本発明は、筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射式内燃機関の制御装置に関するものである。
近年、低燃費、低排気エミッション、高出力の特長を兼ね備えた筒内噴射式エンジン(直噴エンジン)の需要が急増している。この筒内噴射式エンジンにおいては、特許文献1(特開2000−314338号公報)に記載されているように、実空燃比を目標空燃比に一致させるように燃料噴射量を制御する空燃比F/B制御(空燃比フィードバック制御)を実行しながら、吸気行程で燃料を噴射する吸気行程噴射モードと、圧縮行程で燃料を噴射する圧縮行程噴射モードとを切り換えるようにしたものがある。この特許文献1では、吸気行程噴射モードと圧縮行程噴射モードとの間で噴射モードを切り換えたときに、空燃比F/B補正量を増減補正して、実空燃比を噴射モード切り換え後の目標空燃比に強制的に近付けることが提案されている。
更に、筒内噴射式エンジンにおいては、特許文献2(特開2004−211571号公報)に記載されているように、空燃比F/B制御を実行しながら、燃料を一括して噴射する一括噴射モードと、燃料を複数回に分割して噴射する分割噴射モードとを切り換えるようにしたものがある。この特許文献2では、一括噴射モードから分割噴射モードに切り換えたときに、空燃比F/B制御の制御ゲインをリーン方向に増大させて、空燃比のリッチずれを防止することが提案されている。
特開2000−314338号公報(第3頁等)
特開2004−211571号公報(第4頁等)
ところで、筒内噴射式エンジンでは、噴射モードを切り換えると、噴射時の筒内圧力(図2参照)や筒内温度やピストン位置(図3参照)等が変化して噴射燃料のウエット量(筒内壁面やピストン等に付着する燃料量)や燃料噴射弁の噴射特性等が変化するため、同一運転条件でも必要な燃料噴射量(燃料噴射時間)が変化する。そこで、本発明者らは、噴射モードの違いによるウエット量や噴射特性等の変化を見込んで、噴射モードを切り換えたときに、燃料噴射量を、切り換え後の噴射モードのウエット量や噴射特性等に対応した燃料噴射量に切り換えるシステムを研究している。
しかし、噴射モードを切り換えたときに、ウエット量や噴射特性等は一気に変化するのではなく徐々に変化するため、図9に破線で示すように、噴射モードを切り換えたときに、燃料噴射量を、切り換え後の噴射モードのウエット量や噴射特性等に対応した燃料噴射量にステップ的に切り換えると、ウエット量や噴射特性等が徐々に変化している期間は、燃料噴射量が適正なものとならず、空燃比が一時的にリーン方向やリッチ方向に変動して、排気エミッションが悪化するという問題がある。
また、この空燃比の変動は一時的なものであり、本来、噴射モードの切り換えに伴うウエット量や噴射特性等の変化が終了すれば、空燃比が速やかに目標空燃比に収まるはずであるが、図16に破線で示すように、空燃比F/B制御中は、この空燃比の一時的な変動を抑える方向に空燃比F/B補正量が増大するため、空燃比が目標空燃比付近で振動するハンチング現象が発生して、空燃比が目標空燃比に収束するまでの時間が長くなり、排気エミッションが悪化するという問題がある。
この場合、上記特許文献1の技術を適用して、噴射モードを切り換えたときに空燃比の変動を抑える方向に空燃比F/B補正量を増量補正したり、或は、上記特許文献2の技術を適用して、噴射モードを切り換えたときに空燃比の変動を抑える方向に空燃比F/B制御の制御ゲインを大きくすると、空燃比F/B補正量が空燃比の一時的な変動を抑える方向に急激に増大してハンチング現象が助長されてしまう可能性がある。
本発明は、これらの事情を考慮してなされたものであり、従って本発明の目的は、筒内噴射式内燃機関の噴射条件切換時の空燃比制御性を向上させることができて、噴射条件切換時の排気エミッションを向上させることができる筒内噴射式内燃機関の制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射式内燃機関の制御装置において、噴射モード切換手段によって、各気筒の吸気行程で燃料を1回噴射する吸気行程1回噴射モードと、各気筒の圧縮行程で燃料を1回噴射する圧縮行程1回噴射モードと、各気筒の1サイクル中に燃料を複数回に分割して噴射する分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換え、燃料噴射量補正手段によって、噴射モードが切り換えられたときに切り換え後の噴射モードに対応した燃料噴射量を一時的に補正する燃料噴射量補正処理を実行するようにしたものである。
このようにすれば、噴射モードが切り換えられたときに、噴射モードの切り換えに伴ってウエット量や噴射特性等が徐々に変化している期間は、切り換え後の噴射モードに対応した燃料噴射量が適正なものとならないという事情があっても、その期間に、燃料噴射量補正処理を実行して、切り換え後の噴射モードに対応した燃料噴射量を空燃比の変動を抑えるように補正することができる。これにより、噴射モード切換時に空燃比が一時的にリーン方向やリッチ方向に変動することを未然に防止することができ、噴射モード切換時の排気エミッションを向上させることができる。
この技術(噴射モードが切り換えられたときに燃料噴射量補正処理を実行する技術)は、吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードと分割噴射モードの3つの噴射モード間で噴射モードを切り換えるシステムに限定されず、請求項2のように、吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードの2つの噴射モード間で噴射モードを切り換えるシステムに適用しても良い。
また、噴射モードが同じで燃料噴射時期が同一行程内で大きく切り換えられたときにも、噴射モード切換時と同様の理由で空燃比の一時的な変動が発生して排気エミッションが悪化する可能性があるため、請求項3のように、燃料噴射時期が同一行程内で所定量よりも大きく切り換えられたときに燃料噴射量補正処理を実行するようにしても良い。このようにすれば、燃料噴射時期が同一行程内で大きく切り換えられたときに、空燃比が一時的に変動することを未然に防止することができ、噴射時期切換時の排気エミッションを向上させることができる。
一般に、噴射条件(噴射モード又は燃料噴射時期)切換時のウエット量や噴射特性等の変化量は、内燃機関の温度に応じて変化するため、請求項4のように、燃料噴射量補正処理の燃料噴射補正量を内燃機関の冷却水温(内燃機関の温度の代用情報)に応じて変更するようにしても良い。このようにすれば、内燃機関の温度に応じて噴射条件切換時のウエット量や噴射特性等の変化量が変化するのに対応して、燃料噴射補正量を変化させることができ、燃料噴射補正量を適正値に設定することができる。
更に、内燃機関の温度に応じて噴射条件切換時にウエット量や噴射特性等が安定するまでの期間が変化するため、請求項5のように、燃料噴射量補正処理の実行期間を内燃機関の冷却水温(内燃機関の温度の代用情報)に応じて変更するようにしても良い。このようにすれば、内燃機関の温度に応じて噴射条件切換時にウエット量や噴射特性等が安定するまでの期間が変化するのに対応して、燃料噴射量補正処理の実行期間を変化させることができ、燃料噴射量補正処理の実行期間を適正値に設定することができる。
また、燃料噴射量補正処理の実行期間を時間で設定するようにしても良いが、請求項6のように、燃料噴射量補正処理の実行期間を燃料噴射回数で設定するようにしても良い。このようにすれば、内燃機関の回転速度に左右されずに、燃料噴射量補正処理を実行する燃料噴射回数(つまり燃料噴射量の補正回数)を確実に確保することができる。
ところで、吸気行程1回噴射モード又は圧縮行程1回噴射モードと、分割噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられた場合には、主に分割噴射モードの1回目の燃料噴射量に応じて噴射条件切換時のウエット量等の変化量が変化するため、請求項7のように、吸気行程1回噴射モード又は圧縮行程1回噴射モードと、分割噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられた場合に、燃料噴射量補正処理の燃料噴射補正量を分割噴射モードの1回目の燃料噴射量の比率に応じて変更するようにすると良い。このようにすれば、分割噴射モードの1回目の燃料噴射量に応じて噴射条件切換時のウエット量等の変化量が変化するのに対応して、燃料噴射補正量を変化させることができ、1回噴射モードと分割噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられた場合の燃料噴射補正量を適正値に設定することができる。
また、請求項8のように、吸気行程1回噴射モード又は圧縮行程1回噴射モード(以下これらを「1回噴射モード」と総称する)と、該1回噴射モードと同一行程で燃料を分割して噴射する分割噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられた場合には、1回噴射モードと、吸気行程及び圧縮行程でそれぞれ燃料を分割して噴射する分割噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられた場合に比べて、燃料噴射量補正処理の燃料噴射補正量を小さくするか又は0にするようにすると良い。この理由は、1回噴射モードと、該1回噴射モードと同一行程で燃料を分割して噴射する分割噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられた場合には、1回噴射モードと、吸気行程及び圧縮行程でそれぞれ燃料を分割して噴射する分割噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられた場合に比べて、噴射モード切換時のウエット量等の変化が小さいからである。
また、請求項9のように、実空燃比を目標空燃比に一致させるように燃料噴射量を制御する空燃比フィードバック制御(以下「空燃比F/B制御」と表記する)を実行すると共に、吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードと分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えるシステムでは、噴射モードが切り換えられたときに空燃比F/B制御の制御ゲインを一時的に小さくするか又は空燃比F/B制御を一時的に禁止する空燃比F/B制御制限処理を実行するようにしても良い。
このようにすれば、噴射モードが切り換えられたときに、空燃比が一時的にリーン方向やリッチ方向に変動しても、空燃比F/B制御制限処理を実行して、空燃比F/B制御の制御ゲインを一時的に小さくするか又は空燃比F/B制御を一時的に禁止することによって、空燃比F/B補正量が空燃比の一時的な変動を抑える方向に過剰に増大することを防止することができ、空燃比のハンチング現象を防止することができる。これにより、噴射モード切換時に空燃比が目標空燃比に収束するまでの時間を短くすることができ、噴射モード切換時の排気エミッションを向上させることができる。
この技術(噴射モードが切り換えられたときに空燃比F/B制御制限処理を実行する技術)は、吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードと分割噴射モードの3つの噴射モード間で噴射モードを切り換えるシステムに限定されず、請求項10のように、吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードの2つの噴射モード間で噴射モードを切り換えるシステムに適用しても良い。
また、請求項11のように、燃料噴射時期が同一行程内で所定量よりも大きく切り換えられたときに空燃比F/B制御制限処理を実行するようにしても良い。このようにすれば、燃料噴射時期が同一行程内で大きく切り換えられたときに、空燃比F/B補正量が空燃比の一時的な変動を抑える方向に過剰に増大することを防止することができて、空燃比のハンチング現象を防止することができ、噴射時期切換時の排気エミッションを向上させることができる。
更に、請求項12のように、空燃比F/B制御制限処理の実行期間を内燃機関の冷却水温(内燃機関の温度の代用情報)に応じて変更するようにしても良い。このようにすれば、内燃機関の温度に応じて噴射条件切換時にウエット量や噴射特性等が安定するまでの期間(つまり、空燃比が変動する期間)が変化するのに対応して、空燃比F/B制御制限処理の実行期間を変化させることができ、空燃比F/B制御制限処理の実行期間を適正値に設定することができる。
また、空燃比F/B制御制限処理の実行期間を時間で設定するようにしても良いが、請求項13のように、空燃比F/B制御制限処理の実行期間を燃料噴射回数で設定するようにしても良い。このようにすれば、内燃機関の回転速度に左右されずに、空燃比F/B制御制限処理を実行する燃料噴射回数を確実に確保することができる。
また、請求項14のように、吸気行程1回噴射モード又は圧縮行程1回噴射モード(以下「1回噴射モード」と総称する)と、該1回噴射モードと同一行程で燃料を分割して噴射する分割噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられた場合には、1回噴射モードと、吸気行程及び圧縮行程でそれぞれ燃料を分割して噴射する分割噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられた場合に比べて、空燃比F/B制御制限処理を実行する期間を短くするか又は0にすると良い。この理由は、1回噴射モードと、該1回噴射モードと同一行程で燃料を分割して噴射する分割噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられた場合には、1回噴射モードと、吸気行程及び圧縮行程でそれぞれ燃料を分割して噴射する分割噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられた場合に比べて、噴射モード切換時のウエット量等の変化が小さく、空燃比の変動が小さいか又は空燃比がほとんど変動しないためである。
以下、本発明を実施するための最良の形態を4つの実施例1〜4を用いて説明する。
本発明の実施例1を図1乃至図9に基づいて説明する。まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。筒内噴射式の内燃機関である筒内噴射式エンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ14が設けられている。このエアフローメータ14の下流側には、モータ15によって開度調節されるスロットルバルブ16と、このスロットルバルブ16の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ17とが設けられている。
更に、スロットルバルブ16の下流側には、サージタンク18が設けられ、このサージタンク18には、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ19が設けられている。また、サージタンク18には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド20が設けられ、各気筒の吸気マニホールド20に、筒内の気流強度(スワール流強度やタンブル流強度)を制御する気流制御弁31が設けられている。
エンジン11の各気筒の上部には、それぞれ燃料を筒内に直接噴射する燃料噴射弁21が取り付けられている。エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ22が取り付けられ、各点火プラグ22の火花放電によって筒内の混合気に着火される。また、エンジン11の吸気バルブ37と排気バルブ38には、それぞれ開閉タイミングを可変する可変バルブタイミング装置39,40が設けられている。
エンジン11のシリンダブロックには、ノッキングを検出するノックセンサ32と、冷却水温を検出する冷却水温センサ23とが取り付けられている。また、クランク軸(図示せず)の外周側には、クランク軸が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ24が取り付けられている。このクランク角センサ24の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
一方、エンジン11の排気管25には、排出ガスを浄化する上流側触媒26と下流側触媒27が設けられ、上流側触媒26の上流側に、排出ガスの空燃比又はリッチ/リーン等を検出する排出ガスセンサ28(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられている。本実施例1では、上流側触媒26として理論空燃比付近で排出ガス中のCO,HC,NOx等を浄化する三元触媒が設けられ、下流側触媒27としてNOx吸蔵還元型触媒が設けられている。このNOx吸蔵還元型触媒27は、排出ガスの空燃比がリーンのときに排出ガス中のNOxを吸蔵し、空燃比が理論空燃比付近又はリッチになったときに吸蔵NOxを還元浄化して放出する特性を持っている。
また、排気管25のうちの上流側触媒26の下流側と吸気管12のうちのスロットルバルブ16の下流側のサージタンク18との間に、排出ガスの一部を吸気側に還流させるためのEGR配管33が接続され、このEGR配管33の途中に排出ガス還流量(EGR量)を制御するEGR弁34が設けられている。また、アクセルペダル35の踏込量(アクセル開度)がアクセルセンサ36によって検出される。
前述した各種センサの出力は、エンジン制御回路(以下「ECU」と表記する)30に入力される。このECU30は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて燃料噴射弁21の燃料噴射量や燃料噴射時期、点火プラグ22の点火時期等を制御する。その際、ECU30は、実空燃比を目標空燃比に一致させるように燃料噴射量を制御する空燃比フィードバック制御(以下「空燃比F/B制御」と表記する)を実行する空燃比F/B制御手段として機能する。
更に、ECU30は、エンジン運転状態等に応じて吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードと分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換える噴射モード切換手段として機能する。吸気行程1回噴射モードは、各気筒の吸気行程で燃料を1回噴射する噴射モードであり、エンジン運転状態等に応じて燃料噴射時期を吸気行程内で進角又は遅角する。圧縮行程1回噴射モードは、各気筒の圧縮行程で燃料を1回噴射する噴射モードであり、エンジン運転状態等に応じて燃料噴射時期を圧縮行程内で進角又は遅角する。
また、分割噴射モードは、各気筒の1サイクル中に燃料を複数回に分割して噴射する噴射モードであり、例えば、吸気行程で燃料を2回噴射する噴射パターンの吸気行程分割噴射モードと、吸気行程で燃料を1回噴射した後に圧縮行程で燃料を1回噴射する噴射パターンの吸気・圧縮行程分割噴射モードと、圧縮行程で燃料を2回噴射する噴射パターンの圧縮行程分割噴射モードの中からエンジン運転状態等に応じて選択される。
ところで、筒内噴射式エンジン11では、噴射モードを切り換えると、噴射時の筒内圧力(図2参照)や筒内温度やピストン位置(図3参照)等が変化して噴射燃料のウエット量(筒内壁面やピストン等に付着する燃料量)や燃料噴射弁21の噴射特性等が変化するため、同一運転条件でも必要な燃料噴射量(燃料噴射時間)が変化する。このため、噴射モードの違いによるウエット量や噴射特性等の変化を見込んで、噴射モードを切り換えたときに、燃料噴射量を、切り換え後の噴射モードのウエット量や噴射特性等に対応した燃料噴射量に切り換えるようにしている。
しかし、噴射モードを切り換えたときに、ウエット量や噴射特性等は一気に変化するのではなく徐々に変化するため、図9に破線で示すように、噴射モードを切り換えたときに、燃料噴射量を、切り換え後の噴射モードのウエット量や噴射特性等に対応した燃料噴射量にステップ的に切り換えると、ウエット量や噴射特性等が徐々に変化している期間は、燃料噴射量が適正なものとならず、空燃比が一時的にリーン方向やリッチ方向に変動して、排気エミッションが悪化する。また、噴射モードが同じで燃料噴射時期が同一行程内で大きく切り換えられたときにも、噴射モード切換時と同様の理由で空燃比の一時的な変動が発生して排気エミッションが悪化する可能性がある。
この対策として、ECU30は、後述する図5乃至図7の燃料噴射量補正処理用の各ルーチン等を実行することで、噴射モードが切り換えられたときや、噴射モードが同じで燃料噴射時期が同一行程内で所定量よりも大きく切り換えられたときに、噴射条件(噴射モード又は燃料噴射時期)の切り換えに伴ってウエット量や噴射特性等が徐々に変化している期間は、燃料噴射量補正処理を実行して、切り換え後の噴射条件に対応した燃料噴射量を空燃比の変動を抑えるように補正する。この機能が特許請求の範囲でいう燃料噴射量補正手段としての役割を果たす。
この燃料噴射量補正処理では、切り換え後の噴射条件に対応した燃料噴射量を所定の燃料噴射補正量を用いて補正するが、その際、図4に示すマップを参照して、噴射条件の切り換えパターン(1) 〜(18)に対応した増加補正量A1〜A4又は減少補正量B1〜B4を燃料噴射補正量の初期値として設定し、その燃料噴射補正量(増加補正量A1〜A4又は減少補正量B1〜B4)を徐々に減衰させて0に近付けることで、燃料噴射量を徐々に変化させて切り換え後の噴射条件に対応した燃料噴射量に近付けるようにする(図9の実線参照)。ここで、増加補正量A1〜A4の大小関係は、A1>A2>A3>A4であり、減少補正量B1〜B4の大小関係は、B1>B2>B3>B4である。
図4に示すマップは、噴射条件を切り換えたときに、ウエット量等の変化によって必要な燃料噴射量が減少する切り換えパターンの場合には、その減少量が大きくなるほど燃料噴射補正量が増加方向に大きくなり(つまり増加補正量が大きくなり)、これとは逆に、噴射条件を切り換えたときに、ウエット量等の変化によって必要な燃料噴射量が増加する切り換えパターンの場合には、その増加量が大きくなるほど燃料噴射補正量が減少方向に大きくなる(つまり減少補正量が大きくなる)ように設定されている。
具体的には、必要な燃料噴射量が最も大きく減少する切り換えパターンの場合、つまり、(1) 吸気行程1回噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えた場合や、(4) 吸気行程1回噴射モードにおいて燃料噴射時期を吸気行程内で所定量よりも大きく進角した場合や、(15)吸気行程1回噴射モードから圧縮行程分割噴射モードに切り換えた場合には、燃料噴射補正量の初期値が最も大きい増加補正量A1に設定される。
また、必要な燃料噴射量が2番目に大きく減少する切り換えパターンの場合、つまり、(9) 吸気行程1回噴射モードから吸気・圧縮行程分割噴射モードに切り換えた場合や、(12)吸気行程分割噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えた場合には、燃料噴射補正量の初期値が2番目に大きい増加補正量A2に設定される。
また、必要な燃料噴射量が3番目に大きく減少する切り換えパターンの場合、つまり、(7) 吸気行程1回噴射モードから吸気行程分割噴射モードに切り換えた場合や、(14)吸気・圧縮行程分割噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えた場合には、燃料噴射補正量の初期値が3番目に大きい増加補正量A3に設定される。
また、必要な燃料噴射量が最も小さく減少する切り換えパターンの場合、つまり、(6) 圧縮行程1回噴射モードにおいて燃料噴射時期を圧縮行程内で所定量よりも大きく進角した場合や、(17)圧縮行程1回噴射モードから圧縮行程分割噴射モードに切り換えた場合には、燃料噴射補正量の初期値が最も小さい増加補正量A4又は0に設定される。
一方、必要な燃料噴射量が最も大きく増加する切り換えパターンの場合、つまり、(2) 圧縮行程1回噴射モードから吸気行程1回噴射モードに切り換えた場合や、(3) 吸気行程1回噴射モードにおいて燃料噴射時期を吸気行程内で所定量よりも大きく遅角した場合や、(16)圧縮行程分割噴射モードから吸気行程1回噴射モードに切り換えた場合には、燃料噴射補正量の初期値が最も大きい減少補正量B1に設定される。
また、必要な燃料噴射量が2番目に大きく増加する切り換えパターンの場合、つまり、(10)吸気・圧縮行程分割噴射モードから吸気行程1回噴射モードに切り換えた場合や、(11)圧縮行程1回噴射モードから吸気行程分割噴射モードに切り換えた場合には、燃料噴射補正量の初期値が2番目に大きい減少補正量B2に設定される。
また、必要な燃料噴射量が3番目に大きく増加する切り換えパターンの場合、つまり、(8) 吸気行程分割噴射モードから吸気行程1回噴射モードに切り換えた場合や、(13)圧縮行程1回噴射モードから吸気・圧縮行程分割噴射モードに切り換えた場合には、燃料噴射補正量の初期値が3番目に大きい減少補正量B3に設定される。
また、必要な燃料噴射量が最も小さく増加する切り換えパターンの場合、つまり、(5) 圧縮行程1回噴射モードにおいて燃料噴射時期を圧縮行程内で所定量よりも大きく遅角した場合や、(18)圧縮行程分割噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えた場合には、燃料噴射補正量の初期値が最も小さい減少補正量B4又は0に設定される。
ここで、(7),(8) 吸気行程1回噴射モードと吸気行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、(9),(10)吸気行程1回噴射モードと吸気・圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合に比べて、燃料噴射補正量(増加補正量又は減少補正量)の絶対値が小さくなるように設定されている。この理由は、吸気行程1回噴射モードと吸気行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、吸気行程1回噴射モードと吸気・圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合に比べて、噴射モード切換時のウエット量等の変化が小さいからである。
更に、(17),(18) 圧縮行程1回噴射モードと圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、(13),(14) 圧縮行程1回噴射モードと吸気・圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合に比べて、燃料噴射補正量(増加補正量又は減少補正量)の絶対値が小さいか又は0になるように設定されている。この理由は、圧縮行程1回噴射モードと圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、圧縮行程1回噴射モードと吸気・圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合に比べて、噴射モード切換時のウエット量等の変化が小さいか又はウエット量等がほとんど変化しないからである。
以下、ECU30が実行する図5乃至図7の燃料噴射量補正処理用の各ルーチンの処理内容を説明する。
[噴射モード切換判定ルーチン]
図5に示す噴射モード切換判定ルーチンは、ECU30の電源オン中に所定周期で(例えば燃料噴射毎に)実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、現在の要求噴射モードMODEreq を読み込んだ後、ステップ102に進み、現在の実噴射モードMODEを読み込む。
この場合、要求噴射モードMODEreq と実噴射モードMODEは、例えば、次の表1に示すように、それぞれ「1」〜「5」の数字で設定される。ここで、「1」は吸気行程1回噴射モードを意味し、「2」は圧縮行程1回噴射モードを意味する。また、「3」は吸気行程分割噴射モードを意味し、「4」は吸気・圧縮行程分割噴射モードを意味し、「5」は圧縮行程分割噴射モードを意味する。
要求噴射モードMODEreq と実噴射モードMODEを読み込んだ後、ステップ103に進み、要求噴射モードMODEreq が実噴射モードMODEと異なっているか否かを判定し、要求噴射モードMODEreq が実噴射モードMODEと異なっていると判定された場合には、ステップ104に進み、噴射モード切換要求有りと判定する。
一方、上記ステップ103で、要求噴射モードMODEreq が実噴射モードMODEと一致していると判定された場合には、ステップ105に進み、噴射時期の変化量(進角量又は遅角量)の絶対値が所定値よりも大きいか否かを判定する。その結果、噴射時期の変化量の絶対値が所定値よりも大きいと判定された場合には、ステップ104に進み、噴射モード切換要求有りと判定する。これは、噴射モードが同じで燃料噴射時期が同一行程内で大きく切り換えられたときにも、燃料噴射量補正処理を実行できるようにするためである。
これに対して、上記ステップ105で、噴射時期の変化量の絶対値が所定値以下であると判定された場合には、ステップ106に進み、噴射モード切換要求無しと判定する。
[1回噴射モード間の切換時の噴射量補正ルーチン]
図6に示す1回噴射モード間の切換時の噴射量補正ルーチンは、ECU30の電源オン中に周期的(例えば燃料噴射毎)に実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ201で、吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードとの間で噴射モード切換要求が有るか否かを判定する。要求噴射モードが切り換えられた直後は、このステップ201で、噴射モード切換要求有りと判定されて、ステップ202に進み、切り換え後の噴射モード(要求噴射モード)を記憶した後、ステップ203に進み、図8に示すマップを参照して、現在の冷却水温に応じた燃料噴射量補正処理の実行期間を算出する。
この燃料噴射量補正処理の実行期間は、燃料噴射量補正処理を実行する燃料噴射回数で設定され、噴射条件切換時にウエット量や噴射特性等が安定するまでの期間(ウエット量や噴射特性等が徐々に変化している期間)に相当する値に設定されている。一般に、エンジン温度が低くなるほど噴射条件切換時にウエット量や噴射特性等が安定するまでの期間が長くなるため、図8のマップは、冷却水温(エンジン温度の代用情報)が低くなるほど燃料噴射量補正処理の実行期間が長くなる(燃料噴射量補正処理を実行する燃料噴射回数が多くなる)ように設定されている。
この後、ステップ204に進み、燃料噴射量補正処理の実行期間を判定するためのタイマTmodeのカウント値を燃料噴射量補正処理の実行期間(燃料噴射量補正処理を実行する燃料噴射回数)に相当する初期値にセットした後、ステップ206に進み、吸気行程1回噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えられたか否かを判定する。
このステップ206で、吸気行程1回噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えられたと判定された場合には、ステップ207に進み、吸気行程1回噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えた場合の燃料噴射補正量を算出する。この場合、図4に示すマップを参照して、噴射条件の切り換えパターンに応じた増加補正量A1を燃料噴射補正量の初期値として設定し、図9の(a)に示すように、その燃料噴射補正量を徐々に減衰させて0に近付けていく。この燃料噴射補正量を用いて切り換え後の噴射モード(圧縮行程1回噴射モード)に対応した燃料噴射量を増量補正することで、切り換え後の噴射モード(圧縮行程1回噴射モード)に対応した燃料噴射量を空燃比の変動を抑えるように補正する。
一方、上記ステップ206で、圧縮行程1回噴射モードから吸気行程1回噴射モードに切り換えられたと判定された場合には、ステップ208に進み、圧縮行程1回噴射モードから吸気行程1回噴射モードに切り換えた場合の燃料噴射補正量を算出する。この場合、図4に示すマップを参照して、噴射条件の切り換えパターンに応じた減少補正量B1を燃料噴射補正量の初期値として設定し、図9の(b)に示すように、その燃料噴射補正量を徐々に減衰させて0に近付けていく。この燃料噴射補正量を用いて切り換え後の噴射モード(吸気行程1回噴射モード)に対応した燃料噴射量を減量補正することで、切り換え後の噴射モード(吸気行程1回噴射モード)に対応した燃料噴射量を空燃比の変動を抑えるように補正する。
燃料噴射補正量を算出した後、ステップ209に進み、タイマTmodeのカウント値を燃料噴射毎(本ルーチンの演算周期毎)にカウントダウンする。
一方、噴射モードが切り換えられて要求噴射モードが実噴射モードと一致した後は、上記ステップ201で、噴射モード切換要求無しと判定されて、ステップ205に進み、タイマTmodeのカウント値が「0」であるか否かを判定し、タイマTmodeのカウント値が「0」でなければ、燃料噴射量補正処理の実行期間であると判断して、燃料噴射補正量を算出してタイマTmodeのカウント値をカウントダウンする処理(ステップ206〜209の処理)を繰り返す。
その後、上記ステップ205で、タイマTmodeのカウント値が「0」であると判定されたときに、燃料噴射量補正処理の実行期間が終了したと判断して、ステップ206〜209の処理を実行することなく、本ルーチンを終了する。
[1回噴射モードと分割噴射モードの切換時の噴射量補正ルーチン]
図7に示す1回噴射モードと分割噴射モードの切換時の噴射量補正ルーチンは、ECU30の電源オン中に周期的(例えば燃料噴射毎)に実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ301で、1回噴射モード(吸気行程1回噴射モード又は圧縮行程1回噴射モード)と分割噴射モード(吸気行程分割噴射モード又は吸気・圧縮行程分割噴射モード又は圧縮行程分割噴射モード)との間で噴射モード切換要求が有るか否かを判定する。
このステップ301で、噴射モード切換要求有りと判定された場合には、ステップ302に進み、切り換え後の噴射モード(要求噴射モード)を記憶した後、ステップ303に進み、現在の冷却水温に応じた燃料噴射量補正処理の実行期間(燃料噴射量補正処理を実行する燃料噴射回数)を算出する。この後、ステップ304に進み、タイマTmodeのカウント値を燃料噴射量補正処理の実行期間に相当する初期値にセットした後、ステップ306に進み、1回噴射モードから分割噴射モードに切り換えられたか否かを判定する。
このステップ306で、1回噴射モードから分割噴射モードに切り換えられたと判定された場合には、ステップ307に進み、1回噴射モードから分割噴射モードに切り換えた場合の燃料噴射補正量を算出する。この場合、図4に示すマップを参照して、噴射条件の切り換えパターンに応じた増加補正量又は減少補正量を燃料噴射補正量の初期値として設定し、その燃料噴射補正量を徐々に減衰させて0に近付けていく。この燃料噴射補正量を用いて切り換え後の分割噴射モードに対応した燃料噴射量を補正することで、切り換え後の分割噴射モードに対応した燃料噴射量を空燃比の変動を抑えるように補正する。
一方、上記ステップ306で、分割噴射モードから1回噴射モードに切り換えられたと判定された場合には、ステップ308に進み、分割噴射モードから1回噴射モードに切り換えた場合の燃料噴射補正量を算出する。この場合、図4に示すマップを参照して、噴射条件の切り換えパターンに応じた減少補正量又は増加補正量を燃料噴射補正量の初期値として設定し、その燃料噴射補正量を徐々に減衰させて0に近付けていく。この燃料噴射補正量を用いて切り換え後の1回噴射モードに対応した燃料噴射量を補正することで、切り換え後の1回噴射モードに対応した燃料噴射量を空燃比の変動を抑えるように補正する。
燃料噴射補正量を算出した後、ステップ309に進み、タイマTmodeのカウント値を燃料噴射毎(本ルーチンの演算周期毎)にカウントダウンする。
一方、上記ステップ301で、噴射モード切換要求無しと判定された場合には、ステップ305に進み、タイマTmodeのカウント値が「0」であるか否かを判定し、タイマTmodeのカウント値が「0」でなければ、燃料噴射補正量を算出してタイマTmodeのカウント値をカウントダウンする処理(ステップ306〜309の処理)を繰り返す。
その後、上記ステップ305で、タイマTmodeのカウント値が「0」であると判定されたときに、燃料噴射量補正処理の実行期間が終了したと判断して、ステップ306〜309の処理を実行することなく、本ルーチンを終了する。
尚、1回噴射モード(吸気行程1回噴射モード又は圧縮行程1回噴射モード)において燃料噴射時期を同一行程内で所定量よりも大きく遅角又は進角したときにも、図6や図7のルーチンと同じようにして、燃料噴射量補正処理を実行する。
以上説明した本実施例1では、図9に実線で示すように、噴射モードが切り換えられたときに、噴射モードの切り換えに伴ってウエット量や噴射特性等が徐々に変化している期間は、燃料噴射量補正処理を実行して、切り換え後の噴射モードに対応した燃料噴射量を空燃比の変動を抑えるように補正する。これにより、噴射モード切換時に空燃比が一時的にリーン方向やリッチ方向に変動することを未然に防止することができて、噴射モード切換時の排気エミッションを向上させることができる。
更に、本実施例1では、噴射モードが同じで燃料噴射時期が同一行程内で所定量よりも大きく切り換えられたときにも、燃料噴射量補正処理を実行するようにしたので、噴射時期切換時に空燃比が一時的に変動することを未然に防止することができ、噴射時期切換時の排気エミッションを向上させることができる。
また、本実施例1では、燃料噴射量補正処理の実行期間を冷却水温(エンジン温度の代用情報)に応じて設定するようにしたので、エンジン温度に応じて噴射条件切換時にウエット量や噴射特性等が安定するまでの期間が変化するのに対応して、燃料噴射量補正処理の実行期間を変化させることができ、燃料噴射量補正処理の実行期間を適正値に設定することができる。
しかも、本実施例1では、燃料噴射量補正処理の実行期間を燃料噴射回数で設定するようにしたので、エンジン回転速度等に左右されずに、燃料噴射量補正処理を実行する燃料噴射回数(つまり燃料噴射量の補正回数)を確実に確保することができる。
次に、図10乃至図13を用いて本発明の実施例2を説明する。
本実施例2では、図10の1回噴射モード間の切換時の噴射量補正ルーチンを実行することで、吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられたときに、燃料噴射量補正処理の燃料噴射補正量を冷却水温に応じて変更するようにしている。図10のルーチンは、前記実施例1で説明した図6のルーチンのステップ207,208の処理をそれぞれステップ207a,208aの処理に変更したものであり、それ以外の各ステップの処理は図6と同じである。
更に、本実施例2では、図11の1回噴射モードと分割噴射モードの切換時の噴射量補正ルーチンを実行することで、1回噴射モード(吸気行程1回噴射モード又は圧縮行程1回噴射モード)と分割噴射モード(吸気行程分割噴射モード又は吸気・圧縮行程分割噴射モード又は圧縮行程分割噴射モード)との間で噴射モードが切り換えられたときに、燃料噴射量補正処理の燃料噴射補正量を分割噴射モードの分割率(分割噴射の全燃料噴射量に対する1回目の燃料噴射量の比率)に応じて変更するようにしている。図11のルーチンは、前記実施例1で説明した図7のルーチンのステップ304の処理の後にステップ304aの処理を追加すると共に、ステップ307,308の処理をそれぞれステップ307a,308aの処理に変更したものであり、それ以外の各ステップの処理は図7と同じである。
図10に示す1回噴射モード間の切換時の噴射量補正ルーチンでは、ステップ206で、吸気行程1回噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えられたと判定された場合には、ステップ207aに進み、吸気行程1回噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えた場合の燃料噴射補正量を算出する。この場合、図12に示すマップを参照して、現在の冷却水温に応じた燃料噴射補正量(増加補正量)を初期値として算出し、その燃料噴射補正量を徐々に減衰させて0に近付けていく。
一般に、エンジン温度が低くなるほど噴射条件切換時のウエット量や噴射特性等の変化量が大きくなるため、図12のマップは、冷却水温(エンジン温度の代用情報)が低くなるほど燃料噴射補正量が大きくなるように設定されている。この燃料噴射補正量を用いて切り換え後の噴射モード(圧縮行程1回噴射モード)に対応した燃料噴射量を増量補正することで、切り換え後の噴射モード(圧縮行程1回噴射モード)に対応した燃料噴射量を空燃比の変動を抑えるように補正する。
一方、上記ステップ206で、圧縮行程1回噴射モードから吸気行程1回噴射モードに切り換えられたと判定された場合には、ステップ208aに進み、圧縮行程1回噴射モードから吸気行程1回噴射モードに切り換えた場合の燃料噴射補正量を算出する。この場合、図12に示すマップを参照して、現在の冷却水温に応じた燃料噴射補正量(減少補正量)を初期値として算出し、その燃料噴射補正量を徐々に減衰させて0に近付けていく。この燃料噴射補正量を用いて切り換え後の噴射モード(吸気行程1回噴射モード)に対応した燃料噴射量を減量補正することで、切り換え後の噴射モード(吸気行程1回噴射モード)に対応した燃料噴射量を空燃比の変動を抑えるように補正する。
また、図11に示す1回噴射モードと分割噴射モードの切換時の噴射量補正ルーチンでは、ステップ304で、タイマTmodeのカウント値を初期値にセットした後、ステップ304aに進み、切り換え前又は切り換え後の分割噴射モードの分割率を読み込む。
この後、ステップ306で、噴射モードが1回噴射モードから分割噴射モードに切り換えられたか否かを判定し、1回噴射モードから分割噴射モードに切り換えられたと判定された場合には、ステップ307aに進み、1回噴射モードから分割噴射モードに切り換えた場合の燃料噴射補正量を算出する。この場合、図13に示すマップを参照して、切り換え後の分割噴射モードの分割率に応じた燃料噴射補正量(増加補正量又は減少補正量)を初期値として算出し、その燃料噴射補正量を徐々に減衰させて0に近付けていく。一般に、分割噴射モードの分割率が大きくなるほど噴射条件切換時のウエット量等の変化量が大きくなるため、図13のマップは、分割噴射モードの分割率が大きくなるほど燃料噴射補正量が大きくなるように設定されている。この燃料噴射補正量を用いて切り換え後の分割噴射モードに対応した燃料噴射量を補正することで、切り換え後の分割噴射モードに対応した燃料噴射量を空燃比の変動を抑えるように補正する。
一方、上記ステップ306で、分割噴射モードから1回噴射モードに切り換えられたと判定された場合には、ステップ308aに進み、分割噴射モードから1回噴射モードに切り換えた場合の燃料噴射補正量を算出する。この場合、図13に示すマップを参照して、切り換え前の分割噴射モードの分割率に応じた燃料噴射補正量(減少補正量又は増加補正量)を初期値として算出し、その燃料噴射補正量を徐々に減衰させて0に近付けていく。この燃料噴射補正量を用いて切り換え後の1回噴射モードに対応した燃料噴射量を補正することで、切り換え後の1回噴射モードに対応した燃料噴射量を空燃比の変動を抑えるように補正する。
以上説明した本実施例2では、吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられたときに、燃料噴射量補正処理の燃料噴射補正量を冷却水温(エンジン温度の代用情報)に応じて設定するようにしたので、エンジン温度に応じて噴射条件切換時のウエット量や噴射特性等の変化量が変化するのに対応して、燃料噴射補正量を変化させることができ、吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合の燃料噴射補正量を適正値に設定することができる。
更に、本実施例2では、1回噴射モードと分割噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられたときに、燃料噴射量補正処理の燃料噴射補正量を分割噴射モードの分割率に応じて設定するようにしたので、分割噴射モードの分割率に応じて噴射条件切換時のウエット量等の変化量が変化するのに対応して、燃料噴射補正量を変化させることができ、1回噴射モードと分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合の燃料噴射補正量を適正値に設定することができる。
尚、1回噴射モードと分割噴射モードとの間で噴射モードが切り換えられたときや、噴射モードが同じで燃料噴射時期が同一行程内で所定量よりも大きく切り換えられたときに、燃料噴射量補正処理の燃料噴射補正量を冷却水温に応じて変更するようにしても良い。
次に、図14乃至図16を用いて本発明の実施例3を説明する。
本実施例3では、ECU30は、図14の1回噴射モード間の切換時の空燃比F/B制御制限ルーチン等を実行することで、噴射モードが切り換えられたときや、噴射モードが同じで燃料噴射時期が同一行程内で所定量よりも大きく切り換えられたときに、空燃比F/B制御制限処理を実行して、空燃比F/B制御の制御ゲインを通常時よりも一時的に小さくすることによって、空燃比F/B補正量が空燃比の一時的な変動を抑える方向に過剰に増大することを防止する。この機能が特許請求の範囲でいう空燃比F/B制御制限手段としての役割を果たす。
この空燃比F/B制御制限処理では、図4に示すマップを参照して、噴射条件の切り換えパターン(1) 〜(18)に応じた制御ゲインG1〜G4を設定する。ここで、制御ゲインG1〜G4の大小関係は、G1>G2>G3>G4である。
図4に示すマップは、噴射条件を切り換えたときに、ウエット量等の変化によって必要な燃料噴射量が減少又は増加する際の変化量が大きくなるほど制御ゲインが小さくなるように設定されている。
具体的には、必要な燃料噴射量が最も大きく変化する切り換えパターンの場合、つまり、(1),(2) 吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合や、(3),(4) 吸気行程1回噴射モードにおいて燃料噴射時期を吸気行程内で所定量よりも大きく遅角又は進角した場合や、(15),(16) 吸気行程1回噴射モードと圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、制御ゲインが最も小さい制御ゲインG4に設定される。
また、必要な燃料噴射量が2番目に大きく変化する切り換えパターンの場合、つまり、(9),(10)吸気行程1回噴射モードと吸気・圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合や、(11),(12) 圧縮行程1回噴射モードと吸気行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、制御ゲインが2番目に小さい制御ゲインG3に設定される。
また、必要な燃料噴射量が3番目に大きく変化する切り換えパターンの場合、つまり、(7),(8) 吸気行程1回噴射モードと吸気行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合や、(13),(14) 圧縮行程1回噴射モードと吸気・圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、制御ゲインが3番目に小さい制御ゲインG2に設定される。
また、必要な燃料噴射量が最も小さく変化する切り換えパターンの場合、つまり、(5),(6) 圧縮行程1回噴射モードにおいて燃料噴射時期を圧縮行程内で所定量よりも大きく遅角又は進角した場合や、(17),(18) 圧縮行程1回噴射モードと圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、制御ゲインが4番目に小さい制御ゲインG1に設定される。
以下、ECU30が実行する図14の1回噴射モード間の切換時の空燃比F/B制御制限ルーチンの処理内容を説明する。本ルーチンが移動されると、まず、ステップ401で、吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードとの間で噴射モード切換要求が有るか否かを判定する。このステップ401で、噴射モード切換要求有りと判定された場合には、ステップ402に進み、切り換え後の噴射モード(要求噴射モード)を記憶した後、ステップ403に進み、図15に示すマップを参照して、現在の冷却水温に応じた空燃比F/B制御制限処理の実行期間を算出する。
この空燃比F/B制御制限処理の実行期間は、空燃比F/B制御制限処理を実行する燃料噴射回数で設定され、噴射条件切換時にウエット量や噴射特性等が安定するまでの期間(ウエット量や噴射特性等が徐々に変化している期間)に相当する値に設定されている。一般に、エンジン温度が低くなるほど噴射条件切換時にウエット量や噴射特性等が安定するまでの期間が長くなるため、図15のマップは、冷却水温(エンジン温度の代用情報)が低くなるほど空燃比F/B制御制限処理の実行期間が長くなる(空燃比F/B制御制限処理を実行する燃料噴射回数が多くなる)ように設定されている。
この後、ステップ404に進み、空燃比F/B制御制限処理の実行期間を判定するためのタイマTmodeのカウント値を空燃比F/B制御制限処理の実行期間(空燃比F/B制御制限処理を実行する燃料噴射回数)に相当する初期値にセットした後、ステップ406に進み、ステップ406で、吸気行程1回噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えられたか否かを判定する。
このステップ406で、吸気行程1回噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えられたと判定された場合には、ステップ407に進み、吸気行程1回噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えた場合の制御ゲインを算出する。この場合、図4に示すマップを参照して、噴射条件の切り換えパターンに応じた制御ゲインG4を設定することで、空燃比F/B制御の制御ゲインを通常時よりも小さくする。これにより、図16の(a)に示すように、吸気行程1回噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えられたときに、空燃比F/B補正量が空燃比の一時的なリーン変動を抑える方向に過剰に増大することを防止する。
一方、上記ステップ406で、圧縮行程1回噴射モードから吸気行程1回噴射モードに切り換えられたと判定された場合には、ステップ408に進み、圧縮行程1回噴射モードから吸気行程1回噴射モードに切り換えた場合の制御ゲインを算出する。この場合、図4に示すマップを参照して、噴射条件の切り換えパターンに応じた制御ゲインG4を設定することで、空燃比F/B制御の制御ゲインを通常時よりも小さくする。これにより、図16の(b)に示すように、圧縮行程1回噴射モードから吸気行程1回噴射モードに切り換えられたときに、空燃比F/B補正量が空燃比の一時的なリッチ変動を抑える方向に過剰に増大することを防止する。
制御ゲインを算出した後、ステップ409に進み、タイマTmodeのカウント値を燃料噴射毎(本ルーチンの演算周期毎)にカウントダウンする。
一方、上記ステップ401で、噴射モード切換要求無しと判定された場合には、ステップ405に進み、タイマTmodeのカウント値が「0」であるか否かを判定し、タイマTmodeのカウント値が「0」でなければ、空燃比F/B制御制限処理の実行期間であると判断して、制御ゲインを算出してタイマTmodeのカウント値をカウントダウンする処理(ステップ406〜409の処理)を繰り返す。
その後、上記ステップ405で、タイマTmodeのカウント値が「0」であると判定されたときに、空燃比F/B制御制限処理の実行期間が終了したと判断して、ステップ410に進み、通常時の制御ゲインを算出して、本ルーチンを終了する。
尚、1回噴射モード(吸気行程1回噴射モード又は圧縮行程1回噴射モード)と分割噴射モード(吸気行程分割噴射モード又は吸気・圧縮行程分割噴射モード又は圧縮行程分割噴射モード)との間で噴射モードを切り換えたときや、1回噴射モード(吸気行程1回噴射モード又は圧縮行程1回噴射モード)において燃料噴射時期を同一行程内で所定量よりも大きく遅角又は進角したときにも、図14のルーチンと同じようにして、空燃比F/B制御制限処理を実行する。
その際、(7),(8) 吸気行程1回噴射モードと吸気行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、(9),(10)吸気行程1回噴射モードと吸気・圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合に比べて、空燃比F/B制御制限処理を実行する期間を短くする。この理由は、(7),(8) 吸気行程1回噴射モードと吸気行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、(9),(10)吸気行程1回噴射モードと吸気・圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合に比べて、噴射モード切換時のウエット量等の変化が小さく、空燃比の変動が小さいからである。
更に、(17),(18) 圧縮行程1回噴射モードと圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、(13),(14) 圧縮行程1回噴射モードと吸気・圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合に比べて、空燃比F/B制御制限処理を実行する期間を短くするか又は0にする。この理由は、(17),(18) 圧縮行程1回噴射モードと圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、(13),(14) 圧縮行程1回噴射モードと吸気・圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合に比べて、噴射モード切換時のウエット量等の変化が小さく、空燃比の変動が小さいか又は空燃比がほとんど変動しないからである。
以上説明した本実施例3では、図16に実線で示すように、噴射モードが切り換えられたときや、噴射モードが同じで燃料噴射時期が同一行程内で所定量よりも大きく切り換えられたときに、空燃比F/B制御制限処理を実行して、空燃比F/B制御の制御ゲインを通常時よりも一時的に小さくするようにしたので、空燃比F/B補正量が空燃比の一時的な変動を抑える方向に過剰に増大することを防止することができ、空燃比のハンチング現象を防止することができる。これにより、噴射モード切換時や燃料噴射時期切換時に空燃比が目標空燃比に収束するまでの時間を短くすることができ、噴射モード切換時や燃料噴射時期切換時の排気エミッションを向上させることができる。
また、本実施例3では、空燃比F/B制御制限処理の実行期間を冷却水温(エンジン温度の代用情報)に応じて設定するようにしたので、エンジン温度に応じて噴射条件切換時にウエット量や噴射特性等が安定するまでの期間が変化するのに対応して、空燃比F/B制御制限処理の実行期間を変化させることができ、空燃比F/B制御制限処理の実行期間を適正値に設定することができる。
しかも、本実施例3では、空燃比F/B制御制限処理の実行期間を燃料噴射回数で設定するようにしたので、エンジン回転速度等に左右されずに、空燃比F/B制御制限処理を実行する燃料噴射回数を確実に確保することができる。
尚、噴射モードが切り換えられたときや、噴射モードが同じで燃料噴射時期が同一行程内で所定量よりも大きく切り換えられたときに、図17に示すマップを参照して、冷却水温に応じて制御ゲインを変更するようにしても良い。一般に、エンジン温度が低くなるほど噴射条件切換時のウエット量や噴射特性等の変化量が大きくなって、空燃比の変動が大きくなるため、図17のマップは、冷却水温(エンジン温度の代用情報)が低くなるほど制御ゲインが小さくなるように設定されている。
次に、図18を用いて本発明の実施例4を説明する。
本実施例4では、図18の1回噴射モード間の切換時の空燃比F/B制御制限ルーチン等を実行することで、噴射モードが切り換えられたときや、噴射モードが同じで燃料噴射時期が同一行程内で所定量よりも大きく切り換えられたときに、空燃比F/B制御制限処理を実行して、空燃比F/B制御を一時的に禁止することによって、空燃比F/B補正量が空燃比の一時的な変動を抑える方向に増大することを防止するようにしている。
図18に示す1回噴射モード間の切換時の空燃比F/B制御制限ルーチンでは、まず、ステップ501で、吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードとの間で噴射モード切換要求が有るか否かを判定する。このステップ501で、噴射モード切換要求有りと判定された場合には、ステップ502に進み、切り換え後の噴射モード(要求噴射モード)を記憶する。
この後、ステップ503に進み、噴射モードが吸気行程1回噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えられたか否かを判定する。このステップ503で、吸気行程1回噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えられたと判定された場合には、ステップ504に進み、吸気行程1回噴射モードから圧縮行程1回噴射モードに切り換えた場合の空燃比F/B制御禁止期間を、例えば現在の冷却水温等に応じてマップ等により算出する。この空燃比F/B制御禁止期間は、空燃比F/B制御を禁止する燃料噴射回数で設定され、噴射条件切換時にウエット量や噴射特性等が安定するまでの期間(ウエット量や噴射特性等が徐々に変化している期間)に相当する値に設定されている。
一方、上記ステップ503で、圧縮行程1回噴射モードから吸気行程1回噴射モードに切り換えられたと判定された場合には、ステップ505に進み、圧縮行程1回噴射モードから吸気行程1回噴射モードに切り換えた場合の空燃比F/B制御禁止期間を、例えば現在の冷却水温等に応じてマップ等により算出する。
空燃比F/B制御禁止期間を算出した後、ステップ506に進み、空燃比F/B制御禁止期間を判定するためのタイマTmodeのカウント値を空燃比F/B制御禁止期間(空燃比F/B制御を禁止する燃料噴射回数)に相当する初期値にセットする。この後、ステップ508に進み、空燃比F/B制御を禁止した後、ステップ509に進み、タイマTmodeのカウント値を燃料噴射毎(本ルーチンの演算周期毎)にカウントダウンする。
一方、上記ステップ501で、噴射モード切換要求無しと判定された場合には、ステップ507に進み、タイマTmodeのカウント値が「0」であるか否かを判定し、タイマTmodeのカウント値が「0」でなければ、空燃比F/B制御禁止期間であると判断して、空燃比F/B制御を禁止したままタイマTmodeのカウント値をカウントダウンする処理(ステップ508,509の処理)を繰り返す。
その後、上記ステップ507で、タイマTmodeのカウント値が「0」であると判定されたときに、空燃比F/B制御禁止期間が終了したと判断して、ステップ510に進み、空燃比F/B制御を許可して、本ルーチンを終了する。
尚、1回噴射モード(吸気行程1回噴射モード又は圧縮行程1回噴射モード)と分割噴射モード(吸気行程分割噴射モード又は吸気・圧縮行程分割噴射モード又は圧縮行程分割噴射モード)との間で噴射モードを切り換えたときや、1回噴射モード(吸気行程1回噴射モード又は圧縮行程1回噴射モード)において燃料噴射時期を同一行程内で所定量よりも大きく遅角又は進角したときにも、図18のルーチンと同じようにして、空燃比F/B制御を禁止する。
その際、(7),(8) 吸気行程1回噴射モードと吸気行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、(9),(10)吸気行程1回噴射モードと吸気・圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合に比べて、空燃比F/B制御禁止期間を短くする又は0にする(空燃比F/B制御を禁止しない)。更に、(17),(18) 圧縮行程1回噴射モードと圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合には、(13),(14) 圧縮行程1回噴射モードと吸気・圧縮行程分割噴射モードとの間で噴射モードを切り換えた場合に比べて、空燃比F/B制御禁止期間を短くするか又は0にする(空燃比F/B制御を禁止しない)。
以上説明した本実施例4では、噴射モードが切り換えられたときや、噴射モードが同じで燃料噴射時期が同一行程内で所定量よりも大きく切り換えられたときに、空燃比F/B制御制限処理を実行して、空燃比F/B制御を一時的に禁止するようにしたので、空燃比F/B補正量が空燃比の一時的な変動を抑える方向に増大することを防止することができて、空燃比のハンチング現象を防止することができ、噴射モード切換時や燃料噴射時期切換時の排気エミッションを向上させることができる。
尚、上記各実施例1〜4では、燃料噴射量補正処理や空燃比F/B制御制限処理の実行期間を冷却水温に応じて変更するようにしたが、燃料噴射量補正処理や空燃比F/B制御制限処理の実行期間を予め設定した固定値としても良い。また、燃料噴射量補正処理や空燃比F/B制御制限処理の実行期間を燃料噴射回数で設定するようにしたが、燃料噴射量補正処理や空燃比F/B制御制限処理の実行期間を時間で設定するようにしても良い。
また、上記各実施例1〜4では、吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードと分割噴射モードの3つの噴射モード間で噴射モードを切り換えるシステムに本発明を適用したが、吸気行程1回噴射モードと圧縮行程1回噴射モードの2つの噴射モード間で噴射モードを切り換えるシステムに本発明を適用しても良い。
本発明の実施例1におけるエンジン制御システム全体の概略構成図である。
噴射時期と筒内圧力との関係を説明するための特性図である。
噴射時期とピストン位置との関係を説明するための図である。
噴射条件の切り換えパターンに応じた燃料噴射補正量及び制御ゲインのマップの一例を概念的に示す図である。
噴射モード切換判定ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
実施例1における1回噴射モード間の切換時の噴射量補正ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
実施例1における1回噴射モードと分割噴射モードの切換時の噴射量補正ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
燃料噴射量補正処理の実行期間のマップの一例を概念的に示す図である。
実施例1の燃料噴射量補正処理の実行例を示すタイムチャートである。
実施例2における1回噴射モード間の切換時の噴射量補正ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
実施例2における1回噴射モードと分割噴射モードの切換時の噴射量補正ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
冷却水温に応じた燃料噴射補正量のマップの一例を概念的に示す図である。
分割率に応じた燃料噴射補正量のマップの一例を概念的に示す図である。
実施例3における1回噴射モード間の切換時の空燃比F/B制御制限ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
空燃比F/B制御制限処理の実行期間のマップの一例を概念的に示す図である。
実施例3の空燃比F/B制御制限処理の実行例を示すタイムチャートである。
冷却水温に応じた制御ゲインのマップの一例を概念的に示す図である。
実施例4における1回噴射モード間の切換時の空燃比F/B制御制限ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
符号の説明
11…筒内噴射式エンジン(筒内噴射式内燃機関)、12…吸気管、16…スロットルバルブ、21…燃料噴射弁、22…点火プラグ、23…冷却水温センサ、25…排気管、30…ECU(噴射モード切換手段,燃料噴射量補正手段,空燃比F/B制御手段,空燃比F/B制御制限手段)