JP2004059955A - 転炉吹錬制御方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】新規のチャージにおける複数項目からなる吹錬条件を新規吹錬ベクトルと定義し、過去に実施された各チャージにおける吹錬条件及び吹錬終了時の実績吹止積算酸素量を実績データとして記憶した吹錬実績データベースに記憶された各チャージの吹錬条件をそれぞれ実績吹錬ベクトルと定義し、この複数の実績吹錬ベクトルのなかから新規吹錬ベクトルに類似する所定数の実績吹錬ベクトルを選択し、この選択された所定数の実績吹錬ベクトルの各吹錬条件及び各実績吹止積算酸素量から新規に実施するチャージの吹止積算酸素量を推定する近似モデルを作成し、この作成した近似モデルを用いて新規に実施するチャージの吹止積算酸素量を推定し、この推定された吹止積算酸素量に基づいて、新規に実施するチャージの転炉に対する送酸量を定める。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、転炉に対する吹錬の終了時における溶鋼の組成を目標組成に一致させる制御を実施する転炉吹錬制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
転炉は、高炉から供給される銑鉄と別途準備されるスクラップ等を主原料とし、これに、石灰等の副原料を加えたのち、上方から酸素を吹き込み、内部に含まれる硫黄Sや燐P等の不純物を酸化によって除去し、所望の組成と温度とを有した鋼を精錬して出鋼して、次の圧延工程へ供給する機能を有している。そして、転炉に主原料、副原料を供給し酸素を吹付けて、最終時点(終点)で所望の組成と温度とを有した鋼を出力(出鋼)するまでの1つの工程を「チャージ」と称する。
【0003】
転炉に供給される銑鉄やスクラップの投入量や組成や温度は、チャージ毎に異なるので、全てのチャージに亘って、均一の組成と均一の温度とを有した鋼を出鋼するためには、チャージ毎に最適の吹錬制御を実施する必要がある。
【0004】
したがって、従来から、この吹錬制御においては、転炉の各チャージ毎に変動する銑鉄やスクラップの組成や温度等の吹錬条件に対して、吹錬終了時に出鋼される溶鋼に含まれる炭素C、燐P、珪素Si、マンガンMn等の含有量を含む組成を目標組成に一致させるために、吹錬期間中に転炉に吹込む酸素の総量を示す吹止積算酸素量の計算を行っていた。
【0005】
従来、この吹止積算酸素量の計算は、燃焼に必要な酸素量として静的な物質収支計算モデルによって行われてきた。
また、動的な吹止積算酸素量の計算モデルとして、吹錬の途中におけるサブランスを用いた溶鋼温度や炭素量の測定結果から、目標炭素量、目標温度の到達に必要な酸素量、冷却材量の補正計算をしている。
【0006】
しかしながら、これらの計算では吹錬条件変動や経時変化が十分にモデルに表現できないため、これまで学習項などを用いて理論式を補正する方法などが検討されている。
【0007】
例えば、特許第2703254号公報によれば、静的モデルにおいて、吹止積算酸素量yを吹錬条件の関数として表現している。
【0008】
y=F(x1、x2、x3、…、xn)
但し、x1、x2、x3、…、xnは、吹錬条件を構成する、例えば、転炉に投入される銑鉄、スクラップ等の主原料や石灰等の副原料の投入量、投入主原料の組成、投入される銑鉄の温度等の1〜nの各項目の値(変数)である。
【0009】
このとき、実績によるモデル補正(学習)項△aを上式に付加し、以下で書き直す。
y=F(x1、x2、x3、…、xn)+Δa
ここで、学習項△aを各チャージにおけ吹錬終了毎に更新する学習手順として、指数平滑法等が検討されている。
【0010】
また、特開平6―264129号公報においては、転炉に対する吹錬制御を、吹錬条件を構成する各項目を入力層とし、吹止積算酸素量や吹錬終了時の温度や組成を出力層とするニューラルネットワークでモデル化し、定期的に吹錬実績データを用いてニューラルネットワークにおける中間層の各重み係数を更新する手法が提唱されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した各手法で、今回、新規に実施するチャージにおける実際の吹錬終了時の組成を目標組成に一致させる転炉吹錬制御方法においても、まだ解消すべき次のような課題があった。
【0012】
すなわち、吹止積算酸素量yを吹錬条件の関数として表現し、チャージ毎に学習項△aを補正する手法は、基本的には、直前のチャージで実行された吹錬実績による補正が中心であり、過去の多くのチャージによる影響は指数平滑回路のみによって反映されており、吹錬条件全体の類似性が、今回の吹止積算酸素量yの算出に反映されない。
【0013】
さらに、転炉に対する吹錬制御をニューラルネットワークでモデル化する手法においては、このニューラルネットワークを用いて算出された吹止積算酸素量に対して、各重み係数の学習に用いた操業(吹錬条件や実績データ)の変動についてはある程度反映されるが、学習に用いられていない状態についての汎用性に欠ける。また、ニューラルネットワークの学習には多大な計算を要する上、頻繁に再学習をしないと吹錬条件や実績データの変化に追従できない。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、今回新規に実施するチャージの項目全体を一つのベクトル(集合)として定義することにより、過去に実施された多数の実績チャージから真に類似した実績チャージを選択でき、この実績チャージから高精度の吹止積算酸素量を算出でき、実際の吹錬終了時に出鋼される溶鋼の組成を確実に目標組成に一致させることができ、この転炉から出鋼される鋼で製造される鉄鋼製品の品質を向上できるとともに、二次精錬の負荷低減を図ることができる転炉吹錬制御方法を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、少なくとも転炉に銑鉄と各種副原料とを投入した状態で吹錬を実施する各チャージにおいて、転炉に対する送酸量を調整して各チャージの吹錬終了時の組成を目標組成に一致させる転炉吹錬制御方法に適用される。
【0016】
そして、上記課題を解消するために、本発明の転炉吹錬制御方法においては、先ず、新規に実施するチャージにおける少なくとも銑鉄の投入量と投入時の組成と吹錬終了時の目標組成とを含む複数項目からなる吹錬条件を新規吹錬ベクトルと定義する。次に、過去に実施された各チャージにおける吹錬条件及び吹錬終了時の実績吹止積算酸素量を実績データとして記憶した吹錬実績データベースに記憶された各チャージの吹錬条件をそれぞれ実績吹錬ベクトルと定義する。
【0017】
さらに、この複数の実績吹錬ベクトルのなかから新規吹錬ベクトルに類似する所定数の実績吹錬ベクトルを選択し、この選択された所定数の実績吹錬ベクトルの各吹錬条件及び各実績吹止積算酸素量から新規に実施するチャージの吹止積算酸素量を推定する近似モデルを作成する。
【0018】
そして、この作成した近似モデルを用いて新規に実施するチャージの吹止積算酸素量を推定し、この推定された吹止積算酸素量に基づいて、新規に実施するチャージの転炉に対する送酸量を定める。
【0019】
このように構成された転炉吹錬制御方法の特徴を説明する。
新規に実施するチャージにおいて、このチャージの実行後に出鋼される溶鋼の組成が目標組成となる吹止積算酸素量を効率的に予測する手法を考える。この新規に実施するチャージの吹錬条件に類似する吹錬条件を有した過去のチャージをデータベースから検索して、この検索され過去のチャージの実積吹止積算酸素量を参考にして、新規に実施するチャージの吹錬実行期間における吹止積算酸素量の予測を行う。
【0020】
この場合、問題となるのは、各チャージにおける吹錬条件を構成する項目は多岐に亘り、項目数も十数個と非常に多いので、新規に実施するチャージの吹錬条件に完全に一致する吹錬条件を有した過去のチャージが存在することはまずない。したがって、類似した吹錬条件を有した過去のチャージを選択する必要がある。この場合、特定の項目のみに注目して選択すると、実際とはかけ離れた吹止積算酸素量が推定されることになる。したがって、いかに類似した吹錬条件を有した過去のチャージを選択するかが重要となる。
【0021】
そこで、本発明においては、新規に実施するチャージにおける吹錬条件を構成する銑鉄の投入量、投入時の組成、吹錬終了時の目標組成等の各項目は個別の項目として扱われるのではなくて、複数の項目の集合として扱い、この各項目の集合を新規吹錬ベクトルと定義する。同様に、過去に実施された各チャージにおける吹錬条件を構成する各項目の集合を実績吹錬ベクトルと定義する。
【0022】
そして、この過去の多くの実績吹錬ベクトルのなかから新規吹錬ベクトルに類似する所定数の実績吹錬ベクトルを選択して、この選択された所定数の実績吹錬ベクトルに対応する実績の吹錬条件の各項目の値と各実績吹止積算酸素量とを用いて近似モデルを作成している。
【0023】
このように、各吹錬条件を複数の項目の集合からなるベクトルとして扱い、ベクトル相互間の類似度を集合どうしの類似度で評価することによって、より正確に類似した吹錬条件を有した過去のチャージを選択できる。よって、より正確な吹止積算酸素量を推定する近似モデルが作成され、この近似モデルを用いて、新規のチャージに対するより正確な吹止積算酸素量が推定される。この推定された吹止積算酸素量に基づいて、転炉に対する送酸量が求まる。
【0024】
また、別の発明は、上述した発明の転炉吹錬制御方法において、新規吹錬ベクトルと各実績吹錬ベクトルとの差のベクトルのノルムを算出して、この算出されたノルムが小さい所定数の実績吹錬ベクトルを、新規吹錬ベクトルに類似する所定数の実績吹錬ベクトルとしている。
【0025】
このように、ベクトル相互間の類似度を定量的に評価する手法として数学的に確立された手法であるノルム(norm)を採用することによって、より簡単に類似した過去のチャージを選択できる。
【0026】
また、別の発明は、上述した転炉睡蓮制御方法において、各ノルムは、新規吹錬ベクトルと各実績吹錬ベクトルを構成する各項目の値を吹錬実績データベースに記憶された各項目の統計値で正規化した値とした新規吹錬正規化ベクトルと各実績吹錬正規化ベクトルとで算出される。
【0027】
このように、吹錬条件を構成する各項目を正規化した正規化ベクトルを用いてノルムを算出することによって、より正確にベクトル相互間の類似度を評価可能である。
【0028】
また、別の発明は、上述した転炉吹錬制御方法において、所定数の実績吹錬ベクトルの各吹錬条件を構成する各項目の値と各実績吹止積算酸素量とが近似モデルを満足すると仮定して、回帰式を用いてこの近似モデルを同定する。
【0029】
実績吹止積算酸素量と吹錬条件とは測定誤差を含む種々の要因にて完全に1対1で対応しないので、統計的な回帰式を用いてこの近似モデルが同定される。
【0030】
また、別の発明は、上述した転炉吹錬制御方法において、近似モデルは、選択された所定数の実績吹錬ベクトルと新規吹錬ベクトルとの差のベクトルの各ノルムの値に応じて付与された重み付値と、対応する各チャージの実績吹止積算酸素量とで、新規に実施するチャージの吹止積算酸素量を推定する。
【0031】
このように、構成された転炉吹錬制御方法における近似モデルにおいては、選択された所定数の実績の各チャージの実績吹止積算酸素量を用いて算出するのであるが、この各実績吹止積算酸素量は、ノルムの値に応じて付与された重み付値が付加されるので、統計的により正確な吹止積算酸素量を推定できる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係わる転炉吹錬制御方法が適用される転炉吹錬制御装置の概略構成を示すブロック図である。この転炉吹錬制御装置はコンピュータ等の一種の情報処理装置で形成されている。
【0033】
この転炉吹錬制御装置内には、キーボード等の操作者が各種情報を入力するための操作部1、過去に実施された各チャージの実績データを記憶する吹錬実績データベース2、算出された吹止積算酸素量や、転炉に対する送酸量を表示する表示器3が組込まれている。なお、操作者が操作する操作部1を介することなく、上位計算機から直接この転炉吹錬制御装置へ各種情報を入力することも可能である。
【0034】
吹錬実績データベース2内には、図2に示すように、過去に実施された各チャージを特定するチャージ番号毎に、吹錬条件4と実績熱余裕5とが記憶されている。吹錬条件4として、複数の項目1〜nにおける実際の値x1、x2、x3、x4、x5、x6、…、xnが記憶されている。例えば、項目1(値x1)はこの転炉に投入する溶銑の量(実績)であり、項目2(値x2)はこの転炉に投入する溶銑の一つ組成(例えば炭素Cの含有率 実績)であり、項目3(値x3)はこの転炉に投入する溶銑の温度(実績)であり、項目4(値x4)はこの転炉に投入する副原料の一つの銘柄(種類)の投入量(実績)であり、項目5(値x5)は吹錬終了時点(終点)で転炉から出鋼される溶銑の一つの実績の組成であり、項目6(値x6)は吹錬終了時点(終点)で転炉から出鋼される溶銑の実績の温度(終点実績温度)である。
【0035】
なお、転炉に投入する溶銑の組成は、上述した炭素Cの含有率以外にも、マンガンMn、珪素Si、燐P等の各含有率が存在し、それぞれ異なる項目番号(値x)を付されて吹錬実績データベース2内に記憶されている。
同様に、転炉に投入する副原料の投入量も、複数の銘柄の投入量がそれぞれ異なる項目番号(値x)を付されて吹錬実績データベース2内に記憶されている。
【0036】
さらに、上述した項目5(値x5)の実績組成は吹錬終了時点で実際に測定された溶鋼の一つ組成(例えば炭素Cの含有率)であり、この炭素C以外にも、マンガンMn、珪素Si、酸素O等の各金属の含有率が、それぞれ異なる項目番号(値x)を付されて吹錬実績データベース2内に記憶されている。
【0037】
実績吹止積算酸素量(h)5は、該当チャージの吹錬の実行期間中に転炉に吹込まれた酸素の実測された総量を示す。
【0038】
図1に示す転炉吹錬制御装置内には、上述した操作部1、吹錬実績データベース2、表示器3の他に、アプリケーション・プログラム上に形成された、新規条件入力部6、新規条件ベクトル定義部7、実績条件ベクトル定義部8、正規化ベクトル作成部9、ノルム算出部10、類似ベクトル選択部11、近似モデル作成部12、吹止積算酸素量算出部13、送酸量算出部14等が設けられている。
【0039】
次に、このように構成された転炉吹錬制御装置の各部6〜14の動作を図3に示す流れ図を用いて説明する。
【0040】
操作者が、操作部1を介して、新規に実施するチャージにおける前述した1〜nの各項目における実際の値x1、x2、x3、x4、x5、x6、…、xnを新規吹錬条件[x’1、x’2、x’3、x’4、x’5、x’6、…、x’n]として新規条件入力部6へ入力する。なお、操作部1を介することなく、上位計算機から上述した新規吹錬条件を直接入力することも可能である。
【0041】
具体的には、項目1(値x1)は投入する溶銑量であり、項目2(値x2)は投入する溶銑の一つ組成(例えば炭素C)であり、項目3(値x3)は投入する溶銑の温度であり、項目4(値x4)は投入する副原料の一つの銘柄(種類)の投入量であり、項目5(値x5)は吹錬終了時点(終点)で転炉から出鋼される溶銑の目標とする一つの組成(例えば炭素C)であり、項目6(値x6)は吹錬終了時点(終点)で転炉から出鋼される溶銑の目標とする温度(終点目標温度)である。
【0042】
なお、上述した目標組成は吹錬終了時点での目標とする溶鋼の組成であり、この組成には、上述した炭素C以外にも、マンガンMn、珪素Si、酸素O等の各金属の含有率が存在する。
【0043】
このように、新規に実施するチャージにおける新規吹錬条件の1〜nの各項目のうち、項目5(値x5)及び項目6(値x6)は目標とする目標組成及び終点目標温度である。図2に示す吹錬実績データベース2に記憶された実績のチャージの吹錬条件においては、この新規吹錬条件における目標組成及び終点目標温度が同一項目でそれぞれ実績組成及び終点実績温度に置き換えられる。
【0044】
新規吹錬条件[x’1、x’2、x’3、x’4、x’5、x’6、…、x’n]が入力されると、新規条件入力部6が起動して、この入力した新規吹錬条件[x’1、x’2、x’3、x’4、x’5、x’6、…、x’n]を新規条件ベクトル定義部7へ送出する(ステップS1)。新規条件ベクトル定義部7は、入力した新規吹錬条件を新規吹錬ベクトルVaと定義する(S2)。
【0045】
Va=(x’1、x’2、x’3、x’4、x’5、x’6、…、x’n)
次に、実績条件ベクトル定義部8が起動して、図2の吹錬実績データベース2に記憶されている実績の各チャージの実績吹錬条件[x1、x2、x3、x4、x5、x6、…、xn]をそれぞれ実績吹錬ベクトルVbと定義する。
【0046】
Vb=(x1、x2、x3、x4、x5、x6、…、xn)
次に、正規化ベクトル作成部9が起動して、吹錬実績データベース2に記憶されている各項目1〜nの実際の各値xi(i=1,2,…,n)を全てのチャージに亘って平均し、平均値ui及び標準偏差σiを算出する(S3)。次に、各チャージにおける実績吹錬条件における各項目の値xi(i=1,2,…,n)を正規化する。正規化された各項目の値xibは、
xib=(xi―ui)/σi
となる(S4)。
【0047】
次に、各チャージの実績吹錬ベクトルVbの各項目の値xiを正規化された値xibに置き換えたベクトルを実績吹錬正規化ベクトルVboを定義する(S5)。
【0048】
Vbo=(x1b、x2b、x3b、x4b、x5b、x6b、…、xnb)
さらに、新規吹錬ベクトルVaの各項目の値x’iを、先に説明した吹錬実績データベース2の各値から求めた平均値ui及び標準偏差σiを用いて正規化し、
xia=(x’i―ui)/σi
この正規化された各値xiaに置き換えて、新規吹錬正規化ベクトルVaoを定義する(S6)。
【0049】
Vao=(x1a、x2a、x3a、x4a、x5a、x6a、…、xna)
ノルム算出部10が起動して、この新規吹錬正規化ベクトルVaoと各実績吹錬正規化ベクトルVboとの間の各偏差ΔVabを設定し(S7)、
ΔVab=Vao―Vbo
この各偏差ΔVabをベクトルVao、Vbo相互間の類似度の定量的な評価基準としてのノルム|ΔVab|を算出する(S8)。
【0050】
|ΔVab|
=[(x1a―x1b)2+(x2a―x2b)2+…+(xna―xnb)2]1/2
なお、吹錬条件における各項目毎に重み係数w1、w2、…、wnを乗算して算出したノルム|ΔVab|であってもよい。
【0051】
|ΔVab|
=[w1(x1a―x1b)2+w2(x2a―x2b)2+…+wn(xna―xnb)2]1/2吹錬実績データベース2に記憶された全部の実績チャージにおける新規チャージに対する各ノルム|ΔVab|の算出処理が終了すると、擬似ベクトル選択部11が起動して、この算出された各ノルム|ΔVab|のうちの小さいほうからk個(所定数)のノルム|ΔVab|を選択する(S9)。
【0052】
選択されたk個のノルム|ΔVab|に対応する実績チャージの実績吹錬条件における各項目の値x1、x2、x3、x4、x5、x6、…、xn、及び対応する実績吹止積算酸素量hを読出す(S10)。
【0053】
なお、近似したk個を定める手法として、赤池の情報量基準、予測誤差、クロスバリデーションの各手法を採用してもよい。
【0054】
次に、近似モデル作成部12が起動して、吹止積算酸素量Hdの近似モデルとして、吹止積算酸素量Hdを先述した吹錬条件の各項目の値x1、x2、x3、x4、x5、x6、…、xnを変数とする線形関数で示した線形近似式を設定する(S11)。
Hd=c1x1+c2x2+c3x3+c4x4+c5x5+…+cnxn+c0
但し、c1、c2、c3、…、cnは係数であり、c0は定数である。
【0055】
転炉に対する吹錬期間中に転炉に吹込む(供給する)べき酸素の総量である吹止積算酸素量は、主として、この転炉に投入された銑鉄等の主原料に含まれる各成分や不純物を燃焼(酸化)させるための各酸素量で決定される。具体的には、目標組成を得るために必要な、炭素C燃焼酸素量、珪素Si燃焼酸素量、燐P燃焼酸素量、マンガンMn燃焼酸素量の他に、投入された鉄鉱石や他の副原料に予め含有されている固定酸素量も考慮して決定される。
【0056】
この吹止積算酸素量を決定するための上述した各必要酸素量は、前述した吹錬条件の各項目の値x1、x2、x3、x4、x5、x6、…、xnでほぼ一義的に定まるとみなせるので、このチャージにおける吹錬期間中に必要な吹止積算酸素量Hdも吹錬条件の各項目の値x1、x2、x3、x4、x5、x6、…、xnの関数で表現できる。
【0057】
この時、新規吹錬ベクトルの近傍では局所的に線形近似が可能と考えられる。したがって、吹止積算酸素量Hdは吹錬条件の各項目の値x1、x2、x3、x4、x5、x6、…、xnを変数として用いた線形近似式で表現できる。したがって、各係数c1、c2、c3、…、cn及び定数c0が求まれば、上述した線形近似式は確定する。
【0058】
新規に実施するチャージに類似する各実績チャージの実績吹錬条件の各項目の値x1、x2、x3、x4、x5、x6、…、xn、及び対応する実績吹止積算酸素量hは上述した線形近似式をほぼ満足するはずであるので、k個の実績吹錬条件の各項目の値x1、x2、x3、x4、x5、x6、…、xn、及び対応する実績吹止積算酸素量hを上述した線形近似式に代入して、最小2乗法等で、各係数c1、c2、c3、…、cn及び定数c0を求める(S12)。
【0059】
吹止積算酸素量算出部13が起動して、このようにして求めた線形近似式に、新規に実施するチャージの吹錬条件(新規吹錬条件)における各項目の値x1、x2、x3、x4、x5、x6、…、xnを代入して、新規に実施するチャージの予想される吹止積算酸素量Hdを算出する。そして、算出した吹止積算酸素量Hdを表示器3に表示出力する(S13)。
【0060】
次に、送酸量算出部14が起動して、この吹止積算酸素量Hdに基づいて、吹錬期間の各経過時刻に実際に転炉に吹込む酸素の量を示す送酸素量を算出する。そして、その算出結果を表示器3に表示出力する(S14)。
【0061】
このように構成された転炉吹錬制御方法においては、新規に実施するチャージにおける吹錬条件を構成する1〜nの各項目は個別の項目として扱われるのではなくて、複数の項目の集合として扱い、この各項目の集合を新規吹錬ベクトルVaと定義される。同様に、過去に実施された各チャージにおける吹錬条件を構成する各項目の集合を実績吹錬ベクトルVbと定義される。
【0062】
そして、この過去の多くの実績吹錬ベクトルVbのなかから新規吹錬ベクトルVaに類似するk個の実績吹錬ベクトルVbを選択して、この選択されたk個の実績吹錬ベクトルVbに対応する実績の吹錬条件の各項目における実際の値x1、x2、x3、x4、x5、x6、…、xn値と各実績吹止積算酸素量hとを用いて近似モデルとしての線形近似式の各係数c1、c2、c3、…、cn及び定数c0を同定している。
【0063】
この場合、各吹錬条件を複数の項目の集合からなるベクトルVa、Vbとして扱い、ベクトル相互間の類似度を、ベクトルの差のノルム|ΔVab|で評価することによって、より正確に類似した吹錬条件を有した過去のチャージを選択できる。よって、新規に実施するチャージのより正確な吹止積算酸素量Hdを推定可能となる。
【0064】
その結果、新規に実施するチャージにおける吹錬終了時の組成を正確に目標組成に一致させることができ、この転炉から出鋼される鋼で製造される鉄鋼製品の品質を向上できるとともに、二次精錬の負荷低減を図ることができる。
【0065】
さらに、従来手法におけるニューラルネットワーク・モデルを採用していないので、この吹錬制御を実施するための計算機の負荷が増大することはない。
【0066】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態に係わる転炉吹錬制御方法を説明する。
この第2実施形態の転炉吹錬制御方法は、先に説明した第1実施形態の転炉吹錬制御方法における吹止積算酸素量Hdを求める近似モデルが異なるのみであるので、ここでは、この吹止積算酸素量Hdを求める近似モデルの求め方を説明する。
【0067】
吹錬実績データベース2に記憶された全部の実績チャージにおける新規に実施するチャージに対する各ノルム|ΔVab|の算出処理が終了すると、擬似ベクトル選択部11が起動して、この算出された各ノルム|ΔVab|のうちの小さいほうからk個のノルム|ΔVab|を選択するまでは、先に説明した第1実施形態の転炉吹錬制御方法と同じである。
【0068】
この第2実施形態の転炉吹錬制御方法においては、k個のベクトル相互間の類似度(距離)を表す各ノルム|ΔVab|を距離d1、d2、d3、d4、…、dkとする。そして、このk個の距離d1、d2、d3、d4、…、dkのうち最大距離をdmaxとする。またk個の距離d1、d2、d3、d4、…、dkに対応する実績の各チャージの実績吹止積算酸素量をh1、h2、h3、h4、…、hkとする。
【0069】
ここで、各実績吹止積算酸素量h1、h2、h3、h4、…、hkに対して乗算する各重み係数をw1、w2、w3、…、wkとすると、各重み係数wi(i=1,2,3,…,k)を各距離di(i=1,2,3,…,k)を用いて下記で定義する。
wi=[1―(di/dmax)3]3
W=w1+w2+w3+…+wk
すなわち、距離が短いほど(ベクトルが類似しているほど)、重み係数wiは大きくなる。
【0070】
そして、求める新規に実施するチャージの吹止積算酸素量Hdの近似モデルを下式で定義する。
【0071】
Hd=[w1h1+w2h2+w3h3+…+wkhk]/W
そして、吹止積算酸素量Hdが求まると、この吹止積算酸素量Hdを用いて吹錬期間の各経過時刻に実際に転炉に吹込む酸素の量を示す送酸素量を算出する。そして、その算出結果を表示器3に表示出力する。
【0072】
なお、各wi(i=1,2,3,…,k)の設定方法は、上式以外にも、正規分布関数など種々の方法が考えられる。
【0073】
このように構成された第2実施形態の転炉吹錬制御方法においても、新規に実施するチャージの新規吹錬ベクトルVaに近似するk個の実績吹錬ベクトルVbを選択して、この選択したk個の実績吹錬ベクトルVbに対応する実績チャージの実績吹止積算酸素量hを用いて、新規に実施するチャージの吹止積算酸素量Hdを算出しているので、先に説明した第1実施形態の転炉吹錬制御方法とほぼ同様の作用効果を奏することが可能である。
【0074】
さらに、この第2実施形態の転炉吹錬制御方法においは、実績熱余裕h1、h2、h3、h4、…、hkに対して、ノルムの値に応じて付与された重み係数w1、w2、w3、…、wkが乗算されるので、統計的により正確な吹止積算酸素量Hdを推定できる。
【0075】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の転炉吹錬制御方法においては、新規に実施するチャージの新規吹錬ベクトルに近似する所定数の実績吹錬ベクトルを選択して、この選択した各実績吹錬ベクトルに対応する実績チャージの実績吹止積算酸素量を用いて、新規に実施するチャージの吹止積算酸素量を推定する近似モデルを作成している。
【0076】
したがって、過去に実施された多数の実績チャージから真に類似した実績チャージを選択でき、この実績チャージから高精度の吹止積算酸素量を算出でき、実際の吹錬終了時の組成を正確に目標組成に一致させることができ、この転炉から出鋼される鋼で製造される鉄鋼製品の品質を向上できるとともに、二次精錬の負荷低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係わる転炉吹錬制御方法が適用される転炉吹錬制御装置の概略構成を示すブロック図
【図2】同転炉吹錬制御装置内に形成された吹錬実績データベースの記憶内容を示す図
【図3】同転炉吹錬制御装置の動作を示す流れ図
【符号の説明】
1…操作部
2…吹錬実績データベース
3…表示部
6…新規条件入力部
7…新規条件ベクトル定義部
8…実績条件ベクトル定義部
9…正規化ベクトル作成部
10…ノルム算出部
11…類似ベクトル選択部
12…近似モデル作成部
13…吹止積算酸素量算出部
14…送酸量算出部
Claims (5)
- 少なくとも転炉に銑鉄と各種副原料とを投入した状態で吹錬を実施する各チャージにおいて、転炉に対する送酸量を調整して各チャージの吹錬終了時の組成を目標組成に一致させる転炉吹錬制御方法において、
新規に実施するチャージにおける少なくとも前記銑鉄の投入量と投入時の組成と吹錬終了時の目標組成とを含む複数項目からなる吹錬条件を新規吹錬ベクトルと定義し、
過去に実施された各チャージにおける吹錬条件及び吹錬終了時の実績吹止積算酸素量を実績データとして記憶した吹錬実績データベースに記憶された各チャージの吹錬条件をそれぞれ実績吹錬ベクトルと定義し、
この複数の実績吹錬ベクトルのなかから前記新規吹錬ベクトルに類似する所定数の実績吹錬ベクトルを選択し、
この選択された所定数の実績吹錬ベクトルの各吹錬条件及び各実績吹止積算酸素量から前記新規に実施するチャージの吹止積算酸素量を推定する近似モデルを作成し、
この作成した近似モデルを用いて前記新規に実施するチャージの吹止積算酸素量を推定し、
この推定された吹止積算酸素量に基づいて、前記新規に実施するチャージの転炉に対する送酸量を定める
ことを特徴とする転炉吹錬制御方法。 - 前記新規吹錬ベクトルと前記各実績吹錬ベクトルとの差のベクトルのノルムを算出して、この算出されたノルムが小さい所定数の実績吹錬ベクトルを、前記新規吹錬ベクトルに類似する所定数の実績吹錬ベクトルとすることを特徴とする請求項1記載の転炉吹錬制御方法。
- 前記各ノルムは、前記新規吹錬ベクトルと各実績吹錬ベクトルを構成する各項目の値を前記吹錬実績データベースに記憶された各項目の統計値で正規化した値とした新規吹錬正規化ベクトルと各実績吹錬正規化ベクトルとで算出されることを特徴とする請求項2記載の転炉吹錬制御方法。
- 前記所定数の実績吹錬ベクトルの各吹錬条件を構成する各項目の値と各実績吹止積算酸素量とが近似モデルを満足すると仮定して、回帰式を用いてこの近似モデルを同定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の転炉吹錬制御方法。
- 前記近似モデルは、選択された所定数の実績吹錬ベクトルと新規吹錬ベクトルとの差のベクトルの各ノルムの値に応じて付与された重み付値と、対応する各チャージの実績吹止積算酸素量とで、新規に実施するチャージの吹止積算酸素量を推定することを特徴とする請求項2又は3記載の転炉吹錬制御方法。
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