JP2006233324A - 転炉吹錬終点制御方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 溶銑の脱炭吹錬を行なうに当たり、従来のダイナミック制御モデルを使用することなく、吹錬途中のサブランス投入時点から吹錬終点までの送酸量を定め、それにより転炉吹錬終点の溶鋼中成分濃度及び溶鋼温度を目標値に精度良く的中させる。
【解決手段】 脱炭吹錬の途中でサブランスを投入して溶鋼中炭素濃度と溶鋼温度とを計測し、計測した溶鋼中炭素濃度及び溶鋼温度に基づき、吹錬終了時の溶鋼成分及び溶鋼温度が目標値になるようにサブランス投入後から吹錬終了までの送酸量を決定する際に、溶銑条件と吹錬条件とから当該吹錬の特徴を表すベクトルを定め、過去の吹錬実績データベースから当該吹錬のベクトルと類似したベクトルを有する吹錬を選定し、選定した複数の類似吹錬に基づいて送酸量を推定する近似モデルを作成し、近似モデルによって求められる送酸量を当該吹錬のサブランス投入後から吹錬終了までの送酸量として決定する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、転炉における脱炭吹錬吹き止め(「終点」という)時の溶鋼温度及び溶鋼中各成分を目標値に精度良く的中させることのできる転炉吹錬終点制御方法に関するものである。
転炉における溶銑の脱炭精錬は、上吹きランスから溶銑に酸素を吹き付ける、或いは転炉底部から溶銑中に酸素を吹き込んで行なわれている。供給される酸素により溶銑中の炭素、珪素、燐などが酸化除去されて所定の成分の溶鋼が得られると同時に、各成分が酸化除去される際の酸化熱によって溶鋼の温度は上昇する。この転炉吹錬では、転炉吹錬終点までの酸素供給量即ち送酸量が、溶鋼中の炭素、燐、珪素、マンガンを目標値に一致させるべく、スタティックな物質収支の計算に基づいて必要な酸素量のベース値として算出される。また、算出した送酸量と投入予定の副原料とをベースに熱収支計算を行い、終点目標温度との差を補償する冷却材、或いは、加炭材並びに追加酸素量を算出し、初期設定値とする。その上で、吹錬の後半に入った段階で、サブランスを投入して吹錬途中の溶鋼温度及び溶鋼中炭素濃度を実測し、最終的に炭素濃度が目標値に到達するために必要な酸素量を求めて、ベースの酸素量を修正し、更に、昇温量の予測計算を行い、目標温度に一致させるために、冷却材、或いは、加炭材並びに追加酸素量の補正が行われる。加炭材は昇熱材として使用されるが、燃焼させる必要があることから燃焼のための追加酸素が供給される。
この吹錬途中で吹錬終点までの送酸量を再計算する方法は、従来、ダイナミック制御モデルと呼ばれる、図3に示されるような溶鋼中炭素濃度と脱炭酸素効率との関係を表したモデルを用いて算出されてきた。これは、吹錬途中にサブランスで実測した炭素濃度(図3では「途中C」と記す)と終点の目標炭素濃度(図3では「目標C」と記す)との間の脱炭酸素効率の変化を対数関数や双曲線関数で表し、積分などの演算によって脱炭に必要な酸素供給量を割り出す方法である。同様に、この吹錬途中で吹錬終点までの昇温量を計算する方法は、従来、ダイナミック制御モデルに基づいて、図4に示されるような脱炭酸素効率と昇温酸素効率との関係を用い、脱炭モデルにおける脱炭酸素効率の値を用いて、末期昇温量が算出されてきた。尚、図3に示すCTは、脱炭遷移点、CLは脱炭極限点である。
しかしながら、これらの計算は酸素量や昇温量そのものを計算するのではなく、脱炭酸素効率や昇温酸素効率に関するモデルのため、モデルの精度向上のためには多くの実績値が必要とされるが、実際には途中サブランス投入時と終点サブランス投入時の2回しかないため、推定精度には問題がある。また、これらの計算では、操業変動や経時変化が十分にモデルに反映できないため、従来、吹錬条件以外に学習項を用いて理論式を補正する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、スタティック制御モデル式またはダイナミック制御モデル式として下記の(1)式を用い、補正項Δaを吹錬終了毎に更新したり、指数平滑法を用いたりして補正する方法が提案されている。但し、(1)式において、yは吹錬終点までに必要な酸素量、x1 、x2 、…xn は吹錬条件であり、Δaは補正項である。
Figure 2006233324
また、特許文献2には、吹錬途中のサブランス投入までの操業情報と、測定した溶鋼温度及び溶鋼中炭素濃度と、吹錬終点時の目標炭素濃度及び目標溶鋼温度とを入力とし、サブランス投入から吹錬終点までの必要酸素量及び必要冷却材量を出力とするニューラルネットワークを構成し、吹錬実績データを用いて定期的にニューラルネットワークの重みを更新させて、前記必要酸素量及び必要冷却材量を出力する方法が提案されている。
特許第2703254号公報 特開平6−264129号公報
しかしながら、特許文献1及び特許文献2による方法でも、操業変動や経時変化を十分には反映できず、以下のような問題があった。
即ち、特許文献1では、基本的に直前に実施した吹錬の実績に基づく補正が中心であり、過去の吹錬の影響は指数平滑回路のみによって反映されており、吹錬条件全体の類似性が反映されていないことである。また、特許文献2では、ニューラルネットワークによる学習であるため、学習に用いた操業の吹錬条件は或る程度反映されるが、学習に用いられていない操業の吹錬条件は全く反映されず、操業条件の汎化性に欠けることである。また、ニューラルネットワークの学習には多大な計算を要する上に頻繁に再学習をしないと状況の変化に追従できないという問題もある。
更に、特許文献1及び特許文献2は、基本的にダイナミック制御モデルを用いたものであり、ダイナミック制御モデルで用いている対数関数や双曲線関数は単なる関数の当て嵌めであって、その根拠は薄いという問題点があり、また、ダイナミック制御モデルでは、転炉の使用状況や経年変化などを反映させることが極めて困難であるという問題点もあった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、転炉内に酸素を供給して溶銑の脱炭吹錬を行なうに当たり、従来のダイナミック制御モデルを使用することなく、従来とは全く異なる手法を用いて吹錬途中のサブランス投入時点から吹錬終点までの送酸量を定め、それにより転炉吹錬終点の溶鋼中成分濃度を目標値に精度良く的中させることのできる転炉吹錬終点制御方法を提供することであり、また同時に、転炉内に酸素を供給して溶銑の脱炭吹錬を行なうに当たり、従来のダイナミック制御モデルを使用することなく、従来とは全く異なる手法を用いて終点溶鋼温度を目標溶鋼温度と一致させるに必要な冷却材、または、加炭材及び追加酸素量を定め、それにより転炉吹錬終点の溶鋼温度を目標値に精度良く的中させることのできる転炉吹錬終点制御方法を提供することである。
上記課題を解決するための第1の発明に係る転炉吹錬終点制御方法は、転炉脱炭吹錬の途中でサブランスを投入して吹錬途中の溶鋼中炭素濃度と溶鋼温度とを計測し、計測した溶鋼中炭素濃度及び溶鋼温度に基づき、吹錬終了時の溶鋼成分が目標値になるようにサブランス投入後から吹錬終了までの送酸量を決定する転炉吹錬終点制御方法において、溶銑条件と吹錬条件とから当該吹錬の特徴を表すベクトルを定め、過去の吹錬実績データベースから当該吹錬のベクトルと類似したベクトルを有する吹錬を選定し、選定した複数の類似吹錬に基づいて送酸量を推定する近似モデルを作成し、近似モデルによって求められる送酸量を当該吹錬のサブランス投入後から吹錬終了までの送酸量として決定することを特徴とするものである。
第2の発明に係る転炉吹錬終点制御方法は、転炉脱炭吹錬の途中でサブランスを投入して吹錬途中の溶鋼中炭素濃度と溶鋼温度とを計測し、計測した溶鋼中炭素濃度及び溶鋼温度に基づき、吹錬終了時の溶鋼温度を予測して制御する転炉吹錬終点制御方法において、溶銑条件と吹錬条件とから当該吹錬の特徴を表すベクトルを定め、過去の吹錬実績データベースから当該吹錬のベクトルと類似したベクトルを有する吹錬を選定し、選定した複数の類似吹錬に基づいて末期昇温量を推定する近似モデルを作成し、近似モデルによって予測した当該吹錬の終点溶鋼温度が目標とする終点溶鋼温度と一致するように、冷却材の使用量、或いは、添加する加炭材量及び追加酸素量を定めることを特徴とするものである。
第3の発明に係る転炉吹錬終点制御方法は、第1または第2の発明において、前記類似吹錬を、当該吹錬のベクトルと、過去の吹錬のベクトルとの較差のノルムによって選定することを特徴とするものである。
第4の発明に係る転炉吹錬終点制御方法は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、前記近似モデルを、類似吹錬の集合から得られる回帰式として求めることを特徴とするものである。
第5の発明に係る転炉吹錬終点制御方法は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、前記近似モデルを、当該吹錬と類似吹錬との距離に応じた荷重和から求めることを特徴とするものである。
本発明によれば、吹錬の特徴を表すベクトルを定め、このベクトルに基づいて類似する吹錬を選定し、選定した複数の類似吹錬に基づいて、サブランス投入時点から吹錬終点までの送酸量、並びに、終点溶鋼温度を目標溶鋼温度と一致させるに必要な冷却材、または、加炭材及び追加酸素量を定めているので、従来のダイナミック制御モデルを使用した場合に比べて格段に精度良く、転炉吹錬終点の溶鋼中炭素濃度及び溶鋼温度を目標値に的中させることが可能となる。その結果、製品品質及び鉄歩留まりが向上するのみならず、転炉耐火物の延命効果、二次精錬の負荷低減などの波及効果が得られ、工業上有益な効果がもたらされる。
以下、本発明を具体的に説明する。
高炉から出銑された溶銑を転炉に装入し、酸素を上吹き或いは底吹きして脱炭吹錬を開始する。この脱炭吹錬では、主原料として溶銑以外に鉄スクラップ、還元鉄などの冷鉄源を使用してもよく、また、生石灰、ドロマイトなどの媒溶剤や合金鉄代替のマンガン鉱石或いは冷却材としての鉄鉱石、ミルスケールなどを装入してもよい。溶銑配合比、生石灰やマンガン鉱石などの副原料の投入量に応じて、溶鋼成分の炭素、燐、珪素、マンガン及び溶鋼温度を目標値に一致させるように、スタティックな物質収支の計算に基づいて必要な送酸量並びに冷却材の添加量を算出し、その送酸量及び冷却材添加量に沿って脱炭吹錬を開始する。
その後、脱炭吹錬後半の適宜の時期に、転炉内にサブランスを投入し、サブランスによって溶鋼温度及び溶鋼中炭素濃度を実測する。そして、実測した溶鋼温度及び溶鋼中炭素濃度に基づき、吹錬終了時の溶鋼成分及び溶鋼温度が目標値になるように、サブランス投入後から吹錬終点までに必要な送酸量を設定する。また、送酸量が設定されることによって溶鋼温度が目標値になるように冷却材の使用量も設定される。
先ず、サブランス投入後から吹錬終点までに必要な送酸量を定める方法について説明する。
送酸量の設定に当たり、従来のダイナミック制御モデルでは、前述したように溶鋼中の炭素濃度と脱炭酸素効率との関数を用いて行われてきたが、これに対して本発明では、転炉脱炭吹錬における酸素供給量、即ち送酸量を直接計算することのできる近似モデルを作成し、作成した近似モデルから送酸量を計算する。そして本発明では、この近似モデルを作成するに当たり、送酸量の計算対象となるチャージの吹錬と類似した過去のチャージの吹錬を集め、その集まった実績データから適切なモデルを構築する。
このモデルの構築方法及び構築したモデルの学習方法は数多く考えられるが、本発明は、そのうちの1つの方法を提供するものであり、そして、その手法は、送酸量の計算対象となるチャージの吹錬条件の近傍を定め、その近傍で成立するモデルをその都度構築するという手法を用いている。図1に、本発明による送酸量算出方法の手順を示す。
先ず、吹錬の特徴を表す物理量(溶銑温度、溶銑量、溶銑配合比、溶銑成分、目標成分、目標温度、副原料添加量など)からなり、下記の(2)式で表されるベクトルXを定める(S1)。ここで、(2)式に示すxi は、ベクトルXを構成する要素であり、具体的には溶銑温度、溶銑量などの吹錬の特徴を表す物理量である。
Figure 2006233324
次に、所定期間のデータが保存してある吹錬実績データベースから類似データを抽出する。類似データの抽出に当たり、ベクトルXの各要素の平均値μi と標準偏差σi (i =1〜n)とを算出する(S2)。そして、算出した平均値μi 及び標準偏差σi と、下記の(3)式とを用いて要素xi を要素xi'に変換し、要素xi'からなる正規化ベクトルX' を作成する(S3)。
Figure 2006233324
また、送酸量の計算対象となるチャージのベクトルX0 を作成し、前述した平均値μi 及び標準偏差σi と(3)式とを用いて正規化ベクトルX0'を作成する(S4)。この計算に当たり、終点の溶鋼温度、終点の溶鋼成分などは目標値を使用し、各副原料の添加量は投入予定量を使用する。
このように吹錬の特徴を示すベクトルを正規化した上で、ベクトルX0'に類似したデータを過去の実績データベースから探して選ぶ(S5)。この場合、類似度の決め方は、個々の要素xi'の値の大きさが所定の範囲内になることなど、様々の手法で類似度を決めることが可能であるが、本発明では、類似度をベクトルの較差のノルムで定義し、較差のノルムの小さいものほど類似度が高いと定義する。類似度をベクトルの較差のノルムで定義する方法を以下に示す。
ベクトルX0'を基準として、データベースに保存される正規化されたベクトルX' との較差ΔX' を下記の(4)式により求める。
Figure 2006233324
求めた較差ΔX' のノルムを下記の(5)式を用いて算出する。但し、(5)式におけるxi'はベクトルX' の要素で、x0i'はベクトルX0'の要素である。
Figure 2006233324
或いは、(5)式において、個々の要素に重み係数wi を導入した下記の(6)式を用いてノルムを算出してもよい。
Figure 2006233324
このようにして較差ΔX' のノルムを求める。データの近傍数kを定め、較差ΔX' のノルムの小さいものから、即ち(5)式或いは(6)式で算出される|ΔX' |の小さいものから順にk個の過去のチャージを集める。尚、近傍数kは、「赤池の情報量基準」、「予測誤差」、「クロスバリデーション法」などで定めることができる。集めた類似チャージのデータから、吹錬途中のサブランス投入時点から吹錬終点までの送酸量(「末期送酸量」とも呼ぶ)を算出するモデルを作成する(S6)。
ここで、集めた類似チャージのデータから末期送酸量を求める関数は、様々な形式が考えられるが、本発明では、先ず1つの方法として、関連項目による回帰式によって求める方法を説明する。
サブランス投入時点から吹錬終点までの送酸量即ち末期送酸量を求める回帰式の最も簡単な形は、下記の(7)式となる。但し、(7)式において、ΔOは末期送酸量、ΔCは終点時の目標炭素濃度とサブランス投入時期の溶鋼中炭素濃度との差、a1 及びa2 は係数である。
Figure 2006233324
ここで、ベクトルX0'の近傍データとして集めたデータを用いて(7)式の係数a1 ,a2 を最小二乗法などで求める。このようにして定めた(7)式から、末期送酸量ΔOを算出する(S7)。
(7)式における回帰された係数a1 ,a2 は、データを類似データという或る近傍内に限定しているので、末期送酸量ΔOの推定精度を高めることができる。また、回帰式に用いる項目は上記のΔCに限らず、サブランス投入時の溶鋼中炭素濃度及び終点時の溶鋼中目標炭素濃度を個々に説明変数としてもよく、更に、サブランス投入時や終点時の溶鋼中酸素濃度及び溶鋼温度、或いはこれらからなる関数を説明変数としてもよい。
次いで、集めた類似チャージのデータから末期送酸量を求める他の1つの方法である、類似吹錬の距離に応じた積算送酸量の荷重和から求める方法を説明する。
この方法では、ベクトルX0'と各近傍データベクトルX' との距離|ΔX' |を用いて算出する。近傍データベクトルとして選定(S5参照)されたX1'、X2'、…、Xk'のk個の各ベクトルと、ベクトルX0'との距離d1 ,d2 ,…,dk を、下記の(8)式を用いて算出する。このとき、具体的な距離計算式は、前述した(5)式及び(6)式などの他、ノルム計算式ならどれも可能性がある。
Figure 2006233324
ここで最大距離dmax を下記の(9)式とする。
Figure 2006233324
また、各距離di に基づいた重みki を下記の(10)式に定義する。(10)式に示すように、重みkiは距離|ΔX' |が小さいほど大きくなる。換言すれば、距離|ΔX' |が小さいほど影響が強くなる。
Figure 2006233324
各ベクトルXi'における末期送酸量の実績をΔOiとすると、ベクトルX0'の末期送酸量ΔO、即ち計算対象のチャージの末期送酸量は、各ベクトルXi'における末期送酸量実績ΔOi と重みkiとから下記の(11)式によって求めることができる(S7)。
Figure 2006233324
尚、上記の計算は全て計算機によって行なわれる。
このようにしてサブランス投入後の送酸量を定めることで、脱炭吹錬終点時の炭素濃度をはじめとする溶鋼成分が所定の範囲内に精度良く制御され、その結果、製品の品質が向上するのみならず、転炉耐火物の延命効果、二次精錬の負荷低減などの波及効果を得ることができる。
次いで、終点溶鋼温度を目標溶鋼温度と一致させるに必要な冷却材、または、加炭材及び追加酸素量を定める方法について説明する。この方法は、前述した送酸量を設定する方法と類似しており、説明が重複することもあるが、以下に詳細に説明する。
従来のダイナミック制御モデルでは、終点温度の制御に当たり、前述したように脱炭酸素効率と昇温酸素効率との関係を用いて行われてきたが、これに対して本発明では、脱炭精錬末期の昇温量を直接計算することのできる近似モデルを作成する。作成した近似モデルからは、終点溶鋼温度を推定でき、推定値と目標値とを対比することで、終点溶鋼温度を目標溶鋼温度と一致させるに必要な冷却材、または、加炭材及び追加酸素量を定めることが可能となる。
本発明では、この近似モデルを作成するに当たり、昇温量の計算対象となるチャージの吹錬と類似した過去のチャージの吹錬を集め、その集まった実績データから適切なモデルを構築する。つまり、その手法は、昇温量の計算対象となるチャージの吹錬条件の近傍を定め、その近傍で成立するモデルをその都度構築するという手法を用いている。図2に、本発明による昇温量算出方法の手順を示す。
先ず、吹錬の特徴を表す物理量(溶銑温度、溶銑量、溶銑配合比、溶銑成分、目標成分、目標温度、副原料添加量など)からなり、下記の(12)式で表されるベクトルXを定める(S8)。ここで、(12)式に示すxi は、ベクトルXを構成する要素であり、具体的には溶銑温度、溶銑量などの吹錬の特徴を表す物理量である。
Figure 2006233324
次に、所定期間のデータが保存してある吹錬実績データベースから類似データを抽出する。類似データの抽出に当たり、ベクトルXの各要素の平均値μi と標準偏差σi (i =1〜n)とを算出する(S9)。そして、算出した平均値μi 及び標準偏差σi と、下記の(13)式とを用いて要素xi を要素xi'に変換し、要素xi'からなる正規化ベクトルX' を作成する(S10)。
Figure 2006233324
また、昇温量の計算対象となるチャージのベクトルX0 を作成し、前述した平均値μi 及び標準偏差σi と(13)式とを用いて正規化ベクトルX0'を作成する(S11)。この計算に当たり、終点の溶鋼温度、終点の溶鋼成分などは目標値を使用し、各副原料の添加量は投入予定量を使用する。
このように吹錬の特徴を示すベクトルを正規化した上で、ベクトルX0'に類似したデータを過去の実績データベースから探して選ぶ(S12)。この場合、類似度の決め方は、個々の要素xi'の値の大きさが所定の範囲内になることなど、様々の手法で類似度を決めることが可能であるが、本発明では、類似度をベクトルの較差のノルムで定義し、較差のノルムの小さいものほど類似度が高いと定義する。類似度をベクトルの較差のノルムで定義する方法を以下に示す。
ベクトルX0'を基準として、データベースに保存される正規化されたベクトルX' との較差ΔX' を下記の(14)式により求める。
Figure 2006233324
求めた較差ΔX' のノルムを下記の(15)式を用いて算出する。但し、(15)式におけるxi'はベクトルX' の要素で、x0i'はベクトルX0'の要素である。
Figure 2006233324
或いは、(15)式において、個々の要素に重み係数wi を導入した下記の(16)式を用いてノルムを算出してもよい。
Figure 2006233324
このようにして較差ΔX' のノルムを求める。データの近傍数kを定め、較差ΔX' のノルムの小さいものから、即ち(15)式或いは(16)式で算出される|ΔX' |の小さいものから順にk個の過去のチャージを集める。尚、近傍数kは、「赤池の情報量基準」、「予測誤差」、「クロスバリデーション法」などで定めることができる。集めた類似チャージのデータから、吹錬途中のサブランス投入時点から吹錬終点までの昇温量(「末期昇温量」とも呼ぶ)を算出するモデルを作成する(S13)。
ここで、集めた類似チャージのデータから末期昇温量を求める関数は、様々な形式が考えられるが、本発明では、先ず1つの方法として、関連項目による回帰式によって求める方法を説明する。
サブランス投入時点から吹錬終点までの昇温量即ち末期昇温量を求める回帰式の最も簡単な形は、下記の(17)式となる。但し、(17)式において、ΔTは末期昇温量、ΔCは終点時の目標炭素濃度とサブランス投入時期の溶鋼中炭素濃度との差(末期脱炭量)、ΔOは終点時の積算酸素量とサブランス投入時期の積算酸素量との差(末期送酸量)、b1 、b2 及びb3 は係数である。
Figure 2006233324
ここで、ベクトルX0'の近傍データとして集めたデータを用いて(17)式の係数b1 ,b2 ,b3 を最小二乗法などで求める。このようにして定めた(17)式から、末期昇温量ΔTを算出する(S14)。
(17)式における回帰された係数b1 ,b2 ,b3 は、データを類似データという或る近傍内に限定しているので、末期昇温量ΔTの推定精度を高めることができる。また、回帰式に用いる項目は上記のΔC及びΔOに限らず、サブランス投入時の溶鋼中炭素濃度、積算酸素量、終点時の溶鋼中炭素濃度及び終点時積算酸素量を個々に説明変数としてもよく、更に、サブランス投入時や終点時の溶鋼中酸素濃度及び溶鋼温度、或いはこれらからなる関数を説明変数としてもよい。
このようにして得られたモデルにより、吹錬終了時までの昇温量を予測し、途中サブランス投入時の実測温度から、終点時の溶鋼温度が予測される。このとき、終点温度予測値が終点目標温度よりも高くなる場合は、溶鋼温度を下げるための冷却材(鉄鉱石、鉄スクラップなど)の投入量を、熱換算係数を用いて決定し、決定した量の冷却材を投入して目標温度に一致させる。また、終点温度予測値が終点目標温度よりも低くなる場合には、コークス、黒鉛、石炭などの加炭材を投入し、加炭材を燃焼させて昇温させる。この場合、回帰式によって求められた溶鋼温度と、加炭材と、送酸量との関係から、必要温度に達する加炭材量と追加酸素量とを求めることができる。この他、終点までには加炭材を投入せず酸素のみ供給して温度を一致させ、吹錬後に必要な炭材を投入する方法もある。
次いで、集めた類似チャージのデータから末期昇温量を求める他の1つの方法である、類似吹錬の距離に応じた類似昇温量の荷重和から求める方法を説明する。
この方法では、ベクトルX0'と各近傍データベクトルX' との距離|ΔX' |を用いて算出する。近傍データベクトルとして選定(S12参照)されたX1'、X2'、…、Xk'のk個の各ベクトルと、ベクトルX0'との距離d1 ,d2 ,…,dk を、下記の(18)式を用いて算出する。このとき、具体的な距離計算式は、前述した(15)式及び(16)式などの他、ノルム計算式ならどれも可能性がある。
Figure 2006233324
ここで最大距離dmax を下記の(19)式とする。
Figure 2006233324
また、各距離di に基づいた重みki を下記の(20)式に定義する。(20)式に示すように、重みkiは距離|ΔX' |が小さいほど大きくなる。換言すれば、距離|ΔX' |が小さいほど影響が強くなる。
Figure 2006233324
各ベクトルXi'における末期昇温量の実績をΔTiとすると、ベクトルX0'の末期昇温量ΔT、即ち計算対象のチャージの末期昇温量は、各ベクトルXi'における末期昇温量実績ΔTi と重みkiとから下記の(21)式によって求めることができる(S14)。
Figure 2006233324
尚、上記の計算は全て計算機によって行なわれる。
このようにしてサブランス投入後の昇温量を定めることで、脱炭吹錬終点時の溶鋼温度が所定の範囲内に精度良く制御され、その結果、製品の品質が向上するのみならず、転炉耐火物の延命効果、二次精錬の負荷低減などの波及効果を得ることができる。
本発明による送酸量算出方法の手順を示す図である。 本発明による昇温量算出方法の手順を示す図である。 従来のダイナミック制御モデルで用いられる溶鋼中炭素濃度と脱炭酸素効率との関係を示す図である。 従来のダイナミック制御モデルで用いられる脱炭酸素効率と昇温酸素効率との関係を示す図である。

Claims (5)

  1. 転炉脱炭吹錬の途中でサブランスを投入して吹錬途中の溶鋼中炭素濃度と溶鋼温度とを計測し、計測した溶鋼中炭素濃度及び溶鋼温度に基づき、吹錬終了時の溶鋼成分が目標値になるようにサブランス投入後から吹錬終了までの送酸量を決定する転炉吹錬終点制御方法において、溶銑条件と吹錬条件とから当該吹錬の特徴を表すベクトルを定め、過去の吹錬実績データベースから当該吹錬のベクトルと類似したベクトルを有する吹錬を選定し、選定した複数の類似吹錬に基づいて送酸量を推定する近似モデルを作成し、近似モデルによって求められる送酸量を当該吹錬のサブランス投入後から吹錬終了までの送酸量として決定することを特徴とする転炉吹錬終点制御方法。
  2. 転炉脱炭吹錬の途中でサブランスを投入して吹錬途中の溶鋼中炭素濃度と溶鋼温度とを計測し、計測した溶鋼中炭素濃度及び溶鋼温度に基づき、吹錬終了時の溶鋼温度を予測して制御する転炉吹錬終点制御方法において、溶銑条件と吹錬条件とから当該吹錬の特徴を表すベクトルを定め、過去の吹錬実績データベースから当該吹錬のベクトルと類似したベクトルを有する吹錬を選定し、選定した複数の類似吹錬に基づいて末期昇温量を推定する近似モデルを作成し、近似モデルによって予測した当該吹錬の終点溶鋼温度が目標とする終点溶鋼温度と一致するように、冷却材の使用量、或いは、添加する加炭材量及び追加酸素量を定めることを特徴とする転炉吹錬終点制御方法。
  3. 前記類似吹錬を、当該吹錬のベクトルと、過去の吹錬のベクトルとの較差のノルムによって選定することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の転炉吹錬終点制御方法。
  4. 前記近似モデルを、類似吹錬の集合から得られる回帰式として求めることを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の転炉吹錬終点制御方法。
  5. 前記近似モデルを、当該吹錬と類似吹錬との距離に応じた荷重和から求めることを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の転炉吹錬終点制御方法。
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