JP2006290731A - 耐酸性組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】 水中不分離性及び耐酸性に優れ、酸性水中への打設が可能であると共に、止水性、ポンプ圧送性、及び自立性にも優れた耐酸性組成物を提供すること。
【解決手段】 耐酸性硬化材10〜50重量%と、耐酸性吸水性樹脂0.01〜0.05重量%と、耐酸性骨材30〜60重量%と、粘土鉱物1〜5重量%とを、少なくとも含有する耐酸性組成物とした。
【選択図】 なし

Description

本発明は、耐酸性組成物に関するもので、更に詳しくは、酸性水中に打設でき、止水性、ポンプ圧送性、及び自立性にも優れた耐酸性組成物に関するものである。
酸性土壌地帯や火山地帯における酸性水の流出防止施設では、従来においては普通セメントを使用したモルタル或いはコンクリートを用いて止水施工していた。しかし、従来の普通セメントを使用した施工の場合には、モルタル或いはコンクリートに耐酸性が無いため、止水性や耐久性において課題を有していた。
また、例えばトンネル工事等において酸性土壌地帯を掘削する場合、雨水や地下水の影響で酸性水が漏出し、河川に流出する恐れがある。トンネル工事等では酸性水の漏出箇所を事前に予測することは難しく、突発的に漏水が発生する場合がある。その場合には、漏水箇所に充填材を充填し、漏水箇所を抑えることや、酸性水が河川に流入しないよう、水中不分離性材料で堰を設ける必要がある。これらに使用する充填材や水中不分離性材料は、各種市販されているが、やはり通常普通セメントを使用したものが大部分であるため、酸性水による侵食を受ける恐れがあった。また、耐酸性をもつ材料の一つとして樹脂モルタルも考えられたが、価格が高価であり、実用的ではなかった。
そこで、近年においては、耐酸性のモルタル、グラウト及びコンクリートが開発され(例えば、特許文献1,2等)、耐酸性を有するコンクリート部材の作製、コンクリート構造物の構築等に使用されている。
特開2001−240456号公報 特開2001−342052号公報
しかしながら、上記した耐酸性を有するコンクリート等は、止水材としての使用は考慮されていないため、充分な止水性を発現できるものでは無かった。
また、主に型枠内に流し込み、成形するものであるために自立性についても考慮されていない。従って、水中等において打設した場合、自立性(停留性)が無く、型枠を用いることなく堰等を形成することができず、また、トンネル等の天端側に充填材或いは裏込材として用いた場合、重力によって流出してしまい、施工が非常に困難であると言う課題を有していた。
本発明は、上述した背景技術に鑑み成されたものであって、その目的は、水中不分離性及び耐酸性に優れ、酸性水中への打設が可能であると共に、止水性、ポンプ圧送性、及び自立性にも優れた耐酸性組成物を提供することにある。
上記した目的を達成するため、本発明は、耐酸性硬化材と、耐酸性吸水性樹脂と、耐酸性骨材とを、少なくとも含有する耐酸性組成物とし、好ましくは、更に粘土鉱物を含有する耐酸性組成物とした。そして、その好ましい組成は、耐酸性硬化材10〜50重量%、耐酸性吸水性樹脂0.01〜0.05重量%、耐酸性骨材30〜60重量%、粘土鉱物1〜5重量%の耐酸性組成物とした。
ここで、上記耐酸性硬化材としては、溶融スラグ微粉末10〜85重量%と、高炉スラグ5〜15重量%と、アルカリ珪酸塩を固形分換算で5〜40重量%とを含むものであることが好ましく、また、上記溶融スラグ微粉末は、CaO/SiO2モル比が0.1〜1.2、ブレーン値が3000〜8000cm2/gであることが好ましく、更には、上記耐酸性硬化材は、アルミナセメント、ポゾラン質粉末、アルカリ金属塩類のいずれか1つ以上を更に含むものであることが好ましい。また、上記耐酸性骨材の粗粒率は、1.0〜4.0であることが好ましい。
また、上記耐酸性組成物の混練物のフロー値は、140〜210mmであることが好ましく、また、上記耐酸性組成物の硬化体を10重量%硫酸水溶液中に浸漬した場合の該硬化体の浸漬期間56日での質量変化率(絶対値)は、10%以下であることが好ましい。また、上記耐酸性組成物の硬化体を1重量%硫酸水溶液中で養生した場合の該硬化体の材令28日での圧縮強度は、5N/mm2以上であることが好ましく、また、上記耐酸性組成物の混練物の1重量%硫酸水溶液への流出率は、2%以下であることが好ましい。
なお、上記溶融スラグ微粉末のブレーン値は、JIS R 5201の比表面積試験に準拠して測定した値である。また、耐酸性骨材の粗粒率は、JIS A 1102の骨材のふるい分け試験により測定した値である。更に、耐酸性組成物の混練物のフロー値は、水を含む耐酸性組成物材料の混練終了から5分経過後の混練物について、JIS R 5201に基づき測定した値である。
また、上記耐酸性組成物の硬化体の質量変化率は、供試体の作製をJIS A 1132により気中打設で行い、材令1日で脱型した供試体の質量(浸漬前質量)を測定した後、10重量%硫酸水溶液中に56日間浸漬し、質量(浸漬後質量)を測定し、下記の式により算出した値である。

質量変化率(%)=〔(浸漬後質量−浸漬前質量)/浸漬前質量〕×100
また、上記耐酸性組成物の硬化体の圧縮強度は、供試体の作製をJSCE−F504−1999「水中不分離コンクリートの圧縮強度用水中作製供試体の作り方」に準拠して1重量%硫酸水溶液に水中打設して行い、材令2日で脱型し、硬化体をその後1重量%硫酸水溶液中で養生し、JIS A 1108により材令28日の圧縮強度を測定した値である。
更に、上記耐酸性組成物の混練物の流出率は、185mlのPP容器中に水を含む耐酸性組成物材料の混練終了から5分経過した混練物を充填し、この充填容器を、開口を上に向けて1000mlの1重量%硫酸水溶液中に浸漬し、130rpmで上層を5分間攪拌後に容器を取り出し、残存する混練物の質量から下記の式により求めた値である。

流出率(%)=〔(浸漬前の質量−攪拌後の質量)/浸漬前の質量〕×100
上記した本発明に係る耐酸性組成物は、ポンプ圧送時の流動性(充填性)及び耐酸性に優れていることから、酸性土壌地帯や火山地帯における酸性水の流出が懸念される地山の様々な状態の空洞を充填したり、建物基礎等の構造物に用いたりトンネルの裏込め等を行う際に有利に使用することができる。特に、この耐酸性組成物は、前記流動性を備えると共に自立性(停留性)をも有しているため、施工箇所に定着させ易く、例えばトンネルの裏込めに際しても定着性がよいため、天端部に空隙を残すことなく緻密に充填することができる。更に、本発明に係る耐酸性組成物は、水中不分離性をも有しているため、酸性水が河川に流入しないよう、酸性水中においても型枠を使用することなく堰等を形成することが可能となる。
また、本発明の耐酸性組成物は、耐酸性吸水性樹脂、好ましくは更に粘土鉱物が添加されていることにより、空隙を残さない緻密な施工が可能であると共に、硬化後においてもある程度の緩衝性を有しているため、地殻の変化等にも対応でき、充分な止水性を発現できる。
以下、上記した本発明に係る耐酸性組成物の実施の形態を、詳細に説明する。
本発明に係る耐酸性組成物は、酸性土壌地帯や火山地帯における酸性水の流出が懸念される地山の様々な状態の空洞を充填したり、建物基礎等の構造物に用いたり、トンネルの裏込め等を行う際、更には、酸性水が河川に流入しないよう、酸性水中においても型枠を使用することなく堰等を形成する際に好適に用いることができるものである。そして、その構成は、耐酸性硬化材と、耐酸性吸水性樹脂と、耐酸性骨材とを、少なくとも含有する耐酸性組成物であり、好ましくは、更に粘土鉱物を含有する耐酸性組成物である。そして、その好ましい組成は、耐酸性硬化材10〜50重量%、耐酸性吸水性樹脂0.01〜0.05重量%、耐酸性骨材30〜60重量%、粘土鉱物1〜5重量%含有する耐酸性組成物である。
ここで、上記本発明において用いる耐酸性硬化材は、公知の種々の耐酸性硬化材、例えば、普通、早強等の各種ポルトランドセメントに石炭系又は石油系か焼コークスを所定量配合した耐酸性硬化材、普通セメントを全く用いず、高炉水滓スラグ粉末にアルカリ金属塩等を刺激材として加えて硬化させる耐酸性硬化材、或いは結合材とするアルカリ珪酸塩にケイフッ化ナトリウムや縮合リン酸アルミニウム等を硬化剤として加えて硬化させる耐酸性硬化材、更には、溶融スラグ微粉末と高炉スラグとアルカリ珪酸塩とから成る耐酸性硬化材等を用いることができ、これらの耐酸性硬化材を、好ましくは10〜50重量%、更に好ましくは20〜30重量%含むものである。
これは、耐酸性硬化材の配合量が10重量%に満たない場合には、充填材等として使用する場合の強度及び耐酸性が低下し、逆に50重量%を超えると、粘性が高くなり、所定の流動性及び充填性、更には止水性が得られなくなるためである。
上記した耐酸性硬化材の中でも、本発明においては、溶融スラグ微粉末と高炉スラグとアルカリ珪酸塩とから成る耐酸性硬化材が好適に使用でき、かかる耐酸性硬化材において使用される溶融スラグ微粉末は、下水汚泥溶融スラグ、都市ゴミ溶融スラグ等の廃棄物溶融スラグを微粉砕したものが、経済性及び廃棄物のリサイクルという観点から好ましく、これらの溶融スラグ微粉末を、耐酸性硬化材中、10〜85重量%含むものであることが好ましい。
また、上記溶融スラグ微粉末は、CaO/SiO2のモル比が0.10〜1.20、更に好ましくは0.10〜0.60になるように、下水汚泥、都市ゴミ等の焼却物、粘土、石灰石等の原料の1種又は2種以上を配合したものを高温で溶融し、急冷して得られるスラグを微粉砕したものであることが好ましい。このモル比が0.10未満であると、組成物の反応性が低く、十分初期強度を発現する耐久性のある硬化体が得られ難くなる。逆に、このモル比が1.20を超えると、硬化体の耐酸性が不十分となる場合がある。
更に、上記溶融スラグ微粉末の粉末度は、硬化体の強度発現性の観点、及び流動性、充填性、自立性、止水性等の総合的観点から、ブレーン値で好ましくは3000〜8000cm2/g、より好ましくは4000〜6000cm2/gである。ブレーン値が3000cm2/g未満であると、水和活性が乏しく、硬化体の強度が不十分となる憂いがあり、また自立性及び止水性が損なわれる憂いがある。一方、ブレーン値が8000cm2/gを超えたものでも本発明に使用できるが、粉砕にコストがかかり、経済的ではない。
また、本発明において上記溶融スラグ微粉末と共に耐酸性硬化材に使用する高炉スラグは、特に限定するものはなく市販のものが使用できるが、粉末度がブレーン値で3000cm2/g以上のものが好ましく、より好ましくは4000cm2/g以上である。この高炉スラグの配合量は、耐酸性硬化材中、5〜15重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜15重量%である。これらの範囲で上記溶融スラグ微粉末と併用することにより、耐酸性と共に、良好な自立性、強度発現性を持つ硬化体が得られる。なお、高炉スラグの他、転炉スラグ、脱リンスラグ、脱ケイスラグ、脱流スラグの1種又は2種以上を併用することができる。
また、耐酸性硬化材に使用する上記アルカリ珪酸塩も、特に限定されるものはなく、例えばJIS規格により規定されている水ガラス1号、2号、3号の他、各水ガラスメーカーで製造販売されているJIS規格外の製品についても使用が可能であり、これらを単体で使用する他、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。そして、これらのアルカリ珪酸塩の使用量は、耐酸性硬化材中において固形分換算で、5〜40重量%であることが好ましい。これは、アルカリ珪酸塩の使用量が5重量%未満であると、十分な耐酸性を有する硬化体が得られず、逆に40重量%を超えると、粘性が高くなり、所定の流動性及び充填性が得られないためである。
また、本発明において好適に使用できる上記耐酸性硬化材には、必要に応じてアルミナセメント、ポゾラン質粉末、アルカリ金属塩類を配合することは好ましい。
アルミナセメントとしては、特に限定するものはなく市販のものが使用できるが、好ましくはCaO・Al2 3 の含有率が高いものが良く、その配合量は、強度発現性と耐酸性の観点から、耐酸性硬化材中、15〜30重量%程度が好ましい。
ポゾラン質粉末としては、シリカフューム、フライアッシュ等が挙げられ、その配合量は、強度発現性と施工性の観点から、耐酸性硬化材中、1〜5重量%程度が好ましい。
また、アルカリ金属塩類は、メタ珪酸ソーダ、オルソ珪酸ソーダ、粉末珪酸ソーダ1号、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、耐酸カリウム等が挙げられるが、中でもメタ珪酸ソーダ、オルソ珪酸ソーダ、水酸化ナトリウムが好ましい。これらのアルカリ金属塩類は、上記アルカリ珪酸塩(水ガラス)中の−Si−O−Si−の鎖をアルカリによって切断することにより、粘性を低下させ、施工性の改善を行う他、アルカリの添加により溶融スラグを刺激し、硬化を促進する働きがあり、またベントナイト等の膨潤性粘土鉱物の膨潤性を助長する働きもある。アルカリ金属塩類はそれぞれを単体で使用する他、2種類以上を組み合わせて使用することができ、これらアルカリ金属塩類は、耐酸性硬化材中、5〜10重量%程度が好ましい。
上記に詳述した耐酸性硬化材に好ましくは添加する粘土鉱物としては、ベントナイト、カオリン、イライト等が挙げられるが、中でもベントナイトが好ましい。ベントナイトは、シリカとアルミナとを主成分とするモンモリロナイトを主とした粘土であり、その平均粒子径が10〜100μm、好ましくは30〜50μmの微粉末であり、吸水性および膨潤性に富んでいるものが好ましい。この粘土鉱物の添加量は、耐酸性組成物の全量に対し好ましくは1〜5重量%、更に好ましくは2〜4重量%であり、この範囲内の添加量とすることにより、混練物に適度な粘性と流動性を付与し、ポンプ圧送が可能であると共に、自立性(停留性)、更には止水性、水中不分離性に富んだ混練物が得られる。
なお、本発明で言う水中不分離性とは、水中に打設した際に打設物がバラバラに崩れないことを言い、また、自立性(停留性)とは、打設物が著しく広がらずに打設でき、打設時の形状を維持しつつ打設場所に留まることを言う。
また、本発明で用いる耐酸性吸水性樹脂としては、耐酸性を有し、且つ水を吸収して膨潤する性質を持つものであればよく、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸またはポリ(メタ)アクリル酸塩架橋体、スルホン酸基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステル架橋体、ポリアルキレン鎖を有するポリ(メタ)アクリル酸エステル架橋体、ポリ(メタ)アクリルアミド架橋体、架橋ポリエチレンオキシド、架橋ポリビニルピロリドン、スルホン化ポリスチレン架橋体、架橋ポリビニルピリジン、デンプン−ポリ(メタ)アクリロニトリルグラフト共重合体のケン化物、デンプン−ポリ(メタ)アクリル酸(およびその塩)グラフト架橋共重合体、ポリビニルアルコールと無水マレイン酸(塩)の反応物、架橋ポリイソブチレン−マレイン酸塩共重合体、ポリビニルアルコールスルホン酸塩、ポリビニルアルコール−アクリル酸グラフト共重合物等の吸水性ポリマー等を挙げることができる。この耐酸性吸水性樹脂の添加量は、耐酸性組成物の全量に対し好ましくは0.01〜0.05重量%、更に好ましくは0.02〜0.04重量%であり、この範囲内の添加量とすることにより、混練物は好適なバランスのとれた流動性、自立性(停留性)、水中不分離性を有したものとなり、また硬化後の強度及び止水性も良好なものとなる。なお、本発明で用いる耐酸性吸水性樹脂は、粉末状のものである。
また、本発明で用いる耐酸性骨材は、耐酸性を有するものであれば特に限定されず、例えば、石英質岩石、安山岩、玄武岩、陶磁器破砕物、更には微粉砕されていない溶融スラグ等が挙げられる。また、止水性及び充填性の観点から、粒径5mm以下の細骨材であることが好ましく、特には粒径1.2mm以下の微粉を40重量%以上含む細骨材であることが好ましい。但し、使用用途によっては、粗骨材を使用することも可能である。また、骨材の粗粒率は、好ましくは1.0〜4.0、特に好ましくは2.0〜3.5である。これは、粗粒率が4.0を超える場合には、流動性が高く、充填物の自立性がなくなると共に水中不分離性が悪くなり、水中打設し難くなる。逆に粗粒率が1.0に満たない場合には、骨材が細かくなったことにより、骨材に取り込まれる水量(保水量)が多くなり、流動性が低下し、ポンプ圧送性が低下する。このような耐酸性骨材の配合量は、耐酸性組成物の全量に対し好ましくは30〜60重量%、更に好ましくは40〜55重量%である。この範囲を逸脱する場合には、乾燥収縮によるひび割れの発生、或いは施工性、強度発現性、止水性等の悪化が懸念される。
また、本発明においては、混練物を得るために、耐酸性組成物に水道水、地下水、河川水等の水を混練水として必要に応じて添加する。その場合の配合量は、好ましくは耐酸性組成物の全量に対し20重量%以下であるが、上記アルカリ珪酸塩(水ガラス)中の水分量等で充分に練り混ぜ可能である場合には、添加する必要はない。
以上の他、本発明に係る耐酸性組成物には、止水性を向上させるために耐酸性ポリマーを添加しても良い。この耐酸性ポリマーとしては、特開平10−158048号公報に記載されている、スチレン・アクリル系合成樹脂エマルジョン等が挙げられる。
上記した構成成分から成る本発明に係る耐酸性組成物は、何ら特別な製造方法によって製造されるものではなく、例えば、次の方法が挙げられる。
先ず、溶融スラグ微粉末、高炉スラグ、粘土鉱物、耐酸性吸水性樹脂、耐酸性骨材からなる混合粉粒体を製造する。この際、必要に応じてアルミナセメント、ポゾラン質粉末を加える。
また、アルカリ珪酸塩(水ガラス)と適量の水を混合した混合液を製造する。
そして、上記混合粉粒体と混合液とを練り混ぜ、本発明に係る耐酸性組成物の混練物を製造する。上記混合粉粒体と混合液の投入の順序は、どちらが先でも構わない。また、アルカリ金属塩類を添加する場合には、練混ぜ工程中どの段階で投入してもよい。例えば、上記混合液の製造の際に投入してもよく、混合粉粒体を製造する際に混合してもよい。また、混合粉粒体と混合液との練り混ぜ時に投入してもよい。
上記のようにして製造された本発明に係る耐酸性組成物の混練物、或いは硬化体は、耐酸性に優れ、しかも、水中不分離性、止水性、ポンプ圧送性、及び自立性にも優れたものとなる。
即ち、本発明の耐酸性組成物は、耐酸性吸水性樹脂、好ましくは更に粘土鉱物の添加により、空隙を残さない緻密な充填が可能であると共に、硬化後においてもある程度の緩衝性を有しているため、地殻の変化等にも対応でき、充分な止水性を発現できる。
また、本発明に係る耐酸性組成物の混練物は、フロー値が140〜210mmであることが好ましい。フロー値を140〜210mmの範囲内に調整することによって、流動性があり、ポンプ圧送による注入が可能でありながら、しかも注入後の混練物が打設場所に自立(停留)するものとなる。つまり、重力に抗して盛り上げる充填が容易になり、その結果、トンネル等での人工構造物と岩盤や地盤との間に発生した空隙の天端部にも届く充填が可能になり、また、漏水した酸性水が河川に流入しないよう、酸性水中において型枠を使用することなく堰等を形成することができる。この観点から、フロー値は、更に好ましくは150〜190mmの範囲内である。
また、本発明に係る耐酸性組成物の硬化体は、該硬化体を10重量%硫酸水溶液中に56日間浸漬した場合の質量変化率(絶対値)が10%以下であり、また、該硬化体を1重量%硫酸水溶液中で養生した場合の材令28日での圧縮強度は5N/mm2以上であることが好ましい。また、混練物の1重量%硫酸水溶液への流出率は2%以下であることが好ましい。このように耐酸性に優れたものとすることにより、酸性水の流出が懸念される酸性土壌地帯や火山地帯における地山の様々な状態の空洞を充填したり、建物基礎等の構造物に用いたり、トンネルの裏込め等を行う際に有利に使用することができ、特に、流出率を2%以下に調整することによって、酸性水の存在下で空隙充填を行う際、或いは酸性水中への打設の際にも酸性水中への流失が防止でき、その結果、工事現場周辺への環境汚染を起こさず、確実かつ効率的に限定注入することが可能になる。これらの観点から、上記質量変化率(絶対値)は5%以下、上記圧縮強度は10N/mm2以上、更に上記流出率は1%以下に調整されることが更に好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、何ら下記の実施例に限定されるものではない。
−使用材料−
〔1〕耐酸性硬化材
・溶融スラグ微粉末(A成分):下水汚泥溶融スラグ(CaO/SiO2モル比:0.6,ブレーン値:4500cm2/g)
・高炉スラグ(B成分):セラメント(株式会社デイ・シイ製 比重:2.91)
・アルカリ珪酸塩(C成分):水ガラス(富士化学株式会社製 比重:1.55)
・アルミナセメント(D成分):セカール51BTF(株式会社ラファージュ製 比重:2.11)
・ポゾラン質粉末(E成分):シリカヒューム(エルケムジャパン株式会社製 比重:2.20)
・セメント:普通ポルランドセメント(太平洋セメント株式会社製 比重:3.15)〔2〕粘土鉱物
・粘土鉱物:ベントナイト(ラサ工業株式会社製 比重:2.60)
〔3〕耐酸性吸水性樹脂
・耐酸性吸水性樹脂:アクアリック(株式会社日本触媒製 比重:1.43)
〔4〕耐酸性骨材
・骨 材 :細骨材(秩父郡皆野町産 比重:2.57 粗粒率:3.20)
標準砂(JIS標準砂 比重:2.64)
〔5〕その他
・ 水 : 水道水
−組成物の調整−
上記材料を、表1に示した割合で配合し、混練機(大平洋機工株式会社製:パン型強制練りミキサーTM−100)を使用して充分に練り混ぜ、組成物を調整した。
Figure 2006290731
A.性能確認試験
−試験例1(流動性;フロー試験とポンプ圧送性試験)−
表1に示した配合組成の実施例及び比較例の組成物について、各々混練終了から5分経過後の混練物について、JIS R 5201に準拠してフロー値を測定した。
また、口径50mmのノズルからポンプで5m圧送する試験を行い、ポンプ圧送性の可否(可能を○、不可を×)を確認した。
その結果を 表2に示す。
Figure 2006290731
−試験例2(耐酸性;質量変化率試験)−
表1に示した配合組成の実施例及び比較例の組成物を使用し、各々JIS A 1132に準拠して供試体を製作し、材令1日で脱型し、質量(浸漬前質量)を測定した。その後、10重量%硫酸水溶液に浸漬し、浸漬期間7日、28日、56日で質量(浸漬後質量)を各々測定し、下式により質量変化率を求めた。

質量変化率(%)=〔(浸漬後質量−浸漬前質量)/ 浸漬前質量〕×100

その測定結果を、表3に示す。
Figure 2006290731
−試験例3(酸性水中での強度発現性;圧縮強度試験)−
表1に示した配合組成の実施例及び比較例の組成物を使用し、各々1重量%硫酸水溶液中に打設し、φ5×10cmの供試体を作製した。この供試体作製は、JSCE−F504−1999『水中不分離コンクリートの圧縮強度試験用水中作製供試体の作り方』に準拠して行った。材令2日で脱型し、1重量%硫酸水溶液中に養生した。この硫酸水溶液は1週間毎に交換した。得られた供試体について、JIS A 1108に準拠し、材令7日、材令28日の圧縮強度を測定した。
その測定結果を、表4に示す。
Figure 2006290731
−試験例4(酸性水中での不分離性;流出率試験)−
表1に示した配合組成の実施例及び比較例の組成物について、各々混練終了から5分経過した混練物を185mlのPP容器中に充填し、次にこの充填容器を、開口を上に向けて1000mlの1重量%硫酸水溶液中に浸漬し、130rpmで上層を5分間攪拌し、その後に容器を取り出し、残存する混練物の質量から下記の式により組成物の硫酸水溶液への流出率を求めた。

流出率(%)=〔(浸漬前の質量−攪拌後の質量)/浸漬前の質量〕×100

その測定結果を、表5に示す。
Figure 2006290731
−試験例5(充填性;加圧ブリーディング試験)−
表1に示した配合組成の実施例及び比較例の組成物について、各々JSCE−F502−1999『加圧ブリーディング試験』に準拠してブリージング率を測定した。
その測定結果を、表6に示す。
Figure 2006290731
この試験結果から、耐酸性吸水性樹脂の添加が、ブリージング率低減に寄与することが分かった。
−試験例6(流動性、自立性:粗粒率選定試験)−
前記実施例1の配合において、表7に示したように粗粒率の異なる細骨材を使用して調整した組成物について、各々そのフロー値(JIS R 5201)、ポンプ圧送性(試験例1と同様の方法)を確認した。また、上面が開放され、1重量%硫酸水溶液を満たしたプラスチック製容器(寸法:幅160×長さ286×高さ170mm)の上部中央より、各々粗粒率を調整した組成物をハンドスコップで静かに流し込み、自立性の確認を行った。なお、組成物の調整は、前記実施例及び比較例と同様に行った。
その結果を、表7に示す。
なお、表7におけるフロー値「0打」は、フローコーンを抜き取って落下運動を与える前の値、「15打」は、フローコーンを抜き取って落下運動を15回与えた後の値である。また、自立性の評価は、流し込んだ組成物が容器内において山状に成ったもの(図2参照)を良好(判定:○)とし、容器の底面に広がってしまったもの(図3参照)を不良(判定:×)とした。
Figure 2006290731
上記粗粒率選定試験から、使用する骨材の粗粒率が大きくなると、混練物のフロー値が大きくなり、自立性がなくなることが示された。逆に粗粒率が小さくなると、骨材が細かくなったことにより、骨材に取り込まれる水量(保水量)が多くなり、フロー値が小さくなり、ポンプ圧送性が低下することが示された。このことから、使用する細骨材の粗粒率は、1.0〜4.0程度が好ましく、更に好ましくは2.0〜3.5であることが分かった。
B.模擬施工試験
−試験例7(酸性水中での自立性及び止水性;水槽打設試験)−
前記した使用材料以外に、骨材として粗骨材(秩父郡皆野町産 比重:2.67 粗粒率:6.46)も使用し、表8に示した配合割合の組成物を調整した。
なお、組成物の調整は、前記した実施例及び比較例と同様に行った。
Figure 2006290731
表1に示した実施例1,2の配合組成の組成物、及び上記表8に示した実施例7,8、比較例4,5の配合組成の組成物について、各々模擬施工試験を行った。
試験は、図1に概念的に示したように、上面中央部にφ200mmの穴が空いている高さ500×幅500×長さ2000mmの水槽に、1重量%硫酸水溶液を満たし、φ200mmの穴に口径150mmのポンプホースを挿入し、各組成物の混練物をポンプ圧送し、打設中に徐々にポンプホースを引き上げながら打設した。
実施例1,2及び実施例7,8の配合組成の組成物の水槽への打設状況を図2に概念的に示す。また、比較例4の配合組成の組成物の打設状況を図3に、また比較例5の配合組成の組成物の打設状況を図4に各々概念的に示す。
打設後、形成された堰により水槽を二分することができた実施例1,2及び実施例7,8の配合組成の組成物を打設した水槽(図2に示した水槽)、及び比較例5の配合組成の組成物を打設した水槽(図4に示した水槽)について、打設した組成物の硬化後、図5に模式的に示したように、堰の両側に硫酸水溶液が満たされた状態から、水槽の右側面に設置されたバルブを開き、図6に模式的に示したように、水槽の右部分の硫酸水溶液のみを流出させ、その状態で28日間放置し、組成物の硬化体(堰)からの漏水を観察した。
実施例1,2及び実施例7,8の配合組成の組成物を打設した水槽については、水槽の左部分の硫酸水溶液が、打設した組成物の硬化体を通過して水槽の右部分に流出することは確認できなかった。一方、比較例5の配合組成の組成物を打設した水槽については、観察開始後1日で、水槽の左部分の硫酸水溶液が打設した組成物の硬化体と水槽との間隙を通過し、水槽の右部分に流出することが確認された。
上記水槽打設試験から、実施例1,2及び実施例7,8の配合組成の組成物は、自立性が良好で、酸性水中において型枠を使用することなく堰等を形成できるものであることが示された。即ち、実施例1,2及び実施例7,8の配合組成の組成物は、適度な流動性を有し、強度発現性も良く、図2に示したa:bの比が2:1程度の安定的な堰を形成でき、またこの堰は、止水性も良好であることが示された。
一方、比較例4の配合組成の組成物は、自立性に欠け、水槽端部まで組成物が流れてしまい、型枠を使用することなく堰等を形成できるものではないことが示された。
また、比較例5の配合組成の組成物は、ポンプ圧送が困難で、自然落下に近い打設であった。また、この比較例5の組成物は、自立性は良好だが、流動性に欠け、底辺の広い安定的な堰を形成することができず、また細部まで緻密に充填することができないことから、止水性にも欠けていることが示された。
模擬施工試験に使用した水槽を概念的に示した斜視図である。 実施例1,2及び実施例7,8の配合組成の組成物の水槽への打設状況を概念的に示した正面図、及び側面図である。 比較例4の配合組成の組成物の水槽への打設状況を概念的に示した正面図、及び側面図である。 比較例5の配合組成の組成物の水槽への打設状況を概念的に示した正面図、及び側面図である。 水槽への打設後の組成物の硬化体(堰)の止水性を確認する試験の前の状態、即ち、堰の両側に硫酸水溶液が満たされている状態を模式的に示した図である。 水槽への打設後の組成物の硬化体(堰)の止水性を確認する試験の状態、即ち、水槽の右部分の硫酸水溶液のみを流出させ、堰によって水槽の左部分の硫酸水溶液を塞き止めている状態を模式的に示した図である。

Claims (15)

  1. 耐酸性硬化材と、耐酸性吸水性樹脂と、耐酸性骨材とを、少なくとも含有することを特徴とする耐酸性組成物。
  2. 粘土鉱物を、さらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の耐酸性組成物。
  3. 上記耐酸性組成物中に、耐酸性硬化材が10〜50重量%含有されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の耐酸性組成物。
  4. 上記耐酸性組成物中に、耐酸性吸水性樹脂が0.01〜0.05重量%含有されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の耐酸性組成物。
  5. 上記耐酸性組成物中に、耐酸性骨材が30〜60重量%含有されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の耐酸性組成物。
  6. 上記耐酸性組成物中に、粘土鉱物が1〜5重量%含有されていることを特徴とする、請求項2〜5のいずれかに記載の耐酸性組成物。
  7. 耐酸性硬化材10〜50重量%と、耐酸性吸水性樹脂0.01〜0.05重量%と、耐酸性骨材30〜60重量%と、粘土鉱物1〜5重量%とを、少なくとも含有することを特徴とする耐酸性組成物。
  8. 上記耐酸性硬化材が、溶融スラグ微粉末10〜85重量%と、高炉スラグ5〜15重量%と、アルカリ珪酸塩を固形分換算で5〜40重量%とを、含むものであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の耐酸性組成物。
  9. 上記溶融スラグ微粉末が、CaO/SiO2モル比が0.1〜1.2、ブレーン値が3000〜8000cm2/gであることを特徴とする、請求項8に記載の耐酸性組成物。
  10. 上記耐酸性硬化材が、アルミナセメント、ポゾラン質粉末、アルカリ金属塩類のいずれか1つ以上を、含むものであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の耐酸性組成物。
  11. 上記耐酸性骨材の粗粒率が、1.0〜4.0であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の耐酸性組成物。
  12. 上記耐酸性組成物の混練物のフロー値が、140〜210mmであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の耐酸性組成物。
  13. 上記耐酸性組成物の硬化体を10重量%硫酸水溶液中に浸漬した場合の該硬化体の浸漬期間56日での質量変化率(絶対値)が、10%以下であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の耐酸性組成物。
  14. 上記耐酸性組成物の硬化体を1重量%硫酸水溶液中で養生した場合の該硬化体の材令28日での圧縮強度が、5N/mm2以上であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の耐酸性組成物。
  15. 上記耐酸性組成物の混練物の1重量%硫酸水溶液への流出率が、2%以下であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の耐酸性組成物。
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