5mm以下のものを加工してなるCVT用リング。
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