JP2006320263A - 新規高活性改変型s−ヒドロキシニトリルリアーゼ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 天然型S-ヒドロキシニトリルリアーゼのアミノ酸配列において、特定部位のアミノ酸を置換、あるいは他の特定部位にアミノ酸を挿入して得られる、新規高活性改変型S-ヒドロキシニトリルリアーゼを用いたS−シアンヒドリンの合成に使用する。
【選択図】 なし
Description
キャッサバ又はパラゴムノキ由来の天然型SHNLのアミノ酸配列において128番目と129番目のアミノ酸の間に少なくとも1つのアミノ酸を挿入して得られる、改変型SHNLを提供する。
a)14番目のヒスチジンのグルタミンへの置換、
b)44番目のアスパラギン酸のアスパラギンへの置換、
c)66番目のグルタミン酸のアスパラギン酸又はリジンへの置換
d)94番目のバリンのアラニン、システイン、ヒスチジン、リジン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン又はチロシンへの置換、
e)103番目のヒスチジンのグルタミンへの置換、
f)118番目のバリンのロイシンへの置換、
g)122番目のロイシンのイソロイシン、バリン、グリシン又はセリンへの置換、
h)125番目のフェニルアラニンのアスパラギン、システイン、ヒスチジン、グルタミン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン又はプロリンへの置換、
i)127番目のアスパラギン酸のグルタミン酸、アスパラギン、グリシンへの置換、
j)129番目のアルギニンのヒスチジンへの置換、
k)147番目のメチオニンのトレオニン、セリン、チロシン又はシステインへの置換、
l)148番目のリジンのアスパラギンへの置換、
m)152番目のバリンのアラニン又はグリシンへの置換、
n)212番目のロイシンのプロリンへの置換、及び
o)216番目のグルタミンのヒスチジンへの置換
から選ばれる少なくとも1つ以上のアミノ酸配列の改変を有する改変型SHNL、あるいは
キャッサバ又はパラゴムノキ由来の天然型SHNLのアミノ酸配列において128番目と129番目のアミノ酸の間にグリシンあるいはリジンを挿入して得られる改変型SHNLを提供する。
d)94番目のバリンのアラニン、システイン、ヒスチジン、リジン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン又はチロシンへの置換、
g)122番目のロイシンのイソロイシン、バリン、グリシン又はセリンへの置換、
h)125番目のフェニルアラニンのアスパラギン、システイン、ヒスチジン、グルタミン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン又はプロリンへの置換、及び
o)216番目のグルタミンのヒスチジンへの置換、から選ばれる少なくとも1つ以上のアミノ酸配列の改変を複合して有する改変型SHNLは高い酵素活性を有する。
本発明の改変型SHNLは、前記DNAを適当な宿主に導入して培養し、得られる培養物からSHNL活性を有するタンパク質を回収することで、容易に製造することができる。
1.天然型S-ヒドロキシニトリルリアーゼ
本発明において、「天然型S-ヒドロキシニトリルリアーゼ(以下SHNLと略記する)」とは、植物から単離・精製されたSHNL、あるいは当該SHNLと同じアミノ酸配列を有するSHNLを意味する。前記天然型SHNLの由来は特に限定されず、例えば、モロコシ(Sorghum bicolor)などのイネ科植物由来のSHNL、キャッサバ(Manihot esculenta)やパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)などのトウダイグサ科植物由来のSHNL、キシメニア(Ximenia america)などのボロボロノキ植物由来のSHNL等を挙げることができる。これらSHNLのアミノ酸配列や遺伝子の塩基配列は既に公知であり、GenBank等の公共データベースを通じて容易に入手することができる。例えば、パラゴムノキ由来SHNL遺伝子はAccession No.U40402(配列番号3はU40402のCDSに該当)、キャッサバ由来のSHNL遺伝子はAccession No. Z29091、モロコシ由来SHNL遺伝子はAccession No.AJ421152として、それぞれGenBankに登録されている。
本発明は、キャッサバあるいはパラゴムノキ由来の天然型SHNLのアミノ酸配列において、特定部位のアミノ酸配列を改変(置換あるいは挿入)して得られる、高活性改変型SHNLに関する。具体的には:
キャッサバ由来の天然型SHNLのアミノ酸配列(配列番号2)において、14番目、44番目、66番目、94番目、103番目、118番目、122番目、125番目、127番目、129番目、147番目、148番目、152番目、212番目及び216番目から選ばれるアミノ酸のうち、少なくとも1つを他のアミノ酸に置換して得られる改変型SHNL;
パラゴムノキ由来の天然型SHNLのアミノ酸配列(配列番号4)において、14番目、44番目、66番目、94番目、103番目、118番目、122番目、125番目、127番目、129番目、146番目、147番目、151番目、211番目及び215番目から選ばれるアミノ酸のうち、少なくとも1つを他のアミノ酸に置換して得られる改変型SHNL;及び
キャッサバあるいはパラゴムノキ由来の天然型SHNLのアミノ酸配列(配列番号2又は4)において128番目と129番目のアミノ酸の間に少なくとも1つのアミノ酸を挿入して得られる、改変型SHNLに関する。
a)14番目のヒスチジンのグルタミンへの置換、
b)44番目のアスパラギン酸のアスパラギンへの置換、
c)66番目のグルタミン酸のアスパラギン酸、リジン又はアルギニンへの置換
d)94番目のバリンのアラニン、システイン、ヒスチジン、リジン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン又はチロシンへの置換、
e)103番目のヒスチジンのグルタミンへの置換、
f)118番目のヒスチジンのグルタミンへの置換、
g)122番目のロイシンのイソロイシン、バリン、グリシン又はセリンへの置換、
h)125番目のフェニルアラニンのアスパラギン、システイン、ヒスチジン、グルタミン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン又はプロリンへの置換、
i)127番目のアスパラギン酸のグルタミン酸、アスパラギン、グリシンへの置換、
j)129番目のアルギニンのヒスチジンへの置換、
k)147番目のメチオニンのトレオニン、セリン、チロシン又はシステインへの置換、
l)148番目のリジンのアスパラギンへの置換、
m)152番目のバリンのアラニン又はグリシンへの置換、
n)212番目のロイシンのプロリンへの置換
o)216番目のグルタミンのヒスチジンへの置換
から選ばれる少なくとも1つ以上のアミノ酸配列の改変を有する改変型SHNL、若しくは、キャッサバ又はパラゴムノキ由来の天然型SHNLのアミノ酸配列(配列番号2又は4)において128番目と129番目のアミノ酸の間にグリシンあるいはリジンを挿入して得られる改変型SHNLを挙げることができる。
3.1 高活性改変型SHNLをコードするDNA
本発明にかかる改変型SHNLタンパク質をコードするDNAは、公知の天然型SHNL遺伝子に、部位特異的変異を導入して得られる。すなわち、置換部位のコドンを目的とするアミノ酸をコードするコドンに改変しうるプライマーを設計し、該プライマーを用いて天然型SHNLをコードするDNAを鋳型として伸長反応を行えばよい。部位特的変異導入は、市販のキット(例えば、QuikChange XL Site-Directed Mutagenesis kit(STRATAGENE)、TransformerTM Site-Directed Mutagenesis Kit(CLONTECH)等)を用いて容易に行うことができる。
次いで、前記高活性改変型SHNLをコードするDNAをプラスミド等の公知のベクターに連結(挿入)して組換えベクターを作製する。前記ベクターは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。
次いで、前記組換えベクターを目的遺伝子が発現しうるように宿主中に導入し、改変型SHNL発現系を作製する。ここで宿主としては、本発明のDNAを発現できるものであれば特に限定されず、例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロテイ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌、またサッカロミセス・セルビシエ(Saccharomyces cervisiae)、チゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces. pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母、その他COS細胞、CHO細胞等の動物細胞、あるいはSf19、Sf21等の昆虫細胞を挙げることができる。
本発明の改変型SHNLは、本発明の形質転換体を適当な培地で培養し、その培養物から該酵素活性を有するタンパク質を採取することによって得ることができる。本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主に応じて、適宜決定される。例えば、大腸菌や酵母等の微生物を宿主とする形質転換体の場合は、微生物が資化しうる炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体を効率的に培養しうる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いても良い。
本発明の改変型SHNLは、天然型SHNLよりも高い生産効率で光学純度の高い光学活性シアノヒドリンを合成できる。本発明の高活性改変型SHNLを用いた光学活性シアノヒドリンの合成は、天然型SHNLと全く同様の方法で実施できる。
[材料及び方法]
1)ランダム変異SHNLライブラリー
本発明で用いたSHNL遺伝子は、キャッサバ(Manihot esculenta)よりクローニングされたSHNLの遺伝子配列を大腸菌型のコドンに変換した配列(配列番号1:特願2002-365675(以下、このSHNL遺伝子を「SHNL-Wild」と記載する))を用いた。この遺伝子を鋳型に、GeneMorphTMPCR Mutagenesis Kit (STRATAGENE社製)を用いたError prone PCRにより無作為な変異の導入を行った。PCRには下記の配列を有するプライマーを用いた。
Forward primer:5’-GGG GGG GAA TTC ATG GTT ACT GCA CAC TTC GTT CTG ATT CAC-3’(配列番号5)
Reverse primer:5’-GGG GGG AAG CTT TTA AGC GTA TGC ATC AGC AAC TTC TTG CAG-3’(配列番号6)
前記ランダム変異SHNLライブラリークローンを表1に示されるNS-1培地が分注されたディープウェルプレートに接種し、37℃、900rpmの条件で振盪培養を行った。ランダム変異SHNLライブラリークローンの培養に当たっては、比較として同一プレート上にSHNL-Wild遺伝子組み換え大腸菌株をコントロールとして複数接種した。
スクリーニングロボットシステムを用いて選抜されたランダム変異SHNLライブラリークローンの評価結果を表2に示した。この結果より、SHNLのアミノ酸配列(配列番号2)の14番目、44番目、66番目、94番目、103番目、118番目、125番目、127番目、129番目、147番目、148番目、152番目、212番目及び216番目から選ばれるアミノ酸のうち、少なくとも1箇所を他のアミノ酸に置換することで、SHNLの活性が1.2から6.7倍まで向上することが明らかとなった。
実施例1で行った検討から、Wild-SHNLのアミノ酸配列(配列番号2)の125番目のアミノ酸フェニルアラニンがチロシンに置換された高活性変異株を得た。そこでSHNLのアミノ酸配列の125番目に部位特異的変異を導入し、125番目のアミノ酸を様々なアミノ酸で置換することで、更なる高活性変異SHNLの獲得を図った。
部位特異的変異導入にはQuikChange XL Site-Directed Mutagenesis Kit (STRATAGENE社製)を用い、SHNLの125番目のアミノ酸を様々なアミノ酸と置換した。鋳型としてはSHNL-G165E,V173L遺伝子(Wild-SHNLのアミノ酸配列において165番目のGlyがGluに、173番目のValがLeuに置換されるように改変されたSHNL遺伝子:配列番号25 以下この遺伝子をVer.0と呼ぶ)が組み込まれたベクタープラスミドSHNL-G165E,V173L/pKK223-3(以下このプラスミドをVer.0/pKKと呼ぶ)10ngを用いた(参考例参照)。プライマーは下記のものを用いた。
Forward primer:5’-GTT GAA AAG CTG CTG GAA TCG NNN CCG GAC TGG CGT GAC ACA G-3’(配列番号7)
Reverse primer:5’-CTG TGT CAC GCC AGT CCG GNN NCG ATT CCA GCA GCT TTT CAA C-3’(配列番号8)
配列解析の結果、125番目のアミノ酸がアスパラギン、システイン、ヒスチジン、グルタミン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、プロリンに置換されたSHNLは、変異導入前のSHNL(125番目のアミノ酸:フェニルアラニン)に比べて大幅な比活性の向上が確認された(表3)。
実施例1の検討結果から、SHNLのアミノ酸配列の216番目のグルタミンをイソロイシンに置換することにより高活性変異SHNLが得られることがわかった。そこでSHNLのアミノ酸配列の216番目に部位特異的変異を導入して、様々なアミノ酸に置換することにより、更なる活性向上の可能性について検討した。
実施例2と同様の方法により、SHNLの216番目のアミノ酸を様々なアミノ酸に置換した。鋳型も同様にVer.0 /pKK223-3を使用した。プライマーは下記のものを用いた。
Forward primer:5’-CAA AAT ATT CCT GCC GGA CTT CNN NCG CTG GCA AAT TGC AAA CTA CA-3’(配列番号9)
Reverse primer:5’-TGT AGT TTG CAA TTT GCC AGC GNN NGA AGT CCG GCA GGA ATA TTT TG-3’(配列番号10)
得られたDpnI処理済伸張反応産物をコンピテントセルDH5αに形質転換し、変異株遺伝子を含む大腸菌株を作成した。作製した変異株遺伝子を含む大腸菌株をそれぞれ培養し、変異導入前の遺伝子を含む大腸菌株Ver.0 /pKK223-3/DH5αと比活性を比較した。比較の結果、比活性の向上が見られた株について配列解析を行い、改変されたアミノ酸を特定した。
高活性変異株として選抜されたクローンは全て216番目のアミノ酸がヒスチジンに置換されたSHNLであり、天然型配列であるグルタミンに比べ大幅な比活性の向上が見られた。
実施例4:SHNLのアミノ酸配列の94番目のアミノ酸の置換
実施例1の検討結果から、SHNLのアミノ酸配列の94番目のバリンをアラニンに置換することにより高活性変異SHNLが得られることがわかった。そこでSHNLのアミノ酸配列の94番目に部位特異的変異を導入して、様々なアミノ酸に置換することにより、更なる高活性変異SHNLの獲得を図った。
実施例2と同様の方法により、SHNLの94番目のアミノ酸を様々なアミノ酸に置換した。鋳型も同様にVer.0 /pKK223-3を使用した。プライマーは下記のものを用いた。
Forward primer:5’-TGC TAT TGC TGC TGA TCG TTA CNN NGA CAA AAT TGC AGC TGG CGT TT-3’(配列番号11)
Reverse primer:5’- AAA CGC CAG CTG CAA TTT TGT CNN NGT AAC GAT CAG CAG CAA TAG CA-3’(配列番号12)
得られた伸張反応産物を制限酵素DpnIで処理した後、コンピテントセルDH5αに形質転換し、変異株遺伝子を含む大腸菌株を作成した。作製した変異株遺伝子を含む大腸菌株をそれぞれ培養し、変異導入前の遺伝子を含む大腸菌株Ver.0/pKK223-3/DH5αと比活性を比較した。比較の結果、比活性の向上が見られた株について配列解析を行い、改変されたアミノ酸を特定した。
配列解析の結果、94番目のアミノ酸がアラニン、システイン、ヒスチジン、リジン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンに置換されたSHNLは変異導入前のSHNL(94番目のアミノ酸:バリン)に比べて大幅な比活性の向上が確認された(表4)。
実施例1の検討結果から、SHNLのアミノ酸配列の147番目のメチオニンをバリン又はイソロイシンに置換することにより高活性変異SHNLが得られることがわかった。そこでSHNLのアミノ酸配列の147番目に部位特異的変異を導入して、様々なアミノ酸に置換することにより、更なる高活性変異SHNLの獲得を図った。
実施例2と同様の方法により、SHNLの147番目のアミノ酸を様々なアミノ酸に置換した変異株遺伝子を含む大腸菌株を作製した。鋳型としては、SHNL-Wild遺伝子がベクターpET21a(Novagen社製)に組み込まれたベクタープラスミドSHNL-Wild/pET21a10ngを用い、下記のプライマーを用いて伸張反応を行った。
Forward primer:5’-GGC GAA ACC ATC ACT ACC NNN AAA CTG GGT TTC GTT CTG CTG -3’(配列番号13)
Reverse primer:5’-CAG CAG AAC GAA ACC CAG TTT NNN GGT AGT GAT GGT TTC GCC-3’(配列番号14)
配列解析の結果、147番目のアミノ酸がトレオニン、セリン、チロシン、システインに置換されたSHNLは変異導入前のSHNL(147番目のアミノ酸:メチオニン)に比べて大幅な比活性の向上が確認された(表5)。
酵素の基質受容性を改良した変異SHNL(特開2000-125886号)を作製し、酵素活性についてWild-SHNLと比較した。
実施例2と同様の方法により、SHNLの128番目のトリプトファンをアラニンに置換した変異株遺伝子を含む大腸菌株を作製した。鋳型としては、SHNL-Wild遺伝子がベクターpET21a (Novagen社製)に組み込まれたベクタープラスミドSHNL-Wild/pET21a 10ngを用いた。変異導入用プライマーは下記の配列を有するものを使用した。変異導入後のベクタープラスミドは制限酵素DpnIで処理した後、BL21(DE3)へ形質転換した。実施例2と同様に、変異導入前の遺伝子を含む大腸菌株SHNL-Wild/pET21a/BL21(DE3)と比活性を比較した。
Forward primer:5’-CTG CTG GAA TCG TTC CCG GAC GCA CGT GAC ACA GAA TAT TTC ACG-3’(配列番号15)
Reverse primer:5’-CGT GAA ATA TTC TGT GTC ACG TGC GTC CGG GAA CGA TTC CAG CAG-3’(配列番号16)
酵素の基質受容性を改良した酵素Trp128Ala-SHNLは活性値25.5U/mL-broth、比活性値は8.9U/mg-proteinであった。同条件で培養された酵素Wild-SHNLは比活性値9.8U/mg-proteinであった。すなわち、本検討で用いた測定条件下では、酵素Trp128Ala-SHNLの活性値は酵素Wild-SHNLと同程度であることが確認された。なお、実施例1で得られた128番目のトリプトファンがロイシン、システイン、又はセリンに置換された変異株(表2のstrain 005F6, 033D10, 046D9)の活性値も、酵素Wild-SHNLの1.1から2倍程度の活性向上に留まるものであった。本発明においては、実施例1から5で示されるように2倍から10倍以上活性が向上した変異酵素が得られている。従って、本発明の高活性変異SHNLはきわめて有用であることが示された。
実施例1から5の検討結果から、SHNLの特定部位のアミノ酸を他のアミノ酸に置換することで高活性変異SHNLが得られることが明らかとなった。そこでPDB(プロテインデータバンク)に収録されているSHNLの3次元構造のデータを基に、既に得られた高活性変異SHNLの変異部位の近傍に位置する122番目のアミノ酸に部位特異的変異を導入し、様々なアミノ酸に置換することにより、更なる高活性変異SHNLの獲得を図った。
実施例2と同様の方法を用いて、SHNLの122番目のアミノ酸を様々なアミノ酸と置換した変異株遺伝子組換え大腸菌株を作成した。鋳型としては、SHNL-Wild遺伝子がベクターpET21a(Novagen社製)に組み込まれた Ver.0/pET21aプラスミド10ngを用いた。プライマーは下記のものを用いた。
Forward primer:5’-GTC TTA CAC TGT TGA AAA GCT GNN NGA ATC GTT CCC GGA CTG GCG TG-3’(配列番号17)
Reverse primer:5’- CAC GCC AGT CCG GGA ACG ATT CNN NCA GCT TTT CAA CAG TGT AAG AC-3’(配列番号18)
変異導入後のプラスミドはBL21(DE3)へ形質転換された。実施例2と同様に、変異導入前株であるSHNL-Wild/pET21a/BL21(DE3)と比活性を比較した結果、比活性の向上が見られた株に関して配列解析を行い、改変されたアミノ酸を特定した。
122番目のアミノ酸がイソロイシン、バリン、グリシン、又はセリンに置換されたSHNLは変異導入前の天然型SHNL(122番目のアミノ酸:ロイシン)に比べて比活性の向上が見られた(表6)。
[材料及び方法]
実施例2と同様の方法により、SHNLの128、129番目のアミノ酸の間に新たなアミノ酸を挿入した変異株遺伝子を含む大腸菌株を作製した。鋳型としては、SHNL-Wild遺伝子がベクターpET21aに組み込まれたベクタープラスミドSHNL-Wild/ pET21a 10ngを用いた。プライマーは下記のものを用いた。
Forward primer:5’-GAA TCG TTC CCG GAC TGG NNN CGT GAC ACA GAA TAT TTC-3’
(配列番号19)
Reverse primer:5’-GAA ATA TTC TGT GTC ACG NNN CCA GTC CGG GAA CGA TTC-3’
(配列番号20)
変異導入後のベクタープラスミドは制限酵素DpnIで処理した後、BL21(DE3)に形質転換した。実施例2と同様に、変異導入前の遺伝子を含む大腸菌株SHNL-Wild/pET21a/BL21(DE3)と比活性を比較した。その結果、比活性の向上が見られた株について配列解析を行い、挿入されたアミノ酸を特定した。
配列解析の結果、128、129番目のアミノ酸の間にグリシン、又はリジンが挿入されたSHNLは天然型SHNLに比べて比活性の向上が見られた(表7)。
[材料及び方法]
実施例2と同様にして、QuikChange XL Site-Directed Mutagenesis Kitを用いて、Ver.0遺伝子に部位特異的変異導入を行い、SHNLの94番目、122番目、125番目、及び216番目のアミノ酸が様々なアミノ酸で置換されたSHNLをコードする変異部位複合高活性変異SHNL遺伝子を得た。この方法により得られた変異部位複合高活性変異SHNL遺伝子を保持するベクタープラスミドpET21aをコンピテントセルBL21(DE3)又はBL21(DE3)Ster(Novagen社製)に形質転換し、変異部位複合高活性変異SHNL遺伝子を含む大腸菌株を作製した。
変異部位複合高活性変異SHNL遺伝子を含む大腸菌株は、変異導入前のベクタープラスミドを含む大腸菌株及び単一のアミノ酸置換を有する高活性SHNL遺伝子を含む大腸菌株と比較して、高い比活性を示した。最も高い比活性を示したのは、Ver.0/pET21aに、さらに3つの高活性変異(125番目のフェニルアラニンのアスパラギンへの置換、122番目のロイシンのセリンへの置換、216番目のグルタミンのヒスチジンへの置換)を複合させた変異SHNLプラスミドベクターを含む大腸菌株Ver.1+L122S+Q216H-2/pET21a/BL21(DE3)、及び、2つの高活性変異(125番目のフェニルアラニンのアスパラギンへの置換、122番目のロイシンのセリンへの置換)を複合させた変異SHNLプラスミドベクターを含む大腸菌株Ver.1+L122S-2/pET21a/BL21(DE3)であった(表9)。これらの比活性は、いずれも50U/mg-proteinを超えており、変異導入前のベクタープラスミドを含む大腸菌株であるSHNL-Gly165E,V173L/pET21a/BL21(DE3)の5倍以上であった。一方、比較例1で構築されたSHNL-W128A/pET21a/BL21(DE3)は変異導入前のベクタープラスミドを含む大腸菌株を下回る結果であった。
変異部位複合高活性変異SHNLが、通常のSHNLと同様に光学活性シアノヒドリンを製造することができるかどうかを確認した。
1)固定化酵素の調製
実施例8で得られたVer.1+L122I-2/pET21a/BL21(DE3)の細胞破砕液上清に0.2M Na-citrate buffer (pH5.5)を加え、活性を500U/mlに調製した。これら酵素液0.3mlに対してシリカゲル300mgを加えて混合し、固定化酵素を得た。変異導入前のSHNL遺伝子を含む大腸菌株Ver.0/pET21a/BL21(DE3)の細胞破砕液上清についても同様の方法で、固定化酵素を調製した。
1.5MのHCNを溶解したt-ブチルメチルエーテル4.492mlに0.2Mクエン酸バッファー(pH5.5)0.337mlを加え、30分間攪拌した後、静置して水相を除去した。この溶液を上記で調製した固定化酵素300mgを入れた9mlのスクリューバイアルへ添加した。ここへ2‐クロルベンズアルデヒドを終濃度1.0Mとなるよう添加し、攪拌下酵素反応を実施した。反応が完結した後に反応液を回収し、基質の転換率及び光学純度を測定した。
Ver.1+L122I-2/pET21a/BL21(DE3)の細胞破砕液上清は変異導入前株とほぼ同等の転換率及び光学純度を示した(表10)。従って高活性変異複合酵素Ver.1+L122I-2 SHNLは、発明者らが先に作製した変異SHNLと同様に光学活性シアノヒドリンの製造が行えることが確認された。
1)173番目のValのLeuへの置換
QuikChange XL Site-Directed Mutagenesis kit(STRATAGENE)を用いて173番目のアミノ酸をLeuに置換したSHNLを調製した。
Forward primer:5’-GGC GAA TAT GAA CTG GCA AAA ATG CTG ATG CGC AAG GGC TCT CTG-3’(配列番号21)
Reverse primer:5’-CAG AGA GCC CTT GCG CAT CAG CAT TTT TGC CAG TTC ATA TTC GCC-3’(配列番号22)
次に得られた反応産物をキット付属の制限酵素DpnIで消化し、得られた制限酵素処理済反応産物をコンピテントセルDH5αに形質転換し、SHNL-V173L/pKK223-3/DH5α株を作成した。
作成したSHNL-V173L/pKK223-3/DH5α株よりプラスミドSHNL-V173L/pKK223-3を調製し、これを鋳型として再び部位特異的変異導入を行った。下記のプライマーを用いて伸長反応を行い、得られた反応産物を制限酵素DpnIで消化した。
Forward primer: 5’-CGT GAA AAC CTG TTC ACC AAA TGC ACT GAT GAA GAA TAT GAA CTG GCA AAA ATG-3’(配列番号23)
Reverse primer: 5’-CAT TTT TGC CAG TTC ATA TTC TTC ATC AGT GCA TTT GGT GAA CAG GTT TTC ACG-3’(配列番号24)
配列番号6−人工配列の説明:プライマー
配列番号7−人工配列の説明:プライマー
配列番号8−人工配列の説明:プライマー
配列番号9−人工配列の説明:プライマー
配列番号10−人工配列の説明:プライマー
配列番号11−人工配列の説明:プライマー
配列番号12−人工配列の説明:プライマー
配列番号13−人工配列の説明:プライマー
配列番号14−人工配列の説明:プライマー
配列番号15−人工配列の説明:プライマー
配列番号16−人工配列の説明:プライマー
配列番号17−人工配列の説明:プライマー
配列番号18−人工配列の説明:プライマー
配列番号19−人工配列の説明:プライマー
配列番号20−人工配列の説明:プライマー
配列番号21−人工配列の説明:プライマー
配列番号22−人工配列の説明:プライマー
配列番号23−人工配列の説明:プライマー
配列番号24−人工配列の説明:プライマー
配列番号25−165番のグリシンをグルタミンで、173番のバリンをロイシンで置換した改変型SHNLをコードするDNA
Claims (8)
- キャッサバ(Manihot esculenta)由来の天然型S-ヒドロキシニトリルリアーゼのアミノ酸配列(配列番号2)において、14番目、44番目、66番目、94番目、103番目、118番目、122番目、125番目、127番目、129番目、147番目、148番目、152番目、212番目及び216番目から選ばれるアミノ酸のうち、少なくとも1つを他のアミノ酸に置換して得られる、改変型S-ヒドロキシニトリルリアーゼ、あるいはパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来の天然型S-ヒドロキシニトリルリアーゼのアミノ酸配列(配列番号4)において、14番目、44番目、66番目、94番目、103番目、118番目、122番目、125番目、127番目、129番目、146番目、147番目、151番目、211番目及び215番目から選ばれるアミノ酸のうち、少なくとも1つを他のアミノ酸に置換して得られる、改変型S-ヒドロキシニトリルリアーゼ。
- キャッサバ(Manihot esculenta)又はパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来の天然型S-ヒドロキシニトリルリアーゼのアミノ酸配列(配列番号2又は4)において128番目と129番目のアミノ酸の間に少なくとも1つのアミノ酸を挿入して得られる、改変型S-ヒドロキシニトリルリアーゼ。
- キャッサバ(Manihot esculenta)由来の天然型S-ヒドロキシニトリルリアーゼのアミノ酸配列(配列番号2)において、
a)14番目のヒスチジンのグルタミンへの置換、
b)44番目のアスパラギン酸のアスパラギンへの置換、
c)66番目のグルタミン酸のアスパラギン酸又はリジンへの置換
d)94番目のバリンのアラニン、システイン、ヒスチジン、リジン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン又はチロシンへの置換、
e)103番目のヒスチジンのグルタミンへの置換、
f)118番目のバリンのロイシンへの置換、
g)122番目のロイシンのイソロイシン、バリン、グリシン又はセリンへの置換、
h)125番目のフェニルアラニンのアスパラギン、システイン、ヒスチジン、グルタミン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン又はプロリンへの置換、
i)127番目のアスパラギン酸のグルタミン酸、アスパラギン、グリシンへの置換、
j)129番目のアルギニンのヒスチジンへの置換、
k)147番目のメチオニンのトレオニン、セリン、チロシン又はシステインへの置換、
l)148番目のリジンのアスパラギンへの置換、
m)152番目のバリンのアラニン又はグリシンへの置換、
n)212番目のロイシンのプロリンへの置換、及び
o)216番目のグルタミンのヒスチジンへの置換
から選ばれる少なくとも1つ以上のアミノ酸配列の改変を有する改変型S-ヒドロキシニトリルリアーゼ。 - キャッサバ(Manihot esculenta)又はパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来の天然型S-ヒドロキシニトリルリアーゼのアミノ酸配列(配列番号2又は4)において128番目と129番目のアミノ酸の間にグリシンあるいはリジンを挿入して得られる改変型S-ヒドロキシニトリルリアーゼ。
- 請求項3又は4に記載の改変型S-ヒドロキシニトリルリアーゼにおいて、さらに165番目のグリシンのグルタミン酸への置換、及び173番目のバリンのロイシンへの置換を含む改変型S-ヒドロキシニトリルリアーゼ。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の改変型S-ヒドロキシニトリルリアーゼのアミノ酸配列をコードするDNA。
- 請求項6記載のDNAを導入した宿主を培養し、得られる培養物からS-ヒドロキシニトリルリアーゼ活性を有するタンパク質を回収することを特徴とする、改変型S-ヒドロキシニトリルリアーゼの製造方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の改変型S-ヒドロキシニトリルリアーゼをカルボニル化合物及びシアン化合物と接触させることを特徴とする光学活性シアノヒドリンの製造方法。
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