JP2006289164A - バイオマス由来成分が分散した液状組成物、その製造方法及びこの液状組成物から製造される製品 - Google Patents

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Abstract

【課題】 バイオマスを工業的に有効利用することを目的とし、このバイオマスの成分が微細化して分散した液状組成物を簡便に得る技術を提供することを課題にする。
【解決手段】 高圧ホモゲナイザー10により、バイオマスと溶媒とを混合した原料11を処理した後、又はその処理の途中で、前記バイオマスの官能基に反応する試薬を添加することを前記課題を解決する手段とする。
【選択図】 図1

Description

バイオマスを工業的に有効利用する技術に関し、特に、このバイオマスの成分が微細化して分散した液状組成物に変換する技術に関する。
バイオマス(生物資源)は、もともと大気からの二酸化炭素を取り込んで生成したものであるため、燃焼させた場合でも、化石燃料を燃やした場合と異なり、大気中の二酸化炭素濃度を増減させないカーボンニュートラルな資源である。このため、現在、このようなカーボンニュートラルなバイオマスを活用する研究がすすめられ、化石燃料に代替させることにより地球環境の保全に貢献する試みがなされている。
具体的には、サトウキビ、トウモロコシ等の草本系のバイオマスを、微生物や酵素等の活用により発酵させて、エタノールや水素ガスを生成させる技術が挙げられる(例えば特許文献1)。
また一方で、セルロース、キチン、タンパク質、テルペノイド等のバイオマス由来成分には、水酸基、フェノール基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、二重結合等の官能基と連結するに適切な官能基が存在し、これらを化学反応により修飾させて高機能を発現する新規の製品を創出する試みにも期待が寄せられている。
このような試みを有効に実現させるためには、バイオマス由来成分において、所望の発酵及び化学反応が全体として均一にかつ迅速に進行することが要求されている。
しかし、固相状態のバイオマスは、生体機能の維持機関として機能するために高い結晶性を有するとともに三次元架橋等の高次構造を有している。このため、発酵の進行が妨げられたり、反応試薬がバイオマス由来成分に接近することが妨げられたりして、バイオマス由来成分の均一な反応が阻害される場合がある。
そこで、材料出発物質としてバイオマスを利用する場合、バイオマス由来成分の結晶構造を崩壊させて溶媒中に微細にかつ均一に分散させることにより、発酵の進行や各種試薬に対する反応性を向上させる方法が有効である。このため、バイオマス由来成分を溶媒中に微細に分散させた液状組成物(懸濁液)を簡便に得る技術の登場が望まれている。
従来技術において、このように懸濁液中にバイオマス由来成分を微細に分散させる技術としては、有機溶剤への溶解処理、セルロースのマーセル化処理、木材の爆砕処理又はボールミルによる粉砕処理等の技術が挙げられる(例えば特許文献2)。
特開2004−208667号公報 特開2004−292760号公報
しかし、このようなバイオマス由来成分を懸濁液中に微細に分散させる従来技術においては、バイオマスの結晶構造の崩壊が細部まで行き渡らず不十分なため試薬との化学反応や発酵が不十分であったり、そのような一定の崩壊状態での分散状態を得るのに処理に長時間を要したりする問題があった。このため、バイオマスから得られた製品の品質やその生産性等が低いといった問題点が、バイオマスの工業的利用の拡大に障害となっていた。
本発明は、以上の問題点を解決することを目的としてなされたものであり、バイオマス由来成分が溶媒中に微細に均一に分散された液状組成物(懸濁液)を簡便に得る技術を提供することを目的とするものである。
本発明は、前記した目的を達成するために創案されたものであり、バイオマス由来成分が分散した液状組成物の製造方法において、高圧ホモゲナイザーによりバイオマスを溶媒とともに処理することを特徴とする。さらに必要に応じて、高圧ホモゲナイザーによる処理の後、又はその処理の途中で、前記バイオマスの官能基に反応する試薬を添加する
このような構成を本発明は有するため、溶媒に投入されたバイオマスには、高圧ホモゲナイザーの働きにより、せん断粉砕作用、衝突破壊作用、キャビテーションによる破壊作用、圧力作用等が加わり、このバイオマスは高度に微細化して溶媒中に分散する。このため、均質な懸濁液が得られる。さらに、添加された試薬により、このような微細化が進行しやすくなったり、生成した懸濁液の安定性が向上したり、バイオマスの反応性が向上して例えば発酵の進行が促進されたりする。
なお、前記バイオマスは、木質系、草本系、キチン系、タンパク質系又はテルペノイド系の群の中から選ばれる少なくとも一の材質から構成され得る。
そして、前記溶媒は、水、親水性の溶媒又は両親媒性の溶媒のうちいずれかで構成され得る。また、前記試薬は、活性ハロゲン化合物、脂肪族ハロゲン化合物又は不飽和単量体のうちいずれかで構成され得る。
本発明に係るバイオマス由来成分が分散した液状組成物、その製造方法及びこの液状組成物から製造される製品により以下に示す優れた効果が発揮される。
すなわち、バイオマスが微細化して分散した液状組成物を容易に得ることができるため、バイオマス由来成分と試薬との各種官能基同士の反応性を向上させたり発酵の進行を促進させたりすることができ、バイオマスを利用した製品の生産性の向上とともに品質の安定化をはかることができる。さらに、従来に無い機能を発現する製品の創製も期待される。これにより、カーボンニュートラルなバイオマス資源の利用拡大をはかることが可能となり、環境保全に大きく貢献することとなる。
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明に用いられるバイオマス(生物資源)とは、大きく陸域系と水域系とに分類され、前者の陸域系の大部分を占めるものとして、木質系及び草本系がある。本発明でいうバイオマス由来成分とは、バイオマスを構成する成分であって工業的に利用されうる物質すべてをさすこととする。
木質系のバイオマスとしては、落葉、林地残材、建築廃材、工場残廃材等が挙げられる。草本系のバイオマスとしては、トウモロコシ、サトウキビ、稲わら、もみがら、野菜くず等が挙げられる。
このような木質系や草本系のバイオマス由来成分のうち主成分であるセルロースは、これまで紙・パルプ産業界に広く利用されている。また、木質系や草本系のバイオマス由来成分のうち多糖類(セルロース、ヘミセルロース、リグニン等)を、酵素により単糖や少糖に分解し、さらにそれらをエタノール発酵菌によりエタノール化したり、メタン生成菌により発酵させてメタンガスを得るとともに肥料を得たりすることも実用化の段階にきている。またイチョウ葉から抽出されるフラボノイドやテルペノイド系のバイオマス由来成分は、人体の健康改善に効果を有するものとして健康補助食品としての利用がはかられている。
水域系のバイオマスとしては、カニ、エビ等の甲殻類やイカ等の外皮等に含まれるキチン系、及び昆布類等の海産系等が挙げられる。これらのうち甲殻類の外皮等に多く含まれるキチン・キトサン等のバイオマス由来成分は、免疫強化作用、脂質排出作用等、人体の健康改善に効果を有する健康補助食品として着目されている。
タンパク質系のバイオマスとしては、繭から得られるフィブロイン、セリシン、羊毛から得られるコラーゲンなどが挙げられる。
繭から得られるフィブロインやセリシンは、高分子タンパク質として分離可能であり、前者は食品、化粧品などの広い分野に用いられている。そして、その微粒子化による感触の改良及びチロシン水酸基の反応による封鎖等が期待されている。
羊毛はタンパク質を主体にした複合材料であるが、ホモゲナイザー処理により、この材料組成の再編成が可能である。コラーゲンは、本来かなり分子量の大きな高分子化合物であり、この状態での分離、再編成にホモゲナイザーを用いることは有効である。
本発明に用いられる溶媒としては、水、親水性の溶媒、または両親媒性の溶媒が挙げられる。ところで、微粒子化したい物質の多くは分子間相互作用が強く働いており、この相互作用の多くは静電相互作用、水素結合、双極子相互作用、分散力等の弱い結合の集積による。そこで、ホモゲナイザー処理により物理的に引き離された分子間に溶媒が割り込んで、再結合しないよう安定化させる必要がある。このような役割を果たすことが本発明に用いられる溶媒には求められる。
なお、水は最も利用しやすい溶媒であるが、媒体として不適切な場合もある。また、親水性及び疎水性両者を分子内に持つ溶媒は両親媒性溶媒と呼ばれ、分子間力に打ち勝って溶解させる溶媒として多用され、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、グライム系溶媒などが挙げられる。活性プロトンを有するアルコール、アミン、カルボン酸、アセチルアセトン等の溶媒及びその誘導体も親水性溶媒として用いられる。
本発明に用いられる試薬としては、活性ハロゲン化合物、脂肪族ハロゲン化合物及び不飽和単量体が挙げられる。ところで、ホモゲナイザー処理は一回の通過時間は極短く、必要な場合には数回の操作を必要とする。従って、短時間で、効率よく進行する反応を選択することが望ましい。
ここで活性ハロゲン化合物とは、短時間で目的の官能基との反応が完結するハロゲン化合物として広義の意で用いる。従って、ハロゲン化アルキルのような一般に活性ハロゲンと分類されない化合物も、少量の置換反応で目的を達する場合は、ここでは含まれることとする。
活性ハロゲン化合物は、具体的に、カルボニル基、スルホン基,芳香環に隣接したメチレン基に置換したハロゲン(例えばクロロ酢酸ナトリウム、塩化ベンジルなど)等が挙げられる。これら活性ハロゲン化合物は、バイオマスの水酸基(官能基)に対して次のような反応式(1)(2)に示す置換反応を容易に行う。反応式(1)については、カルボン酸基が導入されることにより、反応式(2)については、芳香環が導入されることにより、いずれもホモゲナイザー処理されて微細化したバイオマスの溶解性が向上する。
R-OH + ClCH2COONa → R-OCH2COONa (1)
(バイオマス) (クロロ酢酸ナトリウム) (カルボン酸誘導体)
R-OH + C6H5CH2Cl → R-OCH2C6H5 (2)
(バイオマス) (塩化ベンジル) (べンジルエーテル誘導体)
試薬として脂肪族ハロゲン化合物を用いる例として、反応式(3)及び反応式(4)を示す。反応式(3)は、臭化メチル(又は塩化メチル)をバイオマスの水酸基(官能基)と反応させてメチルエーテル誘導体を得る反応を示すものである。また反応式は省略するが長鎖アルキル基を有する臭化ステアリルを用いて反応すれば、微細化されたバイオマスを疎水性の高いエーテル誘導体に変換できる。
反応式(4)はエポキシドを経由する反応であるが、形式的にはハロゲンの置換による改質反応として列挙される。
R-OH + CH3Br(or CH3Cl) → R-OCH3 (3)
(バイオマス)(臭化メチル(塩化メチル)) (メチルエーテル誘導体)
R-OH + ClCH2CH2OH → R-OCH2CH2OH (4)
(バイオマス)(エチレンクロロヒドリン) (ヒドロキシエチルエーテル)
試薬として不飽和単量体を用いる場合は、その反応は大きく二つに分類可能であり、1つ目は不飽和基への付加反応であり、2つ目は重合反応である。
まず、不飽和基への付加反応を示す不飽和単量体について説明すると、一般にカルボニル基、スルホン基などに隣接する不飽和基は付加反応性が高く、塩基触媒存在下、アルコール、アミン、メルカプタン、カルボン酸等が容易に付加する。このような不飽和単量体としては、具体的に、アクリル酸、ビニルスルホン、アクリロニトリル、ビニルエーテルなどが挙げられる。以下に示す反応式(5)のようにアクリル酸を用いれば酸誘導体に、アクリル酸エステルを用いればその誘導体に導くことが出来る。
ビニルスルホン基は反応染料の反応基として繊維状の水酸基OH,アミノ基NH,メルカプト基SH、カルボキシル基COOH等と染料の発色団とを結合する連結基として多用されているものである。
アクリロニトリルは付加の結果、シアノエチル基を導入、更にニトリル基をより高度
の官能基に変換する手法に用いられる。
ビニルエーテルはカチオン性感応基の付加反応が容易であり、例えば以下の反応式(6)で示す反応が進行する。
R-OH + CH2=CHCOOH → R-OCH2CH2COOH (5)
(バイオマス) (アクリル酸) (酸誘導体)
R-OH + CH2=CHOR' → R-OCH2CH2OR' (6)
(バイオマス) (ビニルエーテル) (2-アルコキシエチルエーテル)
次に、重合反応を示す不飽和単量体について、特に化合物を特定しないで説明すると、ホモゲナイザー操作中の高圧下では、混在する酸素の関与するラジカル、分子の共有結合の開裂によるラジカルが発生し、このラジカルがバイオマスの官能基へグラフト化することが考えられる。勿論、グラフト開始剤を添加して、不飽和単量体をグラフトさせる手法を用いてもよい。
図1(a)は、本発明に用いられる高圧ホモゲナイザー10(homogenizer:均質機)の概要を示す構成図である。図1(b)は、高圧ホモゲナイザー10の要部である微細化部18を示す詳細図である。
図1(a)に示すように、高圧ホモゲナイザー10は主として、原料タンク13と、回収タンク14と、バルブ15と、送液ポンプ16と、増圧部17と、微細化部18と、液送入管21と、第1圧送管22と、第2圧送管23と、液送出管24とから構成される。
原料タンク13は、高圧ホモゲナイザー10に、投入された原料11が一時的に貯蔵されるものである。そして、この原料タンク13の重力方向の最下端部分には、開口が設けられ、この開口に液送入管21の一端が接続されている。
回収タンク14は、高圧ホモゲナイザー10による一連の処理を受けて原料11から変換した回収液12を回収して一時的に貯蔵するものである。そして回収タンク14の重力方向の最下端部分には、バルブ15が設けられており、このバルブ15を閉状態にすると回収された回収液12がこの回収タンク14の内部に滞留し、開状態にすると滞留している回収液12が、原料タンク13の内部に滴下するように構成されている。
ここで原料11とは、前記したバイオマスと溶媒とを少なくとも含む流動体である。そして、試薬は、この原料11に最初から添加される場合もあるし、高圧ホモゲナイザー10による一連の処理が終了した回収液12へ添加される場合もある。また、バルブ15を適切に閉状態・開状態で繰り返せば、原料11は、高圧ホモゲナイザー10を循環してサイクリック処理されることになるが、このようなサイクリック処理の途中で回収タンク14に投入する試薬の添加方法も取り得る。またこのような回収液12のうち、添加した試薬の反応が充分に終了したものを本発明でいう「バイオマス由来成分が分散した液状組成物」とする。
送液ポンプ16は、液送入管21の途中経路に設けられ、原料タンク13に貯蔵されている原料11を液送入管21の一端から他端に送るものである。この送液ポンプ16が発揮する原料11の輸送能力は、1〜50L/min、好ましくは10L/min程度で設定されるものである。
増圧部17は、液送入管21の他端が接続され、送られてきた原料11を加圧して送出圧力を増幅させるとともに二つの経路に分岐させ、それぞれ第1圧送管22及び第2圧送管23に送り出すものである。この増圧部17に入力された原料11の送出圧力は、10〜500MPa、好ましくは250MPa程度に増幅されるように設定されるものである。
微細化部18は、図1(b)に示されるように、密閉チャンバ19と、第1圧送口22aと、第2圧送口23aと、液送出口24aとから構成されている。
ここで、密閉チャンバ19は、設けられている3つの開口(第1圧送口22a、第2圧送口23a、液送出口24a)の部分を除き、その内部空間が密閉性を具備したものである。そして、密閉チャンバ19は、高圧力で第1圧送管22及び第2圧送管23から注入される原料11が、漏出しない程度に充分な耐圧性を有する耐圧容器である。
第1圧送口22a及び第2圧送口23aは、それぞれ第1圧送管22及び第2圧送管23の先端部分の内径が絞られて形成されているものであって、それぞれが密閉チャンバ19の開口に接続されている。そして、第1圧送口22a及び第2圧送口23aの二手から送入された原料11は、密閉チャンバ19の内部に高速で噴出して対向衝突し、液送出口24aから液送出管24に送出され回収タンク14に回収されることとなる。
次に、高圧ホモゲナイザー10により原料11に含まれるバイオマスが微細化して「バイオマス由来成分が分散した液状組成物」になるメカニズムについて説明する。
高圧ホモゲナイザー10に投入された原料11は、原料タンク13に一次蓄積されたのち、自重並びに送液ポンプ16の駆動力により液送入管21を経由して増圧部17に送られる。次に、この増圧部17において原料11は、送液圧力が増幅されるとともに第1圧送管22及び第2圧送管23の二手方向に分岐して輸送される。
そして、微細化部18に流入した原料11は、密閉チャンバ19の内部に入る直前に、第1圧送口22a及び第2圧送口23aにおいて断面が絞られるので、流速が増す。このとき、原料11は、第1圧送口22a及び第2圧送口23aを通過する際に、その内壁面から大きなせん断粉砕作用が働くので、含まれるバイオマスは微細化していく。
次に第1圧送口22a及び第2圧送口23aを通過して高速で流動する原料11は、密閉チャンバ19の内部において対向衝突して合流する。この際に、原料11には、衝突破壊作用が働くので、含まれるバイオマスの微細化がさらに進む。そして、合流した原料11は、液送出口24aから出力され、液送出管24により回収タンク14に送出されることとなる。
次に、バルブ15を適切に閉状態・開状態で繰り返せば、原料11は、循環して微細化部18を繰り返して通過することになるので、原料11に含まれるバイオマスの微細化がさらに促進されて「バイオマス由来成分が分散した液状組成物」が回収液12として得られることとなる。
このようにして、高圧ホモゲナイザー10は、固(バイオマス)―液(溶媒)の二相系に強い機械的な作用(せん断粉砕作用、衝突破壊作用、キャビテーションによる破壊作用、圧力作用等)を加えることにより、バイオマスは微細化して溶媒中に分散する。さらに、高圧ホモゲナイザー10がこのように動作することで、ラジカルが発生し、この発生したラジカルが本来のバイオマスの結晶構造内を含めてバイオマス成分の分子鎖に取り込まれたりする。すると、バイオマスと、添加した試薬との官能基における反応自体が加速されることにも繋がる。
ここで、キャビテーションとは、高速で流動する流動体の内部において、生じた圧力の低い部分が気化して蒸気のポケットを生成し、このポケットが非常に短時間で消滅する現象である。このようにポケットが生成・消滅する現象により、溶媒中のバイオマスには非常に高い圧力並びに破壊力がかかり微細化が促進され、流動体は安定した懸濁液に調整される。
このようにして得られた懸濁液(液状組成物)は、最終製品を製造するための中間物質としたり、含有される有用物質をさらに抽出したりして利用されることとなる。また、このような懸濁液(液状組成物)から溶媒を除去した固形成分は、再び溶媒と混ぜ合わせればもとの懸濁液に戻るので、このような固形成分にした状態で製品として取り引きすることも考えられる。
次に、バイオマスを溶媒とともに高圧ホモゲナイザー10で処理することにより、試薬とバイオマス由来成分との反応性が向上することについて実証結果を示す。以下は、原材料及び処理装置に関する条件の詳細である。
バイオマス:木粉 5.0g(LIGNOCEL S150TR:(独)レッテンマイヤー社製)
溶媒:蒸留水 77g
試薬:苛性ソーダ 4.0g(0.1mol),塩化ベンジル 12.6g(0.1mol)
高圧ホモゲナイザー:アルティマイザーHJP-25080((株)スギノマシン社製),圧力245MPa
以上の条件にて、まず木粉と蒸留水の全量を混合した原料11を高圧ホモゲナイザー10に投入して処理を行う。次に回収された回収液12に、苛性ソーダ及び塩化ベンジルの全量を投入し、80℃で1時間撹拌してこれら試薬と反応させる。このように試薬に反応させた後の回収液12を濾過し、さらに付着した水分を取り除いた後の成分の収量は、13gであった。この収量のうち木粉の初期量(5.0g)からの増量分は、木粉のバイオマス由来成分(セルロース等)に化学結合した塩化ベンジルの分であるといえる。
なお、高圧ホモゲナイザー処理にあたり、木粉と蒸留水は、上記の100倍の重量を投入して行い、均一に分散した回収液の1/100を取り出し、回収液12とした。
これに対して比較例として、高圧ホモゲナイザー10による処理を行なわずに、単に、上記バイオマス、溶媒、試薬の全量を混合して、同様に80℃で1時間撹拌して反応させた。このような比較例の結果によれば、木粉の初期量5.0gに対して有意差といえる収量の増量は認められなかった。
次に、試薬として、前記した塩化ベンジルに替え、塩化ベンゾイル14.1g(0.1mol)とした場合についての結果を示す。まず、同様に木粉と蒸留水の全量を混合した原料11を高圧ホモゲナイザー10に投入して処理を行った後に苛性ソーダの全量を投入して撹拌しながら氷冷する。そして、これに塩化ベンゾイルの全量を1時間かけて滴下し、更に2時間かけて撹拌して反応させた後、濾集した。さらに付着した水分を取り除いた後の成分の収量は、15gということであった。この収量のうち木粉の初期量(5.0g)からの増量分は、木粉のバイオマス由来成分(セルロース等)に化学結合した塩化ベンゾイルの分であるといえる。
これに対して同様に比較例として、高圧ホモゲナイザー10による処理を行なわずに、単に、上記バイオマス、溶媒、苛性ソーダの全量を混合して、同様に塩化ベンゾイルを滴下して反応させた。このような比較例による収量の結果によれば、木粉の初期量5.0gに対して有意差といえる収量の増量は認められなかった。
以上より、高圧ホモゲナイザーによりバイオマスを溶媒とともに湿式処理することにより、木粉のバイオマス由来成分と試薬(塩化ベンジル又は塩化ベンゾイル)との接近が容易となり、両者の反応効率が向上することが確かめられた。
ところで、データの記載は省略するが、試薬として、ハロゲン化アルキルを用いて、バイオマス由来成分の水酸基をエーテル化反応させて、メチル化、ベンジル化、カルボキシメチル化、トリアジン化などさせる反応が容易に進行することも実証された。また芳香族カルボン酸塩化物や高級脂肪酸塩化物によるカルボン酸エステル化反応も同様に加速されて進行することが実証された。
<バイオマスからエタノール製品を製造する方法について>
図2を参照し、本発明による製造方法で得られた液状組成物(バイオマス由来成分が分散している懸濁液)から製造される製品の一例として、バイオマスからエタノールを製造する方法について示す。
図2のフローチャートに示すように、バイオマスからエタノールを製造する全工程は大きく、乾式粉末化工程(S11)と、湿式微細化工程(S12)と、糖化工程(S13)と、発酵工程(S14)と、エタノール分離工程(S15)と、排水処理工程(S16)とから構成される。
乾式粉末化工程(S11)では、一般的に用いられる木材オガ粉製造機等を用いて、木質系バイオマス(伐採枝、及び建築廃材の木片)をそのまま粉砕して、粉末状にする。
湿式微細化工程(S12)では、高圧ホモゲナイザー10(図1参照)を用いて、前記した粉末状のバイオマスと水(溶媒)との混合物に対し湿式処理を行って、バイオマスを微細化してバイオマス由来成分が分散した液状組成物(懸濁液)を得る。
糖化工程(S13)では、湿式微細化工程(S12)で得られた懸濁液に硫酸を加えて蒸煮を行うことにより、素原料のセルロース等を加水分解して糖質原料(グルコース等の単糖類)を得る。
発酵工程(S14)では、発酵槽内に、糖化工程(S13)により得られた糖質原料を投入して、酵母などの微生物による発酵を行う。この発酵を連続式として高効率に反応を行うため、この発酵槽の内部は、活性炭やゼオライト等の多孔質担体やアルギン酸カルシウムゲル等の高分子に充填した酵母や発酵性細菌が固定化されている。
エタノール分離工程(S15)では、発酵処理後得られたエタノールを含有する発酵液を蒸留や膜分離処理してエタノールの分離を行う。
排水処理工程(S16)においては、エタノールが分離され濾過されたヘドロ状の不純物を乾燥させて廃棄しやすいように固形化する。
<比較例>
次に、比較例として、図2に示される全工程のうち、湿式微細化工程(S12)を省略して乾式粉末化工程(S11)から、粉末状のバイオマスをそのまま希硫酸で処理する糖化工程(S13)にジャンプする工程について検討した。
図2は、発酵工程(S14)において、糖質原料が発酵して生成したエタノールの収率の経時的変化を概念的に示したグラフである。そして、図3の実線データは図1の(S11)〜(S15)に示される一連のフローを実行した本実施例について示すデータであり、破線データは同フローのうち湿式微細化工程(S12)を省略した比較例について示すデータである。
図3に示されるように、湿式微細化工程(S12)を経ていない比較例に対し、本実施例では、発酵によるエタノールの生成速度が大きく、収率の最終的な到達点も高いといえる。これは、本実施例では湿式微細化工程(S12)において、バイオマスが微細化して溶液中に均一に分散しているため、糖化工程(S13)においてバイオマス由来成分(セルロース等)の硫酸による加水分解が全体として均一にかつ迅速に進行する。このため分子量のそろった単糖類が大量に生成されることとなり、次の発酵工程(S14)において、高効率なエタノールの生成に結びつくと考えられる。
<バイオマスから健康食品の製品を製造する方法について>
また、高圧ホモゲナイザーの使用した湿式微細化工程(S12)を経ることにより、キチン質の発酵も同様に加速される。すなわち、体内に消化吸収されにくい物質であるキチン質から、微生物による発酵により、キトサンとし、さらに低分子化してより体内で消化吸収されやすいキトサンオリゴ糖へと、均一にかつ迅速に生成させることが可能になる。このようにして、水産加工工場から排出されたカニ殻やエビ殻を大量に処理するとともに、有用なバイオマス由来成分であるキチンを健康補助食品へ容易に安価に転用し製品化することが可能になる。
<不飽和単量体メチルメタクリレートの無触媒重合を増進させる方法について>
木粉 (LIGNOCEL S150TR;(独)レッテンマイヤー社製) 2重量部と水100重量部との混合物を高圧ホモゲナイザー10で1回処理したのち、直ちに、その204g(木粉4g,水200g)を300mlセパラブルフラスコにとり、メチルメタクリレート10gを加えて85℃で1時間無触媒重合し、その終了時点でベンゾイルパーオキシドを0.05g加えて、同温度で更に1時間重合を続ける。
ついでヒドロキノンを0.05g加えて重合を停止させ、減圧留去により未反応モノマーと水を分別回収する。得られた生成物は供試木粉重量基準で60.5%の重量増加を示しており、それに1.0gのポリカプロラクトン(PCL)(ダイセル化学工業(株)製 H−7)を混練混合して成形して得たフイルムは、約150℃のガラス転移温度Tgを示し、機械的特性が向上した。
これに対して比較例として、高圧ホモゲナイザー10による処理を行わずに単に上記バイオマス、溶媒、不飽和単量体の全量を混合して同様に85℃で反応させた場合には、その終了時点でベンゾイルパーオキシドを0.05g加えて、同温度で更に1時間重合を続け、ついで未反応モノマー及び水を留去、乾燥させたところ、約20%の重量増加率を示すのみであり、それに1.0gのPCL(H−7)を混合混練して成形を試みても熱流動性が不完全で、物性の劣った成形物しか得られなかった。
これは、既往の研究で、木粉/MMA/水系の無触媒重合が、この10gのMMAの添加という添加量では良好に進まず、その約4倍の40gの添加を要することに関連しているものと考えられる。すなわち、その場合には無触媒重合のみで10%の重合増加が得られていることが知られているが、MMA添加量を1/4にしたこの比較例では微量となり、バイオマスの可塑化とPMMA(メチルメタクリレート)のマトリックス樹脂との相溶化が不十分になるためと考えられる。
(a)は、本発明に用いられる高圧ホモゲナイザーの概要を示す構成図である。(b)は、この高圧ホモゲナイザーの要部である微細化部を示す詳細図である。 本発明による製造方法で得られた液状組成物から製造される製品の一例として示す、バイオマスからエタノールを製造する方法のフローチャートである。 本発明の実施例と比較例とにおいて、時間に対する収率の変化を対比して示すグラフである。
符号の説明
10 高圧ホモゲナイザー
11 原料(バイオマス+溶媒)
12 回収液(液状組成物)
13 原料タンク
14 回収タンク
15 バルブ
16 送液ポンプ
17 増圧部
18 微細化部
19 密閉チャンバ
21 液送入管
22 第1圧送管
22a 第1圧送口
23 第2圧送管
23a 第2圧送口
24 液送出管
24a 液送出口

Claims (9)

  1. 高圧ホモゲナイザーによりバイオマスを溶媒とともに処理して得られたバイオマス由来成分が分散した液状組成物の製造方法。
  2. 前記高圧ホモゲナイザーによる処理の後、又はその処理の途中で、前記バイオマスの官能基に反応する試薬を添加することを特徴とする請求項1に記載のバイオマス由来成分が分散した液状組成物の製造方法。
  3. 前記バイオマスは、木質系、草本系、キチン系、タンパク質系又はテルペノイド系の群の中から選ばれる少なくとも一の材質から構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバイオマス由来成分が分散した液状組成物の製造方法。
  4. 前記溶媒は、水、親水性の溶媒又は両親媒性の溶媒であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のバイオマス由来成分が分散した液状組成物の製造方法。
  5. 前記試薬は、活性ハロゲン化合物又は脂肪族ハロゲン化合物であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のバイオマス由来成分が分散した液状組成物の製造方法。
  6. 前記試薬は、不飽和単量体であって、前記バイオマスとグラフト又はポリマーアロイ化し、重合混合物を生成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のバイオマス由来成分が分散した液状組成物の製造方法。
  7. 請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の製造方法により得られるバイオマス由来成分が分散した液状組成物。
  8. 請求項7に記載のバイオマス由来成分が分散した液状組成物から製造される製品。
  9. 発酵工程を経て製造されることを特徴とする請求項8に記載のバイオマス由来成分が分散した液状組成物から製造される製品。
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